IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井金属鉱業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058626
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】NiO膜及びNiO分散液
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/04 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
C01G53/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023175658
(22)【出願日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2022165526
(32)【優先日】2022-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 大志
(72)【発明者】
【氏名】上郡山 洋一
(72)【発明者】
【氏名】福里 駿
(72)【発明者】
【氏名】丸山 陽兵
(72)【発明者】
【氏名】大平(藪) 紗希子
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 優吾
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AB02
4G048AC05
4G048AD02
4G048AD04
4G048AE05
4G048AE07
(57)【要約】
【課題】粒子の分散性が高いNiO分散液を提供すること及び光透過性が高いNiO膜を提供すること。
【解決手段】本発明のNiO分散液は、NiO粒子と多価アルコールとを含む。動的光散乱法によって測定されるNiO粒子の体積粒度分布における累積50%径D50が5nm以上50nm以下であることが好適である。NiO分散液は、シランカップリング剤とチタンカップリング剤とを含むことも好適ある。NiO膜はNiO粒子を含む。NiO粒子の体積粒度分布における累積50%径Dn50が5nm以上50nm以下である。NiO膜は、多価アルコール骨格を有し、且つ、ケイ素、チタン、ジルコニウム及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の元素を含有する化合物を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NiO粒子を含むNiO膜であって、
前記NiO膜を走査型電子顕微鏡によって観察して測定される前記NiO粒子の体積粒度分布における累積50%径Dn50が5nm以上50nm以下である、NiO膜。
【請求項2】
NiO粒子を含むNiO膜であって、
前記NiO膜が、多価アルコール骨格を有し、且つ、ケイ素、チタン、ジルコニウム及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の元素を含有する化合物を含む、NiO膜。
【請求項3】
前記化合物が、ケイ素、チタン、ジルコニウム及びアルミニウムから選択される少なくとも2種の元素を含有する、請求項2に記載のNiO膜。
【請求項4】
前記化合物が、エポキシ基を含むシランカップリング剤と、チタンカップリング剤と、多価アルコールとの架橋体である、請求項2又は3に記載のNiO膜。
【請求項5】
波長450nmの光の透過率が85%以上である、請求項1又は2に記載のNiO膜。
【請求項6】
バンドギャップが3.2eV以上3.9eV以下である、請求項1又は2に記載のNiO膜。
【請求項7】
仕事関数が5.2eV以上5.7eV以下である、請求項1又は2に記載のNiO膜。
【請求項8】
厚みが50nm以上500nm以下である、請求項1又は2に記載のNiO膜。
【請求項9】
NiO粒子と、多価アルコールとを含む、NiO分散液。
【請求項10】
動的光散乱法によって測定される前記NiO粒子の体積粒度分布における累積50%径D50が5nm以上50nm以下である、請求項9に記載のNiO分散液。
【請求項11】
NiO粒子の沈降速度が0.1mm/min以下である、請求項9又は10に記載のNiO分散液。
【請求項12】
カップリング剤を更に含む、請求項9又は10に記載のNiO分散液。
【請求項13】
前記カップリング剤が、種類の異なる2種のカップリング剤であり、
前記カップリング剤のいずれか一方がエポキシ基を含むカップリング剤である、請求項12に記載のNiO分散液。
【請求項14】
前記カップリング剤が、シランカップリング剤と、チタンカップリング剤であって、
前記シランカップリング剤100質量部に対する前記チタンカップリング剤の含有量が0.1質量部以上5.0質量部以下である、請求項12に記載のNiO分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はNiO膜に関する。また本発明は、NiO膜の形成に好適に用いられるNiO分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
NiO粒子を含む分散液から形成されたNiO膜を、例えば薄膜トランジスタ素子、太陽電池、半導体二次電池及びエレクトロクロミック素子などに応用することが試みられている。かかるNiO膜は半導体特性やエレクトロクロミック特性としてだけでなく、光透過性の機能などを備えていることが有用である。
【0003】
NiO粒子を含む分散液に関する従来の技術としては、例えば特許文献1及び2に記載のものが知られている。
特許文献1には、水酸化ニッケルを大気雰囲気下で加熱して得られた酸化ニッケル粒子と、メチルエチルケトンと、キシレン、酢酸エチル及びアクリルポリオールからなる分散媒体とからなる分散液をスピンコータで塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥してエレクトロクロミック層を形成することが記載されている。
特許文献2には、酸化ニッケルナノ粒子と、結合剤と、溶媒と、分散剤と、界面活性剤とを含むインク組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-175417号公報
【特許文献2】特開2020-97720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び2に記載されているNiO粒子の分散液は、NiO粒子の分散性が十分でなく、そのことに起因して、該分散液から形成されるNiO膜はその光透過性が十分に高いものとならなかった。
