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特開2024-58589耐プラズマ性コーティング膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058589
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】耐プラズマ性コーティング膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/08 20060101AFI20240418BHJP
   C23C 24/04 20060101ALI20240418BHJP
   C23C 28/04 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
C23C14/08 J
C23C24/04
C23C28/04
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023142954
(22)【出願日】2023-09-04
(31)【優先権主張番号】10-2022-0131973
(32)【優先日】2022-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】516020581
【氏名又は名称】コミコ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】KOMICO CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】イム,キ ソン
(72)【発明者】
【氏名】ジン,ジュ
【テーマコード(参考)】
4K029
4K044
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA04
4K029AA07
4K029AA21
4K029AA24
4K029BA43
4K029BA50
4K029BC01
4K029CA02
4K029CA09
4K029DB05
4K029DB10
4K029DB21
4K044AA11
4K044AB02
4K044BA12
4K044BA20
4K044BB03
4K044BB11
4K044BC02
4K044BC05
4K044CA13
4K044CA23
(57)【要約】
【課題】コーティング膜の結合力に優れるうえ、コーティング膜内の構造的欠陥の形成が抑制されて半導体製造工程中のコーティング膜の剥離又はパーティクルの発生を最小限に抑えることができる耐プラズマ性コーティング膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による耐プラズマ性コーティング膜の製造方法は、(a)コーティング対象物上に第1希土類金属化合物粉末を用いて物理気相蒸着工程によって下部コーティング層を形成するステップと、(b)第2希土類金属化合物粉末を搬送するステップと、(c)搬送された第2希土類金属化合物粉末を前記(a)ステップで形成された下部コーティング層に向かって噴射して上部コーティング層を形成するステップと、を含むことにより、構造的欠陥が少なく且つ物性が強化された耐プラズマ性コーティング膜を得ることができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)コーティング対象物上に第1希土類金属化合物粉末を用いて物理気相蒸着工程によって下部コーティング層を形成するステップと、
(b)第2希土類金属化合物粉末を搬送するステップと、
(c)搬送された第2希土類金属化合物粉末を前記(a)ステップで形成された下部コーティング層に向かって噴射して上部コーティング層を形成するステップと、を含み、
前記希土類金属化合物粉末は、イットリア(Y)、イットリウムのオキシフッ化物(YOF)、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)を含む群から選択され、
前記第1希土類金属化合物粉末と前記第2希土類金属化合物粉末とは同一成分であることを特徴とする、耐プラズマ性コーティング膜の製造方法。
【請求項2】
前記物理気相蒸着は、熱蒸着法、電子ビーム蒸発法及びスパッタリング法の中から選択されるいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載の耐プラズマ性コーティング膜の製造方法。
【請求項3】
前記下部コーティング層の厚さは0.1~10μmであることを特徴とする、請求項1に記載の耐プラズマ性コーティング膜の製造方法。
【請求項4】
前記第2希土類金属化合物粉末の平均直径(D50)は0.1~10μmであることを特徴とする、請求項1に記載の耐プラズマ性コーティング膜の製造方法。
