IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 静岡県公立大学法人の特許一覧 ▶ 株式会社らいむの特許一覧

特開2024-58444化合物またはその塩、COMT阻害剤およびその製造方法
<>
  • 特開-化合物またはその塩、COMT阻害剤およびその製造方法 図1
  • 特開-化合物またはその塩、COMT阻害剤およびその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058444
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】化合物またはその塩、COMT阻害剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 17/075 20060101AFI20240418BHJP
   A61K 36/00 20060101ALI20240418BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240418BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20240418BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240418BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
C07H17/075
A61K36/00
A61P43/00 111
A61K31/198
A61P25/16
A61K31/7048
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165802
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】500523087
【氏名又は名称】株式会社らいむ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 茂則
(72)【発明者】
【氏名】宮田 椋
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 千絵
(72)【発明者】
【氏名】若山 祥夫
【テーマコード(参考)】
4C057
4C086
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4C057BB02
4C057DD03
4C057KK08
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA11
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZC41
4C086ZC75
4C088AA20
4C088AC03
4C088CA06
4C088CA09
4C088CA14
4C088MA02
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZA02
4C088ZC41
4C088ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA04
4C206FA56
4C206KA01
4C206KA17
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】新規なCOMT阻害剤を提供すること。
【解決手段】本発明のCOMT阻害剤は、下記式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩。
【化1】
【請求項2】
前記式(1)で表される化合物がビーポーレン由来の化合物である、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を含有するCOMT阻害剤。
【請求項4】
前記化合物を含有するCOMT阻害剤。
【請求項5】
請求項3に記載のCOMT阻害剤とL-DOPAを含む、パーキンソン病治療医薬組成物。
【請求項6】
請求項3に記載のCOMT阻害剤の製造方法であって、
前記化合物をビーポーレンから単離する工程を含む、COMT阻害剤の製造方法。
【請求項7】
ビーポーレンのエタノール抽出物を、水とクロロホルムで分液する工程と、
前記工程で得たクロロホルム画分から前記化合物を逆相クロマトグラフィーにて単離する工程を含む、請求項6に記載のCOMT阻害剤の製造方法。
【請求項8】
前記逆相クロマトグラフィーで用いる溶離液が、水とアセトニトリルの混合溶媒である、請求項7に記載のCOMT阻害剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、COMT阻害剤として有用な化合物またはその塩、および、COMT阻害剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病治療の柱となる医薬としてL-DOPA(L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)が知られている。L-DOPAは脳内でドパミンに変化して、不足しているドパミンを補うことにより抗パーキンソン病効果を発揮するものである。しかし、血中のL-DOPAは脳内に入る前に酵素によって代謝され、不活化してしまうものがあり、その分治療効果が減弱してしまう。そのため、現在のパーキンソン病治療においては、L-DOPAと、その代謝酵素の活性を阻害する薬剤を併用して、L-DOPAが脳内で効果的に働くようにした処方が採用されている。ここで、L-DOPAの代謝酵素には、DOPA脱炭酸酵素(DDC)やカテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)などがあり、このうちCOMTの活性を阻害する薬剤として、トルカポン、エンタカポン、オピカポンなどの3-ニトロカテコール(NCA)骨格を有する化合物(NCA化合物)が開発されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Silva, T.B,et al., 2020. Drug Discov. Today 25, 1846-1854.
