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特開2024-58332光硬化性樹脂組成物と相手材表面処理を組み合わせたしゅう動部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058332
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】光硬化性樹脂組成物と相手材表面処理を組み合わせたしゅう動部材
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/12 20060101AFI20240418BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20240418BHJP
   F16C 17/10 20060101ALI20240418BHJP
   F16C 33/24 20060101ALI20240418BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20240418BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
F16C33/12 A
F16C17/02 Z
F16C17/10 Z
F16C33/24 A
F16C33/20 A
C08F290/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165621
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠山 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】小池 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】松田 倫宜
【テーマコード(参考)】
3J011
4J127
【Fターム(参考)】
3J011AA20
3J011BA02
3J011BA10
3J011DA01
3J011KA02
3J011KA04
3J011QA03
3J011QA04
3J011QA05
3J011SB15
3J011SB20
3J011SC04
3J011SC20
4J127AA03
4J127BB031
4J127BB091
4J127BB221
4J127BC021
4J127BD181
4J127BG051
4J127BG101
4J127CB152
4J127CB154
4J127CB281
4J127CB341
4J127CB373
4J127CC024
4J127CC092
4J127CC113
4J127CC291
4J127DA12
4J127DA44
4J127EA13
4J127FA58
(57)【要約】
【課題】常温環境下のみならず低温環境下においても低摩擦係数を実現する摺動部材を提供する。
【解決手段】自己潤滑性ライナ及びこれと面接触する軸受要素部材を備え、
前記軸受要素部材は金属製部材の表面に被膜を有し、該被膜の表面は該自己潤滑性ライナとすべり接触するすべり接触対向面を有するものであって、
前記すべり接触対向面において算術平均粗さで示される表面粗さRaは0.3μm以上1.8μm以下であり、且つ、前記被膜は押し込み硬さが400mgf/μm以上1200mgf/μm以下の硬度を有することを特徴とする、摺動部材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己潤滑性ライナ及びこれと面接触する軸受要素部材を備え、
前記軸受要素部材は金属製部材の表面に被膜を有し、該被膜の表面は該自己潤滑性ライナとすべり接触するすべり接触対向面を有するものであって、
前記すべり接触対向面において算術平均粗さで示される表面粗さRaは0.3μm以上1.8μm以下であり、且つ、前記被膜は押し込み硬さが400mgf/μm以上1200mgf/μm以下の硬度を有することを特徴とする、摺動部材。
【請求項2】
前記すべり接触対向面において算術平均粗さで示される表面粗さRaは0.5μm以上1.2μm以下であり、且つ、前記被膜は押し込み硬さが400mgf/μm以上900mgf/μm以下の硬度を有することを特徴とする、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記軸受要素部材の金属製部材は、ステンレス鋼製であることを特徴とする、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記軸受要素部材の金属製部材は、ダイス鋼製であることを特徴とする、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項5】
前記被膜は、金属マトリクスまたはセラミックマトリクス中に樹脂材料が分散している複合被膜であることを特徴とする、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項6】
前記被膜は、ニッケルを含むマトリクス中にフッ素樹脂材料が分散している複合被膜であることを特徴とする、請求項5に記載の摺動部材。
【請求項7】
前記被膜は、ニッケルおよびリンを含むマトリクス中にフッ素樹脂材料が分散している複合被膜であることを特徴とする、請求項6に記載の摺動部材。
【請求項8】
前記被膜は、炭化クロム合金からなる、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項9】
前記自己潤滑性ライナが、イソシアヌル酸環を有する(メタ)アクリレート化合物と、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を含む光硬化性樹脂組成物の硬化物からなることを特徴とする、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項10】
