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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058021
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】骨芽細胞の石灰化促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/06 20060101AFI20240418BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20240418BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240418BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20240418BHJP
   C07K 5/083 20060101ALN20240418BHJP
   C12N 5/077 20100101ALN20240418BHJP
【FI】
A61K38/06
A61P19/08
A61P43/00 107
A23L33/18
C07K5/083
C12N5/077
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165119
(22)【出願日】2022-10-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】391024353
【氏名又は名称】ゼライス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】松本 陽
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B018MD20
4B018MD69
4B018ME05
4B018MF12
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BB19
4B065BB25
4B065BC07
4B065BC11
4B065BD45
4B065CA44
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA15
4C084BA23
4C084DA40
4C084NA14
4C084ZA961
4C084ZB221
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA12
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA16
4H045FA70
(57)【要約】
【課題】石灰化促進剤として用いることができるトリペプチドを提供すること、およびこれらを有効成分として含む形成促進剤または骨形成促進用食品を提供すること
【解決手段】本発明によれば、トリペプチドGly-Pro-Hyp、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Pro-Arg、Gly-Pro-Gln、もしくはGly-Pro-Lys、またはその医学的に許容可能な塩である、骨芽細胞の石灰化促進剤が提供される。さらに、本発明によれば、石灰化促進剤のいずれか1種以上を有効成分として含有する、骨形成促進剤および骨形成促進用食品が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリペプチドGly-Pro-Hyp、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Pro-Arg、Gly-Pro-Gln、もしくはGly-Pro-Lys、またはその医学的に許容可能な塩である、骨芽細胞の石灰化促進剤。
【請求項2】
請求項1の石灰化促進剤のいずれか1種以上を有効成分として含有する、骨形成促進剤。
【請求項3】
請求項1の石灰化促進剤のいずれか1種以上を有効成分として含有する、骨形成促進用食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリペプチドまたはその医学的に許容可能な塩である骨芽細胞の石灰化促進剤に関する。本発明は、上記石灰化促進剤を有効成分とする、骨形成促進剤または骨形成促進用食品に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲン成分あるいはゼラチン成分に含まれるI型コラーゲンは(Gly-X-Y)nの繰り返し構造を有する。クロストリジウム属やグリモンティア属、ストレプトマイセス属等に由来するコラゲナーゼは、この繰り返し配列中のYとGlyとの間を特異的に分解するエンドプロテアーゼとして知られる。すなわち、これらの酵素あるいはこれらと類似する活性を有する酵素をコラーゲンまたはゼラチンに作用させることによって、アミノ酸配列がGly-X-Yのトリペプチドを生成することができる。なお、上述の酵素によるコラーゲンの分解では、1種類の特定配列のGly-X-Yのみを生成することはできず、コラーゲンのアミノ酸配列中に存在する複数配列のトリペプチドの混合物となる。
【0003】
Gly-X-Yで示されるトリペプチドを含むコラーゲン加水分解物の作用効果については、例えば歯肉炎の予防・改善(特許文献1)、アトピー性皮膚炎の炎症抑制(非特許文献1)、線虫のコラーゲン産生作用ならびにライフスパンの伸長(非特許文献2)などの報告がある。これらの報告で用いられているのは、Gly-X-Y配列を有するトリペプチドを含む粗生成物である。例えば、特許文献1には、コラーゲン・トリペプチド(HACP-50)にGly-X-Y配列を有するトリペプチドが16種含まれることが記載されている。しかし、粗生成物に含有される個々のトリペプチドに関する効果については明らかになっていない点が多い。
【0004】
さらに、コラーゲン加水分解物の、骨芽細胞におけるコラーゲン産生および石灰化促進作用、ラットにおける骨折治癒の促進作用が報告されている(非特許文献3)。さらに、特許文献2は、試験例3において骨芽細胞に、Gly-X-Y配列を有するトリペプチドを10%以上含むコラーゲン加水分解物を付与して培養することによって、骨芽細胞のコラーゲン合成が促進されたことを報告している。しかし、非特許文献3および特許文献2において、コラーゲン加水分解物に含まれる個々のトリペプチド成分が有する効果については明らかではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6857929号公報
【特許文献2】特開2002-2558474号公報
【特許文献3】特許第6989842号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hakuta, Amiko, et al. "Anti-inflammatory effect of collagen tripeptide in atopic dermatitis." Journal of dermatological science 88.3 (2017): 357-364.
【非特許文献2】Morikiri, Yukino, Eri Matsuta, and Hideki Inoue. "The collagen-derived compound collagen tripeptide induces collagen expression and extends lifespan via a conserved p38 mitogen-activated protein kinase cascade." Biochemical and biophysical research communications 505.4 (2018): 1168-1173.
