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特開2024-58060積層体の製造方法及び積層体の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058060
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】積層体の製造方法及び積層体の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B26D 7/10 20060101AFI20240418BHJP
   B32B 38/18 20060101ALI20240418BHJP
   B26D 7/20 20060101ALI20240418BHJP
   B26D 3/00 20060101ALI20240418BHJP
   B26D 5/00 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
B26D7/10
B32B38/18 C
B26D7/20
B26D3/00 601B
B26D5/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165181
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100141999
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 敬一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】日野 友和
【テーマコード(参考)】
3C021
3C024
4F100
【Fターム(参考)】
3C021EA05
3C021GA01
3C024AA07
4F100AA01B
4F100AA17B
4F100AA20B
4F100AJ06A
4F100AK03
4F100AK25
4F100AK42
4F100AK52C
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA08B
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CB00C
4F100EC18
4F100EJ30
4F100EJ42
4F100JL11C
4F100JN18B
(57)【要約】
【課題】切断時のクラック発生を抑制できる積層体の製造方法及び積層体の製造装置を提供する。
【解決手段】この積層体の製造方法は、基材フィルムと前記基材フィルム上に積層された無機層とを有する積層フィルムを、基板に貼り合わせる貼合工程と、前記積層フィルムを前記基板の形状に合わせて切断する切断工程と、を有し、前記切断工程において、切断工具を前記基材フィルムの軟化点温度より65℃低い温度以上に加熱し、前記積層フィルムを切断する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと前記基材フィルム上に積層された無機層とを有する積層フィルムを、基板に貼り合わせる貼合工程と、
前記積層フィルムを前記基板の形状に合わせて切断する切断工程と、を有し、
前記切断工程において、切断工具を前記基材フィルムの軟化点温度より65℃低い温度以上に加熱し、前記積層フィルムを切断する、積層体の製造方法。
【請求項2】
前記切断工具は、切断刃を有する、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記積層フィルムは、粘着層と前記基材フィルムと前記無機層とを有し、
前記無機層は、低屈折率層と、前記低屈折率層より屈折率が高い高屈折率層と、が交互に積層されている、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記基板の前記積層フィルムが貼り合わされる貼合面が湾曲している、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
基材フィルムと前記基材フィルム上に積層された無機層とを有する積層フィルムを、基板に貼り合わせる貼合装置と、
前記積層フィルムを前記基板の形状に合わせて切断する切断装置と、を有し、
前記切断装置は、切断工具を前記基材フィルムの軟化点温度より65℃低い温度以上に加熱する加熱機構を有する、積層体の製造装置。
【請求項6】
前記切断装置は、前記切断工具の温度を測定する温度計と、前記切断工具を前記基板の外周に沿って動かす制御部と、を有する、請求項5に記載の積層体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法及び積層体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止フィルムは、様々な部分に適用されている。例えば、車載用の液晶パネルのモニターガラス等に反射防止フィルムが貼合されている。反射防止フィルムは、ガラス等の基板に貼合された後、所望の形状に切り出される。
【0003】
