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特開2024-5798野菜の食感改良剤およびそれを用いる野菜の食感の改良方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005798
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】野菜の食感改良剤およびそれを用いる野菜の食感の改良方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/153 20060101AFI20240110BHJP
   A23B 7/154 20060101ALI20240110BHJP
   A23B 7/157 20060101ALI20240110BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20240110BHJP
【FI】
A23B7/153
A23B7/154
A23B7/157
A23L19/00 Z
A23L19/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106175
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】太田 雅文
(72)【発明者】
【氏名】北澤 大典
【テーマコード(参考)】
4B016
4B169
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LC06
4B016LG10
4B016LK01
4B016LK03
4B016LK10
4B169HA09
4B169KC18
4B169KC33
4B169KC38
(57)【要約】
【課題】簡便に、野菜の食感の向上が可能な野菜の食感改良剤を提供すること。
【解決手段】エタノールおよび塩化ナトリウムを含有する野菜の食感改良剤。野菜の食感改良剤は、さらにベタインおよび/またはカルシウム化合物を含有してもよい。使用時のエタノールの濃度は好ましくは0.001重量%~15重量%であり、使用時の塩化ナトリウムの濃度は好ましくは0.0001重量%~10重量%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールおよび塩化ナトリウムを含有する野菜の食感改良剤。
【請求項2】
生の野菜に吸収させて使用するための、生食用生野菜および/または加熱加工後の野菜の食感改良剤である、請求項1に記載の野菜の食感改良剤。
【請求項3】
使用時のエタノールの濃度が0.001重量%~15重量%であり、使用時の塩化ナトリウムの濃度が0.0001重量%~10重量%である請求項1に記載の野菜の食感改良剤。
【請求項4】
さらにベタインおよび/またはカルシウム化合物を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の野菜の食感改良剤。
【請求項5】
エタノールおよび塩化ナトリウムを野菜に吸収させることを含む、野菜の食感の改良方法。
【請求項6】
生食用生野菜および/または加熱加工後の野菜の食感の改良方法であり、エタノールおよび塩化ナトリウムを生の野菜に吸収させる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
野菜に吸収させるときに使用する溶液中のエタノールの濃度が0.001重量%~15重量%であり、塩化ナトリウムの濃度が0.0001重量%~10重量%である請求項5に記載の方法。
【請求項8】
エタノールおよび塩化ナトリウムを、ベタインおよび/またはカルシウム化合物と共に野菜に吸収させる、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
水耕栽培時にエタノールおよび塩化ナトリウムを含有する溶液を灌水または散布することによって野菜に吸収させる、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記溶液がさらにベタインおよび/またはカルシウム化合物を含有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
エタノールおよび塩化ナトリウムを含有する水溶液に野菜を浸漬することを含む、野菜の食感の改良方法。
【請求項12】
水溶液が、0.01重量%~3重量%のエタノールおよび0.01重量%~2重量%の塩化ナトリウムを含有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
