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特開2024-583531H-テトラゾール-1-酢酸の製造方法
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  • 特開-1H-テトラゾール-1-酢酸の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058353
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】1H-テトラゾール-1-酢酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 257/04 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
C07D257/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165654
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】519273762
【氏名又は名称】シオノギファーマ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522404546
【氏名又は名称】Pharmira株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100221578
【弁理士】
【氏名又は名称】林 康次郎
(72)【発明者】
【氏名】遠山 貴之
(57)【要約】
【課題】1H-テトラゾール-1-酢酸の安全かつ効率的な製造を提供する。
【解決手段】式(II)の化合物を酸の存在下で金属アジ化物と反応させて式(III)の化合物を得、その後加水分解することを含む、フロー合成法を用いた式(I)の化合物の製造方法〔式中、R、RおよびRは、明細書中で定義されるとおりである〕。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロー反応による、下記の式(I):
【化1】
〔式中、RおよびRは各々、独立して、水素またはアルキルである〕
の化合物またはその薬学的に許容される塩の製造方法であって、
i)酸の存在下、式(II):
【化2】
〔式中、
およびRは、上記で定義されるとおりであり;
は、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキルおよびアリールから成る群から選択され、これらの各々は、場合により置換されていてよい〕
の化合物をアジ化物と混合し、式(III):
【化3】
〔式中、R、RおよびRは、上記で定義されるとおりである〕
の化合物を得る工程
を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
工程i)のアジ化物が金属アジ化物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
金属アジ化物が、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
金属アジ化物がアジ化ナトリウムである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
ii)工程i)で得られた式(III)の化合物を塩基と反応させ、式(I)の化合物を得る工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
工程ii)の塩基がアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
およびRが各々、独立して、水素またはメチルである、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
およびRが各々、独立して、水素またはメチルであり、Rが場合により置換されていてよいC1-6アルキルである、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セファゾリンの合成等に使用される1H-テトラゾール-1-酢酸の新規製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セファゾリンは、手術での感染症予防に用いられる抗生物質として販売されている。セファゾリン原薬の出発物質の1つである1H-テトラゾール-1-酢酸はテトラゾール構造を有しており、テトラゾール骨格を構築する際に爆発の危険性がある。そのため、1H-テトラゾール-1-酢酸の製造メーカーは世界中でも数社しかない。つまり、セファゾリンの製造は、これら数社の1H-テトラゾール-1-酢酸製造メーカーに依存している。2019年には、中国のメーカーが1H-テトラゾール-1-酢酸の製造を中止したことで、日本におけるセファゾリンの流通に影響が生じ、感染症治療や手術への支障が出る事態に陥った。そのため2020年には臨床に必要不可欠な「キードラッグ」としてセファゾリンが指定され、セファゾリンの安定供給が望まれている。セファゾリンの安定供給を実現するために、1H-テトラゾール-1-酢酸の安全かつ安定した製造が求められている。
【0003】
特許文献1には、グリシンエステルからN-ホルミルグリシンエステルを経由してイソシアノ酢酸エステルを製造し、これを水の存在下でアジ化水素と反応させることにより1H-テトラゾール-1-酢酸エステルを製造し、さらに加水分解により1H-テトラゾール-1-酢酸を製造する方法が記載されている。
