(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058436
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】物質検出システム
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165789
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】592028846
【氏名又は名称】I-PEX株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100165489
【弁理士】
【氏名又は名称】榊原 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健志
(72)【発明者】
【氏名】竹中 希美
(57)【要約】 (修正有)
【課題】物質の検出の精度を安定させることができる物質検出システムを提供する。
【解決手段】物質検出システム1は、物質センサ10と、第1供給部11と、第2供給部12と、制御部13と、を備える。制御部13は、第1供給部11による第1気体A1の供給を停止した状態で第2供給部12により第2気体A2を供給し、物質センサ10の周囲の第2気体A2の状態が定常状態となった第1期間において物質センサ10から出力される信号を取得した後、第1供給部11により物質センサ10の周囲への第1気体A1の供給を開始し、第1気体A1を供給した状態の第2期間において物質センサ10から出力される信号を取得し、第1期間で取得された信号と第2期間で取得された信号との変化に基づいて、物質センサ10に付着する対象物質OBの分子の量を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲の気体に含まれる対象物質の分子が付着した量に応じた信号を出力する物質センサと、
前記対象物質を含む第1気体を前記物質センサの周囲に供給する第1供給部と、
温度と、湿度と、含有物質の濃度とが一定に管理された第2気体を前記物質センサの周囲に供給する第2供給部と、
前記第1供給部による前記第1気体の供給を停止した状態で前記第2供給部により前記第2気体を供給し、前記物質センサの周囲の前記第2気体の状態が定常状態となった第1期間において前記物質センサから出力される信号を取得した後、前記第1供給部により前記物質センサの周囲への前記第1気体の供給を開始し、前記第1気体を供給した状態の第2期間において前記物質センサから出力される信号を取得し、前記第1期間で取得された信号と前記第2期間で取得された信号との変化に基づいて、前記物質センサに付着する対象物質の分子の量を算出する制御部と、
を備える物質検出システム。
【請求項2】
前記第2供給部は、前記物質センサの周囲に向けて前記第2気体を常時供給するように動作し、
前記第1供給部から供給される第1気体の流量は、前記第2供給部から供給される第2気体の流量よりも大きくなるように設定される、
請求項1に記載の物質検出システム。
【請求項3】
前記制御部は、
前記第2供給部による前記第2気体の供給を停止するとともに前記第1供給部による前記第1気体の供給を開始し、前記第2期間における前記物質センサからの信号を取得する、
請求項1に記載の物質検出システム。
【請求項4】
前記第1供給部から供給される第1気体と、前記第2供給部から供給される第2気体とのいずれかを前記物質センサの周囲に供給する第1継手を備える、
請求項2に記載の物質検出システム。
【請求項5】
前記第2供給部と前記第1継手との間に設けられ、供給された前記第2気体を2つに分岐し、分岐した一方の前記第2気体を前記第1継手に供給する第2継手を備える、
請求項4に記載の物質検出システム。
【請求項6】
前記第2気体が前記対象物質を含有する場合、
温度及び湿度を前記第1気体と同じとしたときの前記第2気体における前記対象物質の濃度は、前記第1気体における前記対象物質の濃度よりも低くなるよう管理されている、
請求項1に記載の物質検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、検出対象のガスに含まれる物質を感応膜に吸着させてその物質を検出するガスセンサと、洗浄ガスにより感応膜から物質を脱離させるリフレッシュを行うリフレッシュ機構と、を備えるガスセンサシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のガスセンサシステムでは、リフレッシュのために感応膜に供給される洗浄ガスの状態のばらつきにより、物質の検出の精度が不安定になるという不都合があった。
