IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立GEニュークリア・エナジー株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-放射線測定装置 図1
  • 特開-放射線測定装置 図2
  • 特開-放射線測定装置 図3A
  • 特開-放射線測定装置 図3B
  • 特開-放射線測定装置 図4A
  • 特開-放射線測定装置 図4B
  • 特開-放射線測定装置 図5A
  • 特開-放射線測定装置 図5B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058231
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】放射線測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 3/08 20060101AFI20240418BHJP
   G01T 1/167 20060101ALI20240418BHJP
   G01T 3/00 20060101ALI20240418BHJP
   G01T 1/24 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
G01T3/08
G01T1/167 C
G01T1/167 H
G01T3/00 E
G01T1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165459
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉原 有里
(72)【発明者】
【氏名】名雲 靖
(72)【発明者】
【氏名】上野 克宜
(72)【発明者】
【氏名】岡田 聡
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 淳司
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188AA21
2G188AA23
2G188BB04
2G188BB09
2G188BB18
2G188CC28
2G188CC29
2G188DD04
2G188DD05
2G188DD09
2G188DD30
2G188EE02
2G188EE14
2G188EE25
2G188EE28
2G188EE29
2G188FF02
2G188FF20
(57)【要約】
【課題】本発明は、高速中性子の飛来方向を推定できる、軽量で小型の放射線測定装置を提供する。
【解決手段】本発明による放射線測定装置1000は、放射線を検出する半導体センサ100と、半導体センサ100に配置された複数の表面電極102と、半導体センサ100に配置された1つ又は複数の裏面電極105と、バイアス電圧を印加して半導体センサ100の内部に有感層108を形成するバイアス電圧調整部101と、裏面電極105に設けられて中性子を反跳陽子に変換する高速中性子ラジエータ106と、バイアス電圧を変化させて有感層108の厚さを変化させる制御部104を備える。有感層108は、放射線としてガンマ線と反跳陽子を検出可能である。表面電極102は、有感層108が検出した放射線を検出する。制御部104は、バイアス電圧を増加させていったときの、表面電極102における放射線の検出量に基づき、中性子の飛来方向を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を検出する半導体センサと、
前記半導体センサの1つの面に配置された複数の表面電極と、
前記半導体センサの、前記表面電極に対向する面に配置された1つ又は複数の裏面電極と、
前記表面電極と前記裏面電極との間にバイアス電圧を印加して、前記半導体センサの内部に有感層を形成するバイアス電圧調整部と、
前記裏面電極の一部に設けられており、測定対象物から飛来した中性子を反跳陽子に変換する高速中性子ラジエータと、
前記バイアス電圧を変化させて前記有感層の厚さを変化させる制御部と、
を備え、
前記有感層は、放射線として、ガンマ線と、前記高速中性子ラジエータにより変換された前記反跳陽子を検出可能であり、
前記表面電極は、前記半導体センサが検出した放射線として、前記有感層が検出した放射線を検出し、
前記制御部は、前記バイアス電圧を増加させていったときの、前記表面電極における放射線の検出量に基づき、前記中性子の飛来方向を推定する、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記バイアス電圧を増加させていったときの、前記表面電極における放射線の検出量の増加率の変化に基づき、前記中性子の飛来方向を推定する、
請求項1に記載の放射線測定装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記バイアス電圧を増加させていったときに、複数の前記表面電極のうち、放射線の検出量の増加率の増加を最初に検出した前記表面電極の位置に基づき、前記中性子の飛来方向を推定する、
請求項1に記載の放射線測定装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記バイアス電圧を増加させていったときに、放射線の検出量の増加率の増加を最初に検出した前記表面電極の位置と、前記高速中性子ラジエータの位置とを結ぶ方向に沿って、前記中性子が飛来したと推定する、
請求項3に記載の放射線測定装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記バイアス電圧を増加させていったときに、放射線の検出量の増加率の増加を最初に検出した前記表面電極の位置を基にして、前記反跳陽子の分布を推定し、前記反跳陽子の分布に基づいて、前記中性子の飛来方向を推定する、
