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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005792
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】回復方法及び回復装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/42 20060101AFI20240110BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240110BHJP
   H01M 10/615 20140101ALI20240110BHJP
   H01M 10/6571 20140101ALI20240110BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20240110BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20240110BHJP
【FI】
H01M10/42 P
H01M10/48 301
H01M10/48 P
H01M10/615
H01M10/6571
H01M10/625
H01M10/651
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106166
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川浦 宏之
(72)【発明者】
【氏名】三木田 梨歩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康仁
(72)【発明者】
【氏名】野崎 洋
【テーマコード(参考)】
5H030
5H031
【Fターム(参考)】
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF21
5H030FF41
5H030FF52
5H031HH06
5H031KK03
(57)【要約】
【課題】蓄電デバイスの充放電特性の回復をより向上する。
【解決手段】本開示の回復方法は、金属リチウムが析出した電極を有する蓄電デバイスの回復方法であって、保存温度Tを50℃以上70℃以下の範囲内で、保存時間Hを50時間以上700時間以下の範囲内として蓄電デバイスを加熱、保持する高温保存処理を実行する回復工程、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属リチウムが析出した電極を有する蓄電デバイスの回復方法であって、
保存温度Tを50℃以上70℃以下の範囲内で、保存時間Hを50時間以上700時間以下の範囲内として前記蓄電デバイスを加熱、保持する高温保存処理を実行する回復工程、を含む回復方法。
【請求項2】
前記回復工程では、保存時間Hが70時間以上360時間以下の範囲で前記高温保存処理を実行する、請求項1に記載の回復方法。
【請求項3】
前記回復工程では、前記高温保存処理の前に、前記蓄電デバイスの残容量SOCを30%以上70%以下の範囲に調整する調整処理を実行する、請求項1又は2に記載の回復方法。
【請求項4】
前記回復工程では、前記蓄電デバイスの保存温度Tを55℃以上65℃以下の範囲内で前記高温保存処理の前を実行する、請求項1又は2に記載の回復方法。
【請求項5】
前記回復工程では、回路から外された開回路状態で前記蓄電デバイスを前記高温保存処理する、請求項1又は2に記載の回復方法。
【請求項6】
蓄電デバイスの回復装置であって、
金属リチウムが析出した電極を有する蓄電デバイスを収容する収容部と、
前記収容部の温度を調整する温度調整部と、
保存温度Tを50℃以上70℃以下の範囲内で、保存時間Hを50時間以上700時間以下の範囲内として前記蓄電デバイスを加熱、保持する高温保存処理を実行するよう前記温度調整部を制御する制御部と、
を備えた回復装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、回復方法及び回復装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池を備えた自動車に搭載され、リチウムイオン二次電池が充電されている期間において、外部電源から供給される電源を用いてリチウムイオン二次電池を55℃~65℃の温度で保持する電池システムが提案されている(特許文献1参照)。この電池システムでは、金属リチウムを失活させて安全性をより高めることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4905609号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の電池システムでは、金属リチウムを失活させるものであるが、電池機能の回復という観点から、まだ十分でなく、蓄電デバイスの回復をより図ることが求められていた。