【0005】
本発明は、上記実情の下になされたものであり、物質の検出の精度を安定させることができる物質検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る物質検出システムは、
周囲の気体に含まれる対象物質の分子が付着した量に応じた信号を出力する物質センサと、
前記対象物質を含む第1気体を前記物質センサの周囲に供給する第1供給部と、
温度と、湿度と、含有物質の濃度とが一定に管理された第2気体を前記物質センサの周囲に供給する第2供給部と、
前記第1供給部による前記第1気体の供給を停止した状態で前記第2供給部により前記第2気体を供給し、前記物質センサの周囲の前記第2気体の状態が定常状態となった第1期間において前記物質センサから出力される信号を取得した後、前記第1供給部により前記物質センサの周囲への前記第1気体の供給を開始し、前記第1気体を供給した状態の第2期間において前記物質センサから出力される信号を取得し、前記第1期間で取得された信号と前記第2期間で取得された信号との変化に基づいて、前記物質センサに付着する対象物質の分子の量を算出する制御部と、
を備える。
【0007】
この場合、前記第2供給部は、前記物質センサの周囲に向けて前記第2気体を常時供給するように動作し、
前記第1供給部から供給される第1気体の流量は、前記第2供給部から供給される第2気体の流量よりも大きくなるように設定される、
こととしてもよい。
【0008】
前記制御部は、
前記第2供給部による前記第2気体の供給を停止するとともに前記第1供給部による前記第1気体の供給を開始し、前記第2期間における前記物質センサからの信号を取得する、
こととしてもよい。
【0009】
前記第1供給部から供給される第1気体と、前記第2供給部から供給される第2気体とのいずれかを前記物質センサの周囲に供給する第1継手を備える、
こととしてもよい。
【0010】
前記第2供給部と前記第1継手との間に設けられ、供給された前記第2気体を2つに分岐し、分岐した一方の前記第2気体を前記第1継手に供給する第2継手を備える、
こととしてもよい。
【0011】
前記第2気体が前記対象物質を含有する場合、
温度及び湿度を前記第1気体と同じとしたときの前記第2気体における前記対象物質の濃度は、前記第1気体における前記対象物質の濃度よりも低くなるよう管理されている、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、物質の検出の精度を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る物質検出システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1の制御部のハードウエア構成を示すブロック図である。
【
図3】
図1の制御部の物質検出処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図1の物質検出システムの動作を示すタイミングチャートである。
【
図5】本発明の実施の形態2に係る物質検出システムの構成を示すブロック図である。
【
図6】
図5の制御部の物質検出処理を示すフローチャートである。
【
図7】
図5の物質検出システムの動作を示すタイミングチャートである。
【
図8】(A)は、従来の物質検出システムの実験結果を示すグラフである。(B)は、本実施の形態に係る物質検出システムの実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。各図面においては、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。
【0015】
実施の形態1
まず、本発明の実施の形態1について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る物質検出システム1は、物質センサ10と、第1供給部11と、第2供給部12と、制御部13と、を備える。
【0016】
[物質センサ]
物質センサ10は、周囲の気体に含まれる対象物質OBの分子が付着した量に応じた信号を出力する。例えば、物質センサ10には、圧電素子が設けられた梁と、駆動電極と、検出電極とが設けられている。周期的に変化する駆動電圧信号が駆動電極に加えられると、駆動電圧信号の振幅に応じて圧電素子が伸縮し梁が振動する。検出電極で検出される検出電圧信号は、梁の振動に応じた信号となる。
