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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057889
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】光検出器
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
H01L31/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164866
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】董 偉
【テーマコード(参考)】
5F149
5F849
【Fターム(参考)】
5F149AA02
5F149AA20
5F149AB05
5F149BA05
5F149CA10
5F149CB14
5F149DA44
5F149DA50
5F149FA05
5F149LA01
5F149XB24
5F149XB36
5F849AA02
5F849AA20
5F849AB05
5F849BA05
5F849CA10
5F849CB14
5F849DA44
5F849DA50
5F849FA05
5F849LA01
5F849XB24
5F849XB36
(57)【要約】
【課題】暗電流を抑制しつつ検出感度を向上できる光検出器を提供する。
【解決手段】光検出器1は、第1導電型半導体層2と、第1導電型半導体層2上に設けられた半導体光吸収層3と、半導体光吸収層3上に設けられた第2導電型半導体層4とを備えている。半導体光吸収層3の内部には、入射光Iを散乱させることで半導体光吸収層3の内部に局在不均一電場を形成する微細改質部6が第2導電型半導体層4から離間して設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型半導体層と、
前記第1導電型半導体層上に設けられた半導体光吸収層と、
前記半導体光吸収層上に設けられた第2導電型半導体層と、を備え、
前記半導体光吸収層の内部には、入射光を散乱させることで前記半導体光吸収層の内部に局在不均一電場を形成する微細改質部が前記第2導電型半導体層から離間して設けられている光検出器。
【請求項2】
前記微細改質部は、前記第1導電型半導体層に対する前記半導体光吸収層の積層方向に交差する交差方向に配列されている請求項1記載の光検出器。
【請求項3】
前記微細改質部は、前記第1導電型半導体層に対する前記半導体光吸収層の積層方向に複数段に配列されている請求項1記載の光検出器。
【請求項4】
前記微細改質部の周囲は、前記半導体光吸収層によって囲まれている請求項1記載の光検出器。
【請求項5】
前記微細改質部は、改質部及び空洞部の少なくとも一方によって構成されている請求項1記載の光検出器。
【請求項6】
前記第1導電型半導体層に対する前記半導体光吸収層の積層方向に交差する交差方向に対する前記微細改質部の幅は、前記入射光の波長以下となっている請求項1記載の光検出器。
【請求項7】
前記第2導電型半導体層上に設けられ、前記局在不均一電場の形成によって前記半導体光吸収層で生じる光電流を取り出す取出電極を備える請求項1~6のいずれか一項記載の光検出器。
【請求項8】
前記第1導電型半導体層に対する前記半導体光吸収層の積層方向から見た場合に、前記微細改質部は、前記取出電極と重ならない領域に位置している請求項7記載の光検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の自動運転機能や衝突防止機能に供されるレーザセンシング技術の発展が顕著となっている。これに伴い、赤外域における安価で高性能な光検出器の開発が要求されてきている。例えば波長1.3μm以上の短波赤外(SWIR)帯では、InGaAsを基板とする半導体受光素子が主流である。しかしながら、当該基板を用いた高性能なアレイ型光検出器は、コスト面に問題を抱えている。
【0003】
