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特開2024-58509塗膜付き帯状金属薄板の突合せ溶接方法
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  • 特開-塗膜付き帯状金属薄板の突合せ溶接方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058509
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】塗膜付き帯状金属薄板の突合せ溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/167 20060101AFI20240418BHJP
   B23K 9/235 20060101ALI20240418BHJP
   B23K 9/29 20060101ALI20240418BHJP
   B23D 1/08 20060101ALI20240418BHJP
   B23D 9/00 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
B23K9/167 A
B23K9/235 Z
B23K9/29 B
B23D1/08
B23D9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165926
(22)【出願日】2022-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】599095159
【氏名又は名称】株式会社ムラタ溶研
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【弁理士】
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】村田 彰久
(72)【発明者】
【氏名】村田 唯介
【テーマコード(参考)】
3C050
4E001
【Fターム(参考)】
3C050AB01
3C050AC02
3C050AD08
4E001AA03
4E001BB07
4E001LH12
(57)【要約】
【課題】 塗装されたコイル材の継ぎ足しにかかる時間を短縮しつつ溶接品質を安定させ、溶接ヒュームの発生量を少なくし安全性も向上させ得る、塗膜付き帯状金属薄板の突合せ溶接方法を提供する。
【解決手段】 両面に塗膜が形成された第1帯状金属薄板1の後端縁と両面に塗膜が形成された第2帯状金属薄板2の先端縁とを裏当て金上で突合せ、剥離バイト5とバイトガイド部材6とを用いて、突合せ面の両側の所定幅の塗膜を同時に片面のみ削り取る剥離工程と、前記剥離工程において塗膜を削り取った母材面に沿って前記母材面の両側面を塗膜が隠れるように一対の押え金により前記裏当て金上で押えておいて、狭窄ノズルを備えるTIG溶接トーチを所定アーク長及び所定速度で移動させて前記突合せ部位を溶接する溶接工程と、を含む。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面に塗膜が形成された第1帯状金属薄板の後端縁と両面に塗膜が形成された第2帯状金属薄板の先端縁とを裏当て金上で突合せ、剥離バイトとバイトガイド部材とを用いて、突合せ面の両側の所定幅の塗膜を同時に片面のみ削り取る剥離工程と、
前記剥離工程において塗膜を削り取った母材面に沿って前記母材面の両側面を塗膜が隠れるように一対の押え金により前記裏当て金上で押えておいて、狭窄ノズルを備えるTIG溶接トーチを所定アーク長及び所定速度で移動させて前記突合せ部位を溶接する溶接工程と、
を含む、
塗膜付き帯状金属薄板の突合せ溶接方法。
【請求項2】
前記バイトガイド部材を前記裏当て金の所定位置に位置決めするための位置決め手段を備え、前記位置決め手段により前記バイトガイド部材を前記裏当て金上に位置決めする、請求項1に記載の塗膜付き帯状金属薄板の突合せ溶接方法。
【請求項3】
前記バイトガイド部材がスリットを備え、前記スリットに沿って前記剥離バイトを移動させることにより、前記塗膜を削り取る、請求項1に記載の塗膜付き帯状金属薄板の突合せ溶接方法。
【請求項4】
