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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058337
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】熱発生部材および熱取り出しシステム
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/72 20060101AFI20240418BHJP
   F28D 20/00 20060101ALI20240418BHJP
   H05B 3/12 20060101ALI20240418BHJP
   H05B 3/18 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
H05B3/72
F28D20/00 H
H05B3/12 A
H05B3/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165627
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】▲のぼり▼ 和宏
(72)【発明者】
【氏名】海老ケ瀬 隆
(72)【発明者】
【氏名】川崎 啓治
(72)【発明者】
【氏名】一木 武典
(72)【発明者】
【氏名】今枝 美能留
(72)【発明者】
【氏名】宮入 由紀夫
【テーマコード(参考)】
3K092
【Fターム(参考)】
3K092PP20
3K092QA05
3K092QB02
3K092QB43
3K092RF03
3K092RF11
3K092RF19
3K092RF27
(57)【要約】
【課題】水素吸蔵金属部を円滑に加熱でき、温度コントロール性の向上を図ることができる熱発生部材および熱取り出しシステムを提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態による熱発生部材は、セラミックス基体と、抵抗発熱体と、水素吸蔵金属部と、を備えている。抵抗発熱体は、セラミックス基体に埋設されている。水素吸蔵金属部は、水素を吸蔵および放出可能で水素の拡散により熱を発生可能である。水素吸蔵金属部は、セラミックス基体の表面の少なくとも一部に配置されている。セラミックス基体は、水素吸蔵金属部において発生した熱を作動流体に伝達可能である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基体と、
前記セラミックス基体に埋設される抵抗発熱体と、
前記セラミックス基体の表面の少なくとも一部に配置され、水素を吸蔵および放出可能で水素の拡散により熱を発生可能な水素吸蔵金属部と、を備え、
前記セラミックス基体は、前記水素吸蔵金属部において発生した熱を作動流体に伝達可能である、熱発生部材。
【請求項2】
前記水素吸蔵金属部は、
前記セラミックス基体の表面の少なくとも一部に配置されている母金属層であって、水素を吸蔵および放出可能な母金属層と、
前記母金属層上に配置されている多層膜であって、第1金属層と前記第1金属層に積層される第2金属層とを備える多層膜と、を備える、請求項1に記載の熱発生部材。
【請求項3】
前記母金属層および前記第2金属層のそれぞれは、Niから構成され、
前記第1金属層は、Cuから構成されている、請求項2に記載の熱発生部材。
【請求項4】
前記セラミックス基体は、絶縁性セラミックス材料から構成されている、請求項1に記載の熱発生部材。
【請求項5】
前記絶縁性セラミックス材料は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、または、これらの複合材料を含む、請求項4に記載の熱発生部材。
【請求項6】
前記セラミックス基体を収容する筐体をさらに備え、
前記セラミックス基体は、
平板形状を有し、
前記筐体の内面と接触して、前記筐体の内部空間を、作動流体が流通可能な第1流路と、水素含有ガスが流通可能な第2流路であって前記水素吸蔵金属部が面する第2流路と、に仕切っている、請求項4に記載の熱発生部材。
【請求項7】
前記筐体は、オーステナイト系ステンレス鋼から構成され、
前記セラミックス基体は、酸化ジルコニウムから構成されている、請求項6に記載の熱発生部材。
【請求項8】
前記セラミックス基体は、円筒形状を有し、
前記セラミックス基体の内部空間が、作動流体が流通可能な第1流路として機能し、
前記水素吸蔵金属部は、前記セラミックス基体の外周面の少なくとも一部に配置されている、請求項1に記載の熱発生部材。
【請求項9】
前記セラミックス基体は、作動流体の通過方向と直交する方向に延びる仮想線であって前記セラミックス基体の中心を通る仮想線に対して、前記通過方向の上流側に位置する上流部分と、前記通過方向の下流側に位置する下流部分と、を有し、
前記上流部分における前記抵抗発熱体の配置密度は、前記下流部分における前記抵抗発熱体の配置密度よりも大きい、請求項1に記載の熱発生部材。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の熱発生部材と;
前記抵抗発熱体に電圧を印加可能な電圧印加手段と;
前記水素吸蔵金属部において発生した熱が伝達された作動流体の温度、または、前記セラミックス基体の温度を測定する温度検知センサーと;
前記温度検知センサーの検知結果に基づいて、前記電圧印加手段を制御して、前記抵抗発熱体の温度を調整する制御部と;を備える、熱取り出しシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱発生部材および熱取り出しシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の観点から、二酸化炭素などの温室効果ガスを発生しないクリーンなエネルギー源が望まれている。そのようなエネルギー源として、例えば、中空の筒体と、筒体の外面に設けられる発熱体と、筒体の内面により形成される流路と、を備える発熱装置が提案されている(特許文献1参照)。このような発熱装置では、発熱体に水素系ガスを供給して水素を吸蔵させた後、加熱された流体を流路に供給して発熱体を所定温度以上に加熱し、吸蔵されている水素を放出させて量子拡散させることで、流体の温度以上の過剰熱が発生する。過剰熱は、筒体を介して流路を流れる流体を加熱する。これによって、熱エネルギーが回収される。