(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058069
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】線状体整列巻取装置及び線状体の整列巻取方法
(51)【国際特許分類】
B65H 54/28 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
B65H54/28 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165203
(22)【出願日】2022-10-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022国際ロボット展に出展 出展日 令和4年3月9日(開催期間 令和4年3月9日~3月12日) 開催場所 東京ビッグサイト(東京都江東区有明3-11-1) 東4-6ホール E5-11(三菱電機ブース)
(71)【出願人】
【識別番号】510337746
【氏名又は名称】株式会社HCI
(74)【代理人】
【識別番号】100177806
【弁理士】
【氏名又は名称】門田 康
(72)【発明者】
【氏名】奥山 浩司
(72)【発明者】
【氏名】濱本 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】坂本 臣吾
(72)【発明者】
【氏名】スンダララマン バースカルバラツワジュ
【テーマコード(参考)】
3F056
【Fターム(参考)】
3F056AB01
3F056CA01
3F056CB00
(57)【要約】
【課題】線状体を回転するドラムに巻きとるときに乗り上げ等の巻取異常を防止して、整列して巻き取ることができる巻取装置を提供する。
【解決手段】線状体整列巻取装置10は、線状体(電線)14を案内してドラム13に向けて供出する電線案内部30と、ドラム13に対して電線案内部30を変位させる変位手段31と、変位手段31の移動を制御して電線案内部30を所定の位置に変位させる制御装置16と、線状体14の張力を検出する荷重検出部32と、を備え、制御装置16は、荷重検出部32で検出した張力に応じて電線案内部30の位置を制御することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を中心として回転するドラムの外周に線状体を整列して巻き取る線状体整列巻取装置であって、
前記線状体を案内して前記ドラムに向けて供出する電線案内部と、
前記ドラムに対して前記電線案内部を変位させる変位手段と、
前記変位手段の移動を制御して前記電線案内部を所定の位置に変位させる制御装置と、
前記ドラムに向けて供出される前記線状体の張力を検出する荷重検出部と、
を備え、
前記制御装置は、前記荷重検出部で検出した前記張力に応じて前記電線案内部の位置を制御することを特徴とする線状体整列巻取装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記張力があらかじめ定めた閾値を越えたときに、前記張力を減ずる向きに前記電線案内部が変位するように前記変位手段を制御することを特徴とする請求項1に記載する線状体整列巻取装置。
【請求項3】
前記ドラムの外周に前記線状体を整列して巻き取るときに、前記線状体の巻取位置が前記ドラムの中心軸に沿って進行する向きを前方とし、その逆向きを後方として、
前記制御装置は、前記張力が前記閾値以下のときに前記電線案内部を前記線状体の最終の巻取位置である巻取点より常に後方に配置し、前記張力が前記閾値を越えたときに前記電線案内部が前方に変位ずるように前記変位手段を制御することを特徴とする請求項2に記載する線状体整列巻取装置。
【請求項4】
前記電線案内部が前記張力に基づく力で付勢されており、
前記制御装置は、前記電線案内部が前記力に対して仮想の剛性値をもって変位するように前記変位手段を制御しており、前記張力が前記閾値を越えたときの前記剛性値が、前記張力が前記閾値を越えないときの前記剛性値より低い値に設定されていることを特徴とする請求項3に記載する線状体整列巻取装置。
【請求項5】
前記変位手段が、複数の関節で連結されたアームを備える多関節産業用ロボットであって、前記電線案内部が前記アームに固定されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載する線状体整列巻取装置。
【請求項6】
中心軸を中心として回転するドラムの外周に線状体を整列して巻き取る線状体の整列巻取方法であって、
前記線状体を案内して前記ドラムに向けて供出する電線案内部と、
前記ドラムに対して前記電線案内部を変位させる変位手段と、
前記変位手段の位置を制御して前記電線案内部を所定の位置に変位させる制御装置と、
前記ドラムに向けて供出される前記線状体の張力を検出する荷重検出部と、を備えた線状体整列巻取装置を用いて、
前記ドラムの外周に前記線状体を巻き取るときの前記張力を常時検出し、
前記張力があらかじめ定めた閾値を越えたときに、前記張力を減ずるように前記電線案内部の位置を制御することを特徴とする線状体の整列巻取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線、ケーブルなどの線状体をドラムの外周に整列して巻き取る線状体整列巻取装置及び線状体の整列巻取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電線などの線状体をドラムに積層して巻き取る作業では、その後の線状体を取り出す時の作業性をよくするために、各層の線状体を整列して巻き取る必要がある。
特許文献1では、線状体71を自動的に巻き取る装置として、
図11に示すような線状体整列巻取装置70が開示されている。
図12は、
図11において白抜き矢印Aの向きに見たピッチ設定板72の形態を示している。この線状体整列巻取装置70は、ドラム73に向けて線状体71を送り出す電線案内部74と、電線案内部74を変位させるトラバーサ75を有している。トラバーサ75は、駆動モータ76と送りねじ77で操作されてドラム73の中心軸と平行に移動可能である。