例えば、特許文献1には、切断するフィルムをフィルムのガラス転移温度近傍まで加熱しながら切断することで、フィルムの切断面にクラックや欠けが生じることを抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-174664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法は、基板の大きさが大きくなると、フィルムを加熱するための設備が大掛かりになり、コストがかかる。またフィルムを加熱すると、フィルムの変形、シュリンク等が生じ、精度よく切断することが難しい。またフィルムと基材とを粘着層が加熱により発泡する場合があり、不具合が生じる場合がある。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、切断時のクラック発生を抑制できる積層体の製造方法及び積層体の製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
【0008】
(1)第1の態様にかかる積層体の製造方法は、基材フィルムと前記基材フィルム上に積層された無機層とを有する積層フィルムを、基板に貼り合わせる貼合工程と、前記積層フィルムを前記基板の形状に合わせて切断する切断工程と、を有し、前記切断工程において、切断工具を前記基材フィルムの軟化点温度より65℃低い温度以上に加熱し、前記積層フィルムを切断する。
【0009】
(2)上記態様にかかる積層体の製造方法において、前記切断工具は、切断刃を有してもよい。
【0010】
(3)上記態様にかかる積層体の製造方法において、前記積層フィルムは、粘着層と前記基材フィルムと前記無機層とを有し、前記無機層は、低屈折率層と、前記低屈折率層より屈折率が高い高屈折率層と、が交互に積層されていてもよい。
【0011】
(4)上記態様にかかる積層体の製造方法において、前記基板の前記積層フィルムが貼り合わされる貼合面が湾曲していてもよい。
【0012】
(5)第2の態様にかかる積層体の製造装置は、基材フィルムと前記基材フィルム上に積層された無機層とを有する積層フィルムを、基板に貼り合わせる貼合装置と、前記積層フィルムを前記基板の形状に合わせて切断する切断装置と、を有し、前記切断装置は、切断工具を前記基材フィルムの軟化点温度より65℃低い温度以上に加熱する加熱機構を有する。
【0013】
(6)上記態様にかかる積層体の製造装置において、前記切断装置は、前記切断工具の温度を測定する温度計と、前記切断工具を前記基板の外周に沿って動かす制御部と、を有してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本実施形態に係る積層体の製造方法及び積層体の製造装置は、切断時のクラック発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る積層体の製造方法における貼合工程を説明するための図である。
図2】本実施形態に係る積層フィルムの断面図である。
図3】本実施形態に係る積層体の製造方法における切断工程を説明するための図である。
図4】実施例1の積層フィルムを切断した後の積層フィルムの上面を測定した図である。
図5】実施例2の積層フィルムを切断した後の積層フィルムの上面を測定した図である。
図6】比較例1の積層フィルムを切断した後の積層フィルムの上面を測定した図である。
図7】比較例2の積層フィルムを切断した後の積層フィルムの上面を測定した図である。
図8】実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の切断工具であるカミソリ刃の中央部と切断部の温度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0017】
「積層体の製造方法」
本実施形態に係る積層体の製造方法は、貼合工程と切断工程とを有する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る積層体の製造方法における貼合工程を説明するための図である。貼合工程では、積層フィルム10を基板20に貼り合わせる。
【0019】
基板20は、例えば、ガラス、プラスティック等である。基板20の積層フィルム10が貼り合わされる貼合面21は、平坦でも湾曲していてもよい。貼合面21が湾曲する場合、貼合面21は基板20が広がる面内の一方向にのみ湾曲していてもよいし、複数の方向に湾曲していてもよい。
【0020】
積層フィルム10を基板20に貼り合わせる貼合方法は、特に問わない。例えば、ラミネート加工、真空加工等を用いることができる。
【0021】
積層フィルム10は、例えば、基板20の貼合面21より一回り大きいことがこのましい。積層フィルム10を基板20に貼合した後、基板20の周囲に積層フィルム10の余剰部分がはみ出る。
【0022】
積層フィルム10は、基材フィルムと、基材フィルム上に積層された無機層とを有する。図2は、本実施形態に係る積層フィルム10の断面図である。図2に示す積層フィルム10は、例えば、剥離層1と粘着層2と基材フィルム3とハードコート層4と光学機能層5と防汚層6と保護層7とを有する。光学機能層5は、無機層の一例である。