前記第1帯状金属薄板及び第2帯状金属薄板の厚さが0.2~0.4mm、前記一対の押え金の離間幅が1.5~2.0mm、前記TIG溶接トーチの移動速度が2000~6000mm/分、溶接電流が100~140A、且つ、アーク長が0.4~0.7mmである、請求項1に記載の塗膜付き帯状金属薄板の突合せ溶接方法。
【請求項5】
前記剥離バイトが1.5~3.0mm幅の切れ刃を有し、前記剥離バイトを用いて、1.5~3.0mm幅の塗膜を削り取る、請求項1に記載の塗膜付き帯状金属薄板の突合せ溶接方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラー鋼板等の表面に塗料が塗布された塗膜付き帯状金属薄板を突合せ溶接により接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面に塗料を塗布して色調やその他の機能を付加した鋼板(カラー鋼板又は塗装鋼板とも言う。)の二次製品が、住宅屋根等の建築建材用として広く用いられている。斯かる二次製品の製造は、主にコイル材(フープ材とも言う。)を特殊な成形ロールを用いて連続的に生産されている。
【0003】
コイル材の連続生産中にコイル材が途切れると、途切れたコイル材に新たなコイル材が継ぎ足される。カラー鋼板は、例えば塗装溶融55%Al-Zn合金メッキ鋼板の両面にポリエステル樹脂系塗装が施されていて溶接できないため、リベット留め等の機械的接合が一般に用いられる(非特許文献1等)。カラー鋼板のはんだ付けが必要な場合は、カラー鋼板の接合する箇所(通常は、帯状のコイル材の端部)の両面の塗料をサンドペーパー等で除去してから、カラー鋼板の両面の塗料を除去した部分を重ね合わせて、はんだ付けや抵抗スポット溶接等を用いて重ね溶接を行う(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】株式会社平出精密ホームページ「リベット カラー鋼板、塗装鋼板の部品接合、締結」[令和4年10月14日検索],インターネット <URL:https://www.hiraide.co.jp/productlist/1117/>
【非特許文献2】ウィキペディア[令和4年10月14日検索],インターネット <URL: https://ja.wikipedia.org/wiki/カラー鋼板>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、継ぎ足されたコイル材は、成形ロールを通過する際に、リベット等の機械的接合箇所やカラー鋼板の重ね合わせ個所の段差部が成形ロールに引っ掛かり、成形ロールを傷つけるため、継ぎ足し箇所が成形ロールを通過する度に成形ロールを開放する必要があるが、成形ロールは多段(例えば5~10段)設けられており、継ぎ足し箇所を通過させるために全ての成形ロールを開放する必要があり、成形ロールの開放及び閉鎖に多くの時間と手間を要する。
【0006】
上記のことから、カラー鋼板のコイル材の生産ラインにおいてコイル材が一旦途切れると、コイル交換のために数時間の生産ラインの停止を余儀なくされ、生産性を大幅に低下させていた。
【0007】
また、サンドペーパーによる塗料の除去作業は、多くの時間を要する上、作業時間が区々となり、また、剥離ムラが生じやすく、更に、数センチ幅以上の広い範囲の塗料を除去するために多量の粉塵が発生する。剥離ムラは溶接品質に悪影響を及ぼし、多量の粉塵は安全性に欠ける。
【0008】
そこで本発明は、塗装されたコイル材の継ぎ足しにかかる時間を短縮しつつ溶接品質を安定させ、安全性も向上させ得る、塗膜付き帯状金属薄板の突合せ溶接方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る塗膜付き帯状金属薄板の突合せ溶接方法の一態様は、両面に塗膜が形成された第1帯状金属薄板の後端縁と両面に塗膜が形成された第2帯状金属薄板の先端縁とを裏当て金上で突合せ、剥離バイトとバイトガイド部材とを用いて、突合せ面の両側の所定幅の塗膜を同時に片面のみ削り取る剥離工程と、前記剥離工程において塗膜を削り取った母材面に沿って前記母材面の両側面を塗膜が隠れるように一対の押え金により前記裏当て金上で押えておいて、狭窄ノズルを備えるTIG溶接トーチを所定アーク長及び所定速度で移動させて前記突合せ部位を溶接する溶接工程と、を含む。
