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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058324
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】魚肉を含む麺状食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20240418BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20240418BHJP
【FI】
A23L17/00 101A
A23L7/109 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165608
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000132172
【氏名又は名称】株式会社スギヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】島 寛明
(72)【発明者】
【氏名】篠木 遥渚
(72)【発明者】
【氏名】野田 實
(72)【発明者】
【氏名】杉野 浩也
(72)【発明者】
【氏名】杉野 哲也
【テーマコード(参考)】
4B034
4B046
【Fターム(参考)】
4B034LC05
4B034LE15
4B034LK02X
4B034LK07X
4B034LK16X
4B034LK17X
4B034LP20
4B046LA01
4B046LC01
4B046LG01
4B046LG03
4B046LG15
4B046LG40
(57)【要約】
【課題】本発明は、麺としての形状を良好に保つことが可能であり、表面にざらつきがなく、のどごしや食感などに優れている、魚肉由来材料を豊富に含む麺を提供する。
【解決手段】魚肉由来材料、アルギン酸塩、および、デンプン(必要に応じてアルギン酸以外の塩)を含む調合肉を作製し、麺状に成形した後、カルシウム塩を含む水溶液に浸漬することによって、上記課題を解決した。本発明においては、浸漬する水溶液中のカルシウム濃度および浸漬時間を適切にすることによって、麺としての形状を良好に保つことが可能であり、表面にざらつきがなく、のどごしや食感などに優れている、魚肉由来材料を豊富に含む麺を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉由来材料を含む麺状製品の製造方法であって、以下:
1)魚肉由来材料、アルギン酸塩、アルギン酸塩以外の塩、および、デンプンを含む調合肉を調製する工程;
2)上記(1)において調製した前記調合肉を麺状に成形する工程;および、
3)上記(2)において麺状に成形した前記調合肉を、カルシウム塩を含む水溶液に浸漬する工程、
を含む方法であって、
ここで、カルシウム塩の塩化カルシウム換算濃度が0.30重量%以上であり、
(カルシウム塩の塩化カルシウム換算濃度[重量%])×(時間[分])が、0.2以上かつ5以下である、方法。
【請求項2】
前記カルシウム塩の塩化カルシウム換算濃度が5.0重量%以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記調合肉がα化デンプンを含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記調合肉が0.010重量%~1.0重量%のアルギン酸ナトリウムと等モル濃度のアルギン酸塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記アルギン酸塩が、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記カルシウム塩が、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記調合肉が、魚肉すり身100.0重量部、食塩3.0重量部、冷水50.0重量部、デンプン20.0重量部、および、アルギン酸ナトリウム0.87重量部を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記調合肉が、魚肉すり身100.0重量部、食塩3.0重量部、冷水100.0重量部、デンプン80.0重量部、および、アルギン酸ナトリウム1.0重量部を