(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058482
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】加飾成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165881
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(72)【発明者】
【氏名】弘津 壮一郎
(72)【発明者】
【氏名】中山 勝壽
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AD01
4F206AD05
4F206AD08
4F206AD10
4F206AD20
4F206AF10
4F206AF16
4F206AG03
4F206AM32
4F206AR04
4F206AR06
4F206JA07
4F206JB12
4F206JB19
4F206JF05
4F206JL02
4F206JM02
4F206JM04
4F206JN14
4F206JN32
(57)【要約】 (修正有)
【課題】成形同時加飾法によって得られる加飾成形品に箔バリが生じにくい、加飾成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】基体シート21に、感圧接着剤及び30℃以上70℃以下の融点を持つ側鎖結晶性ポリマーを含み、融点以上で感圧接着剤の接着力が低下する離型層22と、転写層23とが順に積層された転写シート2を準備する工程と、金型4のキャビティ面41aに沿って、基体シートがキャビティ面側になるように転写シートを配置する工程と、金型を型締めする工程と、金型は融点未満の温度であり、キャビティ内に溶融樹脂Rを射出して射出成形体3を成形すると同時に、転写シートの転写領域23aを溶融樹脂の熱により融点以上の温度に加熱して、射出成形体の第1面に転写シートを固着する工程と、金型を型開きする工程と、射出成形体から基体シートを剥離することにより、射出成形体の第1面に転写層が転写された射出成形体を取り出す工程とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体シートに、感圧接着剤及び30℃以上70℃以下の融点を持つ側鎖結晶性ポリマーを含み、前記融点以上の温度で前記感圧接着剤の接着力が低下する離型層と、転写層とが順に積層された転写シートを準備する工程と、
射出成形体の第1面に対応するキャビティ面が形成された第1型と、型締めによって前記第1型との間にキャビティを形成する第2型と、を有する金型の前記キャビティ面に沿って、前記基体シートが前記キャビティ面側になるように、前記転写シートを配置する工程と、
前記金型を型締めする工程と、
前記金型は前記融点未満の温度であり、前記キャビティ内に溶融樹脂を射出して前記射出成形体を成形すると同時に、前記転写シートの転写領域を前記溶融樹脂の熱により前記融点以上の温度に加熱して、前記射出成形体の前記第1面に前記転写シートを固着する工程と、
前記金型を型開きする工程と、
前記射出成形体から前記基体シートを剥離することにより、前記射出成形体の前記第1面に前記転写層が転写された前記射出成形体を取り出す工程とを備えた、加飾成形品の製造方法。
【請求項2】
前記融点未満の温度における、前記離型層と前記転写層との剥離強度FLowが0.3N/20mm以上であり、
前記融点以上の温度における、前記離型層と前記転写層との剥離強度FHighが0N/20mm<FHigh<FLowである、請求項1に記載の加飾成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形体を成形すると同時に、射出成形体の表面に転写シートの転写層を転写する成形同時加飾法が知られている。転写シートは、転写シートの状態では離型層と転写層とがしっかり密着しており、射出成形後には転写領域の転写層が離型層から容易に剥離することが理想的である。しかし、離型層と転写層との密着力が弱い場合は、いわゆる箔バリという不具合が生じる。箔バリとは、射出成形後に射出成形体を基体シートから剥離する際に、転写層の転写領域と非転写領域との境界を起点とし、その境界から非転写領域側にはみ出すように転写層が剥離されてしまう現象である。
【0003】
