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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057992
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28F 3/12 20060101AFI20240418BHJP
   H01M 10/615 20140101ALI20240418BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20240418BHJP
   H01M 10/643 20140101ALI20240418BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20240418BHJP
   H01M 10/6567 20140101ALI20240418BHJP
   H01M 10/6571 20140101ALI20240418BHJP
   H01M 10/6557 20140101ALI20240418BHJP
   F28D 1/047 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
F28F3/12 Z
H01M10/615
H01M10/613
H01M10/643
H01M10/625
H01M10/6567
H01M10/6571
H01M10/6557
F28D1/047 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165057
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122529
【弁理士】
【氏名又は名称】藤枡 裕実
(74)【代理人】
【識別番号】100135954
【弁理士】
【氏名又は名称】深町 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100119057
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英生
(74)【代理人】
【識別番号】100131369
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100171859
【弁理士】
【氏名又は名称】立石 英之
(72)【発明者】
【氏名】冨手 政寛
(72)【発明者】
【氏名】榎本 淳
【テーマコード(参考)】
3L103
5H031
【Fターム(参考)】
3L103AA11
3L103BB19
3L103CC02
3L103DD13
3L103DD93
5H031AA02
5H031AA09
5H031EE01
5H031EE04
5H031KK08
(57)【要約】
【課題】 薄型軽量で柔軟性を有しながら、熱交換媒体の流路が変形することを抑制でき、さらに、熱交換対象物を冷却するのみならず、熱交換対象物を急速に加熱することもできる熱交換器を提供する。
【解決手段】 本開示の熱交換器は、熱交換媒体の流路が形成されるプレートと、前記流路の入口に取り付けられ、前記入口に向けて流れる前記熱交換媒体が通過する供給部材と、前記流路の出口に取り付けられ、前記出口から外部に向けて流れる前記熱交換媒体が通過する排出部材と、前記プレートを覆うシートと、を備え、前記シートが、前記流路を覆うバリア層と、前記バリア層の上に設けられた加熱用導電体と、前記加熱用導電体に接続し、陽極と陰極を構成する一対のバスバーと、を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換媒体の流路が形成されるプレートと、
前記流路の入口に取り付けられ、前記入口に向けて流れる前記熱交換媒体が通過する供給部材と、
前記流路の出口に取り付けられ、前記出口から外部に向けて流れる前記熱交換媒体が通過する排出部材と、
前記プレートを覆うシートと、
を備え、
前記シートが、
前記流路を覆うバリア層と、
前記バリア層の上に設けられた加熱用導電体と、
前記加熱用導電体に接続し、陽極と陰極を構成する一対のバスバーと、
を備える、熱交換器。
【請求項2】
前記シートに覆われる前記プレートの上面は、前記シートの内面と接合されている、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
前記シートが、最内層に熱融着性樹脂層を備える、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項4】
前記バリア層が、アルミニウム合金箔を含む、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項5】
前記バリア層の厚みが、10μm以上85μm以下である、請求項4に記載の熱交換器。
【請求項6】
前記シートが、前記バリア層と前記加熱用導電体との間に、絶縁性を有する樹脂層を備える、請求項3に記載の熱交換器。
【請求項7】
前記シートが、前記加熱用導電体および前記バスバーの上に絶縁性を有する樹脂層を備える、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項8】
前記シートが、最外層に熱伝導層を備える、請求項7に記載の熱交換器。
【請求項9】
前記供給部材および前記排出部材の少なくとも一方は、前記熱交換媒体が通過する通路を含む本体部、および、前記本体部から張り出した張出部を含み、
前記プレートは、前記張出部が嵌まる嵌合部を有する、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項10】
前記プレートは、前記流路の空間を維持する外枠を備える、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項11】
前記プレートは、前記流路の空間を維持する壁構造を備える、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項12】
前記プレートは、前記流路の空間を維持する柱構造を備える、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項13】
前記一対のバスバーが、前記プレートの長手方向に沿って、前記プレートと重なる位置に、互いに離間して配置されている、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項14】
前記加熱用導電体は、直線、曲線、または、直線および曲線の組み合わせの形状を有する、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項15】
前記加熱用導電体は、平面視において、前記一対のバスバー間の領域で方向を変えて、前記陽極を構成するバスバーから前記陰極を構成するバスバーに接続する、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項16】
前記加熱用導電体は、同じ間隔で並列配置される長手部分を複数有する、請求項15に記載の熱交換器。
【請求項17】
前記一対のバスバー間に複数の前記加熱用導電体が配置されており、
前記複数の加熱用導電体に含まれる隣り合う2本の加熱用導電体の間隔をPWとし、
前記隣り合う2本の加熱用導電体に含まれる1本の加熱用導電体において、折り返されることで並列配置されることになった前記加熱用導電体の複数の長手部分の間隔をSWとし、
前記並列配置されることになった加熱用導電体の複数の長手部分の本数をnとした場合に、
PW=n×SW
を満たす、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項18】
前記供給部材および前記排出部材の少なくとも一方は、前記熱交換媒体が通過する通路を含む本体部、および、前記本体部に固定されている接着フィルムを含み、前記接着フィルムを介して前記シートの内面と融着されている、請求項1に記載の熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱交換器に関する。特に、電気自動車に搭載される電池の温度調整に使用される薄型の熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車に使われる二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)は、温度の上昇に伴って劣化速度が速まることが知られており、それゆえ、密集して配置される多数の電池を冷却するための熱交換器として、薄型の熱交換器が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1の熱交換器は、外装体と、外装体に収容されるインナーフィンとを備える。インナーフィンは、シート材によって構成され、冷却水が流れるトンネル部および溝部が形成されるように折り曲げられた状態で、外装体に収容される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-159667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の熱交換器は、電池の近傍に配置されるため、例えば、電池が膨張した場合に、電池によってインナーフィンが押されて、インナーフィンが変形するおそれがある。この他、インナーフィンに何らかの外力が作用した場合にも、インナーフィンが変形するおそれがある。インナーフィンのトンネル部および溝部が変形した場合、流れる冷却水の水量が減少し、電池の冷却を十分に行えない場合がある。
【0005】
また、電池の使用には最適な温度範囲(例えば10℃以上35℃以下)があり、その範囲を超えての使用は、電池の寿命を短くすることになる。それゆえ、電気自動車の電池に使用される温度調整機構(例えば、上記のような熱交換器)には、冷却機構のみならず加熱機構も求められることになる。
【0006】
さらに、電気自動車は寒冷地で使用されることもあり、例えば、氷点下においても電池が充電できることが必要になる、ここで、低温下での充電を急速に行うには、電池の化学反応を促進するために、電池の温度を急速に最適な温度範囲に高める必要がある。すなわち、電池を急速に加熱する必要がある。
【0007】
しかしながら、上記のような熱交換器では、冷媒等の熱交換媒体を介して電池等の熱交換対象物を冷却若しくは加熱することになるため、例えば、電池を加熱したい場合は、まず、熱交換媒体を加熱して所望の温度に高める必要があり、急速に電池を加熱する用途には適さない。
【0008】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、薄型軽量で柔軟性を有しながら、熱交換媒体の流路が変形することを抑制でき、さらに、熱交換対象物を冷却するのみならず、熱交換対象物を急速に加熱することもできる熱交換器を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の熱交換器は、熱交換媒体の流路が形成されるプレートと、前記流路の入口に取り付けられ、前記入口に向けて流れる前記熱交換媒体が通過する供給部材と、前記流路の出口に取り付けられ、前記出口から外部に向けて流れる前記熱交換媒体が通過する排出部材と、前記プレートを覆うシートと、を備え、前記シートが、前記流路を覆うバリア層と、前記バリア層の上に設けられた加熱用導電体と、前記加熱用導電体に接続し、陽極と陰極を構成する一対バスバーと、を備える。
【0010】
本開示の熱交換器において、前記シートに覆われる前記プレートの上面は、前記シートの内面と接合されていてもよい。
【0011】
本開示の熱交換器において、前記シートが、最内層に熱融着性樹脂層を備えていてもよい。
【0012】
本開示の熱交換器において、前記バリア層が、アルミニウム合金箔を含んでいてもよい。
【0013】
本開示の熱交換器において、前記バリア層の厚みが、10μm以上85μm以下であってもよい。
【0014】
本開示の熱交換器において、前記シートが、前記バリア層と前記加熱用導電体との間に、絶縁性を有する樹脂層を備えていてもよい。
【0015】
本開示の熱交換器において、前記シートが、前記加熱用導電体および前記バスバーの上に絶縁性を有する樹脂層を備えていてもよい。
【0016】
本開示の熱交換器において、前記シートが、最外層に熱伝導層を備えていてもよい。
【0017】
本開示の熱交換器において、前記供給部材および前記排出部材の少なくとも一方は、前記熱交換媒体が通過する通路を含む本体部、および、前記本体部から張り出した張出部を含み、前記プレートは、前記張出部が嵌まる嵌合部を有していてもよい。
【0018】
本開示の熱交換器において、前記プレートは、前記流路の空間を維持する外枠を備えていてもよい。
【0019】
本開示の熱交換器において、前記プレートは、前記流路の空間を維持する壁構造を備えていてもよい。
【0020】
本開示の熱交換器において、前記プレートは、前記流路の空間を維持する柱構造を備えていてもよい。
【0021】
本開示の熱交換器において、前記一対のバスバーが、前記プレートの長手方向に沿って、前記プレートと重なる位置に、互いに離間して配置されていてもよい。
【0022】
本開示の熱交換器において、前記加熱用導電体は、直線、曲線、または、直線および曲線の組み合わせの形状を有していてもよい。
【0023】
本開示の熱交換器において、前記加熱用導電体は、平面視において、前記一対のバスバー間の領域で方向を変えて、前記陽極を構成するバスバーから前記陰極を構成するバスバーに接続していてもよい。
【0024】
本開示の熱交換器において、前記加熱用導電体は、同じ間隔で並列配置される長手部分を複数有していてもよい。
【0025】
本開示の熱交換器において、前記一対のバスバー間に複数の前記加熱用導電体が配置されており、前記複数の加熱用導電体に含まれる隣り合う2本の加熱用導電体の間隔をPWとし、前記隣り合う2本の加熱用導電体に含まれる1本の加熱用導電体において、折り返されることで並列配置されることになった前記加熱用導電体の複数の長手部分の間隔をSWとし、前記並列配置されることになった加熱用導電体の複数の長手部分の本数をnとした場合に、PW=n×SWを満たしてもよい。
【0026】
本開示の熱交換器において、前記供給部材および前記排出部材の少なくとも一方は、前記熱交換媒体が通過する通路を含む本体部、および、前記本体部に固定されている接着フィルムを含み、前記接着フィルムを介して前記シートの内面と融着されていてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本開示によれば、薄型軽量で柔軟性を有しながら、熱交換媒体の流路が変形することを抑制でき、さらに、熱交換対象物を冷却するのみならず、熱交換対象物を急速に加熱することもできる熱交換器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本開示の熱交換器の一例を示す概略平面図
図2図1に示す熱交換器の使用形態の一例を示す斜視図
図3図1に示す熱交換器の使用形態の一例を示す上面図
図4図1に示す熱交換器の流路部の一例を示す概略平面図
図5図1に示す熱交換器の加熱部の一例を示す概略平面図
図6図1に示す熱交換器の断面構成の一例を示す概略断面図
図7図4に示す流路部が備えるプレートの一例を示す概略平面図
図8図1に示す熱交換器のシートの構成例を示す概略断面図
図9図1に示す熱交換器が備える供給部材およびその周辺の拡大図
図10図5に示す加熱部の要部説明図
図11図10に示す加熱部の断面構成例を示す概略断面図
図12図11に示す加熱部の製造方法の一例を示す第1の工程図
図13図12に続く加熱部の製造方法の一例を示す第2の工程図
図14図13に続く加熱部の製造方法の一例を示す第3の工程図
図15図14に続く加熱部の製造方法の一例を示す第4の工程図
図16図8に示すシートの製造方法の一例を示す第1の工程図
図17図16に続くシートの製造方法の一例を示す第2の工程図
図18図17に続くシートの製造方法の一例を示す第3の工程図
図19図1に示す熱交換器の製造方法の一例を示す第1の工程図
図20図19に続く熱交換器の製造方法の一例を示す第2の工程図
図21】変形例1が備えるプレートの斜視図
図22】変形例2が備えるプレートの概略平面図
図23】変形例3が備える加熱部の一例を示す概略平面図
図24】変形例4が備える加熱部の一例を示す概略平面図
図25】変形例5が備える供給部材およびその周辺の拡大図
図26】変形例6が備える熱交換器の一例を示す概略平面図
図27図26に示す熱交換器が備えるプレートの一例を示す概略平面図
図28図26に示す熱交換器が備える供給部材およびその周辺の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面等を参照しながら本開示の実施の形態を説明する。ただし、本開示は多くの異なる態様で実施することが可能であり、下記に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の形態に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表わされる場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0030】
