(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058326
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】接合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/23 20060101AFI20240418BHJP
B23K 9/007 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
B23K9/23 H
B23K9/007
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165612
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 陽一朗
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA04
4E001CA01
4E001CB01
(57)【要約】
【課題】異種金属材料からなる部材同士の接合部に、水などの導電性の液体が浸入することを防止でき、これにより電食を防止することができる接合体を提供する。
【解決手段】接合体10は、内部に閉断面空間S1が形成されており、第1の金属部材21と第2の金属部材31とが当接する当接面35と、第1の金属部材21及び第2の金属部材31のいずれか一方と溶接金属61とが接触する接触面36と、を有し、溶接金属61は、第1の金属部材21と第2の金属部材31とを当接面35において接合している。閉断面空間S1が第1のシール材71で充填されることにより、当接面35のうち、閉断面空間S1に面する当接面内端部52は接合体10の外部から閉塞されている。当接面35のうち、接合体10の外部に面する第1外端部51、及び接触面36のうち、接合体10の外部に面する第2外端部55は、第2のシール材72で被覆されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属部材と、
前記第1の金属部材と異なる金属材料からなる第2の金属部材と、
前記第1の金属部材と前記第2の金属部材とを接合する溶接金属と、
を備え、内部に閉断面空間が形成された接合体であって、
前記閉断面空間の少なくとも一部は、前記第1の金属部材及び前記第2の金属部材で囲まれることにより構成されており、
前記接合体は、
前記第1の金属部材と前記第2の金属部材とが当接する当接面と、
前記第1の金属部材及び前記第2の金属部材のいずれか一方と、前記溶接金属と、が接触する接触面と、を有し、
前記溶接金属は、前記第1の金属部材と前記第2の金属部材とを前記当接面において接合しており、
前記閉断面空間の少なくとも一部が第1のシール材で充填されることにより、前記当接面のうち、前記閉断面空間に面する当接面内端部は前記接合体の外部から閉塞されており、
前記当接面のうち、前記接合体の外部に面する第1外端部は、第2のシール材で被覆され、
前記接触面のうち、前記接合体の外部に面する第2外端部は、第3のシール材で被覆されていることを特徴とする、接合体。
【請求項2】
前記第1のシール材は、発泡性樹脂を含むことを特徴とする、請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
前記閉断面空間は、前記第1の金属部材及び前記第2の金属部材に囲まれることにより構成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の接合体。
【請求項4】
前記第3のシール材は、前記第2のシール材と同一の材料からなり、前記第2のシール材に連続して形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の接合体。
【請求項5】
第1の金属部材と、
前記第1の金属部材と異なる金属材料からなる第2の金属部材と、
を備え、内部に閉断面空間が形成され、
前記閉断面空間の少なくとも一部が、前記第1の金属部材及び前記第2の金属部材で囲まれることにより構成された接合体の製造方法であって、
前記第1の金属部材と前記第2の金属部材とを当接させて当接面を構成し、前記当接面において前記第1の金属部材と前記第2の金属部材とを溶接して、溶接金属を形成する接合工程と、