【0017】
梁には対象物質OBが付着する感応膜が成膜されている。感応膜に対象物質OBが付着する前と付着した後とでは、梁の共振周波数が変化する。物質センサ10は、この共振周波数の変化に基づいて、対象物質OBの有無を検出する。その変化量は対象物質OBの付着量に応じて大きくなるため、感応膜に付着した対象物質OBを定量化することが可能である。
【0018】
このように、物質センサ10によって対象物質OBを検出するには、周囲の気体に対象物質OBが含まれている必要がある。
図1では、物質センサ10の周囲の領域を領域10aとして示している。領域10aに対象物質OBが存在する場合、その対象物質OBが物質センサ10の感応膜に付着し、対象物質OBが検出される。感応膜に付着した対象物質OBの量は、周囲の対象物質OBの濃度と相関関係があるため、検出された量から対象物質OBの濃度を推定することが可能となる。
【0019】
本実施の形態では、対象物質OBは、発生源20から揮発したものである。対象物質OBは、第1供給部11によって発生源20から物質センサ10の周囲に送られ、物質センサ10で検出される。対象物質OBとしては、例えばエタノールがあるが、これに限定されない。
【0020】
[第1供給部]
第1供給部11は、吸入口から吸い込んだ気体を排出口から排出するポンプである。第1供給部11の吸入口は、配管21を介して対象物質OBの発生源20と接続されている。一方、第1供給部11の排出口は、配管22、Y字継手14及び配管23を介して物質センサ10の周囲の領域10aと接続されている。第1供給部11は、配管21から対象物質OBを含む第1気体A1を吸入して、配管22、Y字継手14及び配管23を介して対象物質OBを含む第1気体A1を物質センサ10の周囲(領域10a)に供給する。
【0021】
第1供給部11によって供給される第1気体A1の流量は一定であるものとする。この流量は、数段階に調整可能であってもよい。
【0022】
[第2供給部]
第2供給部12は、気体を排出口から排出するポンプである。第2供給部12の排出口は、配管24、T字継手15、配管25、Y字継手14及び配管23を介して物質センサ10の周囲の領域10aと接続されている。
【0023】
第2供給部12は、温度と、湿度と、含有物質の濃度とが一定に管理された第2気体A2を物質センサ10の周囲に供給する。第2供給部12は、外気を吸入し、吸入した空気の温度、湿度を調整して排出する機能を有していてもよいし、温度と、湿度と、含有物質の濃度とが一定に管理された第2気体A2を吸入して排出するだけでもよい。この場合、第2供給部12の吸入口に、第2気体A2の温度と、湿度と、含有物質の濃度とを一定に調整する調整機構を備えるようにしてもよい。
【0024】
第2供給部12から供給される第2気体A2の流量は一定であるものとする。この流量は、数段階に調整可能であってもよい。
【0025】
[送管系]
上述のように、物質検出システム1は、Y字継手14と、T字継手15と、配管21,22,23,24,25,26と、を備える。対象物質OBを含む第1気体A1は、配管21、第1供給部11、配管22を経てY字継手14に送られる。一方、第2供給部12から排出される第2気体A2は、配管24、T字継手15、配管25を経て、Y字継手14に送られる。なお、配管22に逆止弁を設けて、第2気体A2が、第2供給部12から第1供給部11に流れないようにしてもよい。また、配管25に逆止弁を設けて、第1気体A1が、第1供給部11から第2供給部12に流れないようにしてもよい。
【0026】
本実施の形態では、第2供給部12は、物質検出システム1が動作中、物質センサ10の周囲の領域10aに向けて第2気体A2を常時供給するように動作する。一方、T字継手15は、配管24から供給される第2気体A2を、配管25を介してY字継手14に送る一方、配管26を介して外部に放出している。すなわち、T字継手15は、第2供給部12から供給される第2気体A2の一部を、Y字継手14に送らず外部に放出している。詳細には、T字継手15は、供給された第2気体A2を2つに分岐し、分岐した一方の第2気体A2をY字継手14に供給する。これにより、第1供給部11から供給される第1気体A1の流量と第2供給部12から供給される第2気体A2の流量とが同じであったとしても、実際に物質センサ10の周囲に送られる第2気体A2の流量は、第1気体A1の流量よりも少なくなる。すなわち、本実施の形態では、第1供給部11から供給される第1気体A1の流量は、第2供給部12から供給される第2気体A2の流量よりも大きくなるように設定される。この設定により、第2供給部12が物質センサ10の周囲に向けて第2気体A2を常時供給しつつも、第1供給部11からの第1気体A1の供給の有無を切り換えることにより、Y字継手14において、配管23を介して物質センサ10の周囲に送られる気体を、第1気体A1と第2気体A2とのいずれかに切り換えることができる。
