IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-蓄電池用電極製造装置 図1
  • 特開-蓄電池用電極製造装置 図2
  • 特開-蓄電池用電極製造装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058233
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】蓄電池用電極製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240418BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20240418BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20240418BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20240418BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20240418BHJP
   B30B 3/00 20060101ALI20240418BHJP
   B21D 53/00 20060101ALI20240418BHJP
   B30B 15/34 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/04 A
H01G11/06
H01G11/86
H01G13/00 381
B30B3/00 B
B21D53/00 E
B30B15/34 Z
H01M4/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165461
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中島 隆志
(72)【発明者】
【氏名】竹山 正起
【テーマコード(参考)】
4E090
5E078
5E082
5H050
【Fターム(参考)】
4E090AA04
4E090AB01
4E090BA02
4E090DA09
4E090HA10
5E078AA15
5E078AB06
5E078BB24
5E082AB09
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA07
5H050GA03
5H050GA28
5H050GA29
5H050HA04
5H050HA12
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、蓄電池用電極のプレスにおいて電極組成又は密度の仕様に対して変化する湾曲の容易で且つ最適な調整方法を提供すること、及びしわ又は箔切れがなく高密度電極を提供することである。
【解決手段】長尺の電極集電体の中央部に電極活物質が塗布され、且つ長尺方向の両端部に未塗工部13を有する電極1のロールプレス装置であって、電極1との抱き角度が90度以上で180度以下の速度調整可能な駆動ロール2、圧力調整可能な対向する一対のロールからなる圧延ロール4,5、速度調整可能な駆動ロール6とそれに対向し、且つ上記未塗工部13のみと接触するニップロール7、およびプレス後の幅方向電極形状を測定する機構9を上記記載の順に配置するロールプレス装置が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の電極集電体の中央部に電極活物質が塗布された電極であって、且つ、上記電極の長尺方向の両端部に未塗工部を有する電極のロールプレス装置であって、
・電極との抱き角度が90度以上で180度以下の速度調整可能な駆動ロール2、
・圧力調整可能な対向する一対のロールからなる圧延ロール4,5、
・速度調整可能な駆動ロール6とそれに対向し、且つ上記未塗工部のみと接触するニップロール7、および
・プレス後の幅方向電極形状を測定する機構9
を上記記載の順に配置するロールプレス装置。
【請求項2】
駆動ロール2は、φ280mm以上で圧延ロール4,5の径以下で且つ電極との抱き角度が90度以上で180度以下であり、且つ加温できる機能を有することを特徴とする請求項1に記載のロールプレス装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のロールプレス装置を用いる電極のプレス方法であって、駆動ロール2の速度比率V1は、圧延ロール4,5の速度比率V2よりも低く、且つ駆動ロール6の速度比率V3は、圧延ロール4,5の速度比率V2よりも高いことを特徴とする電極のプレス方法。
【請求項4】
機構9として、プレス後の幅方向電極形状をインラインプロファイル測定できる機構を用いて、幅方向の1スキャン測定においてプレス後の幅方向電極形状を左と右の2つに分割し、それぞれの分割領域で算出した電極のうねり量が-8mm以上、14mm以下となるように制御する、請求項3に記載の電極のプレス方法。
【請求項5】
上記制御が、プレス後の電極形状を幅方向インラインプロファイル測定において測定した結果を元に、圧延ロール4,5直後に上記電極集電体のみと接触する駆動ロール6の変更可能な駆動ロール速度比率で行う、請求項4に記載の電極のプレス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池用電極、蓄電池用電極製造装置、ロールプレス装置、電極のプレス方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全及び省資源を目指すエネルギーの有効利用の観点から、風力発電の電力平滑化システム又は深夜電力貯蔵システム、太陽光発電技術に基づく家庭用分散型蓄電システム、電気自動車用の蓄電システム等が注目を集めている。
【0003】
これらの蓄電システムに用いられる電池の第一の要求事項は、エネルギー密度が高いことである。このような要求に対応可能な高エネルギー密度電池の有力候補として、リチウムイオン電池の開発が精力的に進められている。
【0004】
