(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058292
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】飛行スピーカ、出力位置特定方法および出力位置特定プログラム
(51)【国際特許分類】
H04R 1/02 20060101AFI20240418BHJP
B64C 13/18 20060101ALI20240418BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20240418BHJP
B64C 39/00 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
H04R1/02 103Z
B64C13/18 Z
B64C39/02
B64C39/00 B
H04R1/02 102Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165562
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000116068
【氏名又は名称】ローランド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】村井 崇浩
(72)【発明者】
【氏名】蔦木 圭悟
【テーマコード(参考)】
5D017
【Fターム(参考)】
5D017AE27
(57)【要約】
【課題】音を出力する出力位置を適応的に特定できる飛行スピーカ、出力位置特定方法および出力位置特定プログラムを提供すること。
【解決手段】飛行スピーカ1は、まず、コンサートホールP1内に配置された集音マイクMの位置を結ぶ直線状の第1経路R1を飛行しながら検査音を出力し、集音マイクMで集音された受信音の音量が期待音量となる最適音量位置を特定する。特定された最適音量位置と集音マイクMの位置との距離を半径とする円弧状の第2経路R2を飛行しながら、検査音を出力し、集音マイクMからの受信音の音波形が期待音波形となる出力位置を特定する。出力位置の特定において、飛行スピーカ1を配置するコンサートホールP1の形状や壁や天井の位置、客席の位置等が反映されたモデルや地図を用意する必要がない。これにより、出力位置を、飛行スピーカ1が配置される空間に応じて適応的に特定できる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行手段と、
音を出力する音出力手段と、
前記飛行手段による所定の飛行経路の飛行を行いながら、前記音出力手段から検査音を出力する探索飛行を行う探索飛行手段と、
前記探索飛行手段による探索飛行において出力された検査音を所定位置に配置された入力手段で観測した際の音情報が、所定条件を満たすと判定された場合に、当該判定に対応する前記検査音が出力された位置に基づいて、前記音出力手段から音を出力する位置である出力位置を特定する特定手段とを備えていることを特徴とする飛行スピーカ。
【請求項2】
前記音情報には、音量が含まれ、
前記探索飛行手段は、飛行経路である第1経路の飛行を行いながら、前記音出力手段から検査音を出力する探索飛行である音量探索飛行を行う音量探索飛行手段を備え、
前記特定手段は、
前記音量探索飛行手段による音量探索飛行において入力手段で観測した際の音量が、所定条件を満たすと判定された場合に、当該判定に対応する前記検査音が出力された位置である最適音量位置を特定する最適音量位置特定手段を備え、前記最適音量位置特定手段で特定された最適音量位置に基づいて、出力位置を特定するものであることを特徴とする請求項1記載の飛行スピーカ。
【請求項3】
前記音情報には、音質が含まれ、
前記探索飛行手段は、飛行経路である第2経路の飛行を行いながら、前記音出力手段から検査音を出力する探索飛行である音質探索飛行を行う音質探索飛行手段を備え、
前記特定手段は、
前記音質探索飛行手段による音質探索飛行において入力手段で観測した際の音質が、所定条件を満たすと判定された場合に、当該判定に対応する前記検査音が出力された位置である最適音質位置を特定する最適音質位置特定手段を備え、前記最適音質位置特定手段で特定された最適音質位置に基づいて、出力位置を特定するものであることを特徴とする請求項1記載の飛行スピーカ。
【請求項4】
前記音情報には、音量および音質が含まれ、
前記探索飛行手段は、前記最適音量位置特定手段で特定された最適音量位置に基づく飛行経路である第2経路の飛行を行いながら、前記音出力手段から検査音を出力する探索飛行である音質探索飛行を行う音質探索飛行手段を備え、
前記特定手段は、
前記音質探索飛行手段による音質探索飛行において入力手段で観測した際の音質が、所定条件を満たすと判定された場合に、当該判定に対応する前記検査音が出力された位置である最適音質位置を特定する最適音質位置特定手段を備え、前記最適音質位置特定手段で特定された最適音質位置に基づいて、出力位置を特定するものであることを特徴とする請求項2記載の飛行スピーカ。
【請求項5】
前記飛行手段による飛行を行いながら、前記音出力手段から検査音を出力する探索飛行を行う予備探索飛行手段と、
前記予備探索飛行手段による飛行において出力された検査音を前記入力手段で観測した際の音量に基づいて前記入力手段の位置である入力位置を推定する位置推定手段とを備え、
前記第1経路は、前記飛行スピーカの現在位置を前記位置推定手段で推定された入力位置に近づける、又は、前記入力位置から遠ざける飛行経路であることを特徴とする請求項2又は4に記載の飛行スピーカ。
【請求項6】
前記第1経路は、前記飛行スピーカの現在位置と前記位置推定手段で推定された入力位置とを結ぶ直線状に形成されることを特徴とする請求項5記載の飛行スピーカ。
【請求項7】
前記飛行手段による飛行を行いながら、前記音出力手段から検査音を出力する探索飛行を行う予備探索飛行手段と、
前記予備探索飛行手段による飛行において出力された検査音を前記入力手段で観測した際の音量に基づいて前記入力手段の位置である入力位置を推定する位置推定手段とを備え、
前記第2経路は、前記最適音量位置特定手段で特定された最適音量位置と前記位置推定手段で推定された入力位置との距離に基づく飛行経路であることを特徴とする請求項4記載の飛行スピーカ。
【請求項8】
前記第2経路は、前記位置推定手段で推定された入力位置を中心とし、前記最適音量位置特定手段で特定された最適音量位置と前記位置推定手段で推定された入力位置との間の距離を半径とした円弧状に形成されることを特徴とする請求項7記載の飛行スピーカ。
【請求項9】
前記音質探索飛行手段による音質探索飛行において、前記入力手段で観測された音量が所定条件を満たさない場合に、再び前記音量探索飛行手段による音量探索飛行を行うことを特徴とする請求項4、7又は8に記載の飛行スピーカ。
【請求項10】
前記特定手段は、前記探索飛行手段による探索飛行を開始してから所定期間内に、前記入力手段で観測された音情報が所定条件を満たさなかった場合は、それまでの前記探索飛行において最も所定条件に近似した位置に基づいて、前記出力位置を特定するものである請求項1記載の飛行スピーカ。
【請求項11】
前記特定手段は、前記探索飛行手段による探索飛行を開始してから所定期間内に、前記入力手段で観測された音情報が所定条件を満たさなかった場合は、その時点での前記飛行スピーカの位置に基づいて、前記出力位置を特定するものであることを特徴とする請求項1記載の飛行スピーカ。
【請求項12】
前記特定手段で特定された出力位置において、前記音出力手段で出力された検査音を前記入力手段で観測した際の音情報が前記所定条件を満たすように、前記音出力手段において音を出力する設定値を調整する調整手段を備えていることを特徴とする請求項10又は11に記載の飛行スピーカ。
【請求項13】
障害物を検出する障害物検出手段を備え、
前記探索飛行手段による探索飛行において、前記障害物検出手段で飛行方向に障害物を検出した場合は、飛行方向を反転させる反転手段を備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の飛行スピーカ。
【請求項14】
前記音出力手段から出力される音は、前記飛行スピーカと共に配置される電子楽器から出力される楽音における残響成分と当該楽音の特定の周波数成分とを含んで構成されるアンビエンス音であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の飛行スピーカ。
