(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058262
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】電気化学反応単セル
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240418BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240418BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240418BHJP
C25B 11/091 20210101ALI20240418BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20240418BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240418BHJP
【FI】
H01M4/86 T
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B11/091
H01M8/12 102A
H01M8/12 101
H01M8/12 102B
H01M8/12 102C
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165516
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 瑞絵
(72)【発明者】
【氏名】林 千栄
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA22
4K011AA24
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DC01
4K021DC03
5H018AA06
5H018EE04
5H018EE12
5H018HH03
5H018HH05
5H126BB06
5H126CC02
5H126DD05
5H126EE11
(57)【要約】
【課題】電気化学反応単セルの発電性能をより向上させると共に燃料極の強度を確保する。
【解決手段】電気化学反応単セルは、電解質層と、前記電解質層を挟んで互いに対向する空気極および燃料極と、を含む電気化学反応単セルにおいて、前記燃料極は、NiとNiOと酸化物イオン伝導性セラミックスとを含有し、前記燃料極について紫外可視分光分析をした場合に、600nmから1000nmまでの波長範囲に反射率の最高値があり、かつ、前記最高値が10%以上かつ80%以下である。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、前記電解質層を挟んで互いに対向する空気極および燃料極と、を含む電気化学反応単セルにおいて、
前記燃料極は、NiとNiOと酸化物イオン伝導性セラミックスとを含有し、
前記燃料極について紫外可視分光分析をした場合に、600nmから1000nmまでの波長範囲に反射率の最高値があり、かつ、前記最高値が10%以上かつ80%以下である、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応単セルであって、
前記最高値が15%以上かつ50%以下である、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項3】
請求項1に記載の電気化学反応単セルであって、
前記燃料極における前記酸化物イオン伝導性セラミックスの含有量(重量%)は、20%以上かつ70%以下である、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項4】
請求項1に記載の電気化学反応単セルであって、
前記燃料極の10箇所について前記紫外可視分光分析をした場合に、前記10箇所の各箇所全てにおいて600nmから1000nmまでの波長範囲に反射率の最高値があり、かつ、
前記10箇所の各箇所全ての前記最高値のうちの最高値を特定最高値とし、前記10箇所の各箇所全ての前記最高値のうちの最低値を特定最低値としたときに、数式:特定最高値/特定最低値≦5を満たす、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、電気化学反応単セルに関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の種類の1つとして、固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」という。)が知られている。SOFCは、一般に、複数の燃料電池単セル(以下、単に「単セル」という。)を備える燃料電池スタックの形態で利用される。単セルは、電解質層と、電解質層を挟んで所定方向(以下、「第1の方向」という。)に互いに対向する燃料極および空気極とを備える。
【0003】
従来、燃料電池スタックにおいて、燃料極がNiとNiOと酸化物イオン伝導性セラミックスとを含有する構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。酸化物イオン伝導性セラミックスは、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)である。燃料極が含有するNiは主に電子伝導部として機能し、NiOは主に気孔率を調整する材料として機能し、酸化物イオン伝導性セラミックスは主に酸化物イオン伝導性部として機能する。また、当該酸化物イオン伝導性セラミックスは燃料極の骨格部としても機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単セルの発電性能をより向上させることが課題となっている。単セルの発電性能をより向上させる方法として、電子伝導性を有する燃料極におけるNiの含有量を増やし、電子伝導経路を増やす方法がありえるが、単にNiの含有量を増やすだけでは、骨格部となる酸化物イオン伝導性セラミックスの含有割合が小さくなり、また、NiOの含有割合の減少に伴い、燃料極の気孔率が増加するため、燃料極の強度が確保されにくい(例えば、燃料電池スタックの運転時等において燃料極に割れが生じやすい)ことが更なる課題となりうる。
【0006】
そこで、本願発明者は、燃料極におけるNiOの含有量に対するNiの含有量の比率が高い(換言すれば、Niの含有量に対するNiOの含有量の比率が低い)ほど、燃料極の導電性(ひいては単セルの発電性能)が確保されやすいが、燃料極の強度が確保されにくいことに着目した。なお、上記特許文献1では、燃料極におけるNiの含有量とNiOの含有量との比率に関しては、特に記載されていない。
【0007】
なお、このような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」という。)の構成単位である電解単セルにも共通の課題である。なお、本明細書では、燃料電池単セルと電解単セルとをまとめて電気化学反応単セルと呼ぶ。また、このような課題は、SOFCやSOECに限らず、他のタイプの電気化学反応単セルにも共通の課題である。
【0008】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0010】
(1)本明細書に開示される電気化学反応単セルは、電解質層と、前記電解質層を挟んで互いに対向する空気極および燃料極と、を含む電気化学反応単セルにおいて、前記燃料極は、NiとNiOと酸化物イオン伝導性セラミックスとを含有し、前記燃料極について紫外可視分光分析をした場合に、600nmから1000nmまでの波長範囲に反射率の最高値があり、かつ、前記最高値が10%以上かつ80%以下である。
【0011】
本電気化学反応単セルによれば、上記最高値が10%以上である(そのため、NiOがある程度多い)ことにより燃料極の強度(ひいては電気化学反応単セルの強度)を確保できると共に、上記最高値が80%以下である(そのため、Niがある程度多い)ことにより燃料極の導電性(ひいては電気化学反応単セルの発電性能)を向上させることができる。
【0012】
(2)上記電気化学反応単セルにおいて、前記最高値が15%以上かつ50%以下である構成としてもよい。本電気化学反応単セルによれば、上記最高値が50%以下であることにより、燃料極の導電性(ひいては電気化学反応単セルの発電性能)を特に効果的に向上させることができる。
【0013】
(3)上記電気化学反応単セルにおいて、前記燃料極における前記酸化物イオン伝導性セラミックスの含有量(重量%)は、20%以上かつ70%以下である構成としてもよい。本電気化学反応単セルによれば、燃料極の強度(ひいては電気化学反応単セルの強度)を特に確保できると共に、上記含有量(重量%)が70%以下であることにより燃料極の導電性(ひいては電気化学反応単セルの発電性能)を特に向上させることができる。
【0014】
(4)上記電気化学反応単セルにおいて、前記燃料極の10箇所について前記紫外可視分光分析をした場合に、前記10箇所の各箇所全てにおいて600nmから1000nmまでの波長範囲に反射率の最高値があり、かつ、前記10箇所の各箇所全ての前記最高値のうちの最高値を特定最高値とし、前記10箇所の各箇所全ての前記最高値のうちの最低値を特定最低値としたときに、数式:特定最高値/特定最低値≦5を満たす構成としてもよい。
【0015】
