(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058056
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】ワンサイドボルト用脱落防止具
(51)【国際特許分類】
F16B 41/00 20060101AFI20240418BHJP
F16B 13/04 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
F16B41/00 F
F16B13/04 B
F16B41/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165176
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】390022389
【氏名又は名称】サンコーテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(72)【発明者】
【氏名】八木沢 康衛
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 直輝
【テーマコード(参考)】
3J025
【Fターム(参考)】
3J025AA07
3J025BA12
3J025CA01
3J025DA04
(57)【要約】
【課題】被締結材の加工が不要であり、汎用性が高いワンサイドボルト用脱落防止具を提供する。
【解決手段】本発明のワンサイドボルト用脱落防止具は、スリーブ頭部に装着されるスリーブ装着部材と、ボルト頭部に装着されるボルト装着部材と、を備える。スリーブ装着部材は、スリーブ頭部の頂面に対向する頂板部と、頂板部からスリーブ頭部の側面に沿って延在し、ボルトの中心軸に対するスリーブとスリーブ装着部材との相対回転を規制する側板部と、頂板部から側板部の延在方向とは異なる方向に延在する突起片と、を有する。ボルト装着部材は、ボルト頭部に嵌合し、中心軸に対するボルトとボルト装着部材との相対回転を規制する嵌合孔と、スリーブ装着部材の突起片が挿通される挿通孔と、を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト頭部を有するボルトと、スリーブ頭部を有するスリーブと、を備えるワンサイドボルトに用いられ、前記スリーブからの前記ボルトの脱落を防止するワンサイドボルト用脱落防止具であって、
前記スリーブ頭部に装着されるスリーブ装着部材と、
前記ボルト頭部に装着されるボルト装着部材と、
を備え、
前記スリーブ装着部材は、
前記スリーブ頭部の頂面に対向する頂板部と、
前記頂板部から前記スリーブ頭部の側面に沿って延在し、前記ボルトの中心軸に対する前記スリーブと前記スリーブ装着部材との相対回転を規制する側板部と、
前記頂板部から前記側板部の延在方向とは異なる方向に延在する突起片と、を有し、
前記ボルト装着部材は、
前記ボルト頭部に嵌合し、前記中心軸に対する前記ボルトと前記ボルト装着部材との相対回転を規制する嵌合孔と、
前記スリーブ装着部材の前記突起片が挿通される挿通孔と、を有する、ワンサイドボルト用脱落防止具。
【請求項2】
前記突起片は、前記ボルト装着部材の前記挿通孔に挿通された状態で折り曲げ可能とされている、請求項1に記載のワンサイドボルト用脱落防止具。
【請求項3】
前記スリーブ頭部は、六角柱状であり、
前記側板部は、6つの前記側面のうち、4つの前記側面に沿って設けられている、請求項1または請求項2に記載のワンサイドボルト用脱落防止具。
【請求項4】
前記頂板部の前記側板部が設けられていない2つの縁に垂直な方向の幅は、前記スリーブ頭部の互いに平行な2つの前記側面に垂直な方向の幅と略一致している、請求項3に記載のワンサイドボルト用脱落防止具。
【請求項5】
前記ボルト頭部は、六角柱状であり、
前記嵌合孔は、各々が前記ボルト頭部のいずれか1つの角部と嵌合可能な12個の凹部を有する12角孔である、請求項1または請求項2に記載のワンサイドボルト用脱落防止具。
【請求項6】
前記挿通孔は、前記中心軸方向から見て周方向に延びる長孔であり、