箔バリの発生を抑制する手段として、例えば特許文献1には、基体シートの上に、アルキルペンダント系樹脂を含む離型層と、転写層とが順に積層された熱転写シートが開示されている。この熱転写シートは、アルキルペンダント系樹脂の融点以上の温度の熱が加わることによって転写層の転写性が向上し、箔バリの発生を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の転写方法は、ラミネータを用いて熱転写シート全体を均一に加熱する熱転写法であり、成形同時加飾法に用いることは想定していない。成形同時加飾法では、金型に配置された転写シートの転写領域には高温の溶融樹脂が接し、非転写領域には溶融樹脂よりも低い温度の金型が接する。つまり、成形同時加飾法は、熱転写法とは異なり、転写層の転写時に、転写領域と非転写領域との間に温度差が生じる製造方法である。そのため、特許文献1のような熱転写シートを、そのまま成形同時加飾法に適用することは困難である。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、成形同時加飾法によって得られる加飾成形品に箔バリが生じにくい、加飾成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための第1の発明は、
基体シートに、感圧接着剤及び30℃以上70℃以下の融点を持つ側鎖結晶性ポリマーを含み、融点以上の温度で感圧接着剤の接着力が低下する離型層と、転写層とが順に積層された転写シートを準備する工程と、
射出成形体の第1面に対応するキャビティ面が形成された第1型と、型締めによって第1型との間にキャビティを形成する第2型と、を有する金型のキャビティ面に沿って、基体シートがキャビティ面側になるように、転写シートを配置する工程と、
金型を型締めする工程と、
金型は融点未満の温度であり、キャビティ内に溶融樹脂を射出して射出成形体を成形すると同時に、転写シートの転写領域を溶融樹脂の熱により融点以上の温度に加熱して、射出成形体の第1面に転写シートを固着する工程と、
金型を型開きする工程と、
射出成形体から基体シートを剥離することにより、射出成形体の第1面に転写層が転写された射出成形体を取り出す工程とを備えた、加飾成形品の製造方法である。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、融点未満の温度における、離型層と転写層との剥離強度FLowが0.3N/20mm以上であり、
融点以上の温度における、離型層と転写層との剥離強度FHighが0N/20mm<FHigh<FLowである、加飾成形品の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の加飾成形品の製造方法によれば、成形同時加飾法によって得られる加飾成形品に箔バリが生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】加飾成形品の製造方法の一実施形態を示す模式的な断面図。
【
図2】加飾成形品の一実施形態を示す模式的な斜視図。
【
図3】転写シートの第1型への配置状態を示す模式的な平面図。
【
図4】融点が60℃の離型層を有する転写シートを用いて測定した、各温度における剥離強度を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を参照して、加飾成形品1の製造方法は、転写シート2を準備する工程と(
図1(a))、転写シート2を金型4に配置する工程と(
図1(b))、金型4を型締めする工程と(
図1(c))、射出成形体3を成形する工程と(
図1(d))、金型4を型開きする工程と(
図1(e))、転写層23が転写された射出成形体3を取り出す工程(
図1(f))とを備えている。
図2を参照して、加飾成形品1は、射出成形体3の第1面3aに転写層23が転写されたものである。射出成形体3と転写層23との界面が、射出成形体3の第1面3aである。射出成形体3の第2面3bは、第1面3aに対向する面であり、射出成形体3の裏面に当たる面である。第2面3bは、凹部3b-1と平坦部3b-2とを含む。
【0012】
(準備工程)
図1(a)を参照して、転写シート2を準備する。転写シート2は、基体シート21に、離型層22と転写層23とが順に積層されたものである。
基体シート21は、転写層23を射出成形体3に転写した後に、射出成形体3から剥離する。基体シート21の材料は、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS系樹脂等の熱可塑性樹脂及びこれらの積層品が挙げられる。
【0013】