【0027】
ここで、第1気体A1と第2気体A2とのいずれかに切り換えるとは、物質センサ10の周囲に送られる気体を、第1気体A1だけに切り換える、或いは、第2気体A2だけに切り換えることを表現するに留まらない。例えば、第1気体A1に切り換えるとは、物質センサ10の周囲に送られる第1気体A1を、第2気体A2よりも多い量にすることを含む表現であり、第2気体A2に切り換えるとは、物質センサ10の周囲に送られる第2気体A2を、第1気体A1よりも多い量にすることを含む表現である。すなわち、第1気体A1と第2気体A2とが混合された気体が物質センサ10の周囲に送られるのを排除するものではない。
【0028】
なお、T字継手15を用いずに、単に、第2供給部12から供給される第2気体A2の供給量を、第1気体A1の供給量より少なくするようにしてもよい。
【0029】
[制御部]
制御部13は、物質検出システム1の全体を統括制御する。具体的には、制御部13は、物質センサ10、第1供給部11及び第2供給部12を制御する。
【0030】
制御部13は、物質センサ10に検出指令信号を出力する。検出指令信号を入力すると、物質センサ10は、上述のように対象物質OBの検出を行ってその検出値を出力する。制御部13は、物質センサ10からの検出値を入力する。
【0031】
制御部13は、第1供給部11のオンオフが可能である。制御部13がオン信号を出力すれば第1供給部11が動作し、制御部13がオフ信号を出力すれば第1供給部11の動作が停止する。制御部13は、物質センサ10の初期化を行う場合、オフ信号を出力し、第1供給部11の動作を停止させる。これにより、物質センサ10への第1気体A1の供給が止まる。一方、物質センサ10で対象物質OBの検出を行う場合、制御部13は、オン信号を出力し、第1供給部11を動作させ、物質センサ10へ第1気体A1を供給させる。
【0032】
制御部13は、第2供給部12のオンオフが可能である。制御部13がオン信号を出力すれば第2供給部12が動作して物質センサ10の周囲に第2気体A2が供給され、制御部13がオフ信号を出力すれば第2供給部12の動作が停止し物質センサ10への第2気体A2の供給が止まる。物質検出システム1が動作する場合、制御部13は、第2供給部12を常にオン状態とする。これにより、物質センサ10の周囲に、第2気体A2が常に供給される状態となる。
【0033】
[制御部のハードウエア構成]
図1に示す物質検出システム1の制御部13は、例えば、
図2に示すハードウエア構成を有するコンピュータがソフトウエアプログラムを実現することにより実現される。具体的には、物質検出システム1は、装置全体の制御を司るCPU(Central Processing Unit)31と、CPU31の作業領域等として動作する主記憶部32と、CPU31の動作プログラム等を記憶する外部記憶部33と、操作部34と、表示部35と、入出力部36と、これらを接続する内部バス38と、を備える。
【0034】
主記憶部32は、RAM(Random Access Memory)等から構成されている。主記憶部32には、CPU31によって実行されるプログラム39が外部記憶部33からロードされる。また、主記憶部32は、CPU31の作業領域(データの一時記憶領域)としても用いられる。
【0035】
外部記憶部33は、フラッシュメモリ、ハードディスク等の不揮発性メモリから構成される。外部記憶部33には、CPU31に実行させるためのプログラム39が予め記憶されている。
【0036】
操作部34は、キーボード及びマウス等のデバイスと、これらのデバイスを内部バス38に接続するインターフェイス装置から構成されている。
【0037】
表示部35は、CRT(Cathode Ray Tube)、液晶モニタ等の表示用デバイスから構成される。
【0038】
