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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005831
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】モータ制御装置および電動ポンプ装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/182 20160101AFI20240110BHJP
【FI】
H02P6/182 ZHV
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106233
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000220505
【氏名又は名称】ニデックパワートレインシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(72)【発明者】
【氏名】白井 康弘
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560AA02
5H560AA08
5H560BB04
5H560BB07
5H560BB12
5H560DA13
5H560DC13
5H560EB01
5H560EC02
5H560RR01
5H560SS02
5H560TT15
5H560UA05
5H560XA12
5H560XB05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低温環境下で限界最低回転数に近い回転数でもモータのセンサレス制御を安定的に行う。
【解決手段】本発明のモータ制御装置における一つの態様は、三相モータを制御するモータ制御装置であって、直流電源電圧を三相交流電圧に変換して前記三相モータに供給する駆動回路と、前記三相モータの三相の端子電圧を検出する電圧検出部と、前記三相の端子電圧の夫々に現れる誘起電圧が所定のゼロクロス判定レベルと交差する点をゼロクロス点として検出し、前記ゼロクロス点の検出結果に基づいて前記駆動回路を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記三相のうち少なくとも一相の前記誘起電圧が上昇する時と下降する時に前記ゼロクロス判定レベルの値を変更する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相モータを制御するモータ制御装置であって、
直流電源電圧を三相交流電圧に変換して前記三相モータに供給する駆動回路と、
前記三相モータの三相の端子電圧を検出する電圧検出部と、
前記三相の端子電圧の夫々に現れる誘起電圧が所定のゼロクロス判定レベルと交差する点をゼロクロス点として検出し、前記ゼロクロス点の検出結果に基づいて前記駆動回路を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記三相のうち少なくとも一相の前記誘起電圧が上昇する時と下降する時に前記ゼロクロス判定レベルの値を変更する、
モータ制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記少なくとも一相の前記誘起電圧が上昇する時と下降する時とで前記ゼロクロス判定レベルを異なる値に変更する、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記三相の各相の前記誘起電圧が上昇する時と下降する時とで前記ゼロクロス判定レベルを異なる値に変更するとともに、前記各相ごとに前記ゼロクロス判定レベルを異なる値に変更する、請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記誘起電圧の下降と前記三相の第1相との組み合わせに対応する第1候補値と、前記誘起電圧の下降と前記三相の第2相との組み合わせに対応する第2候補値と、前記誘起電圧の下降と前記三相の第3相との組み合わせに対応する第3候補値と、前記誘起電圧の上昇と前記第1相との組み合わせに対応する第4候補値と、前記誘起電圧の上昇と前記第2相との組み合わせに対応する第5候補値と、前記誘起電圧の上昇と前記第3相との組み合わせに対応する第6候補値と、を記憶する記憶部をさらに備え、
前記制御部は、前記第1候補値から前記第6候補値のうち、6つの前記組み合わせの1つに対応する候補値を前記記憶部から読み出し、読み出した前記候補値に前記ゼロクロス判定レベルの値を変更する、
請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
シャフトを有する三相モータと、
前記シャフトの軸方向一方側に位置し、前記三相モータによって前記シャフトを介して駆動されるポンプと、
前記三相モータを制御する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のモータ制御装置と、
を備える、電動ポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置および電動ポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
センサレスモータの制御方式として、モータの三相の端子電圧の夫々に現れる誘起電圧が中性点電位と交差する点をゼロクロス点として検出し、ゼロクロス点の検出結果に基づいてモータの通電制御を行うセンサレス制御が知られている。下記特許文献1には、センサレスモータを低回転域で安定的に駆動する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-273502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低温環境下において、ゼロクロス点を検出可能な誘起電圧を発生させるために最低限必要な限界最低回転数に近い回転数でセンサレスモータを制御する場合、誘起電圧の波形が歪むことに起因して、ゼロクロス点の検出タイミングが理想のタイミングから外れてしまい、その結果、モータのセンサレス制御を安定的に行うことが困難となる可能性があった。上記特許文献1の技術では、このような技術課題を解決することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のモータ制御装置における一つの態様は、三相モータを制御するモータ制御装置であって、直流電源電圧を三相交流電圧に変換して前記三相モータに供給する駆動回路と、前記三相モータの三相の端子電圧を検出する電圧検出部と、前記三相の端子電圧の夫々に現れる誘起電圧が所定のゼロクロス判定レベルと交差する点をゼロクロス点として検出し、前記ゼロクロス点の検出結果に基づいて前記駆動回路を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記三相のうち少なくとも一相の前記誘起電圧が上昇する時と下降する時に前記ゼロクロス判定レベルの値を変更する。
【0006】
本発明の電動ポンプ装置における一つの態様は、シャフトを有する三相モータと、前記シャフトの軸方向一方側に位置し、前記三相モータによって前記シャフトを介して駆動されるポンプと、前記三相モータを制御する上記態様のモータ制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の上記態様によれば、低温環境下で限界最低回転数に近い回転数でモータを回転させる場合であっても、モータのセンサレス制御を安定的に行うことが可能なモータ制御装置及び電動ポンプ装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態におけるモータ制御装置10を備える電動ポンプ装置100を模式的に示すブロック図である。
図2図2は、本実施形態におけるセンサレス120°通電方式で使用される通電パターン及び位相パターンの一例を示す図である。
図3図3は、本実施形態におけるセンサレス120°通電方式の基本原理を示すタイミングチャートである。
図4図4は、通電期間P3においてU相端子電圧Vuに現れる誘起電圧の波形と、通電期間P1においてV相端子電圧Vvに現れる誘起電圧の波形と、通電期間P5においてW相端子電圧Vwに現れる誘起電圧の波形とを模式的に示す第1図である。
図5図5は、通電期間P6においてU相端子電圧Vuに現れる誘起電圧の波形と、通電期間P4においてV相端子電圧Vvに現れる誘起電圧の波形と、通電期間P2においてW相端子電圧Vwに現れる誘起電圧の波形とを模式的に示す第1図である。
