(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058536
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】前方ラマン増幅器、双方向ラマン増幅システムおよび前方ラマン増幅システム
(51)【国際特許分類】
H04B 10/291 20130101AFI20240418BHJP
H04J 14/02 20060101ALI20240418BHJP
H01S 3/30 20060101ALI20240418BHJP
H01S 3/10 20060101ALI20240418BHJP
G02F 1/35 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
H04B10/291
H04J14/02
H01S3/30
H01S3/10 D
G02F1/35 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003406
(22)【出願日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2022165898
(32)【優先日】2022-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】中元 洋
(72)【発明者】
【氏名】中川 剛二
(72)【発明者】
【氏名】川西 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大井 寛己
(72)【発明者】
【氏名】山内 智裕
(72)【発明者】
【氏名】寺原 隆文
(72)【発明者】
【氏名】大波多 哲平
【テーマコード(参考)】
2K102
5F172
5K102
【Fターム(参考)】
2K102AA15
2K102BA13
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2K102BC01
2K102BD02
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5K102PH13
5K102PH14
5K102PH22
5K102PH47
5K102PH48
5K102PH49
5K102PH50
5K102RD28
(57)【要約】
【課題】光伝送路のファイバ種別に適合して信号光のXPM劣化を抑えること。
【解決手段】光伝送装置110は、前方励起部140と、前方励起制御部150とを含む。前方励起部140は、波長の異なる複数の励起光源を持つ。光伝送路120は、SMFやDSF等の各種別のファイバが用いられる。前方励起制御部150は、ファイバ種別に応じて、前方励起部140の発光させる励起光源の数を変化させる。例えば、前方励起制御部150は、ファイバ種別がDSFの場合、前方励起部140の複数の波長の1次励起光PF1のうち、信号光Sに対しXPM劣化を招く一部の長波長側に位置する1次励起光PF1xに対応する励起光源のパワーを消光させることで、信号光Sの信号劣化を防ぐ。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長の異なる複数の励起光源を持つ、前方ラマン増幅器において、ファイバ種別に応じて、発光させる励起光源の数を変化させることを特徴とする前方ラマン増幅器。
【請求項2】
波長の異なる複数の励起光源を持つ、前方ラマン増幅器において、ファイバ種別に応じて、波長の異なる複数の励起光源間のパワー比率を変化させることを特徴とする前方ラマン増幅器。
【請求項3】
波長の異なる複数の励起光源を持つ、前方ラマン増幅器において、ファイバ種別に応じて、利得の波長特性を変化させることを特徴とする前方ラマン増幅器。
【請求項4】
ファイバの零分散波長に応じて、前記発光させる励起光源の数を変化させることを特徴とする前方ラマン増幅器。
【請求項5】
ファイバの零分散波長に応じて、前記波長の異なる複数の励起光源間のパワー比率を変化させることを特徴とする前方ラマン増幅器。
【請求項6】
ファイバの零分散波長に応じて、前記利得の波長特性を変化させることを特徴とする請求項3に記載の前方ラマン増幅器。
【請求項7】
波長軸上で励起光波長を零分散波長に対して折り返した波長帯域内に信号光が存在する場合、その波長の励起光源のパワーをオフすることを特徴とする前方ラマン増幅器。
【請求項8】
波長軸上で励起光波長を零分散波長に対して折り返した波長帯域内に信号光が存在する場合、その波長の励起光パワー比率を、励起光波長を零分散波長に対して折り返した波長帯域内に信号光が存在しない波長の励起光パワー比率より、下げることを特徴とする前方ラマン増幅器。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一つに記載の前方ラマン増幅器と、
前記前方ラマン増幅器が発生させる利得の波長特性を補償するように、逆向きの利得の波長特性を発生させる後方ラマン増幅器と、
を有することを特徴とする双方向ラマン増幅システム。
【請求項10】
波長軸上で信号光の波長帯域をファイバの零分散波長に対して折り返した波長帯域に該当しない波長の励起光源を搭載した前方ラマン増幅器。
【請求項11】
請求項8において、さらに、波長軸上で励起光波長を零分散波長に対して折り返した波長帯域内に信号光が存在するような励起光源が複数存在する場合、零分散波長に最も近い励起光源は、消光することを特徴とする前方ラマン増幅器。
【請求項12】
請求項8において、さらに、励起光として、非コヒーレント励起光とコヒーレント光を用い、
さらに、コヒーレント励起光源と、非コヒーレント励起光源の両方について、波長軸上で励起光波長を零分散波長に対して折り返した波長帯域内に信号光が存在する場合、そのコヒーレント励起光源は消光し、当該非コヒーレント励起光源の中で、零分散波長に最も近い励起光源は消光させることを特徴とする前方ラマン増幅器。
【請求項13】
複数の励起波長の励起光源を有する前方ラマン増幅器と、ASE光源と、ASE光源を整形するデバイスを有する上流の局と、
前記上流の局に光伝送路を介して接続され、OSNRを測定するデバイスを有する下流の局と、
統括制御部と、
を含む前方ラマン増幅システムにおいて、
前記上流の局は、ASE光を信号光のスペクトル形状に整形した複数波長のダミー光を送出し、
前記下流の局は、前方ラマン増幅器の励起光をすべて消灯させた状態で、前記ダミー光の第1のOSNR波長特性を測定し、
さらに、前方ラマン増幅器の中の複数の励起波長のうち、第1の励起波長の励起光源だけを光らせた状態での、前記ダミー光の第2のOSNR波長特性を測定し、
第1のOSNR波長特性と第2のOSNR波長特性に基づき、第1の励起波長の励起光源のパワー、もしくは、励起光パワー比率を決定することを特徴とする前方ラマン増幅システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前方ラマン増幅器、双方向ラマン増幅システムおよび前方ラマン増幅システムに関する。
【背景技術】
【0002】
波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)による光伝送により、大容量の信号を伝送でき、ラマン増幅により信号光を光増幅し、長距離伝送できる。光伝送路には、例えば、シングルモードファイバ(SMF:Single Mode Optical Fiber)や、分散シフトファイバ(DSF:Dispersion Shifted Fiber)が用いられる。
【0003】
先行技術としては、例えば、システムの立ち上げ時にラマン増幅された信号光のOSNRの測定結果に基づいて前方励起光および後方励起光パワーの最適化を行うことで、双方向励起された伝送路で信号光を安定してラマン増幅する技術がある。また、波長λp0で前方励起し、波長λp1~λpNのNチャネルで後方励起し、各信号チャネルの出力パワーレベルが所定値になるよう、前方励起光を制御することで、信号チャネルの増減設に依存することなく過渡応答特性を改善する技術がある(例えば、下記特許文献1,2参照。)。また、非コヒーレント励起光を用いた励起ラマン増幅の技術が開示されている(例えば、下記非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-303070号公報
【特許文献2】特開2004-258622号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】”Co-Propagating Dual-Order Distributed Raman Amplifier Utilizing Incoherent Pump”、森本他、IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS,VOL.29,NO.7,APRIL 1,2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者等は、前方励起ラマンは、SMFにおいては信号品質の改善に効果を有するが、例えば、DSFでLバンド伝送する場合に、信号品質が劣化することを実測およびシミュレーションで発見した。例えば、DSFではWDM信号と前方励起光とがファイバの零分散波長(1550nm付近)を挟んで配置されている。この場合、前方励起光に対し遅延が等しくなる信号光の一部が相互位相変調(XPM:cross Phase Modulation)の影響を受けて信号品質を劣化させる(詳細は後述する)。
【0007】
一つの側面では、本発明は、光伝送路のファイバ種別に適合して信号光のXPM劣化を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によれば、波長の異なる複数の励起光源を持つ、前方ラマン増幅器において、ファイバ種別に応じて、発光させる励起光源の数を変化させることを要件とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、光伝送路のファイバ種別に適合して信号光のXPM劣化を抑えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、実施の形態にかかる前方ラマン増幅器の概要を示す説明図である。(その1)
【
図1B】
図1Bは、実施の形態にかかる前方ラマン増幅器の概要を示す説明図である。(その2)
【
図1C】
図1Cは、実施の形態にかかる前方ラマン増幅器の概要を示す説明図である。(その3)
【
図1D】
図1Dは、実施の形態にかかる前方ラマン増幅器の概要を示す説明図である。(その4)
【
図1E】
図1Eは、実施の形態にかかる双方向ラマン増幅システムの概要を示す説明図である。
【
図1F】
図1Fは、実施の形態にかかる励起光制御例を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、前方励起ラマン増幅によるパワープロファイルを示す図表である。
【
図3】
図3は、信号光および励起光の波長関係を示す図表である。
【
図4】
図4は、非コヒーレント励起光によるラマン増幅を示す図である。
【
図5】
図5は、ファイバ種別毎の波長分散特性を示す図表である。
【
図6】
図6は、DSFに対する前方励起ラマン増幅で生じる問題を説明する図表である。
【
図7A】
図7Aは、XPMによるQ値とラマン利得の劣化を示す図表である。(SMF)
【
図7B】
図7Bは、XPMによるQ値とラマン利得の劣化を示す図表である。(DSF)
【
図7C】
図7Cは、XPMによるQ値とラマン利得の劣化を示す図表である。(実施の形態)
【
図8】
図8は、実施の形態にかかる光伝送システムの構成例1を示す図である。
【
図9】
図9は、情報テーブルの一例を示す図表である。
【
図10】
図10は、励起光パワー比率テーブルの一例を示す図表である。
【
図11】
図11は、光伝送装置の制御部のハードウェア構成例を示す図である。
【
図12】
図12は、構成例1による励起光制御例を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、実施の形態にかかる光伝送システムの構成例2を示す図である。
【
図14】
図14は、構成例2による励起光制御例を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、実施の形態にかかる光伝送システムの構成例3を示す図である。
【
図16】
図16は、XPM劣化の信号光と励起光の抽出を説明する図である。
【
図17】
図17は、構成例3にかかる情報テーブルの一例を示す図表である。
【
図18A】
図18Aは、構成例3にかかる送信側励起光パワー比率テーブルを示す図表である。(その1)
【
図18B】
図18Bは、構成例3にかかる送信側励起光パワー比率テーブルを示す図表である。(その2)
【
図18C】
図18Cは、構成例3にかかる送信側励起光パワー比率テーブルを示す図表である。(その3)
【
図19】
図19は、構成例3にかかる受信側励起光パワー比率テーブルを示す図表である。
【
図20A】
図20Aは、構成例3による励起光制御例を示すフローチャートである。(その1)
【
図20B】
図20Bは、構成例3による励起光制御例を示すフローチャートである。(その2)
【
図21】
図21は、TWRSとELEAFの波長分散特性を示す図表である。
【
図22A】
図22Aは、TWRSに対する前方励起ラマン増幅で生じる問題を説明する図表である。(その1)
【
図22B】
図22Bは、TWRSに対する前方励起ラマン増幅で生じる問題を説明する図表である。(その2)
【
図22C】
図22Cは、TWRSに対する前方励起ラマン増幅で生じる問題を説明する図表である。(その3)
【
図23】
図23は、XPMによるQ値の劣化を示す図表である。
【
図24A】
図24Aは、ELEAFに対する前方励起ラマン増幅で生じる問題を説明する図表である。(その1)
【
図24B】
図24Bは、ELEAFに対する前方励起ラマン増幅で生じる問題を説明する図表である。(その2)
【
図24C】
図24Cは、ELEAFに対する前方励起ラマン増幅で生じる問題を説明する図表である。(その3)
【
図25】
図25は、XPMによるQ値の劣化を示す図表である。
【
図26】
図26は、TWRSに対する励起制御例を示す説明図である。
【
図27】
図27は、XPM対策前後のラマン利得を示す図表である。
【
図29】
図29は、ELEAFに対する励起制御例を示す説明図である。
【
図30】
図30は、XPM対策前後のラマン利得を示す図表である。
【
図32】
図32は、実施の形態にかかる各種ファイバに対応した励起光制御例を示すフローチャートである。
【
図33】
図33は、XPM発生前後のスペクトルを示す波形図である。
【
図34】
図34は、OSNRモニタによりXPM対策を行う光伝送システムの構成例を示す図である。
【
図35】
図35は、OSNRモニタによりXPM劣化の波長を検出する処理例のフローチャートである。
【
図36】
図36は、XPM劣化の波長に対する励起制御例のフローチャートである。
【
図37】
図37は、XPMを起こす1次励起光のパワー低減量の決定を説明する一例の図表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(DSFに対する励起制御例)
以下に図面を参照して、開示の前方ラマン増幅器、双方向ラマン増幅システムおよび前方ラマン増幅システムの実施の形態を詳細に説明する。実施の形態では、光伝送路に用いるファイバ種別が異なる場合に対応して、いずれのファイバ種別であっても信号光の信号品質を維持できるようにする。例えば、光伝送路にはSMFの他にDSFおよび分散シフトファイバが用いられることがある。実施の形態では、DSFおよび分散シフトファイバの場合に生じる、信号光に対するXPMの劣化の影響を抑え、信号品質の劣化を抑える。このため、実施の形態では、例えば、DSFの場合、DSFに固有の光伝送特性(プロファイル)に基づき、前方励起光の出力、あるいは前方励起光と後方励起光からなる双方向励起光の出力を最適化する制御を行う。