入出力部36は、外部機器とのデータ送受信を行うインターフェイスである。入出力部36は、CPU31からの指令に従って、物質センサ10に検出指令信号を出力するとともに、物質センサ10からの検出信号を入力する。入力された検出信号は、主記憶部32又は外部記憶部33に記憶されるか、表示部35に表示される。また、入出力部36は、CPU31からの指令に従って、第1供給部11及び第2供給部12にオンオフ信号を出力する。これにより、第1供給部11による第1気体A1の供給と、第2供給部12による第2気体A2の供給とを制御することができる。
【0039】
制御部13の機能は、1以上のプロセッサ及び一時的でない記憶媒体を含む1以上の記憶装置を含む1以上のコンピュータからなる計算機システムに実装することができる。複数のコンピュータは、相互に接続された通信ネットワークを介して通信を行いつつ、制御部13の機能を実現する。例えば、制御部13の複数の機能の一部が1つのコンピュータに実装され、他の一部が他のコンピュータに実装されてもよい。
【0040】
[物質検出処理]
次に、物質検出システム1の動作について説明する。まず、制御部13によって実行される物質検出処理について説明する。
【0041】
図3に示すように、まず、制御部13は、検出開始の操作入力が操作部34に入力されるまで待つ(ステップS1;No)。検出開始の操作入力が操作部34に入力されると(ステップS1;Yes)、制御部13は、入出力部36を介して、第1供給部11にオフ信号を出力するとともに、第2供給部12にオン信号を出力する。これにより、第1供給部11は、第1気体A1の物質センサ10の周囲への供給を停止し、第2供給部12は、第2気体A2の物質センサ10の周囲への供給を開始する。
【0042】
制御部13は、第2供給部12にオン信号を出力してからリフレッシュ時間RTが経過するまで待つ(ステップS3;No)。リフレッシュ時間RTは、第2気体A2により、物質センサ10の感応膜に付着した対象物質OBを除去するのに要する時間である。
【0043】
リフレッシュ時間RTが経過すると(ステップS3;Yes)、制御部13は、検出終了の操作入力が操作部34に入力されたか否かを判定する(ステップS4)。検出終了の操作入力が入力されていない場合(ステップS4;No)、制御部13は、第1期間P1での測定、すなわち初期化を行う(ステップS5)。具体的には、制御部13は、入出力部36を介して、物質センサ10に今の状態での梁の共振周波数を検出させる。第1期間P1は、物質センサ10の梁を振動させてその共振周波数が得られる期間である。このとき検出された共振周波数が検出初期値となる。
【0044】
その後、制御部13は、入出力部36を介して、第1供給部11にオン信号を出力する(ステップS6)。これにより、第1供給部11は、第1気体A1の物質センサ10の周囲への供給を行う。この結果、Y字継手14では、第2気体A2より流量が大きい第1気体A1により、物質センサ10の周囲への第2気体A2の供給量が減少し、第2気体A2よりも多い量の第1気体A1が物質センサ10の周囲に供給されるようになる。T字継手15に流入した第2気体A2は、配管26のみから排出されるようになる。
【0045】
制御部13は、入出力部36を介して、第1供給部11にオン信号を出力し(ステップS6)、過渡期間MTが経過するまで待つ(ステップS7;No)。過渡期間MTは、第1供給部11がオンとなってから、物質センサ10の周囲に第1気体A1が測定可能になるまでの時間である。なお、検出対象によっては、ステップS7を行わない場合もある。
【0046】
過渡期間MTが経過すると(ステップS7;Yes)、制御部13は、第2期間P2での測定を行う(ステップS8)。具体的には、制御部13は、入出力部36を介して、物質センサ10に今の状態での梁の共振周波数を検出させる。制御部13は、このとき検出された共振周波数と、ステップS5で検出された共振周波数との差分を求め、その差分を、対象物質OBに固有の係数を乗算することにより、対象物質OBの量を検出する。検出された対象物質OBの量は、外部記憶部33に記憶されるとともに、表示部35に表示出力される。
【0047】
続いて、制御部13は、入出力部36を介して、第1供給部11にオフ信号を出力し(ステップS9)、ステップS3に戻る。この後、検出終了の操作入力が操作部34に入力されない間(ステップS4;No)、制御部13は、ステップS3~ステップS9を繰り返す。検出終了の操作入力が操作部34に入力されると(ステップS4;Yes)、制御部13は、第2供給部12にオフ信号を出力し(ステップS10)、処理を終了する。
【0048】
