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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058603
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/24 20120101AFI20240418BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20240418BHJP
   C08G 18/40 20060101ALI20240418BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20240418BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20240418BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240418BHJP
   C08G 101/00 20060101ALN20240418BHJP
【FI】
B24B37/24 C
C08G18/10
C08G18/40 018
C08G18/42
C08G18/48 054
H01L21/304 622F
C08G101:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023169425
(22)【出願日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2022164660
(32)【優先日】2022-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】立野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】栗原 浩
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見沢 大和
(72)【発明者】
【氏名】越智 恵介
(72)【発明者】
【氏名】川崎 哲明
【テーマコード(参考)】
3C158
4J034
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AC02
3C158AC04
3C158BA02
3C158BA04
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(57)【要約】
【課題】 優れたディフェクト性能、優れた平坦化性能及び優れたドレス性を有する研磨パッドを提供する。
【解決手段】 イソシアネート末端プレポリマー及び硬化剤を原料とするポリウレタン樹脂発泡体からなる研磨層を有する研磨パッドであって、パルスNMR法により40℃で測定される前記研磨層における結晶相の重量割合が50重量%以上、70重量%以下であり、パルスNMR法により20℃で測定される前記研磨層における結晶相の重量割合が55重量%以上、80重量%以下であり、動的粘弾性試験により20~100℃で測定されるtanδで、40/80℃比が0.30以上、0.85以下である、研磨パッド。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート末端プレポリマー及び硬化剤を原料とするポリウレタン樹脂発泡体からなる研磨層を有する研磨パッドであって、
パルスNMR法により40℃で測定される前記研磨層における結晶相の重量割合が50重量%以上、70重量%以下であり、
パルスNMR法により20℃で測定される前記研磨層における結晶相の重量割合が55%重量以上、80重量%以下であり、
動的粘弾性試験により20~100℃で測定されるtanδで、40/80℃比が0.30以上、0.85以下である、研磨パッド。
【請求項2】
前記ポリウレタン樹脂発泡体のプレポリマーは、ポリイソシアネート化合物由来の構成単位とポリオール由来構成単位とを含み、ポリオール由来構成単位は、少なくともポリエステルジオール構成単位と、PTMG構成単位とを含む、請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
ポリエステルジオール構成単位を形成するポリエステルジオールが、600以上、2500以下の数平均分子量を有する、請求項2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
PTMG構成単位の重量が、高分子量ポリオール由来の構成単位の全重量に対して、30重量%以上、80重量%である、請求項2に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記ポリウレタン樹脂発泡体のプレポリマーのNCO当量が300~600である、請求項1に記載研磨パッド。
【請求項6】
前記研磨層の密度が0.75g/cm以上、0.95g/cm以下である、請求項1に記載の研磨パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドに関する。本発明の研磨パッドは、光学材料、半導体デバイス、ハードディスク用のガラス基板等の研磨に用いられ、特に半導体ウエハの上に酸化物層、金属層等が形成されたデバイスを研磨するのに好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
光学材料、半導体ウエハ、半導体デバイス、ハードディスク用基板の表面を平坦化するための研磨法として、化学機械研磨(chemical mechanical polishing,CMP)法が一般的に用いられている。
CMP法について、図1を用いて説明する。図1のように、CMP法を実施する研磨装置1には、研磨パッド3が備えられ、当該研磨パッド3は、保持定盤16及び被研磨物8がずれないように保持するリテーナリング(図1では図示しない)に保持された被研磨物8に当接するとともに、研磨を行う層である研磨層4と研磨層4を支持するクッション層6を含む。研磨パッド3は、被研磨物8が押圧された状態で回転駆動され、被研磨物8を研磨する。その際、研磨パッド3と被研磨物8との間には、スラリー9が供給される。スラリー9は、水と各種化学成分や硬質の微細な砥粒の混合物(分散液)であり、その中の化学成分や砥粒が流されながら、被研磨物8との相対運動により、研磨効果を増大させるものである。スラリー9は溝又は孔を介して研磨面に供給され、排出される。
【0003】
