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特開2024-58068薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物
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  • 特開-薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058068
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20240418BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20240418BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20240418BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L101/12
C08L25/04
C08J5/00 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165197
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】322012860
【氏名又は名称】東レ・セラニーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】奥長 健一
(72)【発明者】
【氏名】村上 圭伍
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA13
4F071AA13X
4F071AA22
4F071AA22X
4F071AA42
4F071AA45
4F071AA45X
4F071AA51X
4F071AA75
4F071AA77
4F071AA78
4F071AA84
4F071AA86
4F071AB03
4F071AC11
4F071AC19
4F071AE05
4F071AE15
4F071AF11Y
4F071AF20Y
4F071AF39Y
4F071AF61Y
4F071AH07
4F071AH12
4F071BA01
4F071BB05
4F071BC03
4F071BC12
4J002AA00X
4J002BC05Y
4J002BC06X
4J002BG06X
4J002BN15X
4J002BP01Y
4J002CF05W
4J002CF10W
4J002CG01X
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】本発明は、一体成形時における薄肉形状の複合成形体の寸法安定性に優れ、柔軟性かつ高い耐衝撃性と良流動性を兼ね備える、薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】結晶性芳香族ポリエステル単位を主な構成単位とするハードセグメント(H)40~85質量%と、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位を主な構成単位とするソフトセグメント(L)15~60質量%とを構成成分とし、かつ該ハードセグメント(H)が2種以上の酸成分と1種以上のグリコール成分とから構成される熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)およびガラス転移温度が150℃以下である非晶性樹脂(B)を含有し、前記熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)100質量部に対し、前記非晶性樹脂(B)を10~80質量部含む、薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性芳香族ポリエステル単位を主な構成単位とするハードセグメント(H)40~85質量%と、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位を主な構成単位とするソフトセグメント(L)15~60質量%とを構成成分とし、かつ該ハードセグメント(H)が2種以上の酸成分と1種以上のグリコール成分とから構成される熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)およびガラス転移温度が150℃以下である非晶性樹脂(B)を含有し、前記熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)100質量部に対し、前記非晶性樹脂(B)を10~80質量部含む、薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項2】
さらに芳香族ビニル単位の含有量が20~50質量%である熱可塑性スチレン系エラストマー(C)を含有し、前記熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)100質量部に対し、前記熱可塑性スチレン系エラストマー(C)を5~60質量部含む、請求項1に記載の薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項3】
前記非晶性樹脂(B)がポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、PMMA樹脂より選ばれる少なくとも一種である、請求項1または2記載の薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性スチレン系エラストマー(C)の重量平均分子量が100,000~300,000である、請求項2記載の薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項5】
樹脂100質量部に対し、0.1~2.0質量部の紫外線吸収剤(D)および0.1~2.0質量部のヒンダードアミン化合物(E)を含有する、請求項1または2に記載の薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物
【請求項6】
JIS K7152に従い、成形した60mm×60mm×1mm厚み角板の成形収縮率が0.2%以上、0.8%以下であり、金型ゲートからキャビティ内に向かって、樹脂流動方向の収縮率MD(%)と直行方向の収縮率TD(%)との比MD/TDが以下の式1を満たす、請求項1または2に記載の薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
(式1):0.8≦MD/TD≦1.2
【請求項7】
樹脂100質量部に対し、カーボン系導電性フィラー(F)を0.1~5.0質量部含有し、60mm×60mm×1mm厚み角板に成形した際の表面抵抗率が1.0×1010(Ω/sq.)以下である、請求項1または2に記載の薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物に関する。より詳細には、薄肉の複合成形体成形時における寸法安定性に優れ、柔軟性かつ高い耐衝撃性と良流動性を兼ね備える熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性芳香族ポリエステル単位をハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールのような脂肪族ポリエーテル単位をソフトセグメントとするポリエステルブロック共重合体から構成される熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂は、ポリエステル樹脂が有する強度、耐衝撃性、弾性回復性などの機械特性と、溶融時の良加工性とのバランスに優れ、高温から低温の広範囲にわたって特性を損なわないだけでなく、さらにはエラストマーとしての柔軟性、耐屈曲疲労性を兼ね備えた特性を有することから、機械駆動部品や電気・電子部品、自動車部品、家電製品部品、日常生活用品や産業用資材など様々な用途に対して用いられている。
【0003】
しかしながら、熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂は、他のポリエステル樹脂と同様に、溶融射出成形後に成形品の寸法形状変化が生じるため、その優れた異種材料との一体成形性を活かす際においては、複合成形体に収縮歪みや反りが発生することがある。特に薄肉形状での適用においては、成形後樹脂の成形収縮歪みや反りが顕著となることから、成形収縮性の低減が望まれている
