(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057945
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】タップの位相差検出方法及び雌ねじ加工方法、並びにタップの位相差検出装置及び雌ねじ加工装置
(51)【国際特許分類】
B23G 1/46 20060101AFI20240418BHJP
B23Q 17/24 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
B23G1/46 Z
B23Q17/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164953
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亮輔
【テーマコード(参考)】
3C029
【Fターム(参考)】
3C029EE13
3C029EE20
(57)【要約】
【課題】専用の装置を用いることなく簡便な方法で、異なるタップ間の位相差を検出するタップの位相差検出方法と、タップの位相を一致させた加工を実施できる雌ねじ加工方法と、それらの方法を実施できる装置とを提供することを目的とする。
【解決手段】タップ4が取り付けられる主軸2の軸方向であって、タップ4に設けられた不完全ねじ部15の輪郭線を取得可能なカメラ12を用いて、あるタップ4を基準タップ4aとして、基準タップ4aが、カメラ12により輪郭線を取得可能な位置に位置決めされた後、カメラ12により輪郭線が取得され、その輪郭線を基準輪郭線とし、他のタップ4bが、カメラ12により輪郭線を取得可能な位置に位置決めされた後、カメラ12により輪郭線が取得され、取得された他のタップ4bの輪郭線を回転させ、基準輪郭線と一致した時の回転角度を、基準タップ4aと他のタップ4bとの位相差として取得する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のタップ間の位相差を検出するタップの位相差検出方法であって、
前記タップが取り付けられる主軸の軸方向であって、前記タップに設けられた不完全ねじ部側から、前記不完全ねじ部の輪郭線を取得可能なセンサを用いて、
ある前記タップを基準タップとして、前記基準タップが、前記センサにより前記輪郭線を取得可能な位置に位置決めされた後、前記センサにより前記輪郭線が取得され、その前記輪郭線を基準輪郭線とし、
他の前記タップが、前記センサにより前記輪郭線を取得可能な位置に位置決めされた後、前記センサにより前記輪郭線が取得され、
取得された前記他の前記タップの前記輪郭線を回転させ、前記基準輪郭線と一致した時の回転角度を、前記基準タップと前記他の前記タップとの位相差として取得することを特徴とするタップの位相差検出方法。
【請求項2】
前記センサは、カメラであることを特徴とする請求項1に記載のタップの位相差検出方法。
【請求項3】
前記センサは、レーザセンサであることを特徴とする請求項1に記載のタップの位相差検出方法。
【請求項4】
前記基準輪郭線は、予め前記センサにより取得され、記憶された前記基準タップの前記基準輪郭線のデータであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のタップの位相差検出方法。
【請求項5】
前記基準タップは、前記他の前記タップと同一径且つ同一ピッチのものであり、前記基準輪郭線は、前記基準タップの加工開始時に取得されたものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載のタップの位相差検出方法。
【請求項6】
ワークに雌ねじ加工を行う雌ねじ加工方法であって、
請求項4に記載のタップの位相差検出方法で取得した前記位相差を用いて、前記他の前記タップを用いた加工開始時の前記主軸及び/又は他の回転軸の回転位置を、前記位相差を補正するよう位相差分、回転させてから加工を実施することを特徴とする雌ねじ加工方法。
【請求項7】
ワークに雌ねじ加工を行う雌ねじ加工方法であって、
請求項5に記載のタップの位相差検出方法で取得した前記位相差を用いて、前記他の前記タップを用いた加工開始時の前記主軸及び/又は他の回転軸の回転位置を、前記位相差を補正するよう位相差分、回転させてから加工を実施することを特徴とする雌ねじ加工方法。
【請求項8】
複数のタップ間の位相差を検出するタップの位相差検出装置であって、
前記タップが取り付けられる主軸の軸方向であって、前記タップに設けられた不完全ねじ部側から、前記不完全ねじ部の輪郭線を取得可能なセンサを備え、
ある前記タップを基準タップとして、前記基準タップを、前記センサにより前記輪郭線を取得可能な位置に位置決めした後、前記センサにより前記輪郭線を取得し、その前記輪郭線を基準輪郭線とし、