第二の要求事項は、出力特性が高いことである。例えば、高効率エンジンと蓄電システムとの組み合わせ(例えば、ハイブリッド電気自動車)又は燃料電池と蓄電システムとの組み合わせ(例えば、燃料電池電気自動車)において、加速時に高い出力放電特性を発揮する蓄電システムが要求されている。
【0005】
現在、高出力蓄電デバイスとしては、電気二重層キャパシタ、ニッケル水素電池等が開発されている。
【0006】
電気二重層キャパシタのうち、電極に活性炭を用いたものは、0.5~1kW/L程度の出力特性を有する。この電気二重層キャパシタは、出力特性が高いだけでなく、耐久性(サイクル特性及び高温保存特性)もまた高く、上記の高出力が要求される分野で最適のデバイスであると考えられてきた。しかしながら、そのエネルギー密度は1~5Wh/L程度に過ぎないため、更なるエネルギー密度の向上が必要である。
【0007】
他方、現在ハイブリッド電気自動車で一般に採用されているニッケル水素電池は、電気二重層キャパシタと同等の高出力を有し、かつ160Wh/L程度のエネルギー密度を有している。しかしながら、そのエネルギー密度及び出力特性をより一層高めるとともに、耐久性(特に、高温における安定性)を高めるための研究が精力的に進められている。
【0008】
また、リチウムイオン電池においても、高出力化に向けての研究が進められている。例えば、放電深度(すなわち、蓄電素子の放電容量に対する放電量の割合(%))50%において3kW/Lを超える高出力が得られるリチウムイオン電池が開発されている。しかしながら、そのエネルギー密度は100Wh/L以下であり、リチウムイオン電池の最大の特徴である高エネルギー密度を敢えて抑制した設計である。また、その耐久性(サイクル特性及び高温保存特性)は、電気二重層キャパシタに比べ劣るため、そのようなリチウムイオン電池は、実用的な耐久性を持たせるために、放電深度が0~100%の範囲よりも狭い範囲で使用される。実際に使用できるリチウムイオン電池の容量は更に小さくなるから、耐久性をより一層向上させるための研究が精力的に進められている。
【0009】
上記のように、高エネルギー密度、高出力特性、及び高耐久性を兼ね備えた蓄電素子の実用化が強く求められている。しかしながら、上述した既存の蓄電素子には、それぞれ一長一短があるため、これらの技術的要求を充足する新たな蓄電素子が求められている。その有力な候補として、リチウムイオンキャパシタと呼ばれる蓄電素子が注目され、開発が盛んに行われている。
【0010】
リチウムイオンキャパシタは、リチウム塩を含む非水系電解液を使用する蓄電素子(以下、「非水系リチウム蓄電素子」ともいう。)の一種であって、正極においては約3V以上で電気二重層キャパシタと同様の陰イオンの吸着及び脱着による非ファラデー反応、負極においてはリチウムイオン電池と同様のリチウムイオンの吸蔵及び放出によるファラデー反応によって、充放電を行う蓄電素子である。
【0011】
上記の蓄電素子に一般的に用いられる電極材料とその特徴をまとめると、一般的に、電極に活性炭等の材料を用い、活性炭表面のイオンの吸着及び脱離(非ファラデー反応)により充放電を行う場合は、高出力かつ高耐久性が得られるが、エネルギー密度が低くなる(例えば1倍とする。)。他方、電極に酸化物又は炭素材料を用い、ファラデー反応により充放電を行う場合は、エネルギー密度が高くなる(例えば、活性炭を用いた非ファラデー反応の10倍とする。)が、耐久性及び出力特性に課題がある。
【0012】
これらの電極材料の組合せとして、電気二重層キャパシタは、正極及び負極に活性炭(エネルギー密度1倍)を用い、正負極共に非ファラデー反応により充放電を行うことを特徴とし、したがって高出力かつ高耐久性を有するが、エネルギー密度が低い(正極1倍×負極1倍=1)という特徴がある。
【0013】
リチウムイオン二次電池は、正極にリチウム遷移金属酸化物(エネルギー密度10倍)、負極に炭素材料(エネルギー密度10倍)を用い、正負極共にファラデー反応により充放電を行うことを特徴とし、したがって高エネルギー密度(正極10倍×負極10倍=100)を有するが、出力特性及び耐久性に課題がある。更に、ハイブリッド電気自動車等で要求される高耐久性を満足させるためには放電深度を制限しなければならず、リチウムイオン二次電池では、そのエネルギーの10~50%しか使用できない。
【0014】
リチウムイオンキャパシタは、正極に活性炭(エネルギー密度1倍)、負極に炭素材料(エネルギー密度10倍)を用い、正極では非ファラデー反応、負極ではファラデー反応により充放電を行うことを特徴とし、したがって、電気二重層キャパシタ及びリチウムイオン二次電池の特徴を兼ね備えた非対称キャパシタである。リチウムイオンキャパシタは高出力かつ高耐久性でありながら、高エネルギー密度(正極1倍×負極10倍=10)を有し、リチウムイオン二次電池の様に放電深度を制限する必要がないことが特徴である。
【0015】
上記リチウムイオンキャパシタの更なる高エネルギー密度化については、様々な検討が行われている(特許文献1)。
【0016】
特許文献1には、正極に含まれるリチウム化合物の分解を促進し、負極へのプレドープを短時間で行うことができ、高容量な非水系ハイブリッドキャパシタ用である正極が開示されている。
【0017】
また高エネルギー密度化の手段としては上述の方法以外に電極のプレスがある。塗工後の電極は空隙率が高いために、プレスすることで、その空隙率を下げるものである。プレスの圧力を上げることで、塗工部下の箔部が伸び、未塗工部の箔部は伸びないために、そのバランス差により、高密度プレスでの課題はしわや箔切れや電極の湾曲といったものが背反として存在する。
【0018】
特許文献2には湾曲矯正ローラーの大口径部を未塗工領域及び塗工領域の一部に当てることで電極の湾曲を改善することが開示されている。しかしながら、この文献にはしわや箔切れについては考慮されておらず、組成や密度で変化する湾曲に対する調整方法には言及されていない。
【0019】
