(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058196
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】ジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法、安息香酸化合物の製造方法、ベンズアルデヒド化合物の製造方法、及び臭化水素のリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
C07C 253/30 20060101AFI20240418BHJP
C07C 255/50 20060101ALI20240418BHJP
C07C 205/11 20060101ALI20240418BHJP
C07C 201/12 20060101ALI20240418BHJP
C07C 25/02 20060101ALI20240418BHJP
C07C 17/14 20060101ALI20240418BHJP
C07C 25/13 20060101ALI20240418BHJP
C07C 63/04 20060101ALI20240418BHJP
C07C 51/29 20060101ALI20240418BHJP
C07C 47/55 20060101ALI20240418BHJP
C07C 45/42 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
C07C253/30
C07C255/50
C07C205/11
C07C201/12
C07C25/02
C07C17/14
C07C25/13
C07C63/04
C07C51/29
C07C47/55
C07C45/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165408
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】393021967
【氏名又は名称】イハラニッケイ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】木村 芳一
(72)【発明者】
【氏名】森 音菜
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC30
4H006AC45
4H006AC47
4H006AC51
4H006AC54
4H006BA95
4H006BB12
4H006BB31
4H006BC10
4H006BE01
4H006QN30
(57)【要約】 (修正有)
【課題】環境負荷の低減、安全性の向上等に配慮した、ジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法、安息香酸化合物の製造方法、ベンズアルデヒド化合物の製造方法、及び臭化水素のリサイクル方法の提供。
【解決手段】臭化水素と次亜塩素酸ナトリウムの存在下、かつ酸素の非存在下で、式(1)で表されるトルエン化合物に光照射して光反応により式(2)で表されるジブロモメチルベンゼン化合物を得ることを含む、ジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭化水素と次亜塩素酸ナトリウムの存在下、かつ酸素の非存在下で、下記式(1)で表されるトルエン化合物に光照射して光反応により下記式(2)で表されるジブロモメチルベンゼン化合物を得ることを含む、ジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法。
【化1】
【化2】
上記式中、Xは電子求引性基を示す。
【請求項2】
前記Xが、ニトロ基、シアノ基、ハロゲノメチル基、又はハロゲン原子である、請求項1に記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物が、シアノトルエン、ニトロトルエン、フルオロトルエン、クロロトルエン、ブロモトルエン、ジフルオロメチルトルエン、又はトリフルオロメチルトルエンである、請求項1に記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法。
【請求項4】
水と酸素の存在下、下記式(2)で表される化合物に光照射して光反応により下記式(3)で表される安息香酸化合物を生成し、副生した臭化水素を、請求項1に記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法における前記臭化水素として用いる、請求項1に記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法。
【化3】
【化4】
上記式中、Xは電子求引性基を示す。
【請求項5】
下記式(2)で表される化合物を加水分解して下記式(4)で表されるベンズアルデヒド化合物を生成し、副生した臭化水素を、請求項1に記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法における前記臭化水素として用いる、請求項1に記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法。
【化5】
【化6】
上記式中、Xは電子求引性基を示す。
【請求項6】
水と酸素の存在下、請求項1~5のいずれか1項に記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法により得られたジブロモメチルベンゼン化合物に光照射して光反応により下記式(3)で表される安息香酸化合物を得ることを含む、安息香酸化合物の製造方法。
【化7】
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法により得られたジブロモメチルベンゼン化合物を加水分解して下記式(4)で表されるベンズアルデヒド化合物を得ることを含む、ベンズアルデヒド化合物の製造方法。
【化8】
【請求項8】
