(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058254
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】水性作動用液体およびアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
C10M 173/00 20060101AFI20240418BHJP
C10M 129/08 20060101ALN20240418BHJP
C10M 129/14 20060101ALN20240418BHJP
C10M 133/04 20060101ALN20240418BHJP
C10M 133/08 20060101ALN20240418BHJP
C10M 129/16 20060101ALN20240418BHJP
C10M 125/10 20060101ALN20240418BHJP
C10M 107/34 20060101ALN20240418BHJP
F15B 15/14 20060101ALN20240418BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20240418BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20240418BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240418BHJP
【FI】
C10M173/00
C10M129/08
C10M129/14
C10M133/04
C10M133/08
C10M129/16
C10M125/10
C10M107/34
F15B15/14 305
C10N40:08
C10N10:02
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165503
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】513052631
【氏名又は名称】株式会社プラザ・オブ・レガシー
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100224661
【弁理士】
【氏名又は名称】牧内 直征
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】刀根 如人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 泰久
(72)【発明者】
【氏名】吉田 郭也
【テーマコード(参考)】
3H081
4H104
【Fターム(参考)】
3H081AA01
3H081BB05
3H081CC17
3H081CC18
4H104AA13C
4H104BB04C
4H104BB06C
4H104BB42C
4H104BE01C
4H104BE04C
4H104CB15A
4H104CB15C
4H104CB16C
4H104EA01C
4H104EA16C
4H104EB10
4H104EB14
4H104EB20
4H104FA01
4H104LA20
4H104PA05
4H104QA01
(57)【要約】
【課題】既存油圧装置の作動用オイルに代用でき、高温でも蒸発しにくい水性作動用液体を提供する。
【解決手段】水性作動用液体6は、油圧装置1に充填された作動用オイルと交換可能で、防錆剤と、凍結防止剤と、沸点上昇剤と、油混和剤と、水とを含み、沸点上昇剤が、炭酸塩および酸性化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、水性作動用液体6が、圧力1~20MPa、温度-10~200℃の条件下で使用可能な液体であり、防錆剤が、中性金属塩、塩基性金属塩(ただし、炭酸塩を除く)、アミン、アミン誘導体、アミノ酸誘導体、カルボン酸型界面活性剤、およびコハク酸型界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧装置に充填された作動用オイルと交換可能な液体であって、
前記液体は、防錆剤と、凍結防止剤と、沸点上昇剤と、油混和剤と、水とを含み、
前記沸点上昇剤が、炭酸塩および酸性化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする水性作動用液体。
【請求項2】
圧力1~20MPa、温度-10~200℃の条件下で使用可能な液体であることを特徴とする請求項1記載の水性作動用液体。
【請求項3】
前記防錆剤が、中性金属塩、塩基性金属塩(ただし、炭酸塩を除く)、アミン、アミン誘導体、アミノ酸誘導体、カルボン酸型界面活性剤、およびコハク酸型界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の水性作動用液体。
【請求項4】
前記凍結防止剤が、グリコール、グリコール誘導体、ポリフェノール、ポリフェノール誘導体、糖類、およびカルボキシル基を有する化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の水性作動用液体。
【請求項5】
前記油混和剤が、HLB値が5~15のノニオン系界面活性剤であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の水性作動用液体。