【0005】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであり、蓄電デバイスの充放電特性の回復をより向上することができる回復方法及び回復装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、金属リチウムが析出した電極を有する蓄電デバイスを特定の期間内で所定温度範囲において保存すると、金属リチウムを不活性化すると共に、放電容量から求められる容量維持率を回復することができることを見出し、本開示の発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の回復方法は、
金属リチウムが析出した電極を有する蓄電デバイスの回復方法であって、
保存温度Tを50℃以上70℃以下の範囲内で、保存時間Hを50時間以上700時間以下の範囲内として前記蓄電デバイスを加熱、保持する高温保存処理を実行する回復工程、を含むものである。
【0008】
また、本開示の回復装置は、
蓄電デバイスの回復装置であって、
金属リチウムが析出した電極を有する蓄電デバイスを収容する収容部と、
前記収容部の温度を調整する温度調整部と、
保存温度Tを50℃以上70℃以下の範囲内で、保存時間Hを50時間以上700時間以下の範囲内として前記蓄電デバイスを加熱、保持する高温保存処理を実行するよう前記温度調整部を制御する制御部と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この回復方法及び回復装置では、蓄電デバイスの充放電特性の回復をより向上することができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスでは、負極表面に金属リチウムが析出することがある。負極表面に析出した金属リチウムの多くは、電池の充放電反応に寄与できなくなるので、負極表面にリチウムが析出するのに伴って電池容量が低下する。また、負極に析出した金属リチウムは活性が高く、負極に金属リチウムが析出した状態は、安全性を低下させる。本開示では、負極表面に金属リチウムが析出した蓄電デバイスを50℃以上70℃以下の範囲内とすることによって、例えば、金属リチウムをよりイオン化するなど、効率よく失活(不活性化)させることができる。また、本開示では、蓄電デバイスを50時間以上700時間以下の範囲で保存することによって、放電容量をより回復し、且つ放電容量の過回復による低下をより抑制することができる。このため、本開示では、蓄電デバイスの充放電特性の回復をより向上することができるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】回復システム及び蓄電デバイス20の構成の概略を示す説明図。
図2】初期および金属Li析出後の放電曲線。
図3】金属Li析出前後の初期容量、20サイクル後容量および容量劣化率。
図4】急速充放電20サイクル前後の負極の外観写真。
図5】急速充放電20サイクル後の負極の断面のSEM像。
図6】急速充放電20サイクル後の負極の固体7Li-NMR測定スペクトル。
図7】金属Li析出後、60℃、1か月保存した負極の断面SEM像。
図8】金属Li析出後、60℃、1か月保存した負極の固体7Li-NMR測定スペクトル。
図9】金属Li析出後、60℃、1週間保存した負極の断面SEM像。
図10】金属Li析出後、60℃、3日間保存した負極の断面SEM像。
図11】60℃での保存期間と保存前後の容量維持率との関係図。
図12】60℃での保存期間と保存後の容量回復率との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[蓄電デバイス]
まず、回復処理の対象となる蓄電デバイスについて説明する。蓄電デバイスは、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。キャリアイオンとしては、例えば、第1族元素イオンや第2族元素イオンなどが挙げられ、リチウムイオンが含まれるものとしてもよい。蓄電デバイスは、電極に金属リチウムが析出する可能性のあるものであれば特に限定されず、例えば、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタなどが挙げられる。以下では、説明の便宜のため、蓄電デバイスが、リチウムイオンをキャリアイオンとする、負極活物質を炭素材料としたリチウムイオン二次電池である場合について主に説明する。
【0012】
正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質は、酸化還元電位がLi基準電位で3.0Vを超えるものとしてもよく、3.5V以上が好ましく、3.8V以上がより好ましく、4.0V以上がさらに好ましい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、Li(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)、Li(1-x)Mn24などのリチウムマンガン複合酸化物、Li(1-x)CoO2などのリチウムコバルト複合酸化物、Li(1-x)NiO2などのリチウムニッケル複合酸化物、Li(1-x)NiaMnb2(a+b=1)やLi(1-x)NiaMnb4(a+b=2)などのリチウムニッケルマンガン複合酸化物、Li(1-x)NiaCobMnc2(a+b+c=1)などのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、LiV23などのリチウムバナジウム複合酸化物、V25などの遷移金属酸化物などを用いることができる。