図4に示すように、測定処理では、リフレッシュ段階、初期化段階、測定段階の3つの段階が繰り返される。本実施の形態では、第2供給部12は常時オンとなっている。一方、リフレッシュ段階では、制御部13は、入出力部36を介して、第1供給部11にオフ信号を出力する。すると、物質センサ10の周囲は、第2気体A2で次第に満たされるようになる。この第2気体A2は、物質センサ10の感応膜に付着した対象物質OBを除去するとともに、物質センサ10の周囲にある対象物質OBをも除去する。
【0049】
第2供給部12にオン信号を出力してから、リフレッシュ時間RT経過後、物質センサ10の周囲の第2気体A2の状態が定常状態となっている。この状態で、制御部13は、リフレッシュ段階から初期化段階へ移行する。初期化段階において、制御部13は、第1期間P1における物質センサ10から出力される信号を取得する。これが初期化である。物質センサ10の周囲に充填された第2気体A2は、温度、湿度、含有物質が一定に管理された気体であるため、物質センサ10の周囲は、初期化において、常に同じ状態となる。
【0050】
初期化段階が終了すると、制御部13は、測定段階に移行する。測定段階では、制御部13は、第1供給部11にオン信号を出力する。これにより、第1供給部11は、第1気体A1の物質センサ10の周囲への供給を開始する。第1気体A1は、Y字継手14を介して物質センサ10に供給される。第1気体A1の流量は、第2気体A2の流量より大きいため、Y字継手14は、第2気体A2よりも多い量の第1気体A1を、物質センサ10の周囲に送るようになる。第2気体A2は、T字継手15から配管26を介して外部に放出される。
【0051】
第1供給部11にオン信号を出力すると、物質センサ10の周囲における第1気体A1の量が増加し始め、過渡期間MT経過後、物質センサ10の周囲における第1気体A1の量は、第2気体A2の量よりも多くなり、物質センサ10の測定が可能な量まで増加する。この状態で、制御部13は、第2期間P2において物質センサ10から出力される信号を取得し、第1期間P1で取得された信号と第2期間P2で取得された信号の変化に基づいて、物質センサ10に付着する対象物質OBの分子の量を算出する。
【0052】
測定段階を終了すると、制御部13は、リフレッシュ段階に移行する。このように、制御部13は、リフレッシュ段階、初期化段階、測定段階を繰り返すことにより、対象物質OBを繰り返し測定することが可能である。
【0053】
なお、
図3のフローチャートでは、検出終了の操作入力が操作部34に入力されるまで、対象物質OBの測定を繰り返し行うこととしている。しかしながら、これには限られない。リフレッシュ段階、初期化段階、測定段階の処理を1回ずつ行うようにしてもよい。この場合、測定段階の処理を行った後に、もう1回リフレッシュ段階の処理を行うようにしてもよい。
【0054】
実施の形態2
次に、本発明の実施の形態2について説明する。
図5に示すように、実施の形態2に係る物質検出システム1は、物質センサ10、第1供給部11、第2供給部12及び制御部13を備える点は、上記実施の形態1に係る物質検出システム1と同様である。
【0055】
本実施の形態に係る物質検出システム1は、Y字継手14、T字継手15、配管22、23、24、25、26を備えていない。第1供給部11と物質センサ10の周囲との間は配管27で接続され、第2供給部12と物質センサ10の周囲との間は配管28で接続されている。第1供給部11は、配管21を介して発生源20から対象物質OBを含む第1気体A1を吸入し、配管27を介して物質センサ10の周囲に供給する。第2供給部12は、第2気体A2を、配管28を介して物質センサ10の周囲に供給する。なお、配管27に逆止弁を設けて、第2気体A2が、第2供給部12から第1供給部11に流れないようにしてもよい。また、配管28に逆止弁を設けて、第1気体A1が、第1供給部11から第2供給部12に流れないようにしてもよい。
【0056】
制御部13が物質検出システム1の全体を統括制御する点は、上記実施の形態1と同じである。また、制御部13のハードウエア構成は、上記実施の形態1と同じである(
図2参照)。
【0057】
図6に示すように、本実施の形態に係る制御部13の処理は、ステップS6に代わるステップS6’で、第2供給部12にオフ信号を出力し、ステップS9に代わるステップS9’で、第2供給部12にオン信号を出力する他は、上記実施の形態1と同じである。
【0058】
すなわち、