【請求項6】
前記防錆剤としてコハク酸型アニオン系界面活性剤を含み、前記凍結防止剤としてプロピレングリコールおよびポリエチレングリコールを含み、前記沸点上昇剤として炭酸ナトリウムおよびホウ酸を含み、前記油混和剤としてHLB値が5~15のノニオン系界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の水性作動用液体。
【請求項7】
前記防錆剤が、コハク酸型アニオン系界面活性剤であり、前記水性作動用液体全量に対して0.1~5.0質量%含まれることを特徴とする請求項6記載の水性作動用液体。
【請求項8】
前記凍結防止剤が、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールであり、水性作動用液体全量に対して0.1~70.0質量%含まれることを特徴とする請求項7記載の水性作動用液体。
【請求項9】
前記沸点上昇剤が、炭酸ナトリウムおよびホウ酸であり、水性作動用液体全量に対して0.001~5.0質量%含まれることを特徴とする請求項8記載の水性作動用液体。
【請求項10】
前記油混和剤が、HLB値が5~15のノニオン系界面活性剤であり、水性作動用液体全量に対して0.001~5.0質量%含まれることを特徴とする請求項9記載の水性作動用液体。
【請求項11】
作動用オイルで稼働するアクチュエータであって、
前記アクチュエータは、鉄鋼製で、前記作動用オイルに代えて水性作動用液体が充填されており、
前記水性作動用液体が、請求項1または請求項2記載の水性作動用液体であることを特徴とするアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存油圧装置の作動用オイルに代用できる引火点のない水性作動用液体およびそれを用いたアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
作動用オイルは、機械の作動用応力伝達および部材間潤滑の機能を果たすオイルである。作動用オイルは、温度に対する性状変化が比較的小さいため、非常に広範囲な条件(環境)で使用できる。
【0003】
金属部材同士の摺動部に適用される作動用オイルやグリースなどの潤滑剤には、摩擦特性を調整する摩擦調整剤、オイルの酸化を防ぐ酸化防止剤、泡立ちを抑制する消泡剤、金属部材の腐食を抑制する防錆剤などが配合されている。例えば、特許文献1~3には、防錆材に関する技術が記載されている。
【0004】
作動用オイルは、上述のように適用条件が広範囲であるため、種々の環境で使用される油圧装置に従来から用いられている。しかし、船舶からのオイル漏洩で大量の魚が死んだり、オイル漏洩に起因する事故が発生する場合もあり、環境に対して悪影響を及ぼすリスクを有している。さらに自動車事故などにおいて、作動用オイルは車両火災の原因となりうるため、環境負荷が小さく、安全性により優れる材料の開発が多方面から切望されている。
【0005】
このような問題の解決には、作動用液体の原料に環境負荷の低い材料を用いたり、引火性を低下させたりすることが必要である。そのため、作動用オイルを水や、水を含んだ水性作動用液体に置き換える試みが行われている。油圧装置の稼働時、作動用オイルには最大200気圧の圧力がかかり、200℃程度の温度となる。水が油圧装置に充填されて高圧条件下で使用される場合には液体状態を維持できるため、作動用オイルに代えた使用(代用)が可能である。
【0006】
水を作動用オイルに代用する場合、冬季や寒冷地などの低温条件下でも油圧装置が正常に稼働するように、氷点下でも水が凝固せず流動性を有することが必要である。低温条件下での流動性を有する作動用液体として、水とグリコール系化合物とを配合した水性作動用液体が知られている。この場合、グリコール系化合物は凍結防止剤として用いられている。
【0007】
特許文献4~8には、道路などの融雪剤に用いられる凍結防止剤に関する技術が記載されている。具体的には、特許文献4には酢酸カリウムに関して記載されており、特許文献5~8にはナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩に関して記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-193723号公報
【特許文献2】特開2012-62361号公報
【特許文献3】特開2016-169347号公報
【特許文献4】特許第5920753号公報
【特許文献5】特開平9-48961号公報
【特許文献6】特開2000-34472号公報
【特許文献7】特開2012-46870号公報
【特許文献8】特開2015-83767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、従来から使用されているの油圧装置などのアクチュエータには、多くの場合、作動用オイルが充填されている。シリンダユニットを構成するピストンやシリンダ本体は鉄鋼製であることが多い。そのため、既存の油圧装置から作動用オイルを抜き出して水性作動用液体を新たに充填して使用する場合、シリンダユニットに接触する液体がオイルから水を含んだ液体となることにより、錆が発生しやすくなる。
【0010】
