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特開2024-58192羽口損耗量の測定装置および測定方法ならびに高炉の操業方法
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  • 特開-羽口損耗量の測定装置および測定方法ならびに高炉の操業方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058192
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】羽口損耗量の測定装置および測定方法ならびに高炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 7/24 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
C21B7/24 304
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165402
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 雅史
(72)【発明者】
【氏名】藤田 厚
(72)【発明者】
【氏名】白石 晃好
(72)【発明者】
【氏名】城山 友孝
(72)【発明者】
【氏名】阪本 貴志
(72)【発明者】
【氏名】木宮 宏治
【テーマコード(参考)】
4K015
【Fターム(参考)】
4K015KA01
(57)【要約】
【課題】使用後の羽口損耗量を正確に測定できる技術を提供する。
【解決手段】、高炉用羽口の損耗量を計測する測定装置であって、前記測定装置は、前記羽口の底面を基準として前記羽口の先端側に配置された板状治具と、前記羽口の先端面の位置を計測するために前記板状治具に取り付けられた距離計と、前記板状治具を前記羽口に取り付ける固定治具と、を備える装置である。その装置を用い、事前に計測した使用前の羽口先端面の位置と、使用後の羽口先端面の位置との差を羽口損耗量とする方法である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉用羽口の損耗量を計測する測定装置であって、
前記測定装置は、前記羽口の底面を基準として前記羽口の先端側に配置された板状治具と、前記羽口の先端面の位置を計測するために前記板状治具に取り付けられた距離計と、前記板状治具を前記羽口に取り付ける固定治具と、を備える、羽口損耗量の測定装置。
【請求項2】
前記距離計は、非接触式距離計である、請求項1に記載の羽口損耗量の測定装置。
【請求項3】
前記距離計は、レーザ距離計である、請求項2に記載の羽口損耗量の測定装置。
【請求項4】
前記距離計は、前記羽口の中心軸に対して動径方向に取り付け位置を調整可能である、請求項1に記載の羽口損耗量の測定装置。
【請求項5】
前記板状治具は、前記羽口の中心軸に対して回転可能に前記固定治具に取り付けられている。請求項1に記載の羽口損耗量の測定装置。
【請求項6】
前記固定治具は、前記羽口の底面側給排水口のいずれかに螺子固定される、請求項1に記載の羽口損耗量の測定装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の羽口損耗量の測定装置を用い、
事前に計測した使用前の羽口先端面の位置と、使用後の羽口先端面の位置との差を羽口損耗量とする、羽口損耗量の測定方法。
【請求項8】
請求項7に記載の羽口損耗量の測定方法によって、羽口損耗量を測定するステップと、
測定された羽口損耗量から前記羽口の寿命を予測するステップと、
を含む、高炉の操業方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉操業において、使用済みの羽口損耗量を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉の羽口の破損は、炉内への浸水、羽口大破により溶融物や炉内ガスの噴出につながるため、非常にリスクが大きい。破損に至った場合は、突発休風を実施する必要があり、コスト・生産量への影響が甚大である。さらに、漏水した状態での休風入り、立ち上げ作業を行うため、通常よりも操業トラブルにつながるリスクが大きい。
【0003】
羽口は、高炉内に突き出ており高温雰囲気にさらされるため、溶損を防止することを目的として、羽口本体内部に水路を設け冷却水を循環している。しかしながら、高炉炉内ガス温度は最高で2000℃以上にも上昇すると言われており、冷却構造を有する羽口においても高温雰囲気における母材(羽口本体) の強度低下が起こりやすい。そして、炉内の内容物による摩擦に対し充分な強度を有しているものではない。その結果、羽口先端部の摩耗が進行し、ついには冷却用水路まで羽口本体が摩耗することによって冷却水の高炉内への漏水トラブルが発生することがある。
【0004】
その対策として、特許文献1には、高温雰囲気でも寿命が長く、また、その交換時期を羽口本体の実際の損耗状況に応じて適切に判断することができる高炉用羽口が開示されている。
【0005】
また、羽口破損を防ぐための羽口管理として、羽口寿命の推定が非常に重要である。羽口寿命を推定するためには、使用後の羽口損耗量を正確に測定することが有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004- 91887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術には、以下のような課題があった。