図6図6は、通電期間P3においてU相端子電圧Vuに現れる誘起電圧の波形と、通電期間P1においてV相端子電圧Vvに現れる誘起電圧の波形と、通電期間P5においてW相端子電圧Vwに現れる誘起電圧の波形とを模式的に示す第2図である。
図7図7は、通電期間P6においてU相端子電圧Vuに現れる誘起電圧の波形と、通電期間P4においてV相端子電圧Vvに現れる誘起電圧の波形と、通電期間P2においてW相端子電圧Vwに現れる誘起電圧の波形とを模式的に示す第2図である。
図8図8は、低温環境下で制御部13によって実行される三相モータ20の極低速回転制御に含まれる各処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態におけるモータ制御装置10を備える電動ポンプ装置100を模式的に示すブロック図である。図1に示すように、電動ポンプ装置100は、モータ制御装置10と、電動ポンプ40と、を備える。電動ポンプ40は、三相モータ20と、ポンプ30と、を備える。電動ポンプ装置100は、例えばハイブリッド車両に搭載される駆動用モータに冷却オイルFを供給する装置である。
【0010】
モータ制御装置10は、電動オイルポンプ40の三相モータ20をホールセンサ等の位置センサ無しで制御する装置である。具体的には、モータ制御装置10は、三相モータ20の三相の端子電圧の夫々に現れる誘起電圧が所定のゼロクロス判定レベルと交差する点をゼロクロス点として検出し、ゼロクロス点の検出結果に基づいて三相モータ20の通電制御を行う。モータ制御装置10の詳細については後述する。
【0011】
三相モータ20は、例えばインナーロータ型の三相ブラシレスDCモータであって、且つホールセンサ等の位置センサを有しないセンサレスモータである。三相モータ20は、シャフト21と、U相端子22uと、V相端子22vと、W相端子22wと、U相コイル23uと、V相コイル23vと、W相コイル23wと、を有する。
【0012】
また、図1では図示を省略するが、三相モータ20は、モータハウジングと、モータハウジングに収容されたロータ及びステータとを有する。ロータは、モータハウジングの内部において、軸受け部品によって回転可能に支持される回転体である。ステータは、モータハウジングの内部において、ロータの外周面を囲った状態で固定され、ロータを回転させるのに必要な電磁力を発生させる。
【0013】
シャフト21は、ロータの径方向内側を軸方向に貫通した状態でロータと同軸接合される軸状体である。U相端子22u、V相端子22v及びW相端子22wは、それぞれモータハウジングの表面から露出する金属端子である。詳細は後述するが、U相端子22u、V相端子22v及びW相端子22wは、それぞれ、モータ制御装置10の駆動回路11と電気的に接続される。U相コイル23u、V相コイル23v及びW相コイル23wは、それぞれステータに設けられた励磁コイルである。例えば、U相コイル23u、V相コイル23v及びW相コイル23wは、三相モータ20の内部でスター結線される。
【0014】
U相コイル23uは、U相端子22uと中性点Nとの間に電気的に接続される。V相コイル23vは、V相端子22vと中性点Nとの間に電気的に接続される。W相コイル23wは、W相端子22wと中性点Nとの間に電気的に接続される。U相コイル23u、V相コイル23v及びW相コイル23wの通電状態がモータ制御装置10によって制御されることにより、ロータを回転させるのに必要な電磁力が発生する。ロータが回転することにより、シャフト21もロータに同期して回転する。
【0015】
ポンプ30は、三相モータ20のシャフト21の軸方向一方側に位置し、三相モータ20によってシャフト21を介して駆動される。ポンプ30が三相モータ20によって駆動されることにより、ポンプ30は冷却オイルFを吐出する。ポンプ30は、オイル吸入口31及びオイル吐出口32を有する。冷却オイルFは、オイル吸入口31からポンプ30の内部に吸入された後、オイル吐出口32からポンプ30の外部に吐出される。このように、ポンプ30と三相モータ20とがシャフト21の軸方向に隣り合って接続されることにより、電動ポンプ40が構成される。
【0016】
モータ制御装置10は、不図示の上位制御装置から出力される回転数指令信号CSに基づいて、位置センサ無しで三相モータ20を制御する装置である。一例として、上位制御装置は、ハイブリッド車両に搭載される車載ECU(Electronic Control Unit)である。モータ制御装置10は、駆動回路11と、電圧検出回路12(電圧検出部)と、制御部13と、記憶部14と、を備える。
【0017】
駆動回路11は、直流電源電圧Vを三相交流電圧に変換して三相モータ20に供給する回路である。駆動回路11は、直流電源200から供給される直流電源電圧Vを三相交流電圧に変換して三相モータ20に出力する。一例として、直流電源200は、ハイブリッド車両に搭載される複数のバッテリの一つであり、例えば12V系の車載システムに対して12Vの直流電源電圧Vを供給する。
【0018】
駆動回路11は、U相上側アームスイッチQUHと、V相上側アームスイッチQVHと、W相上側アームスイッチQWHと、U相下側アームスイッチQULと、V相下側アームスイッチQVLと、W相下側アームスイッチQWLと、を有する。本実施形態において各アームスイッチは、例えばNチャネル型MOS-FETである。
【0019】
U相上側アームスイッチQUHのドレイン端子、V相上側アームスイッチQVHのドレイン端子、及びW相上側アームスイッチQWHのドレイン端子は、それぞれ直流電源200の正極端子と電気的に接続される。U相下側アームスイッチQULのソース端子、V相下側アームスイッチQVLのソース端子、及びW相下側アームスイッチQWLのソース端子は、それぞれ、シャント抵抗器12を介して直流電源200の負極端子と電気的に接続される。なお、直流電源200の負極端子は車内グランドと電気的に接続される。
【0020】
U相上側アームスイッチQUHのソース端子は、三相モータ20のU相端子22uと、U相下側アームスイッチQULのドレイン端子とのそれぞれに電気的に接続される。V相上側アームスイッチQVHのソース端子は、三相モータ20のV相端子22vと、V相下側アームスイッチQVLのドレイン端子とのそれぞれに電気的に接続される。W相上側アームスイッチQWHのソース端子は、三相モータ20のW相端子22wと、W相下側アームスイッチQWLのドレイン端子とのそれぞれに電気的に接続される。
【0021】
U相上側アームスイッチQUHのゲート端子、V相上側アームスイッチQVHのゲート端子、及びW相上側アームスイッチQWHのゲート端子は、それぞれ制御部14と電気的に接続される。また、U相下側アームスイッチQULのゲート端子、V相下側アームスイッチQVLのゲート端子、及びW相下側アームスイッチQWLのゲート端子も、それぞれ制御部14と電気的に接続される。
【0022】
上記のように、駆動回路11は、3つの上側アームスイッチと3つの下側アームスイッチとを有する3相フルブリッジ回路によって構成される。このように構成された駆動回路11は、制御部14によって各アームスイッチがスイッチング制御されることにより、直流電源200から供給される直流電源電圧Vを三相交流電圧に変換して三相モータ20に出力する。
【0023】
本実施形態では、三相モータ20の通電方式としてセンサレス120°通電方式を用いる場合を例示する。以下では、説明の便宜上、センサレス120°通電方式の基本原理を説明した後に、電圧検出回路12、制御部13、および記憶部14について説明する。なお、以下で説明するセンサレス120°通電方式の基本原理は、あくまで一例であり、本発明はこれに限定されない。
【0024】
センサレス120°通電方式を用いる場合、各アームスイッチは、図2に示す通電パターンに基づいてスイッチング制御される。図2に示すように、120°通電方式の通電パターンは、6つの通電パターンPA1、PA2、PA3、PA4、PA5及びPA6を含む。図2において、「QUH」から「QWL」までの列に並ぶ「1」及び「0」のうち、「1」は該当するアームスイッチがオンに制御されることを意味し、「0」は該当するアームスイッチがオフに制御されることを意味する。
【0025】
図3において、時刻t10から時刻t11までの通電期間P1は、各アームスイッチが通電パターンPA1に基づいてスイッチング制御される期間を示す。この通電期間P1では、U相上側アームスイッチQUHとW相下側アームスイッチQWLとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。通電期間P1では、U相上側アームスイッチQUHのみ所定のスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。通電期間P1では、U相端子22uからW相端子22wに向かってU相コイル23u及びW相コイル23wに駆動電流(電源電流)が流れる。すなわち、通電期間P1における通電相は、U相及びW相である。