前記中心軸に対する前記長孔の周方向の2つの端部間の角度は、30度以上である、請求項5に記載のワンサイドボルト用脱落防止具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワンサイドボルト用脱落防止具に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの部材を締結する際、ボルトとナットを用いて部材を締結する場合には、部材の裏面側にナットを保持しておき、表面側からボルトの頭部を回転させる作業を行う方法が一般的である。ところが、作業状況によっては裏面側にナットを保持することができない場合がある。この場合、部材の一面側からの作業だけで締結が可能なボルト、いわゆるワンサイドボルトが従来から用いられている。ワンサイドボルトの一つの形態として、ボルトと、ボルトを挿通させるスリーブと、を有するものが知られている。ワンサイドボルトによる締結の信頼性を高めるためには、スリーブからのボルトの脱落を防止することが求められる。
【0003】
下記の特許文献1には、被締結材のネジ挿入穴の周囲に形成された係合穴と、係合穴に係脱可能な係合手段が形成された環状の抜け止めクリップと、を有するネジの抜け止め構造が開示されている。
【0004】
下記の特許文献2には、被締結材とボルトとから構成され、被締結材にボルト頭部の周囲からボルトの軸方向上側に立ち上がる押さえ部が設けられ、押さえ部を曲げ加工することでボルト頭部を押さえ、被締結材からボルトが抜けることを防止するボルトの抜け止め構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-104501号公報
【特許文献2】実用新案登録第3154751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1および2に記載された抜け止め構造は、いずれもワンサイドボルトを対象としたものではなく、これらの構造をそのままワンサイドボルトに適用することは難しい。また、仮にこれらの構造をワンサイドボルトに適用しようとしても、ボルトを締結する被締結材に上記の係合穴や押さえ部を予め形成しておく必要がある。したがって、これらの構造を採用した場合には、被締結材の加工に要する手間やコストが増大し、汎用性が低いものとなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の態様1のワンサイドボルト用脱落防止具は、ボルト頭部を有するボルトと、スリーブ頭部を有するスリーブと、を備えるワンサイドボルトに用いられ、前記スリーブからの前記ボルトの脱落を防止するワンサイドボルト用脱落防止具であって、前記スリーブ頭部に装着されるスリーブ装着部材と、前記ボルト頭部に装着されるボルト装着部材と、を備え、前記スリーブ装着部材は、前記スリーブ頭部の頂面に対向する頂板部と、前記頂板部から前記スリーブ頭部の側面に沿って延在し、前記ボルトの中心軸に対する前記スリーブと前記スリーブ装着部材との相対回転を規制する側板部と、前記頂板部から前記側板部の延在方向とは異なる方向に延在する突起片と、を有し、前記ボルト装着部材は、前記ボルト頭部に嵌合し、前記中心軸に対する前記ボルトと前記ボルト装着部材との相対回転を規制する嵌合孔と、前記スリーブ装着部材の前記突起片が挿通される挿通孔と、を有する。
【0008】
本発明の態様1の構成によれば、スリーブ装着部材とスリーブとの中心軸周りの相対回転が側板部により規制されるため、仮にスリーブが一方向に回転しようとすると、それに伴ってスリーブ装着部材も同方向に回転しようとする。一方、嵌合孔がボルト頭部に嵌合することでボルト装着部材とボルトとの中心軸周りの相対回転が規制されるため、仮にボルトが一方向に回転しようとすると、それに伴ってボルト装着部材も同方向に回転しようとする。さらに、スリーブ装着部材の突起片が挿通孔に挿通されることで、スリーブ装着部材とボルト装着部材との中心軸周りの相対回転が規制される。この結果、ボルトがスリーブに対して自由に回転できなくなり、スリーブからのボルトの脱落が防止される。このように、態様1の構成によれば、被締結材に加工を施すことなく、ワンサイドボルト用脱落防止具を用いるだけでボルトの脱落を防止することができる。
【0009】
本発明の態様2のワンサイドボルト用脱落防止具は、態様1のワンサイドボルト用脱落防止具において、前記突起片が、前記ボルト装着部材の前記挿通孔に挿通された状態で折り曲げ可能とされている。
【0010】
本発明の態様2の構成によれば、突起片をボルト装着部材の挿通孔に挿通された状態で折り曲げることにより、挿通孔から突起片が抜け出さず、スリーブ装着部材とボルト装着部材とが確実に連結される。そのため、ボルトの脱落を確実に防止することができる。
【0011】
