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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057920
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】音響校正器
(51)【国際特許分類】
   H04R 29/00 20060101AFI20240418BHJP
   H04R 1/00 20060101ALI20240418BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
H04R29/00 320
H04R1/00 328Z
G01H17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164913
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】北條 和輝
(72)【発明者】
【氏名】長沢 誠
(72)【発明者】
【氏名】市川 和宏
【テーマコード(参考)】
2G064
5D017
【Fターム(参考)】
2G064AA12
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB16
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
5D017BB20
(57)【要約】
【課題】音圧計測センサと発音体の取付を容易にしつつ、マイクロホンと音圧計測センサとに同じ音圧を印加することのできる音響校正器を提供する。
【解決手段】音響校正器は、マイクロホンMが差し込まれる差込口21が連通する内部空間22を有するカプラ本体24と、カプラ本体24に対して差込口21の反対側から連結されて、内部空間22に連通するセンサ取付口31を有するカプラフランジ23と、内部空間22の音圧を計測する音圧計測センサ16と、内部空間22に音を出力する発音体62と、を備える。カプラ本体24は、差込口21が形成された先端筒部材41と、カプラフランジ23が連結される基端筒部材43と、を備える。カプラ本体24は、内部空間22に連通して先端筒部材41と基端筒部材43との連結面に開口する溝状の音導路65と、音導路65に連通し、発音体62が配設される発音室61と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロホンが差し込まれる差込口と前記差込口が連通する内部空間とを有する筒状のカプラ本体と、
前記カプラ本体に対して前記差込口の反対側から連結されて、前記内部空間に連通するセンサ取付口を有するカプラフランジと、
前記内部空間の音圧を計測する音圧計測センサであって、前記センサ取付口を通じて前記内部空間に配設されるセンシング部を有する前記音圧計測センサと、
前記内部空間に音を出力する発音体と、を備えた音響校正器であって、
前記カプラ本体は、
前記差込口が形成された先端筒部材と、
前記カプラフランジが連結される基端筒部材と、を備えるとともに、
前記内部空間に連通して前記先端筒部材と前記基端筒部材との連結面に開口する溝状の音導路と、
前記音導路に連通し、前記発音体が配設される発音室と、を有し、
前記発音体は、
前記音導路を通じて前記内部空間に音を出力する
音響校正器。
【請求項2】
前記音導路は、前記カプラ本体の周方向に延びる部分を有する
請求項1に記載の音響校正器。
【請求項3】
前記音導路および前記発音室が前記基端筒部材に形成されている
請求項2に記載の音響校正器。
【請求項4】
前記カプラ本体は、前記音導路の外側に配設されて前記先端筒部材と前記基端筒部材との間の隙間をシールするシール材を備える
請求項3に記載の音響校正器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響校正器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、マイクロホンを校正する際に使用される音響校正器は、カプラ、音圧計測センサ、発音体、および、制御装置を備えている。カプラは、内部空間を有し、その内部空間に連通して校正対象となるマイクロホンが差し込まれる差込口を有している。音圧計測センサは、カプラの内部空間における音圧を計測する。発音体は、カプラの内部空間に音を出力する。制御装置は、音圧計測センサの計測値が校正基準値となるように発音体の出力を制御する。そして、校正対象のマイクロホンは、カプラの差込口に差し込んだ状態での計測値が校正基準値となるように校正される。
【0003】