しかし、特許文献1に記載の発熱装置では、加熱された流体から筒体を介して発熱体に熱を伝達して、発熱体を所定温度まで加熱して、発熱体における水素拡散を開始するので、発熱体の昇温に要する時間の短縮が困難であり、かつ、熱発生時の温度コントロール性が不十分であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/100784号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主たる目的は、水素吸蔵金属部を円滑に加熱でき、温度コントロール性の向上を図ることができる熱発生部材および熱取り出しシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本発明の実施形態による熱発生部材は、セラミックス基体と、抵抗発熱体と、水素吸蔵金属部と、を備えている。抵抗発熱体は、セラミックス基体に埋設されている。水素吸蔵金属部は、セラミックス基体の表面の少なくとも一部に配置されている。水素吸蔵金属部は、水素を吸蔵および放出可能で水素の拡散により熱を発生可能である。セラミックス基体は、水素吸蔵金属部において発生した熱を作動流体に伝達可能である。
[2]上記[1]に記載の熱発生部材において、上記水素吸蔵金属部は、母金属層と、多層膜と、を備えていてもよい。該母金属層は、上記セラミックス基体の表面の少なくとも一部に配置されている。該母金属層は、水素を吸蔵および放出可能である。多層膜は、母金属層上に配置されている。該多層膜は、第1金属層と、該第1金属層に積層される第2金属層とを備えている。
[3]上記[2]に記載の熱発生部材において、上記母金属層および上記第2金属層のそれぞれは、Niから構成されていてもよい。上記第1金属層は、Cuから構成されていてもよい。
[4]上記[1]から[3]のいずれかに記載の熱発生部材において、上記セラミックス基体は、絶縁性セラミックス材料から構成されていてもよい。
[5]上記[4]に記載の熱発生部材において、上記絶縁性セラミックス材料は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、または、これらの複合材料を含んでいてもよい。
[6]上記[1]から[5]のいずれかに記載の熱発生部材は、筐体をさらに備えてもよい。該筐体は、上記セラミックス基体を収容している。上記セラミックス基体は、平板形状を有していてもよい。上記セラミックス基体は、該筐体の内面と接触して、該筐体の内部空間を、第1流路と第2流路とに仕切っていてもよい。第1流路には、作動流体が流通可能である。第2流路には、水素含有ガスが流通可能である。上記水素吸蔵金属部は、該第2流路に面している。
[7]上記[6]に記載の熱発生部材において、上記筐体は、オーステナイト系ステンレス鋼から構成されていてもよい。上記セラミックス基体は、酸化ジルコニウムから構成されていてもよい。
[8]上記[1]から[5]のいずれかに記載の熱発生部材において、上記セラミックス基体は、円筒形状を有していてもよい。該セラミックス基体の内部空間が、作動流体が流通可能な第1流路として機能してもよい。上記水素吸蔵金属部は、該セラミックス基体の外周面の少なくとも一部に配置されていてもよい。
[9]上記[1]から[8]のいずれかに記載の熱発生部材では、上記セラミックス基体は、上流部分と、下流部分と、を有していてもよい。作動流体の通過方向と直交する方向に延びる仮想線であって上記セラミックス基体の中心を通る仮想線に対して、上流部分は通過方向の上流側に位置し、下流部分は通過方向の下流側に位置している。該上流部分における抵抗発熱体の配置密度は、該下流部分における抵抗発熱体の配置密度よりも大きくてもよい。
[10]本発明の別の局面による熱取り出しシステムは、上記[1]から[9]のいずれかに記載の熱発生部材と、電圧印加手段と、温度検知センサーと、制御部と、を備えている。該電圧印加手段は、上記抵抗発熱体に電圧を印加可能である。該温度検知センサーは、上記水素吸蔵金属部において発生した熱が伝達された作動流体の温度、または、前記セラミックス基体の温度を測定可能である。該制御部は、該温度検知センサーの検知結果に基づいて、該電圧印加手段を制御して、上記抵抗発熱体の温度を調整可能である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、水素吸蔵金属部を円滑に加熱でき、温度コントロール性の向上を図ることができる熱発生部材および熱取り出しシステムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本発明の1つの実施形態による熱発生部材の概略構成図である。
図2図2は、図1に示すセラミックス基体および抵抗発熱体の概略平面図である。
図3図3は、セラミックス基体および抵抗発熱体の変形例の概略平面図である。
図4図4は、セラミックス基体および抵抗発熱体の別の変形例の概略平面図である。
図5図5は、本発明の別の実施形態による熱発生部材の概略構成図である。
図6図6は、本発明のさらに別の実施形態による熱発生部材の概略構成図である。
図7図7は、本発明のさらに別の実施形態による熱発生部材の概略構成図である。
図8図8は、本発明のさらに別の実施形態による熱発生部材の概略構成図である。
図9図9は、図8の熱発生部材の中央断面図である。
図10図10は、本発明のさらに別の実施形態による熱発生部材の概略構成図である。
図11図11は、図1に示す水素吸蔵金属部の概略構成図である。
図12図12は、水素吸蔵金属部の変形例の概略構成図である。
図13図13は、水素吸蔵金属部の別の変形例の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
A.熱発生部材
図1は、本発明の1つの実施形態による熱発生部材の概略構成図である。
図示例の熱発生部材100は、代表的には、25℃以上1000℃以下の温度帯における水素拡散による過剰熱の発生を利用して、熱エネルギーを発生可能である。熱発生部材100は、セラミックス基体1と、抵抗発熱体2と、水素吸蔵金属部3と、を備えている。抵抗発熱体2は、セラミックス基体1に埋設されている。抵抗発熱体2は、代表的には電圧が印加されたときに発熱可能である。水素吸蔵金属部3は、水素を吸蔵および放出可能で水素の拡散により熱を発生可能である。水素吸蔵金属部3は、セラミックス基体1の表面の少なくとも一部に配置されている。セラミックス基体1は、水素吸蔵金属部3において発生した熱を作動流体に伝達可能である。
