(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058175
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】照明装置、車両用灯具システム
(51)【国際特許分類】
F21S 41/64 20180101AFI20240418BHJP
F21S 41/147 20180101ALI20240418BHJP
F21S 41/25 20180101ALI20240418BHJP
F21S 41/365 20180101ALI20240418BHJP
F21S 2/00 20160101ALI20240418BHJP
F21V 9/40 20180101ALI20240418BHJP
F21V 23/00 20150101ALI20240418BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20240418BHJP
G02F 1/133 20060101ALI20240418BHJP
G02F 1/1343 20060101ALI20240418BHJP
F21W 102/10 20180101ALN20240418BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20240418BHJP
【FI】
F21S41/64
F21S41/147
F21S41/25
F21S41/365
F21S2/00 340
F21S2/00 390
F21V9/40 400
F21V23/00 140
G02F1/13 505
G02F1/133 580
G02F1/1343
F21W102:10
F21Y115:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165366
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】岩本 宜久
【テーマコード(参考)】
2H088
2H092
2H193
3K014
【Fターム(参考)】
2H088EA33
2H088HA01
2H088HA02
2H088HA03
2H088HA06
2H088HA15
2H088HA16
2H088HA17
2H088HA18
2H088HA20
2H088HA21
2H088HA24
2H088HA28
2H088JA10
2H092GA03
2H092GA13
2H092GA15
2H092GA17
2H092GA21
2H092GA25
2H092GA29
2H092GA33
2H092GA41
2H092HA04
2H092PA01
2H092PA06
2H092PA13
2H092QA06
2H092RA10
2H193ZA27
2H193ZB51
2H193ZH49
2H193ZH53
2H193ZH54
2H193ZP01
2H193ZP03
2H193ZP04
2H193ZP14
2H193ZP15
2H193ZP16
2H193ZQ11
2H193ZR20
3K014AA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】配光パターン中の明るさの低下した領域の発生を抑えること。
【解決手段】光源と、集光部と、各々がガラスからなる第1基板及び第2基板、当該第1基板と第2基板との間に配置される液晶層、前記第1基板に設けられた複数の画素電極、並びに前記第2基板に設けられた対向電極を有しており、前記集光部によって集光される前記光の焦点位置に配置される液晶素子と、一対の偏光素子と、投影レンズと、を含み、前記光源から放出される前記光は、最大光度の発光ピークを450nm以下の波長域に有し、前記液晶素子は、前記光が入射することによる放射エネルギーが36000J/mm
2以上となる被照射領域を有しており、前記液晶素子の前記対向電極は、平面視における前記被照射領域に対応付けて配置された第1対向電極と、当該第1対向電極とは物理的及び電気的に独立して設けられた第2対向電極とを有する照明装置である。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光ダイオードを用いて構成されており光を放出する光源と、
前記光源から放出される前記光を集光する集光部と、
各々がガラスからなる第1基板及び第2基板、当該第1基板と第2基板との間に配置される液晶層、前記第1基板に設けられた複数の画素電極、並びに前記第2基板に設けられた対向電極を有しており、前記集光部によって集光される前記光の焦点位置に配置される液晶素子と、
前記液晶素子を挟んで対向配置される一対の偏光素子と、
前記液晶素子を透過する前記光が入射し得る位置に配置される投影レンズと、
を含み、
前記光源から放出される前記光は、最大光度の発光ピークを450nm以下の波長域に有し、
前記液晶素子は、前記光が入射することによる放射エネルギーが36000J/mm2以上となる被照射領域を有しており、
前記液晶素子の前記対向電極は、平面視における前記被照射領域に対応付けて配置された第1対向電極と、当該第1対向電極とは物理的及び電気的に独立して設けられた第2対向電極と、を有する、
照明装置。
【請求項2】
前記第1対向電極は、平面視において前記第2対向電極の内側に配置されている、
請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記第1対向電極は、各々の相互間の隙間が平面視で同心楕円状となるように構成された複数のサブ対向電極を有する、
請求項1に記載の照明装置。
【請求項4】
前記液晶素子は、前記複数のサブ対向電極の各々に対応付けて設けられた複数の配線部を更に有しており、
前記複数の配線部は、各々、前記複数のサブ対向電極との間に絶縁膜を介在させて前記第2基板の一面側に設けられており、スルーホールを介して前記複数のサブ対向電極の何れかと接続されている、
請求項3に記載の照明装置。
【請求項5】
前記複数の配線部は、前記複数のサブ対向電極よりも前記第2基板の一面に近い側に配置されている、
請求項4に記載の照明装置。
【請求項6】
前記液晶素子に駆動電圧を供給するドライバ回路を更に含み、
前記ドライバ回路は、前記複数の画素電極、前記第1対向電極及び前記第2対向電極の各々に対して個別に電圧供給可能である、
請求項1に記載の照明装置。
【請求項7】
前記ドライバ回路は、矩形波の前記駆動電圧を供給しており、当該矩形波の位相をずらすこと又は当該矩形波の振幅を増減することによって前記駆動電圧の実効値を増減する、
請求項6に記載の照明装置。
【請求項8】
前記ガラスがソーダライムガラスである、
請求項1に記載の照明装置。
【請求項9】
請求項1に記載の照明装置を用いて構成される車両用灯具と、
前記液晶素子の動作を制御するコントローラと、
を含む、車両用前照灯システム。
【請求項10】
請求項7に記載の照明装置を用いて構成される車両用灯具と、
前記ドライバ回路を制御するコントローラと、
を含み、