【0023】
剥離層1は、粘着層2を保護する層である。剥離層1は、貼り合わせの時点で剥離され、剥離層1を剥離することで露出する粘着層2が基板20と接着する。剥離層1は、例えば、剥離剤が塗布された紙又はフィルムである。剥離層1の厚みは、例えば、70μm以上80μm以下である。
【0024】
粘着層2は、基板20に接着される層である。粘着層2は、例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤を含む。粘着層2の厚みは、例えば、10μm以上50μm以下であり、好ましくは20μm以上30μm以下である。
【0025】
基材フィルム3は、例えば、プラスチックフィルムである。プラスチックフィルムの構成材料は、例えば、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、である。
【0026】
基材フィルム3は、例えば、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂である。例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)基材又はトリアセチルセルロース(TAC)基材は、基材フィルム3として好適に用いられる。
【0027】
基材フィルム3の厚みは、例えば、60μm以上である。基材フィルム3の厚みが薄いと、フィルムのたわみ等で、積層フィルム10にクラックが生じる場合がある。基材フィルム3の厚みは、例えば、1mm以下であり、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは300μm以下である。基材フィルム3の厚みが厚すぎると、基材フィルム3の透明性が低下すると共に、剛性が高まり割れやすくなる。
【0028】
基材フィルム3の一面は、予めスパッタリング、コロナ放電、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化等のエッチング処理および/または下塗り処理が施されていてもよい。これらの処理が予め施されていることで、基材フィルム3の上に形成されるハードコート層4の密着性が向上する。
【0029】
ハードコート層4は、基材フィルム3の一面に形成されている。ハードコート層4は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。ハードコート層4は、例えば、バインダー樹脂とフィラーとを含んでもよい。ハードコート層4は、この他、レベリング剤を含んでもよい
【0030】
バインダー樹脂は、好ましくは透明性を有するものであり、例えば、紫外線、電子線により硬化する樹脂である電離放射線硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などである。
【0031】
バインダー樹脂である電離放射線硬化型樹脂の一例は、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N-ビニルピロリドン等である。また電離放射線硬化型樹脂は、2以上の不飽和結合を有する化合物でもよい。2以上の不飽和結合を有する電離放射線硬化型樹脂は、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールデカ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、ポリエステルトリ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、アダマンチルジ(メタ)アクリレート、イソボロニルジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等の多官能化合物等である。これらのなかでも、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)及びペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)が、バインダー樹脂に好適に用いられる。なお、「(メタ)アクリレート」は、メタクリレート及びアクリレートを指すものである。また、電離放射線硬化型樹脂として、上述した化合物をPO(プロピレンオキサイド)、EO(エチレンオキサイド)、CL(カプロラクトン)等で変性したものでもよい。電離放射線硬化型樹脂は、アクリル系の紫外線硬化型樹脂組成物が好ましい。
【0032】
またバインダー樹脂である熱可塑性樹脂の一例は、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース誘導体、シリコーン系樹脂及びゴム又はエラストマー等である。上記熱可塑性樹脂は、非結晶性で、かつ有機溶媒(特に複数のポリマー、硬化性化合物を溶解可能な共通溶媒)に可溶である。特に、透明性および耐候性という観点から、バインダー樹脂は、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース誘導体(セルロースエステル類等)等であることが好ましい。