離型層22は、射出成形後に基体シート21とともに射出成形体3から剥離される。離型層22は、感圧接着剤と側鎖結晶性ポリマーとを含む。感圧接着剤は、粘着性を有するポリマーであればよく、例えば、天然ゴム接着剤、合成ゴム接着剤、スチレン/ブタジエンラテックスベース接着剤、アクリル系接着剤等が挙げられる。
側鎖結晶性ポリマーは、30℃以上70℃以下の融点を持ち、融点未満の温度で結晶化し、かつ融点以上の温度で流動性を示すポリマーである。つまり、側鎖結晶性ポリマーは、温度変化に対応して結晶状態と流動状態とを可逆的に起こす。離型層22は、融点以上の温度で側鎖結晶性ポリマーが流動性を示した際に、感圧接着剤の接着力が低下する割合で、側鎖結晶性ポリマーを含有する。したがって、離型層22を側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度に加熱すれば、側鎖結晶性ポリマーが流動性を示すことによって感圧接着剤の接着力が阻害され、離型層22と転写層23との接着力が低下するため、離型層22から転写層23を容易に剥離することができる。
ここで融点とは、ある平衡プロセスにより、最初は秩序ある配列に整合されていた重合体の特定部分が無秩序状態となる温度を意味し、示差熱走査熱量計(DSC)により10℃/分の測定条件で測定して得られる値である。融点を所定の値とするには、側鎖結晶性ポリマーの組成等を変えることで任意に行うことができる。
【0014】
側鎖結晶性ポリマーの組成としては、例えば炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート20~100重量部と、炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリレート0~70重量部と、極性モノマー0~10重量部とを重合させて得られる重合体等が挙げられる。
【0015】
炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えばセチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の炭素数16~22の線状アルキル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。極性モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有エチレン不飽和単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有するエチレン不飽和単量体等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を混合して用いてもよい。
重合方法としては、特に限定されるものではなく、例えば溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等が採用可能である。
【0016】
側鎖結晶性ポリマーは、固形分換算で感圧接着剤100重量部に対して1~20重量部、好ましくは1~10重量部の割合で含有するのがよい。これにより、側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度では十分な接着力を確保でき、かつ融点以上の温度で側鎖結晶性ポリマーが流動性を示した際には接着力が低下する。これに対し、側鎖結晶性ポリマーの含有量があまり少ないと、離型層22を側鎖結晶性ポリマーの融点以上の温度に加熱しても、接着力が低下しにくくなる。また、側鎖結晶性ポリマーの含有量があまり多いと、離型層22の接着力が低下して転写層23を保持しにくくなる。
離型層22の厚さとしては、0.01μm~3μmがよい。基体シート21に離型層22を形成するには、感圧接着剤および側鎖結晶性ポリマーを所定の割合で溶剤に加えた塗布液を、基体シート21の片面に塗布して乾燥させればよい。離型層2には、凝集力を上げるために架橋剤を添加することができる。例えばイソシアネート系化合物、アジリジン系化合物、エポキシ系化合物、金属キレート系化合物等が挙げられる。凝集力を上げることにより接着力を上げることができ、タック(べたつき)を小さくすることができる。離型層2の形成方法としては、例えば、コーティング法、印刷法等を用いることができる。コーティング法としては、例えば、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法がある。印刷法としては、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、ラミネート法がある。