本明細書において、ある部材の上に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」、あるいは「下に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上、あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方、あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含むものとする。また、本明細書において、ある部材の面に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「面に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上、あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方、あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含むものとする。
【0031】
また、本明細書において、「フィルム」の形態には、「シート状」および「ウェブ状」の形態が含まれる。
【0032】
以下、本開示の熱交換器について詳細に説明する。
【0033】
<1.熱交換器>
図1は、本開示の熱交換器の一例を示す概略平面図である。図2は、図1に示す熱交換器の使用形態の一例を示す斜視図である。図3は、図1に示す熱交換器の使用形態の一例を示す上面図である。図4は、図1に示す熱交換器の流路部の一例を示す概略平面図である。図5は、図1に示す熱交換器の加熱部の一例を示す概略平面図である。
【0034】
図1に示す熱交換器10は、図4に示す流路部10A、および、図5に示す加熱部10Bを有する。より詳しくは、図1に示す熱交換器10は、図4に示す流路部10Aを挟むように、流路部10Aの上下に、図5に示す加熱部10Bが積層された構成を有する。そして、加熱部10B/流路部10A/加熱部10Bの積層体が容器20を構成し、容器20の長手方向(図1に示すX方向)の両側部はシールされて、側方シール部60が形成されている。また、熱交換器10は、供給部材30および排出部材40を有している。なお、図1および図4では、本来外部から視認できない構成要素が、参考のため、部分的に破線で示されている。図4以降の各図においても同様である。
以下では、説明の便宜のため、特に断らない限り、図1の上下方向(図1に示すY方向)を幅方向と称し、平面視において幅方向と直交する方向(図1に示すX方向)を左右方向と称し、幅方向および左右方向と直交する方向を高さ方向と称する。
【0035】
流路部10Aは、熱交換媒体を介して、熱交換対象物を主に冷却する作用を奏する。熱交換媒体は、例えば、水または不凍液等である。
なお、流路部10Aは、熱交換媒体を介して熱交換対象物を冷却または加温するように作用してもよい。熱交換対象物の冷却または加温とは、熱交換対象物の冷却および加温を繰り返し実施することによって、熱交換対象物の温度を所定温度範囲内に維持することを含む。流路部10Aが、熱交換対象物を加温する作用を奏する場合、熱交換媒体は、例えば、水である。
【0036】
加熱部10Bは、電流を流すことにより加熱用導電体に発生する抵抗加熱を利用して、熱交換対象物を加熱する作用を奏する。このような加熱により、熱交換対象物を急速に加熱することができる。
【0037】
熱交換対象物は、例えば、電池である。電池は、例えば、リチウムイオン電池である。
熱交換器10の主な使用形態として、図2および図3に示すように、熱交換器10は、密集して配置される多数の電池90の間に挿入されるように配置される。
熱交換器10は、各種のフィルムが積層された積層体であるため、薄型軽量で柔軟性を有する。それゆえ、図2および図3に示すように、熱交換器10は、密集して配置される多数の電池90の間に容易に配置することができ、筒状の電池90の側面に密着することができる。そして、熱交換器10は、効果的に電池90を冷却および加熱することができる。なお、ここで言う柔軟性とは、図3に示すように、熱交換器10が、多数の電池90間の隙間に合わせて波状の形態となることができる特性(形状追従性)を言う。
【0038】
熱交換器10は、例えば、パウチ型である。このため、形状の自由度が高められる。また、熱交換器10を軽量に構成できる。パウチの種類は、例えば、三方シールタイプ、四方シールタイプ、ピロータイプ、または、ガセットタイプ等である。
【0039】
図6は、図1に示す熱交換器の断面構成の一例を示す概略断面図である。より詳しくは、図6図1に示す熱交換器のA-A線断面図である。図7は、図4に示す流路部が備えるプレートの一例を示す概略平面図である。
【0040】
図6に示すように、熱交換器10の容器20は、シート21、シート22、および、図7に示すプレート50を含んで構成される。より詳しくは、容器20は、図7に示すプレート50の一方の面(上面)の側をシート21で覆い、プレート50の他方の面(下面)の側をシート22で覆う構成を有し、シート21とシート22とが接する部分はヒートシールされて側方シール部60を形成している。
なお、ここでいうヒートシールの態様には、熱源からの加熱融着、超音波融着等の態様が想定される。いずれにせよ、側方シール部60とは、シート21とシート22とが融着され、一体化している部分を意味する。
【0041】
以下、熱交換器の各構成について、詳しく説明する。
【0042】
<2.プレート>
図4図6および図7に示すように、プレート50には、熱交換媒体の流路54が形成される。そして、プレート50は、流路54の空間を維持する外枠51を備えている。また、プレート50は、流路54の空間を維持する壁構造52を備えている。より詳しくは、プレート50は、外枠51、壁構造52、底部53を有しており、外枠51と壁構造52で画定された溝状の空間が、流路54になる。すなわち、図7において、底部53が露出する部分(白抜き部分)が、流路54になる。なお、図7においては、理解容易とするために、底部53を白抜きで図示している。
【0043】
外枠51には、熱交換媒体が外部から流路54に流入するための流路54の入口54A、および、熱交換媒体が流路54から外部に流出するための流路54の出口54Bが設けられている。さらに、外枠51の入口54Aの周囲には、供給部材30を嵌め込むための嵌合部51Aが設けられ、同様に、外枠51の出口54Bの周囲には、排出部材40を嵌め込むための嵌合部51Bが設けられている。
なお、後述するように、図1に示す熱交換器10において、供給部材30は、熱交換媒体が通過する通路を含む本体部31、および、本体部31から張り出した張出部32を含み、嵌合部51Aは張出部32が嵌まる形状を有している。同様に、排出部材40も、熱交換媒体が通過する通路を含む本体部、および、本体部から張り出した張出部を含み、嵌合部51Bは該張出部が嵌まる形状を有している。
【0044】
図7に示す例では、プレート50が有する壁構造52は2個であるが、これに限定されず、プレート50が有する壁構造52は3個以上あってもよい。図7に示す例の流路54は、入口54Aを過ぎた後に、2個の壁構造52によって3個の流路に枝分かれし、出口54Bでまた1個の流路になっているが、これに限定されず、平面視における流路54の形状は、任意に選択可能である。例えば、4個以上に枝分かれする形態であってもよい。
【0045】
また、流路54の幅は、任意に選択可能である。図7に示す例においては、枝分かれした3個の流路54のそれぞれの幅は同じ大きさになっているが、異なる大きさであってもよい。また図7に示す例において、枝分かれした3個の流路54のそれぞれの幅は、入口54Aの側から出口54Bの側に至るまで、概ね一定の大きさであるが、この大きさは変化してもよい。同様に、壁構造52も、その平面視における形態は長方形に限らず、各種の多角形や、曲線を含む外形を有する形態であってよい。外枠51も同様である。
【0046】
底部53は、図6に示すように、外枠51と壁構造52との位置関係を画定するために設けられている。それゆえ、底部53は、外枠51と壁構造52との位置関係を画定することができる形態であればよく、例えば、貫通孔を有していてもよい。底部53は、平板状の形態以外に、メッシュ状の形態や梁状の形態であってもよい。
【0047】
熱交換器10においては、プレート50の外枠51と壁構造52で流路54となる空間の高さ方向を維持するため、流路54が変形することを抑制できる。
例えば、図2および図3に示す使用形態において、電池が膨張した場合や、何らかの外力が熱交換器10の高さ方向(厚み方向)に作用した場合においても、流路54が塞がれてしまうことを抑制できる。それゆえ、熱交換器10においては、流路54が塞がれてしまうことによって、例えば冷媒の流量が減少し、電池の冷却を十分に行えないといった不具合が生じてしまうことを抑制できる。
【0048】
プレート50を構成する材料は、熱交換器10の通常の使用環境下において想定される大きさの外力が作用した場合であっても、実質的に変形しない材料である。
プレート50を構成する材料は、合成樹脂、金属、または、金属酸化物である。合成樹脂は、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルテンペン、ポリフェニレンオキサイド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニルサルホン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂、ポリアリレート等である。
なお、ポリオレフィンは、具体的には、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン-α・オレフィン共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブテン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-メタクリル酸共重合体、あるいはエチレン-アクリル酸共重合体等のエチレンと不飽和カルボン酸との共重合体等である。金属は、例えば、アルミニウム合金、銅合金、ステンレス鋼、チタン鋼、鋼板などが挙げられる。金属酸化物としては、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア等があげられる。
【0049】
プレート50を構成する、外枠51、壁構造52、底部53は、同じ材料から形成されていてもよく、異なる材料から形成されていてもよい。
【0050】
平面視におけるプレート50の形状は、任意に選択可能である。平面視におけるプレート50の形状は、長方形の他に、正方形、三角形、五角形以上の多角形、円、または、楕円であってもよい。
【0051】
プレート50の厚さ、長さ、および、幅は、任意に選択可能である。熱交換器10は、複数の電池の間に挿入されるように配置されるため、プレート50の厚さは、例えば、1mm以上2mm以下である。長さおよび幅は、熱交換対象物の大きさに基づいて決められる。
このようにプレート50は薄型であるため、柔軟性を有する。それゆえ、図3に示すように、熱交換器10は、多数の電池90間の隙間に合わせて波状の形態となることができる。
【0052】
プレート50の上面(底部53が設けられていない側の面)は、流路54を画定するために、シート21の内面と接合されていることが好ましい。また、底部53が貫通孔を有している場合、流路54を画定するために、プレート50の下面は、シート22の内面と接合されていることが好ましい。さらに、プレート50と、供給部材30および排出部材40との嵌合部51A、51Bから熱交換媒体が漏れ出ることを抑制するために、プレート50の上面はシート21の内面と接合されていることが好ましく、プレート50の下面はシート22の内面と接合されていることが好ましい。熱交換器10においては、プレート50の上面の全体がシート21の内面と接合され、プレート50の下面の全体がシート22の内面と接合される。
【0053】
<3.シート>
図8は、図1に示す熱交換器10のシート21の構成例を示す概略断面図である。図8に示すように、シート21は、熱融着性樹脂層15の上に、接着層14、バリア層13、接着剤層12、流路部基材層11、加熱部接着剤層18、導電体層17、および加熱部基材層16が、順次積層された構成を有する。ここで、導電体層17と加熱部基材層16から構成される積層体が、図5に示す加熱部10Bを構成する。すなわち、図1に示す熱交換器10は、加熱部10Bの導電体層17の側が、加熱部接着剤層18を介して、流路部10Aの流路部基材層11の側に接合された断面構成を有するものに相当する。
なお、図8はシート21の構成例を示しているが、シート22もシート21と同様の構成とすることができる。例えば、図6に示す容器20において、シート22は、加熱部基材層16の上に、導電体層17、加熱部接着剤層18、流路部基材層11、接着剤層12、バリア層13、接着層14、および熱融着性樹脂層15が、順次積層された構成を有する。すなわち、図6に示す容器20において、シート22は、図8に示すシート21が上下反転した積層構成を有する。また、シート22は、加熱部10Bを含んでいなくてもよい。例えば、シート22は、熱融着性樹脂層15上に、接着層14,バリア層13、接着剤層12、流路部基材層11が、順次積層された構成を有してもよい。
【0054】
そして、図6に示す容器20においては、シート21の熱融着性樹脂層15がプレート50の外枠51および壁構造52の上面に接合され、シート22の熱融着性樹脂層15がプレート50の底部53の下面に接合される。シート21とシート22とが接する部分では、互いの熱融着性樹脂層15がヒートシールされて側方シール部60を形成している。図6に示す容器20においては、プレート50の外枠51の外縁に沿って、側方シール部60が形成されている
【0055】
なお、シート21、22の構成は、これに限定されず、各層の間には、他の中間層が設けられていてもよい。また、加熱部基材層16の外側には、熱交換対象物である電池と、より効果的に熱交換する目的で、金属等からなる熱伝導層が設けられていてもよい。
【0056】
中間層としては、例えば、流路部基材層11と接着剤層12との間、若しくは、接着剤層12とバリア層13との間に、着色層を設けてもよい。着色層を設けることにより、シート21を着色することができる。着色層は、例えば、着色剤を含むインキをバリア層13の表面、または流路部基材層11の表面に塗布することにより形成することができる。着色剤としては、顔料、染料などの公知のものが使用できる。また、着色剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0057】
シート21、22を構成する流路部基材層11は、図8における流路部基材層11から熱融着性樹脂層15までの積層体を形成する際の基材として機能し、さらに、絶縁性を有する樹脂層である。流路部基材層11は、例えば、バリア層13と導電体層17との間で電流が流れることを防止するように作用する。
バリア層13は、シート21、22の強度向上の他、流路54に少なくとも水分等が侵入することを防止する機能を有し、典型的には、アルミニウム合金箔等からなる金属層である。
熱融着性樹脂層15は、典型的には、ポリオレフィン等の熱融着可能な樹脂からなり、容器20の最内層を形成する。
加熱部基材層16は、加熱部10Bの積層体を形成する際の基材として機能し、さらに、絶縁性を有する樹脂層である。加熱部基材層16は、典型的には、容器20の外層側を形成する。
導電体層17は、図5に示す加熱部10Bのバスバー110および加熱用導電体120が形成される層であり、典型的には、銅等からなる金属層である。
以下では、シート21、22を構成する各層の具体的な構成の例について説明する。
【0058】
<3―1.流路部基材層>
流路部基材層11を形成する素材については、基材としての機能、すなわち少なくとも絶縁性を備えるものであることを限度として特に制限されない。流路部基材層11は、例えば樹脂を用いて形成することができ、樹脂には後述の添加剤が含まれていてもよい。
【0059】
流路部基材層11が樹脂により形成されている場合、流路部基材層11は、例えば、樹脂により形成された樹脂フィルムであってもよいし、樹脂を塗布して形成したものであってもよい。樹脂フィルムは、未延伸フィルムであってもよいし、延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムとしては、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムが挙げられ、二軸延伸フィルムが好ましい。二軸延伸フィルムを形成する延伸方法としては、例えば、逐次二軸延伸法、インフレーション法、同時二軸延伸法等が挙げられる。樹脂を塗布する方法としては、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、押出コーティング法などがあげられる。
【0060】
流路部基材層11を形成する樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン、珪素樹脂、フェノール樹脂などの樹脂や、これらの樹脂の変性物が挙げられる。また、流路部基材層11を形成する樹脂は、これらの樹脂の共重合物であってもよいし、共重合物の変性物であってもよい。さらに、これらの樹脂の混合物であってもよい。