【請求項5】
前記上部コーティング層の厚さは1~30μmであることを特徴とする、請求項1に記載の耐プラズマ性コーティング膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の耐プラズマ性コーティング膜の製造方法によって製造される耐プラズマ性コーティング膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐プラズマ性コーティング膜の製造方法に関し、より詳細には、半導体エッチング装備を含む半導体製造工程に適用される耐プラズマ性コーティング膜の製造方法及び耐プラズマ性コーティング膜に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代半導体は、軽薄短小(軽く、薄く、短く、小さいこと)の方向に進んでおり、モバイル時代に入り、より小さく且つ複雑になる電子機器に使用するためには半導体超微細工程が絶対に必要となる。
【0003】
特に、10nm以下の半導体素子、3D NANDフラッシュ、FinFET、MRAMなどの製造に必要なエッチング工程の難易度が益々高まっており、このための微細パターンエッチングなどの技術の開発が盛んに行われている。
【0004】
これにより、新しい素材のエッチング技術の開発と必要な物質のみを選択的にエッチングすることができるエッチング技術の重要性が増大すると予想され、このために、エッチング装備が極端な環境に耐えられる耐久性のある半導体部品が絶対的に必要である。
【0005】
つまり、超微細線幅工程に対応して高出力プラズマ(>10Kw)工程中で汚染発生を抑制するために、半導体部品に高密度のコーティングが必要である。
【0006】
一般に、半導体製造工程に使用される設備のチャンバ(chamber)は、絶縁のために陽極酸化(anodizing)処理したアルミニウム合金又はアルミナなどのセラミックバルクを用いて作られる。
【0007】
近年、化学気相蒸着(CVD)などを用いた蒸着設備やプラズマエッチングなどを用いたエッチング設備などの半導体製造工程に用いられるチャンバは、腐食性の高いガスやプラズマなどに対する耐食性の必要性がより高まるにつれて、このような高い耐食性を有するために、前記アルミニウム合金にアルミナなどのセラミックコーティング層をプラズマ噴射又は溶射(thermal spray)などの方法によって形成して製造している。
【0008】
また、チャンバ内で行われる半導体製造工程は、熱処理工程、化学気相蒸着などの高温工程が多数を占めるため、チャンバは、耐熱性も併せて有することが要求される。また、チャンバなどの半導体製造設備の部材は、絶縁性、耐熱性、耐食性、耐プラズマ性を必要とし、コーティング層と基材とが強い結合力を維持して前記コーティング層の剥離がないようにし、製造工程中にパーティクル(particle)発生及びこれによるウェーハ汚染を最小限に抑えることが必要である。
【0009】
このために、従来は、一般的に使用される化学気相蒸着法、物理気相蒸着法又はスパッタリングなどを適用した場合があるが、この場合においては、薄膜製造工程であるので、前記耐食性などの要件を満たす程度の厚膜を形成するには工程時間があまり長くかかるなど、経済性に劣るという問題点があり、基材とコーティング層との強い結合力を得ることも難しいという問題点がある。
【0010】
一方、エアロゾル蒸着は、セラミック粒子を含むエアロゾルをノズルから母材に向かって噴射し、前記母材に微粒子を衝突させ、その衝撃力を用いてセラミックコーティング膜を母材上に形成する方法であり、コーティングしようとする粉末を直接噴射するため高速コーティングが可能であり、分あたり30μm程度の高速コーティングが可能であり、回収に比例するため厚さ制御が可能である。
【0011】
しかし、エアロゾル蒸着は、コーティング膜と母材の表面との機械的噛み合いだけで形成された低い接着力により、長期間使用すると剥離などの問題点が生じる可能性があり、ドライエッチング工程時に使用されるCFプラズマイオンとラジカルによって皮膜がエッチングされてパーティクルが発生することでウェーハを汚染させるおそれがある。
【0012】
次に、本発明の技術が属する分野に存在する先行技術について簡略に説明し、本発明が差別的に成し遂げようとする技術的事項について説明する。
【0013】
韓国公開特許第10-2013-0123821号公報(2013年11月13日)は、耐プラズマ性コーティング膜に関するもので、耐プラズマ特性が要求されるコーティング対象体上に、酸化アルミニウム30~50重量%と酸化イットリウム50~70重量%で混入された溶射コーティング粉末をプラズマ溶射コーティングして形成された非晶質の第1コーティング膜を形成し、前記第1コーティング膜上にエアロゾル蒸着方法でより高い密度及び耐プラズマ特性を有する第2コーティング膜を形成して耐プラズマ特性、高い耐電圧特性及び高い電気抵抗性を付与した耐プラズマ性コーティング膜の製造技術について記載されている。
