(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058515
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】電気ギター用弦振動持続装置
(51)【国際特許分類】
G10H 3/26 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
G10H3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022175040
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】591177347
【氏名又は名称】株式会社フェルナンデス
(72)【発明者】
【氏名】安藤 嘉浩
【テーマコード(参考)】
5D478
【Fターム(参考)】
5D478NN02
5D478NN05
(57)【要約】
【課題】本発明は、電気ギターの弦振動を磁気エネルギーにより励振させて延々と持続させるための弦振動持続装置に関し、前記弦の励振時に発生する磁気フィードバックによる発振および励振力の低下を可能な限り抑制することを目的とする。
【解決手段】本発明は、弦を励振するための電磁ドライバーの二つのコイルを弦に対して垂直方向に積層配置し、弦に対して垂直方向における中心位置の横断線から両端部に対して対称に形成することにより、電磁ピックアップの弦側およびボディ側からそれぞれ入り込む不要磁束を起因として電磁ピックアップ内に発生する二つの誘導起電力をそれぞれ同レベルかつ逆位相に調整することにより前記二つの誘導起電力は電磁ピックアップ内で相殺されこの相殺作用により磁気フィードバックによる発振および励振力の低下は良好に抑制される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性体製の弦の振動を検出する電磁ピックアップとこの電磁ピックアップの検出信号を増幅する増幅器とこの増幅器の出力信号により弦を励振するための磁気エネルギーを弦に対して発生させる電磁ドライバーとにより構成される電気ギター用弦振動持続装置において、
前記電磁ドライバーは、弦の垂直方向に積層配置された二つのコイルと、この二つのコイルの中心を貫通する位置に配置された強磁性体製のコアと、このコアを磁束が貫く向きに同極同士が対向配置された二つの永久磁石と、前記二つのコイルの周囲に配置された強磁性体製のヨークとを有し、
この二つのコイルへの電流信号の印加により発生する磁束のうち弦側およびボディ側からそれぞれ前記電磁ピックアップに入り込む磁束を起因としてこの電磁ピックアップに発生する二つの誘導起電力をそれぞれ同レベルかつ逆位相に調整するために、
前記電磁ドライバーは弦に対して垂直方向における中心位置の横断線から両端部に対して対称に形成されたことを特徴とする電気ギター用弦振動持続装置。
【請求項2】
片方または両方のコイルに位相調節手段を設けたことを特徴とする前記請求項1記載の電気ギター用弦振動持続装置。
【請求項3】
位相調節手段は半固定抵抗器であることを特徴とする前記請求項2に記載の電気ギター用弦振動持続装置。
【請求項4】
位相調節手段は移相器であることを特徴とする前記請求項2に記載の電気ギター用弦振動持続装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁ピックアップを備えた電気ギターに搭載される電気ギター用弦振動持続装置に関し、特に電磁ドライバーより発生する磁気エネルギーの一部が電磁ピックアップに直接還流して誘導起電力を発生させること、すなわち磁気フィードバックの発生を可能な限り抑制した電気ギター用弦振動持続装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に電気ギターは、クラシックギター,フラメンコギターおよびフォークギター等のアコースティックギターと比較して弦振動を自然増幅するための内部共鳴空間が不要または僅少でよいためデザインおよび設計の自由度が大きく、種々の形状およびデザインの形態の商品が設計,市販されている。
【0003】
しかしながら、電気ギターの基本的構成に関しては、典型的には
図14および
図15に示す2モデルの形態が電気ギター創世記からの標準形態となっている。
すなわち、
図14は米国ギブソン(登録商標)社により1952年に発表されたレスポール(登録商標)モデルという商品名で呼ばれているタイプの電気ギター(以下レスポールタイプと記す)で、また