仮に燃料極の部位ごとで反射率の最高値のばらつきが大きい(例えば、特定最高値/特定最低値>5)構成においては、NiとNiOと酸化物イオン伝導性セラミックスとが燃料極において均一に分布しておらず偏在しているため、電気化学反応単セルの発電時において発電性能にムラが生じ、燃料極の温度のばらつきが大きくなりやすい。電気化学反応単セルの発電時において燃料極の温度のばらつきが大きいと、高温部で燃料極に供給されるガスの粘度が高くなることで燃料極の全体にガスが分配されにくく流配が悪化するため、電気化学反応単セルの発電性能が低下しやすく、また、燃料極と他の部材(電解質層等)との接合性が確保されにくい。これに対し、本電気化学反応単セルにおいては、上記数式:特定最高値/特定最低値≦5を満たすため、燃料極における、ある程度広範囲において、上記反射率の最高値のばらつきが小さい。そのため、電気化学反応単セルの発電時における燃料極の温度のばらつきが小さくなる。そのため、本電気化学反応単セルによれば、電気化学反応単セルの発電性能を向上させることができ、また、燃料極と他の部材との接合性を向上させることができる。なお、「燃料極の部位ごと」は、例えば「燃料極の表面の一の領域と燃料極の表面の他の領域」と「燃料極内部の一の領域と燃料極の内部の他の領域」と「燃料極の表面の一の領域と燃料極の内部の他の領域」とのいずれかの組合せを含む。
【0016】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電気化学反応セル(燃料電池単セルまたは電解単セル)、複数の電気化学反応セルを備える電気化学反応セルスタック(燃料電池スタックまたは電解セルスタック)、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図
【
図2】
図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図
【
図3】
図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図
【
図4】
図1のIV-IVの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図
【
図5】
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図
【
図6】
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図
【
図7】
図4に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図
【
図8】紫外可視分光法により燃料極116の反射率を測定した結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.実施形態:
A-1.構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、
図2は、
図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、
図3は、
図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、
図4は、
図1のIV-IVの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
図5以降についても同様である。
【0019】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」という。)102と、末端セパレータ210と、上端プレート220と、下端プレート189と、一対のターミナルプレート410,420と、絶縁部200と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のターミナルプレート410,420のうちの一方(以下、「上側ターミナルプレート410」という。)は、7つの発電単位102から構成される集合体(以下、「発電ブロック103」という。)の上側に配置されており、一対のターミナルプレート410,420のうちの他方(以下、「下側ターミナルプレート420」という。)は、発電ブロック103の下側に配置されている。末端セパレータ210は、上側ターミナルプレート410の上側に配置されており、下端プレート189は、下側ターミナルプレート420の下側に配置されている。絶縁部200は、末端セパレータ210の上側に配置されている。一対のエンドプレート104,106のうちの一方(以下、「上側エンドプレート104」という。)は、絶縁部200の上側に配置されており、一対のエンドプレート104,106のうちの他方(以下、「下側エンドプレート106」という。)は、下端プレート189の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106は、発電ブロック103と、末端セパレータ210と、下端プレート189と、一対のターミナルプレート410,420と、絶縁部200とを上下から挟むように配置されている。
【0020】
図1および
図4に示すように、燃料電池スタック100を構成する各層(発電ブロック103、末端セパレータ210、下端プレート189、一対のターミナルプレート410,420、および、絶縁部200)のZ軸方向回りの外周の4つの角部付近には、各層を上下方向に貫通する孔が形成されている。上側エンドプレート104のZ軸方向回りの外周の4つの角部付近には、孔が貫通形成されており、下側エンドプレート106のZ軸方向回りの外周の4つの角部付近には、孔が貫通形成されている。これらの各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、上下方向に延びるボルト孔109を構成している。以下の説明では、ボルト孔109を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、ボルト孔109と呼ぶ場合がある。
【0021】
各ボルト孔109にはボルト22が挿入されている。各ボルト22の上端部は、上側エンドプレート104の孔を介してナット24のネジ孔に螺合しており、各ボルト22の下端部は、下側エンドプレート106の孔を介してナット24のネジ孔に螺合している。このような構成のボルト22およびナット24により、燃料電池スタック100の各層が一体に締結されている。
【0022】
また、
図1から
図3に示すように、燃料電池スタック100を構成する各層(各発電単位102、下側ターミナルプレート420、下端プレート189、下側エンドプレート106)のZ軸方向回りの周縁部には、各層を上下方向に貫通する4つの孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、最上部の発電単位102から下側エンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。なお、以下、連通孔108のうち、下側エンドプレート106に形成された孔を、特にエンド貫通孔107という。
【0023】
図1および
図2に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周を構成する1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の付近に位置する1つの連通孔108は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102の後述する空気室166に供給するガス流路である酸化剤ガス供給マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の付近に位置する1つの連通孔108は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へ排出するガス流路である酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。酸化剤ガス供給マニホールド161および酸化剤ガス排出マニホールド162は、各発電単位102の空気極114(後述)との間でガスのやり取りを行うガス流路である。なお、酸化剤ガスOGとしては、例えば空気が使用される。
【0024】
また、
図1および
図3に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周を構成する辺の内、上述した酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する連通孔108に最も近い辺の付近に位置する他の1つの連通孔108は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102の後述する燃料室176に供給するガス流路である燃料ガス供給マニホールド171として機能し、上述した酸化剤ガス供給マニホールド161として機能する連通孔108に最も近い辺の付近に位置する他の1つの連通孔108は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へ排出するガス流路である燃料ガス排出マニホールド172として機能する。燃料ガス供給マニホールド171および燃料ガス排出マニホールド172は、各発電単位102の燃料極116(後述)との間でガスのやり取りを行うガス流路である。なお、燃料ガスFGとしては、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。また、以下では、空気室166と燃料室176とを、まとめて「ガス室」という。
【0025】
図1から