このような背景の中、InGaAsに依存しない光検出器として、光吸収層の内部の局在不均一電場を利用する光検出器が開発されてきている。この種の光検出器では、InGaAsに代えて、例えばSi、Geといった比較的安価な材料が光吸収層として利用されている。当該材料は、間接遷移半導体であるため、バンドエッジ波長帯付近において感度が低下することが課題となっている。このような課題に対し、光入射に応じて半導体光吸収層の近傍に局在不均一電場が生じる構成を設け、光閉じ込めに伴う電場増強によって感度向上を図る技術が検討されている。局在不均一電場の別の効果には、不確定性原理により半導体内部の電子に大きな波数を与えられることが挙げられる。この効果により、間接遷移の半導体材料で直接的に光学遷移ができるようになることも、光吸収の向上に寄与すると考えられる。
【0004】
局在不均一電場による電場増強を利用した光検出器としては、例えば特許文献1に記載の受光素子が挙げられる。この従来の受光素子では、基板上に第1導電型半導体層、ノンドープ型半導体光吸収層、第2導電型半導体層、導電層がこの順に設けられている。導電層、第2導電型半導体層、及びノンドープ型半導体光吸収層の積層体には、周期的に配列された複数の開口が設けられている。この開口は、入射光の波長以下となる幅を有し、導電層及び第2導電型半導体層を貫通してノンドープ型半導体光吸収層に達するように設けられている。
【0005】
また、例えば特許文献2に記載の受光素子は、半導体層と、当該半導体層の表面に所定の間隔dをもって配置され、MSM接合を形成する一対の金属電極とを有している。一対の金属電極同士の間隔は、入射光の波長をλとした場合に、λ>dの関係を満たしている。一対の金属電極の少なくとも一方は、半導体層とショットキー接合を形成し、半導体層の屈折率をnとした場合に、λ/(2n)より小さい深さとなる位置まで半導体層に埋め込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/088071号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0134486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
局在不均一電場による電場増強を利用した光検出器の検出感度は、未だにInGaAsを利用した光検出器に及ばない。その一方で、同じ局在不均一電場を利用するにあたっては、不確定性原理により半導体内部の電子に大きな波数を与えることで、直接遷移を実現する手法が考えられる。この原理に基づく光検出器の感度向上にあたっては、半導体光吸収層での局在不均一電場の波数成分を十分に確保する必要がある。局在不均一電場の効果は、局在不均一電場の発生位置と半導体光吸収層での空乏層位置との間の距離が増加することで急速に減衰する。特許文献1に記載の受光素子では、局在不均一電場の発生位置が導電層と第2導電型半導体層との界面付近となるが、当該発生位置は、第2導電型半導体層の厚さの分だけノンドープ型半導体光吸収層から離間している。このため、特許文献1の構造を適用して当該原理に基づく光検出器の感度向上を図ることは難しいと考えられる。
【0008】
特許文献2に記載の受光素子では、金属電極を半導体層に埋め込むことで検出感度の向上が図られている。しかしながら、局在不均一電場の発生位置となる半導体層と光電流の取出電極とが一体化しているため、ショットキー接合に起因する暗電流が比較的大きくなるという問題がある。このため、特許文献2に記載の受光素子では、SN比の向上が難しいという課題がある。
【0009】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、暗電流を抑制しつつ検出感度を向上できる光検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の解決のため、本願発明者らは、局在不均一電場の発生源に着目した。上述したように、局在不均一電場の効果は、局在不均一電場の発生位置と半導体光吸収層での空乏層位置との間の距離が増加することで急速に減衰する。局在不均一電場の発生位置と半導体光吸収層での空乏層位置とを一致或いは近接させる手法としては、例えば半導体層にエッチングで開口を設け、当該開口の内部に局在不均一電場の発生源となる金属構造体を配置する構造が考えられる。