図12に示すように、ピッチ設定板72には複数の透穴78が、トラバーサ75の移動方向に沿って一定の間隔で配置されている。
【0003】
線状体整列巻取装置70は、ドラム73が一定の速度で回転しながらトラバーサ75がドラム73の中心軸と平行に移動して、線状体71がドラム73の外周に整列して巻き付けられる。このときトラバーサ75は、各透穴78の位置で順次停止して、一の透穴78の位置で1周分の線状体71が巻き付けられると、次の透穴78の位置に変位する。こうして、線状体71が、ドラム73の外周に周方向に整列して巻き付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、トラバーサ75を所定のピッチで送ることによって、線状体71をある程度整列して巻きとることが可能である。しかしながら、通常、線状体71を巻き取るときは、先に巻き取られた線状体71と密接するように巻き取るため、線状体71を送り出す電線案内部74は、線状体71がドラム73の外周と接する位置より後方に位置するように配置される(特許文献1 第13枠第10行から第12行 第6図(B)参照)。このため、線状体71の直径寸法がばらついていたり、線状体71が巻き癖(線状体71の保管状態等によって中心線が曲がっている状態をいう)を有する場合には、巻き付けようとする線状体71が先に巻き取られている線状体71に乗り上げて、巻取異常が生じる場合がある。巻取異常が生じると、そのたびに線状体整列巻取装置70を停止して巻取異常を修正する等の作業が必要であった。
【0006】
上記のような背景により、本発明は、線状体が直径寸法のばらつきや巻き癖等を有する場合であっても、線状体をドラムに巻きとるときに、乗り上げ等の巻取異常を防止して、線状体を整列してドラムの外周に巻き取ることができる巻取手段を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の形態は、中心軸を中心として回転するドラムの外周に線状体を整列して巻き取る線状体整列巻取装置であって、前記線状体を案内して前記ドラムに向けて供出する電線案内部と、前記ドラムに対して前記電線案内部を変位させる変位手段と、前記変位手段の移動を制御して前記電線案内部を所定の位置に変位させる制御装置と、前記ドラムに向けて供出される前記線状体の張力を検出する荷重検出部と、を備え、前記制御装置は、前記荷重検出部で検出した前記張力に応じて前記電線案内部の位置を制御することを特徴としている。
【0008】
本発明の第2の形態は、第1の形態の線状体整列巻取装置において、前記制御装置は、前記張力があらかじめ定めた閾値を越えたときに、前記張力を減ずる向きに前記電線案内部が変位するように前記変位手段を制御することを特徴とする。
【0009】
本発明の第3の形態は、第2の形態の線状体整列巻取装置において、前記ドラムの外周に前記線状体を整列して巻き取るときに、前記線状体の巻取位置が前記ドラムの中心軸に沿って進行する向きを前方とし、その逆向きを後方として、前記制御装置は、前記張力が前記閾値以下のときに前記電線案内部を前記線状体の最終の巻取位置である巻取点より常に後方に配置し、前記張力が前記閾値を越えたときに前記電線案内部が前方に変位ずるように前記変位手段を制御することを特徴とする。
【0010】
本発明の第4の形態は、第3の形態の線状体整列巻取装置において、前記電線案内部が前記張力に基づく力で付勢されており、前記制御装置は、前記電線案内部が前記力に対して仮想の剛性値をもって変位するように前記変位手段を制御しており、前記張力が前記閾値を越えたときの前記剛性値が、前記張力が前記閾値を越えないときの前記剛性値より低い値に設定されていることを特徴としている。
【0011】
第5の形態は、第1から第4のいずれかの形態の線状体整列巻取装置において、前記変位手段が、複数の関節で連結されたアームを備える多関節産業用ロボットであって、前記電線案内部が前記アームに固定されていることを特徴としている。
【0012】
本発明の第6の形態は、中心軸を中心として回転するドラムの外周に線状体を整列して巻き取る線状体の整列巻取方法であって、前記線状体を案内して前記ドラムに向けて供出する電線案内部と、前記ドラムに対して前記電線案内部を変位させる変位手段と、前記変位手段の位置を制御して前記電線案内部を所定の位置に変位させる制御装置と、前記ドラムに向けて供出される前記線状体の張力を検出する荷重検出部と、を備えた線状体整列巻取装置を用いて、前記ドラムの外周に前記線状体を巻き取るときの前記張力を常時検出し、前記張力があらかじめ定めた閾値を越えたときに、前記張力を減ずるように前記電線案内部の位置を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、線状体が直径寸法のばらつきや巻き癖等を有する場合であっても、線状体をドラムに巻きとるときに、乗り上げ等の巻取異常を防止して、整列して巻き取ることができる。このため、巻取異常を修正する手直し工数を削減できるので、線状体巻取り作業を効率よく実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態である線状体整列巻取装置の全体図である。
【
図2】線状体整列巻取装置を構成するドラム回転駆動部及びトラバーサの平面図である。
【
図3】ドラムの外周に電線を巻き取っている状態を示す斜視図である。
【
図4】電線案内部の形態を示す部分側面図である。
図4(a)は、第1ローラを白抜き矢印Bの向きに見た正面図である。
【
図5】線状体整列巻取装置の電線案内部とドラムとの位置関係を示す部分側面図である。
【
図6】ドラムの外周に第1層目の電線が巻き取られている状態を示す模式図である。
【
図7】
図7(a)~(d)は、巻取異常が進行するときの電線の状態を示す模式図である。
【
図8】
図7(b)の電線を、ドラムの径方向外方から見た模式図である。