図15は同フェンダー(登録商標)社により1954年に発表されたストラトキャスター(登録商標)という商品名で呼ばれているタイプの電気ギター(以下ストラトキャスタータイプと記す)である。
【0004】
この2機種は極めて多数の著名ミュージシャンが使用していることにより世界で最も有名なモデルであり、現在市販されている90%以上の電気ギターの基本的構成はこの2機種のモデルと同様または組み合わせた派生形態となっているものである。
【0005】
この典型的な2モデルを初めとして、実質的に全ての電気ギターには複数の電磁ピックアップが搭載されている。
これは、弦振動を電磁ピックアップが検出する際にその検出位置によって音質が著しく変わり、その音質変化により音楽表現上のバリエーションを得ることを目的としていることによるものである。
【0006】
例えば
図14に示すレスポールタイプ電気ギター(1)においてはそのボディ(2)に2個の電磁ピックアップ(4),(6)が搭載されており、ネック(3)側に搭載されている電磁ピックアップはフロントピックアップ(4),またブリッジ(5)側に搭載されている電磁ピックアップはリアピックアップ(6)と呼ばれている。
なお、これらの電磁ピックアップ(4),(6)は、エスカッション(7),(7)と呼ばれるピックアップ搭載枠体を介してボディ(2)に取り付けられている。
その他のレスポールタイプ電気ギター(1)の構成としては以下の通りとなっている。
すなわち、(8),(8),・・・は弦を示す。この弦(8),(8),・・・は強磁性体の部材で形成されており、その一端はネック(3)の先端の図示していない調弦ペグに、また他端はブリッジ(5)を経由してテールピース(9)に係止されている。
また、(10)はピックアップセレクタースイッチで、(11),(11),(11),(11)は音量および音質のコントロールノブである。
さらに、(12)は出力ジャックで、(13)はピックガードを、また(14),(14)はストラップピンを示す。
【0007】
一方、
図15に示すストラトキャスタータイプ電気ギター(15)の場合は3個の電磁ピックアップ(16),(18),(19)が搭載されており、ネック(3)側に搭載されている電磁ピックアップはフロントピックアップ(16),またブリッジ(17)側に搭載されている電磁ピックアップはリアピックアップ(18),中央に搭載されている電磁ピックアップはセンターピックアップまたはミドルピックアップ(19)と呼ばれている。
なお、これらの電磁ピックアップ(16),(18),(19)は、プラスティック板またはアルミ板にて形成されたピックガード(20)を介してボディ(2)に取り付けられている。
その他の構成については前記レスポールタイプと同一部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0008】
さて、一般に電気ギターは、前記説明の通り、複数の弦を有しておりこの弦の振動を電気信号に変換するためのピックアップを有している。
このピックアップは大別して電磁式ピックアップと圧電式ピックアップとが知られているが、特に例えば電気ギターの場合においては、中域が強調されたサウンドキャラクターが得られ易いこと,電気ギター本体への搭載が容易なこと,弦振動を検出したその後の電気信号処理が容易なこと等の効果により、歴史的に電磁式のピックアップが広く採用されている。
【0009】
ところで、一般的にギター属の弦楽器は、ピッキング(撥弦)と同時にその弦振動は最大となりその後急速に減衰していく特性を有している。
これがいわゆる撥弦楽器類のギター属の楽器の最大の特徴となっているものではあるが、近年においては弦振動を磁気エネルギーにより永続的に持続させる装置すなわち弦振動持続装置が提案され、電気ギターによる音楽に新たな表現を創出できるということにて好評を博している。
【0010】
この弦振動持続装置としては、出願人により「FERNANDES SUSTAINER(登録商標)」という商品名で販売されており、その他米国「Alan Hoover氏」により「SUSTINIAC(登録商標)」という商品名で販売が継続され、かつては米国「Floyd Rose氏」により「Floyd Rose・SUSTAINER」という商品名で販売が行われていた。
前記3者の弦振動持続装置としての技術は、
USP4,852,444号(Alan A. Hoover,et al),
USP4,941,388号(特許出願公表 平成3年506,083号)(Alan A. Hoover, et al),