こうした音響校正器として、特許文献1には、カプラに対する音圧計測センサの取付が容易となるように、発音体によって、差込口に連通する前室と音圧計測センサの計測対象となる背室とにカプラの内部空間が分割された音響校正器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-175576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の音響校正器においては、前室の容積と背室の容積とが同じであることが好ましい。しかしながら、校正対象のマイクロホンにも前室容積が存在するため、音響校正器の前室の容積は、校正対象のマイクロホンによって変化してしまう。そのため、音響校正器の前室と背室との間に容積差が生じてしまうことがある。こうした容積差が大きいほど、マイクロホンに印加される音圧と音圧計測センサに印加される音圧との差が大きくなってしまう。そのため、音圧計測センサの取付を容易にしつつ、マイクロホンと音圧計測センサとに印加される音圧を同じにする技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する音響校正器は、マイクロホンが差し込まれる差込口と前記差込口が連通する内部空間とを有する筒状のカプラ本体と、前記カプラ本体に対して前記差込口の反対側から連結されて、前記内部空間に連通するセンサ取付口を有するカプラフランジと、前記内部空間の音圧を計測する音圧計測センサであって、前記センサ取付口を通じて前記内部空間に配設されるセンシング部を有する前記音圧計測センサと、前記内部空間に音を出力する発音体と、を備えた音響校正器である。前記カプラ本体は、前記差込口が形成された先端筒部材と、前記カプラフランジが連結される基端筒部材と、を備えるとともに、前記内部空間に連通して前記先端筒部材と前記基端筒部材との連結面に開口する溝状の音導路と、前記音導路に連通し、前記発音体が配設される発音室と、を有する。前記発音体は、前記音導路を通じて前記内部空間に音を出力する。
【0007】
上記構成によれば、カプラを構成するカプラフランジに音圧計測センサが取り付けられるため、音圧計測センサの取付を容易に行うことができる。また、発音体の出力空間、ならびに、音圧計測センサおよびマイクロホンの計測空間が共通するカプラ本体の内部空間となることから、マイクロホンに印加される音圧と音圧計測センサに印加される音圧とを同じにすることができる。
【0008】
上記構成の音響校正器において、前記音導路は、前記カプラ本体の周方向に延びる部分を有することが好ましい。
音導路を設けたことにより、音導路によるインダクタンス成分とカプラ本体の内部空間によるキャパシタンス成分とによってカプラ本体の内部空間にヘルムホルツ共振を発生させることができる。ヘルムホルツ共振の共振周波数は、音導路の断面積や長さで調整することができる。上記構成によれば、音導路がカプラ本体の周方向に延びる部分を有することで音導路の長さについての自由度が高いため、共振周波数が所望の周波数となるように音導路を設計することができる。その結果、発音体の駆動に必要となる電気的な入力信号を小さくすることができる。
【0009】
また、音導路による抵抗成分とカプラ本体の内部空間によるキャパシタンス成分とによってRCローパスフィルタ特性が形成される。そして、音導路の長さについての自由度が高いことで、発音体から発生した高周波歪成分を効果的に抑えることもできる。
【0010】
上記構成の音響校正器において、前記音導路および前記発音室が前記基端筒部材に形成されていることが好ましい。
上記構成によれば、例えば音導路および発音室が先端筒部材に形成されている場合に比べて、先端筒部材の小型化、ひいては、カプラの小型化を図ることができる。また、例えば、音導路が先端筒部材に形成され、かつ、発音室が基端筒部材に形成されている場合には、連結時における先端筒部材と基端筒部材との位置合わせ不良によって、音導路と発音室とが分断されるおそれがある。この点、上記構成によれば、音導路と発音室とが直接的に連通しているため、音導路と発音室とが分断されることがない。
【0011】
上記構成の音響校正器において、前記カプラ本体は、前記音導路の外側に配設されて前記先端筒部材と前記基端筒部材との間の隙間をシールするシール材を備えることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、先端筒部材と基端筒部材との間の隙間がシール材によってシールされるため、該隙間を通じた音漏れを防止することができる。これにより、発音体が出力した音をカプラ本体の内部空間へと効率よく伝達させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】音響校正器の一実施形態の概略構成を示す斜視図である。
図2】カプラの主要部における断面構造を模式的に示す図である。