【
図9】線状体整列巻取装置を制御する制御装置のブロック図である。
【
図10】線状体整列巻取装置の動作を示すフローチャートである。
【
図11】従来の線状体整列巻取装置の構成を示す説明図である。
【
図12】
図11の線状体整列巻取装置のピッチ設定板の形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について図を用いて説明する。
図1は本発明の一実施形態(以下「本実施形態」)である線状体整列巻取装置10の全体(制御装置16を除く)を側方から見た側面図で、
図2は、線状体整列巻取装置10の主要部であるドラム回転駆動部11及びトラバーサ12を鉛直方向上方から見た平面図である。線状体整列巻取装置10は、電線供給装置15に大量にストックされた電線14(線状体)を小分けして、ドラム13の外周に積層して巻き取る装置である。
【0016】
ドラム13に巻き付けられる線状体としては、銅線を撚り合わせた電線のほか、銅線を絶縁性の樹脂材料で被覆した単芯の電線や、複数の電線をまとめて絶縁性の樹脂材料で被覆した多芯の配線用ケーブルや、複数の鋼線をより合わせた荷役用ケーブル等を例示できる。これらの線状体の直径は、主に3mmから10mm程度のものが対象とされるが、これらに限定するものではない。
【0017】
図1に示すように、線状体整列巻取装置10は、ドラム13を回転させるドラム回転駆動部11、電線供給装置15、トラバーサ12及びこれらの動作を制御する図示しない制御装置16を備えている。ドラム回転駆動部11とトラバーサ12は、水平に設置された基台21の上に載置されている。
【0018】
図2を参照する。ドラム13は樹脂製で、円筒形状の軸部13aとその軸方向両端にそれぞれ中心軸と直交する向きに設けられた第1鍔17及び第2鍔18を有している。電線14は、第1鍔17と第2鍔18との間でドラム13の外周に巻きつけられる。なお、ドラム13の材質は樹脂に限定されず、木製や金属製であってもよい。
【0019】
ドラム回転駆動部11は、駆動モータ19と、ドラム13を取り付ける回転支持部20と、を備えている。駆動モータ19と回転支持部20は、第1回転軸n1に沿って直線状に連結されており、ドラム13は、駆動モータ19で駆動されて第1回転軸n1を中心として回転する。
駆動モータ19は例えばパルスモータであり、制御装置16からの指令を受けて回転し、回転角に応じた信号(回転角信号)を制御装置16に送信することができる。
なお、以下の説明では、第1回転軸n1と平行となる方向にx軸を、基台21と平行でx軸と直交する方向にy軸を、基台21に対して垂直となる方向にz軸をそれぞれ設定している。また、各軸について、矢印で示す向きを+(プラス)方向、矢印と反対の向きを-(マイナス)方向とする。
【0020】
再び
図1を参照する。電線供給装置15は、大量の電線14をボビン22に巻き取った状態でストックしている。ボビン22は中心軸の周りで回転自在に支持されており、電線14を引き出すと容易に回転する。
電線供給装置15は、第1固定プーリ23及び第2固定プーリ24と、ダンサー25に搭載されて上下に位置が可変である可動プーリ26を備えている。第1固定プーリ23及び第2固定プーリ24は、回転軸を共通にして軸方向に並べて組付けられている。ダンサー25は、支点Cを中心に揺動可能であり、可動プーリ26はダンサー25の端部に搭載されている。
ボビン22から引き出された電線14は、第1固定プーリ23に巻き掛けられた後、可動プーリ26に巻き掛けられ、次いで、第2固定プーリ24に巻き掛けられる。その後、トラバーサ12に設けた電線案内部30を経由してドラム13に向けて供給される。
ダンサー25にウエイト25aが取り付けられており、電線14には、ウエイト25aの重量に応じた一定の張力Tを付与することができる。本実施形態では、おおむね20Nの張力Tが付与されている。
【0021】
トラバーサ12について説明する。
図3は、トラバーサ12を使用して、ドラム13の外周に電線14を巻き取っている状態を示す斜視図である。
図4は、電線案内部30を拡大して示す部分側面図である。
図4(a)は、第1ローラ36を白抜き矢印Bの向きに見た正面図である。
【0022】
図3を参照する。トラバーサ12は、ロボット31(変位手段)及び電線案内部30を備えている。ロボット31は、電線14をドラム13の外周の所定の位置に供出するように、電線案内部30を位置を可変に保持している。
【0023】
ロボット31は、6軸の自由度を有する公知の多関節産業用ロボットである。その主要な構成は公知であるので簡単に説明する。ロボット31は、旋回座33、第1アーム34a、第2アーム34b及び第3アーム34cを備えている。旋回座33は、固定部33aと可動部33bを備えている。固定部33aは、線状体整列巻取装置10の基台21に固定されており、可動部33bは、固定部33aに対して、z軸方向に延在する軸線n2を中心として旋回可能である。
可動部33bと第1アーム34aとが第1関節部35aで、第1アーム34aと第2アーム34bとが第2関節部35bで、第2アーム34bと第3アーム34cとが第3関節部35cで、それぞれ折り曲げ自在に連結されている。第2アーム34bと第3アーム34cは、それぞれの基端側と先端側とが回動部で連結され、各アーム34b、34cの軸線の周りで相対的に回動可能である。第3アーム34cの先端部に、荷重検出器32(荷重検出部)を介して電線案内部30が組付けられている。
ロボット31は、制御装置16からの指令に応じて各関節部が任意の角度で屈曲し、各回動部が回動する。これにより、第3アーム34c及び電線案内部30を、任意の向きに配置することができる。
【0024】
図4を参照する。電線案内部30は、第1ローラ36、第2ローラ37及び第3ローラ38と、これらの各ローラを支持する案内部本体39を備えている。案内部本体39は、略円筒形状で、その中心軸に沿ってy軸方向に貫通する穴43を有している。