図3に示すように、燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28とフランジ部29とを有している。本体部28には、上下方向に貫通するガス貫通孔26が形成されている。本体部28の一端(上端)は、下側エンドプレート106に形成されたエンド貫通孔107に接続されている。具体的には、本体部28の上端は、エンド貫通孔107内に挿入され、例えば溶接により接合されている。なお、本体部28の上端の外径および内径は、本体部28の他端(下端)の外径および内径より小さくなっている。フランジ部29は、本体部28の下端側から上下方向(Z軸方向)に垂直な面方向(XY平面に平行な方向)に張り出すように設けられている。なお、フランジ部29の上下方向視での形状は、略矩形状であり、4つの角部のそれぞれにはボルト孔29A(
図1参照)が形成されている。各ボルト孔29Aには、燃料電池スタック100を外部装置に接続するためのボルト(図示しない)が挿入される。
【0026】
図2に示すように、酸化剤ガス供給マニホールド161の位置に配置されたガス通路部材27のガス貫通孔26は、酸化剤ガス供給マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に配置されたガス通路部材27のガス貫通孔26は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、
図3に示すように、燃料ガス供給マニホールド171の位置に配置されたガス通路部材27のガス貫通孔26は、燃料ガス供給マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172の位置に配置されたガス通路部材27のガス貫通孔26は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
【0027】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、Z軸方向視での外形が略矩形の平板状の部材であり、例えばステンレス等の導電材料により形成されている。一対のエンドプレート104,106の中央付近には、それぞれ、Z軸方向に貫通する孔32,34が形成されている。Z軸方向視で、一対のエンドプレート104,106のそれぞれに形成された孔32,34の内周線は、後述する各単セル110の少なくとも一部を内包している。各ボルト22およびナット24による締結によって生じるZ軸方向の圧縮力は、主として各発電単位102の周縁部(後述する各単セル110より外周側の部分)に作用する。なお、エンドプレート104,106は、それぞれ、1枚の板状部材をプレス加工(屈曲)して形成されたものである。
【0028】
図2から
図4に示すように、上側エンドプレート104は、平面部310と、凸部320と、を含んでいる。平面部310は、Z軸方向に垂直な面方向(XY平面に平行な方向)に沿った平坦部分である。具体的には、平面部310のZ軸方向視での形状は、全体として、矩形枠状である。なお、上述したボルト孔109を構成する孔は、平面部310におけるZ軸方向回りの周縁部に形成されている。凸部320は、平面部310から上側に突出したリブである。凸部320は、外側凸部322と、内側凸部324と、を有している。外側凸部322は、平面部310の外周部から上側に突出している。外側凸部322は、平面部310の外周部の全周にわたって形成されている。内側凸部324は、平面部310の内周部から上側に突出している。内側凸部324は、平面部310の内周部の全周にわたって形成されている。
【0029】
また、下側エンドプレート106は、平面部510と、凸部520と、を含んでいる。平面部510は、Z軸方向に垂直な面方向(XY平面に平行な方向)に沿った平坦部分である。具体的には、平面部510のZ軸方向視での形状は、全体として、矩形枠状である。なお、上述したボルト孔109を構成する孔は、平面部510におけるZ軸方向回りの周縁部に形成されている。凸部520は、平面部510から下側に突出したリブである。凸部520は、外側凸部522と、内側凸部524と、を有している。外側凸部522は、平面部510の外周部から下側に突出している。外側凸部522は、平面部510の外周部の全周にわたって形成されている。内側凸部524は、平面部510の内周部から下側に突出している。内側凸部524は、平面部510の内周部の全周にわたって形成されている。
【0030】
図2および
図3に示すように、下側エンドプレート106には、補強部材600が固定されている。補強部材600は、平板部分610と、筒部分620と、を有する。平板部分610は、下側エンドプレート106の平面部510に平行な平板状の部分である。平板部分610の上下方向視での形状は、略矩形である。平板部分610は、下側エンドプレート106の平面部510から下方に離間した位置に配置されている。平板部分610の長手方向の一方側の辺は、外側凸部522の内壁面に接触し、例えば溶接により接合されており、平板部分610の長手方向の他方側の辺は、内側凸部524の内壁面に接触し、例えば溶接により接合されている。平板部分610には、ガス通路部材27の本体部28を挿入可能な貫通孔612が形成されている。筒部分620は、平板部分610の貫通孔612に連通する貫通孔622を有する円筒状の部分である。筒部分620は、平板部分610における貫通孔612の周囲部分から下側に突出するように形成されている。平板部分610の貫通孔612および筒部分620の貫通孔622を構成する内壁面がガス通路部材27の本体部28の外周面に接触し、例えば溶接により接合されている。平板部分610と筒部分620とは、一体に形成されている。補強部材600は、耐熱性材料や、下側エンドプレート106やガス通路部材27等と同一材料または熱膨張率が同じ材料により形成されていることが好ましく、例えば金属(フェライト系ステンレス等)により形成されている。
【0031】
(ターミナルプレート410,420の構成)
一対のターミナルプレート410,420は、Z軸方向視での外形が略矩形の平板状の部材であり、例えばステンレス等の導電材料により形成されている。上側ターミナルプレート410の中央付近には、Z軸方向に貫通する孔412が形成されている。Z軸方向視で、上側ターミナルプレート410に形成された孔412の内周線は、後述する各単セル110を内包している。Z軸方向視で、一対のターミナルプレート410,420のそれぞれの一方側(X軸正方向側)の端部は、発電ブロック103から側方に張り出している。本実施形態では、上側ターミナルプレート410の張り出し部分は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側ターミナルプレート420の張り出し部分は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0032】
(上端プレート220の構成)
上端プレート220は、Z軸方向視での外形が略矩形の平板状の部材であり、例えばステンレス等の導電材料により形成されている。上端プレート220は、発電ブロック103の上側に配置されており、発電ブロック103における上端に位置するインターコネクタ190(後述)に電気的に接続されている。本実施形態では、上端プレート220とインターコネクタ190とは、後述の燃料極側集電部材144と同一構造の接続部材を介して電気的に接続されている。
【0033】
(末端セパレータ210の構成)
末端セパレータ210は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の貫通孔211が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。末端セパレータ210における貫通孔211を取り囲む部分(以下、「貫通孔周囲部」という。)は、上端プレート220の周縁部における上側の表面に例えば溶接により接合されている。末端セパレータ210は、上端プレート220と発電ブロック103との間の空間と燃料電池スタック100の外部空間とを区画する。
【0034】
末端セパレータ210は、末端セパレータ210の貫通孔周囲部を含む内側部216と、内側部216より外周側に位置する外側部217と、内側部216と外側部217とを連結する連結部218とを備える。本実施形態では、内側部216および外側部217は、Z軸方向に略直交する方向に延びる略平板状である。また、連結部218は、内側部216と外側部217との両方に対して下側に突出するように湾曲した形状となっている。連結部218における下側(発電ブロック103側)の部分は凸部となっており、連結部218における上側(上側エンドプレート104側)の部分は凹部となっている。このため、連結部218は、Z軸方向における位置が内側部216および外側部217とは異なる部分を含んでいる。
【0035】
(下端プレート189の構成)
下端プレート189は、Z軸方向視での外形が略矩形の平板状の部材であり、例えば絶縁材料により形成されている。下端プレート189の周縁部は、下側ターミナルプレート420と下側エンドプレート106との間に挟み込まれており、これにより、各マニホールド161,162,171,172のシール性と、下側ターミナルプレート420と下側エンドプレート106との絶縁性とが確保されている。
【0036】
(絶縁部200の構成)
絶縁部200は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の貫通孔が形成されたフレーム状の部材であり、例えば絶縁材料により形成されている。絶縁部200は、上側エンドプレート104と末端セパレータ210との間に挟み込まれており、これにより、上側エンドプレート104と末端セパレータ210との絶縁性とが確保されている。
【0037】
(発電単位102の構成)
図5は、
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、
図6は、
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、
