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特開2024-58244タイヤのシミュレーション方法、タイヤの設計方法、タイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058244
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】タイヤのシミュレーション方法、タイヤの設計方法、タイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20240418BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20240418BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20240418BHJP
   G06F 30/15 20200101ALI20240418BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20240418BHJP
   B29D 30/00 20060101ALI20240418BHJP
   G01H 3/00 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
G01M17/02
G06F30/20
G06F30/10 100
G06F30/15
B60C19/00 Z
B29D30/00
G01H3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165480
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻井 政統
【テーマコード(参考)】
2G064
3D131
4F215
4F501
5B146
【Fターム(参考)】
2G064AA14
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB15
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064CC43
2G064DD02
3D131LA21
3D131LA34
4F215AH20
4F215VA06
4F215VC24
4F501TA06
4F501TB24
4F501TC25
4F501TV21
5B146AA05
5B146DJ11
(57)【要約】
【課題】走行時にタイヤから生じるノイズを正確に予測できる。
【解決手段】実施形態の一例であるタイヤのシミュレーション方法では、タイヤのトレッドパターンの画像データを取得し、タイヤの接地面の踏み込み側の輪郭線である接地ラインを取得する。次に、予め定められた条件に基づいて接地ラインを変形させ、変形ラインを生成する。そして、変形ラインをトレッドパターンの周方向に走査し、変形ラインと重なるトレッドパターンの接地面積の変動データを取得し、変動データに基づいてノイズを計算する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)タイヤのトレッドパターンの画像データを取得するステップと、
(b)前記タイヤの接地面の踏み込み側の輪郭線である接地ラインを取得するステップと、
(c)予め定められた条件に基づいて前記接地ラインを変形させ、変形ラインを生成するステップと、
(d)前記変形ラインを前記トレッドパターンの周方向に走査し、前記変形ラインと重なる前記トレッドパターンの接地面積の変動データを取得するステップと、
(e)前記変動データに基づいてノイズを計算するステップと、
を含む、シミュレーション方法。
【請求項2】
前記(c)のステップでは、前記接地ラインを、前記接地面の接地幅および矩形率の少なくとも一方に基づいて変形させる、請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記(c)のステップでは、前記接地幅および前記矩形率の少なくとも一方に基づいて前記変形ラインを複数生成し、複数の前記変形ラインを包含する領域である変動領域を生成し、
前記(d)のステップでは、前記変動領域を前記トレッドパターンの周方向に走査し、前記変動領域と重なる前記トレッドパターンの接地面積の変動データを取得する、請求項2に記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のシミュレーション方法によって求めたノイズに基づいてトレッドパターンを生成するタイヤの設計方法であって、
(f)前記画像データの変形を所定の回数行い、前記画像データごとに(d)および(e)のステップを繰り返すステップと、
(g)前記ノイズが最も小さいトレッドパターンを生成するステップと、
を含む、タイヤの設計方法。
【請求項5】
前記(c)のステップでは、前記接地面の接地幅および矩形率の少なくとも一方に基づいて前記変形ラインを複数生成し、
前記(g)のステップでは、前記画像データごとに代表ノイズ値を算出し、前記代表ノイズ値が最も小さいトレッドパターンを生成する、請求項4に記載のタイヤの設計方法。
【請求項6】
