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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058596
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】偏光調整装置及びレーザ加工機
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/10 20060101AFI20240418BHJP
   B23K 26/067 20060101ALI20240418BHJP
   B23K 26/38 20140101ALI20240418BHJP
   B23K 26/062 20140101ALI20240418BHJP
   H01S 3/00 20060101ALN20240418BHJP
【FI】
H01S3/10
B23K26/067
B23K26/38 A
B23K26/062
H01S3/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023152528
(22)【出願日】2023-09-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2022164531
(32)【優先日】2022-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮平
【テーマコード(参考)】
4E168
5F172
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168CB03
4E168CB07
4E168DA02
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA36
4E168DA39
4E168DA60
4E168EA04
4E168EA13
4E168EA17
4E168KB02
5F172AM08
5F172NN28
5F172NR13
5F172ZZ01
(57)【要約】
【課題】ランダム偏光のレーザビームに含まれる2つの直線偏光の偏光方向を平行に揃えることができ、且つ、偏光方向を平行に揃えた2つのレーザビームの切断進行方向に対する異方性をなくす。
【解決手段】第1の光学素子は、ランダム偏光のレーザビームを、第1の偏光方向を有する第1の直線偏光と第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向を有する第2の直線偏光とに分離する。第2の光学素子は、第1の光学素子によって分離された第2の直線偏光の偏光方向を第1の偏光方向に変換する。アキシコンレンズは、第2の光学素子より射出された第2の直線偏光、または第2の光学素子に入射される第2の直線偏光をリング状に広げる。第3の光学素子は、第1の光学素子によって分離された第1の直線偏光と、アキシコンレンズによってリング状に広げられた第2の直線偏光とを同軸で射出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の偏光方向を有する第1の直線偏光と、前記第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向を有する第2の直線偏光とを含むランダム偏光のレーザビームを、前記第1の直線偏光と前記第2の直線偏光とに分離する第1の光学素子と、
前記第1の光学素子によって分離された前記第2の直線偏光の偏光方向を前記第1の偏光方向に変換する第2の光学素子と、
前記第2の光学素子より射出された前記第2の直線偏光、または前記第2の光学素子に入射される前記第2の直線偏光をリング状に広げるアキシコンレンズと、
前記第1の光学素子によって分離された前記第1の直線偏光と、前記アキシコンレンズによってリング状に広げられた前記第2の直線偏光とを同軸で射出する、前記第1の光学素子と兼用されている、または前記第1の光学素子とは別体の第3の光学素子と、
を備える偏光調整装置。
【請求項2】
前記第1の光学素子と前記第3の光学素子とを兼用する兼用光学素子を備え、
前記兼用光学素子は、入射された前記ランダム偏光のレーザビームにおける前記第1の直線偏光を反射させ、前記第2の直線偏光を透過させることによって、前記第1の直線偏光と前記第2の直線偏光とを分離する偏光分離領域を中心部に有し、前記偏光分離領域の周囲に前記第1の偏光方向の直線偏光を透過させる透過領域を有し、
前記第2の光学素子は、前記偏光分離領域を透過した前記第2の直線偏光を第1の円偏光に変換する1/4波長板と、前記第1の円偏光を反射させて第2の円偏光として射出する第1の反射ミラーとを有し、
前記1/4波長板は、前記第1の反射ミラーより反射された前記第2の円偏光を前記第1の偏光方向の前記第2の直線偏光に変換し、
前記偏光分離領域は、前記1/4波長板より射出された前記第2の直線偏光を反射させ、
前記アキシコンレンズは、前記偏光分離領域で反射した前記第2の直線偏光をリング状に広げ、
前記アキシコンレンズより射出された前記第2の直線偏光を反射する第2の反射ミラーをさらに備え、
前記アキシコンレンズは、前記第2の反射ミラーより反射された前記第2の直線偏光を前記透過領域に入射させ、
前記兼用光学素子は、前記偏光分離領域により反射した前記第1の直線偏光と、前記透過領域を透過した前記第2の直線偏光とを同軸で射出する
請求項1に記載の偏光調整装置。
【請求項3】
前記第3の光学素子は、
前記第1の光学素子とは別体であり、
入射されたレーザビームを透過させる透過領域を中心部に有し、前記透過領域の周囲に、入射されたレーザビームを反射させる反射領域を有し、
前記第1の光学素子は、前記ランダム偏光のレーザビームにおける前記第1の直線偏光を透過させて前記透過領域に入射させ、前記第2の直線偏光を反射させることにより前記第1の直線偏光と前記第2の直線偏光とを分離し、
前記第1の光学素子より反射された前記第2の直線偏光を反射させる第1の反射ミラーをさらに備え、
前記アキシコンレンズは、前記第1の反射ミラーより反射された前記第2の直線偏光をリング状に広げ、
前記アキシコンレンズより射出された前記第2の直線偏光を反射する第2の反射ミラーをさらに備え、
前記第2の光学素子は、