水と酸素の存在下、請求項1~5のいずれか1項に記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法により得られたジブロモメチルベンゼン化合物に光照射して光反応により下記式(3)で表される安息香酸化合物を得て、副生した臭化水素を、請求項1~5のいずれか1項に記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法における前記臭化水素として用いることを含む、臭化水素のリサイクル方法。
【化9】
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法により得られたジブロモメチルベンゼン化合物を加水分解して下記式(4)で表されるベンズアルデヒド化合物を得て、副生した臭化水素を、請求項1~5のいずれか1項に記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法における前記臭化水素として用いることを含む、臭化水素のリサイクル方法。
【化10】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法、安息香酸化合物の製造方法、ベンズアルデヒド化合物の製造方法、及び臭化水素のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
安息香酸化合物及びベンズアルデヒド化合物は、医薬、農薬及び材料科学の分野で広く用いられている。これらの化合物は、一般的にはトルエン化合物を酸化することにより合成される。例えば、トルエン化合物を酸化して安息香酸化合物を得る反応では、マンガン又はクロムを含む重金属酸化剤を使用する方法(例えば、特許文献1)が古くから知られている。しかし、重金属酸化物は有害で環境負荷が大きく、大量合成には向いていない。したがって、工業的な生産においては、重金属酸化剤の使用に代えて、トルエン化合物等を高温高圧下で空気酸化する方法(例えば、特許文献2、及び非特許文献1、2)や、塩素化して加水分解する方法(例えば、特許文献3、4、及び非特許文献3)が提案されている。しかし、このような方法も、試薬の毒性、環境負荷、及びプロセスの危険性等の問題が指摘されている。
上記の問題に対処すべく、上記の酸化反応をより安全に、また環境負荷をより抑えて行う方法が提案されている。例えば、臭化水素酸(HBr)、臭化カリウム(KBr)、及び四臭化炭素(CBr4)等の臭素化合物と、過酸化水素、オキソン、及び酸素等を用いて、光照射下で、トルエン化合物やキシレン化合物の酸化反応を生じさせることが提案されている(例えば、非特許文献4~6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】中国特許出願公開第107973707号明細書
【特許文献2】国際公開第2008/111764号
【特許文献3】特開2001-114741号公報
【特許文献4】特開2019-156766号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】N.Hirai,et.al., The Journal of Organic Chemistry, 2003, Vol.68, p.6587
【非特許文献2】T.Nakai,et.al., Tetrahedron Letters, 2010, Vol.51, p.2225
【非特許文献3】N.Rabjohn, Journal of the American Chemical Society, 1954,Vol.76, p.5479
【非特許文献4】T.Sugai, A.Itoh, Tetrahedron Letters, 2007, Vol.48, p.9096
【非特許文献5】K.Moriyama,et.al., Organic Letters, 2012, Vol.14, p.2414
【非特許文献6】K.Zheng,et.al., Synlett, 2020, Vol.31, p.272
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今、持続可能な開発目標(SDGs)への地球規模での取り組みが加速しており、その一環として、化学合成反応による化合物の工業的な生産においても、環境負荷の低減、安全性の向上への一層の取り組みが求められている。例えば、安全性の高い原料ないし試薬を使用すること、原料ないし試薬の無駄を抑えてより高い収率で目的化合物を得ること、有害な副生物を生じないこと、副生物を有効利用(例えばリサイクル)できること、低エネルギーコスト化を実現すること等は、サステイナブル社会の構築に貢献する技術要素として社会的にも価値が高まっている。
【0006】
このような状況下、本発明者は、臭素(Br2)と水(H2O)と空気(酸素、O2)の存在下で、トルエン化合物に光照射すると、LED等の低エネルギー光源を用いた場合でも、無触媒で、安息香酸化合物が高効率に得られることを見出している。この光反応では、トルエン化合物が臭素化されてジブロモメチルベンゼン化合物を生じ、このジブロモメチルベンゼン化合物を経由して安息香酸化合物が生成する。トルエン化合物が電子求引性基を有する場合には、トルエン化合物の臭素化効率が低下するというのが一般的な知見であるが、上記光反応を採用すると、電子求引性基を有するトルエン化合物であっても、目的の安息香酸化合物を高効率に得ることができる。
【0007】
また、本発明者は、上記光反応において、臭素に代えて、臭化水素酸と次亜塩素酸ナトリウムを用いて反応系内で臭素を発生させる方法でも、安息香酸化合物が高効率に得られることを見出している。この光反応は、副生物として臭化水素を含む水溶液を生じるため、この水溶液を回収すれば、当該光反応の臭素源として再利用できる。
他方、この光反応では副生物として、臭化水素に加えて食塩(塩化ナトリウム、NaCl)も生成する。塩化ナトリウムそれ自体は有害ではないものの、回収した臭化水素を含む水溶液の再利用を繰り返すと、回収溶液には塩化ナトリウムが蓄積してしまう問題がある。