また、Li(1-x)MnPO4などのオリビン型リチウムリン酸マンガン系化合物、Li(1-x)CoPO4などのオリビン型リチウムリン酸コバルト系化合物、Li(1-x)NiPO4などのオリビン型リチウムリン酸ニッケル系化合物などを用いることができる。また、Li(1-x)MnVO4などの逆スピネル型リチウムバナジン酸マンガン系化合物、Li(1-x)CoPO4などの逆スピネル型リチウムバナジン酸コバルト系化合物、Li(1-x)NiPO4などの逆スピネル型リチウムバナジン酸ニッケル系化合物などを用いることができる。正極活物質は、ニッケル、マンガン、コバルトのうちの1以上を含む酸化物であることが好ましく、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/32などが好ましい。
【0013】
正極の導電材としては、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などを用いることができる。結着材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系であるカルボキシメチルセルロース(CMC)やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0014】
負極は、例えば、負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよいし、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよい。負極活物質は、酸化還元電位がLi基準電位で3.0V以下が好ましく、2.0V以下がより好ましく、1.0V以下がさらに好ましい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。複合酸化物としては、例えば、Li4Ti512などのリチウムチタン複合酸化物やLiV23などのリチウムバナジウム複合酸化物が挙げられる。負極活物質としては、このうち、グラファイト類などの炭素質材料が好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0015】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水系電解液の溶媒としては、例えば、カーボネート化合物、エステル化合物、エーテル化合物、ニトリル化合物、アミド化合物、フラン化合物、スルホラン化合物及びジオキソラン化合物などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート化合物としてエチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート化合物や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート化合物などが挙げられる。また、エステル化合物としてγ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル化合物、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル化合物などが挙げられる。また、エーテル化合物としてジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどが挙げられ、ニトリル化合物としてアセトニトリル、ベンゾニトリルなどが挙げられ、アミド化合物としてジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミドなどが挙げられ、フラン化合物としてテトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフランなどが挙げられ、スルホラン化合物としてスルホラン、テトラメチルスルホランなどが挙げられ、オキソラン化合物として1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどが挙げられる。これらは単独又は混合して用いることができる。このうち、非水系電解液の溶媒としては、例えば、DMC-ECや、DEC-EC、DMC-EMC-ECなど、環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物との混合液が好ましい。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4 などの無機塩や、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、などの有機塩が挙げられ、これらを単独又は組み合わせて用いることができる。支持塩は、電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。また、イオン伝導媒体としては、液状のイオン伝導媒体の代わりに、イオン伝導性ポリマー、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0016】