前記コントローラは、前記光源による光照射の累積時間の増加に伴って前記液晶素子の前記第1対向電極へ供給する前記駆動電圧の実効値を大きくするように前記ドライバ回路を制御する、
車両用前照灯システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、照明装置、車両用灯具システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-128449号公報(特許文献1)には、液晶素子を用いて配光パターンを可変に制御する車両用前照灯(照明装置)が記載されている。この車両用前照灯では、光源から出射する光を集光して液晶素子へ入射させ、液晶素子において明暗の像を形成し、その像をレンズによって拡大投影することで車両前方に照射される光の配光パターンを可変に設定している。この車両用前照灯では、光源として出射光が広角に広がるLED素子を用いるため、レンズやリフレクタなどの集光手段で集光した光を液晶素子へ入射させている。しかし、累積使用時間が長くなると、光の照度が相対的に高くなる焦点付近に対応して、配光パターン中の一部で明るさの低下した領域を生じる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示に係る具体的態様は、配光パターン中の明るさの低下した領域の発生を抑えることを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本開示に係る一態様の照明装置は、(a)発光ダイオードを用いて構成されており光を放出する光源と、(b)前記光源から放出される前記光を集光する集光部と、(c)各々がガラスからなる第1基板及び第2基板、当該第1基板と第2基板との間に配置される液晶層、前記第1基板に設けられた複数の画素電極、並びに前記第2基板に設けられた対向電極を有しており、前記集光部によって集光される前記光の焦点位置に配置される液晶素子と、(d)前記液晶素子を挟んで対向配置される一対の偏光素子と、(e)前記液晶素子を透過する前記光が入射し得る位置に配置される投影レンズと、を含み、(f)前記光源から放出される前記光は、最大光度の発光ピークを450nm以下の波長域に有し、(g)前記液晶素子は、前記光が入射することによる放射エネルギーが36000J/mm2以上となる被照射領域を有しており、(h)前記液晶素子の前記対向電極は、平面視における前記被照射領域に対応付けて配置された第1対向電極と、当該第1対向電極とは物理的及び電気的に独立して設けられた第2対向電極と、を有する、照明装置である。
[2]本開示に係る一態様の車両用灯具システムは、前記[1]に記載の照明装置を用いて構成される車両用灯具と、前記液晶素子の動作を制御するコントローラと、を含む、車両用前照灯システムである。
【0006】
上記構成によれば、照明装置ないしこれを用いる車両用灯具システムにおける配光パターン中の明るさの低下した領域の発生を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、検証に用いた液晶素子の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、検証に用いる光源から出射される光の発光スペクトル(分光放射強度)を示す図である。
【
図3】
図3は、検証用光源の点灯時における検証用液晶素子の光入射面内における放射照度分布とその計算値を示す図である。
【
図4】
図4は、検証用液晶素子の
図3に示した原点に相当する位置を中心にY軸に沿って正面観察時の透過率分布を測定した結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、ガラス基板を単体で用いた場合における光照射前の初期状態と光照射を500時間連続で行った後の状態のそれぞれにおける透過率分布の相対値を示す図である。
【
図6】
図6は、ガラス基板単体での相対透過率変化の連続照射時間依存を示すグラフである。
【
図7】
図7は、検証用液晶素子とガラス基板単体における透過率の経過時間依存性を示したグラフである。
【
図8】
図8は、紫外発光LEDランプによる紫外光照射を行う前後のソーダライムガラスの透過分光スペクトルを示すグラフである。
【
図9】
図9は、ソーダライムガラスに対して白色LED光源の光を集光して504時間照射した際の最大放射照度が照射された領域における照射前後における透過分光スペクトルを示す図である。
【
図10】
図10は、ソーダライムガラスの成分表の一例を示す図である。
【
図11】
図11(A)は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。
図11(B)は、変形実施例の車両用灯具システムの構成を示す図である。
【
図12】
図12は、一実施形態の液晶素子の模式的な断面図である。
【
図13】
図13(A)は、第1基板の電極構造を示す平面図である。
図13(B)は、第2基板の第1層の電極構造を示す模式的な平面図である。
図13(C)は、第2基板の第2層の電極構造を示す模式的な平面図である。
【
図14】
図14(A)は、各配線部と各共通電極の配置状態を示す模式的な平面図である。
図14(B)は、
図14(A)における各共通電極の付近を拡大して示す模式的な平面図である。
【
図15】
図15(A)は、液晶素子を駆動するためのドライバ回路の構成例を示すブロック図である。
図15(B)は、セグメントドライバから出力される電圧の例を示す波形図である。
図15(C)は、コモンドライバから出力される電圧の例を示す波形図である。
図15(D)は、電圧シフタから出力される電圧の例を示す波形図である。
図15(E)は、1/2フレーム位相シフタから出力される電圧の例を示す波形図である。
【
図16】
図16(A)及び
図16(B)は、各電極及び電極間に印加される電圧の一例を示す波形図である。
【
図17】
図17(A)は、変形実施例の各共通電極の付近を拡大して示す模式的な平面図である。
図17(B)は、変形実施例の配線部の構成を示す模式的な平面図である。
【
図18】
図18(A)は、
図17(A)に示すb-b線における第2基板の各電極の断面図である。
図18(B)は、変形実施例における第2基板の各電極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本願発明者は、LED(発光ダイオード)から広角に広がって出射する光をレンズ等によって集光して液晶素子へ入射させて配光パターンを形成する照明装置等において、累積使用時間が長くなった際に配光パターン中の一部で明るさの低下した領域(暗領域)を生じる場合についてその原因を検証した。以下では、まず検証内容について説明し、次いでその検証により得られた知見に基づく液晶素子並びにこれを用いる照明装置、車両用前照灯システムについて説明する。
【0009】