【0033】
バインダー樹脂である熱硬化性樹脂は、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、ポリシロキサン樹脂(かご状、ラダー状などのいわゆるシルセスキオキサン等を含む)等でもよい。
【0034】
ハードコート層4は、有機樹脂と無機材料を含んでいても良く、有機無機ハイブリッド材料でもよい。一例としては、ゾルゲル法で形成されたものが挙げられる。無機材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアが挙げられる。有機材料としては、例えば、アクリル樹脂が挙げられる。
【0035】
フィラーは、有機物からなるものでもよいし、無機物からなるものでもよいし、有機物および無機物からなるものでもよい。ハードコート層4に含まれるフィラーは、防眩性、後述する光学機能層5との密着性、アンチブロッキング性の観点等から、積層フィルム10の用途に応じて種々のものを選択できる。具体的にはフィラーとして、例えば、シリカ(Siの酸化物)粒子、アルミナ(酸化アルミニウム)粒子、有機微粒子など公知のものを用いることができる。
【0036】
フィラーがシリカ粒子および/またはアルミナ粒子の場合、フィラーの平均粒子径は、例えば800nm以下であり、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは40nm以上70nm以下である。フィラーが有機微粒子の場合、有機微粒子の平均粒子径は、例えば10μm以下であり、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは3μm以下である。
【0037】
ハードコート層4の厚みは、例えば、0.5μm以上であることが好ましく、より好ましくは1μm以上である。ハードコート層4の厚みは、100μm以下であることが好ましい。ハードコート層4は、単一の層からなるものであってもよいし、複数の層が積層されたものであってもよい。
【0038】
光学機能層5は、光学機能を発現させる層である。光学機能とは、光の性質である反射と透過、屈折をコントロールする機能であり、例えば、反射防止機能、選択反射機能、防眩機能、レンズ機能などが挙げられる。
【0039】
光学機能層5は、例えば、ハードコート層4側から順に、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層された積層膜である。高屈折率層は、低屈折率層より屈折率が高い。それぞれの高屈折率層の屈折率は、同じでも異なっていてもよい。それぞれの低屈折率層の屈折率は、同じでも異なっていてもよい。
【0040】
光学機能層5における低屈折率層と高屈折率層の積層数の合計は、特に問わない。例えば、図2に示すように各層の積層数は4層でもよく、3層以下でもよく、5層以上でもよい。光学機能層5における低屈折率層と高屈折率層の積層数の合計は、4層以上10層以下であることが好ましく、4層以上6層以下であることがより好ましく、4層であることが最も好ましい。光学機能層5の積層数が4層の場合、積層数が少なく、厚みが薄いため、積層数が5層以上である場合と比較して、生産性に優れる。
【0041】
光学機能層5は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層された積層体の界面のそれぞれで反射した反射光が干渉すること、及び、防汚層6側から入射した光を拡散することで、反射防止機能を示す。
【0042】
光学機能層5の総厚は、例えば、20nm以上1000nm以下であり、50nm以上600nm以下である。
【0043】
以下、光学機能層5が、ハードコート層4に近い側から順に、第1高屈折率層5A、第1低屈折率層5B、第2高屈折率層5C、第2低屈折率層5Dの4層が積層された積層体である場合を例に挙げて説明する。第1高屈折率層5Aと第2高屈折率層5Cのそれぞれは、第1低屈折率層5Bと第2低屈折率層5Dのそれぞれより屈折率が高い。
【0044】
第1高屈折率層5A及び第2高屈折率層5Cの屈折率は、例えば、2.00以上2.60以下であり、好ましくは2.10以上2.45以下である。第1高屈折率層5Aと第2高屈折率層5Cの屈折率は、同じでも、異なっていてもよい。
【0045】
第1高屈折率層5A及び第2高屈折率層5Cの材料としては、例えば、五酸化ニオブ(Nb、屈折率2.33)、酸化チタン(TiO、屈折率2.33~2.55)、酸化タングステン(WO、屈折率2.2)、酸化セリウム(CeO、屈折率2.2)、五酸化タンタル(Ta、屈折率2.16)、酸化亜鉛(ZnO、屈折率2.1)、酸化インジウムスズ(ITO、屈折率2.06)、酸化ジルコニウム(ZrO、屈折率2.2)などが挙げられる。第1高屈折率層5Aおよび第2高屈折率層5Cは、好ましくは、五酸化ニオブである。第1高屈折率層5Aと第2高屈折率層5Cを構成する材料は、同じでも、異なっていてもよい。
【0046】
第1低屈折率層5B及び第2低屈折率層5Dの屈折率は、例えば1.20以上1.60以下であり、好ましくは1.30以上1.50以下である。第1低屈折率層5Bと第2低屈折率層5Dの屈折率は、同じでも、異なっていてもよい。
【0047】
第1低屈折率層5B及び第2低屈折率層5Dは、例えば、Siの酸化物を含む。第1低屈折率層5B及び第2低屈折率層5Dは、例えば、SiO(Siの酸化物)を主成分とした層である。Siの酸化物は、入手が容易でコストの面で有利である。SiO単層膜は、無色透明である。本実施形態において、主成分とは、層に含まれる成分のうち50質量%以上を占める成分である。第1低屈折率層5Bと第2低屈折率層5Dの屈折率は、同じでも、異なっていてもよい。
【0048】
第1低屈折率層5B及び第2低屈折率層5Dは、Siの酸化物が主成分の場合に、50質量%未満の別の元素を含んでも良い。Siの酸化物とは別の元素の含有量は、好ましくは10%以下である。別の元素は、例えば、Na、Zr、Al、Nである。Naは、第1低屈折率層5B及び第2低屈折率層5Dの耐久性を高める。Zr、Al、Nは、第1低屈折率層5B及び第2低屈折率層5Dの硬度を高め、耐アルカリ性を高める。
【0049】
防汚層6は、光学機能層5のハードコート層4に接する面と反対側の面と接する。防汚層6は、光学機能層5の汚損を防止する。また、防汚層6は、タッチパネル等に適用する際のペン摺動によって光学機能層5が損耗することを抑制する。
【0050】
防汚層6は、例えばフッ素系有機化合物である。フッ素系有機化合物は、例えば、フッ素変性有機基と反応性シリル基(例えば、アルコキシシラン)とからなる化合物である。防汚層6に用いることができる市販品としては、オプツールDSX(ダイキン株式会社製)、KY-100シリーズ(信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0051】
防汚層6の厚みは、例えば、1nm以上20nm以下であり、好ましくは3nm以上10nm以下である。防汚層6の厚みが1nm以上であると、積層体をタッチパネル用途などに適用した際に、耐摩耗性を十分に確保できる。また防汚層6の厚みが20nm以下であると、蒸着に要する時間が短時間で済み、効率よく製造できる。
【0052】
防汚層6は、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、難燃剤、赤外線吸収剤、界面活性剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0053】
保護層7は、輸送や保管の際に、フィルムを保護する層である。保護層7は、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートなどを基材とし、天然ゴムや合成ゴム、アクリル樹脂などを主成分とする粘着剤層を有するものが挙げられる。
【0054】
図3は、本実施形態に係る積層体の製造方法における切断工程を説明するための図である。切断工程では、積層フィルム10を基板20の形状に合わせて切断する。切断工程では、切断工具30を用いて、基板20の貼合面21からはみ出る積層フィルム10の余剰部分を切断する。切断工具30は、制御部60によりその動きが制御される。切断工具30は、例えば切断刃31を有し、切断刃31は加熱機構40によって加熱される。切断刃31の温度は、温度計50によって測定できる。
【0055】
切断工程は、例えば、切断工具30を加熱する第1工程と、加熱した切断工具を用いて積層フィルム10を切断する第2工程とを有する。
【0056】
第1工程では、切断工具30を加熱する。切断工具30は、例えば、図3に示すように切断刃31を有してもよい。切断刃31は、例えば、カッター刃、カミソリ刃、ナイフ等である。切断刃31を有する切断工具30を用いると、積層フィルム10の切断面によりクラックが生じにくい。ただし、切断工具30は、切断刃31を有するものに限られず、ワイヤー等でもよい。
【0057】
第1工程では、切断工具30を基材フィルム3の軟化点温度より65℃低い温度以上に加熱する。より具体的には、切断工具30の切断刃31の切断部の近傍の温度を基材フィルム3の軟化点より65℃低い温度以上に加熱する。軟化点は、温度の上昇に伴い軟化して変形を起こし始める温度である。基材フィルム3の軟化点は、例えば、熱機械分析装置(TMA)を用いて測定できる(対応規格JIS K 7196、JIS K 7197、JIS R 1618)。軟化点は、熱機械分析(TMA)で得られるグラフの変曲点から求められる。基材フィルム3が複数のフィルムが積層された物の場合、積層された複数のフィルムのそれぞれの軟化点温度のうち最も高い軟化点温度より65℃低い温度以上に切断工具30を加熱する。
【0058】
TACフィルムの軟化点温度は、255℃である。PETフィルムの軟化点温度は、240℃である。
【0059】
切断工具30の切断部の温度は、上述のように、基材フィルム3の軟化点温度より65℃低い温度以上とする。例えば、基材フィルム3がTACフィルムの場合、切断工具30の切断部の温度を190℃以上とし、基材フィルム3がPETフィルムの場合、切断工具30の切断部の温度を175℃以上とする。また切断工具30の切断部の温度は、基材フィルム3の融点未満であることが好ましく、基材フィルム3の軟化点温度より35℃高い温度未満であることがより好ましい。切断工具30の温度が高すぎると、溶融物が切断刃の切断面に付着し、基材フィルム3を切断しにくくなる。