請求項3に記載の放射線測定装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記バイアス電圧を増加させていったときの、前記バイアス電圧に線形比例する放射線の検出量を、前記測定対象物からのガンマ線又はバックグラウンドとして存在するガンマ線の検出量とし、全ての放射線の検出量からガンマ線の検出量を引いた量を、前記中性子の検出量とする、
請求項1に記載の放射線測定装置。
【請求項7】
複数の前記表面電極は、前記半導体センサに2次元アレイ状に配置されている、
請求項1に記載の放射線測定装置。
【請求項8】
複数の前記裏面電極が備えられ、
複数の前記裏面電極は、前記半導体センサに2次元アレイ状に配置されている、
請求項1に記載の放射線測定装置。
【請求項9】
前記半導体センサの厚さは、前記高速中性子ラジエータにより変換された前記反跳陽子の飛程よりも大きい、
請求項1に記載の放射線測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線測定装置は、放射線源の位置やその放射能を特定するのに用いられる。従来の放射線測定装置の例は、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された放射線計測装置は、γ線を絞ると共に中性子の入射を許容する筒体を有するγ線コリメータと、熱中性子に有感な中性子コンバータを有しかつγ線と熱中性子が付与するエネルギーを測定する放射線検出器と、γ線コリメータ以外の部位を覆うように設けられたγ線遮蔽体と、γ線コリメータ以外の部位を覆うように設けられた中性子吸収材と、筒体の内部に充填された中性子減速材を備え、放射性物質を含む使用済み核燃料などの測定対象物の存在位置を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-205070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放射線測定装置は、放射線源の位置、例えば高速中性子を放出する核燃料の位置を特定するのに用いられ、狭い測定環境で使用されたり、高線量率下などで遠隔操作されるロボットに搭載されたりすることがある。
【0005】
特許文献1に記載された放射線計測装置などの従来の放射線測定装置では、放射線源の位置を特定するために、放射線に対するコリメータ、遮蔽材、吸収材、及び減速材などの部材を備えて放射線検出器に対する放射線の入射方向を限定する。このため、従来の放射線測定装置は、重量と大きさが大きく、狭い測定環境で使用したり、遠隔操作されるロボットに搭載したりするのが困難である。このため、軽量かつ小型であって、高速中性子の飛来方向を推定できる放射線測定装置が望まれている。
【0006】
本発明の目的は、高速中性子の飛来方向を推定できる、軽量で小型の放射線測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による放射線測定装置は、放射線を検出する半導体センサと、前記半導体センサの1つの面に配置された複数の表面電極と、前記半導体センサの、前記表面電極に対向する面に配置された1つ又は複数の裏面電極と、前記表面電極と前記裏面電極との間にバイアス電圧を印加して、前記半導体センサの内部に有感層を形成するバイアス電圧調整部と、前記裏面電極の一部に設けられており、測定対象物から飛来した中性子を反跳陽子に変換する高速中性子ラジエータと、前記バイアス電圧を変化させて前記有感層の厚さを変化させる制御部とを備える。前記有感層は、放射線として、ガンマ線と、前記高速中性子ラジエータにより変換された前記反跳陽子を検出可能である。前記表面電極は、前記半導体センサが検出した放射線として、前記有感層が検出した放射線を検出する。前記制御部は、前記バイアス電圧を増加させていったときの、前記表面電極における放射線の検出量に基づき、前記中性子の飛来方向を推定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、高速中性子の飛来方向を推定できる、軽量で小型の放射線測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例による放射線測定装置の構成例を示す図である。
図2】制御部が行う処理の例を説明するフローチャートである。
図3A】半導体センサについて、高速中性子の飛来方向と反跳陽子の分布を説明する図であり、半導体センサの裏面に対して垂直に高速中性子が飛来してきた場合を示す図である。
図3B】半導体センサについて、高速中性子の飛来方向と反跳陽子の分布を説明する図であり、半導体センサの裏面に対して斜めに高速中性子が飛来してきた場合を示す図である。
図4A】放射線をガンマ線と高速中性子に識別し、高速中性子の飛来方向を推定する方法を説明する図であり、図3Aに示した方向に沿って高速中性子が飛来した場合における、バイアス電圧の増加に対する放射線の検出量の変化を示す図である。
図4B】放射線をガンマ線と高速中性子に識別し、高速中性子の飛来方向を推定する方法を説明する図であり、図3Bに示した方向に沿って高速中性子が飛来した場合における、バイアス電圧の増加に対する放射線の検出量の変化を示す図である。
図5A】測定対象物の任意の位置に、核燃料由来の高速中性子源が点源のように局所的に存在する場合の、放射線測定装置の運用方法の例を示す図である。