【0011】
しかしながら、半導体光吸収層の表面から空乏層位置までエッチングによる加工を行う場合、空乏層位置の近傍でエッチングに起因する半導体層の欠陥が多く生じ、暗電流が増加してしまうことが考えられる。特に、開口の内壁面において金属構造体と接しない部分は、局在不均一電場の発生に寄与しない(すなわち、光検出器の感度向上に寄与しない)にも関わらず、暗電流の増加要因となってしまうことが考えられる。
【0012】
一方、本願発明者らは、局在不均一電場の発生源として、これまでは金属ナノ構造体を想定してきた。しかしながら、本願発明者らは、更なる研究の結果、金属ナノ構造体に限られず、入射光を散乱させることができる散乱体であれば、局在不均一電場の発生源として用いることができることを突き止めた。ここでの散乱体には、例えばSiOやSiN等の誘電体ナノ構造、アモルファスSi、多孔質Siといった半導体微細構造が挙げられる。そこで、本願発明者らは、半導体層にエッチングによる加工を行うことなく半導体層に散乱体を配置することができれば、暗電流を抑制しつつ検出感度を向上できるとの知見を得て、本開示に係る光検出器を完成させるに至った。
【0013】
本開示の一側面に係る光検出器の要旨は、以下のとおりである。
【0014】
[1]第1導電型半導体層と、前記第1導電型半導体層上に設けられた半導体光吸収層と、前記半導体光吸収層上に設けられた第2導電型半導体層と、を備え、前記半導体光吸収層の内部には、入射光を散乱させることで前記半導体光吸収層の内部に局在不均一電場を形成する微細改質部が前記第2導電型半導体層から離間して設けられている光検出器。
【0015】
この光検出器では、半導体光吸収層の内部に微細改質部が設けられており、当該微細改質部によって入射光が散乱することで局在不均一電場が形成される。これにより、局在不均一電場の発生位置と半導体光吸収層での空乏層位置とを一致若しくは近接させることが可能となり、半導体光吸収層での局在不均一電場の効果を十分に発揮させることができる。したがって、検出感度の向上が図られる。また、この光検出器では、微細改質部を用いることで、半導体光吸収層の表面から空乏層位置に至るエッチングが必ずしも必要ではなくなる。このため、空乏層位置の近傍でエッチングに起因する半導体層の欠陥の発生を回避でき、暗電流の発生を抑制することができる。
【0016】
[2]前記微細改質部は、前記第1導電型半導体層に対する前記半導体光吸収層の積層方向に交差する交差方向に配列されている[1]記載の光検出器。この構成によれば、半導体光吸収層が拡がる方向に広く局在不均一電場を形成できる。したがって、入射光に対する受光面を十分に確保できる。
【0017】
[3]前記微細改質部は、前記第1導電型半導体層に対する前記半導体光吸収層の積層方向に複数段に配列されている[1]又は[2]記載の光検出器。この構成によれば、半導体光吸収層の厚さ方向に深く局在不均一電場を形成できる。したがって、半導体光吸収層において積層方向に空乏層位置が広く存在する場合であっても、局在不均一電場の発生位置と半導体光吸収層での空乏層位置とをより確実に一致若しくは近接させることが可能となる。また、複数段の微細改質部同士の間に非改質部が位置することで、半導体光吸収層の強度も十分に維持できる。
【0018】
[4]前記微細改質部の周囲は、前記半導体光吸収層によって囲まれている[1]~[3]のいずれか記載の光検出器。この構成によれば、微細改質部の周囲の全体を局在不均一電場の形成に寄与させることができる。また、微細改質部の周囲に非改質部が位置することで、半導体光吸収層の強度も十分に維持できる。
【0019】
[5]前記微細改質部は、改質部及び空洞部の少なくとも一方によって構成されている[1]~[4]のいずれか記載の光検出器。この場合、微細改質部によって入射光を高い効率で散乱させることができる。したがって、半導体光吸収層での局在不均一電場の効果を更に高めることができる。
【0020】