前記閉断面空間の少なくとも一部を、第1のシール材で充填することにより、前記当接面のうち、前記閉断面空間に面する当接面内端部を前記接合体の外部から閉塞する、第1のシール材の充填工程と、
前記当接面のうち、前記接合体の外部に面する第1外端部を、第2のシール材で被覆する、第2のシール材による被覆工程と、
前記第1の金属部材及び前記第2の金属部材のいずれか一方と前記溶接金属とが接触する接触面のうち、前記接合体の外部に面する第2外端部を、第3のシール材で被覆する、第3のシール材による被覆工程と、を有することを特徴とする接合体の製造方法。
【請求項6】
前記第3のシール材は、前記第2のシール材と同一の材料からなり、前記第3のシール材による被覆工程は、前記第2のシール材による被覆工程に連続して実施されることを特徴とする、請求項5に記載の接合体の製造方法。
【請求項7】
前記接合工程において、アーク溶接により前記溶接金属を形成し、
前記接合工程の後に、接合された前記第1の金属部材及び前記第2の金属部材に対して、カチオン電着塗装を実施する電着塗装工程を有することを特徴とする、請求項5又は6に記載の接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種金属部材同士が接合されてなる接合体において、異種金属部材間に生じる電食を防止することができる接合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属構造物を製造する際に、剛性の確保又は軽量化を目的として、異種金属部材同士が接合された接合体が使用される。
【0003】
しかしながら、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材のように、異種金属部材同士が接触している当接部に水などの導電性の液体が浸入すると、電食又はガルバニック腐食と呼ばれる腐食が発生し、接合体の強度が低下する問題がある。
【0004】
ここで、特許文献1には、異種金属から成る材料を重ね接合するに際して、重ね合わせた両材料の間に、接合予定部位を囲んでシール材を配置した状態で溶接する、異種金属の接合方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、鋼製の第1・第2フレームとアルミニウム合金製の補強部材との間に発泡性樹脂を充填し、鋼とアルミニウム合金とが直接接触することを回避することができるフレーム構造体の接合方法が記載されている。上記特許文献2によると、発泡性樹脂の強度を付加することにより、結合部を強化するとともに、電食の防止を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-754号公報
【特許文献2】特開2004-100731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の接合方法は、接合予定部位ごとにシール材を配置するか、接合予定部位を囲繞する凹部又は凸部を形成する必要があり、接合前の工程数が増加するとともに、接合工程自体が煩雑になってしまうという問題点がある。また、接合予定部位にシール材を配置すると、シール材は異種金属材料間に配置されるため、シール材が劣化した場合に交換することが困難である。
【0008】
また、特許文献2に記載のフレーム構造体の接合方法によると、発泡性樹脂の介在により鋼とアルミニウム合金とが直接接触することを防止することはできる。しかし、構造物の形状によっては異種金属同士を直接接合する必要があり、上記特許文献2に記載の方法では、異種金属同士が接触している領域がある場合における電食を防止することは困難である。
【0009】
上記特許文献2を例に挙げて、フレーム構造体について、以下に具体的に説明する。特許文献2におけるフレーム構造体は、断面がコ字形状であるフレームと薄板とが溶接され、閉断面形状が構成されたものである。このような構造において、フレームを構成する金属材料が、薄板を構成する金属材料と異なっていた場合に、特許文献2に係る接合方法では、フレームと薄板との接合部において、電食の発生を防止することはできない。
【0010】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、異種金属材料からなる部材同士の接合部に、水などの導電性の液体が浸入することを防止でき、これにより電食を防止することができる接合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1) 第1の金属部材と、