【0012】
(実施の形態の励起制御の概要)
図1A~
図1Dは、実施の形態にかかる前方ラマン増幅器の概要を示す説明図である。
【0013】
(制御例1)
はじめに、
図1Aを用いて前方励起の制御例1を説明する。
図1A(a)には、光伝送装置110による前方ラマン増幅の構成を示す。光伝送装置110は、光伝送路120により信号光Sを伝送する。
【0014】
図1A(a)では内部構成を簡略化して記載しているが、光伝送装置110は、EDFA(Erbium Doped Fiber Amplifier)等の光増幅器130と、前方励起部140と、前方励起制御部150とを含む。前方励起部140は、励起光源142の複数の波長の励起光を、合波器141を介して光伝送路120に出力し、WDMの信号光Sを前方励起する。前方励起制御部150は、前方励起の励起光の出力を制御する。
【0015】
次に、
図1A(b)、(c)を用いて前方励起の制御例1を説明する。制御例1では、波長の異なる複数の励起光源を持つ、前方ラマン増幅器において、ファイバ種別に応じて、発光させる励起光源の数を変化させることで、XPM劣化を抑制する。
図1A(b)、(c)の横軸は波長、縦軸は励起パワーである。
【0016】
図1A(b)は、光伝送路120がSMFの場合の前方励起光の励起制御状態を示す。前方励起制御部150は、光伝送路120のファイバ種別がSMFである場合、前方励起部140に対し、1次励起光PF1と、1次励起光PF1よりも短波長側の2次励起光PF2とを含む前方励起光PFによる前方励起を制御する。
【0017】
図1A(c)は、光伝送路120がDSFの場合の前方励起光の励起制御状態を示す。前方励起制御部150は、光伝送路120のファイバ種別がDSFである場合、前方励起部140の励起光源142に対し、複数の1次励起光PF1のうち発光させる励起光源の数を変化させる。
【0018】
例えば、前方励起制御部150は、1次励起光PF1の複数の励起波長のうち一部の波長の1次励起光PF1xのパワーをオフ(消光)し、この1次励起光PF1x以外の波長の1次励起光PF1による前方励起を行う。
図1A(c)の例では、前方励起制御部150は、1次励起光PF1の複数の励起波長のうち最も長波長側に位置する1次励起光PF1xを消光している。
【0019】
前方励起制御部150は、
図1A(b)に示したように、光伝送路120に用いるファイバ種別がSMFの場合には、1次励起光PFについて全ての波長の励起光源142による前方励起を行う。これに対し、前方励起制御部150は、
図1A(c)に示したように、光伝送路120に用いるファイバ種別がDSFの場合には、1次励起光PFのうち一部の波長の1次励起光PF1xを除く波長による前方励起を行う。
【0020】
ここで、光伝送路120にDSFを用いた場合、一部の波長の1次励起光PF1xは、信号光Sに対するXPM劣化を招く波長である。例えば、前方励起制御部150は、ファイバ種別がDSFである情報を取得した場合、1次励起光PFついて一部の波長の1次励起光PF1xを除く波長による前方励起を行うことで、信号光Sに対するXPM劣化を抑制し、信号光Sの信号劣化を防ぐ。光伝送路120にDSFを用いた場合に生じるXPM劣化の詳細については後述する。
【0021】
また、制御例1に関連し、光伝送装置110は、前方励起を行う波長軸上で信号光の波長帯域をファイバの零分散波長に対して折り返した波長帯域に該当しない波長の励起光源を搭載することとしてもよい。例えば、前方励起部140は、複数の1次励起光源のうち、信号光Sに対しXPM劣化を招く波長の1次励起光PF1xに相当する励起光源を除く励起光源を搭載することとしてもよい。
【0022】
(制御例2)
次に、
図1Bを用いて前方励起の制御例2を説明する。
図1Bの制御例2においても、光伝送装置110は、
図1A(a)同様の構成を有して前方ラマン増幅を制御する。制御例2では、波長の異なる複数の励起光源を持つ、前方ラマン増幅器において、ファイバ種別に応じて、波長の異なる複数の励起光源間のパワー比率を変化させることで、XPM劣化を抑制する。
図1Bの横軸は波長、縦軸は励起パワーである。
【0023】
図1B(a)は、光伝送路120がSMFの場合の前方励起光の励起制御状態を示す。前方励起制御部150は、光伝送路120のファイバ種別がSMFである場合、
図1A(b)同様に、前方励起部140に対し、1次励起光PF1と、1次励起光PF1よりも短波長側の2次励起光PF2とを含む前方励起光PFによる前方励起を制御する。
【0024】
図1B(b)は、光伝送路120がDSFの場合の前方励起光の励起制御状態を示す。前方励起制御部150は、光伝送路120のファイバ種別がDSFである場合、前方励起部140の励起光源142に対し、波長の異なる複数の1励起光源PF1間のパワー比率を変化させる。
【0025】
例えば、前方励起制御部150は、1次励起光PF1の複数の励起波長のうち一部の波長の1次励起光PF1xのパワーを他の波長に比べて低減させる前方励起を行う。
図1B(b)の例では、前方励起制御部150は、1次励起光PF1の複数の励起波長のうち最も長波長側に位置する1次励起光PF1xのパワーを他の波長の1次励起光PFのパワーよりも低くしている。
【0026】
ここで、前方励起制御部150は、
図1B(a)に示したように、光伝送路120に用いるファイバ種別がSMFの場合には、例えば、励起光源142に対し、1次励起光PFの全ての波長のパワー比率を一定にした前方励起を行う。これに対し、前方励起制御部150は、
図1B(b)に示したように、光伝送路120に用いるファイバ種別がDSFの場合には、1次励起光PFのうち一部の波長の1次励起光PF1xのパワーを低減させた前方励起を行う。
【0027】
ここで、光伝送路120にDSFを用いた場合、一部の波長の1次励起光PF1xは、信号光Sに対するXPM劣化を招く波長である。このため、前方励起制御部150は、ファイバ種別がDSFに設定された場合、1次励起光PFついて一部の波長の1次励起光PF1xのパワーを低減させた前方励起を行うことで、信号光Sに対するXPM劣化を抑制し、信号光Sの信号劣化を防ぐ。
【0028】
(制御例3)
次に、
図1Cを用いて前方励起の制御例3を説明する。
図1Cの制御例3においても、光伝送装置110は、
図1A(a)同様の構成を有して前方ラマン増幅を制御する。制御例3では、波長の異なる複数の励起光源を持つ、前方ラマン増幅器において、ファイバ種別に応じて、利得の波長特性、例えば、利得の波長に対する傾斜を変化させることで、XPM劣化を抑制する。
図1Cの横軸はLバンド帯の信号光Sの波長、縦軸はラマン利得である。
【0029】
図1C(a)は、光伝送路120がSMFの場合の前方励起光の励起制御状態を示す。前方励起制御部150は、光伝送路120のファイバ種別がSMFである場合、前方励起部140に対し、信号光Sの波長帯全域に対し、一定なラマン利得となるよう前方励起を制御する。前方励起部140は、
図1A(a)同様に、1次励起光と2次励起光とを含む前方励起を行う。
【0030】
図1C(b)は、光伝送路120がDSFの場合の前方励起光の励起制御状態を示す。前方励起制御部150は、光伝送路120のファイバ種別がDSFである場合、前方励起部140の励起光源142に対し、利得の波長に対する傾斜を変化させる。
【0031】
図1C(b)の例では、前方励起制御部150は、短波長側の利得が最も高く、長波長側にしたがい次第に利得を低減させることで、利得の波長に対する傾斜を変化させる。この利得の傾斜は、例えば、
図1A(c)で説明した1次励起光PF1の複数の励起波長のうち短波長側の1次励起光のパワーを最も高くし、長波長側にしたがい1次励起光のパワーを次第に低減させることで得られる。
【0032】
ここで、前方励起制御部150は、光伝送路120に用いるファイバ種別がSMFの場合には、例えば、励起光源142に対し、1次励起光PFの全ての波長のパワー比率を一定にした前方励起を行うことで、
図1C(a)に示した利得特性を得る。これに対し、前方励起制御部150は、光伝送路120に用いるファイバ種別がDSFの場合には、1次励起光PF1の励起波長のうち短波長側の1次励起光のパワーを最も高くし、長波長側にしたがい1次励起光PF1のパワーを次第に低減させる前方励起を行う。これにより、
図1C(b)に示した利得特性を得る。
【0033】
ここで、光伝送路120にDSFを用いた場合、1次励起光PF1のうち長波長PF1xは、信号光Sに対するXPM劣化を招く波長である。このため、前方励起制御部150は、ファイバ種別がDSFに設定された場合、
図1C(b)に示す利得特性とすることで、信号光Sに対するXPM劣化を抑制し、信号光Sの信号劣化を防ぐ。
【0034】
以上説明した制御例1~制御例3は、ファイバの零分散波長に応じた励起制御を行ってもよい。例えば、制御例1では、ファイバの零分散波長に応じて、発光させる励起光源の数を変化させてもよい。ファイバ種別がDSFの場合、零分散波長は、1550nm付近である。そして、ファイバの零分散波長に応じて、信号光Sの一部にXPM劣化が生じる場合、例えば、劣化に対応する1次励起光PF1の一部の波長PF1xを消光することで発光させる励起光源の数を変化させ、信号光Sに対するXPM劣化を抑制する。
【0035】
同様に、制御例2では、ファイバの零分散波長に応じて、波長の異なる複数の励起光源間のパワー比率を変化させてもよいし、制御例3では、ファイバの零分散波長に応じて、利得の波長に対する傾斜を変化させてもよい。
【0036】
(制御例4)
次に、
図1Dを用いて前方励起の制御例4を説明する。
図1Dの制御例4においても、光伝送装置110は、
図1A(a)同様の構成により前方ラマン増幅を制御する。制御例4では、制御例1~制御例3で説明した前方励起パワーを変化させる量について、光伝送装置110は、波長軸上で励起光波長を零分散波長に対して折り返した波長帯域内に信号光が存在するか否かによって決めることで、XPM劣化を抑制する。
図1Dの横軸は波長、縦軸はパワーである。
【0037】
図1D(a)は、XPM劣化の信号光と励起光の波長を示す図である。
図1D(a)には、光伝送路120がDSFの場合の信号光Sの信号帯域(Lバンド)と、励起光の配置を示し、横軸は波長、縦軸は光パワーである。便宜上、2次励起光の短波長側から長波長側に波長(λ)別の番号λ1~λ5、1次励起光の短波長側から長波長側に番号λ6~λ8を付している。
図1D(a)には、DSFの零分散波長λ0(1550nm)を記載してある。なお、SMFの零分散波長は、130nm付近である。
【0038】
図1D(b)は、光伝送路120がDSFの場合、
図1D(a)に示した信号光Sの信号帯域(Lバンド)と、励起光とを、波長軸上で零分散波長からの距離に配置し直したものである。横軸は、左端が波長0とした零分散波長からの距離(波長)を示す。
【0039】
図1D(b)に示すように、各波長の信号を零分散波長λ0で折り返した場合、信号光Sのうち長波長側のLバンドの波長が1次励起光PF1のうち、長波長側のλ8の1次励起光に重なっていることが示されている。
【0040】
なお、
図1D(c)は、光伝送路120がSMFの場合の励起光波長、信号帯域と零分散波長の波長軸上の位置を示すものである。また、
図1D(c)は、光伝送路120がSMFであり、信号光Sの信号帯域(Lバンド)と、励起光とを、波長軸上で零分散波長からの距離に配置し直したものである。SMFの場合、どの励起光PFも信号光Sには重なりが生じていない。
【0041】
このように、光伝送路120がDSFの場合、制御例1~制御例3で説明した前方励起パワーを変化させる量は、
図1D(b)に示した波長軸上で励起光波長を零分散波長に対して折り返した波長帯域内に信号光が存在するか否かによって決めることができる。例えば、前方励起制御部150は、波長軸上で励起光PF1の波長を零分散波長λ0に対して折り返した波長帯域内に信号光Sが存在する場合に、信号光Sに重なる1次励起光λ8の前方励起パワーを変化させることで、信号光Sに対するXPM劣化を抑制する。
【0042】
例えば、制御例1への適用例では、波長軸上で励起光波長を零分散波長λ0に対して折り返した波長帯域内に信号光Sが存在する場合、
図1A(c)のように、その波長PF1xの励起光源のパワーをオフする。また、制御例2への適用例では、波長軸上で励起光波長を零分散波長λ0に対して折り返した波長帯域内に信号光Sが存在する場合、
図1B(b)のように、存在する波長PF1xの励起光パワー比率を、存在しない波長の励起光パワー比率より下げる。また、制御例3への適用例では、波長軸上で励起光波長を零分散波長λ0に対して折り返した波長帯域内に信号光Sが存在する場合、
図1C(b)のように、その信号波長の利得が小さくなるように利得を傾斜させる。
【0043】
制御例4において、DSFで励起光を零分散波長λ0で折り返した場合、信号光Sの帯域、および複数の励起光PFの各波長λ1~λ8の帯域により、信号光Sの帯域と重なり合うパターンは、複数パターンが考えられる。信号光Sと励起光PFの波長の重なりの複数のパターンについては後述する。
【0044】
(制御例5)
図1Eは、実施の形態にかかる双方向ラマン増幅システムの概要を示す説明図である。
図1Eを用いて前方励起および後方励起による双方向ラマン増幅システムの制御例5を説明する。
【0045】
制御例5では、上述した各制御例1~4で説明した前方ラマン励起で発生させる利得の波長に対する傾きを補償するように、逆向きの利得の波長に対する傾きを発生させる後方ラマン励起を行う。
【0046】
図1E(a)は、実施の形態の双方向ラマン増幅システムによる光伝送システムの構成例を示す。
図1Eの例では、励起光制御の対象となる光伝送路120の区間が1スパン分である、一対の光伝送装置110A,110Bの例を示している。上流の第1の光伝送装置110Aは、DSF120の一端に接続され、DSF120の他端に下流の第2の光伝送装置110Bが接続されている。
【0047】
第1の光伝送装置110Aでは、上述した
図1A(a)の構成同様に、光増幅器130Aの後段に前方励起部140Aが配置される。前方励起部140Aは、励起光源142Aの励起光を、合波器141Aを介してDSF120に出力し、WDMの信号光Sを前方励起する。前方励起制御部150Aは、前方励起の励起光の出力を制御する。
【0048】
また、第2の光伝送装置110Bでは、光増幅器130Bの前段に後方励起部140Bの合波器141Bが配置され、励起光源142Bの励起光が合波器141Bを介してDSF120に供給され信号光を後方励起する。後方励起制御部150Bは、後方励起の励起光の出力を制御する。
【0049】
第1の光伝送装置110Aの前方励起制御部150Aと、第2の光伝送装置110Bの後方励起制御部150Bとは互いにネットワークを介して電気的に接続されている。例えば、前方励起制御部150Aは、励起光源142Aで出力する励起光の波長等の制御情報を後方励起制御部150Bに通知する。ネットワークは、光伝送路を含んでもよい。
【0050】
また、
図1Eには、不図示であるが、前方励起制御部150Aおよび後方励起制御部150Bの制御を統括する統括制御部を別途配置してもよい(詳細は後述する)。この場合、統括制御部は、前方励起部140Aの励起光源142A、および後方励起部140Bの励起光源142B、の励起光の波長等の制御情報を統括管理する。
【0051】
ここで、
図1E(b)、(c)を用いてXPM劣化の抑制にかかる制御例を説明する。