【化1】
【0004】
特許文献2には、グリシン、アジ化ナトリウムおよびオルトギ酸エステルを用いてテトラゾール環を形成し、その後加水分解することによる、1H-テトラゾール-1-酢酸の製造方法が記載されている。
【化2】
【0005】
非特許文献1には、イソシアノ酢酸アミド誘導体とトリメチルシリルアジドを反応させることによる、1H-テトラゾール-1-酢酸アミド誘導体の製造方法が記載されている。
【化3】
【0006】
従来の製造方法はいずれもバッチ反応で実施されており、爆発性のアジ化水素を反応させてテトラゾール環を形成している。また、バッチ反応を加熱条件下で実施した場合、気体のアジ化水素が反応系外に放出されて反応が完全には進行せず、さらに系外に排出されたアジ化水素が滞留し、爆発を引き起こすリスクなどが考えられ安全性に懸念が生じる。爆発対策として、一般的にフロー反応を適用することで反応場を小さくすることや、物理的に反応場を覆うなどの対策が可能ではあるが、従来の製造方法では、反応に長時間を要することや、反応性状がスラリー状であるなど、フロー反応への適用が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭50-101359号
【特許文献2】米国特許第3767667号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Synthesis 2016, 48, 3701-3712
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、フロー反応に適用可能な1H-テトラゾール-1-酢酸の新規製造方法、およびそれらの製造方法を用いることによる1H-テトラゾール-1-酢酸の安全かつ効率的な製造の実現である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、1H-テトラゾール-1-酢酸を安全かつ効率的に製造し、またテトラゾール化の際の爆発危険性を最小化するための製造方法を見出した。
【0011】
本発明は、例えば、以下に関する。
(1)フロー反応による、下記の式(I):
【化4】
〔式中、RおよびRは各々、独立して、水素またはアルキルである〕
の化合物またはその薬学的に許容される塩の製造方法であって、
i)酸の存在下、式(II):
【化5】
〔式中、
およびRは、上記で定義されるとおりであり;
は、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキルおよびアリールから成る群から選択され、これらの各々は、場合により置換されていてよい〕
の化合物をアジ化物と混合し、式(III):
【化6】
〔式中、R、RおよびRは、上記で定義されるとおりである〕
の化合物を得る工程
を含むことを特徴とする、製造方法。
(2)工程i)のアジ化物が金属アジ化物である、(1)に記載の製造方法。
(3)金属アジ化物が、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジ化物である、(2)に記載の製造方法。
(4)金属アジ化物がアジ化ナトリウムである、(3)に記載の製造方法。
(5)ii)工程i)で得られた式(III)の化合物を塩基と反応させ、式(I)の化合物を得る工程をさらに含むことを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)工程ii)の塩基がアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物である、(5)に記載の製造方法。
(7)RおよびRが各々、独立して、水素またはメチルである、(1)~(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8)RおよびRが各々、独立して、水素またはメチルであり、Rが場合により置換されていてよいC1-6アルキルである、(1)~(6)のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法は、フロー反応を適用することにより反応場を最小とすることで爆発リスクを最小限にすることができる。さらに、本発明の製造方法は、フロー反応を適用して加圧下で加熱することで、アジ化水素の系外排出を抑制し、かつアジ化水素をより安定な溶液として扱いつつ、反応の短時間化を達成することができるため、従来法よりも安全かつ効率的に1H-テトラゾール-1-酢酸を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で使用される、1H-テトラゾール-1-酢酸のフロー反応系を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において使用する略号は、次の意味を有する。
℃:セルシウス温度
EtOH:エタノール
ESI:エレクトロスプレーイオン化
eq:当量
g:グラム
HCl:塩酸
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
KOH:水酸化カリウム
MeCN:アセトニトリル
min:分
mL:ミリリットル
mmol:ミリモル
MS:マススペクトロメトリー
MPa:メガパスカル
NaN:アジ化ナトリウム
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン
THF:テトラヒドロフラン
H-NMR:プロトン核磁気共鳴
13C-NMR:炭素13核磁気共鳴
DMSO-d:重ジメチルスルホキシド
s:シングレット
m:マルチプレット
【0015】
以下に本明細書において用いられる各用語の意味を説明する。各用語は特に断りのない限り、単独で用いられる場合も、または他の用語と組み合わせて用いられる場合も、同一の意味で用いられる。
【0016】
「アルキル」とは、直鎖または分枝状の炭化水素基を意味し、炭素数1~6のアルキル(C1-6アルキル)、炭素数1~4のアルキル(C1-4アルキル)、炭素数1~3(C1-3アルキル)のアルキル等を包含する。アルキルの例としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、イソヘキシル等が挙げられる。
【0017】
「シクロアルキル」とは、1~3環式の環状アルキルを意味し、炭素数3~10のシクロアルキル(C3-10シクロアルキル)、炭素数3~6のシクロアルキル(C3-6シクロアルキル)等を包含する。シクロアルキルの例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、ビシクロ[2.1.0]ペンチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル、ビシクロ[2.2.2]オクチルおよびビシクロ[3.2.1]オクチル、アダマンチル(トリシクロ[3.3.1.13,7]デカニルともいう)等が挙げられる。
【0018】
「アルケニル」とは、1個または2個の二重結合を有する直鎖または分枝状の炭化水素基を意味し、炭素数2~6のアルケニル(C2-6アルケニル)、炭素数2~4のアルケニル(C2-4アルケニル)、炭素数2~3のアルケニル(C2-3アルケニル)等を包含する。アルケニルの例としては、例えば、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-メチル-2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、5-ヘキセニル、1-メチル-4-ペンテニル等が挙げられる。
【0019】
「アルキニル」とは、1個または2個の三重結合を有する直鎖または分枝状の炭化水素基を意味し、炭素数2~6のアルキニル(C2-6アルキニル)、炭素数2~4のアルキニル(C2-4アルキニル)、炭素数2~3のアルキニル(C2-3アルキニル)等を包含する。アルキニルの例としては、例えば、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-メチル-2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-ペンチニル、2-ペンチニル、3-ペンチニル、4-ペンチニル、1-ヘキシニル、2-ヘキシニル、3-ヘキシニル、4-ヘキシニル、5-ヘキシニル、1-メチル-4-ペンチニル等が挙げられる。
【0020】
「アリール」とは、単環式、二環式又は三環式の芳香族炭化水素環を意味し、炭素数6~14個のアリール(C-C14アリール)、炭素数6~10個のアリール(C-C10アリール)を包含する。アリールの例としては、例えば、フェニル、ナフチル、アントラニル、フェナントリル等が挙げられる。
【0021】
「ヘテロアリール」とは、環構成原子として窒素、酸素および硫黄からなる群から独立して選択されるヘテロ原子を1~5個含有する、単環式または多環式芳香環を意味し、3~15員の単環式、二環式または三環式芳香環を含む。ヘテロアリールは、好ましくは5~10員ヘテロアリールである。ヘテロアリールの例としては、例えば、ピリジル、イミダゾリル、トリアゾリル、インドリル、キノリニル、オキサゾリル、チアゾリル等が挙げられる。
【0022】
「ハロゲン」の例としては、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素が挙げられる。好ましいハロゲンの例としては、フッ素、塩素または臭素が挙げられる。
【0023】
「アジ化物」とは、アジド基(N基)を有する化合物を意味する。本発明の「アジ化物」には、アジ化物イオン(N -)と金属イオンの塩である金属アジ化物が包含される。金属アジ化物の例としては、例えば、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、バリウム等)のアジ化物が挙げられる。具体的な金属アジ化物の例としては、例えば、アジ化ナトリウム、アジ化カリウム、アジ化カルシウム等が挙げられる。
【0024】
「場合により置換されていてよい」とは、指定された基が置換されていてもされていなくてもよく、すなわち、置換または非置換であることを意味する。例えば、「場合により置換されていてよいアルキル」とは、非置換または置換アルキルの両方を意味する。指定された基を置換する置換基の例としては、アルキル、ハロゲン、アリールまたはヘテロアリール等が挙げられる。
【0025】
、RおよびRの好ましい態様を以下に示す。
【0026】
ある実施態様において、Rは水素またはアルキルであり、好ましくは水素またはC-Cアルキルであり、より好ましくは水素またはC1-3アルキルであり、さらに好ましくは水素またはメチルである。ある実施態様において、Rは水素またはアルキルであり、好ましくは水素またはC-Cアルキルであり、より好ましくは水素またはC1-3アルキルであり、さらに好ましくは水素またはメチルである。別の態様において、RおよびRの一方はアルキルであり、他方は水素である。さらに別の態様において、RおよびRの両方はアルキルである。さらに別の態様において、RおよびRの両方は水素である。