したがって本発明の課題は、粒子の分散性が高いNiO分散液を提供することにある。また本発明の課題は、光透過性が高いNiO膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決すべく本発明者が鋭意検討した結果、NiO分散液における分散媒として特定の化合物を用いること、又は、所定の粒子径からなるNiO粒子を用いることで、NiO粒子の分散性が向上することを知見した。また、そのNiO分散液から製造されるNiO膜の光透過性が高まることを知見した。
【0007】
本発明は、前記知見に基づきなされたものであり、NiO粒子と、多価アルコールとを含む、NiO分散液を提供するものである。
【0008】
また本発明は、NiO粒子を含むNiO膜であって、
前記NiO膜を走査型電子顕微鏡によって観察して測定される前記NiO粒子の体積粒度分布における累積50%径Dn50が5nm以上50nm以下である、NiO膜を提供するものである。
【0009】
更に本発明は、NiO粒子を含むNiO膜であって、
前記NiO膜が、多価アルコール骨格を有し、且つ、ケイ素、チタン、ジルコニウム及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の元素を含有する化合物を含む、NiO膜を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粒子の分散性が高いNiO分散液が提供される。また本発明によれば、光透過性が高いNiO膜が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。先ず、NiO分散液について説明する。
NiO分散液は、NiO粒子が分散媒に分散してなるものである。
NiO分散液に含まれるNiO粒子は、二価のニッケルの酸化物から構成されていることが好ましいが、一部に二価以外のニッケルの酸化物が不可避的に含まれることは許容される。
NiO分散液を用いて製造されるNiO膜の光透過性を高める観点から、NiO粒子は、NiO分散液中において安定に分散していることが好ましい。この観点からNiO粒子は、粒子どうしの凝集が極力生じておらず、できるだけ単分散状態で存在していることが好ましい。
【0012】
本発明においては、NiO分散液中でのNiO粒子の分散安定性を高める観点から、分散媒として多価アルコール、環状エステル、ターピネオール及びジヒドロターピネオールなどの少なくとも1種を用いることが好ましい。特に、NiO分散液中でのNiO粒子の分散安定性を高めるだけでなく、後述する他の成分との相性の良い観点から、分散媒として多価アルコールを用いることが好ましい。
【0013】
分散媒として好適に用いられる多価アルコールは、炭化水素骨格又はエーテル骨格における異なる2個以上の炭素原子にそれぞれ水酸基(-OH)が結合している化合物である。前記炭化水素骨格及び前記エーテル骨格は、飽和又は不飽和脂肪族基であり得る。前記炭化水素骨格及び前記エーテル骨格は、直鎖状であってもよく、あるいは環状であってもよい。なお、NiO粒子の分散安定性を高める観点から、前記炭化水素骨格及び前記エーテル骨格は、直鎖状であることが好ましい。
多価アルコールにおける水酸基の数は2個又は3個であることがNiO分散液中でのNiO粒子の分散安定性が高まることから好ましく、より好ましくは2個である。
【0014】
前記炭化水素骨格における炭素原子の総数は2以上8以下であることが、NiO粒子の分散安定性と、NiO分散液の粘度を適切にする観点から好ましく、特に2以上6以下、とりわけ2以上4以下であることが好ましい。
前記エーテル骨格における炭素原子の総数は4以上8以下であることが、NiO粒子の分散安定性とNiO分散液の粘度を適切にする観点から好ましく、4以上6以下であることが特に好ましい。
【0015】
多価アルコールとしては、例えばグリコール類が挙げられる。
上述したような炭化水素骨格を有するグリコール類としては、例えばエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ペンタメチレングリコール及びヘキシレングリコールなどが挙げられる。
また、エーテル骨格を有するグリコール類としては、例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、4-オキサ-2,6-ヘプタンジオール、2-(2-ヒドロキシ-プロポキシ)-プロパン-1-オール及び2-(2-ヒドロキシ-1-メチル-エトキシ)-プロパン-1-オールなどが挙げられる。
これらの多価アルコールは、1種を単独で用いることができ、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
以上の各種多価アルコールのうち、NiO粒子の分散安定性を一層高める観点や、NiO分散液の粘度を一層適切にする観点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール及びトリエチレングリコールを用いることが好ましい。特に、プロピレングリコールは、屈曲した立体構造を有することに起因して、後述するカップリング剤との反応によって形成された架橋体が高度に三次元的な構造を有するようになるため、NiO分散液から形成されたNiO膜の光透過性が高くなることに加えて膜強度が優れる観点から特に好ましい。
【0017】
分散媒として好適に用いられる環状エステルとしては、例えばβ-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン等が挙げられる。
【0018】
NiO分散液は、上述した分散媒に加えて他の分散媒を含んでいてもよい。他の分散媒としては、例えばNiO分散液の粘度や表面張力を調整するために用いられる有機溶媒が挙げられる。
有機溶媒としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族一価アルコール、芳香族一価アルコール、脂肪族アルデヒド、芳香族アルデヒド、脂肪族エーテル、芳香族エーテル、脂肪族ケトン、脂肪族ケトンの一価アルコール、芳香族ケトン、脂肪族カルボン酸及びその塩、芳香族カルボン酸及びその塩、脂肪族カルボン酸のアミド、芳香族カルボン酸のアミド、脂肪族カルボン酸のエステル、芳香族カルボン酸のエステル等が挙げられる。これらの中でも、多価アルコールとの相溶性の高さから脂肪族一価アルコールが好ましい。また脂肪族一価アルコールの中でも飽和脂肪族一価アルコールを用いることが好ましく、特に、炭素数1以上4以下の飽和脂肪族一価アルコールを用いることが好ましい。特に低沸点であり、NiO膜の形成時における焼成工程で容易に除去され得る点からジアセトンアルコール、メタノール又はエタノールを用いることが好ましく、メタノールを用いることがとりわけ好ましい。
【0019】