熱可塑性ポリエステル樹脂においては、射出成形で得られる成形品の反りや寸法収縮を改善するため、従来から様々な検討が行われており、例えばポリエステルブロック共重合体にスチレン成分とアクリロニトリル成分をグラフト共重合させた、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)を特定比率で配合した熱可塑性ポリエステル樹脂組成物(例えば、特許文献1)が開示されている。また、ABS樹脂とポリカーボネート樹脂(PC樹脂)を特定比率で配合した熱可塑性ポリエステル樹脂組成物(例えば、特許文献2)が開示されている。さらには、熱可塑性ポリエステル樹脂にエポキシ基含有ビニル共重合体とABS樹脂、変性スチレン系樹脂あるいはポリカーボネート樹脂を配合した熱可塑性ポリエステル樹脂組成物(例えば、特許文献3)、熱可塑性ポリエステル樹脂にアクリロニトリル-スチレン(AS樹脂)とアクリル-スチレン共重合体を特定比率で配合した熱可塑性ポリエステル樹脂(例えば、特許文献4)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5240680号
【特許文献2】特許第5024754号
【特許文献3】特開2007-314619号公報
【特許文献4】特許第6869640号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、機械的強度と柔軟性とのバランスに優れ、良好な溶融加工性を有しているが、得られる成形体の成形収縮率が大きいという課題があった。分子構造中に結晶性の芳香族ポリエステル単位を有するため、溶融状態で金型に充填されて固化する際に、分子が規則的に折りたたみ配列した結晶構造を形成することにより体積が減少する傾向がある。特に複雑な形状や異種材料との一体成形体などにおいては、薄肉部分の体積減少による収縮差が大きくなることによって成形体の歪みが生じてソリが発生するなど、ねらい通りの形状の成形体を得ることが困難になることがある。熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物を薄肉複合成型体用途へ展開する場合、熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物自体の成形収縮率を小さくすることが重要である。
【0006】
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形した際の成形収縮率を小さくする方法として、例えば文献1および文献2に記載されているように熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂に非晶性樹脂のABS樹脂を特定比率で含有させた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物では、成形収縮率の改善については不十分であり、具体的な記載もない。また、文献3のような熱可塑性ポリエステル樹脂に、エポキシ基含有ビニル共重合体とABS樹脂、変性スチレン系樹脂あるいはポリカーボネート樹脂を特定比率で配合した熱可塑性ポリエステル樹脂組成物では、成形品の成形収縮性低減には一定の改善がみられるものの、柔軟性の観点からは不十分であった。また、特許文献4のような熱可塑性ポリエステル系樹脂に、アクリロニトリル-スチレン系共重合体、およびアクリル-スチレン系共重合体を特定量で配合することにより、成形収縮率の低減に一定の改善がみられるものの十分ではなかった。
【0007】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、一体成形時における複合成形体の寸法安定性に優れ、柔軟性かつ高い耐衝撃性と良流動性を兼ね備えた、薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の構成単位を有する熱可塑性ポリエステルブロック共重合体に特定の非晶性樹脂を特定量配合することにより、前述の薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー組成物の一体成形時における薄肉複合成形体の寸法安定性に優れ、柔軟性かつ高い耐衝撃性と良流動性を兼ね備えた特性が効果的に達成されることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明のポリエステルエラストマー成形体は以下の構成を有する。
(1)結晶性芳香族ポリエステル単位を主な構成単位とするハードセグメント(H)40~85質量%と、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位を主な構成単位とするソフトセグメント(L)15~60質量%とを構成成分とし、かつ該ハードセグメント(H)が2種以上の酸成分と1種以上のグリコール成分とから構成される
熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)およびガラス転移温度が150℃以下である非晶性樹脂(B)を含有し、前記熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)100質量部に対し、前記非晶性樹脂(B)を10~80質量部含む、薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
(2)さらに芳香族ビニル単位の含有量が20~50質量%である熱可塑性スチレン系エラストマー(C)を含有し、前記熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)100質量部に対し、前記熱可塑性スチレン系エラストマー(C)を5~60質量部含む、(1)に記載の薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
(3)前記熱可塑性非晶性樹脂(B)としてポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、PMMA樹脂より選ばれる少なくとも一種を含む、(1)または(2)記載の薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
(4)前記熱可塑性スチレン系エラストマー(C)の重量平均分子量Mwが1000,000~3000,000である、(2)記載の薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
(5)樹脂100質量部に対し、0.1~2.0質量部の紫外線吸収剤(D)および0.1~2.0質量部のヒンダードアミン化合物(E)を含有する、請求項(1)~(4)いずれかに記載の薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物
(6)JIS K7152に従い、成形した60mm×60mm×1mm厚み角板の成形収縮率が0.2%以上、0.8%以下であり、金型ゲートからキャビティ内に向かって、樹脂流動方向の収縮率MD(%)と直行方向の収縮率TD(%)との比MD/TDが以下の式1を満たす、(1)~(5)いずれかに記載の薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【0009】
(式1):0.8≦MD/TD≦1.2
(7)樹脂100質量部に対し、カーボン系導電性フィラー(F)を0.1~5.0質量部含有し、60mm×60mm×1mm厚み角板に成形した際の表面抵抗率が1.0×1010(Ω/sq.)以下である、請求項(1)~(6)いずれかに記載の薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、薄肉複合成形体の一体成形時における複合成形体の寸法安定性に優れ、柔軟性かつ高い耐衝撃性と良流動性を兼ね備えた、薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエラストマー樹脂組成物を提供することが可能となり、自動車内装部品、電気電子部品、工業用材料など、特に薄肉形状でかつ成形体の柔軟性および耐衝撃性と寸法安定性のバランスが必要な製品に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例および比較例のL字型形状成形片の概略図である。
図2】実施例および比較例の薄肉複合成形体評価用の概略図である。
図3】薄肉複合体成形の収縮量測定の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物について詳細を記述する。
【0013】