【0027】
ある実施態様において、Rは、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキルおよびアリールから成る群から選択される。ある実施態様において、Rは、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C3-6シクロアルキルおよびアリールから成る群から選択される。別の実施態様において、Rは、C1-6アルキルであり、好ましくはC1-3アルキルである。さらに別の態様において、Rは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピルまたはn-ブチルである。さらに別の態様において、Rはアリールであり、好ましくはC-C10アリール、さらに好ましくはフェニルである。
【0028】
ある実施態様において、Rは、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキルおよびアリールから成る群から選択され、これらの各々は場合により置換されていてよい。ある実施態様において、Rは、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキルおよびアリールから成る群から選択され、これらの各々は場合により、アルキル、ハロゲン、アリールまたはヘテロアリールから選択される1以上の置換基で置換されていてよい。別の実施態様において、Rは、アリールまたはヘテロアリールで置換されたアルキルである。さらに別の態様において、Rは、フェニルまたはピリジルで置換されたアルキルである。さらに別の態様において、Rは、フェニルで置換されたアルキルである。フェニルで置換されたアルキルの例としては、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、フェニルブチル等が挙げられる。
【0029】
本発明に係る式(I)の化合物の薬学的に許容される塩としては、例えば、本発明に係る化合物と、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、バリウム等)、マグネシウム、遷移金属(例えば、亜鉛、鉄等)、アンモニア、有機塩基(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メグルミン、エチレンジアミン、ピリジン、ピコリン、キノリン等)、無機酸(例えば、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、臭化水素酸、リン酸、ヨウ化水素酸等)、または有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、マンデル酸、グルタル酸、リンゴ酸、安息香酸、フタル酸、アスコルビン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等)との塩が挙げられる。これらの塩は、通常行われる方法によって形成させることができる。式(I)の化合物の薬学的に許容される塩としては、特にアルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、バリウム等)、マグネシウム、遷移金属(例えば、亜鉛、鉄等)との塩が好ましく、さらにはアルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、バリウム等)との塩が好ましい。
【0030】
式(I)の化合物の製造方法
本発明に係る式(I)の化合物の一般的製造方法を下記に示す。生成物の抽出、精製などは、通常の有機化学的手法により実施することができる。
【0031】
出発原料は、商業的に入手可能な化合物、本明細書に記載の化合物、本明細書において引用された文献に記載の化合物、およびその他の公知化合物を利用することができる。
【0032】
本発明の製造方法は、例えば、以下のとおり実施することができる。
第一工程
【化7】
〔式中、R、RおよびRは、上記で定義されるとおりである〕
【0033】
本工程では、式(II)の化合物を酸の存在下、アジ化物と混合して反応させ、式(III)の化合物を得る。本工程で使用される溶媒は、反応を効率的に進行させるものであれば特に限定されない。溶媒の例としては、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、水等が挙げられ、これらは単独または混合物として用いられる。本工程で使用される酸としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸などの無機酸が挙げられる。本工程で使用される酸としては、特に塩酸が好ましい。本工程で使用されるアジ化物としては、金属アジ化物(例えば、アジ化ナトリウム、アジ化カリウム等のアルカリ金属のアジ化物、アジ化カルシウム等のアルカリ土類金属のアジ化物)が挙げられる。金属アジ化物としては、アジ化ナトリウムが特に好ましい。
【0034】
本工程の反応温度は、特に限定されないが、約70~110℃、好ましくは約80~85℃、さらに好ましくは約80℃で実施することができ、反応時間は、特に限定されないが、約3~60分間、好ましくは約5~30分間、さらに好ましくは約15分間で実施することができる。
【0035】