[6]前記第1導電型半導体層に対する前記半導体光吸収層の積層方向に交差する前記交差方向に対する前記微細改質部の幅は、前記入射光の波長以下となっている[1]~[5]のいずれか記載の光検出器。この構成によれば、入射光に起因する散乱光を微細改質部と半導体光吸収層との界面付近に好適に生じさせることができる。したがって、半導体光吸収層での局在不均一電場の効果を更に高めることができる。
【0021】
[7]前記第2導電型半導体層上に設けられ、前記局在不均一電場の形成によって前記半導体光吸収層で生じる光電流を取り出す取出電極を備える[1]~[6]のいずれか記載の光検出器。この構成によれば、半導体光吸収層で生じる光電流を取り出すにあたって、半導体光吸収層と取出電極とが接する場合に比べて、ショットキー接合に起因する暗電流の発生を抑制することができる。
【0022】
[8]前記第1導電型半導体層に対する前記半導体光吸収層の積層方向から見た場合に、前記微細改質部は、前記取出電極と重ならない領域に位置している[7]記載の光検出器。この場合、微細改質部に向かう入射光が取出電極で遮られることが抑制されるため、入射光に対する受光面を十分に確保できる。また、半導体光吸収層において、取出電極の直下に非改質部が位置するため、半導体光吸収層の強度も十分に維持できる。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、暗電流を抑制しつつ検出感度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本開示の一実施形態に係る光検出器の構成を示す概略的な断面図である。
図2図1に示した光検出器の概略的な平面図である。
図3図1に示した光検出器の微細改質部を示す概略的な断面図である。
図4】微細改質部の形成手法を示す概略的な断面図である。
図5】変形例に係る光検出器の構成を示す概略的な断面図である。
図6図5に示した光検出器の微細改質部を示す概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係る光検出器の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0026】
以下に示す光検出器の実施形態及び図面では、検出対象となる入射光の入射領域の一つの構成単位を要部として示している。実際の光検出器では、これらの構成単位が所定のピッチでアレイ化されていてもよい。
【0027】
図1は、本開示の一実施形態に係る光検出器の構成を示す概略的な断面図である。図2は、その平面図である。同図に示すように、光検出器1は、第1導電型半導体層2と、半導体光吸収層3と、第2導電型半導体層4と、一対の取出電極5A,5Aと、一対の取出電極5B,5Bとを備えて構成されている。
【0028】
本実施形態では、説明の便宜上、第1導電型半導体層2側を光検出器1の裏面と規定し、第2導電型半導体層4側を光検出器1の表面と規定する。本開示の光検出器は、表面入射型検出器及び裏面入射型検出器のいずれであってもよい。図1の例では、光検出器1は、入射光Iが表面から入射する表面入射型検出器となっている。
【0029】
また、本実施形態では、説明の便宜上、互いに直交するX軸・Y軸・Z軸を規定する。Z軸は、第1導電型半導体層2、半導体光吸収層3、及び第2導電型半導体層4の積層方向、すなわち、第1導電型半導体層2に対する半導体光吸収層3の積層方向に延びる軸である。X軸及びY軸は、前述の積層方向に交差する交差方向に延びる軸である。X軸は、取出電極5A,5A同士及び取出電極5B,5B同士を結ぶ方向に沿っている。Y軸は、取出電極5A,5A及び取出電極5B,5Bのそれぞれの延在方向に沿っている。
【0030】
光検出器1では、半導体の吸収端波長(バンドギャップエネルギーを有する光の波長)よりも長い波長の光が入射光Iとして入射した場合に、当該入射光Iによって散乱光が発生する。そして、発生した散乱光によって局在不均一電場が生じる。光検出器1では、局在不均一電場の効果を利用することで、半導体内での直接的な光学遷移が可能となり、半導体内での十分な光吸収を生じさせることができる。光検出器1では、半導体内で生じた光吸収が光電流として外部に取り出されることで、半導体の吸収端波長よりも長い波長の光検出を実現できる。ここでは、検出対象である入射光Iの波長が1200nm近辺である場合を想定し、光検出器1の各構成要素の寸法等を例示する。