図5B】測定対象物の任意の複数の位置に、核燃料由来の高速中性子源がランダムに分布して存在する場合の、放射線測定装置の運用方法の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明による放射線測定装置は、半導体センサと、半導体センサに配置された複数の表面電極を備え、高速中性子の飛来方向(すなわち、放射線検出器に対する高速中性子の入射方向)を推定することができ、高速中性子を放出する放射線源の位置、例えば、核燃料の位置を特定することができる。高速中性子の飛来方向は、半導体センサに印加されるバイアス電圧を増加させていったときの、表面電極における放射線の検出量に基づいて、例えば、放射線の検出量の増加率の変化や、放射線の検出量の増加率の増加を最初に検出した表面電極の位置に基づいて推定することができる。
【0011】
本発明による放射線測定装置は、放射線に対するコリメータ、遮蔽材、吸収材、及び減速材などの部材を備えないので、軽量かつ小型である。このため、狭い測定環境で使用したり、遠隔操作されるロボットに搭載したりすることができ、線量率が高い測定環境においても、放射線源の位置を推定することができる。
【0012】
以下、本発明の実施例による放射線測定装置を、図面を用いて説明する。
【実施例0013】
図1は、本実施例による放射線測定装置1000の構成例を示す図である。放射線測定装置1000は、半導体センサ100、表面電極102、裏面電極105、高速中性子ラジエータ106、バイアス電圧調整部101、有感層108、不感層109、信号処理回路103、及び制御部104を備え、放射線107を測定する。放射線107は、例えば、測定対象物110から放出された高速中性子とガンマ線であり、バックグラウンドとして存在するガンマ線を含めることができる。
【0014】
半導体センサ100は、半導体を利用した放射線検出器であり、放射線を検出する。半導体には、例えば、シリコン、テルル化カドミウム(CdTe)、及びテルル化亜鉛カドミウム(CZT、CdZnTe)等を用いることができる。半導体センサ100の半導体は、n型であってもp型であってもよい。半導体センサ100は、例えば薄膜状であり、図1の紙面に垂直な2つの面(表面と裏面)を持ち、これらの面の間の距離(図1の上下方向の長さ)が厚さである。
【0015】
表面電極102は、半導体センサ100の1つの面(表面)に2次元アレイ状に配置された複数の電極である。すなわち、半導体センサ100の表面には、2方向に複数の表面電極102が並んでいる。図1には、一例として、2方向のそれぞれに3個の表面電極102が設置された構成を示している。なお、図1では、1方向の3個の表面電極102のみを示している。
【0016】
表面電極102には、半導体センサ100の内部で生成された電荷によって生じた誘導電流が流れる。半導体センサ100の内部では、半導体センサ100に入射した放射線(後述する高速中性子ラジエータ106により変換された反跳陽子も含む)の作用によって、有感層108に電荷が生成される。表面電極102には、有感層108内の電荷の移動により、誘導電流が生じる。表面電極102は、この誘導電流により、有感層108が検出した放射線を電気信号として検出する。表面電極102に流れる誘導電流の電荷量は、半導体センサ100の放射線の検出量を表す。すなわち、表面電極102は、半導体センサ100が検出した放射線として、有感層108が検出した放射線を検出する。
【0017】
裏面電極105は、半導体センサ100の、表面電極102に対向する面(裏面)に配置された1つ又は複数の電極である。図1には、一例として、半導体センサ100の裏面の全体に、1つの裏面電極105を備える放射線測定装置1000を示している。放射線測定装置1000が複数の裏面電極105を備える場合には、裏面電極105は、2次元アレイ状に配置された複数の電極であるのが好ましい。
【0018】
表面電極102は、2次元アレイ状に配置されているが、2方向のそれぞれに少なくとも3個配置されているのが好ましい。放射線測定装置1000は、表面電極102が2方向のそれぞれに3個ずつ配置されていると、高速中性子(すなわち、反跳陽子)の飛来方向を9方向の分解能で推定できる。1方向あたりの表面電極102の数が多いほど、より細かい分解能で高速中性子(反跳陽子)の飛来方向を推定できる。
【0019】
また、高速中性子の飛来方向を表面電極102の水平方向(半導体センサ100の表面に平行な方向)における1方向について推定する場合には、表面電極102は、1方向に複数が並んだ1次元アレイ状であって、1方向に3個以上配置されているのが好ましい。
【0020】
また、高速中性子の飛来方向を表面電極102の垂直方向(半導体センサ100の表面又は裏面に垂直な方向)について推定する場合には、表面電極102と裏面電極105は、2次元アレイ状で2方向のそれぞれに3個以上配置されているのが好ましい。表面電極102と裏面電極105が2次元アレイ状に配置されていることで、高速中性子の飛来方向を、表面電極102の垂直方向について求めることができる。
【0021】
なお、放射線測定装置1000は、図1において表面電極102と裏面電極105の位置が入れ替わっていてもよい。また、表面電極102と裏面電極105は、半導体センサ100の半導体がn型であるかp型であるかに依らず、正負どちらの電圧が印加されてもよい。
【0022】
高速中性子ラジエータ106は、高速中性子を反跳陽子に変換する部材であり、任意の素材で構成することができる。高速中性子は、散乱により反跳陽子に変換される。このため、高速中性子ラジエータ106は、散乱が起こりやすいように、中性子と同じような質量を持つ水素原子を多く含む物質、例えばポリエチレン等の素材で構成されるのが好ましい。
【0023】