臭化水素酸を臭素源として用いる上記光反応スキームを以下に示す。Xは水素原子又は置換基を示す。
【0008】
【0009】
本発明は、臭素と水と酸素の存在下で、置換基として電子求引性基を有するトルエン化合物に光照射して、光反応により、電子求引性基を有する安息香酸化合物を得るに当たり、前記臭素源として臭化水素酸を、次亜塩素酸ナトリウムとともに供給し、この臭化水素酸と次亜塩素酸ナトリウムとの反応により生じる臭素を、前記光反応における前記臭素として用いる、電子求引性基を有する安息香酸化合物の製造方法を基礎とする技術である(当該「光反応」を「一体的光反応方法」とも称する)。そのなかで本発明は、当該製造方法で生じる、副生物の臭化水素を含む水溶液中への塩化ナトリウムの混入を回避する技術に関する。
【0010】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、上記の一体的光反応方法は、電子求引性基を有するトルエン化合物からジブロモメチルベンゼン化合物を生じる第1段階反応と、このジブロモメチルベンゼン化合物から安息香酸化合物を生じる第2段階反応とに整理できること、上記の一体的光反応方法を、酸素を遮断した条件で行うと、第1段階反応で反応を止めることができ(第1段階反応と第2段階反応とを、工程として明確に分離でき)、しかも、トルエン化合物が電子求引性基を有するにもかかわらず、第1段階反応の生成物である目的のジブロモメチルベンゼン化合物が高い収率で、高効率に得られることがわかってきた。これらの知見を踏まえ、酸素遮断下の第1段階反応後に、塩化ナトリウムを除去して上記ジブロモメチルベンゼン化合物を第2段階反応に供すれば、第2段階反応後に塩化ナトリウムを含まない臭化水素酸を回収でき、これを第1段階反応の臭素源として、繰り返し再利用できるとの着想に至った。
本発明は、これらの知見に基づきさらに検討を重ねて完成されるに至ったものである。
【0011】
本発明によれば、次のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法、安息香酸化合物の製造方法、ベンズアルデヒド化合物の製造方法、及び臭化水素のリサイクル方法が提供される。
[1]
臭化水素と次亜塩素酸ナトリウムの存在下、かつ酸素の非存在下で、下記式(1)で表されるトルエン化合物に光照射して光反応により下記式(2)で表されるジブロモメチルベンゼン化合物を得ることを含む、ジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法。
【化2】
【化3】
上記式中、Xは電子求引性基を示す。
[2]
前記Xが、ニトロ基、シアノ基、ハロゲノメチル基、又はハロゲン原子である、[1]に記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法。
[3]
前記式(1)で表される化合物が、シアノトルエン、ニトロトルエン、フルオロトルエン、クロロトルエン、ブロモトルエン、ジフルオロメチルトルエン、又はトリフルオロメチルトルエンである、[1]に記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法。
[4]
水と酸素の存在下、下記式(2)で表される化合物に光照射して光反応により下記式(3)で表される安息香酸化合物を生成し、副生した臭化水素を、[1]~[3]のいずれか1つに記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法における前記臭化水素として用いる、[1]~[3]のいずれか1つに記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法。
【化4】
【化5】
上記式中、Xは電子求引性基を示す。
[5]
下記式(2)で表される化合物を加水分解して下記式(4)で表されるベンズアルデヒド化合物を生成し、副生した臭化水素を、[1]~[3]のいずれか1つに記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法における前記臭化水素として用いる、[1]~[3]のいずれか1つに記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法。
【化6】
【化7】
上記式中、Xは電子求引性基を示す。
[6]
水と酸素の存在下、[1]~[5]のいずれか1つに記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法により得られたジブロモメチルベンゼン化合物に光照射して光反応により下記式(3)で表される安息香酸化合物を得ることを含む、安息香酸化合物の製造方法。
【化8】
[7]
[1]~[5]のいずれか1つに記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法により得られたジブロモメチルベンゼン化合物を加水分解して下記式(4)で表されるベンズアルデヒド化合物を得ることを含む、ベンズアルデヒド化合物の製造方法。
【化9】
[8]
水と酸素の存在下、[1]~[5]のいずれか1つに記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法により得られたジブロモメチルベンゼン化合物に光照射して光反応により下記式(3)で表される安息香酸化合物を得て、副生した臭化水素を、[1]~[5]のいずれか1つに記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法における前記臭化水素として用いることを含む、臭化水素のリサイクル方法。
【化10】
[9]
[1]~[5]のいずれか1つに記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法により得られたジブロモメチルベンゼン化合物を加水分解して下記式(4)で表されるベンズアルデヒド化合物を得て、副生した臭化水素を、[1]~[5]のいずれか1つに記載のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法における前記臭化水素として用いることを含む、臭化水素のリサイクル方法。