水溶液がさらにベタインおよび乳酸カルシウムを含有する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
水溶液が、
0.01重量%~3重量%のエタノール、
0.01重量%~2重量%の塩化ナトリウム、
0.01重量%~2重量%のベタイン、および
0.01重量%~2重量%の乳酸カルシウムを含有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
2~10℃で前記水溶液に野菜を浸漬する、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記水溶液に野菜を浸漬した後、野菜を水で洗浄することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
水で洗浄した野菜を2~10℃で保存することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項5~17のいずれか1項に記載の方法で処理された野菜。
【請求項19】
エタノールおよび塩化ナトリウムを生の野菜に吸収させることを含む、食感が改良された、生食用生野菜および/または加熱加工後の野菜の製造方法。
【請求項20】
エタノールおよび塩化ナトリウムを、ベタインおよび/またはカルシウム化合物と共に生の野菜に吸収させる、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜の食感改良剤およびそれを用いる野菜の食感の改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生野菜をカットし、包装したもの、いわゆるカットサラダがスーパーなどで多く販売されている。これらの野菜は数日で変色したり、食感がシナシナしてきたりするため、消費期限は発売後だいたい3~4日程度に設定されており、売れ残った商品は廃棄される。近年のフードロス削減の機運が高まり、少しでも鮮度を保持できる技術に対する要望が強くなってきている。野菜は生野菜、加熱野菜どちらもシャキシャキした食感と野菜本来の色が保持されることが好ましいとされる。これら2つの要因のうち、色の保持技術に関しては多くの先行技術が知られているが、食感を保持することは技術的に難易度が高く、これまでに有効な技術は少なかった。
【0003】
一般的にカット野菜は洗浄後スピナー等遠心分離法により水分を除去し、細菌の繁殖を抑えている。包装後も酸素を除去して保存性の向上に努めている。しかし、野菜はカット後でも生存しているため、店頭に並ぶと照明の光で光合成が始まり、酸素を放出し、水分が足らなくなるなど、野菜にとって環境が悪くなっていく。このためカットした面から褐変が始まり、水分の蒸発などで次第にシナシナしてくる。
野菜炒めの場合、加熱調理後は調味料の影響で野菜の浸透圧が高くなり、野菜内の水分が溶出し、数日後にはシナシナしてくるため離水も多くなり、見た目も食感も悪くなり、消費期限が短い原因となっている。
以上のように、生野菜のカットサラダや加熱調理野菜の食感低下を解決することはフードロス削減の観点から食品産業上重要な課題となっている。
【0004】
これまでに、野菜からの離水を抑えてシャキシャキとした食感を向上させることを目的としたいくつかの方法が考案されている。
生野菜の鮮度保持技術に関しては、特許文献1(特許第3769645号公報)の氷酢酸、酢酸ナトリウムとミョウバンの混合物が知られている。氷酢酸と酢酸ナトリウムの混合物では生菌数は減少するもののしなりの防止効果が得られないが、これにミョウバンを加えるとしなりの防止効果が得られるという。しかしミョウバンはアルミニウム塩であり、ユーザーからは敬遠され、できれば使用したくない素材である。
【0005】
また、カルシウム塩を用いた例がいくつか発表されている。
例えば加熱野菜では、冷凍野菜などを解凍後にカルシウム塩と、有機酸塩、グリシン、低級脂肪酸モノグリセリド、ポリリジン、プロタミン、リゾチームおよび孟宗竹抽出物から選択される1種または2種以上の物質とを混合した水溶液に浸漬してボイルすると、ボイル野菜の軟化、煮崩れ、褐変抑制に効果があることが知られている(特許文献2:特開2001-112411号公報)。カルシウム塩は細胞壁ペクチンのカルボキシル基と配位し、ペクチンの立体構造を強固にすることで細胞壁を強化すると考えられている。しかし、カルシウム塩を用いると、食感は硬くなるものの、必ずしも好ましい硬さにならず、独特の強い繊維感やえぐみなども感じられる。特に生の状態ではこの傾向が著しく、カルシウムを中心とした配合には限界がある。以上のように、野菜を生の状態でシャキシャキした食感に改良できる既存の技術はあまり例がなく、カルシウム塩と異なるメカニズムの食感改良剤を探索し、これらとの併用によってより好ましい食感の実現が可能と考えられる。
