(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058422
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】白金族金属の回収方法、および白金族金属の回収システム
(51)【国際特許分類】
C22B 11/02 20060101AFI20240418BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20240418BHJP
C22B 3/02 20060101ALI20240418BHJP
C22B 11/00 20060101ALI20240418BHJP
B01J 38/02 20060101ALI20240418BHJP
B01J 38/00 20060101ALI20240418BHJP
B01J 23/90 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
C22B11/02
C22B3/04
C22B3/02
C22B11/00 101
B01J38/02
B01J38/00 301K
B01J23/90 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165769
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】514132268
【氏名又は名称】日本管機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】岡田 敬志
(72)【発明者】
【氏名】永井 良介
(72)【発明者】
【氏名】中山 耕輔
(72)【発明者】
【氏名】馬場 広太郎
(72)【発明者】
【氏名】田尻 浩範
(72)【発明者】
【氏名】西出 勉
【テーマコード(参考)】
4G169
4K001
【Fターム(参考)】
4G169AA09
4G169AA10
4G169BA01C
4G169BA02C
4G169BA36C
4G169BB04C
4G169BB05C
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4G169BC69A
4G169BC71A
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4G169BC75A
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4G169CA03
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4K001AA41
4K001BA22
4K001CA02
4K001CA11
4K001CA15
4K001DB07
4K001DB26
4K001DB27
4K001DB28
4K001DB31
4K001JA01
4K001JA03
4K001JA05
4K001JA10
(57)【要約】
【課題】低い温度にて、白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する技術を提供する。
【解決手段】本発明の白金族金属の回収方法は、(b)アルカリ金属の水酸化物と、酸化物とを含む混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して、加熱産物を得る工程、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する、白金族金属の回収方法であって、下記の(b)の工程を含むことを特徴とする、回収方法;
(b)アルカリ金属の水酸化物と、酸化物とを含む混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して、加熱産物を得る工程。
【請求項2】
上記混合物は、さらに、白金族金属を含む原料を含むものであることを特徴とする、請求項1に記載の回収方法。
【請求項3】
白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する、白金族金属の回収方法であって、下記の(c)の工程を含むことを特徴とする、回収方法;
(c)上記原料と、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物とを含む混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して予め得られた加熱産物を、水性溶媒に溶解して、白金族金属が溶解された溶解液を得る工程。
【請求項4】
請求項2に記載の(b)の工程で加熱産物を得ること、および、当該加熱産物を請求項3に記載の(c)の工程に供すること、を含むことを特徴とする、回収方法。
【請求項5】
上記加熱の時間は、1分間以上、120分間以下であることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の回収方法。
【請求項6】
上記混合物は、両性元素のオキソアニオンをさらに含むことを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の回収方法。
【請求項7】
上記白金族金属は、Pd、Pt、Rh、Ir、Os、またはRuであることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の回収方法。
【請求項8】
上記アルカリ金属は、Na、K、Li、Rb、またはCsであることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の回収方法。
【請求項9】
上記酸化物は、Al2O3、Na2O、B2O3、K2O、SiO2、Li2O、Rb2O、Cs2O、およびP2O5からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の回収方法。
【請求項10】
白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する、白金族金属の回収システムであって、
(B)アルカリ金属の水酸化物と、酸化物とを含む混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して、加熱産物を得るための加熱装置、を備えていることを特徴とする、回収システム。
【請求項11】
上記混合物は、さらに、白金族金属を含む原料を含むものであることを特徴とする、請求項10に記載の回収システム。
【請求項12】
白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する、白金族金属の回収システムであって、
(C)上記原料と、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物とを含む混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して予め得られた加熱産物を、水性溶媒に溶解して、白金族金属が溶解された溶解液を得るための溶解装置、を備えていることを特徴とする、回収システム。
【請求項13】
請求項11に記載の(B)の加熱装置、および、請求項12に記載の(C)の溶解装置を備えていることを特徴とする、回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族金属の回収方法、および白金族金属の回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