【0031】
第1導電型半導体層2は、例えば導電型がn型のSiからなり、キャリア濃度が高い低抵抗半導体(n+)によって構成されている。第1導電型半導体層2は、積層方向から見て矩形状をなしている(図2参照)。第1導電型半導体層2は、第1面2a及び第1面2aと反対の第2面2bを有している。第1面2aは、光検出器1の裏面を向く面であり、第2面2bは、光検出器1の表面を向く面である。第1導電型半導体層2の厚さは、例えば1μm以上50μm以下となっている。
【0032】
半導体光吸収層3は、例えば導電型がp型のSiからなり、キャリア濃度が低い高抵抗半導体(p-)によって構成されている。半導体光吸収層3は、積層方向から見て矩形状をなしている。半導体光吸収層3は、第1面3a及び第1面3aと反対の第2面3bを有している。第1面3aは、光検出器1の裏面を向く面であり、第2面3bは、光検出器1の表面を向く面である。
【0033】
半導体光吸収層3は、第1導電型半導体層2の第2面2bの全面を覆うように設けられている。半導体光吸収層3と第1導電型半導体層2との界面では、半導体のpn接合が形成されている。半導体光吸収層3の厚さは、第1導電型半導体層2及び半導体光吸収層3のキャリア濃度に応じて定まる。本実施形態では、半導体光吸収層3の厚さは、例えば50nm以上100μm以下となっている。
【0034】
第2導電型半導体層4は、例えば導電型がp型のSiからなり、キャリア濃度が高い低抵抗半導体(p+)によって構成されている。第2導電型半導体層4は、積層方向から見て矩形状をなしている。第2導電型半導体層4は、第1面4a及び第1面4aと反対の第2面4bを有している。第2導電型半導体層4の厚さは、例えば100nm以上1000nm以下となっている。
【0035】
取出電極5A,5Bは、局在不均一電場の形成によって半導体光吸収層3で生じる光電流を取り出す電極である。取出電極5Aは、光検出器1のカソードとして機能する電極層である。取出電極5Aは、第1導電型半導体層2の第1面2aに設けられている。取出電極5Aは、積層方向から見て矩形状をなしている。取出電極5Aは、例えば第2導電型半導体層4と重なる位置で、第1導電型半導体層2の第1面2aの一方辺から他方辺に至るように、当該第1面2aの面内方向の一方向(ここではY軸方向)に直線状に延在している(図2参照)。
【0036】
取出電極5Aは、例えばアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、インジウム(In)等の金属によって形成されている。取出電極5Aは、これらの金属を含む化合物材料によって構成されていてもよい。取出電極5Aは、単層に限られず、複数層で構成されていてもよい。
【0037】
取出電極5Bは、光検出器1のアノードとして機能する電極である。取出電極5Bは、第2導電型半導体層4の第2面4bに設けられている。取出電極5Bは、半導体光吸収層3から離間して配置されており、後述する微細改質部6に対して十分に離間して配置されている。取出電極5Bは、取出電極5Aと同様に、積層方向から見て矩形状をなしている。取出電極5Bは、第2導電型半導体層4の第2面4bの一方辺から他方辺に至るように、当該第2面4bの面内方向の一方向(ここではY軸方向)に直線状に延在している(図2参照)。
【0038】
取出電極5Bは、例えば金(Au)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)等の金属によって形成されている。取出電極5Bは、これらの金属を含む化合物材料によって構成されていてもよい。取出電極5Bは、単層に限られず、複数層で構成されていてもよい。
【0039】
続いて、上述した半導体光吸収層3の構成について更に詳細に説明する。
【0040】
