(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057941
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】ミトコンドリア活性向上用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20240418BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240418BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240418BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20240418BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240418BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240418BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20240418BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240418BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240418BHJP
A61K 31/216 20060101ALI20240418BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20240418BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240418BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240418BHJP
A61K 127/00 20060101ALN20240418BHJP
A61K 135/00 20060101ALN20240418BHJP
【FI】
A23L33/10
A61P3/00
A61P43/00 111
A61P3/06
A61P3/10
A61P1/16
A61P9/12
A61P21/00
A61P3/04
A61K31/216
A61K36/899
A23L33/105
A61P25/00
A61K127:00
A61K135:00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164945
(22)【出願日】2022-10-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】000111133
【氏名又は名称】ニッポー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】礒田 博子
(72)【発明者】
【氏名】新井 義信
(72)【発明者】
【氏名】岩田 健吾
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD08
4B018MD09
4B018MD48
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF06
4C088AB73
4C088AC05
4C088BA09
4C088BA10
4C088BA32
4C088CA04
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA42
4C088ZA75
4C088ZA94
4C088ZC21
4C088ZC33
4C088ZC35
4C206AA01
4C206AA02
4C206DB20
4C206DB56
4C206KA01
4C206KA18
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA01
4C206ZA42
4C206ZA75
4C206ZA94
4C206ZC21
4C206ZC33
4C206ZC35
4C206ZC41
(57)【要約】
【課題】ミトコンドリア活性化等に有効な天然物に由来する新規素材を提供する。
【解決手段】クロロゲン酸類のいずれかを含む、ミトコンドリア活性向上用の、食品組成物又は医薬組成物を提供する。クロロゲン酸類は、3-o-カフェオイルキナ酸、5-o-カフェオイルキナ酸、及びイソオリエンチン、からなる群から選択されるいずれかであることが好ましい。本発明の組成物は、アレキサンダー病を含む、アストロサイトの形態的成熟不全を特徴とする疾患;加齢に伴う糖及び脂質代謝の低下を含む、非疾患性の代謝障害;糖尿病、高血圧、脂質異常症、脂肪肝、メタボリックシンドローム、肥満症を含む、代謝性疾患;及び加齢又は前記代謝障害に起因する筋肉減少症(サルコペニア)からなる群より選択されるいずれかの処置のために有用である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式で表されるクロロゲン酸類
【化1】
(式中、R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に、H、カフェオイル基、又はフェルロイル基である。)、並びにルテオリン及びその配糖体からなる群より選択される有効成分を含む、ミトコンドリア活性向上用の、食品組成物又は医薬組成物。
【請求項2】
有効成分が、3-o-カフェオイルキナ酸、5-o-カフェオイルキナ酸、及びイソオリエンチンからなる群から選択されるいずれかである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
有効成分が、サトウキビ梢頭部抽出物として含まれる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1に定義された有効成分を含む、ミトコンドリア活性の向上、又はPGC-1αの発現の促進を介して改善し得る疾患又は状態の処置のための、食品組成物又は医薬組成物。
【請求項5】
有効成分が、サトウキビ梢頭部抽出物として含まれる、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1に定義された有効成分を含む、加齢に伴う糖及び脂質代謝の低下を含む、非疾患性の代謝障害;糖尿病、高血圧、脂質異常症、脂肪肝、メタボリックシンドローム、肥満症を含む、代謝性疾患;及び加齢又は前記代謝障害に起因する筋肉減少症(サルコペニア);並びに筋肉量又は筋力の維持・向上、筋持久力の維持・向上、歩行能力の維持・向上;及びアレキサンダー病を含む、アストロサイトの形態的成熟不全を特徴とする疾患からなる群より選択されるいずれかのための、食品組成物又は医薬組成物。
【請求項7】
有効成分が、サトウキビ梢頭部抽出物として含まれる、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
以下の工程を含む、3-o-カフェオイルキナ酸、5-o-カフェオイルキナ酸、及びイソオリエンチンからなる群より選択されるいずれかを含む、ミトコンドリアの活性向上用の食品素材又は医薬素材の製造方法:
サトウキビ梢頭部から、水系溶媒を用い、3-o-カフェオイルキナ酸、5-o-カフェオイルキナ酸、及びイソオリエンチンからなる群より選択されるいずれかを含む画分を得る工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サトウキビ梢頭部に由来する有効成分を含む、ミトコンドリア活性向上用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアはエネルギー代謝の中心的役割を担っており、その活性は脳や肝、筋肉などエネルギー需要の高い組織の活動において、必須の役割を果たしている。このことから、ミトコンドリアの活性低下は、生活習慣病や老化関連疾患等の発症の原因となる。
【0003】