1/2波長板であり、
前記第2の反射ミラーより反射された前記第2の直線偏光の偏光方向を前記第1の偏光方向に変換して前記反射領域に入射させ、
前記第3の光学素子は、前記透過領域を透過した前記第1の直線偏光と、前記反射領域により反射した前記第2の直線偏光とを同軸で射出する
請求項1に記載の偏光調整装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の偏光調整装置と、
前記偏光調整装置より同軸で射出された前記第1の直線偏光及び前記第2の直線偏光の偏光方向を、被加工材にレーザビームを照射して前記被加工材を切断するときの切断進行方向と平行となるように制御する偏光方向制御機構と、
を備えるレーザ加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光調整装置及びレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工機は、レーザ発振器より射出されたレーザビームによって金属の被加工材を切断加工する。レーザ発振器が射出するレーザビームは、互いに直交する2つの直線偏光成分(以下、p偏光、s偏光と言う)を含むランダム偏光である。ランダム偏光のレーザビームにより切断加工を行う際の被加工材のレーザビームの吸収率は、レーザビームが被加工材へ入射する入射角度に応じて変化することが知られている。ランダム偏光のレーザビームの吸収率は、p偏光の吸収率とs偏光の吸収率の平均値となる。
【0003】
レーザ加工機による一般的な切断加工においては、レーザビームは被加工材に対して82度~88度の入射角度で入射されて、被加工材が切断される。被加工材の金属が鉄、レーザビームの波長が1μm帯である場合を例として、レーザビームの入射角が82度~88度であると、p偏光の吸収率が最大で90%程度となるのに対し、s偏光の吸収率は10%未満となる。ランダム偏光のレーザビームの吸収率はp偏光の吸収率とs偏光の吸収率との平均値となるため、ランダム偏光のレーザビームの吸収率は40%またはそれ以下となってしまい、被加工材を切断加工するときの加工効率を低下させる要因の一つとなっている。
【0004】
この問題を解決する方法として、特許文献1には、ランダム偏光のレーザビームに含まれる2つの直線偏光の偏光方向を平行に揃え、偏光方向が平行に揃った2つの直線偏光の偏光方向を、切断加工を行う方向(以下、切断進行方向と言う)と一致させるように制御するレーザ加工機が開示されている。直線偏光の偏光方向を切断進行方向と一致させることにより、カッティングフロントに対するレーザビームの偏光方向がp偏光となり、被加工材のレーザビームの吸収率がp偏光の吸収率となる。これにより、被加工材のレーザビームの吸収率が向上して加工効率を向上させることができる。なお、ここでのカッティングフロントとは、被加工材が溶融して切断されていくときの切断進行方向の非溶融領域と溶融領域との境界の切断面である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-266071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているレーザ加工機は、偏光方向が同一且つ波長が同一である2つの直線偏光のレーザビームを一つの集束レンズによって集束させて、被加工材に照射する。しかしながら、原理的に、偏光方向が同一且つ波長が同一の2つのレーザビームを同じ位置に集束させることはできない。したがって、実際には、2つのレーザビームを集束させる位置を異ならせて、2つのレーザビームを例えば横並びに隣接するように配置する必要がある。すなわち、偏光方向を平行に揃えた2つのレーザビームは互いに異なる2つの軸に沿って進行するため、2つのレーザビームは切断進行方向に対して異方性を有する。2つのレーザビームが切断進行方向に対する異方性を有すると、被加工材の切断進行方向が任意に変化するレーザ切断加工において切断品質が一定とならず、切断品質の低下を招くことがある。
【0007】
ランダム偏光のレーザビームに含まれる2つの直線偏光の偏光方向を平行に揃えることができ、且つ、偏光方向を平行に揃えた2つのレーザビームの切断進行方向に対する異方性をなくすことができる偏光調整装置、及びそのような偏光調整装置を備えるレーザ加工機の登場が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1またはそれ以上の実施形態の第1の態様は、第1の偏光方向を有する第1の直線偏光と、前記第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向を有する第2の直線偏光とを含むランダム偏光のレーザビームを、前記第1の直線偏光と前記第2の直線偏光とに分離する第1の光学素子と、前記第1の光学素子によって分離された前記第2の直線偏光の偏光方向を前記第1の偏光方向に変換する第2の光学素子と、前記第2の光学素子より射出された前記第2の直線偏光、または前記第2の光学素子に入射される前記第2の直線偏光をリング状に広げるアキシコンレンズと、前記第1の光学素子によって分離された前記第1の直線偏光と、前記アキシコンレンズによってリング状に広げられた前記第2の直線偏光とを同軸で射出する、前記第1の光学素子と兼用されている、または前記第1の光学素子とは別体であるの第3の光学素子と、を備える偏光調整装置である。
【0009】
1またはそれ以上の実施形態の第2の態様は、第1の態様の偏光調整装置と、前記偏光調整装置より同軸で射出された前記第1の直線偏光及び前記第2の直線偏光の偏光方向を、被加工材にレーザビームを照射して前記被加工材を切断するときの切断進行方向と平行となるように制御する偏光方向制御機構と、を備えるレーザ加工機である。
【発明の効果】
【0010】
1またはそれ以上の実施形態に係る偏光調整装置によれば、ランダム偏光のレーザビームに含まれる2つの直線偏光の偏光方向を平行に揃えることができ、且つ、偏光方向を平行に揃えた2つのレーザビームの切断進行方向に対する異方性をなくすことができる。1またはそれ以上の実施形態に係るレーザ加工機によれば、偏光方向を平行に揃えた異方性のない2つのレーザビームによって被加工材を加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1実施形態に係るレーザ加工機の全体的な構成例を示す図である。