【非特許文献3】Tsuruoka, Naoki, et al. "Promotion by collagen tripeptide of type I collagen gene expression in human osteoblastic cells and fracture healing of rat femur." Bioscience, biotechnology, and biochemistry 71.11 (2007): 2680-2687.
【非特許文献4】Min, Geng. "Collagen hydrolysate Gly-Pro-Hyp on osteoblastic proliferation and differentiation of MC3T3-E1 cells." Journal of Clinical and Nursing Research 1.3 (2017).
【非特許文献5】渡辺 隆一ら、日腎会誌 2014;56(8):1196-1200
【非特許文献6】Kimira, Yoshifumi, et al. "Collagen-derived dipeptide prolyl-hydroxyproline promotes differentiation of MC3T3-E1 osteoblastic cells." Biochemical and biophysical research communications 453.3 (2014): 498-501.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トリペプチドのような短鎖のペプチドでは、配列中のアミノ酸が一つ置換されただけでも元の配列とは活性が異なる可能性が高いことが知られている。すなわち、特定のトリペプチド成分がある作用効果を有していたとしても、それとは異なる配列のトリペプチド成分が同様の作用効果を有するかいなかは明らかではない。上記のとおり、Gly-X-Y配列を有するトリペプチドを含む粗生成物において報告されている石灰化促進作用や骨折治癒作用が、どのトリペプチド成分のどのような作用によるものかについては明らかでない点が非常に多い。
【0008】
長寿高齢化にともない、加齢とともに骨密度が低下し、骨折などにより生活の質(QOL)が低下することが問題となっている。骨形成を促進し骨密度の低下を予防することがQOLの点から求められている。骨芽細胞の石灰化促進作用や骨折治癒作用における、各トリペプチド成分の作用効果を研究し、石灰化促進について有用な効果を有する成分や高い効果を示す成分を、積極的に摂取することは、効率的な骨形成促進や骨密度低下の予防、ひいてはQOL向上の点から望ましい。
【0009】
よって、本発明の課題は、石灰化促進剤として用いることができるトリペプチドを提供すること、およびこれらを有効成分として含む骨形成促進剤または骨形成促進用食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、Gly-X-Y配列を有するトリペプチドの作用効果は一律に同じではなく、特定のトリペプチドが高い石灰化促進活性を有することを見出した。特にトリペプチドGly-Pro-Hyp、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Pro-Arg、Gly-Pro-Gln、およびGly-Pro-Lysが骨芽細胞において高い石灰化促進活性を示すことを明らかにした。このような知見に基づいて、本発明は完成された。
【0011】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1] トリペプチドGly-Pro-Hyp、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Pro-Arg、Gly-Pro-Gln、もしくはGly-Pro-Lys、またはその医学的に許容可能な塩である、骨芽細胞の石灰化促進剤。
[2] [1]の石灰化促進剤のいずれか1種以上を有効成分として含有する、骨形成促進剤。
[3] [1]の石灰化促進剤のいずれか1種以上を有効成分として含有する、骨形成促進用食品。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に記載する本発明の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。本明細書において、特に記載しない限り、「%」は質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0013】
本発明の骨芽細胞の石灰化促進剤は、トリペプチドGly-Pro-Hyp、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Pro-Arg、Gly-Pro-Gln、もしくはGly-Pro-Lys、またはその医学的に許容可能な塩である。
【0014】
本明細書中「Hyp」はアミノ酸のヒドロキシプロリンを意味する。ヒドロキシプロリンはタンパク質合成後の翻訳後修飾として、プロリルヒドロキシラーゼによってプロリンにヒドロキシル基が導入されることにより生成される。ヒドロキシプロリンはコラーゲンに特異的に存在する。
【0015】