ミトコンドリアの活性は、核内転写因子による代謝酵素遺伝子発現の制御に依存的であることが知られている。エネルギー代謝制御因子として、核内受容体コアクチベーターであるPGC-1α(ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターγ共役因子-1α、peroxisome proliferator activated receptor γ coactivator-1α)があり、エネルギー代謝の亢進を担うミトコンドリアに対する重要なターゲットとされている(非特許文献1)。
【0004】
骨格筋は、その活動においてPGC-1α及びミトコンドリアエネルギー代謝が重要である生体内組織の一つである。負荷運動に適応する際に、筋細胞においてはPGC-1αの発現増加を介してミトコンドリアが活性化することで、収縮などの活動エネルギー源となるATPの産生が向上する。また、ATP産生に必要なグルコースを細胞外から取り入れるために、グルコースの輸送担体であるGLUT4(glucose transporter 4)の細胞表面への移行が促進され、血液中のグルコースの細胞内への取り込みが促進されることが知られている。また寒冷環境下においても骨格筋でのPGC-1αが増加し、そのため、熱産生の制御にも関わることが知られている。このように、ミトコンドリアの活性化によって、エネルギー消費が活性化し、さらにはエネルギー源となる糖や脂質の代謝が活性化する(非特許文献2)。
【0005】
ミトコンドリアの活性は、肝臓における代謝においても重要である。肝細胞代謝の乱れは、細胞への脂質の蓄積を誘発するが、これは、ミトコンドリアによるβ酸化を介した長鎖脂肪酸の異化反応の低下が原因とされている。肝細胞におけるPGC-1αの発現増加は、ミトコンドリアのβ酸化の律速酵素であるCPT1(Carnitine palmitoyltransferase I)レベルを上昇させ、ミトコンドリアの脂肪酸酸化を促進し、脂質の蓄積を減少させる(非特許文献3)。
【0006】
また、脳内神経細胞におけるミトコンドリア生合成やエネルギー産生の研究より、PGC-1α発現が神経機能に密接に関わっていることが明らかになってきている。例えば、PGC-1αをノックアウトされたマウスでは、神経変性疾患様の神経細胞の変性及び減少が観察されている(非特許文献4)。さらに最近、脳内アストロサイトの形態的成熟において、PGC-1αの活性化と、それに伴うミトコンドリアの生合成及び酸化的代謝へのシフトが、決定的に重要であることが示唆されている (非特許文献5)。
【0007】
上記のように、PGC-1αの発現促進及びミトコンドリアの活性向上は、生体におけるエネルギー代謝の向上に対し有効性が高いことが予測されることから、例えば、ベンゾイミダゾール誘導体を有効成分とするミトコンドリア機能活性化剤(特許文献1)、カテキン類を有効成分とするミトコンドリア機能低下抑制剤(特許文献2)、スフィンゴミエリンを有効成分とするミトコンドリア機能向上剤(特許文献3)、などが、PGC-1α発現促進に関連する先行技術として知られている。また、ヘリピロンAを有効成分とするPGC-1α産生促進による神経伝達改善剤(特許文献4)が知られている。特許文献1では、hPGC-1を安定的に発現するL6筋芽細胞、hPGC1/L6細胞の培養系に目的の化合物を添加したところ、hPGC-1の転写活性化作用が確認され、またPGC-1発現が増加するとその下流でhuman mitochondrial transcription factor A(hmtTFA)遺伝子の転写が促進されるが、hmtTFAのプロモーターレポーターベクター、hmtTFALucを安定的に発現する細胞株、hmtTFA/L6細胞の培養系に目的の化合物を添加したところ、hmtTFA転写活性化作用が確認されたことが記載されている。特許文献2では、カテキンを含む飼料と運動を併用したSAM-P1雄性マウス(老化促進モデルマウス)の群において、老化に伴う電子伝達系やミトコンドリアの分化・増殖に関与するCOX2~4及びHSP72遺伝子の発現が対照群と比較して有意に高かったことが記載されている。特許文献3では、スフィンゴミエリンを含有する試験食を摂取したマウスでは、対照食群と比較して、PGC-1α遺伝子発現が腓腹筋において有意に高かったこと、及びスフィンゴミエリンを含有する試験食を摂取したマウスでは、対照食群と比較して、酸素消費量及び脂質燃焼量が有意に多かったことが記載されている。特許文献4では、ラット胎仔から得た初代神経細胞において、ヘリピロンAの添加により神経細胞におけるPGC1αの遺伝子発現量の増加が確認されたことが記載されている。
【0008】
本発明者らは、サトウキビ梢頭部から、3-o-カフェオイルキナ酸(以下、3CQA)と、5-o-カフェオイルキナ酸(以下、5CQA)と、3-o-フェルロイルキナ酸(以下、3FQA)と、イソオリエンチン(以下、ISO)とを含む組成物を得る方法を発明し、さらにこの組成物による、神経細胞におけるATPの産生促進及びアストロサイトの発達促進効果を見出している(特許文献5、非特許文献6)。
【0009】
3CQA及び5CQAについては、脂質代謝を活性化し、特に、肥満の予防・改善、血糖上昇抑制あるいは血糖低下、高レプチン血症予防・改善、高インスリン血症予防・改善効果を有することが知られている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004-67629号公報
【特許文献2】HYPERLINK "javascript:void(0)" 特開2008-63318号公報
【特許文献3】特開2011-157328号公報
【特許文献4】特開2017-43566号公報
【特許文献5】国際公開WO2021/167012
【特許文献6】HYPERLINK "javascript:void(0)" 特開2003-034636号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Wu et al., Cell 1999, 98, 115-124
【非特許文献2】Puigsever et al., Cell 1998, 92, 829-839
【非特許文献3】Kim et al., Nutr Metab(Lond) 2015, 12, 33
【非特許文献4】Sun et al., Neuroscience 2020, 440, 39-47
【非特許文献5】Zehnder et al., Cell Reports 2021, 35, 108952
【非特許文献6】Iwata et al., Front Cell Dev Biol 2020, 8, 573487
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一方で、現在のところ、サトウキビ梢頭部に由来する有効成分を用いた、ミトコンドリア活性化剤あるいはPGC-1α発現促進剤は提供されていない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下を提供する。
[1] 下式で表されるクロロゲン酸類
【化1】
(式中、R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に、H、カフェオイル基、又はフェルロイル基である。)、並びにルテオリン及びその配糖体からなる群より選択される有効成分を含む、ミトコンドリア活性向上用の、食品組成物又は医薬組成物。
[2] 有効成分が、3-o-カフェオイルキナ酸、5-o-カフェオイルキナ酸、及びイソオリエンチンからなる群から選択されるいずれかである、1に記載の組成物。
[3] 有効成分が、サトウキビ梢頭部抽出物として含まれる、1又は2に記載の組成物。
[4] 1に定義された有効成分を含む、ミトコンドリア活性の向上、又はPGC-1αの発現の促進を介して改善し得る疾患又は状態の処置のための、食品組成物又は医薬組成物。
[5] 有効成分が、サトウキビ梢頭部抽出物として含まれる、請求項4に記載の組成物。