なお、本明細書において、メソ孔量はBJH法により、マイクロ孔量はMP法により、それぞれ算出されるが、BJH法は非特許文献1において提唱されており、かつMP法は、「t-プロット法」(非特許文献2)を利用して、マイクロ孔容積、マイクロ孔面積、およびマイクロ孔の分布を求める方法を意味し、非特許文献3において示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】国際公開第2017/126687号
【特許文献2】特許第6156070号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】E.P.Barrett,L.G.Joyner and P.Halenda,J.Am.Chem.Soc.,73,373(1951)
【非特許文献2】B.C.Lippens,J.H.de Boer,J.Catalysis,4319(1965)
【非特許文献3】R.S.Mikhail,S.Brunauer,E.E.Bodor,J.Colloid Interface Sci.,26,45(1968)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
以上の現状に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、蓄電池用電極のプレスにおいて電極組成又は密度の仕様に対して変化する湾曲の容易で且つ最適な調整方法の提供と、しわ又は箔切れがなく高密度電極を提供することである。本発明は、かかる知見に基づいて為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題は以下の技術的手段により解決される。すなわち、本発明は、以下のとおりのものである:
(1) 長尺の電極集電体の中央部に電極活物質が塗布された電極であって、且つ、上記電極の長尺方向の両端部に未塗工部を有する電極のロールプレス装置であって、
・電極との抱き角度が90度以上で180度以下の速度調整可能な駆動ロール2、
・圧力調整可能な対向する一対のロールからなる圧延ロール4,5、
・速度調整可能な駆動ロール6とそれに対向し、且つ上記未塗工部のみと接触するニップロール7、および
・プレス後の幅方向電極形状を測定する機構9
を上記記載の順に配置するロールプレス装置。
(2) 駆動ロール2は、φ280mm以上で圧延ロール4,5の径以下で且つ電極との抱き角度が90度以上で180度以下であり、且つ加温できる機能を有することを特徴とする項目1に記載のロールプレス装置。
(3) 項目1または項目2に記載のロールプレス装置を用いる電極のプレス方法であって、駆動ロール2の速度比率V1は、圧延ロール4,5の速度比率V2よりも低く、且つ駆動ロール6の速度比率V3は、圧延ロール4,5の速度比率V2よりも高いことを特徴とする電極のプレス方法。
(4) 機構9として、プレス後の幅方向電極形状をインラインプロファイル測定できる機構を用いて、幅方向の1スキャン測定においてプレス後の幅方向電極形状を左と右の2つに分割し、それぞれの分割領域で算出した電極のうねり量が-8mm以上、14mm以下となるように制御する、項目3に記載の電極のプレス方法。
(5) 上記制御が、プレス後の電極形状を幅方向インラインプロファイル測定において測定した結果を元に、圧延ロール4,5直後に上記電極集電体のみと接触する駆動ロール6の変更可能な駆動ロール速度比率で行う、項目4に記載の電極のプレス方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、蓄電池用電極のプレスにおいてしわ又は箔切れがなく、プレス状態で変化する湾曲に対して最適な調整ができる高密度電極を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の一実施形態としての電極プレス装置の概要図であり、図1(A)は、電極プレス装置の概略側面図であり、図1(B)は圧延ロール直後の速度比率を変更できる駆動ロール部の概略正面図である。
図2図2は、各実施例と各比較例における幅方向プロファイルの例を示すグラフである。
図3図3は、各実施例と各比較例における湾曲と電極うねり量の関係を示す散布図グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)を詳細に説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。本実施形態の各数値範囲における上限値及び下限値は任意に組み合わせて任意の数値範囲を構成することができる。
【0027】
本実施形態では、電極として、正極と負極のいずれも使用してよく、そして電極集電体として、正極集電体と負極集電体のいずれも使用してよい。一般に、非水系リチウム蓄電素子は、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを主な構成要素とする。電解液としては、アルカリ金属イオンを含む有機溶媒(以下、「非水系電解液」ともいう。)を用いる。正極に含まれるリチウム化合物の分解を促進し、負極へのプレドープを行う非水系リチウム蓄電素子の製造において、電極プレスでのしわ又は箔切れを無くし、プレス状態に応じて電極湾曲を調整する観点、および電極の高密度化の観点からは、電極は正極であり、かつ電極集電体は正極集電体であることが好ましい。
【0028】
<正極>
本実施形態における正極電極は、正極集電体と、その上に配置された、より詳細には、その片面又は両面上に設けられた、アンカー層、更にその上には正極活物質を含む正極活物質層とを有する。本実施形態に係る正極活物質層は、炭素材料及びリチウム化合物を含むことを特徴とする。前記正極活物質層にはリチウム遷移金属酸化物が含まれていてもよい。リチウム化合物は、正極中にいかなる態様で含まれていてもよい。例えば、リチウム化合物は、アンカー層と正極活物質層との間に存在してよく、正極活物質層の表面上に存在してよい。リチウム化合物は正極の正極集電体上に形成された正極活物質層に含有されることが好ましい。
【0029】
[正極活物質層]
正極活物質層は、炭素材料を含む正極活物質を含有することが好ましく、これ以外に、必要に応じて、リチウム遷移金属酸化物、導電性フィラー、結着剤、分散安定剤、pH調整剤等の任意成分を含んでいてもよい。
