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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058301
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】チップ抵抗器
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/00 20060101AFI20240418BHJP
   H01C 17/24 20060101ALI20240418BHJP
   H01C 17/12 20060101ALI20240418BHJP
   H01C 17/08 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
H01C7/00 110
H01C17/24
H01C17/12
H01C17/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165579
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 誉
(72)【発明者】
【氏名】永田 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】本島 勇一
【テーマコード(参考)】
5E032
5E033
【Fターム(参考)】
5E032BA12
5E032BB01
5E032CA02
5E032TA13
5E032TB02
5E033AA02
5E033BA01
5E033BC01
5E033BD01
5E033BE02
5E033BG02
5E033BG03
5E033BH02
(57)【要約】
【課題】サージ特性を確実に向上させることができると共に、トリミングによる広範囲の抵抗値調整が可能なチップ抵抗器を提供する。
【解決手段】直方体形状の絶縁基板2と、絶縁基板2の長手方向両端部に設けられた一対の表電極4と、一対の表電極4間を橋絡する矩形状の抵抗体3とを備え、抵抗体3に直線状に延びる複数本のトリミング溝9,10を形成することで抵抗値が調整されるチップ抵抗器1において、一対の表電極4間を最短距離で結ぶ方向をX方向、X方向に直交する方向をY方向としたとき、抵抗体3にトリミング溝9,10の溝幅よりも幅広な複数の開口部12がY方向に沿って2列形成されており、トリミング溝9,10は、抵抗体3のX方向に延びる2つの外縁部のうち、いずれか一方の外縁部を始端位置として他方の外縁部に向かってY方向に延びるように形成され、任意の開口部12を終端位置としている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直方体形状の絶縁基板と、前記絶縁基板の主面における長手方向の両端部に設けられた一対の電極と、前記一対の電極間を橋絡する矩形状の抵抗体とを備え、前記抵抗体に直線状に延びるトリミング溝を形成することで抵抗値が調整されるチップ抵抗器において、
前記一対の電極間を最短距離で結ぶ方向をX方向、前記X方向に直交する方向をY方向としたとき、
前記抵抗体に、前記トリミング溝の溝幅よりも幅広な複数の開口部が前記Y方向に沿って少なくとも2以上の列をなすように形成されており、
前記トリミング溝は、前記抵抗体の前記X方向に延びる2つの外縁部のうち、いずれか一方の外縁部を始端位置として他方の外縁部に向かって前記Y方向に延びるように形成され、任意の前記開口部を終端位置としている、
ことを特徴とするチップ抵抗器。
【請求項2】
前記トリミング溝の終端が位置する前記開口部と前記抵抗体の前記他方の外縁部との間に挟まれた抵抗体の体積が、電流経路となる抵抗体全体の体積の5%~40%の範囲内にある、ことを特徴とする請求項1に記載のチップ抵抗器。
【請求項3】
前記抵抗体の前記一方の外縁部に対向する前記開口部の幅寸法に対して、前記抵抗体の前記他方の外縁部に対向する前記開口部の幅寸法が大きく設定されている、ことを特徴とする請求項1に記載のチップ抵抗器。
【請求項4】
前記複数の開口部は、角部を有しない非矩形状である、ことを特徴とする請求項1に記載のチップ抵抗器。
【請求項5】