この蓄電デバイスは、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータは、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えばポリプロピレン製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0017】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものとしてもよい。図1は、本実施形態の回復システム10及び蓄電デバイス20の一例を示す説明図である。蓄電デバイス20は、集電体21に正極合材22を形成した正極シート23と、集電体24の表面に負極合材25を形成した負極シート26と、正極シート23と負極シート26との間に設けられたセパレータ28と、正極シート23と負極シート26との間を満たす非水系電解液29と、を備えている。この蓄電デバイス20では、正極シート23と負極シート26との間にセパレータ28を挟み、これらを捲回して円筒ケース32に挿入し、正極シート23に接続された正極端子34と負極シート26に接続された負極端子36とを配設して形成されている。
【0018】
(回復方法)
本開示の蓄電デバイスの回復方法は、金属リチウムが析出した電極を有する蓄電デバイスの回復方法である。この回復方法は、回復工程を含む。回復工程では、蓄電デバイスを保存温度Tを50℃以上70℃以下の範囲内で、保存時間Hを50時間以上700時間以下の範囲内として上記蓄電デバイスを加熱、保持する高温保存処理を実行する。回復工程では、開回路状態の蓄電デバイスに対して高温保存処理を行うことが好ましい。特に、蓄電デバイスは、回路から端子が外された状態で高温保存処理することが好ましい。
【0019】
回復工程では、高温保存処理を実行する前に、蓄電デバイスの残容量SOCを30%以上70%以下の範囲に調整する調整処理を実行することが好ましい。残容量SOCをこの範囲に調整すると、例えば、電極上に析出した金属リチウムを除去しやすい。この残容量SOCは、例えば、40%以上が好ましく、45%以上がより好ましい。また、残容量SOCは、60%以下が好ましく、55%以下がより好ましい。残容量SOCを中間的な範囲にすると、高温保存効果をより確実に得ることができる。なお、回復工程では、この調整処理を省略するものとしてもよい。
【0020】
回復工程では、保存温度Tは、50℃以上70℃以下の範囲内とするが、55℃以上が好ましく、また、65℃以下が好ましい。保存温度Tが50℃以上では、回復効果をより確実に得ることができ、70℃以下では、例えば、電解液の分解などをより抑制することができ、好ましい。また、回復工程では、保存時間Hは、50時間以上700時間以下の範囲内とするが、70時間以上が好ましく、100時間以上より好ましく、150時間以上が更に好ましい。また、保存時間Hは、600時間以下がより好ましく、500時間以上がより好ましく、400時間以下が更に好ましく、360時間以下としてもよい。保存時間Hは、50時間以上では、回復効果を得られやすく、700時間以下では、金属リチウム分解後の悪影響、例えば、被膜中のLiの増加などが出にくく、好ましい。
【0021】
(回復装置)
本開示の回復装置を、図面を参照しながら以下に説明する。本開示の回復装置は、上述した回復方法を実行する装置であるものとしてもよい。図1に示すように、回復装置10は、制御装置11と、処理部16とを備えている。処理部16は、収容部17と、温度調整部18と、残容量調整部19とを備えている。
【0022】
制御装置11は、装置全体を制御するコンピュータとして構成されており、制御部12と、記憶部13と、入力装置14と、表示部15とを備える。制御部12は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されている。制御装置11は、保存温度Tを50℃以上70℃以下の範囲内で、保存時間Hを50時間以上700時間以下の範囲内として、金属リチウムが析出した電極を有する蓄電デバイス20を加熱、保持する高温保存処理を実行するよう温度調整部18を制御する。制御部12は、上述した回復方法で説明した条件のいずれかを採用して、高温保存処理を実行するものとする。記憶部13は、例えばHDDなど、処理プログラムなど各種データを記憶する装置である。入力装置14は、作業者が各種指令を入力するキーボード及びマウス等を含む。表示部15は、各種情報を表示する液晶画面である。
【0023】