前記摺動部材が、円筒状のジャーナル軸受又は球面すべり軸受であることを特徴とする請求項1に記載の摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光硬化性樹脂組成物による自己潤滑性ライナを設けた摺動面とその相手材の表面処理とを組み合わせた摺動部材に関し、特に常温時のみならず低温時においても低摩擦係数を実現する摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動面にて軸を受ける滑り軸受は、航空機、鉄道、自動車や一般産業機械など広範な用途に使用されている。特に摺動面に自己潤滑性ライナを有し、潤滑油を使用しない無潤滑滑り軸受は、低摩擦係数、高耐久性、高耐荷重性、高耐熱性、高耐油性などが要求される船舶や航空機等の用途に使用されている。
【0003】
このような無潤滑滑り軸受の一態様として、自己潤滑性を有するライナ層を摺動面に設ける態様が開示されている。例えば、特許文献1には、イソシアヌル酸環を有する(メタ)アクリレート化合物と、固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレン樹脂とを含む紫外線硬化性樹脂組成物が開示され、これを自己潤滑性ライナに用いた態様が開示されている。
また、前記自己潤滑性ライナ層に接する対向面に被膜を設ける態様が開示されている。例えば、特許文献2には、自己潤滑性ライナとすべり接触するすべり接触対向面を有する軸受要素部材を備える自己潤滑性すべり軸受において、該軸受要素部材が滑り接触対向面に窒化物拡散層を有しているチタン合金製であり、前記すべり接触対向面が18ナノメートルCLA未満の表面粗さを有する態様が開示されている。また特許文献3には、すべり接触対向面が20nm未満の表面仕上げと略1000VPN未満の硬度を有する自己潤滑滑り軸受において、前記すべり接触対向面が、凸曲面状の表面上に物理蒸着皮膜などの皮膜を備えてなる態様が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5882451号公報
【特許文献2】特開2006-162068号公報
【特許文献3】特表2007-507674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
航空機用途などの無潤滑滑り軸受には、低温から高温までの広い温度領域(例えば、航空機用途で-55℃~163℃)において摩擦係数が低く、その変化が少ないことが要求される。しかし、これまでに提案された滑り軸受において、0℃以下では摩擦係数が大きく上昇することが確認されており、低温環境下において低摩擦係数を実現できることが要求される。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みなされたものであって、常温環境下のみならず特に低温環境下において低摩擦係数を実現できる、摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、自己潤滑性ライナ及びこれと面接触する軸受要素部材を備え、
前記軸受要素部材は金属製部材の表面に被膜を有し、該被膜の表面は該自己潤滑性ライナとすべり接触するすべり接触対向面を有するものであって、
前記すべり接触対向面において算術平均粗さで示される表面粗さRaは0.3μm以上1
.8μm以下であり、且つ、前記被膜は押し込み硬さが400mgf/μm以上1200mgf/μm以下の硬度を有することを特徴とする、摺動部材に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の摺動部材の一例である自己潤滑性すべり軸受(球面すべり軸受)の構造を説明する模式図である。
図2図1の自己潤滑性すべり軸受の一部を拡大して示す断面図である。
図3】本発明の摺動部材の一例である円筒状のジャーナル軸受の構造を説明する模式図であり、ジャーナル軸受の軸方向に沿って切断した縦断面図(図3(a))、並びに、軸と直交する方向に切断した横断面図(図3(b))である。
図4】実施例の揺動試験に用いたピンオンディスク摩耗試験機の外観(図4(a))並びに断面図(図4(b))を示す図である。
図5】実施例において、常温(25℃)下での硬度(横軸)に対する摩擦係数の値(縦軸)の結果を示す図である。
図6】実施例において、常温(25℃)下での表面粗さ(横軸)に対する摩擦係数の値(縦軸)の結果を示す図である。
図7】実施例において、-55℃下での硬度(横軸)に対する摩擦係数の値(縦軸)の結果を示す図である。
図8】実施例において、-55℃下での表面粗さ(横軸)に対する摩擦係数の値(縦軸)の結果を示す図である。
図9】実施例において、常温(25℃)下での表面粗さ(横軸)に対する摩擦係数の値(縦軸)[縦軸:□被膜なし(SUS304)、●被膜あり(成分同一)]の結果を示す図である。
図10】実施例において、-55℃下での表面粗さ(横軸)に対する摩擦係数の値(縦軸)[縦軸:□被膜なし(SUS304)、●被膜あり(成分同一)]の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上述したように、低温環境下における摺動部材の低摩擦係数の実現という課題を鑑み、本発明者らは、自己潤滑性ライナを有する摺動部材において、自己潤滑性ライナとすべり接触するその対向面における表面粗さとその硬度に着目したところ、特定範囲の表面粗さと硬度を備えるすべり接触対向面であるとき、常温環境下のみならず低温環境下における摩擦係数の上昇を抑制し、低摩擦係数を実現できることを初めて見出した。
以下、本発明について詳述する。
【0010】
本発明に係る摺動部材は、後述するように自己潤滑性ライナと、該自己潤滑性ライナと面接触する軸受要素部材を備えてなるものであって、前記軸受要素部材は金属製部材の表面に被膜を有し、該被膜の表面は該自己潤滑性ライナとすべり接触するすべり接触対向面を有するものである。そして、前記すべり接触対向面において、算術平均粗さで示される表面粗さRaが0.3μm以上1.8μm以下であり、且つ、前記被膜は押し込み硬さが400mgf/μm以上1200mgf/μm以下の硬度を有することを特徴とするものである。
