(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058076
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】無線通信システムおよび無線通信方法
(51)【国際特許分類】
H04L 27/26 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
H04L27/26 114
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165214
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】舩山 拓也
(57)【要約】
【課題】伝搬路環境に適したパイロットに切り替えることで良好な性能を安定的に発揮することが可能な無線通信システムおよび無線通信方法を提供することを目的とする。
【解決手段】無線通信システム1は、受信したデータフレームに基づいて、対向局へデータフレームを送信する際の伝搬路環境の良否を推定し、その推定結果を示す伝搬路環境情報を出力し、伝搬路環境情報に基づいて、パイロット信号の挿入間隔と、パイロット信号の長さと、の少なくとも一方を変化させ、変化後のパイロット信号に関するパイロット情報を生成し、データフレームに格納する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信対象となるデータが格納され、前記データに既知のパイロット信号が所定間隔ごとに挿入されたデータフレームを対向局から受信する受信機と、前記データフレームを前記対向局へ送信する送信機と、を備えた無線通信システムであって、
前記受信機は、受信した前記データフレームに基づいて、前記対向局へ前記データフレームを送信する際の伝搬路環境の良否を推定し、その推定結果を示す伝搬路環境情報を前記送信機へ出力する伝搬路環境推定手段を備え、
前記送信機は、
前記伝搬路環境情報に基づいて、前記パイロット信号の挿入間隔と、前記パイロット信号の長さと、の少なくとも一方を変化させるパイロット信号変更手段と、
変化後の前記パイロット信号に関するパイロット情報を生成し、前記データフレームに格納するパイロット情報生成手段と、
を備えることを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記パイロット信号変更手段は、
前記伝搬路環境が悪いほど前記パイロット信号の挿入間隔を短くし、または前記パイロット信号の長さを長くする、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記伝搬路環境推定手段は、前記伝送路環境情報として、前記データフレームの推定C/N比と、推定周波数誤差と、の少なくとも一方を出力する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記パイロット信号変更手段は、
前記推定周波数誤差が大きいほど前記パイロット信号の挿入間隔を短くし、
前記推定C/N比が低いほど前記パイロット信号の長さを長くする、
ことを特徴とする請求項3に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記送信機は、伝送路環境の良否に応じて前記データの変調方式を切り替える適応変調機能を備えており、前記伝送路環境が悪化した場合、先に前記パイロット信号の挿入間隔と、前記パイロット信号の長さと、の少なくとも一方を変化させ、その後に前記変調方式を切り替える、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信システム。
【請求項6】
通信対象となるデータが格納され、前記データに既知のパイロット信号が所定間隔ごとに挿入されたデータフレームを対向局から受信し、前記データフレームを前記対向局へ送信する無線通信方法であって、
受信した前記データフレームに基づいて、前記対向局へ前記データフレームを送信する際の伝搬路環境の良否を推定し、その推定結果を示す伝搬路環境情報を出力し、
前記伝搬路環境情報に基づいて、前記パイロット信号の挿入間隔と、前記パイロット信号の長さと、の少なくとも一方を変化させ、
変化後の前記パイロット信号に関するパイロット情報を生成し、前記データフレームに格納する、
