(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005820
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】心拍測定装置及び心拍測定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0245 20060101AFI20240110BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
A61B5/0245 100A
A61B5/11 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106212
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】米澤 真也
(72)【発明者】
【氏名】下田 宏輝
(72)【発明者】
【氏名】松本 景子
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
【Fターム(参考)】
4C017AA10
4C017AB04
4C017AC40
4C017BC07
4C017BC16
4C017FF05
4C038VA04
4C038VB32
4C038VB40
(57)【要約】
【課題】本開示は、レーダを用いて心拍数を測定可能にすることを目的とする。
【解決手段】本開示は、レーダ装置で得られたレーダ信号を、心拍信号に含まれる少なくとも一つの波形の周波数成分でフィルタリングし、前記フィルタリングで得られた信号波形を用いて、心拍に関する演算を行う、心拍測定装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ装置で得られたレーダ信号を、心拍信号に含まれる少なくとも一つの波形の周波数成分でフィルタリングし、
前記フィルタリングで得られた信号波形を用いて、心拍に関する演算を行う、
心拍測定装置。
【請求項2】
前記心拍に関する演算において、前記信号波形の包絡線検波を行うことで、心拍信号の復調を行う、
請求項1に記載の心拍測定装置。
【請求項3】
前記心拍に関する演算において、前記復調された心拍信号を用いて、心拍数を算出する、
請求項2に記載の心拍測定装置。
【請求項4】
2.5Hz以上20Hz以下の周波数成分でフィルタリングする、
請求項1に記載の心拍測定装置。
【請求項5】
前記周波数成分が、前記心拍信号に含まれるP波、QRS波及びT波の周波数成分を含む、
請求項1に記載の心拍測定装置。
【請求項6】
4.16Hz以上20Hz以下の周波数成分でフィルタリングする、
請求項5に記載の心拍測定装置。
【請求項7】
前記心拍信号に含まれるQRS波に相当する周波数成分でフィルタリングする、
請求項1に記載の心拍測定装置。
【請求項8】
20Hz近傍の周波数成分でフィルタリングする、
請求項7に記載の心拍測定装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の心拍測定装置と、
心拍による距離変動を検出可能なレーダ装置と、
を備えるバイタルセンサ。
【請求項10】
レーダ装置で得られたレーダ信号を、心拍信号に含まれる少なくとも一つの波形の周波数成分でフィルタリングし、
前記フィルタリングで得られた信号波形を用いて、心拍に関する演算を行う、
心拍測定方法。
【請求項11】
請求項1から8のいずれかに記載の心拍測定装置としてコンピュータを実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体の心拍に関する情報を測定するためのバイタルセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
レーダを用いて心拍数を測定するバイタルセンサが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。特許文献1及び2のバイタルセンサは、心臓が全身に血液を循環させる際に体表面に表れる拍動の周期性から心拍数を推定している。体表面に表れる拍動は非常に小さく、呼吸による胸部の膨らみに埋もれてしまう。このため、特許文献1及び2のバイタルセンサは、心拍数の推定が困難である。
【0003】
また、人間の呼吸は3~5秒に1回、心拍は0.8秒~1.5秒に1回程度であり、心拍信号の主成分と呼吸信号のn倍波成分が同一周波数に表れることがある。このため、特許文献1及び2のバイタルセンサは、周波数領域での分離が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-175031号公報
【特許文献2】特開2019-152441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、レーダを用いて心拍の情報を測定可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のバイタルセンサは、本開示の心拍測定装置と、心拍による距離変動を検出可能なレーダ装置と、を備える。
【0007】
本開示の心拍測定装置及び心拍測定方法は、レーダ装置で得られたレーダ信号を、心拍信号に含まれる少なくとも一つの波形の周波数成分でフィルタリングし、前記フィルタリングで得られた信号波形を用いて、心拍に関する演算を行う。前記心拍に関する演算において、前記信号波形の包絡線検波を行うことで、心拍信号の復調を行ってもよい。また、前記心拍に関する演算において、前記復調された心拍信号を用いて、心拍数を算出してもよい。
【0008】
本開示の心拍測定装置及び心拍測定方法は、2.5Hz以上20Hz以下の周波数成分をフィルタリングしてもよい。これにより、前記心拍信号に含まれるP波、QRS波及びT波の周波数成分を抽出することができる。
【0009】
本開示の心拍測定装置及び心拍測定方法は、4.16Hz以上20Hz以下の周波数成分をフィルタリングしてもよい。これにより、前記心拍信号に含まれるP波及びQRS波の周波数成分を抽出することができる。
【0010】
本開示の心拍測定装置及び心拍測定方法は、20Hz近傍の周波数成分をフィルタリングしてもよい。これにより、前記心拍信号に含まれるQRS波に相当する周波数成分を抽出することができる。
【0011】
本開示のプログラムは、本開示に係る心拍測定装置に備わる各機能部としてコンピュータを実現させるためのプログラムであり、本開示に係る心拍測定装置が実行する方法に備わる各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0012】