このすべり接触対向面と前記被膜の態様により、常温下のみならず、低温環境下においても低摩擦係数を実現することができる特性を有する。
以下具体的に説明する。
【0011】
[摺動部材]
本発明は、自己潤滑性ライナと軸受要素部材を備える摺動部材を対象とする。
上記摺動部材は、例えば、互いに相対的に摺動する第1部材および第2部材と、前記第1部材の摺動面または前記第2部材の摺動面に設けられるライナとを備える態様を挙げる
ことができる。
以下に添付図面を参照して、本発明に係る摺動部材の好ましい実施形態について詳細に説明するが、下記実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の好ましい摺動部材の一例である自己潤滑性すべり軸受1を示す断面図である。
自己潤滑性すべり軸受1は、すべり接触軸受面3を有するハウジング2と、すべり接触軸受面3に固定される自己潤滑性ライナ4、及び、ハウジング2内に保持され、自己潤滑性ライナ4に精密にすべり接触する、すべり接触対向面10を有する軸受要素部材6(被膜は図示せず)とを有する。
【0013】
図1に示される実施形態において、自己潤滑性すべり軸受1は、すべり接触軸受面3が凹球面状であり、すべり接触対向面10が凸球面状である、球面すべり軸受であり、すなわち図1は球面すべり軸受の径方向の断面図を示すものといえる。
なお本実施形態では、球面の自己潤滑性すべり軸受1を参照として一貫して使用しているが、本発明は球面すべり軸受に限られるものではなく、円筒状のジャーナル軸受及び平面接触形式の軸受を含んでおり、しかもそれらに限定されないで、他の形式の自己潤滑性すべり軸受にも同様に適用することができる。
【0014】
図2は、図1の自己潤滑性すべり軸受1に示すA部分を拡大して示す断面図である。
図2において、軸受要素部材6は、金属製部材7の表面であるすべり接触対向軸受面8に被膜9を有し、該被膜9が、ハウジング2のすべり接触軸受面3に固定された前記自己潤滑性ライナ4のすべり接触面5にすべり接触する、すべり接触対向面10を構成してなる。
【0015】
前記被膜9において、その表面であるすべり接触対向面10の表面粗さは、算術平均粗さが0.3μm以上1.8μm以下であり、好ましくは0.5μm以上1.2μm以下である。
また前記被膜9において、その押し込み硬さは400mgf/μm以上1200mgf/μm以下であり、好ましくは400mgf/μm以上900mgf/μm以下である。なお本書において、押し込み硬さはナノインデンテーション法によるものである。
一般に、被膜の表面粗さは、アブレッシブ摩耗の発生と真実接触面積の大きさに関連し、また被膜の硬度は、対抗面(例えばライナー)の摩耗と被膜自体の摩耗の発生に関連し、いずれも摩擦係数の上昇の要因となり得る。
本発明においては、上記表面粗さを実現することにより、すべり接触対向面10による自己潤滑性ライナ4の潜在的な摩耗及び損傷を明確に軽減させることができるとともに、上記硬度を実現することにより、自己潤滑性すべり軸受1のその後の使用の間のすべり接触対向面10の引掻傷を、可能な限り小さく抑えることができる。その結果、低摩擦係数を実現し、結果的に自己潤滑性すべり軸受1の寿命を増加させることができる。
【0016】
前記軸受要素部材6の金属製部材7は、例えば軸受鋼、ステンレス鋼、ダイス鋼、ジュラルミン材、チタン合金などの金属から形成される。
好適な態様において、軸受要素部材6の金属製部材7は、ステンレス鋼製であるか、或いはダイス鋼製とすることができる。
【0017】
前記軸受要素部材6の金属製部材7上(すべり接触対向軸受面8)に形成され、すべり接触対向面10を構成してなる被膜9は、例えば金属マトリクス又はセラミックマトリクス中に樹脂材料が分散している複合被膜とすることができるが、これに限定されない。前述の硬度や表面粗さを有するものであればよく、炭化クロム合金など、例えば硬質炭化ク
ロム合金などを被膜9として使用することができる。
好ましい態様において、前記被膜9は、ニッケルを含むマトリクス中にフッ素樹脂材料が分散している複合被膜とすることができ、さらに好ましい態様において、ニッケルおよびリンを含むマトリクス中にフッ素樹脂材料が分散している複合被膜とすることができる。
【0018】
前記被膜9は、例えば金属マトリクスと樹脂材料とが分散してなる被膜形成材料を用い、これをすべり接触対向軸受面8に接触(塗布、浸漬等)させて形成することができるがこれに限定されない。
好ましい被膜形成材料としては、例えば無電解めっき液を挙げることができる。
また例えば、セラミック原料マトリクスと樹脂材料とが分散してなる被膜形成材料を用い、ゾルゲル法等を用いて、すべり接触対向軸受面8にセラミックマトリクス中に樹脂材料が分散している被膜9を形成することもできる。
好ましいセラミックマトリクスとしては、例えばAlを挙げることができる。
また、硬質クロムめっきの技術を用いて、硬質炭化金属クロム合金からなる被膜9を形成することもできる。
【0019】
前記被膜9の厚さは特に限定されないが、例えば1μm~50μmの間、また例えば5μm~30μmの間、或いは10μm~15μmの間とすることができる。
【0020】
前記ハウジング2は、例えば軸受鋼、ステンレス鋼、ダイス鋼、ジュラルミン材、チタン合金などの金属から形成することができる。
【0021】
また前記ハウジング2のすべり接触軸受面3に固定された自己潤滑性ライナ4は、後述する光硬化性樹脂組成物の硬化物からなる。
【0022】
図1に示す自己潤滑性すべり軸受1(球面すべり軸受)は、例えば以下のプロセスにて製造することができる。
まず、軸受要素部材6の金属製部材7のすべり接触対向軸受面8(外周面)に、例えば被膜形成材料を塗布する、或いはゾルゲル法やめっきの技術等を用いて、被膜9を形成する。
他方、ハウジング2のすべり接触軸受面3(内周面)には、後述する光硬化性樹脂組成物を塗布し、次いで塗布された光硬化性樹脂組成物に紫外線を照射して組成物を硬化させる。次いで、切削加工によって硬化物の仕上げを行い、所定の厚さの自己潤滑性ライナ4を形成する。このとき、ライナの厚さは特に限定されないが、例えば0.25mm程度とすることができる。自己潤滑性ライナ4はいずれも、切削および/または研削により寸法調整が容易であり、この意味で適宜「マシナブルライナ」(加工可能なライナ)と呼ぶことがある。