【請求項15】
前記飛行手段は、ドローンと風船とによる静音ドローンで構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の飛行スピーカ。
【請求項16】
飛行手段と音を出力する音出力手段とを備えた飛行スピーカで実行される出力位置特定方法であって、
前記飛行手段による所定の飛行経路の飛行を行いながら、前記音出力手段から検査音を出力する探索飛行を行う探索飛行ステップと、
前記探索飛行ステップによる探索飛行において出力された検査音を所定位置に配置された入力手段で観測した際の音情報が、所定条件を満たすと判定された場合に、当該判定に対応する前記検査音が出力された位置に基づいて、前記音出力手段から音を出力する位置である出力位置を特定する特定ステップとを備えていることを特徴とする出力位置特定方法。
【請求項17】
飛行手段と音を出力する音出力手段とを備えたコンピュータに、前記音出力手段から音を出力する位置である出力位置を特定する処理を実行させる出力位置特定プログラムであって、
前記飛行手段による所定の飛行経路の飛行を行いながら、前記音出力手段から検査音を出力する探索飛行を行う探索飛行ステップと、
前記探索飛行ステップによる探索飛行において出力された検査音を所定位置に配置された入力手段で観測した際の音情報が、所定条件を満たすと判定された場合に、当該判定に対応する前記検査音が出力された位置に基づいて、前記音出力手段から音を出力する位置である出力位置を特定する特定ステップとを前記コンピュータに実行させることを特徴とする出力位置特定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行スピーカ、出力位置特定方法および出力位置特定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、居住空間150におけるリスナーの位置が、ドローン付きスピーカ(以下「ドローン」と略す)で出力される音により望ましい音質が得られる「ホットスポット」となるよう、ドローンを飛行させる技術が開示されている。具体的にドローンは、居住空間150の幾何学的形状を反映するセンサデータ332を収集し、そのセンサデータ332に基づき居住空間150内の空間モデル334を作成する。作成された空間モデル334に基づいて飛行プラン364を作成する。これにより、リスナーがドローンを手動で操作することなく、ドローンをホットスポットを形成する位置(以下「出力位置」という)に飛行させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の飛行プラン364を作成するために、センサデータ332には居住空間150の全体の幾何学的形状と、リスナーの位置とを含んでいる必要がある。そのため、ドローンが出力位置へ飛行する際、事前に居住空間150の全体を隈なく飛行してセンサデータ332を収集し、収集された膨大なセンサデータ332から空間モデル334を作成しなければならないという問題点があった。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、音を出力する出力位置を適応的に特定できる飛行スピーカ、出力位置特定方法および出力位置特定プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の飛行スピーカは、飛行手段と、音を出力する音出力手段と、前記飛行手段による所定の飛行経路の飛行を行いながら、前記音出力手段から検査音を出力する探索飛行を行う探索飛行手段と、前記探索飛行手段による探索飛行において出力された検査音を所定位置に配置された入力手段で観測した際の音情報が、所定条件を満たすと判定された場合に、当該判定に対応する前記検査音が出力された位置に基づいて、前記音出力手段から音を出力する位置である出力位置を特定する特定手段とを備えている。
【0007】
本発明の出力位置特定方法は、飛行手段と音を出力する音出力手段とを備えた飛行スピーカで実行される方法であり、前記飛行手段による所定の飛行経路の飛行を行いながら、前記音出力手段から検査音を出力する探索飛行を行う探索飛行ステップと、前記探索飛行ステップによる探索飛行において出力された検査音を所定位置に配置された入力手段で観測した際の音情報が、所定条件を満たすと判定された場合に、当該判定に対応する前記検査音が出力された位置に基づいて、前記音出力手段から音を出力する位置である出力位置を特定する特定ステップとを備えている。
【0008】
本発明の出力位置特定プログラムは、飛行手段と音を出力する音出力手段とを備えたコンピュータに、前記音出力手段から音を出力する位置である出力位置を特定する処理を実行させるプログラムであり、前記飛行手段による所定の飛行経路の飛行を行いながら、前記音出力手段から検査音を出力する探索飛行を行う探索飛行ステップと、前記探索飛行ステップによる探索飛行において出力された検査音を所定位置に配置された入力手段で観測した際の音情報が、所定条件を満たすと判定された場合に、当該判定に対応する前記検査音が出力された位置に基づいて、前記音出力手段から音を出力する位置である出力位置を特定する特定ステップとを前記コンピュータに実行させるものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】飛行スピーカ及び電子楽器が配置されるコンサートホールの概略図である。
【
図2】(a)は、飛行スピーカの側面図であり、(b)は、矢印IIb方向における飛行スピーカの下面図である。
【
図3】(a)は、音量探索飛行を説明する図であり、(b)は、音質探索飛行を説明する図である。
【
図5】飛行スピーカ及び電子楽器の電気的構成を示すブロック図である。
【
図6】(a)は、飛行スピーカのメイン処理のフローチャートであり、(b)は、飛行スピーカの探索処理のフローチャートである。
【
図7】飛行スピーカの出力位置探索処理のフローチャートである。
【
図8】(a)は、電子楽器のメイン処理のフローチャートであり、(b)は、電子楽器のDSP処理のフローチャートである。
【
図9】(a)は、変形例における音量探索飛行を説明する図であり、(b)は、別の変形例における音質探索飛行を説明する図である。
【
図10】変形例における出力位置探索処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好ましい実施例について、添付図面を参照して説明する。
図1,2を参照して、本実施形態の飛行スピーカ1の概要を説明する。
図1は、飛行スピーカ1及び電子楽器30が配置されるコンサートホールP1の概略図である。コンサートホールP1には、飛行スピーカ1とユーザの演奏により楽音を出力する電子楽器30とが配置される。飛行スピーカ1は、電子楽器30で出力される楽音に応じた音であるアンビエンス音を出力する装置である。飛行スピーカ1は飛行可能に構成され、コンサートホールP1内における客席の上空に配置される。
図2を参照して、飛行スピーカ1の具体的な構成を説明する。
【0011】
図2(a)は、飛行スピーカ1の側面図であり、
図2(b)は、矢印IIb方向における飛行スピーカ1の下面図である。飛行スピーカ1は、飛行装置2及びスピーカ3と、無線通信装置4及び距離センサ5(いずれも
図5参照)とが設けられる。飛行装置2は、飛行スピーカ1を飛行させる装置であり、飛行スピーカ1の上部に設けられる風船2aと、飛行スピーカ1の下部に設けられるプロペラ2bとで構成される。
【0012】
風船2aは、ヘリウムガスが充填される風船で構成される。風船2aの大きさ及び形状は、飛行スピーカ1がプロペラ2bの回転を停止させた場合に、風船2aの浮力によりプロペラ2bの回転を停止させた際の高度を維持できる(即ち飛行スピーカ1が上昇も下降もしない)程度に形成される。なお、風船2aは、ヘリウムガスが充填されるものに限られず、例えば、水素などの空気(大気)よりも比重の小さい気体が充填されても良い。
【0013】
プロペラ2bは、風船2aの底面に3つ設けられ、それぞれ向きが変更可能に構成される。プロペラ2bの向きを任意に調整し、プロペラ2bに接続されるモータ(図示せず)によってプロペラ2bを回転させることで、飛行スピーカ1は所定の飛行方向に飛行できる。これら3つのプロペラ2bにより、ドローンが構成される。即ち本実施形態の飛行装置2は、風船2aと、プロペラ2bによるドローンとで構成される「静音ドローン」で実現される。