【0060】
切断工具30の切断部の温度は、例えば、基材フィルム3の切断時に一定温度下がってもよい。すなわち、切断工具30の温度は、基材フィルム3の切断開始の時点で軟化点温度より65℃低い温度以上であればよく、切断途中にその温度が低くなってもよい。切断開始時の切断部の温度と、切断中の切断部の温度との最大温度差は、15℃以下であることが好ましい。当該温度差が十分低いと、基材フィルム3にクラックがより発生しにくい。
【0061】
次いで、第2工程では、加熱した切断工具30を用いて積層フィルム10を切断する。積層フィルム10は、基板20の外形に沿って切断工具30を動かすことで、所定の形状に切断される。切断工具30が打ち抜き工具の場合は、打ち抜き工具の切断体の形状を基板20の外形に合わせて加工し、積層フィルム10を打ち抜くことで積層フィルム10を切断する。
【0062】
本実施形態に係る積層体の製造方法は、軟化点温度より65℃低い温度以上に加熱された切断工具30を用いて積層フィルム10を切断するため、クラックが生じにくい。加熱をせずに積層フィルム10を切断しようとすると、切断工具30が積層フィルム10に当接した際に、例えば基材フィルム3に代表される有機層に歪みが生じる。この歪みによって光学機能層5に代表される無機層に応力が加わり、無機層にクラックが生じる。これに対し、本実施形態に係る積層体の製造方法は、軟化点温度より65℃低い温度以上に加熱された切断工具30を用いるため、切断工具30が積層フィルム10に当接した際に、有機層が変形し、無機層に加わる応力が緩和される。その結果、本実施形態に係る積層体の製造方法を用いると、無機層にクラックが生じることを抑制できる。
【0063】
また本実施形態に係る積層体の製造方法は、加熱する対象が切断工具30であり、基板20及び積層フィルム10が大型の場合でも、設備を大型化する必要がない。また積層フィルム10のうち加熱されるのは、切断される部分の近傍のみであり、積層フィルム10全体に歪み等が生じることを抑制できる。
【0064】
「積層体の製造装置」
本実施形態に係る積層体の製造装置は、貼合装置と切断装置とを有する。貼合装置と切断装置とは別々の装置であり、それぞれ独立に動作できる。
【0065】
貼合装置は、積層フィルムを基板に貼り合わせる装置であり、公知のラミネート装置を用いることができる。
【0066】
切断装置は、積層フィルムを前記基板の形状に合わせて切断する装置である。図3に示すように、切断装置は、切断工具30を基材フィルム3の軟化点温度より65℃低い温度以上に加熱する加熱機構40を有する。加熱機構40は、例えば、ヒーターである。基材フィルム3の軟化点温度を、TMA等を用いて事前に測定し、加熱機構40は事前に測定された基材フィルム3の軟化点温度より65℃低い温度以上に切断工具30の切断刃31を加熱する。
【0067】
切断装置は、加熱機構40の他に、温度計50と制御部60とを有してもよい。温度計50は、切断工具30の温度を測定する。温度計50は、接触式でも非接触式でもよい。
【0068】
制御部60は、切断工具30を基板20の外周に沿って動かす。制御部60は、例えば、基板20の外形を計測する撮像体と、計測された外形に沿って切断工具30を動かす駆動部と、撮像体の計測結果を処理し処理結果に基づいて駆動部を動作させるプロセッサと、を有する。駆動部は、例えば、基板20が広がる面内に切断工具30を動かす水平動作機構と、切断工具30を上下に動かす昇降機構と、を有する。なお、図3では、固定された基板20に対して切断工具30を動かす機構を図示したが、固定された切断工具30に対して基板20を動かしてもよい。
【0069】
本実施形態に係る積層体の製造装置は、切断工具30を軟化点温度より65℃低い温度以上に加熱することが可能であり、この製造装置を用いると積層フィルム10を所定の形状に加工した際にクラックが生じにくい。
【0070】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例0071】
「実施例1」
まず図2に示す積層フィルム10を準備した。積層フィルム10の各層の構成は下記とした。
剥離層1:厚み75μmのPETフィルム
粘着層2:厚み25μmのシリコン系粘着フィルム
基材フィルム3:厚み80μmのTACフィルム
ハードコート層4:厚み6μmのアクリル系ハードコート
光学機能層5:総厚が185μmで、高屈折率層(Nb)と低屈折率層(SiO)とが交互に積層されたもの。高屈折率層と低屈折率層はそれぞれ2層で、光学機能層5は計4層の積層体とした。
防汚層6:パーフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物(KY-1901:信越化学工業株式会社製)を蒸着させたもの
保護層7:厚み59μmのポリオレフィン系保護フィルム
【0072】