図7は、
図4に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
【0038】
図5から
図7に示すように、発電単位102は、燃料電池単セル(以下、「単セル」という。)110と、単セル用セパレータ120と、空気極側フレーム130と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電部材144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ190および一対のIC用セパレータ180とを備えている。単セル用セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、IC用セパレータ180におけるZ軸方向回りの周縁部には、各マニホールド161,162,171,172として機能する各連通孔108を構成する孔と、各ボルト孔109を構成する孔とが形成されている。
【0039】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112のZ軸方向の一方側(上側)に配置された空気極114と、電解質層112のZ軸方向の他方側(下側)に配置された燃料極116と、電解質層112と空気極114との間に配置された反応防止層118とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で単セル110を構成する他の層(電解質層112、空気極114、反応防止層118)を支持する燃料極支持形の単セルである。
【0040】
電解質層112は、Z軸方向視で略矩形の平板形状部材であり、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物を含むように構成されている。すなわち、本実施形態の単セル110は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。空気極114は、Z軸方向視で電解質層112より小さい略矩形の平板形状部材であり、例えばペロブスカイト型酸化物(例えば、LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物))を含むように構成されている。燃料極116は、Z軸方向視で電解質層112と略同じ大きさの略矩形の平板形状部材であり、Ni(ニッケル)とNiOと酸化物イオン伝導性セラミックスとを含有する。例えば、酸化物イオン伝導性セラミックスとして、YSZとScSZとSDCとGDCとの少なくとも1種を用いることができる。反応防止層118は、Z軸方向視で空気極114と略同じ大きさの略矩形の平板形状部材であり、例えばGDCを含むように構成されている。反応防止層118は、空気極114から拡散した元素(例えば、Sr)が電解質層112に含まれる元素(例えば、Zr)と反応して高抵抗な物質(例えば、SrZrO3)が生成されることを抑制する機能を有する。
【0041】
単セル用セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の貫通孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。単セル用セパレータ120における貫通孔121を取り囲む部分(以下、「貫通孔周囲部」という。)は、単セル110(電解質層112)の周縁部における上側の表面に対向している。単セル用セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、単セル110(電解質層112)と接合されている。単セル用セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリーク(クロスリーク)が抑制される。
【0042】
単セル用セパレータ120は、単セル用セパレータ120の貫通孔周囲部を含む内側部126と、内側部126より外周側に位置する外側部127と、内側部126と外側部127とを連結する連結部128とを備える。本実施形態では、内側部126および外側部127は、Z軸方向に略直交する方向に延びる略平板状である。また、連結部128は、内側部126と外側部127との両方に対して下側に突出するように湾曲した形状となっている。連結部128における下側(燃料室176側)の部分は凸部となっており、連結部128における上側(空気室166側)の部分は凹部となっている。このため、連結部128は、Z軸方向における位置が内側部126および外側部127とは異なる部分を含んでいる。
【0043】
単セル用セパレータ120における貫通孔121付近には、ガラスを含むガラスシール部125が配置されている。ガラスシール部125は、接合部124に対して空気室166側に位置しており、単セル用セパレータ120の貫通孔周囲部の表面と、単セル110(本実施形態では電解質層112)の表面との両方に接触するように形成されている。ガラスシール部125により、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリーク(クロスリーク)が効果的に抑制される。
【0044】
インターコネクタ190は、略矩形の平板形状の平板部150と、平板部150から空気極114側に突出した複数の略柱状の空気極側集電部134とを有する導電性の部材であり、金属(例えば、フェライト系ステンレス)により形成されている。本実施形態では、インターコネクタ190の表面(空気室166に面する表面)に、例えばスピネル型酸化物により構成された導電性の被覆層194が形成されている。以下では、被覆層194に覆われたインターコネクタ190を、単にインターコネクタ190という。インターコネクタ190(の各空気極側集電部134)は、例えばスピネル型酸化物により構成された導電性接合材196を介して、単セル110の空気極114に接合されており、これにより単セル110の空気極114に電気的に接続されている。インターコネクタ190は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を抑制する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ190は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ190は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ190と同一部材である。また、燃料電池スタック100は下側ターミナルプレート420および下端プレート189を備えているため、燃料電池スタック100において最も下側に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ190を備えていない(
図2から
図4参照)。
【0045】
IC用セパレータ180は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の貫通孔181が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。IC用セパレータ180における貫通孔181を取り囲む部分(以下、「貫通孔周囲部」という。)は、インターコネクタ190の平板部150の周縁部における上側の表面に例えば溶接により接合されている。ある発電単位102に含まれる一対のIC用セパレータ180のうち、上側のIC用セパレータ180は、該発電単位102の空気室166と、該発電単位102に対して上側に隣り合う他の発電単位102の燃料室176とを区画する。また、ある発電単位102に含まれる一対のIC用セパレータ180のうち、下側のIC用セパレータ180は、該発電単位102の燃料室176と、該発電単位102に対して下側に隣り合う他の発電単位102の空気室166とを区画する。このように、IC用セパレータ180により、発電単位102の周縁部における発電単位102間のガスのリークが抑制される。なお、燃料電池スタック100において最も上側に位置する発電単位102の上側のインターコネクタ190に接合されたIC用セパレータ180は、上側ターミナルプレート410に電気的に接続されている。
【0046】
IC用セパレータ180は、IC用セパレータ180の貫通孔周囲部を含む内側部186と、内側部186より外周側に位置する外側部187と、内側部186と外側部187とを連結する連結部188とを備える。本実施形態では、内側部186および外側部187は、Z軸方向に略直交する方向に延びる略平板状である。また、連結部188は、内側部186と外側部187との両方に対して下側に突出するように湾曲した形状となっている。連結部188における下側(空気室166側)の部分は凸部となっており、連結部188における上側(燃料室176側)の部分は凹部となっている。このため、連結部188は、Z軸方向における位置が内側部186および外側部187とは異なる部分を含んでいる。
【0047】
空気極側フレーム130は、中央付近にZ軸方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、単セル用セパレータ120の周縁部における上側の表面と、上側のIC用セパレータ180の周縁部における下側の表面とに接触しており、両者の間のガスシール性(すなわち、空気室166のガスシール性)を確保するシール部材として機能する。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のIC用セパレータ180間(すなわち、一対のインターコネクタ190間)が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス供給マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0048】