ところで、半導体デバイスの研磨には、イソシアネート成分(トルエンジイソシアネート(TDI)など)及び高分子量ポリオール(ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)など)を含むプレポリマーとジアミン系硬化剤(4,4’-メチレンビス(2-クロロアニリン)(MOCA)など)を反応させて得られた硬質ポリウレタン材料を研磨層として用いた研磨パッドを用いることが一般的である。プレポリマーに含まれる高分子量ポリオールはウレタンのソフトセグメントを形成し、その取り扱いやすさや適度なゴム弾性を示すPTMGが高分子量ポリオールとして従来からよく用いられていた。しかし、近年、半導体デバイスの配線の微細化に伴い、従来の研磨パッドではディフェクト性能が不十分である場合があり、高分子量ポリオールとしてPTMG以外を用いる検討がなされている。
特許文献1には、プレポリマーの高分子量ポリオールとして、PPG及びPTMGの混合物を用いることで、欠陥率を低減した研磨パッドがそれぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-040737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の研磨パッドは、依然としてディフェクト性能、平坦化性能、さらにはドレス性能が十分なものではなかった。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ディフェクト性能、平坦化性能及びドレス性に優れた研磨パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、40℃で測定される研磨層の結晶相と、20℃で測定される研磨層の結晶相がそれぞれ特定の範囲であり、また、動的粘弾性試験で測定されるtanδが特定の範囲である研磨層を備える研磨パッドは、ディフェクト性能、平坦化性能のみならず、ドレス性能も優れることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1]イソシアネート末端プレポリマー及び硬化剤を原料とするポリウレタン樹脂発泡体からなる研磨層を有する研磨パッドであって、
パルスNMR法により40℃で測定される前記研磨層における結晶相の重量割合が50重量%以上、70重量%以下であり、
パルスNMR法により20℃で測定される前記研磨層における結晶相の重量割合が55%重量以上、80重量%以下であり、
動的粘弾性試験により20~100℃で測定されるtanδで、40/80℃比が0.30以上、0.85以下である、研磨パッド。
[2]前記ポリウレタン樹脂発泡体のプレポリマーは、ポリイソシアネート化合物由来の構成単位とポリオール由来構成単位とを含み、ポリオール由来構成単位は、少なくともポリエステルジオール構成単位と、PTMG構成単位とを含む、[1]に記載の研磨パッド。
[3]ポリエステルジオール構成単位を形成するポリエステルジオールが、600以上、2500以下の数平均分子量を有する、[2]に記載の研磨パッド。
[4]PTMG構成単位の重量が、高分子量ポリオール由来の構成単位の全重量に対して、30重量%以上、80重量%である、[2]に記載の研磨パッド。
[5]前記ポリウレタン樹脂発泡体のプレポリマーのNCO当量が300~600である、[1]に記載研磨パッド。
[6]前記研磨層の密度が0.75g/cm以上、0.95g/cm以下である、[1]に記載の研磨パッド。
【発明の効果】
【0007】
本発明の特定の研磨層を備える研磨パッドは、優れたディフェクト性能、優れた平坦化性能及び優れたドレス性能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、研磨の状態を示す模式図である。
図2図2は、研磨パッドの断面図である。
図3図3は、実施例及び比較例の研磨層の動的粘弾性試験によって得られたtanδの結果である。
図4図4は、実施例及び比較例の研磨パッドを用いた平坦化性能試験の結果である。
図5図5は、実施例及び比較例の研磨パッドを用いディフェクト性能試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、発明を実施するための形態に限定されるものではない。
【0010】
<<研磨パッド>>
研磨パッド3の構造について図2を用いて説明する。研磨パッド3は、図2のように、研磨層4と、クッション層6とを含む。研磨パッド3の形状は円盤状が好ましいが、特に限定されるものではなく、また、大きさ(径)も、研磨パッド3を備える研磨装置1のサイズ等に応じて適宜決定することができ、例えば、直径10cm~2m程度とすることができる。
なお、本発明の研磨パッド3は、好ましくは図2に示すように、研磨層4がクッション層6に接着層7を介して接着されている。
研磨パッド3は、クッション層6に配設された両面テープ等によって研磨装置1の研磨定盤10に貼付される。研磨パッド3は、研磨装置1によって被研磨物8を押圧した状態で回転駆動され、被研磨物8を研磨する。
【0011】
<研磨層>
(構成)
研磨パッド3は、被研磨物8を研磨するための層である研磨層4を備える。研磨層4を構成する材料は、ポリウレタン樹脂発泡体である。ポリウレタン樹脂発泡体の材料、製造方法等は後述する。
研磨層4の大きさ(径)は、研磨パッド3と同様であり、直径10cm~2m程度とすることができ、研磨層4の厚みは、0.8~5mm程度とすることができる。
研磨層4は、研磨装置1の研磨定盤10と共に回転され、その上にスラリー9を流しながら、スラリー9の中に含まれる化学成分や砥粒を、被研磨物8と一緒に相対運動させることにより、被研磨物8を研磨する。
研磨層4は、中空微小球体4A(発泡)が分散されていてもよいし、中空微小球体がないものであってもよいが、中空微小球体4Aが分散されている方が好ましい。
【0012】
(溝加工)
本発明の研磨層4の被研磨物8側の表面には、必要に応じ溝加工を設けることが好ましい。溝は、特に限定されるものではなく、研磨層4の周囲に連通しているスラリー排出溝、及び研磨層4の周囲に連通していないスラリー保持溝のいずれでもよく、また、スラリー排出溝とスラリー保持溝の両方を有してもよい。スラリー排出溝としては、格子状溝、放射状溝などが挙げられ、スラリー保持溝としては、同心円状溝、パーフォレーション(貫通孔)などが挙げられ、これらを組み合わせることもできる。
【0013】
(ショアD硬度)