高速中性子ラジエータ106は、反跳陽子が生成される位置、すなわち反跳陽子が有感層108に飛来してくる方向を制限するために、裏面電極105又は表面電極102に対して局所的に配置されている必要がある。本実施例では、高速中性子ラジエータ106は、裏面電極105の一部に設けられている。
【0024】
バイアス電圧調整部101は、表面電極102と裏面電極105に電気的に接続しており、表面電極102と裏面電極105との間に電圧を印加して、半導体センサ100の内部に有感層108と不感層109を形成する。表面電極102と裏面電極105との間に印加される電圧は、半導体センサ100に印加されるバイアス電圧である。バイアス電圧調整部101は、制御部104に制御されてバイアス電圧を変化させる。
【0025】
有感層108は、半導体センサ100の内部において、バイアス電圧により形成された空乏層であり、放射線を検出可能な領域である。有感層108が放射線を検出すると、検出された信号は、有感層108から表面電極102を介して信号処理回路103に届く。本実施例では、有感層108は、放射線として、ガンマ線と、高速中性子ラジエータ106により高速中性子から変換された反跳陽子のみを検出可能である。
【0026】
バイアス電圧は、有感層108の厚さLを決定する。有感層108の厚さLは、表面電極102と裏面電極105を結ぶ方向(図1の上下方向)の、有感層108の長さである。有感層108の厚さLは、バイアス電圧に線形比例すると考えることができる。すなわち、バイアス電圧を0Vからバイアス電圧最大値まで変化させると、有感層108の厚さLは、線形的に増加する。
【0027】
半導体センサ100の全ての領域が有感層108となるバイアス電圧の値を、バイアス電圧最大値と呼ぶ。バイアス電圧最大値は、高速中性子の飛来方向を推定する前に求めておく。バイアス電圧最大値は、バイアス電圧を増加させながら半導体センサ100のキャパシタンスを測定したときに、半導体センサ100のキャパシタンスが飽和したときのバイアス電圧の値として求めることができる。又は、バイアス電圧最大値は、バイアス電圧を増加させながら半導体センサ100にガンマ線を照射したときに、半導体センサ100のガンマ線の検出量が飽和したときのバイアス電圧の値として求めることができる。
【0028】
高速中性子の飛来方向を推定するときには、バイアス電圧を変化させる。このバイアス電圧の変化は、バイアス電圧を0Vからバイアス電圧最大値まで増加させても、バイアス電圧をバイアス電圧最大値から0Vまで減少させてもよい。例えば、複数の測定対象物110について高速中性子の飛来方向を推定する場合には、バイアス電圧の増加と減少を交互に繰り返すことで、短時間で放射線を測定することができる。
【0029】
不感層109は、半導体センサ100の内部において、バイアス電圧により形成された空乏層以外の層であり、放射線を検出しない領域である。半導体センサ100が放射線を検出しても、不感層109からの信号は、信号処理回路103に届かない。
【0030】
信号処理回路103は、前置増幅器、波形整形器、アナログ/デジタル(A/D)変換器、及びField Programmable Gate Array(FPGA)等を備え、表面電極102のそれぞれと電気的に接続している。信号処理回路103は、一定時間ごとに全ての表面電極102について、放射線の検出量をデジタル信号として読み出すことができる。
【0031】
半導体センサ100で検出された放射線(本実施例では、ガンマ線や、高速中性子ラジエータ106により高速中性子から変換された反跳陽子)は、有感層108を通る際に荷電粒子(電荷)を生成する。半導体センサ100では、バイアス電圧により形成された電場空間が荷電粒子の移動により歪むので、荷電粒子の軌跡に最も近い表面電極102に誘導電流が生じる。信号処理回路103には、表面電極102に生じた誘導電流が電気信号として伝達される。この電気信号は、各検出位置にて荷電粒子が失ったエネルギーに対応する電荷、すなわち表面電極102に流れる誘導電流の電荷量を表す。
【0032】
前置増幅器は、この電気信号が微弱であることから、必要に応じて電荷から電圧に変換するとともに大きさを増幅する。
【0033】
電圧に変換された電気信号の波高値は、各検出位置にて荷電粒子が失ったエネルギーに相当する。波形整形器が電気信号の波形を整形した後、A/D変換器は、波高値をデジタル信号として変換する。FPGAは、このデジタル信号を各表面電極102における半導体センサ100の検出量として制御部104に伝達する。従って、半導体センサ100の放射線の検出量は、表面電極102に流れる誘導電流の電荷量である。
【0034】
なお、信号処理回路103は、半導体センサ100がCharge Coupled Device(CCD)又はComplementary Metal Oxide Semiconductor(CMOS)イメージセンサで構成されている場合でも、荷電粒子がエネルギーを失いながら通った経路に対して、失ったエネルギーと通った位置を検出し、これらをデジタル信号に変換する機能を有する回路構成を備える。
【0035】
制御部104は、放射線測定装置1000を制御するとともに、信号処理回路103が得た電気信号のデータを処理する。例えば、制御部104は、バイアス電圧調整部101を制御してバイアス電圧を変化させて、有感層108の厚さLを変化させる。また、制御部104は、それぞれの表面電極102における半導体センサ100の検出量をデジタル信号として受け取り、このデジタル信号を用いて、半導体センサ100が検出した放射線をガンマ線と高速中性子に識別し、高速中性子の飛来方向を推定する。また、制御部104は、放射線の検出量を計数率と空間線量率に換算する。
【0036】
