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特開2024-58031貫入抵抗低減装置及びサクション構造体の貫入方法
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  • 特開-貫入抵抗低減装置及びサクション構造体の貫入方法 図1
  • 特開-貫入抵抗低減装置及びサクション構造体の貫入方法 図2
  • 特開-貫入抵抗低減装置及びサクション構造体の貫入方法 図3
  • 特開-貫入抵抗低減装置及びサクション構造体の貫入方法 図4
  • 特開-貫入抵抗低減装置及びサクション構造体の貫入方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058031
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】貫入抵抗低減装置及びサクション構造体の貫入方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 23/14 20060101AFI20240418BHJP
   E02D 23/08 20060101ALI20240418BHJP
   E02D 27/04 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
E02D23/14
E02D23/08 F
E02D27/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165138
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】三浦 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 悠紀
(72)【発明者】
【氏名】松岡 義博
(72)【発明者】
【氏名】小山 宏人
(57)【要約】
【課題】サクション基礎構造体に貫入抵抗低減対策用の構成を設けることなく、スカート部の貫入抵抗を低減できる貫入抵抗低減装置及びサクション構造体の貫入方法を提供する。
【解決手段】筒状のスカート部13を備えたサクション構造体10を、排水によるスカート部13の内外圧力差(サクション)を用いて水底地盤に貫入させる際の、スカート部13の貫入抵抗を低減させる貫入抵抗低減装置1であって、スカート部13の外周面に沿って巻き回された状態で水底面Xに沈設された滑剤散布管2と、滑剤散布管2に滑材Lを供給する滑材供給装置3と、を備え、滑剤散布管2には、滑材Lを水底面Xに散布する散布孔21が、滑材Lがスカート部13の外周面に接する水底面Xに満遍なくいきわたる間隔で形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のスカート部を備えたサクション構造体を、排水による前記スカート部の内外圧力差を用いて水底地盤に貫入させる際の、前記スカート部の貫入抵抗を低減させる貫入抵抗低減装置であって、
前記スカート部の外周面に沿って巻き回された状態で水底面に沈設された滑剤散布管と、
前記滑剤散布管に滑材を供給する滑材供給装置と、を備え、
前記滑剤散布管には、前記滑材を前記水底面に散布する散布口が、前記滑材が前記スカート部の外周面に接する前記水底面に満遍なくいきわたるように形成されていることを特徴とする貫入抵抗低減装置。
【請求項2】
前記滑材は、水よりも比重が大きく、水溶性があり、生分解性がある基剤であることを特徴とする請求項1記載の貫入抵抗低減装置。
【請求項3】
前記滑材は、PAG系基剤であることを特徴とする請求項2記載の貫入抵抗低減装置。
【請求項4】
筒状のスカート部を備えたサクション構造体を、排水による前記スカート部の内外圧力差を用いて水底地盤に貫入させるサクション構造体の貫入方法であって、
