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特開2024-58619電気機械式ブレーキシステムを制御するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058619
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】電気機械式ブレーキシステムを制御するための方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20240418BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20240418BHJP
   B60T 17/18 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
B60T8/17 Z
B60T13/74 G
B60T17/18
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023174865
(22)【出願日】2023-10-07
(31)【優先権主張番号】63/416,221
(32)【優先日】2022-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】18/078,387
(32)【優先日】2022-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147511
【弁理士】
【氏名又は名称】北来 亘
(72)【発明者】
【氏名】リッター,ダグラス,ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】シュウ,コーチン
(72)【発明者】
【氏名】サン,ジェイソン
【テーマコード(参考)】
3D048
3D049
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB03
3D048BB07
3D048HH18
3D048HH53
3D048HH58
3D048HH66
3D048HH68
3D048HH70
3D048QQ12
3D048RR01
3D048RR02
3D048RR06
3D048RR29
3D049BB02
3D049BB05
3D049CC02
3D049CC07
3D049HH41
3D049HH45
3D049HH47
3D049HH48
3D049HH51
3D049QQ01
3D049RR01
3D049RR02
3D049RR04
3D049RR11
3D246BA02
3D246BA08
3D246DA02
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3D246GC09
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3D246HA37C
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3D246HA65A
3D246HA94A
3D246HB08B
3D246HC02
3D246JA12
3D246JB10
3D246JB47
3D246LA13Z
3D246LA15Z
3D246MA08
3D246MA18
3D246MA19
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電気機械式パーキングブレーキを制御する方法を提供する。
【解決手段】電気機械式ブレーキシステムを制御する方法。方法は、モータの電圧を測定することと、モータの電流を測定することと、電圧および電流に基づいて電気機械式ブレーキシステムの構成要素の位置を推定することとを備える。方法は、電圧および電流に基づいて構成要素によってかけられる力を推定することと、油圧式ブレーキシステムに関連する油圧を推定することとを備える。適用操作において、構成要素の力が油圧に基づいて補正される。解除操作において、構成要素の位置が油圧に基づいて補正される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械式ブレーキシステムを制御する方法であって、
モータの電圧を測定することと、
前記モータの電流を測定することと、
前記電圧および前記電流に基づいて、前記電気機械式ブレーキシステムの構成要素の位置を推定することと、
前記電圧および前記電流に基づいて、前記構成要素によってかけられる力を推定することと、
油圧式ブレーキシステムに関連する油圧を推定することと
を備え、
適用操作において、前記構成要素の前記力が前記油圧に基づいて補正され、
解除操作において、前記構成要素の前記位置が前記油圧に基づいて補正される、方法。
【請求項2】
前記油圧は、センサ入力から推定され、前記センサ入力は、故障または劣化状態を考慮するロジックテーブルに基づいて決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記油圧は、左ホイールシリンダに関連する第1の圧力、右ホイールシリンダに関連する第2の圧力、マスタシリンダに関連する第3の圧力、またはそれらの任意の組み合わせから推定され、前記第1、第2、および第3の圧力は、前記左ホイールシリンダ、前記右ホイールシリンダ、および/または前記マスタシリンダに関連するそれぞれの圧力センサから取得され、または前記第1、第2、および第3の圧力は、別のセンサ入力から推定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記左ホイールシリンダで感知された前記第1の圧力および前記右ホイールシリンダで感知された前記第2の圧力の両方が利用可能である場合、前記推定された油圧は両者の平均であり、
前記左ホイールシリンダで感知された前記第1の圧力および前記右ホイールシリンダで感知された前記第2の圧力の一方のみが利用可能である場合、前記推定された油圧は、前記第1の圧力または前記第2の圧力の利用可能な方であり、
前記左ホイールシリンダで感知された前記第1の圧力も前記右ホイールシリンダで感知された前記第2の圧力も利用可能でない場合、前記推定された油圧は、前記マスタシリンダで感知された前記第3の圧力であり、
前記左ホイールシリンダで感知された前記第1の圧力、前記右ホイールシリンダで感知された前記第2の圧力、および前記マスタシリンダで感知された前記第3の圧力のいずれも利用可能でない場合、前記推定された油圧は、デフォルト値に設定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記構成要素は、スピンドルナット、スピンドル、モータアセンブリの構成要素、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記構成要素は前記スピンドルである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記スピンドルナットが1または複数のブレーキパッドを制動面に対して動かすように、前記モータによって前記スピンドルを軸の周囲で第1の方向に回転させることと、
前記1または複数のブレーキパッドが前記制動面から離れる方向に動くように、前記モータによって前記スピンドルを前記軸の周囲で第2の方向に回転させることと
を更に備える、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記適用操作において、前記補正は、前記電気機械式ブレーキシステムと前記油圧式ブレーキシステムとの荷重の重畳に起因する損傷を軽減および/または防止し、前記解除操作において、前記補正は、残留キャリパ抗力に起因する損傷を軽減および/または防止する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記電気機械式ブレーキシステムの制御は閉ループである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
車両勾配を推定することと、
前記車両勾配に基づいて、前記電気機械式ブレーキシステムを前記構成要素によってかけられる前記力に調整することと
を更に備える、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
車両の縦加速度を取得することを更に備え、前記車両勾配は、前記縦加速度に基づいて推定される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
故障または劣化状態が発生した場合、前記力はデフォルト値に設定され、前記故障または劣化状態は、縦加速度が利用可能でないこと、前記縦加速度が最大値を超過していること、前記縦加速度が最小値を下回っていること、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
車輪速度を取得することを更に備え、前記車輪速度は、前記車両が静的状態であるか動的状態であるかを決定し、前記車両勾配は、前記車両が静的状態である場合のみ推定される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記車輪速度は、左前輪および右後輪を含む第1の対角車輪セットの最大車輪速度と、右前輪および左後輪を含む第2の対角車輪セットの最大車輪速度との最小値である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記左前輪または前記右前輪に関して故障または劣化状態が発生した場合、前記第1の対角車輪セットまたは前記第2の対角車輪セット内の対応する後輪の車輪速度が前記最小値の決定において考慮され、
前記左前輪および前記右前輪の両方に関して故障または劣化状態が発生した場合、前記車輪速度はデフォルト値に設定され、
前記左後輪または前記右後輪のいずれかに関して故障または劣化状態が発生した場合、前記車輪速度は前記デフォルト値に設定される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記車輪速度が所定の期間にわたり静的閾値を下回る場合、前記車両は静的状態であると想定され、前記車輪速度が前記所定の期間にわたり動的閾値を上回る場合、前記車両は動的状態であると想定される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記力は、前記車両勾配に基づいて決定される、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記力は、車両勾配の離散範囲内に収まる前記車両勾配によって決定され、および/または、前記力は、前記車両勾配の関数としてモデル化され、前記関数は、線形、非線形、または区分的である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
第1のコントローラによって、前記第1のコントローラが割り当てられる第1のブレーキキャリパに関連する故障または劣化状態を検出することと、
前記第1のコントローラによって、前記故障または劣化状態を、第2のブレーキキャリパに割り当てられた第2のコントローラに伝達することと、
前記第2のブレーキキャリパに関連する前記力をデフォルト力に設定することと
