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  • 特開-酸化珪素膜用研磨液組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058420
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】酸化珪素膜用研磨液組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240418BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240418BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165767
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】井上 将来
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲史
【テーマコード(参考)】
5F057
【Fターム(参考)】
5F057AA03
5F057AA14
5F057AA17
5F057AA28
5F057BA22
5F057BA24
5F057BB16
5F057BC02
5F057CA12
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA09
5F057EA16
5F057EA21
5F057EA29
5F057EA32
(57)【要約】
【課題】一態様において、酸化珪素膜の研磨速度向上と研磨後の基板表面の面内均一性向上とを両立できる酸化珪素膜用研磨液組成物を提供する。
【解決手段】本開示は、一態様において、酸化セリウム粒子(成分A)と、下記式(I)で表される化合物(成分B)と、水系媒体と、を含有する、酸化珪素膜用研磨液組成物に関する。

前記式(I)中、Rは、炭素数1以上6以下の脂肪族炭化水素基を示し、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、有機カチオン又はアンモニウム(NH4 +)を示す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウム粒子(成分A)と、下記式(I)で表されるアルコキシ酢酸又はその塩(成分B)と、水系媒体と、を含有する、酸化珪素膜用研磨液組成物。
【化1】

前記式(I)中、Rは、炭素数1以上6以下の脂肪族炭化水素基を示し、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、有機カチオン又はアンモニウム(NH4 +)を示す。
【請求項2】
成分Aの含有量は、0.1質量%以上10質量%以下である、請求項1に記載の研磨液組成物。
【請求項3】
成分Bの含有量は、0.1mM以上10mM以下である、請求項1又は2に記載の研磨液組成物。
【請求項4】
成分Bは、メトキシ酢酸又はその塩、及び、エトキシ酢酸又はその塩から選ばれる少なくとも1種である、請求項1から3のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項5】
成分Bは、エトキシ酢酸又はその塩である、請求項1から3のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項6】
研磨液組成物のpHは、3.5超7.5以下である、請求項1から5のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含む、半導体基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含み、前記被研磨膜は、半導体基板の製造過程で形成される酸化珪素膜である、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸化珪素膜用研磨液組成物、これを用いた半導体基板の製造方法及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケミカルメカニカルポリッシング(CMP)技術とは、加工しようとする被研磨基板の表面と研磨パッドとを接触させた状態で研磨液をこれらの接触部位に供給しつつ被研磨基板及び研磨パッドを相対的に移動させることにより、被研磨基板の表面凹凸部分を化学的に反応させると共に機械的に除去して平坦化させる技術である。
【0003】
