(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058212
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】自閉スペクトラム症治療のためのAMG517の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/506 20060101AFI20240418BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
A61K31/506
A61P25/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165433
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001926
【氏名又は名称】塩野義製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100221578
【弁理士】
【氏名又は名称】林 康次郎
(72)【発明者】
【氏名】吾郷 由希夫
(72)【発明者】
【氏名】山川 英訓
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC82
4C086GA07
4C086GA10
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA18
(57)【要約】
【課題】社会性障害、例えば自閉スペクトラム症、脆弱X症候群、並びに/または自閉スペクトラム症様症状を治療並びに/または予防するための、新たな医薬組成物および方法を提供する。
【解決手段】
式(I):
(式中、R
1は置換若しくは非置換のアルキル等;R
2は水素原子等;R
3は置換若しくは非置換のアミノ等;-X-は-O-等である)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体を含有する、社会性障害の治療および/または予防のための医薬組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
(式中、
R
1は、水素原子、または置換若しくは非置換のアルキルであり;
R
2は、水素原子、または置換若しくは非置換のアミノであり;
R
3は水素原子、または置換若しくは非置換のアミノであり;および、
-X-は、-O-または-N(H)-である)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体を含有する、社会性障害の治療および/または予防のための医薬組成物。
【請求項2】
R1が、1以上のハロゲンで置換されていてもよいアルキルであり;
R2が、水素原子であり;
R3が、アルキルカルボニルアミノであり;
-X-が、-O-である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体が、以下の化合物:
【化2】
またはその製薬上許容される複合体である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体が、式(I-A):
【化3】
で示される化合物またはその製薬上許容される複合体である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
製薬上許容される複合体が、製薬上許容される塩または共結晶である、請求項1~4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
社会性障害が、社会的コミュニケーションおよび/または社会的相互関係における障害である、請求項1~5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
社会性障害が、自閉スペクトラム症、脆弱X症候群、および/または自閉スペクトラム症様症状である、請求項1~5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
社会性障害が、自閉スペクトラム症である、請求項1~5のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、社会性障害、例えば、自閉スペクトラム症、脆弱X症候群、自閉スペクトラム症様症状、並びに/または社会的コミュニケーションおよび/若しくは社会的相互関係における障害を治療並びに/または予防するための、特に好ましくは自閉スペクトラム症を治療するための、新たな医薬組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自閉スペクトラム症(ASD)は、複数の状況で社会的コミュニケーションおよび社会的相互関係における持続的障害があること、行動・興味または活動の限定された反復的な様式が2つ以上あること(情動的、反復的な身体の運動や会話、固執やこだわり、極めて限定され執着する興味、感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さなど)、そしてこれらの症状が発達早期から存在していることを特徴とする疾患である。世界で380万人(非特許文献1)、日本で35万人以上の患者が存在し、患者1人あたりに必要な経済的負担は年間500万円以上であるともいわれており(非特許文献2)、多くの場合、罹患期間は一生涯であることを考えるとその経済的影響は非常に大きい。しかしながら、現在のところ、ASDの中核症状に対する有効な治療薬は存在しない。ASDに対する治療としては、応用行動分析法などの行動療法が中心的であるが、行動療法には多大なる時間と人的リソースを要する上に、年齢が進むとともに効果が低下することが知られているため、その恩恵を享受できる患者は非常に限定される。以上のような背景からASDの中核症状に有効な治療薬は強く求められている。
現在ASD治療薬の標的分子として、例えばオキシトシンやバソプレシンといった社会性行動との関連が知られている分子やその受容体が注目されている。
2016年にRu-Rong Jiらのグループが遺伝性ASDの原因遺伝子の1つであるSHANK3の欠損によりTRPV1の機能が低下することを報告した(非特許文献3)。ASD患者で認められたSHANK3遺伝子変異の多くはその機能を欠損もしくは低下させる変異であり、またSHANK3欠損マウスはASD様症状を示すことを考え合わせると、少なくとも一部のASD患者においてTRPV1受容体の機能が低下している可能性が推察される。しかし、TRPV1受容体とASDの関連を示す薬理学的な報告は未だ存在しない。
【0003】
X染色体の異常に起因するヒト脆弱X症候群(fragile X syndrome:FXS)の患者では、しばしばASDで見られるような社会性障害症状を呈することが知られている(非特許文献4~6)。
【0004】
AMG517は、TRPV1(transient receptor potential vanilloid type 1)アンタゴニストである。非特許文献7~9、特許文献1および2には、AMG517等のTRPV1アンタゴニストが記載されているが、社会性障害およびASDについては記載も示唆もされていない。非特許文献8には、AMG517の共結晶が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開公報WO2004/0148714A1
【特許文献2】米国公報US2020/0197378A1
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】JAMA Pediatr. 2014;168(8):721-728.