上記第1の金属部材と異なる金属材料からなる第2の金属部材と、
上記第1の金属部材と上記第2の金属部材とを接合する溶接金属と、
を備え、内部に閉断面空間が形成された接合体であって、
上記閉断面空間の少なくとも一部は、上記第1の金属部材及び上記第2の金属部材で囲まれることにより構成されており、
上記接合体は、
上記第1の金属部材と上記第2の金属部材とが当接する当接面と、
上記第1の金属部材及び上記第2の金属部材のいずれか一方と、上記溶接金属と、が接触する接触面と、を有し、
上記溶接金属は、上記第1の金属部材と上記第2の金属部材とを上記当接面において接合しており、
上記閉断面空間の少なくとも一部が第1のシール材で充填されることにより、上記当接面のうち、上記閉断面空間に面する当接面内端部は上記接合体の外部から閉塞されており、
上記当接面のうち、上記接合体の外部に面する第1外端部は、第2のシール材で被覆され、
上記接触面のうち、上記接合体の外部に面する第2外端部は、第3のシール材で被覆されていることを特徴とする、接合体。
【0012】
(2) 上記第1のシール材は、発泡性樹脂を含むことを特徴とする、(1)に記載の接合体。
【0013】
(3) 上記閉断面空間は、上記第1の金属部材及び上記第2の金属部材に囲まれることにより構成されていることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の接合体。
【0014】
(4) 上記第3のシール材は、上記第2のシール材と同一の材料からなり、上記第2のシール材に連続して形成されていることを特徴とする、(1)~(3)のいずれか1つに記載の接合体。
【0015】
(5) 第1の金属部材と、
上記第1の金属部材と異なる金属材料からなる第2の金属部材と、
を備え、内部に閉断面空間が形成され、
上記閉断面空間の少なくとも一部が、上記第1の金属部材及び上記第2の金属部材で囲まれることにより構成された接合体の製造方法であって、
上記第1の金属部材と上記第2の金属部材とを当接させて当接面を構成し、上記当接面において上記第1の金属部材と上記第2の金属部材とを溶接して、溶接金属を形成する接合工程と、
上記閉断面空間の少なくとも一部を、第1のシール材で充填することにより、上記当接面のうち、上記閉断面空間に面する当接面内端部を上記接合体の外部から閉塞する、第1のシール材の充填工程と、
上記当接面のうち、上記接合体の外部に面する第1外端部を、第2のシール材で被覆する、第2のシール材による被覆工程と、
上記第1の金属部材及び上記第2の金属部材のいずれか一方と上記溶接金属とが接触する接触面のうち、上記接合体の外部に面する第2外端部を、第3のシール材で被覆する、第3のシール材による被覆工程と、を有することを特徴とする接合体の製造方法。
【0016】
(6) 上記第3のシール材は、上記第2のシール材と同一の材料からなり、上記第3のシール材による被覆工程は、上記第2のシール材による被覆工程に連続して実施されることを特徴とする、(5)に記載の接合体の製造方法。
【0017】
(7) 上記接合工程において、アーク溶接により上記溶接金属を形成し、
上記接合工程の後に、接合された上記第1の金属部材及び上記第2の金属部材に対して、カチオン電着塗装を実施する電着塗装工程を有することを特徴とする、(5)又は(6)に記載の接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、異種金属材料からなる部材同士の接合部に、水などの導電性の液体が浸入することを防止でき、これにより電食を防止することができる、接合体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る接合体を部分的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第2実施形態に係る接合体を示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第3実施形態に係る接合体を示す断面図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明の実施形態に係る接合体の製造方法を示す図であり、接合工程(工程1)を表す断面図である。
【
図4B】
図4Bは、本発明の実施形態に係る接合体の製造方法を示す図であり、電着塗装工程(工程2)を表す断面図である。
【
図4C】