図1は、検証に用いた液晶素子の構成を模式的に示す断面図である。図示の検証用液晶素子100は、対向配置された第1基板101と第2基板102、第1基板101の第2基板102と対向する面に設けられた複数の画素電極103、第2基板102の第1基板101と対向する面に設けられた共通電極(対向電極)104、第1基板101の第2基板102と対向する面において各画素電極103を覆って設けられた配向膜105、第2基板102の第1基板101と対向する面において共通電極104を覆って設けられた配向膜106、第1基板101と第2基板102の間において各配向膜105、106に接して設けられた液晶層107、第1基板101と第2基板102の間において液晶層107を囲んで設けられた封止材108を含んで構成されている。
【0010】
第1基板101及び第2基板102としては、ソーダライムガラスからなるガラス基板が用いられている。図示を省略するが、第1基板101には各画素電極103の側に約20nm厚のSiO2アンダーコート膜が設けられており、第2基板102には共通電極104の側に約20nm厚のSiO2アンダーコート膜が設けられている。各画素電極103、共通電極104は、それぞれインジウム錫酸化物膜(ITO膜)をパターニングすることによって形成されている。各配向膜105、106は、例えばシロキサン系垂直配向膜をフレキソ印刷法にて塗布し、200℃で焼成した後、ラビング処理によって一軸配向処理が施されており、それぞれが一軸配向規制力を有する。各配向膜105、106は、それぞれへの一軸配向処理の方向が逆平行(アンチパラレル)となるように配置されている。液晶層107は、各配向膜105、106による一軸配向規制力を受けて、89°程度のプレティルト角を有して一様に配向している。また、第1基板101と第2基板102の間には図示しない粒径4μmの樹脂スペーサーが均一に配置されている。それにより、液晶層107の層厚は約4μmとなっている。液晶層107は、誘電率異方性が負の値であり、屈折率異方性が約0.11の液晶材料を用いて構成されている。封止材108はエポキシ系接着剤を用いて形成されている。
【0011】
図2は、検証に用いる光源から出射される光の発光スペクトル(分光放射強度)を示す図である。検証用光源は、青色LEDと青色LEDの発光が入射する位置に配置された黄色蛍光体とを備えた白色LEDであり、青色LEDにて黄色蛍光体を励起し、青色と黄色の混色によって白色光を得るものである。図示のように、光源の出射光は、最大光度を示す波長ピークの波長が440nmである。2番目の光度を示す発光ピークの波長は545nm付近である。
【0012】
後述する
図11(A)又は
図11(B)に示すような照明光学系において、液晶素子15に代えて検証用液晶素子100を配置するとともに光源10に代えて検証用光源を配置し、検証用液晶素子100に対して各画素電極103と共通電極104の間に液晶層107の閾値以上の電圧を印加して透過光が明状態となるようにし、検証用光源を点灯させて検証用液晶素子100へ連続的に光照射を行った。
【0013】
図3は、検証用光源の点灯時における検証用液晶素子の光入射面内における放射照度分布とその計算値を示す図である。ここでは、検証用液晶素子100の第1基板101の外側面(第2基板102と対向しない側の面)を光入射面とする。図中の左右方向軸(Y軸)及び上下方向軸(X軸)の各座標は検証用液晶素子100の光入射面内での位置を示している。両座標の原点は、最大照度が得られる位置に対応付けられている。また、X軸上及びY軸上の放射照度分布についてのグラフも示している。原点における放射照度は0.181W/mm
2であり、X軸方向で放射照度が半分になる位置は原点より±2.7mmの位置、Y軸方向で放射照度が半分になる位置は-1.1mm及び+1.5mmの各位置である。Y軸方向において原点より-3.5mmとなる位置での放射照度は0.020W/mm
2であった。
【0014】
図4は、検証用液晶素子の
図3に示した原点に相当する位置を中心にY軸に沿って正面観察時の透過率分布を測定した結果を示すグラフである。透過率分布の測定には大塚電子製LCD5200を用いた。検証用光源からの光照射を500時間行った後に、透過率分布を測定した。1スポットの測定エリアを0.7mmΦとして、そのスポット位置を一定ステップで移動させることにより透過率分布を測定した。この測定においては、偏光素子などは用いずに検証用液晶素子100を単体で用いて透過率分布を測定している。
【0015】
図4では、検証用光源からの光照射が500時間経過した後の検証用液晶素子100単体での透過率分布の相対値が示されている。ここでは、透過率の低下が最も大きいY軸原点での透過率を相対透過率1として規格値して透過率がプロットされている。なお、Y軸の測定範囲は±2.5mm、測定ステップは0.5mm間隔とした。図示のように、Y軸のマイナス側において透過率低下の度合いが小さく、Y軸のプラス側において透過率低下の度合いが大きい傾向がみられる。放射照度が半分に近い+2.5mmの位置において相対透過率は1.09となり、原点の放射照度との比較で約1割異なることが分かった。
【0016】
次に、検証用液晶素子100において使用するガラス基板と同じガラス基板を単体で用いて上記と同様な光照射を行った場合の透過率変化を測定した。なお、測定範囲としてはY軸に対して±3.5mm、測定ステップは0.7mm間隔とした。
【0017】
図5は、ガラス基板を単体で用いた場合における光照射前(0H)の初期状態と光照射を500時間連続で行った後の状態(以後「500H経過後の状態」という。)のそれぞれにおける透過率分布の相対値を示す図である。
図5では、初期状態での原点における相対透過率を1として透過率を規格化して示している。初期状態においてはY軸方向の位置が+3.5mmから-3.5mmの間で変化しても測定誤差によると考えられるバラツキはみられるものの、透過率は均一であると考えられる。
【0018】
一方、500H経過後の状態では、Y軸の原点に相当する位置で相対透過率が最も低くなっており、原点から+3.5mmの位置及び原点から-3.5mmの位置では多少バラツキはみられるものの初期状態との間での透過率差は観察されないことが分かった。すなわち、上記
図3に示した放射照度分布によって透過率分布が生じていると考えられる。Y軸の-3.5mmの位置においては初期状態と500H経過後の状態で透過率に差異が観察されないことから、この位置における放射照度である0.020W/mm
2による積算光量である0.02×180000s=36000J/mm
2以下であれば透過率の変化が生じないと考えられる。換言すれば、上記した値を超える放射照度になると透過率の低下が観察されることが分かった。したがって、透過率の低下には一定以上の積算光量(放射エネルギー)が必要であることが明らかとなった。
【0019】
図6は、ガラス基板単体での相対透過率変化の連続照射時間依存を示すグラフである。この測定の場合には、測定スポットは3mmΦ、測定位置はX軸及びY軸の原点(
図3参照)とした。初期状態での相対透過率を1とすると、約250時間経過後に最大透過率比が0.98程度まで急激に低下し、その後1500時間経過までは透過率変化の傾斜は緩やかだが確実に低下する傾向がある。その後1500時間よりもさらに時間が経過すると透過率の変化がほとんどなく推移する傾向がみられる。
【0020】