[6] 1に定義された有効成分を含む、加齢に伴う糖及び脂質代謝の低下を含む、非疾患性の代謝障害;糖尿病、高血圧、脂質異常症、脂肪肝、メタボリックシンドローム、肥満症を含む、代謝性疾患;及び加齢又は前記代謝障害に起因する筋肉減少症(サルコペニア);並びに筋肉量又は筋力の維持・向上、筋持久力の維持・向上、歩行能力の維持・向上;及びアレキサンダー病を含む、アストロサイトの形態的成熟不全を特徴とする疾患からなる群より選択されるいずれかのための、食品組成物又は医薬組成物。
[7] 有効成分が、サトウキビ梢頭部抽出物として含まれる、6に記載の組成物。
[8] 以下の工程を含む、3-o-カフェオイルキナ酸、5-o-カフェオイルキナ酸、及びイソオリエンチンからなる群より選択されるいずれかを含む、ミトコンドリアの活性向上用の食品素材又は医薬素材の製造方法:
サトウキビ梢頭部から、水系溶媒を用い、3-o-カフェオイルキナ酸、5-o-カフェオイルキナ酸、及びイソオリエンチンからなる群より選択されるいずれかを含む画分を得る工程。
【発明の効果】
【0014】
天然物に由来する有効成分を用いて、ミトコンドリアの活性を向上するための組成物、PGC-1αの発現を促進するための組成物、及びミトコンドリア活性の向上、又はPGC-1αの発現の促進を介して改善し得る疾患又は状態の処置のための組成物が提供できる。
【0015】
天然物に由来する有効成分を用いて、加齢に伴う糖及び脂質代謝の低下を含む、非疾患性の代謝障害;糖尿病、高血圧、脂質異常症、脂肪肝、メタボリックシンドローム、肥満症を含む、代謝性疾患の処置のための組成物が提供できる。
【0016】
天然物に由来する有効成分を用いて、筋肉量又は筋力の維持・向上、筋持久力の維持・向上、及び歩行能力の維持・向上改善からなる群より選択されるいずれかのための組成物が提供できる。
【0017】
天然物に由来する有効成分を用いて、アレキサンダー病を含む、アストロサイトの形態的成熟不全を特徴とする疾患の処置のための組成物が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】神経幹細胞由来アストロサイトにおけるミトコンドリア活性 上:24 hrs処理 (3)3CQA + 5CQA及び(5)5CQA + ISO処理において有意な上昇(*p value < 0.05) 中:48 hrs処理 (8)3CQA+5CQA+ISO及び4種混合 (All mixed)処理において上昇傾向 (p value < 0.1) 下:72 hrs処理 (5)5CQA + ISO、4種混合 (All mixed)及び梢頭部エキス(STEE) 処理において有意な上昇 (*p value < 0.05)、(10)5CQA+3FQA+ISO 処理において上昇傾向(p value < 0.1)
【
図2】神経幹細胞由来アストロサイトにおけるPGC-1α発現 *p < 0.05、****p < 0.0001 Compared to Control cells (5)5CQA + ISO、(8)3CQA + 5CQA + ISO、4種混合 (All mixed)、及び梢頭部エキス(STEE) において、PGC-1α発現の大きな増加 (p<0.0001)が確認された。
【
図3】筋管細胞におけるミトコンドリア活性 *p < 0.05 Compared to Control cells 処理群(3)、(8)、All mixed、及びSTEEでは、Rh123蛍光強度が有意に増強された。また処理群(5)では蛍光強度が上昇傾向にあった。
【
図4】筋管細胞におけるPGC-1α mRNA及びTFAM mRNA発現 *p < 0.05、***p < 0.001 Compared to Control cells PGC-1α mRNA発現量は、50μg/mLのSTEEを6時間処理することにより、有意に上昇した(p < 0.05、約1.4倍)。また、化合物混合物(Mix)を6時間処理することにより、有意に上昇し(p < 0.05、約1.4倍)、同試料の24時間処理後においても、発現量は有意に上昇した(p < 0.05、約1.5倍)。TFAM mRNA発現量は、50μg/mLのSTEEを6時間処理することにより、増加傾向を示し(p = 0.082、約1.25倍)、同試料の24時間処理後においても、発現量は有意に上昇した(p < 0.05、約1.5倍)。また、TFAM mRNA発現量は、Mixを6時間処理することにより、有意に上昇し(p < 0.05、約1.25倍)、同試料の24時間処理後においても、発現量は有意に上昇した(p < 0.001、約1.75倍)。
【
図5】肝細胞におけるミトコンドリア活性 統計的に有意ではないものの、6時間の処理において、STEEでは、Rh123蛍光強度が約120%の上昇を示し、また、24時間の処理において、処理群(7)、(8)、及びSTEEでは、Rh123蛍光強度がそれぞれ約120%の上昇を示した。
【
図6】肝細胞におけるPGC-1α mRNA及びTFAM mRNA発現 *p < 0.05、**p < 0. 01 Compared to Control cells PGC-1α mRNA発現量は、30μg/mL 及び50μg/mLのSTEEを24時間処理することにより、有意に上昇し(p < 0.01、それぞれ約1.4倍)、また化合物混合物(Mix)を24時間処理することにより、有意に上昇した(p < 0.01、約1.4倍)。TFAM mRNA発現量は、30μg/mL 及び50μg/mLのSTEEを24時間処理することにより、有意に上昇し(p < 0.05、それぞれ約1.2倍)、またMixを24時間処理することにより、有意に上昇した(p < 0.05、約1.2倍)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、クロロゲン酸類、並びにルテオリン及びその配糖体からなる群より選択される有効成分を含む、食品組成物又は医薬組成物に関する。
【0020】
[有効成分、機能性成分]
本発明の組成物は、有効成分として、クロロゲン酸類、並びにルテオリン及びその配糖体からなる群より選択されるいずれかを含む。有効成分は、機能性成分、又は機能性関与成分ということもある。
【0021】
<クロロゲン酸類>
本発明に関し、クロロゲン酸類とは、下式で表される化合物をいう。
【0022】
【0023】
式中、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立に、H、カフェオイル基、又はフェルロイル基である。
【0024】
クロロゲン酸類は、具体的には、3-o-カフェオイルキナ酸、4-o-カフェオイルキナ酸、5-o-カフェオイルキナ酸、3-o-フェルロイルキナ酸、4-o-フェルロイルキナ酸、5-o-フェルロイルキナ酸、3,4-ジ-o-カフェオイルキナ酸、3,5-ジ-o-カフェオイルキナ酸、及び4,5-ジ-o-カフェオイルキナ酸を含む。
【0025】
一態様では、組成物は、クロロゲン酸類として、3-o-カフェオイルキナ酸(R1=カフェオイル基、R2=R3=H)、5-o-カフェオイルキナ酸(R3=カフェオイル基、R1=R2=H)、及び3-o-フェルロイルキナ酸(R1=フェイル基、R2=R3=H)からなる群より選択されるいずれかを含む。
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
一態様では、組成物は、クロロゲン酸類として、上記の3つの化合物からなる群より選択される3-o-カフェオイルキナ酸及び5-o-カフェオイルキナ酸の少なくとも1つを含むことが好ましく、双方を含むことがより好ましく、双方及び3-o-フェルロイルキナ酸を含むことがさらに好ましい。
【0030】
<ルテオリン、その配糖体>