【0030】
また、正極活物質層は、正極の正極活物質層中または正極活物質層表面に、リチウム化合物が含有されることが好ましい。
【0031】
[正極活物質]
正極活物質は、炭素材料及を含むことが好ましい。この炭素材料としては、カーボンナノチューブ、導電性高分子、又は多孔性の炭素材料を使用することが好ましく、より好ましくは活性炭である。正極活物質には1種類以上の炭素材料を混合して使用してもよい。
【0032】
リチウム遷移金属酸化物としては、リチウムイオン電池で使用される既知の材料を使用することができる。正極活物質には1種類以上のリチウム遷移金属酸化物を混合して使用してもよい。
【0033】
(活性炭の使用)
活性炭は、それぞれ、1種の活性炭であってもよいし、2種以上の活性炭の混合物であって前記した各々の特性値を混合物全体として示すものであってもよい。
正極活物質は、活性炭以外の材料を含んでもよい。例示の態様において、正極活物質層中の活性炭の含有量、つまり正極活物質層中の炭素材料の質量割合をAとするとき、また、正極中に導電性フィラー、結着剤、分散安定剤等が含まれる場合には、炭素材料とこれらの材料の合計量をAとするとき、Aが15質量%以上65質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以上50質量%以下である。Aが15質量%以上であれば、電気伝導度の高い炭素材料とリチウム化合物の接触面積が増えるため、プレドープ工程においてリチウム化合物の酸化反応が促進し、短時間でプレドープをすることができる。Aが65質量%以下であれば、正極活物質層の密度が高まり高容量化できる。
【0034】
(リチウム化合物)
本実施形態におけるリチウム化合物としては、電解液中のフッ素イオンを吸着することが可能である、炭酸リチウム、酸化リチウム、および水酸化リチウムから選択される1種以上が好適に用いられる。中でも、空気中での取り扱いが可能であり、吸湿性が低いという観点から炭酸リチウムが好適に用いられる。
【0035】
リチウム化合物の微粒子化には、様々な方法を用いることができる。例えば、ボールミル、ビーズミル、リングミル、ジェットミル、ロッドミル等の粉砕機を使用することができる。
【0036】
正極中に含まれるリチウム化合物の量は1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、2質量%以上20質量%以下である。リチウム化合物の量が1質量%以上であれば、高負荷充放電サイクルで生成するフッ素イオンを吸着する十分な量の炭酸リチウムが存在するため高負荷充放電サイクル特性が向上する。リチウム化合物の量が50質量%以下であれば、非水系リチウム型蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0037】
正極活物質層におけるリチウム化合物の含有割合は、正極における正極活物質層の全質量を基準として、10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。この範囲の含有割合とすることにより、負極へのドーパント源として好適な機能を発揮するとともに、正極に適当な程度の多孔性を付与することができ、両者相俟って高負荷充放電効率に優れる蓄電素子又は蓄電池を与えることができ、好ましい。
【0038】
[リチウム化合物及び正極活物質の平均粒子径]
リチウム化合物の平均粒子径をXとするとき、0.1μm≦X≦10μmであり、正極活物質の平均粒子径をYとするとき、2μm≦Y≦20μmであり、X<Yであることが好ましく、より好ましくは、0.5μm≦X≦5μmであり、3μm≦Y≦10μmである。Xが0.1μm以上の場合、リチウムプレドープ後の正極中に炭酸リチウムを残存させることができるため、高負荷充放電サイクルで生成するフッ素イオンを吸着することにより高負荷充放電サイクル特性が向上する。Xが10μm以下の場合、高負荷充放電サイクルで生成するフッ素イオンとの反応面積が増加するため、フッ素イオンの吸着を効率良く行うことができる。Yが2μm以上の場合、正極活物質間の電子伝導性を確保できる。Yが20μm以下の場合、電解質イオンとの反応面積が増加するために高い出力特性を発現できる。X<Yである場合、正極活物質間に生じる隙間に炭酸リチウムが充填されるため、正極活物質間の電子伝導性を確保しつつ、エネルギー密度を高めることができる。
【0039】
(正極活物質層のその他の成分)
本実施形態における正極活物質層は、必要に応じて、正極活物質及びリチウム化合物の他に、導電性フィラー、結着剤、分散安定剤等の任意成分を含んでいてもよい。
【0040】
前記導電性フィラーとしては、正極活物質よりも導電性の高い導電性炭素質材料を挙げることができる。このような導電性フィラーとしては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維、黒鉛、カーボンナノチューブ、これらの混合物等が好ましい。
【0041】
正極活物質層における導電性フィラーの混合量は、正極活物質100質量部に対して、0~20質量部が好ましく、1~15質量部の範囲がより好ましい。導電性フィラーは高入力の観点からは混合する方が好ましい。しかし、正極活物質100質量部に対して、混合量が20質量部よりも多くなると、正極活物質層における正極活物質の含有割合が少なくなるために、正極活物質層体積当たりのエネルギー密度が低下するので好ましくない。
【0042】
結着剤としては、特に制限されるものではないが、例えばPVdF(ポリフッ化ビニリデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、ラテックス、スチレン-ブタジエン共重合体、フッ素ゴム、アクリル共重合体等を用いることができる。結着剤の使用量は、正極活物質100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下であり、より好ましくは3質量部以上27質量部以下、さらに好ましくは5質量部以上25質量部以下である。正極活物質100質量部に対する結着剤の量が1質量部以上であれば、十分な電極強度が発現される。一方で結着剤の量が30質量部以下であれば、正極活物質へのイオンの出入り及び拡散を阻害せず、高い入出力特性が発現される。