本発明の研磨層4のショアD硬度は、特に限定されるものではないが、例えば、20~100であり、好ましくは30~80であり、さらに好ましくは40~70である。ショアD硬度が小さい場合には、低圧研磨加工で微細な凹凸を平坦化することが難しくなる。ショアD硬度が高すぎると、被研磨物8に強く擦りつけられ被研磨物8の加工面にスクラッチが発生する可能性がある。
【0014】
本発明の研磨パッド3においては、中空微小球体4Aを用いる場合、中空微小球体4Aによってポリウレタン樹脂成形体内部に気泡を内包させる。中空微小球体とは、空隙を有する微小球体を意味する。中空微小球体4Aの形状には、球状、楕円状、及びこれらに近い形状のものが含まれる。例としては、既膨張タイプのもの、及び、未膨張の加熱膨張性微小球状体を加熱膨張させたものが挙げられる。
【0015】
(結晶相、中間相、非晶相)
本発明の研磨パッドの研磨層は、結晶相、中間相及び非晶相から主に構成される。本発明の研磨層は、パルスNMR法により40℃で測定される結晶相の重量割合が50重量%以上、70重量%以下であり、かつ、パルスNMR法により20℃で測定される結晶相の重量割合が55重量%以上、80重量%以下である。パルスNMR法によりって測定される結晶相が、40℃の場合と20℃の場合でそれぞれ上記範囲を満たすことにより、ディフェクト性能、平坦化性能のみならず、ドレス性能も優れる。なお、本明細書で重量割合と記載がある場合は、重量基準で計算したもの(重量%)である。
【0016】
さらに具体的に説明すると、研磨加工時は研磨パッドの温度が40℃に達する。研磨加工時に研磨パッドの硬度が高すぎる状態であると、スクラッチが生じやすくなり、ディフェクト性能が低下するおそれがある。一方、ソフトセグメントの割合が増えることにより研磨パッドが軟らかくなり、平坦化性能が悪化する点で好ましくない。ここで、結晶相は運動性の小さな成分でハードセグメント成分に相当し、非晶相は運動性の大きな成分でソフトセグメント成分に相当する。ハードセグメント成分及びソフトセグメント成分の割合が研磨パッドの硬さ等の物性に影響を与える。
したがって、40℃で測定したときの結晶相の重量割合が、所定範囲内にあると、研磨加工時と同等の温度において、ハードセグメント成分が発揮し、ディフェクト性能及び平坦化性能が優れる。
【0017】
研磨パッドを使用する前には、一般的にドレス処理が行われる。ドレス処理の例として、ダイヤモンドドレッサーを用いて、研磨パッドの研磨面を処理するものがある。ドレス処理により研磨面の表面状態を整えて目立てしたり、研磨層の平坦度を整えたりすることができる。研磨層の硬度が低く軟らかい場合や脆性が低い場合は、研磨面の表面状態や研磨層の平坦度が整わないことがある。ドレス処理は20℃で行われることもある。
したがって、20℃で測定したときの結晶相の重量割合が、所定範囲内にあると、ドレス処理時と同等の温度において、ハードセグメント成分が発揮し、ドレス性が優れる傾向にある。
【0018】
パルスNMR法により40℃で測定される結晶相の重量割合の下限は、好ましくは52重量%以上、より好ましくは55重量%以上である。上限は、好ましくは68重量%以下、より好ましくは65重量%以下である。
パルスNMR法により20℃で測定される結晶相の重量割合の下限は、好ましくは57重量%以上、より好ましくは58重量%以上である。上限は、好ましくは77重量%以下、より好ましくは75重量%以下である。
【0019】
また、研磨層の結晶相、中間相、非晶相の割合は、パルスNMRによる測定で行われる。パルスNMR測定では、スピン-スピン緩和時間が短い順にショート相(S相)、ミドル相(M相)、ロング相(L相)のそれぞれにポリウレタン樹脂発泡体を分類して、それぞれの相の重量割合(単位は重量%)を求める。なお、S相、M相、及びL相の重量割合については、例えば、主として結晶相がパルスNMR測定においてS相となって観測され、主として非晶相(アモルファス相)がL相となって観測され、主として中間相がパルスNMR測定においてM相となって観測される。また、主としてハードセグメント部分がパルスNMR測定においてS相となって観測され、主としてソフトセグメント部分がL相となって観測される。
なお、上記のスピン-スピン緩和時間は、例えば、JEOL製の「JNM-MU25」を用い、Solid Echo法による測定を実施することなどで求めることができる。
【0020】
<クッション層>
(構成)
本発明の研磨パッド3は、クッション層6を有する。クッション層6は、研磨層4の被研磨物8への当接をより均一にすることが望ましい。クッション層6の材料としては、樹脂;前記樹脂を基材に含浸させた含浸材;合成樹脂やゴム等の可撓性を有する材料;及び前記樹脂を用いたスポンジ材が挙げられる。上記樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリブタジエン、シリコーン等の樹脂や天然ゴム、ニトリルゴム、ポリウレタンゴム等のゴムなどが挙げられる。
【0021】
クッション層6は気泡構造を有する発泡体等としてもよい。気泡構造としては、不織布等の内部に空隙が形成されたものの他、湿式成膜法により形成された涙型気泡を有するスウェード状のものや、微細な気泡が形成されたスポンジ状のものを好ましく用いることができる。
これらの中でも、ポリウレタンを不織布に含侵させたものやスポンジ状のものをクッション層とすると、研磨層との相性が良いため、優れた平坦化性能を維持することができる。
【0022】
<接着層>
接着層7は、クッション層6と研磨層4を接着させるための層であり、通常、両面テープ又は接着剤から構成される。両面テープ又は接着剤は、当技術分野において公知のもの(例えば、接着シート)を使用することができる。
研磨層4およびクッション層6は、接着層7で貼り合わされている。接着層7は、例えば、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系から選択される少なくとも1種の粘着剤で形成することができる。例えば、アクリル系粘着剤が用いられ、厚みは0.1mmに設定することができる。
【0023】
<tanδ>
本発明の研磨パッド3は、研磨層4を引張モードで測定温度の範囲を20℃~100℃の温度分散による動的粘弾性試験(動的粘弾性試験の詳細は下記する)を行った際の、貯蔵弾性率E’と損失弾性率E’’の比であるtanδについて、40℃における値と、80℃における値の比((40℃のときのtanδ)/(80℃のときのtanδ))が、0.30~0.85(0.30以上、0.85以下)であり、より好ましくは0.35~0.80、さらに好ましくは、0.40~0.70である。
【0024】