現在では、半導体素子の製造工程における、層間絶縁膜の平坦化、シャロートレンチ素子分離構造の形成、プラグ及び埋め込み金属配線の形成等を行う際には、このCMP技術が必須の技術となっている。近年、半導体素子の多層化、高精細化が飛躍的に進み、半導体素子の歩留まり及びスループット(収量)の更なる向上が要求されるようになってきている。それに伴い、CMP工程に関しても、研磨傷フリーで且つより高速な研磨が望まれるようになってきている。
【0004】
例えば、特許文献1では、a)第一セリウムイオン源、水酸化物イオン源、少なくとも1つのナノ粒子安定剤、及び、酸化剤を含む水性反応混合物を提供する工程、b)前記混合物を機械的にせん断して、それにより水酸化セリウムナノ粒子の懸濁物を形成する工程、及び、c)混合物を50℃と100℃の間の温度まで加熱して、それにより二酸化セリウムナノ粒子を形成する工程を含み、前記ナノ粒子安定剤がアルコキシ置換カルボン酸、α-ヒドロキシルカルボン酸、ピルビン酸、及び小さい有機ポリ酸からなる群から選択される、二酸化セリウム粒子の製造方法が提案されている。同文献の0204段落等には、前記二酸化セリウム粒子を、半導体基板の平坦化のための研磨剤として使用できることが記載されている。
特許文献2では、半導体集積回路のバリア層を研磨するための研磨液として、表面が正のζ電位を示すコロイダルシリカ、カルボキシル基を有する化合物、腐食抑制剤、及び、界面活性剤を含み、pHが2.5~5.0である研磨液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-139127号公報
【特許文献2】特開2008-181954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の半導体分野においては高集積化が進んでおり、配線の複雑化や微細化が求められている。そのため、CMPでは、砥粒の粒径を小さくすることで欠陥の低減を図っているが、この場合、研磨速度が低下する問題があり、酸化珪素膜の研磨速度の向上が要求されている。
特に、3次元NAND型フラッシュメモリの層間絶縁膜のCMPによる平坦化工程においては、被研磨基板上に階段状にスタックされたフィルムのアレイ部とその周辺部とで酸化珪素膜の表面凹凸の段差が大きいため、CMPによる平坦化に時間がかかるという問題がある。例えば、参考文献International Conference on Planarization/CMP technology(ICPT), p106 (2016)には、図1に示されるようにCMP前にエキストラエッチング(extra-etching process)を行うことによって、凸部を微細化し、CMP効率を向上し、研磨時間を短縮する方法が提案されている。一方、記録容量の増大に伴い、アレイ部の厚みはさらに向上し、表面凹凸の段差がさらに大きくなる。したがって、このような微細な凸部を高速に除去することがより一層求められるようになってきている。
また、微細な凸部を除去した後、基板表面全体のさらなる削り込みを行うことで、基板表面の平坦化が行われている。しかし、基板表面の中央部と周辺部とでは研磨速度が異なることがあり、研磨の面内均一性(グローバル平坦化)が低下するという問題がある。そのため、高研磨速度で、研磨の面内均一性を向上することが求められる。
【0007】
そこで、本開示は、酸化珪素膜の研磨速度向上と研磨の面内均一性向上とを両立できる酸化珪素膜用研磨液組成物、これを用いた半導体基板の製造方法及び研磨方法等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様において、酸化セリウム粒子(成分A)と、下記式(I)で表されるアルコキシ酢酸又はその塩(成分B)と、水系媒体と、を含有する、酸化珪素膜用研磨液組成物に関する。
【化1】

前記式(I)中、Rは、炭素数1以上6以下の脂肪族炭化水素基を示し、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、有機カチオン又はアンモニウム(NH4 +)を示す。
【0009】
本開示は、一態様において、本開示の酸化珪素膜用研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含む、半導体基板の製造方法に関する。