ことを特徴とする無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイロット信号が付加されたデータフレームの送受信を行なう無線通信システムおよび無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図16(A)および同図(B)は、衛星放送の伝送路規格として知られるDVB-S2規格(例えば、特許文献1参照)に準拠した放送信号で送信されるフィジカルレイヤフレーム(以下、PLフレームともいう)のフレーム構造を示している。PLフレームは、先頭に配置されるフィジカルレイヤヘッダ(以下、PLヘッダともいう)と、PLヘッダの後方に配置されるXFECフレームとを備えている。PLフレームは、送信機から繰り返し送信され、PLフレームを受信した受信機の復調部によって復調される。なお、同図(B)に示すPLフレームは、フィジカルレイヤスクランブルがかけられる前のものであり、送信されるにあたって、PLヘッダを除くXFECフレームに、フィジカルレイヤスクランブルがかけられる。
【0003】
PLヘッダは、π/2BPSK(Binary Phase Shift Keying)で変調された90シンボルのヘッダデータである。PLヘッダは、24シンボルのSOFと、64シンボルのPLSコードから構成されている。SOFは、フレームの同期処理に用いられる既知パターンからなり、フレームの開始位置を示す。PLSコードは、変調方式、誤り訂正符号の符号化率などのパラメータなどが格納されている。
【0004】
XFECフレームは、例えば、放送番組のデータなど、送信の対象となるデータである。XFECフレームは、例えば、外符号(BCH)、内符号(LDPC)でFECエンコーディングされたFECデータからなり、8PSK(Phase Shift Keying)などの選択された変調方式で変調されている。また、XFECフレームは、S個のスロットに分割されており、各スロットは、90シンボルの固定長である。例えば、XFECフレームが64800ビットで、8PSKで変調されている場合、XFECフレームは240スロットに分割される。
【0005】
パイロットモードの場合、FECデータの16スロット(1440シンボル)ごとにパイロットブロック(パイロットともいう)が挿入される。パイロットは、36シンボルの非変調キャリアからなる既知パターンである。DVB-S2規格を利用する通信局間では、PLヘッダを用いてフレーム同期を行い、パイロットを用いて復調部への引き込みを行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、DVB-S2規格を利用する通信局間では、パイロットを用いて復調部への引き込みが行なわれているため、C/N(Carrier to Noise Ratio)比が低い伝搬路環境や、周波数誤差が大きな伝搬路環境でもBER(Bit Error Rate)特性は改善される。しかしながら、従来のパイロットは挿入間隔が長く、シンボル数が少ないため、伝搬路環境によっては十分な性能を安定的に発揮できない可能性がある。劣悪な伝搬路環境を想定してパイロットの挿入間隔を短く固定したり、パイロットの長さを長く固定したりすることもできるが、良好な伝搬路環境(低C/N比あるいは周波数誤差小)では、不要なパイロットによって伝送効率が低下する。
【0008】
そこで本発明は、伝搬路環境に適したパイロットに切り替えることで良好な性能を安定的に発揮する無線通信システムおよび無線通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、通信対象となるデータが格納され、前記データに既知のパイロット信号が所定間隔ごとに挿入されたデータフレームを対向局から受信する受信機と、前記データフレームを前記対向局へ送信する送信機と、を備えた無線通信システムであって、前記受信機は、受信した前記データフレームに基づいて、前記対向局へ前記データフレームを送信する際の伝搬路環境の良否を推定し、その推定結果を示す伝搬路環境情報を前記送信機へ出力する伝搬路環境推定手段を備え、前記送信機は、前記伝搬路環境情報に基づいて、前記パイロット信号の挿入間隔と、前記パイロット信号の長さと、の少なくとも一方を変化させるパイロット信号変更手段と、変化後の前記パイロット信号に関するパイロット情報を生成し、前記データフレームに格納するパイロット情報生成手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の無線通信システムにおいて、前記パイロット信号変更手段は、前記伝搬路環境が悪いほど前記パイロット信号の挿入間隔を短くし、または前記パイロット信号の長さを長くする、ことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の通信システムにおいて、前記伝搬路環境推定手段は、前記伝送路環境情報として、前記データフレームの推定C/N比と、推定周波数誤差と、の少なくとも一方を出力する、ことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の通信システムにおいて、前記パイロット信号変更手段は、前記推定周波数誤差が大きいほど前記パイロット信号の挿入間隔を短くし、前記推定C/N比が低いほど前記パイロット信号の長さを長くする、ことを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1または2に記載の通信システムにおいて、前記送信機は、伝送路環境の良否に応じて前記データの変調方式を切り替える適応変調機能を備えており、前記伝送路環境が悪化した場合、先に前記パイロット信号の挿入間隔と、前記パイロット信号の長さと、の少なくとも一方を変化させ、その後に前記変調方式を切り替える、ことを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、通信対象となるデータが格納され、前記データに既知のパイロット信号が所定間隔ごとに挿入されたデータフレームを対向局から受信し、前記データフレームを前記対向局へ送信する無線通信方法であって、受信した前記データフレームに基づいて、前記対向局へ前記データフレームを送信する際の伝搬路環境の良否を推定し、その推定結果を示す伝搬路環境情報を出力し、前記伝搬路環境情報に基づいて、前記パイロット信号の挿入間隔と、前記パイロット信号の長さと、の少なくとも一方を変化させ、変化後の前記パイロット信号に関するパイロット情報を生成し、前記データフレームに格納する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1および請求項4に記載の発明によれば、伝搬路環境が悪いときにはパイロットの挿入間隔と、パイロット信号の長さと、の少なくとも一方を変化させるので、1フレーム内のパイロット信号のシンボル数が多くなり、対向局の受信機では復調部を安定動作させることができる。また、復調処理に用いる処理係数の更新間隔も短くなるので、変動に対する復調部の追従性能も向上する。さらに、伝搬路環境の変化に応じてパイロット信号の挿入間隔またはパイロット信号の長さを適応的に変更することができるので、常に復調処理を安定的に行なうことができる。また、パイロット信号の挿入間隔が短い状態、あるいはパイロット信号の長さが長い状態で固定されることがないので、データの伝送効率が大きく低下することもない。さらに、変化後のパイロット信号に関するパイロット情報を生成し、データフレームに格納して送信するので、受信機ではパイロット信号の状態を正確に特定することができ、復調部を安定動作させることができる。
【0016】
また、請求項2に記載の発明によれば、伝搬路環境が悪いほどパイロット信号の挿入間隔を短くし、またはパイロット信号の長さを長くするので、伝搬路環境が劣悪になっても対向局の受信機では復調部を安定動作させることができる。
【0017】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、伝送路環境情報として推定C/N比と、推定周波数誤差と、の少なくとも一方を出力するので、伝送路環境の良否を精度よく推定することができる。また、その推定結果に基づいて、パイロット信号の挿入間隔、またはパイロット信号の長さを変更するので、伝搬路環境が劣悪になっても対向局の受信機では復調部を安定動作させることができる。
【0018】
また、請求項4に記載の発明によれば、推定周波数誤差と、推定C/N比という複数の指標を用いて伝搬路環境の良否を推定するので、より高精度に伝搬路環境の良否を推定することが可能となる。また、その推定結果に基づいて、パイロット信号の挿入間隔、またはパイロット信号の長さを変更するので、伝搬路環境が劣悪になっても対向局の受信機では復調部を安定動作させることができる。
【0019】
さらに、請求項5に記載の発明によれば、適応変調方式に適用する際に、伝送路環境が悪化した場合、先にパイロット信号の挿入間隔と、パイロット信号の長さと、の少なくとも一方を変化させ、その後に変調方式を切り替えるので、伝送ビット数が低下しにくくなり、伝送効率が大きく低下することも起きにくくなる。また、パイロットよりもFECデータのほうが十分長く支配的であるため、パイロット間隔を短くしたり、パイロット長を長くしたりしても伝送効率は大きく低下しない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明の実施の形態に係る無線通信システム概略構成図である。
【
図2】第1の通信局および第2の通信局の送信機の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】第1の通信局および第2の通信局の受信機の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】データフレームを生成・送信する際に送信機の各部から出力される信号を示す図である。
【
図5】データフレームを復調する際に受信機の各部から出力される信号を示す図である。
【
図6】パイロット間隔と推定C/N比との対応関係を示す図である。
【