【0061】
流路部基材層11を形成する樹脂としては、これらの中でも、好ましくはポリエステル、ポリアミドが挙げられる。
【0062】
ポリエステルとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、共重合ポリエステル等が挙げられる。また、共重合ポリエステルとしては、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステル等が挙げられる。
具体的には、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体としてエチレンイソフタレートと重合する共重合体ポリエステル(以下、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)にならって略す)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/ナトリウムスルホイソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/ナトリウムイソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/フェニル-ジカルボキシレート)、ポリエチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)等が挙げられる。これらのポリエステルは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0063】
また、ポリアミドとしては、具体的には、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン6とナイロン66との共重合体等の脂肪族ポリアミド;テレフタル酸および/またはイソフタル酸に由来する構成単位を含むナイロン6I、ナイロン6T、ナイロン6IT、ナイロン6I6T(Iはイソフタル酸、Tはテレフタル酸を表す)等のヘキサメチレンジアミン-イソフタル酸-テレフタル酸共重合ポリアミド、ポリアミドMXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)等の芳香族を含むポリアミド;ポリアミドPACM6(ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンアジパミド)等の脂環式ポリアミド;さらにラクタム成分や、4,4’-ジフェニルメタン-ジイソシアネート等のイソシアネート成分を共重合させたポリアミド、共重合ポリアミドとポリエステルやポリアルキレンエーテルグリコールとの共重合体であるポリエステルアミド共重合体やポリエーテルエステルアミド共重合体;これらの共重合体等のポリアミドが挙げられる。これらのポリアミドは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0064】
流路部基材層11は、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、およびポリオレフィンフィルムのうち少なくとも1つを含むことが好ましく、延伸ポリエステルフィルム、および延伸ポリアミドフィルム、および延伸ポリオレフィンフィルムのうち少なくとも1つを含むことが好ましく、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム、延伸ナイロンフィルム、延伸ポリプロピレンフィルムのうち少なくとも1つを含むことがさらに好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ナイロンフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルムのうち少なくとも1つを含むことがさらに好ましい。
【0065】
流路部基材層11は、単層であってもよいし、2層以上により構成されていてもよい。流路部基材層11が2層以上により構成されている場合、流路部基材層11は、樹脂フィルムを接着剤などで積層させた積層体であってもよいし、樹脂を共押出しして2層以上とした樹脂フィルムの積層体であってもよい。また、樹脂を共押出しして2層以上とした樹脂フィルムの積層体を、未延伸のまま流路部基材層11としてもよいし、一軸延伸または二軸延伸して流路部基材層11としてもよい。
【0066】
流路部基材層11において、2層以上の樹脂フィルムの積層体の具体例としては、ポリエステルフィルムとナイロンフィルムとの積層体、2層以上のナイロンフィルムの積層体、2層以上のポリエステルフィルムの積層体などが挙げられ、好ましくは、延伸ナイロンフィルムと延伸ポリエステルフィルムとの積層体、2層以上の延伸ナイロンフィルムの積層体、2層以上の延伸ポリエステルフィルムの積層体が好ましい。
例えば、流路部基材層11が2層の樹脂フィルムの積層体である場合、ポリエステル樹脂フィルムとポリエステル樹脂フィルムの積層体、ポリアミド樹脂フィルムとポリアミド樹脂フィルムの積層体、またはポリエステル樹脂フィルムとポリアミド樹脂フィルムの積層体が好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルムとポリエチレンテレフタレートフィルムの積層体、ナイロンフィルムとナイロンフィルムの積層体、またはポリエチレンテレフタレートフィルムとナイロンフィルムの積層体がより好ましい。また、ポリエステル樹脂は、例えば電解液が表面に付着した際に変色し難いことなどから、流路部基材層11が2層以上の樹脂フィルムの積層体である場合、ポリエステル樹脂フィルムが流路部基材層11の最外層に位置することが好ましい。
【0067】
流路部基材層11が、2層以上の樹脂フィルムの積層体である場合、2層以上の樹脂フィルムは、接着剤を介して積層させてもよい。なお、2層以上の樹脂フィルムを積層させる方法としては、特に制限されず、公知方法が採用でき、例えばドライラミネート法、サンドイッチラミネート法、押出ラミネート法、サーマルラミネート法などが挙げられ、好ましくはドライラミネート法が挙げられる。ドライラミネート法により積層させる場合には、接着剤としてポリウレタン接着剤を用いることが好ましい。このとき、接着剤の厚みとしては、例えば2μm以上5μm以下が挙げられる。また、樹脂フィルムにアンカーコート層を形成し積層させても良い。このとき、アンカーコート層の厚みとしては、例えば0.01μm以上1.0μm以下が挙げられる。
【0068】
また、流路部基材層11の表面および内部の少なくとも一方には、滑剤、難燃剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤、耐電防止剤等の添加剤が存在していてもよい。添加剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0069】
シート21、22の成形性を高める観点からは、流路部基材層11の表面には、滑剤が存在していることが好ましい。滑剤としては、特に制限されないが、好ましくはアミド系滑剤が挙げられる。アミド系滑剤の具体例としては、例えば、飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、置換アミド、メチロールアミド、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、脂肪酸エステルアミド、芳香族ビスアミドなどが挙げられる。飽和脂肪酸アミドの具体例としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミドなどが挙げられる。不飽和脂肪酸アミドの具体例としては、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどが挙げられる。置換アミドの具体例としては、N-オレイルパルミチン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミドなどが挙げられる。また、メチロールアミドの具体例としては、メチロールステアリン酸アミドなどが挙げられる。飽和脂肪酸ビスアミドの具体例としては、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’-ジステアリルセバシン酸アミドなどが挙げられる。不飽和脂肪酸ビスアミドの具体例としては、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’-ジオレイルセバシン酸アミドなどが挙げられる。脂肪酸エステルアミドの具体例としては、ステアロアミドエチルステアレートなどが挙げられる。また、芳香族ビスアミドの具体例としては、m-キシリレンビスステアリン酸アミド、m-キシリレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルイソフタル酸アミドなどが挙げられる。滑剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0070】
流路部基材層11の表面に滑剤が存在する場合、その存在量としては、特に制限されないが、好ましくは3mg/m以上、より好ましくは4mg/m以上15mg/m以下、さらに好ましくは5mg/m以上14mg/m以下が挙げられる。
【0071】
流路部基材層11の表面に存在する滑剤は、流路部基材層11を構成する樹脂に含まれる滑剤を滲出させたものであってもよいし、流路部基材層11の表面に滑剤を塗布したものであってもよい。
【0072】
流路部基材層11の厚みについては、基材としての機能を発揮すれば特に制限されないが、例えば、3μm以上50μm以下、好ましくは10μm以上35μm以下が挙げられる。流路部基材層11が、2層以上の樹脂フィルムの積層体である場合、各層を構成している樹脂フィルムの厚みとしては、それぞれ、好ましくは2μm以上25μm以下が挙げられる。
【0073】
<3―2.接着剤層>
シート21、22において、接着剤層12は、流路部基材層11とバリア層13との接着性を高めることを目的として、必要に応じて、これらの間に設けられる層である。
【0074】
接着剤層12は、流路部基材層11とバリア層13とを接着可能である接着剤によって形成される。接着剤層12の形成に使用される接着剤は限定されないが、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型等のいずれであってもよい。また、2液硬化型接着剤(2液性接着剤)であってもよく、1液硬化型接着剤(1液性接着剤)であってもよく、硬化反応を伴わない樹脂でもよい。また、接着剤層12は単層であってもよいし、多層であってもよい。
【0075】
接着剤に含まれる接着成分としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、共重合ポリエステル等のポリエステル;ポリエーテル;ポリウレタン;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ポリアミド等のポリアミド;ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン、酸変性環状ポリオレフィンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリ酢酸ビニル;セルロース;(メタ)アクリル樹脂;ポリイミド;ポリカーボネート;尿素樹脂、メラミン樹脂等のアミノ樹脂;クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム等のゴム;シリコーン樹脂等が挙げられる。これらの接着成分は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの接着成分の中でも、好ましくはポリウレタン接着剤が挙げられる。また、これらの接着成分となる樹脂は適切な硬化剤を併用して接着強度を高めることができる。前記硬化剤は、接着成分の持つ官能基に応じて、ポリイソシアネート、多官能エポキシ樹脂、オキサゾリン基含有ポリマー、ポリアミン樹脂、酸無水物などから適切なものを選択する。
【0076】
ポリウレタン接着剤としては、例えば、ポリオール化合物を含有する主剤と、イソシアネート化合物を含有する硬化剤とを含むポリウレタン接着剤が挙げられる。好ましくはポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、およびアクリルポリオール等のポリオールを主剤として、芳香族系または脂肪族系のポリイソシアネートを硬化剤とした二液硬化型のポリウレタン接着剤が挙げられる。また、ポリオール化合物としては、繰り返し単位の末端の水酸基に加えて、側鎖にも水酸基を有するポリエステルポリオールを用いることが好ましい。接着剤層12がポリウレタン接着剤により形成されていることでシート21、22に優れた電解液耐性が付与され、側面に電解液が付着しても流路部基材層11が剥がれることが抑制される。
【0077】
また、接着剤層12は、接着性を阻害しない限り他成分の添加が許容され、着色剤や熱可塑性エラストマー、粘着付与剤、フィラーなどを含有してもよい。接着剤層12が着色剤を含んでいることにより、シート21、22を着色することができる。着色剤としては、顔料、染料などの公知のものが使用できる。また、着色剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0078】
顔料の種類は、接着剤層12の接着性を損なわない範囲であれば、特に限定されない。有機顔料としては、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、ジオキサジン系、インジゴチオインジゴ系、ペリノン-ペリレン系、イソインドレニン系、ベンズイミダゾロン系等の顔料が挙げられ、無機顔料としては、カーボンブラック系、酸化チタン系、カドミウム系、鉛系、酸化クロム系、鉄系等の顔料が挙げられ、その他に、マイカ(雲母)の微粉末、魚鱗箔等が挙げられる。
【0079】
着色剤の中でも、例えばシート21、22の外観を黒色とするためには、カーボンブラックが好ましい。
【0080】
顔料の平均粒子径としては、特に制限されず、例えば、0.05μm以上5μm以下、好ましくは0.08μm以上2μm以下が挙げられる。なお、顔料の平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定されたメジアン径とする。
【0081】
接着剤層12における顔料の含有量としては、シート21、22が着色されれば特に制限されず、例えば5質量%以上60質量%以下、好ましくは10質量%以上40質量%以下が挙げられる。
【0082】
接着剤層12の厚みは、流路部基材層11とバリア層13とを接着できれば、特に制限されないが、例えば、1μm以上、2μm以上である。また、接着剤層12の厚みは、例えば、10μm以下、5μm以下である。接着剤層12の厚みの好ましい範囲については、1μm以上10μm以下、1μm以上5μm以下、2μm以上10μm以下、2μm以上5μm以下が挙げられる。
【0083】
<3―3.バリア層>
シート21、22において、バリア層13は、少なくとも水分の浸入を抑止する層である。
【0084】
バリア層13としては、例えば、バリア性を有する金属箔、蒸着膜、樹脂層などが挙げられる。蒸着膜としては金属蒸着膜、無機酸化物蒸着膜、炭素含有無機酸化物蒸着膜などが挙げられ、樹脂層としてはポリ塩化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)を主成分としたポリマー類やテトラフルオロエチレン(TFE)を主成分としたポリマー類やフルオロアルキル基を有するポリマー、およびフルオロアルキル単位を主成分としたポリマー類などのフッ素含有樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体などが挙げられる。また、バリア層13としては、これらの蒸着膜および樹脂層の少なくとも1層を設けた樹脂フィルムなども挙げられる。バリア層13は、複数層設けてもよい。バリア層13は、金属材料により構成された層を含むことが好ましい。バリア層13を構成する金属材料としては、具体的には、アルミニウム合金、ステンレス鋼、チタン鋼、鋼板などが挙げられ、金属箔として用いる場合は、アルミニウム合金箔およびステンレス鋼箔の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0085】
アルミニウム合金箔は、シート21、22の成形性を向上させる観点から、例えば、焼きなまし処理済みのアルミニウム合金などにより構成された軟質アルミニウム合金箔であることがより好ましく、より成形性を向上させる観点から、鉄を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。鉄を含むアルミニウム合金箔(100質量%)において、鉄の含有量は、0.1質量%以上9.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましい。鉄の含有量が0.1質量%以上であることにより、より優れた成形性を有するシート21、22を得ることができる。鉄の含有量が9.0質量%以下であることにより、より柔軟性に優れたシート21、22を得ることができる。軟質アルミニウム合金箔としては、例えば、JISH4160:1994 A8021H-O、JISH4160:1994 A8079H-O、JISH4000:2022 A8021P、またはJISH4000:2022 A8079Pで規定される組成を備えるアルミニウム合金箔が挙げられる。また必要に応じて、ケイ素、マグネシウム、銅、マンガンなどが添加されていてもよい。また軟質化は焼鈍処理などで行うことができる。