【0010】
前記バイトガイド部材を前記裏当て金の所定位置に位置決めするための位置決め手段を備え、前記位置決め手段により前記バイトガイド部材を前記裏当て金上に位置決めすることが好ましい。
【0011】
前記バイトガイド部材がスリットを備え、前記スリットに沿って前記剥離バイトを移動させることにより、前記塗膜を削り取ることが好ましい。
【0012】
前記第1帯状金属薄板及び第2帯状金属薄板の厚さが0.2~0.4mm、前記一対の押え金の離間幅が1.5~2.0mm、前記TIG溶接トーチの移動速度が2000~6000mm/分、溶接電流が100~140A、且つ、アーク長が0.4~0.7mmであることが好ましい。
【0013】
前記剥離バイトが1.5~3.0mm幅の切れ刃を有し、前記剥離バイトを用いて、1.5~3.0mm幅の塗膜を削り取ることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、突合せ溶接のため重ね溶接のような段差がなく、成形ロールの開放も不要となり、また、塗膜の除去は片面だけで済み、剥離バイトをバイトガイド部材に沿わせて塗膜を削り取るため除去作業もムラなく迅速に行える。また、上記所定の溶接条件によって溶接することにより、短時間で安定した品質の溶接が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る塗膜付き帯状金属薄板の突合せ溶接方法の一実施工程を説明するための斜視図である。
図2】本発明に使用する剥離バイトの一実施形態を示す斜視図である。
図3】本発明に使用するバイトガイド部材の一実施形態を示す斜視図である。
図4】本発明に使用するバイトガイド部材と剥離バイトを用いて塗膜を削り取る状態を示す斜視図である。
図5】本発明の一実施工程を説明するための平面図であり、塗膜を削り取った後の状態を示す。
図6】本発明の一実施工程を説明するための縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る塗膜付き帯状金属薄板の突合せ溶接方法の実施形態について以下に図1図6を参照して説明する。
【0017】
先ず、図1に示すように、両面に塗膜が形成された第1帯状金属薄板1の後端縁1aと両面に塗膜が形成された第2帯状金属薄板2の先端縁2aとを裏当て金3の上で突合せる。第1帯状金属薄板1及び第2帯状金属薄板2は、カラー鋼板の他、表面に塗料が塗装されたアルミ板、その他、表面に塗料が塗布された帯状金属薄板であって、厚さが0.2~0.4mmの金属薄板を好適に用いることができる。
【0018】
突合せ方法として、裏当て金3の凹溝3aの中央から昇降する、自動溶接機のセンタープレート4を用いることができる。自動溶接機のセンタープレート4は、例えば特開2003-205369等により公知である。具体的には、裏当て金3の凹溝3aの中央からセンタープレート4を図1の仮想線の位置に上昇させ、第1帯状金属薄板1の後端縁1aをセンタープレート4に当接させ、第1帯状金属薄板1をその位置で保持しておいて、次いで、センタープレート4を下降させ、第2帯状金属薄板2の先端縁2aを、第1帯状金属薄板1の後端縁1aに当接させる。なお、第2帯状金属薄板2の先端縁2aをセンタープレート4に当接させて位置決めしてから、センタープレート4を下降させて第1帯状金属薄板1の後端縁1aを第2帯状金属薄板2の先端縁2aに当接させてもよい。
【0019】
第1帯状金属薄板1と第2帯状金属薄板2を突き合わせた状態で固定する。この固定は、第1帯状金属薄板1及び第2帯状金属薄板2の位置がずれないように固定されておればよく、クランプ等の種々の固定手段(図示せず。)を用いることができる。また、その固定に際して、例えば、上記具体例では、先ず第1帯状金属薄板1をセンタープレート4に当接させてから固定し、次いで、センタープレート4を下降させて第2帯状金属薄板2の先端縁2aを第1帯状金属薄板1の後端縁1aに当接させた後、第2帯状金属薄板2を固定する。
【0020】
上記のようにして第1帯状金属薄板1と第2帯状金属薄板2とが突合わされて固定された状態で、剥離バイト5(図2)とバイトガイド部材6(図4)とを用いて突合せた後端縁1a及び先端縁2aの其々の所定幅W1(図5)の塗膜を片面のみ削り取る。第1帯状金属薄板1と第2帯状金属薄板2の反対側の面(裏面)の塗膜1d、2d(図6参照)は削り取る必要が無い。