前記スカート部の前記内外圧力差に起因する浸透流によって、滑材を前記スカート部の外周面及び内周面と前記水底地盤との間に浸透させて、前記スカート部の貫入抵抗を低減させることを特徴とするサクション構造体の貫入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サクション構造体を水底地盤に貫入する際の貫入抵抗を低減させる貫入抵抗低減装置及びサクション構造体の貫入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中に基礎構造物を構築する工法の一種として、サクション基礎工法が知られている(例えば、特許文献1参照)。サクション基礎工法では、洋上風車等の上部構造物と接続される頂版部と、頂版部から下方に向けて一体に延設された筒状のスカート部とを備えたサクション基礎構造体を用いる。スカート部の先端を水底地盤中に貫入させた状態で、頂版部とスカート部と水底地盤とで画成された領域から水を排出し、サクション荷重を作用させ、サクション基礎構造体を所定深度まで沈設する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-140879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、サクション基礎構造体の貫入は、途中でスカート部の貫入抵抗が貫入力を上回って貫入不能(高止まり)になることがある。貫入不能になってしまった場合、貫入を諦めてサクション基礎構造体を完全に引抜き、貫入可能な場所を探して再度貫入しなければならなかった。
【0005】
特許文献1は、スカート部が接触している水底地盤に向けて、高圧気体を噴射し、貫入抵抗を低減させる技術が提案されている。しかしながら、高圧気体を水底地盤に向けて噴射させるためには、貫入抵抗低減対策用の構成である送気通路体をサクション基礎構造体に作り込む必要があり、装置が大がかりとなってしまう。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消し、サクション基礎構造体に貫入抵抗低減対策用の構成を設けることなく、スカート部の貫入抵抗を低減できる貫入抵抗低減装置及びサクション構造体の貫入方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の貫入抵抗低減装置は、筒状のスカート部を備えたサクション構造体を、排水による前記スカート部の内外圧力差を用いて水底地盤に貫入させる際の、前記スカート部の貫入抵抗を低減させる貫入抵抗低減装置であって、前記スカート部の外周面に沿って巻き回された状態で水底面に沈設された滑剤散布管と、前記滑剤散布管に滑材を供給する滑材供給装置と、を備え、前記滑剤散布管には、前記滑材を前記水底面に散布する散布口が、前記滑材が前記スカート部の外周面に接する前記水底面に満遍なくいきわたるように形成されていることを特徴とする。
さらに、本発明の貫入抵抗低減装置において、前記滑材は、水よりも比重が大きく、水溶性があり、生分解性がある基剤であっても良い。
さらに、本発明の貫入抵抗低減装置において、前記滑材は、PAG系基剤であっても良い。
また、本発明のサクション構造体の貫入方法は、筒状のスカート部を備えたサクション構造体を、排水による前記スカート部の内外圧力差を用いて水底地盤に貫入させるサクション構造体の貫入方法であって、前記スカート部の前記内外圧力差に起因する浸透流によって、滑材を前記スカート部の外周面及び内周面と前記水底地盤との間に浸透させて、前記スカート部の貫入抵抗を低減させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、サクション基礎構造体に貫入抵抗低減対策用の構成を設けることなく、沈設された滑剤散布管から滑材Lを水底面に散布するだけでスカート部の貫入抵抗を低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る貫入抵抗低減装置の実施形態の構成を示す側断面図である。
図2図1に示す滑剤散布管の構成を示す下面図である。
図3図1に示す滑剤散布管の他の構成例を示す下面図である。
図4図1に示す滑剤散布管に形成された散布口の構成例を示す下面図である。
図5図1に示す滑材の浸透を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施形態」という)を、図面を参照して具体的に説明する。
本実施形態の貫入抵抗低減装置1は、図1を参照すると、サクション基礎構造体10の水底地盤内への貫入抵抗を低減させる装置である。図1は、サクション基礎構造体10の水底地盤への貫入途中の状態を示している。水底地盤は、海の地盤であっても良く、湖、河川等の地盤であっても良い。
【0011】
サクション基礎構造体10は、洋上風車等の上部構造物11を水底地盤に設置するための基礎である。サクション基礎構造体10は、上部構造物11と接続される頂版部12と、頂版部12から下方に向けて一体に延設されたスカート部13を備えたコップ状の凾体である。