【0017】
転写層23は、射出成形後に射出成形体3の第1面3aに転写される層である。転写層23には、例えば剥離層、図柄層、接着層等が含まれ、離型層22の上にこの順に積層される。転写層23の形成方法としては、離型層22と同様に、例えばコーティング法、印刷法等を用いることができる。
【0018】
(配置工程)
次に、
図1(b)を参照して、第1型41と第2型42とを有する金型4に、転写シート2を配置する。本実施形態では、第1型41が可動型、第2型42が固定型である。第1型41が水平方向(
図1(b)における左右方向)に移動することで、第2型42に接近し、又は第2型42から離れる。
第1型41には、射出成形体3の第1面3aに対応するキャビティ面41aが形成されている。キャビティ面41aは凹形状であり、キャビティ面41aによって、射出成形体3の第1面3aが形成される。第1型41のキャビティ面41aには、多数の微細な吸引孔(図示せず)が開口しており、吸引孔は真空ポンプ(図示せず)に接続されている。
第2型42は、型締めによって第1型41との間にキャビティCを形成する。第2型42には、コア面42aが形成されている。コア面42aは凸形状であり、コア面42aによって、射出成形体3の第2面3bのうち凹部3b-1が形成される。また、第2型の第2パーティング面42bによって、第2面3bのうち平坦部3b-2が形成される。
転写シート2を、基体シート21がキャビティ面41a側になるようにして、
図1(b)の上方にある送り装置(図示せず)の巻き出し部から巻き出して、第1型41と第2型42との間に供給し。キャビティ面41aと転写層23の図柄層とを位置合わせして配置する。配置後は、クランプ機構(図示せず)で転写シート2を第1型41に固定するとよい。
転写シート2を配置後、第1型41に設けられた吸引孔を通じてキャビティ面41aと転写シート2との間の空気を吸引し、転写シート2をキャビティ面41aに沿って配置する。
図3を参照して、転写シート2をキャビティ面41aに配置することにより、キャビティ面41aに接する転写シート2の領域は転写領域23aとなり、第1型41の第1パーティング面41bに接する領域は非転写領域23bとなる。ここで、第1型41及び第2型42は、内部に設けられた温調回路(図示せず)により、所定温度に保たれている。したがって、転写シート2は、第1型41に接することによって第1型41の所定温度に加熱される。金型4の所定温度は、離型層22に含まれる側鎖結晶性ポリマーの融点(30℃~70℃)未満の温度であり、例えば10℃以上70℃未満とすることができる。
【0019】
(型締め工程)
図1(c)を参照して、第1型41を第2型42の方に移動させ、金型4を型締めする。型締めによって、第1型41と第2型42との間には、キャビティCが形成される。このとき、転写シート2の転写領域23a及び非転写領域23bは、金型4の所定温度に保たれたままである。
【0020】
(成形工程)
図1(d)を参照して、キャビティC内に溶融樹脂Rを射出して射出成形体3を成形する。このとき、溶融樹脂Rの熱により転写領域23aの転写層23が溶融し、転写シート2が射出成形体3の第1面3aに固着される。溶融樹脂Rの温度は、側鎖結晶性ポリマーの融点(30℃~70℃)よりも高く、例えば100℃以上350℃以下とすることができる。
溶融樹脂RをキャビティC内に射出することで、転写領域23aの温度は、融点未満の温度である金型4の所定温度から、融点以上の温度である溶融樹脂Rの温度にまで加熱される。
【0021】
(型開き工程)
図1(e)を参照して、第1型41を第2型42から離れる方向(図の左方向)に移動させ、金型4を型開きする。本実施形態では、型開きと同時に射出成形体3が第2型42から外れ、第1型41とともに移動する。このとき、第2型42に設けられた突き出しピン(図示せず)を用いることで、第2型42から射出成形体3を容易に外すことができる。
【0022】
(取出し工程)
図1(f)を参照して、射出成形体3から基体シート21を剥離することにより、転写層23が第1面3aに転写された射出成形体3、すなわち加飾成形品1を取り出す。
【0023】
なお、型開き工程(
図1(e))において、型開きと同時に射出成形体3を基体シート21から剥離してもよい。この場合、第2型42に設けられた突き出しピンで射出成形体3が保持されるように構成するとよい。
【0024】
(作用効果)
成形工程(