燃料極側フレーム140は、中央付近にZ軸方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、単セル用セパレータ120の周縁部における下側の表面と、下側のIC用セパレータ180の周縁部における上側の表面とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス供給マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0049】
図5から
図7に示すように、燃料極側集電部材144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電部材144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116の下側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ190(の平板部150)の上側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下側に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ190を備えていないため、該発電単位102における燃料極側集電部材144のインターコネクタ対向部146は、下側ターミナルプレート420に接触している。燃料極側集電部材144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ190(または下側ターミナルプレート420)とを電気的に接続する。なお、燃料極側集電部材144の電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電部材144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電部材144を介した燃料極116とインターコネクタ190(または下側ターミナルプレート420)との電気的接続が良好に維持される。燃料極側集電部材144は、例えば、平板状の材料(例えば、厚さ10~200μmのニッケル箔)に複数の矩形の切り込みを入れ、該材料の上に複数の孔が形成されたシート状の燃料極側集電部材144を配置した状態で、複数の矩形部分を曲げ起こしてスペーサー149を挟むように加工することにより作製される。曲げ起こされた各矩形部分が電極対向部145となり、曲げ起こされた部分以外の穴が開いた状態の平板部分がインターコネクタ対向部146となり、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ部分が連接部147となる。
A-2.燃料電池スタック100の動作:
図2および
図5に示すように、酸化剤ガス供給マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27のガス貫通孔26を介して酸化剤ガス供給マニホールド161に供給され、酸化剤ガス供給マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、
図3および
図6に示すように、燃料ガス供給マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27のガス貫通孔26を介して燃料ガス供給マニホールド171に供給され、燃料ガス供給マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
【0050】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は上側のインターコネクタ190に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電部材144を介して下側のインターコネクタ190(または下側ターミナルプレート420)に電気的に接続されている。すなわち、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。また、最も上側に位置する発電単位102の上側のインターコネクタ190およびIC用セパレータ180は、上側ターミナルプレート410に電気的に接続されており、最も下側に位置する発電単位102の燃料極側集電部材144には、下側ターミナルプレート420が電気的に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するターミナルプレート410,420から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば600℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0051】
図2および
図5に示すように、各発電単位102の空気室166から酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出された酸化剤オフガスOOGは、酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28のガス貫通孔26を経て、当該本体部28に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、
図3および
図6に示すように、各発電単位102の燃料室176から燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出された燃料オフガスFOGは、燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28のガス貫通孔26を経て、当該本体部28に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0052】
なお、本実施形態の燃料電池スタック100は、各発電単位102において、空気室166における酸化剤ガスOGの主たる流れ方向(X軸負方向)と燃料室176における燃料ガスFGの主たる流れ方向(X軸正方向)とが略反対方向(互いに対向する方向)である、カウンターフロータイプのSOFCである。
【0053】
A-3.燃料極116の詳細構成:
【0054】
燃料極116は、多孔質な層である。燃料極116の気孔率は、電解質層112の気孔率よりも高い。なお、燃料極116を気孔率は、例えば5000倍に拡大したSEM画像を用いてインターセプト法により気孔率を測定することにより、特定することができる。
【0055】
燃料極116は、基板層116Bと電解質層112との間に位置する機能層116Aと、機能層116Aの下方に位置し、燃料極116における下方側の表面を構成する基板層116Bとを備える。機能層116Aの気孔率は、基板層116Bの気孔率よりも低い。
【0056】
上述したように、燃料極116は、NiとNiOと酸化物イオン伝導性セラミックスとを含有する。機能層116Aと基板層116Bの少なくとも一方が、上記のNiとNiOと酸化物イオン伝導性セラミックスとを含有する。
【0057】
機能層116Aは、主として、電解質層112から供給される酸化物イオンと燃料ガスFGに含まれる水素等とを反応させて、電子と水蒸気とを生成する機能を発揮する層である。また、基板層116Bは、主として、機能層116Aと電解質層112と空気極114とを支持する機能を発揮し、燃料ガスFGに含まれる水素等を機能層116Aに供給する層である。
【0058】
燃料極116における酸化物イオン伝導性セラミックスの含有量(重量%)は、20%以上かつ70%以下である。本実施形態では、機能層116Aと基板層116Bとのそれぞれにおける酸化物イオン伝導性セラミックスの含有量(重量%)が、20%以上かつ70%以下である。なお、上述したように、燃料極116は、NiとNiOと酸化物イオン伝導性セラミックスと気孔とで構成されている。酸化物イオン伝導性セラミックスの含有量(重量%)は、燃料極116から気孔を除いた、NiとNiOと酸化物イオン伝導性セラミックスとの合計を100重量%としたときに求められる値である。
【0059】
燃料極116の気孔率は、燃料ガスFGのガス拡散性(ひいては、単セル110の発電性能)を考慮すると高いほど好ましいが、燃料極116の強度を考慮すると低いほど好ましい。燃料極116の気孔率は、例えば、10%以上かつ70%以下(機能層116Aにおいては10%以上かつ50%以下、基板層116Bにおいては30%以上かつ70%以下)である。
【0060】
燃料極116の厚さは、燃料極116の強度を考慮すると厚いほど好ましい。燃料極116の厚さは、例えば、5μm以上かつ5mm以下(機能層116Aは1μm以上かつ100μm以下、基板層116Bは4μm以上かつ4.9mm以下)である。
【0061】
燃料極116は、下記の第1特定条件を満たしている。
(第1特定条件)
燃料極116について紫外可視分光分析をした場合に、600nmから1000nmまでの波長範囲に反射率の最高値Maxがあり、かつ、当該最高値Maxが10%以上かつ80%以下(
図8の例では、65%程度)である。なお、この「紫外可視分光分析」の詳細については後述する。
【0062】
燃料極116は、更に、下記の第2特定条件を満たしている。
(第2特定条件)
上記最高値Maxは15%以上かつ50%以下である。
【0063】
上記紫外可視分光分析について説明する。
図8は、紫外可視分光法により燃料極116の反射率を測定した結果を示す図である。紫外可視分光分析は、以下のように行うものである(後述する「第3特定条件」における「紫外可視分光分析」も同様)。