【0012】
スカート部13は、頂版部12の下端外周縁から下方に向けて一体に延設された筒状体である。本実施形態において、頂版部12は円板状、スカート部13は円筒状でそれぞれ構成されている。なお、スカート部13は頂版部12の形状に応じた形状に構成される。頂版部12は矩形等の多角形である場合、スカート部13は多角形筒状に構成される。
【0013】
貫入抵抗低減装置1は、スカート部13の貫入抵抗がサクションによる貫入力を上回る場合に使用される。貫入抵抗低減装置1は、例えば、貫入途中でスカート部13の貫入抵抗がサクションによる貫入力を上回って貫入不能になった場合や、予めスカート部13の貫入抵抗がサクションによる貫入力を上回ることが想定される場合に使用される。
【0014】
貫入抵抗低減装置1は、図1を参照すると、滑剤を水底面Xに散布する滑剤散布管2と、滑剤散布管2に滑材Lを供給する滑材供給装置3と、を備える。
【0015】
滑剤散布管2は、図2に示すように、滑剤を散布する散布口として、散布孔21が等間隔に形成され、スカート部13の外周面に沿って巻き回された状態で水底面Xに沈設される。散布孔21は、散布する滑材Lがスカート部13の外周面に接する水底面Xに満遍なくいきわたる間隔で形成されている。図2に示す例では、散布孔21は、滑剤散布管2の下向きに形成されている。散布孔21の向きは、特に制限はないが、散布孔21を滑剤散布管2の下向きに配置することで、水底面Xへの滑材Lの散布をスムーズに行うことができる。
【0016】
滑剤散布管2は、鋼管等の自重によって沈設可能な材質で構成しても良く、自重で沈設できない場合は、図示しない錘によって沈設させても良い。図1に示す滑剤散布管2は、スカート部13の外周面に沿って無端状(ドーナッツ状)に巻き回されて構成されている。
【0017】
滑剤散布管2は、図3(a)に示す滑剤散布管2aのように、端部が閉じられたホース状に構成しても良い。滑剤散布管2は、図3(b)に示す滑剤散布管2bのように、複数に分割し、複数の滑剤散布管2bをスカート部13の外周面に沿って巻き回された状態で沈設させても良い。
【0018】
滑材供給装置3は、滑材供給管4を介して滑剤散布管2へ滑材Lを供給するためのポンプである。滑材供給装置3は、例えば、船上に設置される。
【0019】
貫入抵抗低減装置1によって散布する滑材Lは、水面などに浮遊することなく、環境にやさしいものである必要がある。滑材Lは、水よりも比重が大きく、水溶性があり、生分解性があるタイプのPAG(ポリアルキレングリコール)系基剤を用いることができる。
【0020】
滑材Lは、滑材供給装置3を用いることなく、事前に滑剤散布管2に充填しておいても良い。この場合、散布孔21を閉じる蓋を設け、滑材Lが充填された滑材供給装置3を沈設させた後に蓋を解放し、滑材Lを散布する。
【0021】
滑剤散布管2の散布口は、散布する滑材Lがスカート部13の外周面に接する水底面Xに満遍なくいきわたれば良く、その形状には特に制限はない。例えば、散布口の形状は、図4に示すように、スリット22、22aとしても良い。図4(a)に示す例では、スリット22が滑剤散布管2の下向きに全長に亘って形成されている。図4(b)に示す例では、8個のスリット22aが滑剤散布管2の下向きに等間隔で形成されている。散布口をスリット22、22aとした場合、滑材Lは、スカート部13の外周面に接する水底面Xに対し、全周に亘って一様に散布される。従って、滑材Lの散布量を少なくできる。
【0022】
次に、貫入抵抗低減装置1を用いたサクション基礎構造体10の貫入方法の一例について説明する。
サクション基礎構造体10の設置は、まず、スカート部13を水底地盤に着底させた状態で、自重を作用させることでスカート部13を水底地盤中に貫入させる。スカート部13の先端が全て水底地盤中に貫入されると、スカート部13の内部は、頂版部12(下面)、スカート部13(内周面)及び水底面Xとによって画成された画成領域Aとなる。
【0023】
サクション基礎構造体10は、画成領域Aと連通する排水管14を備える。排水管14は、画成領域A(スカート部13)内の水の排水に使用される。排水ポンプ15を用いて排水管14を介して画成領域A(スカート部13)内の水を排水することで、画成領域A(スカート部13)内の圧力は、低下する。サクション基礎構造体10は、スカート部13の内外圧力差(サクション)を貫入力として利用して、スカート部13の先端が水底地盤中の目標深度になるまで貫入させる。