本発明の態様3のワンサイドボルト用脱落防止具は、態様1または態様2のワンサイドボルト用脱落防止具において、前記スリーブ頭部が、六角柱状であり、前記側板部が、6つの前記側面のうち、4つの前記側面に沿って設けられている。
【0012】
本発明の態様3の構成によれば、スリーブ頭部の6つの側面のうち、4つの側面のそれぞれにスリーブ装着部材の側板部が当接するため、スリーブ装着部材とスリーブとが確実に固定され、スリーブ装着部材とスリーブとの相対回転が確実に規制される。
【0013】
本発明の態様4のワンサイドボルト用脱落防止具は、態様3のワンサイドボルト用脱落防止具において、前記頂板部の前記側板部が設けられていない2つの縁に垂直な方向の幅が、前記スリーブ頭部の互いに平行な2つの前記側面に垂直な方向の幅と略一致している。
【0014】
本発明の態様4の構成によれば、ワンサイドボルトを施工する際、スリーブ頭部の側板部から露出した互いに平行な2つの側面を、例えばスパナ等の工具を用いて確実に保持することができる。これにより、ボルトをスリーブに締結する際の作業性を向上することができる。
【0015】
本発明の態様5のワンサイドボルト用脱落防止具は、態様1から態様4までのいずれか一項のワンサイドボルト用脱落防止具において、前記ボルト頭部が、六角柱状であり、前記嵌合孔は、各々が前記ボルト頭部のいずれか1つの角部と嵌合可能な12個の凹部を有する12角孔である。
【0016】
本発明の態様5の構成によれば、例えば嵌合孔がボルト頭部に対応した6角孔であったとしても、ボルト装着部材のボルトへの装着は可能である。ただし、6角孔の場合、嵌合孔をボルト頭部と嵌合させる際に嵌合孔とボルト頭部との回転方向の位置関係によっては、ボルトに対してボルト装着部材を最大60度回転させる必要がある。これに対して、嵌合孔がボルト頭部のいずれか1つの角部と嵌合可能な12個の凹部を有する12角孔であれば、嵌合孔をボルト頭部と嵌合させる際に、ボルトに対するボルト装着部材の回転角が最大30度で済む。したがって、嵌合孔が12角孔である場合、嵌合孔が6角孔である場合に比べて、ボルト装着部材をボルトに装着しやすく、装着作業性を向上させることができる。
【0017】
本発明の態様6のワンサイドボルト用脱落防止具は、態様5のワンサイドボルト用脱落防止具において、前記挿通孔が、前記中心軸方向から見て周方向に延びる長孔であり、前記中心軸に対する前記長孔の周方向の2つの端部間の角度が、30度以上である。
【0018】
本発明の態様6の構成によれば、上述したように、嵌合孔が12角孔である場合、嵌合孔をボルト頭部と嵌合させる際のボルトに対するボルト装着部材の回転角が最大30度である。そのため、長孔の周方向の2つの端部間の角度が30度以上であれば、嵌合孔とボルト頭部との回転方向の位置を調整したとしても、スリーブ装着部材の突起片をボルト装着部材の挿通孔に支障なく挿通させることができる。また、突起片が長孔の周方向に沿って移動できる範囲でボルトがスリーブに対して回転したとしても、突起片が長孔の端部に当接した時点でそれ以上の回転は規制される。したがって、ワンサイドボルト用脱落防止具を装着する作業性を確保した上で、スリーブからのボルトの脱落を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ワンサイドボルト用脱落防止具を構成するスリーブ装着部材の斜視図である。
【
図2】ワンサイドボルト用脱落防止具を構成するボルト装着部材の平面図である。
【
図5】ワンサイドボルト用脱落防止具をワンサイドボルトに装着した状態を示す斜視図である。
【
図6】ワンサイドボルトの施工方法の第1工程を示す断面図である。
【
図7】ワンサイドボルトの施工方法の第2工程を示す断面図である。
【
図8】ワンサイドボルトの施工方法の第3工程を示す平面図である。
【
図9】施工方法の第3工程の要部を示す断面図である。
【
図10】ワンサイドボルトの施工方法の第4工程を示す平面図である。
【
図11】施工方法の第4工程の要部を示す断面図である。
【
図12】変形例のワンサイドボルトにおける構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
以下の各図面においては各構成要素を見やすくするため、構成要素によって寸法の縮尺を異ならせて示すことがある。
以下の説明では、ワンサイドボルト用脱落防止具を、単に脱落防止具と略記する。
【0021】
図1は、脱落防止具10を構成するスリーブ装着部材11の斜視図である。
図2は、脱落防止具10を構成するボルト装着部材12の平面図である。