【0006】
一方で、野菜を生の状態のときにバリン水溶液に浸漬し、洗浄後、加熱加工すると、無処理の時と比べてシャキシャキした食感が得られるという技術が知られている(特許文献3:特許第6631511号公報)。さらに植物の栽培時に、バリン、ロイシン、イソロイシン、α-ケトイソ吉草酸などの化合物を含む、植物高温ストレス耐性付与剤を施用することにより、植物はヒートショックタンパク質などを発現し、細胞を強化するほか、高温条件栽培時におけるクロロフィル分解や、細胞死を抑制できることも知られており(特許文献4:特開2012-197249号公報)、カルシウム以外で、野菜が生きている状態で自らの組織を強化させるような素材は有効であることが示唆されている。
【0007】
しかしながらバリンは高価であるため配合時に多く混合することができない。さらにはバリンを含む処理剤では処理時間が少なくとも3時間を要するため、実用化が難しい。そこで短時間処理で野菜を生の状態でシャキシャキさせることができる、バリンより安価、またはバリンより力価の高い素材が求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3769645号公報
【特許文献2】特開2001-112411号公報
【特許文献3】特許第6631511号公報
【特許文献4】特開2012-197249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、簡便に、野菜の食感の向上が可能な野菜の食感改良剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、非加熱調理または加熱調理加工の前にエタノールおよび塩化ナトリウムを野菜に吸収させると、短時間で野菜の食感を向上させることを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1] エタノールおよび塩化ナトリウムを含有する野菜の食感改良剤。
[2] 生の野菜に吸収させて使用するための、生食用生野菜および/または加熱加工後の野菜の食感改良剤である、[1]に記載の野菜の食感改良剤。
[3] 使用時のエタノールの濃度が0.001重量%~15重量%であり、使用時の塩化ナトリウムの濃度が0.0001重量%~10重量%である[1]または[2]に記載の野菜の食感改良剤。
[4] さらにベタインおよび/またはカルシウム化合物を含有する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の野菜の食感改良剤。
[5] エタノールおよび塩化ナトリウムを野菜に吸収させることを含む、野菜の食感の改良方法。
[6] 生食用生野菜および/または加熱加工後の野菜の食感の改良方法であり、エタノールおよび塩化ナトリウムを生の野菜に吸収させる、[5]に記載の方法。
[7] 野菜に吸収させるときに使用する溶液中のエタノールの濃度が0.001重量%~15重量%であり、塩化ナトリウムの濃度が0.0001重量%~10重量%である[5]または[6]に記載の方法。
[8] エタノールおよび塩化ナトリウムを、ベタインおよび/またはカルシウム化合物と共に野菜に吸収させる、[5]~[7]のいずれか1つに記載の方法。
[9] 水耕栽培時にエタノールおよび塩化ナトリウムを含有する溶液を灌水または散布することによって野菜に吸収させる、[5]~[7]のいずれか1つに記載の方法。
[10] 前記溶液がさらにベタインおよび/またはカルシウム化合物を含有する、[9]に記載の方法。
[11] エタノールおよび塩化ナトリウムを含有する水溶液に野菜を浸漬することを含む、野菜の食感の改良方法。
[12] 水溶液が、0.01重量%~3重量%のエタノールおよび0.01重量%~2重量%の塩化ナトリウムを含有する、[11]に記載の方法。
[13] 水溶液がさらにベタインおよび乳酸カルシウムを含有する、[11]または[12]に記載の方法。
[14] 水溶液が、
0.01重量%~3重量%のエタノール、
0.01重量%~2重量%の塩化ナトリウム、
0.01重量%~2重量%のベタイン、および
0.01重量%~2重量%の乳酸カルシウムを含有する、[13]に記載の方法。
[15] 2~10℃で前記水溶液に野菜を浸漬する、[11]~[14]のいずれか1つに記載の方法。
[16] 前記水溶液に野菜を浸漬した後、野菜を水で洗浄することを含む、[11]~[15]のいずれか1つに記載の方法。