各ローラ36、37、38は、それぞれの中心軸の周りで回転自在である。各ローラ36、37、38の外周には、幅方向の中央に全周にわたって径方向内方に凹んだ溝41が形成されている(
図4(a)参照)。各ローラ36、37、38の軸方向断面における溝41の形態は互いに同等で、軸方向断面における溝底の形態は円弧形状である。溝底の曲率半径は、電線14の直径dの1/2よりわずかに大きい。また、溝41の深さは、おおむね電線14の直径dの1/2である。
【0025】
各ローラ36、37、38は、それぞれの溝底が同一平面上に位置するようにy軸方向に並べて組付けられている。第3ローラ38は、案内部本体39の下方に組付けられており、第3ローラ38の回転軸方向の断面におけるz軸(+)側の溝底の曲率中心位置が、穴43の中心線と一致するように配置されている。電線14は、
図4に一点鎖線で示す経路で各ローラ36、37、38に巻き掛けられている。電線供給装置15から引き出された電線14は、穴43を通って第3ローラ38の上方に巻き掛けられた後、第2ローラ37の下方に接触するように巻き掛けられ、その後第1ローラ36の下方に巻き掛けられて、ドラム13に向けてy軸方向に引き出される。
【0026】
図4に示すように、電線案内部30は、案内部本体39の端部に一体に組み合わされた取付板42を備えている。取付板42は、荷重検出器32の荷重負荷面にボルトで固定されている。荷重検出器32の本体は、ロボット31の第3アーム34cに固定されている。こうして、電線案内部30は、荷重検出器32を介してロボット31の第3アーム34cに固定されている。
荷重検出器32は、公知の3軸ロードセルであり、荷重負荷面に荷重が作用すると、荷重の大きさに応じた電気信号(荷重信号)を出力する。第1ローラ36は、荷重検出器32に対してy軸(+)方向に離れた位置に配置されるとともにz軸(-)方向に離れた位置に配置されている。これにより、第1ローラ36に力Fが作用すると、荷重検出器32の荷重負荷面に力Fに応じた荷重が作用して、荷重検出器32は、互いに直交するx軸方向、y軸方向、z軸方向の三方向の荷重信号を出力する。この三方向の荷重信号は、逐次、制御装置16に送信される。
【0027】
図5は、電線案内部30とドラム13との位置の関係を示す部分側面図である。
電線14をドラム13に巻き取るときは、電線案内部30の第1ローラ36が、ドラム13の鍔17、18の外周より径方向の外方に位置するように保持される。これにより、電線案内部30は、鍔17、18の位置を越えてx軸方向に自在に変位することができる。また、電線案内部30は、ドラム13に向けて供出される電線14が、おおむね水平方向で、y軸方向に供出されるように、z軸方向の所定の高さに保持されている。
【0028】
こうして、ドラム13が回転しながら、電線案内部30が、中心軸をy軸方向に向けた状態でx軸方向に移動する。これによって、電線14が、ドラム13の軸部13aの外周に整列して巻き付けられる。本実施形態では、ドラム13の回転速度は90min-1である。
【0029】
図6は、
図5のドラム13をz軸方向に見た模式図であって、第1層目の電線14が整列して巻き取られている途中の状態を示している。ドラム13は、矢印Rで示す向きに回転しており、第1層目の電線14は、第1鍔17の側から第2鍔18の側に向けて順次整列して巻き付けられる。以下の説明では、ドラム13の外周で電線14の巻付位置が第1回転軸n1の方向に進行する向きを前方とし、その逆向きを後方という場合がある。
なお、詳細については後述するが、本実施形態では、ドラム13の外周に電線14を整列して巻き付けると同時に巻取異常を検出するために、第1ローラ36は、ドラム13の外周に巻き付けられている最終位置の電線14より常に後方に遅れて配置される。
【0030】
また、
図5に示すように、本実施形態の線状体整列巻取装置10は、ドラム13の設置位置を自動的に計測するために、レーザ装置40を備えている。レーザ装置40は、前面部に矢印cで示す方向にレーザ光を照射するレーザ発信部と、対象物から反射したレーザ光を検出するレーザ受信部を備えている。
レーザ装置40は、電線案内部30に一体に取り付けられており、ドラム13を挟んで反対の側に配置した反射鏡27に向けてレーザ光を照射することができる。レーザ光を照射するときは、第2アーム34bの第3アーム34c側の端部が回動して、電線案内部30及びレーザ装置40が矢印Qの向きに旋回する。レーザ光は、ドラム13の軸部13aを避けて、第1回転軸n1と直交する平面に沿って反射鏡27に向けて照射される。
【0031】
図9は、線状体整列巻取装置10のブロック図である。制御装置16は、コンピュータシステムであって、制御部46と、演算部47と、記憶部48と、を備えている。
制御部46は、図示を省略したインターフェイス部を介して荷重検出器32で検出した荷重信号、レーザ装置40で受信したレーザ反射光の受信信号、ドラム回転駆動部11の回転角信号を受信している。
演算部47では、これらの信号と、記憶部48に記憶されている情報を使用して、各アーム34a、34b、34cを変位させるときの向き及び回転角と変位量を演算している。
記憶部48は、ドラム13の鍔17、18の位置のほか、電線14をドラム13に巻き取るときの条件(例えば、電線14の直径、ドラム13に巻き取る電線14の積層数などの情報)を記憶している。記憶部48で記憶する情報については、巻取方法を説明するときに説明する。
制御部46は、演算部47の演算結果に基づいてロボット31のアーム34a、34b、34cを所定の位置に移動させる指令を発信する。
【0032】
(電線巻取方法)
図10は、制御装置16における処理の流れを示すフローチャートである。
図2及び
図6を参照しつつ、
図10によって、本実施形態の電線14を巻き取る方法について説明する。本実施形態における電線巻取方法は、巻取条件を設定する「準備工程P10」と、準備工程P10で設定した巻取条件にしたがって自動的に電線14を巻き取る「巻取工程P20」とを有する。
【0033】
(準備工程)
準備工程P10はステップS101からS103までの3つのステップで構成される。