図1E(b)は、前方励起部140Aの励起光制御の概要を示す図である。図中横軸は波長、縦軸は光パワーである。第1の光伝送装置110Aでは、DSF120の零分散波長(例えば、1550nm付近)λ0を中心として零分散波長λ0よりも短波側に前方励起光PFの波長が配置され、零分散波長よりも長波長側にLバンドの信号光Sの波長が配置される。前方励起部140Aは、前方励起光PFとして、零分散波長に近い波長側の1次励起光PF1と、零分散波長λ0から離れた波長側の2次励起光PF2とを含む。
【0052】
図1E(b)に示す波長配置の場合、前方励起光PF、特に1次励起光PF1と、信号光Sの遅延が等しくなる。前方励起光PFのうち、零分散波長λ0に近い長波長側の一部(1500nm)の前方励起光PFxによる励起の場合、信号光Sのうち長波長側SxがXPMの影響を受けて信号品質が劣化する。
【0053】
零分散波長λ0からの波長間隔が等しい光は同じ遅延量となるため、信号光Sのうち長波長側Sxは、1次励起光PF1xと零分散波長λ0からの波長間隔が等しくなり、XPMの影響を受けるようになる。DSF120に固有の光伝送特性(プロファイル)、例えば、零分散波長特性に基づく、1次励起光PF1と、信号光Sの互いの遅延の関係は、後ほど詳述する。
【0054】
第1の光伝送装置110Aの前方励起制御部150Aは、励起光源142Aによる前方励起を制御する。前方励起制御部150Aは、1次励起光PF1のうち、零分散波長に近い長波長側の一部の波長の1次励起光PF1xの光パワーを制御させる。例えば、
図1E(b)の例では、制御例1で説明したように、1次励起光PF1xの光パワーをオフ(消光)させる。前方励起制御部150Aは、DSF120に対する前方励起の制御により、信号光S(Sx)に対するXPM劣化を抑制する。
【0055】
図1E(c)は、後方励起部140Bの励起光制御の概要を示す図である。図中横軸は波長、縦軸は光パワーである。第2の光伝送装置110Bでは、例えば、前方励起の1次励起光PFと同様の波長帯域を有する後方励起光PBを出力する。
【0056】
第1の光伝送装置110Aにより前方励起光PFのうち一部の波長の前方励起光PF1xの消光によりラマン利得が不足する。このため、実施の形態では、第2の光伝送装置110Bの後方励起制御部150Bは、後方励起光PBのうち、消光させた前方励起光PF1xの波長に対応する後方励起光PBxの利得を大きくすることで1スパンでのラマン利得を補償する。
【0057】
これにより、光伝送路120に例えば、DSFを用いた場合でも、前方励起に対する制御により信号光Sに対するXPM劣化を抑制する。また、後方励起に対する制御により信号光Sを所定のパワーレベルに回復させることができ、伝送する信号品質を確保できるようになる。
【0058】
図1Eでは、制御例1に相当して第1の光伝送装置110Aにより前方励起光PFのうち一部の波長の前方励起光PF1xを消光させている。そして第2の光伝送装置110Bの後方励起制御部150Bは、後方励起光PBのうち、消光させた前方励起光PF1xの波長に対応する後方励起光PBxの利得を大きくすることで1スパンでのラマン利得を補償する。
【0059】
さらに、
図1Eに示す双方向励起ラマン増幅システムは、制御例2に相当して前方励起光PFでファイバ種別に応じて、波長の異なる複数の励起光源間のパワー比率を変化させる構成に対応し、パワー比率を低くした前方励起光PF1xの波長に対応する後方励起光PBxの利得を大きくすることとしてもよい。また、制御例2に相当して前方励起光PFでファイバ種別に応じて、利得の波長に対する傾斜を変化させてもよい。例えば、1次励起光PF1xの波長で利得を低下させるよう傾斜させた構成に対応し、後方励起光PBxのうち1次励起光PF1xの波長に対応する波長の利得を大きくするよう傾斜させて補償することとしてもよい。
【0060】
図1Fは、実施の形態にかかる励起光制御例を示すフローチャートである。実施の形態では、制御例1~制御例4で説明したように、ファイバ種別に応じて前方励起の制御内容を変更する。
【0061】
図1Fには、制御例5で説明した双方向励起制御システムにおいて、第1の光伝送装置110Aの前方励起制御部150Aと、第2の光伝送装置110Bの後方励起制御部150Bとが連携して行うそれぞれの制御内容を示す。
【0062】
はじめに、前方励起制御部150Aと、後方励起制御部150Bは、それぞれファイバ種別情報を受け取る(ステップS101)。ファイバ種別情報は、保守者等により手動入力されるほか、ネットワークを介して管理サーバ等から情報入力されることとしてもよい。
【0063】
次に、前方励起制御部150Aと、後方励起制御部150Bは、それぞれ入力されたファイバ種別を判別する(ステップS102)。ここでは、光伝送路120のファイバ種別として上述したSMFまたはDSFが入力されるとする。
【0064】
入力されたファイバ種別がSMFの場合には(ステップS102:SMF)、前方励起制御部150Aは、SMF用励起パワー比率を適用した前方励起を行う(ステップS103)。同様に、後方励起制御部150Bは、SMF用励起パワー比率を適用した前方励起を行う。例えば、前方励起制御部150Aの前方励起、および後方励起制御部150Bの後方励起の制御では、予めSMF用励起パワー比率をテーブル化したものを用いる。SMF用励起パワー比率テーブルは、前方励起および後方励起ともに、波長に対し平坦な利得特性を有する(
図1E(b)参照)。
【0065】
一方、入力されたファイバ種別がDSFの場合には(ステップS102:DSF)、前方励起制御部150Aおよび後方励起制御部150Bは、それぞれDSF用励起パワー比率を適用した前方励起を行う(ステップS104)。例えば、前方励起制御部150Aの前方励起、および後方励起制御部150Bの後方励起の制御では、予めDSF用励起パワー比率をテーブル化したもの参照して励起制御する。
【0066】
例えば、1.DSF用励起パワー比率テーブルには、前方励起について長波長側励起光源の消光(制御例1相当)、またはパワー低減(制御例2相当)が設定され、前方励起制御部150Aが参照して前方励起を制御する。対応して後方励起については、DSF用励起パワー比率テーブルには、長波長側励起光源のパワー増加が設定され、後方励起制御部150Bが参照して後方励起を制御する。
【0067】
このほか、2.DSF用励起パワー比率テーブルには、前方励起について長波長側で利得の下がる利得波長特性が設定され、前方励起制御部150Aが参照して前方励起を制御する。対応して後方励起については、DSF用励起パワー比率テーブルには、長波長側で利得の上がる利得波長特性が設定され、後方励起制御部150Bが参照して後方励起を制御する(制御例5(
図1E(c)参照)。
【0068】
前方励起制御部150Aと、後方励起制御部150Bは、ステップS103あるいはステップS104の制御により、ファイバ種別に対応した双方向励起制御を終了する。なお、
図1Fの制御は、光伝送路120のファイバ種別に基づく双方向励起パワーの設定変更を意味し、前方励起制御部150Aと、後方励起制御部150Bは、光伝送路120の運用中は、設定変更した双方向励起パワーに基づく励起制御を継続して実行する。
【0069】
(前方励起によるXPM劣化について)
ここで、従来のXPM劣化について説明しておく。はじめに、ラマン増幅について説明する。WDM伝送において、1スパンのファイバ(例えば、100km程度)を伝送した信号光のパワー増加のため、EDFA(Erbium Doped Fiber Amplifier)への入力を増加させる後方励起ラマン増幅の手法が用いられている。また、送信側に信号光と同方向に励起光を伝送させてラマン増幅を行う前方励起ラマン増幅の手法も用いられている。
【0070】
図2は、前方励起ラマン増幅による信号光のパワープロファイルを示す図表である。横軸は伝送距離(km)、縦軸は光パワー(dBm)である。図中実線は、前方励起ラマン増幅を行わない場合の伝送特性、図中点線は、前方励起ラマン増幅を行った場合の伝送特性を示す。前方励起ラマン増幅を行うことで、ファイバ入力パワーを抑え、光学非線形による信号劣化を抑えながら光信号対雑音比(OSNR:Optical Signal to Noise Ratio)を確保できるという利点がある。
【0071】
図3は、信号光および励起光の波長関係を示す図表である。横軸は波長、縦軸は光パワーである。ラマン増幅は、信号光Sの波長に対して約100nm(13THz)、短波側に励起光を配置する必要がある。WDM信号の場合は、複数の波長の信号光に対応して複数の励起光が必要になる。励起光のパワーが小さい場合には、励起光(1次励起光PF1)をラマン増幅する2次励起光PF2を、1次励起光PF1の100nm短波側に配置する。
【0072】
ラマン励起光には雑音(RIN:Relative Intensity Noise)がある。前方励起ラマン増幅では、励起光と信号光波長とが同方向に光伝送路120のファイバを伝送する。このため、励起光から信号光に対して、ラマン増幅を通じて、信号光に雑音が載ってしまい、利得を十分とろうとすると、信号品質が劣化する問題が生じた。
【0073】
この問題については、例えば、RINが小さく、スペクトルがなだらかに広がっている非コヒーレント励起光(Incoherent Pump光)を用いる技術が開示されている(例えば、上記非特許文献1参照。)。
【0074】
図4は、非コヒーレント励起光によるラマン増幅を示す図である。
図4に示す非コヒーレント励起光PF1は、なだらかに広がった波長特性を有しているため、異なった波長の部分からラマン増幅を受けることで、雑音が平均化されて、信号光Sに載る雑音を小さくできる。例えば、非コヒーレント光PF1の異なる波長Δλ1,Δλ2,Δλ3から信号光Sへラマン増幅がされるが、これらの波長Δλ1,Δλ2,Δλ3にそれぞれ載っている雑音が異なる。これにより、非コヒーレント励起光によるラマン増幅では雑音が平均化され、線スペクトルの励起光を用いたラマン増幅に比べて、雑音は1/10以下にできる。実施の形態で用いる前方励起光は、非コヒーレント励起光とコヒーレント光とを組み合わせてもよい。
【0075】
上述した前方励起ラマン増幅は、SMFでは信号品質の改善に効果を有するが、発明者等は、DSF等の分散シフトファイバで信号光を伝送した場合、Lバンドの信号光の信号品質が劣化するという問題を実測とシミュレーションで発見した。
【0076】
図5は、ファイバ種別毎の波長分散特性を示す図表である。図中実線で示すSMFは、波長1310nm付近で分散が零になり、伝搬損失が最も小さい1550nm帯では、例えば、17ps/nm/km程度の分散を有する。これに対し、DSFは、1550nm帯で分散を小さくするようにしたものである。次に、波長分散特性をシフトさせたDSF等のファイバを用いた場合の問題点について説明する。
【0077】
図6は、DSFに対する前方励起ラマン増幅で生じる問題を説明する図表である。
図6には、DSFの場合の零分散波長と、WDMの信号光の波長(L-band)と、励起波長の関係を示す。
【0078】
図6(a)には、DSFの波長対遅延量を示す。光ファイバを伝搬する光波の速さは波長によって異なる(波長分散に相当)。波長対波長分散の式を波長について積分すると、波長対遅延量の関係式になり、
図6(a)に示すように、波長対遅延量の特性線は、ほぼ2次関数になる。この波長対遅延量は、零分散波長(1550nm)λ0を中心として、波長間隔が等しい短波側および長波長側の光は、同じ遅延量となる。
【0079】
図6(b)は、DSFを用いた場合の信号光に対するXPMの影響を示す図表である。上述したように、効率よくラマン増幅を行うためには、信号光Sと励起光(1次励起光PF1)とは、互いに100nm程度、波長間隔(配置)を離している。そして、
図6(b)に示すように、信号光Sと、1次励起光PF1とが零分散波長λ0を挟んで配置されている。1次励起光PF1のうち、零分散波長λ0に近い長波長側の一部の波長の1次励起光PF1xと、Lバンドの信号光Sのうち長波長側Sxとは、互いに零分散波長λ0からの距離(波長間隔)が等しくなる。
【0080】
上述したように、零分散波長λ0からの波長間隔が等しい光は同じ遅延量となるため、信号光Sのうち長波長側Sxは、1次励起光PF1の長波長側PF1xによりXPMの影響を受けるようになる。長波長側の1次励起光PF1xは、信号光Sの長波長側Sxを増幅する役割があるが、長波長側の1次励起光PF1xは、信号光Sの長波長側Sxの帯域と遅延が等しくなる。例えば、波長1500nmのPF1xと、波長1600nmの信号光Sxは遅延が等しい。これにより、信号光Sのうち長波長側の信号光SxがXPMの影響を受け、信号劣化を起こす。
【0081】
XPMは、隣接する二つの信号光間で生じていることが知られているが、励起光PFは信号光Sの数倍のパワー密度であるため、信号光Sに対してXPMを大きく与えることとなり、信号光Sの波形を歪ませて信号品質を劣化させる。
【0082】
これに対し、実施の形態では、
図1で説明したように、DSF等の分散シフトファイバで信号光を伝送する場合、零分散波長を中心としてLバンドの信号帯域と同じ距離(波長間隔)となる前方励起光の配置を避ける。例えば、1次励起光PF1の長波長側PF1xのパワーを消光等で低減させることで、XPMによる信号劣化を避ける。
【0083】
前方励起による増幅利得は、長波長側PF1xの励起光パワーが低減、もしくは、なくなることで、信号光Sの長波長側Sxの利得が低下する。例えば、信号光Sに長波長側Sxの利得が小さくなるようなチルトが発生する。長波長側Sxは、短波長側の励起光の利得を受けてはいるが、所要量より減少するため、受信アンプの入力レベルが低下し、OSNRの不足により、このままでは信号品質が劣化する。このため、実施の形態では、後方励起の長波長PBx側の利得を大きくすることによって、信号光Sの長波長側Sxのパワーレベルを回復させる。このようにして、実施の形態では、前方励起光のXPMによる信号劣化を避け、かつ、信号品質を確保する。この際、後方励起により、信号光Sの長波長側Sxの利得が大きくなるようなチルトを発生させる。
【0084】
【0085】
図7A(a)はSMF伝送時のQ値のチャネル依存性を示す。SMF伝送の場合、励起光によるXPMは発生せず、Q値にチャネル依存性は生じていないことが示されている。
図7A(b)はSMF伝送時のラマン利得のチャネル依存性を示す。SMF伝送の場合、前方励起のみ、後方励起のみ、前方励起+後方励起、のいずれにおいても、波長帯全体の利得が平坦であり、ラマン利得にチャネル依存性は生じていないことが示されている。
【0086】
図7B(a)はDSF伝送時のQ値のチャネル依存性を示す。DSF伝送の場合、励起光によるXPMが発生し、長波長側にしたがい次第にQ値が劣化していき、1600nm以上の波長では-ΔQ分の劣化が生じていることが示されている。
図7B(b)はDSF伝送時のラマン利得のチャネル依存性を示す。DSF伝送において、前方励起のみ、後方励起のみ、前方励起+後方励起、のいずれにおいても、波長帯全体の利得が平坦であり、ラマン利得にチャネル依存性は生じていないことが示されている。
【0087】
図7Cは、実施の形態のラマン増幅制御に対応する特性であり、
図7C(a)はDSF伝送時のQ値のチャネル依存性を示す。
図7B(a)に示したQ値の劣化に対応するために、XPMを起こしている前方励起光PF1の長波長側PF1xを消光することで、Q値の劣化がなくなり、平坦化されることが示されている。
図7C(b)はDSF伝送時のラマン利得のチャネル依存性を示す。前方励起光PF1の長波長側PF1xを消光することで、前方励起光PF1のうち長波長側にしたがい次第にラマン利得が低下するチルトが生じている。
図7C(b)の場合、1600nm以上の長波長側PF1xでは-ΔDだけラマン利得が低下している。
【0088】
