(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058621
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】電気電池の爆発に対する耐性を持つ可撓性多層材料
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20240418BHJP
H01M 50/202 20210101ALN20240418BHJP
H01M 50/204 20210101ALN20240418BHJP
H01M 50/231 20210101ALN20240418BHJP
H01M 50/227 20210101ALN20240418BHJP
H01M 50/229 20210101ALN20240418BHJP
H01M 50/222 20210101ALN20240418BHJP
H01M 50/249 20210101ALN20240418BHJP
H01M 50/233 20210101ALN20240418BHJP
H01M 10/613 20140101ALN20240418BHJP
H01M 10/625 20140101ALN20240418BHJP
H01M 10/658 20140101ALN20240418BHJP
【FI】
B32B27/00 101
H01M50/202 401H
H01M50/204 401H
H01M50/231
H01M50/227
H01M50/229
H01M50/222
H01M50/249
H01M50/233
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/658
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023174936
(22)【出願日】2023-10-10
(31)【優先権主張番号】2210558
(32)【優先日】2022-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】523383657
【氏名又は名称】ジェイエ
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドガン オグレテン
(72)【発明者】
【氏名】アドリアン ドーデ
(72)【発明者】
【氏名】セドリック ユイエ
(72)【発明者】
【氏名】ポール ドアノー
【テーマコード(参考)】
4F100
5H031
5H040
【Fターム(参考)】
4F100AA16B
4F100AA16D
4F100AA18B
4F100AA18D
4F100AA19B
4F100AA19D
4F100AA20B
4F100AA20D
4F100AA21B
4F100AA21D
4F100AA37A
4F100AA37B
4F100AA37C
4F100AA37D
4F100AA37E
4F100AC03B
4F100AC03D
4F100AK52A
4F100AK52B
4F100AK52C
4F100AK52D
4F100AK52E
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100BA10E
4F100DE01A
4F100DE01B
4F100DE01C
4F100DE01D
4F100DE01E
4F100DG01B
4F100DG01D
4F100DG12B
4F100DG12D
4F100DG13B
4F100DG13D
4F100EJ05A
4F100EJ05B
4F100EJ05C
4F100EJ05D
4F100EJ05E
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4F100YY00D
4F100YY00E
5H031KK02
5H040AA28
5H040AA37
5H040AS04
5H040AS07
5H040LL04
5H040LL06
5H040LL10
5H040NN01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電気電池用途のための機械的および熱的シールドとして機能できる多層材料を提供する。
