(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058222
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】銀ナノワイヤの製造方法並びに接合材及び接合体
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240418BHJP
B22F 1/062 20220101ALI20240418BHJP
B22F 1/054 20220101ALI20240418BHJP
B22F 7/08 20060101ALI20240418BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20240418BHJP
B22F 1/10 20220101ALI20240418BHJP
【FI】
B22F1/00 K
B22F1/062
B22F1/054
B22F7/08 C
B22F9/24 E
B22F1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165445
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】592025786
【氏名又は名称】株式会社日本スペリア社
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】深江 信邦
(72)【発明者】
【氏名】武田 光市
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017BA02
4K017CA04
4K017CA08
4K017DA01
4K017EJ01
4K017FB03
4K017FB07
4K018BA01
4K018BB02
4K018BB05
4K018BD04
4K018CA08
4K018CA44
4K018JA36
4K018KA33
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明の課題は、ナノ銀接合材に配合する銀ナノワイヤを製造することにより、接合部に発生する空隙を抑制し、高い接合信頼性を有した接合材の提供を可能とするナノ銀接合材を提供することである。
【解決手段】本発明の銀ナノワイヤの製造方法とは、ポリエチレングリコールに銀化合物を加えて反応させて、銀ナノワイヤを製造する方法である。また、接合材としては、前述の方法にて得られた銀ナノワイヤと溶剤を混錬してナノ銀接合材を得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀化合物とポリエチレングリコールを100℃以上で加熱反応させて得られることを特徴とする銀ナノワイヤ。
【請求項2】
請求項1記載の銀ナノワイヤを配合したことを特徴とする接合材。
【請求項3】
請求項2記載の接合材を用いたことを特徴とする接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀ナノワイヤの製造方法並びに当該銀ナノワイヤを用いた接合材、及び当該接合材を用いて接合した接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
銀ナノワイヤは、太さが数nm~数百nmのワイヤ状の銀のことをいい、近年、透明基材に導電性を付与する導電素材として、また、現在透明導電膜として広く使われているITOに比べ折り曲げに強いという特徴を持ち、有望視されている素材である。
また、これらの特徴から銀ナノワイヤは、フレキシブルなタッチパネルや新しい太陽電池の電極としての応用が期待されている。
【0003】
一方、環境保護の観点よりナノスケールの接合材として、耐熱性や接合信頼性に優れる銀ナノ粒子を主成分とする接合材が近年盛んに検討されている。
ナノ銀を含有する接合材の多くは、ナノサイズの銀核を有機物の保護材で被覆した銀ナノ粒子が用いられている。
そのため、接合時に有機物が脱離することにより発生するガスが接合体に空隙として存在して、接合特性に悪影響をもたらす懸念がある。
そこで、銀ナノワイヤを接合材に配合することにより、接合時に発生するガスの量を抑制して接合部に空隙が発生しない接合材を検討した。
【0004】
ところで、銀ナノワイヤの製造方法として、エチレングリコール等のポリオール溶媒に銀化合物を溶解させて、ハロゲン化合物、ポリビニルピロリドンの存在下に於いて線形状の金属銀ワイヤを析出させる手法等が開示されている。