その後、ハウジング2に軸受要素部材6を挿入し、ハウジング2をプレスして、軸受要素部材6の被膜9のすべり接触対向面10の凸球面に倣うように塑性変形させるスウェジ加工を行う。最後に、切削加工によってハウジング2の外側の仕上げを行い、自己潤滑性すべり軸受1(球面すべり軸受)を完成させる。
【0023】
また図3に、本発明の好ましい摺動部材の一例である自己潤滑性すべり軸受のうち、別の一態様である円筒状のジャーナル軸受20について、軸方向に沿って切断した縦断面図(図3(a))及び軸と直交する方向に切断した横断面図(図3(b))を示す。
【0024】
図3(a)に示すように、円筒状のジャーナル軸受20は、円筒状の外輪21と、外輪21の内周面であるすべり接触軸受面22に形成された自己潤滑性ライナ23とを有する。円筒状のジャーナル軸受20は、摺動面となる自己潤滑性ライナ23のすべり接触面2
4で、被摺動物である軸受要素部材28(いわゆるシャフト、図3(a)中、二点鎖線にて表示)を受ける。
前記外輪21は、前述の自己潤滑性すべり軸受1におけるハウジングと同様の金属から形成される。
【0025】
図3(b)に示すように、軸受要素部材28は、金属製部材の一態様であるシャフト25の表面であるすべり接触対向軸受面26に被膜27を有し、該被膜27が、外輪21のすべり接触軸受面(内周面)22に固定された前記自己潤滑性ライナ23のすべり接触面24にすべり接触する、すべり接触対向面29を構成してなる。
前記被膜27において、その表面であるすべり接触対向面29の表面粗さ及び押し込み硬さは、前述の自己潤滑性すべり軸受1における被膜9のすべり接触対向面10の表面粗さ及び押し込み硬さと同様である。
また前記被膜27の種類(複合被膜、炭化クロム合金等)、被膜27の形成材料・形成方法、被膜27の厚さについても、前述の自己潤滑性すべり軸受1における被膜9と同様である。
さらに、前記軸受要素部材28の金属製部材の一態様であるシャフト25は、前述の自己潤滑性すべり軸受1における金属製部材7と同様の金属から形成される。
【0026】
図3に示す円筒状のジャーナル軸受20は、前述の自己潤滑性すべり軸受1と同様に、例えば以下のプロセスにて製造することができる。
外輪21部材の内周面であるすべり接触軸受面22に、後述する光硬化性樹脂組成物を塗布し、次いで塗布された光硬化性樹脂組成物に紫外線を照射して組成物を硬化させる。次いで、切削加工によって硬化物の仕上げを行い、所定の厚さ(例えば0.25mm程度)の自己潤滑性ライナ24を形成する。
他方、軸受要素部材28の金属製部材であるシャフト25のすべり接触対向軸受面26(シャフト25の表面)に、例えば被膜形成材料を塗布する、或いはゾルゲル法やめっきの技術等を用いて被膜27を形成する。
【0027】
〔自己潤滑性ライナ:光硬化性樹脂組成物〕
本発明に係る摺動部材において、前述のすべり接触対向面とすべり接触する自己潤滑性ライナは、イソシアヌル酸環を有する(メタ)アクリレート化合物と、ポリテトラフルオロエチレン樹脂とを含む光硬化性樹脂組成物からなるものとすることができる。
【0028】
[イソシアヌル酸環を有する(メタ)アクリレート化合物]
光硬化性樹脂組成物は、光照射により硬化する成分としてイソシアヌル酸環を有する(メタ)アクリレート化合物[(メタ)アクリロイル基を有するイソシアヌレートともいう]を含むものとすることができる。前記イソシアヌル酸環を有する(メタ)アクリレート化合物は、光硬化性樹脂組成物に耐熱性を付与する機能を有する。
前記イソシアヌル酸環を有する(メタ)アクリレート化合物は、特に(メタ)アクリロイル基を2以上、例えば2つ又は3つ有していることが好ましい。なお本書において、たとえば“(メタ)アクリロイル基”とは、アクリロイル基とメタクリロイル基の双方を指す。また(メタ)アクリロイル基を(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基を(メタ)アクリロキシ基とも称する。
【0029】
前記イソシアヌル酸環を有する(メタ)アクリレート化合物は、下記式(1)で表される化合物であることが好適である。
【化1】
式(1)中、Xは(メタ)アクリロイル基を含み、かつC、H及びOのみからなる基であり、Y及びZは、C、H及びOのみからなる基である。
上記Y及びZは(メタ)アクリロイル基を含んでいても、含んでいなくてもよい。
上記Xは、好ましくは(メタ)アクリロイルエチル基、又はε-カプロラクトンで変性された(メタ)アクリロキシエチル基であり、Y及びZは、Xと同一の基であることが好ましい。
【0030】
上記イソシアヌル酸環を有する(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ジ-(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス-(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどを挙げることができる。これらは一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
中でも好適な化合物として、ジ-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート(DAEIC)、トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート(TAEIC)、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート(CTAI)、並びにこれらの混合物を挙げることができる。
【0031】
上記イソシアヌル酸環を有する(メタ)アクリレート化合物は、光硬化性樹脂組成物の全質量に対して20質量%~89.75質量%の割合にて、例えば20質量%~50質量%の割合にて、また例えば20質量%~40質量%の割合にて、使用することができる。20質量%未満であると樹脂の流動性が不足し、塗布することが困難となり、またライナ強度も不足する傾向がある。また89.75質量%を超えて配合した場合には、後述する固体潤滑剤であるポリテトラフルオロエチレン樹脂の含有量が少なくなるために潤滑性が低下する傾向がある。