図3】先端筒部材を示す斜視図である。
図4】基端筒部材を先端面側から見た斜視図である。
図5】基端筒部材を基端面側から見た平面図である。
図6】共振周波数を校正周波数とした場合の周波数と音圧レベルとの関係、および、その場合における周波数と高周波歪成分のゲインとの関係の一例を示すグラフである。
図7】カプラの内部空間に侵入する雑音成分の周波数とその雑音レベルとの関係の一例を示すグラフである。
図8】(a)実施例1におけるベントを示す図であり、(b)実施例2におけるベントを示す図であり、(c)実施例3におけるベントを示す図である。
図9】変形例におけるベントを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1図8を参照して、音響校正器の一実施形態について説明する。
図1に示すように、音響校正器10は、略直方体形状の筐体11を有する。筐体11は、正面壁12aを有する正面部材12と背面壁13aを有する背面部材13とが互いに接続されることにより構成される。筐体11は、正面壁12aの中央部に、カプラ20の先端部が内側から挿通されるカプラ挿通孔14を有する。カプラ20の先端部には、校正対象となるマイクロホンMが差し込まれる差込口21が形成されている。音響校正器10においては、その差込口21に校正対象となるマイクロホンMを差し込んだ状態で所定の操作が行われると発音体62(図2参照)が駆動され、校正周波数(例えば1kHz)および校正音圧(例えば114dB)の音(校正信号)がカプラ20の内部空間に出力される。そして、その校正周波数および校正音圧の音が計測されるようにマイクロホンMの校正が行われる。
【0015】
筐体11の内部には、電子基板15とカプラ20とが配設されている。電子基板15は、筐体11の背面壁13aに沿うように配設されている。電子基板15においては、各種電子機器が電気的に接続されている。電子基板15は、ねじ付きのスタンドオフ18によって筐体11の背面壁13aに取り付けられている。
【0016】
カプラ20は、電子基板15に対して正面壁12a側から対向するように配設されている。カプラ20は、カプラフランジ23とカプラ本体24とを有する。カプラ20は、取付用締結部材25によってカプラフランジ23がスタンドオフ18に連結されることにより、電子基板15との間に所定の隙間が設けられた状態で取り付けられる。カプラ本体24は、マイクロホンMが差し込まれる差込口21が先端部に形成された円筒状の形状を有する。カプラフランジ23は、差込口21の反対側におけるカプラ本体24の開口を覆うように配設されている。カプラフランジ23には、上記所定の隙間を保持するスペーサー19がスペーサー用締結部材26によって連結されている。
【0017】
カプラフランジ23は、フランジ本体27と連結補助板28とで構成されている。フランジ本体27は、中央部分に連結補助板28が収容される収容凹部を有する矩形板状に形成されている。連結補助板28は、矩形板状に形成されている。フランジ本体27および連結補助板28は、金属製の母材に対する機械加工により作製される。フランジ本体27と連結補助板28は、フランジ用締結部材30によって連結補助板28の各隅部において連結されている。カプラ本体24は、連結補助板28を介してフランジ本体27に連結される。
【0018】
図2に示すように、電子基板15には、音圧計測センサ16が取り付けられている。音圧計測センサ16は、カプラ20の内部空間22(カプラ本体24の内部空間)の音圧を計測する。また、電子基板15には、音圧計測センサ16の検出値に基づき、校正周波数および校正音圧の音がカプラ20の内部空間22に出力されるように発音体62を制御する制御回路が搭載されている。
【0019】
カプラフランジ23には、カプラ本体24の開口を覆う部分に、カプラフランジ23を厚さ方向で貫通するセンサ取付口31が形成されている。センサ取付口31には、音圧計測センサ16のセンシング部16Aが挿入される。センサ取付口31に音圧計測センサ16のセンシング部16Aが挿入されることにより、カプラ20の内部空間22の音圧を音圧計測センサ16で計測することが可能となる。センシング部16Aの外周面とセンサ取付口31の内周面との間の隙間は、取付口シール材32によってシールされる。取付口シール材32は、フランジ本体27に形成されたシール用凹部33に配置された状態でフランジ本体27と連結補助板28とが連結されることにより、カプラフランジ23に取り付けられる。
【0020】