本発明の複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、結晶性芳香族ポリエステル単位を主な構成単位とするハードセグメント(H)40~85質量%と、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位を主な構成単位とするソフトセグメント(L)15~60質量%とを構成成分とし、かつ該ハードセグメント(H)が2種以上の酸成分と1種以上のグリコール成分とから構成される熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)およびガラス転移温度が150℃以下である非晶性樹脂(B)を含有し、前記熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)100質量部に対し、前記非晶性樹脂(B)を10~80質量部含むことを特徴とする薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物である。
【0014】
[熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)]
本発明の熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)は、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメントと脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメントを構成成分とする
ハードセグメントは、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル結合形成性誘導体(以下、「酸成分」という場合がある)とジオールまたはそのエステル結合形成性誘導体(以下、「ジオール成分」という場合がある)から形成されるポリエステルである。前記芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル-4,4'-ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、および3-スルホイソフタル酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0015】
本発明においては、前記芳香族ジカルボン酸を主として用いるが、この芳香族ジカルボン酸の一部を、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4'-ジシクロヘキシルジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、およびダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸を用いてもよい。さらにジカルボン酸のエステル形成性誘導体、たとえば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、および酸ハロゲン化物なども同等に用いることができる。
【0016】
次に、前記ジオールの具体例としては、分子量400以下のジオール、例えば1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,1-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびキシリレングリコール、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2'-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4'-ジヒドロキシ-p-ターフェニル、および4,4'-ジヒドロキシ-p-クオーターフェニルなどの芳香族ジオールが好ましく、かかるジオールは、エステル形成性誘導体、例えばアセチル体、アルカリ金属塩などの形でも用いることができる。
【0017】
本発明に用いられるソフトセグメントは、脂肪族ポリエーテルおよび/または脂肪族ポリエステルである。脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(トリメチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、およびエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。これらのなかでも、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールおよび/またはポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物および/またはエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体が好ましく用いられる。
【0018】
また、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが挙げられる。
【0019】
これらの脂肪族ポリエーテルおよび/または脂肪族ポリエステルのうち、得られるポリエステルブロック共重合体の弾性特性の観点から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコール、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが好ましく、これらの中でも特にポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、およびエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールの使用が好ましい。また、これらのソフトセグメントの数平均分子量としては共重合された状態において300~6000であることが好ましく、1000~3000であることがより好ましく、1000~2000であることがよりいっそう好ましい。
【0020】
本発明における熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)は、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(H)と、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメント(L)とを構成成分とする。
【0021】
また、本発明における熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)は、ハードセグメント(H)が2種以上の酸成分と1種以上のグリコール成分とから構成される。
【0022】
ハードセグメント(H)の好ましい例としては、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4-ブタンジオールから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位とからなるものが用いられる。2種以上の酸成分を使用するポリエステルブロック共重合体(A2)を用いることにより、得られるポリエステルエラストマー樹脂組成物の耐熱性と柔軟性を両立させることができる。
【0023】
ソフトセグメント(L)としては、上記脂肪族ポリエーテルおよび/または脂肪族ポリエステルから選択される。
【0024】
ポリエステルブロック共重合体(A)は、ハードセグメント(H)が40~85質量%、ソフトセグメント(L1)が15~60質量%であり、好ましくはハードセグメント(H)が50~80質量%、ソフトセグメント(L)が20~50質量%である。
【0025】
ポリエステルブロック共重合体(A)の融点は、140℃~200℃であることが好ましく、さらに好ましくは150℃~180℃ある。ポリエステルブロック共重合体(A)の融点が200℃より高い温度である場合は、得られる熱可塑性ポリエステルエラストマーの柔軟性と成形収縮率の両立が不十分であり、融点が140℃より低い温度である場合は、得られる熱可塑性ポリエステルエラストマーの強度および弾性率が不足し、一体成形時のサイクルタイムが増加するため好ましくない。
【0026】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)は、公知の方法で製造することができる。その具体例としては、ジカルボン酸の低級アルコールジエステルと、過剰量の低分子量グリコールおよびソフトセグメント成分を触媒の存在下でエステル交換反応させ、得られる反応生成物を重縮合する方法、ならびにジカルボン酸と過剰量のグリコールおよびソフトセグメント成分を触媒の存在下でエステル化反応させ、得られる反応生成物を重縮合する方法などが挙げられ、これらいずれの方法をとってもよい。