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記調合肉が、魚肉すり身100.0重量部、食塩3.0重量部、冷水50.0重量部、デンプン20.0重量部、および、アルギン酸ナトリウム0.35重量部~1.75重量部を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記調合肉が、魚肉すり身100.0重量部、食塩3.0重量部、冷水75.0重量部、デンプン40.0重量部、および、アルギン酸ナトリウム1.0重量部を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法によって製造された、魚肉由来材料を含む麺状製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚肉を含む麺状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
魚肉、例えば、魚肉すり身は、タンパク質が豊富であるのみならず多種多様な栄養素を含むため、食品の原料として非常に優れている。魚肉すり身は、主にかまぼこなど練り製品の原料として使用されている。
【0003】
魚肉を麺状食品とする試みも行われている。特許文献1(特開昭60-130361)では、魚肉由来の生成物と小麦粉を用いた麺類の製造を開示しているが、小麦粉100重量部に対して固形分換算で魚肉由来の生成物が10重量部より多いと製めん性に問題が生じやすいという問題が生じていたため、魚肉由来の生成物を含む麺としての実用性に欠けていた(特許文献1、4頁右上欄4~10行)。特許文献2(特開昭56-55162)では、魚肉を含む麺状の凝固物が開示され、凝固物を形成するために塩化カルシウム水溶液に浸漬しているが(特許文献2、11頁左上欄1行~右上欄5行)、内部のゲル化が進行し魚肉の弾力や食感が失われていた。特許文献3(特開2011-110024)では、魚肉を使用しておらず、80℃に加熱した塩化カルシウム溶液中に吐出して麺状食品を生成している(特許文献3、段落[0026])。しかしこの方法では、魚肉を使用した場合、ざらついた表面となり、また、この方法で生成した麺状食品は、軟質化を防ぐために、さらに食塩を含有する溶液中での処理が必要となる(特許文献3、段落[0004]~[0008])。また、特許文献4(特開2006-75016)では、麺状食品のコシやのどごしなどを改善するためにデンプンとα化デンプンを使用している(特許文献4、段落[0006]~[0007])。しかしながら、特許文献4の麺状食品は、α化でんぷんによって生じたぬめりによってのどごしがよいが、麺表面の肌理の細かさは物足りないものであるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60-130361
【特許文献2】特開昭56-55162
【特許文献3】特開2011-110024
【特許文献4】特開2006-7501
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、魚肉を使用した従来の麺状食品は、食品として利用するには多くの改善が必要とされ、また、その形状をゲル化させるためにすぐに加熱を施さなければ麺の形状を保つことが出来なかった。そのため、加熱前の状態での市販・流通が困難であった。また従来の麺状食品は、麺の表面にざらつきが生じたり、のどごしや食感が悪くなることが問題であった。本発明は、これら魚肉を使用した従来の麺状食品の問題点の1つ以上を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アルギン酸ナトリウムのような1価のアルギン酸塩を混合した魚肉由来の生成物(例えば、かまぼこの原料となり得る魚肉すり身、食塩、水、デンプンを含むペースト)を、麺状に押し出して形成するのと同時に、塩化カルシウムや乳酸カルシウムの水溶液に浸漬することにより、麺形状のまま表面をゲル化させ、その後、熱水等で内部まで加熱することによって、これまでにない、均一な表面を維持したまま、光沢があって、のど越しの良い魚肉麺を製造する。麺の食感は、加水量やデンプン、加工デンプンなどで調整することが可能である。
【0007】
代表的には、本発明の麺状食品は、魚肉を含む調合肉を麺状とし、この麺を浸漬液に浸漬することによって、従来の魚肉成分含有麺状食品の問題点の1つ以上を改善した麺状食品である。この麺状食品は、直ちに、あるいは、保存後に、熱湯で加熱することによって食用に供される。