【0014】
飛行スピーカ1が、プロペラ2bによりアンビエンス音を出力する後述の出力位置に飛行し、プロペラ2bを停止させても風船2aの浮力によってその出力位置が維持される。これにより、出力されるアンビエンス音にプロペラ2bが回転するノイズが混入する事態を抑制できるので、コンサートホールP1内の聴衆に適切なアンビエンス音を聴取させることができる。
【0015】
スピーカ3は、音を出力する出力装置である。スピーカ3は、風船2aの底部における3つのプロペラの間に設けられ、スピーカ3において音を出力する部分が下方(即ち
図2(a)の紙面下方)に向けられる。スピーカ3が下方に向けられることで、飛行スピーカ1の下方に位置するコンサートホールP1の聴衆に、スピーカ3から出力される音を十分に聴取させることができる。
【0016】
無線通信装置4は、外部の機器と無線通信を行う装置である。電子楽器30から無線通信を介して送信されたアンビエンス音が無線通信装置4で受信され、受信したアンビエンス音がスピーカ3から出力される。
【0017】
距離センサ5は、飛行スピーカ1の周囲の物体との距離を取得する装置である。本実施形態では、距離センサ5としてLIDAR(Light Detection and Ranging)を用いるが、ミリ波レーダや超音波レーダ、ステレオカメラ等、周囲の物体との距離を取得できる他の装置を用いても良い。本実施形態の距離センサ5は、特定の形状(例えば星型)を有する識別マーカとの距離および方向を取得できるように構成される。
【0018】
具体的には、識別マーカは後述の集音マイクM(
図3参照)に取り付けられ、距離センサ5の検出範囲に識別マーカが含まれると判断された場合、距離センサ5と識別マーカとの距離と、距離センサ5から見た識別マーカの方向とが出力される。これにより、飛行スピーカ1から集音マイクMまでの距離と、飛行スピーカ1から見た集音マイクMの方向とが取得される。
【0019】
ここで、スピーカ3から出力されるアンビエンス音を説明する。本実施形態においてアンビエンス音は、電子楽器30で出力されるピアノ音等の楽音の成分のうち、残響に関わる残響成分と、当該楽音における特定の周波数成分(例えば、電子楽器30の鍵盤35(
図5)の鍵の操作により発音している音の、特定の高次倍音の周波数成分)とにより構成される音である。具体的に残響成分は、電子楽器30で出力される楽音に収録される実際の楽器の音が、コンサートホールP1等の壁面や天井、客席等の構造物に反射して得られる音の成分のことである。残響成分は、リバーブ、ディレイ又は反響とも表現される。
【0020】
演奏会場において実際の楽器を演奏した際、当該楽器を演奏した音に加え、かかる残響成分が演奏会場中に広がるため、聴取者は演奏された楽器の音に対して広がりを感じることができる。一方で、電子楽器30で出力される楽音には残響成分が含まれるものの、残響成分と同時に電子楽器30から出力される実際の楽器の音にかき消され、楽音の聴取者が聴取する残響成分が乏しくなる。
【0021】
そこで本実施形態では、電子楽器30で出力される楽音と共に、コンサートホールP1の客席の上空に配置された飛行スピーカ1から、アンビエンス音が出力される。これにより、電子楽器30で出力される楽音に加え、客席の上空からアンビエンス音に含まれる残響成分が聴衆に出力されるため、聴衆は残響成分を十分に受け取り、電子楽器30で出力される楽音に広がりを感じさせることができる。
【0022】
また、アンビエンス音には、残響成分と共に電子楽器30で出力される楽音における特定の周波数成分が含まれる。かかる特定の周波数成分により、残響成分を電子楽器30で出力される楽音とより調和したものにすることができる。
【0023】
これにより、電子楽器30で出力される楽音において、実物の楽器から出力される楽音と比較して乏しい残響成分をアンビエンス音で補うことができるので、客席の聴衆は、実物の楽器の音の伝達状況を忠実に再現した、臨場感のある音を聴取することができる。
【0024】
このようなアンビエンス音を、客席へ効果的に伝達させるために、飛行スピーカ1をコンサートホールP1内へ適切に配置する必要がある。
図3を参照して、飛行スピーカ1の、アンビエンス音を客席へ効果的に伝達させる位置である出力位置を特定する手法を説明する。
【0025】
図3(a)は、音量探索飛行を説明する図である。飛行スピーカ1をコンサートホールP1を配置する際に、まずコンサートホールP1に集音マイクMを配置する。集音マイクMは、集音した音を無線通信により他の機器に送信する装置である。集音マイクMが配置される位置は、コンサートホールP1において最も着席される頻度が高い客席の上が例示されるが、コンサートホールP1内の任意の場所でも良い。また、集音マイクMには上記した識別マーカが取り付けられる。
【0026】
飛行スピーカ1の、出力位置の特定において、飛行スピーカ1のスピーカ3から所定の検査音が出力される。本実施形態において検査音は、ホワイトノイズで構成される。飛行スピーカ1から出力される検査音が集音マイクMで集音され、集音された音が無線通信を介して飛行スピーカ1に送信される。飛行スピーカ1の無線通信装置4で受信した集音マイクMで集音された音(以下「受信音」という)に基づき、飛行スピーカ1を移動させることで、集音マイクMの位置において適切なアンビエンス音を聴取できる、飛行スピーカ1の出力位置が特定される。
【0027】
具体的に出力位置の特定は、まず、飛行スピーカ1からの検査音の出力と、その検査音の集音マイクMの集音と、集音マイクMから飛行スピーカ1への音の送信とを行いながら、飛行スピーカ1はランダムな飛行方向による飛行を行う。ランダムな飛行による位置の変化と、集音マイクMからの受信音の音量の変化とを比較することで、受信音の音量が大きくなる方向を複数抽出する。
【0028】
そして、抽出された複数の音量が大きくなる方向を集約することで、集音マイクMの位置である入力位置を推定する。これにより、ユーザが飛行スピーカ1に予め集音マイクMの位置を設定することなく、現状コンサートホールP1に配置されている集音マイクMの位置を把握できる。
【0029】
入力位置が推定された後、飛行スピーカ1を出力位置に飛行させる探索飛行を行う。まず、飛行スピーカ1を推定された入力位置に近づける、又は、推定された入力位置から遠ざける方向に飛行させながら、集音マイクMからの受信音の音量を確認し、その音量が所定の音量である期待音量(例えば70dB)になる位置を探索する音量探索飛行を行う。
【0030】
具体的に音量探索飛行は、
図3(a)に示すように、飛行スピーカ1の飛行経路として、飛行スピーカ1の現在位置と推定された入力位置とを、コンサートホールP1の上面視において直線状に結んだ経路である第1経路R1を形成する。第1経路R1の角度は、距離センサ5で取得された飛行スピーカ1から見た集音マイクMの方向と一致するように設定される。そして、飛行スピーカ1の現在の位置において、集音マイクMからの受信音の音量が期待音量より大きいと判定される場合は、飛行スピーカ1を第1経路R1において集音マイクMの位置の方向、即ち飛行スピーカ1を集音マイクMから遠ざける方向に飛行させる。
【0031】
一方で、飛行スピーカ1の現在の位置において、集音マイクMからの受信音の音量が所定の音量より小さいと判定される場合は、飛行スピーカ1を、第1経路R1において集音マイクMの位置と対向する方向、即ち飛行スピーカ1を集音マイクMに近づける方向に飛行させる。音量探索飛行において、飛行スピーカ1が第1経路R1上を飛行できるよう、飛行スピーカ1の飛行方向が距離センサ5で取得された飛行スピーカ1から見た集音マイクMの方向と一致するように調整される。
【0032】
このような音量探索飛行を繰り返すことで、集音マイクMからの受信音の音量が、所定の音量になる位置である最適音量位置が特定される。特定された最適音量位置は、その位置に配置された飛行スピーカ1から出力されるアンビエンス音が、集音マイクMにおいて適切な音量で聴取できる位置である。
【0033】