図7】推定C/N比に応じてパイロット間隔が変更されたデータフレームを示す図である。
【
図8】推定C/N比に応じてパイロット間隔が適応的に変更されたデータフレームを示す図である。
【
図9】パイロット間隔と推定周波数誤差との対応関係を示す図である。
【
図10】パイロット間隔と推定C/N比および推定周波数誤差との対応関係を示す図である。
【
図11】パイロット長と推定C/N比との対応関係を示す図である。
【
図12】推定C/N比に応じてパイロット長が変更されたデータフレームを示す図である。
【
図13】パイロット長と推定C/N比との対応関係と、パイロット間隔と推定周波数誤差との対応関係を示す図である。
【
図14】推定C/N比および推定周波数誤差に応じてパイロット長およびパイロット間隔が変更されたデータフレームを示す図である。
【
図15】伝搬路環境に応じてパイロット間隔と変調方式とを切り替えたデータフレームを示す図である。
【
図16】DVB-S2規格のフィジカルレイヤフレームのフレーム構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1に係る無線通信システム1の概略構成図である。無線通信システム1は、送信機および受信機を備える第1の通信局2Aと、送信機および受信機を備える第2の通信局2Bと、第1の通信局2Aと第2の通信局2Bとの間を中継する通信衛星3と、を備える。第1の通信局2Aおよび第2の通信局2Bは、それぞれを自局および対向局として、通信対象となるデータが格納されたデータフレームを双方向で送受信する。なお、本実施の形態の通信システム1では、データフレームとして、例えば、DVB-S2規格に準拠したPLフレーム(
図16参照)が用いられる。
【0022】
図2および
図3は、第1の通信局2Aが備える送信機4Aおよび受信機5Aと、第2の通信局2Bが備える送信機4Bおよび受信機5Bとの概略構成を示す機能ブロック図である。なお、送信機4Aおよび送信機4Bは同一の構成および機能を備えており、受信機5Aおよび受信機5Bは同一の構成および機能を備えているため、以下では、第2の通信局2Bの送信機4Bおよび受信機5Bについての詳しい説明は省略する。
【0023】
送信機4A(4B)は、マッピング部4A1と、パイロット付与部4A2と、PLスクランブル部4A3と、ヘッダ付与部(パイロット情報生成手段)4A4と、ROF部4A5と、タイミング生成部(パイロット信号変更手段)4A6と、パイロット生成部(パイロット信号変更手段)4A7と、ヘッダ生成部(パイロット情報生成手段)4A8と、を備えている。
【0024】
マッピング部4A1は、送信対象の情報/データに対して必要に応じて所定の処理(例えば、ベースバンドフレーム処理、誤り訂正符号化処理など)が施されたバイナリデータ列の入力を受け、このバイナリデータ列に対してDVB-S2規格の信号点配置になるようにマッピング処理を施してシンボル列からなるデータフレームを生成して出力する。
【0025】
パイロット付与部4A2は、パイロット生成部4A7により生成されたパイロットを、マッピング部4A1にて生成されたデータフレームに付与する。パイロット生成部4A7は、タイミング生成部4A6から出力されるパイロットイネーブルに応じて、FECデータに対する挿入間隔の異なるパイロットを生成する。
【0026】
タイミング生成部4A6は、自局の受信機5Aから、データフレームを対向局へ送信する際の伝搬路環境の良否の推定結果を示す伝搬路環境情報を受信し、伝搬路環境情報に基づいて、パイロットの挿入位置を示すパイロットイネーブルと、ヘッダの挿入位置を示すヘッダイネーブルと、ヘッダ情報とを生成・出力する。ヘッダ情報には、PLスクランブル部4A3にて行なわれるフィジカルレイヤスクランブルに関する情報(PLスクランブル情報)と、パイロットの挿入間隔(以下、パイロット間隔ともいう)を示すパイロット情報とが含まれている。
【0027】
PLスクランブル部4A3は、パイロット付与部4A2から出力されたデータフレームに対してフィジカルレイヤスクランブルをかける処理部である。
【0028】
ヘッダ付与部4A4は、ヘッダ生成部4A8により生成されたヘッダを、PLスクランブル部4A3から出力されたデータフレームの先頭に付与する。ヘッダ生成部4A8は、タイミング生成部4A6から出力されたヘッダ情報およびヘッダイネーブルに基づいて、ヘッダを生成する。
【0029】
ROF部4A5は、ロールオフフィルタの機能を備え、ヘッダ付与部4A4から出力されるフィジカルレイヤスクランブル後のデータフレームに帯域制限処理を施して出力する。ROF部4A5の送信出力は、第1の通信局2Aから第2の通信局2Bへ向けて送信される。
【0030】