【0032】
[ポリテトラフルオロエチレン樹脂]
上記光硬化性樹脂組成物は、潤滑性を付与する機能を有する成分、すなわち固体潤滑剤として、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下PTFEとも称する)を含むものとすることができる。PTFEは、テトラフルオロエチレンの重合体であり、一般式:[C(n:重合度)で表される。
上記PTFEの形状は特に限定されず、粉末状、粒子状(球状、多面形状、針状)、繊維状など、任意の形態のものを単独または組み合わせて使ってもよい。例えばPTFEが粒子状である場合、その粒子の大きさは特に限定されないが、例えば平均粒径で0.5~200μmのポリテトラフルオロエチレンを使用することができる。
【0033】
上記PTFEは、その表面をナトリウムナフタレンでエッチングした後にエポキシ変性アクリレートで被覆する表面処理を施してもよい。このような表面処理を施すことで、イソシアヌル酸環を有する(メタ)アクリレート化合物より生成するアクリル樹脂との親和性が高まり、該アクリル樹脂との結合がより強固となる。これにより、上記光硬化性樹脂組成物の硬化物を自己潤滑性ライナとして用いた時に、摺動時にPTFEの粉末、粒子、
あるいは繊維が自己潤滑性ライナから脱落するのを抑制することができ、摺動面と接触している固体潤滑剤であるPTFEにより自己潤滑性ライナの摩擦係数が小さくなる。ひいては自己潤滑性ライナの摩耗量を少なくすることができる。
【0034】
上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂は、光硬化性樹脂組成物の全質量に対して10質量%~50質量%の割合にて、例えば20質量%~40質量%の割合にて使用することができる。10質量%未満の場合、摺動面と接触しているPTFEの量が少なく摩擦係数低減の効果が小さくなるため所望の潤滑性能を満足しない虞があり、50質量%を超えて配合した場合、PTFEの摩耗が顕著となるため自己潤滑性ライナの摩耗量が増加し、自己潤滑性ライナの摩擦係数も増大する虞がある。
【0035】
[その他(メタ)アクリレート化合物]
上記光硬化性樹脂組成物には、前記イソシアヌル酸環を有する(メタ)アクリレート化合物以外のその他の(メタ)アクリレート化合物を含んでいてもよい。イソシアヌル酸環を有しないその他の(メタ)アクリレート化合物は、例えば、耐薬品性付与、硬化反応促進、金属との接着性向上、架橋反応促進、靱性付与などの機能を有し得るが、これらの機能付与のみに限定されるものではない。
その他の(メタ)アクリレート化合物は、他の配合成分の種類および配合量に応じて、その種類および配合量を種々設定し得る。例えば、光硬化性樹脂組成物の全質量に対して、その他の(メタ)アクリレート化合物の全量を0.1~30質量%程度の範囲内とすることができる。
【0036】
その他の(メタ)アクリレート化合物として、エポキシ(メタ)アクリレートを一種単独で、又は二種以上を組み合わせて含有することができる。エポキシ(メタ)アクリレートは、硬化後の強度を損なわず耐薬品性能を付与する、すなわち耐薬品性付与剤として機能し得る。
エポキシ(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、たとえば、変性ビスフェノールA型エポキシアクリレートまたはビスフェノールA型エポキシ変性アクリレートなどを挙げることができる。
エポキシ(メタ)アクリレートを使用する場合、その配合量は、光硬化性樹脂組成物の全質量に対して20質量%以下、たとえば1質量%~10質量%とすることができる。20質量%を超えて配合した場合、自身が剛直な構造を有するが故に、光硬化性樹脂組成物を硬化させた際、硬化物において割れが生じる虞がある。
【0037】
その他の(メタ)アクリレート化合物として、イソシアヌル酸環を有しない多官能の、例えば3官能以上の(すなわち、(メタ)アクリル基を3つ以上持つ)(メタ)アクリレートを一種単独で、又は二種以上を組み合わせて含有することができる。多官能(メタ)アクリレートは、重合反応の開始点である官能基を複数含むことから、硬化後の強度や耐熱性を損なうことなく重合反応(硬化反応)を促進させることができ、硬化反応促進剤としての役割を担うことができる。
多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
イソシアヌル酸環を有しない多官能(メタ)アクリレートを併用する場合、その配合量は、光硬化性樹脂組成物の全質量に対して、15質量%以下、例えば1質量%~15質量%とすることができる。15質量%を超えて配合した場合には、急速な硬化反応につながる虞があり、硬化物製造時のハンドリングが難しくなる場合がある。
【0038】
その他の(メタ)アクリレート化合物として、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートや、イソボルニル(メタ)アクリレートを一種単独で、又は二種以上を組み合わせて含有することができる。ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートやイソボルニル(メタ)アクリレートは、または金属(すなわち摺動面)との接着性向上剤としての機能を有し得、またヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートは粘度調整剤(反応性希釈剤)としての機能を有し得る。
ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートやイソボルニル(メタ)アクリレートを使用する場合、その配合量は、光硬化性樹脂組成物の全質量に対して1質量%~30質量%、たとえば2質量%~20質量%とすることができる。
【0039】