【0014】
また、韓国公開特許第10-2017-0080123号(2017年7月10日)は、耐プラズマ性コーティング膜に関するもので、具体的には、第1希土類金属化合物の溶射コーティング後、エアロゾル蒸着と水和処理による二重封止でコーティング層のオープンチャネル(open channel)と開気孔(open pore)を最小化して耐化学特性の確保、及び緻密な希土類金属化合物コーティング膜によるプラズマ耐食性の確保が同時に実現できる耐プラズマ性コーティング膜の製造技術について記載されている。
【0015】
しかしながら、前記先行文献によって製造された多層のコーティング層を含有する耐プラズマ性コーティング膜では、コーティング層間の結合力の低下により発生しうる剥離及びパーティクル発生問題が依然として残っており、耐久性及び長寿命特性を有する耐プラズマ性コーティング膜の製造技術が求められる。
【0016】
したがって、発明者は、このような耐プラズマ性コーティング膜の製造方法に限界性を感じ、コーティング層間の結合力を最適化させながら耐プラズマ性に優れた薄膜の製造方法に関する研究を重ねた結果、本発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2013-0123821号公報
【特許文献2】韓国公開特許第10-2017-0080123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の主な目的は、コーティング膜の結合力に優れるうえ、コーティング膜内の構造的欠陥の形成が抑制されて半導体製造工程中のコーティング膜の剥離又はパーティクルの発生を最小限に抑えることができる耐プラズマ性コーティング膜の製造方法を提供することにある。
【0019】
本発明の他の目的は、前記耐プラズマ性コーティング膜の製造方法を用いて、耐プラズマ性コーティング膜が形成された耐プラズマ性部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するために、本発明の一実施形態は、(a)コーティング対象物上に第1希土類金属化合物粉末を用いて物理気相蒸着工程によって下部コーティング層を形成するステップと、(b)第2希土類金属化合物粉末を搬送するステップと、(c)搬送された第2希土類金属化合物粉末を前記(a)ステップで形成された下部コーティング層に向かって噴射して上部コーティング層を形成するステップと、を含むことを特徴とする、耐プラズマ性コーティング膜の製造方法を提供する。
【0021】
本発明の好適な一実施形態において、前記第1希土類金属化合物粉末と前記第2希土類金属化合物粉末とは同一成分であってもよい。
【0022】
本発明の好適な一実施形態において、前記希土類金属化合物粉末は、イットリア(Y)、イットリウムのフッ化物(YF)、イットリウムのオキシフッ化物(YOF)、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)を含む群から選択されてもよい。
【0023】
本発明の好適な一実施形態において、前記物理気相蒸着は、熱蒸着法、電子ビーム蒸発法及びスパッタリング法の中から選択されるいずれかであってもよい。
【0024】
本発明の好適な一実施形態において、前記下部コーティング層の厚さは0.1~10μmであってもよい。
【0025】
本発明の好適な一実施形態において、前記第2希土類金属化合物粉末の平均直径(D50)は0.1~10μmであってもよい。
【0026】
本発明の好適な一実施形態において、前記上部コーティング層の厚さは1~30μmであってもよい。
【0027】
本発明の好適な別の実施形態において、本発明は、前記耐プラズマ性コーティング膜の製造方法によって製造される耐プラズマ性コーティング膜を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明による耐プラズマ性コーティング膜の製造方法は、第1希土類金属化合物を物理気相蒸着によって下部コーティング層に適用することにより、第2希土類金属化合物粉末を噴射して上部コーティング層を製造する段階で、第2希土類金属化合物粉末がコーティング対象物に加える衝撃を下部コーティング層が受け入れて、第2希土類金属化合物を含む上部コーティング層内に発生しうる構造的欠陥の発生を最小限に抑えることができる。
【0029】
本発明によって製造された耐プラズマ性コーティング膜は、コーティング膜内の構造的欠陥を最小限に抑えることにより、構造的欠陥で発生しうる気孔率が減少し、かつコーティング膜の物理的強度が向上する特性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】希土類化合物粉末がコーティング対象物上に噴射されて希土類金属化合物コーティング層を形成するときに生じるエネルギーの変換を示す模式図である。
図2】比較例1によって製造したコーティング膜の側面の電子走査顕微鏡(SEM)写真である。
図3】実施例1によって製造したコーティング膜の側面の電子走査顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
他に定義されない限り、本明細書で使用されたすべての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術分野で熟練した専門家によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使用された命名法は、当技術分野で周知であり、通常使用されるものである。
【0032】
本明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0033】
図1は、希土類化合物粉末がコーティング対象物上に噴射されて希土類金属化合物コーティング層を形成するときに生じるエネルギーの変換を示す模式図である。
【0034】
図1に示すように、希土類化合物粉末がコーティング対象物上に噴射されて希土類金属化合物コーティング層を形成するとき、希土類化合物粉末の運動エネルギーが熱エネルギー及び破砕エネルギーに変換されてコーティング対象物及びコーティング層にクラック等の構造的欠陥を生成することができる。
【0035】
このような問題点を克服するために、本発明は、希土類金属化合物コーティング層内に生じる構造的欠陥を最小限に抑えることにより、コーティング膜の気孔率が減少しかつコーティング膜の物理的強度が向上する特性を示すことができる耐フズマ性コーティング膜の製造方法を提供する。
【0036】
本発明の一観点から、耐フズマ性コーティング膜の製造方法は、(a)コーティング対象物上に第1希土類金属化合物粉末を用いて物理気相蒸着工程によって下層コーティング層を形成するステップと、(b)第2希土類金属化合物粉末を搬送するステップと、(c)搬送された第2希土類金属化合物粉末を前記(a)ステップで形成された下部コーティング層に向かって噴射して上部コーティング層を形成するステップと、を含み、前記第1希土類金属化合物粉末と前記第2希土類金属化合物粉末は同一成分であることを特徴とする。
【0037】
まず、本発明による耐プラズマ性コーティング膜の形成方法は、コーティング対象物上に第1希土類金属化合物粉末を用いて物理気相蒸着工程によって下部コーティング層を形成する[(a)段階]。
【0038】
前記第1希土類金属化合物を含む下部コーティング層が形成されるコーティング対象物は、プラズマ装置の内部に適用される静電チャック(electro static chuck)、ヒーター、チャンバライナー(chamber liner)、シャワーヘッド、CVD用ボート(boat)、フォーカスリング(focus ring)、ウォールライナー(wall liner)などのプラズマ装置部品であり、コーティング対象物の材質としては、鉄、マグネシウム、アルミニウム、これらの合金などの金属;SiO、MgO、CaCO、アルミナなどのセラミック;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンアジペート、ポリイソシアネートなどの高分子などであり得るが、これらに限定されるものではない。
【0039】
前記第1希土類金属化合物は、イットリア(Y)、イットリウムのフッ化物(YF)、イットリウムのオキシフッ化物(YOF)、YAG(イットリウムアルミニウムガーネット)又はこれらの混合物を含むことができ、具体的には、イットリア(Y)であることが好ましい。
【0040】
前記下部コーティング層をなす第1希土類金属化合物は、半導体工程中に晒されるプラズマに強い抵抗性を有することにより、半導体エッチング装備のように耐食性が要求される半導体装備部品に適用するとき、半導体工程のプラズマに対する耐食性及び耐電圧特性が確保できるようにする。
【0041】
前記コーティング対象物上への下部コーティング層の形成は、コーティング対象物とコーティング層間の強い結合力や耐食性などの要件を満たす程度のコーティング層を形成するための物理気相蒸着法であれば、制限なく適用可能であり、具体的には、前記物理気相蒸着は、熱蒸着法、電子ビーム蒸発法及びスパッタリング法の中から選択されるいずれかであり、好ましくは、電子ビーム蒸発法であり得る。
【0042】