次に受信機5A(5B)について説明する。受信機5Aは、ROF部5A1と、シンボル再生部5A2と、PLデスクランブル部5A3と、周波数補正部5A4と、位相補正部5A5と、利得補正部5A6と、ヘッダ除去部5A7と、パイロット除去部5A8と、デマッピング部5A9と、ヘッダ検出部5A10と、タイミング生成部5A11と、伝搬路環境推定部(伝搬路環境推定手段)5A12と、を備えている。
【0031】
ROF部5A1は、ロールオフフィルタの機能を備え、第2の通信局2Bから受信したフレームデータに帯域制限処理を施して出力する。シンボル再生部5A2は、ROF部5A1から出力された信号からシンボルタイミングの同期をとり、PLデスクランブル部5A3は、第2の通信局2Bの送信機4Bにてデータフレームにかけられたフィジカルレイヤスクランブルを解除する。
【0032】
周波数補正部5A4、位相補正部5A5および利得補正部5A6は、フィジカルレイヤスクランブルが解除されたデータフレームに対し、周波数、位相および利得の補正を行なう。
【0033】
ヘッダ除去部5A7およびパイロット除去部5A8は、利得などが補正されたデータフレームからヘッダおよびパイロットを除去する。ヘッダ除去部5A7およびパイロット除去部5A8は、タイミング生成部5A11から出力されるヘッダイネーブルおよびパイロットイネーブルに応じて、ヘッダおよびパイロットを除去する。タイミング生成部5A11は、ヘッダ検出部5A10にて検出されたヘッダ情報に応じて、ヘッダの挿入位置を示すヘッダイネーブルと、パイロットの挿入位置を示すパイロットイネーブルを生成・出力する。なお、受信機5Aが複数の復調回路を備えている場合には、パイロットイネーブルは各復調回路にも出力される。
【0034】
伝搬路環境推定部5A12は、利得補正部5A6から出力されたデータフレームに基づいて、対向局へデータフレームを送信する際の伝搬路環境の良否を推定し、その推定結果を示す伝搬路環境情報を自局の送信機4A(4B)へ出力する。より具体的には、伝搬路環境推定部5A12は、利得補正部5A6から出力されたデータフレームから受信時の推定C/N比を算出し、この推定C/N比を伝搬路環境情報として送信機4A(4B)へ出力する。
【0035】
図4は、送信機4A(4B)によってデータフレームを生成・送信する際に、送信機4A(4B)の各部によって出力される出力信号を示す。送信機4Aのタイミング生成部4A6は、伝搬路環境情報に基づいてパイロットの挿入間隔を決定し、同図(A)に示すように、所定間隔のタイミング(例えば、FECデータの16スロット(1440シンボル)ごと)でパイロットイネーブルを出力する。パイロット生成部4A7は、同図(B)に示すように、このパイロットイネーブルに応じてパイロットを生成し、パイロット付与部4A2へ出力する。パイロット付与部4A2は、同図(C)に示すように、マッピング部4A1から出力されたデータフレームにパイロットを付与する。なお、図中に示す「0」は、データが存在しない状態を示している。
【0036】
送信機4Aのタイミング生成部4A6は、
図4(D)に示すように、マッピング部4A1から出力されたデータフレームの先頭に対応するタイミングでヘッダイネーブルをヘッダ生成部4A8へ出力する。ヘッダ生成部4A8は、同図(E)に示すように、PLスクランブル情報およびパイロット情報を含むヘッダを生成する。パイロット情報には、パイロットの挿入間隔に関する情報が格納されている。
【0037】
ヘッダ付与部4A4は、
図4(F)に示すように、パイロットが付与されたデータフレームにヘッダを付与する。これにより、送信機4A(4B)によって送信されるデータフレームが生成される。
【0038】
図5は、受信機5A(5B)によって受信したデータフレームを復調する際に、受信機5A(5B)の各部によって出力される出力信号を示す。受信機5Aのヘッダ検出部5A10は、同図(A)に示すように、受信したデータフレームのヘッダを検出し、ヘッダからPLスクランブル情報およびパイロット情報を取得する。タイミング生成部5A11は、同図(B)に示すように、ヘッダの挿入位置を示すヘッダイネーブルを生成する。ヘッダ除去部5A7は、同図(C)に示すように、ヘッダイネーブルに基づいて、データフレームからヘッダを除去する。
【0039】
また、タイミング生成部5A11は、同図(D)に示すように、ヘッダから取得したパイロット情報に基づいて、パイロットの挿入位置を示すパイロットイネーブルを生成する。パイロット除去部5A8は、同図(E)に示すように、パイロットイネーブルに基づいて、データフレームからパイロットを除去する。これにより、パイロット除去部5A8からデータのみが出力される。
【0040】
上記のような無線通信システム1において、送信機4A(4B)のタイミング生成部4A6は、伝搬路環境情報に基づいてパイロットの挿入間隔を変更する。具体的には、タイミング生成部4A6は、伝搬路環境が悪いほどパイロットの挿入間隔を短くする。すなわち、本実施の形態においては、