【0010】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含み、前記被研磨膜は、半導体基板の製造過程で形成される酸化珪素膜である、研磨方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、一態様において、酸化珪素膜の研磨速度向上と研磨の面内均一性向上とを両立可能な酸化珪素膜用研磨液組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、3次元NAND型フラッシュメモリの層間絶縁膜のCMP前にエキストラエッチングすることを説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らが鋭意検討した結果、酸化セリウム粒子(成分A)を含む研磨液組成物に特定のアルコキシ酢酸又はその塩(成分B)を含有させることで、酸化珪素膜の研磨速度の向上と研磨の面内均一性の向上とを両立できるという知見に基づく。
【0014】
すなわち、本開示は、一態様において、酸化セリウム粒子(成分A)と、上記式(I)で表されるアルコキシ酢酸又はその塩(成分B)と、水系媒体と、を含有する、酸化珪素膜用研磨液組成物(以下、「本開示の研磨液組成物」ともいう)に関する。
【化2】

前記式(I)中、Rは、炭素数1以上6以下の脂肪族炭化水素基を示し、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、有機カチオン又はアンモニウム(NH4 +)を示す。
【0015】
本開示の研磨液組成物によれば、一又は複数の実施形態において、酸化珪素膜の研磨速度向上と研磨の面内均一性向上とを両立できる。
【0016】
本開示の効果発現メカニズムの詳細について明らかではないが、以下のように推察される。
研磨速度向上を向上させるには薬剤が酸化セリウムへ十分に吸着し、酸化セリウム表面物性を変化させることが重要である。酸化セリウムへの吸着はカルボン酸構造がその役割を担っているが、アルコキシ基に置換することで酸化セリウムへの吸着性が向上する。一方で、研磨の面内均一性を向上するには、酸化セリウム表面の水との親和性を高めることが重要であると考えられる。疎水性が高すぎると研磨時の液回り性が悪化してしまうため、アルコキシ基に置換することでアルキル基に比して、水分子との親和性が改善され、結果として研磨時の液回り性が改善し、面内均一性が向上したと考えられる。
但し、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
本開示において、液回り性とは、研磨パッドに対するスラリーの流動性を示す。本開示において、面内均一性とは、ウエハ面内の加工均一性を表し、平坦性の指標を示す。
【0017】
[被研磨膜]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、酸化珪素膜(被研磨膜)の研磨に用いられる研磨液組成物(酸化珪素膜用研磨液組成物)であり、酸化珪素膜の研磨を必要とする工程に使用できる。例えば、本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、半導体基板の素子分離構造を形成する工程で行われる酸化珪素膜の研磨、層間絶縁膜を形成する工程で行われる酸化珪素膜の研磨、埋め込み金属配線を形成する工程で行われる酸化珪素膜の研磨、又は、埋め込みキャパシタを形成する工程で行われる酸化珪素膜の研磨に使用できる。また、本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、3次元NAND型フラッシュメモリ等の3次元半導体装置の製造に使用できる。
特に、本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、酸化珪素膜凸部(被研磨膜)を有する基板(被研磨基板)の研磨に好適に用いることができる。酸化珪素膜凸部は、一又は複数の実施形態において、基板表面上の酸化珪素膜の凸部であり、例えば、幅10μm~500μm、高さ4μm~10μmの凸部が挙げられる。酸化珪素膜凸部は、一又は複数の実施形態において、3次元NAND型フラッシュメモリの層間絶縁膜のCMP前のエキストラエッチング(extra-etching process)によって形成されうる。酸化珪素膜凸部は、一又は複数の実施形態において、エキストラエッチング後の基板表面上の酸化珪素膜凸部である。酸化珪素膜凸部を有する基板は、一又は複数の実施形態において、3次元NAND型フラッシュメモリの層間絶縁膜のCMP前にエキストラエッチングされた後の基板である。本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、エキストラエッチング後の基板を研磨するためのものである。
【0018】
[酸化セリウム粒子(成分A)]