図1に示すように、半導体光吸収層3の内部には、入射光Iを散乱させることで半導体光吸収層3の内部に局在不均一電場を形成する微細改質部6が設けられている。微細改質部6は、Siによって構成される半導体光吸収層3をレーザ光F(図4参照)によって改質することによって形成されている。微細改質部6は、第1導電型半導体層2に対する半導体光吸収層3の積層方向に交差する交差方向に配列されている。
【0041】
本実施形態では、微細改質部6は、半導体光吸収層3の第1面3a及び第2面3bの面内方向であるX軸方向及びY軸方向に格子状に配列されている。X軸方向及びY軸方向に隣り合う微細改質部6,6同士は、所定の間隔をもって離間している。したがって、微細改質部6のそれぞれの周囲は、レーザ光Fによる改質の影響を受けていない非改質部である半導体光吸収層3によって囲まれた状態となっている。
【0042】
微細改質部6が配列される配列領域Rは、図2に示すように、積層方向から見て矩形状をなしている。配列領域Rは、X軸方向において取出電極5B,5Bよりも内側に位置している。すなわち、配列領域Rは、X軸方向において、取出電極5B,5Bに挟まれた領域に位置している。これにより、配列領域Rに位置する微細改質部6のそれぞれは、積層方向から見た場合に、取出電極5B,5Bと重ならない領域に位置している。
【0043】
このような構成により、光検出器1の表面側から半導体光吸収層3に向かう入射光Iが取出電極5B,5Bに遮られることを抑制できる。なお、光検出器1を裏面入射型光検出器とする場合には、微細改質部6が配列される配列領域Rを、X軸方向において取出電極5A,5Aよりも内側に位置させればよい。これにより、光検出器1の裏面側から半導体光吸収層3に向かう入射光Iが取出電極5A,5Aに遮られることを抑制できる。
【0044】
微細改質部6は、改質部7及び空洞部8の少なくとも一方によって構成されている。本実施形態では、図3に示すように、一つの改質部7及び一つの空洞部8の組を単位として一つの微細改質部6が構成されている。本実施形態では、微細改質部6のそれぞれにおいて、改質部7と空洞部8とは、積層方向に並んだ状態となっている。改質部7は、半導体光吸収層3の第2面3b側に位置しており、空洞部8は、半導体光吸収層3の第1面3a側に位置している。
【0045】
微細改質部6のそれぞれにおいて、改質部7と空洞部8とは、積層方向に接していてもよく、積層方向に離間していてもよい。改質部7と空洞部8とが積層方向に離間している場合、改質部7及び空洞部8のそれぞれが、レーザ光Fによる改質の影響を受けていない非改質部である半導体光吸収層3によって囲まれた状態となる。
【0046】
改質部7及び空洞部8のそれぞれは、入射光Iを散乱させる散乱体として機能する。改質部7は、例えばアモルファスSiによって構成されている。このアモルファスSiは、半導体光吸収層3を構成するSiがレーザ光Fによって改質されることによって形成されている。空洞部8は、半導体光吸収層3を構成するSiがレーザ光Fによって消失することによって形成されている。微細改質部6が配列される配列領域Rの全体で見れば、微細改質部6のそれぞれの空洞部8は、半導体光吸収層3の内部に多孔質Si構造を形成している。
【0047】
積層方向に対する微細改質部6の長さLは、半導体光吸収層3における空乏層位置の範囲に合わせて調整されている。ここでは、長さLは、改質部7及び空洞部8を含めた長さである。すなわち、長さLは、改質部7における第2面3b側の端から空洞部8における第1面3a側の端までの長さである。一例として、長さLは、1μm~20μm程度となっている。
【0048】
交差方向に対する微細改質部6の幅Wは、入射光Iの波長以下となっている。ここでは、幅Wは、交差方向に対する改質部7及び空洞部8の幅が最大となる部分の幅である。本実施形態では、入射光Iの波長が1200nm近辺となっており、幅Wは、数百nm~1000nm程度となっている。
【0049】
交差方向に対する微細改質部6の配列ピッチP1は、入射光Iに対する散乱体として機能と半導体光吸収層3の強度とのバランスを考慮して調整される。ここでは、配列ピッチP1は、一の微細改質部6の中心位置から、一の微細改質部6の隣の微細改質部6の中心位置までの長さである。一例として、配列ピッチP1は、1μm~50μm程度となっている。