一列に並んだ前記複数の開口部は、前記抵抗体の前記Y方向の中心に対して前記一方の外縁部側に片寄った位置に配列されている、ことを特徴とする請求項1に記載のチップ抵抗器。
【請求項6】
前記複数の開口部を跨ぐ位置に形成された前記トリミング溝の近傍に、該トリミング溝より全長の短い微調用トリミング溝が前記複数の開口部を跨がない位置に形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のチップ抵抗器。
【請求項7】
前記抵抗体が、真空蒸着法またはスパッタリング法により形成された薄膜抵抗体である、ことを特徴とする請求項1に記載のチップ抵抗器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗体にトリミング溝を形成することで抵抗値が調整されるチップ抵抗器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チップ抵抗器は、直方体形状の絶縁基板と、絶縁基板の表面に所定間隔を存して対向配置された一対の表電極と、絶縁基板の裏面に所定間隔を存して対向配置された一対の裏電極と、表電極と裏電極を橋絡する端面電極と、対をなす表電極どうしを橋絡する抵抗体と、抵抗体を覆う保護コート層等によって主に構成されている。
【0003】
一般的に、このようなチップ抵抗器を製造する場合、大判基板に対して多数個分の電極や抵抗体や保護コート層等を一括して形成した後、この大判基板を格子状の分割ライン(例えば分割溝)に沿って分割してチップ抵抗器を多数個取りするようにしている。かかるチップ抵抗器の製造過程で、大判基板の片面に厚膜技術または薄膜技術によって多数の抵抗体が形成されるが、各抵抗体の初期抵抗値にバラツキを生じることが避け難いため、大判基板の状態で各抵抗体にトリミング溝を形成して所望の抵抗値に設定するという抵抗値調整作業が行われる。
【0004】
トリミング溝は抵抗体にレーザー光を照射することによって形成されるスリット(レーザー痕)であり、その形状としては、抵抗体の外縁部を始点として電極間方向と直交する方向へ直線状に延びるIカット形状や、Iカットを途中から電極間方向に90度ターンして延ばしたLカット形状などが知られている。
【0005】
Iカット形状のトリミング溝の場合、トリミングラインの先端部が電流経路の狭まった負荷集中部となるため、静電気や電源ノイズ等で発生するサージ電圧を受けた場合に、過剰な電気的ストレスによって抵抗値の変動や抵抗体の断線等の不具合が発生しやすくなる。サージ特性を向上させるための一手段として、抵抗体に流れる電流経路を長くすることが知られているため、従来より、抵抗体にIカット形状のトリミング溝を複数本(例えば2本)形成して蛇行形状(ミアンダ形状)にしたチップ抵抗器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このように構成されたチップ抵抗器によれば、複数のトリミング溝によって抵抗値の調整幅を大きくすることができると共に、抵抗体を蛇行形状にすることで電流経路が長くなるため、負荷集中部が分散されてサージ特性を向上することができる。
【0006】
一方、Lカット形状のトリミング溝の場合、トリミングライン先端の電力集中は避けられるものの、トリミングによる抵抗値の調整幅を大きくすることができないため、広範囲の抵抗値をカバーすることができないという製造上の課題がある。特に、スパッタリングや蒸着等の薄膜技術を用いて形成される薄膜抵抗体は、厚膜抵抗体のように複数の抵抗材料を混ぜ合わせて初期抵抗値を自由に変えることができず、抵抗体に求められる抵抗値の調整範囲が広いため、Lカット形状のトリミング溝では抵抗値を目標抵抗値に確実に調整することができなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-61448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、抵抗体に複数の直線状トリミング溝を形成したチップ抵抗器では、抵抗体に流れる電流経路の全長を長くすることにより、負荷集中部が分散されてサージ特性の向上を図ることができる。しかしながら、薄膜抵抗体のように膜厚が薄い抵抗体の場合、トリミングラインの先端部に生じる負荷集中部の体積が小さいため、単に抵抗体を蛇行形状にしただけでは、サージ電圧によって抵抗値変動等が起きてしまうことがあり、さらなるサージ特性の改善が要望されている。