多価アルコール以外の分散媒を用いる場合には、該分散媒は分散安定性を好適なものとする観点から、すべての分散媒100質量部に対して60質量部以下含まれることが好ましく、50質量部以下含まれることが更に好ましい。また、多価アルコール以外の分散媒はNiO膜を形成し易くする観点から、すべての分散媒100質量部に対して0.5質量部以上含まれることが好ましく、10質量部以上含まれることが更に好ましい。
【0020】
以上のとおり、NiO分散液中に分散媒として多価アルコールが含まれていることによって、NiO粒子の分散安定性が高くなっている。その結果、NiO分散液は、NiO粒子の沈降速度が0.1mm/min以下という高分散安定性を示す。かかる沈降速度は遅ければ遅いほど好ましく、例えば0.01mm/min以下、更には0.001mm/min以下であることが好ましい。この沈降速度は25℃において測定した値である。
【0021】
NiO分散液に含まれるNiO粒子は、動的光散乱法によって測定される前記NiO粒子の体積粒度分布における累積50%径D50が5nm以上50nm以下であることが好ましい。分散液中でのNiO粒子の分散安定性の観点から、D50は50nm以下、更には30nm以下であることが一層好ましい。一方、D50の下限値に特に制限はなく、小さければ小さいほど好ましいが、5nmが現実的である。
【0022】
NiO分散液に含まれるNiO粒子の濃度は、その分散安定性を高める観点及びNiO分散液の粘度を適切な範囲に調整する観点から、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下、30質量%以下としてもよい。また、NiO粒子の濃度は、NiO分散液からNiO膜を形成し易くする観点から5質量%以上であることが好ましい。
【0023】
NiO粒子はこれまでに知られている方法で合成することができる。例えば次の方法でNiO粒子を合成することができる。
先ず、二価のニッケルイオンを含む水溶液と、アンモニア水や水酸化ナトリウム水溶液などの塩基性物質とを混合し、ニッケルイオンを中和することで液中に水酸化ニッケルの沈殿物を生成させる。
この水酸化ニッケルの沈殿物を濾別によって単離し、洗浄及び乾燥工程を経て固体の水酸化ニッケルを得る。
固体の水酸化ニッケルを大気雰囲気下で焼成することでNiOを生成させる。焼成前に必要に応じ固体の水酸化ニッケルを粉砕工程及び篩い分け工程に付して、その粒子径を調整してもよい。
生成したNiOを粉砕し、更に篩い分けして、目的とするNiO粒子を得る。
【0024】
このようにして得られたNiO粒子と多価アルコールとを、例えばビーズミル、ボールミル、ペイントシェーカーなどの撹拌混合機によって混合することで、目的とするNiO分散液を得る。
【0025】
NiO分散液中には、該分散液から形成されるNiO膜の諸特性を向上させる目的で、NiO粒子及び分散媒に加えて他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えばカップリング剤、表面張力調整剤、粘度調整剤、バインダー樹脂などが挙げられる。特にNiO分散液中にカップリング剤が含まれているとNiO粒子の分散安定性が更に高まり、NiO膜の光透過性が高まるだけでなく、該分散液を基板に塗布して形成されたNiO膜の膜強度が高まる観点でより好ましい。この観点から、NiO分散液に含まれるカップリング剤の量を、NiO分散液に含まれるNiO粒子の量との関係で決定することが好ましい。具体的には、NiO粒子100質量部に対するカップリング剤の含有量を1質量部以上とすることが好ましく、5質量部以上とすることが更に好ましい。また、前記含有量を50質量部以下とすることが好ましく、40質量部以下とすることが更に好ましい。なお、カップリング剤を2種以上用いる場合には、前記含有量は2種以上のカップリング剤の合計含有量をいうものとする。
【0026】
カップリング剤は各種の官能基を含んでいることが、NiO膜と基板との密着性が一層高まる観点、及びNiO粒子の分散安定性が一層高まる観点から好ましい。この観点から、カップリング剤は、エポキシ基、ビニル基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、イソシアヌレート基、ウレイド基、メルカプト基及びイソシアネート基から選択される少なくとも一種を含んでいることが好ましい。
【0027】
特に、NiO分散液中にカップリング剤が含まれる場合、該カップリング剤として種類の異なる2種のカップリング剤を用いることもできる。この場合、カップリング剤のいずれか一方がエポキシ基を含むカップリング剤であることにより、更に、該カップリング剤と種類の異なる他のカップリング剤とが含まれることにより、NiO粒子の分散安定性が更に一層高まり、NiO膜を形成した際の光透過性にも優れたものとなる。これに加えて、NiO膜と基板との密着性が更に一層高まり、NiO膜の膜強度にも優れるものとなる。この理由は、エポキシ基が、種類の異なる他のカップリング剤や多価アルコール中の水酸基と反応を起こして、光透過性が高く且つ基板との密着性が高い架橋体が形成されるからである。
【0028】
カップリング剤としては、金属アルコキシドを用いることができる。具体的には例えばシランカップリング剤(シランアルコキシド)、チタンカップリング剤(チタンアルコキシド)、アルミニウムカップリング剤(アルミニウムアルコキシド)及びジルコニウムカップリング剤(ジルコニウムアルコキシド)などを用いることができる。これらのカップリング剤は1種を単独で用いることができ、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、シランカップリング剤とチタンカップリング剤とを組み合わせて用いると、NiO粒子の分散安定性が更に一層高まり、延いてはNiO膜の光透過性が高まるのに加え、NiO膜と基板との密着性が高まりNiO膜の膜強度に優れるものとなる観点で好ましい。
【0029】
シランカップリング剤としては、例えばビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシランが挙げられる。これらの中でも、NiO膜とした際の光透過性に優れるだけでなく膜強度を好適なものとする観点から、エポキシ基を含むものが好ましく、具体的には、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0030】
チタンカップリング剤としては、例えばテトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネート、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、チタンオクタンジオレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレートが挙げられる。
【0031】