ステップS101では、まず、ドラム13をドラム回転駆動部11に搭載する。
図2に示すように、ドラム13は、中心軸をx軸方向に向けて取り付けられており、第1回転軸n1を中心として回転する。ドラム13の搭載作業は、人の手作業で行っている。
また、巻き付けられる電線14の直径、電線14の材質、ドラム13の外周に積層する電線14の積層数などの巻取条件が制御装置16に入力される。これらの条件は記憶部48に記憶される。
【0034】
ステップS102では、ロボット31の各アーム34a、34b、34cの位置を制御して、レーザ装置40を変位させることによって、ドラム13の第1鍔17と第2鍔18の位置を測定する。
図2を参照する。ステップS102では、電線14がドラム13に巻き取られていない状態で、レーザ装置40が、レーザ光を照射しながら、第1鍔17の側から第2鍔18に向けてx軸方向に移動する。レーザ光は、第1鍔17と第2鍔18を含むドラム13のx軸方向の全域を走査するように照射される。レーザ光がx軸方向で第1鍔17の外周面と重なる位置で照射されているときは、反射鏡27にレーザ光が到達しないので反射光が検出されない。レーザ光の照射位置がx軸(+)方向に移動して、第1鍔17の内側の側面(第1側面17a)の位置を越えると、レーザ受信部が、反射鏡27で反射された反射光を検出する。こうして、反射光が検出されない状態から検出される状態に変化したときの各アーム34a~34cの位置が、第1側面17aの位置情報として記憶部48に記憶される。同様にして、第2鍔18の内側の側面(第2側面18a)の位置情報が記憶部48に記憶される。なお、各鍔の側面17a、18aの位置は、ドラム13を第1回転軸n1の周りで90°ずつ回転させて複数回測定し、平均値によって算出している。
【0035】
ステップS103では、ステップS102で測定した各鍔17、18の位置情報から、鍔の内幅W(第1鍔17の第1側面17aと第2鍔18の第2側面18aとのx軸方向の距離である)を算出し、ドラム13の外周に積層して巻き付けられる電線14の各層における巻き数Nを算出している。
【0036】
電線14は、線径のばらつきや、巻き癖があるため、ドラム13に整列して巻き取るときに隣り合う電線14が完全には密着せず、わずかながらすきまをもって巻き付けられる。そこで、本実施形態では、式(1)で示すように、各層の電線14の巻き数Nを、第1鍔17と第2鍔18との間に収容しうる計算上の最大の巻き数Nmから1を減じた値として算出している。
なお、本実施形態では、電線14は、電線14の中心線と直交する向きの断面が略円形状であって、断面の直径dが3.33mmである。
N=Nm-1 ・・・式(1)
ここで、N:各層の電線14の巻き数
Nm:W/dを越えない最大の整数値
W:鍔の内幅
d:電線14の直径
【0037】
なお、最大の巻き数Nmから減ずる数は1に限定されない。巻き取りの対象である線状体の線径や材質、巻き癖の状態等に応じて変更してもよく、0であってもよいし、2以上であってもよい。この「最大の巻き数Nmから減ずる数」は、電線14のロットごとに実験によりあらかじめ選定される。ただし、減ずる値を過度に大きくすると、ドラム13の外周に巻付けたときに隣り合う電線14と電線14とのすきまが大きくなる。このため、積層して巻き取ったときに、上の層の電線14が当該すきまに入ってしまうことによって、巻取異常が生じる恐れがあることに留意必要である。
【0038】
第1層目において電線14を巻き数Nで等間隔で巻き取ったと仮定したときの計算上の仮想ピッチPk(x軸方向で隣り合う2本の電線14の中心と中心との距離をいう)は、式(2)で算出される。なお、この式からわかるように、第2鍔18に最も近い電線14と第2側面18aとのx軸方向のすきまは、電線14と電線14とのx軸方向のすきまと等しいものとして算出している。
Pk=W/N ・・・式(2)
ここで、Pk:電線14の仮想ピッチ
W:鍔の内幅
N:第1層目の巻き数
第1層目の巻き数N及び第1層目の電線14の仮想ピッチPkの値は、記憶部48に記憶される。
【0039】
図6に示すように、本実施形態の線状体整列巻取装置10では、複数の基準位置Giが、x軸方向に所定の間隔で設定されている。基準位置Giとは、第1ローラ36が第1鍔17の側から第2鍔18に向けてx軸方向に移動するときに、電線14を供給するために、ドラム13が1回転する間その移動を一時停止する位置である。第1ローラ36は、ドラム13が一回転する毎に、x軸方向の次の基準位置Giに順次移動する。なお、「基準位置Gi」は、第i番目の基準位置を意味する。
各基準位置Giのx軸方向の間隔は、式(2)で求めた仮想ピッチPkと同等である。また、基準位置Giの数は、式(1)で求めた巻き数Nと同等である。このように、基準位置Gi(i=1~N)は、x軸方向に所定の間隔で設定された座標列である。各基準位置Giの座標は、記憶部48に記憶される。
なお、基準位置Giは、電線案内部30がx軸方向の動きを停止する位置を示す座標に過ぎず、実際に巻き付けられる電線14の位置を表すものではない。
【0040】
また、第1回転軸n1の周りのドラム13の回転角は、ドラム13に巻き取られている電線14の位置を基準として測定される。
すなわち、第1巻き目の電線14の始端部(
図6に矢印Eで示す位置である)が、z軸方向の最も(+)側に位置するときのドラム13の位相を回転角の基準位置としており、当該基準位置の位相は、記憶部48に記憶される。
【0041】
(巻取工程)
巻取工程P20は、
図10に示すように、ドラム13に電線14を巻き取る「通常巻取プロセスP21」と、巻取り状態に異常が生じたときに電線案内部30の位置を補正する「補正プロセスP22」とを有する。「通常巻取プロセスP21」は、本実施形態の線状体整列巻取装置10の基本的な処理工程であって、巻取異常がない状態で正常に電線14を巻き取る工程である。「通常巻取プロセスP21」と「補正プロセスP22」は、同時に並行して処理される。
【0042】
(通常巻取プロセス)