図1(d))において、溶融樹脂Rの熱により、転写領域23aの離型層22に含まれる側鎖結晶性ポリマーが融点以上に加熱されるため、転写領域23aの離型層22の接着力が低下する。一方、非転写領域23bは溶融樹脂Rに接することはなく、融点未満の所定温度に保たれた金型4(第1パーティング面41b及び第2パーティング面42b)に接する。そのため、非転写領域23bの離型層22は成形前の接着力が維持されている。
したがって、転写領域23aは転写層23が離型層22から剥離しやすくなり、非転写領域23bは転写層23が離型層22から剥離しにくくなるため、加飾成形品1に箔バリが生じにくい。
【0025】
融点未満の温度における、離型層22と転写層23との剥離強度FLowが0.3N/20mm以上であり、融点以上の温度における、離型層22と転写層23との剥離強度FHighが0N/20mm<FHigh<FLowであると好適である。
剥離強度FLowが少なくとも0.3N/20mmあれば、金型4(融点未満の温度)に接する非転写領域23bの転写層23と離型層22はよく接着しており、転写層23は容易に剥がれない。融点以上の温度における剥離強度FHighは、0N/20mmより大きく、FLowより小さければよい。FHighがこの範囲にあることで、溶融樹脂R(融点以上の温度)に接した転写領域23aと、溶融樹脂Rに接しない非転写領域23bとの間で剥離強度に差ができる。すなわち、転写領域23aでは転写層23が離型層22から剥離しやすくなり、非転写領域23bでは転写層23が離型層22から剥離しにくくなるため、箔バリが生じにくい。
また、FLowが少なくとも0.3N/20mmあれば、金型4の温度より低い室温であっても、転写層23が離型層22から容易に剥離しない。つまり、成形をしない転写シート2の状態でも、端面から転写層23が細かいチリとなって剥がれるといった不具合(箔チリ)が生じにくい。これにより、箔チリが金型4や転写シート2に付着することによる外観不良や、箔チリの除去作業にかかる時間を抑制することができる。
【0026】
図4は、基体シート21(PET)の上に、融点が60℃の離型層22と、剥離層、図柄層及び接着層を含む転写層23とがこの順に積層された転写シート2を用いて、JIS Z0237:2022に準拠した条件で、離型層22と転写層23との剥離強度を測定したものである。図の横軸は剥離距離、縦軸は剥離強度をそれぞれ表している。なお、
図4において、剥がれ方が不安定であるため、剥がし始めの領域(最初の25mmの長さ)における剥離強度は無視する。
剥離強度は、次のようにして測定した。
1)転写シート2を測定治具に固定し、転写シート2の転写層23に耐熱テープ(幅20mm)を貼り付け、耐熱テープに沿って転写層23に切込を入れる
2)測定治具に固定した転写シート2を、引張試験機(協和界面科学株式会社製、粘着・皮膜剥離解析装置VPA-H200)にセットする
3)基体シート21側からヒータで転写シート2を加熱し、基体シート21側から転写層23の温度を測り、温度が安定するまで放置する(加熱設定温度は、25℃、40℃、60℃、80℃)
4)剥離角:90°方向、引張速度:600mm/min、剥離距離:100mmで剥離強度を測定する
【0027】
図4から分かるように、離型層に含まれる側鎖結晶性ポリマーの融点(60℃)未満の温度である25℃では約16N/20mm以下、同じく融点未満の温度である40℃では約9N/20mm以下に収まっており、剥離強度の値は上下に大きく動いている。なお、25℃では転写層が離型層から剥がれなかったため、実質的に耐熱テープのみの剥離強度を示している。
一方、融点以上の温度である60℃及び80℃においては、いずれも剥離強度が2N/20mm以下に収まっており、融点未満の温度における剥離強度よりも小さくなっている。
このように、融点未満の温度における剥離強度と比較して、融点以上の温度では離型層と転写層との剥離強度が大きく低下する。つまり、融点以上の温度(溶融樹脂温度)となる転写領域23aは離型層22の接着力が低下して転写層23は剥離しやすくなり、融点未満の温度(金型温度)となる非転写領域23bは離型層22の接着力が保たれて転写層23は剥離しにくくなる。したがって、箔バリが生じにくくなる。
【符号の説明】
【0028】
1 :加飾成形品
2 :転写シート
21 :基体シート
22 :離型層
23 :転写層
23a:転写領域
23b:非転写領域
3 :射出成形体
3a :第1面
4 :一対の金型
41 :第1型
41a:キャビティ面
41b:第1パーティング面
42 :第2型
42a:コア面
42b:第2パーティング面
C :キャビティ
R :溶融樹脂