その他の(メタ)アクリレート化合物として、架橋性の(メタ)アクリレート、例えば反応性の等しい不飽和結合を複数有する、イソシアヌル酸環を有しない(メタ)アクリレートを一種単独で、又は二種以上を組み合わせて含有することができる。上記架橋性の(メタ)アクリレートは、架橋反応の補助剤として機能し得る。
上記反応性の等しい不飽和結合を複数有する、イソシアヌル酸環を有しない(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
イソシアヌル酸環を有しない2官能(メタ)アクリレートを併用する場合、その配合量は、光硬化性樹脂組成物の全質量に対して、5質量%以下、例えば0.1質量%~5質量%とすることができる。
【0040】
その他の(メタ)アクリレート化合物として、ウレタン(メタ)アクリレートを一種単独で、又は二種以上を組み合わせて含有することができる。ウレタン(メタ)アクリレートは靭性付与剤として機能し得る。
ウレタン(メタ)アクリレートを使用する場合、その配合量は、光硬化性樹脂組成物の全質量に対して10質量%以下、たとえば1質量%~5質量%とすることができる。
【0041】
[フィラー]
上記光硬化性樹脂組成物は、ガラス繊維、ヒュームドシリカ、メラミンシアヌレート、リン酸塩等のフィラーを含有することができる。
【0042】
<ガラス繊維>
上記光硬化性樹脂組成物には、自己潤滑性ライナの強度を向上させる目的で、ガラス繊維を添加してもよい。ガラス繊維としては、断面形状が円形の円形断面ガラス繊維を用いてもよいし、断面形状が円形ではない異形断面ガラス繊維を用いてもよい。尚、上記光硬化性樹脂組成物は、ガラス繊維以外にも、強化繊維として、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウィスカーのような無機系繊維を含有してもよい。
ガラス繊維は、光硬化性樹脂組成物の全質量に対して30質量%以下、例えば1質量%~30質量%にて含有することができる。ガラス繊維の含有量が30質量%を超えると、自己潤滑性ライナの切削・研削時に、切断されたガラス繊維が相手材表面に傷をつけることにより表面粗さが大きくなり、摩耗を促進する傾向が高まるので、マシナブルライナとしての利点が損なわれる可能性がある。なお、ガラス繊維は、紫外線の透過性を低下させない点で好適である。
【0043】
<ヒュームドシリカ>
ヒュームドシリカは、光硬化性樹脂組成物のチクソ性を付与するために使用される。
ライナ形成材料はそのチクソ性が不足すると、これを適用箇所(摺動面)に塗布する際に液だれが生じ、ライナ成形が困難となる場合がある。このような場合、ヒュームドシリカを添加することにより、該材料のチクソ性を調整し、ライナ成形時のハンドリングを改善することができる。
ヒュームドシリカは、光硬化性樹脂組成物の全質量に対して5質量%以下、たとえば0.1質量%~3質量%にて含有することができる。ヒュームドシリカの含有量が5質量%を超えると、相手材表面への摺動傷をつけ表面粗さを不均一にさせるためライナの摩耗量の増加につながり好ましくない。
【0044】
<メラミンシアヌレート>
メラミンシアヌレートは、前記PTFEと同様に固体潤滑剤としての機能を有する。PTFEと共にメラミンシアヌレートを用いることにより、PTFEを単独で用いたときよりも、光硬化性樹脂組成物の硬化物の摩擦係数を低減し得る。メラミンシアヌレートは、6員環構造のメラミン分子とシアヌル酸分子が水素結合で結合して平面状に配列し、その平面が互いに弱い結合で層状に重なり合い、へき開性を有する構造を有する。このような構造が固体潤滑性に貢献していると考えられる。
メラミンシアヌレートは、光硬化性樹脂組成物の全質量に対して30質量%以下、たとえば1質量%~20質量%にて含有することができる。30質量%を超えて配合した場合、自己潤滑性ライナの摩擦係数は下がるが、摩耗量が増加する傾向があり、好ましくない。
【0045】
<リン酸塩>
リン酸塩は、これを自己潤滑性ライナの成分として用いることにより初期馴染み性を向上し、リン酸塩無添加の場合よりも早期に摩擦係数を安定させることが気体できる。
リン酸塩としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の第三リン酸塩、第二リン酸塩、ピロリン酸塩、亜リン酸塩又はメタリン酸塩が挙げられる。具体的には、リン酸三リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸水素ナトリウム、ピロリン酸リチウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、ピロリン酸カルシウム、メタリン酸リチウム、メタリン酸マグネシウム、メタリン酸カルシウムなどが挙げられる。
リン酸塩は、光硬化性樹脂組成物の全質量に対して、例えば1質量%~5質量%にて含有することができる。
【0046】
[添加剤]
上記光硬化性樹脂組成物は、その他所望により、酸化防止剤、光安定剤、保存安定剤、重合開始剤(光開始剤、熱開始剤)、重合禁止剤、染料などの各種添加剤を必要に応じて添加してもよい。
上記添加剤を使用する場合、これらを合計して、光硬化性樹脂組成物の全質量に対して、0.2質量%~10質量%の割合にて使用することができる。
【0047】
<重合開始剤:光重合開始剤>
光開始剤は、光照射(紫外線照射)による光硬化性樹脂組成物の重合反応を促進する機能を有する。光開始剤は、光硬化性樹脂組成物の全質量に対して、たとえば0.1質量%~5質量%にて配合し得る。光開始剤は、例えば、以下のものを単独または複数組み合わせて使用することができるが、特にこれらに限定されるものではない:ベンゾフェノン、4,4-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、メチルオルトベンゾイルベンゾエート、4-フェニルベンゾフェノン、2-t-ブチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベン
ゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2-メチル-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-1-プロパノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-1-ブタノン、2,4-ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルホルメート、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-,2-(O-ベンゾイルオキシム)、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)等。
【0048】
<重合開始剤:熱開始剤>
熱開始剤は、熱による重合反応を促進する機能を有し、光硬化性樹脂組成物の全質量に対して、たとえば0.1質量%~5質量%にて配合し得る。
熱開始剤としては、たとえば熱によりラジカルを発生させるアゾ重合開始剤や有機過酸化物が挙げられる。これが光硬化性樹脂組成物に配合された場合、紫外線照射によって引き起こされた重合反応の反応熱によって、アゾ重合開始剤又は有機過酸化物がラジカルを発生させ、それにより(メタ)アクリレートの重合反応が引き起こされる。そのため、光硬化性樹脂組成物内部等の紫外線が当たらない部分でも重合反応が進行し、樹脂組成物全体を硬化させることができる。
アゾ重合開始剤は、例えば、以下のものを単独または複数組み合わせて使用してもよいが、特にこれらに限定されるものではない:2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボン酸メチル)、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-2-プロペニルプロパンアミド)、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル等。
また有機過酸化物は、例えば以下のものを単独または複数組み合わせて使用してもよいが、特にこれらに限定されるものではない:メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシネオジケネート等。
【0049】
また上記光硬化性樹脂組成物は、後述するように塗布にて使用することを考慮すると、室温において液状であり、取扱し易い粘度(塗布が可能であり且つ塗布時に液垂れが生じない粘度)であることが好ましい。光硬化性樹脂組成物の粘度は、例えば室温にて、20Pa・s~100Pa・s程度とすることができる。
【実施例0050】
以下、本発明を実施例により、さらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれに限定さ
れるものではない。
【0051】
[光硬化性樹脂組成物]
以下、表1に記載の成分及び含有量(質量%)にて、実施例にて使用した光硬化性樹脂組成物を調製した。
【0052】
【表1】
【0053】
[揺動試験]
上記光硬化性樹脂組成物の硬化物と後述する被膜とを、常温(25℃)及び低温環境下(-54℃以下の低温を保持するチャンバ内)で揺動させ、以下の手順に基づき、摩擦係数を測定した。
試験は図4に示すピンオンディスク摩耗試験機を用い、以下の手順にて実施した。
【0054】
図4に示すように、ピンオンディスク摩耗試験機30は、ピン31と、円盤状のディスク32を有する。なおピン31は直径φ5.85mmであり、ディスク32は直径φ30mmである。
ピン31の先端に、前記表1に示す光硬化性樹脂組成物を塗布した後、積算光量3000mJ/cm以上にて紫外線を照射し、組成物を硬化させて硬化物とし、これを切削加工にて膜厚が0.25mmとなるように調整し、光硬化性樹脂組成物の硬化物からなる層(Prc層)とした。
ディスク32はSUS304(ステンレス鋼)製又はSKD(ダイス鋼)製を用い、ディスク32表面に表2または表3に示す組成・膜厚を有する実施例及び比較例の被膜Cを形成した。また被膜Cを形成していないディスク(SUS304製)も参考例として揺動試験に用いた。なお、以降の説明において、表2または表3に示す被膜等の例番号を、摩擦係数の評価の例番号としても扱うものとする。
ディスク32(被膜C)に対してピン31の先端のPrc層が垂直に接触するように設置し、ピン31を面圧5Mpaにてディスク32に押し付け、この状態で回転半径15mm、揺動角度90度、一往復を一周期としたときの周波数が0.1Hzとなるように、往復運動させた。
3時間の往復運動中、常に摩擦係数を測定し、3時間後の測定データを試験データとして採用した。本試験を2回実施し、平均値として摩擦係数を求めた。
【0055】
なお、揺動試験の前に、実施例及び比較例の被膜C(及び参考例のSUS304)の表面粗さRa及び表面の押し込み硬さを以下の手順に従い評価した。
[表面粗さRa(算術平均粗さ)]
表面粗さRaは非接触表面形状測定機を用いて測定した。非接触表面形状測定機として、走査型白色干渉法を利用したZygo社製の商品名:NewView200を用い、対物レンズ×50(50倍)のモードで任意の箇所を5点測定し、得られた値の平均値をRaとした。なお、測定範囲は0.257mm×0.192mm、光源は白色LEDであった。
[押し込み硬さ(硬度)]
硬度は超微小押し込み硬さ試験機を用いて測定した。超微小押し込み硬さ試験機として、ナノインデンテーション法を利用した(株)エリオニクス製の商品名:ENT-1100aを用い、三角錐圧子(バーコビッチ圧子)、荷重1000mgfの条件のもとで被膜断面を30点測定し、昇順で並べた際の最大値および最小値からそれぞれ5点ずつ間引いた平均値を押し込み硬さとした。被膜断面は、押し込み硬さ測定前にバフ研磨処理したものを用いた。
【0056】
得られた結果を表2及び表3に示す。
また、表2の結果に関して、図5に常温(25℃)下での硬度(横軸)に対する摩擦係数の値(縦軸)を、図6に常温(25℃)下での表面粗さ(横軸)に対する摩擦係数の値(縦軸)を、図7に-55℃下での硬度(横軸)に対する摩擦係数の値(縦軸)を、そして図8に-55℃下での表面粗さ(横軸)に対する摩擦係数の値(縦軸)を夫々示す。