前記(g)のステップにおける代表ノイズ値の算出において、
前記接地ラインの変形量に応じて、前記接地幅の変動量を第1の軸、前記矩形率の変動量を第2の軸、前記ノイズの値を第3の軸に表した3次元データを作成し、前記3次元データに基づいて代表ノイズ値を算出する、請求項5に記載のタイヤの設計方法。
【請求項7】
請求項4に記載のタイヤの設計方法により生成したトレッドパターンに基づいてタイヤを製造する工程を含む、タイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータを用いてタイヤのノイズを計算するためのシミュレーション方法、これを利用したタイヤの設計方法、およびその設計に基づいてタイヤを製造するタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走行時にタイヤから生じるノイズとして、ポンピング音、パターン加振音と呼ばれるパターンノイズが知られている。ポンピング音は、トレッドパターンの溝が接地部分に踏み込んだ時に空気を圧縮し、接地部分から離れる時に空気を放出することにより生じる音である。パターン加振音は、トレッドパターンが接地するときに路面に衝突し、そのときの衝撃力によりタイヤが振動することで生じる音である。
【0003】
これらのノイズを予測するためのシミュレーション方法として、特許文献1には、タイヤの接地面の踏み込み側の輪郭線をトレッドパターンの周方向に走査させることにより、トレッドパターンの接地面積の変動データを取得し、当該変動データに基づく周波数分析によりノイズを予測するシミュレーション方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-136926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
走行時に生じるノイズを正確に予測できる手法が確立できれば、新製品の開発等において極めて有用である。特許文献1に開示されているような、接地面の踏み込み側の輪郭線をトレッドパターンの周方向に走査させる手法では、シミュレーションにより予測したノイズと実際の走行時に生じるノイズとで差異が生じる場合がある。これは、実際のタイヤの形状、内圧等のばらつきにより、シミュレーション時に設定した接地面と実際のタイヤの接地面とが必ずしも一致しないためである。
【0006】
本発明の目的は、タイヤの形状、内圧等のばらつきを考慮したノイズの予測が可能なタイヤのシミュレーション方法、これを利用したタイヤの設計方法、およびその設計に基づいてタイヤを製造するタイヤの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るタイヤのシミュレーション方法は、(a)タイヤのトレッドパターンの画像データを取得するステップと、(b)タイヤの接地面の踏み込み側の輪郭線である接地ラインを取得するステップと、(c)予め定められた条件に基づいて接地ラインを変形させ、変形ラインを生成するステップと、(d)変形ラインをトレッドパターンの周方向に走査し、変形ラインと重なる前記トレッドパターンの接地面積の変動データを取得するステップと、(e)変動データに基づいてノイズを計算するステップと、を含む。
【0008】
本発明に係るタイヤの設計方法は、上記シミュレーション方法により求めたノイズに基づいてトレッドパターンを生成するタイヤの設計方法であって、(f)画像データの変形を所定の回数行い、画像データごとに(d)および(e)のステップを繰り返すステップと、(g)ノイズが最も小さいトレッドパターンを生成するステップと、を含む。
【0009】
本発明に係るタイヤの製造方法は、上記タイヤの設計方法により生成したトレッドパターンに基づいてタイヤを製造する工程を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシミュレーション方法によれば、走行時に生じるノイズの正確な予測が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】解析に使用されるタイヤのトレッドパターンの一例および接地面の形状を模式的に示す図である。
図2】接地ラインの変形方法の一例を示す平面図である。
図3】接地ラインの変形方法の一例を示す平面図である。
図4】変形ラインを包含する変動領域の一例を示す図である。
図5】トレッドパターンの画像データ上で走査解析している様子を模式的に示す図である。
図6】トレッドパターンの接地面積の変動データの一例を示す図である。
図7】周波数分析データの一例を示す図である。
図8】実施形態の一例であるタイヤのシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
図9】実施形態の一例であるタイヤのシミュレーション方法およびこれを利用したタイヤの設計方法の手順を示すフローチャートである。
図10】実施形態の他の一例であるタイヤのシミュレーション方法およびこれを利用したタイヤの設計方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るタイヤのシミュレーション方法およびこれを利用したタイヤの設計方法の実施形態の一例について説明する。以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、以下で説明する複数の実施形態および変形例の各構成要素を選択的に組み合わせてなる構成は、本発明に含まれている。