【非特許文献2】Pediatrics 2014;133:e520-e529
【非特許文献3】Neuron. 2016 Dec 21;92(6):1279-1293.
【非特許文献4】A neurochemical theory of autism. Trends Neurosci 2: 174-177.
【非特許文献5】J Intellect Disabil Res. 2015 Apr;59(4):293-306.
【非特許文献6】Br J Pharmacol. 2018 Jul; 175(14): 2750-2769.
【非特許文献7】Biochemical Pharmacology 78(2009) 211-216.
【非特許文献8】Crystal Growth&Design,2008;8(10);3856-3862.
【非特許文献9】Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics; 2018 Jul;326(1);218-229.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
社会性障害、例えば、自閉スペクトラム症、脆弱X症候群、自閉スペクトラム症様症状、並びに/または社会的コミュニケーションおよび/若しくは社会的相互関係における障害を治療並びに/または予防するための、特に好ましくは自閉スペクトラム症を治療するための、新たな医薬組成物および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、社会性障害、例えば、自閉スペクトラム症、脆弱X症候群、自閉スペクトラム症様症状、並びに/または社会的コミュニケーションおよび/若しくは社会的相互関係における障害を治療並びに/または予防するための、特に好ましくは自閉スペクトラム症を治療するための、医薬組成物および方法を鋭意検討し、好適な有効成分を見出した。
【0009】
本発明は、例えば、以下に関する。
【0010】
(1)式(I):
【化1】
(式中、
R
1は、水素原子、または置換若しくは非置換のアルキルであり;
R
2は、水素原子、または置換若しくは非置換のアミノであり;
R
3は水素原子、または置換若しくは非置換のアミノであり;および、
-X-は、-O-または-N(H)-である)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体を含有する、社会性障害の治療および/または予防のための医薬組成物。
(2)R
1が、1以上のハロゲンで置換されていてもよいアルキルであり;
R
2が、水素原子であり;
R
3が、1つのアルキルカルボニルで置換されたアミノであり;
-X-が、-O-である、上記(1)記載の医薬組成物。
(3)式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体が、以下の化合物:
【化2】
またはその製薬上許容される複合体である、上記(1)記載の医薬組成物。
(4)式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体が、式(I-A):
【化3】
で示される化合物またはその製薬上許容される複合体である、上記(1)記載の医薬組成物。
(5)製薬上許容される複合体が、製薬上許容される塩または共結晶である、上記(1)~(4)のいずれかに記載の医薬組成物。
(6)社会性障害が、社会的コミュニケーションおよび/または社会的相互関係における障害である、上記(1)~(5)のいずれかに記載の医薬組成物。
(7)社会性障害が、自閉スペクトラム症、脆弱X症候群、および/または自閉スペクトラム症様症状である、上記(1)~(5)のいずれかに記載の医薬組成物。
(8)社会性障害が、自閉スペクトラム症である、上記(1)~(5)のいずれかに記載の医薬組成物。
一つの態様として、上記の医薬組成物は、自閉スペクトラム症の中核症状の治療および/または予防のための医薬組成物である。
一つの態様として、式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体の1回当たりの投与量が、0.1mg~1000mgである。
一つの態様として、式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体の1回当たりの投与量が、0.01mg/kg~100mg/kgである。
【0011】
(101)必要とする患者に式(I):
【化4】
(式中、
R
1は、水素原子、または置換若しくは非置換のアルキルであり;
R
2は、水素原子、または置換若しくは非置換のアミノであり;
R
3は水素原子、または置換若しくは非置換のアミノであり;および、
-X-は、-O-または-N(H)-である)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体を投与することを含む、社会性障害の治療および/または予防方法。
(102)R
1が、1以上のハロゲンで置換されていてもよいアルキルであり;
R
2が、水素原子であり;
R
3が、1つのアルキルカルボニルで置換されたアミノであり;
-X-が、-O-である、上記(101)記載の方法。
(103)
式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体が、以下の化合物:
【化5】
またはその製薬上許容される複合体である、請求項1記載の方法。
(104)式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体が、式(I-A):
【化6】
で示される化合物またはその製薬上許容される複合体である、上記(1)記載の方法。
(105)製薬上許容される複合体が、製薬上許容される塩または共結晶である、上記(101)~(104)のいずれかに記載の方法。
(106)社会性障害が、社会的コミュニケーションおよび/または社会的相互関係における障害である、上記(101)~(105)のいずれかに記載の方法。
(107)社会性障害が、自閉スペクトラム症、脆弱X症候群、および/または自閉スペクトラム症様症状である、上記(101)~(105)のいずれかに記載の方法。
(108)社会性障害が、自閉スペクトラム症である、上記(101)~(105)のいずれかに記載の方法。
一つの態様として、上記の方法は、自閉スペクトラム症の中核症状の治療および/または予防のための方法である。
一つの態様として、式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体の1回当たりの投与量が、0.1mg~1000mgである。
一つの態様として、式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体の1回当たりの投与量が、0.01mg/kg~100mg/kgである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の医薬組成物および方法は、各種精神疾患、特に、社会性障害、例えば自閉症スペクトラム症、脆弱X症候群、自閉スペクトラム症様症状、並びに/または社会的コミュニケーションおよび/若しくは社会的相互関係における障害の治療並びに/または予防のために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ASDモデルマウスであるバルプロ酸マウスを用い、AMG517の社会性改善作用を評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
「からなる」という用語は、構成要件のみを有することを意味する。「含む」という用語は、構成要件に限定されず、記載されていない要素を排除しないことを意味する。
【0015】
以下、本発明について実施形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。
また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当上記分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0016】
「ハロゲン」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子を包含する。特にフッ素原子および塩素原子が好ましい。
「アルキル」とは、炭素数1~15、好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~6、さらに好ましくは炭素数1~4の直鎖又は分枝状の炭化水素基を包含する。例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、n-へプチル、イソヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、n-ノニル、n-デシル等が挙げられる。
「アルキル」の好ましい態様として、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチルが挙げられる。さらに好ましい態様として、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、tert-ブチルが挙げられる。
【0017】
「置換若しくは非置換のアルキル」の置換基としては、置換基群αが挙げられる。
置換基群α:ハロゲン、ヒドロキシ、カルボキシ、アルキルオキシ、ハロアルキルオキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アルキルカルボニル、ハロアルキルカルボニル、アルケニルカルボニル、アルキニルカルボニル、スルファニル、およびシアノ。
【0018】
「置換若しくは非置換のアミノ」の置換基としては、置換基群βが挙げられる。
置換基群β:ハロゲン、ヒドロキシ、カルボキシ、置換基群γで置換されていてもよいアルキル、置換基群γで置換されていてもよいアルケニル、置換基群γで置換されていてもよいアルキニル、置換基群γで置換されていてもよいアルキルカルボニル、置換基群γで置換されていてもよいアルキニルカルボニル、置換基群γで置換されていてもよいアルキルスルファニル、置換基群γで置換されていてもよいアルキルスルフィニル、置換基群γで置換されていてもよいアルキルスルホニル、置換基群γで置換されていてもよいアルケニルスルホニル、置換基群γで置換されていてもよいアルキニルオキシカルボニル。