[17] 水で洗浄した野菜を2~10℃で保存することを含む、[16]に記載の方法。
[18] [5]~[17]のいずれか1つに記載の方法で処理された野菜。
[19] エタノールおよび塩化ナトリウムを生の野菜に吸収させることを含む、食感が改良された、生食用生野菜および/または加熱加工後の野菜の製造方法。
[20] エタノールおよび塩化ナトリウムを、ベタインおよび/またはカルシウム化合物と共に生の野菜に吸収させる、[19]に記載の方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の野菜の食感改良剤(以下、単に「食感改良剤」と記載することがある。)は、エタノールおよび塩化ナトリウムを有効成分として含む。
【0014】
食感改良剤は、エタノールおよび塩化ナトリウムの両方を含んでおり、さらにベタインおよび/またはカルシウム化合物を含んでいてもよい。
【0015】
本発明で用いる物質は、食品として認可されるものであれば、一般に食品添加物として販売されているものであってもよく、発酵法で製造した精製品もしくは粗精製品、または精製過程で生じる副生物であってもよく、海産物や植物からの抽出物など、上記以外の物質を含む混合物であってもよい。
【0016】
本発明で用いるエタノールとしては、食品添加物のエタノールや、酒類等が挙げられる。
【0017】
本発明で用いられる塩化ナトリウムとしては、食品添加物の高純度の塩化ナトリウムや、海水を濃縮乾固させて製造された食塩や岩塩等が挙げられる。
【0018】
本発明で用いられるカルシウム化合物の種類は特に制限はないが、例えばカルシウム塩、カルシウム酸化物、カルシウム錯体等が挙げられる。カルシウム塩またはカルシウム酸化物としては、例えば乳酸カルシウム、グルタミン酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、酸化カルシウム、ステアリン酸カルシウム、貝殻焼成カルシウム、貝殻未焼成カルシウム、酢酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウム、クエン酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム等が挙げられる。カルシウム化合物としては、カルシウム塩が好ましく、塩化カルシウムがより好ましい。
【0019】
本発明で用いられるベタイン(グリシンベタインまたはトリメチルグリシンともいう)としては、甜菜から抽出されたベタインや、麦、キノコ、エビからの抽出物等が挙げられる。
【0020】
食感改良剤中の有効成分の含有量は特に制限されず、使用時に本発明の効果を奏するのに必要な濃度で野菜を処理することができるものであればよい。「有効成分として含む」とは、このように、使用時の食感改良剤が本発明の効果を奏するのに必要な量で有効成分を含むことを意味する。
本発明の食感改良剤は、使用時に野菜を処理することができるものである限り、剤型等は特に制限されず、溶液であってもよく、ペースト状、粉状、固形状であってもよい。食感改良剤は、使用時はいずれの形状であってもよいが、溶液であることが好ましい。食感改良剤がペースト状、粉状または固形状の場合は、水に溶解または懸濁して使用することができる。また、食感改良剤が溶液の場合は、適宜希釈して使用することができる。食感改良剤が他の形態の場合は、溶液、粉末または固形の場合に準じて適宜溶液を調製すればよい。
【0021】
食感改良剤を水溶液として使用するときのエタノールの濃度は、好ましくは0.001重量%~15重量%、より好ましくは0.005重量%~10重量%、さらに好ましくは0.01重量%~3重量%である。
またエタノールの濃度が20重量%を超えるとエタノール臭が強くなり、官能上好ましくないため15重量%以下が望ましい。
【0022】
食感改良剤を水溶液として使用するときの塩化ナトリウムの濃度は、好ましくは0.0001重量%~10重量%、より好ましくは0.0005重量%~5重量%、さらに好ましくは0.001重量%~2重量%、特に好ましくは0.01重量%~2重量%である。
【0023】
上記有効成分を上記濃度で含む食感改良剤で野菜を処理すると、未処理の野菜と比べて、生の状態の野菜、加熱加工後の野菜、または冷凍・解凍後の野菜の食感を向上させることができる。
【0024】
本発明で「食感改良」または「食感向上」とは、野菜が本来有する食感を維持および/または向上し、シャキシャキした好ましい食感をもたらすことをいう。本発明で「離水」とは、野菜の有する水分が、生の状態での保存、加熱加工、冷凍・解凍処理等により、細胞外へ流出することをいう。