【0008】
麺を作製するための魚肉を含む調合肉は、魚肉すりみのような魚肉由来材料を含む。あるいは、麺を作製するための魚肉を含む調合肉は、魚肉の落とし身由来の材料を含んでもよい。
【0009】
(調合肉の成分)
調合肉は、重量5%~100重量%の魚肉由来材料を含み、好ましくは30重量%~70重量%の魚肉由来材料を含む。
【0010】
調合肉は、アルギン酸塩以外の塩(例えば、食塩)を含んでもよい。本発明の調合肉の作製において塩を使用する場合、その添加量は、目的とする塩味に応じて、適宜選択される。使用する塩は、塩化ナトリウムを主な成分(95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または、99%以上)とするが、その他の塩(例えば、カルシウム・カリウム・マグネシウム・ナトリウムの硫酸塩、炭酸塩、臭化物塩、カルシウム・カリウム・マグネシウムの塩化物)を含んでもよい。調合肉が塩を含む場合、魚肉すり身に対して1重量%~10重量%の塩、好ましくは2重量%~5重量%の塩、より好ましくは2.5重量%~3重量%の塩を含む。
【0011】
調合肉は、デンプンを含んでも含まなくてもよい。調合肉がデンプンを含む場合、その割合は、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは6重量%~30重量%である。また、調合肉はα化デンプンを含んでも含まなくてもよい。一つの局面において、調合肉はα化デンプンを含まない。
【0012】
調合肉は、アルギン酸塩を含む。アルギン酸塩としては、精製されたアルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、あるいはこれらの混合物を使用することができる。
【0013】
調合肉の調製においては、アルギン酸塩として、アルギン酸塩を多く含む材料(例えば、海藻ペーストのような海藻由来の材料)を、精製されたアルギン酸塩の代わり、もしくは追加配合として用いることも可能である(海藻ペーストの調製法は、例えば、特開2009-27931「海藻ペーストの製造方法及びその方法によって得られた海藻ペースト」に記載される)。
【0014】
アルギン酸ナトリウムを使用する場合、調合肉は、0.010重量%~1.0重量%のアルギン酸ナトリウム、好ましくは0.2重量%~0.8%のアルギン酸ナトリウムを含む。調合肉が、アルギン酸ナトリウム以外のアルギン酸塩を含む場合、上記のアルギン酸ナトリウムと等モル濃度のアルギン酸を含むことが好ましい。
【0015】
(塩摺りによる調合肉の調製)
調合肉は、魚肉由来材料、デンプン、アルギン酸塩、水、及び必要に応じて塩を加えた後、均一となるように混合し、さらに、魚肉由来材料をすりつぶすことによって調製できる。あるいは、調合肉は、魚肉由来材料にアルギン酸塩以外の塩を加えて混合し、魚肉由来材料のすりつぶし(塩ずり)をした後、アルギン酸塩を含む残りの材料を添加して均一に混合することによって得られる。好ましくは、本発明の調合肉はα化デンプンを含まない。
【0016】
調合肉は、魚肉由来材料にアルギン酸塩以外の塩を加えて混合(塩ずり)し、魚肉由来材料をすりつぶした後、アルギン酸塩を含む残りの材料を添加して均一に混合することによって得られる。あるいは、調合肉は、魚肉由来材料、デンプン、アルギン酸塩、水、及び塩を加えた後、均一となるように混合し、さらに、魚肉由来材料をすりつぶすことによって調製できる。
【0017】
(麺の成形)
本発明において、調合肉を麺状に成形する場合、目的に応じてその直径を適宜調整する。
一般的に、そうめんであれば直径1.0~1.2mm、うどんであれば直径2.0mm~3.8mm、ひらめんであれば幅5.0~7.5mmが主な形状とされるが、それらに限られない。直径0.8mm~12mm、または厚み0.8~10.0mmと幅0.8~10.0mmを組みあわせた形状とすることができる。
【0018】
(麺の浸漬)