図6に示すように、推定C/N比が低いほどパイロットの挿入間隔を短くする。なお、
図6では、パイロットの挿入間隔は、「パイロット間隔A>パイロット間隔B>パイロット間隔C>パイロット間隔D」となっており、「パイロット間隔A」の挿入間隔が最も長く、「パイロット間隔D」の挿入間隔が最も短い。
【0041】
「パイロット間隔A」~「パイロット間隔D」は、推定C/N比と対応付けられたテーブル情報(以下、パイロット間隔テーブルという)として、送信機4A(4B)が備えるメモリなどに記憶されている。タイミング生成部4A6は、伝搬路環境情報の推定C/N比に基づいてパイロット間隔テーブルを参照し、推定C/N比に対応するパイロット間隔を特定し、特定したパイロット間隔に基づいてパイロットイネーブルおよびパイロット情報を生成する。
【0042】
図7(A)は、推定C/N比が比較的高く、「パイロット間隔A」が適用されたデータフレームを示す。これに対し、同図(B)は、推定C/N比が比較的低く、「パイロット間隔D」が適用されたデータフレームを示す。このように、推定C/N比が比較的に低いとき、すなわち、伝搬路環境が悪いときにはパイロットの挿入間隔が短くなり、1フレーム内のパイロットのシンボル数が多くなるので、対向局の受信機5A(5B)では復調部を安定動作させることができる。また、復調処理に用いる処理係数の更新間隔も短くなるので、変動に対する復調部の追従性能も向上する。
【0043】
なお、パイロットの挿入間隔は、データフレームの送受信中に伝搬路環境の変化に応じて適応的に変更される。すなわち、
図8(A)に示すように、データフレームの送受信中に伝搬路環境が悪化した場合には、次のデータフレームからパイロットの挿入間隔が短くなる。また、同図(B)に示すように、データフレームの送受信中に伝搬路環境が改善した場合には、次のデータフレームからパイロットの挿入間隔が長くなる。このように、伝搬路環境の変化に応じてパイロットの挿入間隔が適応的に変更されるので、常に復調処理を安定的に行なうことができる。また、パイロットの挿入間隔が短い状態で固定されることがないので、データの伝送効率が大きく低下することもない。
【0044】
本実施の形態では、伝搬路環境の良否の推定に推定C/N比を用いたが、推定C/N比に代えて、推定周波数誤差を用いてもよい。推定周波数誤差は、受信機5A(5B)の周波数補正部5A4によって求められる。伝搬路環境推定部5A12は、周波数補正部5A4から出力された推定周波数誤差を伝搬路環境情報として送信機4A(4B)へ出力する。
【0045】
この場合、
図9に示すように、推定周波数誤差が大きいほどパイロットの挿入間隔を短くする。なお、
図9では、パイロットの挿入間隔は、「パイロット間隔A>パイロット間隔B>パイロット間隔C>パイロット間隔D」となっており、「パイロット間隔A」の挿入間隔が最も長く、「パイロット間隔D」の挿入間隔が最も短い。
【0046】
これによれば、伝搬路環境の良否の推定に推定C/N比を用いる場合と同様に、伝搬路環境が悪いときにはパイロットの挿入間隔が短くなり、1フレーム内のパイロットのシンボル数が多くなるので、対向局の受信機5A(5B)では復調部を安定動作させることができる。また、復調処理に用いる処理係数の更新間隔も短くなるので、変動に対する復調部の追従性能も向上する。
【0047】
また、伝搬路環境の良否の推定に推定C/N比と、推定周波数誤差とを用いてもよい。この場合、
図10に示すように、推定C/N比が高く、かつ、推定周波数誤差が大きいほどパイロットの挿入間隔を短くする。なお、
図10では、パイロットの挿入間隔は、「パイロット間隔A>パイロット間隔B>パイロット間隔C>パイロット間隔D>パイロット間隔E>パイロット間隔F>パイロット間隔G」となっており、「パイロット間隔A」の挿入間隔が最も長く、「パイロット間隔G」の挿入間隔が最も短い。
【0048】
これによれば、伝搬路環境の良否の推定に推定C/N比のみを用いる場合、あるいは推定周波数誤差のみを用いる場合と同様に、伝搬路環境が悪いときにはパイロットの挿入間隔が短くなり、1フレーム内のパイロットのシンボル数が多くなるので、対向局の受信機5A(5B)では復調部を安定動作させることができる。また、復調処理に用いる処理係数の更新間隔も短くなるので、変動に対する復調部の追従性能も向上する。また、複数の指標を用いて伝搬路環境の良否を判定するので、より高精度に伝搬路環境の良否を推定することが可能となる。
【0049】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係る無線通信システムについて説明する。なお、本実施の形態は、伝搬路環境に応じてパイロットの長さ(シンボル数)を変更する点で実施の形態1と異なり、それ以外は実施の形態1と同様の構成を用いるため、第1の通信局2Aおよび第2の通信局2Bについての詳しい説明は省略する。
【0050】