【0086】
また、ステンレス鋼箔としては、オーステナイト系、フェライト系、オーステナイト・フェライト系、マルテンサイト系、析出硬化系のステンレス鋼箔などが挙げられる。さらに成形性に優れたシート21、22を提供する観点から、ステンレス鋼箔は、オーステナイト系のステンレス鋼により構成されていることが好ましい。
【0087】
ステンレス鋼箔を構成するオーステナイト系のステンレス鋼の具体例としては、SUS304、SUS301、SUS316Lなどが挙げられ、これら中でも、SUS304が特に好ましい。
【0088】
バリア層13の厚みは、金属箔の場合、少なくとも水分の浸入を抑止するバリア層としての機能を発揮すればよく、例えば9μm以上200μm以下が挙げられる。バリア層13の厚みの上限は、柔軟性が損なわれない範囲とすることが好ましい。また、バリア層13の厚みの下限は、熱伝導性が損なわれない範囲とすることが好ましい。
バリア層13の厚みは、好ましくは85μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは40μm以下、特に好ましくは35μm以下である。また、バリア層13の厚みは、好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上、より好ましくは25μm以上である。当該厚みの好ましい範囲としては、10μm以上85μm以下、10μm以上50μm以下、10μm以上40μm以下、10μm以上35μm以下、20μm以上85μm以下、20μm以上50μm以下、20μm以上40μm以下、20μm以上35μm以下、25μm以上85μm以下、25μm以上50μm以下、25μm以上40μm以下、25μm以上35μm以下が挙げられる。バリア層13がアルミニウム合金箔により構成されている場合、上述した範囲が特に好ましい。
また、特に、バリア層13がステンレス鋼箔により構成されている場合、ステンレス鋼箔の厚みとしては、好ましくは60μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは40μm以下、さらに好ましくは30μm以下、特に好ましくは25μm以下が挙げられる。また、ステンレス鋼箔の厚みとしては、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上が挙げられる。また、ステンレス鋼箔の厚みの好ましい厚みの範囲としては、10μm以上60μm以下、10μm以上50μm以下、10μm以上40μm以下、10μm以上30μm以下、10μm以上25μm以下、15μm以上60μm以下、15μm以上50μm以下、15μm以上40μm以下、15μm以上30μm以下、15μm以上25μm以下が挙げられる。
【0089】
また、バリア層13が金属箔の場合は、溶解や腐食の防止などのために、少なくとも流路部基材層11と反対側の面に耐腐食性皮膜を備えていることが好ましい。バリア層13は、耐腐食性皮膜を両面に備えていてもよい。ここで、耐腐食性皮膜とは、例えば、ベーマイト処理などの熱水変成処理、化成処理、陽極酸化処理、ニッケルやクロムなどのメッキ処理、コーティング剤を塗工する腐食防止処理をバリア層13の表面に行い、バリア層13に耐腐食性を備えさせる薄膜をいう。耐腐食性皮膜を形成する処理としては、1種類を行ってもよいし、2種類以上を組み合わせて行ってもよい。また、1層だけではなく多層化することもできる。さらに、これらの処理のうち、熱水変成処理および陽極酸化処理は、処理剤によって金属箔表面を溶解させ、耐腐食性に優れる金属化合物を形成させる処理である。なお、これらの処理は、化成処理の定義に包含される場合もある。また、バリア層13が耐腐食性皮膜を備えている場合、耐腐食性皮膜を含めてバリア層13とする。
【0090】
耐腐食性皮膜は、シート21、22の成形時において、バリア層13(例えば、アルミニウム合金箔)と流路部基材層11との間のデラミネーション防止や、電解質と水分とによる反応で生成するフッ化水素により、バリア層13表面の溶解、腐食、特にバリア層13がアルミニウム合金箔である場合にバリア層13表面に存在する酸化アルミニウムが溶解、腐食することを防止する効果を奏する。さらに、バリア層13表面の接着性(濡れ性)を向上させ、ヒートシール時の流路部基材層11とバリア層13とのデラミネーション防止や、成形時の流路部基材層11とバリア層13とのデラミネーション防止の効果を奏する。
【0091】
化成処理によって形成される耐腐食性皮膜としては、種々のものが知られており、主には、リン酸塩、クロム酸塩、フッ化物、トリアジンチオール化合物、および希土類酸化物のうち少なくとも1種を含む耐腐食性皮膜などが挙げられる。リン酸塩、クロム酸塩を用いた化成処理としては、例えば、クロム酸クロメート処理、リン酸クロメート処理、リン酸-クロム酸塩処理、クロム酸塩処理などが挙げられ、これらの処理に用いるクロム化合物としては、例えば、硝酸クロム、フッ化クロム、硫酸クロム、酢酸クロム、蓚酸クロム、重リン酸クロム、クロム酸アセチルアセテート、塩化クロム、硫酸カリウムクロムなどが挙げられる。また、これらの処理に用いるリン化合物としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、ポリリン酸などが挙げられる。また、クロメート処理としてはエッチングクロメート処理、電解クロメート処理、塗布型クロメート処理などが挙げられ、塗布型クロメート処理が好ましい。この塗布型クロメート処理は、バリア層(例えばアルミニウム合金箔)の少なくとも内層側の面を、まず、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、電解酸洗浄法、酸活性化法等の周知の処理方法で脱脂処理を行い、その後、脱脂処理面にリン酸Cr(クロム)塩、リン酸Ti(チタン)塩、リン酸Zr(ジルコニウム)塩、リン酸Zn(亜鉛)塩などのリン酸金属塩およびこれらの金属塩の混合体を主成分とする処理液、または、リン酸非金属塩およびこれらの非金属塩の混合体を主成分とする処理液、あるいは、これらと合成樹脂などとの混合物からなる処理液をロールコート法、グラビア印刷法、浸漬法等の周知の塗工法で塗工し、乾燥する処理である。処理液は例えば、水、アルコール系溶剤、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤など各種溶媒を用いることができ、水が好ましい。また、このとき用いる樹脂成分としては、フェノール系樹脂やアクリル系樹脂などの高分子などが挙げられ、下記一般式(1)~(4)で表される繰り返し単位を有するアミノ化フェノール重合体を用いたクロメート処理などが挙げられる。なお、当該アミノ化フェノール重合体において、下記一般式(1)~(4)で表される繰り返し単位は、1種類単独で含まれていてもよいし、2種類以上の任意の組み合わせであってもよい。アクリル系樹脂は、ポリアクリル酸、アクリル酸メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸マレイン酸共重合体、アクリル酸スチレン共重合体、またはこれらのナトリウム塩、アンモニウム塩、アミン塩等の誘導体であることが好ましい。特にポリアクリル酸のアンモニウム塩、ナトリウム塩、またはアミン塩等のポリアクリル酸の誘導体が好ましい。本実施形態において、ポリアクリル酸とは、アクリル酸の重合体を意味している。また、アクリル系樹脂は、アクリル酸とジカルボン酸またはジカルボン酸無水物との共重合体であることも好ましく、アクリル酸とジカルボン酸またはジカルボン酸無水物との共重合体のアンモニウム塩、ナトリウム塩、またはアミン塩であることも好ましい。アクリル系樹脂は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0092】
【化1】


【0093】
【化2】


【0094】
【化3】


【0095】
【化4】

【0096】
一般式(1)~(4)中、Xは、水素原子、ヒドロキシ基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アリル基またはベンジル基を示す。また、RおよびRは、それぞれ同一または異なって、ヒドロキシ基、アルキル基、またはヒドロキシアルキル基を示す。一般式(1)~(4)において、X、RおよびRで示されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基などの炭素数1~4の直鎖または分枝鎖状アルキル基が挙げられる。また、X、RおよびRで示されるヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基、1-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシプロピル基、3-ヒドロキシプロピル基、1-ヒドロキシブチル基、2-ヒドロキシブチル基、3-ヒドロキシブチル基、4-ヒドロキシブチル基などのヒドロキシ基が1個置換された炭素数1~4の直鎖または分枝鎖状アルキル基が挙げられる。一般式(1)~(4)において、X、R1およびRで示されるアルキル基およびヒドロキシアルキル基は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。一般式(1)~(4)において、Xは、水素原子、ヒドロキシ基またはヒドロキシアルキル基であることが好ましい。一般式(1)~(4)で表される繰り返し単位を有するアミノ化フェノール重合体の数平均分子量は、例えば、500以上100万以下であることが好ましく、1000以上2万以下であることがより好ましい。アミノ化フェノール重合体は、例えば、フェノール化合物またはナフトール化合物とホルムアルデヒドとを重縮合して上記一般式(1)または一般式(3)で表される繰返し単位からなる重合体を製造し、次いでホルムアルデヒドおよびアミン(RNH)を用いて官能基(-CHNR)を上記で得られた重合体に導入することにより、製造される。アミノ化フェノール重合体は、1種単独でまたは2種以上混合して使用される。
【0097】
耐腐食性皮膜の他の例としては、希土類元素酸化物ゾル、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するコーティング剤を塗工するコーティングタイプの腐食防止処理によって形成される薄膜が挙げられる。コーティング剤には、さらにリン酸またはリン酸塩、ポリマーを架橋させる架橋剤を含んでもよい。希土類元素酸化物ゾルには、液体分散媒中に希土類元素酸化物の微粒子(例えば、平均粒径100nm以下の粒子)が分散されている。希土類元素酸化物としては、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ネオジウム、酸化ランタン等が挙げられ、密着性をより向上させる観点から酸化セリウムが好ましい。耐腐食性皮膜に含まれる希土類元素酸化物は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。希土類元素酸化物ゾルの液体分散媒としては、例えば、水、アルコール系溶剤、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤など各種溶媒を用いることができ、水が好ましい。カチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンとカルボン酸を有するポリマーからなるイオン高分子錯体、アクリル主骨格に1級アミンをグラフト重合させた1級アミングラフトアクリル樹脂、ポリアリルアミンまたはその誘導体、アミノ化フェノールなどが好ましい。また、アニオン性ポリマーとしては、ポリ(メタ)アクリル酸またはその塩、あるいは(メタ)アクリル酸またはその塩を主成分とする共重合体であることが好ましい。また、架橋剤が、イソシアネート基、グリシジル基、カルボキシル基、オキサゾリン基のいずれかの官能基を有する化合物とシランカップリング剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、前記リン酸またはリン酸塩が、縮合リン酸または縮合リン酸塩であることが好ましい。
【0098】
耐腐食性皮膜の一例としては、リン酸中に、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化スズなどの金属酸化物や硫酸バリウムの微粒子を分散させたものをバリア層13の表面に塗布し、150℃以上で焼付け処理を行うことにより形成したものが挙げられる。
【0099】
耐腐食性皮膜は、必要に応じて、さらにカチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーの少なくとも一方を積層した積層構造としてもよい。カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマーとしては、上述したものが挙げられる。
【0100】
なお、耐腐食性皮膜の組成の分析は、例えば、飛行時間型2次イオン質量分析法を用いて行うことができる。
【0101】
化成処理においてバリア層13の表面に形成させる耐腐食性皮膜の量については、特に制限されないが、例えば、塗布型クロメート処理を行う場合であれば、バリア層13の表面1m当たり、クロム酸化合物がクロム換算で例えば0.5mg以上50mg以下、好ましくは1.0mg以上40mg以下、リン化合物がリン換算で例えば0.5mg以上50mg以下、好ましくは1.0mg以上40mg以下、およびアミノ化フェノール重合体が例えば1.0mg以上200mg以下、好ましくは5.0mg以上150mg以下の割合で含有されていることが望ましい。
【0102】
耐腐食性皮膜の厚みとしては、特に制限されないが、皮膜の凝集力や、バリア層13や熱融着性樹脂層15との密着力の観点から、好ましくは1nm以上20μm以下、より好ましくは1nm以上100nm以下、さらに好ましくは1nm以上50nm以下が挙げられる。なお、耐腐食性皮膜の厚みは、透過電子顕微鏡による観察により測定される。飛行時間型2次イオン質量分析法を用いた耐腐食性皮膜の組成の分析により、例えば、CeとPとOからなる2次イオン(例えば、CePO 、CePO などの少なくとも1種)や、例えば、CrとPとOからなる2次イオン(例えば、CrPO 、CrPO などの少なくとも1種)に由来するピークが検出される。
【0103】
化成処理は、耐腐食性皮膜の形成に使用される化合物を含む溶液を、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、浸漬法などによって、バリア層の表面に塗布した後に、バリア層13の温度が70℃以上200℃以下になるように加熱することにより行われる。また、バリア層13に化成処理を施す前に、予めバリア層13を、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、電解酸洗浄法などによる脱脂処理に供してもよい。このように脱脂処理を行うことにより、バリア層13の表面の化成処理をより効率的に行うことが可能となる。また、脱脂処理にフッ素含有化合物を無機酸で溶解させた酸脱脂剤を用いることで、金属箔の脱脂効果だけでなく不動態である金属のフッ化物を形成させることが可能であり、このような場合には脱脂処理だけを行ってもよい。
【0104】
<3―4.接着層>
シート21、22において、接着層14は、バリア層13(または耐酸性皮膜)と熱融着性樹脂層15を強固に接着させるために、これらの間に必要に応じて設けられる層である。
【0105】
接着層14は、バリア層13と熱融着性樹脂層15とを接着可能である樹脂によって形成される。接着層14の形成に使用される樹脂としては、例えば接着剤層12で例示した接着剤と同様のものが使用できる。なお、接着層14の形成に使用される樹脂としては、ポリオレフィン骨格を含んでいることが好ましく、ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィンが挙げられる。接着層14を構成している樹脂がポリオレフィン骨格を含むことは、赤外分光法により測定される。接着層14を構成している樹脂を赤外分光法で分析すると、無水マレイン酸に由来するピークが検出される。赤外分光法にて無水マレイン酸変性ポリオレフィンを測定すると、波数1760cm-1付近と波数1780cm-1付近に無水マレイン酸由来のピークが検出される。
【0106】
バリア層13と熱融着性樹脂層15とを強固に接着する観点から、接着層14は、酸変性ポリオレフィンを含むことが好ましい。酸変性ポリオレフィンとしては、カルボン酸またはその無水物で変性されたポリオレフィン、カルボン酸またはその無水物で変性されたポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、無水マレイン酸変性ポリプロピレンが特に好ましい。
【0107】