を更に備える、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記第1のコントローラおよび前記第1のブレーキキャリパは、車両の助手席側に位置し、前記第2のコントローラおよび前記第2のブレーキキャリパは、前記車両の運転席側に位置し、あるいはその逆である、請求項19に記載の電気機械式ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、あらゆる目的のために参照によってその全体が本明細書に組み込まれる、2022年10月14日に出願された米国特許第63/416,221号の優先権を主張するものである。
【0002】
本教示は、一般に、電気機械式ブレーキシステムを制御するための方法に関する。この方法は、油圧式ブレーキシステムの油圧を考慮し得る。
【背景技術】
【0003】
多くの車両は、トランスミッションまたはドライブラインアセンブリ内にパーキングポールを有して製造される。パーキング操作において、ポールは、パーキングブレーキが故障または劣化状態に遭遇することにより、加えられる荷重が車両を静止状態に維持するために必要な荷重を下回る場合にバックアップを提供する。これらの種類の車両において、パーキングブレーキの制御は結合される。すなわち、単一のコントローラが、車両の運転席側および助手席側の両方を制御する。結合された制御は、システムがポールに依拠することができるため、通常、故障または劣化状態を考慮しない。したがって、たとえばコントローラまたはセンサの故障などの発生時、車両を静止状態に維持するためにポールに依拠することができる。車両がポールを有さずに構成される場合、故障冗長性に対処する必要がある。
【0004】
パーキングブレーキの制御において、アクチュエータ機構は、加えられた荷重が、車両が位置する勾配に見合ったものであることを保証するように制御され得る。勾配の要件を超える荷重を加えることにより、ブレーキシステムの耐用年数が縮まり得る。勾配を決定するために、専用のセンサが用いられてよい。ただし、この解決策は、余分なコストおよび製造の複雑性が必要であることに加えて、車両の重量および実装空間にも影響を及ぼす。車両における既存のセンサ入力を用いることもできる。ただし、センサ入力が利用不可能である場合、および/またはブレーキシステムが正しく動作しない、または全く動作しない場合、システムの正確な動作を保証するために、故障冗長性を確立する必要がある。
【0005】
一部の車両ブレーキシステムは、電気機械式システム(「電気機械式パーキングブレーキシステム」または「EPBシステム」)と油圧式システム(「油圧式サービスブレーキシステム」または「HSBシステム」)との両方を用いて、1または複数のブレーキパッドをブレーキディスク(「ロータ」)に対して動かすピストンに作用し、制動荷重をかける。一般に、電気機械式システムはパーキングブレーキ操作中に用いられ、油圧式システムは、サービスブレーキ操作中に用いられるが、いずれかのブレーキ操作中に一方または両方が用いられてもよい。
【0006】
電気機械式システムおよび油圧式システムからの荷重の重畳は、動作が重なる場合に起こり得る。たとえば、車両を駐車する運転者は、サービスブレーキをかけて車両を停止状態にし、サービスブレーキがアクティブである間にパーキングブレーキをかけることができる。別の例として、駐車位置から発進準備をする運転者は、パーキングブレーキを解除する前にサービスブレーキをかけることができる。また別の例として、電気機械式または油圧式サポートシステムは、一次システムの故障が生じた場合に電気機械式または油圧式一次システムの動作を補足してよい。荷重の重畳に関する懸念点の1つとして、ブレーキシステムへの最大推奨荷重を超過し、耐用年数を縮める危険性がある。別の懸念点は、エネルギ効率である。最大荷重の超過に伴う高いトルクで電気機械式ブレーキシステムを動作させると、不必要にエネルギが消費される。
【0007】
ブレーキシステムは、通常、電気機械式システムも油圧式システムも動作可能でない場合にブレーキパッドとブレーキディスクとの間のランニングクリアランスで動作する。ランニングクリアランスは、車両の車輪が自由に回転可能であり、ブレーキパッドとブレーキディスクとの間に摩擦係合がないことを保証する。油圧式システムの動作は、油圧式ブレーキシステムによって誘発された偏向によって電気機械式アクチュエータの認識位置または推定位置を実際の位置から逸脱させるため、電気機械式ブレーキシステムおよび油圧式ブレーキシステムの動作が重なる場合、ランニングクリアランスが位置ずれし得る。
【0008】
センサは、電気機械式アクチュエータの位置を決定するために用いられ得る。しかしながら、追加のセンサは、コストおよび製造の複雑性を高めることに加えて、車両の重量および実装空間にも影響を及ぼす。電気機械式ブレーキシステムの動作中に油圧を考慮することが提案された。しかしながら、既存の方法は、どのセンサ入力を用いるかで異なる。また、故障冗長性も懸念点として残っている。既存の方法のいくつかは、推定されたアクチュエータの位置または加力を補正するためのフィードバックが提供されない開ループ制御を用いる。しかしながら、電気機械式ブレーキシステムの動作に対する油圧式ブレーキシステムの影響は予測不可能な性質であるため、開ループ制御は、電気機械式ブレーキシステムの不正確な動作をもたらし得る。あらゆる目的のために参照によってその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第10,137,878号には、電気機械式ブレーキシステムの位置および/または力が電圧および/または電流測定値に基づいて推定される閉ループ制御方法が記載される。しかし、油圧式ブレーキシステムによって加えられる圧力を考慮することは、上記特許文献で提案されていない。
【0009】
パーキングポールの有無にかかわらず、車両で用いられる電気機械式ブレーキシステムを制御する方法を提供することが望ましい。
【0010】
車両勾配を考慮に入れて電気機械式ブレーキシステムを制御する方法を提供することが望ましい。
【0011】
追加のセンサを車両に加える必要性をなくし、既存のセンサ入力を用いて電気機械式ブレーキシステムを制御する方法を提供することが望ましい。
【0012】
故障冗長性を提供する、電気機械式ブレーキシステムを制御する方法を提供することが望ましい。
【0013】
車両の運転席側および助手席側を別々のコントローラが制御する、分離方式で電気機械式ブレーキシステムを制御する方法を提供することが望ましい。
【0014】
車両の運転席側および助手席側の両方に関連する分離したコントローラ間で故障または劣化状態が伝達される、電気機械式ブレーキシステムを制御する方法を提供することが望ましい。
【0015】
特定の勾配条件に関する要件を超える荷重を加えることを回避するように電気機械式ブレーキシステムを制御する方法を提供することが望ましい。
【0016】
システムの調整にフィードバックが考慮されるように閉ループで電気機械式ブレーキシステムを制御する方法を提供することが望ましい。
【0017】
最大荷重以上をブレーキパッドに加えることを回避するように電気機械式ブレーキシステムを制御する方法を提供することが望ましい。
【0018】
油圧式ブレーキシステムにおける油圧を考慮する、電気機械式ブレーキシステムを制御する方法を提供することが望ましい。
【0019】
ブレーキパッドとブレーキディスクとの間のランニングクリアランスを維持するように電気機械式ブレーキシステムを制御する方法を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0020】
本開示は、上記で識別された必要性の少なくとも一部に対処し得る、電気機械式ブレーキシステムを制御する方法に関する。方法は、モータの電圧を測定することと、モータの電流を測定することと、電圧および電流に基づいて、電気機械式ブレーキシステムの構成要素の位置を推定することとを備えてよい。
【0021】
方法は、電圧および電流に基づいて、構成要素によってかけられる力を推定することと、油圧式ブレーキシステムに関連する油圧を推定することとを備えてよい。
【0022】
適用操作において、構成要素の力が油圧に基づいて補正され得る。
【0023】
解除操作において、構成要素の位置が油圧に基づいて補正され得る。
【0024】
油圧は、センサ入力から推定され得る。センサ入力は、ロジックテーブルに基づいて決定され得る。ロジックテーブルは、故障または劣化状態を考慮してよい。
【0025】
油圧は、左ホイールシリンダに関連する第1の圧力、右ホイールシリンダに関連する第2の圧力、マスタシリンダに関連する第3の圧力、またはそれらの任意の組み合わせから推定され得る。第1、第2、および第3の圧力は、左ホイールシリンダ、右ホイールシリンダ、および/またはマスタシリンダに関連するそれぞれの圧力センサから取得され得る。第1、第2、および第3の圧力は、別のセンサ入力から推定され得る。
【0026】
左ホイールシリンダで感知された第1の圧力および右ホイールシリンダで感知された第2の圧力の両方が利用可能である場合、推定された油圧は両者の平均であってよい。
【0027】
左ホイールシリンダで感知された第1の圧力および右ホイールシリンダで感知された第2の圧力の一方のみが利用可能である場合、推定された油圧は、第1の圧力または第2の圧力の利用可能な方であってよい。
【0028】
左ホイールシリンダで感知された第1の圧力も右ホイールシリンダで感知された第2の圧力も利用可能でない場合、推定された油圧は、マスタシリンダで感知された第3の圧力であってよい。
【0029】
左ホイールシリンダで感知された第1の圧力、右ホイールシリンダで感知された第2の圧力、およびマスタシリンダで感知された第3の圧力のいずれも利用可能でない場合、推定された油圧は、デフォルト値に設定され得る。
【0030】
構成要素は、スピンドルナット、スピンドル、モータアセンブリの構成要素、またはそれらの任意の組み合わせであってよい。
【0031】
方法は更に、スピンドルナットが1または複数のブレーキパッドを制動面に対して動かすように、モータによってスピンドルを軸の周囲で第1の方向に回転させることと、1または複数のブレーキパッドが制動面から離れる方向に動くように、モータによってスピンドルを軸の周囲で第2の方向に回転させることとを備えてよい。
【0032】
適用操作において、上記補正は、電気機械式ブレーキシステムと油圧式ブレーキシステムとの荷重の重畳に起因する損傷を軽減および/または防止してよい。解除操作において、上記補正は、残留キャリパ抗力に起因する損傷を軽減および/または防止してよい。
【0033】
電気機械式ブレーキシステムの制御は閉ループであってよい。
【0034】
方法は更に、車両勾配を推定することを備えてよい。方法は更に、車両勾配に基づいて、電気機械式ブレーキシステムを構成要素によってかけられる力に調整することを備えてよい。
【0035】
方法は更に、車両の縦加速度を取得することを備えてよい。車両勾配は、縦加速度に基づいて推定され得る。
【0036】
故障または劣化状態が発生した場合、力はデフォルト値に設定され得る。故障または劣化状態は、縦加速度が利用可能でないこと、縦加速度が最大値を超過していること、縦加速度が最小値を下回っていること、またはそれらの任意の組み合わせを含んでよい。
【0037】
方法は更に、車輪速度を取得することを備えてよい。車輪速度は、車両が静的状態であるか動的状態であるかを決定してよい。車両勾配は、車両が静的状態である場合のみ推定され得る。
【0038】
車輪速度は、第1の対角車輪セットの最大車輪速度と、第2の対角車輪セットの最大車輪速度との最小値であってよい。第1の対角車輪セットは、左前輪および右後輪を含んでよい。第2の対角車輪セットは、右前輪および左後輪を含んでよい。
【0039】