【0026】
図3において、時刻t11から時刻t12までの通電期間P2は、各アームスイッチが通電パターンPA2に基づいてスイッチング制御される期間を示す。この通電期間P2では、U相上側アームスイッチQUHとV相下側アームスイッチQVLとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。通電期間P2でも、U相上側アームスイッチQUHのみ所定のスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。通電期間P2では、U相端子22uからV相端子22vに向かってU相コイル23u及びV相コイル23vに駆動電流が流れる。すなわち、通電期間P2における通電相は、U相及びV相である。
【0027】
図3において、時刻t12から時刻t13までの通電期間P3は、各アームスイッチが通電パターンPA3に基づいてスイッチング制御される期間を示す。この通電期間P3では、W相上側アームスイッチQWHとV相下側アームスイッチQVLとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。通電期間P3では、W相上側アームスイッチQWHのみ所定のスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。通電期間P3では、W相端子22wからV相端子22vに向かってW相コイル23w及びV相コイル23vに駆動電流が流れる。すなわち、通電期間P3における通電相は、W相及びV相である。
【0028】
図3において、時刻t13から時刻t14までの通電期間P4は、各アームスイッチが通電パターンPA4に基づいてスイッチング制御される期間を示す。この通電期間P4では、W相上側アームスイッチQWHとU相下側アームスイッチQULとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。通電期間P4でも、W相上側アームスイッチQWHのみ所定のスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。通電期間P4では、W相端子22wからU相端子22uに向かってW相コイル23w及びU相コイル23uに駆動電流が流れる。すなわち、通電期間P4における通電相は、W相及びU相である。
【0029】
図3において、時刻t14から時刻t15までの通電期間P5は、各アームスイッチが通電パターンPA5に基づいてスイッチング制御される期間を示す。この通電期間P5では、V相上側アームスイッチQVHとU相下側アームスイッチQULとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。通電期間P5では、V相上側アームスイッチQVHのみ所定のスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。通電期間P5では、V相端子22vからU相端子22uに向かってV相コイル23v及びU相コイル23uに電源電流が流れる。すなわち、通電期間P5における通電相は、V相及びU相である。
【0030】
図3において、時刻t15から時刻t16までの通電期間P6は、各アームスイッチが通電パターンPA6に基づいてスイッチング制御される期間を示す。この通電期間P6では、V相上側アームスイッチQVHとW相下側アームスイッチQWLとがオンとなり、且つ残りのアームスイッチがオフとなる。通電期間P6でも、V相上側アームスイッチQVHのみ所定のスイッチングデューティ比でスイッチング制御される。通電期間P6では、V相端子22vからW相端子22wに向かってV相コイル23v及びW相コイル23wに電源電流が流れる。すなわち、通電期間P6における通電相は、V相及びW相である。
【0031】
以上のような6つの通電パターンに従って各アームスイッチがスイッチング制御されることにより、三相モータ20のシャフト21を一定方向に360°回転させる回転磁界が発生する。その結果、時刻t10から時刻t16までの期間において、三相モータ20のシャフト21は一定方向に360°回転する。言い換えれば、通電期間P1から通電期間P6のそれぞれの期間において、三相モータ20のシャフト21は一定方向に60°回転する。
【0032】
通電パターンが切り替わる速度、すなわち、通電相が切り替わる速度は転流周波数Fsと呼ばれる。転流周波数Fsの単位は「Hz」である。1つの通電パターンでスイッチング制御が行われる期間をP(秒)としたとき、転流周波数Fsは、「Fs=1/P」で表される。
【0033】
図3に、三相モータ20のU相端子22u、V相端子22v及びW相端子22wのそれぞれに現れる電圧の波形を示す。図3において、「Vu」は、U相端子22uに現れるU相端子電圧である。「Vv」は、V相端子22vに現れるV相端子電圧である。「Vw」は、W相端子22wに現れるW相端子電圧である。なお、実際のU相端子電圧Vu、V相端子電圧Vv、及びW相端子電圧Vwの波形は、スイッチングデューティ比と同じデューティ比を有する波形となるが、図3では便宜上、電圧波形の包絡線のみを示す。
【0034】
U相端子電圧Vuは、通電期間P1及びP2においてスイッチングデューティ比で決定される実効電圧値となり、通電期間P4及びP5においてグランドレベルの値、つまり0Vとなる。V相端子電圧Vvは、通電期間P5及びP6においてスイッチングデューティ比で決定される実効電圧値となり、通電期間P2及びP3において0Vとなる。W相端子電圧Vwは、通電期間P3及びP4においてスイッチングデューティ比で決定される実効電圧値となり、通電期間P1及びP6において0Vとなる。このように、センサレス120°通電方式では、三相モータ20の駆動に必要な駆動電圧が印加される相が120°ごとに切り替わる。
【0035】
通電期間P3においてU相コイル23uに駆動電流は流れないが、U相コイル23uに蓄積されたエネルギーによってU相下側アームスイッチQULのボディダイオードを介してU相コイル23uに一定時間だけ還流電流が流れる。その結果、期間P3の開始時点から一定時間だけU相端子電圧Vuが0Vになるリンギング現象が発生する。その後、U相端子電圧Vuは、U相コイル23uに発生する誘起電圧と一致する。通電期間P3において誘起電圧は、通電期間P3の中央、つまり通電期間P3の開始時点から三相モータ20が30°回転したタイミングで、中性点Nの電圧である中性点電圧Vに対して高圧側から低圧側へ向かって交差する。
【0036】
同様に、通電期間P6においてU相コイル23uに駆動電流は流れないが、U相コイル23uに蓄積されたエネルギーによってU相上側アームスイッチQUHのボディダイオードを介してU相コイル23uに一定時間だけ還流電流が流れる。その結果、通電期間P6の開始時点から一定時間だけU相端子電圧Vuが直流電源電圧Vになるリンギング現象が発生する。その後、U相端子電圧Vuは、U相コイル23uに発生する誘起電圧と一致する。通電期間P6において誘起電圧は、通電期間P6の中央、つまり通電期間P6の開始時点から三相モータ20が30°回転したタイミングで中性点電圧Vに対して低圧側から高圧側へ向かって交差する。
【0037】
上記のように、三相モータ20が360°回転する間に、通電期間P3及びP6にのみU相端子22uに誘起電圧が露出する。同様の原理により、三相モータ20が360°回転する間に、通電期間P1及びP4にのみV相端子22vに誘起電圧が露出し、通電期間P2及びP5にのみW相端子22wに誘起電圧が露出する。センサレス120°通電方式では、三相モータ20の位相を検出するために、中性点電圧Vと誘起電圧とが交差する点であるゼロクロス点を検出する必要がある。
【0038】
図3において、「Zu」は、U相端子22uに露出する誘起電圧が中性点電圧V以下になるタイミングでローレベルとなり、U相端子22uに露出する誘起電圧が中性点電圧Vより高くなるタイミングでハイレベルとなるU相ゼロクロス点検出信号である。「Zv」は、V相端子22vに露出する誘起電圧が中性点電圧V以下になるタイミングでローレベルとなり、V相端子22vに露出する誘起電圧が中性点電圧Vより高くなるタイミングでハイレベルとなるV相ゼロクロス点検出信号である。「Zw」は、W相端子22wに露出する誘起電圧が中性点電圧V以下になるタイミングでローレベルとなり、W相端子22wに露出する誘起電圧が中性点電圧Vより高くなるタイミングでハイレベルとなるW相ゼロクロス点検出信号である。
【0039】