また、特許文献1では、銀化合物、塩化物、臭化物、アルカリ金属水酸化物、アルミニウム塩及び有機保護剤が溶解しているアルコール溶媒中で銀ナノワイヤを析出させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ナノ銀接合材に適した銀ナノワイヤを容易な方法にて製造することにより、接合部に発生する空隙を抑制し、高い接合信頼性を有した接合材を安価に提供することを可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前述の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、公知の製造方法よりも簡易な方法にてナノ銀接合材に適した銀ナノワイヤを製造することが出来、当該銀ナノワイヤを接合材に配合することにより、高い接合信頼性を有する接合が可能になることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明の銀ナノワイヤの製造方法は、ポリエチレングリコールを加熱し、そこに銀化合物を加えて反応させて、銀ナノワイヤを得る製造方法である。
また、本発明のナノ銀接合材は、前述の方法にて得られた銀ナノワイヤと溶剤を混錬して得たナノ銀接合材である。
更に、本発明の接合体は、前述のナノ銀接合材を用いて半導体チップ等の電子部品を接合した接合部並びに接合物のことである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安価で容易に銀ナノワイヤの製造ができ、当該銀ナノワイヤを配合したナノ銀接合材を用いることにより、接合部の空隙が抑制され、信頼性の高い接合が可能となる。
また、本発明の銀ナノワイヤを用いた接合材は、耐熱性及び高い信頼性を有する為、パワーデバイス等の接合に応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の製法で作製した銀ナノワイヤのSEM写真である。
【
図2】本発明の製法で作製した銀ナノワイヤを配合した銀ナノワイヤ接合材を用いた接合サンプルの接合強度を測定したグラフ。
【
図3】本発明の製法で作製した銀ナノワイヤを配合した銀ナノワイヤ接合材を用いた接合部の断面SEM写真
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0012】
従来、銀ナノワイヤはその特性から、インク形状に加工し、透明基材にコーティング等の処理を施し、液状成分を除去して透明伝導体とし、電極用途に用いられているが、接合材に用いられている例は知らない。
一方、従来の銀ナノ粒子の形状と銀ナノワイヤの形状を比較すると、銀ナノ粒子は球状に対し、銀ナノワイヤはワイヤ状をしている。
その為、銀を被覆若しくは銀に付着している有機物等の被覆成分の量は比較的少なく、それに伴い、接合時に発生する被覆材に起因するガスの発生量も少ない。
発明者はこの銀ナノワイヤの特性に着目するとともに、従来の銀ナノワイヤの製法を簡略化する方法を検討し、銀化合物とポリエチレングリコールとを反応させてナノ銀接合材に適した銀ナノワイヤを製造する方法を完成させた。
本発明の銀化合物とポリエチレングリコールの2成分による製法は、成分が2種であり夫々の部材が容易に入手可能であることに加えて、加熱による反応のみで銀ナノワイヤを簡単に生成することが可能である。しかも、ナノ銀接合材としての有用性を併せ持った、製造コストも安価な銀ナノワイヤを得ることを可能とした。
【0013】
即ち、本発明の銀ナノワイヤの製造方法は、所定の温度に加熱したポリエチレングリコールに銀化合物を投入し、一定時間反応させた後、冷却することで、銀ナノワイヤが容易に製造できる方法であり、汎用的かつ比較的安価に入手可能な炭酸銀等の銀化合物とポリエチレングリコールにより製造が可能な為、製造コストを低下することができる。
また、前述の製法にて製造した銀ナノワイヤを接合材の主成分として用いることにより、接合部に発生する空隙を抑制し、高い耐熱性と信頼性を有する接合を可能にした。
【0014】
本発明の実施形態をより具体的に、以下に説明する。
【0015】
本発明に銀ナノワイヤの製造に用いることのできる銀化合物は、本発明の効果が得られる範囲に於いて制限は無く、炭酸銀や硝酸銀等の無機銀化合物が好ましい。
また、本発明に銀ナノワイヤの製造に用いることのできるポリエチレングリコールは、本発明の効果が得られる範囲に於いて制限は無く、平均分子量が200~800が好ましい。
【0016】
また、本発明の銀ナノワイヤを含有させた接合材に関し、溶剤は本発明の効果を有する範囲に於いて特に制限は無いが、デカノール等の中級アルコール、ターピネオール等のテルペン系溶剤やイソボルニルシクロヘキサノール等の溶材が例示でき、それらを単体又は複数種を混合して用いることも出来る。