すなわち、特許文献1に開示の技術では、羽口先端の周方向で特定点の損耗が管理できるだけである。羽口の寿命は最も損耗の大きい位置で定まるところ、その位置が温度センサの位置と異なる場合には、正確に羽口の寿命が管理できない。
【0008】
また、使用後の羽口損耗量の測定は、これまで作業員が目視で目盛定規を羽口に当てて計測していた。そのため2つの問題が生じていた。まず、測定誤差の問題である。定規の当て方や熟練度により目盛りの読みの精度がばらつくことによるものである。次に、知りたい情報が得られない問題である。管理したいのは羽口先端の冷却水通路までの残肉量であるにもかかわらず、円環状羽口先端面の厚み中心に直接定規を当てることができていない。つまり、残肉量が正しく測定できていなかった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、使用後の羽口損耗量を正確に測定できる装置および方法を提供する。加えて、羽口の損耗状況を考慮した高炉の操業方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる羽口損耗量の測定装置は、高炉用羽口の損耗量を計測する測定装置であって、前記測定装置は、前記羽口の底面を基準として前記羽口の先端側に配置された板状治具と、前記羽口の先端面の位置を計測するために前記板状治具に取り付けられた距離計と、前記板状治具を前記羽口に取り付ける固定治具と、を備えることを特徴とする。
【0011】
なお、本発明にかかる羽口損耗量の測定装置は、
(a)前記距離計は、非接触式距離計であること、
(b)前記距離計は、レーザ距離計であること、
(c)前記距離計は、前記羽口の中心軸に対して動径方向に取り付け位置を調整可能であること、
(d)前記板状治具は、前記羽口の中心軸に対して回転可能に前記固定治具に取り付けられていること、
などがより好ましい解決手段になり得る。
【0012】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる羽口損耗量の測定方法は、上記いずれかの羽口損耗量の測定装置を用い、事前に計測した使用前の羽口先端面の位置と、使用後の羽口先端面の位置との差を羽口損耗量とすることを特徴とする。
【0013】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる高炉の操業方法は、上記羽口損耗量の測定方法によって、羽口損耗量を測定するステップと、測定された羽口損耗量から前記羽口の寿命を予測するステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる羽口損耗量の測定装置および測定方法ならびに高炉の操業方法によれば、基準に対し羽口先端面の位置を正確に測定できる。もって、羽口損耗量、すなわち、残肉量を正確に測定できる。それにより、羽口寿命を正確に管理できるようになり、羽口交換頻度の減少、事故の抑制に寄与し、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態にかかる羽口損耗量の測定装置を示す模式図である。
図2】上記実施形態にかかる測定装置の分解組立図である。
図3】従来の羽口先端部の損耗量測定方法を表す模式図である。
図4】同一の羽口について本実施形態および従来法の羽口損耗量の測定結果を比較するグラフである。
図5】15個の羽口について本実施形態および従来法で測定した最大損耗量の頻度分布を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
図1に本発明の一実施形態にかかる羽口損耗量の測定装置の使用状態を断面模式図で示す。また、図2は上記測定装置の模式的に示す分解組立図である。
【0018】
羽口1は、銅または銅合金製であって、鋳造によっていわゆる収縮筒型と称される形に形成されている。羽口1の内部には、冷却水水路7が形成されている。高炉の鉄皮側、つまり、羽口1の底面3より注入される冷却水は、冷却水水路7を通って羽口1の先端部2を冷却した後、羽口の底面3より排出される。
【0019】
本実施形態にかかる羽口損耗量の測定装置10は、板状治具11と、距離計12と、固定治具13とを備える。板状治具11は、羽口1の底面3を基準に、羽口1の中心軸4方向で、羽口1の先端側の所定の位置に固定されている。板状治具11は円盤状であることが好ましい。また、板状治具11は羽口1の中心軸4に対して回転可能に固定治具13に取り付けられていることが好ましい。羽口1の先端部2は損耗によって形状が変化する。したがって、使用後の羽口1の先端部2と使用前の羽口1の先端部2では位置や形状が異なっており、基準とすることができない。したがって、損耗のおそれのない羽口1の底面を基準とすることにより、使用前後の羽口1の先端面位置、つまり、損耗量、ひいては、残肉量を把握することができる。
【0020】
距離計12は、羽口1の先端面の位置を計測するために板状治具11に固定されている。距離計12は接触式変位計、非接触式距離計であるレーザ距離計などが適用できる。非接触式距離計であることが摩耗などのおそれがないので好ましい。レーザ距離計とすることが精度の点で好ましい。距離計12の測定値は有線または無線通信などで外部の機器に伝送できることが好ましい。距離計12は羽口1の中心軸4に対して動径方向に取り付け位置を調整可能であることが好ましい。