図3は、ワンサイドボルト30を構成するボルト31の斜視図である。
図4は、ワンサイドボルト30を構成するスリーブ32の斜視図である。
【0022】
図1および
図2に示すように、本実施形態の脱落防止具10は、スリーブ装着部材11と、ボルト装着部材12と、を備える。
図3および
図4に示すように、本実施形態のワンサイドボルト30は、ボルト31と、ボルト31が挿通されるスリーブ32と、を備える。ワンサイドボルト30は、一例として、柱や梁を構成する角型鋼管等への被締結材の締結に用いられる。鋼管にボルトを締結する場合、鋼管の内部にナットを保持することができないため、ワンサイドボルト30が用いられる。ただし、ワンサイドボルト30の用途はこれに限定されず、種々の用途に用いることができる。
【0023】
図3に示すように、ボルト31は、ボルト頭部311と、雄ねじ部312と、を有する。ボルト頭部311は、六角柱状の形状を有し、頂面311aと6つの側面311bとを有する。すなわち、ボルト31の中心軸Cの方向から見たボルト頭部311の形状は、六角形である。なお、ワンサイドボルト30において、ボルト31の中心軸Cは、スリーブ32の中心軸でもある。以下の説明において、各部の名称として、頂面、側面、頂板部、側板部等の名称を用いるが、これらの名称は説明の便宜上用いるものであり、ワンサイドボルト使用時の向きや姿勢を限定するものではない。
【0024】
図4に示すように、スリーブ32は、スリーブ頭部321と、スリーブ管部322と、を有する。本実施形態のスリーブ32において、スリーブ頭部321およびスリーブ管部322は一体に形成されている。スリーブ頭部321とスリーブ管部322とにわたって、ボルト31を挿通させる貫通孔323が設けられている。スリーブ管部322には、周方向にわたって複数のスリット324が所定の間隔をおいて設けられている。本実施形態の場合、4本のスリット324が設けられている。スリーブ管部322のうち、スリット324よりも先端部側の内面には、ボルト31の雄ねじ部312と螺合する雌ねじ部325が形成されている。スリーブ頭部321は、六角柱状の形状を有し、頂面321aと6つの側面321bとを有する。本実施形態の場合、中心軸Cの方向から見たスリーブ頭部321の外形は、正六角形である。
【0025】
図1に示すように、スリーブ装着部材11は、頂板部111と、4つの側板部112と、2つの突起片113と、を有する。頂板部111と側板部112と突起片113とは、金属製の板材を折り曲げ加工することにより一体に形成されている。スリーブ装着部材11は、後述するように、スリーブ頭部321に装着される。
【0026】
頂板部111は、正六角形の形状を有し、スリーブ頭部321に装着された状態でスリーブ頭部321の頂面321aに対向する。頂板部111の中央には、ボルト31の雄ねじ部312を挿通させる円形の孔111hが設けられている。
【0027】
側板部112は、スリーブ頭部321に装着された状態で頂板部111の縁からスリーブ頭部321の側面321bに沿って延在する。側板部112の高さh1は、スリーブ頭部321の高さh2(
図4参照)以下となる。4つの側板部112は、スリーブ頭部321の6つの側面321bのうち、互いに平行な2つの側面321bを除く4つの側面321bに沿うように設けられている。頂板部111において、側板部112が設けられていない2つの縁に垂直な方向の幅w1は、スリーブ頭部321の互いに平行な2つの側面321bに垂直な方向の幅w2(
図4参照)と略一致している。
【0028】
突起片113は、頂板部111から側板部112が延在する方向とは反対の方向に延在する。突起片113は、後述するボルト装着部材12の挿通孔122に挿通された状態で、例えばペンチ等の工具を用いて折り曲げ可能とされている。2つの突起片113は、隣り合う2つの側板部112の間に位置する頂板部111の角部にそれぞれ設けられている。
【0029】
図2に示すように、ボルト装着部材12は、金属製の板材から形成されている。ボルト装着部材12は、嵌合孔121と、2つの挿通孔122と、を有する。ボルト装着部材12は、後述するように、ボルト頭部311に装着される。
【0030】
嵌合孔121は、ボルト装着部材12の中央部に形成され、ボルト頭部311に嵌合する。嵌合孔121は、各々がボルト頭部311のいずれか1つの角部と嵌合可能な12個の凹部121cを有する12角孔で構成されている。すなわち、嵌合孔121の各凹部121cは、頂角θが120度の二等辺三角形状の形状を有する。