これに対応して、実施の形態では、後方励起光PBの長波長側PBxのラマン利得を+ΔDだけ増加させる。後方励起光PBの長波長側PBxにしたがい次第にラマン利得を増加するチルトを生じさせる。これにより、前方励起と後方励起によるラマン利得(図中実線)は、平坦性を確保でき、かつQ値の劣化をなくすことができる。
【0089】
(実施の形態の構成例)
次に、実施の形態にかかる双方向ラマン増幅システムの各構成例について説明する。下記の各構成例1.~構成例3.では、いずれも分散シフトファイバとしてDSF120を用いている。
【0090】
構成例1.汎用の前方励起ラマン増幅を用いてDSFに対応する構成。
構成例2.DSFに対応した前方励起ラマン増幅の構成(DSFで生じるXPMの影響を考慮して、長波長側のレーザモジュールを実装しない前方励起ラマンの構成例)。
構成例3.汎用の前方励起ラマン増幅を用い、零分散波長の情報を含め、光伝送路全体での多スパンにおける各種情報に基づき、多スパンに対する励起制御を行う構成。
【0091】
(構成例1)
構成例1は、汎用の前方励起ラマン増幅を用いてDSFに対応する励起制御を行う。この構成例1では、DSF120に固有の光伝送特性(プロファイル)に基づき、XPMの影響を抑える励起制御を行う。
【0092】
図8は、実施の形態にかかる光伝送システムの構成例1を示す図である。
図8に示す構成例1の光伝送システム800では、光伝送路120上の1スパン分の一対の光伝送装置110A,110Bを有する例を示す。上流の第1の光伝送装置110Aは、DSF120の一端に接続され、DSF120の他端に下流の第2の光伝送装置110Bが接続されている。信号光Sは、Lバンドの帯域を有する。
【0093】
第1の光伝送装置110Aは、前方励起部140Aを有する。第2の光伝送装置110Bは、後方励起部140Bと、統括制御部810と、を有する。
【0094】
第1の光伝送装置110A側の構成を説明する。第1の光伝送装置110Aの前方励起部140Aは、信号光Sの帯域幅に応じた複数の波長の1次励起光を出射する1次励起光源842aと、1次励起光の直交偏波を合成する偏波カプラ844aと、複数の1次励起光を合波する合波フィルタ845aを含む。
【0095】
また、第1の光伝送装置110Aの前方励起部140Aは、1次励起光の帯域幅に応じた複数の2次励起光を出射する2次励起光源842bと、1次励起光の直交偏波を合成する偏波カプラ844bとを含む。また、前方励起部140Aは、複数の2次励起光を合波する合波フィルタ845b,845cを含む。
【0096】
1次励起光と2次励起光は、合波フィルタ845dにより合波され、合波器841Aを介してDSF120上の信号光Sに対する前方励起光として合波される。
【0097】
また、合波フィルタ845dの出力は、分波フィルタ846aにより励起光モニタ847aに分波出力される。励起光モニタ847aは、前方励起光の出力レベルを検出し、励起光制御部848aに出力する。
【0098】
励起光制御部848aは、励起光モニタ847aが検出する出力レベルに基づき、前方励起光である1次励起光源842aと、2次励起光源842bの出力レベルを制御する。
【0099】
前方励起制御部150Aは、励起光制御部848aを制御し、前方励起部140Aによる前方励起光の出力レベルを可変制御する。前方励起制御部150Aは、例えば、
図7C(b)に示した前方励起光PF1の長波長側PF1xの利得を減少させる制御を行う。
【0100】
第2の光伝送装置110B側の構成を説明する。第2の光伝送装置110Bの後方励起部140Bは、信号光Sの帯域幅に応じた複数の波長の励起光を出射する励起光源842cと、励起光を偏波合成する偏波カプラ844cと、励起光を合波する合波フィルタ845cを含む。
【0101】
複数の励起光は、合波フィルタ845fにより合波され、合波器841Bを介してDSF120上の信号光Sに対する後方励起光として合波される。
【0102】
また、合波フィルタ845fの出力は、分波フィルタ846cにより励起光モニタ847cに分波出力される。励起光モニタ847cは、後方励起光の出力レベルを検出し、励起光制御部848bに出力する。
【0103】
励起光制御部848bは、励起光モニタ847cが検出する出力レベルに基づき、励起光源842cの出力レベルを制御する。
【0104】
後方励起制御部150Bは、励起光制御部848bを制御し、後方励起部140Bによる後方励起光の出力レベルを可変制御する。後方励起制御部150Bは、例えば、
図7C(b)に示した後方励起光PBの長波長側PBxの利得を増加させる制御を行う。
【0105】
前方励起制御部150Aと、後方励起制御部150Bは、統括制御部810に接続されている。統括制御部810は、第1の光伝送装置110Aの前方励起制御部150A、および第2の光伝送装置110Bの後方励起制御部150Bそれぞれが行うラマン利得の可変制御を統括する。例えば、統括制御部810は1スパン毎、あるいは数スパン毎に端局に配置する。
【0106】
統括制御部810は、
図8の例では、第2の光伝送装置110Bの中に配置した。これに限らず、統括制御部810は、第1の光伝送装置110Aの中に配置してもよいし、第1の光伝送装置110Aの中と、第2の光伝送装置110Bの中の両方に機能を分割して搭載してもよい。
【0107】
図8の構成例では、第1の光伝送装置110Aの前方励起制御部150Aと、第2の光伝送装置110Bの後方励起制御部150Bは、DSF120以外のネットワークを介して、統括制御部810に電気的に接続されている。これに限らず、前方励起制御部150Aと、後方励起制御部150Bは、制御情報を監視信号(OSC:Optical Supervisory Channel)光に含ませ、光伝送路120上の信号光Sに重畳して光伝送することもできる。この場合、前方励起制御部150Aと後方励起制御部150Bは、光伝送路120上の合波器/分波器(不図示)によりOSC光を分岐/挿入することで、OSC情報を送受信する。
【0108】
統括制御部810は、第1の光伝送装置110Aに対しては、送信側の信号光Sのパワーをモニタする。
図1の例では第1の光伝送装置110A側の前方励起光の合波位置前段(上流)に配置した分波器861Aの分波出力の出力レベルを送信側信号光モニタ862Aでモニタする。
【0109】
また、統括制御部810は、第2の光伝送装置110Bに対しては、受信側の信号光Sのパワーをモニタする。
図1の例では第2の光伝送装置110B側の後方励起光の合波位置後段(下流)に配置した分波器861Bの分波出力の出力レベルを受信側信号光モニタ862Bでモニタする。
【0110】
統括制御部810には、送信側信号光モニタ862Aと、受信側信号光モニタ862Bのモニタ出力、およびDSF120に固有の伝送特性(プロファイル)、等の情報が入力される。また、制御対象となるスパン区間、ファイバ種別、零分散波長、信号光帯域、設計上のラマン利得の情報を受ける。
【0111】
統括制御部810は、入出力パワー波長特性監視、利得波長特性計算、利得計算、の各機能を有する。
【0112】
統括制御部810は、これらの計算結果に基づき、前方励起制御部150Aに対する前方励起のパワー、および後方励起制御部150Bに対する後方励起のパワーをそれぞれ制御する。
【0113】
統括制御部810は、第1の光伝送装置110A側の前方励起制御部150A、および第2の光伝送装置110B側の後方励起制御部150Bに対し、ファイバ種別、利得波長特性、利得変更指示等の制御情報を出力する。具体的にはファイバ種別により前方励起光源に異なる励起比率を設定するように、励起比率テーブルを設定する。
【0114】
図9は、情報テーブルの一例を示す図表である。統括制御部810は、情報テーブル900として、1スパンのスパン番号、信号光Sの信号帯域、ラマン利得、前方励起ラマン利得、後方励起ラマン利得、ファイバ零分散波長、前方励起波長、前方励起波長広がり、の項目毎に、条件、値、単位等の情報を保持する。
【0115】
この情報テーブル900は、統括制御部810の記憶部に格納される。
図9の例に示す信号帯域~後方励起ラマン利得は、信号光SのCバンドとLバンドに対応した所定の値が設定される。また、
図9の例では、1次励起光の前方励起波長は、λ1~λ8の8波長であり、各波長λ1~λ8は、それぞれ前方励起波長広がりΔλ1~Δλ8であることが示されている。
【0116】
また、統括制御部810は、送信側信号光モニタ862Aと、受信側信号光モニタ862Bのモニタ出力に基づき、スパンロス、前方励起ラマン利得、後方励起ラマン利得、トータルラマン利得(ラマン利得)を算出する。統括制御部810は、算出した値を情報テーブル900の該当するレコードに設定する。
【0117】
統括制御部810は、例えば、スパンロスと、ラマン利得とを下記により算出する。ここで、送信側信号光モニタ862Aは、送信信号光レベル(TX_mon)をモニタ出力し、受信側信号光モニタ862Bは、受信信号光レベル(Rx_mon)をモニタ出力する。
【0118】
統括制御部810は、スパンロスを、前方励起部140A、および後方励起部140Bを立ち上げる前の受信信号光レベル(Rx_mon)-送信信号光レベル(TX_mon)から求める。
【0119】
統括制御部810は、後方励起ラマン利得を、後方励起部140Bのみを立ち上げたときの受信信号光レベル(Rx_mon)-送信信号光レベル(TX_mon)から、スパンロスを差し引いて求める。
【0120】
統括制御部810は、前方励起ラマン利得を、前方励起部140A、および後方励起部140Bを立ち上げた後の、受信信号光レベル(Rx_mon)-送信信号光レベル(TX_mon)から後方励起ラマン利得と、スパンロスとを差し引いて求める。
【0121】
統括制御部810は、トータルラマン利得を、前方励起部140A、および後方励起部140Bを立ち上げた後の、受信信号光レベル(Rx_mon)-送信信号光レベル(TX_mon)からスパンロスを差し引いて求める。統括制御部810は、XPMを起こす励起光(前方励起部140A)を消光または低いパワー比率を適用した後、トータルラマン利得を算出する。
【0122】
統括制御部810は、上記の励起制御にかかる情報の算出後、前方励起部140A、および後方励起部140Bに対し、それぞれ制御情報を出力する。制御情報は、例えば、ファイバ種別の他、算出したスパンロス、前方励起ラマン利得、後方励起ラマン利得、採用する励起比率テーブルの指示を含む。
【0123】
統括制御部810は、前方励起部140Aに対し、前方ラマンの励起光のうち一部(Lバンド)の励起光パワーを下げる(消光)利得変更指示を出力する。また、統括制御部810は、制御情報の出力後、トータルラマン利得が、所要の大きさ、および偏差になるまで、後方励起部140Bに対する後方ラマンの励起光のパワーを上げていく利得変更指示を出力する。
【0124】
前方励起励起ラマンの励起の一部の励起パワーを下げること、また後方励起ラマンの一部の励起光パワーを上げることは、個別に励起レーザの設定を変更することでも可能である。これに限らず、予め設計した各励起レーザの出力パワーの比率を設定する励起光パワー比率テーブルを適用することでも行うことができる。
【0125】
第1の光伝送装置110Aの前方励起制御部150Aは、短波長側(Cバンド)と長波長側(Lバンド)の励起パワーの比率を設定する励起光パワー比率テーブルを有する。前方励起制御部150Aは、統括制御部810による制御情報の出力時、励起光パワー比率テーブルを参照して、短波長側と長波長側の励起比率および利得を決定し、励起光制御部848aを制御する。
【0126】
同様に、第2の光伝送装置110Bの後方励起制御部150Bは、短波長側(Cバンド)と長波長側(Lバンド)の励起パワーの比率を設定する励起光パワー比率テーブルを有する。前方励起ラマン後方励起制御部150Bは、統括制御部810による制御情報の出力時、励起光パワー比率テーブルを参照して、短波長側と長波長側の励起比率および利得を決定し、励起光制御部848bを制御する。
【0127】
図10は、励起光パワー比率テーブルの一例を示す図表である。
図10に示す励起光パワー比率テーブル1000は、予め、統括制御部810が保持する。これに限らず、励起光パワー比率テーブル1000は、第1の光伝送装置110A側の前方励起制御部150A、および第2の光伝送装置110B側の後方励起制御部150Bの記憶部がそれぞれ保持してもよい。
【0128】
励起光パワー比率テーブル1000は、スパン番号毎に、テーブル番号、ファイバ種別、スパンロス、ファイバ入力信号パワー、ラマン利得、ファイバ零分散波長、前方励起パワー比率、後方励起パワー比率等の情報を含む。
【0129】
上述したように、DSF120の場合は、前方励起は、長波長側の励起光はパワーを消光するまたは励起パワー比率を小さく設定し、後方励起は、前方励起の利得不足を補うために、長波側の励起パワー比率を大きく設定する。前方励起パワー比率および後方励起パワー比率は、帯域内の複数の波長λ1~λ8それぞれについて設定されている。
【0130】
また、DSF120のように前方ラマン利得と、後方ラマン利得が平坦でない場合が生じることに対応し、前方励起ラマン利得は、帯域内の平坦な部分を指定する前方励起ラマン利得規定波長を含み設定されている。後方励起ラマン利得は、帯域内の平坦な部分を指定する後方励起ラマン利得規定波長を含み設定されている。
【0131】
統括制御部810は、励起光パワー比率テーブル1000を参照し、前方励起制御部150Aに対し、テーブル番号毎に各波長λ1~λ8の前方励起パワー比率に対応して長波長側の利得を次第に低下させる利得制御指示を出力する。
【0132】
また、統括制御部810は、励起光パワー比率テーブル1000を参照し、後方励起制御部150Bに対し、テーブル番号毎に各波長λ1~λ8の後方励起パワー比率に対応して長波長側の利得を次第に増加させる利得制御指示を出力する。
【0133】
(光伝送装置の制御部のハードウェア構成例)
図11は、光伝送装置の制御部のハードウェア構成例を示す図である。例えば、第1の光伝送装置110Aの前方励起制御部150A、第2の光伝送装置110Bの後方励起制御部150B、および統括制御部810は、それぞれ
図11に示すハードウェアにより構成できる。
【0134】
例えば、前方励起制御部150Aは、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ1101と、メモリ1102と、ネットワークIF1103と、記録媒体IF1104と、記録媒体1105とを有する。また、各構成部は、バス1100によってそれぞれ接続される。
【0135】
ここで、プロセッサ1101は、前方励起制御部150A全体の制御を司る制御部である。プロセッサ1101は、複数のコアを有していてもよい。メモリ1102は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)およびフラッシュROMなどを有する。具体的には、例えば、フラッシュROMが制御プログラムを記憶し、ROMがアプリケーションプログラムを記憶し、RAMがプロセッサ1101のワークエリアとして使用される。メモリ1102に記憶されるプログラムは、プロセッサ1101にロードされることで、コーディングされている処理をプロセッサ1101に実行させる。
【0136】
ネットワークIF1103は、ネットワークNWと装置内部とのインタフェースを司り、他の後方励起制御部150Bおよび統括制御部810との間で情報の入出力を制御する。
【0137】
記録媒体IF1104は、プロセッサ1101の制御にしたがって記録媒体1105に対するデータのリード/ライトを制御する。記録媒体1105は、記録媒体IF1104の制御で書き込まれたデータを記憶する。
【0138】
なお、前方励起制御部150Aは、上述した構成部のほかに、例えば、入力装置、ディスプレイなどを、IFを介して接続可能としてもよい。
【0139】
図11に記載のプロセッサ1101は、プログラム実行により、