アルミニウムカップリング剤としては、例えばアルミニウムイソプロピレート、モノsec-ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムsec-ブチレート、アルミニウムエチレート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムモノイソプロポキシモノオレオキシエチルアセトアセテート、環状アルミニウムオキサイドイソプロピレート、環状アルミニウムオキサイドオクチレート、環状アルミニウムオキサイドステアレートが挙げられる。
【0032】
ジルコニウムカップリング剤としては、例えばジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート、ジルコニウムモノエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレートが挙げられる。
【0033】
ここで、シランカップリング剤とチタンカップリング剤とを組み合わせて用いる場合、シランカップリング剤100質量部に対するチタンカップリング剤の含有量は、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることが更に好ましく、1.0質量部以上であることが一層好ましい。また、シランカップリング剤100質量部に対するチタンカップリング剤の含有量は、5.0質量部以下であることが好ましく、4.0質量部以下であることが更に好ましく、3.0質量部以下であることが一層好ましい。シランカップリング剤に対するチタンカップリング剤の含有量をこのように設定することで、NiO粒子の分散安定性が更に一層高まるだけでなく、NiO膜と基板との密着性が更に一層高まることでNiO膜の膜強度に優れたものとなる。
【0034】
シランカップリング剤とチタンカップリング剤とを組み合わせて用いる場合、多価アルコール100質量部に対する、シランカップリング剤及びチタンカップリング剤の合計の含有量は、0.005質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることが更に好ましく、0.03質量部以上であることが特に好ましい。また、多価アルコール100質量部に対する、シランカップリング剤及びチタンカップリング剤の合計の含有量は、0.2質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることが更に好ましい。前記質量比をこのように設定することによっても、NiO粒子の分散安定性が更に一層高まるだけでなく、NiO膜と基板との密着性が更に一層高まることでNiO膜の膜強度に優れたものとなる。
【0035】
シランカップリング剤とチタンカップリング剤とを組み合わせて用いる場合、該シランカップリング剤はエポキシ基を含むことが、NiO粒子の分散安定性が更に一層高まるだけでなく、NiO膜と基板との密着性が更に一層高まりNiO膜の膜強度に優れたものとなる観点から好ましい。この場合、チタンカップリング剤は、アルコキシ基を有することが好ましい。
同様の観点から、シランカップリング剤と、エポキシ基を含むチタンカップリング剤とを組み合わせて用いることも好ましい。
【0036】
シランカップリング剤とチタンカップリング剤との組み合わせに代えて、ジルコニウムカップリング剤とチタンカップリング剤とを組み合わせて用いる場合、ジルコニウムカップリング剤100質量部に対するチタンカップリング剤の含有量は、0.1質量部以上であることが好ましい。また、ジルコニウムカップリング剤100質量部に対するチタンカップリング剤の含有量は、5.0質量部以下であることが好ましい。ジルコニウムカップリング剤に対するチタンカップリング剤の含有量をこのように設定することで、NiO粒子の分散安定性が更に一層高まるだけでなく、NiO膜の光透過性に優れたものとなる。
【0037】
NiO分散液がカップリング剤を2種以上含む場合における、多価アルコール100質量部に対する、カップリング剤の合計の含有量は、0.005質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることが更に好ましく、0.03質量部以上であることが特に好ましい。また、多価アルコール100質量部に対する、カップリング剤の合計の含有量は、0.2質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることが更に好ましい。前記質量比をこのように設定することによっても、NiO粒子の分散安定性が更に一層高まるだけでなく、NiO膜と基板との密着性が更に一層高まることでNiO膜の膜強度に優れたものとなる。なお、2種以上のカップリング剤としては、シランカップリング剤とチタンカップリング剤との組み合わせ、ジルコニウムカップリング剤とチタンカップリング剤との組み合わせ、シランカップリング剤とチタンカップリング剤とジルコニウムカップリング剤との組み合わせが好ましい。
【0038】
次に、上述したNiO分散液を用いて形成されたNiO膜について説明する。NiO膜は、例えばNiO分散液を基板の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を大気雰囲気下で焼成することで形成される。NiO分散液の塗布方法に特に制限はなく、例えばスピンコーティング、インクジェット印刷、ディスペンサによる塗布などの公知の方法を採用することができる。
【0039】
焼成温度は、120℃以上250℃以下とすることが、分散媒を十分に揮発させ、多価アルコールとカップリング剤(含まれている場合)との反応を確実に生じさせる観点から好ましい。この観点から焼成温度は125℃以上200℃以下であることが更に好ましい。
【0040】
NiO膜を形成するために用いられる基板は光に対して透過性があることが好ましい。この観点から、基板は例えばガラスやプラスチックから構成されることが好ましい。尤も、それ以外の材料、例えば金属やセラミックスを基板として用いることは差し支えない。本明細書において「光」とは可視光のことである。なお、NiO膜の形成において基板は必須なものではない。
【0041】
NiO膜中に存在するNiO粒子は、NiO膜を走査型電子顕微鏡(以下「SEM」ともいう。)によって観察して測定されるNiO粒子の体積粒度分布における累積50%径Dn50によって評価できる。
Dn50は50nm以下であることが好ましく、30nm以下であることが更に好ましい。Dn50の下限値に特に制限はなく、小さければ小さいほどNiO膜の光透過性が高くなり好ましいが、Dn50が5nm程度、特に10nm程度であればNiO分散液中におけるNiO粒子の凝集を好適に防ぐことができる観点から好ましい。