【0013】
[第1実施形態]
本実施形態のタイヤのシミュレーション方法は、走行時にタイヤから生じるノイズを予測するシミュレーション方法である。ノイズは、走行時にタイヤが路面に接地する接地面積の変動データに基づいて求めることができる。接地面積の変動データは、タイヤの接地面の踏み込み側の輪郭線である接地ラインをタイヤ周方向に走査させながら、接地ラインと重なる接地面積を計算することにより求めることができる。
【0014】
詳しくは後述するが、本実施形態では、想定される接地面のばらつきに合わせて接地ラインを変形させた変形ラインを生成する。そして、変形ラインを包含する変動領域を生成し、当該変動領域をタイヤ周方向に走査させることで、接地面積の変動データを求める。これにより、接地面がばらついた場合を想定した接地面積の変動データを求めることができ、走行時に生じるノイズの正確な予測が可能となる。
【0015】
図1を参照しながら、解析に使用されるタイヤのトレッドパターン10およびタイヤの接地面20について説明する。図1は、タイヤのトレッドパターン10の一部を平面展開した図であり、接地面20の形状を模式的に示す図である。なお、図1の左右方向がタイヤ周方向にあたり、図1の上下方向がタイヤ軸方向にあたる。また、図1において、図面左側が走行時のタイヤの踏み込み側にあたり、図面右側が走行時のタイヤの蹴り出し側にあたる。
【0016】
図1に示すように、トレッドパターン10には、タイヤ周方向に延びる4本の主溝11と、主溝11を横切る多数の副溝12とが形成されており、主溝11と副溝12によりブロック13が区画形成されている。トレッドパターン10のタイヤ軸方向の中央部には主溝11により区画された中央リブ14が形成されている。
【0017】
ブロック13は、タイヤ周方向に沿って配置されることでブロック列15を構成している。ブロック列15は、中央リブ14のタイヤ軸方向外側の両側に形成されたメディエート部のブロック列15Aと、さらにタイヤ軸方向外側の両側に形成されたショルダー部のブロック列15Bを含む。
【0018】
また、後述するタイヤの設計方法において、トレッドパターン10の形状は適宜変形され、最もノイズが小さくなるトレッドパターン10が生成される。トレッドパターン10を変形させる方法として、例えば、(1)位相をタイヤ周方向にずらす方法、(2)パターンの角度を変更する方法、(3)トレッドパターンのブロックの面積を変更する方法、(4)トレッドパターンの溝の面積を変更する方法がある。位相をタイヤ周方向にずらす方法に関しては、例えば、ショルダー部のブロック列15Bを、メディエート部のブロック列15Aに対してタイヤ周方向にずらす方法がある。
【0019】
次に、接地面20について説明する。接地面20とは、タイヤが平坦な路面に接地する領域をいう。図1に示すように、接地面20は、平面視略四角形形状を有し、四隅が湾曲した形状を有する。なお、実際のタイヤの接地面20の形状は、タイヤの形状、内圧等のばらつきにより変動する。そこで本実施形態では、後述する2つのパラメータを用いて接地面20のばらつきを考慮し、シミュレーションを行う。
【0020】
接地面20のばらつきを考慮するパラメータとして、接地面20の接地幅、および接地面20の四隅の湾曲の度合いを表す矩形率を用いる。本明細書において、接地幅とは、接地面20のタイヤ周方向中央におけるタイヤ軸方向の長さ(L1)である。また、矩形率とは、接地面20のタイヤ軸方向中央、つまりタイヤ赤道CL上のタイヤ周方向に沿った接地長(L2)に対する、接地面20のタイヤ軸方向の端部から10mm内側におけるタイヤ周方向に沿った接地長(L3)の比率(L3/L2)である。接地幅および矩形率を所定の範囲で変動させることで、タイヤの接地面20の形状のばらつきを考慮することができる。
【0021】
次に、接地ライン21について説明する。図1に示すように、接地ライン21は、接地面20の輪郭線のうち、踏み込み側の輪郭線であり、走行時にタイヤが路面に接地し始める部分である。上述の通り、ノイズシミュレーションにおいて、接地ライン21をタイヤ周方向に走査させながら、接地ライン21と重なる接地面積を求めることで、ノイズ計算に必要な接地面積の変動データを取得する。そのため、接地ライン21の形状の選定が、予測したノイズの正確性に大きく影響する。そこで本実施形態では、想定される接地面20のばらつきに合わせて接地ライン21の形状を変形させた変形ライン30を生成し、シミュレーションに用いる。
【0022】
図2および図3を用いて、接地ライン21の変形方法について説明する。上述の通り、接地幅および矩形率を所定の範囲で変動させることで、タイヤの接地面20の形状のばらつきを考慮することができる。そこで本実施形態では、接地ライン21を接地面20の接地幅および矩形率の少なくとも一方に基づいて変形させた複数の変形ライン30を生成する。
【0023】