【0009】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、サージ特性を確実に向上させることができると共に、トリミングによる広範囲の抵抗値調整が可能なチップ抵抗器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、直方体形状の絶縁基板と、前記絶縁基板の主面における長手方向の両端部に設けられた一対の電極と、前記一対の電極間を橋絡する矩形状の抵抗体とを備え、前記抵抗体に直線状に延びるトリミング溝を形成することで抵抗値が調整されるチップ抵抗器において、前記一対の電極間を最短距離で結ぶ方向をX方向、前記X方向に直交する方向をY方向としたとき、前記抵抗体に、前記トリミング溝の溝幅よりも幅広な複数の開口部が前記Y方向に沿って少なくとも2以上の列をなすように形成されており、前記トリミング溝は、前記抵抗体の前記X方向に延びる2つの外縁部のうち、いずれか一方の外縁部を始端位置として他方の外縁部に向かって前記Y方向に延びるように形成され、任意の前記開口部を終端位置としている、ことを特徴としている。
【0011】
このように構成されたチップ抵抗器では、抵抗体に複数の開口部が電極間と直交する方向に沿って少なくとも2列以上形成されていると共に、各列の開口部を跨ぐ位置に直線状のトリミング溝が形成されているため、複数本のトリミングによって広範囲の抵抗値調整を行うことができる。しかも、トリミング溝の終端が位置する開口部と抵抗体の外縁部との間に位置する部分が負荷集中部となり、この負荷集中部の体積は、トリミング溝の溝幅よりも幅広な開口部の幅寸法に依存して大きいものとなるため、静電気や電源ノイズ等で発生するサージ電圧を受けた場合でも、抵抗値変動や抵抗体の断線等を確実に防止することができる。
【0012】
上記構成のチップ抵抗器において、前記トリミング溝の終端が位置する前記開口部と前記抵抗体の前記他方の外縁部との間に挟まれた抵抗体の体積が、電流経路となる抵抗体全体の体積の5%~40%の範囲内に設定されていると、サージ特性の向上を図りつつ低抵抗化を実現できて好ましい。
【0013】
また、上記構成のチップ抵抗器において、前記抵抗体の前記一方の外縁部に対向する前記開口部の幅寸法に対して、前記抵抗体の前記他方の外縁部に対向する前記開口部の幅寸法が大きく設定されていると、負荷集中部の体積を大きくすることができる。
【0014】
また、上記構成のチップ抵抗器において、前記複数の開口部の形状は特に限定されないが、これら開口部の形状が角を丸めた矩形や楕円形等の角部を有しない非矩形状であると、電流の集中を抑止することができて好ましい。
【0015】
また、上記構成のチップ抵抗器において、一列に並んだ前記複数の開口部が、前記抵抗体の前記Y方向の中心に対して前記一方の外縁部側に片寄った位置に配列されていると、開口部との対向間距離が短い方の外縁部側からトリミング溝を形成することにより、開口部との対向間距離が長い方の外縁部側に体積の大きい負荷集中部を容易に確保することができる。
【0016】
また、上記構成のチップ抵抗器において、前記複数の開口部を跨ぐ位置に形成された前記トリミング溝の近傍に、該トリミング溝より全長の短い微調用トリミング溝が前記複数の開口部を跨がない位置に形成されていると、抵抗値を高精度に微調整することができて好ましい。
【0017】
また、上記構成のチップ抵抗器において、前記抵抗体が真空蒸着法またはスパッタリング法により形成された薄膜抵抗体であると、サージ特性に優れた低抵抗のチップ抵抗器を実現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のチップ抵抗器によれば、サージ特性を確実に向上させることができると共に、トリミングによる広範囲の抵抗値調整を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係るチップ抵抗器の平面図である。
図2図1のII-II線に沿う断面図である。
図3】該チップ抵抗器に備えられる抵抗体パターンを示す説明図である。
図4】該チップ抵抗器の製造工程を示す平面図である。