例えば、エンジンオイルをそのまま水に置き換えるとエンジン内部の部材(既存の構造物)である鉄鋼に錆が発生し、稼働に影響することが知られている。この原因は上水道に含まれる塩素に起因すると推定される。飲料水の塩素濃度は、WHOにより5ppm以下と定められているものの、若干混入している。また、水に空気中の二酸化炭素が溶解すると弱酸性の水となる。この弱酸性の水と塩素により鉄鋼製の部材が腐食することは十分考えられる。
【0011】
このような問題から、水性作動用液体を既存油圧装置の作動用オイルの代用として単純に置換すると油圧装置が不具合を起こすおそれがあり、水性作動用液体の使用は、非鉄鋼製(例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、銅など)の油圧装置に制限されていた。
【0012】
既存油圧装置の作動用オイルの代用として使用する場合、水性作動用液体には優れた防錆性が求められる。特許文献1~3記載の潤滑油は、オイルを主成分とする溶剤系の潤滑油であるため、オイルへの溶解性(親油性)に優れる防錆材が用いられている。このような親油性の防錆材は、一般的に水への溶解性が低い傾向にあることから、水を多く含む水性作動用液体には適さない場合がある。また、特許文献4~8に記載される塩系の凍結防止剤は塩素イオンを含有する場合があり、油圧装置に用いると錆の発生につながるおそれがある。
【0013】
また、油圧装置で水性作動用液体にかかる圧力が低い条件の場合、温度が100℃以上に上昇すると、水が蒸発して液の体積が減少する問題があった。
【0014】
さらに、水性作動用液体を作動用オイルに置換する際、作動用オイルを抜き出しても少量のオイルが装置内に残存する。装置内に残存する少量のオイルと水性作動用液体が分離状態で存在した場合、シリンダユニットの動作が不安定となるおそれがある。
【0015】
本発明は、既存油圧装置の作動用オイルに代用でき、高温でも蒸発しにくい水性作動用液体を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の水性作動用液体は、油圧装置に充填された作動用オイルと交換可能な液体であって、上記液体は、防錆剤と、凍結防止剤と、沸点上昇剤と、油混和剤と、水とを含み、上記沸点上昇剤が、炭酸塩および酸性化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする。
【0017】
圧力1~20MPa、温度-10~200℃の条件下で使用可能な液体であることを特徴とする。
【0018】
上記防錆剤が、中性金属塩、塩基性金属塩(ただし、炭酸塩を除く。以下同じ)、アミン、アミン誘導体、アミノ酸誘導体、カルボン酸型界面活性剤、およびコハク酸型界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする。
【0019】
上記凍結防止剤が、グリコール、グリコール誘導体、ポリフェノール、ポリフェノール誘導体、糖類、およびカルボキシル基を有する化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする。
【0020】
上記油混和剤が、HLB値が5~15のノニオン系界面活性剤であることを特徴とする。
【0021】
上記防錆剤としてコハク酸型アニオン系界面活性剤を含み、上記凍結防止剤としてプロピレングリコールおよびポリエチレングリコールを含み、上記沸点上昇剤として炭酸ナトリウムおよびホウ酸を含み、上記油混和剤としてHLB値が5~15のノニオン系界面活性剤を含むことを特徴とする。
【0022】
上記防錆剤が、コハク酸型アニオン系界面活性剤であり、上記水性作動用液体全量に対して0.1~5.0質量%含まれることを特徴とする。
【0023】
上記凍結防止剤が、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールであり、水性作動用液体全量に対して0.1~70.0質量%含まれることを特徴とする。
【0024】
上記沸点上昇剤が、炭酸ナトリウムおよびホウ酸であり、水性作動用液体全量に対して0.001~5.0質量%含まれることを特徴とする。
【0025】
上記油混和剤が、HLB値が5~15のノニオン系界面活性剤であり、水性作動用液体全量に対して0.001~5.0質量%含まれることを特徴とする。
【0026】
本発明のアクチュエータは、作動用オイルで稼働するアクチュエータであって、上記アクチュエータは、鉄鋼製で、上記作動用オイルに代えて水性作動用液体が充填されており、上記水性作動用液体が、上述した水性作動用液体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の水性作動用液体は、油圧装置に充填された作動用オイルと交換可能な液体であって、防錆剤と、凍結防止剤と、沸点上昇剤と、油混和剤と、水とを含み、沸点上昇剤が、炭酸塩および酸性化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物であるので、既存油圧装置の作動用オイルに代用でき、高温でも蒸発しにくい。
【0028】
圧力1~20MPa、温度-10~200℃の条件下で使用可能な液体であるので、より幅広い用途や使用条件の既存油圧装置に適用でき、より多くの種類の作動用オイルに代用できる。
【0029】