測定対象物110は、高速中性子を放出する物体である。測定対象物110は、高速中性子だけでなくガンマ線を放出する物体でもよい。高速中性子は、任意の核種から放出されてよい。例えば、測定対象物110は、核燃料物質であり、核燃料由来の核種であるCm-244と、ガンマ線を放出する核種Co-60、Cs-137、Cs-134等を含む物体である。
【0037】
測定対象物110に含まれる核種は、測定対象物110の中で任意の位置に存在することができ、測定対象物110の中で局所的に存在していても全体的に分布して存在していてもよい。また、測定対象物110に複数の核種が含まれる場合には、これらの核種が混在していても混在していなくてもよい。
【0038】
また、本実施例による放射線測定装置1000は、ガンマ線がバックグラウンドとして存在する環境でも使用することができる。すなわち、本実施例による放射線測定装置1000は、測定対象物110がガンマ線を放出しなくても、バックグラウンドとして存在するガンマ線を測定することができる。なお、バックグラウンドに存在するガンマ線は、測定から排除してもよい。また、バックグラウンドに存在する熱中性子は、測定から排除できる。さらに、排除しきれないほど多くのガンマ線や熱中性子がバックグラウンドに存在する場合には、適宜適切な遮蔽材を用いて半導体センサ100に入射する放射線量を低減するものとする。
【0039】
図2は、制御部104が行う処理の例を説明するフローチャートである。図2には、制御部104が、半導体センサ100が検出した放射線をガンマ線と高速中性子に識別し、高速中性子の飛来方向を推定し、放射線の検出量を計数率と空間線量率に換算する処理のフローチャートを示している。
【0040】
処理200では、制御部104は、半導体センサ100の放射線の検出量から計数率と空間線量率への換算式を生成する。処理200は、放射線測定装置1000での測定を実施する前に行う。この換算式は、既に知られている方法を用いて生成することができる。以下では、この換算式の生成方法の例を説明する。
【0041】
初めに、半導体センサ100の全ての領域が有感層108となるバイアス電圧を表面電極102と裏面電極105との間に印加した状態で、測定環境中に存在すると予想される放射線を半導体センサ100に照射する。放射線源の放射能の値は、既知である。次に、各表面電極102の検出感度が互いに等しくなるように、各表面電極102の検出感度を補正する。例えば、各表面電極102の検出感度に係数をかけて検出感度を補正する。そして、放射線源と半導体センサ100との距離を変えて半導体センサ100の検出量を測定又はモンテカルロシミュレーション等で計算し、この測定又は計算の結果を基にして、半導体センサ100の放射線の検出量から計数率と空間線量率への換算式を生成する。
【0042】
処理201以降の処理は、測定対象物110に対して放射線測定装置1000を十分に接近させてから行う処理である。
【0043】
処理201では、制御部104は、半導体センサ100が検出した放射線をガンマ線と高速中性子に識別する。制御部104は、バイアス電圧調整部101がバイアス電圧を変化させることで、有感層108の厚さLを変更することができる。以下に説明するように、半導体センサ100のガンマ線の検出量は、有感層108の厚さLに線形比例する。そこで、制御部104は、半導体センサ100の全ての放射線の検出量のうち、有感層108の厚さLに線形比例する量をガンマ線の検出量とし、全ての放射線の検出量からガンマ線の検出量を引いた量を、高速中性子の検出量とする。
【0044】
半導体センサ100に対するガンマ線の全線減弱係数をμ[cm/g]とし、半導体の密度をρ[g/cm]とすると、ガンマ線に対する半導体センサ100の感度εは、有感層108の厚さLを用いて、式(1)で与えられる。
ε=1-exp(-μ・ρ・L) (1)
なお、expは、e(ネイピア数)のべき乗を表す。
【0045】
有感層108の厚さLが十分に小さいと、式(1)は式(2)のように近似できる。
ε≒μ・ρ・L (2)
半導体センサ100のガンマ線の計数率C[count/s]は、半導体センサ100に入射するガンマ線の量をH[count/s]とすると、式(2)を用いて式(3)で与えられる。
【0046】
C=ε・H
=μ・ρ・L・H (3)
式(3)により、半導体センサ100のガンマ線の計数率Cは、有感層108の厚さLに線形比例する。
【0047】
また、表面電極102に流れる誘導電流の電荷量は、有感層108の厚さLに線形比例するという傾向がある。先に述べたように、表面電極102に流れる誘導電流の電荷量は、半導体センサ100の放射線の検出量を表す。従って、半導体センサ100のガンマ線の検出量は、有感層108の厚さLに線形比例する。
【0048】
表面電極102のそれぞれのガンマ線の検出量は、有感層108の厚さLに線形比例する。制御部104は、半導体センサ100の放射線の全検出量のうち、有感層108の厚さLに線形比例する量を、ガンマ線の検出量とし、放射線の全検出量からガンマ線の検出量を引いた量を、高速中性子の検出量とする。
【0049】
処理202では、制御部104は、高速中性子の飛来方向を推定する。すでに述べたように、有感層108の厚さLは、バイアス電圧に線形比例すると考えることができる。詳細は後述するが、制御部104は、バイアス電圧を変化させたときの、各表面電極102における反跳陽子(高速中性子ラジエータ106により高速中性子から変換された反跳陽子)の検出タイミングから反跳陽子の分布を推定し、この反跳陽子の分布から高速中性子が飛来した方向を推定する。
【0050】
処理203では、制御部104は、処理200で生成した換算式を用いて、半導体センサ100の放射線の検出量(ガンマ線と高速中性子の検出量)を、計数率と空間線量率へ換算する。制御部104は、半導体センサ100の全ての領域が有感層108となるバイアス電圧の値における、全ての表面電極102での放射線の検出量の合計を求める。全ての表面電極102での合計の放射線の検出量を求めることで、半導体センサ100の表面電極102が設置された面(表面)の全体に対して、放射線の検出量を求めることができる。