【0050】
上述のような微細改質部6は、図4に示すように、例えば二光子吸収によるレーザ加工技術を用いて形成することができる。図4の例では、光検出器1の表面、すなわち、第2導電型半導体層4の第2面4b側から半導体光吸収層3に向けてレーザ光Fを照射している。加工に用いるレーザ光Fとしては、半導体光吸収層3を構成するSiに対する透過性を有する波長のレーザ光であればよい。レーザ光Fとしては、例えばNd:YAGレーザ(波長:1064nm)を用いることができる。
【0051】
レーザ光Fをレンズ10によって集光することで、第2導電型半導体層4にレーザ光Fによる改質の影響を与えることなく、半導体光吸収層3における狙い位置のみを改質することができる。予め設定された配列領域Rにおいてレーザ光Fの照射位置をX軸方向及びY軸方向に走査することにより、配列領域Rにおいて複数の微細改質部6が形成される。
【0052】
レーザ光Fの照射条件は、形成する微細改質部6の寸法、深さなどに応じて適宜調整される。一例として、レーザ光Fの照射条件は、以下のように設定される。
・出力:100μJ/パルス
・パルス幅:数十ns~数百ns
・繰返周波数:100kHz
・集光スポットサイズ:3.14×10-8cm
・偏光状態:直線偏光
【0053】
以上説明したように、光検出器1では、半導体光吸収層3の内部に微細改質部6が設けられており、当該微細改質部6によって入射光Iが散乱することで局在不均一電場が形成される。これにより、局在不均一電場の発生位置と半導体光吸収層3での空乏層位置とを一致若しくは近接させることが可能となり、半導体光吸収層3での局在不均一電場の効果を十分に発揮させることができる。したがって、光検出器1では、検出感度の向上が図られる。また、光検出器1では、微細改質部6を用いることで、半導体光吸収層3の表面から空乏層位置に至るエッチングが必ずしも必要ではなくなる。このため、空乏層位置の近傍でエッチングに起因する半導体層の欠陥の発生を回避でき、暗電流の発生を抑制することができる。
【0054】
本実施形態では、微細改質部6の形成に二光子吸収によるレーザ加工技術を用いている。このため、ナノパターニングやドライエッチングといった複雑な半導体プロセス技術は不要であり、光検出器1の製造工程の簡単化が図られる。このことは、光検出器1の製造歩留まりの向上にも寄与する。また、光検出器1では、微細改質部6によって散乱体を形成しており、取出電極5A,5Bを除いて金属の使用を省くことができる。したがって、金属による入射光Iの吸収損失を好適に抑制できると共に、光検出器1の製造コストの低減化が図られる。
【0055】
光検出器1では、微細改質部6が第1導電型半導体層2に対する半導体光吸収層3の積層方向に交差する交差方向に配列されている。これにより、半導体光吸収層3が拡がるX軸方向及びY軸方向に広く局在不均一電場を形成できる。したがって、入射光Iに対する受光面を十分に確保できる。
【0056】
光検出器1では、微細改質部6の周囲が半導体光吸収層3によって囲まれている。これにより、微細改質部6の周囲の全体を局在不均一電場の形成に寄与させることができる。また、微細改質部6の周囲にレーザ光Fによる改質の影響を受けていない非改質部が位置することで、半導体光吸収層3の強度も十分に維持できる。
【0057】
光検出器1では、微細改質部6が改質部7及び空洞部8によって構成されている。これにより、微細改質部6によって入射光Iを高い効率で散乱させることができる。したがって、半導体光吸収層3での局在不均一電場の効果を更に高めることができる。
【0058】
光検出器1では、交差方向に対する微細改質部6の幅Wが入射光Iの波長以下となっている。これにより、入射光Iに起因する散乱光を微細改質部6と半導体光吸収層3との界面付近に好適に生じさせることができる。したがって、半導体光吸収層3での局在不均一電場の効果を更に高めることができる。
【0059】
光検出器1では、局在不均一電場の形成によって半導体光吸収層3で生じる光電流を取り出す取出電極5Bが第2導電型半導体層4上に設けられている。この構成によれば、半導体光吸収層3で生じる光電流を取り出すにあたって、半導体光吸収層3と取出電極5Bとが接する場合に比べて、ショットキー接合に起因する暗電流の発生を抑制することができる。