【解決手段】n個のベースユニットを備える多層材料であり、一つのベースユニットは積層体からなり、積層体は順に、i)架橋シリコーン樹脂の架橋温度より高い温度から膨張可能なグラファイト粒子を備える架橋シリコーン樹脂層7;ii)織物または編物に間隙が設けられ、すべてが架橋シリコーン樹脂で含浸されており、当該シリコーン樹脂は、その架橋温度より高い温度から膨張可能なグラファイト粒子を備える、含浸シリカもしくはアルミナの織物または編物層5;を備える。数nは1以上5以下。n番目のベースユニットは、樹脂層と織物または編物層とが交互に形成された積層体を形成すべく別の架橋シリコーン樹脂層7’でコーティングされ、この別の樹脂層も当該シリコーン樹脂の架橋温度より高い温度から膨張可能なグラファイト粒子を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
nがゼロでない自然数であるn個のベースユニットを備える多層材料であって、
一つのベースユニットは積層体からなり、当該積層体は、順に、
架橋シリコーン樹脂層であって、当該シリコーン樹脂の架橋温度より高い温度から膨張可能なグラファイト粒子を備える架橋シリコーン樹脂層(7)と、
含浸シリカもしくはアルミナの織物または編物層であって、前記織物または編物に間隙が設けられており、すべてが架橋シリコーン樹脂で含浸されており、当該シリコーン樹脂は、当該シリコーン樹脂の架橋温度より高い温度から膨張可能なグラファイト粒子を備えている、含浸シリカもしくはアルミナの織物または編物層(5)と、
を備えており、
ここで、
ベースユニットの数nは、1以上5以下であり、
n番目のベースユニットは、樹脂層と織物または編物層とが交互に形成された積層体を形成するように、別の架橋シリコーン樹脂層(7’)でコーティングされており、この別の架橋シリコーン樹脂層(7’)はまた、当該シリコーン樹脂の架橋温度より高い温度から膨張可能なグラファイト粒子を備えている、
ことを特徴とする多層材料。
【請求項2】
前記ベースユニットの厚さが900~1150μmの間である、請求項1に記載の多層材料。
【請求項3】
前記ベースユニットの数nが1以上3以下であり、好ましくは2または3である、請求項1又は2に記載の多層材料。
【請求項4】
1100~5950μmの間の総厚を有する、請求項3に記載の多層材料。
【請求項5】
2000~2500μmの間の総厚に対して、数n=2のベースユニットを備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の多層材料。
【請求項6】
2900~3650μmの間の総厚に対して、数n=3のベースユニットを備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の多層材料。
【請求項7】
前記シリコーン樹脂が、
短シリカまたはアルミナ繊維、焼成シリカ粒子、水酸化マグネシウム粒子、バーミキュライト、粘土粒子、酸化チタン粒子、炭化ケイ素(SiC)粒子、および、これらの2つ以上の混合物からなる群から選択される追加の挿入材料を備える、
請求項1から6のいずれか一項に記載の多層材料。
【請求項8】
架橋されているか否かにかかわらず、前記シリコーン樹脂が、
当該シリコーン樹脂の全質量に対して5~15質量%の膨張性グラファイト粒子と、
当該シリコーン樹脂の全質量に対して4~7質量%の焼成シリカと、
を備える、請求項1から7のいずれか一項に記載の多層材料。
【請求項9】
前記膨張可能なグラファイト粒子が、80~110μmの間の最大寸法を有する、好ましくは90μmの相対的に大きな寸法を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の多層材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気電池の分野に関する。
本発明は、より詳細には、電気電池用途のための機械的および熱的シールドとして機能できる多層材料に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの分野では、機械的および熱的保護の使用が必要である。
特に、電池、とりわけリチウムイオン電池の保護は、現在、問題の分野(自動車、特に軽車両、重車両、バスまたはコーチ、航空、鉄道、海軍など)にかかわらず、電気またはハイブリッド輸送車両の安全性および信頼性にとって大きな課題である。
【0003】
実際、電気自動車の電池は、特定の条件下で、制御不能な熱暴走現象を受け、数秒で電池が爆発する可能性がある。
この爆発は、さらに爆風効果のために、1500℃を超え得る温度を有する粒子の放出を伴う。これは「爆風(ブラスト)」現象である。
それが、爆発の爆風および高温粒子の放出を制限するために、電池を構成する集合体の上および/または周囲に機械的および熱的シールドが配置される理由である。
【0004】
ほとんどの既存のシールドは、現在、マイカボードベースである。