【0051】
ガンマ線に関しては、フルエンスΦを空気カーマKで除した値を用いて、計数率Cから空間線量率に変換することもできる。フルエンスΦと空気カーマKの算出には、ガンマ線のエネルギー情報が必要である。本実施例では、例えばCs-137とCs-134から放出されるガンマ線が支配的に存在する環境を想定すると、600~700keV相当のエネルギーで換算することができる。又は、放射線測定装置1000と異なるガンマ線検出装置を用いた方法(例えば、ガンマ線スペクトロスコピー)により、ガンマ線を放出する核種としてどのような核種が環境中に存在するかを評価してから、フルエンスΦと空気カーマKの算出に必要なエネルギーを選定することもできる。
【0052】
図3A図3Bは、半導体センサ100について、高速中性子117の飛来方向と、高速中性子ラジエータ106により高速中性子117から変換された反跳陽子の分布を説明する図である。図3A図3Bには、図1と同様に、2次元アレイ状に配置された複数の表面電極102のうち、1方向に並んだ3個の表面電極102(102a、102b、102c)のみを示している。表面電極102bは、表面電極102の1方向の中央部に位置し、表面電極102a、102cは、表面電極102の1方向の両端部に位置する。
【0053】
高速中性子ラジエータ106は、裏面電極105に対して局所的に、すなわち裏面電極105の一部に配置されている。本実施例では、半導体センサ100は、例えば、表面(表面電極102が設置された面)と裏面(裏面電極105が設置された面)が正方形で面積が10×10mmであり、厚さ(表面電極102と裏面電極105の距離)が1mmであるとする。高速中性子ラジエータ106は、例えば、正方形で面積が1×1mmであり、厚さが0.1mmであって、裏面電極105の中央部に設置されているとする。
【0054】
反跳陽子の分布を推定するには、半導体センサ100の厚さ(表面電極102と裏面電極105の距離)が、反跳陽子の飛程よりも大きいのが好ましい。この理由は、半導体センサ100の厚さが反跳陽子の飛程よりも大きいと、有感層108の厚さL(すなわち、バイアス電圧)を変えたときに、半導体センサ100が検出する反跳陽子の分布の変化を容易に検出できるからである。反跳陽子の飛程は、通常は理論的に求めることができる。
【0055】
本実施例では、Cm-244から放出されて2~3MeVの平均エネルギーを持つ中性子(高速中性子117)が、高速中性子ラジエータ106にて反跳陽子に変換されるとする。この反跳陽子の飛程は、理論的に求めると1mm未満である。従って、本実施例での半導体センサ100の厚さ(1mm)は、反跳陽子の飛程よりも大きい。
【0056】
図3Aには、半導体センサ100の裏面(裏面電極105が設置された面)に対して垂直に高速中性子117が飛来してきた場合を示している。図3Bには、半導体センサ100の裏面に対して斜めに高速中性子117が飛来してきた場合を示している。高速中性子117は、高速中性子ラジエータ106にて反跳陽子301に変換される。半導体センサ100の内部における反跳陽子301の分布302は、高速中性子117が飛来してきた方向と、高速中性子117が反跳陽子301に変換された位置とを反映している。
【0057】
図3Aに示した場合では、高速中性子117は、表面電極102bの位置と高速中性子ラジエータ106の位置とを結ぶ方向に沿って、半導体センサ100に飛来する。このため、半導体センサ100の内部における反跳陽子301の分布302は、高速中性子ラジエータ106の位置から、表面電極102b(表面電極102の1方向の中央部に位置する電極)の位置に向かって広がっている。従って、反跳陽子301は、表面電極102bの付近に分布するが、表面電極102a、102c(表面電極102の1方向の端部に位置する電極)の付近にはほとんど分布しない。
【0058】
図3Bに示した場合では、高速中性子117は、表面電極102cの位置と高速中性子ラジエータ106の位置とを結ぶ方向に沿って、半導体センサ100に飛来する。このため、半導体センサ100の内部における反跳陽子301の分布302は、高速中性子ラジエータ106の位置から、表面電極102cの位置に向かって広がっている。従って、反跳陽子301は、表面電極102cの付近に最も多く分布し、表面電極102bの付近に次に多く分布し、表面電極102aの付近には分布しない。
【0059】
なお、ガンマ線は、半導体センサ100の内部で電子に変わる。この電子は、半導体センサ100の内部で全体的に存在する。このため、ガンマ線は、半導体センサ100の内部で全体的に分布しているとして検出される。従って、ガンマ線は、半導体センサ100の内部での分布が、反跳陽子301の分布と異なる。
【0060】
以上説明したように、高速中性子ラジエータ106で高速中性子117から変換された反跳陽子301は、半導体センサ100の内部で、高速中性子117の飛来方向に応じて特定の方向に進む。そこで、半導体センサ100の内部における反跳陽子301の分布302を求めることにより、高速中性子117の飛来方向を推定することができる。半導体センサ100の内部における反跳陽子301の分布302は、バイアス電圧を増加させて有感層108の厚さLを増加させていったときの、半導体センサ100の放射線の検出量を基に求めることができる。
【0061】