図3において、「Hu」は、U相ゼロクロス点検出信号Zuに対して30°の位相遅れを有するU相位相検出信号である。「Hv」は、V相ゼロクロス点検出信号Zvに対して30°の位相遅れを有するV相位相検出信号である。「Hw」は、W相ゼロクロス点検出信号Zwに対して30°の位相遅れを有するW相位相検出信号である。
【0040】
なお、時間軸上で隣り合う2つのゼロクロス点の間の時間に、三相モータ20は60°回転する。そのため、時間軸上で隣り合う2つのゼロクロス点の間の時間を計測し、その計測結果の半分の時間だけU相ゼロクロス点検出信号Zuを遅らせることにより、U相ゼロクロス点検出信号Zuに対して30°の位相遅れを有するU相位相検出信号Huを生成することができる。V相位相検出信号Hv及びW相位相検出信号Hwについても同様の方法で生成できる。
【0041】
図3に示すように、U相位相検出信号Hu、V相位相検出信号Hv及びW相位相検出信号Hwのレベルは、6つの通電パターンに依存して規則的に変化することがわかる。以下では、U相位相検出信号Hu、V相位相検出信号Hv及びW相位相検出信号Hwのレベルが通電パターンに依存して変化するパターンを位相パターンと呼称する。図2に示すように、センサレス120°通電方式の位相パターンは、6つの位相パターンPB1、PB2、PB3、PB4、PB5及びPB6を含む。図2において、「H」、「H」及び「H」の列に並ぶ「1」及び「0」のうち、「1」は該当する位相検出信号がハイレベルであることを意味し、「0」は該当する位相検出信号がローレベルであることを意味する。
【0042】
センサレス120°通電方式では、3つの位相検出信号Hu、Hv及びHwに基づいて通電期間ごとに位相パターンが認識され、位相パターンの認識結果に基づいて次の通電期間で使用される通電パターンが決定される。そして、位相パターンが変化するタイミングで通電パターンが次の通電パターンに切り替えられる。
【0043】
図3に示すように、例えば通電期間P1において、位相検出信号Hu、Hv及びHwから通電期間P1の位相パターンは位相パターンPB1であることが認識される。通電期間P1の位相パターンが位相パターンPB1であるので、通電パターンPA2が次の通電期間P2で使用される通電パターンとして決定される。そして、位相パターンPB1が変化するタイミング、すなわちV相位相検出信号Hvに立下りエッジが発生するタイミングで、通電パターンが通電パターンPA1から通電パターンPA2に切り替えられる。
【0044】
センサレス120°通電方式では、上記のような通電パターンの切り替えが、三相モータ20に発生する誘起電圧を利用して生成された位相検出信号Hu、Hv及びHwに同期して60°間隔で行われることにより、ホールセンサ等の位置センサ無しで三相モータ20の回転制御を行うことができる。以下では、三相モータ20に発生する誘起電圧を利用して生成された位相検出信号Hu、Hv及びHwに同期して三相モータ20の通電制御を行うことを、「センサレス同期制御」と呼称する。
【0045】
以上がセンサレス120°通電方式の基本原理である。センサレス120°通電方式において位相検出信号Hu、Hv及びHwを生成するためには、三相モータ20の中性点電圧Vと誘起電圧とが交差する点であるゼロクロス点を検出する必要があるが、三相モータ20の回転数が所定の回転数以上でなければ、ゼロクロス点を検出可能な誘起電圧は発生しない。以下の説明において、ゼロクロス点を検出可能な誘起電圧を発生させるために最低限必要な回転数を限界最低回転数と呼称する。
【0046】
例えば、電動ポンプ装置100が低温環境下で使用される場合、冷却オイルFの粘性が高くなることに起因して三相モータ20の負荷が大きくなるため、三相モータ20を比較的低い回転数で回転させる必要がある。このような低温環境下では、限界最低回転数に近い回転数で三相モータ20を回転させる場合がある。この場合、中性点電圧V(=V/2)をゼロクロス判定レベルとして設定し、そのゼロクロス判定レベルと誘起電圧とが交差する点をゼロクロス点として検出すると、以下で説明する理由により、三相モータ20のセンサレス同期制御を安定的に行うことが困難となる可能性があることが、本願発明者の研究により判明した。
【0047】
本願発明者の研究の結果、低温環境下で限界最低回転数に近い回転数で三相モータ20を回転させる極低速回転制御が行われる場合、駆動回路11に流れる電源電流(三相モータ20に流れる駆動電流)が大きくなることに起因して、各誘起電圧の波形が歪むことが判明した。
【0048】
図4は、通電期間P3においてU相端子電圧Vuに現れる誘起電圧の波形と、通電期間P1においてV相端子電圧Vvに現れる誘起電圧の波形と、通電期間P5においてW相端子電圧Vwに現れる誘起電圧の波形とを模式的に示す図である。
【0049】
図4において、波形W1は、三相モータ20の極低速回転制御が行われた場合に、通電期間P3においてU相端子電圧Vuに現れる誘起電圧の波形である。以下では、波形W1を第1のU相誘起電圧波形と呼称する。
【0050】
図4において、波形W2は、三相モータ20の極低速回転制御が行われた場合に、通電期間P1においてV相端子電圧Vvに現れる誘起電圧の波形である。以下では、波形W2を第1のV相誘起電圧波形と呼称する。
【0051】
図4において、波形W3は、三相モータ20の極低速回転制御が行われた場合に、通電期間P5においてW相端子電圧Vwに現れる誘起電圧の波形である。以下では、波形W3を第1のW相誘起電圧波形と呼称する。
【0052】
図4において、波形W0は、ゼロクロス点を検出するのに十分な誘起電圧が発生する回転数で三相モータ20を回転させた場合に、通電期間P3においてU相端子電圧Vuに現れる誘起電圧の波形である。以下では、波形W0を第1の理想誘起電圧波形と呼称する。
【0053】
図4に示すように、三相モータ20の極低速回転制御が行われた場合、誘起電圧が下降する通電期間において各相の端子電圧に現れる誘起電圧の波形は、第1の理想誘起電圧波形W0と比較して大きく歪むことがわかる。例えば、誘起電圧が下降する通電期間において、第1のV相誘起電圧波形W2は、第1のU相誘起電圧波形W1よりも大きく歪み、第1のW相誘起電圧波形W3は、第1のV相誘起電圧波形W2よりも大きく歪む。なお、図4に示される各誘起電圧の波形は、あくまで一例である。誘起電圧が下降する通電期間において、各誘起電圧の波形に生じる歪みの大きさは、図4の例と異なる場合があり得る。
【0054】
図4において、LV0は、中性点電圧V(=V/2)に設定されたゼロクロス判定レベルである。以下では、LV0を理想ゼロクロス判定レベルと呼称する。
図4において、Pz0は、理想ゼロクロス判定レベルLV0と第1の理想誘起電圧波形W0とが交差するゼロクロス点である。以下では、Pz0を第1の理想ゼロクロス点と呼称する。
図4において、tz0は、第1の理想ゼロクロス点Pz0が検出されたタイミングである。以下では、tz0を第1の理想ゼロクロス検出タイミングと呼称する。
【0055】
図4において、Pz1は、理想ゼロクロス判定レベルLV0と第1のU相誘起電圧波形W1とが交差するゼロクロス点である。以下では、Pz1を第1のU相ゼロクロス点と呼称する。
図4において、tz1は、第1のU相ゼロクロス点Pz1が検出されたタイミングである。以下では、tz1を第1のU相ゼロクロス検出タイミングと呼称する。
図4に示すように、第1の理想誘起電圧波形W0と比較して第1のU相誘起電圧波形W1が歪むことに起因して、第1のU相ゼロクロス点Pz1が第1の理想ゼロクロス点Pz0の左側にシフトすることにより、第1のU相ゼロクロス検出タイミングtz1が第1の理想ゼロクロス検出タイミングtz0の左側にシフトする。
【0056】
図4において、Pz2は、理想ゼロクロス判定レベルLV0と第1のV相誘起電圧波形W2とが交差するゼロクロス点である。以下では、Pz2を第1のV相ゼロクロス点と呼称する。
図4において、tz2は、第1のV相ゼロクロス点Pz2が検出されたタイミングである。以下では、tz2を第1のV相ゼロクロス検出タイミングと呼称する。
図4に示すように、第1のV相誘起電圧波形W2が第1のU相誘起電圧波形W1よりも大きく歪むことに起因して、第1のV相ゼロクロス点Pz2が第1のU相ゼロクロス点Pz1の左側にシフトすることにより、第1のV相ゼロクロス検出タイミングtz2が第1のU相ゼロクロス検出タイミングtz1の左側にシフトする。
【0057】
図4において、Pz3は、理想ゼロクロス判定レベルLV0と第1のW相誘起電圧波形W3とが交差するゼロクロス点である。以下では、Pz3を第1のW相ゼロクロス点と呼称する。
図4において、tz3は、第1のW相ゼロクロス点Pz3が検出されたタイミングである。以下では、tz3を第1のW相ゼロクロス検出タイミングと呼称する。