防錆剤が、中性金属塩、塩基性金属塩、アミン、アミン誘導体、アミノ酸誘導体、カルボン酸型界面活性剤、およびコハク酸型界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の化合物であるので、防錆性により優れる。
【0030】
凍結防止剤が、グリコール、グリコール誘導体、ポリフェノール、ポリフェノール誘導体、糖類、およびカルボキシル基を有する化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物であるので、凍結防止性により優れる。
【0031】
油混和剤が、HLB値が5~15のノニオン系界面活性剤であるので、作動用オイルを水性作動用液体へ交換した際に装置内に少量のオイルが存存しても水性作動用液体と混和しやすく、潤滑性の低下が起こりにくい。このため、既存油圧装置の作動用オイルに代用した場合、シリンダユニットの動作安定性により優れる。
【0032】
防錆剤としてコハク酸型アニオン系界面活性剤を含み、凍結防止剤としてプロピレングリコールおよびポリエチレングリコールを含み、沸点上昇剤として炭酸ナトリウムおよびホウ酸を含み、油混和剤としてHLB値が5~15のノニオン系界面活性剤を含むので、防錆性、凍結防止性、動作安定性にさらに優れ、より高い温度条件でも使用できる。
【0033】
本発明のアクチュエータは、作動用オイルで稼働するアクチュエータであって、アクチュエータは、鉄鋼製で、作動用オイルに代えて上述した水性作動用液体が充填されているので、低コストでありつつ、安全性に優れ、低環境負荷である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の水性作動用液体を備えたアクチュエータの断面図である。
【
図2】サンプル溶液を加熱した際の重量減少を示す図である。
【
図3】本発明の水性作動用液体を3水準の温度で加熱した際の重量減少を示す図である。
【
図4】本発明の水性作動用液体の温度に対する粘度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本明細書において、アクチュエータとは液体の圧力を使用して作動する装置全般を意味し、油圧装置とはオイルの圧力(油圧)を使用して作動する装置全般を意味する。油圧装置では、外部の電動機や発動機からの動力を元に油圧ポンプを動かし、このポンプから発生する圧力が付与された作動油によってシリンダなどを動作させて所定の仕事をする。油圧装置は、製鉄機械、工作機械、射出成型機などの一般産業機械、油圧ショベルなどの建設機械、フォークリフトなどの産業車両、トラクタなどの農業機械、ダンプトラックなどの特殊車両に用いられる。
【0036】
ここで、油圧装置に用いられる作動油には、種々のものがあり、例えば、引火点を有する鉱油系作動油(作動用オイル)や、引火点を有しない水系作動油(水性作動用液体)がある。本発明の水性作動用液体は、油圧装置に充填された作動用オイルと交換可能である。具体的には、作動用オイルの使用を前提として、広い温度・圧力条件(例えば、圧力1~20MPa、温度-10~200℃)下での使用を想定して設計され、鉄鋼などの材質が選定された油圧装置に使用できる。すなわち、作動用オイル使用時の稼働条件や部材のまま、水性作動用液体を作動用オイルに代用した場合に、不具合なく使用できる。なお、本発明の水性作動用液体は、油圧装置に充填された作動用オイルと交換可能でないものも対象とする。例えば、水性作動用液体の使用を前提とする油圧装置にのみ用いられてもよい。
【0037】
本発明の水性作動用液体を構成する成分について、以下説明する。本発明の水性作動用液体は、防錆剤と、凍結防止剤と、沸点上昇剤と、油混和剤と、水とを含む。
【0038】
(1)防錆剤
水性作動用液体は、防錆剤として、中性金属塩、塩基性金属塩、アミン、アミン誘導体、アミノ酸誘導体、カルボン酸型界面活性剤、およびコハク酸型界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。中性金属塩や塩基性金属塩としては、例えば、リチウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム、亜鉛などの金属塩が挙げられる。また、アミンとしては、アンモニア、ジエチレントリアミン、エチレンジアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられる。アミン誘導体としては、例えば、アミン系ノニオン界面活性剤、アミノ酸などが挙げられる。また、水性作動用液体は、防錆剤として、亜硝酸を含んでもよい。
【0039】
アミン、アミン誘導体、アミノ酸誘導体、カルボン酸型界面活性剤、コハク酸型界面活性剤などの有機系防錆剤は、溶液中で良好な吸着被膜を形成し、優れた防錆性を示すため好ましい。有機系防錆剤の中でも、特に、カルボン酸型アニオン系界面活性剤やコハク酸型アニオン系界面活性剤は非鉄金属にも適用できるため好ましい。カルボン酸型アニオン系界面活性剤としては、例えば、三洋化成工業株式会社製のサンヒビターNo.2-1が挙げられる。コハク酸型アニオン系界面活性剤としては、例えば、三洋化成工業株式会社製のサンヒビターOMA-10、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王株式会社製、ぺレックスOT-P、ぺレックスTR)、スルホコハク酸アルキルモノアミドジナトリウム(花王株式会社製、ぺレックスTA)などが挙げられる。