これらのマイカボードは、実際に、シールドの機械的および熱的完全性の保証を可能にし、その結果、シールドが取り囲むすべてのものを保護することができる。
【0005】
しかしながら、マイカボードは機械的に剛性である。
したがって、特に、電池が複雑な形状を有するか、または多数の曲線または角度領域を有する場合、シールドは、マイカボードを適切な寸法のピースに切断することによって形成され、その後、電池の異なる空洞および隆起部分に組み立てられ、互いに接合される。
【0006】
シールドを電池の形状の切断マイカボードに適合させるこのプロセスには時間がかかるという事実に加えて、各マイカボードの間の接合部における機械的および熱的保護に関して弱い領域が存在する場合がある。
弱い領域の存在を回避する目的で、樹脂中に浸漬されたマイカ小板を備える複合材料のシールドを形成するために使用される、電池の形状の鋳型を製造することが既に提案されている。樹脂の硬化により、剛性マイカシールドを形成することができる。
しかしながら、シールドの製造には時間がかかり、特に、電池形状ごとに専用の金型を製造しなければならない。
【0007】
さらには、多層材料も熱保護について知られている。これらの多層材料は、可撓性であり、したがって、物体用であろうと人用であろうと、任意の形状に適合可能であるという利点を有する。
この目的のために通常使用される多層材料は、その面の少なくとも1つが架橋シリコーン樹脂でコーティングされたシリカ織物から形成される。
例えば、特許文献1を参照すると、当該文献は、シリコーン樹脂層でコーティングされたシリカ織物を備え、任意選択で、水酸化アルミナ、水酸化マグネシウム、シリカ、リン系、セラミック粒子、またはこれらの混合物などの難燃剤を有する、多層材料を備える耐火シールドを開示する。
【0008】
しかしながら、この多層材料は、電気電池「爆風」現象の非常に限定的な機械的および熱的条件に耐えられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国特許第102349628号明細書(B1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の欠点の少なくとも1つを解決することである。
特に、本発明の目的は、他の困難なしに、任意の電池形状に適合させることができ、且つ、電気電池の「爆風」現象に耐えることができる機械的および熱的シールドを形成することが可能な解決策を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの目的の少なくとも1つを達成するために、本発明は(提案する、即ち)
nがゼロでない自然数を有するn個のベースユニットを備える多層材料であって、
(一つの)ベースユニットは積層体(ラミネート)からなり、
当該積層体は、順に、
架橋シリコーン樹脂層であって、当該樹脂の架橋温度より高い温度から膨張可能なグラファイト粒子を備える架橋シリコーン樹脂層と、
シリカもしくはアルミナの織物または編物層であって、織物または編物には間隙が設けられており、すべてが、当該樹脂の架橋温度より高い温度から膨張可能なグラファイト粒子を備えてなる架橋シリコーン樹脂で含浸されている、シリカもしくはアルミナの織物または編物層と、を備え、
ここで、
ベースユニットの数nは、1以上5以下であり、
n番目のベースユニットは、交互の樹脂層と織物または編物層とで形成される積層体を形成するように、当該樹脂の架橋温度より高い温度から膨張可能なグラファイト粒子を備える(ところの)別の架橋シリコーン樹脂層でコーティングされている。
【0012】
本発明は、個別にまたは組み合わせて採用される以下の特徴のうちの少なくとも1つを備えることができる。
・ベースユニットの厚さが900~1150μmの間である。
・ベースユニットの数nは、1以上3以下であり、好ましくは2または3である。
・多層材料は、1100~5950μmの間の総厚を有する。
・多層材料は、2000~2500μmの間の総厚に対して、数n=2のベースユニットを備える。
・多層材料は、2900~3650μmの間の総厚に対して、数n=3のベースユニットを備える。
・シリコーン樹脂は、短シリカもしくはアルミナ繊維、焼成シリカ粒子もしくは水酸化マグネシウム粒子、バーミキュライト、粘土粒子、酸化チタン粒子、炭化ケイ素粒子、またはこれらのうちの2つ以上の混合物から構成される群から選択される追加の挿入材料(load)を備える。
・シリコーン樹脂は、架橋されているか否かにかかわらず、樹脂の総質量に対して質量で5から15%の膨張性グラファイト粒子を備え、樹脂の総質量に対して質量で4から7%の焼成シリカを備える。