一態様では、組成物は、有効成分として、ルテオリン及びその配糖体からなる群より選択されるいずれか(以下、ルテオリン類ということもある。)を含む。ルテオリンの配糖体とは、ルテオリン(3’,4’,5,7-テトラヒドロキシフラボン)に糖がグリコシド結合した化合物をいう。糖の例として、グルコース、ガラクトース、フルクトース、グルクロン酸、ラムノース、キシロース、アラビノース、アピオース、ルチノース、ゲンチオビオース、プリメベロース、ジキトキソースが挙げられる。ルテオリンの配糖体の例として、ルテオリン4’-o-グルコシド、ルテオリン4'-o-グルクロニド、ルテオリン5-グルクロニド、ルテオリン5-グルコシド、ルテオリン5-ルチノシド、ルテオリン5-o-グルクロニド、ルテオリン6-グルコシド(イソオリエンチン)、ルテオリン6-c-β-d-グルコピラノシド8-c-α-l-アラビノピラノシド、ルテオリン6-c-アラビノシド、ルテオリン7-(2-o-アピオシルグルコシド)、ルテオリン7-(2-o-グルクロノシル)グルクロニド、ルテオリン7-(2-スルホグルコシド)、ルテオリン7-o-グルコシド、ルテオリン7-o-ガラクトシド、ルテオリン7-o-グルクロニド、ルテオリン7,4’-ジ-o-グルクロニド、ルテオリン7-[6-o-(2-メチルブチリル)-β-グルコシド]、ルテオリン7-o-[2-o-(4-o-アセチル-α-ラムノピラノシル)-β-グルクロノピラノシド]、ルテオリン8-グルコシド(オリエンチン)が挙げられる。
【0031】
一態様では、組成物は、ルテオリン類として、下式で表される化合物を含む。
【0032】
【0033】
式中、R4、及びR5は、それぞれ独立に、H、又は糖残基である。
【0034】
一態様では、組成物は、ルテオリン類として、イソオリエンチン(R4=H、R5=グルコース残基)、及びオリエンチン(R4=グルコース残基、R5=H)のいずれかを含む。
【0035】
一態様では、組成物は、ルテオリン類として、イソオリエンチンを含む。
【0036】
【0037】
<有効成分の組み合わせ>
一態様では、組成物は、目的の効果が高いという観点からは、3-o-カフェオイルキナ酸(3CQA)、5-o-カフェオイルキナ酸(5CQA)、及び3-o-フェルロイルキナ酸(3FQA)、及びイソオリエンチン(ISO)からなる群より選択される2種類以上の成分を含む。2種類以上の成分は、3CQA、5CQA、及びISOから選択される少なくとも一つが含まれた組み合わせであることが好ましい。このような組み合わせの特に好ましい例として、3CQAとISOの組み合わせ、5CQAと3FQAの組み合わせ、5CQAとISOの組み合わせ、3FQAとISOの組み合わせ、3CQA、5CQA、及びISOの組み合わせ、並びに5CQA、3FQA、及びISOの組み合わせが挙げられる。一態様では、組成物は、3CQA、5CQA、及びISOの組み合わせを含み、さらに3FQAを含んでもよい。
【0038】
組成物が3CQA、5CQA、3FQA、及びISOの4種類の化合物を含む場合、それらの割合は目的の効果を有する限り特に限定されないが、例えば、3-o-カフェオイルキナ酸:5-o-カフェオイルキナ酸:3-o-フェルロイルキナ酸:イソオリエンチンは、モル比で、1 : 0.10~10 : 0.15~15 : 0.080~8.0とすることができ、1 : 0.30~3.0 : 0.40~4.0 : 0.20~2.0とすることができ、1: 0.60~1.5 : 0.80~2.0 : 0.40~1.0とすることができる。
【0039】
<サトウキビ梢頭部抽出物>
一態様では、組成物の有効成分として、サトウキビ梢頭部抽出物を用いてもよい。サトウキビ梢頭部とは、サトウキビ(学名:Saccharum officinarum L.)の第5葉肥厚帯より上部の穂先部分をいう。抽出物とは、特に記載した場合を除き、原料から溶媒を用いて抽出した抽出液、並びに抽出液の、濃縮物、乾燥物、及び粗精製物を含む。
【0040】
適切な条件で抽出を行った場合、サトウキビ梢頭部の乾燥物(葉、及び樹皮を含む。)1gから、3CQA、5CQA、3FQA、及びISOの4種類を含む抽出物を、乾燥重量で100mg~170mg、より特定すると130mg~150mg、得ることができる。
【0041】
サトウキビ梢頭部抽出物に含まれる3-o-カフェオイルキナ酸の量は、抽出物100g(乾燥重量)あたり、他の成分の含量にかかわらず、0.20mg以上であり得る。抽出条件を至適にすることにより、他の成分の含量にかかわらず、0.30mg以上、0.35mg以上、又は0.40mg以上とすることができる。
【0042】
サトウキビ梢頭部抽出物に含まれる5-o-カフェオイルキナ酸の量は、抽出物100g(乾燥重量)あたり、他の成分の含量にかかわらず、1.0mg以上であり得る。抽出条件を至適にすることにより、他の成分の含量にかかわらず、1.5mg以上、2.0mg以上、又は2.5mg以上とすることができる。
【0043】
サトウキビ梢頭部抽出物に含まれる3-o-フェルロイルキナ酸の量は、抽出物100g(乾燥重量)あたり、他の成分の含量にかかわらず、0.10mg以上であり得る。抽出条件を至適にすることにより、他の成分の含量にかかわらず、0.13mg以上、0.16mg以上、又は0.20mg以上とすることができる。
【0044】
サトウキビ梢頭部抽出物に含まれるイソオリエンチンの量は、抽出物100g(乾燥重量)あたり、他の成分の含量にかかわらず、0.80mg以上であり得る。抽出条件を至適にすることにより、他の成分の含量にかかわらず、1.0mg以上、1.2mg以上、又は1.4mg以上とすることができる。
【0045】
一態様では、サトウキビ梢頭部抽出物100g(乾燥重量)に含まれる3-o-カフェオイルキナ酸は、0.40mg以上0.60mg以下であり、5-o-カフェオイルキナ酸は、2.5mg以上3.5mg以下であり、3-o-フェルロイルキナ酸は、0.20mg以上0.30mg以下であり、イソオリエンチンは、1.4mg以上1.8mg以下である。
【0046】
一態様では、サトウキビ梢頭部には、2.1~2.6mg/g(乾燥重量)のイソオリエンチンが含まれ得る。なお、イソオリエンチンはルイボス茶にも含まれることが知られている。乾燥グリーンルイボス茶葉10gからの熱水500mlによる抽出物には、26mgのイソオリエンチンが含まれることが報告されている(Food Chemistry 128:338-347, 2011)。
【0047】
<サトウキビ梢頭部抽出物の製造方法等>
有効成分として用いるサトウキビ梢頭部抽出物は、サトウキビ梢頭部を原料として製造することができる。原料として用いるサトウキビ梢頭部は、サトウキビの梢頭部の全体であってもよく、葉と樹皮を含んだ部分であってもよく、葉や樹皮を除いた部分であってもよい。原料サトウキビ梢頭部は、生の状態でもよく、乾燥させてもよい。乾燥は、冷風乾燥、天日乾燥により行うことができる。サトウキビ梢頭部は、抽出効率を高めるために、切断、細断、粉砕してもよい。
【0048】
サトウキビ梢頭部からの抽出のための手段は、特に限定されず、液体の抽出溶媒を用いて抽出を行ってもよく、超臨界流体又は亜臨界流体を用いて超臨界抽出又は亜臨界抽出を行ってもよい。
【0049】
抽出溶媒は、ルテオリン又はその配糖体の抽出上有効な溶媒であって、かつクロロゲン酸類抽出上有効な溶媒であることが好ましい。このような溶媒の例は、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、アセトン、酢酸エチル、及びメチルエチルケトン、並びにこれらのいずれかの混合物である。好ましい例は、水系溶媒であり、例として、水、又は水と、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンからなる群から選択されるいずれかとの混合物が挙げられる。
【0050】
一態様では、溶媒として水が用いられる。別の態様では、水とエタノールとの混合溶媒が用いられる。エタノールの濃度は、5%以上、10%以上、20%以上、25%以上とすることができる。また、エタノールの濃度は、95%以下、90%以下、85%以下、70%以下、60%以下とすることができる。エタノールの濃度は、できるだけ使用を控えるとの観点からは、50%以下とすることが好ましく、40%以下とすることがより好ましく、35%以下とすることがさらに好ましい。なお、本発明に関し、エタノールを含む抽出溶媒のエタノール濃度を示すときは、特に記載した場合を除き、容積に基づく値(v/v)であり、また特に示した場合を除き、エタノールは水と混合されている。
【0051】