図8等に示した前方励起制御部150Aの機能を実現できる。
【0140】
また、
図11に記載のネットワークIF1103は、電気信号による通信のほか、光伝送路を含んでもよい。
図8に示した前方励起制御部150Aと、後方励起制御部150Bは、統括制御部810との間の制御情報の送受信の一部に光伝送路120を含んでもよい。例えば、統括制御部810が出力する制御情報をOSCに含ませ、前方励起制御部150A、および後方励起制御部150B側へ向かう光伝送路120上の合波器でOSCを信号光Sに合波して伝送することもできる。
【0141】
また、
図8に示した例のように、対象区間の光伝送路120が一つのスパンの場合、例えば、第2の光伝送装置110Bの後方励起制御部150Bに統括制御部810の機能を統合してもよい。この場合、第2の光伝送装置110B側の制御部が第1の光伝送装置110Aの前方励起制御部150Aを制御する。さらには、対象区間の光伝送路120が複数のスパンの場合、例えば、最終段(最下流)の光伝送装置110の後方励起制御部150Bに統括制御部810の機能を統合してもよい。
【0142】
(構成例1の励起光制御例)
図12は、構成例1による励起光制御例を示すフローチャートである。
図12には、主に統括制御部810が行う統括制御を示す。統括制御部810の統括制御により、前方励起制御部150Aと、後方励起制御部150Bが連携して励起光パワーの制御を実施する。
【0143】
統括制御部810は、事前準備として、ファイバ種別毎の励起光パワー比率テーブル1000を作成する(ステップS1201)。励起光パワー比率テーブル1000は、
図10に示したように、DSF120の場合、前方励ラマンの長波長側のパワーを低減させる前方励起パワー比率と、前方励起ラマンの長波長を低減させた利得波長特性を補償する後方励起パワー比率と、を含む。
【0144】
そして、統括制御部810は、対象の1スパン(
図8参照)に対する励起光制御の基本情報を設定する(ステップS1202)。統括制御部810は、統括制御部810に入力される入力情報に基づき、基本情報を設定する。入力情報は、ファイバ種別、ファイバ零分散波長、信号光帯域等である。統括制御部810は、入力情報に基づき、
図9の情報テーブル900にスパン番号、信号帯域、ラマン利得、前方励起ラマン利得、後方励起ラマン利得、ファイバ零分散波長、前方励起波長、後方励起波長を設定する。統括制御部810は、例えば、ラマン利得は、上述のように測定に基づく算出値を設定する。
【0145】
次に、統括制御部810は、ファイバ種別、スパンロスから前方ラマンの利得と、後方ラマンの利得と、励起パワー比率を算出する。そして、統括制御部810は、前方励起制御部150Aと、後方励起制御部150Bにそれぞれ励起光の制御情報を出力する(ステップS1203)。
【0146】
次に、統括制御部810は、送信側(第1の光伝送装置110A)の光増幅器130Aを立ち上げる制御を行う(ステップS1204)。次に、統括制御部810は、前方励起部140Aを立ち上げる制御を行う(ステップS1205)。この際、前方励起制御部150Aは、励起パワー比率を適用した前方励起を行う。
【0147】
次に、統括制御部810は、後方励起部140Bを立ち上げる制御を行う(ステップS1206)。この際、後方励起制御部150Bは、励起パワー比率を適用した後方励起を行う。
【0148】
次に、統括制御部810は、受信側(第2の光伝送装置110B)の光増幅器130Bを立ち上げる制御を行い(ステップS1207)、以上により1スパンの立ち上げ処理を終了する。
【0149】
構成例1によれば、汎用の前方励起ラマン増幅を用いつつ、光伝送路がDSF120の場合のXPMの影響を回避でき、信号光Sの信号品質の劣化を防ぐことができる。
【0150】
(構成例2)
図13は、実施の形態にかかる光伝送システムの構成例2を示す図である。構成例2の光伝送システム1300において、
図8に示した構成例1と同じ構成部には同じ符号を付して説明を省略する。構成例2では、DSF120で生じるXPMの影響を考慮して、前方励起部140Aの長波長側のレーザモジュールを実装しない点が構成例1と異なる。
図13に示すように、構成例2では、前方励起部140Aの1次励起光源842aは、帯域のうち短波長側(λ1~λ4)の4つのみ設けており、長波長側(λ5~λ8)の4つの1次励起光源842aは設けていない。構成例1で説明したように、1次励起光源842aのうち長波長側は消光制御するため、構成例2では、長波長側の1次励起光源842aを設けないこととしている。
【0151】
なお、前方励起部140Aの1次励起光源842aの2次励起光源842bと、後方励起部140Bの励起光源842cの光源数はいずれも8である(構成例1と同じ)。
【0152】
構成例2においても、統括制御部810は、第2の光伝送装置110Bの中に配置してもよいし、第1の光伝送装置110Aの中に配置してもよいし、第1の光伝送装置110Aの中と、第2の光伝送装置110Bの中の両方に機能を分割して搭載してもよい。
【0153】
(構成例2の励起光制御例)
図14は、構成例2による励起光制御例を示すフローチャートである。
図14に示す処理は構成例1とほぼ同様であり、構成例2(
図14)のステップS1402~ステップS1407は、構成例1(
図12)のステップS1202~ステップS1207と同様である。
【0154】
構成例2では、ステップS1401の処理が構成例1と異なる。統括制御部810は、ステップS1401の事前準備として、ファイバ種別毎の励起光パワー比率テーブル1000を作成する。
図10に示す励起光パワー比率テーブル1000は、ファイバ種別がDSF120の場合、前方励起ラマンの長波長側のパワーを低減させる前方励起パワー比率と、前方励起ラマンの長波長を低減させた利得波長特性を補償する後方励起パワー比率と、を含む。
【0155】
構成例2では、長波長側の1次励起光源842aを設けていない。このため、統括制御部810は、励起光パワー比率テーブル1000のうち、
図10に示した前方励起ラマンの短波長側(λ1~λ4)の前方励起比率パワーのみに対し、前方励起パワー比率を適用した前方励起を行う。
【0156】
構成例2によれば、光伝送路がDSF120の場合のXPMの影響を回避でき、信号光Sの信号品質の劣化を防ぐことができる。また、構成例2では、DSF120で生じるXPMの影響を考慮して、長波長側の1次励起光源842aを設けない構成としたので、構成例1に比べて前方励起のうち1次励起光源数を削減できる。
【0157】
(構成例3)
上記の構成例1,2は、典型的な光伝送路120が有するファイバパラメータ、およびラマン励起構成の事前設定値に用い、励起光比率を適用して励起制御する構成であった。これに対し、構成例3では、実際に零分散波長情報等から制御する波長を決定し、各種パラメータばらつきに対応して、励起制御する構成である。
【0158】
構成例3では、励起光比率が最適かどうかを判断するために、主信号(信号光S)の誤り率を測定し、光伝送路120上に配置される最上流の送信器~最下流の受信機を含めた多スパンのシステム構成である。
【0159】
図15は、実施の形態にかかる光伝送システムの構成例3を示す図である。
図15に示す光伝送システム1500は、構成例1(
図8)等で示したスパンが複数のスパンであり、便宜上、スパン毎に前方励起部140A(第1の光伝送装置110A)と、後方励起部140B(第2の光伝送装置110B)が配置されている例を示す。また、
図15では、構成例1(
図8)と同様の構成部には同様の符号を付し、スパン2~n-1の構成部分を省略している。
【0160】
構成例3では、スパン1の第2の光伝送装置110Bの中と、スパンnの第2の光伝送装置110Bの中にNMS(ネットワークマネジメントシステム)のネットワーク統括制御部810Cを配置している。
【0161】
図15には、光伝送路120の最上流、すなわち、スパン1の前段(上流)には、複数の送信機1501と、複数の送信機1501が出力する異なる波長の信号光を合波し、信号光Sとして光伝送路120に出力する合波器1502が配置されている。
【0162】
また、光伝送路120の最下流、すなわち、スパンnの後段(下流)には、光伝送路120を波長別に分波する分波器1503と、分波された各波長の信号光を受信する受信機1504が配置されている。また、複数の受信機1504それぞれが信号受信時の信号誤り率を測定する誤り率測定部1505が設けられ、誤り率測定部1505の信号の誤り率の情報は、統括制御部810に出力される。誤り率測定部1505は、各受信機1504が有してもよい。
【0163】
統括制御部810には、構成例1で示したスパンの送信側信号光モニタ862Aと、受信側信号光モニタ862Bのモニタ出力が、複数スパン分、入力される。統括制御部810は、構成例1同様の入力情報と、スパン毎の送信側信号光モニタ862Aおよび受信側信号光モニタ862Bのモニタ情報と、信号誤り率等の情報に基づき、上流側のスパン1~下流側のスパンnに対して順次、励起光制御を実施する。
【0164】
統括制御部810は、構成例3におけるラマン増幅方法では、概要として、下記処理1.~処理4.の各処理を実施する。
【0165】
1.各スパンの励起光パワー比率テーブルの作成
2.各スパンのXPM劣化を引き起こす励起光の抽出
3.各スパンへの励起光パワー比率テーブルの適用と調整
4.信号誤り率を用いた評価および最適化(改善が不足する場合の新たな励起光比率テーブルの適用)
【0166】
以下、各処理について説明する。
(1.各スパンの励起光パワー比率テーブルの作成)
統括制御部810は、構成例3では、スパン毎に複数の励起光パワー比率テーブル1000を作成する。
【0167】
(2.各スパンのXPM劣化を引き起こす励起光の抽出)
図16は、XPM劣化の信号光と励起光の抽出を説明する図である。
図16(a)は、信号光Sの信号帯域(Lバンド)と、励起光の配置を示し、横軸は波長、縦軸は光パワーである。便宜上、2次励起光の短波長側から長波長側に波長(λ)別の番号λ1~λ5、1次励起光の短波長側から長波長側に番号λ6~λ8を付している。
【0168】
また、
図16(b)は、
図16(a)に示した信号光Sの信号帯域(Lバンド)と、励起光とを、零分散波長からの距離に配置し直したものである。横軸は、左端が波長0とした零分散波長からの距離(波長)を示す。
【0169】
図16(b)に示すように、
図16(a)の各波長の信号が零分散波長λ0で折り返した形になっている。
図16(b)の例では、信号光Sのうち長波長側のLバンドの波長が1次励起光PF1のうち、長波長側のλ8の1次励起光に重なっていることが示されている。
【0170】
図16(c)は、信号光Sと1次励起光PF1との重なり状態別の各パターン1~4を示す図である。1次励起光(λ8)が信号光Sの帯域と重なっており、XPMを起こす波長であることが示されている。1次励起光PF1を零分散波長λ0で折り返した場合、信号光Sの帯域と重なり合うパターンは以下の4パターンが考えられる。これらは信号光Sの帯域と、1次励起光PF1のスペクトル広がりを比較することで、重なり状態を判別できる。
【0171】
信号光Sの帯域の下限、上限を零分散波長λ0からの距離により、sig_L,sig_Hとし、1次励起光PF1(λ8)のスペクトルの下限、上限を零分散波長λ0からの距離で、pump_L,pump_Hとする。この場合、下記パターン1~4のいずれかの重なり状態が生じる。
【0172】
パターン1は、信号光Sの短波長側に1次励起光PF1が重なった状態である。重なり状態は、1次励起光PF1(λ8)の下限(pump_L)<信号光Sの下限(sig_L)に位置し、1次励起光PF1(λ8)の上限(pump_H)>信号光Sの下限(sig_L)に位置している。さらに、1次励起光PF1(λ8)の上限(pump_H)<信号光Sの上限(sig_H)に位置している。
【0173】
パターン2は、信号光Sの長波長側に1次励起光PF1が重なった状態である。重なり状態は、1次励起光PF1(λ8)の下限(pump_L)>信号光Sの下限(sig_L)が位置し、1次励起光PF1(λ8)の下限(pump_L)<信号光Sの上限(sig_H)に位置している。さらに、1次励起光PF1(λ8)の上限(pump_H)>信号光Sの上限(sig_H)に位置している。
【0174】
パターン3は、信号光Sの帯域よりも1次励起光PF1の帯域が広く、1次励起光PF1が信号光Sの帯域を覆う状態である。重なり状態は、1次励起光PF1(λ8)の下限(pump_L)<信号光Sの下限(sig_L)であり、1次励起光PF1(λ8)の上限(pump_H)>信号光Sの上限(sig_H)に位置している。
【0175】
パターン4は、信号光Sの帯域よりも1次励起光PF1の帯域が狭い状態である。重なり状態は、1次励起光PF1(λ8)の下限(pump_L)>信号光Sの下限(sig_L)であり、1次励起光PF1(λ8)の上限(pump_H)<信号光Sの上限(sig_H)に位置している。
【0176】
これらパターン1~4に示すように、信号光Sと1次励起光PF1(λ8)は、それぞれ中心波長、および1次励起光PF1のスペクトル広がり状態により、異なる重なり状態が生じる。
【0177】
統括制御部810は、パターン1~4の状態を計算することで、XPMを起こす1次励起光PF1を見つけることができる。現実的にみて、信号光Sの帯域と、1次励起光PF1のスペクトルの広がりでは、上記パターン1,2がほとんどのケースに当てはまる。
【0178】
図17は、構成例3にかかる情報テーブルの一例を示す図表である。構成例3では、統括制御部810は、情報テーブル1700として、構成例1(
図9)同様の情報を、スパン番号毎に保持する。例えば、情報テーブル1700は、スパン番号、信号光Sの信号帯域、ラマン利得、前方励起ラマン利得、後方励起ラマン利得、ファイバ零分散波長、前方励起波長、前方励起波長広がり、の項目毎に、条件、値、単位等の情報を保持する。
【0179】
ここで、統括制御部810は、上述したような条件、例えば、
1.信号光Sの帯域の下限、上限を零分散波長λ0からの距離:sig_L,sig_H、
2、1次励起光PF1のスペクトルの下限、上限を零分散波長からの距離:pump_L,pimp_H、である場合、
図17に示す情報テーブル1700について、信号光Sの信号帯域は、帯域がcバンドの場合、
c-band_sig_L=band1_low-λ_0、
c-band_sig_H=band1_high-λ_0として設定する。
【0180】
また、前方励起の1次励起光PF1の各前方励起波長について、例えば、波長λ1については、
λ1_pump_L=λ_1-Δλ_1-λ_0、
λ1_pump_H=λ_1+Δλ_1-λ_0として設定する。
【0181】
(3.各スパンへの励起光パワー比率テーブルの適用と調整)
図18A~
図18Cは、構成例3にかかる送信側励起光パワー比率テーブルを示す図表である。
図18Aの送信側励起光パワー比率テーブル1800aには、信号光Sの帯域に対してXPMを起こす前方励起の1次励起光が一つのみ検出された場合の例を示す。送信側励起光パワー比率テーブル1800aは、記号(前方励起光パワー比率)、値、備考(コヒーレント光/非コヒーレント光の情報)、XPMを起こす励起光の有無(〇:XPMを起こす励起光)の情報を含む。
図18Aには、参考として、零分散波長λ0からの距離を示している。
【0182】
図18Aに示すように、信号光Sの帯域に対してXPMを起こす1次励起光が一つ(λ8)の場合、統括制御部810は、1次励起光のパワー比率を示す値が最も小さい(設計可能な最小の値)の波長λ8(FWR_PR_λ8)を選択する。
【0183】