最初に、通常巻取プロセスP21について説明する。通常巻取プロセスP21は、ステップS211からS215までの5つのステップを備えている。
ステップS211では、基準位置Giの位置番号iを1として、電線案内部30の第1ローラ36が第1番目の基準位置G1に移動する。
図6に示すように、第1番目の基準位置G1は、第1巻き目の電線14の中心線の位置からd/2だけ後方に設定されている。第1巻き目の電線14は第1鍔17の第1側面17aに沿って巻き付けられるので、第1番目の基準位置G1は、第1側面17aのx座標と一致している。
なお、以下の説明において、電線案内部30が第i番目の基準位置Giに配置されるというときは、特に断らない限り第1ローラ36の溝底のx軸方向の位置が、第i番目の基準位置Giと一致することを意味する。
【0043】
ステップS212は、巻取異常が生じたときに電線案内部30の位置を補正するためのステップであり、通常の巻取時では特に処理がされないので、ここでは説明を省略する。
【0044】
ステップS213で、制御部46が、駆動モータ19の回転角信号に基づいてドラム13が一回転したことを検知すると、ステップS214で位置番号iを1増加させて「2」とした後、ステップS215を経由して再びステップS211に戻って、電線案内部30を第2番目の基準位置G2に移動させている。
このとき、第2巻き目の電線14が、第1巻き目の電線14と重なるのを回避するために、制御部46は、ドラム13が一回転を完了するより早い段階で、電線案内部30が次の基準位置G2への移動を開始するように指令を発信する。このため、
図6に示したように、電線案内部30が基準位置G1から基準位置G2に移動するときは、ドラム13に巻き付けられた電線14が、ドラム13の周方向に対して所定の角度だけ傾いて巻き付けられる。
【0045】
こうして、第2巻き目以降においても、第1巻き目と同様にして、電線14がドラム13に巻き付けられる。制御部46が、ドラム13が一回転したことを検知すると、位置番号iを1増加させて、電線案内部30がx軸方向(+)側の、次の基準位置Giに移動する。
【0046】
こうして、ドラム13の外周に巻き付けられた電線14は、線径のばらつきや、巻き癖があるため、ドラム13に巻き取ったときに、互いに隣り合う電線14と電線14は完全には密着しない。このため、実際にドラム13に巻き付けられた電線14のピッチPは、電線14の直径dよりわずかに大きい。
本実施形態では、基準位置Giの間隔が、電線14の仮想ピッチPkと同等に設定されているため、実際にドラム13に巻き付けられたN巻き分の電線14の位置と、対応するすべての基準位置Gi(i=1~N)とが互いに近接するように配置される。
合わせて、第1の基準位置G1は、「第1巻き目の電線14の中心から後方に遅れる距離」がd/2に設定されているので、第1層目の電線14を巻き付けるときに、すべての基準位置Giが、実際にドラム13に巻き付けられた電線14の位置より後方に概ねd/2だけ遅れて配置される。
【0047】
こうして、電線案内部30の位置がx軸(-)方向に遅れて配置されるので、電線14を巻き取るときには、先に巻き取られている電線14と、電線案内部30から供出された電線14とが互いに接触しながら巻き付けられる。
このため、「第1巻き目の電線14の中心から後方に遅れる距離」を過大に設定すると、巻き付けようとする電線14が、先に巻き付けられた電線14に容易に乗り上げてしまい、巻取異常が生じやすくなることに留意必要である。
なお、「第1巻き目の電線14の中心から後方に遅れる距離」は、あらかじめ実験により選定され、線状体の種類やロットごとの巻き癖など線状体の状態に応じて変更することができる。
【0048】
ステップS215で、第1層目の電線14が既定の巻き数Nに到達したことを確認すると、ステップS216を経由して、ステップS217で、トラバーサ12の進行方向を反転して第2層目を形成するように動作する。
第2層目においても第1層目と同様にして、位置番号iを1として、ステップS211によって、電線案内部30が第1番目の基準位置G1に移動する。第2層目においては、電線14の巻付位置がx軸(-)方向に進行する向きを前方とし、その逆向きを後方という。
第2層目においても、第1番目の基準位置G1は、第2層目の第1巻き目の電線14の中心から後方、すなわちx軸(+)方向にd/2だけずれた位置に設定される。第1巻き目の電線14は、第2鍔18の第2側面18aに沿って巻き付けられるので、第2層目の第1番目の基準位置G1は、第2側面18aのx座標と一致する。
【0049】
第2層目においても第1層目と同様にして、制御部46が、ドラム13が一回転したことを検知する(ステップS213)と、電線案内部30が次の基準位置Giに移動する。その後、第2層目の巻き数が、算出した巻き数Nに到達するまで電線14が巻き付けられる(ステップS215)。
ステップS216により、既定の積層数が完了するまで同様の操作が繰り返される。
【0050】
なお、第1層目の電線14を巻き取るときに、電線14の端部をドラム13の外周に固定するため、手作業にて適宜回数巻き付けた後、本実施形態の線状体整列巻取装置10で自動的に巻き取る場合がある。このときは、手作業で巻き付けた回数がsの場合、位置番号iをs+1に設定して、電線案内部30は、第s+1番目の基準位置Giに移動して巻取工程P20を開始すればよい。
【0051】
(巻取異常)
本実施形態では、補正プロセスP22によって、電線14の巻取異常を防止する点に特徴がある。巻取異常とは、ドラム13に巻き付けられる電線14が、先に巻き取られている電線14に乗り上げて巻き付けられる等により、整列させて巻き取ることができなくなる現象をいう。
補正プロセスP22について説明する前に、
図7によって一般的な巻取異常の形態について説明する。
【0052】
図7(a)から(d)は、ドラム13に巻き取られている電線14を、ドラム13のz軸(+)側で接線方向のy軸(+)方向に見たときの形態を模式的に示しており、巻き付けようとしている電線14(以下、他の電線14と区別するために14bと表示する)が、先に巻かれている電線14に乗り上げる様子を(a)から(d)の順に時系列で示している。