tanδは、E’’(損失弾性率)とE’(貯蔵弾性率)との比(E’’/E’)である。tanδの値によっては、研磨層4を引張モードによる試験で得られるtanδが、上記の範囲であれば、ディフェクト性能のみならず、平坦化性能も優れる。
なお、一般的に研磨加工時に想定される温度(40~80℃)において、tanδが0.30よりも大きい(E’’が大きいと、粘性成分が大きく、またE’が小さいと軟らかい)と、研磨層(研磨パッド)が被研磨物に追従してしまい、全体的に研磨され、段差部分の平坦化度合いを解消することができず平坦化性能が悪くなる場合がある。
一方、研磨加工時に想定される温度において、tanδが0.05よりも小さい(E’’が小さいと、粘性成分が小さく、またE’が大きいと硬い)場合、研磨層(研磨パッド)が硬いので、被研磨物にスクラッチが発生してしまい、ディフェクト性能(スクラッチ性能)が悪くなる場合ある。
本発明では、このtanδの値が40℃で測定した場合と、80℃で測定した場合の比率((40℃のときのtanδ)/(80℃のときのtanδ))が所定の範囲に入る必要がある。この値が所定の範囲内(例えば、0.30~0.85)の場合、研磨加工時の温度において平坦化性能及びディフェクト性能が良好な結果を得られる傾向にある。
【0025】
(動的粘弾性試験)
tanδは、動的粘弾性試験(DMA)によって研磨パッド全体を引張モードで測定する。動的粘弾性試験(DMA)は、試料に時間によって変化(振動)する歪みまたは応力を与えて、それによって発生する応力または歪みを測定することにより、試料の力学的な性質を測定する方法である。本発明では、研磨層4を動的粘弾性試験で測定する。
【0026】
研磨層4でtanδを測定する説明を下記する。
tanδは、E’’(損失弾性率)とE’(貯蔵弾性率)との比(E’’/E’)であるが、研磨時に被研磨物8に接する研磨層4の影響が大きく、研磨層4の物性によって研磨特性が変化する。このため、本発明では、研磨層4の動的粘弾性試験を実施する。
【0027】
なお、tanδの値は、例えば、研磨層4の材料を変更することや、研磨層4に含まれる気泡の大きさ、気泡の数、気泡の密度を変えることにより、調整することができる。
【0028】
本発明の研磨パッドは、平坦化性能を維持しつつ、ディフェクト性能に優れ、しかも、ドレス性に優れたものである。
ここで、「平坦化性能」とは、研磨に伴い段差(凹凸)を有するパターンウエハの段差の平坦化度合いを示す性能である。具体的には、凹凸を有するパターンウエハを研磨して研磨後のウエハの残存段差(段差部分の平坦化度合い)を評価する。この評価方法では、残存段差が小さい方が優れた平坦化性能を有すると評価される。
【0029】
また、「ディフェクト」とは、被研磨物の表面に付着した細かい粒子が残留したものを示す「パーティクル(Particle)」、被研磨物の表面に付着した研磨層の屑を示す「パッド屑(Pad Debris)」、被研磨物の表面についた傷を示す「スクラッチ(Scratch)」等を含めた欠陥の総称を意味し、ディフェクト性能とはこの「ディフェクト」を少なくする性能のことを言う。
【0030】
ドレス処理とは、研磨層の研磨面を表面状態や平坦性を整える処理を言う。ドレス性とは、ドレス処理により研磨面の目立てをしやすさを示す性能を言い、目立てがしやすい場合はドレス性に優れることになる。
【0031】
<<研磨パッドの製造方法>>
本発明の研磨パッド3の製造方法について説明する。
【0032】
<研磨層の材料>
研磨層4の材料としては、ポリウレタン樹脂発泡体を用いる。具体的な主成分の材料としては、例えば、イソシアネート末端プレポリマーと硬化剤とを反応させて得られる材料を挙げることができる。また、発泡させるため、材料の中に発泡剤を加える。
【0033】
以下、研磨層4の製造方法については、イソシアネート末端プレポリマーと硬化剤を用いた例を用いて説明する。
【0034】
イソシアネート末端プレポリマーと硬化剤とを用いた研磨層4の製造方法としては、例えば、少なくともイソシアネート末端プレポリマー、硬化剤を準備する材料準備工程;少なくとも、前記イソシアネート末端プレポリマー、硬化剤を混合して成形体成形用の混合液を得る混合工程;前記成形体成形用混合液から研磨層4を成形する成形工程、を含む製造方法が挙げられる。
【0035】
以下、材料準備工程、混合工程、成形工程に分けて、それぞれ説明する。
【0036】
<材料準備工程>
本発明の研磨層4の製造のために、ポリウレタン樹脂発泡体の原料として、イソシアネート末端プレポリマー、硬化剤を準備する。ここで、イソシアネート末端プレポリマーは、ポリウレタン樹脂発泡体を形成するための、ウレタンプレポリマー(単にプレポリマーと呼ぶことある)である。
【0037】
以下、各成分について説明する。
【0038】
(イソシアネート末端プレポリマー)
イソシアネート末端プレポリマーは、下記ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを、通常用いられる条件で反応させることにより得られる化合物であり、ウレタン結合とイソシアネート基を分子内に含むものである。また、本発明の効果を損なわない範囲内で、他の成分がイソシアネート末端プレポリマーに含まれていてもよい。
【0039】
イソシアネート末端プレポリマーとしては、市販されているものを用いてもよく、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて合成したものを用いてもよい。前記反応に特に制限はなく、ポリウレタン樹脂の製造において公知の方法及び条件を用いて付加重合反応すればよい。例えば、40℃に加温したポリオール化合物に、窒素雰囲気にて撹拌しながら50℃に加温したポリイソシアネート化合物を添加し、30分後に80℃まで昇温させ更に80℃にて60分間反応させるといった方法で製造することができる。
なお、イソシアネート末端プレポリマーは、NCO当量が、300~600程度であることが好ましい。上記範囲を満たすことにより、優れた平坦化性能及びディフェクト性能を得られる傾向にある。したがって、イソシアネート末端プレポリマーが、市販品の場合は、NCO当量が上記範囲を満たすものが好ましく、合成によって製造する際は、下記する原料を適宜割合で用いることにより、上記範囲のNCO当量にすることが好ましい。より好ましいNCO当量は、400以上、500以下である。
【0040】
(ポリイソシアネート化合物)
本明細書において、ポリイソシアネート化合物とは、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物を意味する。