さらに、シート21、22の厚みを薄くしつつ、成形後の形状安定性に優れたシート21、22とする観点からは、接着層14は、酸変性ポリオレフィンと硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物であることがより好ましい。酸変性ポリオレフィンとしては、好ましくは、前記のものが例示できる。
【0108】
また、接着層14は、酸変性ポリオレフィンと、イソシアネート基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物、およびエポキシ基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種とを含む樹脂組成物の硬化物であることが好ましく、酸変性ポリオレフィンと、イソシアネート基を有する化合物およびエポキシ基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種とを含む樹脂組成物の硬化物であることが特に好ましい。また、接着層14は、ポリウレタン、ポリエステル、およびエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリウレタンおよびエポキシ樹脂を含むことがより好ましい。ポリエステルとしては、例えばアミドエステル樹脂が好ましい。アミドエステル樹脂は、一般的にカルボキシル基とオキサゾリン基の反応で生成する。接着層14は、これらの樹脂のうち少なくとも1種と前記酸変性ポリオレフィンを含む樹脂組成物の硬化物であることがより好ましい。なお、接着層14に、イソシアネート基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物、エポキシ樹脂などの硬化剤の未反応物が残存している場合、未反応物の存在は、赤外分光法で確認される。
【0109】
また、バリア層13と接着層14との密着性をより高める観点から、接着層14は、酸素原子、複素環、C=N結合、およびC-O-C結合からなる群より選択される少なくとも1種を有する硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物であることが好ましい。複素環を有する硬化剤としては、例えば、オキサゾリン基を有する硬化剤、エポキシ基を有する硬化剤などが挙げられる。また、C=N結合を有する硬化剤としては、オキサゾリン基を有する硬化剤、イソシアネート基を有する硬化剤などが挙げられる。また、C-O-C結合を有する硬化剤としては、オキサゾリン基を有する硬化剤、エポキシ基を有する硬化剤、ポリウレタンなどが挙げられる。接着層14がこれらの硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物であることは、ガスクロマトグラフ質量分析(GCMS)にて確認される。
【0110】
イソシアネート基を有する化合物としては、特に制限されないが、バリア層13と接着層14との密着性を効果的に高める観点からは、好ましくは多官能イソシアネート化合物が挙げられる。多官能イソシアネート化合物は、2つ以上のイソシアネート基を有する化合物であれば、特に限定されない。多官能イソシアネート系硬化剤の具体例としては、ペンタンジイソシアネート(PDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、これらをポリマー化やヌレート化したもの、これらの混合物や他ポリマーとの共重合物などが挙げられる。また、アダクト体、ビュレット体、イソシアヌレート体などが挙げられる。
【0111】
接着層14における、イソシアネート基を有する化合物の含有量としては、接着層14を構成する樹脂組成物中、0.1質量%以上50質量%以下の範囲にあることが好ましく、0.5質量%以上40質量%以下の範囲にあることがより好ましい。これにより、バリア層13と接着層14との密着性を効果的に高めることができる。
【0112】
オキサゾリン基を有する化合物は、オキサゾリン骨格を備える化合物であれば、特に限定されない。オキサゾリン基を有する化合物の具体例としては、ポリスチレン主鎖を有するもの、アクリル主鎖を有するものなどが挙げられる。
【0113】
接着層14における、オキサゾリン基を有する化合物の割合としては、接着層14を構成する樹脂組成物中、0.1質量%以上50質量%以下の範囲にあることが好ましく、0.5質量%以上40質量%以下の範囲にあることがより好ましい。これにより、バリア層13と接着層14との密着性を効果的に高めることができる。
【0114】
エポキシ基を有する化合物としては、例えば、エポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂としては、分子内に存在するエポキシ基によって架橋構造を形成することが可能な樹脂であれば、特に制限されず、公知のエポキシ樹脂を用いることができる。エポキシ樹脂の重量平均分子量としては、好ましくは50以上2000以下、より好ましくは100以上1000以下、さらに好ましくは200以上800以下が挙げられる。なお、エポキシ樹脂の重量平均分子量は、標準サンプルとしてポリスチレンを用いた条件で測定された、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定された値である。
【0115】
エポキシ樹脂の具体例としては、トリメチロールプロパンのグリシジルエーテル誘導体、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。エポキシ樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0116】
接着層14における、エポキシ樹脂の割合としては、接着層14を構成する樹脂組成物中、0.1質量%以上50質量%以下の範囲にあることが好ましく、0.5質量%以上40質量%以下の範囲にあることがより好ましい。これにより、バリア層13と接着層14との密着性を効果的に高めることができる。
【0117】
ポリウレタンとしては、特に制限されず、公知のポリウレタンを使用することができる。接着層14は、例えば、2液硬化型ポリウレタンの硬化物であってもよい。
【0118】
接着層14における、ポリウレタンの割合としては、接着層14を構成する樹脂組成物中、0.1質量%以上50質量%以下の範囲にあることが好ましく、0.5質量%以上40質量%以下の範囲にあることがより好ましい。これにより、電解液などのバリア層の腐食を誘発する成分が存在する雰囲気における、バリア層13と接着層14との密着性を効果的に高めることができる。
【0119】
なお、接着層14が、イソシアネート基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物、およびエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種と、前記酸変性ポリオレフィンとを含む樹脂組成物の硬化物である場合、酸変性ポリオレフィンが主剤として機能し、イソシアネート基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物、およびエポキシ基を有する化合物は、それぞれ、硬化剤として機能する。
【0120】
接着層14の厚さは、好ましくは、50μm以下、45μm以下、30μm以下、20μm以下、5μm以下である。また、接着層14の厚さは、好ましくは、0.1μm以上、0.5μm以上、5μm以上、10μm以上、15μm以上である。
当該厚さの範囲としては、好ましくは、0.1μm以上50μm以下、0.1μm以上45μm以下、0.1μm以上30μm以下、0.1μm以上20μm以下、0.1μm以上5μm以下、0.5μm以上50μm以下、0.5μm以上45μm以下、0.5μm以上30μm以下、0.5μm以上20μm以下、0.5μm以上5μm以下、5μm以上50μm以下、5μm以上45μm以下、5μm以上30μm以下、5μm以上20μm以下、10μm以上50μm以下、10μm以上45μm以下、10μm以上30μm以下、10μm以上20μm以下、15μm以上50μm以下、15μm以上45μm以下、15μm以上30μm以下、15μm以上20μm以下などが挙げられる。
【0121】
なお、接着層14に関して、ポリオレフィンを用いて具体例を示したが、接着層14を構成する材料は、これに限定されない。熱交換対象物を加熱する場合、接着層14を構成する材料としては、耐熱性の観点から、ガラス転移点および融点が高い樹脂等を選択できる。また、プレート50と容器20とは、接合されているほうがより好ましいため、接着層14を構成する材料は、プレート50と接合可能な材料を選択できる。
【0122】
<3―5.熱融着性樹脂層>
シート21、22において、熱融着性樹脂層15は、最内層に該当し、熱交換器10の製造時に熱融着性樹脂層同士が熱融着してプレート50を密封する機能を発揮する層(シーラント層)である。
【0123】
熱融着性樹脂層15は、ポリプロピレンおよびポリエチレンを含んでいる。シート21、22においては、熱融着性樹脂層15のTD(transverse dirrection)に平行な方向かつ厚み方向yの断面について、走査型電子顕微鏡を用いて取得した断面画像に海島構造が観察される。
【0124】
プロピレンとしては、ホモポリプロピレン、ポリプロピレンのブロックコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのブロックコポリマー、プロピレンとブテンのブロックコポリマー、プロピレンとエチレンとブテンのブロックコポリマーであり、好ましくはプロピレンとエチレンのブロックコポリマー)、ポリプロピレンのランダムコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのランダムコポリマー、プロピレンとブテンのランダムコポリマー、プロピレンとエチレンとブテンのランダムコポリマーであり、好ましくはプロピレンとエチレンのランダムコポリマー)、プロピレン-αオレフィン共重合体などが挙げられる。また、エチレンとしては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体等が挙げられる。熱融着性樹脂層15に含まれるポリプロピレンおよびポリエチレンは、それぞれ、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0125】
熱融着性樹脂層15は、45質量%以下のポリエチレンを含むポリプロピレン樹脂組成物により形成されていることが好ましい。ポリエチレンの含有率は、例えば45質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下であり、また、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、好ましい範囲としては、5質量%以上45質量%以下、5質量%以上30質量%以下、5質量%以上20質量%以下、10質量%以上45質量%以下、10質量%以上30質量%以下、10質量%以上20質量%以下が挙げられる。また、ポリプロピレンの含有率は、例えば、95質量%以下、90質量%以下である。また、ポリプロピレンの含有率は、例えば、55質量%以上、70質量%以上、80質量%以上である。ポリプロピレンの含有率の好ましい範囲としては、55質量%以上95質量%以下、70質量%以上95質量%以下、80質量%以上95質量%以下、55質量%以上90質量%以下、70質量%以上90質量%以下、80質量%以上90質量%以下が挙げられる。また、ポリプロピレン樹脂組成物におけるポリプロピレンとポリエチレンの質量比としては、ポリプロピレン100質量部に対して、ポリエチレンは、好ましくは5質量部以上80質量部以下、より好ましくは5質量部以上45質量部以下、さらに好ましくは10質量部以上30質量部以下が挙げられる。
【0126】
熱融着性樹脂層15は、ポリプロピレンおよびポリエチレンに加えて、他の樹脂を含んでいてもよい。他の樹脂としては、例えば、酸変性ポリオレフィンが挙げられる。
【0127】
酸変性ポリオレフィンとは、ポリオレフィンを酸成分でブロック重合またはグラフト重合することにより変性したポリマーである。
【0128】

酸変性されるポリオレフィンとしては、具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン等のポリエチレン;エチレン-αオレフィン共重合体;ホモポリプロピレン、ポリプロピレンのブロックコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのブロックコポリマー)、ポリプロピレンのランダムコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのランダムコポリマー)等のポリプロピレン;プロピレン-αオレフィン共重合体;エチレン-ブテン-プロピレンのターポリマー等が挙げられる。これらの中でも、ポリプロピレンが好ましい。共重合体である場合のポリオレフィン樹脂は、ブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。これらポリオレフィン系樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0129】
また、酸変性ポリオレフィンは、前記のポリオレフィンにアクリル酸若しくはメタクリル酸等の極性分子を共重合させた共重合体、または、架橋ポリオレフィン等の重合体等も使用できる。また、酸変性に使用される酸成分としては、例えば、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボン酸またはその無水物が挙げられる。
【0130】
酸変性ポリオレフィンは、酸変性環状ポリオレフィンであってもよい。酸変性環状ポリオレフィンとは、環状ポリオレフィンを構成するモノマーの一部を、酸成分に代えて共重合することにより、または環状ポリオレフィンに対して酸成分をブロック重合またはグラフト重合することにより得られるポリマーである。酸変性される環状ポリオレフィンについては、前記と同様である。また、酸変性に使用される酸成分としては、前記のポリオレフィンの変性に使用される酸成分と同様である。
【0131】
好ましい酸変性ポリオレフィンとしては、カルボン酸またはその無水物で変性されたポリオレフィン、カルボン酸またはその無水物で変性されたポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、無水マレイン酸変性ポリプロピレンが挙げられる。
【0132】
熱融着性樹脂層15は、1層のみで形成されていてもよいが、同一または異なる樹脂によって2層以上で形成されていてもよい。
【0133】
また、熱融着性樹脂層15は、必要に応じて滑剤などを含んでいてもよい。熱融着性樹脂層15が滑剤を含む場合、シート21、22の成形性を高め得る。滑剤としては、特に制限されず、公知の滑剤を用いることができる。滑剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0134】
滑剤としては、特に制限されないが、好ましくはアミド系滑剤が挙げられる。滑剤の具体例としては、流路部基材層11で例示したものが挙げられる。
【0135】
熱融着性樹脂層15の表面に滑剤が存在する場合、その存在量としては、特に制限されないが、シート21、22の成形性を高める観点からは、好ましくは10mg/m以上50mg/m以下、さらに好ましくは15mg/m以上40mg/m以下が挙げられる。
【0136】
熱融着性樹脂層15の表面に存在する滑剤は、熱融着性樹脂層15を構成する樹脂に含まれる滑剤を滲出させたものであってもよいし、熱融着性樹脂層15の表面に滑剤を塗布したものであってもよい。
【0137】
また、熱融着性樹脂層15の厚みとしては、熱融着性樹脂層同士が熱融着してプレート50を密封する機能を発揮すれば特に制限されないが、例えば100μm以下、好ましくは85μm以下、より好ましくは15μm以上85μm以下が挙げられる。なお、例えば、接着層14の厚みが10μm以上である場合には、熱融着性樹脂層15の厚みとしては、好ましくは85μm以下、より好ましくは15μm以上45μm以下が挙げられ、例えば接着層14の厚みが10μm未満である場合や接着層14が設けられていない場合には、熱融着性樹脂層15の厚みとしては、好ましくは20μm以上、より好ましくは35μm以上85μm以下が挙げられる。
【0138】
熱融着性樹脂層15は、溶融押出成形により形成されたものであることが好ましい。また、接着層14を有する場合、接着層14と熱融着性樹脂層15とは、溶融共押出成形により形成されたものであることが好ましい。本実施形態においては、熱融着性樹脂層15を形成する溶融樹脂の冷却条件を急冷条件にして、ポリプロピレン中でのポリエチレンの結晶成長を抑制することが好ましい。接着層14と熱融着性樹脂層15とを溶融共押出成形により形成する場合、接着層14の厚さを15μm以上45μm以下とし、熱融着性樹脂層15の厚さを15μm以上45μm以下とすることが好ましい。
【0139】
<3―6.加熱部基材層>
加熱部基材層16を形成する素材については、基材としての機能、すなわち少なくとも絶縁性を備えるものであることを限度として特に制限されない。加熱部基材層16は、例えば樹脂を用いて形成することができ、この場合、加熱部基材層16は、絶縁性を有する樹脂層である。樹脂には後述の添加剤が含まれていてもよい。加熱部基材層16の形成に使用される樹脂としては、例えば、上述した流路部基材層11で例示した樹脂と同様のものが使用できる。流路部基材層11の形成に使用される樹脂については、上述において具体的に詳述しているため、ここでの説明は省略する。