図5】該チップ抵抗器の製造工程を示す平面図である。
図6】該チップ抵抗器の製造工程を示す断面図である。
図7】該チップ抵抗器の製造工程を示す断面図である。
図8】開口部の変形例を示す説明図である。
図9】開口部の変形例を示す説明図である。
図10】開口部の変形例を示す説明図である。
図11】電極配置の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0021】
図1は本発明の実施形態に係るチップ抵抗器の平面図、図2図1のII-II線に沿う断面図である。
【0022】
図1図2に示すように、本実施形態に係るチップ抵抗器1は、直方体形状の絶縁基板2と、絶縁基板2の表面上に形成された抵抗体3と、抵抗体3の両端部上に形成された一対の表電極4と、抵抗体3を覆うように形成された保護コート層5と、絶縁基板2の裏面の長手方向両端部に形成された一対の裏電極6と、絶縁基板2の長手方向両端面に形成された一対の端面電極7と、端面電極7を覆うようにメッキ処理された一対の外部電極8等によって主に構成されており、抵抗体3には所望の抵抗値に調整するための3本のトリミング溝9,10,11が形成されている。
いる。
【0023】
絶縁基板2は、後述する大判基板を縦横に格子状に延びる1次分割溝と2次分割溝に沿って分割して多数個取りされたものであり、大判基板はAl、SiO、ZrO及びこれらの混合物を主成分とするシート状の基板である。なお、以下の説明では、絶縁基板2の長手方向(一対の表電極4間を最短距離で結ぶ方向)をX方向、絶縁基板2の短手方向(X方向と直交する方向)をY方向とする。
【0024】
抵抗体3は、NiCr、CuNi、CrSi、TaN等を主成分とする抵抗体材料を真空蒸着法やスパッタリング法で形成した薄膜抵抗体であり、絶縁基板2の表面をほぼ覆うように形成されている。
【0025】
表電極4は、Cu、Ag、Au、Al、Ni、Cr、Pt、Pdまたはこれらを2つ以上含む合金を真空蒸着法やスパッタリング法で形成した薄膜電極であり、抵抗体3のX方向に沿った両端部上に形成されて絶縁基板2の長手方向両端部に位置している。
【0026】
図3は抵抗体3のトリミングパターンを示す説明図である。図3(a)に示すように、一対の表電極4間に挟まれた部分の抵抗体3は矩形状の外形を呈しており、以下、抵抗体3のX方向に延びる2つの外縁部の一方を第1外縁部3a、他方を第2外縁部3bとして説明する。
【0027】
この抵抗体3には、Y方向に沿って配列された複数の開口部12が両表電極4に近い2位置にそれぞれ形成されており、本実施形態では、一列について3つの開口部12が所定の間隔を存して連続的に形成されている。便宜上、図示左側の表電極4に近い一方列の開口部12を第1開口部群、図示右側の表電極4に近い他方列の開口部12を第2開口部群と呼ぶと、第1開口部群を構成する各開口部12は第1外縁部3a側に片寄った位置に形成されており、第1外縁部3aから対向する開口部12までの長さに対して第2外縁部3bから対向する開口部12までの長さが長くなるように設定されている。また、第2開口部群を構成する各開口部12は第2外縁部3b側に片寄った位置に形成されており、第2外縁部3bから対向する開口部12までの長さに対して第1外縁部3aから対向する開口部12までの長さが長くなるように設定されている。
【0028】
このような開口部12が形成された抵抗体3に対して3本のトリミング溝9,10,11を形成することにより、抵抗体3の抵抗値が所定値になるように調整されている。図3(b)に示すように、1本目のトリミング溝9は、開口部12との対向間距離が狭い方の第1外縁部3aを始端位置としてY方向へ直線状に延び、第1開口部群の第2外縁部3bに対向する開口部12を終端とする位置まで形成されている。また、2本目のトリミング溝10は、開口部12との対向間距離が狭い方の第2外縁部3bを始端位置としてY方向へ直線状に延び、第2開口部群の第1外縁部3aに対向する開口部12を終端とする位置まで形成されている。これら2本のトリミング溝9,10により、抵抗体3の抵抗値が目標抵抗値に近い値に調整されると共に、抵抗体3が2ターン蛇行する形状となって電流経路の全長が長くなっている。
【0029】