【化11】
【0012】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、その数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。例えば、「a~b」と記載されている場合、その数値範囲は、「a以上b以下」である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法によれば、電子求引性基を有する安息香酸化合物や電子求引性基を有するベンズアルデヒド化合物の合成中間体として有用な電子求引性基を有するジブロモメチルベンゼン化合物を、電子求引性基を有するトルエン化合物を出発原料として、少ないエネルギー量で、安全に、簡単に、高効率に得ることができる。また、副生物は実質的に塩化ナトリウムのみであり、この塩化ナトリウムは排水によって簡単に除去できる。
本発明の安息香酸化合物の製造方法及びベンズアルデヒドの製造方法によれば、電子求引性基を有するジブロモメチルベンゼン化合物を出発原料として、目的の電子求引性基を有する安息香酸化合物や電子求引性基を有するベンズアルデヒド化合物を、少ないエネルギー量で、安全に、簡単に、高効率に得ることができる。また、副生物を実質的に臭化水素のみとすることが可能であり、この臭化水素は本発明のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法の臭素源として無駄なく再利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい実施形態を以下に説明する。
以降の説明において、単に「トルエン化合物」、「ジブロモメチルベンゼン化合物」、「安息香酸化合物」又は「ベンズアルデヒド化合物」という場合、特段の断りの無い限り、それぞれ「電子求引性基を有するトルエン化合物」、「電子求引性基を有するジブロモメチルベンゼン化合物」、「電子求引性基を有する安息香酸化合物」又は「電子求引性基を有するベンズアルデヒド化合物」を意味する。
【0015】
[ジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法]
本発明のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法では、臭化水素と次亜塩素酸ナトリウムの存在下、かつ酸素の非存在下で、下記式(1)で表されるトルエン化合物に光照射して光反応により下記式(2)で表されるジブロモメチルベンゼン化合物を得ることを含む。
【0016】
【0017】
【0018】
上記式中、Xは電子求引性基を示す。この電子求引性基としては、例えば、ニトロ基、
シアノ基、ハロゲノメチル基(好ましくはジハロゲノメチル基又はトリハロゲノメチル基)、ハロゲン原子、アシル基(好ましくは炭素数2~20、より好ましくは炭素数2~10、さらに好ましくは炭素数2~5)、アルコシキカルボニル基(好ましくは炭素数2~20、より好ましくは炭素数2~10、さらに好ましくは炭素数2~5)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7~20、より好ましくは炭素数7~10)、カルバモイル基、アルキルスルホニル基(好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~10、さらに好ましくは炭素数2~5)、アリールスルホニル基(好ましくは炭素数6~20、より好ましくは炭素数6~10)、及びスルファモイル基が挙げられるが、これらの基に限定されない。上記電子求引性基として採り得るハロゲノメチル基におけるハロゲン原子、及び上記電子求引性基として採り得るハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が好ましく、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子がより好ましい。
上記電子求引性基は、なかでも、ニトロ基、シアノ基、ハロゲノメチル基、又はハロゲン原子が好ましく、ニトロ基、シアノ基、フルオロメチル基(好ましくはジフルオロメチル基又はトリフルオロメチル基)、又はフッ素原子がより好ましい。
上記式(1)において、上記Xは、メチル基が結合する環構成炭素原子に対して、オルト位、メタ位及びパラ位のいずれに位置してもよく、立体的に嵩高い置換基を有する場合にはメタ位又はパラ位に位置することが好ましい。
【0019】
上記式(1)で表される化合物は、上記式(1)の規定を満たせば特に制限されない。上記式(1)で表される化合物として、例えば、シアノトルエン、ニトロトルエン、フルオロトルエン、クロロトルエン、ブロモトルエン、又はトリフルオロメチルトルエンが挙げられる。これらの化合物が有する2つ置換基の位置関係は特に制限されず、互いにオルト位でもよく、メタ位でもよく、パラ位でもよい。収率の観点からは、互いにメタ位又はパラ位の位置関係であることが好ましい。
上記式(1)で表される化合物は、好ましくは、3-シアノトルエン、4-シアノトルエン、3-ニトロトルエン、4-ニトロトルエン、2-フルオロトルエン、3-フルオロトルエン、4-フルオロトルエン、2-クロロトルエン、3-クロロトルエン、4-クロロトルエン、2-ブロモトルエン、3-ブロモトルエン、4-ブロモトルエン、3-トリフルオロメチルトルエン、又は4-トリフルオロメチルトルエンであり、3-シアノトルエン又は4-シアノトルエンがより好ましい。
【0020】
本発明のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法は、上記の光反応を酸素の非存在下で行う。酸素の非存在下とは、例えば不活性ガス雰囲気中である。不活性ガスとしては、窒素原子や希ガスが挙げられ、窒素ガス雰囲気中又はアルゴン雰囲気中で光反応を行うことが好ましい。窒素ガス雰囲気を採用した場合の反応式を以下に示す。下記反応式における副生物である塩化ナトリウムは、水相中に分離して廃棄することができる。