図4Cは、本発明の実施形態に係る接合体の製造方法を示す図であり、第2のシール材による被覆工程(工程3)を表す断面図である。
【
図4D】
図4Dは、本発明の実施形態に係る接合体の製造方法を示す図であり、第1のシール材の充填工程(工程4)を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者は、異種金属部材同士が接合された接合体のうち、特に異種金属部材によって閉断面空間が構成された接合体の電食を防止する方法について、種々検討を行った。その結果、異種金属同士が接触している面への液体等が浸入する経路を明確化し、特に、閉断面空間に発泡性樹脂などのシール材を充填することにより、閉断面空間からの液体の浸入を防止できることを見出した。
【0021】
以下、本発明に係る接合体及びその製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0022】
[接合体]
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る接合体を部分的に示す断面図である。
図1に示すように、接合体10は、平板状の第1の金属部材21と、この第1の金属部材21と異なる金属材料からなる第2の金属部材31と、を有する。第1の金属部材21は、例えばアルミニウム合金製であり、第2の金属部材31は、例えば鋼製である。また、第2の金属部材31は、平板部32と、平板部32から窪んだ形状の凹部34と、を有する。そして、凹部34を囲む領域において、平板部32と第1の金属部材21とが当接しており、異種金属部材同士が接触する当接面35が形成されている。
【0023】
本実施形態において、第1の金属部材21の方が、第2の金属部材31の平板部32よりも側方に延出しており、第1の金属部材21の端面21aと、第2の金属部材31の端面31aとは、互いにずれた位置に配置されている。
【0024】
第2の金属部材31の平板部32には、複数の穴33が設けられており、穴33には、第1の金属部材21と同種の金属材料からなる溶接金属61が形成されている。溶接金属61は、穴33によって露出された第1の金属部材21の一部とともに、溶接材料が溶融することにより形成されたものであり、第2の金属部材31の上面に、穴33よりも大径に形成された余盛61aを有する。したがって、第2の金属部材31は、溶接金属61の余盛61aによって、物理的に第1の金属部材21に固定され、第1の金属部材21と第2の金属部材31とが接合された接合体10が形成されている。また、接合体10の内部には、凹部34及び第1の金属部材21に囲まれた閉断面空間S1が形成されている。なお、上記溶接金属61が形成された状態において、溶接金属61と第2の金属部材31とは接触しており、異種金属同士が接触する接触面36を構成している。
【0025】
閉断面空間S1には、防水機能を有する第1のシール材71が充填されている。これにより、当接面35のうち、閉断面空間S1に面する当接面内端部52が、接合体10の外部から閉塞されている。また、溶接金属61と第2の金属部材31との境界部分、及び第2の金属部材31の端面31aを覆うように、第2のシール材72が塗布されている。これにより、当接面35のうち、接合体10の外部に面する第1外端部51が、第2のシール材72により被覆されている。同様に、溶接金属61と第2の金属部材31との接触面36のうち、接合体10の外部に面する第2外端部55が、第2のシール材72により被覆されている。
【0026】
ここで、電食が発生するメカニズム、及び電食の発生が防止された接合体を得るに至った経緯について、以下に詳細に説明する。
上述のとおり、異種金属同士が接触する領域に、水などの導電性の液体が触れると、電気が貴金属から卑金属に流れることで、卑金属がイオン化して電食による腐食が発生する可能性がある。
【0027】
電食には下記2つの条件が必要である。
[A]接触する金属同士の電位差が大きいこと
[B]水などの導電性の液体が存在すること
【0028】
上記のことを踏まえると、上記2つの条件[A]及び[B]のうち少なくとも一方を回避することで電食を防止することができる。
そこで、上記のような異種金属同士の接触による電食を防止する方法としては、以下に示す[1]~[4]の方法が挙げられる。
[1]金属同士の接触面に水などが付着することを防止する方法
[2]金属間の電位差をなくす方法。すなわち、電位差が同じ又は電位差が小さい金属を用いる方法
[3]通電経路を遮断する方法。すなわち、金属の接触面を絶縁する方法