図7は、検証用液晶素子とガラス基板単体における透過率の経過時間依存性を示したグラフである。上記したガラス基板単体での検証と同様に検証用液晶素子100に対して連続的に光照射を行い、透過率の変化を測定した。図中の特性線aはガラス基板単体での特性を示し、特性線bはガラス基板を2枚重ねた場合の特性をガラス基板単体での特性(特性線a)から試算して得られた特性を示し、特性線cは検証用液晶素子100における特性を示す。
【0021】
図示のように、検証用液晶素子100では約100時間経過後に最大透過率比が0.975程度に急激に低下している。また、250時間経過以降では2つのガラス基板(検証用液晶素子100における第1基板101と第2基板102に相当)を想定して求められた特性線bと検証用液晶素子100の特性線cとの一致性が高い傾向が観察された。これらの結果によれば、連続的な光照射による透過率低下の原因は、ほぼ、ソーダライムガラスを用いたガラス基板によって生じるものと考えられる。
【0022】
ここで、一般にソーダライムガラスには、アルカリ金属であるNaO2とK2Oが含まれており、一例として、NaO2が13.1%、K2Oが0.72%含まれている(特開2000-143284号公報参照)。また、遷移金属であるFeはイオン化する際に2価と3価に陽イオン化する。2価のFe2+は赤外域の光吸収特性を有し、3価のFe3+は短波長可視域の光吸収特性を示す。価数が異なるFeのソーダライムガラス内での比率は、320nm以下の紫外線を照射することにより変化させることができ、その結果として可視領域の透過率が変化する現象が観察される。この現象はソラリゼーションと呼ばれている(例えば特開平03-170344号公報参照)。
【0023】
図8は、紫外発光LEDランプによる紫外光照射を行う前後のソーダライムガラスの透過分光スペクトルを示すグラフである。紫外発光LEDランプの照射強度は、185nmにて17.9W/cm
2、254nmにて60.4W/cm
2であり、照射時間は45秒間である。
図8の特性線aは紫外光照射前、特性線bは紫外光照射後の透過分光スペクトルを示している。図示のように、紫外光照射の前後にて明らかに透過率変化が観察され、短波長側の透過率が減少し、長波長側の赤外域はほぼ変化ないか、または上昇する傾向が観察された。
【0024】
図9は、ソーダライムガラスに対して白色LED光源の光を集光して504時間照射した際の最大放射照度が照射された領域における照射前後における透過分光スペクトルを示す図である。
図9の特性線aは光照射前、特性線bは光照射後の透過分光スペクトルを示している。上記
図8にて示した紫外光照射によるFeの価数変化にて組成割合が変化したときの透過分光スペクトルとは全く異なる傾向が見られ、短波長における透過率変化は小さく、460nm以上の可視波長における透過率変化が著しいことが分かる。従って、白色LED光源の光を長時間照射した場合には、上記したFe還元による価数変化とは異なる反応により透過率変化が生じていると考えられる。ソーダライムガラスの成分表の一例を
図10に示す。
【0025】
以上のような検証結果から、ソーダライムガラスからなるガラス基板を用いた液晶素子において、白色LED光源からの光照射による光入射面内の高照度帯における透過率低下の影響を軽減して面内透過率のムラを抑制するには、この高照度帯における透過率を液晶素子への光照射の累積時間に応じて電気的に制御することが有益であると考えられる。上記した
図7に示したように、2枚のソーダライムガラス基板を積層した際の透過率の計算値が検証用液晶素子100の透過率に一致または近い値を示すためである。以下に、高照度帯(被照射領域)における透過率を光照射の累積時間に応じて電気的に制御可能とする液晶素子並びに照明装置の構成例を詳細に説明する。
【0026】
図11(A)は、上記した実施形態の液晶素子を用いて構成される一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。
図11(A)に示す車両用灯具システムは、照明装置の一例としての車両用灯具1と、コントローラ2と、カメラ3を含んで構成されている。この車両用前照灯システムは、カメラ3によって撮影される車両周辺の画像に基づいて車両の周囲に存在する前方車両や歩行者の顔等の位置を検出し、前方車両等の位置を含む一定範囲を減光範囲(ないし非照射範囲)に設定し、それ以外の範囲を光照射範囲に設定して選択的な光照射を行うとともに、路面上へ種々形状の光照射を行うものである。
【0027】
車両用灯具1は、例えば車両前部の所定位置に配置されており、車両前方を照明するための照射光を形成する。なお、車両用灯具1は車両の左右それぞれに1つずつ設けられるがここでは1つのみ図示する。
【0028】
コントローラ2は、車両用灯具1の光源10や液晶素子15の動作制御を行うものである。このコントローラ2は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有するコンピュータシステムを用い、このコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることによって実現される。本実施形態のコントローラ2は、運転席に設置されたライトスイッチ(図示せず)の操作状態に応じて光源10を点灯させるとともに、カメラ3によって検出される前方車両(対向車両、先行車両)、歩行者、道路標識、路上白線などの対象体に応じた配光パターンを設定し、この配光パターンに対応する像を形成するための制御信号を液晶素子15へ供給する。
【0029】
カメラ3は、車両の前方空間を撮影して画像を生成し、この画像に対して所定の画像認識処理を行って上記した前方車両等の対象体の位置、範囲、大きさ、種別などを検出する。画像認識処理による検出結果は、カメラ3と接続されているコントローラ2へ供給される。カメラ3は、車両の車室内の所定位置(例えば、フロントガラス上部)に設置されるか、または車両の車室外の所定位置(例えば、フロントバンパー内)に設置される。車両に他の用途(例えば、自動ブレーキシステム等)のためのカメラが備わっている場合にはそのカメラを共用してもよい。
【0030】
なお、カメラ3における画像認識処理の機能をコントローラ2にて代替してもよい。その場合には、カメラ3は、生成した画像をコントローラ2へ出力、この画像に基づいてコントローラ2側で画像認識処理が行われる。あるいは、カメラ3から画像とそれに基づく画像認処理の結果の双方がコントローラ2へ供給されてもよい。その場合に、コントローラ2は、カメラ3から得た画像を用いてさらに独自の画像認識処理を行ってもよい。
【0031】
図11(A)に示す車両用灯具1は、光源10、リフレクタ(反射部材)11、13、偏光ビームスプリッタ(第1偏光素子)12、1/4波長板14、液晶素子15、光学補償板16、偏光板(第2偏光素子)17、投影レンズ18、ドライバ回路19を含んで構成されている。これらの各要素は、例えば1つのハウジング(筐体)に収容されて一体化されている。また、光源10とドライバ回路19は、コントローラ2と接続されている。
【0032】