さらに表3の結果に関して、図9には、被膜の成分を同一とした場合の、常温(25℃)下での表面粗さ(横軸)に対する摩擦係数の値(縦軸)[□被膜なし(SUS304)、●被膜あり(図中、NYF-11Sと記載)]を、図10には、-55℃下での表面粗さ(横軸)に対する摩擦係数の値(縦軸)[□被膜なし(SUS304)、●被膜あり(図中、NYF-11Sと記載)]を夫々示す。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
表2に示すように、ディスク材質がSUS304(ステンレス鋼)であり、被膜を設けなかった参考例1及び参考例2にあっては、表面粗さによらず、-55℃下の摩擦係数が0.23程度、常温下(25℃)での摩擦係数が0.14~0.15程度の値を示した。なおこれら被膜なしの摩擦係数の値を目安値とするべく、図5図6及び図9(常温)で
は摩擦係数(縦軸)0.14において、図7図8及び図10(-55℃)では摩擦係数(縦軸)0.23において、それぞれ破線を付した。
【0060】
表2及び図5図8に示すように、上記ディスク(SUS304(ステンレス鋼)製)上に、押し込み硬さが400mgf/μm以上1200mgf/μm以下であり、且つ、表面粗さRaが0.3μm以上1.8μm以下である被膜を設けた実施例1~実施例7は、常温(25℃)下の摩擦係数が0.14未満、-55℃下の摩擦係数が0.23未満となり、低温下及び常温下の何れにおいても参考例1及び参考例2と比べ低摩擦係数を実現したことが確認された。
一方、押し込み硬さが1200mgf/μmを超える高硬度の被膜を形成した比較例1は、表面粗さが小さい滑らかな表面を有していた場合においても、常温(25℃)下において実施例1~実施例7や参考例1及び参考例2と比べても高い摩擦係数値を示した。
【0061】
またディスク材質がSKD(ダイス鋼)製であるときも同様に、押し込み硬さが400mgf/μm以上1200mgf/μm以下であり、且つ、表面粗さRaが0.3μm以上1.8μm以下である被膜を備える実施例8~実施例10は、常温(25℃)下の摩擦係数が0.14未満であり、-55℃下でも0.23未満の低摩擦係数を実現できた。
一方、押し込み硬さ及び表面粗さRaの少なくとも一方が上記範囲から外れた比較例2~比較例4は、常温(25℃)下の摩擦係数が実施例8~10及び参考例1及び参考例2と比べて高い数値を示した。
【0062】
以上、表2及び図5図8に示すように、押し込み硬さが400mgf/μm以上1200mgf/μm以下であり、且つ、表面粗さRaが0.3μm以上1.8μm以下であるとき、常温(25℃)下の摩擦係数は目安値の0.14を下回り、且つ、-55℃下の摩擦係数が目安値の0.23を下回ることが確認された。
【0063】
また表3並びに図9及び図10に示すように、ディスク材質、そして被膜組成を同一として、表面粗さを変化させた場合、押し込み硬さが400mgf/μm以上1200mgf/μm以下であり、表面粗さRaが0.3μm以上1.8μm以下である実施例11、実施例2(再掲)、実施例12及び実施例13は、-55℃下において0.23未満の低摩擦係数を示し、また常温(25℃)下にあっても0.14未満の低摩擦係数を示した。
一方、押し込み硬さが400mgf/μm以上1200mgf/μm以下であっても、表面粗さRaが1.8μm超とした比較例5は、常温(25℃)下及び-55℃下の何れにおいても、上記実施例と比べて高い摩擦係数を示した。また、表面粗さRaを0.3μm未満とした比較例6は-55℃下において上記実施例と比べ高い摩擦係数を示し、常温(25℃)下においても実施例2、実施例12及び実施例13と比べると高い摩擦係数を示した。このように、表面粗さが大きい場合だけでなく、表面粗さが小さい(滑らかである)場合においても摩擦係数が高くなることが確認された。
なお、被膜を設けずとした参考例1~参考例3では、表面粗さの変化に依らず、表2に示した結果と同様に-55℃下の摩擦係数が0.23程度、常温下(25℃)での摩擦係数が0.14~0.15程度の値を示した。
【0064】
以上、表3及び図9図10に示すように、押し込み硬さが400mgf/μm以上1200mgf/μm以下であり、且つ、表面粗さRaが0.3μm以上1.8μm以下であるとき、常温(25℃)下の摩擦係数は目安値の0.14を下回り、且つ、-55℃下の摩擦係数が0.23を下回ることが確認された。
【0065】
以上の通り、所定の硬度及び表面粗さを有する被膜を、自己潤滑性ライナとすべり接触
する摺動面に設けることにより、常温及び低温環境下の低摩擦係数を実現することができる。なお、一見、表面の硬度が硬く、また滑らかであることが低摩擦係数の実現に有利であると考えられるが、上記に示す実施例の結果は、これらの予想に反して高硬度すぎても或いはまた表面が平滑すぎても常温且つ低温での低摩擦係数の実現が困難であることを示すものであり、本発明によって初めて有利な効果を得られるものである。
【0066】
本発明は、自己潤滑性ライナとすべり接触するすべり接触対向面を有する摺動面に備える摺動部材であれば任意の部材に適用することができ、回転運動、部材やパーツの並進(直動)運動、揺動運動、それらの組み合わせ運動など、任意の方向の摺動運動に使用される摺動部材を包含している。
【0067】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれものである。
【符号の説明】
【0068】
1…自己潤滑性すべり軸受、 2…ハウジング、 3…すべり接触軸受面、 4…自己潤滑性ライナ、 5…すべり接触面、 6…軸受要素部材、 7…金属製部材、 8…すべり接触対向軸受面、 9…被膜、 10…すべり接触対向面、
20…ジャーナル軸受、 21…外輪、 22…すべり接触軸受面、 23…自己潤滑性ライナ、 24…すべり接触面、 25…シャフト(金属製部材)、 26…すべり接触対向軸受面、 27…被膜、 28…軸受要素部材、 29…すべり接触対向面、
30…ピンオンディスク摩耗試験機、 31…ピン、 32…ディスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10