【0031】
挿通孔122は、中心軸C方向から見て周方向に延びる円弧状の長孔で構成されている。2つの挿通孔122は、嵌合孔121を間に挟んで互いに対向する位置に形成されている。中心軸Cに対する挿通孔122の周方向の2つの端部間の角度αは、30度以上である。各挿通孔122には、後述するように、スリーブ装着部材11の各突起片113が挿通される。
【0032】
以下、ワンサイドボルト30の施工方法と、脱落防止具10を用いたボルト31の脱落防止方法と、について、
図5~
図11を用いて説明する。
【0033】
図6に示すように、被締結材50には、スリーブ32が挿通可能な径を有する取付孔50hが予め形成されている。ここでは、図面に示す複数の板材をまとめて被締結材50と称する。被締結材50にワンサイドボルト30を取り付けるに際し、最初にスリーブ装着部材11をスリーブ32に装着する。
【0034】
このとき、スリーブ装着部材11の各側板部112がスリーブ頭部321の各側面321bに対向する向きにスリーブ装着部材11を配置する。この状態において、スリーブ装着部材11の頂板部111がスリーブ頭部321の頂面321aに当接し、側板部112が側面321bに当接する。あるいは、頂板部111と頂面321aとの間、側板部112と側面321bとの間に微小な間隙があってもよい。
【0035】
これにより、スリーブ32とスリーブ装着部材11との中心軸C周りの相対回転が規制され、スリーブ32とスリーブ装着部材11とのいずれか一方が回転しようとすると、それに伴って他方も回転しようとする。本実施形態の場合、スリーブ頭部321の6つの側面321bのうち、4つの側面321bのそれぞれに側板部112が当接するため、スリーブ装着部材11とスリーブ32とが確実に固定され、スリーブ装着部材11とスリーブ32との相対回転が確実に規制される。
【0036】
次に、ボルト31の雄ねじ部312をスリーブ装着部材11の孔111h(
図1参照)を介して挿通させスリーブ32の雌ねじ部325に螺合させる。このとき、ボルト31のボルト頭部311とスリーブ装着部材11との間に、平座金36を介在させる。
次に、スリーブ装着部材11とともにボルト31を取り付けたスリーブ32を被締結材50の取付孔50hに挿通させる。このとき、スリーブ頭部321と被締結材50の取付面50aとの間に、平座金35を介在させる。なお、平座金35に代えて締付け確認機能を持つ亀座やドームワッシャ―を代用してもよい。また、必要に応じて平座金35を省略してもよい。
【0037】
次に、図示しないスパナ等の工具を用いてスリーブ頭部321を保持し、スリーブ32が回転しないようにスリーブ32を押さえる。このとき、側板部112から露出したスリーブ頭部321の2つの面にスパナを当接させることができる。ここで、頂板部111の幅w1とスリーブ頭部321の幅w2とが略一致しているため、スパナは、頂板部111と干渉することなく、スリーブ頭部321を確実に保持することができる。これにより、ボルト31をスリーブ32に締結する際の作業性を向上することができる。
【0038】
上記のようにスリーブ32を固定した上で、図示しないインパクトドライバ等の工具を用いてボルト31を中心軸C周りに回転させる。すると、スリーブ管部322の先端に雌ねじ部325が形成されているため、スリーブ管部322の先端側が被締結材50の裏面50bに向かって引き込まれてくる。このとき、
図7に示すように、スリーブ管部322に一定量以上の荷重が加わると、スリーブ管部322のスリット324が形成された領域が径方向外側に開くように座屈する。最終的に、スリーブ管部322の座屈部分322aが被締結材50の裏面50bに押し付けられる程度になれば、ナットを用いることなく、スリーブ32とボルト31からなるワンサイドボルト30を被締結材50に固定することができる。本工程では、例えばインパクトドライバを用いてボルト31の一次締めを行った後、トルクレンチを用いて所定の締め付けトルクでボルト31の本締めを行うようにしてもよい。
【0039】
次に、
図8および
図9に示すように、ボルト装着部材12をボルト頭部311に装着する。このとき、嵌合孔121において、例えば挿通孔122の近傍に位置する互いに隣り合う2つの凹部121cのうち、いずれか一方の凹部121cにボルト頭部311の1つの角部を嵌合させるようにボルト装着部材12を配置すれば、嵌合孔121をボルト頭部311の全体に嵌合させることができる。したがって、ボルト装着部材12をボルト頭部311に装着しようとした際に、嵌合孔121の向きがボルト頭部311に嵌合しない位置にあったとしても、ボルト頭部311に対してボルト装着部材12を30度以下の角度で回転させることによって、ボルト装着部材12をボルト頭部311に嵌合させることができる。