送信機4A(4B)のタイミング生成部4A6は、伝搬路環境情報に基づいてパイロットの長さ、すなわちシンボル数を変更する。具体的には、タイミング生成部4A6は、伝搬路環境が悪いほどパイロットを長くする。すなわち、本実施の形態においては、
図11に示すように、推定C/N比が低いほどパイロットを長くする。なお、
図11では、パイロットの長さは、「パイロット長A<パイロット長B<パイロット長C<パイロット長D」となっており、「パイロット長A」が最も短く、「パイロット長D」が最も長い。
【0051】
「パイロット長A」~「パイロット長D」は、推定C/N比と対応付けられたテーブル情報(以下、パイロット長テーブルという)として、送信機4A(4B)が備えるメモリなどに記憶されている。タイミング生成部4A6は、伝搬路環境情報の推定C/N比に基づいてパイロット長テーブルを参照し、推定C/N比に対応するパイロット長を特定し、特定したパイロット長に基づいてパイロットイネーブルおよびパイロット情報を生成する。
【0052】
図12(A)は、推定C/N比が比較的高く、「パイロット長A」が適用されたデータフレームを示す。これに対し、同図(B)は、推定C/N比が比較的低く、「パイロット長D」が適用されたデータフレームを示す。このように、推定C/N比が比較的に低いとき、すなわち、伝搬路環境が悪いときにはパイロット長が長くなり、1フレーム内のパイロットのシンボル数が多くなるので、対向局の受信機5A(5B)では復調部を安定動作させることができる。また、復調処理に用いる処理係数の更新間隔も短くなるので、変動に対する復調部の追従性能も向上する。
【0053】
また、パイロット間隔を切り替える実施の形態1は、特にパイロットのみを使用する復調方式のときに有益であるが、パイロット長を切り替える本方式は、FECデータ区間も使用して引き込む復調方式において有益である。FECデータ区間も使用して引き込む復調方式の場合、パイロットはその補助的な役割をする。これは、FECデータ区間だけだと補正値が暴れたり、外れたりするような伝搬路環境のときにパイロットを使って抑制するためである。したがって、伝搬路環境が劣悪なときにパイロット長が短いとパイロット区間で算出する補正精度は低くなり、FECデータ区間の補助ができないが、伝搬路環境によってパイロット長を切り替えることで、安定した復調性能を得ることができる。
【0054】
なお、実施の形態1と同様に、パイロット長はデータフレームの送受信中に伝搬路環境の変化に応じて適応的に変更される。すなわち、データフレームの送受信中に伝搬路環境が悪化した場合には、次のデータフレームからパイロット長が長くなる。また、データフレームの送受信中に伝搬路環境が改善した場合には、次のデータフレームからパイロット長は短くなる。このように、伝搬路環境の変化に応じてパイロット長が適応的に変更されるので、常に復調処理を安定的に行なうことができる。また、パイロット長が長い状態で固定されることがないので、データの伝送効率が大きく低下することもない。
【0055】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3に係る無線通信システムについて説明する。なお、本実施の形態は、伝搬路環境に応じてパイロット長と、パイロットの挿入間隔とを変更する点で実施の形態1、2と異なり、それ以外は実施の形態1、2と同様の構成を用いるため、第1の通信局2Aおよび第2の通信局2Bについての詳しい説明は省略する。
【0056】
送信機4A(4B)のタイミング生成部4A6は、伝搬路環境情報に基づいてパイロット長と、パイロットの挿入間隔とを変更する。具体的には、タイミング生成部4A6は、伝搬路環境が悪いほどパイロット長を長くし、かつ、パイロット間隔を短くする。すなわち、本実施の形態においては、
図13(A)に示すように、推定C/N比が低いほどパイロット長を長くし、同図(B)に示すように、推定周波数誤差が大きいほどパイロット間隔を長くする。
【0057】
なお、
図13(A)では、パイロットの長さは、「パイロット長A<パイロット長B<パイロット長C<パイロット長D」となっており、「パイロット長A」が最も短く、「パイロット長D」が最も長い。また、
図13(B)では、パイロットの挿入間隔は、「パイロット間隔A>パイロット間隔B>パイロット間隔C>パイロット間隔D」となっており、「パイロット間隔A」の挿入間隔が最も長く、「パイロット間隔D」の挿入間隔が最も短い。
【0058】
「パイロット長A」~「パイロット長D」は、推定C/N比と対応付けられたパイロット長テーブルとして、送信機4A(4B)が備えるメモリなどに記憶されている。「パイロット間隔A」~「パイロット間隔D」は、推定周波数誤差と対応付けられたパイロット間隔テーブルとして、送信機4A(4B)が備えるメモリなどに記憶されている。
【0059】