本工程で使用される酸の量は、特に限定されないが、出発原料に対して約0.8~1.5当量、好ましくは約1.0~1.5当量、さらに好ましくは約1.2当量である。
【0036】
本工程で使用されるアジ化物の量は、特に限定されないが、出発原料に対して約0.8~1.5当量、好ましくは約1.0~1.5当量、さらに好ましくは約1.2当量である。
【0037】
第二工程
【化8】
〔式中、R、RおよびRは、上記で定義されるとおりである〕
【0038】
本工程では、式(III)の化合物を塩基存在下で加水分解し、式(I)の化合物を得る。本工程で使用される溶媒は、反応を効率的に進行させるものであれば特に限定されない。溶媒の例としては、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、水等が挙げられ、これらは単独または混合物として用いられる。本工程で使用される塩基としては、アルカリ金属水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、アルカリ土類金属水酸化物(水酸化カルシウム、水酸化バリウム等)のような無機塩基が挙げられる。塩基としては、アルカリ金属水酸化物が好ましく、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0039】
本工程の反応温度は、特に限定されないが、約0~60℃、好ましくは約20~30℃、さらに好ましくは約25℃で実施することができ、反応時間は、特に限定されないが、約1~120分間、好ましくは約3~30分間、さらに好ましくは約5~10分間で実施することができる。
【0040】
本工程で使用される塩基の量は、特に限定されないが、出発原料に対して約1.0~10当量、好ましくは約1.5~4.0当量、さらに好ましくは約1.5~2.0当量である。
【0041】
得られた式(I)の化合物を含む反応液は、当分野で既知の方法に従って、後処理や精製を行えばよい。好ましくは、式(I)の化合物は、式(I)の化合物を含む反応液から、所望により、抽出、濃縮、結晶化などを行うことにより単離してもよい。好ましくは、式(I)の化合物は、水または水と有機溶媒の混合物から結晶化により単離してもよい。
【0042】
本明細書で使用される場合、文脈によって他に示されない限り、「フロー反応」とは、上記の反応工程を、反応物の連続的な流れにより行うことを意味し、一般的にフローリアクターを利用して実施される。フローリアクターは1以上の送液管と、1以上の原料溶液等を混合するミキサーと、混合物を反応させる1以上の滞留ラインと、1以上の反応物排出管を備える。送液管は、反応(反応を停止させることも含む)に必要な材料を導入する管である。このようなフローリアクターとしては、例えば、国際公開第2015/093611号、特開2017-66276号公報、国際公開第2017/135398号などに記載のフローリアクターを利用し得る。本明細書で使用される場合、「フロー合成」、「フロー合成法」なる用語は、「フロー反応」と同じ意味で用いられる。
【0043】
本発明の製造方法は、第一工程と第二工程を別々に実施してもよく、また第一工程と第二工程を一連の反応として、一のフロー反応系で実施してもよい。
【0044】
送液管、管状流路、反応物排出管の各々には、場合により、例えば、国際公開第2015/093611号に記載されるような原料容器、制御弁、定量ポンプ、熱交換器、質量系、圧力センサー、流量計、温度センサーなどが、任意の数で、任意の位置に設けられていてもよい。ある態様において、本発明におけるフロー反応による式(I)の化合物の製造方法では、各反応試薬をポンプ(例えば、シリンジポンプ等)により原料容器から流路内に送液し、ミキサー(例えば、T字ミキサー、マイクロミキサー等)で混合し、この混合物をさらに送液し、滞留ラインで所定の時間、所定の温度で反応させ、その後、反応物を排出管から回収する。
【0045】
本発明の特定の実施形態では、上記第一工程において、式(II)の化合物を含む溶液と、アジ化物を含む溶液と、酸とを、それぞれ異なる送液管の流路に流通させる。その後、各送液管内の流路に流通させたアジ化物を含む溶液と、酸とを合流させ、第一のミキサー内で混合し、この混合物をさらに下流へ送液し、滞留ライン内を流通させ、所定の時間、所定の温度で反応させる。この反応物は、さらに下流で、式(II)の化合物を含む溶液と合流し、第二のミキサーで混合される。この混合物を第二のミキサーからさらに送液し、滞留ライン内を流通させ、所定の時間、所定の温度で反応させることにより、式(III)の化合物を含む反応液を得る。
【0046】
本発明の特定の実施形態では、上記第二工程において、式(III)の化合物を含む溶液と、塩基を含む溶液とを、それぞれ異なる送液管の流路に流通させる。その後、式(III)の化合物を含む溶液と、塩基を含む溶液とを合流させ、第三のミキサー内で混合し、この混合物をさらに下流へ送液し、滞留ライン内を流通させ、所定の時間、所定の温度で反応させる。
【0047】
本発明の特定の実施形態では、第二工程で使用される式(III)の化合物を含む溶液は、第一工程で得られた式(III)の化合物を含む反応液であってもよい。すなわち、第一工程で得られた式(III)の化合物を含む反応液を得た後、これを下流へ送液し、別の送液管から導入された塩基と合流させ、ミキサー内で混合し、滞留ライン内を流通させ、所定の時間、所定の温度で反応させることができる。
【0048】
本発明で使用される溶媒は、上に記載した、式(II)の化合物、アジ化物、酸、式(III)の化合物または塩基を、それを含む溶液としてフローリアクターの流路を流通させて反応を進行させることができるものであれば特に限定されない。本発明の製造方法は、好ましくは、均一な溶液中で実施される。