Gly-Pro-Hypは、N末端からC末端の順に、3つのアミノ酸残基グリシン、プロリンおよびヒドロキシプロリンが連なった短鎖ペプチドである。Gly-Pro-Ala、Gly-Pro-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Pro-Arg、Gly-Pro-Gln、およびGly-Pro-Lysについても、同様にN末端からC末端の順に3つのアミノ酸残基が連なった短鎖ペプチドである。
【0016】
後記する実施例で示すように、トリペプチドGly-Pro-Hyp、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Pro-Arg、Gly-Pro-GlnおよびGly-Pro-LysはMC3T3-E1細胞の石灰化を促進することができる。
【0017】
MC3T3-E1細胞は、マウスの新生児頭蓋冠から分離樹立された正常細胞由来の細胞株であり、分化誘導を行うことによって結節を形成する。このことから分化により石灰化能を有する細胞株として多くの研究者によって生体内における骨芽細胞の分化機構や、石灰化における役割の解明に用いられている。よって、MC3T3-E1細胞を用いてトリペプチド未処置時とトリペプチド添加時の石灰化の度合いを比較することによって、骨芽細胞への石灰化に対する作用について検討することができる。
【0018】
Gly-Pro-Hypの骨芽細胞増殖促進作用ならびにアルカリフォスファターゼ(ALP)活性増強作用が報告されている(非特許文献4)。しかし、非特許文献4には、Gly-Pro-Hypが骨芽細胞の石灰化促進活性を有することは示されておらず、本願において初めて示されたものである(実施例1)。
【0019】
ALPは分化前期のマーカーであり、骨の石灰化における複数のプロセスの一つである。骨の石灰化は、細胞外に分泌されたコラーゲン線維から形成される類骨に、ハイドロキシアパタイトが沈着することで形成される。この過程はピロリン酸(PPi)や、sibling蛋白質で阻害される。PPiの活性にはPPi産生酵素(ENPP1)やPPi輸送蛋白(ANK)、PPi分解酵素であるALPなどが関与しており、複数のプロセスによって調節されている。また、sibling蛋白質にはオステオカルやオステオポンチン等石灰化抑制作用を持つものが複数存在し、複雑なプロセスによって骨基質の石灰化を制御している(非特許文献5)。それゆえ、Gly-Pro-Hypの添加によって細胞のALPが上昇したからといって、必ずしもGly-Pro-Hypが石灰化を促進するとは言えない。
【0020】
よって、ALP活性増強と骨芽細胞の石灰化促進は別の段階の現象であるといえる。例えば、非特許文献6は、コラーゲンペプチドの摂取時に体内に出現する代表的な代謝物の1つであるPro-Hypが、骨芽細胞のALP活性増強作用を有するが、一方で骨芽細胞における石灰化促進作用については認められなかったことを報告している。後記する実施例においても、比較例として使用したPro-Hypに関し、骨芽細胞における石灰化促進作用は認められなかった。
【0021】
また、Gly-3Hyp-4HypのALP活性増強作用および石灰化促進作用が報告されている(特許文献3)。Gly-3Hyp-4HypはGly-X-Y配列の一つではあるものの、これは一般的に流通するコラーゲンペプチドの原料である動物の皮、骨、等のI型コラーゲンにはほぼ含まれない配列である。これは3HypがI型コラーゲン中にほとんど含まれないからに外ならず、具体的には1,000アミノ酸残基当たり1残基に満たない程度である。ウシ皮膚由来I型コラーゲンに上述のような特異的エンドプロテアーゼを作用させた場合、生成したGly-3Hyp-4Hypは0.1%程度である(特許文献3)。従って、非特許文献3(Tsuruoka et al., 2007)にあるような、I型コラーゲンを原料として作成されたGly-X-Y配列のトリペプチドの石灰化促進作用や骨折治癒の促進作用に、Gly-3Hyp-4Hyp配列のトリペプチドが作用した可能性は限りなく低い。一方、発明のトリペプチドはいずれにおいても、I型コラーゲンからGly-3Hyp-4Hypと比較して多量に生成させることが可能である。Gly-Pro-HypはI型コラーゲン中で最も頻繁に存在するGly-X-Y配列であり、その割合は原料種を問わずGly-3Hyp-4Hypの数十倍にもなる。Gly-3Hyp-4Hypは、多量に製造することが難しいため、より多量に製造することができる骨芽細胞の石灰化促進作用や骨折治癒作用を有するトリペプチド成分の開発が求められていた。本発明は、骨芽細胞において高い石灰化促進活性を示すトリペプチドGly-Pro-Hyp、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Pro-Arg、Gly-Pro-Gln、およびGly-Pro-Lysを提供するものであり、これらのトリペプチドは多量に製造することができるものである。
【0022】