電子基板15は、音圧計測センサ16が取り付けられた状態でスタンドオフ18によって筐体11の背面壁13aに取り付けられる。カプラ20は、センサ取付口31に音圧計測センサ16のセンシング部16Aが挿入されるように配置されたのち、取付用締結部材25によってカプラフランジ23がスタンドオフ18に取り付けられる。これにより、カプラ20は、スタンドオフ18を介して筐体11の背面壁13aに取り付けられる。なお、カプラフランジ23において、カプラ本体24に当接する面は、カプラ本体24が連結されるフランジ側連結面23aである。
【0021】
(カプラ本体)
図2図8を参照して、カプラ本体24についてさらに詳しく説明する。なお、以下では、カプラ本体24の中心軸24Aに沿う方向を軸方向、中心軸24Aに直交する方向を径方向、中心軸24A周りの方向を周方向という。また、軸方向におけるカプラフランジ23側を基端側、カプラフランジ23の反対側を先端側という。
【0022】
図2に示すように、カプラ本体24は、先端筒部材41と基端筒部材43とを有している。各部材41,43は、金属製の母材に対する機械加工により作製される。先端筒部材41は、先端側締結部材45によって基端筒部材43に連結される。基端筒部材43は、基端側締結部材46によってカプラフランジ23に連結される。
【0023】
(先端筒部材)
図2および図3に示すように、先端筒部材41は、マイクロホンMの差込口21が形成された部材である。先端筒部材41の基端面41bは、基端筒部材43に連結される連結面である。先端筒部材41は、一体的に連結された小径の先端筒本体51と大径のフランジ部52とを有する。
【0024】
先端筒本体51の先端部は、カプラ挿通孔14を通じて筐体11の外部に配設される。先端筒本体51は、先端における外周部が面取りされている。先端筒本体51は、断面円形状の差込口21と差込口21に差し込まれたマイクロホンMを係止する係止部53とを有する。また、先端筒本体51は、係止部53よりも先端側に、差込口21の内周面から径方向外側へ凹設されたシール用溝部54を有する。シール用溝部54には、差込口シール材55が配設される。差込口シール材55は、差込口21にマイクロホンMが差し込まれた状態において、マイクロホンMの外周面と差込口21の内周面との間の隙間をシールする。なお、図3においては、差込口シール材55を省略して先端筒部材41を示している。
【0025】
フランジ部52は、先端筒本体51の基端部から径方向外側に延びている。フランジ部52は、先端側締結部材45が配設される先端連結孔56を有する。先端連結孔56は、周方向において所定の間隔で形成されているとともに軸方向でフランジ部52を貫通している。先端連結孔56は、先端側締結部材45の頭部が収容される頭部収容部を有している。フランジ部52は、先端連結孔56の開口部分が覆い隠されるように、筐体11の正面壁12aにおけるカプラ挿通孔14の周辺部に対して筐体11の内側から対向配置される。
【0026】
(基端筒部材)
図2に示すように、基端筒部材43は、カプラフランジ23と先端筒部材41との間に配設される部材である。基端筒部材43は、先端筒部材41のフランジ部52と略等しい内径、および、フランジ部52と略等しい外径を有する。基端筒部材43の先端面43aは先端筒部材41に連結される連結面であり、基端筒部材43の基端面43bはカプラフランジ23に連結される連結面である。
【0027】
基端筒部材43は、発音室61を有する。発音室61は、カプラ20の内部空間22に音を出力する発音体62が配設される空間である。発音室61は、基端面43bに開口を有し、基端面43bから先端面43aに向かって軸方向に延びる溝型の空間である。発音体62は、カプラフランジ23に基端筒部材43が連結された状態でフランジ本体27の本体通孔63と連結補助板28の補助板通孔64とを通じて発音室61に配設されたのち、発音室61が密閉されるように通孔63,64に流し込んだ接着剤が硬化することにより、その位置が固定される。
【0028】
基端筒部材43は、音導路65を有する。音導路65は、発音体62が出力した音をカプラ20の内部空間22へと導く通路である。音導路65は、第1音導部66と第2音導部67とで構成されている。
【0029】
図4に示すように、第1音導部66は、先端面43aに凹設された溝型通路である。第1音導部66は、第2音導部67との接続部分からカプラ20の内部空間22の周りを周方向に延びたのち、径方向内側へと屈曲して基端筒部材43の内周面に開口している。第1音導部66は、先端筒部材41と基端筒部材43とが連結されることにより、先端面43aに対する開口が先端筒部材41の基端面41bによって閉塞される。第2音導部67は、発音室61から先端面43aに向かって軸方向に延びている。第2音導部67は、発音室61と第1音導部66とを連通させる貫通通路である。第2音導部67には、発音体62の出力口62aが配設される。こうした音導路65の設計方法については後述する。
【0030】