本開示の研磨液組成物は、研磨砥粒として酸化セリウム(以下、「セリア」ともいう)粒子(以下、単に「成分A」ともいう)を含有する。成分Aとしては、正帯電セリア又は負帯電セリアを用いることができる。成分Aの帯電性は、例えば、電気音響法(ESA法:Electorokinetic Sonic Amplitude)により求められる砥粒粒子表面における電位(表面電位)を測定することにより確認できる。表面電位は、例えば、「ゼータプローブ」(協和界面化学社製)を用いて測定でき、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。成分Aは、1種類でもよいし、2種以上の組合せであってもよい。砥粒の帯電性は限定されないが、研磨速度向上の観点から、正帯電セリアが好ましい。
【0019】
成分Aの製造方法、形状、及び表面状態については特に限定されなくてもよい。成分Aとしては、例えば、コロイダルセリア、不定形セリア、セリアコートシリカ等が挙げられる。
コロイダルセリアは、例えば、特表2010-505735号公報の実施例1~4に記載の方法で、ビルドアッププロセスにより得ることができる。
不定形セリアとしては、例えば、粉砕セリアが挙げられる。粉砕セリアの一実施形態としては、例えば、炭酸セリウムや硝酸セリウムなどのセリウム化合物を焼成、粉砕して得られる焼成粉砕セリアが挙げられる。粉砕セリアのその他の実施形態としては、例えば、無機酸や有機酸の存在下でセリア粒子を湿式粉砕することにより得られる単結晶粉砕セリアが挙げられる。湿式粉砕時に使用される無機酸としては、例えば硝酸が挙げられ、有機酸としては、例えば、カルボキシル基を有する有機酸が挙げられ、具体的には、ポリアクリル酸アンモニウム等のポリカルボン酸塩、ピコリン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、アミノ安息香酸及びp-ヒドロキシ安息香酸から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。例えば、湿式粉砕時にピコリン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、アミノ安息香酸及びp-ヒドロキシ安息香酸から選ばれる少なくとも1種を使用した場合、正帯電セリアを得ることができ、湿式粉砕時にポリアクリル酸アンモニウム等のポリカルボン酸塩を使用した場合、負帯電セリアを得ることができる。湿式粉砕方法としては、例えば、遊星ビーズミル等による湿式粉砕が挙げられる。
セリアコートシリカとしては、例えば、特開2015-63451号公報の実施例1~14もしくは特開2013-119131号公報の実施例1~4に記載の方法で、シリカ粒子表面の少なくとも一部が粒状セリアで被覆された構造を有する複合粒子が挙げられ、該複合粒子は、例えば、シリカ粒子にセリアを沈着させることで得ることができる。
【0020】
成分Aの形状としては、例えば、略球状、多面体状、ラズベリー状が挙げられる。
【0021】
成分Aの平均一次粒子径は、研磨速度向上の観点から、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、20nm以上が更に好ましく、25nm以上が更に好ましく、30nm以上が更に好ましく、35nm以上が更に好ましく、40nm以上が更に好ましく、そして、研磨傷発生の抑制の観点から、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下が更に好ましく、100nm以下が更に好ましく、75nm以下が更に好ましく、60nm以下が更に好ましい。本開示において成分Aの平均一次粒子径は、BET(窒素吸着)法によって算出されるBET比表面積S(m2/g)を用いて算出される。BET比表面積は、実施例に記載の方法により測定できる。
【0022】
本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、研磨速度向上と研磨の面内均一性向上とを両立する観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.15質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上が更に好ましく、そして、研磨傷発生抑制の観点から、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.75質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.15質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上1質量%以下が更に好ましく、0.2質量%以上0.75質量%以下が更に好ましく、0.2質量%以上0.5質量%以下が更に好ましい。成分Aが2種以上の組合せである場合、成分Aの含有量はそれらの合計の含有量をいう。