・膨張性グラファイト粒子は、80~110μmの間の最大寸法、好ましくは90μmの相対的に大きな寸法を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態の一例による、本発明による多層材料を示す。
【
図2】実施形態の別の例による、本発明による多層材料を示す。
【
図3】
図1の多層材料を得るために考えられる製造方法の異なるステップを示す。
【
図4】
図2の多層材料を得るために考えられる製造方法の異なるステップを示す。
【
図5】電気電池の「爆風」試験において請求項1に記載の多層材料の性能を試験するように適合された実験設備の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、nがゼロでない自然数を有するn個のベースユニットを備える多層材料であって、一つのベースユニットは積層体からなり、その積層体は、順に、
架橋シリコーン樹脂層であって、当該樹脂の架橋温度より高い温度から膨張可能なグラファイト粒子を備える架橋シリコーン樹脂層と、
シリカもしくはアルミナの織物または編物層であって、織物または編物には間隙が設けられており、すべてが、当該樹脂の架橋温度より高い温度から膨張可能なグラファイト粒子を備えてなる架橋シリコーン樹脂で含浸されている、シリカもしくはアルミナの織物または編物層と、を備え、
ここで、
ベースユニットの数nは、1以上5以下であり、
n番目のベースユニットは、樹脂層と織物または編物層とが交互に形成された積層体を形成するように、当該樹脂の架橋温度より高い温度から膨張可能なグラファイト粒子を備える、別の架橋シリコーン樹脂層でコーティングされている。
【0015】
図1には、一つのベースユニット(n=1)を提供する、本発明に従う多層材料M
1の例が示されている。同様に、
図2には、2つのベースユニット(n=2)を提供する、本発明に従う多層材料M
2の例が示されている。
【0016】
シリカまたはアルミナの織物層(fabric layer)5,5´は、通常は、420~460μmの間の厚さを有する。織物は、例えば平織の織糸で形成されたシリカまたはアルミナ繊維から形成される。
【0017】
本発明の多層材料を形成するために使用されるシリカ織物の例は、Valmiera(登録商標)Glass,KA-300として市販されているシリカ織物である。この製品の技術シートを参照して、この織物のすべての特徴を知ることができる。しかしながら、このシリカ織物は、以下の主な特徴を有する。織物は、直径6μmの細糸を有する34×6(鎖/よこ糸)または68×3(鎖/よこ糸)の糸で構成され、5~8mmのフルフェザー長を有する平織、アミノシラン仕上げで熱処理され、鎖方向の引張抵抗(700N/25mm以上)、およびよこ糸方向の引張抵抗(600N/25mm以上)、ベース重量300g/m2、厚さ約440μmである。
【0018】
本発明の多層材料を形成するために使用できるアルミナ織物の例は、Nextel(登録商標)440として3M社によって市販されているアルミナ織物である。
【0019】
シリカまたはアルミナ織物の使用は、電気電池「爆風」試験に対する機械的および熱的強度要件に寄与しながら、大きな柔軟性を提供する。
【0020】
この織物の間隙はすべて架橋シリコーン樹脂によって含浸されている。
その結果、膨張性グラファイト粒子は、シリカまたはアルミナ織物のすべての間隙に存在し、これらの間隙の一部にのみ存在しない。
【0021】
したがって、シリカまたはアルミナ織物のすべての間隙に含浸させるために、液体(液状)の非架橋シリコーン樹脂が製造中に使用される。
【0022】
「液状の樹脂」とは20~35Pa.sの間の見掛けの粘度を有する樹脂を意味する。
この粘度は、特に、以下の実施条件を用いてブルックフィールド法(NF EN ISO2555-プラスチック-液体状態の樹脂またはエマルジョンもしくは分散液-シリンダータイプの回転式粘度計の方法による見掛けの粘度の測定)によって測定できる。
【0023】
【0024】
一般に、液体の非架橋シリコーン樹脂を製造するために、以下の組成物を提供することができる。
・ジメチルシロキサン:質量で65~75部
・ビニルシロキサン:質量で0~7部(任意選択)
・メチルハイドロジェンシロキサン:質量で15~25部
・追加の挿入材料(load):質量で0~10部(任意選択)
・白金触媒:質量で0.3~1部
・膨張性グラファイト:質量で4~14部
【0025】