基端筒部材43は、先端面43aに凹設された環状溝71を有する。環状溝71は、音導路65よりも径方向外側を周方向に延びている。環状溝71には、シール材72が配設される。シール材72は、先端筒部材41の基端面41bと基端筒部材43の先端面43aとの間の隙間をシールする。なお、図4では、シール材72を省略して基端筒部材43を示している。
【0031】
基端筒部材43は、先端側締結孔73を有する。先端側締結孔73は、環状溝71よりも径方向外側に形成されている。先端側締結孔73は、先端連結孔56に連通するように周方向において所定の間隔で形成されている。先端側締結孔73には、先端連結孔56を通じて先端側締結部材45が締結される。
【0032】
図2に示すように、基端筒部材43は、基端側締結孔74を有する。基端側締結孔74は、環状溝71よりも径方向外側に形成されている。基端側締結孔74は、周方向において所定の間隔で形成されている。基端側締結孔74には、フランジ本体27の本体連結孔75と連結補助板28の補助板連結孔76とを通じて基端側締結部材46が締結される。
【0033】
基端筒部材43は、保護グリッド81を有する。保護グリッド81は、例えば、差込口21を通じてカプラ20の内部空間22に混入した異物から音圧計測センサ16のセンシング部16Aを保護する。
【0034】
基端筒部材43は、溝状のベント90を有する。ベント90は、基端面43bに凹設されている。ベント90は、基端筒部材43の内周面と外周面とに開口している。ベント90は、差込口21に対するマイクロホンMの差し込み時に、カプラ20の内部空間22における圧力の上昇分を外部空間へと逃がす通路である。ベント90は、カプラフランジ23と基端筒部材43とが連結されることにより、基端面43bに対する開口がカプラフランジ23のフランジ側連結面23aによって閉塞される。
【0035】
図5に示すように、ベント90は、内側溝部91、外側溝部92、および、接続溝部93を有する。内側溝部91は、基端筒部材43の内周面に開口している。内側溝部91は、内周面に対する開口部分から径方向外側に向かって延びている。外側溝部92は、基端筒部材43の外周面に開口している。外側溝部92は、外周面に対する開口部分から径方向内側に向かって延びている。内側溝部91と外側溝部92は、周方向において異なる位置に形成されている。接続溝部93は、発音室61に干渉しないように、内側溝部91の外側端部と外側溝部92の内側端部とを接続している。接続溝部93は、径方向において基端筒部材43の内周面よりも基端側締結孔74に近い位置を周方向に延びている。接続溝部93は、内側溝部91と外側溝部92とがなす角度のうちの優角側において内側溝部91と外側溝部92とを接続していることが好ましい。こうしたベント90の設計方法については後述する。
【0036】
(音導路の設計方法)
カプラ20においては、校正周波数および校正音圧の音を発音体62が発生させたとき、発音体62の機械的特性により高周波歪成分が発生する。この高周波歪成分は発音体62の持つ周波数特性によって音響的に増幅されるため、発音体62が発する校正信号に影響を与えるおそれがある。
【0037】
一方、カプラ20においては、音導路65によるインダクタンス成分とカプラ20の内部空間22によるキャパシタンス成分とによってヘルムホルツ共振が発生する。インダクタンス成分は式(1)、キャパシタンス成分は式(2)、ヘルムホルツ共振の共振周波数fは式(3)のように示される。こうした式(1)~(3)に基づき、共振周波数fが校正周波数となるように音導路65の長さおよび断面積を決定する。すなわち、カプラ20における音響的な増幅を利用して共振周波数fが校正周波数となるように音導路65の長さおよび断面積を決定する。
【0038】
【数1】
【0039】
【数2】
【0040】
【数3】
【0041】
また、カプラ20においては、音導路65による抵抗成分とカプラ20の内部空間22によるキャパシタンス成分とによってRCローパスフィルタに相当する特性が形成される。ある管における音響抵抗Rは、式(4)のように示される。式(4)に基づき、高周波歪成分が効果的に低減するRCローパスフィルタ特性が形成されるように音導路65の断面積を決定する。
【0042】
【数4】
【0043】
本発明者らは、共振周波数fを校正周波数とした場合についての実験やシミュレーションを行った。図6は、その結果の一例を示すグラフである。具体的には、共振周波数fを校正周波数である1kHzとした場合の周波数と音圧レベルとの関係、および、その場合における周波数と高周波歪成分のゲインとの関係を示すグラフである。なお、図6において、中線は発音体62から出力される音響信号の周波数特性、細線は発音体62から出力される1kHzの信号とその歪成分のゲインを示している。また、実線は上述した設計方法によって音導路65を形成した場合を示し、点線は音導路65を経由せず、発音室61から直接内部空間22へ信号を出力した場合を示している。