【0023】
[式(I)で表されるアルコキシ酢酸又はその塩(成分B)]
本開示の研磨液組成物は、下記式(I)で表されるアルコキシ酢酸又はその塩(以下、単に「成分B」ともいう)を含む。成分Bは、ヒドロキシル基を有さない化合物である。ただし、前記ヒドロキシル基(-OH)には、カルボキシ基(-COOH)のOHは含まれない。成分Bは、1種であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【化3】
【0024】
前記式(I)中、Rは、炭素数1以上6以下の脂肪族炭化水素基を示し、Mは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、有機カチオン又はアンモニウム(NH4 +)を示す。有機カチオンとしては、一又は複数の実施形態において、有機アンモニウムが挙げられ、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等のアルキルアンモニウムが挙げられる。
前記式(I)において、Rは、研磨速度向上と研磨の面内均一性向上とを両立する観点から、炭素数1以上4以下のアルキル基が好ましく、水溶性の観点から、炭素数1以上2以下のアルキル基(メチル基又はエチル基)がより好ましい。Mは、同様の観点から、水素原子、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0025】
成分Bとしては、例えば、メトキシ酢酸又はその塩、及び、エトキシ酢酸又はその塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、酸化珪素膜の研磨速度向上と研磨の面内均一性向上とを両立する観点から、エトキシ酢酸又はその塩が好ましい。
【0026】
本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、研磨速度向上と研磨の面内均一性の観点から、好ましくは0.1mM以上、より好ましくは0.2mM以上、更に好ましくは0.3mM以上であり、そして、製剤安定性の観点から、好ましくは10mM以下、より好ましくは5mM以下、更に好ましくは3mM以下である。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、好ましくは0.1mM以上10mM以下、より好ましくは0.2mM以上5mM以下、更に好ましくは0.3mM以上3mM以下である。成分Bが2種以上の組合せである場合、成分Bの含有量はそれらの合計の含有量をいう。
【0027】
[水系媒体]
本開示の研磨液組成物に含まれる水系媒体としては、蒸留水、イオン交換水、純水及び超純水等の水、又は、水と溶媒との混合溶媒等が挙げられる。上記溶媒としては、水と混合可能な溶媒(例えば、エタノール等のアルコール)が挙げられる。水系媒体が、水と溶媒との混合溶媒の場合、混合媒体全体に対する水の割合は、本開示の効果が妨げられない範囲であれば特に限定されなくてもよく、経済性の観点から、例えば、95質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましく、そして、100質量%未満が好ましい。被研磨基板の表面清浄性の観点から、水系媒体としては、水が好ましく、イオン交換水及び超純水がより好ましく、超純水が更に好ましい。
本開示の研磨液組成物中の水系媒体の含有量は、成分A、成分B及び必要に応じて配合される後述する任意成分を除いた残余とすることができる。
【0028】
[任意成分]
本開示の研磨液組成物は、pH調整剤、界面活性剤、増粘剤、分散剤、防錆剤、防腐剤、塩基性物質、研磨速度向上剤、窒化珪素膜研磨抑制剤、ポリシリコン膜研磨抑制剤等の任意成分をさらに含有することができる。
【0029】
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、表面が正のζ電位を示すコロイダルシリカを実質的に含まない。、例えば、本開示の研磨液組成物中の前記コロイダルシリカの含有量は、好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以下、更に好ましくは0質量%(すなわち、含まないこと)である。
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、腐食抑制剤を実質的に含まない。例えば、本開示の研磨液組成物中の前記腐食抑制剤の含有量は、好ましくは0.01質量%未満、より好ましくは0質量%(すなわち、含まないこと)である。