(紫外可視分光分析)
紫外可視分光法(UV-Vis:Ultraviolet Visible Absorption Spectroscopy)により、波長ごとに分けた光を測定対象物(燃料極116)に向かって照射したときの反射率(%)を測定する。具体的には、
図8に示すように、例えば、190nm以上、1090nm以下の波長範囲において反射率を測定する。その測定結果において、600nmから1000nmまでの波長範囲における反射率の最高値を上記最高値Maxとする。当該最高値Maxに基づいて、上記の第1特定条件や第2特定条件(および、後述する第3特定条件)の成否を判断する。
【0064】
なお、本実施形態(
図8の測定)では、一例として、光を、燃料極116の下面(換言すれば、燃料極116のうち、電解質層112とは反対側の表面)SF(
図5,6参照)に向かって照射する方法を採用した。なお、紫外可視分光法は、本実施形態の燃料極116のように気孔が形成されている測定対象物(燃料極116)の表面に向かって光を照射したときに、測定対象物の最表面の反射率だけでなく、最表面から内側にくぼんだ気孔の内面(例えば、最表面から深さ1~5μm程度までの領域)の反射率をも観測できるという利点がある。
【0065】
燃料極116は、更に、下記の第3特定条件を満たしている。
(第3特定条件)
燃料極116の10箇所(P1,P2,・・・,P10)(図示せず)について紫外可視分光分析をした場合に、10箇所(P1,P2,・・・,P10)の各箇所全てにおいて600nmから1000nmまでの波長範囲に反射率の最高値Max1,・・・,Max10があり、かつ、10箇所(P1,P2,・・・,P10)の各箇所全ての最高値Max1,・・・,Max10のうちの最高値を特定最高値SMaxとし、10箇所(P1,P2,・・・,P10)の各箇所全ての最高値のうちの最低値を特定最低値SMinとしたときに、数式:特定最高値SMax/特定最低値SMin≦5を満たす。
【0066】
A-4.単セル110の製造方法:
本実施形態における単セル110の製造方法の一例は、次の通りである。
【0067】
(電解質層112用グリーンシートの作製)
YSZ粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOP(フタル酸ジオクチル)と、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合してスラリーを調整する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さ(例えば約10μm)の電解質層112用グリーンシートを作製する。
【0068】
(燃料極116の基板層116B用グリーンシートの作製)
NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末に対して、造孔材である有機ビーズと、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合してスラリーを調製する。有機ビーズは、例えば、ポリメタクリル酸メチルやポリスチレンなどの高分子により形成された球状粒子である。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さ(例えば約200μm)の基板層116B用グリーンシートを作製する。基板層116B用グリーンシートを作製する際のNiO粉末とYSZ粉末との混合比率は、その性能を満足する限りにおいて適宜設定されればよい。スラリーを調整する際の混合粉末は、例えば、混合粉末100重量部に対して、NiO粉末を50重量部含み、YSZ粉末を50重量部含む。また、混合粉末に加えられる有機ビーズの量は、例えば、混合粉末100重量部に対して15重量部である。なお、上述した第1特定条件、第2特定条件、第3特定条件を満たす構成を実現するための方法について、後述の「燃料極116の各特性の調整方法」にて説明する。
【0069】
(燃料極116の機能層116A用グリーンシートの作製)
NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合してスラリーを調製する。なお、上述した基板層116B用グリーンシートの作製方法と同様に、スラリーの調整の際に、造孔材としての有機ビーズを加えてもよい。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さ(例えば約20μm)の機能層116A用グリーンシートを作製する。なお、機能層116A用グリーンシートを作製する際のNiO粉末とYSZ粉末との混合比率は、その性能を満足する限りにおいて適宜設定されればよい。スラリーを調整する際の混合粉末は、例えば、混合粉末100重量部に対して、NiO粉末を50重量部含み、YSZ粉末を50重量部含む。また、本実施形態では、混合粉末に有機ビーズは添加していない。
【0070】
(電解質層112と燃料極116との積層体の作製)
基板層116B用グリーンシートと機能層116A用グリーンシートと電解質層112用グリーンシートとを貼り付けることにより、グリーンシート積層体を作製する。この際、機能層116A用グリーンシートは、電解質層112用グリーンシートと基板層116B用グリーンシートとの間に位置している。以上のようにグリーンシート積層体を作製することにより、グリーンシート積層体を準備する。
【0071】
次に、グリーンシート積層体を所定の温度(例えば約280℃)で脱脂する。さらに、脱脂後のグリーンシートの積層体を所定の温度(例えば約1350℃)で所定の時間(例えば約1時間)焼成する。これにより、電解質層112用グリーンシートにより形成される電解質層112と、基板層116B用グリーンシートにより形成される基板層116Bと、機能層116A用グリーンシートにより形成される機能層116Aと、を含む焼結体が作製される。すなわち、電解質層112と燃料極116との積層体が作製される。
【0072】
(反応防止層118の形成)
GDC粉末に、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを加えて混合し、粘度を調整して反応防止層用ペーストを調製する。調整された反応防止層用ペーストを、上述した電解質層112と燃料極116との積層体における電解質層112側の表面に例えばスクリーン印刷によって塗布し、例えば1200℃にて焼成を行う。これにより、反応防止層118が形成される。
【0073】
(空気極114の形成)
LSCF粉末と、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを混合し、粘度を調整して、空気極用ペーストを調製する。調整された空気極用ペーストを、上記積層体における反応防止層118の表面に、例えばスクリーン印刷によって塗布して乾燥させ、空気極用ペーストが塗布された積層体を所定の焼成温度(例えば約1100℃)で焼成する。これにより空気極114が形成され、燃料極116と電解質層112と空気極114とを備える単セル110が作製される。
【0074】
A-5.燃料極116の各特性の調整方法:
燃料極116の各特性は、例えば以下のように調整することができる。
【0075】
(600nmから1000nmまでの波長範囲における反射率の最高値Max)
燃料極116の600nmから1000nmまでの波長範囲における反射率の最高値Maxは、上述した製造方法で得られた単セル110を還元雰囲気で焼成する際に、焼成温度等を制御することにより調整することができる。基本的には、当該焼成温度を高くするほど、上記最高値Maxは低くなる。また、上述した製造方法において、NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末にNi粉末を添加することにより、NiとNiO等の比率を調整するようにしてもよい。
【0076】
(気孔率)
燃料極116の気孔率は、上述した製造方法において各グリーンシート(機能層116A用グリーンシート、基板層116B用グリーンシート)を作製するためのスラリーを調製する際に、造孔材の添加量を制御することにより調整することができる。基本的には、造孔材の添加量を多くするほど、気孔率は高くなる。
【0077】
A-6.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の燃料電池スタック100が備える単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで互いに対向する空気極114および燃料極116と、を含む。燃料極116は、NiとNiOと酸化物イオン伝導性セラミックスとを含有する。燃料極116について紫外可視分光分析をした場合に、600nmから1000nmまでの波長範囲に反射率の最高値Maxがあり、かつ、当該最高値Maxが10%以上かつ80%以下である。
【0078】
本実施形態の単セル110によれば、上記最高値Maxが10%以上である(そのため、NiOと酸化物イオン伝導性セラミックスとがある程度多い)ことにより燃料極116の強度(ひいては単セル110の強度)を確保できると共に、上記最高値Maxが80%以下である(そのため、Niがある程度多い)ことにより燃料極116の導電性(ひいては単セル110の発電性能)を向上させることができる。
【0079】
また、本実施形態の単セル110では、上記最高値Maxが15%以上かつ50%以下である。そのため、本実施形態の単セル110によれば、上記最高値Maxが50%以下であることにより、燃料極116の導電性(ひいては単セル110の発電性能)を特に効果的に向上させることができる。
【0080】