【0044】
図6に示すように、音導路65の長さや断面積を式(1)~(4)に基づいて設計することにより、発音体62のピーク周波数を校正周波数へとシフトさせることができる。これにより、発音体62の駆動に必要となる電気信号を小さくすることができるとともに電気信号が小さくなることで高周波歪成分を抑えることもできる。また、音導路65がRCローパスフィルタとして機能していることで高周波歪成分を効果的に減衰させることもできる。
【0045】
(ベントの設計方法)
カプラ20においては、ベント90を通じて内部空間22へ外部空間の雑音成分が侵入することが懸念される。一方、細管を通る気体には、Hagen Poiseuilleの法則により8ηl/πr^4(ηは空気の粘性率)の抵抗成分が生じる。そして、インダクタンス成分(式(1)参照)は1/r^2、抵抗成分は1/r^4に比例するため、細管が細くなるほど抵抗成分が支配的となる。また、抵抗成分およびインダクタンス成分は、細管の長さが長くなるほど大きくなる。こうしたことに基づき、ベント90は、カプラ20の内部空間22に侵入する雑音成分がより低減されるように、できるだけ長く形成されることが好ましい。
【0046】
また、カプラ20においては、ベント90による抵抗成分とカプラ20の内部空間22によるキャパシタンス成分(式(2)参照)とによってRCローパスフィルタに相当する特性が形成される。こうしたRCローパスフィルタの特性に基づき、ベント90を通じてカプラ20の内部空間22に侵入する雑音成分の通過帯域が決定される。ベント90は、雑音成分の通過帯域が所望の周波数となるように形成される。
【0047】
本発明者らは、ベント90とカプラ20の内部空間22に侵入する雑音レベルとの関係に関する実験やシミュレーションを行った。図7は、その結果の一例を示すグラフである。具体的には、カプラの内部空間に侵入する雑音成分の周波数とその雑音レベルとの関係を示すグラフである。図7において、比較例は、基端筒部材43の内周面と外周面とを径方向に沿って直線状に延びるベントで連通させた場合の結果であり、細い実線で示されている。
【0048】
図8に各種の実施例を示す。実施例1は、図8(a)に示すように接続溝部93の中心角が270°である場合の結果であり、図7において太い実線で示されている。実施例2は、図8(b)に示すように接続溝部93の中心角が180°である場合の結果であり、図7において一点鎖線で示されている。実施例3は、図8(c)に示すように接続溝部93の中心角が90°である場合の結果であり、図7において点線で示されている。
【0049】
図7に示すように、内側溝部91と外側溝部92とを接続溝部93で接続する場合、接続溝部93の中心角が大きいほど、すなわち接続溝部93が長いほど各周波数における雑音レベルが小さくなることが確認された。
【0050】
本実施形態の作用および効果について説明する。
(1)音響校正器10においては、カプラ20のカプラフランジ23に形成されたセンサ取付口31に音圧計測センサ16が取り付けられるため、音圧計測センサ16の取付を容易に行うことができる。また、発音体62の出力空間、ならびに、音圧計測センサ16およびマイクロホンMの計測空間がカプラ20の内部空間22で共通していることから、マイクロホンMに印加される音圧と音圧計測センサ16に印加される音圧とを同じにすることができる。
【0051】
(2)カプラ20においては、音導路65によるインダクタンス成分とカプラ20の内部空間22によるキャパシタンス成分とによってカプラ20の内部空間22にヘルムホルツ共振を発生させることができる。ヘルムホルツ共振の共振周波数fは、音導路65の断面積や長さで調整することができる。
【0052】
そして、音導路65が周方向に延びる部分を有することにより、音導路65の長さについての自由度が高いため、共振周波数fが所望の周波数となるように音導路65を設計することができる。その結果、発音体62の駆動に必要となる電気的な入力信号を小さくすることができる。
【0053】
また、音導路65による抵抗成分とカプラ20の内部空間22によるキャパシタンス成分とによってRCローパスフィルタ特性が形成される。そして、音導路65の長さについての自由度が高いため、発音体62から発生した高周波歪成分を効果的に抑えられるように音導路65を設計することができる。
【0054】
(3)音導路65および発音室61が基端筒部材43に形成されていることから、例えば音導路65および発音室61が先端筒部材41に形成されている場合に比べて、先端筒部材41の小型化、ひいては、カプラ20の小型化を図ることができる。
【0055】