左前輪または右前輪に関して故障または劣化状態が発生した場合、第1の対角車輪セットまたは第2の対角車輪セット内の対応する後輪の車輪速度が最小値の決定において考慮され得る。
【0040】
左前輪および右前輪の両方に関して故障または劣化状態が発生した場合、車輪速度はデフォルト値に設定され得る。
【0041】
左後輪または右後輪のいずれかに関して故障または劣化状態が発生した場合、車輪速度はデフォルト値に設定され得る。
【0042】
車輪速度が所定の期間にわたり静的閾値を下回る場合、車両は静的状態であると想定され得る。車輪速度が所定の期間にわたり動的閾値を上回る場合、車両は動的状態であると想定され得る。
【0043】
前記車両勾配に基づいて力が決定され得る。
【0044】
車両勾配の離散範囲内に収まる車両勾配によって力が決定されてよく、および/または、車両勾配の関数として力がモデル化され得る。関数は、線形、非線形、または区分的であってよい。
【0045】
方法は更に、第1のコントローラによって、第1のコントローラが割り当てられる第1のブレーキキャリパに関連する故障または劣化状態を検出することを備えてよい。方法は更に、第1のコントローラによって、故障または劣化状態を、第2のブレーキキャリパに割り当てられた第2のコントローラに伝達することを備えてよい。方法は更に、第2のブレーキキャリパに関連する力をデフォルト力に設定することを備えてよい。
【0046】
第1のコントローラおよび第1のブレーキキャリパは、車両の助手席側に位置してよく、第2のコントローラおよび第2のブレーキキャリパは、車両の運転席側に位置してよく、あるいはその逆であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本教示に係る故障冗長方式を示す。
図2A】本教示に係る勾配範囲のグラフを示す。
図2B】本教示に係る勾配の関数としての目標荷重のグラフを示す。
図3A】本教示に係る時間の関数としてのパーキングブレーキおよびサービスブレーキの動作パラメータのグラフを示す。
図3B図3Aのグラフの一部の拡大図を示す。
図4】本教示に係る、スピンドルナットの位置および油圧の関数として、パーキングブレーキによって加えられるクランプ力を示すグラフを示す。
図5】本教示に係る故障冗長方式を示す。
図6A】本教示に係る線形時変推定(LTV)のフロー図または制御モデルのモデルを示す。
図6B図6AのLTVの状態推定モデルの副成分のフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本開示の方法は、ブレーキシステムとともに利用され得る。ブレーキシステムは、車両の動きを減速、停止、制限、および/または防止するために機能してよい。ブレーキシステムは、ブレーキディスクの回転を減速、停止、制限、および/または防止し、車両の動きを減速、停止、制限、および/または防止し、またはその両方である荷重を加えるために機能してよい。荷重は、車両が停止または停車位置にある場合にブレーキディスクの回転を制限または防止し、車両の動きを制限または防止し、またはその両方であるパーキングブレーキ操作中に加えられ得る。
【0049】
ブレーキシステムは、上述した機能を行う任意のシステムまたはアセンブリであってよい。たとえば、ブレーキシステムは、対向ブレーキシステム(すなわち固定キャリパブレーキシステム)、浮動型ブレーキシステム(すなわち浮動型キャリパ)、パーキングブレーキアセンブリ、ドラムインハットブレーキシステム、またはそれらの組み合わせであってよい。
【0050】
ブレーキシステムは、上述した機能を行うために任意の車両で用いられ得る。たとえば、ブレーキアセンブリは、任意の小型乗用車(たとえば自動車、トラック、スポーツ用多目的車など)、または任意の大型車両(たとえば大型トラック、バン、スポーツ用多目的車など)で用いられ得る。
【0051】
ブレーキシステムは、1または複数のブレーキキャリパを含んでよい。ブレーキキャリパは、電気機械式ブレーキシステム、油圧式ブレーキシステム、またはその両方の構成要素のいずれかを収容し、格納し、および/またはその取付けおよび機能を提供するために機能してよい。
【0052】
ブレーキキャリパは、ブレーキディスクに対する1または複数のブレーキパッドの動きを提供するために機能してよい。ブレーキキャリパは、適用操作中に動いてよく(すなわち浮動型キャリパ)、あるいはブレーキキャリパは、適用操作中にブレーキキャリパが動かないように固定され得る(すなわち固定キャリパ)。ブレーキキャリパは、1または複数のブレーキパッドに係合するための1または複数の支持ブラケットを含んでよい。1または複数の支持ブラケットは、1または複数のブレーキパッドがブレーキディスクのインボード側に位置し、1または複数のブレーキパッドがブレーキディスクのアウトボード側に位置するように、ブレーキディスクの周囲に配置され得る。
【0053】
インボードとは、ブレーキディスクの、車両の長手方向中心線に面する側を指してよい。アウトボードとは、ブレーキディスクの、車両の長手方向中心線から離れる方向を向く側を指してよい。
【0054】
適用操作とは、1または複数のブレーキパッドをブレーキディスクに向かって動かすことを指してよい。したがって、適用方向とは、ブレーキディスクに向かう方向を指してよい。解除操作とは、1または複数のブレーキパッドをブレーキディスクから離れる方向に動かすことを指してよい。したがって、解除方向とは、ブレーキディスクから離れる方向を指してよい。
【0055】
ブレーキディスクは、適用操作および/または解除操作時にブレーキシステムの1または複数の要素と協働してよい。ブレーキディスクは、少なくとも部分的にブレーキキャリパに包囲され得る。1または複数のブレーキパッドの摩擦材は、ブレーキディスクのインボード側に面してよく、1または複数のブレーキパッドの摩擦材は、ブレーキディスクのアウトボード側に面してよい。
【0056】
適用操作中、1または複数のブレーキパッドの摩擦材は、ブレーキディスク、車両、またはその両方が減速、停止、および/または制限されるようにブレーキディスクの1または複数の側面と接触するように動かされ得る。適用操作中、1または複数のブレーキパッドの摩擦材は、停車または駐車している車両またはブレーキディスクがそれぞれ移動または回転しないよう制限されるように、ブレーキディスクの1または複数の側面と接触するように動かされ得る。
【0057】
1または複数のブレーキパッドは、適用操作においてブレーキアセンブリの1または複数の要素と協働してよい。適用操作は、サービスブレーキまたはパーキングブレーキに関連してよい。たとえば、適用操作において、1または複数のブレーキパッドの摩擦材は、たとえばブレーキディスクの1または複数の側面などの任意の表面と接触するように動かされる。1または複数のブレーキパッドは、一斉に、個々に、連続的に、またはそれらの組み合わせで動いてよい。
【0058】
解除操作において、1または複数のブレーキパッドが動いてよい。たとえば、解除操作において、1または複数のブレーキパッドの摩擦材は、たとえばブレーキディスクの1または複数の側面などの任意の表面から離れる方向に、および/または接触が解除されるように動かされる。1または複数のブレーキパッドは、一斉に、個々に、連続的に、またはそれらの組み合わせで動いてよい。
【0059】
ブレーキシステムは、1または複数のピストンアセンブリを含んでよい。1または複数のピストンアセンブリは、適用操作および/または解除操作においてそれぞれ任意の表面に向かって、および/または任意の表面から離れる方向に1または複数のブレーキパッドを動かすために機能してよい。1または複数のピストンアセンブリは、ブレーキディスクに対して1または複数のブレーキパッドを軸方向に動かすために、回転トルクまたは回転力を直線力に伝達または変換するために機能してよい。
【0060】
1または複数のピストンアセンブリは、1または複数のブレーキパッドの圧力板と選択的に係合してよい。たとえば、適用操作において、1または複数のピストンアセンブリは、1つの圧力板と係合し、圧力板上に配置された摩擦材をブレーキディスクに向かって動かす。
【0061】
1または複数のピストンアセンブリの各々は、1または複数のピストン、1または複数のスピンドルナット、および1または複数のスピンドルを含んでよく、これらは上述した機能を行うために一体となって機能してよい。
【0062】
1または複数のピストンは、適用操作または解除操作において、1または複数のブレーキパッドを任意の表面に対して動かすために機能してよい。1または複数のピストンは、ピストン軸に沿ってブレーキパッドに向かう方向またはブレーキパッドから離れる方向に動いてよい。1または複数のピストンは、対応するピストン開口部または孔を出入りして動いてよい。
【0063】
1または複数のピストンは、たとえばスピンドルナットおよびスピンドルなどの任意の機械デバイスまたはリンケージ、またはそれらの組み合わせを介して、任意の流体を介して1または複数のブレーキパッドに向かう方向またはブレーキパッドから離れる方向に動かされ得る。好適には、サービスブレーキの動作中、1または複数のピストンは、流体に加えられた圧力を介して動かされる。好適には、パーキングブレーキの動作中、1または複数のピストンは、スピンドルナットおよびスピンドルを含むリンケージに連結されたモータギアユニットを介して動かされる。
【0064】
1または複数のスピンドルナットは、適用操作および/または解除操作において1または複数のブレーキパッドがブレーキディスクに対して動くことができるように、1または複数のピストンに係合するために機能してよい。1または複数のスピンドルナットは、任意の適切な係合または取付けを介して対応するピストンに係合してよい。たとえば、係合は、螺合係合、摺動係合、干渉係合、永久係合、取外し可能係合、鍵付き係合など、またはそれらの組み合わせであってよい。
【0065】
1または複数のピストンがそれぞれのピストン軸に沿ってブレーキパッドに対して動くように、1または複数のスピンドルナットに(たとえばモータギアユニット、ウォームホイール、スピンドル、出力シャフトなどから供給される)移動力が加えられ得る。1または複数のスピンドルナットは、ピストンおよび/またはブレーキパッドが実際にブレーキディスクに対して動くことなく、ピストンに対して少なくとも部分的に動いてよい(すなわち、スピンドルナットとピストンポケットとの間に隙間が延在してよい)。言い換えると、スピンドルナットは、ナットが実際にピストンおよび/またはブレーキパッドを動かす前に、軸方向に特定の距離だけ動かされ得る。
【0066】
1または複数のスピンドルは、1または複数のブレーキパッドがブレーキディスクに対して動くことができるように、1または複数のピストン、スピンドルナット、またはその両方に係合するために機能してよい。1または複数のスピンドルは、それぞれのウォームホイール、出力シャフト、またはその両方と連通してよく、それぞれのスピンドルナットと協働して、モータギアユニット、出力シャフト、ウォームホイール、差動装置などから受け取った回転力を、それぞれのピストン軸に沿ってピストンを動かすための直線力に変換してよい。
【0067】
1または複数のスピンドルは、上述した機能を行うために任意の適切な係合または取付けを介して対応するスピンドルナットに係合してよい。好適には、係合は、螺合係合であってよい。このために、1または複数のスピンドルナットの各々は、1または複数のねじ部を含んでよい。1または複数のスピンドルは、スピンドルナット、ピストン、および/またはブレーキパッドをブレーキディスクに向かって動かすために適用方向に回転または並進してよい。1または複数のスピンドルは、スピンドルナット、ピストン、および/またはブレーキパッドをブレーキディスクから離れる方向に動かすために解除方向に回転または並進してよい。1または複数のスピンドル、1または複数のスピンドルナットおよび/または1または複数のピストンが単一の構成要素であってよく、依然として上述した方法で機能することは、本開示の範囲内である。