本発明においては、NiO分散液中に多価アルコールが含まれていることから、NiO粒子の凝集の程度は低くなっている。そのことに起因して、NiO膜中に存在するNiO粒子も凝集の程度が低い傾向にある。その結果、NiO膜は高い光透過性を示すものとなる。
【0042】
NiO膜の形成に用いられるNiO分散液は、上述したとおり多価アルコールを含んでいる。また、NiO分散液は、好ましくは、ケイ素、チタン、アルミニウム及び/又はジルコニウムなどの金属アルコキシドを含んでいる。これらの成分を含有するNiO分散液を用いることに起因して、NiO膜は、好ましくは多価アルコール骨格を有し、且つ、ケイ素、チタン、ジルコニウム及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の元素を含有する化合物を含有する。そして、NiO膜においては、この化合物中にNiO粒子が分散した状態になっていることが好ましい。NiO膜がこのような構造を有することによって、NiO膜の光透過性が高まるだけでなくNiO膜と基板との密着性が高まり、更にNiO膜の膜強度にも優れることとなる。
この観点から、前記化合物は、多価アルコール骨格を有し、且つ、ケイ素、チタン、ジルコニウム及びアルミニウムから選択される少なくとも2種の元素を含有することが更に好ましい。一層好ましくは、前記化合物は、多価アルコール骨格を有し、且つ、ケイ素及びチタンを含有するか、又は多価アルコール骨格を有し、且つ、チタン及びジルコニウムを含有する。なお、NiO膜においては、ケイ素、チタン、ジルコニウム及びアルミニウムから選択される少なくとも2種の元素を含有するカップリング剤のみが架橋した化合物も存在し得る。
また、前述した多価アルコール骨格は、炭化水素骨格又はエーテル骨格における異なる2個以上の炭素原子に酸素原子が結合したものをいい、このようなものとして、例えばグリコール骨格が挙げられる。
また、NiO膜中に、多価アルコール骨格を有し、且つ、ケイ素、チタン、ジルコニウム及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の元素を含有する化合物が存在するかどうかは、例えば次の方法にて確認することができる。
先ず、NiO膜の断面を対象として走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDX)等による元素マッピングを行い、各元素の存在の有無を確認する。次いで、ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)によって多価アルコール骨格を有しているか否かを確認する。
【0043】
特に前記化合物が、エポキシ基を含むシランカップリング剤と、チタンカップリング剤と、多価アルコールとの架橋体であると、NiO膜の光透過性が一層高まり、またNiO膜と基板との密着性が一層高まり、NiO膜の膜強度としても優れるので好ましい。この場合、チタンカップリング剤は、アルコキシ基を有することが好ましい。
【0044】
NiO膜は、その厚みが、50nm以上であることが好ましい。またNiO膜は、その厚みが、500nm以下であることが更に好ましく、300nm以下であることが一層好ましい。NiO膜の厚みをこの範囲に設定することによって、NiO膜の光透過性を有意に高めることができる。NiO膜の光透過性は、波長450nmの光の透過率で表して好ましくは85%以上、更に好ましくは88%以上、一層好ましくは90%以上という高いものとなる。
【0045】
本発明のNiO膜は、バルクのNiOの性質を損なうことなく、NiO粒子から膜を形成していることに起因して、NiO膜はそのバンドギャップが好ましくは3.2eV以上3.9eV以下、更に好ましくは3.4eV以上3.8eV以下となる。
同様に、NiO膜はその仕事関数が好ましくは5.2eV以上5.7eV以下、更に好ましくは5.3eV以上5.6eV以下となる。
【0046】
本発明のNiO膜は、NiOが有するp型半導体の性質を活かして、例えば薄膜トランジスタ素子、太陽電池、半導体二次電池及びエレクトロクロミック素子などに適用することができる。
【0047】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下のNiO膜及びNiO分散液を開示する。
〔1〕
NiO粒子を含むNiO膜であって、
前記NiO膜を走査型電子顕微鏡によって観察して測定される前記NiO粒子の体積粒度分布における累積50%径Dn50が5nm以上50nm以下である、NiO膜。
〔2〕
NiO粒子を含むNiO膜であって、
前記NiO膜が、多価アルコール骨格を有し、且つ、ケイ素、チタン、ジルコニウム及びアルミニウムから選択される少なくとも1種の元素を含有する化合物を含む、NiO膜。
〔3〕
前記化合物が、ケイ素、チタン、ジルコニウム及びアルミニウムから選択される少なくとも2種の元素を含有する、〔2〕に記載のNiO膜。
〔4〕
前記化合物が、エポキシ基を含むシランカップリング剤と、チタンカップリング剤と、多価アルコールとの架橋体である、〔2〕又は〔3〕に記載のNiO膜。
〔5〕
波長450nmの光の透過率が85%以上である、〔1〕ないし〔4〕のいずれか一に記載のNiO膜。
【0048】
〔6〕
バンドギャップが3.2eV以上3.9eV以下である、〔1〕ないし〔5〕のいずれか一に記載のNiO膜。
〔7〕
仕事関数が5.2eV以上5.7eV以下である、〔1〕ないし〔6〕のいずれか一に記載のNiO膜。
〔8〕
厚みが50nm以上500nm以下である、〔1〕ないし〔7〕のいずれか一に記載のNiO膜。
〔9〕
NiO粒子と、多価アルコールとを含む、NiO分散液。
〔10〕
動的光散乱法によって測定される前記NiO粒子の体積粒度分布における累積50%径D50が5nm以上50nm以下である、〔9〕に記載のNiO分散液。
〔11〕
NiO粒子の沈降速度が0.1mm/min以下である、〔9〕又は〔10〕に記載のNiO分散液。
【0049】
〔12〕
カップリング剤を更に含む、〔9〕ないし〔11〕のいずれか一に記載のNiO分散液。
〔13〕
前記カップリング剤が、種類の異なる2種のカップリング剤であり、
前記カップリング剤のいずれか一方がエポキシ基を含むカップリング剤である、〔12〕に記載のNiO分散液。
〔14〕
前記カップリング剤が、シランカップリング剤と、チタンカップリング剤であって、
前記シランカップリング剤100質量部に対する前記チタンカップリング剤の含有量が0.1質量部以上5.0質量部以下である、〔12〕又は〔13〕に記載のNiO分散液。
【実施例0050】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されない。特に断らない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0051】
〔実施例1〕
(1)NiO粒子の合成