USP5,070,759号(Alan A. Hoover, et al),
USP5,932,827号(Alan A. Hoover, et al),
USP4,907,483号(PCT出願番号W0 89/11717号・特許出願公表平成3年504,542号)(Floyd D. Rose, et al),
日本特許3,233,659号(USP5,292,999号)(株式会社フェルナンデス),
日本特許3,308,288号および日本特許3,267,317号(USP5,585,588号)(株式会社フェルナンデス)にて開示されている。
【0011】
このような弦振動持続装置は、前記3者ともに基本的には
図12に示す構成となっている。
【0012】
すなわち、弦振動持続装置(21)は、弦振動を検出し外部アンプ(22)に出力する電磁ピックアップ(6)と、この電磁ピックアップ(6)の検出信号を増幅する増幅器(23)と、この増幅器(23)の出力信号により弦(8),(8),・・・を励振するための磁気エネルギーを発生させる電磁ドライバー(24)とで構成されている。
【0013】
このような弦振動持続装置(21)で最もやっかいな問題となっていることは磁気フィードバックによる発振および励振力の低下である。
すなわち、電磁ドライバー(24)は極めて強い出力磁束(25)を発生させるため、この発生した出力磁束(25)は弦(8),(8),・・・に対して励振するための磁気エネルギーを供給すると同時にその一部が電磁ピックアップ(6)に直接還流することにより誘導起電力を発生させ、この発生した誘導起電力は増幅器(23)で増幅されて再び電磁ドライバー(24)に印加されることとなり、その結果発振が起こって本来の楽器としての楽音信号以外の不要な周波数が出力される、もしくは著しく励振力が低下するという不具合を生じさせるものであった。
【0014】
この磁気フィードバックを抑制するための技術として、前出「Alan Hoover氏」によりUSP4,941,388号に開示されている「磁気的不均衡装置(実用的手段としてはシャント板)」を採用した弦振動持続装置,および出願人による特許第3,233,659号(USP5,292,999号)および特許第3,267,317号(USP5,585,588号)に開示されている「水平構造ドライバー」が開発された。
【0015】
これらの技術により弦振動持続装置は磁気フィードバックによる不具合が著しく低減され、楽器として有効に実用化が可能になったものではあるが、電磁ピックアップの種類,ポールピースの極性および永久磁石の種類,電磁ピックアップと電磁ドライバーとの離間距離,センターピックアップの有無等の特定の条件下では依然として磁気フィードバックは抑制しきれずに、残念ながら運用に適さない電磁ピックアップおよび電気ギターも多々存在するものであった。
【0016】
例えば、
図12に示すように、弦振動持続装置(21)に適した電磁ピックアップとしては、前述した
図14のレスポールタイプで使用されている電磁ピックアップ(6)が挙げられる。
この電磁ピックアップ(6)は、一般にハムバッキングタイプと呼ばれ、弦(8),(8),・・・に対して垂直方向に並列配置されたネック側コイル(26),ブリッジ側コイル(27)の二つのコイルで構成され、この二つのコイル(26),(27)は各々逆巻きに巻装され、また磁心の頂部は各々異なる極性に配置されている。
一般的に電磁ピックアップで検出される外来ノイズは磁気フィードバックによる発振の要因になるので可能な限り少ないことが望ましいが、前記構成によりこのハムバッキングタイプの電磁ピックアップ(6)はその名の通り、ハムノイズすなわち外来ノイズが二つのコイル間で相殺される作用を成すので、結果この種弦振動持続装置(21)とは相性が良いものであった。
【0017】
一方、弦振動持続装置(21)に適さないピックアップとしては、
図13に示す通り前述した
図15のストラトキャスタータイプで使用されている電磁ピックアップ(18)が挙げられる。
このストラトキャスタータイプの電気ギター(15)は、1954年の発売開始以来現在も継続して大量に販売されており、また多数のミュージシャンが愛用していることから実質的にデファクトスタンダードモデルとなっているものであるが、このタイプのピックアップはシングルコイルタイプと称される構造、すなわち弦(8),(8),・・・に対して垂直方向に一列等間隔に配置された6個一組の円柱状永久磁石(28),(28),・・・に一つのピックアップコイル(29)を巻装しただけの単純構造となっておりそれがゆえに外来ノイズを拾いやすい構成のため、たとえ少量の外来ノイズであってもそれが磁気フィードバックの発生原因となってしまい、電磁ピックアップとして弦振動持続装置(21)に採用するのは極めてやっかいで困難なものとなっていた。