このような音量探索飛行に続き、推定された入力位置(集音マイクMの位置)と、特定された最適音量位置との距離Dを保ちながら飛行スピーカ1を飛行させながら、集音マイクMからの受信音の音質を確認し、その音質が所定の音質になる位置を探索する音質探索飛行を行う。距離Dは、飛行スピーカ1が最適音量位置に配置された際の、距離センサ5で取得された飛行スピーカ1と集音マイクMとの距離により取得される。
【0034】
図3(b)は、音質探索飛行を説明する図である。具体的に音質探索飛行は、飛行スピーカ1の飛行経路として、入力位置を中心とし、その入力位置と音量探索飛行で特定された最適音量位置との距離Dを半径とした、コンサートホールP1の上面視において円弧状の経路である第2経路R2を形成する。そして、飛行スピーカ1を形成された第2経路R2を飛行させながら、集音マイクMからの受信音の音質を判定する。音質探索飛行において、飛行スピーカ1が第2経路R1上を飛行できるよう、飛行スピーカ1の飛行方向が距離センサ5で取得された飛行スピーカ1から見た集音マイクMの方向と直交するように調整される。
【0035】
本実施形態において音質は、実際に集音マイクMからの受信音の波形である音波形と、予め実験等により設定された、集音マイクMで集音される音の期待される波形である期待音波形との差に基づいて判定される。即ち集音マイクMからの受信音の音波形と、期待音波形との差が小さい程、当該受信音は「良い」音質と判定され、集音マイクMからの受信音の音波形と、期待音波形との差が大きい程、当該受信音は「悪い」音質と判定される。
【0036】
飛行スピーカ1は音質探索飛行において、第2経路R2を飛行中にスピーカ3から検査音を出力し、更に集音マイクMから受信される受信音の音質を判定することで、集音マイクMからの受信音の波形が期待音波形と同等となる飛行スピーカ1の位置が特定される。このように特定された位置が上記した出力位置とされる。特定された出力位置に配置された飛行スピーカ1から出力されるアンビエンス音は、集音マイクMにおいて適切な音質で聴取できる。
【0037】
ここで第2経路R2が、推定された入力位置を中心とした円弧状に形成されることで、音質探索飛行において飛行する位置のそれぞれは、最適音量位置と同様に、推定された入力位置から距離Dだけ隔てた位置である。これにより、集音マイクMから受信する受信音の音量を、最適音量位置で受信した受信音の音量と同等とすることができる。従って、音質探索飛行により特定された出力位置では、集音マイクMから受信した受信音の音質が所定条件を満たすと共に、その受信音の音量も期待音量を満たすことができる。よって、音質探索飛行の後に、音量探索飛行を繰り返し行うことが抑制されるので、出力位置の特定を効率良く行うことができる。
【0038】
また、音質探索飛行において飛行スピーカ1が飛行(移動)し続けるにも関わらず、円弧状の第2経路R2により集音マイクMと飛行スピーカ1との距離が距離Dから変動しないため、集音マイクMで集音される音へのドップラー効果による音の変質が抑制される。これにより、音質探索飛行による音質の比較をより正確に行うことができる。
【0039】
更に音量探索飛行における第1経路R1が直線状に形成され、音質探索飛行における第2経路R2が円弧状に形成される。即ち第1経路R1及び第2経路R2が比較的シンプルな形状とされるので、第1経路R1及び第2経路R2を容易に形成し、音量探索飛行および音質探索飛行を迅速に開始させることができる。以下、音量探索飛行および音質探索飛行のことを、まとめて「探索飛行」という。
【0040】
本実施形態では、以上のような集音マイクMからの受信音に基づいた探索飛行により、飛行スピーカ1がコンサートホールP1においてアンビエンス音を出力する出力位置が特定される。従って、探索飛行に先立ち、飛行スピーカ1を配置するコンサートホールP1の形状や壁や天井の位置、客席の位置等が反映されたモデルや地図を用意する必要がない。これにより、出力位置を、飛行スピーカ1が配置される空間に応じて適応的に特定できる。
【0041】
次に
図4を参照して、飛行スピーカ1の機能を説明する。
図4は、飛行スピーカ1の機能ブロック図である。
図4に示すように、飛行スピーカ1は、飛行手段200と、音出力手段201と、探索飛行手段202と、特定手段203とを有する。
【0042】
飛行手段200は、上記した飛行装置2で実現される。音出力手段201は、音を出力する手段であり、上記したスピーカ3で実現される。探索飛行手段202は、飛行手段200による所定の飛行経路の飛行を行いながら、音出力手段201から検査音を出力する探索飛行を行う手段であり、
図5で後述のCPU10で実現される。
【0043】
特定手段203は、探索飛行手段202による探索飛行において出力された検査音を所定位置に配置された入力手段204で観測した際の音情報が、所定条件を満たすと判定された場合に、当該判定に対応する検査音が出力された位置に基づいて、音出力手段201から音を出力する位置である出力位置を特定する手段であり、CPU10で実現される。また、入力手段204は上記した集音マイクMで実現される。
【0044】
探索飛行において出力された検査音を、所定位置の入力手段で観測された際の音情報が所定条件を満たすと判定された場合は、当該判定に対応する検査音が出力された位置に基づいて音を出力する出力位置が特定される。即ち飛行スピーカ1の出力位置の特定に際し、予め飛行スピーカ1を配置する空間のモデルや地図を用意する必要がない。これにより、出力位置を飛行スピーカが配置される空間に応じて適応的に特定できる。
【0045】
次に、
図5を参照して飛行スピーカ1及び電子楽器30の電気的構成を説明する。
図5は、飛行スピーカ1及び電子楽器30の電気的構成を示すブロック図である。
【0046】
まず、飛行スピーカ1の電気的構成を説明する。飛行スピーカ1は、CPU10と、フラッシュROM11と、RAM12とを有し、これらはバスライン13を介して入出力ポート14にそれぞれ接続されている。入出力ポート14には更に、上記の飛行装置2、スピーカ3、無線通信装置4及び距離センサ5が接続される。
【0047】
CPU10は、バスライン13により接続された各部を制御する演算装置である。フラッシュROM11は、CPU10により実行されるプログラムや固定値データ等を格納した書き換え可能な不揮発性のメモリであり、制御プログラム11aと、上記した期待音量が記憶される期待音量メモリ11bと、上記した期待音波形が記憶される期待音波形メモリ11cとを含む。CPU10において制御プログラム11aが実行されると、
図6(a)のメイン処理が実行される。
【0048】
RAM12は、CPU10が制御プログラム11aの実行時に各種のワークデータやフラグ等を書き換え可能に記憶するためのメモリであり、上記した音質探索飛行が行われる回数が記憶される調整回数メモリ12aと、スピーカ3に適用される音の設定値が記憶される音設定値メモリ12bとを含む。音設定値メモリ12bに記憶される音の設定値には、スピーカ3で出力される音の音量と、音質に関するイコライザの周波数、Q幅(Quality Factor)及びゲインとが含まれるが、これ以外のパラメータが含まれても良い。
【0049】
次に電子楽器30の電気的構成を説明する。電子楽器30は、CPU31と、フラッシュROM32と、RAM33と、無線通信装置34と、鍵盤35と、音源36と、Digital Signal Processor37(以下「DSP37」と称す)とを有し、それぞれバスライン38を介して接続される。CPU31は、バスライン15により接続された各部を制御する演算装置である。
【0050】
フラッシュROM32は、CPU31により実行されるプログラムや固定値データ等を格納した書き換え可能な不揮発性のメモリであり、制御プログラム32aを含む。CPU31によって制御プログラム32aが実行されると、
図8(a)のメイン処理が実行される。RAM33は、CPU31がプログラムの実行時に各種のワークデータやフラグ等を書き換え可能に記憶するためのメモリである。
【0051】
無線通信装置34は、外部の機器と無線通信を行う装置である。無線通信装置34を介して、電子楽器30で作成されたアンビエンス音が飛行スピーカ1に送信される。鍵盤35は、複数の鍵を有し、ユーザの演奏による演奏情報を取得する入力装置である。音源36は、鍵盤35から入力される演奏情報に基づく波形データを出力する装置である。
【0052】