図2図2は、第1実施形態に係る加工ヘッドの構成例を示す図である。
図3図3は、図2に示す加工ヘッドが備える特殊偏光ビームスプリッタの構成例を示す図である。
図4図4は、図2におけるレーザビームの偏光方向及び形状と、第1及び第2の直線偏光が同軸で射出されるときの第1及び第2の直線偏光の位置関係を示す図である。
図5図5は、図2に示す加工ヘッドが備えるレンズアレイの構成例を示す図である。
図6A図6Aは、被加工材の切断進行方向と、被加工材Wに照射されるレーザビームの偏光方向との関係を示す図である。
図6B図6Bは、被加工材の切断進行方向が曲線を描くときの切断進行方向と、被加工材Wに照射されるレーザビームの偏光方向との関係を示す図である。
図7A図7Aは、カッティングフロントの形状が半円状であるときの、カッティングフロントと偏光方向及び切断進行方向との関係を示す図である。
図7B図7Bは、カッティングフロントの形状が矩形状であるときの、カッティングフロントと偏光方向及び切断進行方向との関係を示す図である。
図8図8は、第2実施形態に係る加工ヘッドの構成例を示す図である。
図9図9は、図8におけるレーザビームの偏光方向及び形状と、第1及び第2の直線偏光が同軸で射出されるときの第1及び第2の直線偏光の位置関係を示す図である。
図10図10は、図8に示す加工ヘッドが備える特殊ミラーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1またはそれ以上の実施形態に係る偏光調整装置は、第1の光学素子、第2の光学素子、アキシコンレンズ、第3の光学素子を備える。
【0013】
第1の光学素子は、第1の偏光方向を有する第1の直線偏光と、第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向を有する第2の直線偏光とを含むランダム偏光のレーザビームを、第1の直線偏光と第2の直線偏光とに分離する。第2の光学素子は、第1の光学素子によって分離された第2の直線偏光の偏光方向を第1の偏光方向に変換する。アキシコンレンズは、第2の光学素子により射出された第2の直線偏光、または第2の光学素子に入射される第2の直線偏光を、リング状に広げる。第3の光学素子は、第1の光学素子によって分離された第1の直線偏光と、アキシコンレンズによってリング状に広げられた第2の直線偏光とを同軸で射出する。第3の光学素子は、第1の光学素子と兼用されている、または第1の光学素子とは別体である。
【0014】
[第1実施形態]
以下、第1実施形態に係る偏光調整装置及びレーザ加工機について、図面を参照して具体的に説明する。
【0015】
図1は、第1実施形態に係る偏光調整装置を備えるレーザ加工機100の全体的な構成例を示す図である。図1において、レーザ加工機100は、レーザビームによって被加工材Wを切断加工する加工機である。加工対象の被加工材Wは例えば軟鋼板である。被加工材Wは、ステンレス鋼等の軟鋼板以外の鉄系の板金であってもよいし、アルミニウム、アルミニウム合金、銅等の鉄系以外の板金であってもよい。
【0016】
図1に示すように、レーザ加工機100は、レーザビームを生成して射出するレーザ発振器10と、レーザ加工ユニット20と、レーザ発振器10より射出されたレーザビームをレーザ加工ユニット20へと伝送するプロセスファイバ12とを備える。また、レーザ加工機100は、NC(数値制御:Numerical Control)装置50と、アシストガス供給装置60とを備える。NC装置50は、レーザ加工機100の各部を制御する制御装置の一例である。
【0017】
レーザ発振器10としては、レーザダイオードより発せられる励起光を増幅して所定の波長のレーザビームを射出するレーザ発振器、またはレーザダイオードより発せられるレーザビームを直接利用するレーザ発振器が好適である。レーザ発振器10は、例えば、固体レーザ発振器、ファイバレーザ発振器、ディスクレーザ発振器、ダイレクトダイオードレーザ発振器(DDL発振器)である。
【0018】
レーザ発振器10は、波長900nm~1100nmの1μm帯のレーザビームを射出する。ファイバレーザ発振器及びDDL発振器を例とすると、ファイバレーザ発振器は、波長1060nm~1080nmのレーザビームを射出し、DDL発振器は、波長910nm~950nmのレーザビームを射出する。
【0019】
プロセスファイバ12は、レーザ発振器10より射出されたレーザビームをレーザ加工ユニット20へと伝送する。なお、第1実施形態においてプロセスファイバ12で伝送されるレーザビームは、第1の偏光方向を有する第1の直線偏光と、第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向を有する第2の直線偏光とを含むランダム偏光のレーザビームである。
【0020】
レーザ加工ユニット20は、プロセスファイバ12によって伝送されたレーザビームを用いて、被加工材Wを切断する。レーザ加工ユニット20は、被加工材Wを載せる加工テーブル21と、門型のX軸キャリッジ22と、Y軸キャリッジ23と、加工ヘッド30Aとを有している。X軸キャリッジ22は、加工テーブル21上でX軸方向に沿って移動自在に構成されている。Y軸キャリッジ23は、X軸キャリッジ22上でX軸に垂直なY軸方向に沿って移動自在に構成されている。X軸キャリッジ22及びY軸キャリッジ23は、加工ヘッド30Aを被加工材Wの表面に沿って、X軸方向、Y軸方向、または、X軸とY軸との任意の合成方向に移動させる移動機構として機能する。
【0021】
加工ヘッド30Aは、プロセスファイバ12によって伝送されたレーザビームを被加工材Wに照射する。加工ヘッド30Aの詳細な構成については、図2図4を参照して後述する。加工ヘッド30Aの先端には、レーザビームを射出するノズル24が着脱自在に取り付けられている。ノズル24の先端部には円形の開口25が設けられており、レーザビームは開口25から被加工材Wに照射される。
【0022】
加工ヘッド30Aは、Y軸方向に移動自在のY軸キャリッジ23に固定され、Y軸キャリッジ23は、X軸方向に移動自在のX軸キャリッジ22に設けられている。よって、加工ヘッド30A、即ち、レーザビームを被加工材Wに照射する位置を、被加工材Wの面(X軸方向及びY軸方向)に沿って移動させることができる。なお、加工ヘッド30Aを被加工材Wの面に沿って移動させる構成に代えて、加工ヘッド30Aの位置を固定したまま、被加工材Wを移動する構成であってもよい。レーザ加工機100は、被加工材Wの面に対して加工ヘッド30Aを相対的に移動させる移動機構を備えていればよい。