なお、上記各開示は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、レーダを用いて心拍の情報を測定可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】呼吸信号と心拍信号のスペクトルの一例を示す。
【
図5】心拍信号に含まれる少なくとも一つの波形の周波数成分のフィルタリングの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0016】
図1に、本開示のシステム構成例を示す。本開示のバイタルセンサは、レーダ装置91、及び心拍測定装置92を備える。レーダ装置91は、生体100に電波を送信し、生体での反射信号を受信する。本開示では、レーダ装置91で得られるこの反射信号をレーダ信号と称する。レーダ装置91は、心拍による距離変動を検出可能な任意のレーダ装置であり、例えば、単一周波数のCW(Continuous Wave)レーダであってもよいし、ドップラーレーダーであってもよいし、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダであってもよい。
【0017】
レーダ装置91で得られる生体100での反射信号を周波数に換算すると、生体100の体動は0.5Hz以下、呼吸信号は0.1Hz以上0.5Hz以下、心拍信号は0.8Hz以上1.5Hz以下である。
図2に示すように、心拍信号の主成分は、呼吸信号の3倍波成分と4倍波成分の間に現れ、パワーも呼吸信号の3倍波成分及び4倍波成分と同程度である。心拍信号の主成分が呼吸信号の3倍波成分付近に現れると、周波数領域でのこれらの分離は困難である。
【0018】
図3に、心拍信号の一例を示す。心拍信号は、P波、QRS波、T波、U波が順に表れる。P波を0.24秒のsin波とすると、その周波数成分は4.16Hzである。QRS波を0.05秒の三角波とすると、その周波数成分は20Hzである。T波を0.4秒のsin波とすると、その周波数成分は2.5Hzである。このように、P波、QRS波、T波の各周波数は、体動の周波数よりも高く、さらに呼吸信号の3倍波成分及び4倍波成分よりも高い。そこで、心拍測定装置92は、周波数フィルタ21及び心拍情報算出部22を備え、本開示の心拍測定方法を実行する。
【0019】
図4に、本開示の心拍測定方法の一例を示す。本開示の心拍測定方法は、レーダ装置91がレーダ信号を受信することと(S10)、周波数フィルタ21が、心拍信号に含まれる少なくとも一つの波形の周波数成分を、レーダ信号からフィルタリングすることと(S11)、心拍情報算出部22が、前記フィルタリングで得られた信号波形を用いて、心拍に関する算出を行うことと(S12)、を備える。
【0020】
ここで、周波数フィルタ21及び心拍情報算出部22は、FPGA(field-programmable gate array)のようなハードウェアを用いてもよいが、コンピュータとプログラムを用いて実現してもよい。プログラムは、記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0021】
本開示の心拍測定方法は、ステップS11を備えるため、拍動由来の波が持つ周波数成分のみを抽出することができる。フィルタリングで得られた周波数成分には呼吸信号の主成分及び倍波成分が含まれないため、ステップS12において、呼吸成分に埋もれることなく心拍信号を検出することができる。
【0022】
ステップS11では、例えば、周波数フィルタ21を用いて20Hz近傍の周波数成分をフィルタリングする。これにより、本開示は、QRS波成分のみを抽出する。ここで、フィルタリングする周波数成分は、QRS波を抽出可能な任意の周波数幅に設定することができる。
【0023】
例えば、周波数フィルタ21を用いて4.16Hz近傍の周波数成分をフィルタリングする。これにより、本開示は、P波成分のみを抽出する。ここで、フィルタリングする周波数成分は、P波を抽出可能な任意の周波数幅に設定することができる。
【0024】
例えば、周波数フィルタ21を用いて2.5Hz近傍の周波数成分をフィルタリングする。これにより、本開示は、T波成分のみを抽出する。ここで、フィルタリングする周波数成分は、T波を抽出可能な任意の周波数幅に設定することができる。
【0025】
本開示は、心拍信号に含まれる一つの波形の周波数成分に限定されない。心拍測定装置92は、心拍信号に含まれる波形の少なくとも一つの周波数成分を用いて心拍の情報を測定することができる。例えば、周波数フィルタ21を用いて2.5Hz以上20Hz以下の周波数成分をフィルタリングすることで、P波、QRS波、及びT波を抽出することができる。
【0026】
ここで、U波は人によっては現れないことがある。また、U波が現れた場合、T波の波形が変形することがある。そこで、周波数フィルタ21を用いて、
図5に示すように、4.16Hz以上20Hz以下の周波数成分をフィルタリングしてもよい。これにより、本開示は、T波の変形の影響を排除することができる。
【0027】
ステップS11で得られた信号波形は、心拍信号でAM変調された変調波に相当する。そこで、ステップS12では、ステップS11においてフィルタリングされた信号波形を用いて、心拍に関する任意の情報を算出する。例えば、信号波形の包絡線検波を行い、元の心拍信号を復調することができる。また、信号波形を用いて、心拍数を算出してもよい。包絡線検波の方法は任意であるが、例えば、ヒルベルト変換を用いることが例示できる。
【0028】
図5に示すように心拍信号がI成分及びQ成分を有する場合、I成分及びQ成分の少なくともいずれかを用いて算出することができる。
【0029】
以上説明したように、本開示は、呼吸信号の主成分及び倍波成分の表れない高周波数領域の周波数成分をフィルタリングする。このため、本開示は、拍動由来の波が持つ周波数成分のみをフィルタリングすることにより、呼吸成分に埋もれることなく心拍信号を検出することができる。
【0030】
本開示のバイタルセンサは、レーダ信号を用いて生体100の心拍数のみならず心拍信号を測定することができる。このため、レーダ装置91を病室や個人宅のベッドルームの天井などに設置すれば、生体100の負荷が少なくかつ簡単に生体100の心拍の情報を取得でき、心拍の情報の蓄積も容易になる。
【0031】
このような室内での用途においては、エアコンのルーバーや扇風機などの環境雑音もレーダ信号に混ざってくる。しかし、これらの環境雑音は1秒程度やそれ未満の周期で動くため、2.5Hz以上の周波数成分をフィルタリングすることで、環境雑音も除去することができる。
【0032】
本開示は、レーダを用いて心拍の情報が測定可能になるため、日常的に心拍の情報の測定を行うことが容易になる。
【符号の説明】
【0033】
21:周波数フィルタ
22:心拍情報算出部
91:レーダ装置
92:心拍測定装置
100:生体