図4A図4Bは、放射線をガンマ線と高速中性子に識別し(図2の処理201)、高速中性子の飛来方向を推定する方法(図2の処理202)を説明する図である。図4A図4Bに示すグラフは、バイアス電圧を増加させて有感層108の厚さLを増加させていったときの、半導体センサ100の放射線の検出量を表している。図4A図4Bには、表面電極102a、102b、102cのそれぞれについて、放射線の検出量401a、401b、401cを示している。
【0062】
図4Aは、図3Aに示した方向に沿って高速中性子117が半導体センサ100に飛来した場合における、バイアス電圧の増加に対する放射線の検出量401a、401b、401cの変化を示している。
【0063】
バイアス電圧が増加すると、有感層108の厚さL(図1)は、表面電極102から裏面電極105に向かって増加する。バイアス電圧が小さい場合には、有感層108は、厚さLが小さいので反跳陽子301の分布302に届かず、半導体センサ100は、反跳陽子301を検出せず、ガンマ線だけを検出する。このため、図4Aのバイアス電圧がV1より小さい領域では、放射線の検出量401a、401b、401cは、ガンマ線の検出量である。このガンマ線の検出量は、有感層108の厚さL、すなわちバイアス電圧に線形比例する。
【0064】
バイアス電圧が増加して電圧V1に到達すると、表面電極102bの付近において、有感層108が反跳陽子301の分布302に到達する。反跳陽子301は、表面電極102bの付近に分布するので、表面電極102bだけに誘導電流が流れる。すなわち、表面電極102bは、反跳陽子301とガンマ線を検出し、表面電極102a、102cは、ガンマ線だけを検出する。このため、図4Aのバイアス電圧がV1より大きくV2より小さい領域では、放射線の検出量401bは、反跳陽子301とガンマ線の検出量であり、放射線の検出量401a、401cは、ガンマ線だけの検出量である。バイアス電圧が電圧V1に到達すると、放射線の検出量401bは、増加率が変化する(本実施例では増加する)。
【0065】
さらにバイアス電圧が増加して電圧V2に到達すると、表面電極102a、102cの付近でも、有感層108が反跳陽子301の分布302に到達する。すると、表面電極102bだけでなく、表面電極102a、102cにも誘導電流が流れる。すなわち、表面電極102a、102b、102cは、反跳陽子301とガンマ線を検出する。このため、図4Aのバイアス電圧がV2より大きい領域では、放射線の検出量401a、401b、401cは、反跳陽子301とガンマ線の検出量である。バイアス電圧が電圧V2に到達すると、放射線の検出量401a、401cも、増加率が変化する(本実施例では増加する)。
【0066】
図4Bは、図3Bに示した方向に沿って高速中性子117が半導体センサ100に飛来した場合における、バイアス電圧の増加に対する放射線の検出量401a、401b、401cの変化を示している。
【0067】
バイアス電圧が小さい場合、すなわち図4Bのバイアス電圧がV3より小さい領域では、図4Aを用いて説明したように、放射線の検出量401a、401b、401cは、ガンマ線の検出量であり、バイアス電圧に線形比例する。
【0068】
バイアス電圧が増加して電圧V3に到達すると、表面電極102cの付近において、有感層108が反跳陽子301の分布302に到達する。反跳陽子301は、表面電極102cの付近に分布するので、表面電極102cだけに誘導電流が流れる。すなわち、表面電極102cは、反跳陽子301とガンマ線を検出し、表面電極102b、102cは、ガンマ線だけを検出する。このため、図4Bのバイアス電圧がV3より大きくV4より小さい領域では、放射線の検出量401cは、反跳陽子301とガンマ線の検出量であり、放射線の検出量401a、401bは、ガンマ線だけの検出量である。バイアス電圧が電圧V3に到達すると、放射線の検出量401cは、増加率が変化する(本実施例では増加する)。
【0069】
さらにバイアス電圧が増加して電圧V4に到達すると、表面電極102bの付近でも、有感層108が反跳陽子301の分布302に到達する。すると、表面電極102cだけでなく、表面電極102bにも誘導電流が流れる。すなわち、表面電極102b、102cは、反跳陽子301とガンマ線を検出する。このため、図4Bのバイアス電圧がV4より大きい領域では、放射線の検出量401b、401cは、反跳陽子301とガンマ線の検出量である。バイアス電圧が電圧V4に到達すると、放射線の検出量401bは、増加率が変化する(本実施例では増加する)。
【0070】
なお、図3Bに示した場合では、反跳陽子301が表面電極102aの付近には分布しないので、表面電極102aは、反跳陽子301を検出せず、ガンマ線だけを検出する。このため、図4Bにおいて、放射線の検出量401aは、バイアス電圧が増加しても増加率が変化せず、バイアス電圧に線形比例している。
【0071】
ガンマ線の検出量は、バイアス電圧に線形比例する。このため、図4A図4Bにおいて反跳陽子301が検出された領域でも、ガンマ線の検出量を求めることができる。すなわち、半導体センサ100の放射線の全検出量のうち、バイアス電圧に線形比例する量をガンマ線の検出量とする。反跳陽子301の検出量、すなわち高速中性子の検出量は、半導体センサ100の全ての放射線の検出量からガンマ線の検出量を引くことで求めることができる。
【0072】
以上説明したように、バイアス電圧が小さい領域では、表面電極102a、102b、102cのそれぞれについての放射線の検出量401a、401b、401cは、バイアス電圧に線形比例する。放射線の検出量401a、401b、401cは、バイアス電圧が増加していくと線形的に増加していき、バイアス電圧がある電圧(V1、V2、V3又はV4)に到達すると増加率が増加する。
【0073】