図18Bの送信側励起光パワー比率テーブル1800bには、信号光Sの帯域に対してXPMを起こす1次励起光が二つ(λ7,λ8)検出された場合の例を示す。1次励起光が複数検出された場合は、統括制御部810は、例えば、零分散波長λ0に一番近い1次励起光(λ7)のパワー比率を50%(値を80→40)に変更する。
【0184】
統括制御部810は、
図18Bの設定後、後述するXPMによる劣化の改善状態に基づいて再度パワー比率を決定してもよい。例えば、
図18Bの設定では、XPMによる劣化が改善されなかったとする。この場合、統括制御部810は、
図18Cの送信側励起光比率パワーテーブル1800cに示すように、二つ(λ7,λ8)の1次励起光について、零分散波長λ0に一番近い1次励起光(λ7)のパワー比率を50%から25%に変化させる。例えば、値を40→20に変更する。
【0185】
零分散波長λ0に近い1次励起光ほどXPM劣化を大きく起こす可能性がある。このため、統括制御部810は、零分散波長λ0に近い波長による1次励起光の影響は極力下げるが、2番目に効いてくる1次励起光については利得の減少を考慮して、50%→25%と、変化させて改善状態を判断する。この場合、
図18A~
図18Cに示した複数の励起光パワー比率テーブル1800a~1800cには、1次励起光のパワー比率別のテーブル番号をつけて区別する。統括制御部810は、該当する1次励起光のパワー比率に対応するテーブル番号の励起光パワー比率テーブル1800を選択する。
【0186】
図19は、構成例3にかかる受信側励起光パワー比率テーブルを示す図表である。
図19の受信側励起光パワー比率テーブル1900は、予め、
図18に示した送信側励起光パワー比率テーブル1800に対応して、利得波長特性を補償するものとして作成しておく。統括制御部810は、選択した送信側励起光パワー比率テーブル1800に対応する受信側励起光パワー比率テーブル1900を選択する。
【0187】
図19に示す受信側励起光パワー比率テーブル1900の例では、XPMを起こす前方励起の1次励起光が一つ(λ8)の場合に対応して、波長λ8に対応する後方励起の波長λ5,λ6のパワー比率が大きく設定されている。
【0188】
(4.信号誤り率を用いた評価および最適化)
1次励起光の調整には、信号誤り率特性の改善を確認したい要望がある。しかし、多スパンに前方励起ラマンと、後方励起ラマンが適用されている場合は、上記の励起光パワー比率テーブル1800,1900(
図18A~
図19)を用いた評価を適用しないと誤り率が悪すぎて測定できない可能性がある。このため、構成例3では、統括制御部810は、全スパンの前方・後方励起ラマンに対し、励起光パワー比率テーブルを用いた評価を行ったのち、励起光比率の最適化を行う余地がある場合に信号誤り率を用いた評価および最適化を実施する。
【0189】
具体的には、統括制御部810は、XPMを起こす1次励起波長が二つある場合に、送信側励起光パワー比率テーブル1800で、XPMを起こす1次励起波長のうち、零分散波長λ0に近い1次励起波長は消光させる(パワー比率を十分小さくする)。しかし、統括制御部810は、二番目に零分散波長に近い1次励起波長は、パワー比率50%→25%と、変化させて信号誤り率の最適化を行う。
【0190】
(構成例3の励起光制御例)
図20A,
図20Bは、構成例3による励起光制御例を示すフローチャートである。
図20A,
図20Bには、主に統括制御部810が行う統括制御例を示す。統括制御部810は、複数のスパン1~nの昇順でスパン1の前方励起制御部150Aと、後方励起制御部150Bに対する励起光パワーの制御を実施する。この後、統括制御部810は、スパン2以降に対する励起光パワーの制御を実施し、最後にスパンnに対する励起光パワーの制御を実施する。
【0191】
統括制御部810は、事前準備として、ファイバ種別毎の励起光パワー比率テーブルを作成しておく(ステップS2001)。この際、統括制御部810は、ファイバ種別とスパン1~n毎の励起光パワー比率テーブルを作成する。励起光パワー比率テーブルは、
図18A等に示す送信側励起光パワー比率テーブル1800と、
図19に示す受信側励起光パワー比率テーブル1900からなる。
【0192】
次に、統括制御部810は、対象のスパンの信号帯域でXPMを起こす励起光を算出する(ステップS2002)。統括制御部810は、
図16で説明した処理により、対象のスパンの信号帯域でXPMを起こす励起光を算出する。
【0193】
次に、統括制御部810は、各スパンの励起パワー比率テーブルを作成する(ステップS2003)。ここで、統括制御部810は、
図18Aに示した送信側励起光パワー比率テーブル1800と、
図19に示した受信側励起光パワー比率テーブル1900を作成する。
【0194】
ステップS2003において、統括制御部810は、1.XPMを起こす励起波長が1波の場合と、2.XPMを起こす励起波長が2波の場合と、に対応した各スパンの励起パワー比率テーブルを作成する。
【0195】
1.XPMを起こす励起波長が1波の場合
統括制御部810は、前方励起ラマンについては、当該波長の励起波長比率を十分に小さくしたパワー比率テーブルを作成する。統括制御部810は、後方励起ラマンについては、前方励起の利得波長特性を補償するパワー比率テーブルを作成する。
【0196】
2.XPMを起こす励起波長が2波の場合
統括制御部810は、前方励起ラマンについては、零分散波長に近い波長は、励起波長比率を十分に小さくし、2番目に零分散に近い波長のパワー比率は、例えば、50%、25%、10%に設定する。ここで、統括制御部810は、パワー比率が50%のものをテーブル番号1、パワー比率が25%のものをテーブル番号2などと別テーブルに設定する。また、統括制御部810は、後方励起ラマンについては、前方励起の利得波長特性を補償するパワー比率テーブルを作成する。
【0197】
次に、統括制御部810は、対象スパンの対象スパンの励起パワー比率と、テーブルの初期値を選択する(ステップS2004)。例えば、統括制御部810は、処理開始時は、スパン番号を初期化し、対応して情報テーブル1700、送信側励起光パワー比率テーブル1800、受信側励起光パワー比率テーブル1900のテーブル番号を#1を選択する。統括制御部810は、以後、再度のスパン選択時にはスパン番号をインクリメントする。
【0198】
次に、統括制御部810は、送信側光増幅器130Aを立ち上げる(ステップS2005)。次に、統括制御部810は、該当スパンが前方励起ラマンを含むか否かを判断する(ステップS2006)。該当スパンが前方励起ラマンを含む場合には(ステップS2006:Yes)、統括制御部810は、ステップS2007の処理に移行し、該当スパンが前方励起ラマンを含まない場合には(ステップS2006:No)、ステップS2008の処理に移行する。
【0199】
ステップS2007では、統括制御部810は、該当スパンの前方励起部140Aを立ち上げる制御を行う(ステップS2007)。この際、前方励起制御部150Aは、励起パワー比率を適用した前方励起を行う。
【0200】
この後、ステップS2008では、統括制御部810は、該当スパンが後方励起ラマンを含むか否かを判断する(ステップS2008)。該当スパンが後方励起ラマンを含む場合には(ステップS2008:Yes)、統括制御部810は、ステップS2009の処理に移行し、該当スパンが後方励起ラマンを含まない場合には(ステップS2008:No)、ステップS2010の処理に移行する。
【0201】
ステップS2009では、統括制御部810は、後方励起部140Bを立ち上げる制御を行う(ステップS2009)。この際、後方励起制御部150Bは、励起パワー比率を適用した後方励起を行う。この後、ステップS2010では、統括制御部810は、受信側光増幅器130Bを立ち上げる(ステップS2010)。
【0202】
次に、統括制御部810は、スパン番号が全スパン数に達したか否かを判断する(ステップS2011)。スパン番号が全スパン数に達していなければ(ステップS2011:No)、統括制御部810は、スパン番号をインクリメントし(ステップS2012)、ステップS2005の処理に戻る。一方、スパン番号が全スパン数に達していれば(ステップS2011:Yes)、ステップS2013の処理に移行する。
【0203】
図20Bに示すステップS2013以下の処理では、受信信号の誤り率に基づく、励起パワーの最適化制御を行う。まず、統括制御部810は、誤り率測定部1505による受信信号の誤り率特性を測定する(ステップS2013)。
【0204】
そして、統括制御部810は、誤り率特性が所定の許容範囲内であるか否かを判断する(ステップS2014)。誤り率特性が所定の許容範囲内でなければ(ステップS2014:No)、統括制御部810は、ステップS2015以下の処理に移行する。一方、誤り率特性が所定の許容範囲内であれば(ステップS2014:Yes)、統括制御部810は、以上の処理を終了する。
【0205】
ステップS2015では、統括制御部810は、スパン番号を初期化する(ステップS2015)、そして、統括制御部810は、該当スパンが前方励起ラマンを含むか否かを判断する(ステップS2016)。該当スパンが前方励起ラマンを含む場合には(ステップS2016:Yes)、統括制御部810は、ステップS2017の処理に移行し、該当スパンが前方励起ラマンを含まない場合には(ステップS2016:No)、ステップS2022の処理に移行する。
【0206】
ステップS2017では、統括制御部810は、テーブル番号が最大テーブル番号未満であるか否かを判断する(ステップS2017)。テーブル番号は、送信側励起光パワー比率テーブル1800および受信側励起光パワー比率テーブル1900について、励起光パワーを可変するために前方励起および後方励起パワーが異なる数分、複数用意されている。以下の制御では、例えば、統括制御部810は、誤り率の許容範囲内でテーブル番号のインクリメント毎に、励起パワーを低くしていく制御を行う。
【0207】
統括制御部810は、現在のテーブル番号が最大テーブル番号未満でなければ(ステップS2017:No)、ステップS2022の処理に移行する。一方、テーブル番号が最大テーブル番号未満であれば(ステップS2017:Yes)、統括制御部810は、ステップS2018の処理に移行する。
【0208】
ステップS2018では、統括制御部810は、該当スパン励起比率テーブルを変更するためにテーブル番号をインクリメントする(ステップS2018)。そして、統括制御部810は、再度、誤り率特性を測定し(ステップS2019)、誤り率が改善したか判断する(ステップS2020)。統括制御部810は、誤り率が改善していれば(ステップS2020:Yes)、ステップS2021の処理に移行する。一方、誤り率が改善していなければ(ステップS2020:No)、統括制御部810は、ステップS2017の処理に戻る。
【0209】
ステップS2021では、統括制御部810は、該当スパン励起比率テーブルを変更するためにテーブル番号をデクリメントする(ステップS2021)。次に、統括制御部810は、スパン番号が全スパン数に達したか否かを判断する(ステップS2022)。スパン番号が全スパン数に達していなければ(ステップS2022:No)、統括制御部810は、スパン番号をインクリメントし(ステップS2023)、ステップS2016の処理に戻る。一方、スパン番号が全スパン数に達していれば(ステップS2022:Yes)、以上の処理を終了する。
【0210】
構成例3によれば、スパン毎にXPM劣化を起こす励起光を実測により抽出し、前方励起および後方励起パワーの測定により、所定の励起制御時のスパンロスおよびパワー波長特性を判断している。加えて、受信信号の誤り率に基づき、テーブル番号に対応して励起光パワーを可変させる制御を行う。これにより、スパン毎に異なる伝送特性に対応し、光伝送路がDSF120の場合のXPMの影響を回避でき、受信信号の誤り率を向上させ、信号品質の劣化を防ぐことができる。
【0211】
(他の分散シフトファイバに対する励起制御例)
上述した実施の形態では、DSFに対する励起制御について説明した。以下の説明では、NZ-DSFであるTWRSと、ELEAFに対するXPM劣化を抑制する励起制御について説明する。TWRSは、True Wave RS(Reduced Slope)の略であり、ELEAFは、Enhanced Large Effective Area Fiberの略である。
【0212】
(TWRSとELEAFの波長分散特性)
図21は、TWRSとELEAFの波長分散特性を示す図表である。
図21には、参考として波長1310nm付近で分散が零になるSMFと、波長1550nm付近で分散が零になるDSFの波長分散特性についても示してある。TWRSは、波長1452nm付近で分散が零になる波長分散特性を有し、ELEAFは、波長1499nm付近で分散が零になる波長分散特性を有している。これらNZ-DSFは、広く敷設されているファイバで、信号帯域としてCバンドとLバンドが用いられている。次に、これらTWRSとELEAFを光伝送路120に用いた場合の問題点について説明する。
【0213】
(TWRSの前方励起で生じるXPM劣化について)
図22A~
図22Cは、TWRSに対する前方励起ラマン増幅で生じる問題を説明する図表である。
図22Aには、TWRSの場合の零分散波長と、WDMの信号帯域(C-Band,L-band)と、励起波長の関係を示す。横軸は波長、縦軸は励起パワーである。便宜上、2次励起光PF2の短波長側から長波長側に波長(λ)別の番号1~5、1次励起光PF1の短波長側から長波長側に番号1~3を付している。
【0214】
図22Bには、TWRSの場合の零分散波長と、WDMの信号光の波長(C-band,L-band)と、励起波長の関係を示す。
図22B(a)に示すように、TWRSは、零分散(波長1452nm)を挟んで2次関数の遅延特性がある。この遅延特性を信号帯域と励起光の波長軸での配置の上に重ねると、
図22B(b)のようになる。
図22B(b)に示すように、C-bandのほぼ全帯域とL-bandの帯域の一部が2次励起光PF2の波長1,2,3,4と同じ遅延量になり、同じ速さでファイバを伝送することになる。TWRSのファイバ内で起きるXPMは、同じ速さで伝送する光の間で強く発生するため、信号光は2次励起光PF2から大きなXPMの影響を受ける。
【0215】
図22Cは、信号と励起光の零分散からの距離をわかりやすくするために、
図22B(b)を零分散からの距離に配置し直したものである。横軸は、左端が波長0とした零分散波長からの距離(波長)を示す。
【0216】
図22Cに示すように、
図22B(b)の各波長の信号が零分散波長λ0で折り返した形になっている。
図22Cの例では、Cバンドの信号帯域全体と、Lバンドの短波長側が2次励起光PF1の波長1,2,3,4に重なっており、XPMを起こす波長であることが示されている。
【0217】
図23は、XPMによるQ値の劣化を示す図表である。
図23には、
図22Cに示した励起光の波長配置の場合のQ値の波長特性を示す。縦軸はQ値、横軸は波長である。
図23に示すように、2次励起光PF2(波長1,2,3,4)と遅延量が同じになる信号帯域でQ値にdipが生じて大きく劣化する。2次励起光PF2は、パワー密度が大きいため、XPMの影響が非常に大きくなり、信号光Sの信号品質を大きく劣化させてしまうという問題がある。
【0218】
(ELEAFの前方励起で生じるXPM劣化について)
図24A~
図24Cは、ELEAFに対する前方励起ラマン増幅で生じる問題を説明する図表である。
図24Aには、ELEAFの場合の零分散波長と、WDMの信号帯域(C-Band,L-band)と、励起波長の関係を示す。横軸は波長、縦軸は励起パワーである。便宜上、2次励起光PF2の短波長側から長波長側に波長(λ)別の番号1~5、1次励起光PF1の短波長側から長波長側に番号1~3を付している。
【0219】