【0140】
加熱部基材層16の厚みについては、基材としての機能を発揮すれば特に制限されないが、例えば、3μm以上50μm以下、好ましくは10μm以上35μm以下が挙げられる。加熱部基材層16が、2層以上の樹脂フィルムの積層体である場合、各層を構成している樹脂フィルムの厚みとしては、それぞれ、好ましくは2μm以上25μm以下が挙げられる。
【0141】
<3―7.導電体層>
導電体層17は、図5に示す加熱部10Bのバスバー110および加熱用導電体120が形成される層である。導電体層17を構成するための材料としては、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、クロム、モリブデン、ニッケル、チタン、パラジウム、インジウム、タングステン等の金属、及び、これらの金属の1種以上を含んでなる合金や樹脂の一以上を例示することができる。中でも導電体層17を構成する材料としては、銅(Cu)を含むものが好ましい。銅(Cu)は熱伝導性が高い材料だからである。
【0142】
導電体層17の厚みは、導電体層17に形成される加熱用導電体120が、発熱体として所望の加熱となる抵抗加熱を発生できる大きさであればよく、例えば、1μm以上、2μm以上である。また、導電体層17の厚みは、例えば、100μm以下、60μm以下である。導電体層17の厚みの好ましい範囲については、1μm以上100μm以下、1μm以上60μm以下、2μm以上100μm以下、2μm以上60μm以下が挙げられる。
【0143】
<3―8.加熱部接着剤層>
シート21、22において、加熱部接着剤層18は、加熱部基材層16および導電体層17から構成される加熱部10Bと流路部基材層11とを強固に接着させるために、これらの間に設けられる層である。加熱部接着剤層18の形成に使用される接着剤としては、例えば、上述した接着剤層12で例示した接着剤と同様のものが使用できる。接着剤層12の形成に使用される接着剤については、上述において具体的に詳述しているため、ここでの説明は省略する。
【0144】
加熱部接着剤層18の厚みは、加熱部基材層16および導電体層17から構成される加熱部10Bと流路部基材層11とを接着できれば、特に制限されないが、例えば、1μm以上、2μm以上である。また、加熱部接着剤層18の厚みは、例えば、10μm以下、5μm以下である。加熱部接着剤層18の厚みの好ましい範囲については、1μm以上10μm以下、1μm以上5μm以下、2μm以上10μm以下、2μm以上5μm以下が挙げられる。なお、上記の加熱部接着剤層18の厚みとは、図8に示すように、シート21、22において、導電体層17と加熱部接着剤層18との距離(T)をいう。
【0145】
<4.供給部材>
図9は、図1に示す熱交換器10が備える供給部材30およびその周辺の拡大図である。供給部材30は、例えば、スパウトである。供給部材30は、プレート50の外枠51の入口54Aに取り付けられる。本実施形態では、供給部材30は、図7に示す外枠51の嵌合部51Aに嵌め込まれる。
図9に示すように、供給部材30は、本体部31、および、本体部31から張り出す一対の張出部32を有する。供給部材30の本体部31には熱交換媒体を流路54に供給する供給ホース70が取り付けられる。供給ホース70によって供給される熱交換媒体は、供給部材30を通過して流路54に流れる。
【0146】
一対の張出部32は、プレート50の外枠51に形成される嵌合部51Aに嵌め込まれる。一対の張出部32が嵌合部51Aに嵌め込まれるため、供給部材30はプレート50から外れにくい。一対の張出部32の形状は、任意に選択可能である。本実施形態では、平面視における一対の張出部32の形状は、三角形である。平面視における一対の張出部32の形状は、正方形、長方形、五角形以上の多角形、半円、または、半楕円であってもよい。
【0147】
供給部材30を構成する材料は、例えば、合成樹脂または金属である。合成樹脂は、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルテンペン、ポリフェニレンオキサイド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニルサルホン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂、ポリアリレート等である。なお、ポリオレフィンは、具体的には、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン-α・オレフィン共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブテン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-メタクリル酸共重合体、あるいはエチレン-アクリル酸共重合体等のエチレンと不飽和カルボン酸との共重合体等である。金属は、例えば、アルミニウム合金、銅合金、ステンレス鋼、チタン鋼、鋼板などが挙げられる。
【0148】
<5.排出部材>
図1に示される排出部材40は、プレート50の外枠51の出口54Bに取り付けられる。本実施形態では、排出部材40は、図7に示す外枠51の嵌合部51Bに嵌め込まれる。本実施形態において、排出部材40は、図9に示す供給部材30と同様の形態とすることができる。そして、供給部材30と同様に、排出部材40の一対の張出部がプレート50の外枠51の嵌合部51Bに嵌め込まれるため、排出部材40はプレート50から外れにくい。
供給部材30と同様に、排出部材40の本体部には熱交換媒体を流路54から排出する排出ホース80が取り付けられる。排出ホース80によって排出される熱交換媒体は、排出部材40を通過して流路54から外部に排出される。
排出部材40を構成する材料は、供給部材30を構成する材料と同様とすることができる。
【0149】
<6.加熱部>
図1に示す熱交換器10は、上述したように、図5に示す加熱部10Bを有する。図10は、図5に示す加熱部10Bの要部説明図である。
上述したように、図8に示す導電体層17と加熱部基材層16から構成される積層体が、図5に示す加熱部10Bを構成する。導電体層17には、図10に示すように、陽極と陰極を構成する一対のバスバー110と、一対のバスバー110間を接続する加熱用導電体120とが形成されている。
【0150】
<6-1.バスバー>
図5図10に示すように、一対のバスバー110は、陽極110Aと陰極110Bから構成され、陽極110Aと陰極110Bとは、互いに離間して配置されている。一対のバスバー110間には、陽極110Aと陰極110Bとに接続する線状の加熱用導電体120が配置されている。一対のバスバー110に電圧が印加されることで、加熱用導電体120に電流が流れる。
バスバー110は、電気抵抗を小さくするために、加熱用導電体120に比べて平面視における面積が大きくなっている。このため、バスバー110においては、抵抗加熱による発熱は生じ難い。
【0151】
バスバー110の高さは、加熱用導電体120の高さ(図11に示す加熱用導電体120の高さLH)と同じとすることが好ましい。加熱用導電体120の製造と、バスバー110の製造とを、一括して行うことが可能になるからである。
【0152】
バスバー110を構成するための材料としては、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、クロム、モリブデン、ニッケル、チタン、パラジウム、インジウム、タングステン等の金属、及び、これらの金属の1種以上を含んでなる合金や樹脂の一以上を例示することができる。
バスバー110を構成するための材料は、加熱用導電体120を構成する材料と同じものであることが好ましい。加熱用導電体120の製造と、バスバー110の製造とを、一括して行うことが可能になるからである。
【0153】
一対のバスバー110の配置は、図1図5に示すように、平面視において、熱交換器10の長手方向の両側部に形成される各側方シール部60に沿って、配置されることが好ましい。さらに、一対のバスバー110の配置は、各側方シール部60よりも容器20の内側に配置されることが、より好ましい。例えば、一対のバスバー110は、プレート50の長手方向に沿って、プレート50と重なる位置に、互いに離間して配置されていることが好ましい。
その理由としては、平面視の形態が略長方形の熱交換器10の全領域を加熱するには、一対のバスバー110の配置は、熱交換器10の長手方向の両側部の近傍か、若しくは、熱交換器10の長手方向とは異なる一対の側部の近傍が考えられるが、電気自動車の電池用途においては、その長手方向はかなり長くなり、熱交換器10の長手方向とは異なる一対の側部の近傍に、一対のバスバー110を配置した場合、一対のバスバー110間に接続する加熱用導電体120の長さは長くなり過ぎて、断線の危険が増すことになるからである。
一方、熱交換器10の長手方向の両側部の近傍に、一対のバスバー110を配置する場合は、一対のバスバー110間に接続する加熱用導電体120の長さは過度に長くなることを回避できる。そして、加熱用導電体120の長さは、後述するように、加熱用導電体120の形態を、一対のバスバー110間で折り返す形態とすることで、必要とする長さに設計できる。
【0154】
また、一対のバスバー110の配置が、各側方シール部60に沿って、各側方シール部60よりも容器20の内側に配置されることがより好ましい理由は、側方シール部60と重なる位置にバスバー110が配置されると、側方シール部60の融着を阻害してしまうおそれもあり得るからである。また、図6に示すように側方シール部60と、プレート50の外枠51が配置される位置との間は、断面の厚みが変化するため、この厚みが変化する位置を避けてバスバー110を配置した方が、一対のバスバー110間に接続する加熱用導電体120が受けるストレスは小さくなり、加熱用導電体120が断線する危険をより回避できることになるからである。
【0155】
より好ましい形態は、一対のバスバー110が、プレート50の長手方向に沿って、プレート50の外枠51と重なる位置に互いに離間して配置されている形態である。一対のバスバー110の配置位置が上記の位置であれば、上記の各条件を満たし、加熱用導電体120が断線する危険をより確実に回避できることになるからである。また、一対のバスバー110の配置位置がプレート50の外枠51と重なる位置であれば、外枠51の内側に配置される形態よりも、より広い領域を加熱用導電体120で加熱できるからである。
また、プレート50の外枠51や壁構造52と重なる位置は、外枠51や壁構造52と重ならない位置よりも強固となり得るため、バスバー110がプレート50の外枠51と重なる位置に配置されていれば、熱交換器10が受ける外力によって、バスバー110が破損してしまうことを、より防止することができる。
【0156】
バスバー110の平面形態は、特に限定されないが、例えば、長方形状とすることができる。また、一対のバスバー110を構成する陽極110Aと陰極110Bの形態は、それぞれ異なる形態であってもよく、同じ形態であってもよい。
【0157】
<6-2.加熱用導電体>
図5図10に示すように、一対のバスバー110間には、陽極110Aと陰極110Bとに接続する線状の加熱用導電体120が配置されている。加熱用導電体120は、電流を流されることで抵抗加熱を発生する発熱体として作用する。加熱用導電体120の抵抗加熱をより大きくするには、例えば、加熱用導電体120の長さをより長くすることが挙げられる。そして、加熱用導電体120の長さは、加熱用導電体120の形態を一対のバスバー110間で方向を変えて折り返す、折り返しの形態とすることで、必要とする長さに設計できる。
【0158】
例えば、図10に示す例において、加熱用導電体120は、平面視において、一対のバスバー110間の領域で4回方向を変えて、陽極を構成するバスバー110A(図面上の上方のバスバー110)から陰極を構成するバスバー110B(図面上の下方のバスバー110)に接続する、折り返しの形態を有している。より具体的には、図10に示す例において、加熱用導電体120は、まず、図面上の上方のバスバー110から下方のバスバー110へと向かって延び、屈曲点P1で右方向へ方向を変え、次に屈曲点P2で上方向へ方向を変えて上方へと延び、その後、屈曲点P3で右方向へ方向を変え、次に屈曲点P4で下方向へ方向を変えて下方へと延びて、図面上の下方のバスバー110へ到達する。
このように、加熱用導電体120の形態を一対のバスバー110間で方向を変えて折り返す、折り返しの形態とすることで、加熱用導電体120の長さを、より長くすることができる。図10に示す例では、加熱用導電体120の形態を折り返しの形態とすることで、折り返さない形態に比べて、概ね3倍の長さとすることができる。
【0159】
ここで、折り返した際の加熱用導電体120の間隔(折り返し幅)を同じ大きさにすることが好ましい。換言すれば、折り返されることで並列配置されることになった加熱用導電体120の複数の長手部分の間隔(図10に示すSW)を、同じ大きさにすることが好ましい。このようにすることで、加熱用導電体120に折り返しを行っても、1本の加熱用導電体120が配置される領域における発熱をより均一にすることができるからである。
【0160】
例えば、図10に示す例においては、1本の加熱用導電体120が配置される領域において、折り返されることで並列配置されることになった加熱用導電体120の長手部分が3本あり(例えば、そのうちの1本は、屈曲点P2から屈曲点P3までの部分)、この3本が、図面上、左右方向に並列配置されている。そして、この3本の抵抗加熱が同じであり、この3本の間隔(SW)が同じであれば、この3本が並列配置されている領域における発熱は、該領域内で均一なものになる。なお、加熱用導電体120の長手部分3本の抵抗加熱を同じにするには、該長手部分の断面形態および断面積を同じにすればよい。
【0161】
なお、3本の長手部分の抵抗加熱が同じとは、厳密に3本の長手部分の抵抗加熱が同じである場合のみを意味するのではなく、実質的に同じである範囲をも含むものである。実質的に同じである範囲とは、3本の長手部分の抵抗加熱による単位面積当たりの発熱の大きさが、意図された発熱の大きさ対して十分許容できる範囲であり、この範囲において、3本の長手部分の抵抗加熱が異なっていることも含む。本開示においては、3本の長手部分の抵抗加熱のそれぞれの大きさが、3本の平均値の10%以内であれば、3本の長手部分の抵抗加熱が同じと考えてよい。長手部分の本数が2本の場合や4本以上の場合も、同様である。
【0162】
また、3本の長手部分の間隔(SW)が同じとは、厳密に3本の長手部分の間隔(SW)が同じである場合のみを意味するのではなく、実質的に同じである範囲をも含むものである。実質的に同じである範囲とは、3本の長手部分の抵抗加熱による単位面積当たりの発熱の大きさが、意図された発熱の大きさ対して十分許容できる範囲であり、この範囲において、3本の長手部分の間隔(SW)が異なっていることも含む。本開示においては、3本の長手部分の間隔(SW)のそれぞれの大きさが、その平均値の10%以内であれば、3本の長手部分の間隔(SW)が同じと考えてよい。長手部分の本数が4本以上の場合も、同様である。
【0163】
なお、図10に示す例においては、加熱用導電体120が、一対のバスバー110間で4回折り返す形態を有している例を示したが、本開示の熱交換器においては、これに限定されず、加熱用導電体120は、より多くの回数折り返す形態を有していてもよい。その回数は、例えば、4の倍数である。換言すれば、1本の加熱用導電体120が有する屈曲点の数は、例えば4の倍数である。なお、ここで言う屈曲点とは、平面上を進行する線において進行方向が変化する点をいう。該線が曲線を含む場合は、その点の前後の進行方向の変化に比べて、進行方向の変化が大きい点をいう。
1本の加熱用導電体120が有する屈曲点の数が4の倍数であれば、該加熱用導電体120は、同じ間隔で並列配置される長手部分を複数有しつつ、一対のバスバー110の陽極110Aから陰極110Bに接続することができるからである。
【0164】
さらに、一対のバスバー110間に、複数の加熱用導電体120を配置する場合は、複数の加熱用導電体120の間隔(ピッチ)を以下の大きさとすることが好ましい。
すなわち、一対のバスバー110間に配置される複数の加熱用導電体120に含まれる隣り合う2本の加熱用導電体120の間隔(ピッチ)をPWとし、上記、隣り合う2本の加熱用導電体120に含まれる1本の加熱用導電体120において、折り返されることで並列配置されることになった加熱用導電体120の複数の長手部分の間隔をSWとし、上記並列配置されることになった加熱用導電体120の複数の長手部分の本数をnとした場合に、
PW=n×SW
を満たすようにする。このようにすることで、複数の加熱用導電体120が配置される領域における発熱をより均一にすることができる。
【0165】
例えば、図10に示す例においては、1本の加熱用導電体120が配置される領域において、折り返されることで並列配置されることになった加熱用導電体120の長手部分が3本あり(例えば、そのうちの1本は、屈曲点P2から屈曲点P3までの部分)、この3本が、図面上、左右方向に並列配置されている。また、図10に示す例においては、同じ折り返し形態を有する加熱用導電体120が2本あり、この2本の加熱用導電体120が、一対のバスバー110間に隣り合うように配置されている。