【0023】
NC装置50は、加工プログラムデータベース(図示せず)より、被加工材Wを切断加工するための加工プログラムと、加工プログラムに対応して、後述する第1のモータ41及び第2のモータ42を制御するための情報とを読み出す。
【0024】
加工プログラムには、加工条件の設定、レーザビームの射出開始及びレーザビームの射出停止、加工ヘッド30Aの移動経路(切断加工経路)等の、被加工材Wを切断加工するために必要なレーザ加工機100の一連の動作を規定するコードが記述されている。NC装置50は、読み出した情報に基づいて、第1のモータ41及び第2のモータ42を制御しつつ、加工プログラムに基づいて被加工材Wを切断加工するようX軸キャリッジ22及びY軸キャリッジ23を制御する。
【0025】
アシストガス供給装置60は、被加工材Wの加工時に、アシストガスを加工ヘッド30Aに供給する。アシストガスは、窒素、酸素、窒素と酸素との混合気体、または空気である。例えば、被加工材Wがステンレス鋼であれば窒素がアシストガスとして用いられ、被加工材Wが軟鋼板であれば酸素がアシストガスとして用いられる。アシストガスは、ノズル24の開口25から被加工材Wに対して垂直な方向に吹き付けられる。アシストガスは、被加工材Wが溶融した切断溝内の溶融金属を排出する。
【0026】
[加工ヘッド30Aの構成例]
図2図5を参照して、加工ヘッド30Aの詳細な構成例について説明する。図2は、加工ヘッド30Aの構成例を示す。図2に示すように、加工ヘッド30Aは、コリメートレンズ31、特殊偏光ビームスプリッタ32、1/4波長板33、第1の反射ミラー34、アキシコンレンズ35、第2の反射ミラー36を有する。図2における特殊偏光ビームスプリッタ32、1/4波長板33、第1の反射ミラー34、アキシコンレンズ35、第2の反射ミラー36は、第1の偏光方向を有する第1の直線偏光L1と、第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向を有する第2の直線偏光L2とを含むランダム偏光のレーザビームLにおける第1の直線偏光L1を第1の直線偏光L1として射出し、第2の直線偏光L2を第1の偏光方向を有する第2の直線偏光L22に変換して射出する偏光調整部(偏光調整装置)として機能する。
【0027】
第1実施形態においては、特殊偏光ビームスプリッタ32は、第1の光学素子と第3の光学素子とを兼用する兼用光学素子として機能する。また、1/4波長板33及び第1の反射ミラー34は、第2の光学素子として機能する。また、加工ヘッド30Aは、1/2波長板37、1/2波長板37を回転させる第1のモータ41、レンズアレイ38、レンズアレイ38を回転させる第2のモータ42、集束レンズ39を有する。なお、図2において、中心が黒の二重丸は第1の直線偏光を示し、両矢印は第2の直線偏光を示す。
【0028】
コリメートレンズ31は、プロセスファイバ12の射出端より射出された発散光のレーザビームが入射される。コリメートレンズ31に入射される発散光のレーザビームは、第1の偏光方向を有する第1の直線偏光L1と、第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向を有する第2の直線偏光L2とを含むランダム偏光のレーザビームLである。コリメートレンズ31は、入射されたランダム偏光のレーザビームLを平行光(コリメート光)に変換する。コリメートレンズ31によりコリメート光に変換されたランダム偏光のレーザビームLは、特殊偏光ビームスプリッタ32へ入射する。特殊偏光ビームスプリッタ32は光軸に対して面が45度の角度となるように配置されている。
【0029】
図3は、特殊偏光ビームスプリッタ32の構成例を示す。図3に示すように、特殊偏光ビームスプリッタ32は、中心部に楕円状の偏光分離領域321を有し、偏光分離領域321の周囲に透過領域322を有する。図4は、図2におけるレーザビームの偏光方向及び形状と、第1及び第2の直線偏光L1、L2が同軸で射出されるときの第1及び第2の直線偏光L1、L2の位置関係を示す。図4は、ランダム偏光のレーザビームL、第1の直線偏光L1、及び第2の直線偏光L2、L21、L22の外形を模式的に示している。また、図4のランダム偏光のレーザビームL、第1の直線偏光L1、及び第2の直線偏光L2、L21、L22の中の矢印は、単に各々のレーザビームの偏光方向を模式的に示すものであり、矢印の長さの違いに特に意味はない。
【0030】
偏光分離領域321は、入射されたランダム偏光のレーザビームLにおける第1の直線偏光L1を反射させ、第2の直線偏光L2を透過させることによって、図4に示すように、ランダム偏光のレーザビームLにおける第1の直線偏光L1と第2の直線偏光L2とを分離する偏光ビームスプリッタである。透過領域322には反射防止コーティングが施されており、透過領域322は入射されたレーザビームを透過させる。
【0031】
コリメートレンズ31より射出されたランダム偏光のレーザビームLは、特殊偏光ビームスプリッタ32の偏光分離領域321へ入射する。偏光分離領域321は、ランダム偏光のレーザビームLに含まれる第1の直線偏光L1をX軸及びY軸に垂直なZ軸方向下方に向けて反射させる。また、偏光分離領域321は、ランダム偏光のレーザビームLに含まれる第2の直線偏光L2を透過させて、1/4波長板33へ入射させる。
【0032】
1/4波長板33は、特殊偏光ビームスプリッタ32と、第1の反射ミラー34との間に配置され、特殊偏光ビームスプリッタ32の偏光分離領域321を透過した第2の直線偏光L2を、第1の円偏光に変換する。1/4波長板33は例えば水晶により形成され、1/4波長板33に入射して透過するレーザビームの位相遅れが90°+n×360°(nは整数)となるように構成されることが好ましい。1/4波長板33は、例えば互いに直交する方向に光学軸を持つように2枚の水晶板が貼り合わされることにより作製されてもよい。1/4波長板33により変換された第1の円偏光は、第1の反射ミラー34へ入射する。
【0033】