DSP37は、音源36から入力された波形データを演算処理する演算装置である。詳細は後述するが、このDSP37で音源36から入力された波形データからアンビエンス音が作成される。DSP37には、デジタルアナログコンバータ(DAC)39が接続され、そのDAC39にはアンプ40が接続され、そのアンプ40にはスピーカ41が接続される。
【0053】
次に
図6~8を参照して、飛行スピーカ1と電子楽器30とのそれぞれで実行される処理を説明する。まず、
図6,7を参照して飛行スピーカ1の処理を説明する。
【0054】
図6(a)は、飛行スピーカ1のメイン処理のフローチャートである。飛行スピーカ1のメイン処理は、飛行スピーカ1の電源投入後にCPU10で実行される処理である。飛行スピーカ1のメイン処理はまず、ユーザから図示しない飛行スピーカ1の設定ボタンを介して設定された動作モードを確認する(S1)。本実施形態において飛行スピーカ1動作モードとして、上記した探索飛行を行う探索モードと、電子楽器30から受信したアンビエンス音を出力する音出力モードとが設けられる。
【0055】
S1の処理において、飛行スピーカ1動作モードが探索モードの場合は(S1:「探索モード」)、S2の探索処理を実行する。S2の探索処理は、
図6(b)及び
図7で後述する。一方で、飛行スピーカ1動作モードが音出力モードの場合は(S1:「音出力モード」)、無線通信装置4を介して電子楽器30からアンビエンス音を受信したかを確認する(S3)。
【0056】
S3の処理において、アンビエンス音を受信した場合は(S3:Yes)、受信したアンビエンス音に音設定値メモリ12bの設定値を適用することで、アンビエンス音を調整する(S4)。S4の処理の後、S3の処理で音設定値メモリ12bの設定値が適用されたアンビエンス音をスピーカ3から出力する(S5)。
【0057】
S2の探索処理の後、S5の処理の後、又は、S3の処理においてアンビエンス音を受信していない場合は(S3:No)、飛行スピーカ1のその他の処理(S6)を実行し、S1以下の処理を繰り返す。
【0058】
ここで
図6(b)及び
図7を参照して、S2の探索処理を説明する。
図6(b)は、探索処理のフローチャートである。探索処理はまず、調整回数メモリ12aに0を設定する(S10)。S10の処理の後、上記した検査音のスピーカ3からの発音を開始する(S11)。S11の処理の後、無線通信装置4を介した集音マイクMからの音の受信を開始する(S12)。S12の処理の後、上記した飛行スピーカ1のランダムな飛行を開始する(S13)。S13の処理の後、ランダムな飛行による位置の変化ごとに、集音マイクMからの受信音の音量の変化を取得する(S14)。
【0059】
S14の処理の後、取得された位置の変化と受信音の音量の変化との組み合わせから、集音マイクMからの受信音の音量が大きくなる方向を抽出し、抽出された方向から集音マイクMの位置、即ち入力位置を推定する(S15)。S15の処理の後、飛行スピーカ1のランダムな飛行を停止する(S16)。
【0060】
S16の処理の後、出力位置探索処理(S17)を実行し、スピーカ3からの検査音の発音を停止し(S18)、探索処理を終了する。ここで
図7を参照して、S17の出力位置探索処理を説明する。
【0061】
図7は、飛行スピーカ1の出力位置探索処理のフローチャートである。出力位置探索処理はまず、集音マイクMから受信した受信音の音量を現在音量として取得する(S20)。S20の処理の後、取得した現在音量と、期待音量メモリ11bの期待音量とを比較する(S21)。
【0062】
S21の処理において、現在音量が期待音量より小さい場合は(S21:「現在音量<期待音量」)、飛行スピーカ1の飛行経路を上記した第1経路R1とし、飛行経路における飛行方向を推定された入力位置に近づける方向(
図7中「第1経路・近」)に設定する(S22)。第1経路R1は、
図3(a)で上記した通り、現在の飛行スピーカ1の位置と推定された入力位置とをコンサートホールP1の上面視において直線状に結んだ経路が設定される。このような第1経路R1によって、飛行スピーカ1は、直線運動による音量探索飛行が行われる。
【0063】
またS21の処理において、現在音量が期待音量より大きい場合は(S21:「現在音量>期待音量」)、飛行経路を第1経路R1とし、飛行方向を集音マイクMの位置から遠ざける方向(
図7中「第1経路・遠」)に設定する(S23)。
【0064】
一方でS21の処理において、現在音量が期待音量と同等の場合は(S21:「現在音量=期待音量」)、飛行経路を第2経路R2とし、飛行方向を円弧状の第2経路R2における時計回りの方向(
図7中「第2経路・右」)に設定する(S24)。S21,S24の処理により、飛行経路が第1経路R1から第2経路R2に切り替わった場合に、その時点の飛行スピーカ1の位置が、
図3(a)で上記した最適音量位置に設定される。
【0065】
また、第2経路R2は、
図3(b)で上記した通り、集音マイクMの位置を中心とし、推定された入力位置と、S24の処理よりも前に実行された音量探索飛行で特定された最適音量位置との距離Dを半径とした、コンサートホールP1の上面視において円弧状の経路が設定される。なお、距離Dは
図3(b)で上記した通り、飛行スピーカ1が最適音量位置に配置された際の、距離センサ5で取得された集音マイクMとの距離が用いられる。このような第2経路R2によって、飛行スピーカ1は、距離Dを基にした円弧運動による音質探索飛行が行われる。
【0066】
S22,S23の処理により飛行経路に第1経路R1が設定された場合に、
図3(a)で上記した音量探索飛行が行われる。またS24の処理により、飛行経路に第2経路R2が設定された場合に、
図3(a)で上記した音質探索飛行が行われる。以下、出力位置探索処理においては、飛行経路に第1経路R1が設定されている場合に音量探索処理が行われるものとし、飛行経路に第2経路R2が設定されている場合に音質探索処理が行われるものとする。
【0067】
S22~S24の処理の後、集音マイクMから受信した受信音の波形を取得し、移動前音波形に設定する(S25)。S22~S24の処理により飛行経路・飛行方向が切り替わったので、その時点で集音マイクMからの受信音の波形が移動前音波形に設定され、後述のS33の比較処理に用いられる。
【0068】
S25の処理の後、距離センサ5から飛行方向に存在する、最も飛行スピーカ1に近い障害物の距離を取得する(S26)。S26の処理の後、取得された障害物との距離が所定距離(例えば1.0m)より小さいかを確認する(S27)。S27の処理において、障害物との距離が所定距離以上の場合は(S27:No)、飛行装置2により、設定された飛行方向への飛行を行う(S28)。具体的には、設定された飛行経路および飛行方向へ飛行するための飛行装置2のプロペラ2bの向きやプロペラ2bの回転出力を算出し、算出された向き及び回転出力でプロペラ2bを駆動させる。
図3で上記した通り、この際の飛行方向は、距離センサ5で検出された集音マイクMの方向により調整される。
【0069】
S28の処理の後、集音マイクMから受信した受信音の音量および波形を、それぞれ現在音量および現在音波形として取得する(S29)。S28の処理によって、S22~S24の処理により切り替わった飛行経路・飛行方向での飛行が開始されたので、その際に集音マイクMで集音される音の音量および波形が、それぞれ現在音量および現在音波形として取得される。
【0070】
S29の処理の後、現在の飛行経路が第2経路R2かを確認する(S30)。S30の処理において、現在の飛行経路が第1経路R1である場合は(S30:No)、S20以下の処理を実行する。これにより、第1経路R1による音量探索飛行が継続される。一方で、S30の処理において、現在の飛行経路が第2経路R2である場合は(S30:Yes)、調整回数メモリ12aの調整回数が5000より小さいかを確認する(S31)。
【0071】
ここで、S31の処理において調整回数メモリ12aの調整回数と比較される値「5000」は、飛行スピーカ1が半径10mの第2経路R2を2周するのに要する時間に基づいて設定されるが、これ以上でも、これ以下でも良い。
【0072】
S31の処理において、調整回数メモリ12aの調整回数が5000より小さい場合は(S31:Yes)、S29の処理で取得した現在音波形、S25の処理で取得した移動前音波形および期待音波形メモリ11cの期待音波形を比較する(S32)。
【0073】