【0018】
より詳細には、
図12に示す通り、前記ハムバッキングタイプピックアップ(6)を弦振動持続装置(21)の電磁ピックアップとして用いた場合、電磁ドライバー(24)に電流信号を印加することにより発生する出力磁束(25)の一部は電磁ドライバー(24)の駆動コイル(30)と前記ネック側コイル(26),ブリッジ側コイル(27)との中心をそれぞれ共通に鎖交する共通磁束(31),(32)を形成するが、ネック側コイル(26)と ブリッジ側コイル(27)とは各々逆巻きに巻装されているためそれぞれに発生する誘導起電力は互いに逆位相となり相殺され、結果的に電磁ピックアップ(6)に発生する誘導起電力は低減されるため、磁気フィードバックによる発振および励振力の低下が起こりにくいという特徴を有する。
【0019】
一方、
図13に示す通り、前記シングルコイルタイプピックアップ(18)を弦振動持続装置(21)の電磁ピックアップに用いた場合、電磁ドライバー(24)に電流信号を印加することにより発生する出力磁束(25)の一部は前記駆動コイル(30)と前記ピックアップコイル(29)の中心を共通に鎖交する共通磁束(33)を形成するが、ピックアップコイル(29)に発生する誘導起電力は相殺される要素がなくすなわち電磁ピックアップ(18)に発生する誘導起電力そのものとなるため、磁気フィードバックによる発振および励振力の低下が起こりやすいという致命的な欠点を有していた。
さらに、
図15で示すようにストラトキャスタータイプ電気ギター(15)のリアピックアップ(18)は角度をもってボディ(2)に搭載されており、この角度分電磁ドライバー(24)との相対距離が低音弦側と高音弦側で異なるため、
図13に示す前記共通磁束(33)の密度が低音弦側と高音弦側で異なるという不都合点も有しているものであった。
【0020】
さらにまた、磁気フィードバックを助長する要因として弦(8),(8),・・・の存在が挙げられる。
すなわち、標準的な電気ギターの場合6本の弦(8),(8),・・・が張設されているものであるが、この弦(8),(8),・・・は
図12および
図13で示すように電磁ドライバー(24)と電磁ピックアップ(6),(18)の最も近傍に架橋配置された強磁性体であり、すなわち両者の磁気的結合を強める要因となっており、電磁ドライバー(24)に電流信号を印加することにより発生する前記共通磁束(31),(32)および(33)の密度はこの弦(8),(8),・・・の存在によりわずかではあるが高められている。
前記ハムバッキングタイプピックアップ(6)を弦振動持続装置(21)の電磁ピックアップに用いた場合、この弦(8),(8),・・・の存在によりネック側コイル(26),ブリッジ側コイル(27)にそれぞれ発生する誘導起電力が増加しても互いに相殺されるため、相対的に電磁ピックアップ(6)に発生する誘導起電力は低減されて発振および励振力の低下が問題となることは少ないが、前記シングルコイルタイプピックアップ(18)を弦振動持続装置(21)の電磁ピックアップに用いた場合においてはピックアップコイル(29)に発生する誘導起電力の増加はそのまま電磁ピックアップ(18)に発生する誘導起電力の増加につながるため、発振および励振力の低下は不可避となっていた。
【0021】
上記の事由により、弦振動持続装置における適合ピックアップとしては長い間ハムバッキングタイプの電磁ピックアップが採用されており、自由にピックアップを選択したいミュージシャンやギター愛好家は電磁ピックアップの種類や電気ギター上の配置に制約を受けない弦振動持続装置の登場を強く希求しているものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許第4852444号明細書
【特許文献2】特表平03-506083号公報(米国特許第4941388号)
【特許文献3】米国特許第5070759号明細書
【特許文献4】米国特許第5932827号明細書
【特許文献5】特表平03-504542号公報(米国特許第4907483号)
【特許文献6】特許第3233659号公報(米国特許第5292999号)
【特許文献7】特許第3308288号公報