ポリイソシアネート化合物としては、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有していれば特に制限されるものではない。例えば、分子内に2つのイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物としては、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネー卜(MDI)、4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、キシリレン-1、4-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン-1,2-ジイソシアネート、ブチレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート、p-フェニレンジイソチオシアネート、キシリレン-1,4-ジイソチオシアネート、エチリジンジイソチオシアネート等を挙げることができる。これらのポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、複数のポリイソシアネート化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
なお、ポリイソシアネート化合物としては、2,4-TDI及び/又は2,6-TDIを含むことが好ましい。
【0042】
(プレポリマーの原料としてのポリオール化合物)
本明細書において、ポリオール化合物とは、分子内に2つ以上の水酸基(OH)を有する化合物を意味する。また、「高分子量」とは、分子量500以上のことを言う。
プレポリマーの原料としてのポリオール化合物としては、本発明の目的が達成できれば特に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、ブチレングリコール等のジオール化合物、トリオール化合物等;ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(又はポリテトラメチレンエーテルグリコール)(PTMG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエーテルポリカーボネートジオール(PEPCD)等のポリエーテルポリオール化合物、及び、ポリエステルポリオールを挙げることができる。
【0043】
上記成分の中でも、パルスNMR法により40℃で測定される前記研磨層における結晶相の重量割合が50重量%以上、70重量%以下であり、パルスNMR法により20℃で測定される前記研磨層における結晶相の重量割合が55重量%以上、80重量%であることを満たす研磨層であり、かつ、動的粘弾性試験により20~100℃で測定されるtanδで、40/80℃比が0.30~0.85である研磨パッドを構成する研磨層を満たすためには、少なくともポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)及びポリエステルジオールを用いることが好ましい。好ましい態様としては、PTMG及びポリエステルジオール以外にもその他のポリオール成分を使用してもよい。
【0044】
ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)及びポリエステルジオールの組み合わせを用いる場合は、PTMGの重量割合は、プレポリマーの原料としての高分子量ポリオール化合物の全重量に対して、30重量%以上、80重量%以下が好ましい。
【0045】
上記のポリエステルジオールは、酸とジオール成分の合成物であれば特に限定されないが、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。また、ポリエステルジオールに用いられるジオールは、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、ブチレングリコール(1,4-ブタンジオール)、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。上記の中では、結晶相と非晶相の重量割合を調整しやすい、アジピン酸と、1,4-ブタンジオールで合成したポリエステルジオールが好ましい。
【0046】
ポリオールの数平均分子量(Mn)は、特に限定されることはなく、例えば、500~3000であることが好ましく、より好ましくは800~2500とすることが好ましい。ここで、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)により測定することができる。なお、ポリウレタン樹脂からポリオール化合物の数平均分子量を測定する場合は、アミン分解等の常法により各成分を分解した後、GPCによって推定することもできる。なお、ポリエステルジオールを使用する場合は、その数平均分子量は、600~2500である。数平均分子量が600~2500であることにより、研磨パッドに必要なゴム弾性を与えることができ、tanδの値を所望の値に調整することができ、本発明の効果を得られる傾向がある。
【0047】
(添加剤)
上記したように、研磨層4の材料として、酸化剤等の添加剤を必要に応じて添加することができる。
【0048】
(硬化剤)
本発明の研磨層4の製造方法では、混合工程において硬化剤(鎖伸長剤ともいう)をイソシアネート末端プレポリマーなどと混合させる。硬化剤を加えることにより、その後の成形体成形工程において、イソシアネート末端プレポリマーの主鎖末端が硬化剤と結合してポリマー鎖を形成し、硬化する。
硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)、4-メチル-2,6-ビス(メチルチオ)-1,3-ベンゼンジアミン、2-メチル-4,6-ビス(メチルチオ)-1,3-ベンゼンジアミン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[3-(イソプロピルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(1-メチルプロピルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(1-メチルペンチルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス(3,5-ジアミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,6-ジアミノ-4-メチルフェノール、トリメチルエチレンビス-4-アミノベンゾネート、及びポリテトラメチレンオキサイド-di-p-アミノベンゾネート等の多価アミン化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、3-メチル-1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチルトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、3-メチル-4,3-ペンタンジオール、3-メチル-4,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、トリメチロールメタン、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコール等の多価アルコール化合物が挙げられる。また、多価アミン化合物が水酸基を有していてもよく、このようなアミン系化合物として、例えば、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等を挙げることができる。多価アミン化合物としては、ジアミン化合物が好ましく、例えば、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(メチレンビス-o-クロロアニリン)(以下、MOCAと略記する。)を用いることがさらに好ましい。
【0049】
なお、プレポリマーの原料として、2種以上のポリオールを使用する場合は、2種以上のポリオールを混合して、この混合物にポリイソシアネート化合物を反応させたものを用いてもよいし、2種類以上のポリオールをそれぞれポリイソシアネート化合物と反応させたのち、それを混合して、硬化させる方法であってもよい。
【0050】
(中空微小球体)
研磨層4は、外殻を有し、内部が中空状である中空微小球体4Aを、材料に用いることにより成形することができる。中空微小球体4Aの材料としては、市販のものを使用してもよく、常法により合成することにより得られたものを使用してもよい。中空微小球体4Aの外殻の材質としては、特に制限されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエーテルアクリライト、マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキシド、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル及び有機シリコーン系樹脂、並びにそれらの樹脂を構成する単量体を2種以上組み合わせた共重合体(例えば、アクリロニトリル-塩化ビニリデン共重合体など挙げられる)が挙げられる。また、市販品の中空微小球体としては、以下に限定されないが、例えば、エクスパンセルシリーズ(アクゾ・ノーベル社製商品名)、マツモトマイクロスフェア(松本油脂(株)社製商品名)などが挙げられる。
中空微小球体4Aに含まれる気体としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭化水素が挙げられ、具体的にはイソブタン、ペンタン、イソペンタンなどが挙げられる。
【0051】
中空微小球体4Aの形状は特に限定されず、例えば、球状及び略球状であってもよい。中空微小球体4Aの平均粒径は、特に制限されないが、好ましくは5~200μmであり、より好ましくは5~80μmであり、さらに好ましくは5~50μmであり、特に好ましくは5~35μmである。なお、平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えばスペクトリス(株)製、マスターサイザ-2000)により測定することができる。
【0052】
中空微小球体4Aの材料は、イソシアネート末端プレポリマー100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは1~5質量部、さらにより好ましくは1~4質量部となるように添加する。
【0053】
また、上記の成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲において、従来使用されている発泡剤を、中空微小球体4Aと併用してもよく、下記混合工程中に前記各成分に対して非反応性の気体を吹き込んでもよい。該発泡剤としては、水の他、炭素数5又は6の炭化水素を主成分とする発泡剤が挙げられる。該炭化水素としては、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサンなどの鎖状炭化水素や、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素が挙げられる。
【0054】
<混合工程>
混合工程では、前記準備工程で得られた、イソシアネート末端プレポリマー、添加剤、硬化剤を混合機内に供給して攪拌・混合する。混合工程は、上記各成分の流動性を確保できる温度に加温した状態で行われる。
【0055】
<成形工程>
成形体成形工程では、前記混合工程で調製された成形体成形用混合液を60~120℃に予熱した型枠内に流し込み、30分から1時間、100~150℃にて一次硬化させる。その後、型枠から硬化した成形体をはずし、100~150℃程度で2~6時間程度加熱して二次硬化させることにより硬化したポリウレタン樹脂(ポリウレタン樹脂発泡体)を成形する。このとき、ウレタンプレポリマー、硬化剤が反応してポリウレタン樹脂を形成することにより該混合液は硬化する。
ウレタンプレポリマー(イソシアネート末端プレポリマー)は、粘度が高すぎると、流動性が悪くなり混合時に略均一に混合することが難しくなる。温度を上昇させて粘度を低くするとポットライフが短くなり、却って混合斑が生じて得られる発泡体に形成される、中空微小球体4Aの大きさにバラツキが生じる。反対に粘度が低すぎると混合液中で気泡が移動してしまい、得られる発泡体に略均等に分散した、中空微小球体4Aを形成することが難しくなる。このため、ウレタンプレポリマーは、温度50~80℃における粘度を500~10000mPa・sの範囲に設定することが好ましい。このことは、例えば、ウレタンプレポリマーの分子量(重合度)を変えることで粘度を設定することができる。ウレタンプレポリマーは、50~80℃程度に加熱され流動可能な状態とされる。
【0056】
成形工程では、必要により注型された混合液を型枠内で反応させポリウレタン樹脂発泡体を形成させる。このとき、ウレタンプレポリマーと硬化剤との反応により架橋硬化する。