第1の反射ミラー34は、入射された第1の円偏光を反射して、第1の円偏光と位相が反転した第2の円偏光として射出する。第1の反射ミラー34より射出された第2の円偏光は、1/4波長板33へ入射する。1/4波長板33は、第1の反射ミラー34で反射した第2の円偏光を、第1の偏光方向に変換する。
【0034】
以上のような構成により、1/4波長板33及び第1の反射ミラー34は、特殊偏光ビームスプリッタ32によって分離された第2の直線偏光L2を、図4に示すように、第1の偏光方向を有する第2の直線偏光L21に変換する。1/4波長板33より射出された第2の直線偏光L21は、特殊偏光ビームスプリッタ32の偏光分離領域321へ入射する。偏光分離領域321は、1/4波長板33より射出された第2の直線偏光L21を、Z軸方向上方に向けて反射させる。
【0035】
アキシコンレンズ35は、特殊偏光ビームスプリッタ32と、第2の反射ミラー36との間に配置されている。特殊偏光ビームスプリッタ32から見て、アキシコンレンズ35におけるレーザビームの入射面は円錐状の傾斜面、射出面は平坦面となっている。アキシコンレンズ35の傾斜面は、特殊偏光ビームスプリッタ32の偏光分離領域321で上方に向けて反射した第2の直線偏光L21を、図4に示すように、リング状に広げる。なお、図4アキシコンレンズ35によりリング状に広げられた第2の直線偏光L22は、第2の反射ミラー36へ入射する。
【0036】
第2の反射ミラー36は、アキシコンレンズ35より射出されたた第2の直線偏光L22を反射する。第2の反射ミラー36で反射した第2の直線偏光L22は、アキシコンレンズ35の平坦面に入射して傾斜面より射出する。アキシコンレンズ35は、入射したリング状の第2の直線偏光L22をコリメート光に変換し、特殊偏光ビームスプリッタ32の透過領域322へ入射させる。
【0037】
透過領域322は、アキシコンレンズ35より射出されたリング状の第2の直線偏光L22を透過させる。透過領域322を透過した、リング状の第2の直線偏光L22は、図4に示すように、偏光分離領域321により反射した第1の直線偏光L1の外側に配置される。
【0038】
以上の構成により、偏光調整部は、特殊偏光ビームスプリッタ32の偏光分離領域321により下方に反射した第1の直線偏光L1の外側に、第1の偏光方向を有するリング状の第2の直線偏光L22を配置して、第1の直線偏光L1と第2の直線偏光L22とを同軸で射出する。これにより、ランダム偏光のレーザビームLに含まれる2つの直線偏光L1、L2の偏光方向を平行に揃えることができ、且つ、偏光方向を平行に揃えた2つのレーザビームの切断進行方向に対する異方性をなくすことができる。
【0039】
特殊偏光ビームスプリッタ32より同軸で射出された、第1の直線偏光L1及び第2の直線偏光L22は、1/2波長板37へ入射する。1/2波長板37は、特殊偏光ビームスプリッタ32より同軸で射出された第1の直線偏光L1及び第2の直線偏光L22の光路上に配置され、第1のモータ41(第1の回転機構)によりXY平面上で回転可能に構成される。
【0040】
第1のモータ41はNC装置50(第1の制御部)により制御され、1/2波長板37をXY平面上で回転させる。NC装置50は、1/2波長板37を透過した第1の直線偏光L1及び第2の直線偏光L22の偏光方向が、レーザ加工機100の切断進行方向と平行となるように、第1のモータ41を制御する。
【0041】
以上のように、1/2波長板37と、第1のモータ41と、NC装置50は、特殊偏光ビームスプリッタ32より射出された第1の直線偏光L1及び第2の直線偏光L22の偏光方向を、被加工材Wにレーザビームを照射して被加工材Wを切断するときの切断進行方向と平行となるように制御する偏光方向制御機構として機能する。
【0042】
レーザ加工機100は、ランダム偏光のレーザビームに含まれる第1の直線偏光L1と第2の直線偏光L2の偏光方向を第1の偏光方向に揃え、偏光方向が第1の偏光方向に揃えられたレーザビームにおける偏光方向を、切断進行方向と平行となるように制御する。レーザビームの偏光方向を切断進行方向と一致させることにより、被加工材Wが溶融して切断されていくときの切断進行方向の非溶融領域と溶融領域との境界の切断面であるカッティングフロントに対するレーザビームの偏光方向がp偏光となるため、被加工材Wのレーザビームの吸収率を向上させることができる。
【0043】
1/2波長板37より射出され、偏光方向が切断進行方向と平行となるように制御されたレーザビームは、レンズアレイ38へ入射する。レンズアレイ38は、1/2波長板37により偏光方向が切断進行方向と平行となるように制御されたレーザビームの光路上に配置され、第2のモータ42(第2の回転機構)により回転可能に構成される。
【0044】
図5は、レンズアレイ38の構成例を示す。図5に示すように、レンズアレイ38は、2次元配列された複数の矩形状のレンズ38aを含む。複数のレンズ38aの各々には、1/2波長板37により偏光方向が切断進行方向と平行となるように制御されたレーザビームが入射される。なお、複数のレンズ38aにおける各レンズ38aは、凸レンズであっても凹レンズであってもよく、レンズアレイ38は、複数のレンズ38aの全体が凸レンズと凹レンズとのうちのいずれか一方で構成される。
【0045】
集束レンズ39は、レンズアレイ38における各レンズ38aを透過したレーザビームを互いに重畳させるように集束させることにより、強度分布が均一な矩形状のレーザビームを被加工材Wの加工点WPに照射する。
【0046】
第2のモータ42はNC装置50(第2の制御部)により制御される。NC装置50は、レンズアレイ38及び集束レンズ39を透過して、被加工材Wの加工点WPに照射される矩形状のレーザビームにおける一辺が切断進行方向と平行となるように、第2のモータ42を制御する。なお、NC装置50が第1及び第2の制御部として機能しているが、第1のモータ41を制御する制御部と第2のモータ42を制御する制御部とが別々に設けられていてもよい。
【0047】
以上のように、レンズアレイ38と、第2のモータ42と、集束レンズ39と、NC装置50は、偏光方向制御機構により偏光方向が切断進行方向と平行となるように制御されたレーザビームを矩形状に整形し、矩形状に整形されたレーザビームにおける一辺が切断進行方向と平行となるように制御する矩形ビーム角度制御機構として機能する。