図7(a)から(d)では、巻き付けようとしている電線14bのみにハッチングを施して、先に巻かれている電線14と区別している。
図7(a)から(d)では、図の右端(x軸方向(+)側)の電線14が、巻き付けようとしている電線14bであって、第1鍔17から4つ目までの電線14は、先に巻かれている電線14を示している。
【0053】
図6に示すように、第1ローラ36は、ドラム13の外周に巻き付けようとしている電線14bとドラム13の外周とが接触する点(すなわち第1層目の電線14の最終の巻取位置であって、以下、「巻取点U」という)に対して後方(第1層目ではx軸(-)方向である)に配置されているため、ドラム13の外周に巻き付けようとしている電線14bの向きはy軸に対してθだけ傾いている。このため、電線14bを巻き取るときには、先に巻き取られている電線14と、電線案内部30から供出された電線14bとが互いに接触しながら巻き付けられる。
しかしながら、巻取点Uに対する第1ローラ36の遅れ量はおおむね電線14の直径の1/2程度であって小さいため、巻き付けられる電線14bは、通常、先に巻き取られている電線14に乗り上げることなくドラム13の外周面に巻き付けられる。
図7(a)は、巻き付けられる電線14bが、先に巻き取られている電線14に乗り上げることなく整列してドラム13の外周に正常に巻き取られている状態を示している。
【0054】
図7(b)は、巻き付けられる電線14bが、先に巻き取られている電線14に乗り上げを開始した状態を示している。
図8は、
図7(b)の電線14を、ドラム13の径方向外方からz軸方向に見たときの状態を示している。
図8では、右端の電線14bは、図の下方(y軸(-)方向)で電線案内部30(図示を省略する)とつながっている。
このような乗り上げの現象は、電線14がねじれや撚り癖によってまっすぐに製造されていないときや絶縁樹脂材等で被覆されていないときに、巻き付けられる電線14bと先に巻き取られている電線14とが局部的に強く接触したりこすれるときに引っかかったりすることが原因で発生する。
【0055】
図7(c)は、乗り上げ量が更に大きくなった状態を示している。この程度の乗り上げ状態、すなわち、おおむね先に巻き取られている電線14の頂点(第1回転軸n1から径方向に最も離れた点)を越えない程度であれば、以下に説明する補正プロセスP22で適正に処理をすることによって、
図7(a)と同等に整列させて巻き取ることができる。
【0056】
図7(d)は、乗り上げが更に進んで、巻き付けられる電線14bが、先に巻かれている2本の電線14の間にいわゆる俵積み状に巻き取られた状態を示している。この様に、一旦、先に巻き取られている電線14と電線14との間に乗り上げた電線14bは、
図7(a)の状態に戻ることができないので、このまま巻取を継続すると第2層目以降の電線14を積層して巻き取るときに更に大きな巻取異常が生じてしまう。このため、
図7(d)のような巻取異常が生じた場合には、一旦、線状体整列巻取装置10の運転を停止して、手作業によって
図7(a)の状態に修正する必要がある。
【0057】
(補正プロセス)
本実施形態の線状体整列巻取装置10では、補正プロセスP22で電線14bの張力Tの変化を監視することによって、
図7(b)もしくは
図7(c)の異常を検知して、
図7(d)の巻取異常の状態に進むのを防止している。以下、補正プロセスP22について、
図6を参照しつつ
図10のフローチャートにしたがって説明する。
【0058】
ステップS221では、電線14の張力Tによって第1ローラ36に作用する力Fa(
図6参照)を、荷重検出器32を用いて検出している。
ドラム13に供出される電線14は、電線供給装置15によって、所定の張力Tが付与されている。本実施形態では、張力Tの大きさは概ね20Nである。
図6に示すように、電線案内部30の第1ローラ36の位置は巻取点Uより後方(第1層目ではx軸(-)方向である)に配置されているため、電線案内部30の第1ローラ36よりy軸方向(+)側では、電線14の向きはy軸に対してθだけ傾いている。一方、第1ローラ36よりy軸方向(-)側では、電線14はyz平面内でy軸の方向に延在している。張力Tは電線14の延在する方向に作用するので、第1ローラ36には、第1ローラ36のy軸方向(+)側と(-)側の各張力Tの合力として、x軸(+)方向の力Faが作用することになる。この力Faは、荷重検出器32で検出されて、その値は逐次、制御装置16に送信されている。
【0059】
第1ローラ36は、電線案内部30を介してロボット31によって保持されている。ロボット31は、第1ローラ36を仮想の剛性値kをもって支持するように制御されており、第1ローラ36にx軸方向の力Faが作用すると、第1ローラ36は、仮想の剛性値kをばね定数としてx軸方向にΔxだけ弾性変位する。
【0060】
ステップS222について説明する。
本実施形態では、ロボット31は、力Faが閾値Foを越える場合と、閾値Fo以下の場合とで剛性値kの値が異なるように制御されている。閾値Foは、異常の有無を判定するための力Faに関する指標であって、あらかじめ記憶部48に記憶される。
力Faが閾値Foより小さいときは、剛性値kとして第1の剛性値aが設定される。第1の剛性値aは有意に大きい値であって、制御装置16で設定しうる最大の値を含む。一方、力Faが閾値Fo以上のときは、剛性値kとして第2の剛性値bが設定される。第2の剛性値bは有意に小さい値であって、0を含む。第1の剛性値a及び第2の剛性値bの値は、あらかじめ記憶部48に記憶される。
【0061】
ステップS223、S224では、ステップ222で選択した剛性値kの値を用いて、演算部47で、式(3)の関係を満たすようにΔxを算出している。
(Fa-Fo)=k・Δx ・・・式(3)
ここで、Fa:張力Tによって第1ローラ36に作用するx軸方向の力
Fo:閾値
k:第1ローラ36のx軸方向の仮想の剛性値