図4に示すように、第1のW相誘起電圧波形W3が第1のV相誘起電圧波形W2よりも大きく歪むことに起因して、第1のW相ゼロクロス点Pz3が第1のV相ゼロクロス点Pz2の左側にシフトすることにより、第1のW相ゼロクロス検出タイミングtz3が第1のV相ゼロクロス検出タイミングtz2の左側にシフトする。
【0058】
図5は、通電期間P6においてU相端子電圧Vuに現れる誘起電圧の波形と、通電期間P4においてV相端子電圧Vvに現れる誘起電圧の波形と、通電期間P2においてW相端子電圧Vwに現れる誘起電圧の波形とを模式的に示す図である。
【0059】
図5において、波形W1’は、三相モータ20の極低速回転制御が行われた場合に、通電期間P6においてU相端子電圧Vuに現れる誘起電圧の波形である。以下では、波形W1’を第2のU相誘起電圧波形と呼称する。
【0060】
図5において、波形W2’は、三相モータ20の極低速回転制御が行われた場合に、通電期間P4においてV相端子電圧Vvに現れる誘起電圧の波形である。以下では、波形W2’を第2のV相誘起電圧波形と呼称する。
【0061】
図5において、波形W3’は、三相モータ20の極低速回転制御が行われた場合に、通電期間P2においてW相端子電圧Vwに現れる誘起電圧の波形である。以下では、波形W3’を第2のW相誘起電圧波形と呼称する。
【0062】
図5において、波形W0’は、ゼロクロス点を検出するのに十分な誘起電圧が発生する回転数で三相モータ20を回転させた場合に、通電期間P6においてU相端子電圧Vuに現れる誘起電圧の波形である。以下では、波形W0’を第2の理想誘起電圧波形と呼称する。
【0063】
図5に示すように、三相モータ20の極低速回転制御が行われた場合、誘起電圧が上昇する通電期間において各相の端子電圧に現れる誘起電圧の波形は、第2の理想誘起電圧波形W0’と比較して大きく歪むことがわかる。例えば、誘起電圧が上昇する通電期間において、第2のV相誘起電圧波形W2’は、第2のW相誘起電圧波形W3’よりも大きく歪み、第2のU相誘起電圧波形W1’は、第2のV相誘起電圧波形W2’よりも大きく歪む。なお、図5に示される各誘起電圧の波形は、あくまで一例である。誘起電圧が上昇する通電期間において、各誘起電圧の波形に生じる歪みの大きさは、図5に示される例と異なる場合があり得る。
【0064】
図5において、Pz0’は、理想ゼロクロス判定レベルLV0と第2の理想誘起電圧波形W0’とが交差するゼロクロス点である。以下では、Pz0’を第2の理想ゼロクロス点と呼称する。
図5において、tz0’は、第2の理想ゼロクロス点Pz0’が検出されたタイミングである。以下では、tz0’を第2の理想ゼロクロス検出タイミングと呼称する。
【0065】
図5において、Pz3’は、理想ゼロクロス判定レベルLV0と第2のW相誘起電圧波形W3’とが交差するゼロクロス点である。以下では、Pz3’を第2のW相ゼロクロス点と呼称する。
図5において、tz3’は、第2のW相ゼロクロス点Pz3’が検出されたタイミングである。以下では、tz3’を第2のW相ゼロクロス検出タイミングと呼称する。
図5に示すように、第2の理想誘起電圧波形W0’と比較して第2のW相誘起電圧波形W3’が歪むことに起因して、第2のW相ゼロクロス点Pz3’が第2の理想ゼロクロス点Pz0’の右側にシフトすることにより、第2のW相ゼロクロス検出タイミングtz3’が第2の理想ゼロクロス検出タイミングtz0’の右側にシフトする。
【0066】
図5において、Pz2’は、理想ゼロクロス判定レベルLV0と第2のV相誘起電圧波形W2’とが交差するゼロクロス点である。以下では、Pz2’を第2のV相ゼロクロス点と呼称する。
図5において、tz2’は、第2のV相ゼロクロス点Pz2’が検出されたタイミングである。以下では、tz2’を第2のV相ゼロクロス検出タイミングと呼称する。
図5に示すように、第2のV相誘起電圧波形W2’が第2のW相誘起電圧波形W3’よりも大きく歪むことに起因して、第2のV相ゼロクロス点Pz2’が第2のW相ゼロクロス点Pz3’の右側にシフトすることにより、第2のV相ゼロクロス検出タイミングtz2’が第2のW相ゼロクロス検出タイミングtz3’の右側にシフトする。
【0067】
図5において、Pz1’は、理想ゼロクロス判定レベルLV0と第2のU相誘起電圧波形W1’とが交差するゼロクロス点である。以下では、Pz1’を第2のU相ゼロクロス点と呼称する。
図5において、tz1’は、第2のU相ゼロクロス点Pz1’が検出されたタイミングである。以下では、tz1’を第2のU相ゼロクロス検出タイミングと呼称する。
図5に示すように、第2のU相誘起電圧波形W1’が第2のV相誘起電圧波形W2’よりも大きく歪むことに起因して、第2のU相ゼロクロス点Pz1’が第2のV相ゼロクロス点Pz2’の右側にシフトすることにより、第2のU相ゼロクロス検出タイミングtz1’が第2のV相ゼロクロス検出タイミングtz2’の右側にシフトする。
【0068】
上記のように、極低速回転制御が行われた場合、各相の端子電圧に現れる誘起電圧の波形が大きく歪むことに起因して、誘起電圧が下降する通電期間では、各相のゼロクロス検出タイミングが第1の理想ゼロクロス検出タイミングtz0の左側にシフトする。また、誘起電圧が上昇する通電期間では、各相のゼロクロス検出タイミングが第2の理想ゼロクロス検出タイミングtz0’の右側にシフトする。
【0069】
その結果、位相検出信号Hu、Hv及びHwの立ち上がりエッジ及び立下りエッジの発生タイミングが理想のタイミングから外れてしまい、正確に60°間隔で通電パターンの切替えを行えなくなる。これが、三相モータ20の極低速回転制御を行う場合に、中性点電圧V(=V/2)に設定されたゼロクロス判定レベルと誘起電圧とが交差する点をゼロクロス点として検出すると、三相モータ20のセンサレス同期制御を安定的に行うことが困難となる理由である。
【0070】
上記の技術課題を解決するために、本実施形態では、三相のうち少なくとも一相の誘起電圧が上昇する時と下降する時にゼロクロス判定レベルの値を変更する。以下、図6及び図7を参照しながら、誘起電圧が上昇する時と下降する時にゼロクロス判定レベルの値を変更することにより、三相モータ20のセンサレス同期制御を安定的に行うことが可能となる理由について説明する。
【0071】
図6において、LV1は、理想ゼロクロス判定レベルLV0よりも低い値を有するゼロクロス判定レベルである。以下では、LV1を第1のU相ゼロクロス判定レベルと呼称する。図6において、Pz10は、第1のU相ゼロクロス判定レベルLV1と第1のU相誘起電圧波形W1とが交差するゼロクロス点である。以下では、Pz10を第1のU相オフセットゼロクロス点と呼称する。図6に示すように、第1のU相オフセットゼロクロス点Pz10が検出されるタイミングは、第1の理想ゼロクロス検出タイミングtz0と一致する。
【0072】
図6において、LV2は、第1のU相ゼロクロス判定レベルLV1よりも低い値を有するゼロクロス判定レベルである。以下では、LV2を第1のV相ゼロクロス判定レベルと呼称する。図6において、Pz20は、第1のV相ゼロクロス判定レベルLV2と第1のV相誘起電圧波形W2とが交差するゼロクロス点である。以下では、Pz20を第1のV相オフセットゼロクロス点と呼称する。図6に示すように、第1のV相オフセットゼロクロス点Pz20が検出されるタイミングは、第1の理想ゼロクロス検出タイミングtz0と一致する。
【0073】
図6において、LV3は、第1のV相ゼロクロス判定レベルLV2よりも低い値を有するゼロクロス判定レベルである。以下では、LV3を第1のW相ゼロクロス判定レベルと呼称する。図6において、Pz30は、第1のW相ゼロクロス判定レベルLV3と第1のW相誘起電圧波形W3とが交差するゼロクロス点である。以下では、Pz30を第1のW相オフセットゼロクロス点と呼称する。図6に示すように、第1のW相オフセットゼロクロス点Pz30が検出されるタイミングは、第1の理想ゼロクロス検出タイミングtz0と一致する。
【0074】
図6に示すように、U相端子電圧Vuに現れる誘起電圧が下降する通電期間において、ゼロクロス判定レベルの値を、理想ゼロクロス判定レベルLV0から第1のU相ゼロクロス判定レベルLV1に変更することにより、U相端子電圧Vuに現れる誘起電圧とゼロクロス判定レベルとが交差するゼロクロス点の検出タイミングを、第1の理想ゼロクロス検出タイミングtz0と一致させることができる。
【0075】
また、V相端子電圧Vvに現れる誘起電圧が下降する通電期間において、ゼロクロス判定レベルの値を、理想ゼロクロス判定レベルLV0から第1のV相ゼロクロス判定レベルLV2に変更することにより、V相端子電圧Vvに現れる誘起電圧とゼロクロス判定レベルとが交差するゼロクロス点の検出タイミングを、第1の理想ゼロクロス検出タイミングtz0と一致させることができる。