本発明では、上記のとおり成形した麺を浸漬液に浸漬する。浸漬液は、カルシウム塩を含む水溶液である。カルシウム塩としては、例えば、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウムが使用可能である。塩化カルシウムを使用する場合、浸漬液は、0.3重量%以上の塩化カルシウム、0.4重量%以上の塩化カルシウム、0.5重量%以上の塩化カルシウム、または、0.6重量%以上の塩化カルシウムを含み得る。また塩化カルシウムを使用する場合、浸漬液は、10重量%の塩化カルシウム、9重量%の塩化カルシウム、8重量%の塩化カルシウム、7重量%の塩化カルシウム、6重量%の塩化カルシウム、5重量%の塩化カルシウム、4重量%の塩化カルシウム、または、3重量%の塩化カルシウムを含み得る。浸漬液は、好ましくは0.3重量%~5.0重量%の塩化カルシウム、より好ましくは0.5重量%~2.0重量%の塩化カルシウムを含み得る。浸漬液が、塩化カルシウム以外のカルシウム塩を含む場合、上記の塩化カルシウムと等モル量のカルシウムを含むことが好ましい。
【0019】
浸漬は、一般的には、0℃~60℃、好ましくは0℃~40℃で行われるが、調合肉の原料に適合するように、適宜調整し得る。例えばスケソウダラの場合、50~70℃にさられると「戻り」現象が発生し、蒲鉾のゲル強度が失われるため好ましくないが、原料の魚種よっては好ましい場合もある。
【0020】
浸漬条件は、例えば、塩化カルシウム濃度(重量%)×浸漬時間(分)を好ましい範囲にすることによって、設定することができる。浸漬における塩化カルシウム濃度(重量%)×浸漬時間(分)は、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、1以上であり得、そして、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下であり得る。浸漬における塩化カルシウム濃度(重量%)×浸漬時間(分)は、0.1~10、好ましくは0.5~6であり得る。
【0021】
(塩化カルシウム換算濃度)
浸漬液が、塩化カルシウム以外のカルシウム塩を含む場合、カルシウム塩の濃度は、塩化カルシウム換算濃度として表すことができる。塩化カルシウム以外のカルシウム塩の塩化カルシウム換算濃度「C重量%」は、終濃度C重量%の塩化カルシウム水溶液と同モル濃度のカルシウム濃度を提供する、塩化カルシウム以外のカルシウム塩の濃度をいう。例えば、塩化カルシウムのモル質量は110.98g/molであり、乳酸カルシウムのモル質量は218.22g/molであることから、塩化カルシウム換算濃度「C重量%」を達成する乳酸カルシウムの濃度は、C×218.22/110.98重量%である。
【0022】
(浸漬した麺の茹で上げ)
上記のとおり浸漬した麺は、直ちに、あるいは、保存後に茹で上げることにより、食用に供することができる。浸漬した麺は、通常の麺と同様の条件で、好みの固さに適した条件で、茹で上げることができる。また、麺内部が加熱によってゲル化するまでは麺の内部が比較的弱い状態なので、麺が切れたり変形しないように操作する。茹で上げた麺は、うどん、冷や麦、素麺、そば、沖縄そば、中華麺、または、パスタ(ロングパスタ)、ラグマン、シュペッツレ、および、ライスヌードルなどとして利用することができる。
【0023】
(海藻ペースト)
本発明では、アルギン酸塩として海藻ペーストを使用することもできる。海藻ペーストが、例えば、特開2009-27931に記載される方法によって調製することができる。具体的には、例えば、以下の方法によって海藻ペーストを調製することができる。
【0024】
(1:ワカメペーストの製造)
流水下で洗浄後、水戻ししたワカメ(水分含有量90%)10kgをタンクに入れ、さらにクエン酸ナトリウムを0.2kg添加し、さらに水5kgを加え、ステファンカッターで5分間、真空度400mmHgの雰囲気下でカッター処理をすることにより、滑らかなワカメペーストが得られる。得られたワカメペーストの粒度は、代表的には、平均粒径は13μmである。
【0025】
(2:コンブペーストの製造)
流水下で洗浄後、水気を除去したコンブ(水分含有量70%)10kgをタンクに入れ、さらにクエン酸ナトリウムを0.6kg添加し、さらに水30kgを加え、ステファンカッターで20分間、真空度400mmHgの雰囲気下でカッター処理をすることによって、コンブペーストを調製することができる。代表的には、得られたコンブペーストの平均粒径は64μmであり、滑らかなコンブペーストが得られる。
【0026】
本発明において海藻ペーストを使用する場合、その使用量は、海藻ペーストに含まれるアルギン酸の量から同量のアルギン酸を含むアルギン酸ナトリウムの量を算出し、上記で規定する好ましいアルギン酸ナトリウムの量を含むように、決定することができる。
【0027】
上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する:
(項目1)
魚肉由来材料を含む麺状製品の製造方法であって、以下:
1)魚肉由来材料、アルギン酸塩、アルギン酸塩以外の塩、および、デンプンを含む調合肉を調製する工程;
2)上記(1)において調製した前記調合肉を麺状に成形する工程;および、
3)上記(2)において麺状に成形した前記調合肉を、カルシウム塩を含む水溶液に浸漬する工程、
を含む方法であって、
ここで、カルシウム塩の塩化カルシウム換算濃度が0.30重量%以上であり、
(カルシウム塩の塩化カルシウム換算濃度[重量%])×(時間[分])が、0.2以上かつ5以下である、方法。
(項目2)
前記カルシウム塩の塩化カルシウム換算濃度が5.0重量%以下である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記調合肉がα化デンプンを含まない、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記調合肉が0.010重量%~1.0重量%のアルギン酸ナトリウムと等モル濃度のアルギン酸塩を含む、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記アルギン酸塩が、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、およびこれらの混合物からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記カルシウム塩が、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム、およびこれらの混合物からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記調合肉が、魚肉すり身100.0重量部、食塩3.0重量部、冷水50.0重量部、デンプン20.0重量部、および、アルギン酸ナトリウム0.87重量部を含む、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記調合肉が、魚肉すり身100.0重量部、食塩3.0重量部、冷水100.0重量部、デンプン80.0重量部、および、アルギン酸ナトリウム1.0重量部を含む、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記調合肉が、魚肉すり身100.0重量部、食塩3.0重量部、冷水50.0重量部、デンプン20.0重量部、および、アルギン酸ナトリウム0.35重量部~1.75重量部を含む、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記調合肉が、魚肉すり身100.0重量部、食塩3.0重量部、冷水75.0重量部、デンプン40.0重量部、および、アルギン酸ナトリウム1.0重量部を含む、項目1に記載の方法。
(項目11)
項目1に記載の方法によって製造された、魚肉由来材料を含む麺状製品。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、麺としての形状を良好に保つことが可能であり、表面にざらつきがなく、のどごしや食感などに優れている、魚肉由来材料を豊富に含む麺を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。また、本明細書において「wt%」は、「重量%」または「質量パーセント濃度」と互換可能に使用される。「%」は、特に明記されない場合、「wt%」または「w/w%」または「質量パーセント濃度」を意味する。
【0030】
本発明では、以下のとおり用語を定義する。
【0031】
(魚肉すり身)
本発明で使用する場合、「魚肉すり身」は、市販の魚肉すり身(例えば、冷凍魚肉すり身)を包含する。冷凍魚肉すり身を使用する場合、一般的には、水晒しによって生の魚肉から血液および脂分を除き、裏ごしした後、脱水をすることによって製造される。
【0032】
本発明では、水産練製品の原料に広く使用されている魚肉すり身が適している。例えば、魚肉すり身は市販のすり身を用いることができ、グチ、スケソウダラ、エソ、アジ、サバ、イワシ、ひらめ、イトヨリ、キンメダイ、ホッケ、タラ、メルルーサ等を常法により製造されたものを1種又は2種以上用いることができる。好ましくは、スケソウダラ由来のすり身を50%以上用いることが好ましい。なお、魚肉すり身とは、魚体より肉質部分を取り分け、その肉質部分を粗砕して水中に分散させて水溶性蛋白質を取り除いた荒ずりすり身、これに食塩を加えて更に擂り潰した塩ずりすり身、これらを冷凍した冷凍すり身等を含む。