白金族金属は、優れた触媒性能を有することから、自動車排ガス浄化触媒および燃料自動車の触媒等、様々な用途に用いられている。このように、白金族金属は産業上不可欠な元素である一方で、その希少性から白金族金属の生産量はベースメタルと比べて非常に少ない。例えば、白金族金属の中でも比較的生産量が多いPtおよびPdについても、それぞれの生産量は、年間200トン程度、生産量が少ないRhについては年間30トン程度である。さらに、白金族金属の一次供給源は南アフリカおよびロシア等に限定されている。そのため、白金族金属を用いた新規材料の開発によって白金族金属の需要が増大すると、白金族金属の供給不足が発生することになる。すなわち、現在白金族金属の供給リスクは高い状態にあるといえる。
【0003】
このような資源の偏在性による供給リスクに対応するため、日本国内で発生する廃触媒等の廃製品から白金族金属を抽出回収することは非常に重要である。また、天然の鉱石の採掘・製錬は、大きな環境負荷を伴うものである。そのため、天然の鉱石よりも白金族金属濃度の高い廃製品から、効率的に白金族金属を抽出することができれば、環境負荷の低減にもつながる。ただし、白金族金属は化学的に極めて安定であるため、従来の乾式法では、廃製品から白金族金属を分離濃縮したのち、その濃縮物を高濃度の酸で溶解する必要がある。このため、白金族金属の抽出のためのエネルギー消費量が大きく、薬剤コストおよび廃液処理コストも高い。したがって、より効率的な白金族金属の回収方法を開発することが急務となっている。
【0004】
特許文献1、2には、白金族金属の回収方法に関する従来技術が開示されている。より具体的に、特許文献1および2には、王水または高濃度の塩酸といった酸性溶媒を用いることなく、塩素ガスまたは塩化水素ガスが発生しない低腐食環境下において、廃触媒およびスクラップ中の白金族金属を水性溶媒により効率的に抽出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-105632号公報
【特許文献2】特開2021-127493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの従来技術は、電気炉などの加熱装置への負荷が大きく、かつ、エネルギー消費量が大きな1000℃前後という高温での加熱処理が必要であるため、改善の余地があった。
【0007】
本発明の一態様は、低い温度にて、白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔1〕白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する、白金族金属の回収方法であって、下記の(b)の工程を含むことを特徴とする、回収方法;
(b)アルカリ金属の水酸化物と、酸化物とを含む混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して、加熱産物を得る工程。
【0009】
〔2〕上記混合物は、さらに、白金族金属を含む原料を含むものであることを特徴とする、〔1〕に記載の回収方法。
【0010】
〔3〕白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する、白金族金属の回収方法であって、下記の(c)の工程を含むことを特徴とする、回収方法;
(c)上記原料と、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物とを含む混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して予め得られた加熱産物を、水性溶媒に溶解して、白金族金属が溶解された溶解液を得る工程。
【0011】
〔4〕〔2〕に記載の(b)の工程で加熱産物を得ること、および、当該加熱産物を〔3〕に記載の(c)の工程に供すること、を含むことを特徴とする、回収方法。
【0012】
〔5〕上記加熱の時間は、1分間以上、120分間以下であることを特徴とする、〔1〕~〔4〕の何れかに記載の回収方法。
【0013】
〔6〕上記混合物は、両性元素のオキソアニオンをさらに含むことを特徴とする、〔1〕~〔5〕の何れかに記載の回収方法。
【0014】
〔7〕上記白金族金属は、Pd、Pt、Rh、Ir、Os、またはRuであることを特徴とする、〔1〕~〔6〕の何れかに記載の回収方法。
【0015】
〔8〕上記アルカリ金属は、Na、K、Li、Rb、またはCsであることを特徴とする、〔1〕~〔7〕の何れかに記載の回収方法。
【0016】
〔9〕上記酸化物は、Al2O3、Na2O、B2O3、K2O、SiO2、Li2O、Rb2O、Cs2O、およびP2O5からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、〔1〕~〔8〕の何れかに記載の回収方法。
【0017】
〔10〕
白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する、白金族金属の回収システムであって、
(B)アルカリ金属の水酸化物と、酸化物とを含む混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して、加熱産物を得るための加熱装置、を備えていることを特徴とする、回収システム。
【0018】
〔11〕上記混合物は、さらに、白金族金属を含む原料を含むものであることを特徴とする、〔10〕に記載の回収システム。
【0019】
〔12〕白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する、白金族金属の回収システムであって、
(C)上記原料と、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物とを含む混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して予め得られた加熱産物を、水性溶媒に溶解して、白金族金属が溶解された溶解液を得るための溶解装置、を備えていることを特徴とする、回収システム。
【0020】
〔13〕〔11〕に記載の(B)の加熱装置、および、〔12〕に記載の(C)の溶解装置を備えていることを特徴とする、回収システム。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様によれば、低い温度にて、白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する技術を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。本発明は各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意味する。
【0023】
<1.白金族金属の回収方法>
本発明の一実施形態に係る回収方法は、白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する、白金族金属の回収方法であって、下記の(a)または(b)の工程を含み得る:(a)上記原料と、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して、加熱産物を得る工程、(b)アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して、加熱産物を得る工程。
【0024】
本発明の一実施形態に係る回収方法は、白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する、白金族金属の回収方法であって、下記の(b)の工程を含み得る:(b)アルカリ金属の水酸化物と、酸化物とを含む混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して、加熱産物を得る工程。なお、上記混合物は、さらに、白金族金属を含む原料を含むものであってもよい。
【0025】