他の前記タップを、前記センサにより前記輪郭線を取得可能な位置に位置決めした後、前記センサにより前記輪郭線を取得し、
取得された前記他の前記タップの前記輪郭線を回転させ、前記基準輪郭線と一致した時の回転角度を、前記基準タップと前記他の前記タップとの位相差として取得することを特徴とするタップの位相差検出装置。
【請求項9】
前記センサが、カメラであることを特徴とする請求項8に記載のタップの位相差検出装置。
【請求項10】
前記センサが、レーザセンサであることを特徴とする請求項8に記載のタップの位相差検出装置。
【請求項11】
前記基準輪郭線は、予め前記センサにより取得され、記憶された前記基準タップの前記基準輪郭線のデータであることを特徴とする請求項8乃至10のいずれかに記載のタップの位相差検出装置。
【請求項12】
前記基準タップは、前記他の前記タップと同一径且つ同一ピッチのものであり、前記基準輪郭線は、前記基準タップの加工開始時に取得されたものであることを特徴とする請求項8乃至10のいずれかに記載のタップの位相差検出装置。
【請求項13】
ワークに雌ねじ加工を行う雌ねじ加工装置であって、
請求項11に記載のタップの位相差検出装置で取得した前記位相差を用いて、前記他の前記タップを用いた加工開始時の前記主軸及び/又は他の回転軸の回転位置を、前記位相差を補正するよう位相差分、回転させてから加工を実施することを特徴とする雌ねじ加工装置。
【請求項14】
ワークに雌ねじ加工を行う雌ねじ加工装置であって、
請求項12に記載のタップの位相差検出装置で取得した前記位相差を用いて、前記他の前記タップを用いた加工開始時の前記主軸及び/又は他の回転軸の回転位置を、前記位相差を補正するよう位相差分、回転させてから加工を実施することを特徴とする雌ねじ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械においてタップを交換した場合等の異なるタップ間での位相差検出方法と、当該方法を用いた雌ねじ加工方法と、当該位相差検出方法及び雌ねじ加工方法を実行可能な装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
被加工物に雌ねじを形成する工具であるタップを用いた加工では、種々のトラブルが発生し易い。例えば、トラブルの1つにタップの折損が挙げられる。タップは、雌ねじ加工を多数行うことで、徐々に切れ刃が摩耗していくため、加工中の切削負荷が上昇し、切削負荷がタップの許容荷重を越えると、折損が生じる。タップの折損は、生産性を大きく低減する要因となり得ることから、発生を防止する必要がある。そこで、タップの折損を防止するため、切削負荷を監視し、雌ねじ加工を止める方法がとられることがある。しかし、雌ねじ加工を中断し、タップを退避させると、新しいタップでその雌ねじ加工を継続することが難しいという問題がある。雌ねじ加工は、軸送りとタップの回転位相とを同期させて行われる。従って、新たなタップを用いて、途中まで加工された雌ねじを引き続き加工するためには、退避させたタップと、新しいタップとにおいて、工具の突き出し長さと位相とを一致させる必要がある。
工具の突き出し長さは、工具の長さを測定する接触式の装置や、レーザ光を用いる非接触式の装置が普及しており、測定値から容易に補正することができる。他方、位相については、従来より、複数のタップ間で、工具ホルダとの位相合わせは行われていないのが一般的であった。そのような中、タップと工具ホルダとの位相決めを行う方法が提案されている。例えば特許文献1には、リングゲージとハイトゲージとを用いてタップホルダにタップを所定の位相及び突出長さで取り付けるタップ取り付け装置が開示されている。特許文献2には、タップとワークとの相対位置をセッティングゲージを用いて設定する加工方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-39762号公報
【特許文献2】特開2019-93478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法は、タップと工具ホルダとの位相決めを専用の装置を用いて実施するものであるため、汎用性に課題がある。また、位相決めの一連の作業を作業者が行うことを想定しており、自動化が難しいという問題を有している。
【0005】
そこで、本開示は、上記問題に鑑みなされたものであって、専用の装置を用いることなく簡便な方法で、異なるタップ間の位相差を検出するタップの位相差検出方法を提供することを目的としたものである。
また、本開示の他の目的は、当該タップの位相差検出方法を用いて、中断した雌ねじ加工に対して継続して加工を実施できる雌ねじ加工方法を提供することを目的としたものである。
また、本開示の他の目的は、当該タップの位相差検出方法を実施できるタップの位相差検出装置を提供することを目的としたものである。