【0021】
固定治具13は基準となるは羽口1の底面に緊密に固定される。固定治具13は羽口1の底面3側の給水孔5や排水孔6に螺子固定されることが好ましい。少なくとも2か所以上、好ましくは3か所以上を螺子固定することで距離計12による測定の位置精度が向上する。固定治具13は羽口1の中心軸4を貫通する軸部15を持ち、軸部15の先端に板状治具11を回転可能に固定している。板状治具11および固定治具13はアルミニウムまたはアルミニウム合金製とすることが軽量で取り扱いに便利であるので好ましい。
【0022】
次に、他の実施形態にかかる羽口損耗量の測定方法について説明する。上記測定装置が好適に適用できる。
【0023】
(1)まず、羽口1の先端面の位置を計測するために、羽口1の先端を横向きに設置する。羽口1の先端面を下向きに、たとえば、定盤上に載置すると、最も側定する必要のある円環状先端面の厚み方向中央部分を測定することが難しい。一方、羽口1の先端を上向きとするには、羽口1を吊り上げる必要がある。しかしながら、通常羽口は約300kgの重量物であるため、羽口1を上向きにする作業は非常に負荷が大きい。
【0024】
(2)上記測定装置10の固定治具13の軸部15を羽口1の中心軸4に沿って挿入し、基準面となる羽口1の底面3に固定治具13を設置する。固定治具13は羽口1の給排水口5、6に螺子固定する。
(3)羽口1の内部を貫通して先端部の外に突き出した固定治具13の軸部先端に板状治具11の回転中心を回転可能に固定する。
(4)板状治具11上で羽口1の中心軸4に対し動径方向の所定位置に距離計12を設置する。
(5)距離計12を用いて、羽口1先端面の動径方向同一で、周方向に複数点の距離を先端面位置として計測する。
【0025】
事前に使用前の羽口1の先端面位置を上記方法で計測し、同様に使用後の羽口1の対応する動径座標および周方向座標の先端面位置を上記方法で計測し、その距離の差を羽口損耗量とする。円環状をなす羽口1の先端面に対し、中心軸4から動径方向で内周、外周および厚み中央について、たとえば、それぞれ周方向各8方位の合計24点羽口損耗量を測定し、最大値を最大損耗量と置く。
【0026】
さらに、他の実施形態にかかる高炉の操業方法について説明する。
本実施形態にかかる高炉の操業方法では、上記羽口損耗量の測定方法によって、羽口損耗量を測定するステップと、測定された羽口損耗量から羽口1の寿命を予測するステップと、を含む。
【0027】
羽口損耗量を測定するステップでは、上記羽口損耗量の測定方法に従い、事前に測定した使用前の羽口1の先端面の位置と、対応する使用後の羽口1の先端面の位置とを比較し、羽口損耗量を測定する。ここで、羽口損耗量は、冷却水水路の内面から羽口1の先端面までの肉厚に対する百分率で表すことができる。
【0028】
羽口の寿命を予測するステップでは、得られた羽口損耗量から最大損耗量を抽出し、冷却水水路までの残肉量を求め、残肉量が0となるまでの期間を羽口寿命として計算する。
ここで、羽口の寿命は、下記式より推定することが可能である。
羽口の寿命=(羽口の使用日数[日])/(羽口損耗量[%]/100)
【0029】
たとえば、使用前の羽口1の先端部2の厚み、つまり、冷却水水路の内面から羽口1の先端面までの肉厚を100%とした時、使用後の残肉量が40%超えであれば、次回の羽口交換時期を所定期間だけ伸ばす対応を行う。また、使用後の残肉量が10%より小さければ次回の羽口交換時期を所定期間だけ短くする対応を行う。残肉量が10~40%の範囲であれば、次回の羽口交換時期は、前回と同様とする。もって、羽口の損耗トラブルを抑止しつつ、羽口交換頻度を減少して、高炉操業の効率化を図ることができる。
【実施例0030】
発明例として、上記実施形態にかかる羽口損耗量の測定装置として、距離計にレーザ距離径を用いた。羽口は使用前のものと180日間使用後し、冷却水流路が露出するまで損耗していないもの15個を測定に供した。上記実施形態にかかる羽口損耗量の測定方法では、図1に示すように羽口の先端部を横向きとした。上記実施形態では例に示した周方向に各8方位の24点を測定した。従来法にかかる羽口損耗量の測定方法(従来法)は、図3に示すように羽口の先端部を下向きに定盤上に載置して、羽口の外面側の底面から先端面までの距離LOおよび内面側の底面から先端面までの距離LIを定規で目視計測した。従来法では、外面側と内面側を周方向に各8方位の計16点を計測した。羽口損耗量は使用前の羽口と使用後の羽口の測定結果の差より算出した。
【0031】
結果を図4および図5に示す。発明例は従来法と比較して損耗量のばらつきが小さく、適切に測定できていることがわかる。従来法では、損耗量を過大に測定し、羽口交換頻度を増やす恐れがあったり、過小に測定し、冷却水漏れ等の羽口破損トラブルを発生させたりするおそれがあった。
【0032】
加えて、同一羽口について、作業者5人(A~E)で同一羽口の同一測定箇所について、上記実施形態(発明例)と従来法の測定を比較した結果を表1に示す。
表1の結果から、発明例は従来法と比較して人為誤差を排除し、測定精度が改善したことがわかる。
【0033】
【表1】
【符号の説明】
【0034】
1 羽口本体
2 (羽口)先端部
3 (羽口)底面
4 (羽口)中心軸
5 給水孔
6 排水孔
7 冷却水水路
10 測定装置
11 板状治具
12 距離計
13 固定治具
14 螺子
15 軸部

図1
図2
図3
図4
図5