【0068】
1または複数のウォームホイールは、それぞれのスピンドルと連通してよい。1または複数のウォームホイールは、1または複数のブレーキパッドがブレーキディスクに対して動くことができるように、回転力またはトルクを受け取り、1または複数のスピンドルに伝達するために機能してよい。回転力は、モータギアユニット、それぞれの出力シャフト、差動装置などによって、またはそれらから供給され得る。1または複数のウォームホイールは、最終的に対応するブレーキパッドがブレーキディスクに向かって動くように、適用方向に回転して、対応するスピンドルを動かしてよい。1または複数のウォームホイールは、最終的に対応するブレーキパッドがブレーキディスクから離れる方向に動くように、解除方向に回転して、対応するスピンドルを動かしてよい。
【0069】
各ウォームホイールは、それぞれのスピンドルに係合するフランジまたは開口部を含んでよい。係合は、上述した機能を行うための任意の適切な係合であってよい。典型的な係合は、螺合係合、摺動係合、干渉係合、永久係合、取外し可能係合、鍵付き係合、磁気係合など、またはそれらの組み合わせを含んでよいが、これらに限定されない。各ウォームホイールは、それぞれの出力シャフト、ウォーム、モータギアユニット、差動装置、またはそれらの組み合わせに係合するための特徴を含んでよい。
【0070】
1または複数の出力シャフトは、回転力またはトルクを提供または伝達するために機能してよい。具体的には、1または複数の出力シャフトは、モータギアユニット、差動装置、またはその両方から生成または提供される回転力またはトルクを受け取り、上記回転力またはトルクを、それぞれのピストンアセンブリ、ウォームホイール、またはその両方に伝達するために機能してよい。1または複数の出力シャフトは、上記回転力またはトルクをそれぞれのピストンアセンブリ、ウォームホイール、またはその両方に伝達するために任意の適切な係合を含んでよい。たとえば、1または複数の出力シャフトは、対応するウォームホイールに係合し得る1または複数のウォームおよび/または歯を含んでよい。
【0071】
1または複数の出力シャフトは、回転を支援するために(すなわち低摩擦デバイスを生み出すために)、1または複数のベアリング、カウンタウェイト、またはその両方を含んでよい。1または複数のベアリングは、それぞれの出力ギアをブレーキキャリパまたはハウジングや筐体に連結し支持するためにも機能してよい。
【0072】
1または複数の出力シャフトは、最終的に、1または複数のモータおよび/またはモータギアユニットによって回転され得る。1または複数のリンケージは、1または複数のモータおよび/またはモータギアユニットによって生成されたトルクを1または複数の出力シャフトに移動させ得る。
【0073】
1または複数のモータギアユニットは、適用操作および/または解除操作に適した力またはトルクを生成または提供するために機能し得る任意のデバイスまたはデバイスの組み合わせであってよい。たとえば、1または複数のモータギアユニットは、DCモータ、直列巻きモータ、分巻きモータ、複合巻きモータ、他励式モータ、サーボモータ、または永久磁石モータを含んでよい。
【0074】
1または複数のモータギアユニットは、モータによって生成された任意の出力またはトルクの伝達、増加、減少、またはそれらの組み合わせのために機能し得る1または複数のギアを含んでよい。
【0075】
1または複数のモータギアユニットは、ハウジング内に位置してよい。ハウジングは、ブレーキキャリパと一体的に形成され、またはブレーキキャリパに取外し可能に取り付けられてよい。
【0076】
1または複数のモータギアユニットは、直接または間接的に(すなわち1または複数のリンケージ、ピストンアセンブリなどを介して)、1または複数のピストン、ブレーキパッド、またはその両方を、ブレーキディスクに向かう方向および/またはブレーキディスクから離れる方向に動かしてよい。1または複数のモータギアユニットは、1または複数のピストンアセンブリ、ブレーキパッド、またはその両方を1または複数のブレーキパッドに対して動かすために十分な回転力またはトルクを生成してよい。1または複数のモータギアユニットは、1または複数のブレーキパッドをブレーキディスクに対して保持するために十分な保持力を生成してよい。
【0077】
方法は、以下のステップの1または複数を備えてよい。ステップのいくつかは、重複し、削除され、他のステップに対し再配置され、1または複数のステップに結合され、2つ以上のステップに分離され、またはそれらの組み合わせであってよい。
【0078】
本方法は、1または複数のコントローラによって少なくとも部分的に行われ得る。コントローラは、方法の履行を指示するコンピュータ実行可能命令を実行してよい。コントローラは、車輪に搭載されてもされなくてもよい。コントローラは、車両の既存のコントローラであってよい。既存のコントローラは、ブースターコントローラ、電子安定性コントローラなど、またはそれらの任意の組み合わせを含んでよい。車両で用いられる任意のコントローラが、本教示の方法を行うために適し得る。コントローラは、本方法を行うための専用コントローラであってよい。すなわち、専用コントローラは、本方法を排他的に実行し得る。本開示は、電気機械式ブレーキシステムを操作するための方法を提供する。電気機械式システムのパーキングブレーキの動作中、ブレーキディスクに荷重が加わる。荷重は、車両が確実に静止状態に維持されるように、車両が駐車している勾配(傾斜)に見合ったものであってよい。
【0079】
方法は、車両勾配を推定することを備えてよい。車両勾配は、推定された車両状態が静的状態である場合に推定され得る。車両勾配は、車両の縦加速度および/または車輪速度に基づいて推定され得る。方法は、車両の縦加速度を取得することを備えてよい。勾配は、以下の式によって推定することができ、式中、Axが縦加速度であり、Gが重力定数である。
Grade=TAN[ASIN(Ax/G)]
【0080】
方法は、推定された車両勾配を1または複数の操作モジュールに伝達することを備えてよい。
【0081】
方法は、電気機械式ブレーキシステムを、推定された車両勾配に基づいて操作モジュールによって決定される第1の荷重に調整することを備えてよい。第1の荷重は、車両勾配に基づいて決定され得る。
【0082】
方法は、車両の縦加速度を取得することを備えてよい。車両勾配は、縦加速度に基づいて推定され得る。
【0083】
1つのモジュールに故障または劣化状態が生じた場合、第1の荷重は、別の機能モジュールのデフォルト荷重に設定され得る。デフォルト荷重は、約5%~約11%、好適には約6%~約10%、更に好適には約7%~約9%(たとえば8%)であってよい。故障状態は、縦加速度が入手可能でないこと、縦加速度が最大値を超過すること、または縦加速度が最小値を下回ることを含んでよい。
【0084】
本明細書で言及される場合、故障状態および劣化状態は、本方法によって実現される結果に関して互換可能に用いられ得る。また、故障冗長性という用語は、故障状態および/または劣化状態に適用され得る。すなわち、たとえばデフォルト荷重は、故障状態の検出時に、また同様に劣化状態の検出時に設定され得る。故障状態とは、任意の入力または動作が利用不可能であること(たとえば、アクチュエータが凍結、損壊している場合など)を指し得る。例として、電気機械式アクチュエータがスティクションに遭遇した場合、故障状態が存在し得る。劣化状態とは、利用可能であるが正確に動作しない任意の入力または操作を指し得る。
【0085】
方法は、車輪速度を取得することを備えてよい。車輪速度は、車両が静的状態であるか動的状態であるかを決定し得る。車両勾配は、車両が静的状態である場合のみ推定され得る。車輪速度は、左前輪および右後輪を含む第1の対角車輪セットの最大車輪速度と、右前輪および左後輪を含む第2の対角車輪セットの最大車輪速度との最小値であってよい。
【0086】
左前輪または右前輪に故障または劣化状態が生じた場合、第1または第2の対角車輪セット内の対応する後輪の車輪速度が最小値決定において考慮され得る。左前輪および右前輪の両方に故障または劣化状態が生じた場合、車輪速度はデフォルト値に設定され得る。左後輪または右後輪のいずれかに故障または劣化状態が生じた場合、車輪速度はデフォルト値に設定され得る。
【0087】
車輪速度が所定の期間にわたり静的閾値未満である場合、車両は静的状態であると想定され得る。車輪速度が所定の期間にわたり動的閾値を超える場合、車両は動的状態であると想定され得る。
【0088】
荷重値には、離散的な勾配範囲が割り当てられ得る。一例として、第1の閾値より下では、第1の荷重は第1の範囲に設定され、第1の閾値より上では、第1の荷重は第2の範囲に設定される。
【0089】
第1の荷重は、勾配の関数としてモデル化され得る。第1の荷重は、勾配に対し線形関係、非線形関係、または区分的関係を有してよい。
【0090】
第1の荷重は、油圧式ブレーキシステムの油圧に基づいて調整され得る。油圧は、ピストンに第2の荷重を付与し得る。したがって、第1の荷重は、第2の荷重を考慮して調整され得る。第1の荷重は、第1および第2の荷重の重畳が最大荷重閾値を満たす、または超えることを避けるように調整され得る。第1の荷重は、電気機械式ブレーキシステムの弛緩を考慮するように調整され得る。
【0091】
方法は、故障または劣化状態の有無を決定することを備えてよい。故障または劣化状態は、電気機械式ブレーキシステムに関連し得る。故障または劣化状態は、ブレーキキャリパ(たとえば左側ブレーキキャリパ)に専用のコントローラによって検出され、別のブレーキキャリパ(たとえば右側ブレーキキャリパ)に専用のコントローラに伝達され得る。方法は、1または複数のコントローラおよび/またはブレーキキャリパに故障または劣化状態が検出されると、1または複数の非故障ブレーキキャリパに最大デフォルト荷重を加えるように指示することを備えてよい。故障または劣化状態時に加えられる最大デフォルト荷重は、上述したように、車両勾配によって決定された荷重に替わって用いられ得る。
【0092】
アクチュエータは、適用操作中または適用操作の完了後に目標荷重を調整してよい。第1のアクチュエータが適用操作中または適用操作を完了した後、第2のアクチュエータは、故障または劣化状態に遭遇し得る。その際、動作可能なアクチュエータは、目標荷重を最大デフォルト荷重に調整してよい。
【0093】
本方法は、結合型および/または分離型ブレーキシステムで用いられ得る。結合型ブレーキシステムにおいて、1つのコントローラが2つ以上のブレーキキャリパ(たとえば左側ブレーキキャリパおよび右側ブレーキキャリパ)を操作してよい。コントローラは、たとえば電子安定性コントローラまたは電子ブースターコントローラなどの車両システムに関連し得るが、他の任意の車両システムに関連するコントローラも本教示によって考慮される。分離型ブレーキシステムにおいて、各ブレーキキャリパは、専用コントローラによって操作される。コントローラは、たとえば電子安定性コントローラおよび電子ブースターコントローラなどの車両システムに関連し得るが、他の任意の車両システムに関連するコントローラも本教示によって考慮される。
【0094】