【0021】
【0022】
上記反応は無溶媒またはハロゲン化されにくい溶媒中で行うことができる。溶媒としては、ベンゾトリフルオリド(トリフルオロメチルベンゼン)、又はパラクロロベンゾトリフルオリド等が好ましい。四塩化炭素はハロゲン化に昔から汎用されてきたが、環境への影響とその毒性のために避けられる傾向にある。溶媒量はトルエン化合物が溶解すればよい。
【0023】
上記反応では、下記の通り、2当量の臭化水素酸(HBr)と1当量の次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)との反応により1当量の臭素(Br2)が生じる。
2HBr+NaOCl→Br2+NaCl+H2O
【0024】
次いで、臭素は光エネルギーによるラジカル開裂により臭素ラジカル(2Br・)となり、トルエン化合物のメチル基を臭素置換することで、ブロモメチル体を生成する。この際、1当量の臭化水素(HBr)が副生するが、もう0.5当量の次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)により酸化されて0.5当量の臭素(Br2)に再生され、この繰り返しにより上記ブロモメチル体の臭素化反応に使用されて目的のジブロモメチル体を生じる。
【0025】
本発明のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法では、臭化水素酸の酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いる。これにより、副生物を無害な塩化ナトリウムのみとすることができる。また、光反応後に水相を分離するだけで、塩化ナトリウムを簡単に除去することができる。したがって、本発明のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法は、好ましくは、上記光反応後の反応液から塩化ナトリウムを除去することを含む。例えば、上記光反応後の反応液を有機相と水相に分離して、塩化ナトリウムを水相中に分離して除去することが好ましい。例えば、上記光反応後の反応液に水性成分(例えば重曹水)と有機性成分(例えば酢酸エチル)を加えてからの抽出操作(分液操作)によって塩化ナトリウムが水相、ジブロモメチルベンゼン化合物が有機相に溶解し、この水相と有機相とを分離することで塩化ナトリウムフリーのジブロモメチルベンゼン化合物が得られる。
【0026】
上記光反応に用いる次亜塩素酸ナトリウムは、市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いることができる。また、次亜塩素酸ナトリウム結晶を固体のまま、又は任意の濃度の水溶液として用いることができる。次亜塩素酸ナトリウム結晶として、NaOCl・5水和物結晶(商品名:ニッケイジアソー(登録商標)5水塩、日本軽金属社製)が挙げられる。また、次亜塩素酸ナトリウムの使用量はトルエン化合物のメチル基(1当量)に対して1.0~10.0当量とすることが好ましく、1.5~8.0当量とすることがより好ましく、2.0~6.0当量とすることがさらに好ましく、2.0~5.0当量であることがさらに好ましく、2.0~4.0当量であることがさらに好ましい。さらに、臭化水素の使用量はトルエン化合物のメチル基に対して0.5~5.0当量であることが好ましく、0.8~4.0当量であることがより好ましく、1.0~3.0当量であることがさらに好ましく、1.5~3.0当量であることがさらに好ましく、2.0~2.6当量とすることがさらに好ましい。
【0027】
トルエン化合物のメチル基に対し、使用する次亜塩素酸ナトリウムの当量は、使用する臭化水素の当量以上であることが好ましく、10≧[次亜塩素酸ナトリウムの当量]/[臭化水素の当量]≧1が好ましく、8≧[次亜塩素酸ナトリウムの当量]/[臭化水素の当量]≧1がより好ましく、6≧[次亜塩素酸ナトリウムの当量]/[臭化水素の当量]≧1がさらに好ましく、5≧[次亜塩素酸ナトリウムの当量]/[臭化水素の当量]≧1がさらに好ましく、4≧[次亜塩素酸ナトリウムの当量]/[臭化水素の当量]≧1がさらに好ましい。
一例として、臭化水素及び次亜塩素酸ナトリウムの使用量はトルエン化合物のメチル基に対して典型的には約2当量とすることができ、また、過剰量使用してもよい。
【0028】
上記反応に用いる臭化水素酸において、臭化水素の濃度は特に制限されず、例えば、市販の48%HBr水溶液を用いることができる。
【0029】
また、水と酸素の存在下、上記式(2)で表される化合物に光照射して光反応により下記式(3)で表される安息香酸化合物を生成したとき、副生した臭化水素(臭化水素酸)を回収し、上記光反応における臭化水素源として用いることも好ましい。下記式(3)中のXは上記式(1)中のXと同義である。こうすることで、目的の安息香酸化合物を製造しながら、その副生物を、安息香酸化合物の合成中間体であるジブロモメチルベンゼン化合物の製造に用いることができ、原料ないし試薬のリサイクル系を作り出すことができる。
【0030】
【0031】
なお、この安息香酸化合物を生成する反応で用いる上記式(2)で表される化合物は、本発明のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法で得られるものに限定されない。この安息香酸化合物の生成反応の詳細は後述する。
【0032】
また、上記式(2)で表される化合物を加水分解して下記式(4)で表されるベンズアルデヒド化合物を生成したとき、副生した臭化水素(臭化水素酸)を回収し、上記光反応における臭化水素源として用いることも好ましい。下記式(4)中のXは上記式(1)中のXと同義である。こうすることで、目的のベンズアルデヒド化合物を製造しながら、その副生物を、ベンズアルデヒド化合物の合成中間体であるジブロモメチルベンゼン化合物の製造に用いることができ、原料ないし試薬のリサイクル系を作り出すことができる。
【0033】
【0034】