本発明の一実施形態に係る回収方法は、白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する、白金族金属の回収方法であって、下記の(c)または(d)の工程を含み得る:(c)上記原料と、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して予め得られた加熱産物を、水性溶媒に溶解して、白金族金属が溶解された溶解液を得る工程、(d)アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して予め得られた加熱産物を、水性溶媒に溶解して、原料処理用溶液を得た後、さらに上記原料を上記原料処理用溶液に溶解して、白金族金属が溶解された溶解液を得る工程。
【0026】
本発明の一実施形態に係る回収方法は、白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する、白金族金属の回収方法であって、下記の(c)の工程を含み得る;(c)上記原料と、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物とを含む混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して予め得られた加熱産物を、水性溶媒に溶解して、白金族金属が溶解された溶解液を得る工程。
【0027】
本発明の一実施形態に係る回収方法によれば、低い温度にて、白金族金属を含む原料から白金族金属を回収することができる。それ故、本発明の一実施形態は、持続可能な開発目標(SDGs)の目標7(すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する)および目標9(強靭なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、技術革新の拡大を図る)の達成に貢献し得る。
【0028】
本発明の一実施形態に係る回収方法は、上記(a)の工程および上記(c)の工程の組合せ、または、上記(b)の工程および上記(d)の工程の組合せ、を含み得る。この場合、例えば、上記(a)の工程で得られた加熱産物を上記(c)の工程に供して白金族金属が溶解された溶解液を得てもよいし、上記(b)の工程で得られた加熱産物を上記(d)の工程に供して白金族金属が溶解された溶解液を得てもよい。
【0029】
本発明の一実施形態に係る回収方法は、上記(b)の工程で加熱産物を得ること(例えば、上記混合物が白金族金属を含む原料を含むものである場合)、および、当該加熱産物を上記(c)の工程に供することを含み得る。
【0030】
上記白金族金属を含む原料は、予め、白金族金属を含む粗原料に対して前処理を行ったものであってもよいし、予め、白金族金属を含む粗原料に対して前処理を行っていないものであってもよい。回収される白金族金属の純度を上げるという観点からは、上記白金族金属を含む原料は、予め、白金族金属を含む粗原料に対して前処理を行ったものであることが好ましい。上記粗原料に対する前処理としては、上記粗原料中の白金族金属と共存する不純物の量を減少させるための、加熱、濃縮、めっき処理、物理的選別、および/または、それらの組み合わせであってよい。
【0031】
上記原料に含まれる白金族金属は、加熱されることで酸化物およびアルカリ金属の水酸物と反応して酸化され、白金族金属の酸化生成物となる。当該酸化生成物は水溶性であり、水等の水性溶媒に溶解できることから、上記酸化生成物を水性溶媒に溶解することで、白金族金属が溶解された溶解液が得られる。
【0032】
一方、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を加熱して得られた加熱産物を水性溶媒に溶解した原料処理用溶液には、アニオンが多く含まれている。当該アニオンが白金族金属に対して配位結合を形成することで、白金族金属が溶解された溶解液が得られる。なお、白金族金属を含む原料を上記原料処理用溶液に溶解して白金族金属が溶解された溶解液を得る工程では、原料処理用溶液に、白金族金属を含む原料と酸化剤とを加えて、白金族金属が溶解された溶解液を得てもよい。
【0033】
得られた白金族金属の溶解液(白金族金属が溶解された溶解液)に対して、従来技術にしたがって有機溶媒処理を行うことで、目的の白金族金属を選択的に抽出できる。
【0034】
このような方法によれば、白金族金属を水等に溶解できることから、白金族金属を含む原料の前処理を行うために、王水または高濃度の塩酸等の酸性溶媒を用いる必要がない。そのため、廃液処理コストを低減できる。また、高濃度の塩酸等に起因する塩化水素ガスが発生せず、さらに、腐食性の高い塩化物を用いる必要もないため、設備の腐食が回避できる。
【0035】
(加熱産物を得る工程)
加熱産物を得る工程としては、(a)上記原料と、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して、加熱産物を得る工程、および、(b)アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して、加熱産物を得る工程を挙げることができる。
【0036】
なお、上記(b)の工程において、上記混合物が白金族金属を含む原料を含むものである場合、当該(b)の工程は、上記(a)の工程と実質的に同じと考えることができる。
【0037】
上記(a)の工程にて得られる加熱産物には、アニオンによって水溶性になった、白金族金属の酸化生成物が多く含まれている。一方、上記(b)の工程にて得られる加熱産物には、白金族金属と配位結合を形成し得るアニオンの供給源が多く含まれている。
【0038】
上記(b)の工程の場合、加熱産物から、白金族金属を含む原料を処理するための原料処理用溶液を一度に大量に製造することができる。そして、上記(b)の工程の場合、白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を加熱する工程を行う回数を減らすことができる。その結果、上記(b)の工程の場合、加熱コスト、薬剤コストおよび廃液処理コストを低減できる。
【0039】
上記白金族金属としては、例えば、Pd、Pt、Rh、Ir、Os、またはRuが挙げられる。また、このような白金族金属を含む原料として、例えば、廃自動車触媒および電子機器スクラップ等が挙げられる。
【0040】
上記アルカリ金属の水酸化物におけるアルカリ金属としては、例えば、Na、K、Li、Rb、またはCsが挙げられる。より効率良く白金族金属を水溶性の物質に変換するという観点から、この中でも、NaおよびKが好ましく、Kがより好ましい。上記アルカリ金属の水酸化物は、単独で用いられてもよく、複数種類の混合物で用いられてもよい。
【0041】
上記白金族金属を含む原料に対する上記アルカリ金属の水酸化物の添加量は、白金族金属1重量部に対して2重量部以上40重量部以下であることが好ましく、10重量部以上20重量部以下であることがさらに好ましい。上記の好ましい範囲にあることにより、アルカリ金属の水酸化物の最小限の添加量によって、効率よく白金族金属を回収することができる。
【0042】
上記酸化物は、例えば、Al2O3、Na2O、B2O3、K2O、SiO2、Li2O、Rb2O、Cs2O、およびP2O5からなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。このような酸化物として、例えば、ガラス(例えば、廃ガラス)等が挙げられる。上記酸化物としてガラスを用いる構成によれば、安価に調達できるガラスを有効活用することができる。上記酸化物は、単独で用いられてもよく、複数種類の混合物として用いられてもよい。上記酸化物を複数種類の混合物として用いる場合、少なくともB2O3を含む混合物として用いれば、より確実に、白金族金属を水溶性の物質に変換することができる。
【0043】
上記白金族金属を含む原料に対する上記酸化物の添加量は、白金族金属1重量部に対して3重量部以上100重量部以下であることが好ましく、10重量部以上50重量部以下であることがさらに好ましい。上記の好ましい範囲にあることにより、酸化物の最小限の添加量によって、効率よく白金族金属を回収することができる。