収容部17は、金属リチウムが析出した電極を有する蓄電デバイス20を収容する収容空間を有する筐体である。収容部17には、1以上の蓄電デバイス20が収容される。温度調整部18は、収容部17の内部空間の温度を調整するものであり、例えば、加熱部と、必要に応じて冷却部とを備える。処理部16は、恒温槽としてもよい。残容量調整部19は、収容部17に収容された蓄電デバイス20の残容量を調整するものであり、充放電装置としてもよい。残容量調整部19は、図示しない接続コードを有しており、作業者がこの接続コードを蓄電デバイス20の端子に接続することによって、蓄電デバイス20の残容量SOCの調整を行うものとしてもよい。なお、回復装置10では、残容量調整部19を備えないものとし、別の処理場などで蓄電デバイス20の残容量SOCの調整を行ってもよいし、この残容量SOCの調整を省略してもよい。
【0024】
以上説明した回復方法及び回復装置では、蓄電デバイスの充放電特性の回復をより向上することができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスでは、負極表面に金属リチウムが析出することがある。負極表面に析出した金属リチウムの多くは、電池の充放電反応に寄与できなくなるので、負極表面にリチウムが析出するのに伴って電池容量が低下する。また、負極に析出した金属リチウムは活性が高く、負極に金属リチウムが析出した状態は、安全性を低下させる。本開示の回復方法及び回復装置では、負極表面に金属リチウムが析出した蓄電デバイスを50℃以上70℃以下の範囲内とすることによって、例えば、金属リチウムをよりイオン化するなど、効率よく失活(不活性化)させることができる。蓄電デバイスの電極に析出している金属リチウムを不活性化させることによって、電池の安全性を高めることができる。さらに、金属リチウムをイオン化することができれば、電池容量を回復することが可能となる。また、この回復方法及び回復装置では、蓄電デバイスを50時間以上700時間以下の範囲で保存することによって、放電容量をより回復し、且つ放電容量の過回復による低下をより抑制することができる。このため、この回復方法及び回復装置では、蓄電デバイスの充放電特性の回復をより向上することができるものと推察される。
【0025】
なお、本開示は、上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0026】
本開示は、以下の[1]~[6]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] 金属リチウムが析出した電極を有する蓄電デバイスの回復方法であって、
保存温度Tを50℃以上70℃以下の範囲内で、保存時間Hを50時間以上700時間以下の範囲内として前記蓄電デバイスを加熱、保持する高温保存処理を実行する回復工程、を含む回復方法。
[2] 前記回復工程では、保存時間Hが70時間以上360時間以下の範囲で前記高温保存処理を実行する、[1]に記載の回復方法。
[3] 前記回復工程では、前記高温保存処理の前に、前記蓄電デバイスの残容量SOCを30%以上70%以下の範囲に調整する調整処理を実行する、[1]又は[2]に記載の回復方法。
[4] 前記回復工程では、前記蓄電デバイスの保存温度Tを55℃以上65℃以下の範囲内で前記高温保存処理の前を実行する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の回復方法。
[5] 前記回復工程では、回路から外された開回路状態で前記蓄電デバイスを前記高温保存処理する、[1]~[4]のいずれか1つに記載の回復方法。
[6] 蓄電デバイスの回復装置であって、
金属リチウムが析出した電極を有する蓄電デバイスを収容する収容部と、
前記収容部の温度を調整する温度調整部と、
保存温度Tを50℃以上70℃以下の範囲内で、保存時間Hを50時間以上700時間以下の範囲内として前記蓄電デバイスを加熱、保持する高温保存処理を実行するよう前記温度調整部を制御する制御部と、
を備えた回復装置。
【実施例0027】
以下には、本開示の蓄電デバイスの回復方法及び回復装置を具体的に検討した例を実験例として説明する。実験例2~4、7~9が本開示の実施例に相当し、実験例1、5が比較例に相当し、実験例6、10~12が参考例に相当する。
【0028】
(電池作製)
負極活物質として球形化天然黒鉛粒子(平均粒径10μm)、水系結着材としてスチレン-ブタジエンゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)の混合物を用い、溶媒として超純水を用いた。球形化天然黒鉛粒子とSBRとCMCとを、質量比98:1:1となるように秤量し、球形化天然黒鉛粒子とCMCを混合、攪拌後、超純水およびSBRを投入して混合、攪拌した。これを厚さ10μmの負極集電体(銅箔)に合材目付け量が7.8mg/cm2となるように塗布した。その後、120℃の真空中で6時間乾燥させて、ロールプレス機を用いて圧延処理を施すことによって、負極集電体上に合材密度1.3g/cm3の負極合材層が形成された負極シートを作製した。次に、正極活物質であるLiNi1/3Mn1/3Co1/32と、導電材であるアセチレンブラック(AB)、結着材であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、質量比92:5:3となるように秤量し、これらの材料をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させてペースト状の正極合材層形成用組成物を調製した。