ハードコート層4に用いられるアクリル系ハードコートは、以下の表1に示す光硬化性樹脂組成物をグラビアコーターによって塗布し、硬化したものである。
【0073】
【表1】
【0074】
次いで、基板20としてガラス基板を準備した。そして積層フィルム10から剥離層1を剥離し、粘着層2がガラス基板と密着するように、積層フィルム10を基板20に貼り合わせた。積層フィルム10の外形は、基板20の外形より大きく、積層フィルム10は、基板20の外周から10mm程度はみ出していた。
【0075】
次いで、カミソリ刃の中心部を300℃まで加熱し、積層フィルム10の余剰部分を切断した。カミソリ刃の切断部の温度は200℃であった。TACフィルムの軟化点温度は255℃であり、カミソリ刃の切断部の温度は基材フィルム3の軟化点温度より65℃低い温度(190℃)以上であった。また切断開始時の切断部の温度と切断中の切断部の温度との最大温度差は、8℃であった。
【0076】
図4は、実施例1の積層フィルム10の切断面を測定した図である。図4において、画像下半分が積層フィルムであり、点線に沿って積層フィルム10を切断している。図4は、積層フィルム10を切断方向から見た図であり、紙面手前側が積層フィルム10の上面に対応する。切断面の測定は、マイクロスコープVHX7000(キーエンス社製)で行った。図4に示すように、実施例1の積層フィルムの切断面にはクラックが確認されなかった。
【0077】
「実施例2」
実施例2は、カミソリ刃の中心部の温度を400℃まで加熱し、カミソリ刃の切断部の温度を260℃にして積層フィルム10の余剰部分を切断した点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同じとして、積層フィルム10を切断した。また切断開始時の切断部の温度と切断中の切断部の温度との最大温度差は、12℃であった。
【0078】
図5は、実施例2の積層フィルム10の切断面を測定した図である。図5において、画像下半分が積層フィルムであり、点線に沿って積層フィルム10を切断している。図5は、積層フィルム10を切断方向から見た図であり、紙面手前側が積層フィルム10の上面に対応する。図5に示すように、実施例2の積層フィルム10の切断面にはクラックが確認されなかった。ただ実施例2の切断面には、積層フィルム10の溶融物が切断刃の切断面に付着していた。
【0079】
「比較例1」
比較例1は、カミソリ刃を加熱せず、カミソリ刃の温度を室温のままとした点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同じとして、積層フィルム10を切断した。
【0080】
図6は、比較例1の積層フィルム10の切断面を測定した図である。図6において、画像下半分が積層フィルムであり、点線に沿って積層フィルム10を切断している。図6は、積層フィルム10を切断方向から見た図であり、紙面手前側が積層フィルム10の上面に対応する。図6に示すように、比較例1の積層フィルム10の切断面にはクラックが確認された。
【0081】
「比較例2」
比較例2は、カミソリ刃の中心部の温度を200℃まで加熱し、カミソリ刃の切断部の温度を150℃にして積層フィルム10の余剰部分を切断した点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同じとして、積層フィルム10を切断した。また切断開始時の切断部の温度と切断中の切断部の温度との最大温度差は、23℃であった。
【0082】
図7は、比較例2の積層フィルム10の切断面を測定した図である。図7において、画像下半分が積層フィルムであり、点線に沿って積層フィルム10を切断している。図7は、積層フィルム10を切断方向から見た図であり、紙面手前側が積層フィルム10の上面に対応する。図7に示すように、比較例2の積層フィルムの切断面にはクラックが確認された。
【0083】
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2に示すように、切断工具の切断部の温度を基材フィルムの軟化点温度より65℃低い温度以上にして、積層フィルムを切断すると、切断面にクラックが生じなかった。また実施例1と実施例2に示すように、切断工具の切断部の温度を高くしすぎないことで、積層フィルム10をよりきれいに切断できることが確認された。
【0084】
図8は、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の切断工具であるカミソリ刃の中央部と切断部の温度の関係を示す図である。中央部の温度と切断部の温度との間には相関があり、中央部の温度から切断部の温度を求めることができる。
【符号の説明】
【0085】
1…剥離層、2…粘着層、3…基材フィルム、4…ハードコート層、5…光学機能層、5A…第1高屈折率層、5B…第1低屈折率層、5C…第2高屈折率層、5D…第2低屈折率層、6…防汚層、7…保護層、10…積層フィルム、20…基板、21…貼合面、30…切断工具、31…切断刃、40…加熱機構、50…温度計、60…制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8