また、本開示の他の目的は、当該タップの位相差検出装置を用いて、中断した雌ねじ加工に対して継続して加工を実施できる雌ねじ加工装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示の第1の構成は、タップの位相差検出方法であって、複数のタップ間の位相差を検出する方法であって、タップが取り付けられる主軸の軸方向であって、タップに設けられた不完全ねじ部側から、不完全ねじ部の輪郭線を取得可能なセンサを用いて、あるタップを基準タップとして、基準タップが、センサにより輪郭線を取得可能な位置に位置決めされた後、センサにより輪郭線が取得され、その輪郭線を基準輪郭線とし、他のタップが、センサにより輪郭線を取得可能な位置に位置決めされた後、センサにより輪郭線が取得され、取得された他のタップの輪郭線を回転させ、基準輪郭線と一致した時の回転角度を、基準タップと他のタップとの位相差として取得することを特徴とする。
本開示の第1の構成の別の様態は、上記構成において、センサは、カメラであることを特徴とする。
本開示の第1の構成の別の様態は、上記構成において、センサは、レーザセンサであることを特徴とする。
本開示の第1の構成の別の様態は、上記構成において、基準輪郭線は、予めセンサにより取得され、記憶された基準タップの基準輪郭線のデータであることを特徴とする。
本開示の第1の構成の別の様態は、上記構成において、基準タップは、他のタップと同一径且つ同一ピッチのものであり、基準輪郭線は、基準タップの加工開始時に取得されたものであることを特徴とする。
上記目的を達成するために、本開示の第2の構成は、ワークに雌ねじ加工を行う雌ねじ加工方法であって、取得された位相差を用いて、他のタップを用いた加工開始時の主軸及び/又は他の回転軸の回転位置を、位相差を補正するよう位相差分、回転させてから加工を実施することを特徴とする。
上記目的を達成するために、本開示の第3の構成は、タップの位相差検出装置であって、タップが取り付けられる主軸の軸方向であって、タップに設けられた不完全ねじ部側から、不完全ねじ部の輪郭線を取得可能なセンサを備え、あるタップを基準タップとして、基準タップを、センサにより輪郭線を取得可能な位置に位置決めした後、センサにより輪郭線を取得し、その輪郭線を基準輪郭線とし、他のタップを、センサにより輪郭線を取得可能な位置に位置決めした後、センサにより輪郭線を取得し、取得された他のタップの輪郭線を回転させ、基準輪郭線と一致した時の回転角度を、基準タップと他のタップとの位相差として取得することを特徴とする。
本開示の第3の構成の別の態様は、上記構成において、センサは、カメラであることを特徴とする。
本開示の第3の構成の別の態様は、上記構成において、センサは、レーザセンサであることを特徴とする。
本開示の第3の構成の別の態様は、上記構成において、基準輪郭線は、予めセンサにより取得され、記憶された基準タップの基準輪郭線のデータであることを特徴とする。
本開示の第3の構成の別の態様は、上記構成において、基準タップは、他のタップと同一径且つ同一ピッチのものであり、基準輪郭線は、基準タップの加工開始時に取得されたものであることを特徴とする。
上記目的を達成するために、本開示の第4の構成は、ワークに雌ねじ加工を行う雌ねじ加工装置であって、雌ねじ加工装置であって、取得された位相差を用いて、他のタップを用いた加工開始時の主軸及び/又は他の回転軸の回転位置を、位相差を補正するよう位相差分、回転させてから加工を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の第1及び3の開示によれば、異なるタップ間において、それぞれ取得された輪郭線を回転させ、輪郭線が一致するまでの回転角度を位相差として取得するという工程により、簡便にタップの位相差を検出できる。また、タップの不完全ねじ部の輪郭線を取得可能なセンサを装置に設置することで、異なるタップ間での位相差を検出可能となるため、従来用いられていたゲージのような専用の装置が必要なくなる。加えて、装置に位相差検出のためのセンサを設けることで、位相差の検出から、タップ間での位相を一致させた加工の開始までを自動化することができるため、生産性が向上する。
本発明の第2及び4の開示によれば、異なるタップ間の位相差が容易に検出可能であるため、中断したタップ加工を交換された他のタップを用いて継続加工したり、複数の他のタップを用いて同位相の雌ねじを複数加工する際、専用の装置を用いるような煩雑な作業を必要とすることなく、基準タップと他のタップとの位相を一致させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例の工作機械の要部を示す説明図である。
【
図4】カメラにより撮影された基準タップの画像の説明図である。
【
図5】カメラにより撮影された他のタップの画像の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、実施例の工作機械の要部を示す説明図である。なお、