Δx:第1ローラ36の基準位置Giからのx軸方向の変位量
【0062】
こうして、補正プロセスP22で算出したΔxの値は、通常巻取プロセスP21に送信される。本実施形態では、通常巻取プロセスP21のステップS212において、Δxを、当該処理を行っているときの基準位置Giの座標に足し合わせることによって、第1ローラ36の位置を補正している。
【0063】
力Faが閾値Foより小さいときの電線案内部30の動作について具体的に説明する。力Faが閾値Foより小さいときとは、例えば、
図7(a)のように、電線14が正常に巻き取られている状態である。このとき、力Faは、電線14の直径のばらつきなどに起因するわずかな変動があるだけで、おおむね一定の大きさであり、力Faが閾値Foを越えることがない。
【0064】
力Faが閾値Foより小さいときは、剛性値kとして第1の剛性値aが設定される。第1の剛性値aは有意に大きい値であるため、式(3)によって算出されるΔxの値は、極めて小さい。このため、当該処理を行っているときの基準位置Giに対する補正量が少なく、第1ローラ36は、基準位置Giとほぼ同一の座標に保持される。
【0065】
図7(b)を参照して、力Faが閾値Foより大きいときの電線案内部30の動作について具体的に説明する。
図7(b)では、巻き付けられる電線14bが、先に巻き取られている電線14に乗り上げようとしており、見かけ上、電線14bの巻取り径(第1回転軸n1と電線14bとの径方向の距離である)が大きくなるので、電線14bの巻き取り速度が急激に大きくなる。電線14に張力Tを付与する電線供給装置15は、ウエイト25aによって張力Tを制御しているため、電線14を引き出す速度が急激に上昇すると、ウエイト25aの変位が追従できず、電線14bの張力Tが上昇する。このため、第1ローラ36に作用するx軸(+)方向の力Faが上昇する。
【0066】
力Faが閾値Foを越えると、ステップS222によって、剛性値kとして第2の剛性値bが設定される。第2の剛性値bは有意に小さい値であるため、式(3)によって算出されるΔxの値が大きくなる。
この情報がステップS212に発信されることにより、電線案内部30の位置が、力Faの大きさに応じて基準位置Giからx軸(+)方向にΔxだけ変位するように制御される。なお、電線案内部30が、過剰に変位するのを防止するため、制御部46では変位量Δxの上限が設定されていてもよい。ただし、変位量Δxは、正の値であり、力Faが負の値となるときはΔx=0としている。
【0067】
こうして、第1ローラ36がx軸(+)方向に変位することにより、ドラム13の外周の巻取点Uと第1ローラ36との距離が短くなるので巻き付けられる電線14bの張力Tが減少する。このため、巻き付けられる電線14bと先に巻き取られている電線14との摩擦を低減することができる。この結果、先に巻き付けられている電線14に乗り上げようとしている電線14bが、先に巻き取られている電線14からすべり落ちて、再びドラム13の外周に巻き付けられるようになるので、電線14の巻取り状態が、
図7(d)の状態に進むのを防止できる。
【0068】
電線14bがドラム13の外周に正常に巻き取られた時には、力Faは正常時の値(閾値Foより小さい値)に戻る。したがって、剛性値kには、再び第1の剛性値aが設定されて、小さくなったΔxの値がステップS212に発信される。したがって、第1ローラ36の位置は、当該処理が行われている基準位置Giに復帰する。
【0069】
なお、本実施形態では、力Faが閾値Foより小さいときは、剛性値kとして第1の剛性値aを設定し、式(3)によってΔxを算出している。しかしながら、力Faが閾値Foより小さいときは特別な処理を行わず、Δx=0として、電線案内部30の位置を基準位置Giと同一の座標に保持する処理とすることもできる。
【0070】
こうして、本実施形態の線状体整列巻取装置10は、ドラム13に巻き付けている線状体(電線14)の張力の異常を検知することにより、巻付異常の発生を予知し、異常が生じる前に処置することができる。
したがって、線状体(電線14)が直径寸法のばらつきや巻き癖等を有する場合であっても、線状体(電線14)をドラム13に巻きとるときに乗り上げ等の巻取異常を防止して、整列して巻き取ることができる。このため、巻取異常を修正する手直し工数を削減できるので、線状体巻取り作業を効率よく実施することができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
例えば、本実施形態では、トラバーサ12、75は多関節ロボットで形成されているが、これに限定するものではない。例えば、公知の直動装置を使用して、電線案内部30、74をx軸方向に変位しうる直動軸受で支持された可動部材に搭載し、エンコーダを備えたモータでボールねじを回転させてx軸方向の位置を制御する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0072】
(実施形態)10:線状体整列巻取装置、11:ドラム回転駆動部、12:トラバーサ、13:ドラム、14:電線(線状体)、15:電線供給装置、16:制御装置、17:第1鍔、17a:第1側面、18:第2鍔、18a:第2側面、19:駆動モータ、20:回転支持部、21:基台、22:ボビン、23:第1固定プーリ、24:第2固定プーリ、25:ダンサー、25a:ウエイト、26:可動プーリ、27:反射鏡、30:電線案内部、31:ロボット(変位手段)、32:荷重検出器、33:旋回座、33a:固定部、33b:可動部、34a:第1アーム、34b:第2アーム、34c:第3アーム、35a:第1関節部、35b:第2関節部、35c:第3関節部、36:第1ローラ、37:第2ローラ、38:第3ローラ、39:案内部本体、40:レーザ装置、41:溝、42:取付板、43:穴、46:制御部、47:演算部、48:記憶部、
(従来技術)70:線状体整列巻取装置、71:線状体、72:ピッチ設定板、73:ドラム、74:電線案内部、75:トラバーサ、76:駆動モータ、77:送りねじ、78:透穴