タイミング生成部4A6は、伝搬路環境情報の推定C/N比に基づいてパイロット長テーブルを参照し、推定C/N比に対応するパイロット長を特定する。タイミング生成部4A6は、伝搬路環境情報の推定周波数誤差に基づいてパイロット間隔テーブルを参照し、推定周波数誤差に対応するパイロット間隔を特定する。タイミング生成部4A6は、特定したパイロット長およびパイロット間隔に基づいてパイロットイネーブルおよびパイロット情報を生成する。
【0060】
図14(A)は、推定C/N比が比較的高く、かつ、推定周波数誤差が比較的小さいときに「パイロット長A」および「パイロット間隔A」が適用されたデータフレームを示す。これに対し、同図(B)は、推定C/N比が比較的低く、かつ、推定周波数誤差が比較的大きいときに「パイロット長D」および「パイロット間隔D」が適用されたデータフレームを示す。このように、伝搬路環境が悪いときにはパイロット長が長く、かつ、パイロット間隔が短くなるので、1フレーム内のパイロットのシンボル数が多くなり、対向局の受信機5A(5B)では復調部を安定動作させることができる。また、復調処理に用いる処理係数の更新間隔も短くなるので、変動に対する復調部の追従性能も向上する。本実施の形態によれば、実施の形態1、2の両方の効果を奏することが可能となる。
【0061】
(実施の形態4)
次に、本発明の実施の形態4に係る無線通信システムについて説明する。なお、本実施の形態は、伝送路環境に応じてデータの変調方式を切り替える適応変調(ACM:Adaptive Modulation and Coding)機能を備えている点で実施の形態1と異なり、それ以外は実施の形態1と同様の構成を用いるため、第1の通信局2Aおよび第2の通信局2Bについての詳しい説明は省略する。
【0062】
図15(A)は、従来の適応変調機能を備えた無線通信システムにおける変調方式の遷移状態を示している。従来の適応変調では、伝搬路環境が良いときには、例えば8PSKでデータを変調し、伝搬路環境が悪化して伝搬路環境情報が所定の閾値以下となったときに変調方式を例えばQPSKに切り替えてデータを疎通させている。しかしながら、従来の適応変調では、変調方式を8PSKからQPSKに切り替えることにより、伝送ビット数が3ビットから2ビットに低下し、伝送効率が低下するという問題があった。
【0063】
これに対し、本発明を適用した無線通信システムでは、
図15(B)に示すように、伝搬路環境が悪化した場合(例えば、推定C/N比が低くなった場合、あるいは推定周波数誤差が大きくなった場合)に、先にパイロット間隔を変化させ、その後に変調方式を切り替える。具体的には、伝搬路環境が良いときには、例えば8PSKでデータを変調し、伝搬路環境が悪化して伝搬路環境情報が所定の閾値A以下となったときには、変調方式を8PSKに維持した状態でパイロット間隔を短くし、伝搬路環境がさらに悪化して伝搬路環境情報が閾値B以下になった場合に、変調方式を8PSKからQPSKに切り替える。なお、
図15(B)における変調方式では、パイロットの挿入間隔は、「8PSK(1)>8PSK(2)>8PSK(3)>8PSK(4)>8PSK(5)」となっており、「8PSK(1)」の挿入間隔が最も長く、「8PSK(5)」の挿入間隔が最も短い。
【0064】
本実施の形態によれば、伝搬路環境が悪化した場合に先にパイロット信号の挿入間隔を変化させ、その後に変調方式を切り替えるので、伝送ビット数が低下しにくくなり、伝送効率が大きく低下することも起きにくくなる。また、パイロット長よりもFECデータのほうが十分長く支配的であるため、パイロット間隔を短くしても伝送効率は大きく低下しない。なお、本実施の形態においても、伝搬路環境が悪化した場合にパイロット長を長くしてもよいし、パイロット間隔とパイロット長とを同時に変更してもよい。
【0065】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0066】
例えば、上記の実施の形態1~4では、ヘッダにパイロット情報を含めるようにしたが、FECデータにパイロット情報を含めて定期的に対向局へ送信してもよいし、パイロット情報用の情報ビットをデータフレーム内に設けて対向局へ送信してもよい。また、本実施の形態では、通信衛星3を経由して通信を行なう無線通信システムを例として説明したが、本発明は、通信衛星3を経由しない地上通信システムに適用することも可能である。
【0067】
1 通信システム
2A 第1の通信局
2B 第2の通信局
3 通信衛星
4A 第1の通信局の送信機
4A6 タイミング生成部(パイロット信号変更手段、パイロット情報生成手段)
4A7 パイロット生成部(パイロット信号変更手段)
4A8 ヘッダ生成部(パイロット情報生成手段)
4B 第2の通信局の送信機
5A 第1の通信局の受信機
5A12 伝搬路環境推定部(伝搬路環境推定手段)
5B 第2の通信局の受信機