【0021】
剥離バイト5は、図2に示すように、切れ刃5aと、切れ刃5aに連設されたすくい面5bと、すくい面と反対側の面に設けられた逃げ面5cとを備えている。剥離バイト5の切れ刃5aは、好適には1.5~3.0mmの幅寸法5dを有する。剥離バイト5の切れ刃5aは、超硬合金で形成することが好ましい。
【0022】
バイトガイド部材6は、図3に示すように、剥離バイト5の切れ刃5aが入るスリット6aを備えることができる。スリット6aの幅寸法6wは、1.5~3.0mmが好ましく、剥離バイト5の切れ刃5aの幅寸法5dと合わせることが好ましい。図4に示すように、スリット6aの中央に突合せ面Xが位置するようにバイトガイド部材6を配置する。そして、剥離バイト5の切れ刃5aを有する先端部をスリット6aに挿入し、スリット6aを定規にして剥離バイト5の移動させることにより、突合せ面における第1帯状金属薄板1及び第2帯状金属薄板2の塗膜を同時に所定幅W1の1.5~3.0mmの剥離幅で削り取る(図5参照)。剥離バイト5は、スリット6aに沿って数回往復させるとよく、具体的には2~3回の往復で削り取ることができる。バイトガイド部材6は、図示例に限らず、直定規の形態、その他の種々の形態を採用することができる。
【0023】
バイトガイド部材6は、剥離バイト5を用いて所定幅W1の塗膜を削り取るために、裏当て金3の所定位置に位置決めするための位置決め手段を備える。図示例において位置決め手段は、図1に示す作業テーブル7に形成された位置決め溝7aと、位置決め溝7aに係合する位置決めピン6bとを備える。図示例の位置決めピン6bは、ビスで構成されていて、裏面に雄螺子部(図示せず。)が突き出している。バイトガイド部材6の位置決め手段は、位置決めピンの他、位置決めガイド等の種々の形態を採用することができる。位置決め手段によりバイトガイド部材6を裏当て金3の上に位置決めする。
【0024】
バイトガイド部材6をセットして剥離バイト5を数回往復させるだけで、突合せ面Xの所定幅W1の塗膜を剥離できるため、塗膜剥離作業を短時間で終えることができ、上記した従来の剥離方法に比べて、塗膜の剥離工程に要する時間を短縮することができる。また、従来のようにグラインダーやサンドペーパーを用いて塗膜を除去する場合に比べ、剥離バイト5で塗膜を削り取るため、粉塵が発生し難く、安全性が向上する。また、塗膜を剥離する幅(所定幅W1)は小さくできるので、塗膜の廃棄量も少なくて済む。また、塗膜の除去は、上記従来のように両面の塗膜を除去する必要がなく、片面のみ塗膜を除去するため、除去作業が短縮される。なお、剥離バイト5で削り取った塗膜は、刷毛等で掃き出して、掃除機等で吸引することができる。
【0025】
塗膜を剥離する上記の剥離工程において、図6に示すように、塗膜1b、2bを削り取った母材面1c、2cに沿って母材面1c、2cの両側面を塗膜1b、2bが隠れるように一対の押え金8、9により裏当て金3上で押えておいて、突合せ面Xを、狭窄ノズルを備えるTIG溶接トーチによりTIG溶接する。
【0026】
裏当て金3は、通常、熱伝導性の良い銅が用いられ、冷却作用を利用して過大な熱入力を防いで溶け落ちを防止するとともに、裏波ビードの溶着を防ぐために凹溝3aが形成されている。裏当て金3の凹溝3aは、板厚によもよるが、幅2~6mm、深さ0.5~2mmとすることが好ましい。溶接時に裏波ビードの酸化防止のため、不活性ガスBGによるガスシールド(バックシールドとも呼ばれる。)がガス孔3bから供給される。バックシールドは、例えばアルゴンガスを使用でき、流量を2~5リットル/分とすることが好ましい。
【0027】
押え金8、9は、裏当て金3と同様に、通常熱伝導性の良い銅が用いられ、冷却作用による過大な熱流入力を防ぐ。また、一対の平行な押え金8、9の離間幅W2は、1.5~2.0mmとすることが好ましい。押え金8、9の離間幅W2は、2.0mmより広いと、冷却作用が低下し、溶け落ち(穴あき)が発生しやすくなり、1.5mmより狭いと、過度な冷却作用により熱量入力が不足して、溶接が不十分になりやすい。また、塗膜を削り取った母材面1c、2cの両側面を塗膜1b、2bが隠れるように押え金8、9により押えるため、押え金8、9の離間幅W2は、剥離幅(所定幅W1)よりも狭いか同じ(W2≦W1)に設定される。押え金8、9の離間幅W2が剥離幅(所定幅W1)より広いと、一対の押え金8、9の間に塗膜1b、2bが露出するため、溶接時に塗膜1b、2bが溶融して蒸発し、タングステン電極の先端に付着し、電極の消耗を早める。また、溶接ヒューム(特定化学物質)が拡散するため好ましくない。