【実施例0017】
以下に実施例を挙げ、本発明を詳細に説明する。
【0018】
まず、本発明の銀ナノワイヤの製造方法を示す。
1.PEG#400(キシダ化学株式会社製)を76g秤量後、三ツ口フラスコに入れ、
スターラー(回転数:200rpm)で撹拌しながら140℃に加熱する。
2.炭酸銀(東洋化学工業株式会社製)30gを秤量し、1に投入する。
3.約10分間反応させた後、約60分間かけて室温まで徐冷する。
4.室温まで冷却した後、純水を適量加え、銀ナノワイヤを凝集させる。
5.開口径75μmのメッシュにて銀ナノワイヤ凝集体を分離する。
6.分離した銀ナノワイヤを吸引ろ過しながら、純水にて洗浄後、更にIPAを用いて洗浄
し、洗浄後乾燥させて銀ナノワイヤを約15g得た。
【0019】
また、炭酸銀とPEG(ポリエチレングリコール)400の混合比率を変化させて銀ナノワイヤの製造方法を検討した結果、以下の結果となった。
(実験例1)
炭酸銀:PEG#400=1:15
(実験例2)
炭酸銀:PEG#400=1:5.1
(実験例3)
炭酸銀:PEG#400=1:2.5
(実験例4)
炭酸銀:PEG#400=1:2.0
【0020】
(結果)
実験例1:銀ナノワイヤの生成が未確認
実験例2:銀ナノワイヤの生成が殆ど確認されず
実験例3:銀ナノワイヤの生成を確認
実験例4:銀ナノワイヤの生成を確認
実験例3で確認した銀ナノワイヤに関し、SEM写真より直径及び軸長を測定したところ、直径が約70.6nm、平均軸長が415nmであることが確認できた。
【0021】
また、実験例1~実験例4で得られた銀ナノ粒子及び銀ナノワイヤの形状と特性を表1に示す。
【0022】
【0023】
表1に示すように、実験例1~4で得られた銀ナノ粒子及び銀ナノワイヤの特性には大差なく、形状に違いがみられた。
このことより、製造時の炭酸銀とPEGとの比率は、炭酸銀が高濃度である方がワイヤ状の粒子の製造に適しており、炭酸銀とPEG比率が1:2.5より炭酸銀が高濃度で反応させる製造方法が好ましいと考えられる。
【0024】
次に、本発明の銀ナノワイヤを配合したナノ銀接合材について説明する。
(銀ナノワイヤ配合接合材の製造)
実験例3で得られた銀ナノワイヤを4gとα-ターピネオール(日本テルペン化学株式会社製)1gを混合した後、プラスチック製容器に移し、株式会社シンキー製撹拌装置「泡とり錬太郎AR-500」を用い混錬し、その後三本ロール(ドイツ国EXAKT社製)を用いてさらに混錬し、銀ナノワイヤ配合接合材を製造した。
【0025】
(銀ナノワイヤ配合接合材の特性評価)
無酸素銅部材による継手試験により、接合材の特性を評価した。
評価サンプルの製法は以下の通りである。
1.市販の銅試験片Φ10mm、t=5mmに、メタルマスクを用い塗布厚100μmで銀ナノワイヤ配合接合材を塗布した。
2.1を130℃に設定したホットプレート上に100秒間放置し乾燥させた後、乾燥した銀ナノワイヤ接合材上に市販の銅試験片Φ5mm、t=3mmをセットし、接合装置Super Welder NA-155(日本アビオニクス株式会社製)を用いて、接合温度300℃、荷重20Mpa、保持時間60、150、300秒の各条件にて接合サンプルを作製した。
3.テンシロン万能試験機(A&D Company, Limited社製)を用いて2で作製した接合サンプルの接合強度を測定した。
【0026】
(評価結果)
評価結果を
図2で示す。
図2より、保持時間60秒では約20MPa、150秒では約45MPa、300秒では約50MPaの接合強度が得られ、パワーモジュール等に使用する半導体チップの接合に十分な強度が確保できていることが分かった。
【0027】
前述の保持時間150秒の条件にて接合した評価サンプルの接合断面をSEMにて観察した写真を
図3にて示す。
このSEM写真より、接合部に空隙の発生が少ないことがわかる。
このことより、本発明の銀ナノワイヤの製造方法にて製造した銀ナノワイヤが配合された銀ナノワイヤは接合材を用いた接合体は高い接合強度と空隙の発生が抑制されていることから、高い接合特性と信頼性が期待できることが判明した。
本発明に係る銀ナノワイヤの製造方法、および当該銀ナノワイヤを配合した銀ナノワイヤ接合材は、従来の銀ナノ粒子に比べ低コスト且つ簡単な製法にて製造でき、当該銀ナノワイヤを配合した銀ナノワイヤ接合材は空隙の少ない接合部と高い接合強度を有する為半導体チップの接合に於いて、高い接合信頼性が期待できる為、パワーモジュール等の用途に広く応用が期待できる。