抽出操作は室温で行ってもよく、加温して行ってもよい。還流冷却下で加熱すると、成分が効率よく速やかに抽出されうる。抽出温度は60℃以上とすることができ、70℃以上とすることが好ましく、80℃~100℃であることがより好ましい。加温下で行うと抽出物が効率よく、かつ純度よく得られる。
【0052】
抽出は、常圧で行うことができる。また、抽出は加圧下で行ってもよく、5MPa(50bar)以上で行うことができ、7.5MPa(75bar)以上が好ましく、10MPa(100bar)以上としてもよい。この場合も、目的の成分を効率よく速やかに抽出するために、加温してもよい。温度は25℃以上とすることができ、30℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましい。原料と抽出溶媒との比、抽出時間、抽出操作の繰り返し回数は、抽出効率を勘案し、適宜とすることができる。
【0053】
一態様では、サトウキビ梢頭部の乾燥物から常温で熱水を用いて抽出する。別の態様では、水とエタノールとの混合液を抽出溶媒とし、高速高圧抽出装置を用いて、圧力100 bar、温度45℃の条件下で、1回15~30分間の自動成分抽出を複数回、例えば2~8回実施する。抽出により得られた溶液は濃縮し、凍結乾燥することができる。
【0054】
超臨界抽出又は亜臨界抽出を行う場合、流体として、例えば、水、二酸化炭素、エチレン、プロピレン、エタン、プロパン、一酸化二窒素、クロロジフルオロメタン、クロロトリフルオロメタン、キセノン、アンモニア、並びにメタノール及びエタノールなどの低級アルコールを使用することができる。安全性の面からは、水、エタノール、これらの混合物、又は二酸化炭素を用いることが好ましい。必要に応じ、不溶性の残渣を除去し、常法により濃縮し、噴霧乾燥、凍結乾燥等の手段により乾燥することができる。
【0055】
[用途]
一態様では、クロロゲン酸類、並びにルテオリン及びその配糖体からなる群より選択される有効成分を含む組成物は、ミトコンドリア活性の向上のために用いられる。本発明者らの検討によると、クロロゲン酸類、並びにルテオリン及びその配糖体からなる群より選択される有効成分を含む組成物は、未成熟アストロサイト、筋管細胞、及び肝細胞におけるミトコンドリアを活性化できることが分かっており、また脂肪細胞、及び腸管上皮細胞におけるミトコンドリアを活性化できると期待される。
【0056】
一態様では、クロロゲン酸類、並びにルテオリン及びその配糖体からなる群より選択される有効成分を含む組成物は、PGC-1α(peroxisome proliferator activated receptor γ coactivator-1α)の発現を促進するために用いられる。核内受容体コアクチベーターであるPGC-1αは、エネルギー代謝制御因子として知られている。PGC-1αは、エネルギー代謝の亢進を担うミトコンドリアに対する重要なターゲットとされてもいる(非特許文献1)。本発明者らの検討によると、クロロゲン酸類、並びにルテオリン及びその配糖体からなる群より選択される有効成分を含む組成物は、未成熟アストロサイト、筋管細胞、及び肝細胞におけるPGC-1αの発現を促進できることが分かっており、また脂肪細胞、及び腸管上皮細胞におけるミトコンドリアを活性化できると期待される。PGC-1αの発現とは、PGC-1α遺伝子の情報が構造や機能に変換される過程をいい、発現の促進は、遺伝子からmRNAへの転写の促進を含む。
【0057】
一態様では、クロロゲン酸類、並びにルテオリン及びその配糖体からなる群より選択される有効成分を含む組成物は、ミトコンドリア活性の向上を介して改善し得る疾患又は状態の処置のために用い得る。
【0058】
一態様では、クロロゲン酸類、並びにルテオリン及びその配糖体からなる群より選択される有効成分を含む組成物は、代謝に関連した疾患又は状態の処置のために用いられる。
【0059】
一態様では、クロロゲン酸類、並びにルテオリン及びその配糖体からなる群より選択される有効成分を含む組成物は、PGC-1αの発現の促進を介して改善し得る疾患又は状態の処置のために用い得る。
【0060】
一態様では、クロロゲン酸類、並びにルテオリン及びその配糖体からなる群より選択される有効成分を含む組成物は、加齢又は前記代謝障害に起因する筋肉減少に関連した疾患又は状態の処置のために用い得る。骨格筋は、その活動においてPGC-1α活性及びミトコンドリアエネルギー代謝が重要である生体内組織の一つである。負荷運動に適応する際に、筋細胞においてはPGC-1αの発現増加を介してミトコンドリアが活性化することで、収縮などの活動のエネルギー源となるATPの産生が向上する。
【0061】
より具体的には、クロロゲン酸類、並びにルテオリン及びその配糖体からなる群より選択される有効成分を含む組成物は、以下のような疾患又は処置のために用い得る:
加齢に伴う糖及び脂質代謝の低下を含む、非疾患性の代謝障害;糖尿病、高血圧、脂質異常症、脂肪肝、メタボリックシンドローム、肥満症;筋肉減少症、サルコペニア;アレキサンダー病を含む、アストロサイトの形態的成熟不全を特徴とする疾患。
あるいはクロロゲン酸類、並びにルテオリン及びその配糖体からなる群より選択される有効成分を含む組成物は、筋肉量又は筋力の維持・向上、筋持久力の維持・向上、及び歩行能力の維持・向上のために用い得る。
【0062】
ある成分が、ミトコンドリアの活性を向上するかどうかは、例えば、神経幹細胞由来未成熟アストロサイト(例えば、ヒト胎児由来神経幹細胞)、筋管細胞(例えば、マウス骨格筋由来筋芽細胞であるC2C12)、肝細胞(例えば、ヒト肝癌由来細胞株であるHepG2)、脂肪細胞(例えば、マウス由来前駆脂肪細胞株である3T3-L1)、又は腸管上皮細胞(例えば、ヒト小腸上皮様細胞株であるCaco-2)を用い、対象成分の有無による、ローダミン123のミトコンドリアへの取り込み量を蛍光強度により分析することにより評価できる。またある成分が、PGC-1αの発現を促進するかどうかは、例えば、上述の細胞のいずれかを用い、対象成分の有無による、PGC-1α mRNAの発現量を分析することにより評価できる。また、PGC-1α活性の下流で転写が促進されるTFAMのmRNAの発現量を分析することにより評価できる。
【0063】
本発明で疾患又は状態について「処置」というときは、発症リスクの低減、発症の遅延、予防、治療、進行の停止、遅延を含む。処置には、医師が行う、病気の治療を目的とした行為と、医師以外の者、例えば栄養士(管理栄養士、スポーツ栄養士を含む。)、保健師、助産師、看護師、臨床検査技師、スポーツ指導員、美容部員、エステティシャン、医薬品製造者、医薬品販売者、食品製造者、食品販売者等が行う、非治療的行為とが含まれる。また処置には、獣医師が行う、非ヒト動物の病気の治療を目的とした行為と、獣医師以外の者、例えば獣医看護士、愛玩動物飼養管理士、厩務員、飼育員、動物医薬品製造者、動物医薬品販売者、ペット用食品製造者、ペット用食品販売者等が行う、非治療行為が含まれる。さらに処置には、特定の食品の投与又は摂取の推奨、食事指導、保健指導、栄養指導(傷病者に対する療養のため必要な栄養の指導、及び健康の保持増進のための栄養の指導を含む。)、給食管理、給食に関する栄養改善上必要な指導を含む。
【0064】
本発明における処置の対象は、ヒト(個体)を含み、好ましくは、上述したいずれかの処置を施すことが望ましいか、又は上述したいずれかの処置を施す必要のあるヒトである。本発明における処置の対象は、ヒト以外の動物であってもよく、この例としては、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、リス等のペット(愛玩動物、コンパニオンアニマルということもある。)、牛、豚等の家畜、マウス、ラット等の実験動物、動物園等で飼育されている動物が挙げられる。対象となる非ヒト動物の成長段階には特に限定がなく、本発明の処置の対象は、例えば、幼犬、成犬、高齢犬、幼猫、成猫、高齢猫であり得る。
【0065】
[組成物、その他]
一態様では、組成物はサトウキビ梢頭部抽出物それ自体であってもよく、また有効成分(例えば、サトウキビ梢頭部抽出物)とそれ以外の成分とを含んでいてもよい。
【0066】