【0043】
分散安定剤としては、特に制限されるものではないが、例えばPVP(ポリビニルピロリドン)、PVA(ポリビニルアルコール)、セルロース誘導体等を用いることができる。分散安定剤の使用量は、正極活物質100質量部に対して、好ましくは10質量部以下である。正極活物質100質量部に対して分散安定剤の量が10質量部以下であれば、正極活物質へのイオンの出入り及び拡散を阻害せず、高い入出力特性が発現される。
【0044】
[正極集電体]
本実施形態に係る非水系リチウム蓄電素子における正極集電体としては、金属箔が好ましく、アルミニウム箔がより好ましい。
金属箔は凹凸又は貫通孔を持たない通常の金属箔でもよいし、エンボス加工、ケミカルエッチング、電解析出法、ブラスト加工等を施した凹凸を有する金属箔でもよいし、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチング箔等の貫通孔を有する金属箔でもよい。
【0045】
後述されるプレドープ処理の観点からは、無孔状のアルミニウム箔が更に好ましく、アルミニウム箔の表面が粗面化されていることが特に好ましい。
【0046】
また前記金属箔の表面に、例えば黒鉛、鱗片状黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェン、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維等の導電性材料を含むアンカー層を設けることが好ましい。アンカー層を設けることで正極集電体と正極活物質層間の電気伝導が向上し、低抵抗化できる。
【0047】
[正極塗工液の調整]
正極塗工液は、正極活物質を含む各種材料粉末の一部若しくは全部をドライブレンドし、次いで水又は有機溶媒、及び/又はそれらに結着剤や分散安定剤が溶解又は分散した液状又はスラリー状の物質を追加して調製してもよい。また、正極塗工液は、水又は有機溶媒に結着剤や分散安定剤が溶解又は分散した液状又はスラリー状の物質の中に、正極活物質を含む各種材料粉末を追加して調製してもよい。前記ドライブレンドする方法として、例えばボールミル等を使用して正極活物質及びリチウム化合物、並びに必要に応じて導電性フィラーを予備混合して、導電性の低いリチウム化合物に導電材をコーティングさせる予備混合をしてもよい。これにより、後述のリチウムドープ工程において正極でリチウム化合物が分解し易くなる。前記塗工液の溶媒に水を使用する場合には、リチウム化合物を加えることで塗工液がアルカリ性になることもあるため、必要に応じてpH調整剤を添加してもよい。
【0048】
前記正極塗工液の調製は特に制限されるものではないが、好適にはホモディスパーや多軸分散機、プラネタリーミキサー、薄膜旋回型高速ミキサー等の分散機等を用いることが出来る。良好な分散状態の塗工液を得るためには、周速1m/s以上50m/s以下で各種材料を分散することが好ましい。周速1m/s以上であれば、各種材料が良好に溶解又は分散するため好ましい。また、50m/s以下であれば、分散による熱やせん断力により各種材料が破壊されることなく、再凝集が生じることがないため好ましい。
【0049】
前記塗工液の分散度は、粒ゲージで測定した粒度が0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。分散度の上限としては、より好ましくは粒度が80μm以下、さらに好ましくは粒度が50μm以下である。粒度が0.1μm未満では、正極活物質を含む各種材料粉末の粒径以下のサイズとなり、塗工液作製時に材料を破砕していることになり好ましくない。また、粒度が100μm以下であれば、塗工液吐出時の詰まりや塗膜のスジ発生等なく安定に塗工ができる。
【0050】
前記正極塗工液の粘度(ηb)は、1,000mPa・s以上20,000mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは1,500mPa・s以上10,000mPa・s以下、さらに好ましくは1,700mPa・s以上5,000mPa・s以下である。粘度(ηb)が1,000mPa・s以上であれば、塗膜形成時の液ダレが抑制され、塗膜幅及び厚みが良好に制御できる。また、粘度(ηb)が20,000mPa・s以下であれば、塗工機を用いた際の塗工液の流路における圧力損失が少なく安定に塗工でき、また所望の塗膜厚み以下に制御できる。
【0051】
[正極塗工]
また、前記塗工液のTI値(チクソトロピーインデックス値)は、1.1以上が好ましく、より好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.5以上である。TI値が1.1以上であれば、塗膜幅及び厚みが良好に制御できる。
【0052】
前記正極塗膜の形成は特に制限されるものではないが、好適にはダイコーターやコンマコーター、ナイフコーター、グラビア塗工機等の塗工機を用いることが出来る。塗膜は単層塗工で形成してもよいし、多層塗工して形成してもよい。多層塗工の場合には、塗膜各層内のリチウム化合物の含有量が異なるように塗工液組成を調整してもよい。また、塗工速度は0.1m/分以上100m/分以下であることが好ましく、より好ましくは0.5m/分以上70m/分以下、さらに好ましくは1m/分以上50m/分以下である。塗工速度が0.1m/分以上であれば、安定に塗工出来る。他方、塗工速度が100m/分以下であれば、塗工精度を十分に確保できる。
【0053】
前記正極塗膜の乾燥は特に制限されるものではないが、好適には熱風乾燥や赤外線(IR)乾燥等の乾燥方法を用いることが出来る。塗膜の乾燥は、単一の温度で乾燥させてもよいし、多段的に温度を変えて乾燥させてもよい。また、複数の乾燥方法を組み合わせて乾燥させてもよい。乾燥温度は、25℃以上200℃以下であることが好ましく、より好ましくは40℃以上180℃以下、さらに好ましくは50℃以上160℃以下である。乾燥温度が25℃以上であれば、塗膜中の溶媒を十分に揮発させることが出来る。他方、乾燥温度が200℃以下であれば、急激な溶媒の揮発による塗膜のヒビ割れやマイグレーションによる結着剤の偏在、正極集電体や正極活物質層の酸化を抑制できる。