本明細書において、「医学的に許容可能な塩」は、薬理学的に許容可能であればよい。無機酸としては、塩化水素酸、硫酸、またはリン酸などがある。有機酸としては、カルボン酸、ホスホン酸、スルホン酸があり、たとえば酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシブチル酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、サリチル酸、フマル酸、琥珀酸、アジピン酸、酒石酸、クエン酸、グルタル酸、2-または3-グリセロリン酸、ならびに当業者には周知の他の鉱物の酸がある。また、無機塩基や有機塩基との塩であってもよい。無機塩基としては、アルカリまたはアルカリ土類金属(たとえば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、またはマグネシウム)水酸化物、アンモニア、アンモニウム水酸化物などがある。また、有機塩基としては、アルキルアミン、ヒドロキシアルキルアミン、N-メチルグルカミン、ベンジルアミン、ピペリジン、ピロリジンなどがある。
【0023】
トリペプチドGly-Pro-Hyp、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Pro-Arg、Gly-Pro-GlnおよびGly-Pro-Lysの各々を生成するには、特許第3146251号を参照して、コラーゲンやゼラチンの(Gly-X-Y)nで示されるペプチド鎖を、クロストリジウム属等を由来とするコラゲナーゼを用いて特異的に分解することによって得られる。トリペプチドGly-Pro-Hyp、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Pro-Arg、Gly-Pro-Gln、およびGly-Pro-Lysの各々は、これらのコラゲナーゼ分解物から液体クロマトグラフィーその他の方法で精製して調製することができる。
【0024】
トリペプチドGly-Pro-Hyp、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Pro-Arg、Gly-Pro-Gln、およびGly-Pro-Lysの各々は、「固相合成法」や「液相合成法」などの公知のペプチド合成法によって製造することもできる。固相合成法としては、Fmoc法、Boc法の何れであってもよい。
【0025】
本発明の骨形成促進剤は、本発明の石灰化促進剤を有効成分として含有する。古い骨は破骨細胞に吸収され、骨芽細胞が作る新しい骨で補充される。この骨の新陳代謝機構を骨リモデリングと呼ぶ。骨リモデリングは、破骨細胞が骨吸収を始めることで開始される。骨吸収が完了すると、骨芽細胞が骨表面に付着して形成相が始まる。形成相では、骨芽細胞によりI型コラーゲンなどのタンパク質が産生されて類骨が形成される。上述のように、この類骨にハイドロキシアパタイトが沈着することによって石灰化が生じ、吸収窩は新生骨で埋められる。すなわち、骨芽細胞の石灰化促進ができれば、骨形成を促進することができる。上記したように、Gly-Pro-Hyp、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Pro-Arg、Gly-Pro-Gln、およびGly-Pro-Lysで示されるトリペプチドは、骨芽細胞の石灰化促進作用があり、この石灰化促進作用によって骨形成を促進することができる。
【0026】
本発明の石灰化促進剤または骨形成促進剤は、種々の剤型とすることができる。例えば、経口投与剤としては錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳化剤等の液剤、凍結乾燥剤等が挙げられる。局所薬としては、塗布や外用剤や噴霧剤が挙げられる。低分子ペプチドは皮膚や粘膜から吸収されるためである。本発明の石灰化促進剤または骨形成促進剤の組成物には、医薬として許容される添加物を含むことができる。医薬として許容される添加物は、例えば安定化剤、滑剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、pH調整剤、保存剤等である。
【0027】
本発明の石灰化促進剤または骨形成促進剤は、1日につき体重1kgあたり0.01~200mg、好ましくは0.02~100mg、1日1回または数回に分けて投与または摂取することができる。投与量は、対象の年齢、体重、症状の違い、症状の程度、剤型等により適宜調節することができる。投与または摂取の期間は、特に制限されないが、2週間以上であることが好ましく、1か月以上、または2か月以上であることがより好ましい。
【0028】
本発明の石灰化促進剤または骨形成促進剤は、経口摂取可能な任意の形態、(例えば、溶液、懸濁液、粉末、固体成形物など)の食品に加工することができる。任意の形態に加工された食品は、そのまま摂取してもよいし、コーヒーなど嗜好飲料やヨーグルトなど乳製品などに混ぜて摂取することもできる。
【0029】
本発明の石灰化促進剤または骨形成促進剤は、コラーゲン加水分解物と組み合わせて、投与または摂取することができる。例えば、コラーゲン加水分解物において、本発明の石灰化促進剤であるトリペプチドのGly-Pro-Hyp、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Pro-Arg、Gly-Pro-Gln、およびGly-Pro-Lysのいずれか1種類以上の含有量を増加させたものを、投与または摂取することができる。コラーゲン加水分解物中において特定のトリペプチドの含有量を増加させるために、例えば、コラーゲン加水分解物に、上記の合成法や精製法で得られた特定のトリペプチドを添加することができる。コラーゲン加水分解物の例としては、HACP-50、HACP-01、HACP-TF、HACP-CF(ゼライス株式会社)などを挙げることができるがこれらに限定されず、豚・魚・その他原料動物の種類によっても限定されない。本発明の石灰化促進剤をこれらのコラーゲン加水分解物に加えて投与または摂取することにより、高い骨形成促進効果が期待できる。コラーゲン加水分解物に含有される各種の短鎖ペプチドや長鎖のペプチド成分には、コラーゲン産生作用を有するものがあり、本発明の石灰化促進剤と共に骨形成を促進すると考えられるためである。