【0044】
上記アルカリ金属の水酸化物は、白金族金属を酸化するための酸化剤として機能する。また、上記酸化物は、白金族金属を酸化するための反応助剤として機能する。上記原料、上記アルカリ金属の水酸化物、および上記酸化物の混合物は、加熱することで上記混合物中に含まれる白金族金属が酸化され、白金族金属の酸化生成物が得られる。このとき、上記混合物の加熱は400℃以上、600℃未満の温度にて行われるが、400℃~550℃の温度にて行われることがより好ましい。当該構成によれば、加熱に要するコストを低くすることができる。当該構成によればマイルドな条件下において、白金族金属を水溶性の物質に変換することができる。また、当該構成によれば、従来の方法よりも加熱温度が低いため、電気炉を含む加熱装置の負荷を少なくし、白金族金属の抽出のためのエネルギー消費量を小さくすることができ、コストダウンを図ることができる。加熱温度の上限値は、590℃、580℃、570℃、560℃、550℃、540℃、530℃、520℃、または、510℃であってもよい。加熱温度の下限値は、500℃、490℃、480℃、470℃、460℃、450℃、440℃、430℃、420℃、410℃、または、400℃であってもよい。加熱温度は、上記混合物の組成に応じて適切な温度が適宜選択されてもよい。
【0045】
また、上記アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を加熱すると、白金族金属と配位結合を形成し得るアニオンの供給源が得られる。このとき、上記混合物の加熱は400℃以上、600℃未満の温度にて行われるが、400℃~550℃の温度にて行われることがより好ましい。当該構成によれば、加熱に要するコストを低くすることができる。当該構成によればマイルドな条件下において、白金族金属を水溶性の物質に変換することができる。また、当該構成によれば、従来の方法よりも加熱温度が低いため、電気炉を含む加熱装置の負荷を少なくし、白金族金属の抽出のためのエネルギー消費量を小さくすることができ、コストダウンを図ることができる。加熱温度の上限値は、590℃、580℃、570℃、560℃、550℃、540℃、530℃、520℃、または、510℃であってもよい。加熱温度の下限値は、500℃、490℃、480℃、470℃、460℃、450℃、440℃、430℃、420℃、410℃、または、400℃であってもよい。加熱温度は、上記混合物の組成に応じて適切な温度が適宜選択されてもよい。
【0046】
加熱の時間は1分間以上であることが好ましく、10分間以上であることがより好ましく、15分間以上であることがより好ましく、20分間以上であることがより好ましい。加熱の時間は120分間以下であることが好ましく、60分間以下であることがより好ましく、30分間以下であることがより好ましい。加熱時間が1分間以上であれば、白金族金属の酸化を十分に行うことができ、また、白金族金属と配位結合を形成し得るアニオンの供給源を十分に得ることができる。一方、加熱時間が120分間以下であれば、電気炉を含む加熱装置の負荷を少なくし、白金族金属の抽出のためのエネルギー消費量を小さくすることができ、コストダウンを図ることができる。また、加熱の時間は、上記混合物の組成に応じて適切な時間が適宜選択されてもよい。
【0047】
上記混合物の加熱は、白金族金属の酸化を促進するために、酸素を含む雰囲気下で行うことが好ましく、例えば、大気雰囲気下で行うことが好ましい。
【0048】
上記混合物の組成、および/または、当該混合物を加熱する雰囲気中の酸素分圧は、適宜調整されてよい。これにより、白金族金属の上記水性溶媒への溶解性を調整することができる。
【0049】
例えば、上記混合物の塩基度、および/または、当該混合物を加熱する雰囲気中の酸素分圧を変化させることによって、白金族金属の上記水性溶媒への溶解性を調整することができる。
【0050】
具体的に、上記混合物の塩基度、および/または、当該混合物を加熱する雰囲気中の酸素分圧を変化させることによって、任意の量の水を含む水性溶媒(例えば、水を98重量%以上、95重量%以上、90重量%以上、85重量%以上、または、80重量%以上含む水性溶媒)に好適に溶解する白金族化合物を合成してもよい。
【0051】
また、酸素を含む気体を供給する配管を上記混合物内に浸漬させ、当該配管から上記混合物中に酸素を含む気体を供給し、当該混合物をバブリング攪拌しながら加熱することが好ましい。
【0052】
また、上記混合物中に高価数のカチオンを加えて、白金族金属を酸化する力をより増大させることが好ましい。高価数のカチオンとしては、例えばFe3+、Ce4+、またはGd3+を挙げることができる。
【0053】
また、より効率良く白金族金属を水溶性の物質に変換するという観点から、上記混合物は、少なくとも加熱後に、両性元素のオキソアニオンをさらに含むことが好ましい。両性元素として、例えば、Al、Ti、V、Co、またはZrが挙げられ、これらの中では、Al、または、Tiがより好ましい。このようなオキソアニオンが上記混合物中に存在することで、白金族金属の酸化生成物がオキソアニオンと反応し、上記酸化生成物の水溶性が向上しやすくなると考えられる。両性元素のオキソアニオンの具体例としては、AlO2
-、TiO3
2-、VO4
3-、またはCoO2
-を挙げることができる。
【0054】
オキソアニオンは、上記混合物に直接添加してもよく、また、上記混合物が保持および加熱される際の容器として、アルミナ等の両性元素を含有する容器(坩堝等)を用いることで、当該容器に含まれる両性元素がオキソアニオンとなって上記混合物中に溶出してもよい。
【0055】
また、上記混合物を保持および加熱する際に用いる容器として、炭化ケイ素/窒化ケイ素、ステンレスおよび/またはチタン等の金属によって形成された容器を用いてもよい。この場合、球状、棒状、または板状等の形状に成形した、アルミナ等の両性元素を含むセラミックス材料を、上記容器内の混合物中に投入してもよい。言い換えれば、上記加熱産物を得る工程で、上記混合物に、両性元素の酸化物をさらに加えてもよい。これにより、当該セラミックス材料中に含まれる両性元素がオキソアニオンとなって、上記混合物中に溶出する。上記セラミックス材料は、オキソアニオンの溶出を促進するため、多孔質であることが好ましい。
【0056】
(白金族金属が溶解された溶解液を得る工程)
白金族金属が溶解された溶解液を得る工程としては、(c)上記原料と、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して予め得られた加熱産物を、水性溶媒に溶解して、白金族金属が溶解された溶解液を得る工程、および、(d)アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して予め得られた加熱産物を、水性溶媒に溶解して、原料処理用溶液を得た後、さらに上記原料を上記原料処理用溶液に溶解して、白金族金属が溶解された溶解液を得る工程、を挙げることができる。なお、上記原料処理用溶液には、白金族金属を含む原料と酸化剤とを溶解してもよい。
【0057】
上記(d)の工程の場合、加熱産物から、白金族金属を含む原料を処理するための原料処理用溶液を一度に大量に製造することができる。そして、上記(d)の工程の場合、白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を加熱する工程を行う回数を減らすことができる。その結果、上記(d)の工程の場合、加熱コスト、薬剤コストおよび廃液処理コストを低減できる。
【0058】