[4]金属同士が直接接触することを防止する方法
【0029】
本実施形態においては、上記[1]の条件を満足させることによって電食の防止を図っている。本実施形態に係る接合体10において、異材同士が当接又は接触している当接面35及び接触面36に、水などの導電性の液体が浸入し得る経路について、具体的に説明する。
【0030】
(第1の浸入経路)
第1の金属部材21と第2の金属部材31とが当接する当接面35のうち、閉断面空間S1に面する当接面内端部52からの浸入。
【0031】
(第2の浸入経路)
第1の金属部材21と第2の金属部材31とが当接する当接面35のうち、接合体10の外部に面する第1外端部51からの浸入。
【0032】
(第3の浸入経路)
溶接金属61と第2の金属部材31とが接触する接触面36のうち、接合体10の外部に面する第2外端部55からの浸入。
【0033】
本実施形態においては、第1の浸入経路からの液体の浸入を防止するために、第1の金属部材21と第2の金属部材31の凹部34とにより囲まれた閉断面空間S1に、防水機能を有する第1のシール材71が充填されている。また、第2の浸入経路及び第3の浸入経路からの液体の浸入を防止するために、溶接金属61と第2の金属部材31との境界部分、及び第2の金属部材31の端面31aを全体的に覆うように、第2のシール材72が塗布されている。
【0034】
これにより、接合体10においては、当接面内端部52から当接面35に液体が浸入することを効果的に防止することができるとともに、第1外端部51から当接面35への液体の浸入、及び第2外端部55から接触面36への液体の浸入を防止することができる。その結果、電食の発生を防止することができ、所望の強度を維持することができる。
【0035】
また、本実施形態においては、溶接金属61と第1の金属部材21とは、同種金属同士の溶接により強固に接合されており、第2の金属部材31の平板部32は、溶接金属61の余盛61aにより、物理的に第1の金属部材21に固定されるため、第1の金属部材21と平板部32とは、異種金属同士ながら互いに強固に接合することができる。
【0036】
なお、本実施形態では、第2の金属部材31に穴33が形成され、穴33を充填する溶接金属61が形成されているが、第1の金属部材21に穴が形成され、第2の金属部材31と同種の金属材料からなる溶接金属が形成されていてもよい。その場合には、第1の金属部材21と溶接金属61との間に、異種金属同士が接触する接触面が形成されることになる。
【0037】
さらに本実施形態においては、閉断面空間S1の全体に第1のシール材71が充填されており、第1のシール材71の体積が大きくなるため、閉断面空間S1の開放端部から当接面35に液体が浸入することを防止する効果は著しく高くなる。また、当接面35のうち、接合体10の外部に面する第1外端部51と、接触面36のうち、接合体10の外部に面する第2外端部55とについては、いずれも外部に面しているため、第2のシール材72は容易に追加や交換が可能である。
【0038】
なお、第2の金属部材31の端面31a(第2の浸入経路)と、溶接金属61と第2の金属部材31との境界部分(第3の浸入経路)を全体的に覆う第2のシール材72としては、シリコーン系やウレタン系などの液状シール材を使用することが好ましい。所望の領域を第2のシール材72で覆う方法としては、塗布の他、スプレーを使用する方法が挙げられる。また、被覆される領域の形状に追従できる柔軟性を有するシール材を貼付してもよい。
【0039】
本実施形態において、第2の金属部材31の凹部34の形状は特に限定されない。例えば、一方向に延びる形状であってもよいし、目的に応じてT字状や十字状、矩形状に形成されていてもよい。凹部34が種々の形状で形成されていてもよいため、第1の金属部材21と第2の金属部材31の平板部32との当接面35は広範囲にわたり、また、閉断面空間S1は複雑な形状となる場合がある。したがって、当接面35のうち、閉断面空間S1に面する当接面内端部52(第1の浸入経路)を被覆する第1のシール材71としては、発泡性樹脂を含む第1のシール材71を使用することが、作業性の観点から好ましい。発泡性樹脂を含む第1のシール材71としては、発泡ウレタン樹脂、発泡スチレン樹脂、発泡オレフィン樹脂等を使用することが好ましい。
【0040】