図2に示すように、変形前の接地面20(基準接地面)の接地幅を大きくすると、タイヤ軸方向に拡大された変形ライン30が生成される。一方、基準接地面の接地幅を小さくすると、タイヤ軸方向に縮小された変形ライン30が生成される。本実施形態では、タイヤの形状ばらつきを考慮し、基準接地面の接地幅に対して±20%で変形させる。なお、接地幅の変形範囲は、想定する接地面20のばらつきに合わせて適宜変更可能であり、例えば±3%~±25%の範囲である。
【0024】
また、図3に示すように、基準接地面の矩形率を大きくすると、曲率半径が大きい変形ライン30が生成される。一方、基準接地面の矩形率を小さくすると、曲率半径が小さい変形ライン30が生成される。本実施形態では、タイヤの形状ばらつきを考慮し、基準接地面の矩形率に対して±15%で変形させる。なお、矩形率の変形範囲は、接地幅の変動範囲と同様に、想定する接地面20のばらつきに合わせて適宜変更可能であり、例えば±3%~±20%の範囲である。また、本実施形態では、接地幅および矩形率の両方を変形させた変形ライン30も生成する。本実施形態で用いた変形ライン30の一覧を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
図4を参照しながら、変動領域40について説明する。変動領域40は、生成した変形ライン30の全てを包含する領域である。上述の通り、変形ライン30は、接地面20のばらつきを想定して生成されたものであるため、変形ライン30を包含する変動領域40は、想定される全ての接地面20の接地ライン21を包含する領域を示す。シミュレーションにおいて、変動領域40をタイヤ周方向に走査させながら、変動領域40と重なる接地面積を計算し、接地面積の変動データを求める。これにより、接地面20がばらついた場合を想定した接地面積の変動データを求めることができ、走行時に生じるノイズの正確な予測が可能となる。
【0027】
次に、本実施形態における変動領域40の形状について説明する。図4(a)は、生成した変形ライン30の形状を示し、図4(b)は、当該変形ライン30を包含する変動領域40の形状を示す。図4(b)に示すように、変動領域40は、タイヤ周方向において最も外側に位置する変形ライン30と、全ての変形ライン30を包含するように変形ライン30の端部を結ぶ直線によって囲まれた領域である。具体的には、変動領域40の輪郭線には、タイヤ周方向において、最も踏み込み側に位置する第1変形ライン31と、最も蹴り出し側に位置する第8変形ライン38が含まれる。また、変動領域40の輪郭線には、第1変形ライン31、第2変形ライン32、第3変形ライン33、第5変形ライン35、および第8変形ライン38の端部を結ぶ直線が含まれる。
【0028】
図5を参照しながら、本実施形態のシミュレーションにおける、走査解析について説明する。図5は、トレッドパターン10の画像データ上で変動領域40を走査している様子を模式的に示す図である。ここで、トレッドパターン10の画像データとは、トレッドパターン10のブロック16および溝17の情報をもつデータである。図5において、濃い色で示されるのがブロック16であり、実際に路面に接地される領域である。また、図5において白く示されるのが溝17である。
【0029】
図5に示すように、変動領域40をトレッドパターン10の画像データ上で走査させながら、変動領域40と重なる接地面積を計算する。これにより、タイヤが路面を走行しているときの接地面積の変動データを取得することができる。なお、接地面積は、変動領域40上にある画像データのブロック16の画素数をカウントすることで求めることができる。
【0030】
走査解析で得られる接地面積の変動データを示すグラフを図6に示す。図6において、横軸はタイヤ周方向に沿った距離に相当し、縦軸は接地面積の変動データとしてブロック16の割合を示している。ノイズは、接地面積が変動するときに発生する。したがって、タイヤから発生するノイズを小さくするためには、接地面積の変動を緩やかかつ小さくすることが求められる。
【0031】
次に、求めた接地面積の変動データからノイズを計算する方法について述べる。ノイズは、例えば、接地面積の変動データ(図6参照)を用いて周波数分析を行うことで計算することができる。接地面積の変動データに仮想速度を与え、周波数分析を実施することで、図7に示すような周波数のデータが得られる。なお、周波数分析の方法は、公知の様々な方法を使用でき、例えばフーリエ変換を用いてもよい。
【0032】
後述するタイヤの設計方法において、変動領域40の形状は変えずにトレッドパターン10の形状を変形させ、そのトレッドパターン10に対応するノイズを計算する手順を繰り返し行う。そして、計算したノイズの大小を比較し、最もノイズが小さいトレッドパターン10を生成する。
【0033】
ノイズの大小を比較する方法として、例えば、特定の周波数帯におけるノイズの平均値またはピーク値に基づいて比較する方法がある。また、例えば、特定の周波数帯におけるノイズレベルの総和であるPOAL(partial overall level)、または全周波数帯におけるノイズレベルの総和であるOAL(overall level)に基づいて比較する方法がある。
【0034】