S32の処理は具体的に、まず、移動前音波形から期待音波形を減算した第1波形と、現在音波形から期待音波形を減算した第2波形とをそれぞれ算出する。そして、第1波形と第2波形とを比較する。このように移動前音波形と現在音波形とを、期待音波形を基準に比較することで、現在音波形が期待音波形と同等になったか、現在音波形が移動前音波形に比べて期待音波形に近づいたか、又は、現在音波形が移動前音波形に比べて期待音波形から遠ざかったかを判断できる。
【0074】
S32の処理の後、S32の処理による処理結果を確認する(S34)。S34の処理において、現在音波形が期待音波形と同等になった場合は(S34:「期待音波形と同等」)、現在音量が期待音量メモリ11bの期待音量と同等かを確認する(S35)。S35の処理において、現在音量が期待音量メモリ11bの期待音量と同等の場合は(S35:Yes)、飛行を停止し、現在音量が期待音量メモリ11bの期待音量と同等となった位置を出力位置に特定する(S36)。
【0075】
一方で、S35の処理において、現在音量が期待音量メモリ11bの期待音量と同等ではない場合は(S35:No)、S20以下の処理を繰り返す。即ち音量探索飛行により最適音量位置が特定された後の音質探索飛行により、現在音波形が期待音波形と同等になる位置を特定できたものの、その位置と集音マイクMの位置との間に障害物が存在する等して、その位置の音量が最適音量位置と同等の音量ではない場合がある。そこで、現在音量が期待音量メモリ11bの期待音量と同等ではない場合に、S20以下の処理、即ち音量探索飛行からやり直すことで、集音マイクMにおいて適切な音量および音質の音が得られる、飛行スピーカ1の出力位置を特定できる。
【0076】
S34の処理において、現在音波形が移動前音波形よりも期待音波形に近づいた場合は(S34:「移動前音波形より期待音波形に近づいた」)、現在音波形が期待音波形と同等ではないが、移動前音波形よりも期待音波形に近づいたため、音質探索飛行を継続する必要がある。かかる場合に、S25の処理以下を繰り返すことで音質探索飛行を継続させる。
【0077】
またS34の処理において、現在音波形が移動前音波形よりも期待音波形から遠ざかった場合は(S34:「移動前音波形より期待音波形から離れた」)、現在音波形よりも移動前音波形の方が期待音波形に近く、飛行スピーカ1の位置を移動前音波形を受信した位置に戻すように飛行させる必要がある。かかる場合に、飛行方向を反転させ(S37)、S25の処理以下を繰り返すことで、移動前音波形を受信した位置方向への音質探索飛行に切り替える。
【0078】
なお、S37の処理における「飛行方向の反転」とは、第2経路R2を時計回りの方向に飛行していた場合に、第2経路R2を反時計回りの方向に飛行させること、又は、第2経路R2を反時計回りの方向に飛行していた場合に、第2経路R2を時計回りの方向に飛行させることをいう。
【0079】
S27の処理において、障害物との距離が所定距離より小さい場合は(S27:Yes)、飛行経路が第2経路R2かを確認する(S38)。S38の処理において、飛行経路が第2経路R2の場合は(S38:Yes)、上記したS37の処理を実行し、飛行方向を反転させる。一方で、S38の処理において、飛行経路が第1経路R1の場合は(S38:No)、S22以下の処理を実行し、飛行経路を第2経路R2とし、飛行方向を円弧状の第2経路R2における時計回りの方向に設定した音質探索飛行を行う。
【0080】
即ち音質探索飛行の際(S38:Yesの場合)において、障害物との距離が所定距離以下となった場合は、円弧状の第2経路R2上に障害物が存在している場合である。かかる場合に、飛行方向を反転させることで、障害物との接触を抑制しつつも、音質探索飛行を継続させることができる。
【0081】
一方で、音量探索飛行の際(S38:Noの場合)において、障害物との距離が所定距離以下となった場合は、それ以上、直線状の第1経路R1上の集音マイクMの位置に近づける飛行、または、集音マイクMの位置から遠ざける飛行の続行が不可能な場合である。かかる場合に、音量探索飛行から音質探索飛行に切り替えることで、障害物との接近により出力位置が特定できない事態を抑制できる。
【0082】
ところで、このように飛行スピーカ1の障害物との接近により音量探索飛行から音質探索飛行に切り替えた場合に、現在音量が期待音量ではない場合が存在するが、その場合は上記したS35の処理で、現在音量が期待音量と同等ではないと判定され、S20以下の処理が実行されることで再び音量探索飛行が行われる。
【0083】
S31の処理において、調整回数メモリ12aの調整回数が5000以上である場合は(S31:No)、音質探索飛行を探索してから所定期間が経過した場合であり、これ以上音質探索飛行を行っても現在音波形が期待音波形と同等になる飛行スピーカ1の位置を探索できない場合である。かかる場合に、飛行を停止し、その位置を出力位置に特定する(S39)。S39の処理の後、現在音量および現在音波形が、期待音量および期待音波形となるような音の設定値(即ち音量、イコライザの周波数、Q幅およびゲイン)を算出(調整)し、音設定値メモリ12bに保存する(S40)。
【0084】
即ち調整回数メモリ12aの調整回数が5000以上になった場合に、その位置が暫定的に出力位置に特定されることで、長期間に亘り出力位置が特定できずアンビエンス音が出力できない事態を抑制できる。更に暫定的に特定された出力位置において、現在音量および現在音波形が、期待音量および期待音波形となるような音の設定値が設定されることで、その出力位置で出力されるアンビエンス音を、集音マイクMの位置において適切に聴取できる。
【0085】
S36,S40の処理の後、出力位置探索処理を終了する。
【0086】
次に
図8を参照して、電子楽器30で実行される処理を説明する。
図8(a)は、電子楽器30のメイン処理のフローチャートである。電子楽器30のメイン処理は、電子楽器30の電源投入後にCPU31で実行される処理である。
【0087】
電子楽器30のメイン処理はまず、鍵盤35が操作されたかを確認する(S50)。S50の処理において、鍵盤35が操作された場合は(S50:Yes)、鍵盤35のうち操作された鍵の演奏情報を音源36に送信する(S51)。これにより、音源36は受信した演奏情報に該当する波形データをDSP37に送信する。ここで
図8(b)を参照して、DSP37の処理を説明する。
【0088】
図8(b)は、電子楽器30のDSP処理のフローチャートである。DSP処理は、電子楽器30の電源投入後に、DSP37で実行される処理である。DSP処理はまず、音源36から波形データを受信したかを確認する(S60)。S60の処理において、音源36から波形データを受信した場合は(S60:Yes)、受信した波形データをDAC39に送信する(S61)。DAC39に送信された波形データは、アンプ40及びスピーカ41を経て楽音として出力される。
【0089】
S61の処理の後、音源36から波形データからアンビエンス音を作成する(S62)。具体的には上記した通り、波形データから残響成分と特定の周波数成分とが抽出され、抽出された音の成分からアンビエンス音が作成される。S62の処理の後、作成されたアンビエンス音をCPU31に送信する(S63)。
【0090】
一方で、S60の処理において、音源36から波形データを受信していない場合は(S60:No)、S61~S63の処理をスキップする。S60,S63の処理の後、DSP37のその他の処理を実行し(S64)、S60以下の処理を繰り返す。
【0091】
図8(a)に戻る。S50の処理において、鍵盤35が操作されていない場合は(S50:No)、S51の処理をスキップする。S50,S51の処理の後、DSP37からアンビエンス音を受信したかを確認する(S52)。S52の処理において、DSP37からアンビエンス音を受信した場合は(S52:Yes)、受信したアンビエンス音を無線通信装置34を介して飛行スピーカ1に送信する(S53)。
【0092】
一方で、S52の処理において、DSP37からアンビエンス音を受信していない場合は(S52:No)、S53の処理をスキップする。S52,S53の後、電子楽器30のその他の処理を実行し(S54)、S50以下の処理を繰り返す。
【0093】
以上、上記実施形態に基づき説明したが、種々の改良変更が可能であることは容易に推察できるものである。
【0094】