【0024】
スカート部13の貫入抵抗がサクションによる貫入力を上回る場合、サクション基礎構造体10は、スカート部13の先端を水底地盤中の目標深度になるまで貫入できず、貫入不能(高止まり)になってしまう。
【0025】
貫入抵抗低減装置1は、スカート部13の貫入抵抗がサクションによる貫入力を上回る場合に使用し、スカート部13の貫入抵抗を低減させる。まず、排水ポンプ15を用いた排水を停止し、滑剤散布管2を、スカート部13の外周面に沿って巻き回された状態で水底面Xに沈設する。滑剤散布管2は、クレーン等に吊り下げて沈設できる。なお、スカート部13の貫入抵抗がサクションによる貫入力を上回ることが想定されている場合、滑剤散布管2は、スカート部13の外周面に取り付けておいても良い。
【0026】
次に、滑材供給装置3によって滑材供給管4を介して滑剤散布管2へ滑材Lを供給し、滑剤散布管2の散布孔21から滑材Lを散布する。滑材Lは、スカート部13の外周面に接する水底面Xに満遍なくいきわたるように散布される。
【0027】
滑材Lの散布と同時、もしくは散布後に排水ポンプ15を用いて排水管14を介して画成領域A(スカート部13)内の水を排水する。排水により、画成領域A(スカート部13)内の圧力は、低下する。排水によるスカート部13の内外圧力差(サクション)は、スカート部13内の水底地盤にも負圧として作用する。従って、図5に示すように、スカート部13周辺の水底地盤からスカート部13内の水底地盤に向けたサクションに起因する浸透流が発生する。滑材Lは、サクションに起因する浸透流によって、スカート部13の外周面及び内周面と水底地盤との間に浸透し、スカート部13の貫入抵抗を低減させる。滑材Lによるスカート部13の貫入抵抗の低減によって、スカート部13の貫入抵抗がサクションによる貫入力を下回ると、サクション基礎構造体10の貫入を継続することができる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態は、筒状のスカート部13を備えたサクション基礎構造体10を、排水によるスカート部13の内外圧力差(サクション)を用いて水底地盤に貫入させる際の、スカート部13の貫入抵抗を低減させる貫入抵抗低減装置1であって、スカート部13の外周面に沿って巻き回された状態で水底面Xに沈設された滑剤散布管2と、滑剤散布管2に滑材Lを供給する滑材供給装置3と、を備え、滑剤散布管2には、滑材Lを水底面Xに散布する散布口として、散布孔21が、滑材Lがスカート部13の外周面に接する水底面Xに満遍なくいきわたる間隔で形成されている。
この構成により、サクション基礎構造体10に貫入抵抗低減対策用の構成を設けることなく、沈設された滑剤散布管2から滑材Lを水底面Xに散布するだけでスカート部13の貫入抵抗を低減できる。スカート部13の貫入抵抗を低減できるため、スカート部13の貫入抵抗がサクションによる貫入力を上回る場合でも、サクション基礎構造体10に貫入を継続して行うことができる。
【0029】
さらに、本実施形態において、滑材Lは、水よりも比重が大きく、水溶性があり、生分解性がある基剤(例えば、PAG系基剤)である。
この構成により、滑材Lが水面などに浮遊することなく、滑材Lによる環境汚染を防止できる。
【0030】
また、本実施形態は、筒状のスカート部13を備えたサクション基礎構造体10を、排水によるスカート部13の内外圧力差(サクション)を用いて水底地盤に貫入させるサクション構造体の貫入方法であって、スカート部13の内外圧力差に起因する浸透流によって、滑材Lをスカート部13の外周面及び内周面と水底地盤との間に浸透させて、スカート部13の貫入抵抗を低減させる。
この構成により、サクション基礎構造体10に貫入抵抗低減対策用の構成を設けることなく、滑材Lを水底面Xに散布するだけで、スカート部13の貫入抵抗を低減できる。
【0031】
以上、実施形態をもとに本発明を説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせ等にいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0032】
1 貫入抵抗低減装置
2、2a、2b 滑剤散布管
3 滑材供給装置
4 滑材供給管
10 サクション基礎構造体
11 上部構造物
12 頂版部
13 スカート部
14 排水管
15 排水ポンプ
21 散布孔
22、22a スリット
A 画成領域
L 滑材
X 水底面
図1
図2
図3
図4
図5