【0025】
食感改良剤がベタインを含有する場合、使用時のベタインの濃度は、好ましくは0.001重量%~10重量%、より好ましくは0.005重量%~5重量%、さらに好ましくは0.01重量%~2重量%である。
【0026】
食感改良剤に含まれるカルシウム化合物は、単一であってもよく、複数種類のカルシウム化合物の混合物であってもよい。単一のカルシウム化合物を含む場合は、使用時の濃度として好ましくは0.005重量%~4重量%、より好ましくは0.01重量%~2重量%である。また、複数のカルシウム化合物を含有する場合には、合計量が前記範囲であることが好ましい。
【0027】
本発明の食感改良剤は、本発明の効果を損なわない限り、食感向上効果を有する他の物質を含有していてもよい。また、本発明の食感改良剤は、食感向上効果に影響しない物質を含有していてもよい
【0028】
食感改良剤で処理する野菜は特に制限されないが、サラダバイキングに用いられる野菜、コンビニエンスストアのカット野菜によく用いられる野菜、さらに加熱調理後、および/または、冷凍・解凍処理後に食感が低下し、または離水しやすい野菜が挙げられる。特に、シャキシャキ感や歯ごたえが求められる野菜が好適である。具体的には、例えば、レタス(玉レタス、リーフレタス、サニーレタス、サラダ菜など)、キャベツ、カラーピーマン、パプリカ、タマネギ(レッドオニオン含む)、ミズナ、ホウレンソウ(サラダホウレンソウ含む)、キュウリ、モヤシ(緑豆モヤシ、大豆モヤシ等)、ゴーヤ、ブロッコリー、ハクサイ、ニンジン、ピーマン、ジャガイモ、ニラ、インゲン等が挙げられる。
上記野菜のうち、加熱調理の前処理に好適なものとしては、モヤシ、タマネギ、ブロッコリー、キャベツ、ニンジン、ニラ、および、インゲン等の野菜が挙げられる。また、冷凍処理の前処理に好適なものとしては、タマネギ、ニンジン、ジャガイモ、ピーマン、キャベツ等の野菜が挙げられる。さらに、前記野菜は、加熱調理後に冷凍処理される場合も、生の状態での前処理が有効である。
加工に用いる野菜は、新鮮なものであることが好ましいが、収穫後ある程度時間が経過した野菜であってもよい。
【0029】
食感改良剤による野菜の処理は、有効成分を葉から吸収させてもよく、根から吸収させてもよい。すなわち、食感改良剤が野菜表面に接触することができれば特に制限されないが、例えば、野菜を食感改良剤溶液に浸漬すること、食感改良剤溶液を霧吹き等で噴霧して野菜に液滴を付着させること、および、食感改良剤溶液を野菜に塗布すること等が挙げられる。野菜を食感改良剤溶液に浸漬する場合は、野菜表面に液が接触するように振とうしてもよい。さらに水耕栽培時に他の液体肥料などと混合して有効成分を根から吸収させてもよく、葉面散布してもよい。
食感改良剤がペースト状または粉状の場合は、それらを水に溶解して溶液として用いてもよいが、直接野菜表面に食感改良剤を塗布または散布してもよい。また、食感改良剤が固形状の場合は、粉砕して野菜表面に散布してもよい。
食感改良剤で処理する野菜は、大きいままでもよいが、食感改良剤が浸透しやすいように、または表面積を増やすように、適当な大きさにカットしても細胞が生きている限り、効果を十分に発揮させることができる。
【0030】
本発明の使用方法は、例えば外食チェーン向け野菜の加工会社で野菜をカットする前に本発明の有効成分を含む浸漬液に野菜を浸漬させることや、野菜をカットした後、洗浄水プールで洗浄する工程において、その洗浄水に本発明の有効成分溶液を混合することや、洗浄後、包装までの短時間に本発明の有効成分を含む浸漬液に短時間浸漬させ、その後スピナーで水分を除去する方法など、いくつかの工程の中で状況に応じて処理することなどが挙げられる。
【0031】
食感改良剤を溶液で使用する場合の使用量は、処理対象となる野菜表面に溶液が十分付着できる量であれば特に制限されない。通常、処理対象となる野菜の新鮮重量100gに対して処理液量が25mL以上、好ましくは50mL以上であることが好ましい。食感改良剤が他の形態の場合は、野菜の表面に有効成分の量として、通常0.0001g~0.1g/cm、好ましくは0.001g~0.01g/cmである。
【0032】
食感改良剤による野菜の必要処理時間は、処理対象となる野菜の種類によっても異なるが、野菜に有効成分が浸透し、生の状態で、または加熱調理後に本発明の効果が奏される限り特に制限されない。通常、室温または冷蔵温度(2-10℃)において5分以上、好ましくは15分以上、さらに好ましくは30分以上である。処理時間の上限は本発明の効果が損なわれない限り特に制限されない。
【0033】