前記(a)段階で第1希土類金属化合物を含む下部コーティング層は、第1希土類金属化合物がコーティング対象物に物理気相蒸着法でコーティングされて形成された層であり、下部コーティング層は、上部コーティング層が製造される工程でエッチングされるという問題点が発生するので、上部コーティング層を形成させる希土類金属化合物粉末の硬度が高いか、或いは希土類金属化合物粉末の熱処理温度が高いほど下部コーティング層の厚さを増加させることが好ましく、又は、上部コーティング層を形成させる工程でノズル角度が低いほど下部コーティング層のエッチング量が増加するので、下部コーティング層の厚さを増加させることが好ましい。
【0043】
一実施形態において、下部コーティング層の厚さは0.1~10μmであることが好ましく、もし下部コーティング層の厚さが0.1μm未満である場合には、下部コーティング層が部分的に形成されないという問題点が発生するおそれがあり、10μmを超える場合には、工程コストの増加が発生し、これにより経済性が低下するという問題点が発生する。
【0044】
その後、前記第2希土類金属化合物粉末の搬送のために搬送ガスを供給することにより、第2希土類金属化合物粉末を搬送する[(b)ステップ]。
【0045】
このとき、前記搬送ガスは、15~200slm(standard liter per minute)の流量で提供できる。前記搬送ガスは、例えば、アルゴンなどの不活性ガスを含むことができる。
【0046】
次いで、前記第2希土類金属化合物粉末がコーティング対象物上に形成された下部コーティング層に向かって噴射されることにより、第2希土類金属化合物を含む上部コーティング層が形成される。これにより、コーティング対象物及び希土類金属化合物コーティング膜を含む耐プラズマ部材が形成される[(c)ステップ]。
【0047】
前記第2希土類金属化合物は、イットリア(Y)、イットリウムのフッ化物(YF)、イットリウムのオキシフッ化物(YOF)、YAG(イットリウムアルミニウムガーネット)又はこれらの混合物を含むことができ、具体的には、イットリア(Y)であることが好ましい。
【0048】
このとき、前記下部コーティング層の構成成分である第1希土類金属化合物と前記上部コーティング層の構成成分である第2希土類金属化合物とは同一成分であることが好ましく、下部コーティング層と上部コーティング層を同一成分にしてコーティング膜の内部応力を最小限に抑えることにより、安定したコーティング膜を形成させることができる。
【0049】
本発明による熱処理工程によって、第2希土類金属化合物粉末は0.1~10μmの平均直径(D50)を有し、これにより、第2希土類金属化合物粉末は上部コーティング層の製造時にコーティング膜の密度、強度及び接着力が向上する。
【0050】
前記第2希土類金属化合物を含む上部コーティング層は、1.0~30μmの厚さ及び1.0vol%未満の気孔含有量を有する高密度の希土類金属化合物であることが好ましい。
【0051】
前記上部コーティング層は、気孔含有量が増加するほど、最終的に形成される耐プラズマ性コーティング膜の機械的強度が低下するという問題点が生じる。よって、前記第2希土類金属化合物を含む上部コーティング層は、耐プラズマコーティング膜の機械的強度確保のために気孔率が低く緻密であることが好ましい。
【0052】
ところが、一般に希土類金属化合物粉末が搬送ガスを用いて搬送された後、ノズルを介して真空チャンバ内で蒸着される蒸着法を用いてコーティング膜を形成する際に、コーティング膜の内部に数多くの結晶粒界(Grain bondary)を含むナノスケールの結晶構造を有し、蒸着時に発生する破砕エネルギーによりクラック等の構造的欠陥が生成されるので、低い機械的物性を有することが一般的である。
【0053】
従って、本発明は、第1希土類金属化合物を用いて物理気相蒸着で下部コーティング層に適用することにより、上部コーティング層を製造する段階で、第2希土類金属化合物粉末がコーティング対象物に加える熱エネルギー及び破砕エネルギーを下部コーティング層が受け入れ、コーティング膜内に発生しうる構造的欠陥の発生を最小限に抑えることができる。
【0054】
また、前記上部コーティング層の厚さが1μm未満である場合、その厚さが薄すぎてプラズマ環境で耐プラズマ性を確保し難く、前記上部コーティング層の厚さが30μmを超える場合には、加工時に上部コーティング層の剥離が発生するおそれがあり、ひいては希土類金属化合物が過度に使用されることにより経済的な損失が生じるおそれがある。
【0055】
前記上部コーティング層を形成するための第2希土類金属化合物粉末の搬送ガスを用いた蒸着は、一実施形態として、第2希土類金属化合物粉末を真空チャンバ内に装入し、下部コーティング層が形成されたコーティング対象物を蒸着チャンバ内に装着させる。このとき、前記真空チャンバから第2希土類金属化合物粉末が供給され、搬送ガスを介して蒸着チャンバに入射することにより噴射する。
【0056】