置換基群γ:ハロゲン、ヒドロキシ、カルボキシ、アルキルオキシ、ハロアルキルオキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アルキルカルボニル、ハロアルキルカルボニル、アルケニルカルボニル、アルキニルカルボニル、スルファニル、シクロヘキシル、およびシアノ。
【0019】
「社会性障害」としては、例えば、社会的コミュニケーションおよび/または社会的相互関係(reciprocal social interaction)における障害が挙げられ、例えば、自閉スペクトラム症、脆弱X症候群、および自閉スペクトラム症様症状、例えば自閉スペクトラム症が挙げられる。
「自閉スペクトラム症(Autistic Spectrum Disorder:ASD)」とは、神経発達症群(神経発達障害群)の一種であり、自閉性障害、アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害を包含する。その用語(定義)、障害の特徴、及び診断基準は、世界保健機関(WHO)の作成した「国際疾病分類(International Classification of Diseases:ICD)第11版」及び米国精神医学会による「DSM-5(登録商標)精神疾患の診断・統計マニュアル」等を参照することができる。なお、自閉スペクトラム症を的確に診断可能な基準であればよく、上記ICD-11及びDSM-5に特に限定されない。
自閉スペクトラム症の中核症状としては、自閉スペクトラム症患者における、「社会的コミュニケーションおよび/または社会的相互関係における持続的障害」および「行動、興味、または活動の限定された反復的な様式に関する症状」が挙げられ、例えば、社会的コミュニケーションおよび/または社会的相互関係における持続的障害である。
「自閉スペクトラム症様症状」としては、自閉スペクトラム症の診断基準を満たさないものの、自閉スペクトラム症様の症状を示す場合を含む。「自閉スペクトラム症様症状」としては、さらに、他の疾患(例えば脆弱X症候群、レット症候群、結節性硬化症(TSC)等)に伴う自閉スペクトラム症様の症状を含む。「自閉スペクトラム症様症状」としては、例えば、「社会的コミュニケーションおよび/または社会的相互関係における(持続的な)障害」および「行動、興味、または活動の限定された反復的な様式に関する症状」が挙げられ、好ましくは、社会的コミュニケーションおよび/または社会的相互関係における(持続的な)障害である。
【0020】
「脆弱X症候群(Fragile X syndrome)」、および「レット症候群」の用語(定義)、障害の特徴、及び診断基準は、例えば、世界保健機関(WHO)の作成した「国際疾病分類(International Classification of Diseases:ICD)第11版」を参照することができる。
【0021】
本明細書において、文脈が別途指図しない限り、数値Xの前に「約(about)」と記載したときは、数値Xの+/-10%の範囲を含み、かつ、数値Xの有効数字を考慮し、最も近い有効数字に四捨五入される数値を含む。
例えば、約1mgは、0.9mgおよび1.4mgを含む。
【0022】
式(I)で示される化合物としては、例えばAMG517、AMG8163、AMG7905を含む。
AMG517は、以下の式(I-A):
【化7】
で示される化合物である。
AMG8163は、以下の式で表される化合物である。
【化8】
AMG7905は、以下の式で表される化合物である。
【化9】
【0023】
式(I)で示される化合物における、R1、R2、R3、および-X-の好ましい態様を以下に示す。式(I)で示される化合物としては、以下に示される具体例のすべての組み合わせの態様が例示される。
【0024】
R1が、水素原子、または置換若しくは非置換のアルキルである。
R1が、置換若しくは非置換のアルキルである。
R1が、置換基群αから選択される1以上の基で置換されていてもよいアルキルである。
R1が、1以上のハロゲンで置換されていてもよいアルキルである。
【0025】
R2が、水素原子、または置換若しくは非置換のアミノである。
R2が、水素原子、または置換基群βから選択される1以上の基で置換されていてもよいアミノである。
R2が、水素原子である。
【0026】
R3が、水素原子、または置換若しくは非置換のアミノである。
R3が、置換基群βから選択される1以上の基で置換されていてもよいアミノである。
R3が、置換基群γから選択される1以上の基で置換されていてもよいアルキルカルボニルアミノである。
R3が、アルキルカルボニルアミノである。
【0027】
-X-が、-O-または-N(H)-である。
-X-が、-O-である。
-X-が、-N(H)-である。
【0028】
「製薬上許容される複合体」は、製薬上許容される塩、製薬上許容される共結晶、およびそれらの組み合わせを含む。
【0029】