【0027】
[非晶性樹脂(B)]
前記熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)100質量部に対し、前記非晶性樹脂(B)を10~80質量部含む。
【0028】
本発明に用いられる非晶性樹脂(B)は150℃以下のガラス転移温度を有する非晶性の樹脂群から選択される。非晶性樹脂(B)がポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、PMMA樹脂より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0029】
本発明に効果的に用いることができる非晶性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂を挙げることができる。ポリカーボネート樹脂としては芳香族ジヒドロキシ化合物または、これと少量のポリヒドロキシ化合物をホスゲンまたは炭酸ジエステルと反応させることによって得られるカーボネート重合体が挙げられる。芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールAと記載)、テトラメチルビスフェノールA,ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4-ジヒドロキシジフェニルなどが挙げられ、好ましくはビスフェノールAが用いられる。
【0030】
ポリカーボネート樹脂の配合量としては、熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)100質量部に対し、10~80質量部が好ましく、さらに好ましくは10~30質量部である。
【0031】
本発明に効果的に用いることができる非晶性樹脂を例示すると、ジエン系共重合体を好ましく用いることができる。中でも芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル単量体を主成分として含むことが好ましい。他種のビニル単量体をさらに含むことができる。別の態様として、ジエン系ゴム質重合体の存在下、芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体をグラフト重合してなるグラフト重合体が挙げられる。さらに他種のビニル単量体を含むことができる。
【0032】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレンなどを挙げることができるが、中でもスチレンが好ましく用いられる。シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどを挙げることができ、中でもスチレンが好ましく用いられる。ジエン系ゴム質重合体としては、成形加工性やポリエステルブロック共重合体との分散性が良好なポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。
【0033】
具体的には、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)を好ましく用いることができる。
【0034】
本発明で用いるABS樹脂中の共重合比は、ゴム質重合体40~85重量部に対し、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体15~60重量部であることが好ましい。ゴム質重合体が85重量部を越えると、グラフト率の低下により、熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂として良好な機械物性が得られず、さらに40重量部未満でもあるいは85重量部を越えても、ポリエステルブロック共重合体との相溶性が低下することにより加工性が低下する。
【0035】
ジエン系共重合体中における芳香族ビニル単量体の割合は、全ビニル系単量体に対し好ましくは50~99質量%、より好ましくは60~90質量%、さらに好ましくは70~80質量%であり、シアン化ビニル系単量体の割合は、好ましくは1~50質量%、より好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは20~30質量%である。芳香族ビニル単量体の割合が99質量%を越えてもあるいは50質量%未満でも、またシアン化ビニル単量体の割合が50質量%を越えてもあるいは1質量%未満でも、ポリエステルブロック共重合体との相溶性が低下し、良好な機械物性が得られない場合がある。また、これらと共重合可能な他のビニル系単量体は50質量%以下で用いることが好ましい。
【0036】
ジエン系の共重合体としてABS樹脂およびAS樹脂を例示したが、本発明の効果を損なわない範囲で他のビニル単量体を共重合してもよい。共重合可能な他のビニル単量体としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸などのα,β-不飽和カルボン酸無水物類、N-フェニルマレイミド、N-メチルマレイミド、N-t-ブチルマレイミドなどのα,β-不飽和ジカルボン酸のイミド化合物等をあげることができる。
【0037】
ABS樹脂およびAS樹脂配合量としては、熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)100質量部に対し、10~80質量部が好ましく、さらに好ましくは10~50質量部である。
【0038】
共重合可能な他の単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸などのα,β-不飽和カルボン酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸-t-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルなどのα,β-不飽和カルボン酸エステル類などを挙げることができる。中でも、メタクリル酸メチルの重合体である、メタクリル酸メチル重合体であるポリメタクリル酸メチル(PMMA樹脂)を好ましく用いることができる。
【0039】
前記ビニル系樹脂の具体例としては、メチルメタクリレート/スチレン樹脂(MS樹脂)、メタクリル酸メチル/アクリロニトリル樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン/ブタジエン樹脂などのビニル系共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/メタクリル酸メチル/スチレン樹脂(MABS樹脂)、スチレン/ブタジエン/スチレン樹脂、スチレン/イソプレン/スチレン樹脂、スチレン/エチレン/ブタジエン/スチレン樹脂などのブロック共重合体;および、ジメチルシロキサン/アクリル酸ブチル重合体(コア層)とメタクリル酸メチル重合体(シェル層)多層構造体、ジメチルシロキサン/アクリル酸ブチル重合体(コア層)とアクリロニトリル/スチレン共重合体(シェル層)多層構造体、ブタンジエン/スチレン重合体(コア層)とメタクリル酸メチル重合体(シェル層)の多層構造体、ブタンジエン/スチレン重合体(コア層)とアクリロニトリル/スチレン共重合体(シェル層)のコアシェルゴムなども挙げられる。これらは単独であっても、2種類以上の混合物であってもよい。
【0040】
本発明に効果的に用いることができる非晶性樹脂としては、他にエポキシ樹脂およびフェノキシ樹脂を挙げることができる。
【0041】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂のほか、フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの重縮合物であるグリシジルエーテル系エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系エポキシ化合物、N,N’-メチレンビス(N-グリシジルアニリン)等のグリシジルアミン系エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニレンノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多官能ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、イミド環含有ビスフェノール型エポキシ樹脂などが例示される。これらを2種以上配合してもよい。また、フェノキシ樹脂はビスフェノール類とエピクロルヒドリンから合成されるポリヒドロキシポリエーテル類であり、末端基が水酸基であるビスフェノールA型のフェノキシ樹脂、ビスフェノールF型のフェノキシ樹脂が例示できる。