【0054】
[正極プレス]
前記正極のプレス方式は特に制限されるものではないが、好適には油圧プレス機、真空プレス機等のプレス機を用いることが出来る。正極活物質層の膜厚、密度及び電極強度は後述するプレス圧力、隙間、プレス部の表面温度により調整できる。
【0055】
[電極プレス装置の構成]
図1は実施形態としての電極プレス装置の概要図である。図1(A)は電極プレス装置の側面より見た概略図である。図1(B)は、一対の圧延ロール直後の速度比率を変更できる駆動ロール部の正面より見た概略図である。電極プレス装置は、巻出部10と、一対の圧延ロール4,5直前の速度比率を変更できる(速度調整可能な)駆動ロール2及び/又は3と、一対の圧延ロール4,5と、圧延ロール4,5直後の速度比率を変更できる(速度調整可能な)駆動ロール6と、駆動ロール6に対向して未塗工部のみを押さえることができる(未塗工部のみと接触可能な)ニップロール7と、プレス後の幅方向電極形状を測定する機構(例えば、幅方向インラインプロファイル測定器)9と、巻取部11とを備える。巻出部10より金属箔に塗工された電極1シートが、設定した速度でプレスされ、巻取部11で巻くことができるものである。本実施形態では、圧延ロール4,5直前の駆動ロール2と、図1(B)に示されるとおり圧延ロール4,5直後の駆動ロール6とで電極1の未塗工部13を延ばす機構を有している。
【0056】
図1(A)に示されるとおり、電極プレス装置は、電極1のロールプレス装置でよく、所望により、単数又は複数の搬送ロール8を備えてよい。本実施形態では、巻出部10から巻取部11への電極1の搬送方向に沿って、構成要素の配置順序、または圧延ロール4,5の前後を決めることができる。本実施形態では、搬送される電極1がシートの形態でよいため、正極の片面塗工または両面塗工に応じて、シートの上側または下側に対して各構成要素を配置することができ、図1(B)に示されるとおりに電極1の未塗工部13を延ばすという観点、および本発明の作用機序の観点から、電極1に少なくとも未塗工部13および塗工部14を備える側を上側として設定することが好ましい。
【0057】
[電極プレス装置の張力]
巻出部(10)、巻取部(11)は、それぞれ個別の張力コントロールができる機構を有する。これら以外の箇所についてもパスラインが長い場合は、更に個別の張力コントロールできてもよい。張力の範囲は、基材または集電体もしくは金属箔の幅にもよるが、本実施形態では幅400mmの基材に対して10N以上150N以下の設定が可能である。
【0058】
[圧延ロール直前の速度比率を変更できる駆動ロール]
一対の圧延ロール(4,5)直前の速度比率を変更できる(速度調整可能な)駆動ロール(2)の加温機能の有無は特に制限されるものではないが、加温できることが望ましい。圧延ロール前での予備加熱により、より電極の高密度化につながるためである。本実施形態では、加温の最大温度は250℃までの設定が可能である。本駆動ロール(2)では電極(1)の未塗工部(13)を押さえる必要があるが、加温するためにゴム製のニップロールは使用することは設定温度に制限が入ってしまう。そのためロール径を大きくし、且つ電極(1)の抱き角を大きくすることで、ニップロール無しの状態で塗工部(14)と未塗工部(13)の膜厚差があっても未塗工部(13)自体もロールで抱え、押さえることが可能となる。このような観点から、本実施形態では駆動ロール(2)径φが280mmであり、かつ/又は電極(1)との抱き角は180度もしくは180度以下であることが好ましい。このときロール径φを大きくすることでコスト高になることから、上限は圧延ロール(4及び/又は5)と同じ径であるか、又は圧延ロール径以下である。駆動ロール(2)の電極(1)との抱き角は、特に限定されるものではなく、例えば、90℃以上でよく、または90度を超えてよい。また本ロールは速度比率を変更できる駆動ロールであり、その設定範囲は制限されるものではないが、本実施形態では、その速度比率V1は、圧延ロール(4,5)の速度比率V2に対して90%以上110%以下の設定が可能である。
【0059】
[圧延ロール]
本実施形態では、一対のプレスロールは電極(1)シートを両面から挟むように設置されている。圧延ロール(4,5)は、ロール間ギャップを一定にする定位方式、圧力を固定する定圧方式のいずれでも構わない。圧延ロールの加温機能の有無は特に制限されるものではないが、高密度化のために加温できることが望ましい。本実施形態では加温の最大温度は250℃までの設定が可能である。
【0060】
[圧延ロール直後の速度比率を変更できる駆動ロール]
本駆動ロール(6)は、対向するニップロールとは異なり、電極(1)の塗工部(14)及び未塗工部(13)全体を抱くフラットな構造である必要がある。これは未塗工部(13)のみを押さえるとしわが発生するためである。本ロールの径は特に制限されるものではないが、低コストの観点より小さい方が望ましい。本実施形態では駆動ロール(6)径が100mmであることが好ましい。また本ロールは速度比率を変更できる駆動ロールであり、その設定範囲は制限されるものではないが、本実施形態では、その速度比率V3は圧延ロール(4,5)の速度比率V2に対して90%以上110%以下の設定が可能である。
【0061】
[未塗工部のみを押さえることができるニップロール]
ニップロール(7)の材質はシリコン、EPDMといったゴム、又はSUSやFeといった金属のいずれでも用いることができるが、箔などの集電体との接着が強いゴム材質の方が好ましい。電極(1)の未塗工部(13)のみを押さえるか、または未塗工部(13)のみと接触することが必要であることから、このニップロール(7)は幅方向に動かし、固定できる機能を有する必要がある。
【0062】
[ロール間の速度比率の関係]