図示例の熱発生部材によれば、セラミックス基体に埋設される抵抗発熱体は、電圧が印加されたときに発熱し、セラミックス基体を介して水素吸蔵金属部を加熱できる。そのため、作動流体からセラミックス基体を介して水素吸蔵金属部に熱を伝達して、水素吸蔵金属部を加熱する場合よりも、水素吸蔵金属部を効率よく加熱できる。その結果、水素吸蔵金属部を所望の温度(水素拡散開始温度)まで円滑に加熱でき、その昇温に要する時間(昇温時間)を短縮できる。また、水素拡散による過剰熱発生後において、抵抗発熱体により水素吸蔵金属部を所望の温度範囲に安定して調整できる。そのため、熱発生部材における温度コントロール性の向上を図ることができる。
【0010】
1つの実施形態において、熱発生部材100は、筐体4をさらに備えている。筐体4は、セラミックス基体1を収容している。図示例の筐体4は、上壁47と、下壁48と、側壁49と、を備えている。上壁47および下壁48のそれぞれは、平板形状を有している。上壁47および下壁48は、厚み方向において互いに間隔を空けて配置されている。側壁49は、上壁47と下壁48との間に配置されている。側壁49は、上壁47の周端部と下壁48の周端部とを接続している。
筐体4の材料として、例えば、金属、セラミックスが挙げられ、好ましくは金属が挙げられる。金属のなかでは、例えば、鉄、ニッケル、アルミニウムなどの純金属;炭素鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、耐熱性非鉄合金鋼などの合金;が挙げられ、耐熱性・耐圧性の観点から好ましくは合金が挙げられ、より好ましくはオーステナイト系ステンレス鋼が挙げられる。言い換えれば、筐体4は、好ましくはオーステナイト系ステンレス鋼から構成される。
【0011】
1つの実施形態において、セラミックス基体1は、平板形状を有している。セラミックス基体1が筐体4に収容された状態において、図示例では、セラミックス基体1は、厚み方向において上壁47および下壁48の間に配置されており、上壁47および下壁48のそれぞれから離れて位置している。
【0012】
1つの実施形態において、セラミックス基体1は、筐体4の内面と接触して、筐体4の内部空間を第1流路41と第2流路42とに仕切っている。代表的には、セラミックス基体1の周端面の全体が、筐体4の側壁49の内面と接触している。第1流路41には、作動流体(後述)が流通可能である。第2流路42には、水素含有ガス(後述)が流通可能である。水素吸蔵金属部3は、第2流路42に面している。水素吸蔵金属部3は、代表的には、セラミックス基体1の表面と直接接触している。水素吸蔵金属部3は、セラミックス基体1における第2流路側の表面の全体に設けられていてもよく、当該表面において部分的に設けられていてもよい。
このような構成によれば、水素吸蔵金属部が、第2流路を流通する水素含有ガスから水素を円滑に吸蔵できる。また、水素吸蔵金属部における水素拡散による熱発生時に、発生した熱を、水素吸蔵金属部からセラミックス基体を介して第1流路を流通する作動流体に円滑に伝達することができる。
【0013】
図示例の第1流路41は、筐体4の内面とセラミックス基体1の第1面1aとによって規定されている。より詳しくは、第1流路41は、セラミックス基体1の第1面1aと、上壁47の内面(下面)と、それらの間に位置する側壁49の内面と、によって画定されている。
【0014】
1つの実施形態において、筐体4は、第1流入口43と、第1流出口44と、を備えている。第1流入口43および第1流出口44のそれぞれは、第1流路41と通じている。第1流入口43には、第1流路41に流入する作動流体が通過可能である。第1流出口44には、第1流路41から排出される作動流体が通過可能である。図示例において、第1流入口43および第1流出口44は、筐体4の側壁49に形成されており、セラミックス基体1の厚み方向と直交する方向に互いに離れて位置している。
図示例では、1つの第1流路41に対して、第1流入口43および第1流出口44のそれぞれが1つずつ設けられているが、第1流入口43および第1流出口44の個数は、これに制限されない。1つの第1流路41に対して、複数の第1流入口43が設けられてもよく、複数の第1流出口44が設けられてもよい。また、1つの第1流路41に対する第1流入口43および第1流出口44の個数は、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。例えば、1つの第1流路41に対して、1つの第1流入口43が設けられ、かつ、複数の第1流出口44が設けられてもよい。
【0015】
第2流路42は、代表的には、筐体4の内面とセラミックス基体1の第2面1bとによって画定されている。より詳しくは、第2流路42は、セラミックス基体1の第2面1bと、下壁48の内面(上面)と、それらの間に位置する側壁49の内面と、によって画定されている。水素吸蔵金属部3は、セラミックス基体1の第2面1bに設けられている。
【0016】
1つの実施形態において、筐体4は、第2流入口45と、第2流出口46と、を備えている。第2流入口45および第2流出口46のそれぞれは、第2流路42と通じている。第2流入口45には、第2流路42に流入する水素含有ガスが通過可能である。第2流出口46には、第2流路42から排出されるガスが通過可能である。図示例において、第2流入口45および第2流出口46は、筐体4の側壁49に形成されており、セラミックス基体1の厚み方向と直交する方向において互いに離れて位置している。
図示例では、1つの第2流路42に対して、第2流入口45および第2流出口46のそれぞれが1つずつ設けられているが、第2流入口45および第2流出口46の個数は、これに制限されない。1つの第2流路42に対して、複数の第2流入口45が設けられてもよく、複数の第2流出口46が設けられてもよい。また、1つの第2流路42に対する第2流入口45および第2流出口46の個数は、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。例えば、1つの第2流路42に対して、1つの第2流入口45が設けられ、かつ、複数の第2流出口46が設けられてもよい。
【0017】
セラミックス基体1は、厚み方向から見て、任意の適切な形状を有する。厚み方向から見たセラミックス基体の形状として、例えば、三角形、四角形、五角形、六角形以上の多角形、円形、楕円形が挙げられ、好ましくは円形(図2および図3参照)および四角形(図4参照)が挙げられる。
【0018】
抵抗発熱体2は、代表的には、線形状または帯状を有している。1つの実施形態において、抵抗発熱体2は、ヒータ配線21と、端子22と、備えている。ヒータ配線21は、セラミックス基体の外形形状に応じた任意の適切なパターンで、セラミックス基体1の内部に引き回されている。端子22は、ヒータ配線21の両端部のそれぞれに設けられている。