【0040】
仮に嵌合孔がボルト頭部に対応した6角孔であったとしても、ボルト装着部材のボルトへの装着は可能であるが、この場合、嵌合孔をボルト頭部と嵌合させる際にボルトに対してボルト装着部材を最大60度回転させる必要がある。これに対して、本実施形態のように、嵌合孔121が12角孔であれば、嵌合孔121をボルト頭部311と嵌合させる際のボルト装着部材12の回転角が最大30度で済む。したがって、本実施形態の場合、嵌合孔が6角孔である場合に比べて、ボルト装着部材12を装着しやすく、作業性を向上させることができる。
【0041】
また、本工程において、嵌合孔121をボルト頭部311に嵌合させるのと同時に、スリーブ装着部材11の突起片113をボルト装着部材12の挿通孔122に挿通させる。上述したように、挿通孔122は2つの端部間の角度αが30度以上である長孔で構成されているため、嵌合孔121とボルト頭部311との回転方向の位置を調整したとしても、突起片113を挿通孔122に支障なく挿通させることができる。
【0042】
次に、
図10および
図11に示すように、ボルト装着部材12の挿通孔122から突出する突起片113の先端側の部分を、ペンチ等の工具を用いて径方向外側に向けて折り曲げる。これにより、ボルト装着部材12がスリーブ装着部材11から抜け落ちることがなく、ボルト装着部材12とスリーブ装着部材11とが確実に連結される。
以上の工程により、
図5に示すように、被締結材50へのワンサイドボルト30の取付作業が完了するとともに、ワンサイドボルト30の脱落防止構造が完成する。
なお、突起片113を元の位置に戻すように折り曲げれば、ボルト装着部材12、ボルト31およびスリーブ装着部材11は容易に取り外し可能である。
【0043】
本実施形態の脱落防止具10によれば、スリーブ装着部材11とスリーブ32との中心軸周りの相対回転が側板部112により規制されるため、仮にスリーブ32が一方向に回転しようとすると、それに伴ってスリーブ装着部材11も同方向に回転しようとする。一方、嵌合孔121がボルト頭部311に嵌合することでボルト装着部材12とボルト31との中心軸周りの相対回転が規制されるため、仮にボルト31が一方向に回転しようとすると、それに伴ってボルト装着部材12も同方向に回転しようとする。さらに、スリーブ装着部材11の突起片113が挿通孔122に挿通されることで、スリーブ装着部材11とボルト装着部材12との中心軸周りの相対回転が規制される。この結果、ボルト31がスリーブ32に対して自由に回転できなくなり、スリーブ32からのボルト31の脱落が防止される。このように、被締結材50に加工を施すことなく、脱落防止具10を用いるだけでボルト31の脱落を防止することができる。したがって、汎用性の高い脱落防止構造を提供することができる。特に本実施形態の場合、突起片113が挿通孔122に挿通された状態で折り曲げられ、スリーブ装着部材11とボルト装着部材12とが確実に連結されるため、ボルト31の脱落を確実に防止することができる。
【0044】
本実施形態の場合、
図5に示すように、周方向の長さが突起片113の幅よりも長い挿通孔122に突起片113が挿通されているため、ボルト31が緩んだ際に、突起片113が挿通孔122の周方向に沿って移動できる範囲内でボルト31が回転することは可能である。ただし、その場合であっても、突起片113が挿通孔122の端部に当接した時点でそれ以上の回転は規制される。したがって、本実施形態の構成であれば、脱落防止具10を装着する作業性を確保した上で、スリーブ32からのボルト31の脱落を確実に防止することができる。
【0045】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。また、本発明は、上記の実施形態によって限定されるものではない。
【0046】
スリーブ装着部材およびボルト装着部材の各構成要素の形状、数、配置、材料等の具体的な記載については、上記実施形態に限らず、適宜変更が可能である。例えば、スリーブ装着部材において、側板部の数は、4つ以外であってもよいし、スリーブ頭部の側面の全周を囲むように連続した1つの部材であってもよい。また、突起片の数は、2つ以外であってもよい。また、ボルト装着部材において、嵌合孔の形状は6角孔であってもよいし、挿通孔の形状は周方向に長い長孔でなくてもよい。