上記のような発泡性樹脂は、従来より、強度の向上や、防音、振動の防止のために使用されることがあったが、水などの液体の浸入を防止するために使用されている例はなかった。本実施形態においては、特に液体の浸入を防止することが困難である閉断面空間S1に、発泡性樹脂を充填することにより、第1の浸入経路である当接面内端部52をより効果的に閉塞することができ、さらに一層電食防止効果を得ることができる。
【0041】
なお、本発明においては、閉断面空間S1の一部のみに第1のシール材71が充填されていてもよく、当接面35のうち、閉断面空間S1に面する当接面内端部52が接合体10の外部から閉塞されている状態であればよい。例えば、閉断面空間S1の開放端部のみに第1のシール材71が充填されていても、当接面35における閉断面空間S1に面する当接面内端部52側から当接面35への液体の浸入を防止することができる。このような状態において、仮に第1のシール材71が劣化した場合は、第1のシール材71を閉断面空間S1に追加することにより、容易に液体の浸入を防止する効果を向上させることができる。
【0042】
また、本実施形態においては、第2の浸入経路及び第3の浸入経路を、第2のシール材72により1工程で被覆されており、連続した第2のシール材72が形成されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、溶接金属61が形成されている箇所と、第1外端部51とが離隔している場合や、第2の金属部材31の平板部32の方が、第1の金属部材21よりも側方に延出している場合がある。このような場合には、溶接金属61と第2の金属部材31との境界部分が第2のシール材により被覆され、第2の金属部材31の端面31aが第3のシール材で被覆されていてもよい。また、第2のシール材と第3のシール材とは、互いに異なる材料からなるものでもよい。
【0043】
図1に示す接合体10は、内部に閉断面空間S1が形成された接合体の一例であり、接合体10の一部が断面図によって示されているが、本発明においては、接合体の形状は特に限定されない。以下、他の接合体の形状例について、
図2及び
図3を用いて以下に説明する。なお、
図2に示す第2実施形態、及び
図3に示す第3実施形態が第1実施形態と異なる点は、接合体の形状のみであるため、
図2及び
図3において、
図1と同一物には同一符号を付して、詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0044】
(第2実施形態)
図2は、本発明の第2実施形態に係る接合体を示す断面図である。
図2に示すように、接合体20は、断面ハット型であるアルミニウム合金製の第1の金属部材22と、断面ハット型である鋼製の第2の金属部材25とが接合されることにより形成されている。すなわち、第1の金属部材22は、一方向に延びる凹部23と、凹部23の両側方に設けられた平板部24とを有する。第2の金属部材25も同様に、一方向に延びる凹部26と、凹部23の両側方に設けられた平板部32とを有する。
【0045】
第1の金属部材22の平板部24は、第2の金属部材25の平板部32よりも側方に延出している。また、第2の金属部材25の平板部32には、穴33が形成され、穴33に溶接金属61が充填されているとともに、穴33よりも大きい径を有する余盛61aが形成されている。そして、第2の金属部材25の平板部32が、溶接金属61の余盛61aと第1の金属部材22の平板部24とに挟まれることにより、第1の金属部材22の平板部24と第2の金属部材25の平板部32とが接合されている。
【0046】
第1の金属部材22の平板部24と、第2の金属部材25の平板部32とが接合されることにより、凹部23と凹部26との間に閉断面空間S1が形成されている。閉断面空間S1には、第1のシール材71が充填されており、これにより、第1の金属部材22と第2の金属部材25とが当接した当接面35のうち、閉断面空間S1に面する当接面内端部52が接合体の外部から閉塞されている。
【0047】
また、上記当接面35のうち、接合体20の外部に面する第1外端部51、及び溶接金属61と第2の金属部材31との接触面36のうち、接合体20の外部に面する第2外端部55は、第2のシール材72により被覆されている。
【0048】
上記のように構成された第2実施形態に係る接合体20においても、当接面内端部52及び第1外端部51からの当接面35への液体の浸入を防止することができるとともに、第2外端部55からの接触面36への液体の浸入を防止することができる。したがって、電食の発生が防止され、所望の強度を維持することができる。