放射線の検出量401a、401b、401cがバイアス電圧に線形比例している場合には、表面電極102a、102b、102cは、ガンマ線を検出している。バイアス電圧を増加させていき放射線の検出量401a、401b、401cの増加率が増加した場合には、表面電極102a、102b、102cは、ガンマ線だけでなく、反跳陽子301も検出している。
【0074】
以上の説明から、半導体センサ100の内部における反跳陽子301の分布302は、バイアス電圧を増加させていったときに、表面電極102a、102b、102cのうち最初に放射線の検出量401a、401b、401cの増加率の増加を検出した電極の位置を基にして、推定することができる。すなわち、半導体センサ100の内部における反跳陽子301の分布302は、バイアス電圧を増加させていったときの表面電極102a、102b、102cでの反跳陽子301の検出タイミングから推定することができる。
【0075】
例えば、バイアス電圧を増加させていったときに、表面電極102a、102b、102cのうち表面電極102bが最初に放射線の検出量401bの増加率の増加を検出した場合(図4A)には、反跳陽子301の分布302は、図3Aに示したように、高速中性子ラジエータ106の位置から、表面電極102bの位置に向かって広がっている(すなわち、反跳陽子301は、表面電極102bの付近に分布し、表面電極102a、102cの付近にはほとんど分布しない)と推定することができる。
【0076】
また、例えば、バイアス電圧を増加させていったときに、表面電極102a、102b、102cのうち表面電極102cが最初に放射線の検出量401cの増加率の増加を検出し、次に表面電極102bが放射線の検出量401bの増加率の増加を検出した場合(図4B)には、反跳陽子301の分布302は、図3Bに示したように、高速中性子ラジエータ106の位置から、表面電極102cの位置に向かって広がっている(すなわち、反跳陽子301は、表面電極102cの付近に最も多く分布し、表面電極102bの付近に次に多く分布する)と推定することができる。
【0077】
高速中性子117の飛来方向は、バイアス電圧を増加させていって推定した反跳陽子301の分布302に基づいて推定することができる。すなわち、高速中性子117の飛来方向は、バイアス電圧を増加させていったときに、放射線の検出量401a、401b、401cの増加率の増加を最初に検出した表面電極102a、102b、102cの位置に基づいて、推定することができる。
【0078】
例えば、バイアス電圧を増加させていったときに、表面電極102bが最初に放射線の検出量401bの増加率の増加を検出した場合(図4A)には、高速中性子117は、表面電極102bの位置と高速中性子ラジエータ106の位置とを結ぶ方向に沿って、半導体センサ100に飛来したと推定することができる(図3A)。
【0079】
また、例えば、バイアス電圧を増加させていったときに、表面電極102cが最初に放射線の検出量401cの増加率の増加を検出した場合(図4A)には、高速中性子117は、表面電極102cの位置と高速中性子ラジエータ106の位置とを結ぶ方向に沿って、半導体センサ100に飛来したと推定することができる(図3A)。
【0080】
なお、バイアス電圧の印加方向(電圧の大小の向き)により、有感層108が表面電極102から裏面電極105に向かって形成されるか、裏面電極105から表面電極102に向かって形成されるかが定められる。図4A、4Bには、有感層108が表面電極102から形成される例を示している。有感層108が裏面電極105から形成される場合には、図4A、4Bにおいて、バイアス電圧に対する放射線の検出量401a、401b、401cの変化の傾向が左右反転する。
【0081】
図5A図5Bは、本実施例による放射線測定装置1000の運用方法の例を示す図である。以下では、一例として、放射線測定装置1000が、核燃料を含む測定対象物110から放出された放射線を測定する例を説明する。
【0082】
図5Aには、測定対象物110の任意の位置に、核燃料由来の高速中性子源が点源のように局所的に存在する場合の、放射線測定装置1000の運用方法の例を示している。測定対象物110の中に高速中性子源が局所的に存在する場合には、放射線測定装置1000を測定対象物110に対して静置させて測定するだけで、高速中性子源の位置を推定できる。
【0083】
図5Bには、測定対象物110の任意の複数の位置に、核燃料由来の高速中性子源がランダムに分布して存在する場合の、放射線測定装置1000の運用方法の例を示している。測定対象物110の中に高速中性子源が遍在して存在する場合には、図5B中の矢印に示すように、放射線測定装置1000を測定対象物110に対して走査して複数の位置で測定することで、高速中性子源の分布を推定できる。
【0084】
本実施例による放射線測定装置1000は、以上のようにして、高速中性子の飛来方向を推定することができ、高速中性子を放出する放射線源の位置を特定することができる。本実施例による放射線測定装置1000は、放射線源の位置を特定するために、コリメータ、遮蔽材、吸収材、及び減速材などの部材が不要であるので、軽量かつ小型である。
【0085】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0086】
100…半導体センサ、101…バイアス電圧調整部、102、102a、102b、102c…表面電極、103…信号処理回路、104…制御部、105…裏面電極、106…高速中性子ラジエータ、107…放射線、108…有感層、109…不感層、110…測定対象物、117…高速中性子、301…反跳陽子、302…反跳陽子の分布、401a、401b、401c…放射線の検出量、1000…放射線測定装置。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B