本実施形態に係る電極プレス装置又はそれを電極プレス方法において、しわ又は箔切れがなく、プレス状態で変化する電極湾曲を最適に調整して、高密度電極を提供するという観点から、駆動ロール(2)の速度比率V1は、圧延ロール(4,5)の速度比率V2よりも低く、且つ駆動ロール(6)の速度比率V3は、圧延ロール(4,5)の速度比率V2よりも高いことが好ましい。
【0063】
[プレス後の幅方向電極形状を測定する機構,幅方向インラインプロファイル測定器]
本測定は電極(1)が宙に浮いた状態で測定する必要がある。そのためプレス後の機構(9)として例えば幅方向インラインプロファイル測定器を用いる測定方式は、レーザーといった非接触式であり、また測定箇所は搬送ロール(8)上ではなく、複数の搬送ロール(8,8)間となる。電極(1)のうねり具合が搬送ロール(8)により正確に測定できないためである。また張力の設定は特に制限されるものではないが、緩めた状態で測定した方がより正確な値を測定することができる。
【0064】
[電極うねり量の確認]
プレス後の電極形状を幅方向インラインプロファイル測定し、その結果は幅方向の1スキャン測定において左と右の2つに分割し、それぞれの分割領域で最大値-最小値を算出し、その左右の分割領域で算出された値について、1回の測定の場合には最大値と最小値の差を電極うねり量として定義し、複数回の測定の場合には最大値と最小値の差の平均値を電極うねり量と定義した。図2は、幅方向プロファイルの例を示すグラフである。図2を参照すると、より詳細には、電極の幅方向の1スキャン毎にスキャンした幅の中心点からスキャンプロファイルを左右に分割し、左右各々の電極の幅方向のプロファイルの最大値と最小値の差を電極うねり量として算出することができる。また、当該スキャンを電極の流れ方向(MD)の異なる位置の幅方向について複数回繰り返し測定した場合には、得られた複数のプロファイルの最大値と最小値の差の平均を電極うねり量としてもよい。
【0065】
プレス後の機構(9)として、例えば幅方向インラインプロファイル測定器を用いるときに、本発明の作用機序の観点、生産性の観点、または容易な合否判定の観点から、電極うねり量が-8mm以上14mm以下となるように制御することが好ましく、この制御は、プレス後の電極形状の幅方向インラインプロファイル測定結果を元に、圧延ロール(4,5)直後に金属箔等の電極集電体のみと接触する駆動ロール(6)の変更可能な速度比率(V3)により行うことがより好ましい。このような観点から、プレス後の電極形状の幅方向インラインプロファイル測定結果について、機構(9)と駆動ロール(6)は、有線又は無線においてデータ連通することが好ましい。
【0066】
[しわの確認]
圧延ロール部から巻取部までプレス後電極でプレス及び搬送することで埋め、その該当箇所の塗工部または未塗工部にしわ痕が残っているものをしわとした。
【0067】
[箔切れの確認]
圧延ロール部から巻取部までプレス後電極でプレス及び搬送することで埋め、その期間に塗工部または未塗工部において箔が切れた場合を箔切れとした。
【0068】
[湾曲量の確認]
湾曲量[mm/2m]は、長さ2mの電極を平坦な床において、長さ方向の一端に対して他方端が湾曲して変位した量[mm]を測定した値とした。
【実施例0069】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明の特徴とするところを更に明確にする。しかしながら本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0070】
<実施例1>
<正極活物質の調製>
破砕されたヤシ殻炭化物を、小型炭化炉において窒素中、500℃において3時間炭化処理して炭化物を得た。得られた炭化物を賦活炉内へ入れ、1kg/hの水蒸気を予熱炉で加温した状態で前記賦活炉内へ導入し、900℃まで8時間かけて昇温して賦活した。賦活後の炭化物を取り出し、窒素雰囲気下で冷却して、賦活された活性炭を得た。得られた活性炭を12時間通水洗浄した後に水切りした。その後、125℃に保持された電気乾燥機内で10時間乾燥した後に、ボールミルで1時間粉砕を行うことにより、活性炭1を得た。
【0071】
この活性炭1について、島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2000J)を用いて平均粒子径を測定した結果、12.7μmであった。また、ユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB-1 AS-1-MP)を用いて細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積が2330m/g、メソ孔量(V)が0.52cc/g、マイクロ孔量(V)が0.88cc/g、V/V=0.59であった。
【0072】
<炭酸リチウムの粉砕>
平均粒子径53μmの炭酸リチウム200gを、アイメックス社製の粉砕機(液体窒素ビーズミルLNM)を用い、液体窒素で-196℃に冷却化した後、ドライアイスビーズを用い、周速10.0m/sにて20分間粉砕した。-196℃で熱変性を防止し、脆性破壊することにより得られた炭酸リチウム1について平均粒子径を測定したところ1.8μmであった。
【0073】
<アンカー層の製造>
アセチレンブラックを90質量部、及びPVdF(ポリフッ化ビニリデン)を10質量部、並びにNMP(N-メチルピロリドン)を混合し、それをPRIMIX社製の薄膜旋回型高速ミキサーフィルミックスを用いて、周速17m/sの条件で分散して塗工液を得た。得られた塗工液の粘度(ηb)及びTI値を東機産業社のE型粘度計TVE-35Hを用いて測定した。その結果、粘度(ηb)は2,789mPa・s、TI値は4.3であった。前記塗工液を東レエンジニアリング社製のグラビアコーターを用いて厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に片面目付4g/mで塗工速度10m/sの条件で塗工し、乾燥温度120℃で乾燥してアンカー層を得た。
【0074】
<正極塗工液の製造と塗工>
前記活性炭1を正極活物質として用い、前記炭酸リチウム1をリチウム化合物として正極塗工液を製造した。