図7に示すように、制御部13は、リフレッシュ段階、初期化段階、測定段階を繰り返しながら測定を行う点は、上記実施の形態1と同じである。上記実施の形態1と異なる点は、測定段階では、第2供給部12がオフとなり、第2気体A2の物質センサ10への供給を停止する点である。本実施の形態では、第1供給部11がオンになる場合、第2供給部12がオフとなり、第1供給部11がオフとなる場合、第2供給部12がオンとなる。すなわち、本実施の形態では、制御部13は、第1供給部11による第1気体A1の供給を停止するとともに第2供給部12による第2気体A2の供給を開始し、第1期間P1における物質センサ10からの信号を取得する。また、制御部13は、第1供給部11による第1気体A1の供給を開始するとともに第2供給部12による第2気体A2の供給を停止し、第2期間P2における物質センサ10からの信号を取得する。
【0059】
[実験例]
感応膜として40種類用いて従来の物質検出システムと本実施の形態に係る物質検出システム1との比較実験を行った。従来の物質検出システムとしては、初期化段階において物質センサ10の周囲を第2気体A2でリフレッシュしていないものを用いた。
【0060】
同じ対象物質OBの10回、20回、50回繰返し測定を1セットとして、1日1セットで計5セット(5日間の)測定を行った。10回、20回、50回測定した場合の対象物質OBの量の平均値を縦軸とし、10回、20回、50回測定したときの対象物質OBの量の標準偏差を横軸として、散布図を作成した(
図8(A)及び
図8(B))。
【0061】
図8(A)は、従来の物質検出システムで50回測定を行ったときの測定結果を示す散布図であり、
図8(B)は、本実施の形態に係る物質検出システム1で50回測定を行ったときの測定結果を示す散布図である。
図8(A)と
図8(B)とを比較するとわかるように、従来の物質検出システムと本実施の形態に係る物質検出システム1とでは、対象物質OBの量の平均値の分布状態は同じである。一方、本実施の形態に係る物質検出システム1の方が、従来の物質検出システムよりも、対象物質OBの量の標準偏差が小さい領域に測定結果の分布が集中しており、測定結果のばらつきが小さくなっている。これは、本実施の形態に係る物質検出システム1では、初期化段階において、温度、湿度、含有物質の濃度が一定に管理した第2気体A2で、物質センサ10の周囲が常に均一な状態に初期化されているためである。
【0062】
以上詳細に説明したように、上記実施の形態に係る物質検出システム1によれば、物質センサ10の周囲の温度、湿度、含有物質の状態を常に一定の状態として物質センサ10の検出値の基準となる初期検出値を取得することができるので、物質の検出の精度を安定させることができる。
【0063】
上記実施の形態1に係る物質検出システム1では、第2供給部12は、物質センサ10の周囲に第2気体A2を常時供給している。また、第1供給部11から供給される第1気体A1の流量は、第2供給部12から供給される第2気体A2の流量よりも大きくなるように設定される。このようにしても、物質センサ10の周囲に供給される気体を、第1気体A1と第2気体A2とに切り換えることができる。より詳細には、物質センサ10の周囲に供給される気体を、第2気体A2よりも多い量の第1気体A1としたり、第1気体A1よりも多い量の第2気体A2としたりすることができる。この場合、第2供給部12については、検出中、制御部13によって制御する必要はなく、制御部13で実行されるプログラムを必要以上に複雑化しないようにすることができる。
【0064】
上記実施の形態2に係る物質検出システム1では、制御部13は、第2供給部12による第2気体A2の供給を停止するとともに第1供給部11による第1気体A1の供給を開始し、第2期間P2における物質センサ10からの信号を取得する。このようにすれば、第2期間P2における対象物質OBの濃度を低下させないようにすることができる。
【0065】
上記実施の形態1に係る物質検出システム1では、第1供給部11から供給される第1気体A1と、第2供給部12から供給される第2気体A2とのいずれかを物質センサ10の周囲に供給するY字継手14を備える。このようにすれば、例えば、Y字継手14の排出口と物質センサ10の感応膜に相対する位置に配置することにより、第1気体A1に含まれる対象物質OBを感応膜に付着させやすくすることができるうえ、第2気体A2で、感応膜に付着した対象物質OBを除去し易くなる。
【0066】