これを厚さ15μmの正極集電体(アルミニウム箔)に合材目付け量が14.5mg/cm2となるように塗布した。その後、120℃の真空中で6時間乾燥させて、ロールプレス機を用いて圧延処理を施すことによって、正極集電体上に合材密度2.8g/cm3の正極合材層が形成された正極シートを作製した。上記正極シートの合材を一部剥離しアルミニウム製の正極端子を超音波溶接して取り付けた。同様に、上記負極シートの合材を一部剥離しニッケル製の負極端子を超音波溶接して取り付けた。各端子を取り付けた正極シートと負極シートとを、ポリエチレン製の単層構造のセパレータを介してアルミラミネートセルを作製した。非水電解液としてECとDMCとEMCとの体積比が3:4:3の非水溶媒に1MのLiPF6を溶解させたものを使用した。このようにして作製した20mAh級のアルミラミネートセルを用いて、以下の評価を行った。
【0029】
(金属リチウムの析出および電池評価)
ラミネートセルを20℃の環境下において、充放電を実施した。まず電池容量評価を行うため、4.1Vに定電流充電(2mA)したあと、4.1Vで3時間定電圧充電を実施した。その後、3Vに定電流放電(2mA)したあと、3Vで1時間定電圧放電を実施した。上記定電流充放電を2サイクル行い、2サイクル目の放電容量を初期容量とした。容量確認した電池は急速充放電サイクルを行い、負極表面に金属リチウムを析出させた。4.5Cで4.1Vまで定電流充電を行い、4.1Vで10分間定電圧充電を実施した。その後3Vに0.5Cで定電流放電した後、3Vで3時間定電圧放電を実施した。上記急速充放電を20サイクル行った後、初期の容量確認と同様な条件で金属リチウム析出後の容量を確認した。
【0030】
(析出金属リチウムの不活性化・容量回復処理および電池評価)
急速充放電20サイクルによる金属リチウムを析出させた電池に対して、SOC50%(電池電圧3.7V)に調整したあと、電池を60℃の恒温槽中に保持して、析出金属リチウムの不活性化、電池の容量回復処理を行った。初期の容量確認と同様な条件でサイクル後の容量を確認した。
【0031】
(分析試料の作製)
金属リチウム析出および不活性化、容量回復処理を行った電池について、4.1Vに定電流充電(2mA)したあと、4.1Vで3時間定電圧充電を実施し、満充電状態(SOC100%)として分析試料とした。その後、電極を解体して負極を取り出し、不活性Arガス雰囲気のグローブボックス中でジメチルカーボネート(DMC)により洗浄し、乾燥した。
【0032】
(析出形態の観察)
負極上に析出した金属Liの析出状態を検討するため、SEM観察を行った。サンプリングは不活性Arガス雰囲気のグローブボックス中で行い、大気非暴露トランスファを用いて大気に触れることなく、SEM装置内試料室に導入した。SEM観察は日立ハイテクS-4300を用いて行った。
【0033】
(負極中の全Li量の定量)
負極中の全Liの定量を誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES)で行った。サイクル後の電池から採取した負極を少量の水に浸漬し、集電体から負極合材を剥がした。集電体を取り出したあと、10mLの6M塩酸を加えて負極合剤中のLiを加熱溶解した。溶液をろ過したと、一定量に薄めてICP-OESでLi量を測定した。結果は電極当たりのLi量に換算して示した。
【0034】
(負極中のLiの化合状態の分析)
負極中のLiの化合状態の分析は固体7Li-核磁気共鳴分析(NMR)で行った。測定試料はArガス雰囲気のグローブボックス中で、集電体から負極電極(7mm×7mm)をはがして、その全量をNMRジルコニアロータに充填した。装置への試料管の移送および測定は不活性雰囲気下で行った。固体7Li-NMR測定はBruker社製AVANCE400を用いて、single pulse法により行った。固体7Li-NMRではLiの化合状態によって化学シフトが異なる。固体7Li-MNR測定から得られたFFTスペクトルを、析出した金属Li、黒鉛の層間にインターカレートした充電Li(充電Li)、および被膜Liとした。Li量は上記の金属Li、稼働Li、被膜Liの3状態で整理し、負極全体のLi量はICP-OESで求めることにより、各状態別のLi量を見積もった。
【0035】
[実験例1](金属リチウムの析出)
(容量維持率と析出した金属リチウムの形態)
図2は、初期および急速充放電サイクルの20サイクル(金属リチウム析出)後の放電曲線である。図3は、初期容量、20サイクル後容量および容量劣化率である。作製した試験電池は、初期容量が19.8mAhであるのに対して、急速充放電20サイクル後には15.1mAh(=容量維持率76%)に減少し、容量劣化率は、24%の値を示した。図4は、急速充放電20サイクル前後の負極の外観写真であり、図4Aがサイクル前、図4Bが20サイクル後である。サイクル前の負極は黒色であるのに対して、急速充放電20サイクル後の負極は一部黄色の負極電極中Li部分が観察されるものの、ほぼ全面に灰色の金属Liが析出していることが確認された。図5は、急速充放電20サイクル後の負極の断面のSEM像である。図5に示すように、塊状の金属Liが析出し、負極電極表面に緻密に積み重なっており、その析出した金属Li層の厚さは、10~15μmであった。