【特許文献8】特許第3267317号公報(米国特許第5585588号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、上記欠点を解消したもので、電磁ピックアップにハムバッキングタイプはもちろんのことシングルコイルタイプを採用しても磁気フィードバックによる発振および励振力の低下を良好に抑制できる弦振動持続装置を提供することを目的とする。
【0024】
また、本発明は、ストラトキャスタータイプ電気ギターのようにリアピックアップが角度をもって配置された電気ギターでも磁気フィードバックによる発振および励振力の低下を良好に抑制できる弦振動持続装置を提供することを目的とする。
【0025】
さらに、本発明は、任意の電磁ピックアップを選択しても磁気フィードバックによる発振および励振力の低下を良好に抑制できる弦振動持続装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明にかかる電気ギター用弦振動持続装置は、強磁性体製の弦の振動を検出する電磁ピックアップとこの電磁ピックアップの検出信号を増幅する増幅器とこの増幅器の出力信号により弦を励振するための磁気エネルギーを弦に対して発生させる電磁ドライバーとにより構成され、前記電磁ドライバーは、弦の垂直方向に積層配置された二つのコイルと、この二つのコイルの中心を貫通する位置に配置された強磁性体製のコアと、このコアを磁束が貫く向きに同極同士が対向配置された二つの永久磁石と、前記二つのコイルの周囲に配置された強磁性体製のヨークとを有し、この二つのコイルへの電流信号の印加により発生する磁束のうち弦側およびボディ側からそれぞれ前記電磁ピックアップに入り込む磁束を起因としてこの電磁ピックアップに発生する二つの誘導起電力をそれぞれ同レベルかつ逆位相に調整するために、前記電磁ドライバーは弦に対して垂直方向における中心位置の横断線から両端部に対して対称に形成されることにより前記発明が解決しようとする課題は達成される。
さらに、より緻密に二つの誘導起電力の位相を調整するために片方または両方のコイルに位相調節手段を設けることにより、二つのコイルへの電流信号の印加により発生する磁束のうち弦側およびボディ側からそれぞれ電磁ピックアップに入り込む磁束の密度差を起因として電磁ピックアップに発生する誘導起電力の位相が補償されることで前記発明が解決しようとする課題は達成される。
【発明の効果】
【0027】
本発明電気ギター用弦振動持続装置によれば、強磁性体製の弦の振動を検出する電磁ピックアップとこの電磁ピックアップの検出信号を増幅する増幅器とこの増幅器の出力信号により弦を励振するための磁気エネルギーを弦に対して発生させる電磁ドライバーとにより構成され、前記電磁ドライバーは、弦の垂直方向に積層配置された二つのコイルと、この二つのコイルの中心を貫通する位置に配置された強磁性体製のコアと、このコアを磁束が貫く向きに同極同士が対向配置された二つの永久磁石と、前記二つのコイルの周囲に配置された強磁性体製のヨークとを有し、弦に対して垂直方向における中心位置の横断線から両端部に対して対称に形成したことにより、この二つのコイルへの電流信号の印加により発生する磁束のうち弦側およびボディ側からそれぞれ前記電磁ピックアップに入り込む磁束を起因としてこの電磁ピックアップに発生する二つの誘導起電力がそれぞれ同レベルかつ逆位相に調整されて互いに相殺され、磁気フィードバックによる発振および励振力の低下が良好に抑制されるため、従来弦振動持続装置との相性が悪いとされてきたシングルコイルピックアップでの運用を問題無く可能とし、さらにストラトキャスタータイプ電気ギターのリアピックアップのように傾斜をもって配置搭載されたデザインの電気ギターでも運用することが可能となる実用上の著効を奏する。
【0028】
また、片方または両方のコイルに位相調節手段を設けたことにより、二つのコイルへの電流信号の印加により発生する磁束のうち弦側およびボディ側からそれぞれ電磁ピックアップに入り込む磁束の密度差を起因として電磁ピックアップに発生する誘導起電力の位相補償を行うことができ、いかなる電磁ピックアップにおいても磁気フィードバックによる発振および励振力の低下が良好に抑制されるため、任意の電磁ピックアップを選択して運用することが可能となる著効を奏する。
【0029】
特に位相調節手段として、片方または両方のコイルに半固定抵抗を接続して位相補償を行う構成にすると、二つのコイルへの電流信号の印加により発生する磁束のうち弦側およびボディ側からそれぞれ電磁ピックアップに入り込む磁束の密度差を起因として電磁ピックアップに発生する誘導起電力の位相を大まかに調節し、弦振動持続装置の系全体の発振条件のうち位相条件が満たされないようにする効果を奏する。