なお、このベンズアルデヒド化合物を生成する反応で用いる上記式(2)で表される化合物は、本発明のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法で得られるものに限定されない。このベンズアルデヒド化合物の生成反応の詳細は後述する。
【0035】
上記光反応における光照射の波長は、例えば、波長360~500nmとすることが好ましい。光源としては、水銀灯、紫外光(360nm以上400nm未満)、可視光(400nm以上500nm未満)、蛍光灯、又はブラックライトなどを用いることができる。光源として、単一波長のLED(発光ダイオード:Light Emitting Diode)光源(例えば、波長365~454nm)を用いると、無駄な熱が発生せず、エネルギーロスを抑えることができる。
【0036】
上記光反応の温度は5~100℃が好ましい。低エネルギーコスト、作業安全性の観点からは10~70℃で行うことが好ましく、15~50℃で行うことがより好ましく、室温(25℃程度)で行うことがさらに好ましい。
【0037】
[安息香酸化合物の製造方法]
本発明の安息香酸化合物の製造方法は、水と酸素の存在下、上記のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法により得られたジブロモメチルベンゼン化合物(上記式(2)で表されるジブロモメチルベンゼン化合物)に光照射して光反応により上記式(3)で表される安息香酸化合物を得ることを含む。
【0038】
本発明の安息香酸化合物の製造方法では、本発明のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法を経由するため、ジブロモメチルベンゼン化合物を得る光反応で生じる副生物である塩化ナトリウムは簡単に除去できる。したがって、塩化ナトリウムフリーのジブロメチルモベンゼン化合物から安息香酸化合物を得ることが可能となる。また、ジブロモメチルベンゼン化合物から安息香酸化合物を得る光反応で生じる副生物の臭化水素は、本発明のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法の原料としてリサイクルすることができ、原料ないし試薬の無駄を削減することが可能になる。これらの利点を含めて、本発明の安息香酸化合物の製造方法の反応スキームの一例を示すと次の通りである。
【0039】
【0040】
上記反応スキームの下段に示すように、水と酸素の存在下でジブロモメチルベンゼン化合物に光照射すると、空気中の活性化された酸素による反応と、加水分解とにより安息香酸化合物が得られる。この反応過程では、2当量の臭化水素(HBr)が副生し、この臭化水素を回収すれば、副生した臭化水素を、上記反応スキームの上段に示すジブロモメチルベンゼン化合物の合成反応に無駄なく再利用(リサイクル)することができる。
【0041】
本発明の安息香酸化合物の製造方法では、ジブロモメチルベンゼン化合物への光照射を、上記の通り、水に加え、酸素も存在する条件下で行われる。例えば、オープンエアーで反応させることができる。また、酸素又は空気の吹込みにより反応が加速される。この光反応は、5~100℃の温度範囲で行うことが好ましい。低エネルギーコスト、作業安全性の観点からは10~70℃の温度範囲で行うことが好ましく、15~50℃の温度範囲で行うことがより好ましく、室温(25℃程度)で行うことがさらに好ましい。
【0042】
上記反応の終了後、反応液をアルカリ性し、目的の安息香酸化合物を水相に溶解させることができるので、有機相を簡単に取り除くことができる。この際、その後の分液操作を円滑にするために別途有機溶媒を添加してもよい。通常は、酢酸エチルの添加が好ましい。分液したアルカリ性水溶液を塩酸などで酸性にすると、目的の安息香酸化合物の固体が析出する。これをろ過又は溶媒抽出により単離すれば、目的の安息香酸化合物を、高純度且つ高収率に得ることができる。なお、本発明の安息香酸化合物の製造方法では、必要に応じて再結晶などの精製工程が行われてもよい。
【0043】
[ベンズアルデヒド化合物の製造方法]
本発明のベンズアルデヒド化合物の製造方法は、上記のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法により得られたジブロモメチルベンゼン化合物(上記式(2)で表されるジブロモメチルベンゼン化合物)を加水分解して上記式(4)で表されるベンズアルデヒド化合物を得ることを含む。
【0044】
本発明のベンズアルデヒド化合物の製造方法では、本発明のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法を経由するため、ジブロモメチルベンゼン化合物を得る光反応で生じる副生物である塩化ナトリウムは簡単に除去できる。したがって、塩化ナトリウムフリーのジブロモメチルベンゼン化合物からベンズアルデヒド化合物を得ることが可能となる。また、ジブロモメチルベンゼン化合物からベンズアルデヒド化合物を得る反応で生じる副生物の臭化水素は、本発明のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法の原料としてリサイクルすることができ、原料ないし試薬の無駄を削減することが可能になる。これらの利点を含めて、本発明のベンズアルデヒド化合物の製造方法の反応スキームの一例を示すと次の通りである。
【0045】
【0046】
上記反応スキームの下段に示すように、ジブロモメチルベンゼン化合物を加水分解することによりベンズアルデヒド化合物が得られる。この反応過程では、2当量の臭化水素(HBr)が副生し、この臭化水素を回収すれば、副生した臭化水素を、上記反応スキームの上段に示すジブロモメチルベンゼン化合物の合成反応に無駄なく再利用(リサイクル)することができる。
【0047】
本発明のベンズアルデヒド化合物の製造方法では、ジブロモメチルベンゼン化合物の加水分解反応は、例えば90~110℃とすることができる。なお、この反応温度は圧力に応じて適宜に調整することができる。
【0048】
[臭化水素のリサイクル方法]