【0019】
図2に示すように、抵抗発熱体2は、セラミックス基体1の全体にわたって略均一となるように配置されていてもよい。図示例では、セラミックス基体1の厚み方向から見て、セラミックス基体1が円形状を有しており、ヒータ配線21が略同心円状に配置されている。より詳しくは、ヒータ配線21は、セラミックス基体1の中心を円中心として共有する同心円弧部分を含むように引き回されている。
【0020】
図3および図4に示すように、抵抗発熱体2は、作動流体の通過方向において、上流側が密となり、下流側が疎となるように、セラミックス基体1に配置されていてもよい。セラミックス基体1は、作動流体の通過方向において、上流側に位置する上流部分と、下流側に位置する下流部分と、を有している。より詳しくは、作動流体の通過方向と直交する方向に延びる第1仮想線であってセラミックス基体1の中心を通る第1仮想線に対して、上流部分は、作動流体の通過方向の上流側に位置し、下流部分は、作動流体の通過方向の下流側に位置する。
図示例では、セラミックス基体1の上流部分における抵抗発熱体2の配置密度は、セラミックス基体1の下流部分における抵抗発熱体2の配置密度よりも大きい。なお、抵抗発熱体の配置密度は、セラミックス基体および抵抗発熱体をセラミックス基体の厚み方向に投影したときに、セラミックス基体の対応部分(上流部分または下流部分)の投影面積に対する、当該部分に設けられる抵抗発熱体の投影面積として算出できる。
熱発生部材において作動流体の通過方向の上流側の領域は、相対的に低温の作動流体が流入するために、温度が低下しやすい。上記した実施形態によれば、上流部分における抵抗発熱体の配置密度が下流部分おける抵抗発熱体の配置密度よりも大きいので、セラミックス基体の上流部分における温度低下を抑制でき、かつ、セラミックス基体の下流部分が過剰に加熱されることを抑制できる。そのため、第1流路に作動流体が流通する状態において、セラミックス基体を均一に加熱でき、ひいては、水素吸蔵金属部を所望の拡散開始温度まで均一に加熱できる。
【0021】
図3では、セラミックス基体1の厚み方向から見て、セラミックス基体1が円形状を有しており、ヒータ配線21が略偏心円状に配置されている。より詳しくは、ヒータ配線21は、セラミックス基体1の径方向に互いに間隔を空けて配置される複数の楕円弧部分を含むように引き回されている。複数の楕円弧部分のそれぞれは、作動流体の通過方向の下流側に向かうにつれて長径となるように延びている。
図4では、セラミックス基体1の厚み方向から見て、セラミックス基体1が四角形状を有しており、ヒータ配線21は、作動流体の通過方向と直交する方向に延びる複数の直線部分を含むように引き回されている。複数の直線部分は、作動流体の通過方向に互いに間隔を空けて配置されている。作動流体の通過方向において、互いに隣り合う直線部分の間のピッチ(間隔)は、作動流体の通過方向の下流側に向かうにつれて大きくなる。
なお、図2図4では、ヒータ配線21は、作動流体の通過方向に沿って延びる第2仮想線であってセラミックス基体1の中心を通る第2仮想線に対して、線対称となるように配置されている。
【0022】
図1に示すように、1つの実施形態において、熱発生部材100は、支持部18と、電源配線19と、をさらに備えている。
支持部18は、セラミックス基体1に接続されており、セラミックス基体1を支持している。支持部18は、任意の適切な形状を有する。図示例において、支持部18は、セラミックス基体1の厚み方向に延びる柱形状を有している。支持部18は、下壁48を貫通しており、その一端部がセラミックス基体1の第2面1bに接続されている。なお、下壁48における支持部18の貫通部分は、気密性が確保されている。
電源配線19は、抵抗発熱体2に電気的に接続されている。代表的には、電源配線19の一端部は抵抗発熱体2の端子22に接続されており、電源配線19の他端部は電源5に接続されている。図示例では、抵抗発熱体2には、電源配線19を介して電圧が印加される。電源配線19は、支持部18に埋設されている。
【0023】
図1では、熱発生部材100が、1つのセラミックス基体1を備えているが、セラミックス基体1の個数は、これに制限されない。
図5に示すように、熱発生部材100は、複数のセラミックス基体1を備えていてもよい。複数のセラミックス基体1は、筐体4に収容されており、筐体4の内部空間を、複数の第1流路41と、1以上の第2流路42とに仕切っている。第2流路42の個数は、第1流路41の個数-1である。このような構成によれば、熱発生部材に流通可能な作動流体の流量の向上を図ることができ、作動流体に熱エネルギーを効率よく回収させることができる。
【0024】
図示例では、熱発生部材100は、2つのセラミックス基体1を備えている。なお、以下では、2つのセラミックス基体1を、第1セラミックス基体11および第2セラミックス基体12として互いに区別する。第1セラミックス基体11および第2セラミックス基体12は、厚み方向に互いに間隔を空けて配置されている。
【0025】
1つの実施形態において、第1セラミックス基体11および第2セラミックス基体12は、筐体4に収容されている。第2セラミックス基体12は、第1セラミックス基体11に対して筐体4の上壁47の反対側に位置している。第2セラミックス基体12は、筐体4の下壁48に対して間隔を空けて配置されている。
【0026】
図示例では、第1セラミックス基体11および第2セラミックス基体12が、筐体4の内部空間を、2つの第1流路41と第2流路42とに仕切っている。
2つの第1流路41のうち一方の第1流路41は、第1セラミックス基体11の第1面1aと、上壁47の内面(下面)と、それらの間に位置する側壁49の内面と、によって画定されている。
2つの第1流路41のうち他方の第1流路41は、第2セラミックス基体12の第2面1bと、下壁48の内面(上面)と、それらの間に位置する側壁49の内面と、によって画定されている。
第2流路42は、第1セラミックス基体11の第2面1bと、第2セラミックス基体12の第1面1aと、それらの間に位置する側壁49の内面と、によって画定されている。図示例では、水素吸蔵金属部3は、第1セラミックス基体11の第2面1b、および、第2セラミックス基体12の第1面1aに設けられている。
【0027】
抵抗発熱体2は、複数のセラミックス基体1のうち、少なくとも1つのセラミックス基体1に埋設されており、好ましくは、すべての複数のセラミックス基体1に埋設されている。図示例では、抵抗発熱体2は、第1セラミックス基体11および第2セラミックス基体12に埋設されている。