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、カチオン性界面活性剤を実質的に含まない。例えば、本開示の研磨液組成物中の前記界面活性剤の含有量は、研磨液1Lに対して、好ましくは0.001g未満、より好ましくは0g(すなわち、含まないこと)である。
【0030】
[研磨液組成物]
本開示の研磨液組成物は、成分A、成分B、水系媒体、及び必要に応じて任意成分を公知の方法で配合する工程を含む製造方法によって製造できる。例えば、本開示の研磨液組成物は、成分A及び水系媒体を含む分散液(スラリー)、成分B及び水系媒体を含む溶液と、必要に応じて任意成分を配合してなるものとすることができる。本開示において「配合する」とは、成分A、成分B、及び水系媒体、並びに必要に応じて任意成分を同時に又は順に混合することを含む。混合する順序は特に限定されない。前記配合は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機及び湿式ボールミル等の混合器を用いて行うことができる。本開示の研磨液組成物の製造方法における各成分の配合量は、上述した本開示の研磨液組成物における各成分の含有量と同じとすることができる。
【0031】
本開示の研磨液組成物の実施形態は、全ての成分が予め混合された状態で市場に供給される、いわゆる1液型であってもよいし、使用時に混合される、いわゆる2液型であってもよい。例えば、2液型の研磨液組成物としては、一又は複数の実施形態において、成分Aを含む第1液と、成分Bを含む第2液とから構成され、使用時に第1液と第2液とが混合されるものが挙げられる。第1液と第2液との混合は、研磨対象の表面への供給前に行われてもよいし、これらは別々に供給されて被研磨基板の表面上で混合されてもよい。第1液及び第2液はそれぞれ必要に応じて上述した任意成分を含有することができる。
【0032】
本開示の研磨液組成物のpHは、酸化珪素膜の研磨速度向上と研磨の面内均一性向上とを両立する観点から、好ましくは3.5超、より好ましくは4以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは7.5以下、より好ましくは6.5以下、更に好ましくは5.5以下、更に好ましくは5以下である。より具体的には、本開示の研磨液組成物のpHは、好ましくは3.5超7.5以下、より好ましくは4以上6.5以下、更に好ましくは4以上5.5以下、更に好ましくは4以上5以下である。本開示において、研磨液組成物のpHは、25℃における値であって、pHメータを用いて測定した値である。本開示の研磨液組成物のpHは、具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。
【0033】
本開示において「研磨液組成物中の各成分の含有量」とは、研磨時、すなわち、研磨液組成物の研磨への使用を開始する時点での前記各成分の含有量をいう。
本開示の研磨液組成物中の各成分の含有量は、一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物中の各成分の配合量とみなすことができる。
本開示の研磨液組成物は、その安定性が損なわれない範囲で濃縮された状態で保存及び供給されてもよい。この場合、製造・輸送コストを低くできる点で好ましい。そしてこの濃縮液は、必要に応じて前述の水系媒体で適宜希釈して研磨工程で使用することができる。希釈割合としては5~100倍が好ましい。
【0034】
[研磨液キット]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を調製するためのキット(以下、「本開示の研磨液キット」ともいう)に関する。
本開示の研磨液キットとしては、例えば、成分A及び水系媒体を含む砥粒分散液(第1液)と、成分Bを含む添加剤水溶液(第2液)と、を相互に混合されない状態で含み、これらが使用時に混合され、必要に応じて水系媒体を用いて希釈される、研磨液キット(2液型研磨液組成物)が挙げられる。前記砥粒分散液(第1液)に含まれる水系媒体は、研磨液組成物の調製に使用する水系媒体の全量でもよいし、一部でもよい。前記添加剤水溶液(第2液)には、研磨液組成物の調製に使用する水系媒体の一部が含まれていてもよい。前記砥粒分散液(第1液)及び前記添加剤水溶液(第2液)にはそれぞれ必要に応じて、上述した任意成分が含まれていてもよい。前記砥粒分散液(第1液)と前記添加剤水溶液(第2液)との混合は、研磨対象の表面への供給前に行われてもよいし、これらは別々に供給されて被研磨基板の表面上で混合されてもよい。本開示の研磨液キットによれば、酸化珪素膜の研磨速度向上と研磨の面内均一性向上を両立可能な研磨液組成物を得ることができる。