一態様では、組成物は、食品組成物、又は医薬組成物とすることができる。食品とは、特に記載した場合を除き、固形物のみならず、液状のもの、例えばスープ、飲料及びドリンク剤を含む。また、特に記載した場合を除き、ヒトを対象としたもののみならず、非ヒト動物を対象としたもの、例えば飼料及びペットフードを含む。さらに、食品は、特に記載した場合を除き、一般食品、健康食品、サプリメント、保健機能食品(特定保健用食品(通称:トクホ)、栄養機能食品、機能性表示食品)を含み、また治療食(治療の目的を果たすもの。医師が食事箋を出し、それに従い栄養士等が作成した献立に基づいて調理されたもの。)、食事療法食、成分調整食、減塩食、介護食、減カロリー食、ダイエット食を含む。
【0067】
一態様では、組成物は、経口医薬品、健康食品、サプリメントの形態である。その場合、剤形の例として、軟カプセル剤、硬カプセル剤、錠剤、丸剤、粉末剤、顆粒剤、細粒剤、ゼリー剤、チューブ入り剤、ドリンク剤が挙げられる。
【0068】
組成物中の有効成分の含量は、一日あたりの摂取・投与量を勘案して適宜設計することができる。一態様では、成人の一日量は、有効成分を0.2~2,000mg含有し、好ましくは0.5~1,000mg含有し、より好ましくは1~500mg含有し、さらに好ましくは2~200mg含有する。一日量は、複数回、例えば2~4回に分割して、摂取・投与することができる。
【0069】
一態様では、組成物には、目的の効果を発揮しうる限り、サトウキビ梢頭部抽出物以外の他の成分を配合できる。他の成分は、食品として許容される種々の添加剤、又は医薬として許容される種々の添加剤であり得る。このような添加剤の例として、賦形剤、酸化防止剤(抗酸化剤)、香料、調味料、甘味料、着色料、増粘安定剤、発色剤、漂白剤、防かび剤、ガムベース、苦味料等、酵素、光沢剤、酸味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、結合剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、凝固剤が挙げられる。
【0070】
他の成分は、機能性成分であってもよい。機能性成分の例として、アミノ酸類(例えば、分岐鎖アミノ酸類、オルニチン)、不飽和脂肪酸類(例えば、EPA、DHA)、ビタミン類、微量金属類、ポリフェノール類、卵黄抽出物、はちみつ加工品、黒糖、オリゴ糖、食物繊維、グルコサミン、コンドロイチン類、CoQ10、フコイダン、フコキサンチン、アスタキサンチン、プラセンタ、酵母エキス、黒酢濃縮物、植物抽出物(ニンニク抽出物、イチョウ葉抽出物、茶抽出物、ビルベリー抽出物、ブルーベリー抽出物、各種人参抽出物、マカ抽出物、豆種皮抽出物、セントジョーンズワート抽出物、松樹皮抽出物、アサイー抽出物、ノニ抽出物)等が挙げられる。
【0071】
一態様では、組成物は、食事と共に、又は食前、食後に、摂取・投与することができる。
【0072】
一態様では、組成物には、上述の疾患又は状態の処置のために用いることができる旨を表示することができ、また上述の対象に対して摂取を薦める旨を表示することができる。表示は、直接的に又は間接的にすることができ、直接的な表示の例は、製品自体、パッケージ、容器、ラベル、タグ等の有体物への記載であり、間接的な表示の例は、ウェブサイト、店頭、展示会、看板、掲示板、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、郵送物、電子メール等の場所又は手段による、広告・宣伝活動を含む。
【0073】
組成物への機能性表示の例は、下記を含む。
自立した日常生活を送る上で必要な筋力の維持・低下抑制、必要な筋力(立つ・歩くなどに必要な筋力)の維持、筋肉量及び筋力の維持、歩行能力の維持、歩行機能の向上、年齢とともに減っていく筋肉を維持する、加齢によって衰える筋肉の合成をサポートする、脂肪を消費しやすくする、腹部の脂肪を減らす。健康な肝臓の機能を維持する。
【実施例0074】
以下、製造例及び試験例を示すが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0075】
〔製造例1〕
―サトウキビ梢頭部のエタノール抽出物の製造―
サトウキビ梢頭部(葉と樹皮を含む)の乾燥物1 g から、80 %エタノールを抽出溶媒とし、高速高圧抽出装置E-916(AG Buchi)を用いて、圧力が100 bar、温度が45℃、の条件下で、1回約20分間の自動成分抽出を4回実施した。抽出後の溶液はロータリーエバポレーターを用いて濃縮され、その後、凍結乾燥することで140 mgの試料を得た。高速液体クロマトグラフィー (HPLC)を用いた成分分析により定量された、3CQAと、5CQAと、3FQAと、ISOと、の抽出物1 g中の含有量は、特許文献5 (実施例[サトウキビ梢頭部抽出物の成分分析])、及び非特許文献6(Chemical Analysis項)に記載の分析値と等しい。
【0076】
〔試験例1〕
―神経幹細胞由来未成熟アストロサイトにおけるミトコンドリア活性評価試験―
アストロサイトの形態形成及び成熟において、ミトコンドリア生合成がその促進に必要であることが明らかとなっている。サトウキビ梢頭部抽出物はアストロサイトの発達成熟を促進することが示唆されており、このことから、サトウキビ梢頭部抽出物及びそのポリフェノール化合物について、未成熟アストロサイトにおけるミトコンドリア活性に対する影響評価を実施した。
【0077】
まず、ヒト胎児由来神経幹細胞(hNSCs; Cell Applications)を10,000 cells/cm2の濃度で96well プレートに播種し、その後、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)と、1% N-2 supplement (Gibco)と、1% ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum;FBS)と、1% penicillin/streptomycinと、からなるアストロサイト分化誘導培地中で、48時間インキュベートすることにより、hNSCsからアストロサイトを誘導した。分化したアストロサイトに対して、培地を試料、すなわちサトウキビ梢頭部抽出物又はポリフェノール化合物(それらの組み合わせを含む)を含有したアストロサイト分化誘導培地に切り替え、さらに24時間、48時間、及び72時間のインキュベートを行った。
【0078】
前記サトウキビ梢頭部抽出物としては、製造例1で得られた抽出物を用いた。抽出物の濃度としては、培地中の最終濃度が50μg/mLと設定された。各化合物の濃度は50μg/mLの抽出物中に含まれる含有量を、特許文献5、及び非特許文献6に記載の、分析定量値から算出されたものが設定された。すなわち、3CQAは0.50μM、5CQAは0.70μM、3FQAは0.85μM、ISOは0.48μMがそれぞれの培地中の濃度であった。各化合物の組み合わせは、4種類の化合物の組み合わせに加えて、2種類の組み合わせが6群と、3種類の組み合わせが4群と、が処理群として設定された。2及び3種類の組み合わせ処理群を番号付けしたものを下表に示す。
【0079】
インキュベーションの後、ローダミン123(Rh123)を用いた、ミトコンドリアの活性(含有量)評価が行われた。Rh123は細胞内のミトコンドリアに容易に取り込まれ、その蛍光強度を測定することでミトコンドリア活性を評価することができる。細胞をPBSで洗浄した後、10μg/mLのRh123溶液を各ウェルに添加し、37℃で20分間インキュベートした。細胞を再度洗浄した後、1% Triton-X溶液を各ウェルに添加し、室温・暗所にて30分間インキュベートし、細胞を溶解した。細胞溶解液を黒のクリアボトム96ウェルプレートに移した後、プレートリーダー(Varioskan LUX, Thermo Fisher Scientific)を用いて、λex = 507 nm及びλem = 529 nmの条件下で蛍光強度を測定した。得られた値については、One-way ANOVA法による有意差検定( *P<0.05)を行った。
【0080】
【0081】
―試験結果―