【0057】
ポリウレタン樹脂発泡体を得た後、シート状にスライスして複数枚の研磨層4を形成する。スライスには、一般的なスライス機を使用することができる。スライス時には研磨層4の下層部分を保持し、上層部から順に所定厚さにスライスされる。スライスする厚さは、例えば、0.8~2.5mmの範囲に設定されている。厚さが50mmの型枠で成形したポリウレタン樹脂発泡体では、例えば、ポリウレタン樹脂発泡体の上層部および下層部の約10mm分をキズ等の関係から使用せず、中央部の約30mm分から10~25枚の研磨層4が形成される。これにより内部に中空微小球体4Aが略均等に形成されたポリウレタン樹脂発泡体が得られる。
【0058】
得られた研磨層4の研磨面に、必要により溝加工を施す。研磨面に対して所要のカッターを用いて切削加工等を行うことで、任意のピッチ、幅、深さを有する溝を形成することができる。スラリー保持溝としては、例えば同心円状に形成した円形溝が挙げられ、スラリー排出溝としては、例えば格子状に形成した直線溝や研磨層の中心から放射状に形成した直線溝などが挙げられる。
【0059】
このようにして得られた研磨層4は、その後、研磨層4の研磨面とは反対側の面に両面テープが貼り付けられる。両面テープに特に制限はなく、当技術分野において公知の両面テープの中から任意に選択して使用することが出来る。
【0060】
<クッション層6の製造方法>
上記のとおり、クッション層6の材質としては、ポリエチレン、ポリエステル等の樹脂繊維(不織布織布、可撓性フィルム等)にウレタン等の樹脂溶液を含浸させた含浸材;ウレタン等の樹脂材料を用いたスウェード材;及びウレタン等の材料を用いたスポンジ材が挙げられる。本発明において、クッション層6は、公知のものを利用でき、製造方法も公知のものを使用することができる。
【0061】
<接合工程>
接合工程では、形成された研磨層4およびクッション層6を接着層7で貼り合わせる(接合する)。接着層7には、例えば、アクリル系粘着剤を用い、厚さが0.1mmとなるように接着層7を形成する。すなわち、研磨層4の研磨面と反対側の面にアクリル系粘着剤を略均一の厚さに塗布する。研磨層4の研磨面Pと反対側の面と、クッション層6の表面(スキン層が形成された面)と、を塗布された粘着剤を介して圧接させて、研磨層4およびクッション層6を接着層7で貼り合わせる。そして、円形等の所望の形状に裁断した後、汚れや異物等の付着が無いことを確認する等の検査を行い、研磨パッド3を完成させる。
【実施例0062】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0063】
各実施例及び比較例において、特段の指定のない限り、「部」とは「質量部」を意味するものとする。
【0064】
また、NCO当量とは、“(ポリイソシアネート化合物の質量(部)+ポリオール化合物の質量(部))/[(ポリイソシアネート化合物1分子当たりの官能基数×ポリイソシアネート化合物の質量(部)/ポリイソシアネート化合物の分子量)-(ポリオール化合物1分子当たりの官能基数×ポリオール化合物の質量(部)/ポリオール化合物の分子量)]”で求められるNCO基1個当たりのプレポリマー(PP)の分子量を示す数値である。
【0065】
(研磨層について)
イソシアネート化合物として、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、ポリオール化合物として、PTMG、ポリエステルポリオール(アジピン酸と1,4-ブタンジオールの合成物)、ジエチレングリコール(DEG)を反応させて、3種類のウレタンプレポリマー(PP1、PP2及びPP3)を用意した(ウレタンプレポリマーの調製に使用した成分は表1を参照)。表3で示された割合で混合したウレタンプレポリマー混合物100部に、平均粒径8.5μmの中空微小球体(バルーン)3.6部を添加混合し、混合液を得た。得られた混合液を第1液タンクに仕込み、60℃で保温した。次に、第1液とは別途に、硬化剤としてMOCA27.8部を、第2液タンク内に入れ、120℃で加熱溶融させて保温した。第1液タンク、第2液タンクの夫々の液体を、注入口を2つ具備した混合機に夫々の注入口からプレポリマー中の末端イソシアネート基に対する硬化剤に存在するアミノ基及び水酸基の当量比を表わすR値が0.9となるように注入した。注入した2液を混合攪拌しながら80℃に予熱した型枠へ注入した後、型締めをし、30分間、80℃にて加熱し一次硬化させた。一次硬化させた成形物を脱型後、オーブンにて120℃で4時間二次硬化し、ウレタン成形物を得た。得られたウレタン成形物を25℃まで放冷した後に、再度オーブンにて120℃で5時間加熱してから1.3mmの厚みにスライスし、表3で示す研磨層Bを得た。研磨層A、C~G、Iは、研磨層の材料を表2のように調製し同様の工程で作製した。なお、研磨層Hは市販品である。また、各研磨層の密度及びD硬度も表3に示し、結晶相、中間相、非晶相の重量割合を表4(40℃で測定)及び表5(20℃で測定)に示した。なお、密度、D硬度、パルスNMR測定の測定方法及び条件は下記のとおりである。
【0066】
(密度)
研磨層の密度(g/cm)は、日本工業規格(JIS K 6505)に準拠して測定した。
【0067】
(ショアD硬度)
研磨層のショアD硬度は、日本工業規格(JIS-K-6253)に準拠して、ショアD型硬度計を用いて測定した。ここで、測定試料は、少なくとも総厚さ4.5mm以上になるように、必要に応じて複数枚の研磨層を重ねることで得た。
【0068】
(パルスNMR測定)
装置 Bruker社 Minispec mq20 (20MHz)
各種
測定 T
測定手法 Solid echo法
Acquisition Scale 0.4msec
Scan 128回
Recycle Delay 0.5sec
測定温度 20℃、40℃
装置温度が測定温度に達して試料をセットしてから5分間静置した後、測定を開始した。測定開始から5分ごとに1回計測し、23回計測した。23回分の測定値のうち、12回目から23回目の12回分の測定値を平均して得た平均値を測定結果とした。試料は、温度23度(±2℃)、相対湿度50%(±5%)の恒温恒湿槽中で40時間保持した乾燥状態の研磨層A乃至Iを8mmφに打ち抜き、上記の装置、条件にて、打ち抜いて得た試料ペレットを試料管内の高さが1~1.5cmになるように充填したものを用いた。
【0069】
(動的粘弾性試験)