【0030】
本発明の骨形成促進用食品は、本発明の石灰化促進剤を有効成分として含有する。
【0031】
食品の例としては、本発明を限定するものではないが、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤およびドリンク剤等のサプリメント、あるいは炭水化物類(パン、麺、米飯、餅など)、菓子類(クッキー、ゼリー、チョコレート、チューインガム、キャンディーなど)、乳製品(チーズ、ヨーグルト、バターなど)、粉末食品(粉末スープ、粉末ムース、粉末ゼリー、粉末甘味料)、栄養食、ダイエット食、スポーツ用栄養食や、飲料(果汁含有飲料、果汁ジュース、野菜ジュース、サイダー、ジンジャーエール、アイソトニック飲料、アミノ酸飲料、ゼリー飲料、コーヒー飲料、緑茶、紅茶、ウーロン茶、麦茶、乳飲料、乳酸菌飲料、ココア、ビール、発泡酒、第三のビール、ノンアルコール飲料、ビール風味飲料、リキュール、チューハイ、清酒、果実酒、蒸留酒)を挙げることができる。本発明の一態様において食品は、機能性表示食品または特定保健用食品である。
【実施例0032】
以下の例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0033】
実施例では、トリペプチドの石灰化促進作用について評価を行った。
(方法)
以下に示す方法は後述の実施例1および2に共通の方法である。
【0034】
MC3T3-E1細胞(RIKEN)を用いて、トリペプチドGly-Pro-Hyp、Gly-Pro-Ala、Gly-Pro-Ser、Gly-Ala-Hyp、Gly-Ala-Arg、Gly-Pro-Arg、Gly-Pro-Gln、Gly-Pro-LysおよびGly-Leu-HypならびにジペプチドPro-Hypの石灰化促進作用について評価を行った。評価に用いた短鎖ペプチドはジェンスクリプト社の合成サービスにより化学合成したものを使用した。
【0035】
MC3T3-E1細胞は増殖培地(10%FBS含有MEMアルファ培地)で培養した。これを5×104個/wellずつ24wellプレートに播種した。5%CO2インキュベーター内で培養し、細胞がフルコンフルエント状態になったのを確認した後、培地を各合成ペプチドを表1または表2のとおり添加した分化培地(10%透析済みFBS(Cytiva社製)、骨芽細胞分化試薬(Takara社製)含有MEMアルファ)に交換し、引き続き5%CO2インキュベーター内で培養した。培地は1週間に2回の頻度で交換した。ペプチドの添加濃度は表1、表2に示した通りである。分化培地に交換してから21日目に、PBSを用いて洗浄した後、メタノールで細胞を固定した。その後、石灰化染色キット(コスモバイオ社製)を用いて染色を行った。染色された石灰化物は10%(w/v)Cetylpyridium chlorideを用いて脱色した。脱色液を96well plateに移してプレートリーダーにて562nmの吸光度を測定することにより、石灰化の進行度合いを定量的に評価した。
【0036】
後述の実施例1はN=3、実施例2はN=6でそれぞれ評価を行った。各群の平均値および標準誤差を示した。得られた数値について未添加群を対照としてt検定を行い、対照に対してp<0.05で統計的有意差ありと設定した。
【0037】
(実施例1)Gly-Pro-Hypの石灰化促進活性
本明細書で上述したとおり、ある物質の添加による細胞のALPが上昇したからといって、必ずしも同物質が石灰化を促進するかどうかは定かではない。本実施例では、Min et al 2017(非特許文献4)によりすでにALP活性増強作用について報告があるGly-Pro-Hypについて、石灰化促進能を検証した。
結果を表1に示す。MC3T3-E1細胞にGly-Pro-Hypを添加することによって、濃度依存的に細胞の石灰化が促進された。この石灰化促進作用はいずれの濃度においても統計的有意差が認められた。
【0038】
【表1】
【0039】
(実施例2)
その他のトリペプチドおよびジペプチドについて、石灰化促進能への影響について確かめるため添加する短鎖ペプチドの濃度を100μMに統一し検討を行った。結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
MC3T3-E1細胞に、表2に記載されるGly-X-Y配列のペプチドを添加することによって、Gly-Leu-Hypを除くすべてのトリペプチドにおいて統計的有意差をもって細胞の石灰化が促進された。一方、Gly-Leu-Hypや比較例として用いたPro-Hyp添加群では、石灰化促進作用が認められなかった。このように、すべてのGly-X-Y配列のトリペプチドが石灰化促進能を有するわけではないことが明らかとなった。