結合型システムにおいて、通常、故障冗長性のためにパーキングポールが用いられる。すなわち、一方または両方のブレーキキャリパ、コントローラ、またはその両方に故障または劣化状態が生じた場合、車両を静止状態に維持するためにパーキングポールに依拠することができる。分離型システムにおいて、別々のコントローラおよびブレーキキャリパが、故障または劣化状態を経験しているコントローラおよび/またはブレーキキャリパに対し故障冗長性を提供することができるので、パーキングポールは存在しなくてよい。本開示は、本方法がパーキングポールの有無にかかわらず結合型システムで用いられ得ることを考慮している。本開示は、本方法がパーキングポールの有無にかかわらず分離型システムで用いられ得ることを考慮している。
【0095】
本開示は、モータ、電気機械式アクチュエータアセンブリ、および/またはブレーキピストンの位置を決定するために位置センサに依拠することなく、電気機械式ブレーキシステムを操作するための方法を提供する。方法は、図6Aおよび図6Bに関して図示および説明されるように、アクチュエータアセンブリ(たとえばスピンドルおよびナット)の位置、ブレーキピストンの位置、モータの位置、モータによる電流ドロー、モータ速度、パーキングブレーキ力またはクランプ力の大きさ、またはそれらの任意の組み合わせを正確に推定および決定するための制御ロジックを用いてよい。そのような制御ロジックは、あらゆる目的のために参照によってその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第10,137,878 B2号において説明される。ここで説明される制御ロジックは、本明細書で説明される油圧式アクチュエータシステムに関連する圧力を考慮することによって修正される。
【0096】
ディスクブレーキシステム、ドラムインハットブレーキシステム、またはその両方におけるパーキングブレーキシステムは、アクチュエータアセンブリ(たとえばスピンドルおよびナット)の位置、ブレーキピストンの位置、モータの位置、モータによる電流ドロー、モータ速度、パーキングブレーキ力またはクランプ力の大きさ、またはそれらの組み合わせを正確に推定および決定するための制御ロジックを有してよい。制御ロジックは、コントローラに埋め込まれ得る。コントローラは、電子制御ユニット、安定性制御ユニットなどであってよい。コントローラ、制御ロジック、またはその両方は、アクチュエータアセンブリの位置、ブレーキピストンの位置、モータの位置、またはそれらの組み合わせを推定するための線形時変オブザーバ(LTV)を含んでよい。位置および/または力を推定するために考慮されるキャリパダイナミクスは、非線形であってよい。非線形キャリパダイナミクスは、フィードバック線形化によって推定されたパーキングブレーキ力に基づいて、特定の動作状態(たとえばパーキングブレーキの適用またはパーキングブレーキの解除)に関して線形化され得る。線形化された動作状態は、パーキングブレーキ適用操作およびパーキングブレーキ解除操作の両方においてモータ荷重の指標を提供してよい。
【0097】
コントローラ、制御ロジック、LTV、またはそれらの組み合わせは、モータの位置、スピンドルの位置、ナットの位置、アクチュエータアセンブリの位置、モータ速度、モータによる電流ドロー、またはそれらの組み合わせを推定するために用いられ得る。LTVは、推定されたモータの位置またはモータの回転角度、モータ速度、モータによる電流ドロー、またはそれらの組み合わせに、電流および電圧測定値を関連付け、相関付け、および/または決定してよい。アクチュエータアセンブリ、ブレーキピストン、またはその両方の位置は、モータの回転位置や角度であるモータの推定位置に基づいて正確に推定され得る。これは、モータの出力シャフトが回転すると、アクチュエータアセンブリおよびそれに伴ってブレーキピストンまたはブレーキシューが対応して動くためであり、それらは全て、1または複数のギア付き連結または螺合連結を介して強固に連結されていることによる。アクチュエータアセンブリ、ブレーキピストン、またはその両方の変位または移動は、本明細書においてパーキングブレーキ力とも称され得るクランプ力に関連し得る。
【0098】
ディスクブレーキシステムにおけるパーキングブレーキの適用中、ナットがピストンポケットの底部に向かって軸方向に動き、ブレーキパッドが制動面またはブレーキロータに向かって動くと、パーキングブレーキ力は、適切な回帰モデルに基づいてモータ位置に関連付けられ得る。たとえば、モデルは、1次線形回帰モデル、2次多項式回帰、3次回帰モデル、4次回帰などであってよい。たとえば、パーキングブレーキ力は、2次多項式回帰を用いることによってモデル化される場合が多い既知のシステム剛性に基づいて、モータ位置に関連付けられ得る。内部コンプライアンスばねを有するドラムインハットブレーキシステムにおけるパーキングブレーキの適用中、パーキングブレーキ力は、区分的表現またはルックアップテーブルなどの回帰モデルに基づいて、モータ位置に関連付けられ得る。いずれの場合も、モータ、アクチュエータ、および/またはブレーキピストンの位置をクランプ力またはパーキングブレーキ力に関連付けるために、既知のシステム剛性が定義され、分析的に表現される必要がある。
【0099】
1または複数のモデルまたは副成分がLTVを定義してよい。1または複数の副成分は、ハーネス副成分、状態推定副成分、力推定副成分、およびフィードバック線形化副成分を含んでよい。上述した副成分の1または複数が結合および/またはカスケード接続され得ることが理解される。すなわち、たとえば、力推定副成分は状態推定副成分にカスケード接続され、単一の副成分として定義され得る。
【0100】
本開示は、電気機械式ブレーキシステム(たとえばパーキングブレーキまたは「EPB」)を操作するための方法を提供する。電気機械式ブレーキシステムは、油圧式ブレーキシステム(たとえばサービスブレーキまたは「HSB」)の油圧に基づいて調整するように操作され得る。調整は、適用方向および/または解除方向であってよい。そのような調整は、経験的および/または理論的モデルに基づいてよい。典型的なモデルが図4に示される。
【0101】
通常、サービスブレーキの動作中、1または複数のピストンは、(ブレーキ液の)流体圧を介して1または複数のブレーキパッドに向かう方向またはブレーキパッドから離れる方向に動かされる。通常、パーキングブレーキの動作中、1または複数のピストンは、スピンドルおよびスピンドルナットを含む1または複数のリンケージに連結されたモータギアユニットを介して1または複数のブレーキパッドに向かう方向またはブレーキパッドから離れる方向に動かされる。本開示は、サービスブレーキの動作が流体圧および/またはモータアセンブリによって実現され得ることを考慮している。本開示は、パーキングブレーキの動作がモータアセンブリおよび/または流体圧によって実現され得ることを考慮している。
【0102】
方法は、油圧式ブレーキシステムによってピストンに加えられる油圧を推定することを備えてよい。油圧は、1または複数のセンサ入力から推定され得る。通常、マスタシリンダおよび/または1または複数のホイールシリンダは、圧力を測定するためのセンサを備える。ただし、各車輪における圧力は、マスタおよび/またはホイールシリンダにおける圧力とは異なり得る。各車輪における圧力は、1または複数の他のセンサ入力から推定され得る。
【0103】
油圧式ブレーキシステムの動作中、通常、ブレーキペダルに加えられる荷重によって、ブレーキ液圧がマスタシリンダに加わり、その後ブレーキ液圧は、1または複数の導管を介して、各車輪のブレーキ機構に設けられたホイールシリンダに伝送される。マスタシリンダは、防火壁またはその付近に位置してよい。ブースターは、ブレーキペダルに加えられる荷重を増大させるために用いられ得る。
【0104】
油圧は、故障または劣化状態を考慮して、ロジックテーブルに基づいて推定され得る。油圧は、マスタシリンダおよび/または1または複数のホイールシリンダで感知された圧力を平均化することによって推定され得る。場合によっては、1または複数のセンサ入力が、故障または劣化状態のために利用可能ではないことがある。この場合、圧力推定は調整され得る。したがって、故障冗長性が提供される。
【0105】
油圧は、左ホイールシリンダに関連する第1の圧力、右ホイールシリンダに関連する第2の圧力、マスタシリンダに関連する第3の圧力、またはそれらの任意の組み合わせから推定され得る。第1、第2、および/または第3の圧力は、左ホイールシリンダ、右ホイールシリンダ、および/またはマスタシリンダに関連するそれぞれの圧力センサから取得されてよく、あるいは、第1、第2、および/または第3の圧力は、別のセンサ入力から推定される。
【0106】
左ホイールシリンダで感知された圧力および右ホイールシリンダで感知された圧力の両方が利用可能である場合、推定された油圧は、両者の平均であってよい。この場合、マスタシリンダ圧力は無視され得る。
【0107】
左ホイールシリンダで感知された圧力および右ホイールシリンダで感知された圧力の一方が利用可能である場合、推定された油圧は、圧力が利用可能であるそれぞれのホイールシリンダで感知された圧力であってよい。この場合、マスタシリンダ圧力は無視され得る。
【0108】
左ホイールシリンダで感知された圧力も右ホイールシリンダで感知された圧力も利用可能でない場合、推定された油圧は、マスタシリンダで感知された圧力であってよい。
【0109】
左ホイールシリンダで感知された圧力、右ホイールシリンダで感知された圧力、およびマスタシリンダで感知された圧力のいずれも利用可能でない場合、推定された油圧は、デフォルト値に設定され得る。
【0110】
代替圧力入力源が上記代替案を経るにつれてシステム精度が低下し得るが、方法は、デフォルト値に依拠する前にいくつかの適切な代替案を提供する。
【0111】
電気機械式アクチュエータの構成要素(たとえばスピンドル)の位置を決定するための位置センサの代わりに、本開示は、測定されたモータの電圧および/または電流に最終的に基づいて電気機械式アクチュエータを制御する方法を提供する。最終的に、電気機械式アクチュエータの構成要素(たとえばスピンドル)の位置および/または電気機械式アクチュエータの構成要素(たとえばスピンドル)によって加えられる力は、測定されたモータの電圧および/または電流から推定され得る。そのような推定は、本明細書における図6Aおよび図6Bに関して説明されるように、またあらゆる目的のために参照によってその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第10,137,878 B2号の教示に従って進行してよい。
【0112】
構成要素(たとえばスピンドル)の位置および/または構成要素によって加えられる力は、電気機械式ブレーキシステムのモータの電流および/または電圧から決定され得る。位置は、ゼロ荷重状態で決定され得る。電流および/または電圧は、モータによって加えられるトルクに関連してよい。モータによって加えられるトルクは、スピンドルによって加えられるトルクに関連してよい。スピンドルによって加えられるトルクは、スピンドル位置および/またはスピンドル力に関連してよい。
【0113】
本開示は、スピンドルナットの位置に言及するが、電気機械式ブレーキシステムの任意の構成要素の線形位置または角度位置が本開示の方法において考慮され得る。スピンドルナット、スピンドル、またはモータアセンブリの任意の構成要素の線形位置または角度位置は、互いに関連してよい。
【0114】