2リットルのビーカー内に174.61gの硝酸ニッケル(II)六水和物を入れ、更に74.64gの28%アンモニア水を添加して、液中に水酸化ニッケルを生成させた。アンモニア水を添加している間、液を撹拌しておいた。
得られた水酸化ニッケルを超純水で洗浄した。洗浄は、洗浄液中の硝酸イオン濃度が150ppm以下になるまで行った。
洗浄後の水酸化ニッケル分散液を、IPA変性アルコールを用いて溶媒置換した。
溶媒置換された水酸化ニッケル分散液を70℃に設定した恒温器内で乾燥し溶媒を除去した。
このようにして得られた固形の水酸化ニッケルを、粉砕器を用いて解砕した。
解砕した水酸化ニッケルを目開き75μmの篩で篩分けし、篩を通過したものを大気下に250℃で2時間焼成し、更に400℃で2時間焼成してNiOを得た。
得られたNiOを目開き45μmの篩で篩分けし、篩を通過したNiO粒子を次工程に用いた。
【0052】
(2)分散液の調製
50mlの樹脂容器に4gのNiO粒子と6gのプロピレングリコール/メタノール混合溶媒を加え、自転公転ミキサー(シンキー社製:ARE-250)にて2000rpmで1分間撹拌し、NiO分散液を得た。プロピレングリコール/メタノール混合溶媒は、プロピレングリコールが70%、メタノールが30%の組成のものであった。
【0053】
(3)第1段解砕処理
(2)で調製したNiO分散液に、80gのジルコニアビーズ(0.8mmφ)を加えた。その後、ジルコニアビーズを更に投入し、ジルコニアビーズ投入後のNiO分散液液面とビーズ最上面の差が数mm程度となるように調整した。次いで、淺田鉄工株式会社製のペイントシェーカーを用いて1時間解砕処理を行った。
解砕処理したNiO分散液を窒素ガス下、目開き20μmのステンレスメッシュを用い、加圧濾過装置(アドバンテック東洋社製:撹拌型ウルトラホルダー UHP-43K)
を用いて加圧濾過した。次いで、プロピレングリコール/メタノール混合溶媒を用いてビーズに居着いたNiO分散液を洗い込みし、NiO分散液を回収した。
【0054】
(4)第2段解砕処理
(3)で調製したNiO分散液に127gのジルコニアビーズ(0.05mmφ)を加え、ペイントシェーカーを用いて3時間解砕処理を行った。NiO分散液は19.17g使用した。
解砕処理したNiO分散液を窒素ガス下、目開き20μmのステンレスメッシュ及び加圧濾過装置を用いて加圧濾過した。次いで、プロピレングリコール/メタノール混合溶媒を用いてビーズに居着いたNiO分散液を洗い込みし、NiO分散液を回収した。
【0055】
(5)第1段粗粒除去
得られたNiO分散液を孔径0.8μmのメンブレンフィルタに通液することで該NiO分散液中に含まれる粗粒を除去した。
【0056】
(6)第3段解砕処理
(5)で調製したNiO分散液に143gのジルコニアビーズ(0.05mmφ)を加え、ペイントシェーカーを用いて1時間解砕処理を行った。NiO分散液は22.78g用いた。
解砕処理したNiO分散液を窒素ガス下、目開き20μmのステンレスメッシュ及び加圧濾過装置を用いて加圧濾過した。次いで、メタノールを用いてビーズに居着いたNiO分散液を洗い込みし、NiO分散液を回収した。
【0057】
(7)第2段粗粒除去
得られたNiO分散液を孔径0.45μmのメンブレンフィルタに通液することで該NiO分散液中に含まれる粗粒を除去し、粗粒が除去されたNiO分散液(実施例1のNiO分散液)を得た。
NiO分散液におけるNiO粒子の濃度は6.2%、プロピレングリコールの濃度は50.14%、メタノールの濃度は43.66%であった。
【0058】
(8)NiO膜の作製
実施例1のNiO分散液を、スピンコータを用いて厚み0.7mmのガラス基板上に塗布した。スピンコートは4000rpm、10秒間の条件で行った。得られた塗膜を恒温器内で大気下に230℃で1時間焼成して実施例1のNiO膜を得た。
【0059】
〔実施例2〕
実施例1の「(5)第1段粗粒除去」工程を経て得られたNiO濃度が12.93%のNiO分散液1.2224gに、0.3493gのメタノールと、0.0296gのチタンカップリング剤(マツモトファインケミカル社製:X-1221(チタン化合物を20%含有))と、0.0071gのシランカップリング剤(信越化学工業製:KBM403、エポキシ基含有シランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン))を添加し混合液を得た。この混合液を、自転公転ミキサーを用いて2000rpmで1分間撹拌した後に、ペイントシェーカーで10分間混合して、NiO分散液を得た。
1.0285gのNiO分散液に0.0773gの前記チタンカップリング剤を加えた後、自転公転ミキサーで2000rpm1分間撹拌し、引き続きペイントシェーカーで10分間混合してNiO分散液(実施例2のNiO分散液)を得た。
NiO分散液におけるNiO粒子の濃度は8.68%、プロピレングリコールの濃度は40.92%、メタノールの濃度は40.99%、シランカップリング剤0.48%、チタンカップリング剤の濃度は1.79%であった。なお、ここでいう「チタンカップリング剤の濃度」は、用いたチタンカップリング剤中のチタン化合物が20%含有したものであったため、チタン化合物が100%含有したものとして換算したものである。
実施例2のNiO分散液を、スピンコータを用いて厚み0.7mmのガラス基板上に塗布した。スピンコートは6000rpm、10秒間の条件で行った。得られた塗膜を恒温器内で大気下に230℃で1時間焼成して実施例2のNiO膜を得た。
【0060】
〔実施例3〕
実施例1の「(7)第2段粗粒除去」工程を経て得られたNiO濃度が6.2%のNiO分散液0.9994gに、0.0687gのチタンカップリング剤(マツモトファインケミカル社製:X-1221(チタン化合物を20%含有))と、0.0058gのシランカップリング剤(信越化学工業製:KBM403、エポキシ基含有シランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン))とを添加し混合液を得た。この混合液を自転公転ミキサーで2000rpm1分間撹拌した後に、ペイントシェーカーで10分間混合して、NiO分散液(実施例3のNiO分散液)を得た。
NiO分散液におけるNiO粒子の濃度は5.77%、プロピレングリコールの濃度は46.66%、メタノールの濃度は40.63%、シランカップリング剤0.54%、チタンカップリング剤の濃度は1.28%であった。なお、ここでいう「チタンカップリング剤の濃度」は、用いたチタンカップリング剤中のチタン化合物が20%含有したものであったため、チタン化合物が100%含有したものとして換算したものである。
実施例3のNiO分散液を、スピンコータを用いてガラス基板上に塗布した。スピンコートは4000rpm、10秒間の条件で行った。得られた塗膜を恒温器内で大気下に185℃で1時間焼成して実施例3のNiO膜を得た。