【非特許文献2】Olanow, C.W., 2000. Arch. Neurol. 57, 263-267.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、NCA化合物は、ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化反応の脱共役剤として作用してエネルギー転移系(ADPと無機リン酸からATPを生成するリン酸化反応)を妨げることが知られており、これによる熱産生、酸素消費量の増加、体温上昇、呼吸数及び心拍数の増加などの副作用が懸念される。特に、トルカポンは、こうした脱共役作用により肝毒性を発現することが確認されており、臨床現場では、制限された条件でのみ使用が認められている(例えば、非特許文献2参照)。こうした状況から、パーキンソン病治療をより安全に行うため、NCA化合物以外のCOMT阻害剤の開発が求められている。
【0005】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、新規なCOMT阻害剤を提供することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、特定の構造を有するフラボノイド配糖体が高いCOMT阻害作用を示し、COMT阻害剤として有用性が高いことを見出した。本発明は、こうした知見に基づいて提案されたものであり、具体的に以下の構成を有する。
【0007】
[1] 下記式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩。
【化1】
[2] 前記式(1)で表される化合物がビーポーレン由来の化合物である、[1]に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
[3] [1]に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を含有するCOMT阻害剤。
[4] 前記化合物を含有するCOMT阻害剤。
[5] [3]に記載のCOMT阻害剤とL-DOPAを含む、パーキンソン病治療医薬組成物。
[6] [3]に記載のCOMT阻害剤の製造方法であって、
前記化合物をビーポーレンから単離する工程を含む、COMT阻害剤の製造方法。
[7] ビーポーレンのエタノール抽出物を、水とクロロホルムで分液する工程と、前記工程で分離したクロロホルム画分から逆相クロマトグラフィーを用いて前記化合物を単離する工程を含む、[6]に記載のCOMT阻害剤の製造方法。
[8] 前記逆相クロマトグラフィーで用いる溶離液が、水とアセトニトリルの混合溶媒である、[7]に記載のCOMT阻害剤の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の化合物およびその塩は、高いCOMT阻害活性を示す。また、本発明の化合物は、健康食品素材であるビーポーレンにも含まれるフラボノイド配糖体であることから安全性が高い。そのため、本発明の化合物およびその塩はCOMT阻害剤として有用であり、このものをCOMT阻害剤の有効成分として用いることにより、COMT阻害効果が高く安全なCOMT阻害剤を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ビーポーレンから単離した式(1)で表される化合物のH NMRスペクトルである。
図2】ビーポーレンから単離した式(1)で表される化合物の13C NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
[COMT阻害剤]
本発明のCOMT阻害剤は、下記式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を含有するものである。
【0012】
【化2】
【0013】
本発明における「COMT阻害剤」は、カテコールアミン類のO-メチル化反応を触媒するカテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)の活性を阻害する作用を示す剤を意味する。阻害対象のCOMTは、ドパミン、アドレナリン、ノルアドレナリンなどの生体成分であるカテコールアミン類を基質とするものであってもよいし、L-DOPA(L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)などの、生体外から投与されたカテコールアミン類(例えば薬剤としてのカテコールアミン類)を基質とするものであってもよい。本発明で用いる式(1)で表される化合物またはその塩を、COMTとその反応基質(カテコールアミン類)が存在する反応系に添加すると、COMTが触媒するカテコールアミン類のO-メチル化反応(不活性化)が効果的に阻害される。また、式(1)で表される化合物は、従来から健康食品素材として使用されているビーポーレン(蜂花粉)にも含まれているフラボノイド配糖体であることから、安全性が高い。そのため、式(1)で表される化合物およびその塩は、COMT阻害剤として有用性が高い。