【0030】
また位相調節手段として、片方または両方のコイルに移相器を接続し、コイル毎に独立した位相補償を行う構成にすると、二つのコイルへの電流信号の印加により発生する磁束のうち弦側およびボディ側からそれぞれ電磁ピックアップに入り込む磁束の密度差を起因として電磁ピックアップに発生する誘導起電力の位相と振幅を細かく調節し、弦振動持続装置の系全体の発振条件のうち位相条件と振幅条件の片方もしくは両方が満たされないようにする効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明による電磁ドライバーの、
図2のI-I線に沿った第1の実施例の断面図である。
【
図2】本発明による電磁ドライバーを、6個一組の円柱状コアと二つの板状ヨークとを備えた電磁ドライバーに適用し、二つのバー形状永久磁石を二つのコイル間に配置し円柱状コアに対して直角にかつ同極同士を対称に対向配置した、第1の実施例の分解斜視図である。
【
図3】本発明による電磁ドライバーの、
図4のIII-III線に沿った第2の実施例の断面図である。
【
図4】本発明による電磁ドライバーを、6個二組の円柱状コアと二つのコ字形状ヨークとを備えた電磁ドライバーに適用し、二つの板状永久磁石の同極同士を二組の円柱状コアと二つのコ字形状ヨークとの間に対向配置した、第2の実施例の分解斜視図である。
【
図5】本発明による電磁ドライバーの、
図6のV-V線に沿った第3の実施例の断面図である。
【
図6】本発明による電磁ドライバーを、一体形成された二つのバー形状コアと凹形状ヨークとを備えた電磁ドライバーに適用し、二つの板状永久磁石の同極同士を二つのバー形状コアと6個二組の円板状ポールピース片の間に対向配置した、第3の実施例の分解斜視図である。
【
図7】本発明による電磁ドライバーの、
図8のVII-VII線に沿った断面図である。
【
図8】本発明による電磁ドライバーを、一体形成された二つのバー形状コアと凹形状ヨークとを備えた電磁ドライバーに適用し、二つの板状永久磁石の同極同士を二つのバー形状コアと6個二組の円板状ポールピース片の間に対向配置して、弦側コイルに半固定抵抗器を接続した、第4の実施例の分解斜視図である。
【
図9】本発明による電磁ドライバーの、
図8のIX-IX線に沿った一部断面分解斜視図である。
【
図10】本発明による電磁ドライバーの、
図11のX-X線に沿った第5の実施例の断面図である。
【
図11】本発明による電磁ドライバーを、断面王字形状に全て一体形成された二つのバー形状コアと二つの凹形状ヨークとを備えた電磁ドライバーに適用し、二つの板状永久磁石の同極同士を二つのバー形状コアと二つの円板状ポールピース片の間に対向配置した、第5の実施例の分解斜視図である。
【
図12】電磁ピックアップにハムバッキングタイプを搭載した、一般的な弦振動持続装置の配置構成を示す一部断面図である。
【
図13】電磁ピックアップにシングルコイルタイプを搭載した、一般的な弦振動持続装置の配置構成を示す一部断面図である。
【
図14】一般的なレスポールタイプの電気ギターを示す正面図である。
【
図15】一般的なストラトキャスタータイプの電気ギターを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0032】
次に
図1と
図2とを参照して本発明電気ギター用弦振動持続装置の第1の実施例を詳細に説明する。なお、本実施例は「請求項1」に対応する構成となっている。
【0033】
図において、(41)は電磁ドライバーを示す。この電磁ドライバー(41)は、強磁性体製の弦(8),(8),・・・に対して垂直方向に互いに逆巻きに積層配置された弦側コイル(42)およびボディ側コイル(43)の二つのコイルと、この弦側コイル(42)とボディ側コイル(43)の中心を共通して貫通する位置に一列等間隔に配置された強磁性体製の6個一組の円柱状コア(44),(44),・・・と、前記弦側コイル(42)とボディ側コイル(43)との間に配置され円柱状コア(44),(44),・・・に対して直角にかつ対称にN極同士が対向して磁気結合配置された二つのバー形状永久磁石(45),(45)と、弦側コイル(42)とボディ側コイル(43)の外側面を覆う形でバー形状永久磁石(45),(45)のS極に対して中央部が直角にかつ対称に磁気結合配置された強磁性体製の二つの板状ヨーク(46),(46)とを有する。
【0034】
この電磁ドライバー(41)は、