適用操作において、電気機械式ブレーキシステムは、推定された力に基づいて制御され得る。すなわち、本明細書において、ロータに加えられるクランプ力と称される力などである。この点に関して、電気機械式アクチュエータシステムおよび油圧式アクチュエータシステムに関連する力の重畳が最大力閾値以上になることを避けるために、推定された力が制御方式において用いられ得る。
【0115】
推定された力に基づく制御において、本開示の方法は、電気機械式アクチュエータの構成要素(たとえばスピンドル)によって(たととえばスピンドルと協働し、ブレーキパッドに係合するスピンドルナットを介して間接的に)ロータにかけられる力を推定することを備える。
【0116】
方法は、油圧式アクチュエータシステムに関連する圧力に基づいて、電気機械式アクチュエータによって加えられる推定力を補正することを備えてよい。したがって、測定または推定された圧力によって、電気機械式アクチュエータの力は、目標の力を満たし、電気機械式ブレーキシステムおよび油圧式ブレーキシステムによって加えられる力の重畳が最大力閾値を超えることを避けるように補正(たとえば低減)され得る。この点に関して、目標の力を超える不必要な力の適用および/または最大力閾値を超過することによって生じる損傷が軽減および/または防止され得る。
【0117】
適用操作における電気機械式ブレーキシステムおよび油圧式ブレーキシステムの両方の動作によって荷重の重畳が生じ得る。適用操作において、電気機械式ブレーキシステムおよび/または油圧式ブレーキシステムは、ピストンを1または複数のブレーキパッドに向かって動かし、および/またはピストンに1または複数のブレーキパッドへの荷重を加えさせてよい。したがって、電気機械式ブレーキシステムの目標力は、電気機械式ブレーキシステムおよび油圧式ブレーキシステムからの合計力が最大荷重閾値未満であるように調整され得る。そのような調整は、油圧式ブレーキシステムの油圧を考慮してよい。そのような調整は、適用方向への電気機械式ブレーキシステムの動作前、動作中、または動作後に行われ得る。
【0118】
解除操作において、電気機械式ブレーキシステムは、位置に基づいて制御され得る。すなわち、電気機械式アクチュエータシステム(たとえばスピンドル)の構成要素の位置である。この点に関して、ロータと1または複数のブレーキパッドとの間に必要なクリアランスを確保するために、制御方式において位置が用いられ得る。
【0119】
方法は、油圧式アクチュエータシステムに関連する圧力に基づいて、電気機械式アクチュエータの構成要素の推定位置を補正することを備えてよい。したがって、測定または推定された押圧力によって、電気機械式アクチュエータの位置は、所望のランニングクリアランスを実現するために補正され得る(たとえば適用または解除方向に、典型的には解除方向に動かされ得る)。この点に関して、残留キャリパ抗力が軽減および/または防止され得る。
【0120】
残留キャリパ抗力は、電気機械式および/または油圧式ブレーキシステムによって制動圧力が加えられていない場合にブレーキディスクと1または複数のブレーキパッドとの間の接触によって生成され得る。残留キャリパ抗力は、1または複数のブレーキパッドとブレーキディスクとの間のランニングクリアランスが不十分であることにより生じ得る。油圧式ブレーキシステムの解除操作において、ブレーキパッドに加えられる荷重は、油圧式ブレーキシステムと電気機械式ブレーキシステムとの間で分担された状態から、完全に電気機械式システムによって加えられる状態に移行する。
【0121】
材料の弾性変形、構成要素間の滑り、構成要素間の隙間、またはそれらの任意の組み合わせにより、電気機械式システムへの荷重の移行は、電気機械式システムを解除方向に位置ずれさせ得る。これらの要因の1つまたは任意の組み合わせによる位置ずれは、本明細書において、弛緩または偏向と称され得る。電気機械式ブレーキシステムが解除方向に弛緩すると、弛緩して伸長および/または適用方向に移動する場合があり、その結果、電気機械式ブレーキシステムの構成要素のゼロ荷重位置のずれが低減される。したがって、油圧解放後にランニングクリアランス(たとえば約0.5mm~1.5mm)が維持され得るように、ゼロ荷重位置が解除方向に調整され、電気機械式ブレーキシステムは、補正されたゼロ荷重位置に調整される。
【0122】
電気機械式ブレーキシステムの制御は、閉ループ推定を含んでよい。
【0123】
図4に関して本明細書で説明されるように、経験的および/または理論的モデルは、油圧式アクチュエータシステムに関連する圧力を、力ならびに位置に関連付けてよい。図4は単に典型的なモデルであり、本教示は、このモデルに限定されることを意図していない。したがって、制御が力に基づく場合、圧力は力に関連付けられてよく、制御が位置に基づく場合、圧力は位置に関連付けられてよい。言い換えると、油圧式作動システムによって加えられる力は、油圧式作動システムの圧力に関連付けられ、電気機械式作動システムのゼロ荷重位置のずれは、油圧式作動システムの圧力に関連付けられる。油圧式作動システムによって加えられる力および電気機械式作動システムのゼロ荷重位置のずれは、圧力から計算、推定、または他のように決定され得る。
【0124】
図1は、故障冗長方式を示す。左前輪(FL)、右前輪(FR)、左後輪(RL)、および右後輪(RR)に関連する入力が考慮される。本明細書で教示されるように、車輪速度は、車両が静的状態であるか動的状態であるかを決定するために用いられ得る。速度は、各車輪で決定される。したがって、入力の1または複数が利用不可能である場合、方法は、他の入力または所定の値に依拠し得る。
【0125】
一般に、方法は、車輪の対角ペア(たとえば左前輪および右後輪)について最大車輪速度を決定する。次に、方法は、各対角車輪ペアから決定された2つの最大値から最小値を決定する。この最小値が、推定車輪速度である。
【0126】
前輪のいずれかからの入力が利用不可能である場合、方法は、対角ペアにおける対応する後輪に依拠する。両方の前輪からの入力または後輪のいずれかからの入力が利用不可能である場合、方法は、推定速度を故障値に設定する。
【0127】
図2Aは、勾配範囲のグラフを示す。各勾配範囲は、閾値(T1、T2、およびT3)によって区切られる。図示されたグラフは単なる典型例であり、より多いまたは少ない数の離散勾配範囲が本教示によって考慮されている。本明細書で教示されるように、縦加速度は、勾配を決定するために用いられ得る。勾配は、離散範囲に区切られてよく、電気機械式アクチュエータが調整される荷重は、各勾配範囲に割り当てられ得る。
【0128】
図2Bは、勾配の関数としての目標荷重のグラフを示す。図2Aの方法への追加または代替として、荷重は、勾配の関数として、線形(破線)関係、非線形(点線)関係、または区分的(実線)関係に従って調整され得る。
【0129】
図3Aは、時間の関数としてのパーキングブレーキおよびサービスブレーキの動作パラメータのグラフを示す。本開示は、力の重畳が生じる(3)と(4)との間の動作、およびブレーキパッドとブレーキディスクとの間にランニングクリアランスが戻る(5)と(6)との間の動作に少なくとも部分的に関係する。
【0130】
(2)において、電気機械式ブレーキシステム(「電気式パーキングブレーキ」または「EPB」)のゼロ荷重移動が停止し、電気機械式ブレーキシステムは、ブレーキパッドに加えられる荷重に寄与する。電気機械式ブレーキシステムおよび油圧式ブレーキシステム(「油圧式サービスブレーキ」または「HSB」)が動作可能である場合、本開示の方法は、電気機械式ブレーキシステムと油圧式ブレーキシステムとの合計荷重が最大推奨荷重(A)を満たし、および/または超過しないように、油圧式ブレーキシステムの油圧を考慮して、必要なスピンドルナットの移動を決定する。(3)と(4)との間で、油圧式ブレーキシステムの油圧は解放され、ブレーキパッドに加えられる総荷重は、完全に電気機械式ブレーキシステムに移行する。油圧式ブレーキシステムが解除されると、電気機械式ブレーキシステムの弛緩により、電気機械式ブレーキシステムは適用位置にあるが、電気機械式ブレーキシステムのスピンドルナットは解除方向に一定距離移動(「偏向」)する。
【0131】
(4)と(5)との間で、FPB荷重および総荷重は28845N、HPS荷重は0N、モータ電流は0A、モータ速度は0RPM、モータ電圧は0V、モータ駆動トルクは0Nm、圧力波0bar、スピンドル位置は0.522mm、偏向は0.522mmである。
【0132】
(5)において、電気機械式ブレーキシステムは、ブレーキパッドへの荷重を解放し、スピンドルナットの位置は、(5)と(6)との間のゼロ荷重位置に戻る。(6)において、ランニングクリアランスが存在する。本開示の方法は、油圧を考慮して、図3Bにおいて(Y)と(X)との間の差として示す、電気機械式ブレーキシステムの弛緩に起因するスピンドルナットの偏向を決定する。本開示の方法は、弛緩後、所望の荷重が実現されるように、目標荷重に弛緩を考慮する。弛緩を考慮しない場合、ゼロ荷重位置((5)と(6)との間)は、(Y)と(X)との間の差によって歪められ得る。状況によっては、(Y)と(X)との間の差がブレーキパッドとブレーキディスクとの間のランニングクリアランスを満たすか、または超える場合、残留キャリパ抗力が生じ得る。
【0133】
油圧は、たとえば図4に示すような経験的または理論的モデルによって考慮される。本開示は、図4のモデルが単に典型例であり、異なる種類のブレーキシステム、および/または異なる車両メーカ、モデル、モデル年、および/またはトリムレベルに固有であってよいことを考慮している。
【0134】
図4は、パーキングブレーキによって加えられるクランプ力を、スピンドルナットの位置および油圧の関数として示すグラフを示す。電気機械式ブレーキシステムによって作動するスピンドルナットの位置(x軸)は、電気機械式ブレーキシステムによってブレーキパッドに加えられるクランプ荷重(y軸)に関連する。x軸およびy軸のみを考えると、スピンドルナットの位置が適用方向(正方向)に移動すると、クランプ荷重はゼロ荷重位置を超えて増加する。点Bは、スピンドルナットがピストンに接触するが荷重を加えることはないゼロ荷重位置を示す。
【0135】
油圧ブレーキシステムによって油圧(z軸)がピストンに加えられると、ピストンの位置は適用方向にずれ、それに応じて、スピンドルナットのゼロ荷重位置は適用方向に調整される。ゼロ荷重位置は、線A´(たとえば点B´)に沿って調整されるので、電気機械式ブレーキシステムは、点Bのx軸座標と直線A´に沿った任意の点(たとえば点B´)との差によってスピンドルナットの位置を調整してよい。
【0136】
油圧が考慮されない場合、油圧が解放された場合のランニングクリアランスは、点Bのx軸座標と線A´に沿った任意の点(たとえば点B´)との差によって減少し得る。
【0137】
線(B)は、モデル内の最大荷重を示す。したがって、ピストンに油圧が加えられる場合、電気機械式ブレーキシステムは、圧力の解放時に最大EPBクランプ荷重を満たす、または超えることを避けるために動作を調整し得る。
【0138】
図5は、分離型アーキテクチャの概略図を示す。左側および右側ブレーキキャリパの各々の電気機械式ブレーキシステム(たとえばパーキングブレーキ)は、別々のコントローラによって操作される。コントローラは、それぞれのブレーキキャリパと(線(A))、互いに(線(B))、および既存の車両システムと(線(C))通信する。
【0139】
図5は、右側ブレーキキャリパに専用の電子安定性コントローラと、左側ブレーキキャリパに専用のブースターコントローラとを示すが、本開示は、逆の配置が用いられ得ることを考慮している。また本開示は、他の任意の車両コントローラが任意のブレーキキャリパを操作してよいことも考慮している。
【0140】