前処理終了後は水で食感改良剤を簡単に洗浄することが好ましい。浸漬時間が短い場合は浸漬後一定時間室温または冷蔵で放置することで効果を十分に発揮させたのちに水洗することも可能である。洗浄後は、サラダ用スピナー等を用いて野菜の水切りを行っても効果を発揮することができる。水で洗浄した野菜は、例えば、室温または冷蔵温度(2-10℃)で保存することができる。
【0034】
本発明の食感改良剤で処理された野菜は、その直後、または短時間内に加熱調理してもよく、生のまま加熱用野菜として流通させてもよい。また、本発明の食感改良剤で処理された野菜は、その直後、または短時間内に冷凍処理し、そのまま冷凍野菜として流通させてもよい。さらに、本発明の食感改良剤で処理された野菜は、加熱調理および冷凍処理し、加熱調理済冷凍野菜として流通させてもよい。
【0035】
本発明の食感改良剤で処理された野菜を加熱調理、および/または、冷凍・解凍処理すると、非処理の野菜と比べて、野菜の食感を向上させ、かつ/または、離水を防止することができる。したがって、食感が向上された加熱調理野菜、冷凍野菜、または加熱調理済冷凍野菜を製造することができる。加熱調理野菜とは、野菜のみを含むものであってもよく、野菜に加えて野菜以外の食材を含むものであってもよい。加工が加熱調理の場合、加熱調理の方法は特に制限されず、炒める、茹でる(煮る)、焼く、蒸す、揚げる等の方法が挙げられる。
【0036】
野菜の水耕栽培時に本発明の食感改良剤を用いる場合は、根から吸収させてもよく、霧吹き等で噴霧して野菜に液滴を付着させること等も使用方法として挙げられる。
【0037】
根から吸収させる際の、食感改良剤による野菜を処理するタイミングは、処理対象となる野菜の種類によっても異なるが、野菜に有効成分が浸透し、成長に何ら支障をきたさなければ、本発明の効果が奏される限り特に制限されない。通常、収穫の5日前、好ましくは3日前、より好ましくは1日前が好ましい。処理時間の上限は、本発明の効果が損なわれない限り特に制限されないが、必要以上の時間、例えば6日以上、多量の処理溶液を野菜に吸収させ続けると、養液が過剰に野菜に吸収され、野菜の品質に影響を及ぼすことがある。したがって、処理時間は通常5日以内、好ましくは3日以内、より好ましくは1日以内であることが好ましい。もしくは野菜の種類に応じて食感改良剤を適宜希釈してよい。
【0038】
本発明の有効成分溶液が水耕栽培時に野菜に吸収されれば、通常の外食チェーン向け野菜の一次加工会社における野菜サラダ製造プロセスで実施されている、カット、殺菌、洗浄、脱水包装工程等を何ら変える必要がない。
【0039】
エタノールおよび塩化ナトリウムを含有する食感改良剤の好ましい態様としては、使用時の濃度として、
エタノール0.001重量%~15重量%、および
塩化ナトリウム0.0001重量%~10重量%が挙げられる。
さらに好ましい態様としては、使用時の濃度として、
エタノール0.005重量%~10重量%、および
塩化ナトリウム0.0005重量%~5重量%が挙げられる。
さらにより好ましい態様としては、使用時の濃度として、
エタノール0.01重量%~3重量%、および
塩化ナトリウム0.01重量%~2重量%が挙げられる。
【0040】
(1)エタノール、(2)塩化ナトリウム、ならびに(3)ベタインおよび/またはカルシウム化合物を含有する食感改良剤の好ましい態様としては、使用時の濃度として、
(1)エタノール0.001重量%~15重量%、
(2)塩化ナトリウム0.0001重量%~10重量%、ならびに
(3)ベタイン0.001重量%~10重量%および/または
カルシウム化合物0.005重量%~4重量%が挙げられる。
さらに好ましい態様としては、使用時の濃度として、
(1)エタノール0.005重量%~10重量%、
(2)塩化ナトリウム0.0005重量%~5重量%、ならびに
(3)ベタイン0.005重量%~5重量%および/または
カルシウム化合物0.01重量%~2重量%が挙げられる。
【0041】
本発明の食感改良剤のさらにより好ましい態様としては、使用時の濃度として、
エタノール0.01重量%~3重量%、
塩化ナトリウム0.01重量%~2重量%、
ベタイン0.01重量%~2重量%、および
乳酸カルシウム0.01重量%~2重量%を含有する食感改良剤が挙げられる。
本発明の食感改良剤の特に好ましい態様としては、使用時の濃度として、
エタノール2重量%、
塩化ナトリウム0.5重量%、
ベタイン0.5重量%、および
乳酸カルシウム1重量%を含有する食感改良剤が挙げられる。
【実施例0042】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
〔実施例1〕
レタスに対する食感改良効果
(1)前処理