【0061】
〔実施例4〕
実施例3において、チタンカップリング剤を用いず、シランカップリング剤の濃度が以下に示すものとなるよう調製した以外は実施例3と同様にして実施例4のNiO分散液及びNiO膜を得た。
NiO分散液におけるNiO粒子の濃度は6.16%、プロピレングリコールの濃度は49.84%、メタノールの濃度は43.40%、シランカップリング剤の濃度は0.59%であった。
【0062】
〔実施例5〕
(1)NiO粒子の合成
300ミリリットルのビーカー内に100.02gの超純水と20.26gの水酸化ナトリウムを入れて撹拌し、水酸化ナトリウム水溶液(A)を調製した。
3リットルのビーカー内に59.71gの塩化ニッケル(II)六水和物と2501.22gの超純水を入れ、50℃に設定したホットスターラーで加温しながら撹拌し、塩化ニッケル水溶液(B)を調製した。
5リットルのステンレスビーカー内に水酸化ナトリウム水溶液(A)を118.20g入れ、ヒーターで50℃に加温しながら撹拌した。この水酸化ナトリウム水溶液(A)中に、塩化ニッケル水溶液(B)をチュービングポンプで6分間にわたり添加した。添加終了後、液温を50℃に保ちながら60分間にわたり撹拌し、水酸化ニッケルを調製した。
得られた水酸化ニッケルを超純水で洗浄した。洗浄は、洗浄液中のナトリウムイオン濃度が170ppm以下になるまで行った。
洗浄後の水酸化ニッケル分散液を、IPA変性アルコールを用いて溶媒置換した。
溶媒置換された水酸化ニッケル分散液を60℃に設定した恒温器内で乾燥し溶媒を除去した。
このようにして得られた固形の水酸化ニッケルを、粉砕器を用いて解砕した。
解砕した水酸化ニッケルを目開き45μmの篩で篩分けし、篩を通過したものを大気下に250℃で6時間焼成してNiOを得た。
得られたNiOを粉砕器で解砕した後、目開き45μmの篩で篩分けし、篩を通過したNiO粒子を次工程に用いた。
【0063】
(2)分散液の調製
50mlの樹脂容器に3.5gのNiO粒子と14gのプロピレングリコールを加え、自転公転ミキサー(シンキー社製:ARE-250)にて2000rpmで1分間撹拌後、引き続き2200rpmで30秒間脱泡し、NiO分散液を得た。
【0064】
(3)第1段解砕処理
(2)で調製したNiO分散液に、110gのジルコニアビーズ(0.8mmφ)を加えた。その後、ジルコニアビーズを更に投入し、ジルコニアビーズ投入後のNiO分散液液面とビーズ最上面の差が数mm程度となるように調整した。次いで、淺田鉄工株式会社製のペイントシェーカーを用いて8時間解砕処理を行った。
解砕処理したNiO分散液を窒素ガス下、目開き20μmのステンレスメッシュを用い、加圧濾過装置(アドバンテック東洋社製:撹拌型ウルトラホルダー UHP-43K)を用いて加圧濾過した。次いで、プロピレングリコールを用いてビーズに居着いたNiO分散液を洗い込みし、NiO分散液を回収した。
【0065】
(4)第1段粗粒除去
得られたNiO分散液を孔径0.8μmのメンブレンフィルタに通液することで該NiO分散液中に含まれる粗粒を除去した。
【0066】
(5)第2段解砕処理
50mlの樹脂容器に、(4)で調製した20gのNiO分散液と、144gのジルコニアビーズ(0.1mmφ)を加え、ペイントシェーカーを用いて24時間解砕処理を行った。
解砕処理したNiO分散液を窒素ガス下、目開き20μmのステンレスメッシュ及び加圧濾過装置を用いて加圧濾過した。次いで、プロピレングリコールを用いてビーズに居着いたNiO分散液を洗い込みし、NiO分散液を回収した。
【0067】
(6)第2段粗粒除去
得られたNiO分散液を孔径0.45μmのメンブレンフィルタに通液することで該NiO分散液中に含まれる粗粒を除去した。
【0068】
(7)第3段解砕処理
50mlの樹脂容器に、(6)で調製した16.5gのNiO分散液と、100gのジルコニアビーズ(0.05mmφ)を加え、ペイントシェーカーを用いて67時間解砕処理を行った。
解砕処理したNiO分散液を窒素ガス下、目開き20μmのステンレスメッシュ及び加圧濾過装置を用いて加圧濾過した。次いで、プロピレングリコールを用いてビーズに居着いたNiO分散液を洗い込みし、NiO分散液を回収した。
【0069】
(8)第3段粗粒除去
得られたNiO分散液を孔径0.2μmのメンブレンフィルタに通液することで該NiO分散液中に含まれる粗粒を除去し、粗粒が除去されたNiO分散液を得た。
NiO分散液におけるNiO粒子の濃度は8.8%であった。
【0070】
(9)NiO分散液の調製
(8)で得られた1.95gのNiO分散液に、2.48gのジアセトンアルコールを加え、自転公転ミキサーにて2000rpmで1分間撹拌後、引き続き2200rpmで30秒間脱泡し、実施例5のNiO分散液を得た。
【0071】
(10)NiO膜の作製
実施例5のNiO分散液を、スピンコータを用いて厚み0.7mmのガラス基板上に塗布した。スピンコートは4000rpm、10秒間の条件で行った。得られた塗膜を恒温器内で大気下に185℃で1時間焼成して実施例5のNiO膜を得た。
【0072】
〔実施例6〕
実施例5の「(8)第3段粗粒除去」工程を経て得られたNiO分散液1.0gに、0.9155gのジアセトンアルコールと、0.0931gのチタンカップリング剤(マツモトファインケミカル社製:X-1221(チタン化合物を20%含有))と、0.0044gのシランカップリング剤(信越化学工業製:KBM403、エポキシ基含有シランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン))を添加し混合液を得た。この混合液を、自転公転ミキサーを用いて2000rpmで1分間撹拌後、引き続き2200rpmで30秒間脱泡し、実施例6のNiO分散液を得た。
【0073】
実施例6のNiO分散液を、スピンコータを用いて厚み0.7mmのガラス基板上に塗布した。スピンコートは6000rpm、10秒間の条件で行った。得られた塗膜を恒温器内で大気下に185℃で1時間焼成して実施例6のNiO膜を得た。
【0074】
〔実施例7〕
実施例5の「(8)第3段粗粒除去」工程を経て得られたNiO分散液1.0gに、0.9132gのジアセトンアルコールと、0.0926gのチタンカップリング剤(マツモトファインケミカル社製:X-1221(チタン化合物を20%含有))と、0.0044gのジルコニウムカップリング剤(マツモトファインケミカル社製:ZC―570)を添加し混合液を得た。この混合液を、自転公転ミキサーを用いて2000rpmで1分間撹拌後、引き続き2200rpmで30秒間脱泡し、実施例7のNiO分散液を得た。
【0075】
実施例7のNiO分散液を、スピンコータを用いて厚み0.7mmのガラス基板上に塗布した。スピンコートは6000rpm、10秒間の条件で行った。得られた塗膜を恒温器内で大気下に185℃で1時間焼成して実施例7のNiO膜を得た。