【0036】
(負極中のリチウムの状態分析)
急速充放電サイクル後の負極中の全Li量をICP-OESにより定量したサイクル後の負極中の全Li量は0.54mg/cm2であった。図6は、急速充放電20サイクル後の負極について、固体7Li-NMR測定により得られたスペクトルである。黒鉛負極における固体7Li-NMRスペクトルの化学シフト[1,2]から、金属Li、充電Liおよび被膜Liの3状態の帰属を行い、各スペクトルの波形分離からその量比を表1に示す。さらにICP-OESによる全Li量の分析結果および、固体7Li-NMRとICP-OESの結果から負極あたりの各状態のLi量を見積もり表1にあわせて示した。充電Liは全てLi→Li++e-の反応に関与するとものとすると、分析から求めた充放電サイクルにおける充電Li量については、充放電に関与できるLi(充電Li)と電池容量(mAh)との関係はほぼ1:1であった。急速充放電後の負極電極中における金属Li、充電Li、被膜Liの各状態別の電気量に換算した結果を表1に示す。充電Liの電気量は15.1mAhと見積もられ、電気化学測定からの放電容量と同じ値を示した。また、析出した金属Li、被膜Liの電気量はそれぞれ3.1mAh、2.65mAhであった。
【0037】
【表1】
【0038】
[実験例2](60℃、1か月保存処理)
(容量維持率と析出した金属リチウムの形態)
急速充放電20サイクルによる金属リチウムを析出させた試験電池に対して、SOC50%(電池電圧3.7V)に調整したあと、開回路状態で電池を60℃の恒温槽中に1か月保持する高温保存処理を実行して、析出金属リチウムの不活性化、電池の容量回復処理を行った。図7は、金属Li析出後、60℃、1か月保存した負極の断面SEM像である。急速充放電後に形成された金属リチウムは60℃、1か月保存すると消滅することがわかった。初期容量は20.0mAhであるのに対して、急速充放電20サイクルでの金属リチウム析出後の容量は14.5mAhであり、容量維持率は73%であった。一方、それを60℃、1か月保存すると、容量は14.9mAhとなり、容量維持率は75%となった。保存試験後の容量維持率Rkを保存試験前の容量維持率Rsで除算して得られる容量回復率R(%)=Rk/Rs×100は、実験例2では、103%であった。図8は、金属Li析出後、60℃、1か月保存した負極の固体7Li-NMR測定スペクトルである。また、その各スペクトルの波形分離からその量比を求めた結果を表2に示す。表2には、さらにICP-OESによる全Li量の分析結果および、固体7Li-NMRとICP-OESの結果から負極あたりの各状態のLi量を見積もった結果も示した。図8に示すように、NMRからも、金属リチウムは検出されず、60℃、1か月保存により、充電Li、被膜Liの電気量はそれぞれ、15.2mAh、5.3mAhとなり被膜リチウムが増加した。
【0039】
【表2】
【0040】
[実験例3](60℃、1週間保存処理)
(容量維持率と析出した金属リチウムの形態)
高温保存処理において、開回路状態で試験電池を60℃の恒温槽中に1週間保持した以外は実験例2と同様の処理を行ったものを実験例3とした。図9は、金属Li析出後、60℃、1週間保存した負極の断面のSEM像である。急速充放電後に形成された金属リチウムは、60℃、1週間保存すると消滅することがわかった。実験例3では、金属Li析出後の容量維持率は76%であり、高温保存後の容量維持率は84%であり、容量回復率は111%であった。
【0041】
[実験例4](60℃、3日保存処理)
(容量維持率と析出した金属リチウムの形態)
高温保存処理において、開回路状態で試験電池を60℃の恒温槽中に3日保持した以外は実験例2と同様の処理を行ったものを実験例4とした。図10は、金属Li析出後、60℃、3日保存した負極の断面SEM像である。急速充放電後に形成された金属リチウムは、60℃、3日保存後では、金属リチウムの量は少なくなるものの、残存していることがわかった。実験例4では、金属Li析出後の容量維持率は65%であり、高温保存後の容量維持率は83%であり、容量回復率は128%であった。
【0042】
[実験例5](金属リチウムの析出)
(容量維持率と析出した金属リチウムの形態)
実験例1と同様の条件で急速充放電サイクル20サイクル(金属リチウム析出)行い、急速充放電20サイクル後の容量維持率が68%を示したものを実験例5とした。
【0043】
[実験例6](60℃、1日保存処理)
高温保存処理において、開回路状態で試験電池を60℃の恒温槽中に1日保持した以外は実験例2と同様の処理を行ったものを実験例6とした。急速充放電20サイクル後の容量維持率は61%であるのに対して、60℃、1日保存後の容量維持率は88%を示し、60℃保存後の容量回復率は145%であった。
【0044】
[実験例7](60℃、1週間保存処理)
高温保存処理において、開回路状態で試験電池を60℃の恒温槽中に1週間保持した以外は実験例2と同様の処理を行ったものを実験例7とした。急速充放電20サイクル後の容量維持率は68%であるのに対して、60℃、1週間保存後の容量維持率は78%であり、60℃保存後の容量回復率は115%であった。