表1に記載の各成分を含む水溶液を調製した。各種混合液をカットし洗浄したレタスに混ぜたのち22℃にて30分浸漬した。コントロールとして水を添加したレタス(無処理区)を同様に処理した。次いで水洗し、水を切って5℃で6日間保存した。
【0044】
(2)官能評価結果
処理6日後、レタスを試食し、食感を比較した。無処理区を3点とし、2点(無処理区よりもやや柔らかい)、1点(無処理区よりも柔らかい)、4点(無処理区よりもややシャキシャキしている)、5点(無処理区よりもシャキシャキしている)の5点満点とし、0.1点刻みで評価した。被験者は2名でその平均点で評価した。
その結果、エタノールを2重量%以上15重量%以下含み、且つ塩化ナトリウムを0.5重量%以上2重量%以下含む水溶液で処理した場合、3.5点以上となり、食感改良に有効であることが明らかとなった。また、ベタイン(グリシンベタイン、以下も同じ)をさらに添加するとエタノール1重量%でも食感改良効果があることが分かった。さらに、エタノールおよび塩化ナトリウムにベタインおよび塩化カルシウムを併用するとエタノールと塩化ナトリウムが比較的少量でも食感改良効果が強まることも分かった。その結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
〔実施例2〕
千切りキャベツに対する食感改良効果
(1)前処理
表2に記載の各成分を含む水溶液を調製した。各種混合液を千切りして洗浄したキャベツに混ぜたのち22℃にて30分浸漬した。コントロールとして水を添加した千切りキャベツ(無処理区)を同様に処理した。次いで水洗し、水を切って5℃で6日間保存した。
【0047】
(2)官能評価結果
処理6日後、千切りキャベツを試食し、食感を比較した。無処理区を3点とし、2点(無処理区よりもやや柔らかい)、1点(無処理区よりも柔らかい)、4点(無処理区よりもややシャキシャキしている)、5点(無処理区よりもシャキシャキしている)の5点満点とし、0.1点刻みで評価した。被験者は2名でその平均点で評価した。
その結果、エタノールを2重量%以上重量12%以下含み、且つ塩化ナトリウムを0.5重量%以上2重量%以下含む水溶液で処理した場合、3.5点以上となり、食感改良に有効であることが明らかとなった。また、ベタイン単独では食感改良効果を示さなかったが、エタノール2重量%、且つ塩化ナトリウム0.5重量%の混合溶液にベタインを1重量%添加すると食感改良効果が強まった。その結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
〔実施例3〕
リーフレタスの水耕栽培時における処理方法
(1)リーフレタスの栽培と前処理
リーフレタス品種はリーフレタスグリーン(サカタのタネ)を用いて、種子をロックウールに播種した。インキュベーター(日本医化器械)で16時間電照、8時間暗黒状態とし、ハイポネックス液体肥料(ハイポネックス)500倍希釈液を与えて、4週間栽培した。次いで表3に記載の各成分を所定の濃度(0.5~4重量%)含む水溶液を、リーフレタス4個体に対して300gの量で根に与え、さらに24時間栽培を継続した。コントロールとして同量の水を根に与えたリーフレタス(無処理区)を同様に処理した。
次いで4個体の展開葉を全て収穫し、水洗後に水切りし、チャック付きビニール袋に入れ、5℃で7日間放置した。放置後、食感を比較した。
【0050】
(2)官能評価結果
収穫後7日目にリーフレタスの食感を比較した。食感は無処理区を3点とし、2点(無処理区よりもやや柔らかい)、1点(無処理区よりも柔らかい)、4点(無処理区よりもややシャキシャキしている)、5点(無処理区よりもシャキシャキしている)の5点満点とし、0.1点刻みで評価した。被験者は2名でその平均点で評価した。
その結果、エタノールを4重量%含み、且つ塩化ナトリウムを0.5重量%以上1重量%以下含む水溶液で処理した場合、3.1点以上となり、食感改良に有効であることが明らかとなった。また、ベタイン単独では食感改良効果を示さなかったが、エタノール2重量%-4重量%、且つ塩化ナトリウム0.5重量%の混合溶液にベタインを0.5重量%添加すると食感改良効果が強まった。表3に結果を示す(数字は養液中の重量%濃度)。
【0051】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、短時間の処理で生食用生野菜および/または加熱加工後の野菜の食感を向上させ、消費期限延長を可能とすることを見出した。本発明の野菜の食感改良剤は、安価に製造することができ、レストランのサラダバーやコンビニエンスストアのカット野菜や惣菜など、外食産業のニーズに対応することができる。