下記測定条件に基づき研磨層A乃至Iの動的粘弾性試験を行った。温度23度(±2℃)、相対湿度50%(±5%)の恒温恒湿槽中で40時間保持した乾燥状態の研磨層A乃至Iをサンプルとして用い、通常の大気雰囲気下(乾燥状態)で、引張モードにより測定した。測定結果は図3、表6に示す。
(測定条件)
測定装置 :RSA-G2(TAインスツルメント社)
サンプルの大きさ :縦5cm×横0.5cm×厚み0.125cm
試験長 :1cm
試験モード :引張モード
周波数 :10rad/s(1.6Hz)
測定温度 :20~100℃
昇温速度 :5℃/min
歪範囲 :0.10%
初荷重 :148g
測定間隔 :2point/℃
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】

表4におけるT(1)は結晶相に対応する緩和時間、T(2)は中間相に対応する緩和時間、T(3)は非晶相に対応する緩和時間を示す。緩和時間の単位はmsecである。
【0074】
【表5】

表5におけるT(1)は結晶相に対応する緩和時間、T(2)は中間相に対応する緩和時間、T(3)は非晶相に対応する緩和時間を示す。緩和時間の単位はmsecである。
【0075】
【表6】
【0076】
(クッション層について)
ウレタン樹脂(DIC社製、製品名「C1367」)を含む樹脂溶液(DMF溶媒)に、密度0.15g/cmのポリエステル繊維からなる不織布を浸漬した。浸漬後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて、不織布から樹脂溶液を絞り落として、不織布に樹脂溶液を略均一に含浸させた。次いで、樹脂溶液を含浸した不織布を、室温の水からなる凝固液に浸漬することにより、樹脂を湿式凝固させ、樹脂含浸不織布を得た。その後、樹脂含浸不織布を凝固液から取り出し、更に水からなる洗浄液で洗浄することにより樹脂中のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を除去して、乾燥させた。乾燥後、バフ処理により樹脂含浸不織布表面のスキン層を除去し、樹脂含浸不織布からなる厚さ1.3mmのクッション層を得た。
【0077】
(実施例及び比較例)
研磨層A乃至Iおよびクッション層を厚さ0.1mmの両面テープ(PET基材の両面にアクリル系樹脂からなる接着層を備えるもの)でそれぞれ接合し、クッション層と接着層の反対側の面に両面テープを貼り合わせて実施例1乃至6及び比較例1乃至3の研磨パッドを製造した。
【0078】
(研磨性能評価)
得られた実施例1乃至6及び比較例1乃至3の研磨パッドを用いて、下記研磨条件で研磨試験を実施した。結果を表7に示す。
【0079】
(研磨条件)
研磨機 :F-REX300X(荏原製作所社製)
Disk :A188(3M社製)
リテーナリング :リテーナリングGXKD(荏原製作所社製)
回転数 :(定盤)90rpm、(研磨ヘッド)81rpm
研磨圧力 :3.5psi
研磨剤温度 :20℃
研磨剤吐出量 :200ml/min
研磨剤 :PL-6115(フジミインコーポレイテッド社製)
被研磨物 :TEOS(Tetra Ethyl Ortho Silicate)付きシリコンウエハ(直径300mmの円盤状)
研磨時間 :60秒
パッドブレーク :32N 20分
コンディショニング:in-situ 18N 16スキャン、Ex-situ 32N 4スキャン
【0080】
(平坦化性能評価試験)
研磨パッドを、研磨装置の所定位置にアクリル系接着剤を有する両面テープを介して設置し、上記研磨条件にて研磨加工を施した。平坦化性能は、500μm/500μm、100μm/100μm、50μm/50μm、10μm/10μmの各配線幅のパターンウエハ(被研磨物)を研磨して残存する段差の高さを段差・表面粗さ・微細形状測定装置(KLAテンコール社製、P-16+)で測定することにより評価した。
より具体的には、同じ膜厚、同じ段差の高さを有するパターンウエハ(被研磨物)を1回研磨して残存する段差の高さを測定することにより実施した。表7においてすべての配線幅において残存する段差の高さが所定の高さ以下のものを○と表記し、いずれかの配線幅において所定の高さを超えたものがあった場合を×と表記した。ここで、所定の高さとは、500μm/500μmの配線幅では残存する段差の高さが500オングストローム以下の場合、100μm/100μmの配線幅では残存する段差の高さが300オングストローム以下の場合、50μm/50μmの配線幅では残存する段差の高さが250オングストローム以下の場合、10μm/10μmの配線幅では残存する段差の高さが100オングストローム以下の場合をいう。具体的な実測データを図4に示す。
【0081】
(ディフェクト性能評価試験(スクラッチ測定))
研磨処理枚数が25枚目、50枚目、75枚目、100枚目、150枚目、200枚目の基板を、表面検査装置(KLAテンコール社製、Surfscan SP5)の高感度測定モードを用いて、大きさが60nm以上となるディフェクト(表面欠陥)を検出した。検出された各ディフェクトについて、レビューSEMを用いて撮影したSEM画像を解析し、スクラッチの個数を計測した。表7において10個以下のスクラッチ数であれば○と表記し、いずれかの基板において10個を超えるスクラッチ数があれば×と表記した。具体的な実測データを図5に示す。なお、図5における各棒の上に記載した数値は基板の処理枚数を示す。
【0082】
(ドレス性能評価試験)
実施例及び比較例の研磨パッドについて、小型摩擦摩耗試験機を用いて、下記条件にて摩耗試験を行いドレス性能の評価を行った。得られた摩耗試験結果において、0.10~0.18mmのものを○と表記し、0.10mm未満のもの又は0.18mmを超えるものを×と表記した。結果を表7に示す。
【0083】
(摩耗試験条件)
使用研磨機:小型摩擦摩耗試験機
圧子側:PAD(17φ)
定盤側:#180サンドペーパー
荷重:300g
液:水
流量:45ml/分
定盤回転数:40rpm
ドレス時間:10分
厚み測定荷重:300g
【0084】
【表7】
【0085】
表7の結果より、実施例1~6の研磨パッドは、比較例1~3に比べて、20℃及び40℃における結晶相の重量割合が適度に含まれ、研磨時の温度範囲内において粘弾性のバランスが良いため、平坦化性能、ディフェクト性能、及びドレス性が良好であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【0087】
1 研磨装置
3 研磨パッド
4 研磨層
4A 中空微小球体
6 クッション層
7 接着層
8 被研磨物
9 スラリー
10 研磨定盤
図1
図2
図3
図4
図5