故障または劣化状態(たとえば右側電気機械式アクチュエータの機能障害)が発生すると、故障または劣化状態は、故障/劣化したブレーキキャリパのコントローラによって他のコントローラに伝達されてよく、これにより、(たとえば電気機械式ブレーキシステムによって)動作可能なブレーキキャリパは、ロータに最大デフォルト荷重を加えるように指示される。このように、車両の静止状態が確保され得る。
【0141】
図6Aは、コントローラ内に含まれる線形時変数(「LTV」)10のフロー図または制御モデルを示す。このパーキングブレーキシステムにおいて、モータ、アクチュエータアセンブリ、および/またはブレーキピストンの位置を決定するために位置センサは使用されないので、LTV10は、モータの位置、アクチュエータの位置、スピンドルの位置、ナットの位置、またはそれらの組み合わせを正確に推定するために使用される。LTV10は、モータ速度または速力およびモータ電流を正確に推定するためにも用いられる。LTV10の制御ロジックアーキテクチャは、組み合わせまたはカスケード接続が可能な様々なモデルを備える。LTV10のモデルは、ハーネスモデル12、状態推定モデル14、力推定モデル16、および線形化モデル18を含む。
【0142】
ハーネスモデル12は、コントローラからアクチュエータアセンブリへの車両ハーネルのモデルであってよい。モータの電流20および電圧22は、ハーネスモデル12において測定される。電気機械式アクチュエータシステムが作動する前、モータの荷重はゼロであることが知られている。したがって、モータへの入力電圧22および入力電流20は既知である。
【0143】
電気機械式アクチュエータシステムが作動し、パーキングブレーキを生成または解除するためにモータへの荷重が増加した後、モータは、モータギアユニット(「MGU」)、アクチュエータアセンブリ、ブレーキパッド、またはブレーキシューなどを作動させて動かし、クランプ力を生成するために、モータの運転状態を維持するために電源から追加の電流(すなわちモータ電流)を引き出す。モータによって引き出される電流が増加すると、モータ端子における電圧は、ハーネス抵抗によって下降する。この電流の変化は、ハーネスモデル12において測定される。ハーネスの抵抗は、これらの測定において考慮され、モータ電圧は、ハーネスモデルにおける測定電流および測定電圧に基づいて決定される。モータのモータ電流測定値24およびモータ電圧測定値26は、ハーネスモデル12から出力され、状態推定モデル14に入力される。
【0144】
図6Bに関して説明されるモータダイナミクスおよびギアダイナミクスに関連する)状態推定モデル14は、モータ位置、モータ速度、および/またはモータ電流を推定するために用いられるモデルである。状態推定モデル14は、アクチュエータアセンブリの線形化された状態空間モデルであってよい。モータ位置、モータ速度、および/またはモータ電流は、ハーネスモデル12からの電流測定値24および電圧測定値26に基づいて推定される。モータ位置、モータ速度、およびモータ電流の1または複数は、状態推定モデル14の出力であるXhat28に含まれる。(Xhat28に含まれる)推定モータ位置は、状態推定モデル14から出力され、力推定モデル16に入力される。図6Bに関して図示および説明するように、状態推定モデル14は、モータダイナミクス30およびギアダイナミクス32を考慮に入れる。推定された状態(たとえばXhat28に含まれるモータ位置、モータ速度、および/またはモータ電流)は、状態推定モデル14から出力され、詳しく後述するように、推定および測定された電流に基づいて誤差補正項を提供するために状態推定モデル14にフィードバックされる。
【0145】
力推定モデル16は、本明細書においてパーキングブレーキ力と互換的に用いられ得るクランプ力36を推定するために用いられるモデルである。力推定モデル16は、クランプ力36を推定するための多項式回帰またはルックアップテーブルとして実装され得る力モデルを提供してよい。力推定モデル16において、クランプ力36は、推定モータ位置34および油圧式アクチュエータシステム(たとえばサービスブレーキ)に関連する圧力38に基づいて推定される。ただし、クランプ力36は、追加または代替として、推定モータ電流および/または推定モータ速度に基づいて推定されてもよい。推定クランプ力36は、たとえば、推定モータ位置34の2次多項式回帰であってよい。推定モータ位置34および推定クランプ力36は、力推定モデル16から出力される。
【0146】
パーキングブレーキの適用中、クランプ力は、車輪または車両の動きを制限または防止するためにブレーキパッドまたはブレーキシューが制動面(たとえば、それぞれブレーキロータまたはブレーキドラム)に押し付けられると生じる力の大きさである。パーキングブレーキが解除されると、クランプ力は低下し、車輪または車両は再び動くことができる。
【0147】
当業者は、通常、ブレーキパッドおよびブレーキシューの摩擦材が経年的に摩耗することにより、十分なクランプ力を生成するためにブレーキパッドおよびシューを更に制動面に向かって動かす必要があることを理解する。したがって、ブレーキパッドおよびシューだけではなくアクチュエータアセンブリのこの追加の必要な動きを補償するために、モータ位置が変化し、必要なクランプ力を生成する。したがって、LTV10は、この摩耗と、対応するモータおよび/またはアクチュエータの位置の変化とを補償するために、継続的に更新する。これらの更新は、ブレーキパッドまたはブレーキシューがそれぞれロータまたはドラムに係合し始めるゼロクリアランス状態を中心とする力推定モデル16で実現される。
【0148】
力推定モデル16から出力されたクランプ力36は、線形化モデル18に入力される。線形化モデル18の出力は、フィードバック線形化を用いて状態推定モデル14(すなわち推定モータ位置、モータ速度、モータ電流)を線形化する、モータ荷重トルク40の推定値である。推定モータ荷重トルク40は、状態推定モデル14から出力される推定状態(すなわちXhat、推定モータ位置、推定モータ速度、モータによる推定電流ドロー、またはそれらの組み合わせ)とともに、状態推定モデル14に供給される。状態推定モデル14へのモータ荷重トルク40のフィードバックを用いることにより、システムは、以下の式20および22において定義されるように状態A行列が時変行列(すなわちA(t))である状態空間表現で表される。モータ動作荷重40に関するフィードバック線形化は、以下の式36~39を用いて内部状態(Xhat)を推定するための正確な線形状態空間形成を提供する。
【0149】
図6Bは、パラメトリックシステムモデルによって定義されたLTV10を示す。パラメトリックシステムモデルは、モータダイナミクス副成分30、ギアダイナミクス副成分32、スピンドルダイナミクス副成分42、およびパーキングブレーキダイナミクス副成分44によって記述され得る。1または複数のモデルまたは副成分がLTVを定義し得る。
【0150】
パーキングブレーキの適用中またはパーキングブレーキの解除中、モータに荷重がかかると、モータは追加の電流を引き出し、この電流は、上述したように、ハーネスモデル12からの出力測定値である。モータ速度46およびモータ電流24は、モータダイナミクスモデル30からの出力として推定される。モータ速度46およびモータ電流24は、電圧26測定値出力およびモータ荷重トルク40に基づいて推定される。モータ速度46および対応するスピンドル位置48は、モータ荷重トルク40を決定するために用いられ、これは、LTV10がモータ位置34を継続的に更新可能であるように、モータダイナミクスモデル30にフィードバックされる。スピンドル速度50は、モータ速度46に基づき、ギアダイナミクスモデル32から出力され、パークブレーキダイナミクス44からの荷重力フィードバックに基づいてスピンドルトルク52を決定するために、スピンドルダイナミクスモデル42に入力される。スピンドルの位置54は、スピンドル速度50に関連する。スピンドル位置54は、スピンドルダイナミクスモデル42から出力され、パークブレーキダイナミクス44に入力される。スピンドル力56は、パークブレーキダイナミクス44から出力され、LTV10がブレーキパッドまたはブレーキシューの経時的な摩耗に伴いスピンドル位置54からスピンドル力56までを継続的に更新可能であるように、スピンドルダイナミクスモデル42にもフィードバックされる。スピンドル荷重力58は、図6Aにおいて説明されるクランプ力36に関連する。
【0151】
モータダイナミクス副成分30は、キルヒホッフの電圧法則、トルクバランス方程式、および/またはオームの法則を用いてモデル化され得る。モータへの入力電圧22は、観測された電子制御電流および電圧から、公称車両ハーネス抵抗を用いて導出され得る。生成されたモータトルク(Ki)および逆起電力(EMF)電圧は、測定された電流24、モータ速度46、およびモータ定数の関数であってよい。モータ端子電圧は、オームの法則に基づいて、ハーネス抵抗および電流観測値24に基づいて推定され得る。モータ電圧(U)は、EQ1に示すように、測定されたESC電圧(Vesc)からハーネス電圧降下(iR)を引いたものに等しくなり得る。
U=Vesc-iR EQ1
【0152】
パラメトリックシステムモデルにおける電流24の変化率は、EQ2に示すように、適用されたモータ電圧(U)から逆EMF電圧および回路内の抵抗降下を引いたものとして表すことができ、式中、Lは回路インダクタンス、Rは回路抵抗、Kはモータの逆EMF定数を表す。
【数1】
【0153】
トルクバランス方程式において、慣性(J)は、スピンドルおよびナットを含むアクチュエータアセンブリからの等価反射慣性に加えてモータ成分から構成され得る。キャリパシステムにおけるモータを典型とするような高減速システムの場合、等価慣性が1/Rの関係を有することにより、下流等価慣性は無視できる場合が多い。したがって、モータ加速度は、EQ3に示すように、モータトルク(Ki)からモータ荷重トルク(T)40および内部減衰による粘性損失を引いた関数になり得る。
【数2】
【0154】
ギアダイナミクスの副成分32は、アクチュエータアセンブリに加えられる増幅されたモータトルク(T)のモデルであってよい。総増幅量は、集中減速比(R)とギア効率(η)との関数であってよい。この関係は、スピンドルトルクがTによって表されるEQ4によって示され得る。
【数3】
【0155】
スピンドルダイナミクス42は、スピンドルおよびナットのモデルであってよい。パーキングブレーキ力F(t)は、1または複数のスピンドルおよびナットパラメータに基づいて、スピンドルトルク(T(t))に関連付けられ得る。パーキングブレーキ力F(t)とスピンドルトルク(T(t))との関係は、スピンドルの特定の動作モード(たとえば、スピンドルがパーキングブレーキの適用中に動作しているかパーキングブレーキの解除中に動作しているか)に依存してよく、モータおよび/またはスピンドル速度に関する区分方程式として表され得る。スピンドルとナットとの間の自己ロック効果により、静的摩擦から動的摩擦への移行時、アクチュエータアセンブリ内には大きなスティクション(すなわち、スピンドルおよびナットが動き出すことを防止する摩擦)が存在する。したがって、推定は非ゼロモータ速度の間のみ有効であるため、アクチュエータアセンブリのスティクションは無視することができ、動作中の主な摩擦は動的摩擦と考えられ得る。
【0156】