【0076】
さらに、W相端子電圧Vwに現れる誘起電圧が下降する通電期間において、ゼロクロス判定レベルの値を、理想ゼロクロス判定レベルLV0から第1のW相ゼロクロス判定レベルLV3に変更することにより、W相端子電圧Vwに現れる誘起電圧とゼロクロス判定レベルとが交差するゼロクロス点の検出タイミングを、第1の理想ゼロクロス検出タイミングtz0と一致させることができる。
【0077】
図7において、LV3’は、理想ゼロクロス判定レベルLV0よりも低い値を有するゼロクロス判定レベルである。以下では、LV3’を第2のW相ゼロクロス判定レベルと呼称する。図7において、Pz30’は、第2のW相ゼロクロス判定レベルLV3’と第2のW相誘起電圧波形W3’とが交差するゼロクロス点である。以下では、Pz30’を第2のW相オフセットゼロクロス点と呼称する。図7に示すように、第2のW相オフセットゼロクロス点Pz30’が検出されるタイミングは、第2の理想ゼロクロス検出タイミングtz0’と一致する。
【0078】
図7において、LV2’は、第2のW相ゼロクロス判定レベルLV3’よりも低い値を有するゼロクロス判定レベルである。以下では、LV2’を第2のV相ゼロクロス判定レベルと呼称する。図7において、Pz20’は、第2のV相ゼロクロス判定レベルLV2’と第2のV相誘起電圧波形W2’とが交差するゼロクロス点である。以下では、Pz20’を第2のV相オフセットゼロクロス点と呼称する。図7に示すように、第2のV相オフセットゼロクロス点Pz20’が検出されるタイミングは、第2の理想ゼロクロス検出タイミングtz0’と一致する。
【0079】
図7において、LV1’は、第2のV相ゼロクロス判定レベルLV2’よりも低い値を有するゼロクロス判定レベルである。以下では、LV1’を第2のU相ゼロクロス判定レベルと呼称する。図7において、Pz10’は、第2のU相ゼロクロス判定レベルLV1’と第2のU相誘起電圧波形W1’とが交差するゼロクロス点である。以下では、Pz10’を第2のU相オフセットゼロクロス点と呼称する。図7に示すように、第2のU相オフセットゼロクロス点Pz10’が検出されるタイミングは、第2の理想ゼロクロス検出タイミングtz0’と一致する。
【0080】
図7に示すように、U相端子電圧Vuに現れる誘起電圧が上昇する通電期間において、ゼロクロス判定レベルの値を、理想ゼロクロス判定レベルLV0から第2のU相ゼロクロス判定レベルLV1’に変更することにより、U相端子電圧Vuに現れる誘起電圧とゼロクロス判定レベルとが交差するゼロクロス点の検出タイミングを、第2の理想ゼロクロス検出タイミングtz0’と一致させることができる。
【0081】
また、V相端子電圧Vvに現れる誘起電圧が上昇する通電期間において、ゼロクロス判定レベルの値を、理想ゼロクロス判定レベルLV0から第2のV相ゼロクロス判定レベルLV2’に変更することにより、V相端子電圧Vvに現れる誘起電圧とゼロクロス判定レベルとが交差するゼロクロス点の検出タイミングを、第2の理想ゼロクロス検出タイミングtz0’と一致させることができる。
【0082】
さらに、W相端子電圧Vwに現れる誘起電圧が上昇する通電期間において、ゼロクロス判定レベルの値を、理想ゼロクロス判定レベルLV0から第2のW相ゼロクロス判定レベルLV3’に変更することにより、W相端子電圧Vwに現れる誘起電圧とゼロクロス判定レベルとが交差するゼロクロス点の検出タイミングを、第2の理想ゼロクロス検出タイミングtz0’と一致させることができる。
【0083】
以上のように、誘起電圧が上昇する時と下降する時にゼロクロス判定レベルの値を変更することにより、三相モータ20の極低速回転制御を行う際に、三相の端子電圧の夫々に現れる誘起電圧の波形が歪んだとしても、ゼロクロス検出タイミングを、第1の理想ゼロクロス検出タイミングtz0または第2の理想ゼロクロス検出タイミングtz0’とほぼ一致させることができる。その結果、位相検出信号Hu、Hv及びHwの立ち上がりエッジ及び立下りエッジの発生タイミングを理想のタイミングとほぼ一致させることができ、精度良く60°間隔で通電パターンの切替えを行えるようになる。これにより、三相モータ20の極低速回転制御を行う際に、三相モータ20のセンサレス同期制御を安定的に行うことができる。
【0084】
以下、上記のセンサレス120°通電方式の基本原理の説明と、誘起電圧が上昇する時と下降する時にゼロクロス判定レベルの値を変更することにより得られる技術的効果の説明とに基づいて、本実施形態のモータ制御装置10が備える電圧検出回路12、制御部13、及び記憶部14について説明する。
【0085】
電圧検出回路12は、三相モータ20の三相の端子電圧を検出する回路である。電圧検出回路12は、三相モータ20のU相端子22u、V相端子22v及びW相端子22wのそれぞれと電気的に接続される。電圧検出回路12は、U相端子22uの電圧であるU相端子電圧Vuを検出し、その検出値を制御部13に供給する。電圧検出回路12は、V相端子22vの電圧であるV相端子電圧Vvを検出し、その検出値を制御部13に供給する。電圧検出回路12は、W相端子22wの電圧であるW相端子電圧Vwを検出し、その検出値を制御部13に供給する。一例として、電圧検出回路12は、抵抗分圧回路によって構成される。
【0086】
制御部13は、例えばMCU(Microcontroller Unit)などのマイクロプロセッサである。制御部13には、不図示の上位制御装置から出力される回転数指令信号CSが入力される。回転数指令信号CSは、三相モータ20の目標回転数を指示する信号である。制御部13は、不図示の通信バスを介して記憶部14と通信可能に接続される。詳細は後述するが、制御部13は、記憶部14に予め記憶されるプログラムに従って、回転数指令信号CSによって指示される目標回転数で三相モータ20を回転させる処理を実行する。
【0087】
制御部13は、電圧検出回路12の出力電圧をA/D変換することにより、U相端子電圧Vu、V相端子電圧Vv、およびW相端子電圧Vwをデジタルデータとして取得する。制御部13は、三相の端子電圧の夫々に現れる誘起電圧が所定のゼロクロス判定レベルと交差する点をゼロクロス点として検出し、ゼロクロス点の検出結果に基づいて駆動回路11を制御する。
【0088】
具体的には、制御部13は、U相端子電圧Vuに現れる誘起電圧がゼロクロス判定レベルと交差するゼロクロス点の検出結果に基づいて、U相ゼロクロス点検出信号Zuを生成し、U相ゼロクロス点検出信号Zuに対して30°の位相遅れを有するU相位相検出信号Huを生成する。
また、制御部13は、V相端子電圧Vvに現れる誘起電圧がゼロクロス判定レベルと交差するゼロクロス点の検出結果に基づいて、V相ゼロクロス点検出信号Zvを生成し、V相ゼロクロス点検出信号Zvに対して30°の位相遅れを有するV相位相検出信号Hvを生成する。
また、制御部13は、W相端子電圧Vwに現れる誘起電圧がゼロクロス判定レベルと交差するゼロクロス点の検出結果に基づいて、W相ゼロクロス点検出信号Zwを生成し、W相ゼロクロス点検出信号Zwに対して30°の位相遅れを有するW相位相検出信号Hwを生成する。
【0089】
制御部13は、位相検出信号Hu、Hv及びHwに基づいて通電パターンの切替えを行うとともに、三相モータ20の実回転数を目標回転数に一致させるために必要なスイッチングデューティ比を決定し、決定したスイッチングデューティ比で各アームスイッチのスイッチング制御を行う。その結果、モータ20の実回転数を目標回転数に一致させる三相交流電圧が駆動回路11から三相モータ20に供給される。
【0090】
制御部13は、三相のうち少なくとも一相の誘起電圧が上昇する時と下降する時にゼロクロス判定レベルの値を変更する。例えば、制御部13は、少なくとも一相の誘起電圧が上昇する時と下降する時とでゼロクロス判定レベルを異なる値に変更する。より具体的には、制御部13は、三相の各相の誘起電圧が上昇する時と下降する時とでゼロクロス判定レベルを異なる値に変更するとともに、各相ごとにゼロクロス判定レベルを異なる値に変更する。
【0091】
図6を参照すると、制御部13は、U相端子電圧Vuに現れる誘起電圧が下降する通電期間において、ゼロクロス判定レベルの値を、理想ゼロクロス判定レベルLV0から第1のU相ゼロクロス判定レベルLV1に変更する。
また、制御部13は、V相端子電圧Vvに現れる誘起電圧が下降する通電期間において、ゼロクロス判定レベルの値を、理想ゼロクロス判定レベルLV0から第1のV相ゼロクロス判定レベルLV2に変更する。