以下では、上記した第1セラミックス基体11と;上記した第2セラミックス基体12と;それらに設けられる水素吸蔵金属部3と;第1セラミックス基体11および/または第2セラミックス基体12に埋設される抵抗発熱体2と;を一括して、ユニットUと称する場合がある。
【0028】
図6に示すように、熱発生部材100は、複数のユニットUを備えていてもよい。複数のユニットUは、筐体4に収容されており、セラミックス基体1の厚み方向に互いに間隔を空けて配置されている。複数のユニットUのうち、互いに隣り合うユニットUの間には、第1流路41が形成されている。また、ユニットUが筐体4に収容された状態で、ユニットUの内部には、上記のように、第2流路42が形成されている。
このような構成によれば、熱発生部材に流通可能な作動流体の流量のさらなる向上を図ることができ、かつ、熱発生部材に流通可能な水素含有ガスの流量の向上を図ることができる。そのため、発生する熱エネルギー量を増加させることができ、かつ、作動流体に熱エネルギーを効率よく回収させることができる。
【0029】
互いに隣り合うユニットUの間に形成される第1流路41は、一方のユニットUが含む第2セラミックス基体12の第2面1bと;他方のユニットUが含む第1セラミックス基体11の第1面1aと;それらの間に位置する側壁49の内面と、によって画定されている。
なお、筐体4には、上記した第1流入口43および第1流出口44が、複数の第1流路41のそれぞれに対応して形成されており、上記した第2流入口45および第2流出口46が、複数の第2流路42のそれぞれに対応して形成されている。
【0030】
図7に示すように、熱発生部材100は、ハニカム構造体9をさらに備えていてもよい。図示例では、熱発生部材100は、第1流入口43と同数のハニカム構造体9を備えている。ハニカム構造体9は、作動流体を流通可能な複数のセルを有している。複数のセルは、隔壁により仕切られて一方の端面から他方の端面まで軸方向に貫通している。ハニカム構造体9は、筐体4の第1流入口43に連結されている。複数のセルの内部空間と、第1流路41とは、第1流入口43を介して連通している。ハニカム構造体9は、複数のセルを通過する作動流体を加熱(予熱)可能である。これによって、予熱した作動流体を第1流路に供給できる。ハニカム構造体9は、それ自体がヒータとして機能して作動流体を予熱してもよく、筐体4から伝達される熱によって、作動流体を予熱してもよい。
【0031】
図1から図7に示すセラミックス基体1は、平板形状を有しているが、セラミックス基体1の形状は、これに限定されない。セラミックス基体1の形状として、平板形状に加えて、例えば、円筒形状、曲率を持った板状形状が挙げられる。
図8および図9に示すように、1つの実施形態において、セラミックス基体1は、円筒形状を有している。この場合、セラミックス基体1の内部空間(セラミックス基体の内周面が規定する空間)が、作動流体が流通可能な第1流路41として機能し、セラミックス基体1の外部空間(セラミックス基体の外周面の外側の空間)が、水素含有ガスが流通可能な第2流路42として機能する。水素吸蔵金属部3は、セラミックス基体1の外周面の少なくとも一部に配置されている。なお、図9では、便宜上、水素吸蔵金属部3を省略している。
【0032】
1つの実施形態において、セラミックス基体1は、内筒13と、外筒14と、を備えている。内筒13の外径は、外筒14の内径よりも小さい。内筒13は、外筒14に挿入されている。内筒13の内部空間が、第1流路41として機能する。水素吸蔵金属部3は、外筒14の外周面の少なくとも一部に配置されている。
抵抗発熱体2は、内筒13と外筒14との間に設けられている。抵抗発熱体2は、セラミックス基体1の軸線方向に延びる帯形状を有している。図示例では、抵抗発熱体2は、セラミックス基体1の周方向に互いに間隔を空けて複数設けられている。
【0033】
図8に示すように、内筒13は、内筒13の一端部が外筒14の一端部から突出するように、外筒14に対してずれて挿入されていてもよい。この場合、外筒14の他端部内には、内筒13の他端部が位置していない。内筒13の他端面は、外筒14の他端面から軸線方向に離れて位置している。このような構成によれば、図10に示すように、内筒13および外筒14を備えるセラミックス基体1を、セラミックス基体の軸線方向に複数連結して、熱発生部材100を構成することができる。より詳しくは、一のセラミックス基体1が備える内筒13の一端部を、別のセラミックス基体1が備える外筒14の他端部に挿入して、複数のセラミックス基体を連結できる。
【0034】
以下、熱発生部材の具体的な構成について説明する。
【0035】
B.セラミックス基体
セラミックス基体1は、代表的には、絶縁性セラミックス材料から構成されている。
25℃における絶縁性セラミックス材料の体積抵抗値は、代表的には1.0×1012Ω・cmを超過し、好ましくは1.0×1013Ω・cm以上である。
25℃における絶縁性セラミックス材料の熱伝導率は、例えば30W/(m・K)以上、好ましくは50W/(m・K)以上、より好ましくは100W/(m・K)以上である。なお、熱伝導率は、例えばレーザーフラッシュ法(JISR1611に準拠)によって測定できる。絶縁性セラミックス材料の熱伝導率が上記下限以上であると、セラミックス基体における温度を均一に確保でき、水素吸蔵金属部において熱エネルギーを安定して発生させることができる。また、水素吸蔵金属部からの熱をセラミックス基体の全体に効率よく伝達でき、ひいては、熱エネルギーを作動流体により一層効率よく伝達できる。なお、25℃におけるセラミックス基体の材料熱伝導率の上限は、特に制限されず、代表的には200W/(m・K)以下である。
絶縁性セラミックス材料として、例えば、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ジルコニウム、コージェライト、ムライト、および、これらの複合材料が挙げられる。
【0036】
絶縁性セラミックス材料は、熱発生部材に要求される物性に応じて、任意かつ適切に選択できる。
1つ実施形態において、絶縁性セラミックス材料は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、または、これらの複合材料を含んでいる。絶縁性セラミックス材料がこのような材料を含んでいると、セラミックス基体の熱伝導率の向上を安定して図ることができる。
【0037】