図1に示す工作機械では、カバー及びその他の設備を省略しているが、実際には、図示を省略したカバー及びその他の設備を備えるものである。また、
図1では、後述する主軸2の軸方向をZ軸方向とし、Z軸と直交して紙面に平行な方向をX軸方向とし、Z軸と直交し、且つX軸と直交する方向、すなわち紙面奥行き方向をY軸方向とする。
【0010】
実施例の工作機械は、タップ加工機としてのマシニングセンタMであり、
図1に示すように、X軸、Y軸及びZ軸に沿った直交3軸動作が可能な主軸頭1を備えている。主軸頭1は、回転可能な主軸2を具備しており、主軸2の先端部に工具ホルダ3を装着している。工具ホルダ3は、タップ4を把持している。マシニングセンタMは、主軸2の回転と、主軸頭1の送り動作とを含む動作をコントロール可能なNC装置5を備えている。NC装置5は、マシニングセンタMの動作制御を担う機械動作制御部6の他にも、位相取得部7、位相記憶部8、位相差算出部9及び位相差補正部10等の機能を有している。
マシニングセンタMは、NC装置5で主軸2の回転と主軸頭1の送り動作とを制御して、テーブル11上に固定されたワークWにタップ4で雌ねじ加工を行うものである。
【0011】
テーブル11には、センサとしてのカメラ12が、撮影方向がZ軸方向と平行になるように設置されている。カメラ12は、NC装置5に接続されており、マシニングセンタMと同期した制御が可能である。
【0012】
図2は、タップの形状を示す説明図であり、タップの一部が図示されたものである。
タップ4は、
図2に示されるように、ワークWをねじ山に加工する刃部13と切屑を穴外に排出するために軸方向に延びる溝14とを有する。また、刃部13には、不完全ねじ部15と、加工中にガイドの役割を果たす完全ねじ部16と、を有する。
【0013】
ワークWに雌ねじを形成するタップ加工において、雌ねじの位相は、加工開始時のタップ4の位相により決定される。主軸2は、NC装置5により任意の回転位置に位置決め可能であるが、タップ4を工具ホルダ3に取り付ける際の位相は、一般的に一意でない。そのため、雌ねじの位相を検出する場合、タップ4及び工具ホルダ3を主軸2に装着した後で位相を検出することが望ましい。
【0014】
続いて、本開示におけるタップの位相差検出方法について説明する。
図3は、タップとカメラの関係を示す説明図である。
図4は、撮影された基準タップの画像の説明図であり、
図5は、撮影された他のタップの画像の説明図である。
タップ4の位相を検出する際、
図3に示すように、タップ4の不完全ねじ部15側から不完全ねじ部15が撮影されるように、タップ4がカメラ12に対して位置決めされる。このとき、タップ4は、軸方向がZ軸と平行であり、且つ
図4,5に示すように、軸方向から見たタップ4の輪郭がカメラ12の撮影範囲に収まる位置に位置決めされる。従って、タップ4が、カメラ12に対して
図3に示すように位置決めされることで、カメラ12は、
図4,5に示すような不完全ねじ部15の刃部13の輪郭線を画像データとして取得可能となる。
なお、本実施例ではテーブル11上にカメラ12が設置されているが、工具マガジン等、切削水や切粉の影響がない場所にカメラ12が設置されても良い。
【0015】
次に、異なるタップ間の位相差を求める方法について説明する。ここでは、
図4に示すタップ4を基準タップ4aとし、
図5に示す他のタップ4bとの間での位相差を求める場合を想定し、説明する。
まず、基準タップ4aが上述のように位置決めされ、基準タップ4aの輪郭線を撮影した画像データが取得される。取得された基準タップ4aの輪郭線が、
図4に二点鎖線で示す基準輪郭線である。続いて、他のタップ4bも上述のように位置決めされ、その輪郭線を撮影した画像データが取得される。タップ4の不完全ねじ部15は、刃毎に形状が異なるため、輪郭線も刃毎に異なる。従って、
図5に示す他のタップ4bの輪郭線の画像データを回転させ、
図5において二点鎖線にて示す基準輪郭線の画像データと一致した時の回転角度を位相差算出部9で算出することで、基準タップ4aと他のタップ4bとの位相差を求めることができる。つまり、
図4,5に示すように、輪郭線と、輪郭線取得時の主軸2の回転位置に基づき、基準タップ4aの位相(基準位相)を線分L1として表し、他のタップ4bの位相を線分L2として表したとすると、線分L1と線分L2との間の角度θを位相差として取得する。
なお、上記説明では、基準輪郭線として、カメラ12により撮影された基準タップ4aの画像データを用いたが、基準輪郭線として、予め位相記憶部8に記憶されたデータが用いられても良い。例えば、まず、基準タップ4aの位置決め時における主軸2の回転位置から、位相取得部7で基準タップ4aの位相(基準位相)が取得され、位相記憶部8に記憶される。そして、位相記憶部8において、予め位相記憶部8に記憶された基準タップ4aの図面等の設計データと、記憶された基準位相とから基準輪郭線が設定され、データとして記憶される。このようにして記憶された基準輪郭線のデータと、カメラ12により撮影された他のタップ4bの輪郭線の画像データとの比較から、基準タップ4aと他のタップ4bとの位相差が求められても良い。