図1に一点鎖線で示すように、弦(8),(8),・・・に対して垂直方向における中心位置の横断線(C’)から両端部すなわち弦側端部であるA’方向およびボディ側端部であるB’方向に対して対称に形成されている。
【0035】
また図において、(18)は電磁ピックアップを示す。この電磁ピックアップ(18)は市販されているシングルコイルタイプピックアップの中から任意に選択搭載するものであり、強磁性体製の弦(8),(8),・・・に対して垂直方向に配置されたピックアップコイル(29)と、このピックアップコイル(29)の中心を貫通する位置に弦(8),(8),・・・側にS極,ボディ(2)側にN極が位置するように一列等間隔に配置された6個一組の円柱状永久磁石(28),(28),・・・とで構成されている。
【0036】
この電磁ピックアップ(18)のピックアップコイル(29)は入力段増幅器(47)を介して弦側コイル出力段増幅器(48)およびブリッジ側コイル出力段増幅器(49)に接続され、この弦側コイル出力段増幅器(48)は前記電磁ドライバー(41)の弦側コイル(42)に、またブリッジ側コイル出力段増幅器(49)は前記電磁ドライバー(41)のボディ側コイル(43)にそれぞれ接続されている。
【0037】
次に
図1を参照して前記構成の第1の実施例の弦振動持続原理および作用を説明する。
【0038】
強磁性体製の弦(8),(8),・・・が振動することにより電磁ピックアップ(18)のピックアップコイル(29)にその周波数と振幅に応じた誘導起電力が発生し、電圧信号として入力段増幅器(47)に出力される。
【0039】
この電圧信号は、入力段増幅器(47)により信号処理された後に弦側コイル出力段増幅器(48)とブリッジ側コイル出力段増幅器(49)とにより増幅されて電磁ドライバー(41)の弦側コイル(42)とボディ側コイル(43)の二つのコイルにそれぞれ印加される。この時弦側コイル(42)およびボディ側コイル(43)には各々印加された電圧信号に応じた電流信号がそれぞれ流れるが、互いに逆巻きの弦側コイル(42)とボディ側コイル(43)は共通の円柱状コア(44),(44),・・・を介して磁気的に差動接続されているため、電磁誘導により弦側コイル(42)とボディ側コイル(43)に発生するそれぞれの出力磁束は互いに一部が相殺され、その残りが互いに逆位相の弦側コイル出力磁束(50),ブリッジ側コイル出力磁束(51)として弦側コイル(42)およびボディ側コイル(43)にそれぞれ発生する。
【0040】
この弦側コイル出力磁束(50)の密度が高くなると強磁性体製の弦(8),(8),・・・は電磁ドライバー(41)に近づき、密度が低くなると電磁ドライバー(41)から遠ざかる。この状況における弦(8),(8),・・・の変位をさらに電磁ピックアップ(18)が電圧信号に変換することにより一連の動作が継続し、弦振動は延々と持続される。
【0041】
次に
図1を参照して前記構成の第1の実施例の磁気フィードバックによる発振および励振力の低下を抑制する原理および作用について説明する。
【0042】
電磁ドライバー(41)に電流信号を印加することにより発生する弦側コイル出力磁束(50)およびブリッジ側コイル出力磁束(51)の一部は、電磁ドライバー(41)の弦側コイル(42)と電磁ピックアップ(18)のピックアップコイル(29)および電磁ドライバー(41)のボディ側コイル(43)と電磁ピックアップ(18)のピックアップコイル(29)の中心をそれぞれ共通に鎖交する弦側共通磁束(52),ボディ側共通磁束(53)を形成し、弦振動を介することなくピックアップコイル(29)にそれぞれ誘導起電力を発生させるが、電磁ドライバー(41)は、弦(8),(8),・・・に対して垂直方向における中心位置の横断線(C’)からA’方向およびB’方向に対称にすなわち電磁ドライバー(41)の両端部に対して対称に形成されているため、弦側コイル出力段増幅器(48)とブリッジ側コイル出力段増幅器(49)との増幅度を等しくすることにより弦側コイル出力磁束(50)とボディ側コイル出力磁束(51)とは互いに同密度かつ逆位相に調整されることとなる。
同様に弦側共通磁束(52)とボディ側共通磁束(53)も互いに同密度かつ逆位相に調整されるため、ピックアップコイル(29)に発生するそれぞれの誘導起電力も互いに同レベルかつ逆位相となり相殺されることとなる。
【0043】
なお、実際には弦(8),(8),・・・の存在や任意に選択搭載した電磁ピックアップ(18)の仕様により弦側共通磁束(52)とボディ側共通磁束(53)の密度には差が認められ、この密度差を打ち消すための誘導磁束(54)を発生させる誘導起電力がピックアップコイル(29)に生じるが、相殺の効果により無視できる大きさに低減されているため、結果磁気フィードバックによる発振および励振力の低下は良好に抑制されることとなる。