ここで、1本目のトリミング溝9の終端が位置する開口部12と抵抗体3の第2外縁部3bとの間で電流経路の狭まった部分は負荷集中部A(図中のハッチングを施した部分)となり、同様に、2本目のトリミング溝10の終端が位置する開口部12と抵抗体3の第1外縁部3aとで挟まれた部分も負荷集中部Aとなり、これら負荷集中部Aの体積はトリミング溝9,10の溝幅よりも十分に幅広な開口部12の幅寸法に依存するため、抵抗体3に体積の大きな負荷集中部Aが確保されることになる。なお、これら負荷集中部Aを総和した体積は、抵抗体3における電流経路となる部分の体積の5%~40%の範囲内に設定されている。
【0030】
図3(c)に示すように、3本目のトリミング溝11は、2本目のトリミング溝10の近傍における第2外縁部3bを始端位置としてY方向へ直線状に延び、第2開口部群の各開口部12を跨がない位置に形成されている。3本目のトリミング溝11が形成される部位は抵抗体3における電流分布の少ない領域であり、このトリミング溝11を2本目のトリミング溝10の全長を超えない位置まで形成することにより、1本目と2本目のトリミング溝9,10によって段階的に調整された抵抗体3の抵抗値がさらに高精度に微調整される。ここで、3本目の微調用トリミング溝11の形状は、必ずしも直線状(Iカット形状)に限定されず、LカットやUカット等の他の形状であっても良い。
【0031】
なお、1本目と2本目のトリミング溝9,10の終端位置となる開口部12は抵抗体3の初期抵抗値等に応じて任意に選択され、例えば、トリミング溝9,10が各列の真ん中の開口部12を終端位置とする場合は、図3(d)に示すように、トリミング溝9,10の先端側にそれぞれ2箇所ずつの負荷集中部Aが形成されることになる。
【0032】
図1図2に戻り、保護コート層5は、内側のアンダーコート層13と外側のオーバーコート層14の2層構造からなる。アンダーコート層13は、SiO、SiN、Al等の無機材料を真空蒸着法やスパッタリング法またはCVD法等で形成した絶縁性皮膜であり、トリミング溝9,10,11を形成する前の抵抗体3を覆うように形成されている。オーバーコート層14は、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂等をスクリーン印刷で形成した絶縁性皮膜であり、トリミング溝9,10,11を形成した後のアンダーコート層13を覆うように形成されている。
【0033】
裏電極6は、Cu、Ag、Au、Al、Ni、Cr、Pt、Pdまたはこれらを2つ以上含む合金を真空蒸着法やスパッタリング法で形成した薄膜電極であり、絶縁基板2の裏面における表電極4と対応する長手方向両端部に形成されている。
【0034】
端面電極7は、NiCr、Cu、Ni、Crまたはこれらを複数含む金属材料を真空蒸着法やスパッタリング法等で形成した薄膜電極である。この端面電極7により、絶縁基板2の表裏両面で対応する表電極4と裏電極6が導通されている。
【0035】
外部電極8は、内側のバリヤー層15と外側の外部接続層16との2層構造からなる。バリヤー層15は電解めっきによって形成されたNiメッキ層であり、このバリヤー層15は端面電極7の表面全体を覆っている。外部接続層16は電解めっきによって形成されたSnメッキ層であり、この外部接続層16はバリヤー層15の表面全体を覆っている。
【0036】
次に、上記のごとく構成されたチップ抵抗器1の製造方法について、図4図7を参照しながら説明する。なお、図4図5は該チップ抵抗器1の製造工程を示す平面図、図6図7は該チップ抵抗器1の製造工程を示す断面図である。
【0037】
まず、図4(a)と図6(a)に示すように、絶縁基板2が多数個取りされる大判基板2Aを準備する。この大判基板2Aには予め縦横に延びる1次分割溝と2次分割溝が格子状に設けられており、両分割溝によって区切られたマス目の1つ1つが1個分のチップ領域となる。図4図7には1個分のチップ領域に相当する大判基板2Aが代表して示されているが、実際は多数個分のチップ領域に相当する大判基板2Aに対して以下に説明する各工程が一括して行われる。
【0038】
最初の工程として、図4(b)と図6(b)に示すように、大判基板2Aの表面にNiCr等を主成分とする抵抗体着膜3Aを真空蒸着法やスパッタリング法で形成する。
【0039】