また、例えば、音導路65が先端筒部材41に形成され、かつ、発音室61が基端筒部材43に形成されている場合には、連結時における先端筒部材41と基端筒部材43との位置合わせ不良によって、音導路65と発音室61とが分断されるおそれがある。この点、音導路65および発音室61が基端筒部材43に形成されていることで、音導路65と発音室61とを同じ部材において直接的に連通させることができる。これにより、位置合わせ不良によって音導路65と発音室61とが分断されることを防止できる。
【0056】
(4)カプラ20においては、音導路65の外側に開口する環状溝71にシール材72が配設されている。これにより、先端筒部材41と基端筒部材43との間の隙間を通じた音漏れを防止することができる。その結果、発音体62が出力した音をカプラ20の内部空間22へと効率よく伝達させることができる。
【0057】
(5)カプラ20は、内部空間22を外部空間に連通させるベント90を有する。ベント90は、基端筒部材43とカプラフランジ23との連結面に開口して周方向に延びる接続溝部93を有する。こうした構成によれば、径方向に直線状に延びるベントに比べて、ベントの長さや経路についての自由度を高めることができる。
【0058】
また、ベント90による抵抗成分とカプラ20の内部空間22によるキャパシタンス成分とによってRCローパスフィルタ特性が形成される。そして、ベント90の長さや経路についての自由度が高いことで上記RCローパスフィルタ特性を調整することができる。その結果、ベント90を通じてカプラ20の内部空間22に侵入する雑音成分を低減させることができる。
【0059】
(6)ベント90は、径方向に延びる内側溝部91、径方向に延びる外側溝部92、および、これらを接続して周方向に延びる接続溝部93を有している。このように中心軸24Aを基準として規定される方向に各種溝部が延びていることにより、ベント90を形成するための機械加工を容易に行うことができる。
【0060】
(7)接続溝部93は、径方向において内部空間22の内周面よりも基端側締結孔74に近い位置に形成されている。これにより、周方向における単位角度あたりの接続溝部93の長さを大きくすることができる。その結果、より長いベント90を形成することができる。
【0061】
(8)接続溝部93は、周方向で外側溝部92と内側溝部91とがなす角度のうちの優角側において外側溝部92と内側溝部91とを接続している。これにより、外側溝部92と内側溝部91とを接続するうえで接続溝部93の長さをより長くすることができる。
【0062】
(9)ベント90が基端筒部材43に形成されている。これにより、例えば外側溝部92が基端筒部材43の基端面43bに凹設され、かつ、内側溝部91および接続溝部93がカプラフランジ23のフランジ側連結面23aに凹設される場合に比べて、ベント90を形成するうえでの機械加工の工数を少なくすることができる。
【0063】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態において、カプラフランジ23は、フランジ本体27と連結補助板28とによって構成されている。これに限らず、カプラフランジ23は、フランジ本体27と連結補助板28とが一体化している構成であってもよい。
【0064】
・上記実施形態において、カプラ20は、音導路65の外側に開口する環状溝71に配設されて、先端筒部材41と基端筒部材43との間をシールするシール材72を有している。この環状溝71は、先端筒部材41の基端面41bに開口する構成であってもよい。なお、音響校正器10において、環状溝71およびシール材72は必須の構成ではない。
【0065】
・上記実施形態において、音導路65および発音室61は、基端筒部材43に形成されている。これに限らず、例えば、音導路65が基端筒部材43に形成され、かつ、発音室61が先端筒部材41に形成される構成であってもよい。また例えば、音導路65が先端筒部材41に形成され、かつ、発音室61が基端筒部材43に形成される構成であってもよい。
【0066】
・上記実施形態において、音導路65の第1音導部66は、周方向に延びる部分を有する。これに限らず、第1音導部66は、上述した設計方法に基づいて、直線状に延びる構成であってもよいし、徐々に内周面に近づくように周方向に延びる構成であってもよい。
【0067】
・上記実施形態において、ベント90は、カプラフランジ23に対する基端筒部材43の連結面である基端面43bに凹設されている。これに限らず、ベント90は、カプラフランジ23と基端筒部材43との連結面に開口していればよく、カプラフランジ23のフランジ側連結面23aに凹設されていてもよい。また、ベント90は、一部が基端筒部材43の基端面43bに凹設され、他部がカプラフランジ23のフランジ側連結面23aに凹設されている構成であってもよい。
【0068】