【0048】
図6Aは、被加工材Wの切断進行方向と、被加工材Wに照射されるレーザビームの偏光方向との関係を示している。図6Aは、特殊偏光ビームスプリッタ32より同軸で射出された第1の直線偏光L1及び第2の直線偏光L22が、レンズアレイ38により矩形状に整形され、被加工材に照射されるときのレーザビームの概形を示している。図6Aに示すように、偏光方向制御機構は、特殊偏光ビームスプリッタ32より同軸で射出され、レンズアレイ38により矩形状に整形された第1の直線偏光L1及び第2の直線偏光L22の偏光方向Pを、被加工材Wにレーザビームを照射して被加工材Wを切断するときの切断進行方向Dと平行となるように制御する。矩形ビーム角度制御機構は、偏光方向Pが切断進行方向Dと平行となるように制御されたレーザビームを矩形状に整形し、矩形状に整形されたレーザビームにおける一辺が切断進行方向と平行となるように制御する。
【0049】
図6Bは、被加工材Wの切断進行方向が曲線を描くときの切断進行方向と、被加工材Wに照射されるレーザビームの偏光方向との関係を示している。図6Bは、特殊偏光ビームスプリッタ32より同軸で射出された第1の直線偏光L1及び第2の直線偏光L22が、レンズアレイ38により矩形状に整形され、被加工材に照射されるときのレーザビームの概形を示している。図6Bは、被加工材Wの切断進行方向が曲線を描く場合の一例として、製品のコーナRを切断する場合を示している。図6Bに示すように、レーザ加工機100が被加工材Wの切断加工経路に沿ってコーナRの切断加工をする際、NC装置50は、第1及び第2のモータ41、42を制御して、偏光方向Pと矩形状に整形されたレーザビームの一辺が常に切断進行方向Dと平行となるように、1/2波長板37及びレンズアレイ38を回転させる。これにより、切断加工時に、カッティングフロントにおけるレーザビームの偏光方向P及びカッティングフロントにおいて矩形状に整形されたレーザビームの一辺が、常に切断進行方向と平行となる。
【0050】
図7Aは、加工ヘッド30Aがレンズアレイ38を備えないと仮定した場合の比較例であり、カッティングフロントの形状が半円状であるときの、カッティングフロントと偏光方向及び切断進行方向との関係を示している。図7Bは、加工ヘッド30Aがレンズアレイ38を備えることによりカッティングフロントの形状が矩形状であるときの、カッティングフロントと偏光方向及び切断進行方向との関係を示している。ここでのカッティングフロントの形状とは、被加工材Wの表面から見た、被加工材Wが溶融して切断されていくときの切断進行方向の非溶融領域と溶融領域との境界の形状である。
【0051】
図7Aに示すように、カッティングフロントの形状が半円状である場合には、レーザビームの偏光方向Pが切断進行方向Dと平行であったとしても、切断溝の幅方向の外側に近付くにしたがって、偏光方向Pがカッティングフロントに対して垂直に入射しなくなる。p偏光は、偏光方向Pがカッティングフロントに対して垂直な方向Nで入射するときに作用するため、切断溝の幅方向の外側に近付くにしたがって、p偏光の作用が弱くなり、被加工材Wのレーザビームの吸収率が低下する。
【0052】
これに対し、図7Bに示すように、カッティングフロントの形状が矩形状である場合には、レーザビームの偏光方向Pが切断進行方向Dと平行であれば、切断溝の幅方向のどの位置においても、偏光方向Pがカッティングフロントに対して垂直な方向Nで入射する。したがって、カッティングフロントに対して効率よくp偏光が作用し、被加工材Wのレーザビームの吸収率が向上する。
【0053】
従来のランダム偏光のレーザビームであって、カッティングフロントが半円状、すなわち断面形状が円形のレーザビームにより切断加工を行った場合の被加工材Wのレーザビームの吸収率と、本実施形態に係るレーザ加工機100において切断加工を行った場合の被加工材Wのレーザビームの吸収率とを、コンピュータ上のシミュレーションにより比較した。シミュレーションでは、レーザビームの波長を1.08μm、被加工材Wの材質を鉄、厚さを8mmとした。その結果、従来のレーザビームにより切断加工を行った場合の吸収率は約55%であった。これに対し、本実施形態に係るレーザ加工機100において切断加工を行った場合の被加工材Wのレーザビームの吸収率は約74%となり、約19%吸収率が向上することが確認された。
【0054】
[第1実施形態の作用効果]
以上説明したように、第1実施形態によれば、以下の作用効果が得られる。
【0055】
第1実施形態に係る偏光調整装置は、ランダム偏光のレーザビームLに含まれる、第1の偏光方向を有する第1の直線偏光L1と、第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向を有する第2の直線偏光L2の偏光方向を、第1の偏光方向に揃え、同軸で射出する。第1実施形態に係る偏光調整装置は、第1の光学素子(特殊偏光ビームスプリッタ32)の偏光分離領域321により反射した第1の直線偏光L1の外側に、第1の偏光方向を有するリング状の第2の直線偏光L22を配置して、第1の直線偏光L1と第2の直線偏光L22とを同軸で射出する。これにより、ランダム偏光のレーザビームLに含まれる2つの直線偏光L1、L2の偏光方向を平行に揃えることができ、且つ、偏光方向を平行に揃えた2つのレーザビームの切断進行方向に対する異方性をなくすことができる。
【0056】
また、第1実施形態に係る偏光調整装置を備えるレーザ加工機100は、偏光方向を平行に揃えた2つレーザビームにおける偏光方向を、切断進行方向と平行となるように制御する。偏光方向を切断進行方向と一致させることにより、カッティングフロントに対するレーザビームの偏光方向がp偏光となるため、被加工材Wのレーザビームの吸収率を向上させることができる。
【0057】
また、第1実施形態に係る偏光調整装置と、偏光方向制御機構を備えるレーザ加工機100は、偏光調整装置より同軸で射出された第1の直線偏光L1及び第2の直線偏光L22の偏光方向Pを、被加工材Wにレーザビームを照射して被加工材Wを切断するときの切断進行方向Dと平行となるように制御する。第1実施形態に係るレーザ加工機100の矩形ビーム角度制御機構は、偏光方向Pが切断進行方向Dと平行となるように制御されたレーザビームを矩形状に整形し、矩形状に整形されたレーザビームにおける一辺が切断進行方向と平行となるように制御する。