【0042】
エポキシ樹脂およびフェノキシ樹脂の配合量は、ポリエステルブロック共重合体(A)100重量部に対して、10~80重量部が好ましく、より好ましくは10~20重量部である。10重量部未満であると、十分な効果が得られず、また80重量部を超えると著しい粘度上昇により成形性が悪化する。
【0043】
溶融加工時の分解を抑えられることと、ポリエステルエラストマー樹脂への相溶性の観点からグリシジルエーテル系エポキシ化合物が好ましく、耐熱性を向上させることができることから、ビスフェノールA型エポキシ化合物が好ましい。さらにビスフェノールA型エポキシ化合物の中でも、エポキシ価500~5000g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ価が500g/eq以下の場合、溶融加工時の急激な増粘の可能性が高くなることから好ましくない。エポキシ価が5000g/eq以上となる場合、耐熱性および耐加水分解性向上の観点から好ましくない。溶融時の加工性を損なわず、耐熱性の長期的な改良の観点から、フェノールノボラック型のエポキシ樹脂、中でもジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂が好ましい。多官能性のフェノールノボラック型、ジシクロペンタジエン型のエポキシ樹脂のエポキシ価は150~300g/eqが好ましい。
【0044】
多官能性のフェノールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ価が100g/eq以下の場合、高温環境下における架橋密度が高くなるため、ポリエステルエラストマーの靭性を損なうことから好ましくない。
【0045】
[熱可塑性スチレン系エラストマー(C)]
本発明においては、芳香族ビニル単位の含有量が20~50質量%である熱可塑性スチレン系エラストマー(C)を用いることができる。前記熱可塑性ポリエステルブロック共重合体(A)100質量部に対し、前記熱可塑性スチレン系エラストマー(C)を5~60質量部含むことが好ましい。
【0046】
熱可塑性スチレンエラストマーは、ハードセグメントにポリスチレンブロックと、柔軟なエラストマーブロックで構成されており、ジブロックまたはトリブロックのように、複数のブロック部分を有するブロック共重合体である。
【0047】
スチレンエラストマーの例として、ポリスチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック-ポリスチレン(SEBS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック-ポリスチレン(SEPS)およびポリスチレン-ポリ(エチレン-エチレン/プロピレン)ブロック-ポリスチレン(SEEPS)が挙げられる。これらのなかでも、熱可塑性ポリエステルエラストマーへの分散性の観点から、ポリスチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック-ポリスチレン(SEBS)が好ましく用いられる。
【0048】
熱可塑性スチレン系エラストマーにおけるスチレンブロック単位の含有量は、20~50質量%が好ましく、より好ましくは30~40質量%である。スチレンブロック単位が20質量%未満である場合は、得られる熱可塑性ポリエステルエラストマーの成形収縮性を抑える観点から好ましくなく、スチレンブロック単位が50質量%より大きい場合は、熱可塑性ポリエステルエラストマーの柔軟性が損なわれるため好ましくない。
【0049】
熱可塑性スチレンエラストマーの重量平均分子量は、好ましくは100,000~300,000であり、より好ましくは200,000~300,000である。熱可塑性スチレンエラストマーの重量平均分子量が前述の範囲にあることにより、熱可塑性ポリエステルエラストマーへの分散性に加えて、非晶性樹脂との溶融混錬の際において、熱可塑性ポリエステルエラストマーと非晶性樹脂との相溶化促進の観点から好ましく、溶融混錬時の吐出樹脂の樹脂圧の安定化効果が得られる。
【0050】
熱可塑性スチレンエラストマーの重量平均分子量が100,000未満である場合、得られる熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂の機械強度と柔軟性のバランスが悪化するため好ましくない。重量平均分子量が300,000より大きい場合、熱可塑性ポリエステルエラストマーへの分散性が悪化し、溶融押出時の加工性が低下するため、好ましくない。
【0051】
[紫外線吸収剤(D)]
本実施形態の熱可塑性ポリエステルエラストマーは、耐候性を向上させるために、必要に応じて紫外線吸収剤(D)を用いることができる。紫外線吸収剤を例示すると、ベンゾトリアゾール類:2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-[5-クロロ-(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル-6-(tert-ブチル)フェノール、ベンゾフェノン類:2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノンなどが挙げられる。樹脂100質量部に対し、好ましい添加量としては0.1~2.0質量部であり、0.5~1.0質量部がより好ましい。
【0052】
[ヒンダードアミン化合物(E)]
本実施形態の熱可塑性ポリエステルエラストマーは、耐候性を向上させるために、必要に応じてヒンダードアミン化合物(E)を用いることができる。ヒンダードアミン化合物(E)を例示すると、N-R型三級アミンのビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、N-OR型アミンの2,4-ビス[N-ブチル-N-(1-シクロヘキシロイル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジック-4-イル)アミノ]-6-(2-ヒドロキシエチルアミン)-1,3,5-テトラジンなどが挙げられる。樹脂100質量部に対し、好ましい添加量としては0.1~2.0質量部であり、0.5~1.0質量部がより好ましい。
【0053】
[カーボン系導電性フィラー(F)]
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂に対し、導電性のカーボンフィラー類を用いてもよい。鱗片状黒鉛、粒子状黒鉛、粒状の導電性アセチレンカーボンブラック、導電性の中空カーボンであるケッチェンブラック、複層グラフェン、複層カーボンナノチューブなどが挙げられる。樹脂100質量部に対し、導電性カーボンフィラーの好ましい添加量は0.1~5.0質量部であり、さらに好ましくは1~4質量部である。
【0054】
次に、本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂に対して、ポリエステルエラストマー以外の他の熱可塑性樹脂を用いてもよい。例えば、オレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、などが挙げられる。
【0055】
前記オレフィン系樹脂の具体例としては、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/ブテン-1/無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。前記ポリアミド樹脂の具体例としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド410、ポリアミド46など、またこれらの共重合体を併用してもよい。
【0056】
ポリエステルエラストマー以外の他の熱可塑性樹脂を含める目的として、溶融加工性や流動性の調整、各種添加剤の分散性や相溶性の改善、柔軟性および弾性率の調整、耐熱性および耐熱老化性の改善、耐薬品性の向上などを目的として用いることができる。
【0057】
ポリエステルエラストマー以外の熱可塑性樹脂の配合量は、ポリエステルブロック共重合体(A)100重量部に対して、1~20重量部が好ましく、より好ましくは5~10重量部である。1重量部未満であると併用した熱可塑性樹脂の併用効果が限定的となり、また20重量部を超えるとポリエステルエラストマーと熱可塑性樹脂との分散性が低下し、本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物が本来有する柔軟性や機械特性、成形性などを損なうため好ましくない。