光源10は、駆動回路を含んでおり、コントローラ2による制御を受けて光を放出する。この光源10は、上記した検証用光源と同様に、青色LEDと青色LEDの発光が入射する位置に配置された黄色蛍光体とを備えた白色LEDであり、青色LEDにて黄色蛍光体を励起し、青色と黄色の混色によって白色を得るものである。
図2に示したように、光源10の出射光は、最大強度を示す波長ピークのピーク波長が440nmである。第2の発光ピークのピーク波長は545nm付近である。つまり、光源10から放出される白色光は、青色光ピークと黄色光ピークを含んでいる。
【0033】
リフレクタ11は、光源10に対応づけて配置されており、光源10から放出される光が液晶素子15の位置(一例として液晶素子15の厚さ方向の略中央)で焦点を結ぶように反射及び集光して偏光ビームスプリッタ12の方向へ導き、液晶素子15へ入射させる。リフレクタ11は、例えば楕円面状の反射面を有する反射鏡である。この場合、光源10は、リフレクタ11の反射面の焦点付近に配置することができる。なお、リフレクタ11に代えて集光部としてレンズを用いてもよい。
【0034】
偏光ビームスプリッタ12は、入射光のうち特定方向の偏光を透過し、これと直交方向の偏光を反射させる透過反射型偏光素子であり、液晶素子15の光入射面側においてこの光入射面に対して斜めに配置されている。このような偏光ビームスプリッタ12としては、例えばワイヤーグリッド型偏光素子や多層膜偏光素子などを用いることができる。
【0035】
リフレクタ13は、偏光ビームスプリッタ12によって反射される光が入射し得る位置に設けられており、入射した光が液晶素子15の位置で焦点を結ぶように反射及び集光して偏光ビームスプリッタ12へ入射させる。
【0036】
1/4波長板14は、偏光ビームスプリッタ12とリフレクタ13の間の光経路上に配置されており、入射する光に位相差を与える。本実施形態では、偏光ビームスプリッタ12によって反射された光は、1/4波長板14を透過し、リフレクタ13で反射されて再度1/4波長板14を透過することで偏光方向が90°回転して偏光ビームスプリッタ12へ再入射する。それにより、再入射した光は偏光ビームスプリッタ12をより透過しやすい状態となるので光の利用効率が向上する。
【0037】
なお、
図11(B)に示す変形実施例の車両用灯具1aのように、1/4波長板14に代えて、1/2波長板14aを用いることもできる。この場合には、1/2波長板14aは、偏光ビームスプリッタ12によって反射された光は入射せず、この光がリフレクタ13で反射された光が入射する位置に配置される。
【0038】
液晶素子15は、リフレクタ11、13のそれぞれにより反射及び集光された光の焦点を含む位置に配置され、当該光が入射するように配置されている。液晶素子15は、互いに独立に制御可能な複数の画素部(光変調部)を備えている。本実施形態では、液晶素子15は、各画素部に駆動電圧を与えるためのドライバ回路19を有している。ドライバ回路19は、コントローラ2から供給される制御信号に基づいて、液晶素子15に対して、各画素部を個別に駆動するための駆動電圧を与える。図示のように液晶素子15に入射する光は、液晶素子15の光入射面に対して広角に入射する。具体的には、光入射面の法線方向に対して40°~60°くらいの広角に光が入射する。
【0039】
本実施形態では、液晶素子15の第1基板51が偏光ビームスプリッタ12と対向し、第2基板52が偏光板17と対向するように各基板が配置されているものとする。すなわち、第2基板52側が液晶素子15としての光出射側となり、第1基板51側が液晶素子15としての光入射側となるように各基板が配置されているものとする。
【0040】
光学補償板16は、液晶素子15を透過した光の位相差を補償し、偏光度を高めるためのものであり、液晶素子15の光出射面側に配置されている。具体的には、光学補償板16は、液晶層15の位相差と合算した位相差が0またはそれに近い値となるようにその位相差が設定される。なお、光学補償板16は省略されてもよい。
【0041】
偏光板17は、液晶素子15の光出射面側に配置されている。偏光ビームスプリッタ12、偏光板17とこれらの間に配置された液晶素子15によって、車両の前方へ照射する光の配光パターンに対応した像が形成される。偏光板17の透過軸は、偏光ビームスプリッタ12の透過軸に対して略直交する方向となるように配置される。また、偏光板17と偏光ビームスプリッタ12の各透過軸は、液晶素子15の液晶層57の層厚方向の略中央における電圧無印加時の配向方向に対して平面視で略45°の角度をなす方向となるようにそれぞれ配置される。
【0042】
投影レンズ18は、リフレクタ11、13により反射及び集光され、液晶素子15を透過した光が入射し得る位置に配置されており、この入射した光を車両の前方へ投影する。投影レンズ18は、その焦点が液晶素子15の液晶層に結ばれるように配置されている。投影レンズ18の光軸は図中において一点鎖線で示されるように、図中の左右方向に沿っている。
【0043】
図12は、一実施形態の液晶素子の模式的な断面図である。
図13(A)は、第1基板の電極構造を示す平面図である。
図13(B)は、第2基板の第1層の電極構造を示す模式的な平面図である。
図13(C)は、第2基板の第2層の電極構造を示す模式的な平面図である。
図14(A)は、各配線部と各共通電極の配置状態を示す模式的な平面図である。
図14(B)は、
図14(A)における各共通電極の付近を拡大して示す模式的な平面図である。本実施形態の液晶素子15は、対向配置された第1基板51及び第2基板52、複数の画素電極(個別電極)53a、53b、共通電極(対向電極)54a、54b、54c、54d、配向膜55、56、絶縁膜57、複数の配線電極58a、58b、58c、液晶層59を含んで構成されている。なお、共通電極54a~54cが「第1対向電極」並びに「サブ対向電極」に対応し、共通電極54dが「第2対向電極」に対応する。
【0044】
第1基板51及び第2基板52は、それぞれ、例えば平面視において矩形状の基板であり、互いに対向して配置されている。第1基板51と第2基板52の間には、例えば樹脂膜などからなる球状スペーサー(図示省略)が分散配置されており、それら球状スペーサーによって基板間隙が所望の大きさ(例えば数μm程度)に保たれている。第1基板51及び第2基板52は、ソーダライムガラスを用いて形成されている。なお、球状スペーサーに代えて、樹脂等からなる柱状体を第1基板51側若しくは第2基板52側に設け、それらをスペーサーとして用いてもよい。
【0045】
複数の画素電極53a、53bは、第1基板51の一面側に設けられている。これらの画素電極53a、53bは、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。本実施形態では、各画素電極53a、53bと共通電極54a、54b、54c、54dとが向かい合う部分において画素部(光変調部)が構成される。
【0046】