【0058】
これにより、偏光方向を平行に揃えた異方性のない2つのレーザビームによって被加工材Wを加工することができる。また、切断加工時に、カッティングフロントにおけるレーザビームの偏光方向P及びカッティングフロントにおいて矩形状に整形されたレーザビームの一辺が、常に切断進行方向と平行となる。切断溝の幅方向のどの位置においても、偏光方向Pがカッティングフロントに対して垂直な方向Nで入射する。したがって、カッティングフロントに対して効率よくp偏光が作用し、被加工材Wのレーザビームの吸収率が向上する。よって、切断加工時の加工効率が向上する。
【0059】
[第2実施形態]
以下、図8図10を参照して、第2実施形態に係る偏光調整装置及びレーザ加工機100を説明する。図8は、第2実施形態に係る加工ヘッド30Bの構成例を示す。図8において、図2と同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略することがある。第2実施形態に係るレーザ加工機100は、第1実施形態に係るレーザ加工機100と比べて、加工ヘッドの内部の構成に違いを有する。その他の構成は、第1実施形態に係るレーザ加工機100と同一である。よって、第2実施形態に係るレーザ加工機100においては、第1実施形態に係るレーザ加工機100と相違する部分を中心に説明し、同一部分については再度の説明を省略する。
【0060】
図8に示すように、加工ヘッド30Bは、コリメートレンズ31、偏光ビームスプリッタ71、第3の反射ミラー72、アキシコンレンズ73及び74、第4の反射ミラー75、1/2波長板76、特殊ミラー77を有する。図8における偏光ビームスプリッタ71、第3の反射ミラー72、アキシコンレンズ73及び74、第4の反射ミラー75、1/2波長板76、特殊ミラー77は、第1の偏光方向を有する第1の直線偏光L1’と、第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向を有する第2の直線偏光L2’とを含むランダム偏光のレーザビームL’における第1の直線偏光L1’を第1の直線偏光L1’として射出し、第2の直線偏光L2’を第1の偏光方向を有する第2の直線偏光L22’に変換して射出する偏光調整部(偏光調整装置)として機能する。
【0061】
第2実施形態においては、偏光ビームスプリッタ71は、第1の光学素子として機能する。また、1/2波長板76は、第2の光学素子として機能する。さらに、特殊ミラー77は、第1の光学素子とは別体の第3の光学素子として機能する。また、第2実施形態に係るレーザ加工機100の加工ヘッド30Bは、1/2波長板37、第1のモータ41、レンズアレイ38、第2のモータ42、第5の反射ミラー78、集束レンズ39を有する。なお、図8において、中心が黒の二重丸は第1の直線偏光を示し、両矢印は第2の直線偏光を示す。
【0062】
図8において、コリメートレンズ31は、プロセスファイバ12の射出端より射出された発散光のレーザビームが入射される。コリメートレンズ31に入射される発散光のレーザビームは、第1の偏光方向を有する第1の直線偏光L1’と、第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向を有する第2の直線偏光L2’とを含むランダム偏光のレーザビームL’である。コリメートレンズ31は、入射されたランダム偏光のレーザビームL’をコリメート光に変換する。コリメートレンズ31によりコリメート光に変換されたランダム偏光のレーザビームL’は、偏光ビームスプリッタ71へ入射する。
【0063】
図9は、図8におけるレーザビームの偏光方向及び形状と、第1及び第2の直線偏光L1’、L2’が同軸で射出されるときの第1及び第2の直線偏光L1’、L2’の位置関係を示す。図9は、ランダム偏光のレーザビームL’、第1の直線偏光L1’、及び第2の直線偏光L2’、L21’、L22’の外形を模式的に示している。また、図9のランダム偏光のレーザビームL’、第1の直線偏光L1’、及び第2の直線偏光L2’、L21’、L22’の中の矢印は、単に各々のレーザビームの偏光方向を模式的に示すものであり、矢印の長さの違いに特に意味はない。
【0064】
偏光ビームスプリッタ71は、ランダム偏光のレーザビームL’における第1の直線偏光L1’を透過させ、第2の直線偏光L2’を反射させることによって、図9に示すように、第1の直線偏光L1’と第2の直線偏光L2’とを分離する偏光ビームスプリッタである。
【0065】
偏光ビームスプリッタ71は、ランダム偏光のレーザビームL’に含まれる第1の直線偏光L1’を透過させ、特殊ミラー77へ入射させる。偏光ビームスプリッタ71を透過した第1の直線偏光L1’は、後述する特殊ミラー77の透過領域771(図10参照)へ入射する。また、偏光ビームスプリッタ71は、ランダム偏光のレーザビームL’に含まれる第2の直線偏光L2’をX軸及びY軸に垂直なZ軸方向上方に向けて反射させる。偏光ビームスプリッタ71により上方に反射された第2の直線偏光L2’は、第3の反射ミラー72へ入射する。
【0066】
第3の反射ミラー72は、偏光ビームスプリッタ71より反射された第2の直線偏光L2’をX軸方向に反射する。第3の反射ミラー72より反射された第2の直線偏光L2’は、アキシコンレンズ73へ入射する。アキシコンレンズ73は、円錐状の傾斜面を第3の反射ミラー72に向け、平坦面をアキシコンレンズ74に向けて配置されている。
【0067】
アキシコンレンズ73の傾斜面は、第3の反射ミラー72より反射された第2の直線偏光L2’を、図9に示すように、リング状に広げる。アキシコンレンズ73によりリング状に広げられた第2の直線偏光L21’は、アキシコンレンズ74へ入射する。アキシコンレンズ74は、平坦面をアキシコンレンズ73に向け、円錐状の傾斜面を第4の反射ミラー75に向けて配置されている。
【0068】
アキシコンレンズ74は、アキシコンレンズ73より射出されたリング状の第2の直線偏光L21’をコリメート光に変換し、第4の反射ミラー75へ入射させる。第4の反射ミラー75は、アキシコンレンズ73より射出され、アキシコンレンズ74によりコリメート光に変換されたリング状の第2の直線偏光L21’をZ軸方向下方に向けて反射させ、1/2波長板76へ入射させる。
【0069】