したがって(オプションとして)、シリコーン樹脂は、シリカまたはアルミナの短繊維(すなわち、6mm以下の長さを有する繊維)、焼成シリカ粒子、水酸化マグネシウム粒子、バーミキュライト、モンモリロナイトなどの粘土粒子、酸化チタン粒子、炭化ケイ素(SiC)粒子、および、これらの2つ以上の混合物から構成される群から選択される1つ以上の追加の挿入材料、を含んでいてもよい。
【0026】
従って、例えば、架橋されているか否かにかかわらず、シリコーン樹脂は、特に、
樹脂の全質量に対して、質量で5~15%の、特に5%と10%の間の、膨張性グラファイト粒子、および
樹脂の全質量に対して、質量で4~7%の焼成シリカ、
を備える。
【0027】
製造中、ジメチル-シロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン、および、これが提供される場合、ビニルシロキサンモノマーは架橋する。
【0028】
膨張性グラファイト粒子は、酸素の非存在下(これは架橋シリコーン樹脂に浸漬される場合である)、1500℃を超える温度に耐える特性を有する。
【0029】
それらは、コアとなるシリカ織物を含浸するシリコーン樹脂に一体化されるので、それらの膨張中にシリカ繊維と密接に混合され、シリカ織物の機械的耐性をさらに強化することによって少なくとも1500℃に耐える材料の実際の完全な障壁(バリア)を、これらのシリカ繊維と共に形成する。
【0030】
このために、グラファイト粒子は架橋シリコーン中で非膨張状態にあることを理解しなければならない。換言すれば、シリコーン樹脂の架橋温度は、グラファイト粒子が膨張し始める温度未満である。わずかな膨張は許容され得るが、グラファイト粒子の強い急速な膨張が観察される温度のように、グラファイト粒子が膨張し始めるこの温度を理解しなければならない。
【0031】
典型的には、膨張性グラファイト粒子は、160℃~220℃の間、時にはそれを超える温度から強く急速に膨張(体積の増加)し始める特性を有する。したがって、架橋温度が適切なシリコーン樹脂を選択すべきである。
【0032】
好ましくは、膨張性グラファイト粒子は、シリコーン樹脂中の粒子のより均一な分布を可能にするため、80~110μmの間の最大寸法を有する粒子である。膨張性グラファイト粒子の例は、ブランド名GrafGuard(登録商標)、グレード210~200N(第1の数、すなわち210は、グラファイトが膨張し始める臨界温度、すなわち210℃を意味し、第2の数、すなわち200は、基準であり、限定された小粒子、すなわち80~110μmの範囲の小粒子を意味する)として、NEOGRAF(登録商標)Solutions社によって市販されているグラファイト粒子である。
【0033】
多層材料のベースユニットの数nが増加するほど、電気電池「爆風」現象に対する耐性が増加することが理解される。
しかしながら、多層材料のベースユニットの数nが多くなるほど、柔軟性も失われる。実際、織物は大きな柔軟性を提供するが、使用される架橋樹脂の総厚および実際の量は、この柔軟性に影響を及ぼす。
このため、ベースユニットの数nは5以下であることが好ましい。
【0034】
電池の非常にクローズな環境(close environment)が求められる場合、ベースユニットの数nは1~3の間であることが好ましい。また、加えて、電気電池の「爆風」現象に対する耐性もさらに改善しようとする場合、n=2または3のベースユニットを選択することが好ましい。
【0035】
シリコーン樹脂に関する上記のすべての言及は、シリカ織物に含浸された樹脂だけでなく、他の層を形成するために使用できる樹脂にも関係する。
【0036】
使用されるシリコーン樹脂が多層材料のすべての製造について同じであることがさらに有利である。これにより、製造が容易になる。しかしながら、当然ながら、非架橋状態において、これらの樹脂がシリカまたはアルミナ織物のすべての間隙に含浸するように液体であるという条件で、異なる組成を有することは絶対的に可能である。
【0037】
1~5のベースユニットの数、および多層材料の層の各層(織物の厚み、堆積された樹脂量)に対して行われる選択に応じて、多層材料の層は、通常は1100~5950μmの間の総厚を有する。
【0038】
最後に、織物は編物に置き換えることができ、したがってシリカまたはアルミナ編物を実装できることに留意しなければならない。
【0039】
[本発明の実施形態の実施例No1]
本発明による多層材料を製造するための方法を、
図3のサポートのもと、より具体的には、
図1に表される多層材料(n=1のベースユニット)について説明する。
【0040】
使用される織物は、Valmiera(登録商標)Glass KA-300として市販されているシリカ織物であり、その特性原理は上記で提供されている。織物1は、