パーキングブレーキの適用およびパーキングブレーキの解除の両方に関するスピンドルトルク方程式は、それぞれ式EQ5およびEQ6によって定義され得る。スピンドル係数方程式(SFsa、SFsr)は、対称ねじおよび非対称ねじに関して1または複数の形式で表され得る。たとえば、スピンドル係数SFsa、SFsrは、それぞれEQ7およびEQ8によって表され得る。スピンドルパラメータは、たとえばスピンドル摩擦μ、効果的なスピンドル径dm、スピンドルリードl、およびスピンドルフランク角αなどの1または複数のパラメータを含んでよい。ベアリングパラメータは、ベアリング摩擦μdbおよび有効ベアリング径dを含んでよい。スピンドルおよびベアリングパラメータ(SF)は、経時的なパーキングブレーキシステムの劣化に対処するために適応制御法を用いて評価され得る。EQ5およびEQ7、EQ6およびEQ8を組み合わせると、それぞれEQ9およびEQ10が得られる。
【数4】
【0157】
パークブレーキダイナミクス44およびそれに応じるブレーキピストン変位は、システム剛性特性に基づいて、発生パーキングブレーキ力(F(t))に関連付けられ得る。システム剛性特性は、たとえば1次回帰モデル、2次回帰、3次、4次回帰モデルなどの適切な回帰モデルによって表され得る。たとえば、システム剛性は、それぞれパーキングブレーキの適用およびパーキングブレーキの解除に関してEQ16およびEQ17に示す特性によって表され得る。ディスクブレーキシステムにおいて、パーキングブレーキ力(F(t))は、2つの回帰係数C1およびC2によって実現され得る。これらの回帰係数C1およびC2は、パーキングブレーキ力(F(t))に対するピストン位置のモデルを形成するために、温度および摩耗の両方の関数として更に改良され得る。それに応じて、パーキングブレーキ力(F(t))は、ピストン位置およびスピンドル係数(SF)の関数としてスピンドルトルク(T(t))を表すために、EQ9およびEQ10に代入され得る。
F(t)=C1x(t)+C2x(t) EQ11
sa(t)=SFsa[C1x(t)+C2x(t)] EQ12
sr(t)=SFsr[C1x(t)+C2x(t)] EQ13
【0158】
パークブレーキダイナミクス44は、状態空間表記を用いて表され得る。パーキングブレーキシステムの全体効率は、適応制御で用いるために単一の表現に一括され得る。この単一の表現は、たとえばモータ、MGU、ベアリング、およびスピンドル効率のパラメータなどの1または複数のパラメータで構成され得る。一括されたスピンドル係数は、それぞれパーキングブレーキの適用およびパーキングブレーキの解除に関してEQ14およびEQ15に記述される。モータ荷重トルク(T)40の表現は、EQ14およびEQ15をそれぞれモータ荷重トルク方程式EQ4およびスピンドルトルク方程式EQ9、EQ10に代入した後、EQ16およびEQ17に記述される。
【数5】
【0159】
パーキングブレーキシステムは、非線形形式で表され得る。内部選択されたシステム状態は、モータ位置(θ)、モータ速度({grave over(θ)})、およびモータ電流(i)であってよい。システム観測値は、状態出力(y)によって記述され、モータ電流(i)のみに与えられる。このモータ電流観測値(i)は、制御ユニット、電子安定性コントローラ、または同等の車両ハードウェアによって生成される。LTV10は、状態推定値を補正するために、入力電圧(U)22およびモータ電流(i)24の観測値の知識に依拠してよい(予測子修正子)。
【数6】
【0160】
EQ16およびEQ17において表されたモータ荷重トルク(T)40は、現在動作中のモータ荷重に関するEQ18の状態空間表現を線形化するために時間変化パラメータとして評価され得る。線形化は、モデル14を離散時間で更新するために、状態推定モデル14へのフィードバックを通して完了され得る。線形化された状態空間形成は、式EQ20~EQ23に示される。このフィードバック線形化により、モータ位置(θ)、モータ速度({grave over(θ)})、およびモータ電流(i)の線形時変推定値の使用が可能になる。このフィードバック線形化は、以下のEQ22におけるFx(t)によって表される。
【数7】
【0161】
観測可能性(Ob)とは、システムの内部状態(すなわちモータ位置(θ)、モータ速度({grave over(θ)})、およびモータ電流(i))が外部出力の知識によってどの程度良好に推測され得るかを指してよい。システムは、任意の可能な状態および制御ベクトルのシーケンスに関して、出力のみを用いて有限時間内で現在の状態が決定され得る場合、観察可能であってよい。この品質は、EQ34およびEQ35の観察可能性行列のランクをチェックすることによって評価され得る。観察可能性行列EQ35における全てのパラメータは、発生パーキングブレーキ力(F(t))を除き、一定の時間不変パラメータであってよい。発生パーキングブレーキ力(F(t))は、時変パラメータであってよい。発生パーキングブレーキ力(F(t))は、パーキングブレーキ力の正の実数表現、または値ゼロのいずれかをとってよい。発生またはパーキングブレーキ力の場合、観測行列は、完全な観測可能性に対応し得るフルランクであってよい。完全な観測可能性とは、モータ電流(i)の観測に基づいて、全ての内部システム状態が推定され得ることを意味してよい。
【0162】
パーキングブレーキの適用中、パーキングブレーキ力と、モータ、アクチュエータアセンブリ、またはその両方の位置とが結合され、定義されたシステムダイナミクスに基づいて推定値が補正されるように、予測子修正子関係を提供してよい。
【数8】
【0163】
利得(L)を有するLTV10の理論的表現は、連続時間に関して式EQ36およびEQ37に、離散時間表現に関して式EQ38およびEQ39に提供され得る。利得(L)は、システム応答仕様を満たすように極配置技術を用いて選択され得る。システムダイナミクスは時変数であるため、極配置設計基準の場合、ベクトル内の利得パラメータLは、L=f(F)または対応してL=f(T)となるように現在の動作状態に基づいて選択される。
【数9】
【0164】
状態空間方法論の別の利点は、推定および測定されたモータ電流が、アクチュエータアセンブリの寿命にわたり内部モデルベースのパラメータを適応させるために用いられ得る点であり得る。言い換えると、スピンドル係数(SFsa、SFsr)は、スラストベアリングおよびMGU効率と一括され、推定されたモータ電流と測定されたモータ電流との誤差に基づいて適応化され得る。この劣化適応は、アクチュエータアセンブリの劣化を考慮するために、LTV10内の全体パーキングブレーキシステム効率を適応させるために用いられ得る。この適応により、好適には、全体推定誤差が減少し、および/または力および位置の制御変動が低減され、その結果、システムサイズの低減が可能になる。これは最終的に、重量およびシステムコストの削減をもたらす。劣化適応は、式EQ40を用いて実現され、EQ41に従ってスピンドル係数(SFsa、SFsr)の変動を最小化するために前の適応に対して重み付けされてよく、式中、ωは各適応に割り当てられた重みであり、重みの合計は1に等しい。
【数10】
【0165】
上記説明は、例示的であって限定的ではないことが意図されていることが理解される。したがって、本明細書に記載される特定の実施形態は、網羅的または限定的な教示として意図されていない。提供された例以外の多数の実施形態ならびに多数の応用は、上記説明を読むことにより当業者に明らかになる。当業者は、本教示を、特定の用途の要件に最も適し得るように、多数の形態に適応させ、適用し得る。以下に示す特許請求の範囲から読み取れるように、他の組み合わせも可能であり、それらもまた参照によって本明細書に組み込まれる。
【0166】
したがって、本教示の範囲は、上記説明を参照して決定されるべきではなく、添付の特許請求の範囲を参照して、特許請求の範囲が権利を与えられる全範囲の均等物とともに決定されるべきである。本明細書に開示される主題事項の任意の態様に関する以下の特許請求の範囲での省略は、そのような主題事項の否認ではなく、また、発明者がそのような主題事項を開示される発明的主題事項の一部であると考えないと見なされてはならない。
【0167】
複数の要素またはステップが、単一の統合された要素またはステップによって提供されてよい。あるいは、単一の要素またはステップが、複数の要素またはステップに分割されてもよい。
【0168】
要素またはステップを説明するための「a」または「one」の開示は、追加の要素またはステップを排除することを意図したものではない。
【0169】
本明細書において、様々な要素、構成要素、領域、層、および/または部分を説明するために「第1の」、「第2の」、「第3の」などの用語が使用され得るが、これらの要素、構成要素、領域、層、および/または部分は、これらの用語によって限定されるべきではない。これらの用語は、ある要素、構成要素、領域、層、または部分を別の要素、構成要素、領域、層、または部分と区別するために使用され得る。これらの用語は、文脈によって明確に示されない限り、順序や序列を暗示するものではない。したがって、第1の要素、構成要素、領域、層、または部分は、本教示から逸脱することなく、第2の要素、構成要素、領域、層、または部分と称されてもよい。
【0170】
たとえば「内側」、「外側」、「下」、「下側」、「下部」、「上側」、「上部」などの空間相対的用語は、本明細書において、図内に示されるある要素または特徴の別の要素(複数も可)または特徴(複数も可)との関係を表す説明を容易にするために使用され得る。空間相対的用語は、図内に示す向きに加えて、使用中または動作中のデバイスの異なる向きを包括することが意図され得る。たとえば、図内のデバイスが反転されると、他の要素または特徴の「下側」または「下」として説明される要素は、他の要素または特徴の「上」に向けられる。したがって、例示的な「下」という用語は、上下の向きの両方を包括し得る。デバイスは、他の向き(たとえば90度回転した向きや他の向き)であってよく、本明細書で使用される空間相対的記述子は、それに従って解釈される。
【0171】
角度測定値を表す「概ね」または「実質的に」という用語は、約+/-10°以下、約+/-5°以下、または約+/-1°以下を意味してよい。角度測定値を表す「概ね」または「実質的に」という用語は、約+/-0.01°以上、約+/-0.1°以上、または約+/-0.5°以上を意味してよい。線形測定値、割合、または比率を表す「概ね」または「実質的に」という用語は、約+/-10%以下、約+/-5%以下、または約+/-1%以下を意味してよい。線形測定値、割合、または比率を表す「概ね」または「実質的に」という用語は、約+/-0.01%以上、約+/-0.1%以上、または約+/-0.5%以上を意味してよい。
【0172】
特に指定されない限り、全ての範囲は、両方の端点およびそれらの間の全ての数値を含む。範囲に関連する「約」または「おおよそ」の使用は、その範囲の両端に適用される。したがって、「約20~30」は、少なくとも指定された端点を含む「約20~約30」を含むことが意図される。
【0173】
組み合わせを説明するための「本質的に~で構成される」という用語は、識別された要素、構成要素、またはステップ、およびその組み合わせの基本的および新規的特性に実質的に影響を及ぼさない他の要素、構成要素、またはステップを含むものとする。本明細書における要素、成分、構成要素、またはステップの組み合わせを説明するための「備える」または「含む」という用語の使用は、本質的にその要素、成分、構成要素、またはステップで構成される実施形態も考慮している。
【0174】
特許出願および特許公開を含む全ての論文および参照文献の開示は、あらゆる目的のために参照によって組み込まれるものとする。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
【外国語明細書】