【0033】
(魚肉由来材料)
本発明で使用する場合、「魚肉由来材料」とは、魚肉を含む原料から血液および脂分および皮を取り除いた材料をいう。魚肉由来材料は、血液および脂分および皮を完全に除去することは必ずしも必要ではなく、血液、脂分および/または皮を含む魚肉であってもよい。好ましい魚肉由来材料は魚肉すり身である。
【0034】
(デンプン)
本発明で使用する場合、「デンプン」とは、化学式(C10の炭水化物(多糖類)で、多数のα-グルコース分子がグリコシド結合によって重合した天然高分子化合物をいう。本発明で使用するデンプンの原料となる植物としては、ジャガイモ(馬鈴薯)、小麦、トウモロコシ、サツマイモ(甘藷)、米、キャッサバ、クズ(葛)、カタクリ(片栗)、緑豆、サゴヤシ、ワラビ(蕨)、オオウバユリ(大姥百合)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
(アルギン酸塩)
本発明で使用する場合、「アルギン酸塩」とは、精製されたアルギン酸塩、アルギン酸塩を含む材料、および、精製されたアルギン酸塩とアルギン酸塩を含む材料の混合物からなる群から選択される物質をいう。精製されたアルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、あるいはこれらの混合物が挙げられるがこれらに限定されない。また、アルギン酸塩を含む材料としては、海藻ペーストのような海藻から作製された材料が挙げられるがこれらに限定されない。
【0036】
(カルシウム塩)
本発明で使用する場合、「カルシウム塩」とは、精製されたカルシウム塩、カルシウム塩を含む材料、および、精製されたカルシウム塩とカルシウム塩を含む材料の混合物からなる群から選択される物質をいう。精製されたカルシウム塩は、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、およびこれらの混合物からなる群から選択される。本発明においては、これらカルシウム塩を含む材料(食用材料)を用いることもできる。
【実施例0037】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。本発明は本実施例により限定されるものではない。
【0038】
(比較例1)
特開昭56-55162(特許文献2)の記載に基づき、以下の表1に記載の配合の調合肉を調製し、直径2.5mmの麺にした直後に0.50%の塩化カルシウム水溶液に浸漬し、各浸漬時間の麺を熱湯で2分茹でた後、冷水で冷却した麺を製造した。
【0039】
【表1】
【0040】
(実施例1)
表1に示す配合で、弾力があって表面が滑らかな魚肉麺の製造方法を検討した。魚肉冷凍すり身を半解凍状態で細かく砕き、3.0%の食塩を加えて塩摺りし、残りの原料を加えさらに混合し、調合肉を得た。それを直径2.5mmの麺にした直後に0.20%、0.30%、0.40%、0.50%、1.0%、2.0%、3.0%、5.0%の塩化カルシウム水溶液にそれぞれ浸漬し、各浸漬時間の麺を熱湯で2分茹でた後、冷水で冷却した麺について5名のパネラーが表面の滑らかさと食感を官能評価した。表面の滑らかさについては、表内での相対的な順位を付け、最も滑らかと思われる上位10個をA、それに次ぎ、普通に滑らかさを維持するものをB、滑らかさが少し劣るものをCとして、評価の高い順からA→B→Cで表3に示す。また、食感についての評価結果を表4に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
いずれの場合も許容内のなめらかさを維持しているが、塩化カルシウム濃度が0.3%
以上の場合、低濃度であり、浸漬時間が短い程、麺表面のなめらかさが優れた結果となった。すなわち、塩化カルシウム濃度(%)×浸漬時間(分)=6(%・分)以内が特に望ましい条件(A評価)となった。また、塩化カルシウム濃度(%)×浸漬時間(分)の値は、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.5以上であることも判明した。また、塩化カルシウム濃度(%)×浸漬時間(分)=10(%・分)以内もまた、良好な結果をもたらした。
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