図3のステップa)で見ることができる。
【0041】
次いで、この織物を、織物1のコーティングローラ2に露出された面3上に350g/m
2の非架橋シリコーン樹脂でコーティングすることによって含浸させる(織物1の面4自体は、コーティングローラ2に露出されていない)。コーティングの前のコーティングローラの位置決めは、
図3のステップa)に示されている。
【0042】
液状の非架橋シリコーン樹脂を達成するために、以下の組成物が提供される。
・ジメチルシロキサン:質量で69部
・ビニルシロキサン:質量で6部
・メチルハイドロジェンシロキサン:質量で20部
・焼成シリカ:質量で4.5部
・白金触媒:質量で0.5部
・膨張性グラファイト:質量で7部
溶媒または希釈剤は使用しない。
【0043】
粘度は、上記の条件下でブルックフィールド法によって測定したが、以下を想起されたい。
【0044】
【0045】
シリコーン樹脂の量は、織物5をそのすべての間隙に含浸させることを可能にし、さらに、当該織物を超えるシリコーン樹脂層7を同時に形成することを可能にする。
【0046】
得られた集合体を200℃の炉に通し、樹脂を架橋させる。樹脂は、架橋中に除去されない。
図3のステップb)は、層7の上にシリコーン樹脂を有する架橋シリコーン樹脂を含浸させた織物5を示す。
したがって、
図3のステップb)は、多層材料のベースユニットを示す。
このベースユニットは、コーティングされる準備ができた状態に戻される。これは、
図3のステップc)に示されているものである。
【0047】
次いで、同じ非架橋シリコーン樹脂のコーティングが、700g/m2の割合で、ベースユニットの織物層5の反対側の面4に行われる。この段階で、層7、5および7´´を有する集合体が得られる。
【0048】
このようにして得られた集合体を再び200℃の炉に通し、すべての非架橋シリコーン樹脂を架橋する。これにより、
図3のステップd)に示すように、所望の多層材料M
1が得られる。多層材料M
1は、樹脂層と織物層とが交互に形成された積層体の形態で提示される。
【0049】
最終的に得られる多層材料M1(n=1のベースユニット)は、1100~1350μmの間の総厚を有する。
【0050】
[本発明の実施形態の実施例No2]
この場合、
図4のステップa)、b)およびc)(n=2ベースユニット)は、
図3のステップa)、b)およびc)(n=1ベースユニット)に立ち返る。
【0051】
続いて、追加のステップ(複数)が提供される。
したがって、同じ非架橋シリコーン樹脂のコーティングが、織物5の反対側の面4上に700g/m
2の割合で行われる。しかしながら、架橋は行われない。したがって、
図4のステップd´)に示す集合体に到達する。
【0052】
その後、ステップb)で得られた集合体の一部を回収する。
かくして後者は、ステップd´)で得られた集合体の層7´に固定される。
【0053】
このようにして得られた集合体を再び200℃の炉に通し、すべての非架橋シリコーン樹脂を架橋する。
【0054】
こうして、
図4のステップe´)に示す多層材料M
2が得られ、それは底部から上部に向かって、以下のように構成されている。
・架橋シリコーン樹脂が含浸されたシリカ織物5でコーティングされた、架橋樹脂層7より形成された第1のベースユニット、
・架橋シリコーン樹脂が含浸されたシリカ織物5´でコーティングされた、架橋樹脂層7´より形成された第2のベースユニット、および、
・他の架橋樹脂層7´´
【0055】
多層材料M2は、樹脂層と織物層が交互に形成される積層体の形態で提示される。
この多層材料(n=2のベースユニット)は、2000~2500μmの間の総厚を有する。
【0056】
[本発明の実施形態の他の実施例]
n=3、4または5のベースユニットを備える多層材料を製造するために、これは必要に応じて何度も、すなわち1、2または3回連続して繰り返されるべきであり、追加のステップは、本発明の実施形態の実施例No2のサポートのもとで記載されていることに留意されたい。
通常、n=3のベースユニットを有する本発明による多層材料は、2900~3650μmの間の総厚を有する。
通常、n=4のベースユニットを有する本発明による多層材料は、3800~4800μmの間の総厚を有する。
通常、n=5のベースユニットを有する本発明による多層材料は、4700~5950μmの間の総厚を有する。
【0057】
[爆風試験]
本明細書では、「爆風試験」は、Liイオン電池の爆発中に起こり得る最悪の条件、すなわち1500℃の温度で溶融する粒子の放出を再現する極端な条件下で行われる試験である。
【0058】
「爆風試験」を実行するために使用される実験設備の簡略図が、