【0040】
水性作動用液体に配合される防錆剤は、1種類であってもよいし、複数種類が併用されてもよい。防錆剤は、水性作動用液体全量に対して、例えば、0.1~5.0質量%含まれるように配合できる。防錆剤の配合量は、0.3~3.0質量%が好ましく、0.5~2.0質量%がより好ましい。
【0041】
(2)凍結防止剤
水性作動用液体は、凍結防止剤として、グリコール、グリコール誘導体、ポリフェノール、ポリフェノール誘導体、糖類、およびカルボキシル基を有する化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどが挙げられる。グリコール誘導体としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコ-ル、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。ポリフェノールとしては、例えば、タンニン酸、アントシアニン、カテキン、セサミン、ケルセチン、ルチン、イソフラボンなどが挙げられる。糖類としては、例えば、ブドウ糖(グルコース)、フルクトース、ガラクトースなどの単糖や、マルトース、スクロース、ラクトースなどの二糖類、多糖類などが挙げられる。また、水性作動用液体は、凍結防止剤として、界面活性剤を含んでもよい。
【0042】
水性作動用液体に配合される凍結防止剤は、1種類であってもよいし、複数種類が併用されてもよい。凍結防止剤は、水性作動用液体全量に対して、例えば、0.1~70質量%含まれるように配合できる。凍結防止剤の配合量は、5~70質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましく、50~70質量%がより好ましい。
【0043】
凍結防止剤は、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールを含むことが好ましく、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールからなることが特に好ましい。この場合、流動性の観点から、プロピレングリコール100質量部に対してポリエチレングリコールが5~40質量部の比率であることが好ましく、10~30質量部の比率であることがより好ましい。
【0044】
(3)沸点上昇剤
水性作動用液体は、沸点上昇剤として、炭酸塩および酸性化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。酸性化合物としては、例えば、ホウ酸、硝酸アンモニウム、シュウ酸、リン酸などの弱酸性化合物などが挙げられる。
【0045】
水性作動用液体に配合される沸点上昇剤は、1種類であってもよいし、複数種類が併用されてもよい。沸点上昇剤は、水性作動用液体全量に対して、例えば、0.001~5.0質量%含まれるように配合できる。沸点上昇剤の配合量は、沸点上昇効果および防錆性の観点から、0.005~3.0質量%が好ましく、0.01~1.0質量%がより好ましく、0.01~0.1質量%がさらに好ましい。
【0046】
沸点上昇剤は、炭酸ナトリウムおよび弱酸性化合物を含むことが好ましく、炭酸ナトリウムおよびホウ酸を含むことがより好ましく、炭酸ナトリウムおよびホウ酸からなることが特に好ましい。この場合、防錆性と沸点上昇作用の観点から、炭酸ナトリウム100質量部に対して、ホウ酸が5~40質量部の比率であることが好ましく、10~30質量部の比率であることがより好ましい。
【0047】
(4)油混和剤
水性作動用液体は、油混和剤として、HLB値が5~15のノニオン系界面活性剤を含む。なお、本発明におけるHLB値はグリフィン法によって算出される値である。HLB値が5~15のノニオン系界面活性剤としては、例えば、HLB値が5~15のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミドなどが挙げられる。
【0048】
水性作動用液体に配合される油混和剤は、1種類であってもよいし、複数種類が併用されてもよい。油混和剤は、水性作動用液体全量に対して、例えば、0.001~5.0質量%含まれるように配合できる。油混和剤の配合量は、0.005~3.0質量%が好ましく、0.01~1.0質量%がより好ましく、0.01~0.1質量%がさらに好ましい。
【0049】
水性作動用液体は、油混和剤として、HLB値が10~15のノニオン系界面活性剤を含むことが好ましい。油混和剤は、HLB値が10~15のポリオキシエチレンアルキルエーテルを含むことが好ましい。HLB値が10~15のポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(例えば、花王株式会社製、エマルゲン108)、ポリオキシエチレンセチルエーテル(例えば、花王株式会社製、エマルゲン220)、ポリオキシエチレンステアリルエーテル(例えば、花王株式会社製、エマルゲン320P)、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(例えば、花王株式会社製、エマルゲン408)、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル(例えば、花王株式会社製、エマルゲン2020G-HA)などが挙げられる。油混和剤は、上記HLB値が10~15のポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも2種の化合物を含むことが好ましい。また、油混和剤は、ポリオキシエチレンラウリルエーテルおよびポリオキシエチレンオレイルエーテルから選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことがより好ましく、ポリオキシエチレンラウリルエーテルおよびポリオキシエチレンオレイルエーテルを含むことがさらに好ましく、ポリオキシエチレンラウリルエーテルおよびポリオキシエチレンオレイルエーテルからなることが特に好ましい。