上記実施形態では、音量探索飛行の飛行経路を飛行スピーカ1の現在位置と推定された入力位置とを直線状で結んだ第1経路R1としたが、これに限られない。例えば、音量探索飛行の飛行経路を現在位置と入力位置とを結ぶジグザグ状の経路としても良いし、現在位置と入力位置とを結ぶ曲線状の経路としても良い。更に音量探索飛行の飛行経路を音質探索飛行と同様の円弧状としても良いし、矩形状等の多角形状としても良い。
【0095】
また、第1経路R1を現在位置と入力位置とを結ぶ経路としたがこれに限られない。例えば、現在位置とコンサートホールP1内の任意の位置(例えば電子楽器30の位置)とを結ぶ経路でも良い。
【0096】
音質探索飛行の飛行経路を推定された入力位置を中心とし、その入力位置と音量探索飛行で特定された最適音量位置との距離Dを半径とした円弧状の第2経路R2としたが、これに限られない。例えば、音質探索飛行の飛行経路を入力位置を中心とし、最適音量位置を初期位置とした矩形状等の多角形状としても良い。更に音質探索飛行の飛行経路を音量探索飛行と同様の直線状としても良いし、ジグザグ状にしても良い。
【0097】
また、第2経路R2を推定された入力位置を中心とし、その入力位置と音量探索飛行で特定された最適音量位置との距離Dを半径としたが、これに限られない。例えば、第2経路R2の中心をコンサートホールP1内の任意の位置(例えば電子楽器30の位置)としても良い。また第2経路R2の半径は、距離Dよりも長くても短くても良い。
【0098】
上記実施形態では、音量探索飛行の飛行経路をコンサートホールP1の上面視において直線状の第1経路R1としたが、これに限られない。例えば、
図9(a)の飛行スピーカ101のように、音量探索飛行の飛行経路をコンサートホールP1の側面視において直線状の第1経路R1’としても良い。
【0099】
同様に、音質探索飛行の飛行経路をコンサートホールP1の上面視において円弧状の第1経路R1としたが、これに限られず、例えば、
図9(b)の飛行スピーカ101のように、音質探索飛行の飛行経路をコンサートホールP1の側面視において円弧状の第2経路R2’としても良い。
【0100】
なお、音質探索飛行の飛行経路を円弧状と異なる形状とした場合に、検査音を出力する飛行スピーカ101の位置に応じて、集音マイクMの受信音にドップラー効果による音の変質が発生するが、かかる場合は、飛行スピーカ101と集音マイクMとの距離に応じて、即ちドップラー効果による周波数変化に応じて受信音を変調すれば良い。
【0101】
また、音量探索飛行の飛行経路を第1経路R1’とし、その後の音質探索飛行の飛行経路を第2経路R2としても良いし、音量探索飛行の飛行経路を第1経路R1とし、その後の音質探索飛行の飛行経路を第2経路R2’としても良い。
【0102】
上記実施形態では、音量探索飛行による最適音量位置の特定をしてから、音質探索飛行による出力位置の特定をしたが、これに限られない。例えば、音量探索飛行で特定された最適音量位置をそのまま出力位置に特定し、音質探索飛行を省略しても良い。この場合、更にユーザの手動操作によって飛行スピーカ1を飛行させ、集音マイクMのからの受信音の音波形が期待音波形と同等となる位置まで飛行させることが望ましい。同様に音量探索飛行を省略し、ユーザが手動操作により飛行スピーカ1を最適音量位置に配置した後に、飛行スピーカ1による音質探索飛行を行っても良い。
【0103】
また、音量探索飛行と音質探索飛行とを同時に行っても良い。この場合、集音マイクMのからの受信音の音量が期待音量を満たし、更に受信音の音波形が音波形を満たす位置を同時に探索することで、音量探索飛行と音質探索飛行とを同時に行っても良い。この際、音量探索飛行のような直線運動を行いながら、受信音の音量および音質がそれぞれ期待音量および期待音質を満たすかを確認しても良いし、音質探索飛行のような円弧運動を行いながら、受信音の音量および音質がそれぞれ期待音量および期待音質を満たすかを確認しても良い。また、先に音量探索飛行のような直線運動を行い、受信音の音量および音質がそれぞれ期待音量および期待音質を満たすかを確認し、受信音の音量のみが期待音量を満たす場合は、音質探索飛行のような円弧運動に切り替えても良い。
【0104】
上記実施形態では、
図7のS31の処理において、調整回数が5000以上になった場合に、その位置を出力位置に特定し、音設定値メモリ12bの設定値を設定したが、これに限られない。例えば、調整回数が5000以上になった場合に、それまでの探索飛行において、集音マイクMの受信音の音量および音質が期待音量および期待音質に最も近似した位置を出力位置に特定し、音設定値メモリ12bの設定値を設定しても良い。
【0105】
具体的には、
図10の出力位置探索処理のように、調整回数メモリ12aの調整回数が5000以上である場合に(S31:No)、探索飛行において、集音マイクMの受信音の音量および音質が期待音量および期待音質に最も近似した位置(以下「近似位置」という)に飛行する(S100)。S100の処理による近似位置へ飛行させる手法としては、近似位置と特定された場合に、その後の飛行におけるプロペラ2bの回転出力およびプロペラ2bの向きを順に記憶しておき、記憶されたプロペラ2bの回転出力およびプロペラ2bの向きを、記憶された順と逆順にプロペラ2bで再現することで、近似位置まで飛行することが挙げられる。
【0106】
S100の処理の後に、上記したS39の処理を実行し、飛行を停止させる。そしてS39の処理の後、S100,S39の処理で移動した近似位置における現在音量および現在音波形を取得するため、集音マイクMから受信した受信音の音量および波形を、それぞれ現在音量および現在音波形として取得する(S101)。S101の処理の後、上記したS40の処理を実行し、近似位置において適切な音の設定値を音設定値メモリ12bに設定する。
【0107】
このように、調整回数が5000以上になった場合に、暫定的な出力位置として、集音マイクMの受信音の音量および音質が最も期待音量および期待音質に近似した近似位置が設定される。これにより、その出力位置において音設定値メモリ12bに設定される音の設定値の変化量(調整量)を、他の位置と比べて小さくできるので、かかる音の設定値をアンビエンス音に適用した場合の、音の変質を抑制できる。これにより、出力位置で出力されるアンビエンス音を、集音マイクMの位置において適切な音量および音質で聴取できる。
【0108】
上記実施形態では、
図7のS40の処理によって音の設定値を期待音量および期待音波形に基づいて設定したが、これに限られない。例えば、S40の処理において、ユーザが所望する音量または音波形となるように音の設定値を設定しても良い。また、ユーザが所望する音量または音波形となるように音の設定値の設定を、S36の処理によって出力位置が特定された場合に行っても良い。
【0109】
上記実施形態では、
図3,7において、集音マイクMからの受信音をそのまま期待音量および期待音波形との比較に用いたが、これに限られない。例えば、受信音からプロペラ2bの動作音やコンサートホールP1内の聴衆の声などのノイズを除去した上で、期待音量および期待音波形との比較を行っても良い。この場合の手法として、スピーカ3から出力される検査音との相関を利用した、適応フィルタや逆畳み込み演算が例示される。
【0110】
上記実施形態では、
図7において、S28の処理による飛行スピーカ1の飛行経路の飛行を継続しながら、集音マイクMからの受信音と期待音量および期待音波形との比較を行ったが、これに限られない。例えば、S28の処理によって、所定距離(例えば0.3m)又は所定時間(例えば5秒間)、飛行装置2のプロペラ2bを駆動させて飛行を行い、その後にプロペラ2bを停止させて飛行スピーカ1を停止させてから、S29以下の処理を行っても良い。これにより、集音マイクMからの受信音にプロペラ2bの駆動音が混入するのを抑制できるので、受信音と期待音量および期待音波形との比較を、精度良く行うことができる。
【0111】
上記実施形態では、
図6(a)において、飛行スピーカ1の動作モードが音出力モードの場合にアンビエンス音を出力したが、これに限られない。例えば、動作モードが音出力モードの場合に、電子楽器30から出力される楽音を出力しても良いし、予め録音された人の歓声やネコ等の動物の鳴き声等の音響効果音を出力しても良いし、その他の音を出力しても良い。
【0112】