上記水性溶媒は、水を主成分として含む溶媒を意図し、例えば、水を60重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%、より好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上、最も好ましくは100重量%含む溶媒を意図する。上記水性溶媒は、より具体的に、(i)水を60重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%、より好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上、最も好ましくは100重量%含み、かつ、(ii)ハロゲンを含まない溶媒であることが好ましい。ハロゲンを含まない溶媒のハロゲン濃度は、3mol/L以下であってよく、好ましくは1mol/L以下であり、より好ましくは0.1mol/L以下であり、さらに好ましくは0.01mol/L以下である。当該構成であれば、白金族金属を水性溶媒に容易に溶解することができる。
【0059】
上記白金族金属が溶解された溶解液を得る工程としては、上記白金族金属を含む原料を加熱して得られる加熱産物を水性溶媒(例えば、水)に接触させることにより、上記白金族金属を含む原料に含まれる白金族金属100重量%のうちの15重量%以上が水性溶媒に溶解してなる溶解液を得る溶解工程であってもよい。上記溶解工程は、上記白金族金属を含む原料に含まれる白金族金属100重量%のうち、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、40重量%以上、45重量%以上、50重量%以上、55重量%以上、60重量%以上、65重量%以上、70重量%以上、75重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、90重量%以上が水性溶媒に溶解してなる溶解液を得る溶解工程であってもよい。なお、白金族金属が溶解する水性溶媒の重量は、限定されない。白金族金属が溶解する水性溶媒の重量は、例えば、溶解する白金族金属の重量の100倍以上、1000倍以上、または、10000倍以上の重量であってもよい。
【0060】
上記水性溶媒は、水以外の成分を含むことが可能であり、当該成分としては、ハロゲンを含まない成分を挙げることができる。当該成分の具体例としては、極性溶媒が好ましく、例えば、メタノールやエタノール等のアルコール類、クエン酸等の水溶性の有機酸を含んだ溶液、過塩素酸等の無機酸を含んだ溶液、または両性元素の水酸化物錯体を含んだ溶液を挙げることができる。
【0061】
上記水性溶媒には、任意のpHに調整するためのpH調整剤が添加されていてもよい。このとき、上記水性溶媒のpHは特に限定されるものではない。本発明では、従来技術とは異なり、強酸性の溶媒を用いる必要がない。それ故に、上記水性溶媒のpHは、6~8であってもよく、6~7であってもよく、7~8であってもよい。このような水性溶媒を用いれば、効率良く白金族金属を抽出できるのみならず、自然に対して悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0062】
上記水性溶媒を用いて白金族金属が溶解された溶解液を得た後、溶解せずに残った加熱産物に対して、新たに用意した水性溶媒を用いて同様の処理を行い、白金族金属が溶解された溶解液を得ることができる。また、この操作を繰り返し行って、さらに白金族金属が溶解された溶解液を得てもよい。このような、繰り返し溶解液を得る工程において、繰り返しの工程の各々にて水性溶媒の組成は限定されるものではなく、繰り返しの工程ごとに異なる組成の水性溶媒を用いてもよい。例えば、98重量%以上の水を含む水性溶媒で加熱産物を溶解した後、未溶解の加熱産物を80重量%以上90重量%以下の水を含む水性溶媒で溶解してもよい。
【0063】
また、混合物に含まれる酸化物の量を増減する等、加熱産物を得る工程で混合物の組成を調整することにより、白金族金属が溶解された溶解液を得る工程での、白金族金属の水性溶媒への溶解性を調整することができる。例えば、98重量%以上の水を含む水性溶媒に好適に白金族金属が溶解するように、酸化物の量を調整してもよい。また、98重量%以上の水を含む水性溶媒に白金族金属を溶解する場合よりも、混合物に含まれる酸化物の量を少なくすることによって、80重量%以上90重量%以下の水を含む水性溶媒により好適に白金族金属が溶解するように調整することができる。
【0064】
白金族金属の酸化を促進する酸化剤としては、空気、酸素ガス、過酸化水素水、または、高価数のカチオンを含んだ溶液を用いることができる。白金族金属を迅速に酸化することができる、という利点を有することから、上述した酸化剤の中では、酸素ガス、または、高価数のカチオンが好ましい。高価数のカチオンとしては、例えばFe3+、Ce4+、またはCo3+が挙げられる。
【0065】
このような酸化剤は、上記混合物の加熱前または加熱中に、当該混合物に投入されることが好ましい。加熱時に酸化剤が存在することで、白金族金属の酸化が効果的に進行する。なお、酸化剤の投入時期はこれに限られず、上記混合物の加熱後であってもよく、上記混合物の水性溶媒への溶解中であってもよい。
【0066】
また、上記溶解液を得たのち、未溶解の白金族金属を再び加熱産物を得る工程に投入してもよい。すなわち、未溶解の白金族金属を再び加熱産物を得る工程に投入することによって、未溶解の白金族金属を水溶性の物質に変換し、再度、白金族金属が溶解された溶解液を得てもよい。
【0067】
(抽出・回収する工程)
本発明の一実施形態に係る白金族金属の回収方法は、上述の工程により得られた白金族金属が溶解された溶解液から、有機溶媒中に上記白金族金属を抽出・回収する工程を含んでもよい。当該工程は、従来技術の有機溶媒処理による白金族金属の抽出・回収方法によって行われ得る。
【0068】
このような白金族金属の回収方法によれば、有害な王水または高濃度の塩酸等の酸性溶媒を用いることなく、低腐食環境下において、原料(例えば、廃触媒およびスクラップ)中の白金族金属を選択的に抽出できる。
【0069】
上記有機溶媒としては、例えば、Dialkyl Sulfide、Hydroxyoxime、8-Quinolinol、Tertiary amine、またはTrialkylphosphateを用いることができる。有機溶媒としてHydroxyoximeを用いれば、白金族金属の中でも、特にPdを選択的に抽出することができ、有機溶媒としてTertiary amineを用いれば、白金族金属の中でも、特にPtを選択的に抽出することができる。また、上記白金族金属が溶解された溶解液からPdおよびPtを抽出したのち、有機溶媒としてTertiary amineを用いれば、残った白金族金属の中でも、特にIrを選択的に抽出することができ、当該抽出後の溶解液を精製することでRhを得ることができる。RuおよびOsについては、これらの分離行程中における蒸留操作によって揮発分離することができる。
【0070】
なお、上述した白金族金属の回収方法によって白金族金属が抽出・回収された後の溶解液は、原料処理用溶液として、再度、前処理方法に用いることができる。この場合、白金族金属が抽出された後の溶解液である原料処理用溶液に、白金族金属を含む原料が加えられる。なお、原料処理用溶液に白金族金属を含む原料を溶解するときには、原料処理用溶液に、白金族金属を含む原料と酸化剤とを加えてもよい。原料処理用溶液(または、原料処理用溶液および酸化剤)によって白金族金属が酸化され、原料処理用溶液中に酸化された白金族金属が溶解し、再び白金族金属が溶解された溶解液が得られる。上記酸化剤として、上述したものが挙げられる。このような方法によれば、加熱コスト、薬剤コストおよび廃液処理コストを低減できる。
【0071】
<2.白金族金属の回収システム>
本発明の一実施形態に係る白金族金属の回収システムについて、以下に説明する。なお、上述した<1.白金族金属の回収方法>にて既に説明した構成については、ここでは、その説明を省略する。
【0072】