【0060】
光検出器1では、積層方向から見た場合に、微細改質部6が取出電極5Bと重ならない領域に位置している。このような構成によれば、微細改質部6に向かう入射光Iが取出電極5Bで遮られることが抑制されるため、入射光Iに対する受光面を十分に確保できる。また、半導体光吸収層3において、取出電極5Bの直下に半導体光吸収層3の非改質部が位置するため、半導体光吸収層3の強度も十分に維持できる。
【0061】
本開示は、上記実施形態に限られるものではない。例えば図5に示すように、微細改質部6が第1導電型半導体層2に対する半導体光吸収層3の積層方向に複数段に配列されていてもよい。図5の例では、微細改質部6は、積層方向に所定の間隔をもって2段に配列されている。微細改質部6は、積層方向に所定の間隔をもって3段以上に配列されていてもよい。微細改質部6が配列される配列領域R,R間には、レーザ光Fによる改質の影響を受けていない非改質部が位置している。
【0062】
このような構成によれば、半導体光吸収層3の厚さ方向に深く局在不均一電場を形成できる。したがって、半導体光吸収層3において積層方向に空乏層位置が広く存在する場合であっても、局在不均一電場の発生位置と半導体光吸収層3での空乏層位置とをより確実に一致若しくは近接させることが可能となる。また、複数段の微細改質部6,6同士の間に非改質部が位置することで、半導体光吸収層3の強度も十分に維持できる。
【0063】
積層方向に対する微細改質部6の配列ピッチP2は、入射光Iに対する散乱体として機能と半導体光吸収層3の強度とのバランスを考慮して調整される。ここでは、配列ピッチP2は、図6に示すように、一方の配列領域Rにおける微細改質部6の空洞部8の第1面3a側の端から他方の配列領域Rにおける微細改質部6の改質部7の第2面3b側の端までの長さである。配列ピッチP2は、例えば積層方向に対する微細改質部6の長さLの1倍~5倍程度であってもよい。
【0064】
複数段の微細改質部6の形成には、上記実施形態と同様に、二光子吸収によるレーザ加工技術を用いることができる。また、当該レーザ加工技術に空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)を用いた多点レーザ加工技術を組み合わせることが好適である。この場合、複数段の微細改質部6をレーザ光Fの一度の走査で形成することができ、光検出器1の製造工程の複雑化を回避できる。
【0065】
上記実施形態では、積層方向から見て微細改質部6が格子状に配列されている構成を例示したが、微細改質部6の配列はこれに限られない。例えば微細改質部6は、積層方向から見て千鳥状に配列されていてもよく、ランダムに配列されていてもよい。微細改質部6が配列される配列領域Rは、積層方向から見て必ずしも矩形状をなしていなくてもよい。配列領域Rは、積層方向から見て、円形、楕円形、三角形、多角形などの他の形状をなしていてもよい。
【0066】
上記実施形態では、改質部7及び空洞部8の双方によって微細改質部6が構成されているが、微細改質部6は、改質部7及び空洞部8のいずれか一方によって構成されていてもよい。また、上記実施形態では、微細改質部6の形成にあたって、第2導電型半導体層4の第2面4b側から半導体光吸収層3に向けてレーザ光Fを照射しているが、第1導電型半導体層2の第1面2a側から半導体光吸収層3に向けてレーザ光Fを照射してもよい。この場合、微細改質部6における改質部7及び空洞部8の位置関係は、図3の場合と反転することとなる。さらに、上記実施形態では、第1導電型をn型、第2導電型をp型として各半導体層を例示したが、第1導電型をp型、第2導電型をn型としてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…光検出器、2…第1導電型半導体層、3…半導体光吸収層、4…第2導電型半導体層、5B…取出電極、6…微細改質部、7…改質部、8…空洞部、I…入射光。
図1
図2
図3
図4
図5
図6