【0049】
ある実施形態において、本発明の製造方法における反応系は、一相系で構築されるものである。したがって、本発明の一実施形態では、第一工程と第二工程で使用される溶媒は同一であるか、または互いに混和する溶媒であり、第一工程と第二工程のいずれもが一つの液相中で行われる。
【0050】
ある実施態様において、本発明の製造方法は、加圧条件下で実施される。本発明の製造方法における圧力の範囲は、反応を効率的に進行させる範囲であれば、特に限定されない。
【0051】
本発明の製造方法に用いるフロー反応の一実施形態を、図面を用いて説明する。なお、本発明は、本発明で規定する事項以外は、図面に示された形態に何ら限定されるものではない。
【0052】
図1の実施態様では、アジ化ナトリウム水溶液(A液)および塩酸水溶液(B液)をそれぞれ所定の流速で送液し、第一のミキサーで混合し、混合物を第一の滞留ライン内で反応させる。この反応物を第二のミキサーにて、イソシアノ酢酸エチル/EtOH溶液(C液)と混合し、その後、これを第二の滞留ライン内で反応させる。得られた反応液を、水酸化カリウム水溶液(D液)と第三のミキサーで混合し、その後、これを第三の滞留ライン内で反応させる。各溶液の送液速度は、当業者により、所望の当量比、反応時間となるよう、任意の滞留ライン容積に応じて、設定される。ある態様において、第一の滞留ライン内での反応は、例えば、約10~40℃、好ましくは約20~30℃、さらに好ましくは約25℃で実施され、第二の滞留ライン内での反応は、例えば、約70~110℃、好ましくは約80~85℃、さらに好ましくは約80℃で実施され、第三の滞留ライン内での反応は、例えば、約0~60℃、好ましくは約20~30℃、さらに好ましくは約25℃で実施される。さらに、本実施態様では、一連の反応は加圧条件下で実施される。一連の反応における圧力の条件は、好ましくは約0.2~2.0MPa、さらに好ましくは約0.2~1.0MPa、最も好ましくは約0.2~0.5MPaである。
【実施例0053】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例において、H-NMR、13C-NMRはBruker Avance III HD 400 MHzを用いて測定した。液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)はShimadzu LC-MS 2010EVを用いて測定した。
【0054】
実施例1.1H-テトラゾール-1-酢酸の合成
図1に示すフロー反応系を用いて、1H-テトラゾール-1-酢酸を合成した。
アジ化ナトリウム(3.45g、53.0mmol、1.2当量)に、精製水(16.52g)を加え溶解させA液とし、35%塩酸(5.53g、53.0mmol、1.2当量)をB液とし、イソシアノ酢酸エチル(5.00g、44.2mmol、1.0当量)にエタノール(14.60g)を混合してC液とし、水酸化カリウム(4.22g、75.1mmol、1.7当量)に精製水(11.25g)を加え溶解させてD液とした。背圧は0.2MPaに設定し、2つ目のミキサー後の滞留ラインを80~85℃に温調したアルミビーズバスに入れた。A液を0.279mL/分、B液を0.063mL/分の速度で送液し、1つ目のミキサーで混合し、混合液は滞留ライン内で1分間反応させた。C液を0.310mL/分の速度で送液し、2つ目のミキサーで混合し、混合液は滞留ライン内で15分間反応させた。室温まで冷却した後、D液を0.173mL/分の速度で送液し、3つ目のミキサーで混合し、混合液は滞留ライン内で6分間反応させた。得られた反応液の重量(実測量:29.96g/理論量:60.62g)から、各ラインのホールドアップロスを加味し、以降イソシアノ酢酸エチル(2.47g、21.8mmol、1.0当量)スケールとして操作した。得られた反応液を0℃まで冷却し、亜硝酸ナトリウム(0.75g、10.9mmol、0.5当量)を加え溶解させ、0℃で35%塩酸(6.14g、59.0mmol、2.7当量)を滴下し、過剰のアジ化水素酸をクエンチした。クエンチ液を5.0重量まで濃縮し、THF(21.99g)を加え、室温で撹拌後、析出した不溶物をろ別し、THF(4.47g)にて洗浄した。ろ洗液を2.1重量まで濃縮し、精製水(0.76g)を加え、25℃で結晶析出を確認した後、0℃まで冷却し15分撹拌した。晶析液をろ過し、冷精製水(2.50g)にて洗浄、乾燥し、1H-テトラゾール-1-酢酸を1.90g(69.5%)得た。
H NMR(400MHz、DMSO-d)δ 13.59-13.66(m、1H)、9.37(s、1H)、5.42(s、2H)
13C NMR(100MHz、DMSO-d)δ 167.8、144.9、48.5
MS(ESI) m/z 129[M+H]:C:白色~淡黄色結晶。
送液ポンプ:シリンジポンプ
T字ミキサー:PTFE製 穴径2.0mm
滞留ライン:PTFEチューブ(内径:1/16インチ×外径:1/8インチ)
【0055】
<HPLC条件>
HPLC:Shimadzu製 Prominence
カラム:YMC Triart C-18 (3μm、12nm)、150×4.6mm
移動相A:pH=2.8に調整した0.2mol/L リン酸緩衝液
移動相B:MeCN
グラジエント条件
【表1】



保持時間
1H-テトラゾール-1-酢酸エチルエステル:10.4分
1H-テトラゾール-1-酢酸:2.3分
図1