図5である。
図5に見られるように、試験される材料の250mm×250mmのサンプル20が、EN AW-5182アルミニウムフレーム10内に配置される。粒子を放出するためのシステム30は、30mmの距離(衝突距離)に配置され、「爆風」現象を再現するために所望の衝突領域40を中心としている。粒子を放出するためのシステム30は火工ロケットであり、その特徴は以下の通りである。すなわち、4~5mの間の効果距離、1.5~2.5mの間の横方向到達、3mで94dBの音圧レベル(Almax)、および1500°Cで白熱粒子を形成することができる粒子を備える。音圧レベルは、3mでの粒子の速度を、したがって衝撃距離(30mm)でのこの速度から間接的に、考慮することができる。
【0059】
粒子を放出するためのシステム1が開始される。白熱粒子の放出の持続時間は20秒に制限されており、サンプルが以前に穴が開けられていない場合、その持続時間の終わりにシステムは自動的に停止する。
【0060】
20秒の放出持続時間の前にサンプルが穴を開けられる場合、穴が開けられた時間が記録される。この場合、サンプルは、「爆風」に対する所望の耐性に達していないと考えられる。
【0061】
20秒の終わりにサンプルに穴が開けられない場合、サンプルは「爆風」に対する所望の耐性に達したと見なされる。
【0062】
[爆風試験の結果]
図1に表される多層材料(n=1のベースユニット)は、「爆風試験」の対象を形成し、無事に合格した。さらに、電気電池の同じ複雑な形状または曲線を成形するのに十分に柔軟であることが証明されている。
【0063】
図2に表される多層材料(n=2のベースユニット)も「爆風試験」の対象を形成し、無事に合格した。さらに、電気電池の同じ複雑な形状または曲線を成形するのに十分に柔軟であることが証明されている。
【0064】
他の材料が、比較例(比較例1~5)として試験された。
【0065】
[比較例1]
多層材料は、「本発明の実施形態の実施例No1」(単一ベースユニット)と同様に進行することによって製造されるが、膨張性グラファイト粒子を含まないシリコーン樹脂を使用することによって製造される。
したがって、実施形態の実施例No1との唯一の違いは、グラファイト粒子が存在しないことである。
爆風試験は失敗であった。
【0066】
[比較例2]
多層材料は、「本発明の実施形態の実施例No2」(2つのベースユニット)のように製造されるが、膨張性グラファイト粒子を含まないシリコーン樹脂を使用することによって製造される。
したがって、実施形態の実施例No2との唯一の違いは、グラファイト粒子が存在しないことである。
爆風試験は失敗であった。
【0067】
[比較例3]
多層材料は、「本発明の実施形態の他の実施例」の1つ(3つのベースユニット)に戻ることによって製造されるが、膨張性グラファイト粒子を含まないシリコーン樹脂を使用することによって製造される。
また、爆風試験は失敗であった。
【0068】
[比較例4]
従来技術の多層材料は、VonRoll社によって市販されている「マイカボードVonrollシールドT18(登録商標)」型マイカボードで構成されると考えられる。
爆風試験は失敗であった。
加えて、この基板は、切断や金型を含む方法の適用無しでは、剛性が高すぎて電気電池の複雑な形状または曲線を成形できない。
【0069】
[比較例5]
この場合、従来技術の多層材料は、それぞれがVonRoll社によって市販されている「マイカボードVonrollシールドT18(登録商標)」型の2つのマイカボードで構成されると考えられる。
爆風試験に無事に合格した。
しかしながら、当該2つのボードの集合体は、当然のことながら、切断や金型を含む方法の適用無しでは、電気電池の複雑な形状または曲線を成形するには剛性が高すぎる。
【0070】
比較例1~3は、実際、シリコーン樹脂中に膨張性グラファイト粒子が存在すること、さらには、特にシリカ織物の厚さ全体に均一に存在することの利点を示すものである。これがなければ、爆風試験に無事に合格することができない。
【0071】
さらに、本発明による多層材料が既に一つのベースユニットで爆風試験に無事に合格し、その性能が追加のベースユニットでのみ改善され得るとしても、比較例におけるベースユニットの数の増加では、全体として爆風試験に無事に合格できないことも分かる。
【0072】
マイカボードの解決策に関しては、爆風試験に無事に合格するために最小厚さが依然として必要であることが分かる。
【符号の説明】
【0073】
5,5’ 含浸シリカもしくはアルミナの織物または編物の層
7,7’,7” 架橋シリコーン樹脂層
【外国語明細書】