【0045】
[実験例8](60℃、2週間保存処理)
高温保存処理において、開回路状態で試験電池を60℃の恒温槽中に2週間保持した以外は実験例2と同様の処理を行ったものを実験例8とした。急速充放電20サイクル後の容量維持率は79%であるのに対して、60℃、1週間保存後の容量維持率は81%であり、60℃保存後の容量回復率は103%であった。
【0046】
[実験例9](60℃、2週間保存処理)
高温保存処理において、開回路状態で試験電池を60℃の恒温槽中に2週間保持した以外は実験例2と同様の処理を行ったものを実験例9とした。急速充放電20サイクル後の容量維持率は73%であるのに対して、60℃、1週間保存後の容量維持率は80%であり、60℃保存後の容量回復率は110%であった。
【0047】
[実験例10](60℃、1か月保存処理)
高温保存処理において、急速充放電20サイクルによる金属リチウムを析出させた試験電池に対して、SOC50%(電池電圧3.7V)に調整したあと、開回路状態で試験電池を60℃の恒温槽中に1か月保持して、析出金属リチウムの不活性化、電池の容量回復処理を行った。急速充放電20サイクル後の容量維持率は79%であるのに対して、60℃、1か月保存後の容量維持率は76%であり、60℃保存後の容量回復率は96%であった。
【0048】
[実験例11](60℃、2か月保存処理)
高温保存処理において、急速充放電20サイクルによる金属リチウムを析出させた試験電池に対して、SOC50%(電池電圧3.7V)に調整したあと、開回路状態の試験電池を60℃の恒温槽中に2か月保持して、析出金属リチウムの不活性化、電池の容量回復処理を行った。急速充放電20サイクル後の容量維持率は77%であるのに対して、60℃、2か月保存後の容量維持率は73%であり、60℃保存後の容量回復率は95%であった。
【0049】
[実験例12](60℃、2か月保存処理)
高温保存処理において、急速充放電20サイクルによる金属リチウムを析出させた試験電池に対して、SOC50%(電池電圧3.7V)に調整したあと、開回路状態で試験電池を60℃の恒温槽中に2か月保持して、析出金属リチウムの不活性化、電池の容量回復処理を行った。急速充放電20サイクル後の容量維持率は80%であるのに対して、60℃、2か月保存後の容量維持率は73%であり、60℃保存後の容量回復率は92%であった。
【0050】
図11は、60℃での保存期間と保存前後の容量維持率との関係図である。図12は、60℃での保存期間と保存後の容量回復率との関係図である。また、実験例1~12の測定結果を表3にまとめた。図11に示すように、60℃、1日以上保存すると、放電容量は急激に増加し、容量維持率の著しい増加が認められた。一方、保存期間が400時間以上では、容量維持率の増加は、減少側に変化し、更に長時間である600時間以上の保存期間では、高温保存処理により容量維持率が低下する傾向であることがわかった。また、図12に示すように、60℃、1日以上保存すると、容量回復率は、145%と高い値を示すが、その後、保存期間の増加に伴い緩やかに低下することがわかった。また、60℃保存期間が2か月になると、急速充放電による金属リチウム析出時の容量維持率以下の値を示すことがわかった。一方、表3に示すように、急速充放電後に形成される電極上に析出した金属リチウムは、60℃での高温保存処理によってより減少し、1週間の保存で消滅することがわかった。
【0051】
以上の実験例1~12の結果より、高温保存処理は、保存温度Tを50℃以上70℃以下の範囲内、より好ましくは55℃以上65℃以下の範囲内で行うことが好ましいと推察された。また、高温保存処理は、保存時間Hを50時間以上700時間以下の範囲内、より好ましくは70時間以上500時間以下の範囲内、更に好ましくは、360時間以下の範囲内で行うことが好ましいと推察された。更に、高温保存処理の前に、蓄電デバイスの残容量SOCを調整することが好ましく、SOC30%以上70%以下の範囲、より好ましくはSOC40%以上60%以下の範囲、更に好ましくはSOC45%以上55%以下の範囲に調整することが好ましいと推察された。また、蓄電デバイスの端子が回路に接続されている状態では、充放電が可能であるので、開回路状態、特に端子が回路から外された状態で高温保存処理を実行することが好ましいと推察された。
【0052】
【表3】
【0053】
なお、本開示は、上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、電池産業の分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 回復装置、11 制御装置、12 制御部、13 記憶部、14 入力装置、15 表示部、16 処理部、17 収容部、18 温度調整部、19 残容量調整部、20 蓄電デバイス、21 集電体、22 正極合材層、23 正極シート、24 集電体、25 負極合材層、26 負極シート、28 セパレータ、29 非水系電解液、32 円筒ケース、34 正極端子、36 負極端子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12