さらに、制御部13は、W相端子電圧Vwに現れる誘起電圧が下降する通電期間において、ゼロクロス判定レベルの値を、理想ゼロクロス判定レベルLV0から第1のW相ゼロクロス判定レベルLV3に変更する。
【0092】
図7を参照すると、制御部13は、U相端子電圧Vuに現れる誘起電圧が上昇する通電期間において、ゼロクロス判定レベルの値を、理想ゼロクロス判定レベルLV0から第2のU相ゼロクロス判定レベルLV1’に変更する。
また、制御部13は、V相端子電圧Vvに現れる誘起電圧が上昇する通電期間において、ゼロクロス判定レベルの値を、理想ゼロクロス判定レベルLV0から第2のV相ゼロクロス判定レベルLV2’に変更する。
さらに、制御部13は、W相端子電圧Vwに現れる誘起電圧が上昇する通電期間において、ゼロクロス判定レベルの値を、理想ゼロクロス判定レベルLV0から第2のW相ゼロクロス判定レベルLV3’に変更する。
【0093】
記憶部14は、制御部13に各種処理を実行させるのに必要なプログラムおよび各種設定データなどを記憶する不揮発性メモリと、制御部13が各種処理を実行する際にデータの一時保存先として使用される揮発性メモリとを含む。不揮発性メモリは、例えばEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)又はフラッシュメモリなどである。揮発性メモリは、例えばRAM(Random Access Memory)などである。
【0094】
記憶部14は、センサレス120°通電方式によって三相モータ20を制御するのに必要な各種データを記憶する。例えば、記憶部14は、図2に示す通電パターン及び位相パターンを予め記憶する。また、記憶部14は、理想ゼロクロス判定レベルLV0の値を予め記憶する。
【0095】
記憶部14は、誘起電圧の下降と三相の第1相との組み合わせに対応する第1候補値を記憶する。例えば、第1候補値は、誘起電圧の下降とU相との組み合わせに対応する第1のU相ゼロクロス判定レベルLV1の値である。
【0096】
記憶部14は、誘起電圧の下降と三相の第2相との組み合わせに対応する第2候補値を記憶する。例えば、第2候補値は、誘起電圧の下降とV相との組み合わせに対応する第1のV相ゼロクロス判定レベルLV2の値である。
【0097】
記憶部14は、誘起電圧の下降と三相の第3相との組み合わせに対応する第3候補値を記憶する。例えば、第3候補値は、誘起電圧の下降とW相との組み合わせに対応する第1のW相ゼロクロス判定レベルLV3の値である。
【0098】
記憶部14は、誘起電圧の上昇と三相の第1相との組み合わせに対応する第4候補値を記憶する。例えば、第4候補値は、誘起電圧の上昇とU相との組み合わせに対応する第2のU相ゼロクロス判定レベルLV1’の値である。
【0099】
記憶部14は、誘起電圧の上昇と三相の第2相との組み合わせに対応する第5候補値を記憶する。例えば、第5候補値は、誘起電圧の上昇とV相との組み合わせに対応する第2のV相ゼロクロス判定レベルLV2’の値である。
【0100】
記憶部14は、誘起電圧の上昇と三相の第3相との組み合わせに対応する第6候補値を記憶する。例えば、第6候補値は、誘起電圧の上昇とW相との組み合わせに対応する第2のW相ゼロクロス判定レベルLV3’の値である。
【0101】
制御部13は、記憶部14に記憶された第1候補値から第6候補値のうち、上記の6つの組み合わせの1つに対応する候補値を記憶部14から読み出し、読み出した候補値にゼロクロス判定レベルの値を変更する。
【0102】
次に、図8を参照しながら、低温環境下で制御部13によって実行される三相モータ20の極低速回転制御について詳細に説明する。図8は、極低速回転制御に含まれる各処理を示すフローチャートである。制御部13は、回転数指令信号CSによって指示される目標回転数が限界最低回転数に近い回転数である場合に、三相モータ20の極低速回転制御を開始する。一例として、限界最低回転数に近い回転数は、300rpmから600rpmである。なお、極低速回転制御の開始時に三相モータ20は停止状態にある。
【0103】
図8に示すように、制御部13は、極低速回転制御を開始すると、まず、三相モータ20のロータのアライメントを行い(ステップS1)、ロータのアライメントの終了後に三相モータ20の強制転流制御を開始する(ステップS2)。
【0104】
センサレス120°通電方式で三相モータ20を起動する場合、三相モータ20の回転数が、ゼロクロス点を検出可能な誘起電圧が発生する限界最低回転数に達するまで、位相検出信号Hu、Hv及びHwを生成できないため、三相モータ20のセンサレス同期制御を行うことができない。そのため、センサレス120°通電方式で三相モータ20を起動する場合、三相モータ20の回転数が限界最低回転数に達するまで、予め決められた起動シーケンスに従って三相モータ20の通電制御を行う必要がある。
【0105】
起動シーケンスの一例として、三相モータ20に対して直流励磁を所定時間行うことによりロータの位置を特定の位置(モータ制御状態の一つに対応する位置)にアライメントした後、通電相に所定の駆動電圧を印加しながら所定の強制転流周波数で強制的に通電相(通電パターン)を切り替える強制転流制御を行う起動シーケンスが一般的に知られている。ステップS1及びS2の処理は、上記のように公知の起動シーケンスに含まれる処理であるので、詳細な説明は省略する。
【0106】
強制転流制御が開始されると、三相モータ20の回転数は強制転流周波数に対応する回転数へ向かって徐々に上昇する。制御部13は、強制転流制御を開始すると、現在の通電期間において誘起電圧が発生する相を判定するとともに、現在の通電期間が、誘起電圧が上昇する期間なのか下降する期間なのかを判定する(ステップS3)。そして、制御部13は、ステップS3の実行によって得られる判定結果に基づいて、ゼロクロス判定レベルの値を変更する(ステップS4)。
【0107】
例えば、制御部13は、現在の通電期間において誘起電圧が発生する相がU相であり、且つ現在の通電期間が、誘起電圧が下降する期間である場合、記憶部14から第1候補値を読み出し、読み出した第1候補値、すなわち第1のU相ゼロクロス判定レベルLV1の値にゼロクロス判定レベルの値を変更する。
【0108】
例えば、制御部13は、現在の通電期間において誘起電圧が発生する相がV相であり、且つ現在の通電期間が、誘起電圧が下降する期間である場合、記憶部14から第2候補値を読み出し、読み出した第2候補値、すなわち第1のV相ゼロクロス判定レベルLV2の値にゼロクロス判定レベルの値を変更する。
【0109】
例えば、制御部13は、現在の通電期間において誘起電圧が発生する相がW相であり、且つ現在の通電期間が、誘起電圧が下降する期間である場合、記憶部14から第3候補値を読み出し、読み出した第3候補値、すなわち第1のW相ゼロクロス判定レベルLV3の値にゼロクロス判定レベルの値を変更する。
【0110】
例えば、制御部13は、現在の通電期間において誘起電圧が発生する相がU相であり、且つ現在の通電期間が、誘起電圧が上昇する期間である場合、記憶部14から第4候補値を読み出し、読み出した第4候補値、すなわち第2のU相ゼロクロス判定レベルLV1’の値にゼロクロス判定レベルの値を変更する。
【0111】
例えば、制御部13は、現在の通電期間において誘起電圧が発生する相がV相であり、且つ現在の通電期間が、誘起電圧が上昇する期間である場合、記憶部14から第5候補値を読み出し、読み出した第5候補値、すなわち第2のV相ゼロクロス判定レベルLV2’の値にゼロクロス判定レベルの値を変更する。
【0112】
例えば、制御部13は、現在の通電期間において誘起電圧が発生する相がW相であり、且つ現在の通電期間が、誘起電圧が上昇する期間である場合、記憶部14から第6候補値を読み出し、読み出した第6候補値、すなわち第2のW相ゼロクロス判定レベルLV3’の値にゼロクロス判定レベルの値を変更する。
【0113】
制御部13は、上記のようにゼロクロス判定レベルの値を変更した後、各相の端子電圧Vu、Vv及びVwに現れる誘起電圧がゼロクロス判定レベルと交差する点をゼロクロス点として検出する処理を開始し、ゼロクロス点がn回連続して検出されたか否かを判定する(ステップS5)。nは、2以上の整数である。
なお、制御部13は、各相のゼロクロス点の検出結果に基づいて各相のゼロクロス点検出信号Zu、Zv及びZwを生成する処理と、各相のゼロクロス点検出信号Zu、Zv及びZwに基づいて各相の位相検出信号Hu、Hv及びHwを生成する処理とを開始する。
【0114】
強制転流制御の開始後に、三相モータ20の回転数が限界最低回転数に到達すると、各相の端子電圧Vu、Vv及びVwに比較的大きな誘起電圧が現れ始めることにより、ゼロクロス点が検出され始める。ステップS5においてゼロクロス点がn回連続して検出されたと判定された場合、三相モータ20が限界最低回転数以上の回転数で安定的に回転し始めたと推定される。