【0035】
[研磨方法]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含み、前記被研磨膜は、半導体基板の製造過程で形成される酸化珪素膜である、研磨方法(以下、本開示の研磨方法ともいう)に関する。被研磨膜としては、上述した本開示の研磨液組成物における被研磨膜が挙げられる。例えば、本開示の研磨方法における被研磨膜は、一又は複数の実施形態において、エキストラエッチング後の基板表面上の酸化珪素膜凸部である。本開示の研磨方法は、一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程を含む。被研磨基板としては、一又は複数の実施形態において、エキストラエッチング後の基板、酸化珪素膜凸部を有する基板が挙げられる。本開示の研磨方法を使用することにより、酸化珪素膜の研磨速度向上と研磨の面内均一性向上とを両立可能であるため、品質が向上した半導体基板の生産性を向上できる。本開示の研磨方法における研磨の方法及び条件は、後述する本開示の半導体基板の製造方法と同じようにすることができる。
【0036】
[半導体基板の製造方法]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程(研磨工程)を含む、半導体基板の製造方法(以下、「本開示の半導体基板の製造方法」ともいう)に関する。被研磨膜としては、上述した本開示の研磨液組成物における被研磨膜が挙げられる。例えば、本開示の半導体基板の製造方法における被研磨膜としては、一又は複数の実施形態において、エキストラエッチング後の基板表面上の酸化珪素膜凸部が挙げられる。本開示の半導体基板の製造方法は、一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程を含む。被研磨基板としては、一又は複数の実施形態において、エキストラエッチング後の基板、酸化珪素膜凸部を有する基板等が挙げられる。本開示の半導体基板の製造方法によれば、酸化珪素膜の研磨速度向上と研磨の面内均一性向上とを両立可能であるため、品質が向上した半導体基板を効率よく製造できる。
【0037】
本開示の半導体基板の製造方法の具体例としては、まず、シリコン基板上に、二酸化シリコン膜、次いで、当該二酸化シリコン層上に窒化珪素(Si34)膜を交互に積層する。その後、ポリシリコンによるチャネル形成、積層膜のトリミング、電荷トラップ層形成、タングステン(W)ゲートを形成し、アレイを形成する。その後、アレイ上に二酸化シリコン層をCVD法(化学気相成長法)等にて積層する。このようにして形成された酸化珪素膜は、アレイ部と周辺部では大きな段差を有する。次いで、CMPにより、アレイ部の酸化珪素膜を、周辺部と同じ高さになるまで研磨する。図1に示されるようにCMP前にエキストラエッチング(extra-etching process)を行うことによって、凸部を微細化し、CMP効率を向上し、研磨時間を短縮する方法が提案されている。
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、エキストラエッチング後の酸化珪素膜凸部を有する基板の研磨に好適に用いることができる。酸化珪素膜凸部とは、一又は複数の実施形態において、基板表面上の酸化珪素膜の凸部であり、例えば、幅10μm~500μm、高さ4μm~10μmの凸部が挙げられる。
【0038】
CMPによる研磨では、被研磨基板の表面と研磨パッドとを接触させた状態で、本開示の研磨液組成物をこれらの接触部位に供給しつつ被研磨基板及び研磨パッドを相対的に移動させることにより、被研磨基板の表面の凹凸部分を平坦化させることができる。
【0039】
前記研磨工程において、研磨パッドの回転数は、例えば、30~200rpm/分、被研磨基板の回転数は、例えば、30~200rpm/分、研磨パッドを備えた研磨装置に設定される研磨荷重は、例えば、20~500g重/cm2、研磨液組成物の供給速度は、例えば、10~500mL/分以下に設定できる。研磨液組成物が2液型研磨液組成物の場合、第1液及び第2液のそれぞれの供給速度(又は供給量)を調整することで、被研磨膜の研磨速度を調整できる。
【0040】
前記研磨工程において、被研磨膜(酸化珪素膜)の研磨速度は、生産性向上の観点から、50nm/分以上が好ましく、80nm/分以上がより好ましく、90nm/分以上が更に好ましい。
【実施例0041】
以下に、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0042】
1.研磨液組成物の調製