【0058】
[その他の添加剤]
さらに、本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物には、目的を損なわない範囲で必要に応じて、酸化防止剤(ホスホナイト化合物、亜リン酸化合物、次亜リン酸化合物、ヒンダードフェノール系化合物、チオエーテル系化合物など)、帯電防止剤(ポリエーテルエステルアミドなど)、滑剤(ステアリルアルコール、ステアリン酸金属塩、ステアリン酸アミド、ステアリン酸グリセリドなど)、染料(ニグロシンなどの有機染料)、顔料(カーボンブラック、二酸化チタンなど)、可塑剤(フタル酸系、アジピン酸系、トリメリット酸系など)、離型剤(パラフィンワックス、飽和脂肪酸エステル系、不飽和脂肪酸エステル系など)、耐加水分解性向上剤(カルボジイミド化合物、ポリカルボジイミド化合物)、難燃剤(ホスフィン酸アルミ、ホスフィン酸亜鉛、メラミンシアヌレート、トリアジン環含有N-アルコキシヒンダードアミン化合物、有機縮合リン酸エステル類など)、エステル交換防止剤などの添加剤を配合したものであってもよい。
【0059】
[薄肉複合成形体]
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、圧縮成形、押出成膜、Tダイ成膜、カレンダー成膜などの一般的に用いられる成形機を使用してポリエステルエラストマー成形体とすることができる。ポリエステルエラストマー成形体の形状は特に限定されないが、成形方法などに応じて選択でき、一次元的形態(例えば、線状、棒状等)、二次元的形態(例えば、シート状、フレーム形状、フィルム状等)、三次元的形態(例えば、凹部、凸部、凹凸部を有する形態、チューブ形状、ホース形状等)のいずれであってもよい。
【0060】
本発明における薄肉複合成形体は、本発明における熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物で形成された部材(以下、単に「部材1」ということがある)と、本発明における熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物より弾性率(ヤング率)の高い、他の硬質樹脂および他素材で形成された部材(以下、単に「部材2」ということがある)とが、インサートモールド成形、ハイブリッド成形、二色成形などすることにより得られる薄肉形状の複合成形体である。部材1は、その半分以上が本発明における熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物より構成されるが、他の樹脂材料を含んでもよい。
【0061】
複合成形体において、部材1と部材2は、接着剤層を介して接着されていてもよく、接着剤層を介することなく直接接着されていてもよい。部材1と部材2を一体化する方法としては、インサートされた部材2の接合面に物理的な処理および化学的な処理を施し、部材1と部材2をとの密着性を向上させる方法が挙げられる。また、部材1の構造として、爪や折り返し状の固定勘合部を設け、この固定部位を介して両部材を固定する方法も挙げられる。さらには部材1および部材2をビスなどを用いて固定してもよい。
【0062】
本発明における薄肉形状とは、部材1の厚みが1.5mm以下であることを指し、部材1の厚みは0.4mm~1.5mmが好ましく、0.5mm~1.2mmがより好ましく、0.5mm~1.0mmがさらに好ましい。意匠等のデザインによるものとして、部材1が1.5mmより厚くなる箇所を有してもよく、その場合、1.5mmより厚くなる箇所は部材全体で20%未満である。
【0063】
また、部材2は本発明における熱可塑性エラストマー樹脂組成物より弾性率の高い材料が選択され、エンジニアリングプラスチックに代表される種々の熱可塑性の硬質樹脂、熱硬化性の繊維強化プラスチック(FRP)、熱可塑性の繊維強化プラスチック(FRTP)、その他には無機材料や金属材料が使用できる。熱可塑性の硬質樹脂の例としては、例えばポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA樹脂)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)などが挙げられる。なかでも非晶性の透明樹脂であるPC樹脂およびアクリル樹脂、PMMA樹脂が好ましく用いられる。繊維強化プラスチックの強化繊維には、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、セルロースナノファイバーなどを選択することができ、マトリックス樹脂として、熱硬化性樹脂では、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、ポリイミド樹脂などを選択することができる。熱可塑性の繊維強化プラスチックの例としては、前述の強化繊維に加えて、マトリックス樹脂として、ポリオレフィン、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂などを好ましく用いることができる。無機材料としてはガラスやセラミックスなどが選択でき、金属材料としては、アルミニウム合金やステンレス鋼材、マグネシウム合金などの金属材料を用いることができる。ガラス材の表面には塗装処理が施されていても好適に用いることができる。金属材料の表面には、メッキ処理や酸化処理、表面塗装が施されていてもよい。
【0064】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、JIS K7152、標準金型タイプD1に従い、60mm×60mm×1mm厚み角板に成形した際の成形収縮率が0.2%以上、0.8%以下であり、金型ゲートからキャビティに向かって、樹脂流動方向の収縮率MD(%)と直行方向の収縮率TD(%)との比MD/TDが以下の式1を満たすことが好ましい。
【0065】
(式1):0.8≦MD/TD≦1.2
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、樹脂100質量部に対し、導電性カーボンブラック(F)を0.1~5.0質量部含有し、60mm×60mm×1mm厚み角板に形成した部材1の表面抵抗率が1.0×1010(Ω/sq.)以下であることが好ましい。
【0066】
(式1):0.8≦MD/TD≦1.2
部材1の弾性率は引張弾性率で1.0GPa未満であることが好ましく、より好ましくは500MPa未満であり、さらに好ましくは300MPa未満である。部材2の弾性率は引張弾性率で1.0GPa以上であることが好ましく、より好ましくは2.0GPa以上であり、さらに好ましくは10GPa以上である。
【0067】
部材1と部材2が一体成形された薄肉の複合成形体の例としては、部材2に薄肉のガラス材が選択され、部材1である本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマーを薄肉の枠材としてインサート成形を行った一体成形体が例示される。部材2としては透明の非晶樹脂やガラス材が好ましく用いられる。
【0068】
薄肉複合成形体の用途としては、特に限定されないが、例えば、自動車内外装部材、電子機器、電気機器、精密機器、一般消費材(またはこれら部品)が挙げられる。本発明の薄肉複合成形体は、特に薄肉で構成する必要のある、電気電子機器筐体などに好適に用いることができる。電気電子機器筐体を例示すると、スマートフォンやパソコン筐体、液晶モニターやカーナビ用など、薄肉性が求められてかつ、塗装性などを含めた意匠性が求められる筐体用途に好ましく適用することができる。
【0069】
[繊維強化材]
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物には、柔軟性を損なわない範囲において繊維強化材を含有することができる。繊維強化材を配合することによって、機械強度と耐熱性をさらに向上させることができる。
【0070】
繊維強化材としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、セルロースナノファイバー、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などが例示でき、好ましくはガラス繊維やアラミド繊維を用いることができる。
【0071】