上述した実施形態に関し、本発明は、一実施形態において、次の臭化水素のリサイクル方法を提供するものである。
【0049】
水と酸素の存在下、上述した本発明のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法により得られたジブロモメチルベンゼン化合物に光照射して光反応により上記式(3)で表される安息香酸化合物を得て、副生した臭化水素を、上述した本発明のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法における前記臭化水素として用いることを含む、臭化水素のリサイクル方法。
【0050】
上述した本発明のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法により得られたジブロモメチルベンゼン化合物を加水分解して上記式(4)で表されるベンズアルデヒド化合物を得て、副生した臭化水素を、上述した本発明のジブロモメチルベンゼン化合物の製造方法における前記臭化水素として用いることを含む、臭化水素のリサイクル方法。
【0051】
【実施例0052】
以下に、本発明を、実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
4-シアノトルエン1.76g(15mmol)と、溶媒としてトリフルオロメチルベンゼン(以下、BTFと記す。)60mlを、撹拌子を入れた200mlの4つ口フラスコ内に投入した。続いて、48%HBr水溶液3.73ml(HBrとして33mmol)、NaOCl・5水和物結晶6.67g(NaOClとして40.5mmol)及び水21mLをフラスコ内に投入した。フラスコを氷浴(0℃)に浸し、フラスコ内を窒素置換し、窒素雰囲気下(酸素の非存在下)、フラスコ内の溶液を撹拌しながらこの溶液に4時間光照射した。光照射は、青色LED光源(ワット数:10W、波長:454nm)をフラスコから5cmの距離に配して行った。フラスコ内に亜硫酸ナトリウム水溶液を数滴滴下して溶液の臭素の色を消した後、フラスコ内に重曹水と酢酸エチルを投入して振り混ぜて水相と有機相を分離した。この操作により溶液中のNaClが水相に溶解し、NaClが除去される。次いで、得られた有機相を飽和食塩水で洗浄した後、洗浄された有機相を硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別した後、乾燥後の有機相を減圧濃縮することで、黄色の固体(光反応生成物)3.63g(粗収率:88%)を得た。GC-MS測定の結果、この固体は、4-ブロモメチルベンゾニトリルを4.5%、4-ジブロモメチルベンゾニトリルを90.8%、4-トリブロモメチルベンゾニトリルを2.3%含有していた(GC純度が90.8%の4-ジブロモメチルベンゾニトリルとも称す)。
なお、上記の「粗収率」とは、上記固体のすべてがジブロモメチル体と仮定した場合の収率(トルエン化合物(出発原料)のモル量(M1)に対するジブロモメチル体のモル量(M2)の百分率((M2/M1)×100)の値)であり、以降の説明でも同様である。また、上記の光反応生成物中のモノブロモ体、ジブロモ体、及びトリブロモ体の含有割合は、GC-MS測定の結果から得られる面積%であり、以降の説明でも同様である。
4-ジブロモメチルベンゾニトリルのGC-MS:m/z=277(M+4;相対強度0.60%)、275(M+2;相対強度1.16%)、273(M+;相対強度0.60%)、196(M-Br+2,94%)、194(M-Br,100%)、115(M-2Br、48%)、114(M-CHBr2,23%)
【0054】
[実施例2]
4-シアノトルエン、BTF、48%HBr水溶液、NaOCl・5水和物結晶、水の投入量を、それぞれ、0.59g(5mmol)、20ml、1.24ml(HBrとして11mmol)、1.97g(NaOClとして12mmol)、7mlに変更したこと以外は、実施例1と同様にして光反応生成物を得た(粗収率79%)。この光反応生成物は、4-ブロモメチルベンゾニトリルを8.0%、4-ジブロモメチルベンゾニトリルを89.0%、4-トリブロモメチルベンゾニトリルを3.0%含んでいた。
【0055】
[実施例3]
4-シアノトルエンを3-シアノトルエン(5mmol)に変更し、光照射時間を6時間に変更したこと以外は、実施例2と同様にして光反応生成物を得た(粗収率93%)。この光反応生成物は、3-ブロモメチルベンゾニトリルを3.0%、3-ジブロモメチルベンゾニトリルを93.0%、3-トリブロモメチルベンゾニトリルを2.0%含んでいた。
【0056】
[実施例4]
3-シアノトルエンを4-ニトロトルエン(5mmol)に変更し、青色LED光源のワット数を5Wに変更したこと以外は、実施例3と同様にして光反応生成物を得た(粗収率82%)。この光反応生成物は、1-ブロモメチル-4-ニトロベンゼンを1.0%未満、1-ジブロモメチル-4-ニトロベンゼンを94.0%、1-トリブロモメチル-4-ニトロベンゼンを1.0%未満含んでいた。
【0057】
[実施例5]
4-シアノトルエンを2-ニトロトルエン(5mmol)に変更し、光照射時間を24時間に変更したこと以外は、実施例2と同様にして光反応を行った。この光反応生成物は1-ブロモメチル-2-ニトロベンゼンを28.0%、1-ジブロモメチル-2-ニトロベンゼンを58.0%含み、1-トリブロモメチル-2-ニトロベンゼンは検出されなかった。
【0058】
[実施例6]
4-ニトロトルエンを4-ブロモトルエン(5mmol)に変更し、光照射時間を2時間に変更したこと以外は、実施例4と同様にして光反応生成物を得た(粗収率86%)。この光反応生成物からは、1-ブロモメチル-4-ブロモベンゼンは検出されず、1-ジブロモメチル-4-ブロモベンゼンを91.0%、1-トリブロモメチル-4-ブロモベンゼンを5.0%含んでいた。
【0059】
[実施例7]
4-ブロモトルエンを4-クロロトルエン(5mmol)に変更し、光照射時間を5時間に変更したこと以外は、実施例6と同様にして光反応生成物を得た(粗収率67%)。この光反応生成物からは、1-ブロモメチル-4-クロロベンゼンは検出されず、1-ジブロモメチル-4-クロロベンゼンを91.0%、1-トリブロモメチル-4-クロロベンゼンを6.0%含んでいた。