次に、抵抗体着膜3A上にCu等からなる電極着膜を真空蒸着法やスパッタリング法で形成した後、この電極着膜をフォトリソグラフィーによりパターニングすることにより、図4(c)と図6(c)に示すように、抵抗体着膜3Aの両端部に一対の表電極4を形成する。
【0040】
しかる後、抵抗体着膜3Aをフォトリソグラフィーによりパターニングすることにより、図4(d)と図6(d)に示すように、一対の表電極4間に矩形状の外形を有する抵抗体3を形成すると共に、この抵抗体3の内部に複数の開口部12を形成する。また、これに前後して、大判基板2Aの裏面にCu等からなる電極着膜を真空蒸着法やスパッタリング法で形成した後、この電極着膜をフォトリソグラフィーによりパターニングすることにより、大判基板2Aの裏面における表電極4と対応する位置に一対の裏電極6を形成する。
【0041】
なお、表電極4を形成する工程と抵抗体3をパターン形成する工程の順序を逆にすることも可能である。その場合は、抵抗体着膜3Aをパターニングして抵抗体3を形成した後、この抵抗体3の所定位置を除いてマスキングし、この状態で電極着膜をスパッタリング等して表電極4を形成すれば良い。
【0042】
次に、表電極4と抵抗体3の上からSiO等の無機材料をCVD法等で形成し、この無機材料をフォトリソグラフィーによりパターニングすることにより、図4(e)と図6(e)に示すように、表電極4の一部と抵抗体3の全体を覆うアンダーコート層13を形成する。
【0043】
次に、アンダーコート層13の上からレーザー光を照射することにより、図5(f)と図7(f)に示すように、抵抗体3に3本のトリミング溝9,10,11を形成して抵抗値を目標となる所定値に調整する。前述したように、1本目と2本目のトリミング溝9,10は、抵抗体3の相対向する外縁部から任意の開口部12に到達する位置まで形成され、これら2本のトリミング溝9,10を形成することにより、抵抗体3の抵抗値を目標抵抗値に近い値まで段階的に切り上げる。3本目のトリミング溝11は、2本目のトリミング溝10の側方で開口部12を跨がない位置に形成され、このトリミング溝11を形成することにより、1本目と2本目のトリミング溝9,10で切り上げられた抵抗体3の抵抗値を目標抵抗値まで高精度に微調整する。
【0044】
次に、アンダーコート層13の上からエポキシ樹脂等の樹脂材料をスクリーン印刷し、この樹脂材料を加熱や紫外線の照射によって硬化することにより、図5(g)と図7(g)に示すように、アンダーコート層13を覆うオーバーコート層14を形成する。なお、これらアンダーコート層13とオーバーコート層14により、2層構造の保護コート層5が形成される。
【0045】
ここまでの各工程は多数個取り用の大判基板2Aに対する一括処理であるが、次なる工程では、大判基板2Aを1次分割溝に沿って短冊状に分割するという1次ブレーク加工を行うことより、複数個分のチップ領域が設けられた短冊状基板2Bを得る。次いで、短冊状基板2Bの分割面にNiCr等の金属材料をスパッタリングすることにより、図5(h)と図7(h)に示すように、対応する表電極4と裏電極6間を橋絡する端面電極7を形成する。
【0046】
しかる後、短冊状基板2Bを2次分割溝に沿って分割するという2次ブレーク加工を行うことにより、チップ抵抗器1と同等の大きさのチップ単体2Cを得る。次に、個片化された各チップ単体2Cに対して電解めっきによってNiメッキを施すことにより、図5(i)と図7(i)に示すように、端面電極7の表面全体を覆うバリヤー層15を形成する。最後に、各チップ単体2Cに対して電解めっきによってSnメッキを施すことにより、図5(j)と図7(j)に示すように、バリヤー層15の表面全体を覆う外部接続層16を形成する。これらバリヤー層15と外部接続層16によって2層構造の外部電極8が形成され、図1図2に示すようなチップ抵抗器1が得られる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係るチップ抵抗器1によれば、抵抗体3に複数の開口部12が電極間と直交する方向(Y方向)に沿って複数列(本実施形態では2列)形成されていると共に、各列の開口部12を跨ぐ位置に直線状のトリミング溝9,10が形成されているため、これらトリミング9,10によって広範囲の抵抗値調整を行うことができる。しかも、トリミング溝9,10の終端が位置する開口部12と抵抗体3の一方の外縁部との間に位置する部分が負荷集中部Aとなり、この負荷集中部Aの体積は、トリミング溝9,10の溝幅よりも幅広な開口部12の幅寸法に依存して大きいものとなるため、静電気や電源ノイズ等で発生するサージ電圧を受けた場合でも、抵抗値変動や抵抗体3の断線等を確実に防止することができる。