ガラス繊維としては、チョップドストランドタイプやロービングタイプのガラス繊維が好ましく用いられる。アミノシラン化合物やエポキシシラン化合物などのシランカップリング剤および/またはウレタン、アクリル酸/スチレン共重合体などのアクリル酸からなる共重合体、アクリル酸メチル/メタクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体などの無水マレイン酸からなる共重合体、酢酸ビニル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやノボラック系エポキシ化合物などの一種以上のエポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維も用いることができる。無水マレイン酸からなる共重合体を含有した収束剤で処理されたガラス繊維が、耐熱性をより向上できることから好ましい。繊維強化材の繊維径は、1~30μmの範囲が好ましい。繊維強化材の樹脂中の分散性の観点から、その下限値は好ましくは5μmである。機械強度の観点からその上限値は好ましくは15μmである。また、繊維断面は通常円形状であるが、任意の縦横比の楕円形ガラス繊維、扁平ガラス繊維および、まゆ型形状(HIS)ガラス繊維など任意な断面を持つ繊維強化材を用いることもでき、射出成形時の流動性向上と、ソリの少ない成形品が得られる効果がある。
【0072】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物には、柔軟性を損なわない範囲において繊維強化材以外の強化材を含有することができる。繊維強化材以外の強化材を配合することで、成形体の結晶化特性を向上させるほか、成形品の異方性、耐熱性、熱変形温度、機械強度、難燃性などの一部特性を改良することができる。
【実施例0073】
以下に示す実施例によって本発明の効果を説明する。本発明は、この発明の要旨の範囲内で適宜変更して実施することができる。なお、実施例中の%表記および部数表記は、ことわりのない場合は全て質量基準である。また、実施例中に示される物性は次の測定方法により測定したものである。
【0074】
実施例および比較例において、次に記載する測定方法によってポリエステルエラストマー樹脂組成物により得られる特性の評価を行った。
【0075】
[融点測定]
ティー・エイ・インスツルメント社製DSC Q100を使用し、ポリエステルエラストマー樹脂組成物の試料10mgに対して昇温および冷却速度10℃/分にて測定し、得られる融解吸熱曲線の極値を与える温度を融点とし、結晶化発熱曲線の極値を与える温度を結晶化温度とした。
【0076】
[表面硬度(HDD:デュロメーターDによる硬度)]
JIS K7215(ISO 868)に記載された方法に従い、23℃、50%RH温調環境下で成形体の表面硬度を測定した。
【0077】
[引張弾性率(引張破断弾性率)]
日精樹脂工業社製射出成形機NEX1000を用いて、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物に対し、成形温度200℃、金型温度40℃の温度条件で、射出時間と保圧時間の合計を10秒、冷却時間30秒の成形サイクルにて射出成形を行い、JIS2号試験片(棒状試験片)を得た。ポリエステルエラストマーの融点が200℃を超える組成物については、当該ポリエステルエラストマーの融点+20℃にて成形を行った。
【0078】
得られたJIS2号試験片を用い、JIS K7161(2014年)に準じて引張弾性率を測定した。引張速度は200mm/分とした。用いた熱可塑性ポリエステルエラストマーの種類によって得られる引張破断伸度は異なるが、JIS2号試験片を成形した状態において得られる引張破断伸度は100%以上となることが好ましい。
【0079】
[溶融粘度指数(MFR)]
ASTM D1238に従い、荷重2160gにおいて、下記の実施例および比較例における熱可塑性エラストマー樹脂組成物のメルトマスフローレート(g/10min)について測定した。融点が180℃未満の樹脂組物については、設定温度を220℃として測定し、融点が200℃以上の樹脂組成物については設定温度を融点+30℃として測定を行った。
【0080】
[成形収縮率]
成形収縮性の評価方法についてJIS K7152、標準金型タイプD1に従い、60mm×60mm×1mm厚み角板を用い、本実施例の熱可塑性エラストマー樹脂組成物における成形収縮率を評価した。上記記載の方法と同様にシリンダー温度200℃、金型温度40℃、冷却時間30秒の条件とし、保圧設定は20MPaもしくは40MPaのうち、離型後の成形角板の反りおよびヒケが小さい方の保圧で条件統一して成形した。エジェクターにより金型から離型させた1mm厚み角板の寸法(L)を、寸法測定機を用いて測定し、角板寸法(L)と金型寸法(Lc)との差(収縮量:Lc-L)を、金型寸法(Lc)で除した値にて算出した。
【0081】
このうち、金型ゲート(角板フィルムゲートもしくはファンゲートなどが選択できる)からキャビティ内に向かって、樹脂流動方向(MD方向)の収縮率(%)をMD(%)とし、樹脂流動方向に対して直行する方向(TD方向)の収縮率(%)をTD(%)とし、この収縮率の比をMD/TDとして、成形収縮率の評価指標とした。以下に式1を示した。
(式1):0.8≦MD/TD≦1.2。
【0082】
[成形体変形量]
ABS樹脂とポリカーボネート樹脂とのブレンド物を使用し、図1に示す長さ60mm、幅20mm、厚み1mmのL字形状の成形片を、シリンダー温度260℃、金型温度50℃の条件で射出成形により作製し、成形されたL字型形状成形片(A)を、図2に示す形状として得られる逆T字型の金型3にセットした後、評価用に熱可塑性ポリエステルエラストマー組成物をシリンダー温度200℃、金型温度50℃の条件にて射出成形し、熱可塑性ポリエステルエラストマー組成物からなる成形片(B)と前記成形片(A)とが接合した複合成形体を得た。当複合成形体を23℃、50%RHにて一日静置後、図3に示した基準により歪み量を評価した。
【0083】
表1中に×で示した結果については、熱可塑性ポリエステルエラストマー組成物の射出成形時に複合成形体が得られなかったことを示す。
【0084】
[表面抵抗率]
JIS K6911またはASTM D257に準じ、上記成形方法にて調整した60mm×60mm×1mm厚み角板を60mm×50mmに切削し、測定に用いた。
【0085】
切削により調整した角板を表面抵抗率測定機に供し、500Vの印加電圧にて60秒間測定した際の表面抵抗値Rs(Ω)に対し、機器固有の表面抵抗率補正係数をかけることにより表面抵抗率ρs(Ω/sq.)を評価した。表面抵抗率ρs(Ω/sq.)は以下の式2で与えられる。
(式2):ρs=(V/I)×(W/L)=Rs×(W/L)
Vは印加電圧、Iは試験体表面上を流れる電流であり、Wは電極の幅、Lは長さを示す。
【0086】
当測定においては、ASTM D257に準拠して測定し、主電極内径d=25mm、外径のリング電極内径D=50mmであるため、表面抵抗値Rsと表面抵抗率ρsの関係は以下の式3から近似計算される。
(式3):ρs=30×Rs
[ポリエステルブロック共重合体(A-1)の製造方法]
結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(H)50重量%と、脂肪族ポリエーテル単位からなるソフトセグメント(L)50重量%とを構成成分とし、ハードセグメント(H)が、2種の酸成分と、ジオール成分とから構成される、ポリエステルブロック共重合体(A2-1)を製造した。
【0087】
テレフタル酸33.0部、イソフタル酸10.0部、1,4-ブタンジオール40.3部、および数平均分子量約1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール46.5部を、チタンテトラブトキシド0.04部とモノ-n-ブチル-モノヒドロキシスズオキサイド0.02部を共にヘリカルリボン型攪拌翼を備えた反応容器に仕込み、190~220℃で3時間加熱し、反応水を系外に流出させながらエステル化反応を行った。反応混合物にテトラ-n-ブチルチタネート0.15部を追添加し、”イルガノックス”1098(チバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.05部を添加した後、245℃に昇温し、次いで、50分かけて系内の圧力を27Paの減圧とし、その条件下で1時間50分重合を行った。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングによりペレットとした。この熱可塑性ポリエステルエラストマーの融点は、162℃であった。
【0088】
[ポリエステルブロック共重合体(A-2)の製造方法]