塩化カルシウムの濃度が高いほど、少しずつ食感が硬くなるのが早くなる傾向であった。浸漬時間が15分以上では徐々にすり身本来の弾力や食感が失われ、意図している食感とは異なり、徐々に脆さが強調される食感となった。
【0046】
次に麺の太さを変え、直径1.5mmの麺で実施例1と同様に0.50%、1.0%、2.0%、3.0%、5.0%の塩化カルシウム水溶液にそれぞれ浸漬し、各浸漬時間の麺を熱湯で2分茹でた後、冷水で冷却した麺について、食感を評価した。表価結果を表5に示す。
【0047】
【表5】
【0048】
麺の太さを変えても、実施例1のように、浸漬時間が15分を超えてくると硬い麺となる傾向があり、すり身本来の弾力や食感が失われる結果となった。20分以上の浸漬は表面を滑らかにする一方で、意図とする食感を損なうことになった。
【0049】
塩化カルシウム水溶液に浸漬することで表面が滑らかになる一方で、塩化カルシウム濃度が高いほど、そして浸漬時間が長いほど、麺表面から内部に向かって麺が硬くなる。表4および表5で「硬い」と示された部分は浸漬条件が強いために硬くなり、レシピ配合によって意図する食感を得られないという意味になる。麺のレシピ配合を変えることで、柔らかい~普通~硬めといった食感について調整が可能であるが、浸漬過多になると配合にかかわらず硬くて脆い食感となってしまう。それゆえ、上記の結果は、麺の直径が違っても、麺が硬くなってしまう浸漬条件はほぼ同じであるということを示す。
【0050】
例えば、直径2.5mmの麺に関する表4における0.5%塩化カルシウム濃度における1分間の浸漬では「普通」であるのに対して、直径1.5mmの麺に関する表5における0.5%塩化カルシウム濃度における1分浸漬では「非常に柔らかい」という結果が得られている。表4および表5に示される食感が優れる条件である0.5%塩化カルシウム濃度における1分浸漬の結果は、麺の直径が異なることによって食感が異なることを示している。それゆえ、上記結果は、塩化カルシウム濃度×浸漬時間が0.5~6の範囲内であれば優れた食感が得られること、ならびに、塩化カルシウム濃度×浸漬時間を0.5~6の範囲内で適宜調整することによって好みに応じた硬さを得ることができることを示す。
【0051】
(実施例2)
特許文献2の配合例(比較例1)、及び本発明の配合例(実施例1)の調合肉において、直径2.5mmの麺にした直後に0.50%の塩化カルシウム水溶液に、3分間、10分間、20分間、および、30分間浸漬し、各浸漬時間の麺を熱湯で2分茹でた後、冷水で冷却した麺の形成状態ついて評価した。その結果を以下の表6に示す。
【0052】
【表6】
【0053】
比較例1の配合例では、すり身に対して加水量も多く、デンプンの配合もないことから、アルギン酸ナトリウムと塩化カルシウムの反応によって形成されるゲルによって麺が形成できることになる。そのため麺の形成に必要な浸漬時間が必要となり、麺の上記の表6のように10分の浸漬でも麺の形成が十分ではなかった。形状をしっかり保つには20分程度必要となる一方で魚肉の食感が失われてしまった。一方で、本発明ではアルギン酸ナトリウムと塩化カルシウムの反応によって形成されるゲルだけではなく、加熱によって麺内部を蒲鉾のようにゲル化させることを特徴としている。蒲鉾にいろいろな食感のものがあるように、本発明では、種々の食感を生み出すことが可能である。また、比較例1では、本発明で示すアルギン酸ナトリウムの適切な配合量範囲外にあるが、ゲル化を促進するため多量のアルギン酸ナトリウムが必要であると考えられる。
【0054】
(実施例3)
次に表7に示す配合で、もっちりとした食感の魚肉麺の製造方法を検討した。魚肉冷凍すり身を半解凍状態で細かく砕き、3.0%の食塩を加えて塩摺りし、残りの原料を加えさらに混合し、調合肉を得た。それを直径2.5mmの麺にした直後に0.20%、0.30%、0.40%、0.50%、1.0%、2.0%、3.0%、5.0%の塩化カルシウム水溶液にそれぞれ浸漬し、各浸漬時間の麺を熱湯で2分茹でた後、冷水で冷却した麺について5名のパネラーが表面の滑らかさと食感を官能評価した。表面の滑らかさについては、表内での相対的な順位を付け、最も滑らかと思われる上位10個をA、それに次ぎ、普通に滑らかさを維持するものをB、滑らかさが少し劣るものをCとして、評価の高い順からA→B→Cで表8に示す。また、食感についての評価結果を表9に示す。
【0055】
【表7】
【0056】