前記搬送ガスとしては、アルゴン(Ar)ガス以外にも、圧縮空気や、水素(H)、ヘリウム(He)又は窒素(N)などの不活性ガスなどが使用できる。第2希土類金属化合物粉末の供給装置と蒸着チャンバとの圧力差によって、搬送ガスと共に第2希土類金属化合物粉末は、蒸着チャンバ内に吸入されながら、ノズルを介して、下部コーティング層が形成されたコーティング対象物(母材)に向かって高速で噴射される。
【0057】
これにより、前記噴射によって第2希土類金属化合物が蒸着され、高密度の第2希土類金属化合物を含む上部コーティング層が形成される。前記第2希土類金属化合物コーティング層の蒸着面積は、ノズルを左右に移動させながら所望の大きさに制御が可能であり、その厚さも蒸着時間、すなわち噴射時間に応じて比例して決定される。
【0058】
前記上部コーティング層は、第2希土類金属化合物粉末を上述した蒸着方法を用いて2回以上繰り返し積層することにより形成することもできる。
【0059】
また、本発明は、前記耐プラズマ性コーティング膜の製造方法によって製造される耐プラズマ性コーティング膜を提供し、前記耐プラズマ性コーティング膜は、気孔率が低く、向上した物理的強度を示す。
【0060】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。しかし、下記の実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0061】
比較例1
低真空状態の真空チャンバで蒸着が行われ、最大到達真空度は10mTorrであり、搬送ガス供給時に形成される工程進行真空度は0.5~5Torrである。
【0062】
イットリア(Y)パウダーは供給装置を介して一定量均一に供給される。供給されるイットリア(Y)パウダーは数μm~数十μmであり、このとき、パウダー供給量は5~50g/minのレベルに管理される。
【0063】
供給されたパウダーは、搬送ガスの流動に巻き込まれて搬送され、最終的にチャンバ内のノズルを介して噴射される。このとき、供給される搬送ガスの流量は15~200SLMであり、ガスの種類はAr、N、Heなどの不活性ガスを使用する。
【0064】
搬送ガスの供給時にパウダー供給装置と真空チャンバとの間に生じる圧力差により、搬送ガスは真空チャンバ内に吸い込まれ、そのときに発生するガスの流動により、パウダーは搬送ガスと混合されて搬送される。
【0065】
搬送されたパウダー粒子は、圧力差によって加速され続け、ノズルを介して噴射されるときの速度は音速に達する。加速したパウダー粒子は母材と衝突し、このときに発生する衝突エネルギーに基づいて厚さ10μmのイットリアコーティング膜を形成した。
【0066】
実施例1~4
PVDコーティング層の厚さによって、ADコーティングのコーティング素材又は工程条件が変わりうる。PVDコーティング層の厚さが薄ければ、エッチング率(Etching rate)の低いコーティング材料或いは工程条件を使用しなければならない。エッチング率の高い材料又は工程条件の場合、PVDコーティングがすべてエッチングされることがあるため、PVDコーティングの厚さを上げなければならない。よって、ADコーティングの材料と工程条件によって、PVDコーティング層の厚さが0.5、1.0、1.5、3.0μmに変わるべきである。
【0067】
物理化学蒸着法のうちの電子ビーム蒸発法でコーティングされた下部層の実施例は、次の通りである。
【0068】
まず、アルミナ母材を鏡面研磨した後、原材料であるイットリア(Y)と共にコーティングチャンバに装入して高真空状態の雰囲気を維持する。このとき、チャンバの温度は300℃以下に維持する。
【0069】
チャンバが高真空に達すると、イットリア(Y)に電子ビームを照射してイットリアを融解(Melting)させて母材に蒸着させる。このとき、コーティング層の物理的特性を向上させるために、イオンアシスト(Ion Assist)を適用する。
【0070】
最終コーティング層の厚さが0.5、1.0、1.5、3.0μmとなるようにコーティング時間を調節してコーティングを行う。
【0071】
上述のように製造されたそれぞれの厚さのPVDコーティング上に比較例と同様の方法でADコーティングを蒸着する。
【0072】
【表1】
【0073】
前記表1に示すように、本発明による耐プラズマ性コーティング膜(実施例1~4)は、PVD下部コーティング膜を含まないコーティング膜(比較例1)に比べて、構造的欠陥で発生しうるADコーティング層の気孔率が減少し、かつコーティング膜の物理的強度が向上する特性を示す。
【0074】
以上、本発明の内容の特定部分を詳細に記述したので、当業分野における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は好適な実施形態に過ぎず、これにより本発明の範囲が限定されるものではないのは明らかであろう。よって、本発明の実質的な範囲は、添付の特許請求の範囲とそれらの等価物によって定義されるというべきである。
図1
図2
図3