【0048】
そして、負荷集中部Aを総和した体積が、抵抗体3における電流経路となる部分の体積の5%~40%の範囲内に設定されているため、サージ特性の向上を図りつつ低抵抗化を実現することができる。
【0049】
また、本実施形態に係るチップ抵抗器1では、一列に並んだ複数の開口部12が、抵抗体3のY方向の中心に対して一方の外縁部側に片寄った位置に配列されているため、開口部12との対向間距離が短い方の外縁部側からトリミング溝9,10を形成することにより、開口部12との対向間距離が長い方の外縁部側に体積の大きい負荷集中部Aを容易に確保することができる。
【0050】
また、本実施形態に係るチップ抵抗器1では、開口部12を跨ぐ位置に形成されたトリミング溝10の近傍に、該トリミング溝10より全長の短い微調用のトリミング溝11が開口部12を跨がない位置に形成されているため、開口部12を跨ぐ位置に形成されたトリミング溝9,10によって段階的に切り上げられた抵抗体3の抵抗値を、微調用のトリミング溝11によって連続的に上昇させて高精度な抵抗値調整を行うことができる。
【0051】
また、本実施形態に係るチップ抵抗器1では、抵抗体3が真空蒸着法またはスパッタリング法により形成された薄膜抵抗体であるため、サージ特性に優れた低抵抗のチップ抵抗器1を実現することができる。
【0052】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。上記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【0053】
例えば、上記実施形態では、各列の開口部12が全て同一形状となっているが、図8に示す変形例のように、トリミング溝の始端側となる抵抗体3の一方の外縁部に対向する開口部12の幅寸法に対して、抵抗体3の他方の外縁部に対向する開口部12の幅寸法が大きくなるようにしても良い。このように構成すると、トリミング溝の終端側に形成される負荷集中部Aの体積を大きくすることができて好ましい。
【0054】
また、上記実施形態では、開口部12が四隅に角部を有する矩形状となっているが、図9に示す変形例のように、角を丸めた矩形状の開口部12にしたり、図10に示す変形例のように、楕円形状の開口部12としても良い。このように開口部12が角部を有しない非矩形状であると、開口部12の角部に電流が集中することを抑止することができる。
【0055】
また、上記実施形態では、抵抗体3と表電極4及び裏電極6が絶縁基板2の端部から若干内方に離れた位置に配置されているため、1次ブレーク工程において、大判基板2Aを1次分割溝に沿って容易に分割して短冊状基板2Bを得ることができる。ただし、図11に示す変形例のように、これら抵抗体3と表電極4及び裏電極6が絶縁基板2の端部まで届くように配置されていても良く、この場合は、大判基板2Aをダイシングによって分割して短冊状基板2Bを得ることが好ましい。なお、図11(a)は平面図、図11(b)は断面図である。
【0056】
また、上記実施形態では、抵抗体3の短手方向(Y方向)に沿って配列された開口部12を2列設けたチップ抵抗器1について説明したが、開口部12の配列数は3列以上であっても良い。
【0057】
また、上記実施形態では、抵抗体3がスパッタリング法等で形成された薄膜抵抗体であるチップ抵抗器について説明したが、本発明は、抵抗体が厚膜抵抗体であるチップ抵抗器についても適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 チップ抵抗器
2 絶縁基板
2A 大判基板
3 抵抗体
3a 第1外縁部
3b 第2外縁部
4 表電極
5 保護コート層
6 裏電極
7 端面電極
8 外部電極
9,10 トリミング溝
11 微調用トリミング溝
12 開口部
13 アンダーコート層
14 オーバーコート層
15 バリヤー層
16 外部接続層
A 負荷集中部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11