上記実施の形態1に係る物質検出システム1では、Y字継手14は、第1気体A1よりも第2気体A2の量を多くすることで、物質センサ10の周囲に供給する気体を第1気体A1に切り換え、第2気体A2よりも第1気体A1の量を多くすることで、物質センサ10の周囲に供給する気体を第2気体A2に切り換えたが、これに限られるものではない。Y字継手14の内部に、遠隔操作が可能であり、且つ、2つの流路のうちの一方を塞ぐことが可能な電磁弁を設ける。この電磁弁の操作を受け、Y字継手14は、第1供給部11から供給される第1気体A1と、第2供給部12から供給される第2気体A2とのいずれかを物質センサ10の周囲に供給してもよい。この構成において、Y字継手14は、物質センサ10の周囲に第1気体A1を供給する場合には、第2気体A2が流れる流路を電磁弁で塞ぎ、物質センサ10の周囲に第2気体A2を供給する場合には、第1気体A1が流れる流路を電磁弁で塞ぐ。
【0067】
上記実施の形態1に係る物質検出システム1では、第2供給部12とY字継手14との間に設けられ、供給された第2気体A2を2つに分岐し、分岐した一方の第2気体A2をY字継手14に供給するT字継手15を備えるものとしている。このようにすれば、第2気体A2が常時流れている状態でも、物質センサ10の周囲に第1気体A1が供給される場合、他の排出口から第2気体A2を排出することができる。
【0068】
なお、上記実施の形態では、感応膜及び物質センサ10の周囲のリフレッシュに用いられた第2気体A2が対象物質OBを含有しないものとしている。しかしながら、これには限られない。第2気体A2が対象物質OBを含有している場合、温度及び湿度を第1気体A1と同じとしたときの第2気体A2における対象物質OBの濃度は、第1気体A1における対象物質OBの濃度よりも低くなるよう管理されている必要がある。
【0069】
制御部13のハードウエア構成やソフトウエア構成は一例であり、任意に変更および修正が可能である。
【0070】
CPU31、主記憶部32、外部記憶部33、操作部34、表示部35、入出力部36及び内部バス38などから構成される制御部13の処理を行う中心となる部分は、専用のシステムによらず、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。例えば、前記の動作を実行するためのコンピュータプログラムを、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM等)に格納して配布し、当該コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、前記の処理を実行する制御部13を構成してもよい。また、インターネット等の通信ネットワーク上のサーバ装置が有する記憶装置に当該コンピュータプログラムを格納しておき、通常のコンピュータシステムがダウンロード等することで制御部13を構成してもよい。
【0071】
制御部13の機能を、OS(オペレーティングシステム)とアプリケーションプログラムの分担、またはOSとアプリケーションプログラムとの協働により実現する場合などには、アプリケーションプログラム部分のみを記録媒体や記憶装置に格納してもよい。
【0072】
搬送波にコンピュータプログラムを重畳し、通信ネットワークを介して配信することも可能である。たとえば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS, Bulletin Board System)にコンピュータプログラムを掲示し、ネットワークを介してコンピュータプログラムを配信してもよい。そして、このコンピュータプログラムを起動し、OSの制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、前記の処理を実行できるように構成してもよい。
【0073】
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、気体に含まれる対象物質の検出又は定量化に適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 物質検出システム、10 物質センサ、10a 領域、11 第1供給部、12 第2供給部、13 制御部、14 Y字継手(第1継手)、15 T字継手(第2継手)、20 発生源、21,22,23,24,25,26,27,28 配管、31 CPU、32 主記憶部、33 外部記憶部、34 操作部、35 表示部、36 入出力部、38 内部バス、39 プログラム、A1 第1気体、A2 第2気体、OB 対象物質