結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(H)80重量%と、脂肪族ポリエーテル単位からなるソフトセグメント(L)20重量%とを構成成分とし、ハードセグメント(H)が、2種の酸成分と、ジオール成分とから構成される、ポリエステルブロック共重合体(A-2)を製造した。
【0089】
テレフタル酸33.0部、イソフタル酸10.0部、1,4-ブタンジオール40.3部、および数平均分子量約1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール46.5部を、チタンテトラブトキシド0.04部とモノ-n-ブチル-モノヒドロキシスズオキサイド0.02部を共にヘリカルリボン型攪拌翼を備えた反応容器に仕込み、190~220℃で3時間加熱し、反応水を系外に流出させながらエステル化反応を行った。反応混合物にテトラ-n-ブチルチタネート0.15部を追添加し、”イルガノックス”1098(チバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.05部を添加した後、245℃に昇温し、次いで、50分かけて系内の圧力を27Paの減圧とし、その条件下で1時間50分重合を行った。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングによりペレットとした。この熱可塑性ポリエステルエラストマーの融点は、160℃であった。
【0090】
[ポリエステルブロック共重合体(A’-3)の製造方法]
結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(H1)62重量%と、脂肪族ポリエーテル単位からなるソフトセグメント(L1)38重量%とを構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A’-3)を製造した。
【0091】
テレフタル酸50.5部、1,4-ブタンジオール29.0部および数平均分子量約1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール35.4部を、チタンテトラブトキシド0.04部とモノ-n-ブチル-モノヒドロキシスズオキサイド0.02部を共にヘリカルリボン型攪拌翼を備えた反応容器に仕込み、190~225℃で3時間加熱し、反応水を系外に流出させながらエステル化反応を行った。反応混合物にテトラ-n-ブチルチタネート0.2部を追添加し、”イルガノックス”1098(チバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.05部を添加した後、245℃に昇温し、次いで、50分かけて系内の圧力を27Paの減圧とし、その条件下で1時間50分重合を行った。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングによりペレットとした。この熱可塑性ポリエステルエラストマーの融点は、210℃であった。
【0092】
[非晶性樹脂(B)]
ガラス転移温度が150℃以下である、熱可塑性の非晶性樹脂(B)として、以下に示す樹脂群を用いた。
(B-1)AS樹脂として東レ(株)製“トヨラック”A25C 300を用いた。
(B-2)ABS樹脂として東レ(株)製“トヨラック”700 314を用いた。
(B-3)ポリカーボネート樹脂として出光興産(株)製“タフロン”A1900を用いた。
(B-4)エポキシ樹脂として日本化薬(株)製ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂XD-1000H(軟化点74℃-84℃)を用いた。
【0093】
[熱可塑性スチレン系エラストマー(C)]
(C-1)水添スチレンエラストマー(SEBS)としてスチレン/エチレン・ブチレンの比が35/65である、旭化成(株)製“タフテック”H1272を用いた。
【0094】
[紫外線吸収剤(D)]
(D-1)ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤として、BASF社製“Tinuvin”326を用いた。
【0095】
[ヒンダードアミン化合物(E)]
(E-1)>N-R型ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)として、BASF社製“Tinuvin”144を用いた。
【0096】
[カーボン系導電性フィラー(F)]
(F-1)導電性のカーボンフィラーとして、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製 ケッチェンブラックEC600JDを用いた。
【0097】
[実施例1~9]、[比較例1~5]
実施例および比較例における熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物は、表1に示す比率でドライブレンドし、45mmφで3条ネジタイプのスクリューを有する二軸押出機を用いて、融点が180℃以下の熱可塑性エラストマー組成物の場合は200℃にて、融点が200℃を超える熱可塑性樹脂を含む場合は、熱可塑性樹脂の融点+20℃の温度設定で溶融混練した後、ストランド状に吐出し、続いてペレタイザーにてφ3mm、長さ3mmにペレット化した。
【0098】
得られた熱可塑性ポリエステルエラストマー組成物(A)のペレットは80℃で4時間の乾燥後、日精樹脂工業社製の射出成形機(NEX-1000)を用い、JIS2号試験片と、60mm×60mm×1mm厚み角板を作成し、評価試験片を得た。
下記の表に記載の評価項目である、表面硬度、引張弾性率、MFR、成形収縮率(MD方向およびTD方向)、成形収縮率比(MD/TD)、成形時変形量、表面抵抗率ρsを評価した。各水準における評価結果を表1および表2に示した。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
以上より、実施例1~9に示すポリエステルブロック共重合体(A)と、特定の非晶性樹脂(B)を配合した本発明の薄肉複合成形体用熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、実施例および比較例から明らかなように、ポリエステルエラストマーとして表面硬度と弾性率、融点および結晶化温度を所定の範囲に調整することにより、柔軟性と高い衝撃性とを兼ね備えつつ、優れた成形収縮率を示し、薄肉形状であっても高い寸法精度で成形体を得ることができる。
【0102】
一方、本発明の条件を満たさない比較例1~5の熱可塑性エラストマー樹脂組成物では、成形収縮率の増大に伴ってMD方向とTD方向の比が増加し、成形時の収縮性に異方性が生じることで寸法精度に劣るものであった。
【0103】
実施例1、6、7、9と比較例1、3との比較、実施例2~5、8と比較例2,4においては、弾性率と柔軟性のバランスに優れつつ、成形収縮率の増大を大幅に抑制することでMD/TD比の増加も抑制することができており、成形体が高い寸法精度で得ることができる。
【0104】
実施例8、9と比較例5において、ポリエステルブロック共重合体(A)と、特定の非晶性樹脂(B)を配合した本発明の薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物に加えて、さらに導電性のカーボンフィラーを配合した場合は、好ましい成形収縮率を達成しつつ、好ましい表面抵抗率に調整することが可能となる。
【0105】
比較例1、2のように、特定の非晶性樹脂(B)を併用せず、ポリエステルブロック共重合体(A1)単独で用いた場合は、熱可塑性エラストマー樹脂組成物から得られる成形体の成形収縮率が大きくなることから好ましくない。
【0106】
また、比較例3、4のように、ハードセグメント(H)が2種以上の酸から構成されていないポリエステルブロック共重合体(A-1)を配合した場合においては、特定の非晶性樹脂(B)を併用した場合においても、十分に抑制された成形収縮率が得られないため好ましくない。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明によれば、一体成形時における複合成形体の寸法安定性に優れ、柔軟性かつ高い耐衝撃性と良流動性を兼ね備えた、薄肉複合成形体用熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物を提供が可能となり、自動車部材、電気電子部品、工業用材料などの耐衝撃性と成形時の寸法安定性が必要な製品に好適に使用することができ、特に薄肉での複合成形体を構成する部位対して従来材を代替することにより、優れた加工性と寸法安定性を付与することが可能となる。
【符号の説明】
【0108】
1:上面図
2:側面図
3:金型
A:成形片(A)
B:成形片(B)
図1
図2
図3