【0047】
上記実施形態では、スリーブ頭部とスリーブ管部とが一体に形成されたスリーブを例に挙げたが、スリーブ頭部とスリーブ管部とが別体で構成されていてもよい。以下、スリーブ頭部とスリーブ管部とが別体で構成されたスリーブを用いたワンサイドボルトを変形例として説明する。
【0048】
図12は変形例のワンサイドボルトにおける構成を示す斜視図である。
図12に示すように、変形例のワンサイドボルト130は、ボルト31と、ボルト31が挿通されるスリーブ132と、を備える。
スリーブ132は、スリーブ頭部1321と、スリーブ管部1322と、を有する。本変形例のスリーブ132において、スリーブ頭部1321およびスリーブ管部1322は別体である。スリーブ管部1322にはボルト31を挿通させる貫通孔323が設けられている。スリーブ頭部1321は六角ナット形状を有し、頂面1321aと6つの側面1321bとを有する。中心軸Cの方向から見たスリーブ頭部1321の外形は、正六角形である。スリーブ頭部1321を貫通する貫通孔の内面には、スリーブ管部1322の先端部側の外周面に設けられた雄ねじ部1323と螺合する雌ねじ部1324が形成されている。スリーブ管部1322のうち、スリット324よりも先端部側の内面には、ボルト31の雄ねじ部312と螺合する雌ねじ部1325が形成されている。
【0049】
本変形例の場合、ボルト31の雄ねじ部312とスリーブ管部1322の雌ねじ部1325とは右ねじで構成されている。一方、スリーブ管部1322の雄ねじ部1323とスリーブ頭部1321の雌ねじ部1324とは左ねじで構成されている。つまり、ボルト31をスリーブ管部1322に螺合する際に回転する第1方向R1と、スリーブ頭部1321をスリーブ管部1322に螺合する際に回転する第2方向R2とは、互いに逆方向となっている。
【0050】
この構成によれば、ボルト31をスリーブ132に取り付ける際、スパナ等の工具でスリーブ頭部1321を保持した状態でボルト31を中心軸C周りの第1方向R1に回転させると、スリーブ管部1322に発生する回転方向の力がスリーブ頭部1321をスリーブ管部1322に締め付ける方向に一致する。このため、ボルト31をスリーブ132に取り付ける際、スリーブ頭部1321とスリーブ管部1322とがより締め付けられる方向に回転しようとするため、スリーブ頭部1321およびスリーブ管部1322が分離することが防止される。
【0051】
本変形例のワンサイドボルト130は、スリーブ頭部1321およびスリーブ管部1322が別体で構成されるため、例えば、締結物の固定が不要となった際、径方向外側に開いたスリーブ管部1322からスリーブ頭部1321を容易に分離することができる。このため、一体構造のスリーブ32のようにスリーブ頭部をドリル等で破壊することなく、締結物を取り外すことが可能となる。
【0052】
また、本変形例のワンサイドボルト130に対して脱落防止具10のスリーブ装着部材11を取り付けた場合に、ボルト31が第2方向R2に緩んで回転すると、挿通孔122が突起片113の端部に当接した時点でボルト装着部材12およびスリーブ装着部材11が第2方向R2に回転しようとする。このとき、スリーブ装着部材11が回転する第2方向R2は、スリーブ頭部1321をスリーブ管部1322に対して締め付ける方向に一致する。よって、ボルト31が緩んで回転した場合でも、スリーブ頭部1321およびスリーブ管部1322の締結が緩むことでスリーブ頭部1321およびスリーブ管部1322が分離されることはない。
よって、本変形例のワンサイドボルト130に脱落防止具10を取り付ける場合においても、上記実施形態のようにスリーブ頭部321とスリーブ管部322とが一体のスリーブ32に脱落防止具10を取り付けた場合と同様、スリーブ装着部材11とボルト装着部材12とが確実に連結されることでボルト31の脱落を確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0053】
10…ワンサイドボルト用脱落防止具、11…スリーブ装着部材、12…ボルト装着部材、30、130…ワンサイドボルト、31…ボルト、32、132…スリーブ、111…頂板部、112…側板部、113…突起片、121…嵌合孔、121c…凹部、122…挿通孔、311…ボルト頭部、321、1321…スリーブ頭部、321a、1321a…頂面、321b、1321b…側面、C…中心軸。