また、セラミックス基体1が筐体4の内部空間を第1流路41と第2流路42とに仕切っており、かつ、セラミックス基体1の外周面と筐体4の内面との間に優れた気密性が要求される場合、セラミックス基体1を構成する材料として、熱膨張係数が筐体4を構成する材料と近い絶縁性セラミックス材料が選択され得る。この場合、セラミックス基体1を構成する絶縁性セラミックス材料の線膨張係数は、筐体4を構成する材料の線膨張係数に対して、好ましくは80%~120%の範囲内である。絶縁性セラミックス材料の線膨張係数(線膨張係数)は、例えば15×10-6/K以下であり、好ましくは12×10-6/K以下である。なお、熱膨張係数はJIS規格R1618に準拠して測定することができる。
セラミックス基体の材料と筐体の材料との好適な組み合わせとして、酸化ジルコニウムとオーステナイト系ステンレス鋼とが挙げられる。言い換えれば、セラミックス基体1は、酸化ジルコニウムから構成され、筐体4は、オーステナイト系ステンレス鋼から構成される。セラミックス基体の材料と筐体の材料とがこのような組み合わせであれば、セラミックス基体の外周面と筐体の内面との間の気密性の向上を図ることができ、第1流路から第2流路に作動流体が漏れ出すこと、および、第2流路から第1流路に水素含有ガスが漏れ出すことを抑制できる。
【0038】
セラミックス基体1は、絶縁性セラミックス材料に加えて、任意の適切な添加材を含み得る。添加材として、例えば、希土類酸化物、焼結助剤、安定化剤が挙げられる。
【0039】
セラミックス基体1は、用途に応じて適切に設定され得る。セラミックス基体1の厚みは、例えば0.5mm~30mmであり得、また例えば5mm~10mmであり得る。
【0040】
C.抵抗発熱体
抵抗発熱体2は、代表的には、導電性材料から構成されている。
25℃における導電性材料の体積抵抗値は、代表的には1.0×10-9Ω・cm以上であり、代表的には10Ω・cm以下であり、好ましくは1.0Ω・cm以下である。
1つの実施形態において、導電性材料は、遷移金属元素を含んでいる。遷移金属元素として、例えば、モリブデン(Mo)、タングステン(W)が挙げられる。導電性材料の具体例としては、金属モリブデン、金属タングステンが挙げられる。
【0041】
抵抗発熱体2の厚みは、用途に応じて適切に設定され得る。抵抗発熱体2の厚みは、抵抗発熱体2が埋設されるセラミックス基体1の厚みに対して、例えば0.1%~5%の範囲内である。抵抗発熱体2の厚みは、例えば0.01mm~0.5mmであり得、また例えば0.03mm~1.5mmであり得る。
【0042】
上記したセラミックス基体1および抵抗発熱体2は、任意の適切な方法により調製できる。これらの調製方法として、例えば、特開2010-257956号公報に記載のセラミックヒータの製造方法、および、特許第6843320号に記載のセラミックヒータの製造方法が挙げられる。これら公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0043】
D.水素吸蔵金属部
図11図1に示す水素吸蔵金属部の概略構成図であり;図12は水素吸蔵金属部の変形例の概略構成図であり;図13は水素吸蔵金属部の別の変形例の概略構成図である。
1つの実施形態において、水素吸蔵金属部3は、母金属層31と、多層膜32と、を備えている。多層膜32は、母金属層31に対してセラミックス基体1の反対側に位置しており、母金属層31上に配置されている。水素吸蔵金属部3の厚み(母金属層および多層膜の総厚)は、例えば50μm以上、好ましくは100μm以上であり、例えば20000μm以下、好ましくは15000μm以下である。
【0044】
D-1.母金属層
母金属層31は、水素を吸蔵および放出可能であり、特に水素を吸蔵保持する役割を果たす。母金属層31は、代表的には、セラミックス基体1と多層膜32との間に位置し、多層膜32の台座として機能する。母金属層31は、セラミックス基体1の表面の少なくとも一部に配置されている。図示例において、母金属層31は、セラミックス基体1と直接接触している。なお、図示しないが、母金属層31は、接合層を介してセラミックス基体1に接着されていてもよい。
【0045】
母金属層31を構成する金属材料(以下、母金属層材料とする。)として、例えば、水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、および、プロトン導電体が挙げられる。母金属層材料は、単独でまたは組み合わせて使用できる。
水素吸蔵金属として、例えば、Ni、Pd、V、Nb、Ta、Tiが挙げられる。
水素吸蔵合金としては、例えば、LaNi、CaCu、MgZn、ZrNi、ZrCr、TiFe、TiCo、MgNi、MgCuが挙げられる。
プロトン導電体として、例えば、Ba(Ce0.950.05)O3-6などのBaCeO系プロトン導電体;Sr(Ce0.950.05)O3-6などのSrCeO系プロトン導電体;CaZr0.950.053-αなどのCaZrO系プロトン導電体;SrZr0.90.13-αなどのSrZrO系プロトン導電体;β-Al;β-Ga;が挙げられる。
母金属層材料のなかでは、好ましくは水素吸蔵金属が挙げられ、より好ましくはNiが挙げられる。
【0046】
母金属層材料は、その種類に応じて任意の適切な結晶構造を有し得る。母金属層材料の結晶格子として、例えば、面心立方格子、体心立方格子が挙げられ、好ましくは、面心立方格子が挙げられる。
【0047】
母金属層31の厚みは、例えば1μm以上、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上であり、例えば10mm以下、好ましくは5mm以下である。多層膜32の厚みに対する母金属層31の厚み(=母金属層の厚み/多層膜の厚み)は、例えば50以上、好ましくは100以上であり、例えば20000以下、好ましくは15000以下である。母金属層の厚みが上記範囲であれば、水素を十分に吸蔵保持できる。
【0048】
D-2.多層膜
多層膜32は、母金属層31上に配置されている。多層膜32は、第1金属層32aと、第1金属層32aに積層される第2金属層32bとを備えている。多層膜32は、好ましくは、複数の第1金属層32aおよび複数の第2金属層32bを含む。図11に示す多層膜32では、母金属層31上に、第1金属層32aと第2金属層32bとがこの順に交互に積層されている。そのため、第1金属層32aと母金属層31とが直接接触しており、第1金属層32aと第2金属層32bとが直接接触している。第1金属層32aと第2金属層32bとは、異なる金属材料から構成されている。これによって、第1金属層32aと第2金属層32bとの間の界面は、異種物質界面となる。また、母金属層31と第1金属層32aとは、好ましくは、異なる金属材料から構成される。そのため、母金属層31と第1金属層32aとの間の界面も、好ましくは異種物質界面となる。これら異種物質界面は、水素を透過可能である。