そして、この隣り合う2本の加熱用導電体120の間隔(PW)は、1本の加熱用導電体120において、折り返されることで並列配置されることになった3本の長手部分の間隔(SW)と、該長手部分の本数(n=3)の積の値になっている。
ここで、図10に示す例において、隣り合う2本の加熱用導電体120は同じ折り返し形態を有する。それゆえ、図10に示す例においては、折り返されることで並列配置されることになった加熱用導電体120の長手部分が6本あり(例えば、そのうちの1本は、屈曲点P2から屈曲点P3までの部分)、この6本の間隔(SW)は、いずれも同じ大きさになっていることになる。したがって、この6本が並列配置されている領域における発熱は、該領域内で均一なものになる。なお、この6本の長手部分の抵抗加熱を同じにするには、隣り合う2本の加熱用導電体120の該長手部分の断面形態および断面積を同じにすればよい。
【0166】
なお、図10に示す例においては、一対のバスバー110間に配置される加熱用導電体120が、少なくとも2本ある形態を示したが、本開示の熱交換器においては、加熱用導電体120の数はより多い形態であってもよい。また、一対のバスバー110間に配置される加熱用導電体120の数は1本であってもよい。加熱用導電体120の数が1本の場合は、加熱用導電体120の形態を、より多く折り返す形態とすることで、加熱を必要とする領域を覆う大きさに設計できる。
【0167】
また、上述したように、3本の長手部分の間隔(SW)が同じとは、厳密に3本の長手部分の間隔(SW)が同じである場合のみを意味するのではなく、実質的に同じである範囲をも含むものである。実質的に同じである範囲とは、3本の長手部分の抵抗加熱による単位面積当たりの発熱の大きさが、意図された発熱の大きさ対して十分許容できる範囲であり、この範囲において、3本の長手部分の間隔(SW)が異なっていることも含む。本開示においては、3本の長手部分の間隔(SW)のそれぞれの大きさが、その平均値の10%以内であれば、3本の長手部分の間隔(SW)が同じと考えてよい。長手部分の本数が4本以上の場合も、同様である。
【0168】
同様に、加熱用導電体120の数が3本以上ある形態において、加熱用導電体120のそれぞれの間隔(PW)の大きさも、厳密に同じである場合のみに限定されず、実質的に同じである範囲をも含む。本開示においては、加熱用導電体120の数が3本以上ある形態において、連続する3本の中の中央に位置する加熱用導電体120の左側の間隔(PW)の大きさと、右側の間隔(PW)の大きさとが、異なっていても、一方が他方の10%以内であれば、両者の大きさは同じと考えてよい。
【0169】
図11は、図10に示す加熱部10Bの断面構成例を示す概略断面図であり、より詳しくは、図11は、図10のB-B線断面図である。
図11に示す例において、加熱用導電体120は、全体として矩形状の断面を有している。均一な加熱とするために、複数の加熱用導電体120は、その断面形態および断面積が同じであって、同じ間隔で配置されていることが好ましい。
加熱用導電体120の断面積は、所望の加熱となる抵抗加熱を発生できる大きさであればよく、加熱用導電体120の長さとも関連して、適宜決定すればよい。
例えば、加熱用導電体120の線幅(LW)は、2μm以上である。また加熱用導電体120の線幅(LW)は、2mm以下、好ましくは1mm以下、500μm以下、100μm以下、20μm以下である。加熱用導電体120の線幅(LW)の範囲は、2μm以上2mm以下、好ましくは、2μm以上500μm以下、2μm以上100μm以下、2μm以上20μm以下である。
また、加熱用導電体120の高さ(LH)は、1μm以上である。また加熱用導電体120の高さ(LH)は、100μm以下であり、好ましくは60μm以下である。加熱用導電体120の高さ(LH)の範囲は、1μm以上100μm以下、好ましくは1μm以上60μm以下である。
加熱用導電体120のそれぞれの間隔(SW)は、1mm以上10mm以下とすることができる。
【0170】
<7.熱交換器の製造方法>
次に、熱交換器10の製造方法の一例について説明する。
この例においては、熱交換器10の製造工程として、加熱部10Bを製造する工程(加熱部製造工程)、シート21、22を製造する工程(シート製造工程)、および、熱交換器10を製造する工程(熱交換器製造工程)を含む。
以下、各工程について、説明する。
【0171】
(←)
<7―1.加熱部製造工程>
ここでは、図12図15を用いて、図11に示す加熱部10Bを製造する工程(加熱部製造工程)の一例について説明する。図12は、図11に示す加熱部の製造方法の一例を示す第1の工程図である。図13は、図12に続く加熱部の製造方法の一例を示す第2の工程図である。図14は、図13に続く加熱部の製造方法の一例を示す第3の工程図である。図15は、図14に続く加熱部の製造方法の一例を示す第4の工程図である。
【0172】
まず、図12に示すように、加熱部基材層16の上に、導電体層17を形成することになる導電体材料層151を積層した加熱部製造用積層体150を準備する。
導電体材料層151は、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、クロム、モリブデン、ニッケル、チタン、パラジウム、インジウム、タングステン、及び、これらの合金の一以上を用いて、公知の方法で形成され得る。導電体材料層151を形成する方法としては、例えば、銅箔等の金属箔を貼着する方法、電界めっき及び無電界めっきを含むめっき法、スパッタリング法、CVD法、PVD法、イオンプレーティング法、又はこれらの二以上を組み合わせた方法を採用することができる。
図示はしないが、加熱部基材層16と導電体材料層151との間には、中間層が設けられていてもよい。この中間層は、例えば、加熱部基材層16と導電体材料層151との接合を高めるための接着層である。また、導電体材料層151が電解めっきによって製造される場合は、めっきを成長させるためのシード層が中間層として存在する。
【0173】
次に、図13に示すように、導電体材料層151の上に、レジストパターン152を設ける。レジストパターン152は、バスバー110および加熱用導電体120に対応した平面形態を有している。このレジストパターン152は、公知のフォトリソグラフィー技術を用いたパターニングにより形成することができる。
【0174】
次に、図14に示すように、レジストパターン152をマスクとして、導電体材料層151をエッチングする。このエッチングにより、バスバー110および加熱用導電体120が形成される。エッチングの方法は特に限られることはなく、公知の方法が採用できる。公知の方法としては、例えば、エッチング液を用いるウェットエッチングや、プラズマエッチングなどが挙げられる。
【0175】
その後、図15に示すように、レジストパターン152を除去する。以上のような工程によって、図11に示すような断面構成を有する加熱部10Bを製造することができる。
なお、図12図15に示す例では、主に加熱用導電体120が設けられている箇所の製造工程を示しているが、バスバー110も同様にして形成できる。バスバー110と加熱用導電体120とは、同じ材料を用いて同じ製造工程を経て形成されることが効率的である。
【0176】
<7―2.シート製造工程>
次に、図16図18を用いて、図8に示す断面構成を有するシート21を製造する工程(シート製造工程)の一例について説明する。ここで、図16は、図8に示すシートの製造方法の一例を示す第1の工程図である。図17は、図16に続くシートの製造方法の一例を示す第2の工程図である。図18は、図17に続くシートの製造方法の一例を示す第3の工程図である。なお、シート22も同様にして製造することができる。
【0177】
本製造工程により、図8に示す断面構成を有するシート21を製造するには、まず、図16に示すように、シート内層側積層体160を準備する。図16に示すシート内層側積層体160は、流路部基材層11の上に、接着剤層12、バリア層13、接着層14、熱融着性樹脂層15が、順次積層された構成を有する。図16に示すシート内層側積層体160を製造する方法としては、例えば、まず、流路部基材層11とバリア層13とを接着剤層12を介してラミネートし、さらに、バリア層13の上に接着層14を設けて、その上に流路部基材層11をラミネートする方法を挙げることができる。
【0178】
次に、図17に示すように、シート内層側積層体160の流路部基材層11の側と、別途製造した加熱部10Bの導電体層17の側とを、加熱部接着剤層18を介してラミネートして、図18に示すような断面構成を有するシート21を得る。なお、図18に示すシート21は、図8に示すシート21とは上下が反転した関係になっている。
【0179】
<7―3.熱交換器製造工程>
次に、図19図20を用いて、図1に示す熱交換器10を製造する工程(熱交換器製造工程)の一例について説明する。ここで、図19は、図1に示す熱交換器の製造方法の一例を示す第1の工程図である。図20は、図19に続く熱交換器の製造方法の一例を示す第2の工程図である。
【0180】
本製造工程により、図1に示す熱交換器10を製造するには、まず、図19に示すように、図7に示すプレート50に供給部材30および排出部材40を取り付ける。
より詳しくは、図7に示すプレート50の入口54Aの側においては、プレート50の嵌合部51Aに供給部材30の一対の張出部32を嵌め込むことで、プレート50に供給部材30を取り付ける。同様に、プレート50の出口54Bの側においては、プレート50の嵌合部51Bに排出部材40の一対の張出部を嵌め込むことで、プレート50に排出部材40を取り付ける。
【0181】
次に、容器20となる形態に裁断したシート21の熱融着性樹脂層15の側をプレート50の上面に接合し、同様に、容器20となる形態に裁断したシート22の熱融着性樹脂層15の側をプレート50の下面に接合し、容器20となる長手方向の両側部において、シート21の熱融着性樹脂層15とシート22の熱融着性樹脂層15とをヒートシールして側方シール部60を形成し、図20に示すような熱交換器10を得る。
【0182】
<8.熱交換器の作用および効果>
上述したように、熱交換器10においては、薄型軽量で柔軟性を有しながら、熱交換媒体の流路が変形することを抑制できる。さらに、熱交換器10においては、熱交換対象物を冷却するのみならず、急速に加熱することもできる。熱交換器10の作用および効果について、その主たるものを以下説明する。
【0183】
熱交換器10は、各種のフィルムが積層された積層体であるため、薄型軽量で柔軟性を有する。それゆえ、図2および図3に示すように、熱交換器10は、密集して配置される多数の電池90の間に容易に配置することができ、筒状の電池90の側面に密着することができる。そして、熱交換器10は、効果的に電池90を冷却および加熱することができる。なお、ここで言う柔軟性とは、図3に示すように、熱交換器10が、多数の電池90間の隙間に合わせて波状の形態となることができる特性(形状追従性)を言う。
【0184】
また、熱交換器10は流路部10Aを備えており、流路部10Aは、熱交換媒体を介して、熱交換対象物を主に冷却する作用を奏する。そして、流路部10Aにおいては、プレート50の外枠51と壁構造52で流路54となる空間の高さ方向を維持するため、流路54が変形することを抑制できる。例えば、図2および図3に示す使用形態において、電池が膨張した場合や、何らかの外力が熱交換器10の高さ方向(厚み方向)に作用した場合においても、流路54が塞がれてしまうことを抑制できる。それゆえ、熱交換器10においては、流路54が塞がれてしまうことによって、例えば冷媒の流量が減少し、電池の冷却を十分に行えないといった不具合が生じてしまうことを抑制できる。
【0185】
さらに、熱交換器10は加熱部10Bを備えており、加熱部10Bは、電流が流されることにより加熱用導電体120に発生する抵抗加熱を利用して、熱交換対象物を加熱する作用を奏する。このような加熱により、熱交換器10においては、熱交換対象物を急速に加熱することができる。
加熱用導電体120の抵抗加熱をより大きくするには、例えば、加熱用導電体120の長さをより長くすることが挙げられるが、熱交換器10においては、加熱用導電体120の形態を一対のバスバー110間で折り返す形態とすることで、加熱用導電体120の長さを必要とする長さに設計できる。さらに、熱交換器10においては、加熱用導電体120の折り返し形態を特定の形態とすることで、加熱用導電体120が配置される領域における発熱を均一にすることができる。
【0186】
<9.変形例>
上記実施形態は本開示の熱交換器が取り得る形態の例示であり、その形態を制限することを意図していない。本開示に関する熱交換器は、実施形態に例示された形態とは異なる形態を取り得る。その一例は、実施形態の構成の一部を置換、変更、もしくは、省略した形態、または、各実施形態に新たな構成を付加した形態である。以下に実施形態の変形例の幾つかの例を示す。
【0187】
<9―1.変形例1>
プレート50の構成は、実施形態で示したものに限定されず、任意に変更可能である。図21は、変形例1が備えるプレート220の斜視図である。図21に示される変形例1の熱交換器10が備えるプレート220は、プレート220を貫通しない溝である流路221を有する。プレート220に形成される流路221の数は、任意に選択可能である。この変形例では、プレート220に形成される流路221の数は、9個である。プレート220に形成される流路221の数は、1~8個、または、10個以上であってもよい。
この変形例1では、プレート220の上面220Aに5個の流路221(以下では、「上面流路221X」という)が形成される。プレート220の下面220Bに4個の流路221(以下では、「下面流路221Y」という)が形成される。上面流路221Xは、プレート220の幅方向に沿って所定の間隔で並んでいる。上面流路221Xは、第2側面220DXから第2側面220DYまで達している。下面流路221Yは、プレート220の幅方向に沿って所定の間隔で並んでいる。下面流路221Yは、第2側面220DXから第2側面220DYまで達している。上面流路221Xと、下面流路221Yとは、プレート220の幅方向における位置が互いに異なる。
変形例1においては、プレート220に局所的に薄い部分が形成されないため、プレート220の強度が低下しにくい。上面流路221Xと下面流路221Yとは、プレート220の幅方向において、交互に形成される。供給部材30は、複数の上面流路221X、および、複数の下面流路221Yの入口221Aのそれぞれに取り付けられる。排出部材40は、複数の上面流路221X、および、複数の下面流路221Yの出口221Bのそれぞれに取り付けられる。
【0188】
<9―2.変形例2>
図22は、変形例2が備えるプレート250の概略平面図である。プレート250は、流路254の空間を維持する外枠251を備えている。また、プレート250は、流路254の空間を維持する柱構造252を備えている。より詳しくは、図22に示される変形例2の熱交換器10が備えるプレート250は、外枠251、柱構造252、底部253を有しており、外枠251と柱構造252で画定された空間が、流路254になる。すなわち、図22に示すプレート250においては、底部253が露出するより広い部分(白抜き部分)が、流路254になる。なお、図22においても、理解容易とするために、底部253を白抜きで図示している。
【0189】
なお、図22に示すプレート250においても、図7に示すプレート50と同様に、外枠251には、熱交換媒体が外部から流路254に流入するための流路254の入口254A、および、熱交換媒体が流路254から外部に流出するための流路254の出口254Bが設けられている。さらに、外枠251の入口254Aの周囲には、供給部材30を嵌め込むための嵌合部251Aが設けられ、同様に、外枠251の出口254Bの周囲には、排出部材40を嵌め込むための嵌合部251Bが設けられている。
【0190】
図7に示すプレート50では、外枠51と壁構造52で画定された溝状の空間が、流路54になっていた。このような溝状の流路54においては、壁構造52から離れた流路54の中央部分では、熱交換媒体の流れが層流になり、入口54Aから流入する新しい熱交換媒体が次々と流れていくが、壁構造52に近い流路54の端部では、熱交換媒体の流れが乱流になって、古い熱交換媒体が滞留しやすくなることが考えられる。それゆえ、流路54の中央部分と端部とで温度差が生じるおそれがある。そして、溝状の流路54を有するプレート50においては、流路54の延びる方向と直交する方向において(図7における上下方向において)、周期的に温度が高い部分と温度が低い部分とが生じるおそれがある。
【0191】
これに対し、図22に示すプレート250では、外枠251と柱構造252で画定されたより広い空間が、流路254になる。ここで、プレート250においても、柱構造252の近傍では、熱交換媒体の流れが乱流になって、古い熱交換媒体が滞留しやすくなることが考えられる。しかしながら、柱構造252は、平面視において島状であって個々独立しており、壁構造52のように流路の入口側から出口側まで連続する構造ではないため、古い熱交換媒体が滞留することを、より抑制可能と考えられる。すなわち、プレート250では、柱構造252の近傍に生じる温度差をより小さくできると考えられる。