本明細書において「製薬上許容される塩」としては、塩基性塩として、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;亜鉛塩、鉄塩等の遷移金属塩;マグネシウム塩;アンモニウム塩;トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、エチレンジアミン塩、メグルミン塩、プロカイン塩等の脂肪族アミン塩;N,N-ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩;ピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等のヘテロ環芳香族アミン塩;テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アルギニン塩、リジン塩等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。酸性塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、マンデル酸塩、グルタル酸塩、リンゴ酸塩、安息香酸塩、フタル酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸塩;メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸塩等が挙げられる。これらの塩は、通常行われる方法によって形成させることができる。
【0030】
式(I)で示される化合物の「製薬上許容される共結晶」としては、例えば、塩酸塩、硫酸、硝酸、リン酸、炭酸、炭酸水素、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、過塩素酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、マンデル酸、グルタル酸、リンゴ酸、安息香酸、フタル酸、アスコルビン酸等の有機酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸等との共結晶が挙げられる。別の態様として、例えば、塩酸、酒石酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、コハク酸、フマル酸、クエン酸、シュウ酸、安息香酸、ケイ皮酸、カプロン酸、ソルビン酸等との共結晶が挙げられる。
【0031】
式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体は、溶媒和物、共結晶および/または結晶多形であってもよい。
溶媒和物は、任意の数の有機溶媒分子を配位する有機溶媒和物及び任意の数の水分子を配位する水和物を包含する。本明細書における「溶媒和物」としては、当該化合物又はその製薬上許容される塩の溶媒和物を意味し、例えば、一溶媒和物、二溶媒和物、一水和物、二水和物等が挙げられる。例えば、水和物、エタノール和物、酢酸メチル和物、酢酸エチルおよび2-プロパノール和物、酢酸n-プロピルおよび2-プロパノール和物、アセトニトリル和物、1,2-ジメトキシエタン和物、メチルイソブチルケトン和物が挙げられ、好ましくは、水和物、例えば一水和物、例えば三水和物が挙げられる。
【0032】
式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体は、式(I)で示される化合物の可能な異性体(例えば、ケト-エノール異性体、イミン-エナミン異性体、ジアステレオ異性体、光学異性体、回転異性体、ラセミ体またはそれらの混合物等)、プロドラッグまたはその製薬上許容される複合体として投与されてもよい。
【0033】
式(I)で示される化合物の一つ以上の水素、炭素および/または他の原子は、それぞれ水素、炭素および/または他の原子の同位体で置換され得る。そのような同位体の例としては、それぞれ2H、3H、11C、13C、14C、15N、18O、17O、31P、32P、35S、18F、123Iおよび36Clのように、水素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄、フッ素、ヨウ素および塩素が包含される。式(I)で示される化合物は、そのような同位体で置換された化合物も包含する。該同位体で置換された化合物は、医薬品としても有用であり、式(I)で示される化合物のすべての放射性標識体を包含する。また該「放射性標識体」を製造するための「放射性標識化方法」も本発明に包含され、該「放射性標識体」は、代謝薬物動態研究、結合アッセイにおける研究および/または診断のツールとして有用である。
【0034】
式(I)で示される化合物の放射性標識体は、当該技術分野で周知の方法で調製できる。例えば、式(I)で示されるトリチウム標識化合物は、トリチウムを用いた触媒的脱ハロゲン化反応によって、式(I)で示される特定の化合物にトリチウムを導入することで調製できる。この方法は、適切な触媒、例えばPd/Cの存在下、塩基の存在下または非存在下で、式(I)で示される化合物が適切にハロゲン置換された前駆体とトリチウムガスとを反応させることを包含する。トリチウム標識化合物を調製するための他の適切な方法は、“Isotopes in the Physical and Biomedical Sciences,Vol.1,Labeled Compounds (Part A),Chapter 6 (1987年)”を参照することができる。14C-標識化合物は、14C炭素を有する原料を用いることによって調製できる。
【0035】
本発明に用いられる化合物の有効量にその剤型に適した賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等の各種医薬用添加剤を必要に応じて混合し、医薬組成物とすることができる。さらに、該医薬組成物は、化合物の有効量、剤型及び/又は各種医薬用添加剤を適宜変更することにより、小児用、高齢者用、重症患者用又は手術用の医薬組成物とすることもできる。