図13(A)に示すように、各画素電極53aは、例えば平面視において図中の上下方向に長い矩形状の部分を有するように構成されており、当該部分が図中の左右方向に沿って配列するように配置されている。また、画素電極53bは、例えば平面視において図中の左右方向に長い矩形状の部分を有するように構成されており、当該部分が図中において各画素電極53aの上側となるように配置されている。各画素電極53a、53bは、相互間には隙間が設けられており、互いに物理的・電気的に独立している。また、各画素電極58a、53bには外部接続端子部53eまでの間をつなぐ配線が接続されている。外部接続端子部53eは、ドライバ回路19と液晶素子15を接続するための端子部である。
【0047】
図中に点線の楕円dで示す高照度帯(被照射領域)は、液晶素子15へ広角に入射する光のうち所定値以上の照度を有する光が集光されて照射される領域であり、各画素電極53aの中心位置cを挟んで配列する4つの画素電極53aの一部と画素電極53bの一部に渡る領域に形成される。上記した通り、高照度帯は、最大光度の発光ピークを450nm以下の波長域に有する白色光が入射することによる放射エネルギーが36000J/mm2以上となる領域である。
【0048】
照明装置の一例としての車両用灯具1(又は1a)においては、各画素電極53a、53bを透過した光が投影レンズ18によって反転投影される。それにより、車両前方に投影される光による配光パターンは、概ね、
図13(A)に示す各画素電極53a、53bの形状を上下左右に反転し、拡大した形状となる。具体的には、各画素電極53aを透過した光による配光パターンが車両前方において相対的に上側にハイビームとして照射され、画素電極53bを透過した光による配光パターンが車両前方において相対的に下側にロービームとして照射される。各画素電極53aの透過状態を個別に制御することで、ハイビームの照射範囲内において前方車両の有無等に応じて選択的に減光(ないし遮光)された領域を形成することができる。
【0049】
共通電極54a、54b、54c、54dは、第2基板52の一面側に設けられている。この共通電極54a、54b、54c、54dは、第1基板51の各画素電極53a等と対向するようにして設けられている。共通電極54a、54b、54c、54dは、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0050】
図13(B)に示すように、共通電極54aは、平面視において略楕円状に構成されており、楕円の長軸が図中の左右方向に沿うように配置されている。共通電極54bは、平面視において共通電極54aの外縁を囲むように略環状に構成されている。共通電極54cは、平面視において共通電極54bの外縁を囲むように略環状に構成されている。別言すると、これらの共通電極54a~54cは、各々の相互間の隙間が同心楕円状の平面視形状となるように構成されている。共通電極54a~54cの各々の相互間の隙間は、可能な限り狭くすることが好ましく、一例として20μm以下とすることが好ましく、さらに10μm以下とすることが好ましい。
【0051】
共通電極54a、54b、54cは、高照度帯(
図13(A)参照)に対応付けた位置に設けられている。つまり、共通電極54a、54b、54cは、高照度帯に対向する位置、に設けられている。また、共通電極54a、54b、54cは、高照度帯に厚み方向で重なる形状に設けられている。一例として、共通電極54a~54cの全体としての平面視形状は、高照度帯の平面視形状と略一致するようにして高照度帯と重なるように設けられるか、高照度帯の平面視形状の外周側に僅かに広がった平面視形状となるようにして高照度帯と重なるように設けられることが好ましい。なお、本実施形態において、共通電極54a、54b、54cは、楕円状または楕円環状に形成されているが、共通電極54dと物理的および電気的独立に駆動できる条件であれば、高照度帯に対向する位置および高照度帯に略一致する形状で、それぞれを矩形状の複数の電極片で構成するなどとすることもできる。
【0052】
共通電極54dは、平面視において各共通電極54a、54b、54cを内側に配置し、これらを含めた全体として図中の左右方向に長い矩形状となるように構成されている。各共通電極54a、54b、54c、54dは、相互間に隙間が設けられており、互いに物理的・電気的に独立している。各共通電極54a、54b、54c、54dは、全体として矩形状であり、
図13(A)に点線の矩形eで示す領域において各画素電極53a、53bと対向配置される。
【0053】
配向膜55は、第1基板51の一面側において各画素電極53a、53bを覆うようにしてそれらの上側に配置されている。配向膜56は、第2基板52の一面側において共通電極54a、54b、54c、54dを覆うようにしてその上側に配置されている。これらの配向膜55、56は、液晶層59の配向状態を規制するためのものである。各配向膜55、56は、例えばラビング処理等の一軸配向処理が施されており、その方向に沿って液晶層57の液晶分子の配向を規定する一軸配向規制力を有している。各配向膜55、56への配向処理の方向は、例えば互い違い(アンチパラレル)となるように設定される。各配向膜55、56と液晶層59との界面近傍におけるプレティルト角は例えば89°程度である。一例として本実施形態では、脂環式ポリイミド又は脂環式ポリアミック酸による配向膜を用いる。
【0054】
絶縁膜57は、第2基板52の一面側において各配線電極58a、58b、58c、58dを覆うようにしてそれらの上側に配置されている。絶縁膜57としては、例えば酸化珪素膜などの無機絶縁膜、あるいは有機絶縁膜を用いることができる。
【0055】
各配線部58a、58b、58c、58dは、第2基板52の一面側において、絶縁膜57を介在させて各共通電極54a、54b、54c、54dよりも第2基板52の一面に近い側に設けられている。各配線部58a、58b、58c、58dは、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
図14(A)及び
図14(B)に示すように、配線部58aは、絶縁膜57に設けられたスルーホールを介して共通電極54aと接続されている。配線部58bは、絶縁膜57に設けられたスルーホールを介して共通電極54bと接続されている。配線部58cは、絶縁膜57に設けられたスルーホールを介して共通電極54cと接続されている。配線部58dは、絶縁膜57に設けられたスルーホールを介して共通電極54dと接続されている。なお、
図14(A)及び
図14(B)において各共通電極54a~54cと各配線部58a~58cとが重なる領域内の黒丸はスルーホールの位置を示している。同様に、共通電極54dと配線部58dとが重なる領域内の直線はスルーホールの位置を示している。
【0056】
図13(C)に示すように、各配線部58a、58b、58cは、各共通電極54a、54b、54cとスルーホールを介して接続する部位とこれらの部位から外部接続端子部58eまでの間をつなぐ部位を有する。また、配線部58dは、共通電極54dとスルーホールを介して接続する部位とこれらの部位から外部接続端子部58eまでの間をつなぐ部位を有する。外部接続端子部58eは、ドライバ回路19と液晶素子15を接続するための端子部である。
【0057】