本発明の一実施形態に係る回収システムは、白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する、白金族金属の回収システムであって、(A)上記原料と、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して、加熱産物を得るための加熱装置、または、(B)アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して、加熱産物を得るための加熱装置、を備え得る。
【0073】
本発明の一実施形態に係る回収システムは、白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する、白金族金属の回収システムであって、(B)アルカリ金属の水酸化物と、酸化物とを含む混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して、加熱産物を得るための加熱装置、を備え得る。なお、上記混合物は、さらに、白金族金属を含む原料を含むものであってもよい。
【0074】
本発明の一実施形態に係る回収システムは、白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する、白金族金属の回収システムであって、(C)上記原料と、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して予め得られた加熱産物を、水性溶媒に溶解して、白金族金属が溶解された溶解液を得るための溶解装置、または、(D)アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して予め得られた加熱産物を、水性溶媒に溶解して、原料処理用溶液を得た後、さらに白金族金属を含む原料を上記原料処理用溶液に溶解して、白金族金属が溶解された溶解液を得るための溶解装置、を備え得る。
【0075】
本発明の一実施形態に係る回収システムは、白金族金属を含む原料から白金族金属を回収する、白金族金属の回収システムであって、(C)上記原料と、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物とを含む混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して予め得られた加熱産物を、水性溶媒に溶解して、白金族金属が溶解された溶解液を得るための溶解装置、を備え得る。
【0076】
本発明の一実施形態に係る白金族金属の回収システムは、上記(A)の加熱装置および上記(C)の溶解装置の組合せ、または、上記(B)の加熱装置および上記(D)の溶解装置の組合せ、を備え得る。
【0077】
本発明の一実施形態に係る回収システムは、上記(B)の加熱装置(例えば、上記混合物が白金族金属を含む原料を含むものである場合)、および、上記(C)の溶解装置を備え得る。当該回収システムは、上記(A)の加熱装置および上記(C)の溶解装置の組合せと実質的に同じと考えることができる。
【0078】
上記加熱装置は、加熱槽を備えるものであってよい。上記加熱槽は、例えば、(i)白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を収容するための容器、または、アルカリ金属水酸化物と、酸化物との混合物を収容するための容器と、(ii)当該容器内の混合物を、400℃以上、600℃未満の温度に加熱するためのヒーターと、を備えたものであり得る。上記加熱槽は、更に、容器内に両性元素を供給するための両性元素注入口を備えたものであってもよく、容器内へ供給される両性元素を収容するための収容タンクを備えたものであってもよい。
【0079】
上記ヒーターは、容器内の混合物を400℃以上、600℃未満の温度に加熱し得るものであるが、400℃~550℃の温度に加熱し得るものであることがより好ましい。当該構成によれば、加熱に要するコストを低くすることができる。当該構成によればマイルドな条件下において、白金族金属を水溶性の物質に変換することができる。また、当該構成によれば、従来の方法よりも加熱温度が低いため、電気炉を含む加熱装置の負荷を少なくし、白金族金属の抽出のためのエネルギー消費量を小さくすることができ、コストダウンを図ることができる。加熱温度の上限値は、590℃、580℃、570℃、560℃、550℃、540℃、530℃、520℃、または、510℃であってもよい。加熱温度の下限値は、500℃、490℃、480℃、470℃、460℃、450℃、440℃、430℃、420℃、410℃、または、400℃であってもよい。加熱温度は、上記混合物の組成に応じて適切な温度が適宜選択されてもよい。
【0080】
また、上記加熱槽は、両性元素を含む材料によって形成されたものであってもよい。このような容器の一例としての坩堝としては、アルミナ坩堝、ジルコニア坩堝、チタン酸アルミ坩堝、炭化ケイ素/窒化ケイ素坩堝、または、ムライト坩堝が挙げられる。このような構成によれば、上記混合物を加熱する際に、上記加熱槽に含まれる両性元素がオキソアニオンとして溶出する。当該オキソアニオンは、上記混合物に含まれる白金族金属の酸化を促進し、白金族金属の水溶性を向上させることができる。
【0081】
上記溶解装置は、溶解槽を備えるものであってよい。上記溶解槽は、(iii)白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して予め得られた加熱産物を、水性溶媒に溶解して、白金族金属が溶解された溶解液を得るための容器、または、アルカリ金属の水酸化物と、酸化物との混合物を、400℃以上、600℃未満の温度で加熱して予め得られた加熱産物を、水性溶媒に溶解して、原料処理用溶液を得た後、さらに白金族金属を含む原料を原料処理用溶液に溶解して、白金族金属が溶解された溶解液を得るための容器と、(iv)当該容器内へ水性溶媒を供給するための水溶性溶媒注入口と、を備えたものであり得る。上記溶解槽は、容器内へ供給される水性溶媒を収容するための収容タンクを備えたものであってもよい。また、上記溶解槽は、容器内へ酸化剤を供給するための酸化剤注入口を備えたものであってもよく、容器内へ供給される酸化剤を収容するための収容タンクを備えたものであってもよい。
【0082】
上記溶解槽は、上記白金族金属を含む原料を加熱して得られる加熱産物を水性溶媒(例えば、水)に接触させることにより、上記白金族金属を含む原料に含まれる白金族金属100重量%のうちの15重量%以上が水性溶媒に溶解してなる溶解液を得る溶解槽であってもよい。上記溶解槽は、上記白金族金属を含む原料に含まれる白金族金属100重量%のうち、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、40重量%以上、45重量%以上、50重量%以上、55重量%以上、60重量%以上、65重量%以上、70重量%以上、75重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、90重量%以上が水性溶媒に溶解してなる溶解液を得る溶解槽であってもよい。なお、白金族金属が溶解する水性溶媒の重量は、限定されない。白金族金属が溶解する水性溶媒の重量は、例えば、溶解する白金族金属の重量の100倍以上、1000倍以上、または、10000倍以上の重量であってもよい。
【0083】
上記溶解槽は、上記加熱槽がそのまま投入できる大きさであることが好ましい。また、加熱槽に用いる容器と、溶解槽に用いる容器とを、同一の容器として構成することも可能である。例えば、一例として坩堝を対象とすれば、加熱槽に用いる坩堝と、溶解槽に用いる坩堝とを、同一の坩堝として構成することも可能である。このような構成によれば、上記加熱槽から上記加熱産物を一度取り出して上記溶解槽に移す必要がない。また、上記溶解槽は、攪拌棒またはスターラー等の攪拌部材を備えることが好ましい。このような構成によれば、上記加熱産物を水性溶媒に効率的に溶解できる。加熱装置と、溶解装置とを、同一の装置として構成することも可能である。
【0084】