【0016】
以上のように、異なるタップ4a,4b間において、それぞれ取得された輪郭線を回転させ、輪郭線が一致するまでの回転角度を位相差として取得するという工程により、簡便にタップ4a,4bの位相差を検出できる。また、タップ4の不完全ねじ部15の輪郭線を取得可能なカメラ12をマシニングセンタMに設置することで、異なるタップ4a,4b間での位相差を検出可能となるため、従来用いられていたゲージのような専用の装置が必要なくなる。加えて、マシニングセンタMに位相差検出のためのカメラ12を設けることで、位相差の検出から、タップ4a,4b間での位相を一致させた加工の開始までを自動化することができるため、生産性が向上する。
【0017】
次に、マシニングセンタMによる具体的なタップ加工方法、特に基準タップ4aを用いた加工中に異常検知等で中断した雌ねじ加工を、交換された他のタップ4bを用いて、継続して実施する方法について説明する。
図6は、タップ加工方法のフローチャートである。
なお、タップ加工方法に係る以下の説明において、タップ4の工具長は、ツールセッターやツールプリセッター等を用いて予め設定されているものとする。
【0018】
まず、タップ4が、主軸2に工具ホルダ3を用いて取り付けられる。最初に主軸2に取り付けられるタップ4を基準タップ4aとする。基準タップ4aは、設定された工具長に基づいて、カメラ12による不完全ねじ部15の撮影が可能な位置に位置決めされる。さらに、加工開始時の回転位置に主軸2が割り出される。その後、カメラ12により、基準タップ4aの基準輪郭線が撮影される(S1)。基準輪郭線の撮影時における主軸2の回転位置が、主軸2の基準位置である。撮影された基準輪郭線の画像データは、基準位置と共に、位相記憶部8に記憶される。
【0019】
基準輪郭線の撮影後、基準タップ4aを用いたワークWのタップ加工が実施される(S2)。その後、基準タップ4aを用いたタップ加工中に、例えば切削負荷上昇の検知といった異常検知等により加工が中断したとする(S3)。異常の原因がタップ4にある場合、基準タップ4aから新たに他のタップ4bに交換することで、継続して加工を実施することが可能となる。そこで、検知された異常を解消するために、基準タップ4aと、基準タップ4aと同一径且つ同一ピッチの加工が可能な他のタップ4bとの交換が実行され、他のタップ4bが主軸2に装着される。
【0020】
他のタップ4bは、主軸2に装着された後、設定された工具長に基づいて、カメラ12による不完全ねじ部15の撮影が可能な位置に位置決めされる。その後、カメラ12により、他のタップ4bの輪郭線が撮影される(S4)。
引き続き、位相差算出部9において、S4で撮影された他のタップ4bの輪郭線の画像データを回転させ、位相記憶部8に記憶された基準輪郭線の画像データと一致した時の回転角度が算出される。そして、当該回転角度が、基準タップ4aと他のタップ4bとの位相差として取得される(S5)。
【0021】
その後、中断されていたタップ加工が、他のタップ4bを用いて再開される際、位相差補正部10により、S5で取得された位相差に基づいて、他のタップ4bが取り付けられた主軸2の回転位置が、基準位置との間で位相差がなくなるように、位相差分、回転され、補正される。その後、加工が中断されたワークWに対してタップ加工が再開される(S6)。これにより、他のタップ4bを用いても、基準タップ4aと同位相でのタップ加工が継続可能となる。
【0022】
以上のように、異なるタップ4a,4b間の位相差が容易に検出可能であるため、中断したタップ加工を交換された他のタップ4bで継続加工する際、専用の装置を用いるような煩雑な作業を必要とすることなく、基準タップ4aと他のタップ4bとの位相を一致させることができる。
【0023】
以上は、本開示を図示例に基づいて説明したものであり、その技術範囲はこれに限定されるものではない。例えば、上記実施例は、タップ加工の途中で異常を検知した場合の中断からの復帰方法を示したものであるが、本開示のタップの位相差検出方法は、複数の他のタップを用いて同位相の雌ねじを複数加工する等、別の目的で使用されても良い。
また、センサは、タップの不完全ねじ部の輪郭線を取得可能であれば、カメラ以外にも、レーザセンサ等を採用しても良い。
また、回転軸は、基準位置の検出やタップ間での位相同期が可能であれば、主軸以外にも、例えばテーブルに設けられても良い。
【符号の説明】
【0024】
2・・主軸(回転軸)、4・・タップ、4a・・基準タップ、4b・・他のタップ、12・・カメラ(センサ)、15・・不完全ねじ部、M・・マシニングセンタ。