図24Bには、ELEAFの場合の零分散波長と、WDMの信号光の波長(C-band,L-band)と、励起波長の関係を示す。
図24B(a)に示すように、TWRSは、零分散(波長1499nm)を挟んで2次関数の遅延特性がある。この遅延特性を信号帯域と励起光の波長軸での配置の上に重ねると、
図24B(b)のようになる。
図24B(b)に示すように、C-bandの帯域の一部とL-bandの帯域の一部が1次励起光1,2と、2次励起光PF2の波長5と同じ遅延量になり、同じ速さでファイバを伝送することになる。TWRSのファイバ内で起きるXPMは、同じ速さで伝送する光の間で強く発生するため、信号光はこれら1次励起光PF1と2次励起光PF2から大きなXPMの影響を受ける。
【0220】
図24Cは、信号と励起光の零分散からの距離をわかりやすくするために、
図24B(b)を零分散からの距離に配置し直したものである。横軸は、左端が波長0とした零分散波長からの距離(波長)を示す。
【0221】
図24Cに示すように、
図24B(b)の各波長の信号が零分散波長λ0で折り返した形になっている。
図24Cの例では、Cバンドの長波長側が1次励起光PF1の波長2に重なり、Cバンドの短波長側が1次励起光PF1の波長1に重なっている。また、Lバンドの長波長側が1次励起光の波長1に重なり、Lバンドの短波長側が2次励起光の波長5に重なっており、XPMを起こす波長であることが示されている。
【0222】
図25は、XPMによるQ値の劣化を示す図表である。
図25には、
図24Cに示した励起光の波長配置の場合のQ値の波長特性を示す。縦軸はQ値、横軸は波長である。
図25に示すように、1次励起光PF1の波長1,2と、2次励起光PF2の波長5と遅延量が同じになる信号帯域でQ値にdipが生じて大きく劣化する。特に2次励起光PF2は、1次励起光に比べてパワー密度が大きいため、XPMの影響が非常に大きくなり、信号光Sの信号品質を大きく劣化させてしまうという問題がある。
【0223】
上記のように、NZ-DSFのTWRSと、ELEAFにおいても、XPMを起こす励起光によって信号光Sの信号品質が劣化する。特に、2次励起光は1次励起光に比べ、パワー密度が大きいため、信号品質を大きく劣化させる。このため、実施の形態では、XPMを起こす励起光について、消光または光パワーの低減を行って、劣化を起こさないようにする。また、前方励起ラマン利得をある程度確保し、前方励起ラマンによる伝送特性の改善が期待できるようにする。
【0224】
例えば、実施の形態では、前方励起の2次励起光PF2がXPMを起こす場合、劣化量が非常に大きいので該当する波長の光を消光させる。また、1次励起光PF1がXPMを起こす場合、該当する波長の励起光が1波である場合は消光させ、複数ある場合は、零分散に近いほうの波長は消光させ、零分散から遠いものはパワーを所定量、例えば50%以下に低減させる。
【0225】
前方励起における適切なパワー低減量については事前に計算で求めることができるが、実測データに基づき予測することとしてもよい。そして、前方励起の励起パワーを低減させたことによる利得の低下は、前方励起光源間の利得調整と後方ラマンの利得波長特性を調整することで補償する。例えば、前方励起光源間の利得調整とは、2次励起光PF2の消光に伴う利得の不足を、対応する1次励起光PF1のパワーの上昇で補うことを含む。
【0226】
(TWRSに対する励起制御例)
図26は、TWRSに対する励起制御例を示す説明図である。横軸は波長、縦軸は光パワーである。
図26(a)は、XPM対策を施す前の励起光と信号帯域の関係を示す図表、
図26(b)は、XPM対策を施した後の励起光と信号帯域の関係を示す図表である。
【0227】
図26(a)に示すように、TWRSでは、2次励起光PF2の波長1,2,3,4が、信号帯域(Cバンドの帯域全体とLバンドの一部の帯域)XPMを起こす。このため、光伝送装置110は、
図26(b)に示すように、2次励起光PF2の波長1,2,3,4を消光制御して信号劣化を抑える。また、この2次励起光PF2の波長1,2,3,4の消光に伴うラマン利得の低下を補うために、光伝送装置110は、1次励起光PF1(波長1,2,3)のパワーを上昇させる制御を行う。
【0228】
なお、
図26(c),(d)は、それぞれ
図26(a),(b)に示した信号光Sの信号帯域と、励起光とを、波長軸上で零分散波長からの距離に配置し直したものである。横軸は零分散波長からの距離(波長)、縦軸は光パワーである。
図26(c)は、XPM対策を施す前の励起光と信号帯域の関係を示し、
図26(d)は、XPM対策を施した後の励起光と信号帯域の関係を示す図表である。
【0229】
図27は、XPM対策前後のラマン利得を示す図表である。横軸は波長、縦軸は利得である。
図27(a)は、XPM対策前のラマン利得のチャネル依存性を示し、
図27(b)は、XPM対策後のラマン利得のチャネル依存性を示す。
【0230】
図27(a)に示すXPM対策前においては、TWRS伝送において、前方励起のみ、後方励起のみ、前方励起+後方励起、のいずれにおいても、波長帯全体の利得が平坦であり、ラマン利得にチャネル依存性は生じていないことが示されている。
図27(a)に対し、
図27(b)に示すXPM対策後には、ラマンの利得の波長依存性が変化している。
【0231】
実施の形態の光伝送装置110は、
図27(b)に示すように、2次励起光PF2の消光に伴う利得の不足が生じるため、1次励起光PF1のパワーを大きくして補償する。ここで、
図27(a)に示す2次励起光PF2がある場合に比べ、
図27(b)では、短波長側につれて次第に利得が不足し(-ΔD)、長波長側の利得も若干不足が生じているため、この不足分(-ΔD)に対応して後方ラマンPBで利得を補償(+ΔD)する。これにより、XPM対策後の励起制御(前方励起と後方励起)によるラマン利得(図中実線)の平坦性を確保できるようになる。
【0232】
図28は、XPM対策前後のQ値を示す図表である。横軸は波長、縦軸はQ値である。
図28(a)は、XPM対策前のQ値の波長依存性を示し、
図28(b)は、XPM対策後のQ値の波長依存性を示す。
【0233】
図28(a)に示すXPM対策前においては、TWRS伝送において、2次励起光PF2(波長1,2,3,4)と遅延量が同じになる信号帯域でQ値にdipが生じて大きく劣化する。これに対し、実施の形態の光伝送装置110は、
図28(b)に示すように、大きなQ値の劣化を抑えることができている。
【0234】
(ELEAFに対する励起制御例)
図29は、ELEAFに対する励起制御例を示す説明図である。横軸は波長、縦軸は光パワーである。
図29(a)は、XPM対策を施す前の励起光と信号帯域の関係を示す図表、
図29(b)は、XPM対策を施した後の励起光と信号帯域の関係を示す図表である。
【0235】
図29(a)に示すように、ELEAFでは、1次励起光PF1の波1,2と、2次励起光PF2の波長5が、CバンドとLバンドの信号帯域にXPMを起こす。このため、光伝送装置110は、
図29(b)に示すように、2次励起光PF2の波長5は消光制御する。また、光伝送装置110は、1次励起光PF1のうち零分散に近い1次励起光OF1の波長2は消光し、1次励起光PF1の波長1はパワーを所定量、例えば、50%以下に低下させる制御を行う。また、2次励起光PF2の波長5の消光に伴うラマン利得の低下を補うために、光伝送装置110は、1次励起光PF1の波長3のパワーを上昇させる制御を行う。
【0236】
なお、
図29(c),(d)は、それぞれ
図29(a),(b)に示した信号光Sの信号帯域と、励起光とを、波長軸上で零分散波長からの距離に配置し直したものである。横軸は零分散波長からの距離(波長)、縦軸は光パワーである。
図29(c)は、XPM対策を施す前の励起光と信号帯域の関係を示し、
図29(d)は、XPM対策を施した後の励起光と信号帯域の関係を示す図表である。
【0237】
図30は、XPM対策前後のラマン利得を示す図表である。横軸は波長、縦軸は利得である。
図30(a)は、XPM対策前のラマン利得のチャネル依存性を示し、
図30(b)は、XPM対策後のラマン利得のチャネル依存性を示す。
【0238】
図30(a)に示すXPM対策前においては、ELEAF伝送において、前方励起のみ、後方励起のみ、前方励起+後方励起、のいずれにおいても、波長帯全体の利得が平坦であり、ラマン利得にチャネル依存性は生じていないことが示されている。
図30(a)に対し、
図30(b)に示すXPM対策後には、ラマンの利得の波長依存性が変化している。
【0239】
実施の形態の光伝送装置110は、
図30(b)に示すように、2次励起光PF2の波長2の消光に伴い信号帯域の中央部での利得の不足(-ΔD)に対応して、後方ラマンPBで利得を補償(+ΔD)する。これにより、XPM対策後の励起制御(前方励起と後方励起)によるラマン利得(図中実線)の平坦性を確保できるようになる。
【0240】
図31は、XPM対策前後のQ値を示す図表である。横軸は波長、縦軸はQ値である。
図31(a)は、XPM対策前のQ値の波長依存性を示し、
図31(b)は、XPM対策後のQ値の波長依存性を示す。
【0241】
図31(a)に示すXPM対策前においては、ELEAF伝送において、1次励起光PF1の波長1,2と、2次励起光PF2の波長5と遅延量が同じになる信号帯域でQ値にdipが生じて大きく劣化している。これに対し、実施の形態の光伝送装置110は、
図31(b)に示すように、信号帯域中央部で前方励起ラマンの利得の不足の影響によりQ値に若干劣化があるが、大きなQ値の劣化は抑えることができている。
【0242】
(各種ファイバに対応した励起制御例)
図32は、実施の形態にかかる各種ファイバに対応した励起光制御例を示すフローチャートである。
図32には、上述したDSFに対する制御例(
図1F参照)を含めて記載してある。実施の形態では、DSF、TWRS、ELEAFのファイバ種別に応じて励起制御を変更する。
【0243】
図32の処理は、
図1F(制御例5)で説明した双方向励起制御システム100の第1の光伝送装置110Aの前方励起制御部150Aと、第2の光伝送装置110Bの後方励起制御部150Bとの連携により行うことができる。
【0244】
はじめに、前方励起制御部150Aと、後方励起制御部150Bは、それぞれファイバ種別情報を受け取る(ステップS3201)。ファイバ種別情報は、保守者等により手動入力されるほか、ネットワークを介して管理サーバ等から情報入力されることとしてもよい。
【0245】
次に、前方励起制御部150Aと、後方励起制御部150Bは、それぞれ入力されたファイバ種別を判別する(ステップS3202)。ここでは、光伝送路120のファイバ種別がSMFであるか否かを判定している。
【0246】
入力されたファイバ種別がSMFの場合には(ステップS3202:Yes)、前方励起制御部150Aは、SMF用励起パワー比率を適用した前方励起を行う(ステップS3203)。同様に、後方励起制御部150Bは、SMF用励起パワー比率を適用した前方励起を行う。例えば、前方励起制御部150Aの前方励起、および後方励起制御部150Bの後方励起の制御では、予めSMF用励起パワー比率をテーブル化したものを用いる。SMF用励起パワー比率テーブルは、前方励起および後方励起ともに、波長に対し平坦な利得特性を有する(例えば、
図1E(b)参照)。
【0247】
一方、入力されたファイバ種別がSMF以外の場合には(ステップS3202:No)、前方励起制御部150Aおよび後方励起制御部150Bは、それぞれ入力されたファイバ種別を判定する(ステップS3204)。
【0248】
ステップS3024において、入力されたファイバ種別がDSFの場合には(ステップS3204:DSF)、前方励起制御部150Aおよび後方励起制御部150Bは、DSF用励起パワー比率を適用した前方励起を行う(ステップS3205)。ステップS3205の処理は、
図1FのステップS104と同じ処理である。例えば、前方励起制御部150Aの前方励起、および後方励起制御部150Bの後方励起の制御では、予めDSF用励起パワー比率をテーブル化したもの参照して励起制御する。
【0249】
例えば、1.DSF用励起パワー比率テーブルには、前方励起について長波長側励起光源の消光(制御例1相当)、またはパワー低減(制御例2相当)が設定され、前方励起制御部150Aが参照して前方励起を制御する。対応して後方励起については、DSF用励起パワー比率テーブルには、長波長側励起光源のパワー増加が設定され、後方励起制御部150Bが参照して後方励起を制御する。
【0250】
このほか、2.DSF用励起パワー比率テーブルには、前方励起について長波長側で利得の下がる利得波長特性が設定され、前方励起制御部150Aが参照して前方励起を制御する。対応して後方励起については、DSF用励起パワー比率テーブルには、長波長側で利得の上がる利得波長特性が設定され、後方励起制御部150Bが参照して後方励起を制御する(制御例5(
図1E(c)参照)。
【0251】
また、ステップS3024において、入力されたファイバ種別がTWRSの場合には(ステップS3204:TWRS)、前方励起制御部150Aおよび後方励起制御部150Bは、TWRS用励起パワー比率を適用した前方励起を行う(ステップS3206)。
【0252】
例えば、前方励起制御部150Aは、2次励起光PF2の波長1~4を消光制御する。また、前方励起制御部150Aは、2次励起光PF2の消光に伴うラマン利得の低下を補うために、1次励起光PF1のパワーを上昇させる制御を行う(
図26参照)。また、後方励起制御部150Bは、前方励起の利得波長特性を補償する利得波長特性(
図27参照)に基づき、後方励起PBで利得補償する制御を行う。
【0253】
また、ステップS3024において、入力されたファイバ種別がELEAFの場合には(ステップS3204:ELEAF)、前方励起制御部150Aおよび後方励起制御部150Bは、ELEAF用励起パワー比率を適用した前方励起を行う(ステップS3207)。
【0254】
例えば、前方励起制御部150Aは、2次励起光PF2の波長5を消光制御する。また、前方励起制御部150Aは、1次励起光PF1のうち零分散に近い1次励起光PF1の波長2を消光制御し、1次励起光PF1の波長1はパワーを所定量、例えば、50%以下に低下させる制御を行う。また、前方励起制御部150Aは、2次励起光PF2の消光に伴うラマン利得の低下を補うために、1次励起光PF1の波長3のパワーを上昇させる制御を行う(
図29参照)。また、後方励起制御部150Bは、前方励起の利得波長特性を補償する利得波長特性(
図30参照)に基づき、後方励起PBで利得補償する制御を行う。
【0255】
前方励起制御部150Aと、後方励起制御部150Bは、ステップS3203、あるいはステップS3205~3207の制御により、ファイバ種別に対応した双方向励起制御を終了する。前方励起制御部150Aと、後方励起制御部150Bは、光伝送路120の運用中は、設定変更した双方向励起パワーに基づく励起制御を継続して実行する。
【0256】
XPMを起こす励起光波長は零分散波長に依存し、NZ-DSFはファイバ種別によって零分散波長が異なり、XPMを起こす励起光が異なる。実際の光伝送システムでは製造時期の近いファイバが敷設されており、ファイバ種別情報から、零分散波長はほぼ特定されるので、
図32に示した処理によって、XPMによる劣化を回避することができる。
【0257】
(零分散波長のばらつきに対応した励起制御例)
一方、製造時期がばらついているファイバ、または製造初期のファイバでは、零分散波長がばらついている可能性がある。以下の説明では、零分散波長がばらついているファイバでXPMを起こす励起光波長を特定し、XPMによる劣化を回避する励起制御例について説明する。
【0258】