【0036】
本発明の医薬組成物の投与経路は、特に限定されず、経口、非経口のいずれの方法でも投与することができる。非経口投与の方法としては、経皮、皮下、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、経粘膜、吸入、経鼻、点眼、点耳、膣内投与等が挙げられる。
【0037】
経口投与の場合は常法に従って、内用固形製剤(例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、フィルム剤等)、内用液剤(例えば、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤、シロップ剤、リモナーデ剤、酒精剤、芳香水剤、エキス剤、煎剤、チンキ剤等)等の通常用いられるいずれの剤型に調製して投与すればよい。錠剤は、糖衣錠、フィルムコーティング錠、腸溶性コーティング錠、徐放錠、トローチ錠、舌下錠、バッカル錠、チュアブル錠または口腔内崩壊錠であってもよく、散剤および顆粒剤はドライシロップであってもよく、カプセル剤は、ソフトカプセル剤、マイクロカプセル剤または徐放性カプセル剤であってもよい。
【0038】
非経口投与の場合は、注射剤、点滴剤、外用剤(例えば、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、エアゾール剤、吸入剤、ローション剤、注入剤、塗布剤、含嗽剤、浣腸剤、軟膏剤、硬膏剤、ゼリー剤、クリーム剤、貼付剤、パップ剤、外用散剤、坐剤等)等の通常用いられるいずれの剤型でも好適に投与することができる。注射剤は、O/W、W/O、O/W/O、W/O/W型等のエマルジョンであってもよい。
経皮投与用の医薬組成物としては、特に限定されないが、例えば、外用固形剤(例えば、外用散剤)、外用液剤(例えば、リニメント剤、ローション剤)、スプレー剤(外用エアゾール剤、ポンプスプレー剤)、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤(例えば、テープ剤(例えば、プラスター剤、硬膏剤)、パップ剤)などを含む。
【0039】
本発明の方法、剤、医薬組成物の態様としては、特に限定されず、症状の程度、患者の体重、年齢及び薬剤の投与形態等に応じて適宜決定できる。
【0040】
本発明化合物の有効量にその剤型に適した賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等の各種医薬用添加剤を必要に応じて混合し、医薬組成物とすることができる。さらに、該医薬組成物は、本発明化合物の有効量、剤型および/または各種医薬用添加剤を適宜変更することにより、小児用、高齢者用、重症患者用の医薬組成物とすることもできる。例えば、小児用医薬組成物は、新生児(出生後4週未満)、乳児(出生後4週~1歳未満)幼児(1歳以上7歳未満)、小児(7歳以上15歳未満)若しくは15歳~18歳の患者に投与されうる。例えば、高齢者用医薬組成物は、65歳以上の患者に投与されうる。
【0041】
本発明の医薬組成物の投与量は、患者の年齢、体重、疾病の種類や程度、投与経路等を考慮した上で設定することが望ましい。本発明の医薬組成物の投与量は、例えば0.1mg/kg~1000mg/kg、例えば0.1mg/kg~500mg/kg、例えば0.1mg/kg~100mg/kg、0.1mg/kg~10mg/kg、例えば2.5mg/kg~100mg/kg、例えば例えば5mg/kg~100mg/kg、例えば1mg/kg~10mg/kg、例えば1mg/kg~5mg/kg、例えば2.5mg/kg~5mg/kg、例えば2.5mg/kg~10mg/kgである。
経口投与する場合、例えば0.05~100mg/kg/日であり、好ましくは0.1~10mg/kg/日である。非経口投与の場合には投与経路により大きく異なるが、例えば0.005~10mg/kg/日であり、好ましくは0.01~1mg/kg/日である。これを1日1回~数回に分けて投与すれば良い。
例えば、1回当たりの投与量が、0.1mg~1000mg、例えば1mg~1000mg、例えば1mg~100mgである。
【0042】
本発明の方法、医薬組成物等には、本発明が標的とする患者又は被験者を治療対象として特定することや用法用量、注意事項等の治療及び/又は予防のための指針について、医師などの予防又は治療に当たる医療従事者に対して指示を与えるために記載された添付文書やラベルを含むことができるが、これらの公的書類は紙媒体に限らず、インターネットを介して提供されることができ、また、公的書類以外にも、種々の他の情報源に基づいて医師などへ予防又は治療の指針を与えることができる。したがって、本発明は、添付文書やラベル以外の情報に基づいて使用される実施形態も包含するものであることが理解される。
本発明の方法、剤、医薬、医薬組成物の態様としては、他の精神疾患薬(デジタル薬を含む)および/または他の治療法(薬を用いない各種療法を含む)と組み合わせて用いてもよく、および、これらと組み合わせずに用いてもよい。
【0043】