24時間の処理において、処理群(3)及び(5)では、ミトコンドリアのRh123蛍光強度が有意に増強された。48時間の処理において、処理群(8)及び4種化合物混合(All mixed)では、蛍光強度が上昇傾向にあった(それぞれp = 0.097、p = 0.082)。72時間の処理において、処理群(5)、(8)、及びサトウキビ梢頭部抽出物(STEE)では、蛍光強度が有意に増強された(
図1)。これらの結果から、サトウキビ梢頭部抽出物はhNSC由来の未熟アストロサイトのミトコンドリアを活性化することが示唆された。また、抽出物中のポリフェノール成分の内、3CQA、5CQA、及びISOが、抽出物による本活性に寄与していることが示唆された。
【0082】
〔試験例2〕
―神経幹細胞由来未成熟アストロサイトにおけるPGC-1α mRNA発現評価試験―
ミトコンドリアの活性は、核内転写因子による代謝酵素遺伝子発現の制御に依存的であり、中でも転写調節因子であるPGC-1αが重要な役割を果たしている。アストロサイトの成熟においても、PGC-1αはミトコンドリア生合成のマスターレギュレーターとして、その活性化が必須であることが分かっている。〔試験例1〕 においてサトウキビ梢頭部抽出物にミトコンドリア活性化効果が認められたため、次に、サトウキビ梢頭部抽出物について、未成熟アストロサイトにおけるPGC-1α mRNA発現に対する影響評価を実施した。
【0083】
先ず、〔試験例1〕と同様の方法を用い、hNSCsから24ウェルプレート内にてアストロサイトを誘導した。分化したアストロサイトに対して、培地をサトウキビ梢頭部抽出物又はポリフェノール化合物(それらの組み合わせを含む)を含有したアストロサイト分化誘導培地に切り替え、さらに48時間のインキュベートを行った。
【0084】
サトウキビ梢頭部抽出物及び各化合物の培地中の濃度は〔試験例1〕と同様であった。また、処理群として用いられた各化合物の組み合わせは、〔試験例1〕と同様であった。
【0085】
インキュベーションの後、RNeasy micro kit(Qiagen)を用いて、細胞からtotal RNAを単離した。このtotal RNAを鋳型とし、7500 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems)上での定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)を実施することで、mRNA発現量を測定した。TaqManプライマー(Applied Biosystems)は、GAPDH (Hs02786624_g1)及びPPARGC1 (Hs00173304_m1)を使用し、転写産物の相対的な発現レベルを決定するために、GAPDHを内部標準として用いた。得られた値については、One-way ANOVA法による有意差検定( *P<0.05, ****<0.001)を行った。
【0086】
―試験結果―
hNSC由来の未熟なアストロサイトにおけるPGC-1α mRNA発現量を
図2に示す。PGC-1α mRNA発現量は、STEEを48時間処理することにより、有意に上昇した(p < 0.0001、約2.5倍)。また、48時間での化合物の処理群の内、処理群(5)、(8)、及びAll mixedにおいては、PGC-1α mRNA発現量は、STEE処理群と同程度の有意な上昇を示した(p < 0.0001)。
【0087】
これらの結果から、サトウキビ梢頭部抽出物によって、hNSC由来の未成熟アストロサイトの、PGC-1α mRNA発現の上昇が誘導されることが示唆された。また、抽出物中のポリフェノール成分の内、3CQA、5CQA、及びISOが、抽出物による本活性に寄与していることが示唆された。
【0088】
以下に示す試験を実施することによっても、サトウキビ梢頭部由来組成物による、ミトコンドリア活性及びPGC-1α mRNA発現の評価を行うことができる。
【0089】
〔試験例3〕
―筋管細胞におけるミトコンドリア活性評価試験―
筋肉が収縮などの活動を行うためのエネルギー産生を亢進する為には、細胞内ミトコンドリアの活性向上が必要である。サトウキビ梢頭部抽出物及びそのポリフェノール化合物について、筋管細胞におけるミトコンドリア活性に対する影響評価を実施した。
【0090】
まず、マウス骨格筋由来筋芽細胞であるC2C12を30,000 cells/cm2の濃度で96 wellプレートに播種し、その後DMEMと、10% FBSと、1% penicillin/streptomycinと、からなる培地中で培養することで、筋芽細胞として増殖させた。その後、コンフルエントに達した時点で、培地をDMEMと2% 馬血清(Horse Serum;HS)からなる培地に交換し、筋管細胞への分化誘導を行った。6日間の培養を経て分化した筋管細胞に対して、溶解した被験試料、すなわちサトウキビ梢頭部抽出物又はポリフェノール化合物(それらの組み合わせを含む)を添加し、さらに6時間及び24時間のインキュベートを行った。
【0091】
被験試料は、〔試験例1〕で用いられたものと同様であった。すなわち、製造例1で得られた抽出物、各ポリフェノール化合物、及び表1の化合物の組み合わせであった。抽出物は、培地中の最終濃度が50μg/mLと設定され、各化合物の濃度は、3CQAは0.50μM、5CQAは0.70μM、3FQAは0.85μM、ISOは0.48μMと設定された。これらの化合物の濃度は組み合わせ処理された場合も同様であった。
【0092】
インキュベーションの後、Rh123を用いた、ミトコンドリアの活性(含有量)評価が行われた。試験方法は〔試験例1〕に記載のものと同様であった。得られた値については、One-way ANOVA法による有意差検定(*P<0.05)を行った。
【0093】
―試験結果―
6時間の処理において、処理群(3)、(8)、All mixed、及びSTEEでは、Rh123蛍光強度が有意に増強された。また処理群(5)では蛍光強度が上昇傾向にあった。24時間の処理において、いずれの処理群においても、蛍光強度に有意な変化はみられなかった(
図3)。これらの結果から、サトウキビ梢頭部抽出物を6時間作用させることで、筋管細胞のミトコンドリア活性化を誘導することが示唆された。また、抽出物中のポリフェノール成分の内、3CQA、5CQA、及びISOが、抽出物による本活性に寄与していることが示唆された。
【0094】
〔試験例4〕
―筋管細胞におけるPGC-1α mRNA及びTFAM mRNA発現評価試験―
転写調節因子であるPGC-1αはミトコンドリアの活性調整に重要な役割を果たしており、またPGC-1α発現の下流でmitochondrial transcription factor A(TFAM)遺伝子の転写が促進され、ミトコンドリアの生合成が亢進される。サトウキビ梢頭部抽出物及びそのポリフェノール化合物について、筋管細胞におけるPGC-1α mRNA及びTFAM mRNA発現に対する影響評価を実施した。
【0095】
まず、〔試験例3〕と同様の方法を用い、6 wellプレート内にてC2C12から筋管細胞への分化誘導を行った。6日後の分化した筋管細胞に対して、被験試料、すなわちサトウキビ梢頭部抽出物又はポリフェノール化合物混合物を添加し、さらに6時間又は24時間のインキュベートを行った。
【0096】
前記のサトウキビ梢頭部抽出物としては、製造例1で得られた抽出物を用いた。抽出物の濃度としては、培地中の最終濃度が15μg/mL、30μg/mL、及び50μg/mLと設定された。また、4種類の化合物の組み合わせを被験試料(Mix)として用い、各化合物の濃度は50μg/mLの抽出物中に含まれる含有量、すなわち、3CQAは0.50μM、5CQAは0.70μM、3FQAは0.85μM、ISOは0.48μMが培地中の濃度となるよう設定された。
【0097】
インキュベーションの後、〔試験例2〕と同様にqRT-PCRを実施することで、mRNA発現量を測定した。TaqManプライマーは、Gapdh (Mm99999915_g1)、Ppargc1 (Mm01208835_m1)、Tfam(Mm00447485_m1)、を使用し、転写産物の相対的な発現レベルを決定するために、Gapdhを内部標準として用いた。得られた値については、One-way ANOVA法による有意差検定( *P<0.05, ***<0.001)を行った。