次に、本実施形態のシミュレーションおよびタイヤ設計を行う解析装置50について説明する。図8は、解析装置50の概略構成を示すブロック図である。図8に示すように、解析装置50は、プロセッサ52およびメモリ53を含む制御装置51を備えたコンピュータで構成される。解析装置50は、1つのコンピュータで構成されていてもよく、複数のコンピュータで構成されていてもよい。また、解析装置50の機能の一部が、通信網を介して接続されるサーバ等に存在していてもよい。
【0035】
プロセッサ52は、シミュレーションプログラム等を読み出し、処理を実行する。メモリ53は、例えばRAM、ROM、ハードディスクドライブ等により構成され、シミュレーションプログラム、トレッドパターン10のデータなどを含むシミュレーションの実行に必要な各種設定情報を記憶している。
【0036】
解析装置50は、入力装置54および表示装置55を備える。入力装置54は、シミュレーションの実行に必要な情報を入力するための入力インターフェイスである。入力装置54の一例としてキーボードが挙げられる。入力装置54によって入力される情報は、例えば、解析条件、接地ライン21の変形条件、画像データの変形条件などが挙げられる。表示装置55は、入力画面、シミュレーションの結果、生成したトレッドパターン10の結果等の出力画面が生じされるディスプレイである。表示装置55の一例として液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイが挙げられる。入力装置54および表示装置55は、制御装置51に接続されている。
【0037】
図9は、本実施形態のタイヤのシミュレーション方法およびこれを利用したタイヤの設計方法の手順を示すフローチャートである。
【0038】
ステップS1において、トレッドパターン10の画像データを取得する。具体的には、CADで作成されたトレッドパターン10を読み込み、ブロック16、溝17の色分けを行う。このトレッドパターン10の画像データは、メモリ53に保存される。
【0039】
ステップS2において、接地面20から接地ライン21の取得を行う。本実施形態では、タイヤFEM(Finite Element Method:有限要素法)モデルを用いて、タイヤを所定の内圧および所定荷重をかけて所定路面に接地させ、そのときの接地面20の形状から接地ライン21を取得する。なお、計測などにより得られた接地ライン21の形状を入力してもよい。
【0040】
ステップS3において、上記接地ライン21を変形させ、変形ライン30を生成する。変形ライン30は、タイヤの形状、内圧等がばらついた際の接地面20を想定し、生成させることが好ましい。これにより、シミュレーションにより求めたノイズと実際に生じるノイズとの差異を小さくすることができる。また、シミュレーションの精度を向上させる観点から、複数の変形ライン30を生成することが好ましい。本実施形態では、上述の通り、接地面20の接地幅および矩形率の少なくとも一方に基づいて、接地ライン21を変形させ、複数の変形ライン30を生成する。
【0041】
ステップS4において、上記複数の変形ライン30を包含する領域である変動領域40を生成する。本実施形態では、生成した複数の変形ライン30の全てを包含する変動領域40を生成する。
【0042】
ステップS5において、変動領域40をタイヤ周方向に走査させ、変動領域40と重なるトレッドパターン10の接地面積の変動データを取得する。接地面積は、変動領域40上にあるトレッドパターン10の画像データのブロック16の画素数をカウントすることで求めることができる。
【0043】
ステップS6において、接地面積の変動データに基づいてタイヤから生じるノイズを計算する。ノイズは、接地面積の変動データを用いて周波数分析を行うことで計算することができる。接地面積の変動データに仮想速度を与え、周波数分析を実施することで、図7に示すような周波数のデータが得られる。この画像データに対応するノイズデータはメモリ53に保存される。
【0044】
次に、求めたノイズデータを利用したタイヤの設計方法について説明する。ステップS7において、画像データの変形回数を求め、変形回数が予め設定した所定の回数に達しているか否かを判定する。画像データの変形回数を求める方法としては、例えば、メモリ53に保存されている画像データの個数またはノイズデータの個数から変形回数を求める方法がある。なお、設定する変形回数は任意の回数でよく、例えば画像データの角度を±10°の範囲で1°毎に変形する場合、変形回数は20回である。
【0045】
ステップS7において、画像データの変形回数が所定の回数に達している場合(ステップS7:Yes)、ステップS9に進み、メモリ53に保存されている複数のノイズデータを読み出し、各ノイズデータのノイズの大小を比較する。そして、最もノイズが小さいノイズデータに対応するトレッドパターン10を生成し、表示装置55に当該トレッドパターン10を表示する。
【0046】
一方、ステップS7において、画像データの変形回数が所定の回数に達していない場合(ステップS7:No)、上述のトレッドパターン10の変形方法に基づいてトレッドパターン10の画像データの変形を行い(ステップS8)、ステップS5に戻る。そして、変形した画像データを用いて、ステップS5~S7の手順を再度実行する。ステップS7で画像データの変形回数が所定の回数に達したと判定されるまで、ステップS5~S8の手順が繰り返し実行される。