・上記実施形態において、接続溝部93は、径方向においてカプラ20の内周面よりも基端側締結孔74に近い位置に形成されている。これに限らず、接続溝部93は、径方向において、カプラ20の内周面と基端側締結孔74との中間位置に形成されていてもよいし、基端側締結孔74よりもカプラ20の内周面に近い位置に形成されていてもよい。
【0069】
・上記実施形態において、ベント90は、内側溝部91、外側溝部92、および、接続溝部93で構成されている。これに限らず、ベント90は、図9に示すように、発音室61や基端側締結孔74との干渉を回避しつつ、カプラ20の内部空間22とカプラ20の外部空間とを接続する渦巻状に構成されていてもよい。
【0070】
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(付記1)
音響校正器は、前記カプラ本体の内部空間と前記カプラ本体の外部空間とを連通させるとともに前記カプラフランジと前記基端筒部材との連結面に開口し、前記カプラ本体の周方向に延びる部分を有する溝状のベントを有する。
【0071】
上記構成によれば、カプラ本体の径方向に延びるベントに比べてベントの長さや経路についての自由度が高くなる。また、ベントによる抵抗成分とカプラ本体の内部空間によるキャパシタンス成分とによってRCローパスフィルタ特性が形成される。そして、ベントの長さや経路についての自由度が高いことで上記RCローパスフィルタ特性を調整することができる。その結果、ベントを通じてカプラ本体の内部空間に侵入する雑音成分を低減させることができる。
【0072】
(付記2)
前記ベントは、前記カプラ本体の径方向に延びて前記カプラ本体の外部空間に連通する外側溝部と、前記カプラ本体の周方向において前記外側溝部とは異なる位置に形成され、前記カプラ本体の径方向に延びて前記カプラ本体の内部空間に連通する内側溝部と、前記外側溝部の内側端部と前記内側溝部の外側端部とを接続して前記カプラ本体の周方向に延びる接続溝部と、を有する。この構成によれば、カプラ本体の中心軸を基準として規定される方向に各種溝部が延びていることにより、ベントを形成するための機械加工を容易に行うことができる。
【0073】
(付記3)
前記基端筒部材は、前記カプラ本体の軸方向に延びて前記カプラフランジと前記基端筒部材とを連結する基端側締結部材が締結される基端側締結孔を有し、前記接続溝部は、前記カプラ本体の径方向において前記内部空間の周面よりも前記基端側締結孔に近い位置に形成されていることが好ましい。
【0074】
上記構成によれば、内部空間の周面に対する遠い位置に接続溝部が配設されるため、カプラ本体の周方向における単位角度あたりのベント長さを大きくすることができる。その結果、より長いベントを形成することができる。
【0075】
(付記4)
前記接続溝部は、前記カプラの周方向で前記外側溝部と前記内側溝部とがなす角度のうちの優角側において前記外側溝部と前記内側溝部とを接続している。この構成によれば、外側溝部と内側溝部とを接続するうえで接続溝部の長さをより長くすることができる。
【0076】
(付記5)
前記ベントが、前記基端筒部材に形成されている。
上記構成によれば、例えば外側溝部が基端筒部材に形成され、かつ、内側溝部および接続溝部がカプラフランジに形成される場合に比べて、ベントを形成するうえでの機械加工の工数を少なくすることができる。
【符号の説明】
【0077】
M…マイクロホン、10…音響校正器、11…筐体、12…正面部材、12a…正面壁、13…背面部材、13a…背面壁、14…カプラ挿通孔、15…電子基板、16…音圧計測センサ、16A…センシング部、18…スタンドオフ、19…スペーサー、20…カプラ、21…差込口、22…内部空間、23…カプラフランジ、23a…フランジ側連結面、24…カプラ本体、24A…中心軸、25…取付用締結部材、26…スペーサー用締結部材、27…フランジ本体、28…連結補助板、30…フランジ用締結部材、31…センサ取付口、32…取付口シール材、33…シール用凹部、41…先端筒部材、41b…基端面、43…基端筒部材、43a…先端面、43b…基端面、45…先端側締結部材、46…基端側締結部材、51…先端筒本体、52…フランジ部、53…係止部、54…シール用溝部、55…差込口シール材、56…先端連結孔、61…発音室、62…発音体、62a…出力口、63…本体通孔、64…補助板通孔、65…音導路、66…第1音導部、67…第2音導部、71…環状溝、72…シール材、73…先端側締結孔、74…基端側締結孔、75…本体連結孔、76…補助板連結孔、81…保護グリッド、90…ベント、91…内側溝部、92…外側溝部、93…接続溝部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9