活性炭1を27.5質量部、炭酸リチウム1を50.0質量部、ケッチェンブラックを3.0質量部、PVP(ポリビニルピロリドン)を1.5質量部、及びPVdF(ポリフッ化ビニリデン)を8.0質量部、並びにNMP(N-メチルピロリドン)を混合し、それをPRIMIX社製の薄膜旋回型高速ミキサーフィルミックスを用いて、周速17m/sの条件で分散して塗工液を得た。得られた塗工液の粘度(ηb)及びTI値を東機産業社のE型粘度計TVE-35Hを用いて測定した。その結果、粘度(ηb)は2,300mPa・s、TI値は3.2であった。また、得られた塗工液の分散度をヨシミツ精機社製の粒ゲージを用いて測定した。その結果、粒度は32μmであった。前記塗工液を東レエンジニアリング社製のダイコーターを用いて、かつ片面目付4g/mの前記アンカー層を有するアルミニウム箔を用いて、塗工速度1m/sの条件で片面目付60g/mで塗工した。このときアルミニウム箔の幅は300mmで、塗工幅は230mmであり、片側当たり35mmの未塗工部が設けてある状態にした。これを乾燥温度120℃で乾燥して正極を得た。
【0075】
<正極のプレス>
得られた正極についてロールプレス機を用いて、圧力は18Mpaの定圧プレス、速度1m/分、巻出張力100N、巻取張力40N、圧延ロール直前駆動ロールについては直径280mm及び抱き角は180度及び速度比率は圧延ロールに対して99%及び温度は室温、圧延ロール直後駆動ロールの接触部は塗工部及び未塗工部、圧延ロール直後ニップロール接触部は未塗工部のみ、圧延ロール直後ロール速度比率は100.2%の条件でプレスを実施し、正極を作製した。このとき電極うねり測定器にはキーエンス製LJ-8400を使用し、この測定はライン停止時、張力は10Nで行った。
【0076】
<実施例2>
プレスにおいて圧延ロール直後ロール速度比率は100.1%の条件でプレスを実施したこと以外は実施例1と同様の方法で正極を作製した。
【0077】
<実施例3>
プレスにおいて圧延ロール直後ロール速度比率は100.4%の条件でプレスを実施したこと以外は実施例1と同様の方法で正極を作製した。
【0078】
<実施例4>
プレスにおいて圧延ロール直後ロール速度比率は100.05%の条件でプレスを実施したこと以外は実施例1と同様の方法で正極を作製した
【0079】
<実施例5>
プレスにおいて圧延ロール直前ロール及び圧延ロールの温度を200℃の条件でプレスを実施したこと以外は実施例1と同様の方法で正極を作製した。
【0080】
<実施例6>
活性炭1を67.5質量部、炭酸リチウム1を10.0質量部に混合したこと以外は実施例1と同様の方法で正極を作製した。
【0081】
<実施例7>
アルミフレームとフリーロールで作製した追加搬送ロールを用いて圧延ロール直前駆動ロールの抱き角を90度に調整し、プレスを実施したこと以外は実施例1と同様の方法で正極を作製した。
【0082】
<比較例1>
アルミフレームとフリーロールで作製した追加搬送ロールを用いて圧延ロール直前駆動ロールの抱き角を45度に調整し、プレスを実施したこと以外は実施例1と同様の方法で正極を作製した。
【0083】
<比較例2>
圧延ロール直後駆動ロールの接触部は未塗工部のみにしてプレスを実施したこと以外は実施例1と同様の方法で正極を作製した。
【0084】
<比較例3>
圧延ロール直後ニップロール接触部は未塗工部と塗工部に30mmになるように調整し、プレスを実施し、正極を作製した。
【0085】
実施例1~7と比較例1~3の評価結果を表1に示す。また幅方向プロファイルの例を図2に示す。また湾曲と電極うねり量の関係を図3に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1より、圧延ロール直前駆動ロール速度比率は圧延ロールよりも低く、圧延ロール直後駆動ロール速度比率は圧延ロールよりも高くすることで、未塗工部が延ばされ、湾曲やしわに対して有効であることが確認できる。圧延ロールに対して直前ロール及び直後ロールの速度比率の両方を変更すると調整が困難なため、直前ロールの速度比率は固定し、直後ロールの速度比率を可変させ、調整することが望ましいと考える。またφ280mmの圧延ロール直前駆動ロールの抱き角は90度以上で、ニップロールがなくとも未塗工部を押さえ、湾曲やしわに対して有効であることが確認できる。また圧延ロール直後駆動ロール接触部が未塗工部のみになると箔切れが発生する。これは電極の保持が未塗工のみではたるみが生じ、しわが発生し、それが起因となって箔切れに至るためと考えられる。また圧延ロール直後ニップロール接触部が未塗工だけでなく、塗工部にもかかると塗工部下の箔部も延ばされてしまい、しわが発生することが確認された。また図3および図2の結果より演算して得られた電極うねり量は湾曲と相関があることが確認された。更に電極うねり量は-8mm以上、14mm以下でしわが発生しない。これにより電極組成や密度の仕様に応じて電極うねり量値を確認し、容易に最適な直後ロール速度比率の調整が可能となり、しわや湾曲のない高密度電極の提供が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の蓄電池用電極は、例えば、自動車のハイブリット駆動システムの、瞬間電力ピークのアシスト用途等における蓄電素子として好適に利用できる。
本発明の蓄電池用電極は、例えば、リチウムイオンキャパシタ又はリチウムイオン二次電池として適用したときに、本発明の効果が最大限に発揮されるため好ましい。
【符号の説明】
【0089】
1・・・電極
2・・・圧延ロール直前の速度比率を変更できる(速度調整可能な)駆動ロール上
3・・・圧延ロール直前の速度比率を変更できる(速度調整可能な)駆動ロール下
4・・・圧延ロール上
5・・・圧延ロール下
6・・・圧延ロール直後の速度比率を変更できる(速度調整可能な)駆動ロール
7・・・未塗工部のみを押さえることができる(未塗工部のみと接触可能な)ニップロール
8・・・搬送ロール
9・・・幅方向電極形状を測定する機構(幅方向インラインプロファイル測定器)
10・・・巻出部
11・・・巻取部
12・・・シャフト
13・・・未塗工部
14・・・塗工部
図1
図2
図3