【0044】
また、
図15に示すストラトキャスタータイプ電気ギターのように電磁ピックアップ(18)が角度をもってボディ(2)に搭載されている場合においても、電磁ドライバー(41)の弦側コイル(42)とボディ側コイル(43)は弦(8),(8),・・・に対して垂直方向に互いに逆巻きに積層配置されているため、弦(8),(8),・・・の存在や電磁ピックアップ(18)の仕様の影響を除いて弦側共通磁束(52)とボディ側共通磁束(53)の密度は低音弦側と高音弦側でそれぞれ等しくなり、電磁ピックアップ(18)に発生する誘導起電力の相殺は問題無く行われ、磁気フィードバックによる発振および励振力の低下は良好に抑制されることとなる。
図において、(61)は電磁ドライバーを示す。この電磁ドライバー(61)は、強磁性体製の弦(8),(8),・・・に対して垂直方向に互いに逆巻きに積層配置された弦側コイル(42)およびボディ側コイル(43)の二つのコイルと、この弦側コイル(42)とボディ側コイル(43)の中心をそれぞれ貫通する位置に一列等間隔に配置された6個二組の強磁性体製の弦側円柱状コア(62),(62),・・・およびボディ側円柱状コア(63),(63),・・・と、前記弦側円柱状コア(62),(62),・・・および前記ボディ側円柱状コア(63),(63),・・・に対してS極同士が磁気結合配置されかつN極同士が対向配置された二つの弦側板状永久磁石(64)およびボディ側板状永久磁石(65)と、弦側コイル(42)とボディ側コイル(43)の周囲を覆う形で弦側板状永久磁石(64)およびボディ側板状永久磁石(65)のN極に対して中央部が直角にかつ対称に磁気結合配置された強磁性体製の二つの弦側コ字形状ヨーク(66)およびボディ側コ字形状ヨーク(67)とを有する。
また図において、(18)は電磁ピックアップを示す。この電磁ピックアップ(18)は市販されているシングルコイルタイプピックアップの中から任意に選択搭載するものであり、強磁性体製の弦(8),(8),・・・に対して垂直方向に配置されたピックアップコイル(29)と、このピックアップコイル(29)の中心を貫通する位置に弦(8),(8),・・・側にN極、ボディ(2)側にS極が一列等間隔に配置された6個一組の円柱状永久磁石(28),(28),・・・とで構成されている。
この電磁ピックアップ(18)のピックアップコイル(29)は入力段増幅器(47)を介して出力段増幅器(68)に接続され、この出力段増幅器(68)は互いに並列結線された前記電磁ドライバー(61)の弦側コイル(42)とボディ側コイル(43)にそれぞれ接続されている。
強磁性体製の弦(8),(8),・・・ が振動することにより電磁ピックアップ(18)のピックアップコイル(29)にその周波数と振幅に応じた誘導起電力が発生し、電圧信号として入力段増幅器(47)に出力される。
この電圧信号は、入力段増幅器(47)により信号処理されたのち出力段増幅器(68)により増幅されて電磁ドライバー(61)の弦側コイル(42)とボディ側コイル(43)の二つのコイルにそれぞれ印加される。この時弦側コイル(42)とボディ側コイル(43)に印加された電圧信号に応じた電流信号がそれぞれ流れ、互いに逆位相の弦側コイル出力磁束(50)とブリッジ側コイル出力磁束(51)とが弦側コイル(42)およびボディ側コイル(43)にそれぞれ発生する。
弦側コイル出力磁束(50)の密度が高くなると強磁性体製の弦(8),(8),・・・は電磁ドライバー(41)に近づき、密度が低くなると電磁ドライバー(41)から遠ざかる。この弦(8),(8),・・・の変位をさらに電磁ピックアップ(18)が電圧信号に変換することにより一連の動作が継続し、弦振動は延々と持続される。
本第2の実施例によれば、前記第1の実施例と異なり、弦側円柱状コア(62),(62),・・・およびボディ側円柱状コア(63),(63),・・・はそれぞれ独立して弦側コイル(42)とボディ側コイル(43)の中心をそれぞれ貫通する位置に配置されており、弦側ヨーク(66)およびボディ側ヨーク(67)により弦側コイル(42)とボディ側コイル(43)とは磁気的に分断されているため、一部が相殺されることなく互いに逆位相の弦側コイル出力磁束(50)とブリッジ側コイル出力磁束(51)とが弦側コイル(42)とボディ側コイル(43)とにそれぞれ発生し、強い励振力が生み出される作用を成す。