【0028】
TIG溶接には、特開2012-139704等により公知の狭窄ノズルを備えるTIG溶接トーチを用いる。図6に示すように、狭窄ノズル10は内径3.0~4.0mmのモリブデン製のノズルであり、この狭窄ノズル10をタングステン電極11とガスノズル12の間に装着することでシールドガスの流路を狭窄ノズル10の内側流路13と外側流路14とに分離し,内側流路13のシールドガスG1の流量と外側流路14のシールドガスG2の流量とを独立して調整することができる。内側流路13を流れるシールドガスG1は狭窄ノズル10によって高速化されてアークプラズマに吹き付けられるため、アークプラズマは緊縮し熱流束の集中およびアークプラズマの指向性の向上といった効果が得られる。その結果、溶接速度の高速化が可能となり、さらに細い溶接ビードが得られるといった、極薄板溶接に適した熱源特性を得ることができる。
【0029】
狭窄ノズル10を備えるTIG溶接トーチ15に流すシールドガスの流量は、溶接する板厚(0.2~0.4mm)により、シールドガスG1を2~3リットル毎分、シールドガスG2を10~12リットル毎分とすることが好ましい。
【0030】
押え金8、9の離間幅W2を1.5~2.0mmのように狭くすることで、いわゆるサーマルピンチ効果により、TIG溶接トーチ15を突合せ面Xに沿って移動させる際に、アークプラズマが押え金8、9の長手方向に細長く変形し、溶融プールがタングステン電極の中心より常に前方に位置し、突合せ部の隙間発生を無くし、穴あき不良を無くすことができる。
【0031】
板厚や板材料によるが、TIG溶接トーチ15に保持されたタングステン電極11の先端と溶接対象である突合せ部との距離、即ち、アーク長Lは0.4~0.7mmとすることが好ましく、アーク電流(溶接電流)は100~140Aとすることが好ましく、TIG溶接トーチ15の移動速度は2000~6000mm毎分とすることが好ましい。
【0032】
アーク長は、0.4mmより短いとタングステン電極の先端の消耗が激しく、タングステン電極の交換頻度が増し、0.7mmより長いと、アークプラズマの指向性が低下し、アークプラズマが不安定になって溶接品質が低下する。アーク電流は、100A未満であると入熱量が不足し、140Aを超えると入熱量が過大となる。
【0033】
TIG溶接トーチの移動速度は、2000mm毎分より遅いと、入熱が過大となり、ビード幅が広くなり、溶け落ちによる穴あきが発生しやすく、接合面で割れが生じやすくなり、また、裏面の塗膜1d、2dが蒸発し、アークが不安定になり、6000mm毎分より早いと、アークが不安定になり、入熱が不足して溶接が不十分になる。
【0034】
突合せ溶接する帯状金属薄板の片面の塗膜を、1.5~3.0mmという狭い幅で剥離し、押え金8、9により離間幅1.5~2.0mmという狭い間隔で拘束して塗膜を覆い、TIG溶接トーチ15を2000~6000mm毎分という高速で移動させ、100~140Aという大電流とすることで、アークプラズマを安定化させ、高強度且つ再現性に優れた溶接品質を得ることができる。
【0035】
溶接ビードは、圧延ローラによって圧延し、溶接ビードの凸部を平坦にしておくことができる。
【0036】
本発明の突合せ溶接方法は、特開2002-336964等により公知の突合せ自動溶接機(フープウェルダー)を用いて実施することができる。
【0037】
本発明は、上記実施形態に限定解釈されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 第1帯状金属薄板
1a 塗膜
1b 母材面
2 第2帯状金属薄板
2a 塗膜
2b 母材面
3 裏当て金
3a 凹溝
4 センタープレート
5 剥離バイト
6 バイトガイド部材
6a スリット
7 突合せ面
8 押え金
9 押え金
10 狭窄ノズル
15 TIG溶接トーチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6