[実施例1~2及び比較例1~3の研磨液組成物の調製]
酸化セリウム粒子(成分A)、表1に示す化合物(成分B又は非成分B)、及び水を混合して実施例1~2及び比較例1~3の研磨液組成物を得た。研磨液組成物中の各成分の配合量(含有量)(質量%又はmM、有効分)はそれぞれ、表2に示すとおりであり、水の含有量は、成分Aと成分B又は非成分Bとを除いた残余である。pH調整はアンモニアもしくは硝酸を用いて実施した。
【0043】
成分A、成分B、非成分Bには下記のものを用いた。
(成分A)
焼成粉砕セリア[平均一次粒子径:45nm、BET比表面積:17m2/g、表面電位:70mV]
(成分B)
B1:エトキシ酢酸(東京化成工業株式会社製)[式(I)中、R=C25、M=Hである。]
B2:メトキシ酢酸(東京化成工業株式会社製)[式(I)中、R=CH3、M=Hである。]
(非成分B)
B3:酢酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)
B4:グリコール酸(東京化成工業株式会社製)
B5:酪酸(東京化成工業株式会社製)
【0044】
【表1】
【0045】
2.各種パラメータの測定方法
[酸化セリウム粒子(成分A)の平均一次粒子径]
酸化セリウム粒子の平均一次粒子径(nm)は、BET(窒素吸着)法によって算出される比表面積S(m2/g)を用いて下記式で算出される粒径(真球換算)を意味し、下記式により算出される。
下記式中、比表面積Sは、酸化セリウム粒子のスラリー10gを110℃で減圧乾燥して水分を除去したものをメノウ乳鉢で解砕し、得られた粉末を流動式比表面積自動測定装置フローソーブ2300(島津製作所製)を用いて測定することにより求めた。
平均一次粒子径(nm)=820/S
【0046】
[酸化セリウム(成分A)の表面電位]
酸化セリウム粒子の表面電位(mV)は、表面電位測定装置(協和界面化学社製「ゼータプローブ」)にて測定した。超純水を用い、酸化セリウム濃度0.3%に調整し、表面電位測定装置に投入し、粒子密度7.13g/ml、粒子誘電率7の条件にて表面電位を測定した。測定回数は3回行い、それらの平均値を測定結果とした。
【0047】
[研磨液組成物のpH]
研磨液組成物の25℃におけるpH値は、pHメータ(東亜電波工業株式会社、HM-30G)を用いて測定した値であり、電極の研磨液組成物への浸漬後1分後の数値である。結果を表2に示した。
【0048】
3.研磨液組成物(実施例1~2及び比較例1~3)の評価
[評価用サンプル]
シリコンウェハの片面に、TEOS-プラズマCVD法で厚さ2000nmの酸化珪素膜(ブランケット膜)を形成したものを使用して評価用サンプル(被研磨基板)とした。
【0049】
[研磨条件]
研磨装置:片面研磨機[荏原製作所製、FREX-200]
研磨パッド:硬質ウレタンパッド「IC-1000/Suba400」[ニッタ・ハース社製]
定盤回転数:100rpm
ヘッド回転数:107rpm
研磨荷重:280hPa
研磨液供給量:200mL/分
研磨時間:1分
【0050】
[研磨速度]
実施例1~2及び比較例1、3の各研磨液組成物を用いて、上記研磨条件で評価用サンプルを研磨した。比較例2はセリア粒子の凝集により、試験を実施できなかった。
研磨前後の酸化珪素膜の膜厚をASET-F5X(KLA製)を用い測定した。ウエハ端部の3mm部を除外した端部~中央部までを4mm間隔で膜厚測定し、合計47点を測定ポイントとした。酸化珪素膜(被研磨膜)の研磨速度は下記式により上記の47点の平均値として算出し、結果を表2に示した。
研磨速度=[研磨前の酸化ケイ素膜厚(nm)-研磨後の酸化ケイ素膜厚(nm)]/研磨時間(分)
【0051】
[面内均一性]
面内均一性の指標となるWIWNUは下記式により求め、結果を表2に示した。
WIWNU(%)
=[酸化珪素膜の研磨速度の標準偏差×100]/酸化珪素膜の研磨速度(nm/分)
ウエハ面内の膜厚測定ポイント47点の研磨速度偏差が大きく、かつ平均研磨速度が小さいほどWIWNUの値が大きくなることを示しており、ウエハ面内の研磨速度偏差が小さく、平均研磨速度が大きいものほどWIWNUの値が小さく、面内均一性に優れることを示している。
【0052】
【表2】
【0053】
表2に示されるように、実施例1~2の研磨液組成物は、比較例1、3に比べて、酸化珪素膜の研磨速度向上と面内均一性の向上とを両立できていることがわかった。なお、比較例2の研磨液組成物は沈降物が生じたため評価できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本開示に係る研磨液組成物は、高密度化又は高集積化用の半導体装置の製造方法において有用である。
図1