【0049】
多層膜32において、第1金属層32aと第2金属層32bとの積層の順序は特に制限されない。図12に示すように、母金属層31上に、第2金属層32bと第1金属層32aとがこの順に交互に積層されていてもよい。この場合、第2金属層32bが母金属層31と直接接触している。
【0050】
また、多層膜32において、少なくとも1つの第1金属層32aが第2金属層32bに積層されて異種物質界面を形成していれば、第1金属層32aと第2金属層32bとは交互に積層されなくてもよい。
図13に示すように、複数の第1金属層32aのうち互いに隣り合う第1金属層32aの間に、複数の第2金属層32bが配置されていてもよい。図示例では、互いに隣り合う第2金属層32bの間に、中間層32cが介在されている。そのため、第2金属層32bと中間層32cとが直接接触している。第2金属層32bと中間層32cとは、異なる金属材料から構成される。これによって、第2金属層32bと中間層32cとの間の界面も、水素を透過可能な異種物質界面となる。中間層32cは、完全な膜状に形成されていてもよく、完全な膜状に形成されずにアイランド状に形成されていてもよい。
【0051】
多層膜32に含まれる第1金属層32a、第2金属層32bおよび中間層32cのそれぞれの個数は、任意の適切な数を採用し得る。第1金属層32aの個数は、例えば1以上、好ましくは2以上、より好ましく3以上であり、例えば10以下である。第2金属層32bの個数は、例えば1以上、好ましくは2以上、より好ましく3以上であり、例えば20以下である。中間層32cの個数は、例えば0以上10以下である。
【0052】
多層膜32の厚みは、例えば0.02μm以上、好ましくは2.0μm以上、より好ましくは3.0μm以上であり、例えば10μm以下、好ましくは6.0μm以下、より好ましくは5.0μm以下である。
【0053】
D-2-1.第1金属層
第1金属層32aを構成する金属材料(以下、第1金属層材料とする。)として、例えば、水素吸蔵金属、および、水素吸蔵合金が挙げられる。第1金属層材料は、単独でまたは組み合わせて使用できる。
水素吸蔵金属として、例えば、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coが挙げられる。
水素吸蔵合金として、例えば、第1金属層材料としての水素吸蔵金属原子を2種以上含む合金が挙げられる。水素吸蔵合金には、任意の適切な添加元素がドープされていてもよい。
第1金属層材料のなかでは、好ましくは水素吸蔵金属が挙げられ、より好ましくはCuが挙げられる。
【0054】
第1金属層材料は、その種類に応じて任意の適切な結晶構造を有し得る。第1金属層材料の結晶格子として、例えば、面心立方格子、体心立方格子が挙げられ、好ましくは、面心立方格子が挙げられる。
【0055】
第1金属層32aの厚みは、例えば1000nm未満、好ましくは500nm未満、より好ましくは100nm未満であり、さらに好ましくは10nm未満である。第1金属層の厚みが上記上限未満であると、多層膜においてバルクの特性を示さないナノ構造を維持でき、水素を円滑に透過させ得る。なお、第1金属層の厚みの下限は、特に制限されず、代表的には、0.5nm以上である。
【0056】
D-2-2.第2金属層
第2金属層32bを構成する金属材料(以下、第2金属層材料とする。)として、例えば、第1金属層材料と同様の水素吸蔵金属および水素吸蔵合金が挙げられる。第2金属層材料は、単独でまたは組み合わせて使用できる。第2金属層材料は、上記のように、第1金属層材料と異なる。1つの実施形態において、第2金属層材料は、母金属層材料と同じである。第2金属層材料のなかでは、好ましくは水素吸蔵金属が挙げられ、より好ましくはNiが挙げられる。
【0057】
1つの実施形態において、母金属層31および第2金属層32bのそれぞれが、Niから構成され、第1金属層32aが、Cuから構成される。母金属層、第1金属層および第2金属層がこのような組み合わせであれば、熱発生部材における過剰熱の高出力化を図ることができる。
【0058】
第2金属層材料は、その種類に応じて任意の適切な結晶構造を有し得る。第2金属層材料の結晶格子として、例えば、面心立方格子、体心立方格子が挙げられ、好ましくは、面心立方格子が挙げられる。
【0059】
第2金属層32bの厚みは、例えば1000nm未満、好ましくは500nm未満、より好ましくは100nm未満であり、さらに好ましくは30nm未満である。第2金属層の厚みが上記上限未満であると、多層膜においてバルクの特性を示さないナノ構造を維持でき、水素を円滑に透過させ得る。なお、第2金属層の厚みの下限は、特に制限されず、代表的には3.0nm以上である。
第2金属層32bの厚みは、代表的には第1金属層32aの厚みよりも大きい。第1金属層32aの厚みに対する第2金属層32bの厚み(=第2金属層の厚み/第1金属層の厚み)は、例えば1.0以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは2.5以上であり、例えば10以下、好ましくは5以下である。母金属層31の厚みが上記範囲であれば、水素を十分に吸蔵保持できる。
【0060】
D-2-3.中間層
中間層32cを構成する材料(以下、中間層材料とする。)として、例えば、第1金属層材料と同様の水素吸蔵金属および水素吸蔵合金に加えて、SiC、SrO、BaO、CaO、Y、TiC、LaBが挙げられる。中間層材料は、単独でまたは組み合わせて使用できる。中間層材料は、上記のように第2金属層材料と異なり、好ましくは、第1金属層材料および第2金属層材料と異なる。
中間層材料のなかでは、好ましくは、CaO、Y、TiC、LaB、BaOが挙げられ、より好ましくは、CaOおよびYが挙げられる。中間層がこれら材料から構成されると、多層膜における水素の吸蔵量を増加させることができ、異種物質界面を透過する水素量を増加させ得る。そのため、熱発生部材のさらなる高出力化を図ることができる。
【0061】
中間層32cの厚みの範囲は、例えば、上記した第1金属層32aの厚みの範囲と同様である。中間層32cの厚みに対する第2金属層32bの厚み(=第2金属層の厚み/中間層の厚み)の範囲は、上記した(第2金属層の厚み/第1金属層の厚み)の範囲と同様である。中間層の厚みが上記範囲であれば、多層膜において水素を円滑に透過できる。