また、本実施形態の単セル110では、燃料極116における酸化物イオン伝導性セラミックスの含有量(重量%)は、20%以上かつ70%以下である。そのため、本実施形態の単セル110によれば、燃料極116の強度(ひいては単セル110の強度)を特に確保できると共に、上記含有量(重量%)が70%以下であることにより燃料極116の導電性(ひいては単セル110の発電性能)を特に向上させることができる。
【0081】
また、本実施形態の単セル110では、燃料極116の10箇所(P1,P2,・・・,P10)について紫外可視分光分析をした場合に、10箇所(P1,P2,・・・,P10)の各箇所全てにおいて600nmから1000nmまでの波長範囲に反射率の最高値Max1,・・・,Max10があり、かつ、10箇所(P1,P2,・・・,P10)の各箇所全ての最高値Max1,・・・,Max10のうちの最高値を特定最高値SMaxとし、10箇所(P1,P2,・・・,P10)の各箇所全ての最高値のうちの最低値を特定最低値SMinとしたときに、数式:特定最高値SMax/特定最低値SMin≦5を満たす。
【0082】
仮に燃料極116(の表面SF付近)の部位ごとで反射率の最高値(Max1,・・・,Max10)のばらつきが大きい(例えば、特定最高値SMax/特定最低値SMin>5)構成においては、単セル110の発電時において燃料極116(の表面SF付近)の温度のばらつきが大きくなりやすい。単セル110の発電時において燃料極116(の表面SF付近)の温度のばらつきが大きいと、単セル110の発電性能が低下しやすく、また、燃料極116と他の部材(電解質層112等)との接合性が確保されにくい。これに対し、本実施形態の単セル110においては、上記数式:特定最高値SMax/特定最低値SMin≦5を満たすため、燃料極116(の表面SF付近)における、ある程度広範囲において、上記最高値Max1,・・・,Max10のばらつきが小さい。そのため、単セル110による発電時における燃料極116(の表面SF付近)の温度のばらつきが小さくなる。そのため、本実施形態の単セル110によれば、単セル110の発電性能を向上させることができ、また、燃料極116と他の部材との接合性を向上させることができる。
【0083】
A-7.性能評価:
次に、本実施形態の性能評価について説明する。各特性が互いに異なる複数の単セル110のサンプルを作製し、当該サンプル(「単セル110の発電性能についての評価」については後述するボタンセル)を用いて性能評価を行った。
図9は、性能評価結果を示す説明図である。
【0084】
図9に示すように、本性能評価には、単セル110の14個のサンプル(サンプルSP1,・・・,SP14)が用いられた。各サンプルは、燃料極116の組成(NiとNiOとYSZとの含有量(重量%))と、燃料極116の反射率の最高値Max(%)とが互いに異なっている。各サンプルの燃料極116の組成と燃料極116の反射率の最高値Maxとは、
図9に示す通りである。
図9では、燃料極116の反射率の評価として、燃料極116の反射率の最高値が15%以上かつ50%以下であったサンプルを「特に良い(A)」と評価し、同最高値が10%以上かつ15%未満、または、50%より高くかつ80以下であったサンプルを「良い(B)」と評価し、同最高値が10%未満または80%より高かったサンプルを「不合格(C)」と評価した。なお、いずれのサンプルについても、上述した製造方法で得られた単セル110の還元焼成を、100%水素雰囲気下において1時間という条件で行った。また、当該還元焼成における焼成温度は、サンプルSP1については450℃、サンプルSP2,SP5,SP9については400℃、サンプルSP3,SP10,SP13については500℃、サンプルSP4,SP8,SP12については、800℃、サンプルSP6については550℃、サンプルSP7,SP11については600℃、サンプルSP14については700℃とした。
【0085】
(単セル110の発電性能(初期セル特性)についての評価)
本評価では、単セル110の替わりとして、単セル110と基本的な構成(材質等)が同じである14個のボタンセルを用いた。各サンプル(ボタンセル)は、上下方向視で25mmの辺を有する四角形をなす燃料極116と電解質層112とを備える積層体の上に、上下方向視で直径13mmの円形をなす空気極114が形成されたものである。下記において、便宜上、単セル110のサンプルと燃料極116の反射率の最高値Maxおよび電解質層112の材料が同一であるボタンセルのサンプルを同じ符号を付して呼ぶ(例えばサンプルSP1)。
【0086】
各サンプル(ボタンセル)について、約700(℃)で空気極114に酸化剤ガスOGを供給し、燃料極116に燃料ガスFG(水素)を供給し、電流密度が0.55A/cm2のときの単セル110の出力電圧を測定し、その測定値が0.7V以上であったサンプルを「特に良い(A)」と評価し、その測定値が0.7V未満であり、かつ、0.2V以上であったサンプルを「良い(B)」と評価し、その測定値が0.2V未満であったサンプルを「不合格(C)」と評価した。
【0087】
図9に示すように、燃料極116の反射率の最高値Maxが10%以上かつ80%以下であるサンプルSP2~SP13では、測定値が0.2V以上であり、「良い(B)」以上との評価であった。一方、燃料極116の反射率の最高値Maxが80%より高いサンプルSP1や、同最高値Maxが10%未満であるサンプルSP14では、測定値が0.2V未満であり、「不合格(C)」との評価であった。この結果から、燃料極116の反射率の最高値Maxが10%以上かつ80%以下である構成においては、燃料極116の導電性(ひいては単セル110の初期セル特性)が向上することが確認された。
【0088】
また、燃料極116の反射率の最高値Maxが15%以上かつ50%以下であるサンプルSP4,SP6~SP8,SP11,SP12では、測定値が0.7V以上であり、「特に良い(A)」との評価であった。この結果から、燃料極116の反射率の最高値Maxが15%以上かつ50%以下である構成においては、燃料極116の導電性(ひいては単セル110の初期セル特性)が更に向上することが確認された。
【0089】
(燃料極116の剥離強度についての評価)
各サンプル(単セル110)SP1,・・・,SP14について、850℃、1000時間の継続運転による耐久試験後に剥離強度試験を行った。剥離強度試験では、該耐久試験後の各サンプルについて、電解質層112と燃料極116との界面を含む断面を観察し、界面付近にクラックが無かったサンプルを「特に良い(A)」と評価し、界面付近にクラックがあったが、単セル110の発電が可能であったサンプルを「良い(B)」と評価し、界面付近にクラックがあり、かつ、単セル110の発電が不可能であったサンプルを「不合格(C)」と評価した。
【0090】
図9に示すように、燃料極116におけるYSZの含有量が20%以上かつ70%以下であるサンプルSP2~SP13では、「良い(B)」以上との評価であった。一方、燃料極116におけるYSZの含有量が70%より高いサンプルSP1や、同含有量が20%未満であるサンプルSP14では、「不合格(C)」との評価であった。この結果から、燃料極116におけるYSZの含有量が20%以上かつ70%以下である構成においては、燃料極116の剥離強度が向上することが確認された。
【0091】
また、サンプルSP2~SP13のうち、燃料極116におけるNiの含有量がNiOの含有量よりも相対的に多いサンプルSP4,SP6~SP8,SP11,SP12では、「特に良い(A)」との評価であった。燃料極116においてNiOからNiが生成される際に燃料極116が収縮して電解質層112と燃料極116との界面付近にクラックが発生すると考えられる。サンプルSP4,SP6~SP8,SP11,SP12では、燃料極116におけるNiOの含有量が相対的に少ないため、特にクラックの発生が抑制されたと考えられる。
【0092】
(燃料極116の強度(破壊強度)についての評価)
各サンプル(単セル110)SP1,・・・,SP14について、上記耐久試験後にスモールパンチ試験を行うことにより、破壊時の荷重を測定し、その測定値が150MPa以上であったサンプルを「特に良い(A)」と評価し、その測定値が150MPa未満であり、かつ、100MPa以上であったサンプルを「良い(B)」と評価し、その測定値が100MPa未満であったサンプルを「不合格(C)」と評価した。
【0093】
図9に示すように、燃料極116の反射率の最高値Maxが10%以上であるサンプルSP1~SP14では、測定値が100MPa以上であり、「良い(B)」以上との評価であった。一方、燃料極116の反射率の最高値Maxが10%未満であるサンプルSP14では、測定値が100MPa未満であり、「不合格(C)」との評価であった。この結果から、燃料極116の反射率の最高値Maxが10%以上である構成においては、燃料極116の破壊強度が向上することが確認された。
【0094】
また、以下のように解釈することもできる。燃料極116におけるYSZ(酸化物イオン伝導性セラミックス)の含有量が20%以上であるサンプルSP1~SP13では、測定値が100MPa以上であり、「良い(B)」以上との評価であった。一方、燃料極116におけるYSZの含有量が20%未満であるサンプルSP14では、測定値が100MPa未満であり、「不合格(C)」との評価であった。この結果から、燃料極116におけるYSZの含有量が20%以上である構成においては、燃料極116の破壊強度が向上することが確認された。
【0095】
また、サンプルSP1~SP13のうち、燃料極116におけるYSZの含有量が40%以上であるサンプルSP4,SP6~SP8,SP11,SP12では、「特に良い(A)」との評価であった。燃料極116の骨格を形成するYSZの含有量が多いほど、燃料極116の強度が高くなるからであると考えられる。
【0096】