液晶層59は、第1基板51と第2基板52の間に設けられている。液晶層59、例えば、流動性を有するネマティック液晶材料を用いて構成される。液晶層59、例えば、負の誘電率異方性を有し、屈折率異方性が約0.13の液晶材料を用いて構成される。液晶層59の層厚は、例えば4μm程度とすることができる。
【0058】
本実施形態の液晶素子15では、高照度帯に対応付けて各共通電極54a~54cを設けているので、高照度帯への光照射の累積時間が大きくなることに起因して透過率の低下が生じた場合に、これらの共通電極54a~54cを用いることで、共通電極54dとは異なる大きさの電圧(例えば、より高い電圧)を液晶層59へ印加することが可能となる。それにより、高照度帯における透過率の低下を補償し、高照度帯における透過率を高めることが可能となる。例えば、コントローラ2において光源10の累積駆動時間を計測し、この累積駆動時間を高照度帯への光照射の累積時間とみなすことで、累積時間の増加に応じて各共通電極54a~54cへの印加電圧を制御することができる。以下、そのような駆動を行うための構成例を説明する。
【0059】
図15(A)は、液晶素子を駆動するためのドライバ回路の構成例を示すブロック図である。構成例のドライバ回路19は、クロック発生器80、セグメントドライバ81、コモンドライバ82及び電源83を含んで構成されている。電源83は、セグメントドライバ81及びコモンドライバ82へ電圧を供給するものである。
【0060】
クロック発生器80は、セグメントドライバ81及びコモンドライバ82に対してクロック信号を供給する。このクロック信号を用いることで、セグメントドライバ81とコモンドライバ82の動作を同期させることができる。
【0061】
セグメントドライバ81は、各画素電極53a、53bに対してそれぞれ個別に印加するための電圧を生成する。コモンドライバ82は、各共通電極54a~54dに対してそれぞれ個別に印加するための電圧を生成する。本実施形態では、例えば一般に流通する液晶素子用ドライバを用いてセグメントドライバ81及びコモンドライバ82を構成することができる。
【0062】
詳細には、本実施形態ではコモンドライバ82についても、一般に流通する液晶素子用ドライバのセグメント電極用出力端子からの出力電圧を用いるように構成することで、複数の共通電極54a~54dに対して個別に電圧を印加できるようにしている。
【0063】
図15(B)は、セグメントドライバから出力される電圧の例を示す波形図である。セグメントドライバ81から出力される電圧は、最大電圧を供給する場合であれば、1フレーム中の前半において基準電位Vss(例えば0V)であり、後半において駆動電圧+VLCDとなるように生成される。このセグメントドライバ81からの出力電圧が各画素電極53a等へ個別に供給される。
【0064】
図15(C)は、コモンドライバから出力される電圧の例を示す波形図である。セグメントドライバ81の場合と同様に、コモンドライバ82から出力される電圧は、最大電圧を供給する場合であれば、1フレーム中の前半において駆動電圧+VLCDであり、後半において基準電位Vss(例えば0V)となるように生成される。このコモンドライバ82からの出力電圧が各共通電極54a~54dへ個別に供給される。
【0065】
図16(A)及び
図16(B)は、各電極及び電極間に印加される電圧の一例を示す波形図である。各図中の上段に示す波形は、画素電極53a等の1つに対してセグメントドライバ81から印加される電圧の波形である。
図16(A)では、最大電圧を供給する場合が示されており、1フレーム中の前半1/2フレームにおいて基準電位であるVSS(例えば0V)、後半1/2フレームで駆動電圧である+VLCDとなる波形が示されている。各図中の中段に示す波形は、共通電極54a等の1つに対してコモンドライバ82から印加される電圧の波形である。
図16(A)では、最大電圧を供給する場合が示されており、1フレーム中の前半1/2フレームにおいて駆動電圧である+VLCD、後半1/2フレームで基準電位であるVSS(例えば0V)となる波形が示されている。
【0066】
各図中の下段に示す波形は、1つ画素電極53a等とこれに対向配置された1つの共通電極54a等との間(電極間)に印加される電圧の波形である。
図16(A)では、最大電圧を供給する場合が示されている。画素電極53a等の側の電位をプラスと定義すると、電極間には、1フレーム中の前半1/2フレームにおいて駆動電圧-VLCD、後半1/2フレームにおいて駆動電圧+VLCDの各電圧が印加される。別言すれば、極性が±VLCDの間で変化する交流電圧が電極間に印加される。
【0067】
また、
図16(B)に示すように、位相制御(PWM制御)を用いて、画素電極53a等への電圧に対して共通電極54a等への電圧の位相を1/2フレーム内でαだけずらすことで電極間に駆動電圧+VLCD、駆動電圧-VLCDのそれぞれが印加される期間を増減させることができる。それにより、電極間に印加される電圧の実効値を可変に設定することができる。従って、液晶素子15への光源10からの光照射の累積時間が増加するのに応じて、コントローラ2によってドライバ回路19を制御することによって共通電極54a~54cと対応する画素電極53aとの間に印加される電圧の実効値を大きくすることで、高照度帯における透過率の低下を抑制することが可能となる。このため、例えば初期状態において最大透過率の95%程度を上限の透過率として液晶素子15の駆動電圧を設定しておき、累積時間の増加後において駆動電圧を増加させる余地を残しておくことが好ましい。
【0068】
なお、画素電極と共通電極との電極間電圧の実効値を位相制御(PWM制御)によって増減させるのに代えて電極間電圧の実効値の大きさを直接的に増減させてもよい。ただし、位相制御を用いる方が電源の構成を簡素にすることができる点でより好ましい。
【0069】
以上のような実施形態によれば、照明装置ないしこれを用いる車両用灯具システムにおける配光パターン中の明るさの低下した領域の発生を抑えることが可能となる。
【0070】
なお、本開示は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、本開示を適用可能な照明装置の一例として車両用灯具を挙げていたがこれに限定されない。また、画素電極や共通電極の構成は一例であり、上記した実施形態のものに限定されない。例えば、共通電極54a~54cを一体にして1つの共通電極としてもよいし、他方、共通電極54a~54cを更に細分化してもよい。
【0071】
図17(A)は、変形実施例の各共通電極の付近を拡大して示す模式的な平面図である。
図17(B)は、変形実施例の配線部の構成を示す模式的な平面図である。この変形実施例の液晶素子の基本的な構成は上記した実施形態の液晶素子15と同じであり、各配線部58a~58cに接続された画素間電極68a~68cが追加されている点のみが異なっている。画素間電極68a~68cは、相互間に隙間を設けて形成されており、物理的・電気的に独立している。以下、相違点について詳細に説明する。
【0072】