1/2波長板76は、第4の反射ミラー75より反射されたリング状の第2の直線偏光L21’の偏向方向を、第1の偏光方向に変換する。以上のような構成により、1/2波長板76は、偏光ビームスプリッタ71によって分離され、アキシコンレンズ73によりリング状に広げられた第2の直線偏光L21’を、図9に示すように、第1の偏光方向を有するリング状の第2の直線偏光L22’に変換する。1/2波長板76より射出されたリング状の第2の直線偏光L22’は、特殊ミラー77へ入射する。
【0070】
図10は、特殊ミラー77の構成例を示す。図10に示すように、特殊ミラー77は、中心部に楕円状の透過領域771を有し、透過領域771の周囲に反射領域772を有する。透過領域771には反射防止コーティングが施されており、入射されたレーザビームを透過させる。反射領域772には高反射コーティングが施されており、反射領域772は入射されたレーザビームを反射する。
【0071】
偏光ビームスプリッタ71を透過した第1の直線偏光L1’は、特殊ミラー77の透過領域771へ入射する。透過領域771は、偏光ビームスプリッタ71を透過した第1の直線偏光L1’を透過させる。1/2波長板76より射出されたリング状の第2の直線偏光L22’は、特殊ミラー77の反射領域772へ入射する。反射領域772は、入射されたリング状の第2の直線偏光L22’をX軸方向に反射させる。反射領域772により反射された、リング状の第2の直線偏光L22’は、図9に示すように、透過領域771を透過した第1の直線偏光L1’の外側に配置される。
【0072】
以上の構成により、偏光調整部は、偏光ビームスプリッタ71及び特殊ミラー77の透過領域771を透過した第1の直線偏光L1’の外側に、第1の偏光方向を有するリング状の第2の直線偏光L22’を配置して、第1の直線偏光L1’と第2の直線偏光L22’とを同軸で射出する。これにより、ランダム偏光のレーザビームL’に含まれる2つの直線偏光L1’、L2’の偏光方向を平行に揃えることができ、且つ、レーザビームの切断進行方向に対する異方性をなくすことができる。
【0073】
特殊ミラー77より同軸で射出された、第1の直線偏光L1’及び第2の直線偏光L22’は、1/2波長板37へ入射する。1/2波長板37は、特殊ミラー77より同軸射出された第1の直線偏光L1’及び第2の直線偏光L22’の光路上に配置され、第1のモータ41によりXZ平面上で回転可能に構成される。
【0074】
1/2波長板37より射出され、偏光方向が切断進行方向と平行となるように制御されたレーザビームは、レンズアレイ38へ入射する。レンズアレイ38は、1/2波長板37により偏光方向が切断進行方向と平行となるように制御されたレーザビームの光路上に配置され、第2のモータ42によりXZ平面上で回転可能に構成される。
【0075】
第5の反射ミラー78は、レンズアレイ38を透過したレーザビームをZ軸方向下方に向けて反射し、集束レンズ39へ入射する。
【0076】
集束レンズ39は、第5の反射ミラー78により反射されたレーザビームを集束させ、強度分布が均一な矩形状のレーザビームを被加工材Wの加工点WPに照射する。
【0077】
第1のモータ41はNC装置50により制御され、1/2波長板37を回転させる。NC装置50は、1/2波長板37及びレンズアレイ38を透過し、第5の反射ミラー78により反射されて集束レンズ39を透過した第1の直線偏光L1’及び第2の直線偏光L22’の偏光方向が切断進行方向と平行となるように、第1のモータ41を制御する。
【0078】
以上のように、1/2波長板37と、第1のモータ41と、NC装置50は、特殊ミラー77より同軸で射出された、第1の直線偏光L1’及び第2の直線偏光L22’の偏光方向を、被加工材Wにレーザビームを照射して被加工材Wを切断するときの切断進行方向と平行となるように制御する偏光方向制御機構として機能する。
【0079】
第2のモータ42はNC装置50により制御され、レンズアレイ38を回転させる。NC装置50は、レンズアレイ38を透過し、第5の反射ミラー78により反射されて集束レンズ39を透過して、被加工材Wの加工点WPに照射される矩形状のレーザビームにおける一辺が切断進行方向と平行となるように、第2のモータ42を制御する。
【0080】
以上のように、レンズアレイ38と、第2のモータ42と、集束レンズ39と、NC装置50は、偏光方向制御機構により偏光方向が切断進行方向と平行となるように制御されたレーザビームを矩形状に整形し、矩形状に整形されたレーザビームにおける一辺が切断進行方向と平行となるように制御する矩形ビーム角度制御機構として機能する。
【0081】
[第2実施形態の作用効果]
以上説明したように、第2実施形態によれば、以下の作用効果が得られる。
【0082】
第2実施形態に係る偏光調整装置は、偏光ビームスプリッタ71、第3の反射ミラー72、アキシコンレンズ73及び74、第4の反射ミラー75、1/2波長板76、特殊ミラー77により、第1の直線偏光L1’と第2の直線偏光L2’を含むランダム偏光のレーザビームL’の偏光方向を、第1の偏光方向に揃える。第2実施形態に係る偏光調整装置の各光学素子は、プロセスファイバ12の射出端の方向に向かってレーザビームを反射しないように配置できる。これにより、第1実施形態に係る偏光調整装置において、第1の反射ミラー34により反射され、1/4波長板33より射出された第2の直線偏光L21の一部が特殊偏光ビームスプリッタ32を透過してしまい、プロセスファイバ12の射出端に入射するリスクを低減できる。
【0083】
本発明は以上説明した第1または第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【符号の説明】
【0084】
32 特殊偏光ビームスプリッタ(第1の光学素子、第3の光学素子)
33 1/4波長板33(第2の光学素子)
34 第1の反射ミラー(第2の光学素子)
35、73、74 アキシコンレンズ
71 偏光ビームスプリッタ(第1の光学素子)
76 1/2波長板(第2の光学素子)
77 特殊ミラー(第3の光学素子)
100 レーザ加工機
L、L’ ランダム偏光のレーザビーム
L1、L1’ 第1の直線偏光
L2、L21、L22、L2’、L21’、L22’ 第2の直線偏光
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10