(総合評価)
総合評価としては、単セル110の発電性能と剥離強度と破壊強度との3つの評価において、「特に良い(A)」が3つであれば「最優良(AA)」と評価し、「不合格(C)」が無く、かつ、「特に良い(A)」が2つであれば「優良(A)」と評価し、「不合格(C)」が無く、かつ、「特に良い(A)」が無い、あるいは、1つあれば「良(B)と評価し、「不合格(C)」が1つ以上であれば「不合格(C)」と評価した。
【0097】
図9に示すように、燃料極116の反射率の最高値Maxが15%以上かつ50%以下であり、かつ、燃料極116におけるYSZの含有量が40%以上であったサンプルSP4,SP6~SP8では、「最優良(AA)」と評価した。燃料極116の反射率の最高値Maxが15%以上かつ50%以下であり、かつ、燃料極116におけるYSZの含有量が40%未満かつ30%以上であったサンプルSP11,SP12では、「優良(A)」と評価した。燃料極116の反射率の最高値が10%以上かつ15%未満、または、50%より高くかつ80以下であったサンプルSP2,SP3,SP5,SP9,SP10,SP13では、「良(B)」と評価した。
【0098】
B.変形例:
本明細書に開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0099】
上記実施形態における燃料電池スタック100や発電単位102の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【0100】
本明細書に開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0101】
上記実施形態における燃料電池スタック100や発電単位102の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【0102】
上記実施形態では、上記紫外可視分光分析において、光を、燃料極116の下面(換言すれば、燃料極116のうち、電解質層112とは反対側の表面)SF(
図5,6参照)に向かって照射する方法を採用しているが、燃料極116の上記表面SF以外の表面に光を照射するとしてもよい。また、燃料極116を分断した上で、その表面に光を照射するとしてもよい。
【0103】
上記実施形態では、第1特定条件、第2特定条件、第3特定条件の全てを満たしているが、これらの条件のうち、第1特定条件のみを満たすとしてもよいし、第1特定条件と他の何れかの条件のみを満たすとしてもよい。
【0104】
上記実施形態では、一対のエンドプレート104,106に孔32,34が形成されているが、一対のエンドプレート104,106の少なくとも一方について該孔32,34が形成されていなくてもよい。また、上記実施形態では、燃料電池スタック100が一対のターミナルプレート410,420を備えているが、他の部材(例えば、一対のエンドプレート104,106)をターミナルプレートとしても機能させ、専用部材としてのターミナルプレート410,420を省略してもよい。
【0105】
上記実施形態では、単セル用セパレータ120が、内側部126と外側部127との両方に対して下側に突出するように湾曲した形状の連結部128を有しているが、連結部128の形状は他の形状であってもよい。また、単セル用セパレータ120が連結部128を有さなくてもよい。IC用セパレータ180における連結部188についても同様である。
【0106】
上記実施形態では、単セル用セパレータ120における貫通孔121付近にガラスシール部125が配置されているが、ガラスシール部125は省略されてもよい。
【0107】
上記実施形態では、インターコネクタ190は導電性の被覆層194を含んでいるが、インターコネクタ190が該被覆層194を含んでいなくてもよい。また、上記実施形態では、単セル110が反応防止層118を有しているが、単セル110が反応防止層118を有さないとしてもよい。
【0108】
上記実施形態では、単セル110は燃料極支持形の単セルであるが、電解質支持形や金属支持形等の他のタイプの単セルであってもよい。また、上記実施形態では、燃料電池スタック100がカウンターフロータイプの燃料電池であるが、燃料電池スタック100がコフロータイプといった他のタイプの燃料電池であってもよい。
【0109】
上記実施形態において、燃料電池スタック100に含まれる単セル110の個数(発電単位102の個数)は、あくまで一例であり、単セル110の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。また、上記実施形態における各部材を構成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により構成されていてもよい。
【0110】
上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本明細書に開示される技術は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解セル単位や、電解セル単位を複数備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セル単位および電解セルスタックの構成は、例えば特開2016-81813号に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における発電単位102および燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、マニホールドを介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、マニホールドを介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解セルスタックにおいても、上記実施形態と同様の構成を採用すると、ガス流路を流れるガスに混入した異物に起因する電解セルスタックの性能低下や電解セルスタックを含むシステムの不具合の発生を抑制することができる。
【0111】
上記実施形態では、いわゆる平板型の燃料電池スタックを例に用いて説明したが、本明細書に開示される技術は、以下に説明するように、平板型に限らず、他のタイプ(いわゆる円筒平板型や円筒形)の燃料電池スタックにも同様に適用可能である。
【0112】
上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本明細書に開示される技術は、固体高分子形燃料電池(PEFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0113】
22:ボルト 24:ナット 26:(ガス通路部材の)ガス貫通孔 27:ガス通路部材 28:(ガス通路部材の)本体部 29:(ガス通路部材の)フランジ部 29A:ボルト孔 100:燃料電池スタック 102:発電単位 103:発電ブロック 104:上側エンドプレート 106:下側エンドプレート 107:エンド貫通孔 108:連通孔 109:ボルト孔 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 116A:(燃料極の)機能層 116B:(燃料極の)基板層 118:反応防止層 120:単セル用セパレータ 121:(単セル用セパレータの)貫通孔 124:(単セル用セパレータの)接合部 125:ガラスシール部 126:(単セル用セパレータの)内側部 127:(単セル用セパレータの)外側部 128:(単セル用セパレータの)連結部 130:空気極側フレーム 131:(空気極側フレームの)孔 132:酸化剤ガス供給連通孔 133:酸化剤ガス排出連通孔 134:空気極側集電部 140:燃料極側フレーム 141:(燃料極側フレームの)孔 142:燃料ガス供給連通孔 143:燃料ガス排出連通孔 144:燃料極側集電部材 145:(燃料極側集電部材の)電極対向部 146:(燃料極側集電部材の)インターコネクタ対向部 147:(燃料極側集電部材の)連接部 149:(燃料極側集電部材の)スペーサー 150:(燃料極側集電部材の)平板部 161:酸化剤ガス供給マニホールド 162:酸化剤ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料ガス供給マニホールド 172:燃料ガス排出マニホールド 176:燃料室 180:IC用セパレータ 181:(IC用セパレータの)貫通孔 186:(IC用セパレータの)内側部 187:(IC用セパレータの)外側部 188:(IC用セパレータの)連結部 189:下端プレート 190:インターコネクタ 194:被覆層 196:導電性接合材 200:絶縁部 210:末端セパレータ 211:(末端セパレータの)貫通孔 216:(末端セパレータの)内側部 217:(末端セパレータの)外側部 218:(末端セパレータの)連結部 220:上端プレート 310:(上側エンドプレート104の)平面部 320:(上側エンドプレート104の)凸部 322:(上側エンドプレート104の)外側凸部 324:(上側エンドプレート104の)内側凸部 410:上側ターミナルプレート 412:(上側ターミナルプレートの)孔 420:下側ターミナルプレート 510:(下側ターミナルプレートの)平面部 520:(下側ターミナルプレートの)凸部 522:(下側ターミナルプレートの)外側凸部 524:(下側ターミナルプレートの)内側凸部 600:補強部材 610:(補強部材の)平板部分 612:(補強部材の)貫通孔 620:(補強部材の)筒部分 622:(補強部材の)貫通孔 FG:燃料ガス FOG:燃料オフガス OG:酸化剤ガス OOG:酸化剤オフガス SF:(燃料極116の)表面