【0049】
(第3実施形態)
図3は、本発明の第3実施形態に係る接合体を示す断面図である。
図3に示すように、接合体30は、平板状であるアルミニウム合金製の第1の金属部材21と、湾曲した形状の鋼製の第2の金属部材27と、第2の金属部材27と同様の形状の第3の金属部材28とが組み合わされて接合されることにより形成されている。第2の金属部材27は、平板状の板材の対向する端面同士が直交する関係となるように屈曲されたものであり、平板部27a、27bと、屈曲により形成された湾曲部27cとにより構成されている。第3の金属部材28も同様に、平板状の板材の対向する端面同士が直交する関係となるように屈曲されたものであり、平板部28a、28bと、屈曲により形成された湾曲部28cとにより構成されている。
【0050】
第2の金属部材27と第3の金属部材28とは、平板部27aと平板部28aとが重なり合うように配置されており、両者は不図示の接合部により接合されている。第2の金属部材27の平板部27b、及び第3の金属部材28の平板部28bには、それぞれ穴37、穴38が形成されている。穴37及び穴38には、溶接金属61が充填されているとともに、穴33よりも大きい径を有する余盛61aが形成されており、これにより、第2の金属部材27の平板部27b及び第3の金属部材28の平板部28bが、第1の金属部材21に接合されている。なお、第2の金属部材27の平板部27b、及び第3の金属部材28の平板部28bは、第1の金属部材21の端面よりも側方に延出している。
【0051】
本実施形態においては、第1の金属部材21と、第2の金属部材27と、第3の金属部材28とが接合されることにより接合体30が形成されている。また、第1の金属部材21と、第2の金属部材27の突状面27dと、第3の金属部材28の突状面28dとに囲まれた閉断面空間S1が形成されている。言い換えると、閉断面空間S1の少なくとも一部は、互いに異なる金属材料からなる第1の金属部材21及び第2の金属部材27で囲まれることにより構成されている。そして、閉断面空間S1には第1のシール材71が充填されることにより、当接面35のうち、閉断面空間S1に面する当接面内端部52が接合体30の外部から閉塞されている。
【0052】
また、本実施形態において、上記当接面35のうち、接合体30の外部に面する第1外端部51は、接合体30における溶接金属61が形成されている面とは反対側の面に形成されている。したがって、第1外端部51は第2のシール材72で被覆され、第2外端部55は第3のシール材73で被覆されている。
【0053】
上記のように構成された第3実施形態に係る接合体30においても、第1~第3の浸入経路からの当接面35及び接触面36への液体の浸入を防止することができるため、電食の発生が防止され、所望の強度を維持することができる。なお、本実施形態において、第2の金属部材27と、第3の金属部材28とは同一の材料により構成されているが、例えば、第3の金属部材28は、第1の金属部材21とも第2の金属部材27とも異なる材料により構成されていてもよい。また、第2のシール材72と第3のシール材73とは、同一の材料からなるものであっても、互いに異なる材料からなるものであってもよい。
【0054】
次に、本発明の実施形態に係る接合体の製造方法について、第1実施形態に係る接合体10を例に挙げて説明する。なお、
図4A~
図4Dにおいて、
図1と同一物には同一符号を付して、詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0055】
[接合体の製造方法]
図4A~
図4Dは、本発明の実施形態に係る接合体の製造方法を示す断面図であり、
図4Aは、接合工程(工程1)を表し、
図4Bは、電着塗装工程(工程2)を表し、
図4Cは、第2のシール材による被覆工程(工程3)を表し、
図4Dは、第1のシール材の充填工程(工程4)を表す。
【0056】
(工程1:接合工程)
まず、
図4Aに示すように、平板状の第1の金属部材21の上に、凹部34を第1の金属部材21側に向けて第2の金属部材31を載置し、第2の金属部材31の平板部32と第1の金属部材21とを当接させる。次に、アークスポット溶接により溶接ワイヤ65を溶融させ、複数の穴33を充填する溶接金属61を形成し、更に溶接を続けることにより、平板部32の上面に、穴33よりも大きい径を有する余盛61a(
図4B参照)を形成する。これにより、第1の金属部材21と第2の金属部材31の平板部32とを接合する。