【0050】
油混和剤が、ポリオキシエチレンラウリルエーテルおよびポリオキシエチレンオレイルエーテルからなる場合、油混和性の観点から、ポリオキシエチレンラウリルエーテル100質量部に対して、ポリオキシエチレンオレイルエーテルが50~150質量部の比率であることが好ましく、100質量部の比率であることがより好ましい。
【0051】
水性作動用液体は、さらに増粘剤を含んでもよい。水性作動用液体は、増粘剤として、水酸基またはカルボキシル基を有する化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことができる。水酸基を有する化合物としては、例えば、キタンガム、グア-ガム、カラギナンなどの汎用性多糖類や、種々の重合度のポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなど、両末端に水酸基を有するポリエーテルが挙げられる。また、カルボキシル基を有する化合物としては、例えば、ポリアクリル酸などが挙げられる。これらの増粘剤は、作動用液体にチクソトロピックな粘度を増加させることで、金属との摩擦を低減させる摩耗防止剤としても機能する。
【0052】
水性作動用液体に配合される増粘剤は、1種類であってもよいし、複数種類が併用されてもよい。増粘剤として多糖類を用いる場合、水性作動用液体全量に対して、例えば、0.5~30.0質量%含まれるように配合でき、1.0~10.0質量%とすることが好ましい。また、増粘剤としてポリアクリル酸やポリエチレングリコールなどの高分子量化合物を用いる場合、水性作動用液体全量に対して、例えば、1.0~30.0質量%含まれるように配合でき、1.0~20.0質量%とすることが好ましい。
【0053】
また、必要に応じて、その他の添加剤として、摩耗防止剤、酸化防止剤、極圧剤、金属不活性化剤、消泡剤などの公知の添加剤を使用することができる。
【0054】
次に、作動用オイルの水性作動用液体への置換の詳細について説明する。置換作業では、まず油圧装置から作動用オイルを抜き出し、その後水性作動用液体を充填する。この際、作動用オイルを抜き出しても少量のオイルが装置内に残存する。本発明の水性作動用液体は残存オイルとの油混和性に優れるため、作動用オイルを抜き出した後に洗浄液などで装置内の洗浄(残存オイルの除去)を行わずに充填しても、シリンダユニットが安定的に動作できる。なお、本発明の水性作動用液体は、作動用オイルを抜き出した後に洗浄液(メンテナンス水)として装置内へ流し込んで排出する共洗い作業に用いてもよい。水性作動用液体をメンテナンス水として用いた場合、装置内の洗浄後に充填された水性作動用液体中のオイル成分がより少なくなり、シリンダユニットは一層安定的に動作できる。
【0055】
メンテナンス水は、防錆性と油混和性を有していれば、水性作動用液体に限られない。メンテナンス水は、少なくとも防錆剤と、油混和剤と、水とを含んでいればよい。メンテナンス水は、作動用オイルが抜き出された装置へと流し込まれ、残存オイルと混和(乳化)することで装置内部を洗浄でき、乾燥後の装置内部が錆びにくい。
【0056】
防錆剤としては、上述の防錆剤を用いることができる。防錆剤は、1種類であってもよいし、複数種類が併用されてもよい。防錆剤は、メンテナンス水全量に対して、例えば、0.5~10.0質量%含まれるように配合できる。防錆剤の配合量は、0.5~5.0質量%が好ましく、0.5~2.0質量%がより好ましい。
【0057】
油混和剤としては、上述の油混和剤を用いることができる。油混和剤は、1種類であってもよいし、複数種類が併用されてもよい。油混和剤は、メンテナンス水全量に対して、例えば、0.1~20.0質量%含まれるように配合できる。油混和剤の配合量は、0.1~10.0質量%が好ましく、0.1~5.0質量%がより好ましい。
【0058】
水としては、特に限定されず、上水道、井戸水、川水、湖水などが挙げられる。メンテナンス水は、装置内の洗浄のために用いられる液体であるため、装置内に残存して悪影響を及ぼす砂などの異物を含んでないことが好ましい。
【0059】
本発明のアクチュエータについて、
図1を用いて説明する。
図1は、本発明の水性作動用液体を備えたアクチュエータの断面図である。
図1に示すように、アクチュエータ1は、筒状のシリンダ本体2と、シリンダ本体2内にて往復運動するピストン3とを備えた、一般的な油圧装置の構造をしている。シリンダ本体2内の容積室4、5には、水性作動用液体6が充填されている。シリンダ本体2およびピストン3の一部または全部は鉄鋼製であり、水性作動用液体6と接触している。ここで、アクチュエータ1は、作動用オイルで稼働する装置であるところ、