また、本実施形態に係る白金族金属の回収システムは、上記白金族金属が溶解された溶解液から、有機溶媒中に上記白金族金属を抽出する抽出槽を、さらに備えていてもよい。当該抽出槽は、従来技術による有機溶媒処理を行うことができるものであれば、特に限定されない。
【0085】
このような回収システムによれば、有害な王水または高濃度の塩酸等の酸性溶媒を用いることなく、低腐食環境下において、廃触媒およびスクラップ中の白金族金属を水性溶媒に効率的に抽出できる。
【実施例0086】
実施例1~15および比較例1~14では、白金族金属とアルカリ金属の水酸化物と酸化物との混合物をアルミナ坩堝に加え、当該混合物を電気炉内において加熱した。当該加熱の際、混合物に金属Pdが含まれている条件では、アルカリ金属の水酸化物との反応によって金属Pdが酸化される。また、混合物が加えられたアルミナ坩堝の成分の一部は、反応媒体中に溶解しAlxOy
z-として混合物中に存在するようになる。このように、混合物の加熱を所定時間進行させたのち、加熱物を冷却して得られたものを加熱産物と定義する。
【0087】
1.白金(Pt)の水溶化における、加熱産物調製時の加熱温度の検討
<試料および方法>
(1)比較例1(Pt-K2CO3-K2O-B2O3系)
比較例1のPt-K2CO3-K2O-B2O3系加熱産物は、市販の化合物標準試薬を用いて、以下の通り作製した。まず、金属白金(Pt)10.1mgと酸化ホウ素49.9mgと炭酸カリウム3900mgとを混合し、当該混合物を30mLアルミナ坩堝に加えた。
【0088】
その後、この坩堝を電気炉内に設置し、1000℃で加熱した。加熱時にエアーポンプを用いて、流量8L/minで空気を電気炉内に供給し続けた。加熱が終了したのち、電気炉内において坩堝を200℃以下まで自然放冷し、炉内から坩堝を取り出した。
【0089】
得られた加熱産物の入った坩堝を200mLビーカー内に設置し、ここに150mLイオン交換水を加えて、攪拌羽を用いて30分攪拌した。その後、5Cろ紙を用いて、ビーカー内の懸濁物を吸引濾過し、得られた濾液をイオン交換水にて250mLにメスアップした。さらに、この液を1M塩酸水溶液にて10倍に希釈し、当該希釈液を分析サンプルとした。
【0090】
上記イオン交換水にて処理した後の固体残渣を200mLビーカー内に設置し、ここに150mLの0.01M塩酸水溶液を加えて、攪拌羽を用いて30分攪拌した。その後、5Cろ紙を用いて、ビーカー内の懸濁物を吸引濾過し、得られた濾液を0.01M塩酸水溶液にて250mLにメスアップした。この液を分析サンプルとした。
【0091】
上記0.01M塩酸水溶液にて処理した後の固体残渣に対して、0.1M塩酸水溶液による処理を同様に行い、分析サンプルを得た。
【0092】
上記0.1M塩酸水溶液にて処理した後の固体残渣に対して、1M塩酸水溶液による処理を同様に行い、分析サンプルを得た。
【0093】
一連の操作で得られた分析サンプル中の白金の濃度を、ICP発光分光分析によって求めた。
【0094】
(2)比較例2(Pt-KOH系)
比較例2のPt-KOH系加熱産物は、市販の化合物標準試薬を用いて、以下の通り作製した。まず、金属白金(Pt)約10mgと水酸化カリウム約200mg、酸化ホウ素約50mgとを混合し、当該混合物を5mLアルミナ坩堝に加えた。
【0095】
その後、この坩堝を電気炉内に設置し、500℃で2時間加熱した。加熱時にエアーポンプを用いて、流量8L/minで空気を電気炉内に供給し続けた。加熱が終了したのち、電気炉内において坩堝を200℃以下まで自然放冷し、炉内から坩堝を取り出した。
【0096】
得られた加熱産物の入った坩堝を200mLビーカー内に設置し、ここに150mLイオン交換水を加えて、攪拌羽を用いて30分攪拌した。その後、5Cろ紙を用いて、ビーカー内の懸濁物を吸引濾過し、得られた濾液をイオン交換水にて250mLにメスアップした。さらに、この液を1M塩酸水溶液にて10倍に希釈し、当該希釈液を分析サンプルとした。
【0097】
上記イオン交換水にて処理した後の固体残渣を200mLビーカー内に設置し、ここに150mLの0.01M塩酸水溶液を加えて、攪拌羽を用いて30分攪拌した。その後、5Cろ紙を用いて、ビーカー内の懸濁物を吸引濾過し、得られた濾液を0.01M塩酸水溶液にて250mLにメスアップした。この液を分析サンプルとした。
【0098】
上記0.01M塩酸水溶液にて処理した後の固体残渣に対して、0.1M塩酸水溶液による処理を同様に行い、分析サンプルを得た。
【0099】
上記0.1M塩酸水溶液にて処理した後の固体残渣に対して、1M塩酸水溶液による処理を同様に行い、分析サンプルを得た。
【0100】
一連の操作で得られた分析サンプル中の白金の濃度を、ICP発光分光分析によって求めた。
【0101】
(3)実施例1~6および比較例3~8(Pt-B2O3-KOH系、Pt-SiO2-KOH系)
実施例1~6および比較例3~7のPt-B2O3-KOH系加熱産物または比較例8のPt-K2O-SiO2系加熱産物は、市販の化合物標準試薬を用いて、以下の通り作製した。まず、白金約10mgと水酸化カリウム約200mg、酸化ホウ素あるいは二酸化ケイ素約50mgとを混合し、30mLあるいは5mLアルミナ坩堝に加えた。この坩堝を電気炉内に設置し、所定の温度で2時間加熱した。このとき、加熱温度を300~800℃と変化させた。加熱時にエアーポンプを用いて、流量8L/minで空気を電気炉内に供給し続けた。加熱が終了したのち、電気炉内において坩堝を200℃以下まで自然放冷し、炉内から坩堝を取り出した。
【0102】
上記加熱産物の入った坩堝を200mLビーカー内に設置し、ここに150mLイオン交換水を加えて、攪拌羽を用いて30分攪拌した。その後、5Cろ紙を用いて、ビーカー内の懸濁物を吸引濾過し、得られた濾液を250mLにメスアップした。さらに、この液を1M塩酸水溶液で10倍に希釈し、これを分析サンプルとした。
【0103】
次に、イオン交換水処理後の固体残渣を200mLビーカー内に設置し、ここに150mLの0.01M塩酸水溶液を加えて、攪拌羽を用いて30分攪拌した。その後、5Cろ紙を用いて、ビーカー内の懸濁物を吸引濾過し、得られた濾液を250mLにメスアップした。この液を分析サンプルとした。
【0104】
次に、0.01M塩酸処理後の固体残渣に対して、0.1M塩酸水溶液、1M塩酸水溶液による処理を同様に行い、分析サンプルを得た。ただし、一部の実験では、イオン交換水処理のみ、あるいはイオン交換水処理と0.01M塩酸処理のみを行った。
【0105】
一連の操作で得られた分析サンプル中の白金の濃度を、ICP発光分光分析によって求めた。
【0106】
表1に、本実施例および比較例で用いた反応媒体の組成を示した。
【0107】
【0108】
<結果>
表2に、各加熱産物からの白金(Pt)の溶出量を、イオン交換水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液、1M塩酸水溶液に対するPt溶解率(%)として示した。各溶液に対するPtの溶解率は、以下の式により求めた:
Pt溶解率(%)=(溶液中のPt量/投入したPt量)×100 (式1)。
【0109】
【0110】
以上より、加熱産物を得る前処理工程における加熱温度が400℃以上、600℃未満であれば、加熱温度600℃以上の条件時と同程度以上に効率的に水溶性Ptを生成することができることが明らかとなった。また、投入したPt量(原料に含まれる白金族金属100重量%)のうちの15重量%以上が水に溶解してなる溶解液であった。つまり、本発明の一態様は、水溶性白金族化合物を抽出する際の原料の前処理方法として有効であることが明らかとなった。
【0111】
2.パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)の水溶化(実施例7、8)
<試料および方法>