【0062】
上記した水素吸蔵金属部3は、母金属層31および多層膜32を備えているが、水素吸蔵金属部3の構成はこれに限定されない。水素吸蔵金属部3は、母金属層31のみから構成されてもよい。また、水素吸蔵金属部3は、多層膜32に代えて、母金属層31上に積層される単一の金属層(第1金属層32aまたは第2金属層32b)を備えていてもよい。また、水素吸蔵金属部3は、母金属層31と、母金属層31上に形成されるコーティング層とを備えていてもよい。コーティング層は、代表的には、上記した水素吸蔵金属のナノ粒子を含んでいる。
【0063】
E.熱取り出しシステム
次に、図1を参照して、熱発生部材100を備える熱取り出しシステム101について説明する。
図示例の熱取り出しシステム101は、熱発生部材100と、電圧印加手段の一例としての電源5と、温度検知センサー6と、制御部7と、を備えている。電源5は、抵抗発熱体2に電圧を印加可能である。図示例では、電源5は、電源配線19に電気的に接続されており、電源配線19を介して、抵抗発熱体2に電圧を印加可能である。温度検知センサー6は、水素吸蔵金属部3において発生した熱が伝達された作動流体(すなわち、第1流路41を通過した作動流体)の温度、および/または、セラミックス基体1の温度を測定可能である。制御部7は、温度検知センサー6の検知結果に基づいて、電源5を制御して、抵抗発熱体2の温度を調整する。制御部7は、例えば、中央処理装置(CPU)、ROMおよびRAMなどを備えている。図示例において、制御部7は、電源5と温度検知センサー6とに電気的に接続されている。
このような構成によれば、制御部が温度検知センサーの検知結果に基づいて電源を制御して抵抗発熱体の温度を調整するので、作動流体の温度によってセラミックス基体の温度を調整する場合と比較して、セラミックス基体における温度コントロール性の向上を図ることができる。そのため、熱取り出しシステムの動作中に、セラミックス基体の温度を精度よく制御でき、水素吸蔵金属部における発熱と作動流体への伝熱とをバランスよくコントロールできる。その結果、熱発生部材における熱暴走および発熱不足を十分に抑制できる。
なお、図1に示す熱取り出しシステム101では、1つの熱発生部材100を備えるが、熱取り出しシステムが備える熱発生部材の個数は特に制限されない。図示しないが、熱取り出しシステム101は、複数の熱発生部材100を備えていてもよい。
【0064】
F.熱取り出しシステム(熱発生部材)の動作
次に、熱取り出しシステム101の動作について説明する。
熱取り出しシステム101では、まず、第2流路42に水素含有ガスを供給して、水素吸蔵金属部3に水素を供給する。水素含有ガスにおける水素濃度は、例えば10体積%以上100体積%以下である。
このとき、水素吸蔵金属部3(より具体的には母金属層31および多層膜32)は、水素を吸蔵する。その後、水素含有ガスの供給が停止されても、水素吸蔵金属部3(より具体的には母金属層31および多層膜32)は、水素を吸蔵した状態を維持する。
【0065】
次いで、水素含有ガスの供給を停止し、代表的には、第2流路42を真空状態(例えば、1Pa以下)に調整する。
その後、制御部7は、代表的には、温度検知センサー6によってセラミックス基体1の温度をモニタリングしながら、電源5を制御して抵抗発熱体2に電圧を印加する。これによって、セラミックス基体1を所望の拡散開始温度(例えば500℃)まで加熱する。
【0066】
セラミックス基体が拡散開始温度まで加熱されると、第1流路41に対して、作動流体の供給を開始する。
作動流体は、熱発生部材の用途に応じて任意の適切なものが採用される。作動流体は、気体であってもよく、液体であってもよい。気体の作動流体として、例えば、ヘリウムガス、アルゴンガス、フロンガス、水素ガス、窒素ガス、水蒸気、空気、二酸化炭素が挙げられる。液体の作動流体としては、例えば、水;KNO(40%)-NaNO(60%)などの溶融塩;Pbなどの液体金属;が挙げられる。また、作動流体には、固体粒子が分散されていてもよい。固体粒子として、例えば、銅、ニッケル、チタン、コバルトなどの金属粒子;金属酸化物、窒化物、ケイ化物などの金属化合物粒子;ステンレス、クロムモリブデン鋼などの合金粒子;アルミナなどのセラミックス粒子が挙げられる。
【0067】
また、セラミックス基体1が抵抗発熱体2によって加熱され、セラミックス基体1から水素吸蔵金属部3に伝熱されて、水素吸蔵金属部3が拡散開始温度に到達すると、水素吸蔵金属部3(より具体的には母金属層31および多層膜32)は、吸蔵していた水素を放出する。すると、水素原子が、水素吸蔵金属部3(より具体的には多層膜32)の内部をホッピングしながら、セラミックス基体1と反対側の表面に向かって量子拡散する。これによって、水素吸蔵金属部3において熱(過剰熱)が発生し、水素吸蔵金属部3が拡散開始温度以上に加熱される。特に、水素吸蔵金属部3が異種物質界面を含む場合、水素原子が、量子拡散により異種物質界面を透過して、過剰熱を発生させる。
【0068】
水素吸蔵金属部3において発生した過剰熱は、水素吸蔵金属部3から、セラミックス基体1に伝達され、次いで、第1流路41を通過する作動流体に伝達される。これによって、作動流体が、水素吸蔵金属部3において生じた熱エネルギーを受け取る。
【0069】
第1流路41を通過して加熱された作動流体は、そのまま熱として利用でき、動力に変換して利用することもでき、その動力を用いた発電に利用することもできる。
なお、制御部7は、温度検知センサー6によって第1流路41を通過した作動流体の温度を測定し、その検知結果に基づいて、電源5を制御して抵抗発熱体2に電圧を印加してもよい。
以上によって、熱発生部材100によって発生した熱エネルギーを効率よく回収できる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の実施形態による熱発生部材は、温室効果ガスを発生しないクリーンなエネルギー源として、各種産業製品に好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0071】
1 セラミックス基体
2 抵抗発熱体
3 水素吸蔵金属部
31 母金属層
32 多層膜
32a 第1金属層
32b 第2金属層
4 筐体
41 第1流路
42 第2流路
5 電源
6 温度検知センサー
7 制御部
100 熱発生部材
101 熱取り出しシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13