このように、本発明のCOMT阻害剤は、COMTが触媒するカテコールアミン類のO-メチル化反応を阻害するため、例えば、パーキンソン病治療のためのL-DOPAと併用して投与すると、血中でのL-DOPAのO-メチル化による不活性化が抑えられ、投与したL-DOPAが効率よく脳内に移行してドパミンに変化する。これにより、脳内で不足しているドパミンが補われてパーキンソン病の症状を効果的に軽減することができる。そのため、本発明のCOMT阻害剤とL-DOPAを含む組成物は、パーキンソン病治療医薬として有用である。また、本発明のCOMT阻害剤は、COMTによるカテコールアミン類の不活性化が一因となる疾病、例えばうつ病や統合失調症、認知機能障害および運動機能障害の予防または治療にも効果的に用いることができる。
【0014】
本発明で用いる式(1)で表される化合物およびその塩は、天然物から単離した天然成分であってもよいし、天然成分の構造の一部を他の原子や原子団で置換した誘導体であってもよいし、合成品であってもよい。このうち、本発明のCOMT阻害剤には、ビーポーレン(Bee Pollen)から単離した、式(1)で表される化合物またはその塩を好ましく用いることができる。ビーポーレンは、ミツバチが花粉を採集して固めた花粉荷と称されるものであり、酵素等のミツバチ由来の成分を含んでいてもよい。ビーポーレンの産地やその花粉が由来する植物の種類は特に限定されないが、タイ産のビーポーレンを原料に用いることが好ましい。
ここで、ビーポーレンは、各種のたんぱく質、ビタミン類、アミノ酸類、ミネラル類等の栄養素を豊富に含み、従来から健康食品素材として使用されている。しかし、本発明者らが、そのビーポーレンの抽出物を分離して構造解析を行い、その生物活性を評価したところ、ビーポーレンにはクマロイル構造(p-クマル酸から水酸基を除いた一価の基)を含む複数種の化合物も含まれており、中でも、式(1)で表される化合物(クマロイル構造を有するフラボノイド配糖体)が際立って高いCOMT阻害作用を示し、COMT阻害剤として適することを新たに見出したものである。
【0015】
本発明でCOMT阻害剤に用いる化合物は、上記の式(1)で表される化合物であってもよいし、その塩であってもよい。また、式(1)で表される化合物とその塩を組み合わせてCOMT阻害剤に用いてもよい。一般式(1)で表される化合物の塩は、薬理学上許容される塩であれば特に制限されず、例えば無機塩基、有機塩基、無機酸、有機酸との塩およびアミノ酸との塩等を挙げることができる。
【0016】
無機塩基との塩の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
有機塩基との塩の例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンとの塩、モルホリン、ピペリジン等の複素環式アミンとの塩等が挙げられる。
無機酸との塩の例としては、ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等)、硫酸、硝酸、リン酸等との塩等が挙げられる。
有機酸との塩の例としては、ギ酸、酢酸、プロパン酸等のモノカルボン酸との塩、シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、コハク酸等の飽和ジカルボン酸との塩、マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸との塩;クエン酸等のトリカルボン酸との塩、α?ケトグルタル酸等のケト酸との塩等が挙げられる。
アミノ酸との塩の例としては、グリシン、アラニン等の脂肪族アミノ酸との塩、チロシン等の芳香族アミノ酸との塩、アルギニン等の塩基性アミノ酸との塩、アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸との塩、ピログルタミン酸等のラクタムを形成したアミノ酸との塩等が挙げられる。
また、上記した塩は、それぞれ水和物(含水塩)であってもよい。
【0017】
また、本発明のCOMT阻害剤は、式(1)で表される化合物またはその塩のみを含んでいてもよいし、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分は、COMT阻害剤の剤形に応じて適宜選択することができる。
【0018】
本発明のCOMT阻害剤は、例えば医薬製剤として使用することができる。医薬製剤の形態は、内服剤であってもよいし、坐剤や注射液剤のような非経口剤であってもよい。内服剤の剤形として、例えば粉末状や顆粒状の製剤、錠剤、コーティング錠剤、糖衣錠、硬ゼラチンカプセル剤及び軟ゼラチンカプセル剤、液剤、乳剤、懸濁剤を挙げることができる。
【0019】