図1には作動用オイルを抜き出して、上述した水性作動用液体6が充填された後の状態を示している。
【0060】
アクチュエータ1の稼働時、水性作動用液体6は、容積室4、5の中で、例えば、圧力1~20MPa、温度-10~200℃の範囲で作動する。水性作動用液体6は、この条件下では相変化せず、液体状態を維持できる。
【実施例0061】
参考例1~6
水に種々の防錆剤を配合したサンプルについて防錆性の評価を行った。防錆剤として、コハク酸型アニオン系界面活性剤(三洋化成工業株式会社製、サンヒビターOMA-10)、エチレンジアミン誘導体(富士フイルム和光純薬株式会社製)、亜硝酸の3種を用い、水と混合したサンプルを調製した。調製した各サンプルを100ccの容器に入れ、鉄鋼製の釘(鉄釘)15本を浸漬し、60℃、1カ月放置した。その後鉄釘を取り出し、各鉄釘における錆の有無を目視観察し、錆びた釘の本数から防錆性を評価した。表1に、組成と評価結果を示す。なお、以下の表において各数値は、サンプル液全体の質量を100とした場合の配合比を意味する。
【0062】
防錆性の評価は以下の判断基準に基づいて行った。
<防錆性>
○ : 錆びた釘の本数0
△~〇 : 錆びた釘の本数1
△ : 錆びた釘の本数2~3
×~△ : 錆びた釘の本数4~7
× : 錆びた釘の本数8以上
【0063】
【0064】
コハク酸型アニオン系界面活性剤は、組成物の全量に対して0.5質量%以上含まれる場合に優れた防錆性を示した。また、エチレンジアミン誘導体は、組成物の全量に対して1.0質量%以上含まれる場合に優れた防錆性を示した。
【0065】
参考例6~13
水に種々の凝固点降下作用を有する化合物を配合したサンプルについて防錆性および凍結防止性の評価を行った。なお、比較として、防錆材としてコハク酸型アニオン系界面活性剤のみを含み、凝固点降下作用を有する化合物が無添加の参考例6も評価した。凝固点降下作用を有する化合物として、タンニン酸(富士化学工業株式会社製、タンニン酸AL)、エチレングリコール、プロピレングリコール(AGC株式会社製)、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、の5種を用い、水と混合したサンプルを調製した。なお、各サンプルには、防錆剤としてコハク酸型アニオン系界面活性剤を1.0質量%となるように配合した。調製した各サンプルを100ccの容器に入れ、-15℃、14日放置した。その後液の状態を目視観察し、凍結防止性を評価した。表2に、組成と評価結果を示す。防錆性は、上述の方法で別途評価した。
【0066】
凍結防止性の評価は以下の判断基準に基づいて行った。
<凍結防止性>
○ : 全体的に液体状態維持
△~〇 : 5/100程度が凝固
△ : 1/10程度が凝固
×~△ : 半分程度が凝固
× : 完全に凝固
【0067】
【0068】
タンニン酸、塩化ナトリウム、および塩化カルシウムは、凍結防止効果が認められたものの、防錆性を低下させることがわかった。一方、エチレングリコールおよびプロピレングリコールは配合による防錆効果の低下は見られず、50質量%以上の配合で防錆性と凍結防止性を両立できることがわかった。
【0069】
実施例1~2、比較例1~9、参考例6
水に種々の凝固点降下作用および沸点上昇作用を有する化合物や、油混和剤を配合したサンプルについて防錆性、凍結防止性、高温蒸発抑制性、および油混和性の評価を行った。なお、比較として、防錆材としてコハク酸型アニオン系界面活性剤のみを含み、凝固点降下作用および沸点上昇作用を有する化合物や油混和剤が無添加の参考例6も評価した。凝固点降下作用および沸点上昇作用を有する化合物としてプロピレングリコール、ポリエチレングリコール200(純正化学株式会社製)、ポリエチレングリコール1000(キシダ化学株式会社製)、ポリエチレングリコール20000、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、ホウ酸の7種、油混和剤としてHLB値が10~15のノニオン系界面活性剤(花王株式会社製、エマルゲン106とエマルゲン408の1:1混合物)を用い、水と混合したサンプルを調製した。なお、各サンプルには、防錆剤としてコハク酸型アニオン系界面活性剤を1.0質量%となるように配合した。調製した各サンプルについて105℃、10時間加熱を行った後の加熱前重量に対する重量減少率を測定し、高温蒸発抑制性を評価した。また、各サンプル100質量部に対して1質量部の作動用オイルを混合して10分間振とうした後の液の外観を目視観察し、油混和性を評価した。防錆性と凍結防止性についても上述の方法で評価した。表3、4に、組成と評価結果を示す。
【0070】
高温蒸発抑制性の評価は以下の判断基準に基づいて行った。
<高温蒸発抑制性>
○ : 重量減少率が10%未満
△~〇 : 重量減少率が10%以上20%未満
△ : 重量減少率が20%以上30%未満
×~△ : 重量減少率が30%以上50%未満
× : 重量減少率が50%以上
【0071】
油混和性の評価は以下の判断基準に基づいて行った。
<油混和性>
○ : 濁りなく透明
× : 水性液体と分離した液滴が存在
【0072】
【0073】
【0074】