また、アンビエンス音を、電子楽器30で出力される楽音のうちの残響成分と特定の周波数成分とで構成したが、これに限られない。例えば、アンビエンス音を残響成分のみ、又は、特定の周波数成分のみで構成しても良い。また、残響成分および特定の周波数成分に、上記の音響効果音やその他の音を加えたものをアンビエンス音としても良いし、残響成分および特定の周波数成分にディストーション等の音響効果(エフェクト)を加えた音をアンビエンス音としても良い。
【0113】
上記実施形態では、音出力モードの場合にアンビエンス音を電子楽器30から受信した場合に、受信したアンビエンス音を出力したが、これに限られない。例えば、アンビエンス音を電子楽器30から受信してから所定時間後(例えば50ミリ秒後)に、当該アンビエンス音を出力しても良い。或いは、アンビエンス音を電子楽器30から受信する際に、アンビエンス音と同時に当該アンビエンス音を出力する時刻を受信し、現在の時刻が受信した時刻に達した場合に、受信したアンビエンス音を出力しても良い。
【0114】
このように、アンビエンス音を出力するタイミングを変化できるように構成することで、アンビエンス音の出力タイミングが早過ぎて電子楽器30から出力される楽音にアンビエンス音がかき消されたり、逆にアンビエンス音の出力タイミングが遅過ぎて、聴取者に違和感を覚えさせたりすることを抑制できる。
【0115】
上記実施形態では、
図6(a)のS4,S5の処理において、音設定値メモリ12bの音の設定値をアンビエンス音に適用することで、
図7のS40の処理で設定された音の設定値をアンビエンス音に反映した。これに限られず、例えば、音設定値メモリ12bの音の設定値をスピーカ3の出力設定に反映させても良い。これにより、アンビエンス音自体を加工することなく、出力されるアンビエンス音に
図7のS40の処理で設定された音の設定値を反映できる。
【0116】
上記実施形態では、探索飛行における検査音としてホワイトノイズを用いたが、これに限られない。例えば、検査音として正弦波やノコギリ波、矩形波を用いても良いし、アンビエンス音を用いても良い。
【0117】
上記実施形態では、アンビエンス音を電子楽器30のDSP37で作成したが、これに限られない。アンビエンス音を電子楽器30のCPU10で作成しても良い。また、アンビエンス音を飛行スピーカ1で作成しても良い。この場合、電子楽器30は音源36から取得した波形データを飛行スピーカ1を送信し、飛行スピーカ1は受信した波形データから、
図8のS62と同様の処理によってアンビエンス音を作成すれば良い。
【0118】
上記実施形態では、音質探索飛行において、集音マイクMからの受信音の音波形と、期待音波形メモリ11cの音波形とを比較することで出力位置を特定した。しかし、これに限られず、例えば、集音マイクMからの受信音の音波形の周波数スペクトルを取得し、その周波数スペクトルと、予め設定された期待される集音マイクMで集音される音波形の周波数スペクトル(以下「期待周波数スペクトル」という)とを比較することで出力位置を特定しても良い。この際、フラッシュROM11に期待音波形メモリ11cの代わりに期待周波数スペクトルを記憶すれば良い。また、周波数スペクトルの他にも、受信音の歪み率や残響時間を用いて、出力位置を特定しても良い。
【0119】
上記実施形態では、集音マイクMからの受信音の音量および音波形を、飛行スピーカ1で取得したが、これに限られない。集音マイクMにおいて集音した音の音量および音波形を取得し、取得された音量および音波形を飛行スピーカ1に送信しても良い。
【0120】
また、集音マイクMにおいて、取得された音量と期待音量との比較を行い、その比較結果を飛行スピーカ1に送信し、飛行スピーカ1の
図7のS21,S35の処理を集音マイクMから受信した比較結果に基づいて行っても良い。同様に、集音マイクMにおいて、取得された音波形と期待音波形との比較を行い、その比較結果を飛行スピーカ1に送信し、飛行スピーカ1の
図7のSS34の処理を集音マイクMから受信した比較結果に基づいて行っても良い。
【0121】
上記実施形態では、コンサートホールP1に1台の飛行スピーカ1を配置したが、これに限られない。2台以上の飛行スピーカ1を配置しても良い。この場合、2台以上の飛行スピーカ1を同時に探索飛行をさせ、それぞれの出力位置を特定しても良いし、2台以上の飛行スピーカ1を1台ずつ探索飛行させても良い。
【0122】
このように2台以上の飛行スピーカ1を同時に探索飛行をさせる場合、飛行スピーカ1同士が接近することがあるが、その場合は、
図7のS27の処理によってそれぞれ他の飛行スピーカ1が障害物と判定され、S24,S39の処理により音量探索飛行から音量飛行経路に変更されたり、音量飛行経路の飛行経路が反転するので、飛行スピーカ1同士が接触することなく、それぞれを適切な出力位置に配置できる。
【0123】
上記実施形態では、
図6(b)のS13~S16の処理によって入力位置(集音マイクMの位置)を推定したが、これに限られない。例えば、予め飛行スピーカ1に集音マイクMの位置を設定しておき、S13~S16の処理を省略しても良い。
【0124】
また、S17の出力探索処理を、S14,S15の入力位置を推定する処理の後に行ったが、これに限られない。S17の出力探索処理における飛行中もS14,S15の処理を並列して実行させても良い。これにより、長期間に亘り入力位置を推定する処理が行われるので、推定される入力位置の精度を向上させることができる。
【0125】
上記実施形態では、
図3において、飛行スピーカ1から集音マイクMまでの距離と飛行スピーカ1から見た集音マイクMの方向を取得するために、飛行スピーカ1に距離センサ5を設け、集音マイクMに識別マーカを取り付けたが、これに限られない。例えば、集音マイクMに距離センサを設け、飛行スピーカ1に識別マーカを取り付けても良い。この場合、集音マイクMの距離センサで取得された飛行スピーカ1までの距離と、距離センサから見た方向を無線通信により飛行スピーカ1に送信し、送信された位置と方向とを飛行スピーカ1で変換することで、飛行スピーカ1から集音マイクMの距離と飛行スピーカ1から見た集音マイクMの方向を取得すれば良い。
【0126】
また、距離センサ5により飛行スピーカ1から集音マイクMの距離と飛行スピーカ1から見た集音マイクMの方向を取得したが、これに限られない。例えば、飛行スピーカ1及び集音マイクMのそれぞれにGNSS(Global Navigation Satellite System)受信装置やQZSS(Quasi-Zenith Satellite System)受信装置を設け、GNSS受信装置等から受信した飛行スピーカ1及び集音マイクMのそれぞれの位置情報(緯度、経度および高さ)から飛行スピーカ1から集音マイクMの距離と飛行スピーカ1から見た集音マイクMの方向を取得しても良い。
【0127】
上記実施形態では、飛行装置2を静音ドローンで構成したが、これに限られない。飛行装置2を、静音ドローンから風船2aを除外したドローンのみで構成しても良いし、気球で構成しても良いし、その他の飛行装置で構成しても良い。
【0128】
上記実施形態では、飛行スピーカ1をコンサートホールP1に配置したが、これに限られない。例えば、飛行スピーカ1を体育館や教室、講堂等の他の屋内施設に配置しても良いし、公園や陸上競技場、野外のライブ会場等の屋外に配置しても良い。
【0129】
上記実施形態では、飛行スピーカ1を例示したが、これに限られない。例えば、制御プログラム11aをパーソナル・コンピュータや携帯端末等の情報処理装置で実行できるようにしても良い。この場合、パーソナル・コンピュータ等の情報処理装置に、飛行装置2及びスピーカ3を接続すれば良い。
【符号の説明】
【0130】
1 飛行スピーカ
2 飛行装置(飛行手段、静音ドローン)
3 スピーカ(音出力手段)
5 距離センサ(障害物検出手段)
11a 制御プログラム(出力位置特定プログラム)
R1,R1’ 第1経路(飛行経路)
R2,R2’ 第2経路(飛行経路)
S11,S28 探索飛行手段の一部、音量探索飛行手段の一部、音質探索飛行手段の一部、探索飛行ステップの一部
S13,S16 予備探索飛行手段
S14,S15 位置推定手段
S21 最適音量位置特定手段
S22,S23 探索飛行手段の一部、音量探索飛行手段の一部、探索飛行ステップの一部
S24 探索飛行手段の一部、音質探索飛行手段の一部、探索飛行ステップの一部
S27,S37 反転手段
S29,S31,S34,S36,S39 特定手段、特定ステップ
S40 調整手段