本発明の医薬組成物または方法は、好ましくは、下記から選択される1つまたは1つ以上の優れた特徴を有している。
a)社会性障害、例えば、自閉スペクトラム症、脆弱X症候群、自閉スペクトラム症様症状、並びに/または社会的コミュニケーションおよび/若しくは社会的相互関係における障害の治療並びに/または予防に有用である。好ましくは、自閉スペクトラム症の治療および/または予防に有用である。特に好ましくは、自閉スペクトラム症の中核症状の治療および/または予防に有用である。
b)安全性が高い。例えば、有効薬効量および濃度が低く、安全性マージンの高い医薬品となりうる。また、副作用リスクの低い医薬品となりうる。
【0044】
式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される誘導体は、公知の方法に沿って合成できる。たとえば、非特許文献7~9、特許文献1等を参考にすることができる。
(実施例)
【0045】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0046】
(実施例1:バルプロ酸モデルマウスによる薬効評価)
バルプロ酸モデルマウス(VPAモデル)は、ヒトにおいて妊娠中にバルプロ酸を服薬すると新生児がASDに罹患する確率が有意に上昇する臨床エビデンスに基づいたASDモデルマウスである。社会性障害や認知機能障害などのASD様症状が認められることから、最も汎用されるASDモデルマウスの1つである。
先行研究(Hara Y, Ago Y, Higuchi M, Hasebe S, Nakazawa T, Hashimoto H, Matsuda T, Takuma K. Oxytocin attenuates deficits in social interaction but not recognition memory in a prenatal valproic acid-induced mouse model of autism. Horm Behav. 2017 Nov;96:130-136. doi:10.1016/j.yhbeh.2017.09.013. Epub 2017 Sep 28. PMID:28942000.)に記載の通りに胎児期にバルプロ酸をICRマウスに投与し作製されたVPAモデルに対し、TRPV1アンタゴニストであるAMG517を単回投与し、VPAモデルの社会性障害に対する作用を検討した。社会性評価としては、Social Interaction Testという方法を用いた。Social Interaction Testでは、1つのケージの中に2匹のマウスをいれ、対象マウス(Testマウス)がもう1匹のマウス(Intruderマウス)に対して、社会性行動であるsniffingを何秒行うかを定量する。0.5% CMC(カルボキシメチルセルロース;Sigma-Aldrich,#C5678)もしくはAMG517(TOCRIS BIOSCIENCE,#5995)を皮下投与し、投与後1時間後から20分間の社会性行動量を定量化した。CMCの濃度は塩フォームで、AMG517の用量についてはフリー体として算出した。
結果を
図1に示す。2.5mg/kg、5mg/kgのAMG517を投与することで、用量依存的にsniffing時間が増加する傾向が認められた。0.5% CMC投与群と比較して、5mg/kg投与群では有意にsniffing時間が増加していた。つまり、AMG517は社会性障害改善作用を有しており、ASD治療薬として有用であると考えられる。
【0047】
(製剤例)
以下に示す製剤例は例示にすぎないものであり、発明の範囲を何ら限定することを意図するものではない。
【0048】
式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体は、任意の従来の経路により、例えば、経口で、例えば、錠剤またはカプセル剤の形態で、または非経口で、例えば注射液剤または懸濁剤の形態で、局所で、例えば、ローション剤、ゲル剤、軟膏剤またはクリーム剤の形態で、または経鼻形態または座剤形態で医薬組成物として投与することができる。少なくとも1種の薬学的に許容される担体または希釈剤と一緒にして、遊離形態または薬学的に許容される複合体の形態の式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体を含む医薬組成物は、従来の方法で、混合、造粒またはコーティング法によって製造することができる。例えば、経口用組成物としては、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等および有効成分等を含有する錠剤、顆粒剤、カプセル剤とすることができる。また、注射用組成物としては、溶液剤または懸濁剤とすることができ、滅菌されていてもよく、また、保存剤、安定化剤、緩衝化剤等を含有してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の、式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体を含有する医薬組成物、および式(I)で示される化合物またはその製薬上許容される複合体を投与する方法は、社会性障害、例えば、自閉スペクトラム症、脆弱X症候群、および/または自閉スペクトラム症様症状の治療および/または予防に有用である。