Pd-B2O3-KOH系加熱産物またはRh-B2O3-KOH系加熱産物は、市販の化合物標準試薬を用いて、以下の通り作製した。パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)のいずれか10mgと、水酸化カリウム200mg、酸化ホウ素50mgとを混合し、5mLアルミナ坩堝に加えた。この坩堝を電気炉内に設置し、500℃で2時間加熱した。加熱時にエアーポンプを用いて、流量8L/minで空気を電気炉内に供給し続けた。加熱が終了したのち、電気炉内において坩堝を200℃以下まで自然放冷したのち、炉内から坩堝を取り出した。
【0112】
上記加熱産物の入った坩堝を200mLビーカー内に設置し、ここに150mLイオン交換水を加えて、攪拌羽を用いて30分攪拌した。その後、5Cろ紙を用いて、ビーカー内の懸濁物を吸引ろ過し、得られたろ液を250mLにメスアップした。さらに、この液を1M塩酸水溶液で10倍に希釈し、これを分析サンプルとした。
【0113】
イオン交換水処理後の固体残渣を200mLビーカー内に設置し、ここに150mLの0.01M塩酸水溶液を加えて、攪拌羽を用いて30分攪拌した。その後、5Cろ紙を用いて、ビーカー内の懸濁物を吸引ろ過し、得られたろ液を250mLにメスアップした。この液を分析サンプルとした。
【0114】
0.01M塩酸処理後の固体残渣に対して、0.1M塩酸水溶液、1M塩酸水溶液による処理を同様に行い、分析サンプルを得た。
【0115】
一連の操作で得られた分析サンプル中のパラジウム、ロジウムの濃度を、ICP発光分光分析によって求めた。
【0116】
<結果>
表3、表4に、各加熱産物からのパラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)の溶出量を、イオン交換水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液、1M塩酸水溶液に対するPdまたはRh溶解率(%)として示した。各溶液に対するPdまたはRhの溶解率は、以下の式により求めた。
【0117】
PdまたはRh溶解率(重量%)=
(溶液中のPdまたはRh量/投入したPdまたはRh量)×100 (式2)。
【0118】
【0119】
【0120】
以上より、加熱産物を得る前処理工程における加熱温度が400℃以上、600℃未満であれば、効率的に水溶性PdまたはRhを生成することができることが明らかとなった。また、投入したPdまたはRh量(原料に含まれる白金族金属100重量%)のうちの15重量%以上が水に溶解してなる溶解液であった。つまり、本発明の一態様は、水溶性白金族化合物を抽出する際の原料の前処理方法として有効であることが明らかとなった。
【0121】
3.白金(Pt)の水溶化における、加熱産物調製時の加熱時間の検討
加熱産物調製時の加熱時間の短縮化の検討を行った。
<試料および方法>
実施例9~15および比較例9~14のPt-B2O3-KOH系加熱産物は、市販の化合物標準試薬を用いて、以下の通り作製した。
【0122】
白金約10mgと、水酸化カリウム約200mg、酸化ホウ素約50mgとを混合し、30mLアルミナ坩堝に加えた。この坩堝を電気炉内に設置し、所定の温度で加熱した。このとき、加熱温度を実施例9~15では500℃、比較例9~14では600℃とした。また、それぞれの温度における加熱時間を1分、10分、30分、60分と変化させた。加熱が終了したのち、電気炉内において坩堝を200℃以下まで自然放冷したのち、炉内から坩堝を取り出した。
【0123】
各加熱産物の入った坩堝を200mLビーカー内に設置し、ここに150mLイオン交換水を加えて、攪拌羽を用いて30分攪拌した。その後、5Cろ紙を用いて、ビーカー内の懸濁物を吸引ろ過し、得られたろ液を250mLにメスアップした。さらに、この液を1M塩酸水溶液で10倍に希釈し、これを分析サンプルとした。水処理後の固体残渣を200mLビーカー内に設置し、ここに150mLの0.01M塩酸水溶液を加えて、攪拌羽を用いて30分攪拌した。その後、5Cろ紙を用いて、ビーカー内の懸濁物を吸引ろ過し、得られたろ液を250mLにメスアップした。この液を分析サンプルとした。処理後の固体残渣に対して、0.1M塩酸水溶液、1M塩酸水溶液による処理を同様に行い、分析サンプルを得た。
【0124】
一連の操作で得られた分析サンプル中のPtの濃度を、ICP発光分光分析によって求めた。
【0125】
表5に、本実施例および比較例で用いた反応媒体の組成を示した。
【0126】
【0127】
<結果>
表6に、各加熱産物からの白金(Pt)の溶出量を、イオン交換水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液、1M塩酸水溶液に対するPt溶解率(%)として示した。各溶液に対するPtの溶解率は、上記「1.白金(Pt)の水溶化における、加熱産物調製時の加熱温度の検討」の式1により求めた。
【0128】
【0129】
実施例9~15より、加熱産物を得る前処理工程における加熱温度を400℃以上、600℃未満、加熱時間を1分間以上120分間にすることで、加熱温度600℃の条件時と同程度まで効率的に水溶性Ptを生成することができることが明らかとなった。また、投入したPt量(原料に含まれる白金族金属100重量%)のうちの15重量%以上が水に溶解してなる溶解液であった。つまり、本発明の一態様は、水溶性白金族化合物を抽出する際の原料の前処理方法として有効であることが明らかとなった。
【0130】
4.実触媒中の白金族金属の水溶化の検討(実施例16)
白金族金属を含む原料として、実触媒(二輪車の排ガス浄化用触媒の廃触媒)を用い、白金族金属を含む原料(実触媒)中のパラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)の水溶化の検討を行った。
【0131】
<試料および方法>
パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)を含有する実触媒500.2mgと、水酸化カリウム約1000mg、酸化ホウ素約250mgとを混合し、30mLアルミナ坩堝に加えた。この坩堝を電気炉内に設置し、500℃で2時間加熱した。加熱が終了したのち、電気炉内において坩堝を200℃以下まで自然放冷したのち、炉内から坩堝を取り出した。このようにして実触媒を原料とする加熱産物を得た。
【0132】
上記加熱産物の入った坩堝を200mLビーカー内に設置し、ここに150mLイオン交換水を加えて、攪拌羽を用いて30分攪拌した。その後、5Cろ紙を用いて、ビーカー内の懸濁物を吸引ろ過し、得られたろ液を250mLにメスアップした。さらに、この液を1M塩酸水溶液で10倍に希釈し、これを分析サンプルとした。
イオン交換水処理後の固体残渣を200mLビーカー内に設置し、ここに150mLの1M塩酸水溶液を加えて、攪拌羽を用いて30分攪拌した。その後、5Cろ紙を用いて、ビーカー内の懸濁物を吸引ろ過し、得られたろ液を250mLにメスアップした。この液を分析サンプルとした。
【0133】
一連の操作で得られた分析サンプル中のパラジウム、ロジウムの濃度を、ICP発光分光分析によって求めた。
【0134】
表7に、実施例16で用いた実触媒の組成を示した。
【0135】
【0136】
<結果>
表8に、加熱産物からのパラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)の溶出量を、イオン交換水、1M塩酸水溶液に対するPdまたはRh溶解率(%)として示した。各溶液に対するPdまたはRhの溶解率は、以下の式により求めた:
PdまたはRh溶解率(重量%)=
(溶液中のPdまたはRhの量/投入した実触媒の量)×100 (式3)。
【0137】
【0138】
以上より、実触媒中のPdまたはRhについても、イオン交換水あるいは1M塩酸水溶液に溶解する状態に変換されていた。つまり、本発明の一態様は、水溶性白金族化合物を抽出する際の原料の前処理方法として、実触媒に対しても有効であることが明らかとなった。