XPMを起こす励起光波長は零分散波長に依存し、伝送路ファイバの零分散波長がばらついている可能性がある。以下に説明する実施の形態では、XPMを起こす励起光波長を特定した後、上述同様の励起光制御を行うことで、XPMによる劣化を回避する。
【0259】
図33は、XPM発生前後のスペクトルを示す波形図である。横軸は波長、縦軸は光パワーである。
図33(a)はXPMを受ける前の信号光Sの波形図、
図33(b)はXPMを受けた後の信号光Sの波形図である。励起光による信号光SへのXPMが起きた場合、
図33(b)に示すように、信号光Sの信号品質(Q値)の劣化が起きると同時に、雑音レベルNの劣化も生じる。特に、XPMを受けた信号光Sの波長λxでは、帯域幅(信号スペクトル)Wが広がり、雑音レベルNが大きくなりOSNRが劣化している。
【0260】
図34は、OSNRモニタによりXPM対策を行う光伝送システムの構成例を示す図である。
図34に示す光伝送システム3400において、上述した構成(
図8参照)と同じ構成部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0261】
光伝送システム3400は、例えば、
図8で説明したように、信号光Sに対する前方励起を行う第1の光伝送装置110Aと、後方励起を行う第2の光伝送装置110Bとを有する。また、統括制御部81を第2の光伝送装置110Bに配置する。
【0262】
図34において、
図8の構成と異なる点は、第1の光伝送装置110Aには、信号光Sの入力段にWSS3401と、ASE光源3402とを配置し、WSS3401の出力を光増幅器130Aに入力させている。また、第2の光伝送装置110B側には、光信号の出力段(光増幅器130Bの前段)に分波器3403を配置し、分波器3403を介してOCM3404で光信号Sを検出している。WSS3401に代えて、DGEQを配置してもよい。
【0263】
WSS3401、ASE光源3402、OCM3404は、統括制御部810に接続されている。統括制御部810は、例えば、光信号Sの非運用時(非伝送時)に、第1の光伝送装置110A側のWSS3401とASE光源3402を制御し、ASE光を用いてWSS3401により櫛形のダミー光(
図33(a)相当の波形)を生成し、送出する。
【0264】
そして、統括制御部810は、第2の光伝送装置110B側のOCM3404でダミー光を受信した際のOSNRを測定する。統括制御部810は、OSNRのモニタにより、
図33(b)相当の波形を取得できる。前方ラマン励起光の一波を発光させ、
図33の(b)のようなスペクトルに変化が生じ、OSNRの劣化が観測された場合、その励起光によってXPMが生じていることが分かる。第1の伝送装置110Aでの前方励起および第2の光伝送装置110Bでの後方励起、について励起光制御を行うことで、XPM劣化を解消させる。
【0265】
図35は、OSNRモニタによりXPM劣化の波長を検出する処理例のフローチャートである。
図35に示す処理は、統括制御部810の制御部の処理内容であり、統括制御部810は、例えば、信号光Sの非運用時に、第1の伝送装置110Aおよび第2の光伝送装置110Bの各部に対する制御を行う。
【0266】
なお、
図35では説明を簡単にするために、前方励起について、2次励起光PF2の波長(番号)を1,2,3,4,5とし、1次励起光PF1の波長(番号)を6,7,8とし、これらを励起光#N(N=1,2,3,…,8,Nmax=8)と表記している。
【0267】
はじめに、統括制御部810は、ASE光源3402とWSS3401を制御し、例えば、50GHzグリッドのCバンド、Lバンド帯のダミー光を生成し光伝送路に送出させる(ステップS3501)。次に、統括制御部810は、OCM3403で全ダミー光のOSNRを測定した結果を記録する(ステップS3502)。
【0268】
次に、統括制御部810は、波長の検出数Nを初期値0に設定する(ステップS3503)。そして、統括制御部810は、第1の光伝送装置110Aの前方励起の励起光#N+1を選択し発光させる(ステップS3504)。
【0269】
次に、統括制御部810は、OCM3404で全ダミー光のOSNRを測定した結果を記録する(ステップS3505)。次に、統括制御部810は、励起光がない場合とステップS3503の結果とのOSNRを比較し、劣化がある場合は該当する励起光の波長(番号#)にフラグを立てる(ステップS3506)。
【0270】
そして、統括制御部810はN=Nmaxであるかを判断する(ステップS3507)。NがNmaxに達していなければ(ステップS3507:No)、統括制御部810はステップS3504の処理に戻る。一方、NがNmaxに達すれば(ステップS3507:Yes)、統括制御部810はASE光源3402とWSS3401によるダミー光の送出を停止させ(ステップS3508)、以上の処理を終了する。
【0271】
図36は、XPM劣化の波長に対する励起制御例のフローチャートである。
図35で説明したXPM劣化を生じる波長の情報に基づき、統括制御部810が第1の伝送装置110Aの前方励起部140Aおよび第2の光伝送装置110Bの後方励起部140Bに対して行う制御例を説明する。
【0272】
はじめに、統括制御部810は、
図35で検出したXPM劣化を生じる励起光の波長の情報を取得する(ステップS3601)。次に、統括制御部810は、ステップS3601で取得した情報に基づき、前方励起について、XPMを起こす2次励起光PF2(番号#)の2次励起光源842bを消光制御する。また、統括制御部810は、XPMを起こす1次励起光PF1(番号#)については、零分散に最も近い波長(番号#)の1次励起光源842aは消光制御する。また消光以外の1次励起光源842aは所定量、例えば50%~100%)パワー低減の制御を行う(ステップS3602)。
【0273】
次に、統括制御部810は、前方励起について、XPMを起こさない励起光(番号#)について、ステップS3603で2次励起光PF2(番号#)を消光した場合、この消光した2次励起光PF2(番号#)に相当する1次励起光PF1(番号#)のパワーを上昇させて、利得が平坦にする制御を行う(ステップS3603)。
【0274】
さらに、統括制御部810は、ステップS3603で行った前方励起ラマンの利得を補償するように後方励起部140Bに対する利得を制御し(ステップS3604)、以上の制御を終了する。
【0275】
図37は、XPMを起こす1次励起光のパワー低減量の決定を説明する一例の図表である。
図37の横軸は1次励起光のパワー低減量、縦軸はOSNR劣化量である。ラマン利得を得るために設定した励起光パワーではXPMによって1.2dBのOSNR劣化が生じるが、励起光パワーを100%低下させることでこのOSNR劣化はなくなる。
【0276】
図36等で説明したように、実施の形態では、XPMを起こす1次励起光PF1については、零分散波長に一番近いものは消光制御している。また、それ以外の励起光については、XPMの影響が比較的小さいので、XPMの影響を抑えつつ、ラマン利得を確保するために所定量、例えば、50%~100%程度のパワー低減の制御を行っている。パワー低減の目安は、例えば、XPMによるOSNR低下0.3dBである。OSNR低下0.3dBとなるパワー低減は、OSNRをモニタしながら調整することができるが、実測したOSNR劣化量をもとに、OSNR低下0.3dBにするためのパワー低減量を予め予測できる。
【0277】
図37に示す実測のOSNR劣化量に対する1次励起光PF1のパワー低減量の関係は、設定テーブル3700として予め統括制御部810のメモリ1102等に記憶しておく、そして、統括制御部810は、設定テーブル3700を参照し、実測したOSNR劣化量に対応する1次励起光PF1のパワー低減量を決定する。
【0278】
以上説明した実施の形態の前方ラマン増幅器は、波長の異なる複数の励起光源を持つ、前方ラマン増幅器において、ファイバ種別に応じて、発光させる励起光源の数を変化させる。これにより、光伝送路に用いるファイバ種別に対応し、DSFおよび分散シフトファイバを用いた場合、XPM劣化させる波長の励起光源を消光する等により励起光源の数を減らし、信号光のXPM劣化を抑えることができ、信号光の信号品質を維持できるようになる。なお、光伝送路にSMFを用いた場合には、XPM劣化が生じないため、発光させる励起光源の数は変化させない。
【0279】
また、実施の形態の前方ラマン増幅器は、波長の異なる複数の励起光源を持つ、前方ラマン増幅器において、ファイバ種別に応じて、波長の異なる複数の励起光源間のパワー比率を変化させる。これにより、光伝送路に用いるファイバ種別に対応し、光伝送路にDSFおよび分散シフトファイバを用いた場合、XPM劣化させる波長の励起光源のパワー比率を低下させる等により信号光のXPM劣化を抑え、信号光の信号品質を維持できるようになる。
【0280】
また、実施の形態の前方ラマン増幅器は、波長の異なる複数の励起光源を持つ、前方ラマン増幅器において、ファイバ種別に応じて、利得の波長特性を変化させる。これにより、光伝送路に用いるファイバ種別に対応し、光伝送路にDSFおよび分散シフトファイバを用いた場合、XPM劣化させる励起光源の波長部分の利得を低くする特性を持たせる等により信号光のXPM劣化を抑え、信号光の信号品質を維持できるようになる。
【0281】
また、実施の形態の前方ラマン増幅器は、ファイバの零分散波長に応じて、発光させる励起光源の数を変化させる。例えば、光伝送路にDSFおよび分散シフトファイバを用いた場合、XPM劣化させる波長の励起光源を消光する等により励起光源の数を減らす。この他、予めDSFの場合にXPM劣化させる波長の励起光源を設置しないこととしてもよい。これにより、光伝送路に用いるファイバ種別に対応し、信号光のXPM劣化を抑えることができ、信号光の信号品質を維持できるようになる。
【0282】
また、実施の形態の前方ラマン増幅器は、ファイバの零分散波長に応じて、波長の異なる複数の励起光源間のパワー比率を変化させる。SMFとDSFとでは零分散波長が異なり、光伝送路がDSFの場合、零分散波長に応じて信号光の一部にXPM劣化が生じる。したがって、DSFのファイバの零分散波長に応じて、波長の異なる複数の励起光源間のパワー比率を変化させる。例えば、XPM劣化させる波長の励起光源のパワー比率を低下させる等により信号光のXPM劣化を抑えることができ、信号光の信号品質を維持できるようになる。
【0283】
また、実施の形態の前方ラマン増幅器は、ファイバの零分散波長に応じて、利得の波長特性を変化させる。SMFとDSFとでは零分散波長が異なり、光伝送路がDSFの場合、零分散波長に応じて信号光の一部にXPM劣化が生じる。したがって、DSFのファイバの零分散波長に応じて、利得の波長に対する傾斜を変化させる。例えば、XPM劣化させる波長の利得を低下させる等により信号光のXPM劣化を抑えることができ、信号光の信号品質を維持できるようになる。
【0284】
また、実施の形態の前方ラマン増幅器は、波長軸上で励起光波長を零分散波長に対して折り返した波長帯域内に信号光が存在する場合、その波長の励起光源のパワーをオフすることとしてもよい。この折り返しにより、信号光の帯域に重なる波長の励起光を消光することで、簡単に信号光のXPM劣化を抑えることができ、信号光の信号品質を維持できるようになる。
【0285】
また、実施の形態の前方ラマン増幅器は、波長軸上で励起光波長を零分散波長に対して折り返した波長帯域内に信号光が存在する場合、その波長の励起光パワー比率を、励起光波長を零分散波長に対して折り返した波長帯域内に信号光が存在しない波長の励起光パワー比率より、下げることとしてもよい。この折り返しにより、信号光の帯域に重なる波長の励起光パワー比率を、信号光に重ならない波長の励起光パワー比率より、下げることで、簡単に信号光のXPM劣化を抑えることができ、信号光の信号品質を維持できるようになる。
【0286】
また、実施の形態の双方向ラマンシステムは、上述した前方ラマン増幅器と、前方ラマン増幅器が発生させる利得の波長特性を補償するように、逆向きの利得の波長特性を発生させる後方ラマン増幅器とを含み構成してもよい。これにより、前方ラマン励起によるXPM劣化を抑えつつ。前方ラマンで低下した信号光の利得を後方ラマン励起により補償でき、信号品質を維持できるようになる。
【0287】
また、実施の形態の前方ラマン増幅器は、波長軸上で信号光の波長帯域をファイバの零分散波長に対して折り返した波長帯域に該当しない波長の励起光源を搭載する。この折り返しにより、励起光波長が重ならない波長の励起光源のみを搭載することで、簡単にXPM劣化を防ぐことができる。この場合、励起光源を設けない分、コスト削減できるようになる。
【0288】
また、実施の形態の前方ラマン増幅器は、さらに、波長軸上で励起光波長を零分散波長に対して折り返した波長帯域内に信号光が存在するような励起光源が複数存在する場合、零分散波長に近い励起光源ほど、パワー比率を小さくすることとしてもよい。これにより、XPMの影響を抑えつつ、ラマン利得を確保することができるようになる。
【0289】
また、実施の形態の前方ラマン増幅器は、さらに、励起光として、非コヒーレント励起光とコヒーレント光を用いた構成であって、さらに、コヒーレント励起光源と、非コヒーレント励起光源の両方について、波長軸上で励起光波長を零分散波長に対して折り返した波長帯域内に信号光が存在する場合、コヒーレント励起光源はオフし、非コヒーレント励起光源は、零分散波長に近い励起光源ほど、パワー比率を小さくすることとしてもよい。これにより、励起光として、非コヒーレント励起光とコヒーレント光を用いつつ、XPMの影響を抑えつつ、ラマン利得を確保することができるようになる。
【0290】
また、実施の形態の前方ラマン増幅システムは、前方ラマン増幅器を有する上流の局と、上流の局に光伝送路を介して接続され、後方ラマン増幅器を有する下流の局と、統括制御部と、を含む双方向ラマン増幅システムにおいて、上流の局は、ASE光を信号光のスペクトル形状に整形したダミー光を送出し、下流の局は、ダミー光のOSNRを測定し、測定結果に基づき、光伝送路の零分散波長を特定することとしてもよい。光伝送路に用いるファイバは製造時期別に零分散波長のばらついている可能性があるが、このばらつきがあっても光伝送路の種別毎の零分散波長を簡単に実測でき、種別に適合したラマン増幅を行うことができるようになる。
【0291】
また、実施の形態では、制御部を、複数の光伝送装置のいずれかに配置してもよい。制御部は、光伝送装置の外部に配置してもよいが、複数の光伝送装置のいずれかに配置することで、コスト削減を図ることができる。
【符号の説明】
【0292】
100,800,1300,1500,3400 光伝送システム
110 光伝送装置
120 光伝送路
130 光増幅器
140 励起部
140A 前方励起部
140B 後方励起部
141A,141B 合波器
142A,142B 励起光源
150A 前方励起制御部
150B 後方励起制御部
810 統括制御部
841A,841B 合波器
842a 1次励起光源
842b 2次励起光源
842c 励起光源
844a~844c 偏波カプラ
845a~845f 合波フィルタ
846a,846c 分波フィルタ
847a,847c 励起光モニタ
848a,848b 励起光制御部
861A,861B 分波器
862A 送信側信号光モニタ
862B 受信側信号光モニタ
900,1700 情報テーブル
1000 励起光パワー比率テーブル
1100 バス
1101 CPU
1102 メモリ
1103 ネットワークIF
1105 記録媒体
1501 送信機
1502 合波器
1503 分波器
1504 受信機
1505 誤り率測定部
1800 送信側励起光パワー比率テーブル
1900 受信側励起光パワー比率テーブル
3401 WSS
3402 ASE光源
3404 OCM
λ0 零分散波長
NW ネットワーク
PB 後方励起光
PF 前方励起光
S 信号光