具体的には、画素間電極68aは、共通電極54aよりも一回り大きな楕円状の平面視形状に設けられており、配線部58aと接続されている。また、画素間電極68aは、スルーホールを介して共通電極54aと接続されている。それにより、画素間電極68aは、共通電極54aへの電圧印加時にこの共通電極54aと同電位になる。この画素間電極68aは、共通電極54aと平面視で重なるように配置されている。また、画素間電極68aは、外周部が共通電極54aの外周部よりも外側にはみ出しており、このはみ出した部分が共通電極54aと共通電極54bとの境界部(相互間の隙間、すなわち画素間領域)と重なるように配置されている。
【0073】
画素間電極68bは、画素間電極68aの周りを囲むようにして平面視で略環状に設けられており、配線部58bと接続されている。また、画素間電極68bは、スルーホールを介して共通電極54bと接続されている。それにより、画素間電極68bは、共通電極54bへの電圧印加時にこの共通電極54bと同電位になる。この画素間電極68bは、共通電極54bと共通電極54cとの境界部(相互間の隙間)と重なるように配置されている。
【0074】
画素間電極68cは、画素間電極68bの周りを囲むようにして平面視で略環状に設けられており、配線部58cと接続されている。また、画素間電極68cは、スルーホールを介して共通電極54cと接続されている。それにより、画素間電極68cは、共通電極54cへの電圧印加時にこの共通電極54cと同電位になる。この画素間電極68cは、共通電極54cと共通電極54dとの境界部(相互間の隙間)と重なるように配置されている。
【0075】
図18(A)は、
図17(A)に示すb-b線における第2基板52の各電極の断面図である。上記したように、画素間電極68aは、共通電極54aと共通電極54bとの間の隙間69aと図中の上下方向において重なるように配置されている。それにより、隙間69aを介して画素間電極68aから液晶層59に共通電極54aと略同電位の電圧を印加することができる。このため、隙間69aに起因して配光パターンに生じ得る暗線を防ぎ、あるいは軽減することができる。
【0076】
同様に、画素間電極68bは、共通電極54bと共通電極54cとの間の隙間69bと図中の上下方向において重なるように配置されている。それにより、隙間69bを介して画素間電極68bから液晶層59に共通電極54bと略同電位の電圧を印加することができる。このため、隙間69bに起因して配光パターンに生じ得る暗線を防ぎ、あるいは軽減することができる。同様に、画素間電極68cは、共通電極54cと共通電極54dとの間の隙間69cと図中の上下方向において重なるように配置されている。それにより、隙間69cを介して画素間電極68cから液晶層59に共通電極54cと略同電位の電圧を印加することができる。このため、隙間69cに起因して配光パターンに生じ得る暗線を防ぎ、あるいは軽減することができる。
【0077】
なお、
図18(B)に示す変形実施例のように、各共通電極54a~54dに対して
それらと略同一形状で各共通電極54a~54dに平面視で重なって配置される絶縁膜70a、70b、70c、70dを設けてもよい。絶縁膜70a等としては、例えば酸化珪素膜などの無機絶縁膜、あるいは有機絶縁膜を用いることができる。この場合において、各絶縁膜70a等は、絶縁膜57の膜厚以下の膜厚とすることが好ましい。各絶縁膜70a等を設けることで、各共通電極54a等から液晶層59に印加される電圧と、各隙間69a等を介して各画素間電極68a等から液晶層59に印加される電圧との大きさの差異をより少なくし、あるいは略一致させることができる。それにより、配光パターンの明るさムラをより低減することができる。
【0078】
本開示は、以下に付記する特徴を有する。
(付記1)
発光ダイオードを用いて構成されており光を放出する光源と、
前記光源から放出される前記光を集光する集光部と、
各々がガラスからなる第1基板及び第2基板、当該第1基板と第2基板との間に配置される液晶層、前記第1基板に設けられた複数の画素電極、並びに前記第2基板に設けられた対向電極を有しており、前記集光部によって集光される前記光の焦点位置に配置される液晶素子と、
前記液晶素子を挟んで対向配置される一対の偏光素子と、
前記液晶素子を透過する前記光が入射し得る位置に配置される投影レンズと、
を含み、
前記光源から放出される前記光は、最大光度の発光ピークを450nm以下の波長域に有し、
前記液晶素子は、前記光が入射することによる放射エネルギーが36000J/mm2以上となる被照射領域を有しており、
前記液晶素子の前記対向電極は、平面視における前記被照射領域に対応付けて配置された第1対向電極と、当該第1対向電極とは物理的及び電気的に独立して設けられた第2対向電極と、を有する、
照明装置。
(付記2)
前記第1対向電極は、平面視において前記第2対向電極の内側に配置されている、
付記1に記載の照明装置。
(付記3)
前記第1対向電極は、各々の相互間の隙間が平面視で同心楕円状となるように構成された複数のサブ対向電極を有する、
付記1又は2に記載の照明装置。
(付記4)
前記液晶素子は、前記複数のサブ対向電極の各々に対応付けて設けられた複数の配線部を更に有しており、
前記複数の配線部は、各々、前記複数のサブ対向電極との間に絶縁膜を介在させて前記第2基板の一面側に設けられており、スルーホールを介して前記複数のサブ対向電極の何れかと接続されている、
付記3に記載の照明装置。
(付記5)
前記複数の配線部は、前記複数のサブ対向電極よりも前記第2基板の一面に近い側に配置されている、
付記4に記載の照明装置。
(付記6)
前記液晶素子に駆動電圧を供給するドライバ回路を更に含み、
前記ドライバ回路は、前記複数の画素電極、前記第1対向電極及び前記第2対向電極の各々に対して個別に電圧供給可能である、
付記1~5の何れか1つに記載の照明装置。
(付記7)
前記ドライバ回路は、矩形波の前記駆動電圧を供給しており、当該矩形波の位相をずらすこと又は当該矩形波の振幅を増減することによって前記駆動電圧の実効値を増減する、
付記6に記載の照明装置。
(付記8)
前記ガラスがソーダライムガラスである、
付記1~7の何れか1つに記載の照明装置。
(付記9)
付記1~8の何れかに記載の照明装置を用いて構成される車両用灯具と、
前記液晶素子の動作を制御するコントローラと、
を含む、車両用前照灯システム。
(付記10)
付記7に記載の照明装置を用いて構成される車両用灯具と、
前記ドライバ回路を制御するコントローラと、
を含み、
前記コントローラは、前記光源による光照射の累積時間の増加に伴って前記液晶素子の前記第1対向電極へ供給する前記駆動電圧の実効値を大きくするように前記ドライバ回路を制御する、
車両用前照灯システム。
【符号の説明】
【0079】
1:車両用灯具、2:コントローラ、3:カメラ、10:光源、11:リフレクタ(反射部材)、13:偏光ビームスプリッタ、14:1/4波長板、15:液晶素子、16:光学補償板、17:偏光板、18:投影レンズ、19:ドライバ回路、51:第1基板、52:第2基板、53a、53b:画素電極、54a、54b、54c、54d:共通電極、55、56:配向膜、57:絶縁膜、58a、58b、58c、58d:配線部、59:液晶層