【0060】
[実施例8]
4-ブロモトルエンを4-フルオロトルエン(5mmol)に変更したこと以外は、実施例6と同様にして光反応生成物を得た(粗収率84%)。この光反応生成物は、1-ブロモメチル-4-フルオロベンゼンを1.0%未満、1-ジブロモメチル-4-フルオロベンゼンを95.0%、1-トリブロモメチル-4-フルオロベンゼンを4.0%含んでいた。
【0061】
[実施例9]
4-フルオロトルエンを2-フルオロトルエン(5mmol)に変更し、光照射時間を4時間に変更したこと以外は、実施例8と同様にして光反応生成物を得た(粗収率89%)。この光反応生成物は、1-ブロモメチル-2-フルオロベンゼンを1.0%未満、1-ジブロモメチル-2-フルオロベンゼンを97.0%含み、1-トリフルオロメチル-2-フルオロベンゼンは検出されなかった。
【0062】
[実施例10]
4-クロロトルエンを4-トリフルオロメチルトルエン(5mmol)に変更したこと以外は、実施例7と同様にして光反応生成物を得た(粗収率84%)。この光反応生成物は、1-ブロモメチル-4-トリフルオロメチルベンゼンを1.0%未満、1-ジブロモメチル-4-トリフルオロメチルベンゼンを87.0%、1-トリブロモメチル-4-トリフルオロメチルベンゼンを8.0%含んでいた。
【0063】
[実施例11]
青色LED光源をUV-LED光源(ワット数:10W、波長365nm)に変更し、NaOCl・5水和物結晶をNaOClとして14mmolとなるように用いたこと以外は、実施例2と同様にして光反応生成物を得た(粗収率97%)。この光反応生成物は、4-ブロモメチルベンゾニトリルを3.0%、4-ジブロモメチルベンゾニトリルを95.0%含み、4-トリブロモメチルベンゾニトリルは検出されなかった。
【0064】
[実施例12]
青色LED光源をUV-LED光源(ワット数:10W、波長395nm)に変更し、光照射時間を5時間としたこと以外は、実施例2と同様にして光反応生成物を得た(粗収率73%)。この光反応生成物は、4-ブロモメチルベンゾニトリルを1.0%、4-ジブロモメチルベンゾニトリルを95.0%含み、4-トリブロモメチルベンゾニトリルは検出されなかった。
【0065】
[実施例13]
実施例9と同様にして光反応生成物(1-ジブロモメチル-2-フルオロベンゼン:GC純度93.0%)を得た。この光反応生成物をフラスコ中でBTF20mlに溶解し、さらに水8mlを加えた。大気開放下(室温(25℃))で、フラスコ内の溶液を撹拌しながらこの溶液にUV-LED光源(ワット数:10W、波長:395nm)の光を16時間照射した。GC-MS測定すると、光反応生成物は2-フルオロ安息香酸を97.7%(面積%)含んでいた。次いで、2-フルオロ安息香酸を含む有機相と、HBrを含む水相とを分離し、この水相を水酸化ナトリウムで滴定した。水相には7.5mmol(回収率75%)のHBrが含まれていた。
2-フルオロ安息香酸のGC-MS:m/z=140(M+、60%)、123(M―OH,100%)、95(M-CO2H,48%)
【0066】
[実施例14]
実施例13で得られた水相に48%HBr水溶液を加えてHBrを11mmol含むHBr水溶液とした。そこに2-フルオロトルエン0.55g(5mmol)と、NaOCl・5水和物結晶1.97g(NaOClとして12mmol)と、BTF20mlとを加え、フラスコを氷浴(0℃)に浸し、フラスコ内を窒素置換し、窒素雰囲気下、撹拌しながら青色LED光源(ワット数:5W、波長:454nm)の光を2時間照射した。GC-MS測定すると、光反応生成物は1-ブロモメチル-2-フルオロベンゼンを22.8%、1-ジブロモメチル-2-フルオロベンゼンを74.8%含んでいた。続いて、48%HBr水溶液0.27ml(HBrとして2.4mmol)と、NaOCl・5水和物結晶0.43g(NaOClとして2.6mmol)とをフラスコ内に投入し、引き続き窒素雰囲気下で1時間光反応を行った。GC-MS測定すると、光反応生成物は1-ブロモメチル-2-フルオロベンゼンを4.9%、1-ジブロモメチル-2-フルオロベンゼンを93.9%含んでいた。
【0067】
[実施例15]
実施例9と同様にして、光反応生成物(1-ジブロモメチル-2-フルオロベンゼン:GC純度96.0%)を得た。この光反応生成物と、水10mlをフラスコに投入し、フラスコ内の溶液を2時間還流した。GC-MS測定すると、2-フルオロベンズアルデヒドを97.7%(面積%)含んでいた。次いで、フラスコにジクロロメタン5mlを加え、2-フルオロベンズアルデヒドを含む有機相と、HBrを含む水相とを分離した。この水相を水酸化ナトリウムで滴定すると、水相には8.8mmol(回収率88%)のHBrが含まれていた。
2-フルオロベンズアルデヒドのGC-MS;m/z=124(M+、85%)、123(M-1,100%)、95(M-CHO,57%)
【0068】
[実施例16]
実施例15で得られた水相に48%HBr水溶液を加えてHBrを11mmol含むHBr水溶液とした。そこに2-フルオロトルエン0.55g(5.0mmol)と、NaOCl・5水和物結晶1.97g(NaOClとして12mmol)と、BTF20mlとを加え、フラスコを氷浴(0℃)に浸し、フラスコ内を窒素置換し、窒素雰囲気下、撹拌しながら青色LED光源(ワット数:10W、波長:454nm)の光を2時間照射した。GC-MS測定すると、1-ジブロモメチル-2-フルオロベンゼンを92.8%含み、1-ブロモメチル-2-フルオロベンゼンは検出されなかった。
【0069】
上記の結果から、本発明で規定する光反応によって、電子求引基を有するトルエン化合物を出発原料として、ジブロモメチル体を、食塩を含まない状態で、安全に、収率よく得られることがわかった。さらに、当該ジブロモメチル体から安息香酸化合物又はベンズアルデヒド化合物を光反応によって効率的に得られること、この光反応で副生する臭化水素酸をジブロモメチル体の生成に再利用できることもわかった。