【0192】
また、例えば、柱構造252の平面形態を円形や楕円形とすることで、四角形の平面形態を有するものよりも、柱構造252の近傍に古い熱交換媒体が滞留することを、より効果的に抑制できると考えられる。
【0193】
さらに、柱構造252の平面配置を非周期的な配置とすることで、プレート250において、周期的に温度が高い部分と温度が低い部分とが生じるおそれを回避することもできる。
【0194】
なお、図22に示すプレート250においても、プレート250の外枠251と柱構造252で流路254となる空間の高さ方向を維持するため、流路254が変形することを抑制できる。例えば、図2および図3に示す使用形態において、電池90が膨張した場合や、何らかの外力が熱交換器の高さ方向(厚み方向)に作用した場合においても、流路254が塞がれてしまうことを抑制できる。それゆえ、図22に示すプレート250を備える熱交換器においても、流路254が塞がれてしまうことによって、例えば冷媒の流量が減少し、電池の冷却を十分に行えないといった不具合が生じてしまうことを抑制できる。
【0195】
<9―3.変形例3>
加熱部10Bにおける加熱用導電体120の平面形態は、上記実施形態で示したものに限定されず、任意に変更可能である。図23は、変形例3が備える加熱用導電体の一例を示す概略平面図である。図10に示す加熱部10Bにおける加熱用導電体120は、直線を組み合わせた折れ線の形状を有していた。これに対し、図23に示す加熱部300Bにおける加熱用導電体320は、曲線の組み合わせである波線の形状を有している。
本開示の熱交換器が備える加熱用導電体の平面形態は、曲線の形状を有していてもよい。あるいは、直線、曲線、または、直線および曲線の組み合わせの形状を有していてもよい。とりわけ、図23に示す変形例3の例のように、加熱用導電体320は、円弧を組み合わせた形状を有してもよい。図23に示す例では、加熱用導電体320は、同一の大きさの180°分の円弧を、隣り合う円弧と互いに逆向きなるように組み合わされた形状を有している。
【0196】
加熱用導電体が直線、曲線、または、直線および曲線の組み合わせの形状を有することで、加熱用導電体の折り返し形態を変えることなく、加熱用導電体の長さを、適宜に調節することができる。これにより、加熱用導電体の抵抗加熱を調節することができる。また、熱交換器の外層側が伸ばされるように変形する場合に、この変形に応じて、加熱用導電体の曲線部分が曲率を変えて直線状に変形することで、加熱用導電体が切断されにくくなるという効果も奏する。
【0197】
<9―4.変形例4>
図24は、変形例4が備える加熱用導電体の一例を示す概略平面図である。図5図10に示す例においては、加熱部10Bにおける加熱用導電体120の平面形態は、側方シール部60に沿って一対のバスバー110が延びる方向(図5において左右方向)に対して直交する方向(図5において上下方向)に長手部分を有する形態を例示した。しかしながら、本開示の熱交換器が備える加熱用導電体の平面形態は、これに限定されず、加熱用導電体の長手部分は、各種方向に向いていてもよい。
例えば、図24に示す例では、加熱部400Bにおける加熱用導電体420の平面形態は、側方シール部60に沿って一対のバスバー410が延びる方向(図24において左右方向)に対して平行な方向に長手部分を有する。
【0198】
より具体的には、図24に示す例において、加熱用導電体420は、まず、図面上の上方のバスバー410(410A)から下方のバスバー410(410B)へと向かって少し延び、次に右方向へ方向を変えて長手部分を形成し、次に下方向へ方向を変えて少し延び、次に左方向へ方向を変えて長手部分を形成し、次に下方向へ方向を変えて少し延び、また、次に右方向へ方向を変えて長手部分を形成し、次に下方向へ方向を変えて少し延びるといった形態を繰り返して、下方のバスバー410(410B)へ到達する。
【0199】
図24に示す例においても、図5図10に示す例と同様に、加熱用導電体420の長さは、加熱用導電体420の形態を一対のバスバー410間で折り返す形態とすることで、必要とする長さに設計できる。
【0200】
また、図24に示す例においても、図5図10に示す例と同様に、折り返されることで並列配置されることになった加熱用導電体420の複数の長手部分の間隔を、同じ大きさにすることが好ましい。このようにすることで、加熱用導電体420に折り返しを行っても、1本の加熱用導電体420が配置される領域における発熱をより均一にすることができるからである。
【0201】
なお、図24に示す例においては、一対のバスバー410間に配置される加熱用導電体420が、5本ある形態を示したが、これに限定されず、加熱用導電体420の数はより多い形態であってもよいし、より少ない形態であってもよい。
【0202】
また、図24に示す例においては、一対のバスバー410間に配置される加熱用導電体420は直線を組み合わせた折れ線の平面形態を有しているが、これに限定されず、曲線の形状を有していてもよい。あるいは、直線、曲線、又は直線及び曲線の組み合わせの平面形態を有していてもよい。例えば、図23に示す変形例3の例のように、加熱用導電体420は、円弧を組み合わせた形状を有してもよい。
【0203】
加熱用導電体420が直線、曲線、又は直線及び曲線の組み合わせの平面形態を有することで、加熱用導電体の折り返し形態を変えることなく、加熱用導電体の長さを、適宜に調節することができる。これにより、加熱用導電体420の抵抗加熱を調節することができる。また、熱交換器の外層側が伸ばされるように変形する場合に、この変形に応じて、加熱用導電体420の曲線部分が曲率を変えて直線状に変形することで、加熱用導電体420が切断されにくくなるという効果も奏する。
【0204】
<9―5.変形例5>
図25は、変形例5が備える供給部材およびその周辺の拡大図である。図9等に示した供給部材30の構成は、実施形態で示したものに限定されず、任意に変更可能である。例えば、供給部材30の一対の張出部32の一方と他方との形状が異なっていてもよい。
例えば、図25に示す供給部材530においては、一方の張出部532Aが三角形状であり、他方の張出部532Bが半円状である。また、図25に示す供給部材530のように、本体部531に顎部533を形成し、顎部533とプレート50の外枠51との間にOリング540を配置してもよい。なお、この変形例は、排出部材40についても、同様に適用可能である。また、供給部材30と排出部材40の形状は、異なっていてもよい。
【0205】
またプレート50に対する供給部材30および排出部材40の取り付け位置は、実施形態で示したものに限定されず、任意に変更可能である。例えば、供給部材30および排出部材40の少なくとも一方は、プレート50の上面または下面から、高さ方向に突出するようにプレート50の外枠51に取り付けてもよい。
【0206】
<9―6.変形例6>
<9-6-1.熱交換器>
図26は、変形例6が備える熱交換器の一例を示す概略平面図である。なお、図26においても、本来外部から視認できない構成要素が、参考のため、部分的に破線で示されている。
上記の実施形態では、例えば図1図4等に示すように、平面視における容器20の長手方向(例えば図1に示すX方向)の両側部がシールされて、側方シール部60が形成されていた。しかしながら、本開示の熱交換器の形態は、これに限定されず、容器の長手方向の両側部以外にもシールが施されていてもよい。
例えば、図26に示す例においては、平面視における熱交換器610の容器620の外周部分は、容器620を構成するシート21、22がヒートシールされて互いに融着しており、これにより、周縁シール部660が形成されている。
また、図26に示す例では、供給部材および排出部材の形態も、上述した実施形態や変形例5とは異なっている。それゆえ、供給部材および排出部材が取り付けられるプレートの形態も異なるものになる。以下、変形例6に係るプレート、供給部材、および排出部材について説明する。
【0207】
<9-6-2.プレート>
図27は、図26に示す熱交換器610が備えるプレートの一例を示す概略平面図である。図27に示すように、プレート650は、外枠651、壁構造652、底部653を有しており、外枠651と壁構造652で画定された溝状の空間が、流路654になる。なお、図27においても、理解容易とするために、底部653を白抜きで図示している。
【0208】
外枠651には、熱交換媒体が外部から流路654に流入するための流路654の入口654A、および、熱交換媒体が流路654から外部に流出するための流路654の出口654Bが設けられている。さらに、外枠651の入口654Aの周囲には、供給部材630を嵌め込むための嵌合部651Aが設けられ、同様に、外枠651の出口654Bの周囲には、排出部材640を嵌め込むための嵌合部651Bが設けられている。
嵌合部651A、651Bは、それぞれ、供給部材630、排出部材640の形状に合わせて形成される。例えば、図7に示したプレート50においては、図9に示す供給部材30が有する張出部32の形状に合わせて、嵌合部51Aが形成されていた。一方、図27に示すプレート650の嵌合部651Aに嵌め込まれる供給部材630は、該張出部32を有していない。それゆえ、プレート650の嵌合部651Aにも、該張出部32に応じた形状は形成されていない。嵌合部651Bも同様である。
なお、図27に示すプレート650を備える熱交換器610に取り付けられる供給部材630および排出部材640は、後述するように、接着フィルム634を有し、この接着フィルム634を介して容器620を構成するシート21、22と融着することにより、熱交換器610の容器620と一体化される。
図27に示すプレート650の形態は、この嵌合部651A、651B以外は、図7に示すプレート50と同様とすることができる。また、材料や大きさも、上述したプレート50と同様とすることができる。そして、図27に示すプレート650は、上述したプレート50と同様に、流路654が変形することを抑制できる。それゆえ、プレート650を備える熱交換器610においては、流路654が塞がれてしまうことによって、例えば冷媒の流量が減少し、電池の冷却を十分に行えないといった不具合が生じてしまうことを抑制できる。
【0209】
<9-6-3.供給部材および排出部材>
図28は、図26に示す熱交換器が備える供給部材およびその周辺の拡大図である。なお、図28においても、本来外部から視認できない構成要素が、参考のため、部分的に破線で示されている。
図28に示すように、供給部材630は、熱交換媒体が通過する通路を含む本体部631、顎部633、および、接着フィルム634を有する。供給部材630は、プレート650の外枠651に設けられた入口654Aに取り付けられる。熱交換媒体は、外部から供給部材630を通過してプレート650の流路654に流入する。図26図28に示すように、熱交換器610において、供給部材630の顎部633は周縁シール部660の外側に位置する。供給部材630の接着フィルム634は、周縁シール部660と重なる位置にある。
接着フィルム634は、供給部材630の本体部631に予め融着により固定されている。供給部材630は、接着フィルム634を介して容器620を構成するシート21、22の内面と融着されることにより、供給部材630と容器620とが一体化されている。
排出部材640も、図28に示す供給部材630と同様の形態とすることができる。それゆえ、排出部材640の詳細な説明は省略する。また、供給部材630および排出部材640を構成する材料は、上述した供給部材30を構成する材料と同様とすることができる。
【0210】
<9-6-4.接着フィルム>
接着フィルム634は、容器620を構成するシート21、22と、供給部材630とを接着するように構成されている。同様に、排出部材640に固定された接着フィルム634は、容器620を構成するシート21、22と、排出部材640とを接着するように構成されている。接着フィルム634を介することによって、供給部材630および排出部材640と、シート21、22の最内層(熱融着性樹脂層15)とが異素材であっても、これらを固定することができる。周縁シール部660のうちの供給部材630と接着フィルム634とを挟む部分は、シート22、接着フィルム634、供給部材630、接着フィルム634、および、シート21が一体化されている。同様に、周縁シール部660のうちの排出部材640と接着フィルム634とを挟む部分は、シート22、接着フィルム634、排出部材640、接着フィルム634、および、シート21が一体化されている。
【0211】
接着フィルム634としては、公知の種々のものを採用することができる。接着フィルム634は、例えば、変性ポリプロピレン(PPa)の単層フィルムであってもよいし、PPa、ポリエチレンナフタレート(PEN)、および、PPaの複数層の積層フィルムであってもよい。また、PPa、ポリプロピレン(PP)、PPaの複数層の積層フィルムが適用されてもよい。また、上記のPPa樹脂に替えて、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂、アイオノマー樹脂、変性ポリエチレン、EVA等の金属接着可能な樹脂も適用可能である。
熱交換器610において、接着フィルム634は、PPa/ポリエステル繊維/PPaからなる、芯材が含まれている三層構造の積層フィルムを採用している。芯材としては、上記したポリエステル繊維以外にも公知の種々の材料を採用することができる。例えば、芯材は、PEN、ポリエチレンテレフタレート、または、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルフィルムであってもよいし、ポリアミド繊維であってもよいし、カーボン繊維であってもよい。
【0212】
<9―7.変形例7>
図8に示すシート21は、最外層に熱伝導層を備えていてもよい。より詳しくは、図8に示すシート21は、加熱部基材層16の上(導電体層17が形成されている側とは反対側)に、熱を伝導する性質を有する熱伝導層を備えていてもよい。シート21が、このような構成を有していれば、熱交換対象物との熱交換がより効率的に行える。同様に、シート22も、最外層に熱伝導層を備えていてもよい。
熱伝導層を構成するための材料としては、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、クロム、モリブデン、ニッケル、チタン、パラジウム、インジウム、タングステン等の金属、及び、これらの金属の1種以上を含んでなる合金や樹脂の一以上を例示することができる。中でも熱伝導層を構成する材料としては、銅(Cu)を含むものが好ましい。銅(Cu)は熱伝導性が高い材料だからである。
【0213】
<9―8.変形例8>
図1に示した熱交換器10において、容器20は、シート21とシート22とがヒートシールされることによって構成されたが、容器20を1枚のシートを折り畳み、側方シール部60を形成することによって構成してもよい。
【0214】
以上、本開示に係る熱交換器について、それぞれの実施形態を説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本開示の技術的思想と実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる場合であっても本開示の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0215】
10 熱交換器
10A 流路部
10B 加熱部
11 流路部基材層
12 接着剤層
13 バリア層
14 接着層
15 熱融着性樹脂層
16 加熱部基材層
17 導電体層
18 加熱部接着剤層
20 容器
21、22 シート
30 供給部材
31 本体部
32 張出部
40 排出部材
50 プレート
51 外枠
51A 嵌合部
51B 嵌合部
52 壁構造
53 底部
54 流路
54A 入口
54B 出口
60 側方シール部
70 供給ホース
80 排出ホース
90 電池
110 バスバー
110A 陽極
110B 陰極
120 加熱用導電体
150 加熱部製造用積層体
151 導電体材料層
152 レジストパターン
160 シート内層側積層体
220 プレート
220A 上面
220B 下面
220CX、220CY 第1側面
220DX、220DY 第2側面
221 流路
221A 入口
221X 上面流路
221Y 下面流路
250 プレート
251 外枠
251A 嵌合部
251B 嵌合部
252 柱構造
253 底部
254 流路
254A 入口
254B 出口
300B 加熱部
310 バスバー
310A 陽極
310B 陰極
320 加熱用導電体
400B 加熱部
410 バスバー
410A 陽極
410B 陰極
420 加熱用導電体
530 供給部材
531 本体部
532A 張出部
532B 張出部
533 顎部
540 Oリング
610 熱交換器
610A 流路部
610B 加熱部
620 容器
630 供給部材
631 本体部
633 顎部
634 接着フィルム
640 排出部材
650 プレート
651 外枠
651A 嵌合部
651B 嵌合部
652 壁構造
653 底部
654 流路
654A 入口
654B 出口
660 周縁シール部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28