【0115】
上記ステップS5において「No」の場合、すなわちゼロクロス点の連続検出回数がn回未満である場合、三相モータ20は、まだ、限界最低回転数以上の回転数で安定的に回転し始めていないと推定される。この場合、制御部13は、ステップS3の処理に戻る。
【0116】
一方、上記ステップS5において「Yes」の場合、すなわちゼロクロス点の連続検出回数がn回に到達した場合、三相モータ20は、限界最低回転数以上の回転数で安定的に回転し始めたと推定される。この場合、制御部13は、位相検出信号Hu、Hv及びHwに基づいて現在の通電期間の位相パターンを認識し、位相パターンの認識結果に基づいて次の通電期間で使用すべき通電パターンを決定する(ステップS6)。
【0117】
例えば、図3に示すように、通電期間P1においてV相端子電圧Vvに現れる誘起電圧とゼロクロス判定レベルとが交差するゼロクロス点が検出されたときに、ゼロクロス点の連続検出回数がn回に到達したと仮定する。なお、図3では、ゼロクロス判定レベルは中性点電位V(=V/2)に設定されているが、ステップS3及びS4の処理により、通電期間P1におけるゼロクロス判定レベルの値は、第1のV相ゼロクロス判定レベルLV2の値に変更される。
【0118】
このように通電期間P1においてゼロクロス点の連続検出回数がn回に到達した場合、制御部13は、位相検出信号Hu、Hv及びHwに基づいて現在の通電期間P1の位相パターンを認識する。通電期間P1において、位相検出信号Hu及びHvはそれぞれハイレベル(「1」)であり、位相検出信号Hwはローレベル(「0」)である。この場合、制御部13は、記憶部14に記憶された位相パターン(図2参照)を参照することにより、現在の通電期間P1の位相パターンがPB1であると認識する。
【0119】
そして、制御部13は、位相パターンの認識結果に基づいて次の通電期間で使用すべき通電パターンを決定する。例えば、上記のように、制御部13は現在の通電期間P1の位相パターンがPB1であると認識した場合、記憶部14に記憶された通電パターン(図2参照)を参照することにより、通電パターンPA2を次の通電期間で使用すべき通電パターンとして決定する。
【0120】
制御部13は、次の通電期間で使用すべき通電パターンを決定した後、位相検出信号Hu、Hv及びHwのいずれかのレベルが変化したタイミングで、通電パターンをステップS6で決定された通電パターンに切り替える(ステップS7)。例えば、上記のように通電期間P1においてゼロクロス点の連続検出回数がn回に到達した場合、V相端子電圧Vvに現れる誘起電圧に基づくゼロクロス検出タイミングから三相モータ20が30°回転したときに、位相検出信号Hvのレベルがハイレベルからローレベルに変化する(図3の時刻t11参照)。従って、この場合、制御部13は、位相検出信号Hvに立ち下がりエッジが発生するタイミング(時刻t11)で、通電パターンをステップS6で決定された通電パターンPA2に切り替える。
【0121】
なお、制御部13は、通電パターンの切替えとともに、三相モータ20の実回転数を目標回転数に一致させるために必要なスイッチングデューティ比を決定し、決定したスイッチングデューティ比で各アームスイッチのスイッチング制御を行う。例えば、上記のように通電パターンが通電パターンPA2に切り替えられた場合、制御部13は、U相上側アームスイッチQUH及びV相下側アームスイッチQVLをオンに制御するとともに、残りのアームスイッチをオフに制御する(図2参照)。通電パターンPA2の場合、制御部13は、U相上側アームスイッチQUHのみ、決定されたスイッチングデューティ比でスイッチング制御する(図3参照)。その結果、三相モータ20の実回転数を目標回転数に一致させる三相交流電圧が駆動回路11から三相モータ20に供給される。
【0122】
以降、制御部13は、位相検出信号Hu、Hv及びHwに同期して60°間隔で通電パターンの切り替え及び各アームスイッチのスイッチング制御を行うことにより、三相モータ20を目標回転数で回転させる。このように、ステップS6以降、制御部13は、位相検出信号Hu、Hv及びHwに同期して三相モータ20を制御するセンサレス同期制御を開始する。
【0123】
以上のように、本実施形態におけるモータ制御装置10は、三相の端子電圧の夫々に現れる誘起電圧が所定のゼロクロス判定レベルと交差する点をゼロクロス点として検出し、ゼロクロス点の検出結果に基づいて駆動回路11を制御する制御部13を備え、制御部13は、三相のうち少なくとも一相の誘起電圧が上昇する時と下降する時にゼロクロス判定レベルの値を変更する。
低温環境下で限界最低回転数に近い回転数で三相モータ20を回転させる場合、誘起電圧が上昇する時と下降する時とで、ゼロクロス判定レベルが理想値(直流電源電圧Vの1/2)からずれる。そのため、本実施形態のように、三相のうち少なくとも一相の誘起電圧が上昇する時と下降する時にゼロクロス判定レベルの値を変更することにより、ゼロクロス検出タイミングを理想のタイミングとほぼ一致させることができ、精度良く60°間隔で通電パターンの切替えを行えるようになる。従って、本実施形態によれば、低温環境下で限界最低回転数に近い回転数で三相モータ20を回転させる場合でも、三相モータ20のセンサレス同期制御を安定的に行うことができる。
【0124】
また、本実施形態において、制御部13は、少なくとも一相の誘起電圧が上昇する時と下降する時とでゼロクロス判定レベルを異なる値に変更する。
誘起電圧が上昇する時と下降する時とでゼロクロス判定レベルが理想値からずれる量が異なる。そのため、本実施形態のように、誘起電圧が上昇する時と下降する時とでゼロクロス判定レベルを異なる値に変更することにより、誘起電圧が上昇する時と下降する時とのそれぞれで、ゼロクロス検出タイミングを理想のタイミングとほぼ一致させることができ、より精度良く60°間隔で通電パターンの切替えを行えるようになる。
【0125】
また、本実施形態において、制御部13は、三相の各相の誘起電圧が上昇する時と下降する時とでゼロクロス判定レベルを異なる値に変更するとともに、各相ごとにゼロクロス判定レベルを異なる値に変更する。
誘起電圧が上昇する時と下降する時とで各相ごとにゼロクロス判定レベルが理想値からずれる量が異なる。そのため、本実施形態のように、誘起電圧が上昇する時と下降する時とでゼロクロス判定レベルを異なる値に変更するだけでなく、各相ごとにゼロクロス判定レベルを異なる値に変更することにより、各相ごとにゼロクロス検出タイミングを理想のタイミングとほぼ一致させることができ、より精度良く60°間隔で通電パターンの切替えを行えるようになる。
【0126】
また、本実施形態のモータ制御装置10は、誘起電圧の上昇と三相の第1相との組み合わせに対応する第1候補値と、誘起電圧の上昇と三相の第2相との組み合わせに対応する第2候補値と、誘起電圧の上昇と三相の第3相との組み合わせに対応する第3候補値と、誘起電圧の下降と第1相との組み合わせに対応する第4候補値と、誘起電圧の下降と第2相との組み合わせに対応する第5候補値と、誘起電圧の下降と第3相との組み合わせに対応する第6候補値と、を記憶する記憶部14を備える。制御部13は、第1候補値から第6候補値のうち、6つの組み合わせの1つに対応する候補値を記憶部14から読み出し、読み出した候補値にゼロクロス判定レベルの値を変更する。
このような本実施形態によれば、簡単な処理によってゼロクロス判定レベルの値を変更することができる。簡単な処理によってゼロクロス判定レベルの値を変更することができるため、制御部13の処理負荷を軽減できる。
【0127】
〔変形例〕
本発明は上記実施形態に限定されず、本明細書において説明した各構成は、相互に矛盾しない範囲内において、適宜組み合わせることができる。
上記実施形態では、本発明の電動ポンプ装置として、ハイブリッド車両に搭載される駆動用モータに冷却オイルFを供給する電動ポンプ装置100を例示したが、本発明の電動ポンプ装置はこれに限定されず、例えばトランスミッションにオイルを供給する電動ポンプ装置などにも本発明を適用するこができる。また、電動ポンプから吐出される流体は冷却オイル等のオイルに限定されない。また、本発明のモータ制御装置は、電動ポンプ装置以外の装置に搭載された三相モータを制御する制御装置として使用してもよい。
【符号の説明】
【0128】
10…モータ制御装置、11…駆動回路、12…電圧検出回路(電圧検出部)、13…制御部、14…記憶部、20…三相モータ、30…ポンプ、40…電動ポンプ、100…電動ポンプ装置、200…直流電源、F…冷却オイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8