内服剤としてのCOMT阻害剤は、賦形剤として乳糖、トウモロコシデンプンまたはその誘導体、タルク、ステアリン酸またはその塩等を含んでいてもよい。軟ゼラチンカプセル剤は、植物油、ロウ、脂肪、半固体または液体のポリオール類等を担体として含んでいてもよく、液剤およびシロップ剤は、水、ポリオール類、グリセリン、植物油等を担体として含んでいてもよい。また、坐剤は、天然油や硬化油、ロウ、脂肪、半液体または液体のポリオール類等を担体として含んでいてもよい。
【0020】
これらの製剤は、さらに、保存料、可溶化剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、甘味料、着色料、香味料、浸透圧を変化させるための塩、緩衝剤、マスキング剤、酸化防止剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0021】
本発明のCOMT阻害剤の投与量は、阻害対象となるCOMTの基質、投与対象者の症状や重篤度、本剤の剤形に応じて適宜選択することができる。
【0022】
[式(1)で表される化合物およびその塩]
式(1)で表される化合物およびその塩は新規化合物である。式(1)で表される化合物は、例えばビーポーレンから単離することで得ることができる。式(1)で表される化合物をビーポーレンから単離する方法については、下記の[COMT阻害剤の製造方法]の欄の記載を参照することができる。
【0023】
[COMT阻害剤の製造方法]
本発明のCOMT阻害剤の製造方法は、式(1)で表される化合物をビーポーレンから単離する工程を含む。式(1)で表される化合物のビーポーレンからの単離は、ビーポーレンのエタノール抽出物を得る抽出工程と、エタノール抽出物を水とクロロホルムで分液する分液工程と、分液工程で得たクロロホルム画分から式(1)で表される化合物を逆相クロマトグラフィーにて単離する単離工程を用いて行うことができる。以下において、各工程について説明する。
【0024】
抽出工程では、ビーポーレンのエタノール抽出液を濃縮することにより、エタノール抽出物を得る。
ビーポーレンのエタノール抽出は、ビーポーレンをエタノール中に浸漬することにより行うことができる。ここで、ビーポーレンは、採取したものをそのままエタノールに浸漬してもよいが、乾燥、粉砕、すり潰し等の前処理を行ったものをエタノールに浸漬することが好ましい。これにより、ビーポーレンの成分が効率よく抽出されて、式(1)で表される化合物の回収率を上げることができる。
抽出に用いるエタノールは、水-エタノールの混合溶媒(エタノール水溶液)であることが好ましい。エタノール水溶液の濃度は、容量比で20%以上であり、好ましくは50%以上である。また、エタノール水溶液の濃度は、容量比で95%以下であり、好ましくは90%以下である。例えば20~95%、好ましくは50~95%、特に好ましくは70%のエタノール水溶液を用いることができる。
抽出温度は、5~50℃の範囲内から選択してもよく、10~40℃の範囲内から選択してもよく、常温であってもよい。
抽出時間は、抽出温度によっても異なるが、例えば3~24時間とすることができる。
得られたエタノール抽出液は、ろ過して固体を取り除いた後に濃縮に供するのが好ましい。また、エタノール抽出液の濃縮は、減圧下で行うことが好ましい。
【0025】
分液工程では、抽出工程で得たエタノール抽出物に、水とクロロホルムを加えて分液操作を行う。このとき、式(1)で表される化合物はクロロホルムに溶解し、水溶性画分と分離される。このクロロホルム画分からクロロホルムを揮発除去することにより、粗生成物であるクロロホルム抽出物を得る。
【0026】
単離工程では、クロロホルム抽出物に含まれる成分を、逆相クロマトグラフィーにて分離し、目的の式(1)で表される化合物を単離する。この工程は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて行うことが好ましい。ここで、逆相カラムには、例えば炭素数が30のトリアコンチル基で化学修飾したシリカゲルカラムを用いることができる。逆相カラムの市販品として、野村化学社製のDevelosil RPAQUEOUS(C30)を挙げることができる。溶離液には、水とアセトニトリルの混合溶媒を用いることができる。この混合溶媒のアセトニトリルの濃度は、例えば50%以上である。また、この混合溶媒のアセトニトリルの濃度は、全量に対する容量比で95%以下であり、例えば90%以下である。例えば20~95%、好ましくは50~95%、特に好ましくは60~80%のアセトニトリルを含む混合溶媒を溶離液として用いることができる。
【実施例0027】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0028】
[式(1)で表される化合物のビーポーレンからの単離]