【0076】
〔実施例8〕
実施例5の「(8)第3段粗粒除去」工程を経て得られたNiO分散液1.0gに、0.9135gのジアセトンアルコールと、0.0928gのチタンカップリング剤(マツモトファインケミカル社製:X-1221(チタン化合物を20%含有))と、0.0045gのジルコニウムカップリング剤(マツモトファインケミカル社製:ZA―45)を添加し混合液を得た。この混合液を、自転公転ミキサーを用いて2000rpmで1分間撹拌後、引き続き2200rpmで30秒間脱泡し、実施例8のNiO分散液を得た。
【0077】
実施例8のNiO分散液を、スピンコータを用いて厚み0.7mmのガラス基板上に塗布した。スピンコートは6000rpm、10秒間の条件で行った。得られた塗膜を恒温器内で大気下に185℃で1時間焼成して実施例8のNiO膜を得た。
【0078】
〔比較例1〕
50mlの樹脂容器に0.15gのNiO粒子と9.85gのメチルエチルケトンを加え、自転公転ミキサーで撹拌してNiO分散液を得た。調製したNiO分散液に、80gのジルコニアビーズ(0.8mmφ)を加えた。その後、ジルコニアビーズを更に投入し、ジルコニアビーズ投入後のNiO分散液液面とビーズ最上面の差が数mm程度となるように調整した。次いで、ペイントシェーカーを用いて1時間解砕処理を行った。
解砕処理したNiO分散液を窒素ガス下、目開き20μmのステンレスメッシュ及び加圧濾過装置を用いて加圧濾過した。次いで、メチルエチルケトンを用いてビーズに居着いたNiO分散液を洗い込みし、NiO分散液(比較例1のNiO分散液)を回収した。
NiO分散液におけるNiO粒子の濃度は1.5%、メチルエチルケトンの濃度は98.5%であった。
【0079】
〔比較例2〕
比較例1のNiO分散液において、分散媒を酢酸2-メトキシ-1-メチルエチルとした以外は、比較例1と同様にして比較例1のNiO分散液を得た。
NiO分散液におけるNiO粒子の濃度は1.5%、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチルの濃度は98.5%であった。
【0080】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られたNiO分散液について、以下の方法で粒子径D50を測定した。更に以下の方法で分散安定性を評価した。
また、実施例で得られたNiO膜について、以下の方法で厚み、NiO粒子のDn50、光透過率、バンドギャップ、仕事関数及び膜強度を評価した。なお、比較例1及び2においては、いずれもNiO分散液におけるNiO粒子の分散安定性に乏しかったためNiO膜を作製せず、NiO膜に関する評価は省略した。そのことを表1では「-」で表した。
以上の結果を以下の表1及び表2に示す。
【0081】
〔NiO粒子の粒子径D50
実施例及び比較例の分散液をNiO濃度が0.6%となるように、プロピレングリコール/メタノール混合溶媒(質量比が50:50)で希釈した。動的光散乱法に基づき粒子径測定装置(Malvern Panalytical社製:ゼータサイザーナノZS)を使用して、当該希釈した分散液中のNiO粒子の粒子径D50を測定した。
なお、比較例においては、粒子径D50の測定時にNiO粒子が沈降してしまったため、測定できなかった。表1では「測定不可」と表した。
【0082】
〔NiO分散液の分散安定性〕
実施例の分散液をNiO濃度が0.6%となるように、プロピレングリコール/メタノール混合溶媒(質量比が50:50)で希釈し、溶液安定性評価装置(フォーマルアクション社製:タービスキャンMA2000)を用いて25℃におけるNiO粒子の沈降速度を測定した。沈降速度の評価は下記のとおりとした。評価結果を表1及び表2に示す。
A:沈降速度が0.001mm/min以下。
B:沈降速度が0.001mm/minを超え0.01mm/min以下。
C:沈降速度が0.01mm/minを超え0.1mm/min以下。
D:沈降速度が0.1mm/min超。
【0083】
〔NiO膜の厚み〕
段差計(KLA-Tenchoreの触針式プロファイラP-17)を用いて実施例のNiO膜の厚みを測定した。
【0084】
〔NiO膜中でのNiO粒子のDn50
NiO粒子のDn50を測定するための前処理として下記を実施した。すなわち、実施例1、4及び5については、NiO膜が塗布されたガラス基板をNiO膜面が上面となるようにアルミスタブにカーボンテープを使用して固定した。実施例2、3、6、7及び8については、基板からNiO膜を剥がし取り、アルミスタブにカーボンテープを使用して固定した。次いで、スパッタリング装置(エイコー社製:イオンコーターIB-5)を使用し、ターゲットをPtとして3mA×2minの条件でNiO膜面に対してPtをコートした。
次いで、NiO膜を走査型電子顕微鏡装置(日立ハイテク社製SU7000)にてコントラストを自動調整の上、倍率3万~20万倍で撮像した。かかる電子顕微鏡観察像から、粒子どうしが重なり合っていないものを無作為に200個以上選んで粒径(ヘイウッド径)を測定し、それらの算術平均値をDn50とした。
【0085】
〔NiO膜の光透過率〕
実施例のNiO膜の光透過率を、分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製:U-4100)を用いて波長450nmの光の透過率に基づき評価した。
【0086】
〔NiO膜のバンドギャップ〕
実施例のNiO膜のバンドギャップを、分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製:U-4100)を用いて測定した。
【0087】
〔NiO膜の仕事関数〕
実施例のNiO膜の仕事関数を、大気中光電子収量分光装置(理化計器株式会社製:AC-3)を用いて測定した。
【0088】
〔NiO膜の膜強度〕
実施例のNiO膜の膜強度を、JIS K 5600に準じ、引っかき硬度試験機(コーテック株式会社製:KT-VF2391)を用いて評価した。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
表1及び表2に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られたNiO分散液は、比較例で得られた分散液に比べてNiO粒子の分散安定性が高いことが分かる。
また、各実施例で得られたNiO分散液を用いて形成されたNiO膜は、光透過性が高いことが分かる。更に、各実施例で得られたNiO分散液を用いて形成されたNiO膜は、バルクのNiOに近いバンドギャップ及び仕事関数を示すことが分かる。
特に、NiO分散液中にカップリング剤が含まれている場合には、該分散液を用いて形成されたNiO膜は、光透過性が一層高くなり、また膜強度が一層高くなることが分かる。