【0098】
―試験結果―
筋管細胞におけるPGC-1α mRNA及びTFAM mRNA発現量を
図4に示す。PGC-1α mRNA発現量は、50μg/mLのSTEEを6時間処理することにより、有意に上昇し(p < 0.05、約1.4倍)、また、同試料の24時間処理後は発現量の変化は見られなかった。また、PGC-1α mRNA発現量は、化合物混合物(Mix)を6時間処理することにより、有意に上昇し(p < 0.05、約1.4倍)、また、同試料の24時間処理後においても、発現量は有意に上昇した(p < 0.05、約1.5倍)。TFAM mRNA発現量は、50μg/mLのSTEEを6時間処理することにより、増加傾向を示し(p = 0.082、約1.25倍)、また、同試料の24時間処理後においても、発現量は有意に上昇した(p < 0.05、約1.5倍)。また、TFAM mRNA発現量は、Mixを6時間処理することにより、有意に上昇し(p < 0.05、約1.25倍)、また、同試料の24時間処理後においても、発現量は有意に上昇した(p < 0.001、約1.75倍)。
【0099】
これらの結果から、サトウキビ梢頭部抽出物によって、筋管細胞の、PGC-1α mRNA及びTFAM mRNA発現の上昇が誘導されることが示唆された。また、抽出物中の3CQA、5CQA、3FQA、又はISOが、抽出物による本活性に寄与していることが示唆された。
【0100】
〔試験例5〕
―肝細胞におけるミトコンドリア活性評価試験―
生体内代謝の中心を担う肝臓において、細胞内ミトコンドリアはその活性向上において重要である。サトウキビ梢頭部抽出物及びそのポリフェノール化合物について、肝細胞におけるミトコンドリア活性に対する影響評価を実施した。
【0101】
まず、ヒト肝腫由来細胞であるHepG2を30,000 cells/cm2の濃度で96 wellプレートに播種し、DMEMと、10% FBSと、1% penicillin/streptomycinと、からなる培地中で培養した。24時間の培養を経た後、培地を被験試料、すなわちサトウキビ梢頭部抽出物又はポリフェノール化合物(それらの組み合わせを含む)を溶解した1% penicillin/streptomycin含有低血清培地(Opti-MEM(登録商標))に切り替え、さらに6時間及び24時間のインキュベートを行った。
【0102】
サトウキビ梢頭部抽出物及び各化合物の培地中の濃度は〔試験例3〕と同様であった。また、処理群として用いられた各化合物の組み合わせは、〔試験例3〕と同様であった。
【0103】
インキュベーションの後、Rh123を用いた、ミトコンドリアの活性(含有量)評価が行われた。試験方法は〔試験例1〕に記載のものと同様であった。得られた値については、One-way ANOVA法による有意差検定を行った。
【0104】
―試験結果―
6時間及び24時間の処理において、いずれの処理群においても、蛍光強度に有意な変化はみられなかった(
図5)。統計的に有意では無いものの、6時間の処理において、STEEでは、Rh123蛍光強度が約120%の上昇を示し、また、24時間の処理において、処理群(7)、(8)、及びSTEEでは、Rh123蛍光強度がそれぞれ約120%の上昇を示した(
図5)。
【0105】
〔試験例6〕
―肝細胞におけるPGC-1α mRNA及びTFAM mRNA発現評価試験―
前記の通り、転写調節因子であるPGC-1α及びその活性の下流で転写が促進されるTFAMはミトコンドリアの活性調整に重要な役割を果たしている。サトウキビ梢頭部抽出物及びそのポリフェノール化合物について、肝細胞におけるPGC-1α mRNA及びTFAM mRNA発現に対する影響評価を実施した。
【0106】
まず、〔試験例5〕と同様の方法を用いて6 wellプレート内でHepG2の培養を行った。細胞を播種してから24時間の培養を経た後、被験試料、すなわちサトウキビ梢頭部抽出物又はポリフェノール化合物混合物を添加し、さらに6時間又は24時間のインキュベートを行った。
【0107】
被験試料は、〔試験例5〕と同様であった。また、被験試料の培地中の濃度は〔試験例5〕と同様であった。
【0108】
インキュベーションの後、〔試験例2〕と同様にqRT-PCRを実施することで、mRNA発現量を測定した。TaqManプライマーは、GAPDH (Hs02786624_g1)、PPARGC1 (Hs00173304_m1)、TFAM(Hs00273372_s1)、を使用し、転写産物の相対的な発現レベルを決定するために、GAPDHを内部標準として用いた。得られた値については、One-way ANOVA法による有意差検定( *P<0.05, **<0.01)を行った。
【0109】
―試験結果―
肝細胞におけるPGC-1α mRNA及びTFAM mRNA発現量を
図6に示す。PGC-1α mRNA発現量は、30μg/mL 及び50μg/mLのSTEEを24時間処理することにより、有意に上昇し(p < 0.01、それぞれ約1.4倍)、また化合物混合物(Mix)を24時間処理することにより、有意に上昇した(p < 0.01、約1.4倍)。TFAM mRNA発現量は、30μg/mL 及び50μg/mLのSTEEを24時間処理することにより、有意に上昇し(p < 0.05、それぞれ約1.2倍)、またMixを24時間処理することにより、有意に上昇した(p < 0.05、約1.2倍)。また何れの試料の6時間の処理によっても、PGC-1α mRNA及びTFAM mRNA発現量に有意な変化は無かった。
【0110】
これらの結果から、サトウキビ梢頭部抽出物によって、肝細胞の、PGC-1α mRNA及びTFAM mRNA発現の上昇が誘導されることが示唆された。また、抽出物中の3CQA、5CQA、3FQA、又はISOが、抽出物による本活性に寄与していることが示唆された。
【0111】
以下に示す試験を実施することによっても、サトウキビ梢頭部由来成分による、ミトコンドリア活性及びPGC-1α mRNA発現の評価を行うことができる。
【0112】
〔例1〕
―脂肪細胞におけるミトコンドリア活性及びPGC-1α mRNA発現評価試験―
まず、マウス由来前駆脂肪細胞株である3T3-L1を、DMEMと、10% FBSと、1% penicillin/streptomycinと、からなる培地中で脂肪前駆細胞として増殖させる。その後、コンフルエントに達した時点から2日後(Post confluence)に、培地にIsobutylmethylxanthine (IBMX)と、Insulinと、Dexamethasone (DEX)と、からなる分化誘導剤を添加し、脂肪細胞様(Adipocyte-like)細胞への分化を誘導する。また、分化誘導剤の添加と同時に、被験試料(サトウキビ梢頭部抽出物及びポリフェノール化合物)を、適当な培地中濃度となるよう添加する。分化誘導剤の添加後、2~3日のインキュベーションを経ることで、脂肪細胞への分化が概ね完了する。
【0113】
分化した脂肪細胞に対して、前記のRh123を用いた、ミトコンドリアの活性評価を行うことができ、また、前記のqRT-PCRを用いた、PGC-1α mRNA発現量の評価を行うことができる。
【0114】
〔例2〕
―腸管上皮細胞におけるミトコンドリア活性及びPGC-1α mRNA発現評価試験―
まず、ヒト小腸上皮様細胞株であるCaco-2を、DMEMと、 10% FBSと、1% penicillin/streptomycinと、からなる培地中で培養する。培養後、コンフルエントに達した時点から、さらに14日間の培養を経ることで、腸管上皮細胞へと分化させる。分化した腸管上皮細胞に対し、溶解した被験試料(サトウキビ梢頭部抽出物及びポリフェノール化合物)を、適当な培地中濃度となるよう添加する。
【0115】
試料添加後、適当な時間のインキュベーションを経た腸管上皮細胞に対して、前記のRh123を用いた、ミトコンドリアの活性評価を行うことができ、また、前記のqRT-PCRを用いた、PGC-1α mRNA発現量の評価を行うことができる。