タイのチェンマイ近郊で採取したタイ産ビーポーレンを乳鉢ですり潰し、そのうちの200gに70%エタノール(1L)を加え、室温で一晩撹拌してエタノール抽出液を得た。このエタノール抽出液をろ過して固体を取り除いた後、減圧下で濃縮してエタノール抽出物(87g)を得た。このエタノール抽出物を水(500mL)とクロロホルム(1500mL)を用いて分液し、そのクロロホルム画分からクロロホルムを揮発除去してクロロホルム抽出物(8.4g)を得た。得られたクロロホルム抽出物(5.6g)を、下記条件1の分取高速液体クロマトグラフィーにて分離し、その10本目のフラクションを、下記条件2の分取高速液体クロマトグラフィーにて単離精製することにより、特定のフラボノイド配糖体の黄色粉末を収率2.2mgで得た。
<条件1>
カラム : 野村化学社製:Develosil RPAQUEOUS(C30)(20×250 mm)
溶離液 : 水:アセトニトリル=67:33の混合溶媒(0.1%トリフルオロ酢酸添加)
流速 : 10mL/分
検出波長: 254nm
<条件2>
カラム : 野村化学社製:Develosil RPAQUEOUS(C30)(10×250 mm)
溶離液 : 水:アセトニトリル=73:27混合溶媒(0.1%トリフルオロ酢酸添加)
流速 : 4.5mL/分
検出波長: 280nm
【0029】
単離したフラボノイド配糖体について、NMR分析と質量分析を行って構造解析を行った結果、このフラボノイド配糖体が式(1)で表される化合物であることが確認された。また、単離したフラボノイド配糖体のH NMRスペクトルを図1に示し、13C NMRスペクトルを図2に示す。マススペクトルでのm/zは625.1543[M+H]であった。
【0030】
上記のようにして単離した式(1)で表される化合物を、ジメチルスルホキシドに溶解して溶液(10mM)を調製した。この溶液をアッセイ緩衝液(1.5mM塩化マグネシウムMgClを含む50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5))で希釈して各種濃度の測定サンプルを調製し、以下のCOMT阻害活性試験によりCOMT阻害率が50%となる濃度IC50を測定した。
また、上記のエタノール抽出物から下記の比較化合物1~4も単離した。そして、比較化合物1~4について、式(1)で表される化合物と同様にCOMT阻害活性試験を行い、IC50を測定した。これらの結果を下記表1に示す。
【0031】
【化3】
【0032】
[COMT阻害活性試験]
COMT阻害活性試験は、Wang, D.D,et al., 2017. Chem. Eur. J. 23, 10800-10807.に記載された方法を応用して、大腸菌で生産させた組み換えヒトCOMTによる3-BTD(3-(ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)-7,8-ジヒドロキシ-2H-クロメン-2-オン)のO-メチル化反応を用いて行った。
具体的には、塩化マグネシウムMgCl(1.5mM)、COMT(1μM)、S-アデノシルメチオニンSAM(200μM)および測定サンプル(対象化合物の濃度:0~200μM)を含む50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)を試験液として調製し、96穴マイクロタイタープレートに分注して、37℃で10分間インキュベートした。この試験液に、3-BTDを終濃度20μM(合計容量:150μL)で添加し、37℃で4分間インキュベートして反応させ、3%過塩素酸水溶液(30μL)を加えて反応を停止した。
反応生成物(メチル化体)である3-BTDM(3-(ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)-7-ヒドロキシ-8-メトキシ-2H-クロメン-2-オン)を検出するため、390nm励起光を反応液に照射して510nmの蛍光強度を測定し、下記式にて測定サンプルのCOMT阻害率を算出した。下記式において、「対照試験における蛍光強度」は、対象化合物を含まない試験液について測定した蛍光強度であり、「サンプル試験における蛍光強度」は、対象化合物を含む試験液について測定した蛍光強度である。
COMT阻害率(%)=[(対照試験における蛍光強度)-(サンプル試験における蛍光強度)]×100/(対照試験における蛍光強度)
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示すように、式(1)で表される化合物のIC50は21μMと低く、ビーポーレンの他の成分に比べて強いCOMT阻害活性を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のCOMT阻害剤に用いる式(1)で表される化合物またはその塩は、高いCOMT阻害活性を示す。また、式(1)で表される化合物は、健康食品であるビーポーレンにも含まれるフラボノイド配糖体であることから、安全性が高い。そのため、本発明によれば、COMT阻害作用が高く、且つ、安全なCOMT阻害剤を提供することができる。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
図1
図2