炭酸ナトリウムおよびホウ酸を含む実施例1~2および比較例1~2は、防錆性、凍結防止性、高温蒸発抑制性の特性に優れることがわかった。特に、ノニオン系界面活性剤を配合した実施例1~2では油混和性の向上が見られ、4つの特性全てに優れることがわかった。なお、塩化ナトリウムおよび塩化カルシウムを配合した比較例3~5では、高温蒸発抑制性の発現のために塩を大量に配合する必要があり、水性作動用液体に不適であることがわかった。
【0075】
(加熱時の重量変化)
加熱時の経時での重量減少について説明する。
図2は、実施例2の水性作動用液体に対し各添加剤が段階的に抜かれたサンプルの105℃加熱時の経時重量減少を示す図である。表5に、本実験に供したサンプルの組成を示す。
【0076】
【0077】
経時重量減少の試験は、サンプル溶液80mlを縦2:横1の大きさの広口瓶(容量100ml)に入れ、上部を開放した状態で加熱して行った。加熱開始前(0時間)と、その後2時間ごとに重量を計測し、加熱10時間まで試験した。0時間の重量を100%として、その後の重量変化をプロットした。
【0078】
図2より、プロピレングリコールやポリエチレングリコールの配合は、加熱時の重量減少を明らかに起こりにくくする(重量減少率を低下させる)ことがわかった。また、比較例10(炭酸ナトリウムおよびホウ酸含有)と比較例11(炭酸ナトリウムおよびホウ酸非含有)との間で重量減少率に大きな差があることから、炭酸ナトリウムおよびホウ酸は、わずかな配合量でも高温蒸発抑制性に大きく寄与することが分かった。
【0079】
図3は、実施例2の水性作動用液体について、95℃、105℃、115℃の3水準での加熱時の経時重量減少を示す図である。試験は、加熱温度以外は
図2の場合と同様に行った。
図3より、実施例2の水性作動用液体は、105℃、115℃という水の沸点以上で10時間加熱した場合の重量減少率として10%未満(残存重量が90%よりも大きい)であり、沸点以下での加熱(95℃加熱)の場合よりやや重量減少しやすいものの大きな差はなく、高温でも蒸発しにくいことがわかった。
【0080】
(粘度の温度依存性)
本発明の水性作動用液体の粘度の温度依存性について説明する。
図4は、実施例2の水性作動用液体について、-20~100℃での粘度変化を示す図である。
【0081】
図4より、実施例2の水性作動用液体は、全温度領域で流動性液体であり、かつ、その変化が100Poise以下であることがわかった。水は温度上昇するに従って粘度が低下するため、従来の水-グリコール系の作動用液体は、高温ではシリンダユニットの動作を阻害せず問題ないものの、低温では粘度上昇し、シリンダユニットの動作を阻害するおそれがあった。実施例2の水性作動用液体は、-20~100℃での粘度変化が100Poise以下であるため、幅広い温度範囲でシリンダユニットをスムーズに動作させることができると考えられる。
【0082】
(油圧装置での作動試験 静的試験)
防錆性に優れ、低温でも流動性を維持した実施例2の水性作動用液体を用いて作動試験を行った。油圧装置の油(作動用オイル)を抜き出し、実施例2の水性作動用液体と入れ替え、手動で圧が加わる最大限まで加圧した。加圧状態を保持した結果、2カ月経過後も圧の低下(液体の漏出)は認められなかった。本結果から、本発明の水性作動用液体は、シリンダユニットなどの油圧装置に十分使用可能であることがわかった。
【0083】
(油圧装置での作動試験 動的試験1)
次に、より実機での使用時に近い条件として動的試験を行った。油圧装置の油を抜き出し、実施例2の水性作動用液体と入れ替え、3往復/分の左右方向への運動を繰り返す動的試験を、8時間/日、30日間行った。試験完了後の油圧装置には外観上特別な変化は見られず、30日間継続的に規則的運動をすることができた。
【0084】
(油圧装置での作動試験 動的試験2)
上述した油圧装置の外観上の確認に加え、定量的試験も行った。作動用液体が、油圧装置から漏出したり、シリンダ内で気化したりすると、容器(作動油タンク)内での液面高さ(液量)が変化する。そのため、装置動作時の液面高さを測定することにより、水性作動用液体の油圧装置への使用可能性を評価した。
【0085】
底面正方形の容器を備えた油圧装置の容器から油を抜き出し、実施例2の水性作動用液体37Lを入れた。本試験で用いた油圧装置において、吸込管から吸引された水性作動用液体はシリンダへ注入され、シリンダから戻る水性作動用液体は戻り管の出口に配置されたフィルタを通って容器へ入るように構成した。この油圧装置を用いて、シリンダ内のピストンを3往復/分のペースで約8時間動作し、経時での水性作動用液体の液面高さを測定した。また、液面高さの測定時には、外気温度および水性作動用液体の温度の測定も併せて行った。本試験は、異なる日に1回ずつ(合計2回)行った。表6、7に評価結果を示す。
【0086】
【0087】
【0088】
表6、7の結果から、本発明の水性作動用液体の液面高さは、約8時間の動作の間、ほぼ変化しないことが確認された。なお、実際のキャリアカーのピストンも本試験と同程度の速度で動作し、また、実際の作動時間は1時間程度である。上記動的試験の結果からも、本発明の水性作動用液体が油圧装置に十分使用可能であることが分かった。
本発明の水性作動用液体は、既存油圧装置の作動用オイルに代用でき、高温でも蒸発しにくいので、代用のために油圧装置の部品交換などを行うコストを要することなく安全性や環境負荷を低減できる。そのため、種々の油圧装置、特に既存の油圧装置に広く用いることができる。