実施例1同様に、いずれの場合も許容内のなめらかさを維持しているが、塩化カルシウム濃度が低く、浸漬時間が短い程、麺表面のなめらかさが優れた結果となった。すなわち、塩化カルシウム濃度(%)×浸漬時間(分)=6(%・分)以内が特に望ましい条件(A評価)となった。また、塩化カルシウム濃度(%)×浸漬時間(分)=10(%・分)以内もまた、良好な結果をもたらした。
【0057】
【表8】
【0058】
【表9】
【0059】
塩化カルシウムの濃度が高いほど、少しずつ食感が硬くなるのが早くなる傾向であった。浸漬時間が15分以上では徐々にすり身本来の弾力や食感が失われ、意図している食感とは異なり、徐々に脆さが強調される食感となった。
【0060】
(実施例4)
表10に示す配合A~Fでアルギン酸ナトリウムの配合量を変えて表面が滑らかな魚肉麺の製造方法を検討した。
【0061】
魚肉冷凍すり身を半解凍状態で細かく砕き、3.0%の食塩を加えて塩摺りし、冷水、デンプン及び配合A~Fの各量のアルギン酸ナトリウムをそれぞれ加え、さらに混合し、調合肉を得た。それを直径2.5mmの麺にした直後に0.50%の塩化カルシウム水溶液に3分浸漬し、熱湯で2分茹でた後、冷水で冷却した麺について麺表面のなめらかさと食感を評価した。表価結果を表11に示す。
【0062】
【表10】
【0063】
【表11】
【0064】
アルギン酸ナトリウムを配合していないと表面の滑らかさが得られないが、配合量が多いとぬめりが出てくることから1.0%以下が適量である。より好ましくは、0.8%以下である。
【0065】
(実施例5)
特開2011-110024(特許文献3)では、魚肉を使用しておらず、80℃に加熱した塩化カルシウム溶液中に吐出して麺状食品を生成している(特許文献3、段落[0026])。仮に特許文献3に記載の製造方法を魚肉に適用した場合、ざらついた表面となり、また、この方法で生成した麺状食品は、軟質化を防ぐために、さらに食塩を含有する溶液中での処理が必要となった。
【0066】
上記実施例1および実施例3に記載の配合を用い、浸漬温度の違いによる魚肉麺の製造方法を検討した。直径2.5mmの麺にした直後に種々の温度の0.50%塩化カルシウム水溶液に3分浸漬し、熱湯で2分茹でた後、冷水で冷却した麺について5名のパネラーが表面の滑らかさについて官能評価した。各浸漬温度での相対的な順位を付け、滑らかと思われる浸漬温度帯を〇、普通に滑らかさを維持するものを△、滑らかさがやや劣るものを×として以下の表12に示した。
【0067】
【表12】
【0068】
同様の配合について試験を行ったが、いずれの場合も浸漬温度70℃以上においては滑らかさが劣る結果となった。浸漬温度は60℃以下、より好ましくは50℃以下、さらにより好ましくは40℃以下である。
【0069】
(実施例6)
特開2006-75016(特許文献4)では、麺状食品のコシやのどごしなどを改善するためにデンプンとα化デンプンを使用している(特許文献4、段落[0006]~[0007])。しかしながら、特許文献4の麺状食品は、α化でんぷんによって生じたぬめりによってのどごしがよいものの、麺そのものは表面の肌理の細かさは物足りないものである。また、以下に示すように、α化デンプンを使用する特許文献4の配合例では、表面がざらつき食感に劣るという結果が得られた。
【0070】
特許文献4に従う配合例は、以下のとおりである。
【0071】
【表13】
【0072】
【表14】
【0073】
本実施例で使用した本発明の配合例は、以下のとおりである。
【0074】
【表15】
【0075】
上記の表13に示す特許文献4の配合例1および上記の表14に示す特許文献4の配合例2を調合し、直径3.0mmの麺にしたものを、90℃ 90秒の加熱後、冷却した。また、上記の表15に示す本発明の配合例を調合し、直径3.0mmの麺にしたものを、0.50%塩化カルシウム水溶液に3分浸漬し、90℃ 90秒の加熱後、冷却した。冷水で冷却した麺について5名のパネラーが表面の滑らかさを官能評価した。その結果を以下の表16に示す。
【0076】
【表16】
【0077】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみ、その範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、麺としての形状を良好に保つことが可能であり、表面にざらつきがなく、のどごしや食感などに優れている、魚肉由来材料を豊富に含む麺を提供することができる。