【0057】
(工程2:電着塗装工程)
その後、
図4Bに示すように、第1の金属部材21と第2の金属部材31とが溶接金属61により接合された接合素体40を、水溶性塗料を溶かした槽内に浸漬させ、電着によりカチオン電着塗料を塗布し、焼付及び硬化させてカチオン電着塗装被膜67を形成する。
【0058】
(工程3:第2のシール材による被覆工程)
その後、
図4Cに示すように、第1の金属部材21と第2の金属部材31との当接面35のうち、接合素体40の外部に面する第1外端部51、及び、溶接金属61と第2の金属部材31との接触面36のうち、接合素体40の外部に面する第2外端部55に第2のシール材72を塗布し、第1外端部51及び第2外端部55を被覆する。
【0059】
(工程4:第1のシール材の充填工程)
その後、
図4Dに示すように、第2の金属部材31の凹部23と第1の金属部材21とにより囲まれた閉断面空間S1に対して、防水機能を有する発泡性樹脂を含む第1のシール材71を充填する。
【0060】
本実施形態に係る接合体の製造方法によれば、第2のシール材による被覆工程により、第2の浸入経路からの当接面35への液体の浸入、及び第3の浸入経路からの接触面36への液体の浸入を効果的に防止することができる。また、第1のシール材の充填工程により、第1の浸入経路からの当接面35への液体の浸入を効果的に防止することができる。したがって、電食の発生が防止され、所望の強度を維持することができる接合体を製造することができる。
【0061】
また、本実施形態では、溶接予定位置に予めシール材等を配置したり、接合前の部材に凹凸形状の加工を施す必要がなく、優れた耐食性を有する接合体を極めて容易に製造することができる。
【0062】
さらに、本実施形態においては、第1の金属部材21と第2の金属部材31とをアーク溶接により接合し、溶接金属61を形成した後に、カチオン電着塗装被膜67を形成している。このように、第1の金属部材21及び第2の金属部材31の表面にカチオン電着塗装被膜67を形成することにより、接合体10の表面の耐食性を向上させることができる。ただし、本実施形態に示すように、溶接金属61を形成する方法としてアーク溶接を使用した場合に、接合工程の前に電着塗装工程を実施すると、溶接金属61が形成される周辺の領域におけるカチオン電着塗装被膜67がアーク熱により揮発し、溶接不良が発生するおそれがある。したがって、アーク溶接により第1の金属部材21と第2の金属部材31とを接合する場合には、接合工程の後に電着塗装工程を実施することが好ましい。
【0063】
ただし、本実施形態において、互いに異なる材料からなる第1の金属部材と第2の金属部材とを接合する方法としては、特に限定されず、所望の強度が得られる接合方法であればよい。互いに異なる材料からなる部材同士の接合に適用できる接合方法としては、例えば、ボルトナット、ブラインドリベット、パンチリベット、セルフピアスリベット(SPR:Self-Piercing Riveting)、メカニカルクリンチ、FDS(Flow Drilling Screw(EJOT GmbH&Co.KGの登録商標))、インパクトImpAcT(Impulse Accelerated Tacking)、REW(Resistance Element Welding)、摩擦圧接(FEW:Friction Element Welding)等を利用した接合方法が挙げられる。
【0064】
なお、電着塗装工程、第1のシール材の塗布工程及び第2のシール材の塗布工程の順序は、カチオン電着塗料を塗布した後の焼付温度や、シール材の種類によって、適宜変更可能である。また、第1のシール材の塗布工程と第2のシール材の塗布工程の順序も特に限定されない。さらに、上記第3実施形態で示すように、第1外端部51を第2のシール材で覆う工程と、第2外端部55を第3シール材で覆う工程とに分けて実施する場合には、その順序についても特に限定されない。
【符号の説明】
【0065】
10,20,30 接合体
21,22 第1の金属部材
23,26,34 凹部
24,27a,27b,28a,28b,32 平板部
25,27,31 第2の金属部材
28 第3の金属部材
33、37、38 穴
35 当接面
36 接触面
51 第1外端部
52 当接面内端部
55 第2外端部
61 溶接金属
65 溶接ワイヤ
67 カチオン電着塗装被膜
71 第1のシール材
72 第2のシール材
73 第3のシール材
S1 閉断面空間