【0047】
[第2実施形態]
図10は、第2実施形態のタイヤのシミュレーション方法およびこれを利用したタイヤの設計方法の手順を示すフローチャートである。なお、第2実施形態は、第1実施形態と同一の作用効果及び変形例についての記載を省略する。
【0048】
図10に示すように、第2実施形態は、変形ライン30を生成するステップS13までは第1実施形態と同様であるが、それ以降のステップは第1実施形態と異なる。具体的には、第2実施形態では変動領域40を生成せず、変形前の接地ライン21および変形ライン30をタイヤ周方向に走査させ、トレッドパターン10の接地面積の変動データを取得する(ステップS14)。そのため、第2実施形態では、1つのトレッドパターン10の画像データに対して、走査させる接地ライン21および変形ライン30の数だけ接地面積の変動データが得られる。
【0049】
ステップS5において、接地面積の変動データに基づいてノイズを計算する。ノイズは、第1実施形態同様、接地面積の変動データを用いて周波数分析を行うことで計算することができる。上述の通り、第2実施形態では、1つの画像データに対して、走査させる接地ライン21および変形ライン30の数だけ接地面積の変動データが得られる。そのため、1つの画像データに対して、走査させる接地ライン21および変形ライン30の数だけノイズデータが得られる。
【0050】
次に、求めた複数のノイズデータを利用したタイヤの設計方法について説明する。ステップS16において、画像データの変形回数を求め、変形回数が予め設定した所定の回数に達しているか否かを判定する。ステップS16において、画像データの変形回数が所定の回数に達している場合(ステップS16:Yes)、ステップS18に進み、画像データごとに得られた複数のノイズデータから、その画像データに対応する代表ノイズ値を計算する。
【0051】
複数のノイズデータから代表ノイズ値を計算する方法として、例えば、ノイズデータごとにPOALまたはOALを算出し、それらの値の平均値、積算値、または最大値を代表ノイズ値として算出する方法がある。また、ノイズデータごとにPOALまたはOALを算出し、それらの値と接地ライン21を変形させる際の変形パラメータ(接地幅、矩形率)との相関から代表ノイズ値を算出してもよい。具体的には、接地幅の変動量を第1の軸、矩形率の変動量を第2の軸、POALまたはOALの値を第3の軸に表した3次元データを作成する。そして、生成した3次元データから近似曲面を算出し、近似曲面の平均値等を代表ノイズ値として算出することができる。近似曲面を算出する方法としては、最小二乗法によるフィッティングを例示できる。接地ライン21を変形させる際の変形パラメータとの相関から代表ノイズ値を算出することで、タイヤの接地面20がばらついた際のノイズを正確に求めることができる。
【0052】
ステップS19において、代表ノイズ値が最も小さい画像データを読み出す。そして、その画像データに対応するトレッドパターン10を生成し、表示装置55に当該トレッドパターン10を表示する。
【0053】
一方、ステップS16において、画像データの変形回数が所定の回数に達していない場合(ステップS16:No)、第1実施形態と同様にトレッドパターン10の画像データの変形を行い(ステップS17)、ステップS14に戻る。そして、変形した画像データを用いて、ステップS14~S16の手順を再度実行する。ステップS16で画像データの変形回数が所定の回数に達したと判定されるまで、ステップS14~S17の手順が繰り返し実行される。
【0054】
以上のように、上述のシミュレーション方法は、想定される接地面20のばらつきに合わせて接地ライン21を変形させ、変形ライン30を生成し、変形ライン30をトレッドパターン10の周方向に走査する。本シミュレーション方法によれば、実際のタイヤの形状、内圧等のばらつきにより接地面がばらついた場合であっても、走行時に生じるノイズの正確な予測が可能となる。
【0055】
また、上述のシミュレーションでは、接地面20の接地幅および矩形率に基づいて接地ライン21を変形させ、変形ライン30を生成したが、変形方法はこれに限定されない。例えば、接地ライン21を相似的に拡大または縮小させ変形ライン30を生成することができる。また、例えば、接地ライン21をタイヤ周方向またはタイヤ軸方向に移動させた変形ライン30を生成することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 トレッドパターン、11 主溝、12 副溝、13,16 ブロック、14 中央リブ、15 ブロック列、17 溝部、20 接地面、21 接地ライン、30 変形ライン、31 第1変形ライン、32 第2変形ライン、33 第3変形ライン、34 第4変形ライン、35 第5変形ライン、36 第6変形ライン、37 第7変形ライン、38 第8変形ライン、40 変動領域、50 解析装置、51 制御装置、52 プロセッサ、53 メモリ、54 入力装置、55 表示装置
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