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特開2024-58650パッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ、パッドアセンブリ、ブレーキキャリパ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058650
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】パッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ、パッドアセンブリ、ブレーキキャリパ
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/097 20060101AFI20240418BHJP
   F16D 65/40 20060101ALI20240418BHJP
   F16D 55/225 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
F16D65/097 E
F16D65/40
F16D55/225 113A
F16D65/097 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023177480
(22)【出願日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】102022000021219
(32)【優先日】2022-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(71)【出願人】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】ダレッシオ,ダヴィデ
(72)【発明者】
【氏名】ボージス,アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】クリッパ,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】カルミナーティ,マッティア
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA63
3J058AA77
3J058AA87
3J058BA16
3J058BA41
3J058CA64
3J058CA65
3J058FA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い適応性及び改造の容易性を可能にしながら、制動時に、制動終了時の残留トルクを低減する。
【解決手段】アセンブリ(1)は、径方向(R-R)及び周方向(C-C)に偏らせるように構成された1つのパッド保持ばね(2)と、ブレーキディスクから離れる軸方向(A-A)に付勢するパッド復帰ばね(3)とを備え、各々が作動可能に別個の部品として作られ、パッド保持ばねが、径方向及び周方向に主延長を有し、1本のワイヤのパッド復帰ばねは、C字状部(4)に作動可能に連結された固定部(8)、ブレーキパッドを連結するように構成された連結部(10)と、連結アーム(9)とを備える。連結部は、固定部に対して、軸方向に弾性的に移動可能、1つの巻回部(17)を備え、巻回軸を中心として螺旋状に巻かれた1本のワイヤから構成され、巻回軸が軸方向に沿って連結部を静止位置に向けて常に弾性的に偏らせるよう軸方向に平行に配向されている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキキャリパ(100)用のパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ(1)であって、
前記ブレーキキャリパ(100)は、ブレーキディスク(102)を跨いで配置されるように適合されたキャリパ本体(109)を備え、
前記パッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリは、軸方向(A-A)と、前記軸方向(A-A)に垂直な径方向(R-R)と、前記軸方向(A-A)及び前記径方向(R-R)の両方に垂直な円周方向又は接線方向(C-C)とを画定し、
前記パッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ(1)は、
前記キャリパ本体(109)に収容されたブレーキパッド(103)の少なくとも1つの案内耳(111)と前記キャリパ本体(109)との間に配置され、前記ブレーキパッド(103)を前記径方向(R-R)及び前記周方向(C-C)に付勢するように構成された少なくとも1つのパッド保持ばね(2)と、
前記ブレーキパッド(103)を前記ブレーキディスク(102)から離れる前記軸方向(A-A)に付勢するように構成されたパッド復帰ばね(3)と、を備え、
前記パッド保持ばね(2)と前記パッド復帰ばね(3)とが別個の部品として作られて作動的に連結されており、
前記パッド保持ばね(2)は、少なくとも前記径方向(R-R)に延伸する中央部(5)と、前記中央部(5)の径方向両端から延伸する上部(6)と下部(7)とを備え、前記上部(6)と前記下部(7)が前記中央部(5)から前記周方向(C-C)に向かって離れるように少なくとも部分的に延びるC字状部(4)であって、前記C字状部(4)が、前記キャリパ本体(109)の凹部(106)に挿入されるように適合され、前記案内耳(111)を収容するように適合されている、C字状部(4)を備え、
前記パッド復帰ばね(3)は、
前記C字状部(4)に動作可能に連結された固定部(8)と、
前記ブレーキパッド(103)を連結するように構成された連結部(10)と、
前記固定部(8)及び前記連結部(10)に作動的に連結された連結アーム(9)であって、前記連結部(10)が、前記固定部(8)に対して、前記軸方向(A-A)において、前記ブレーキディスク(102)に向かって、引っ込んだ静止位置と、少なくとも1つの前進位置との間で、弾性的に移動可能である、連結アーム(9)と、を備え、
前記パッド復帰ばね(3)が少なくとも1本のワイヤから作られており、
前記パッド復帰ばね(3)が、前記連結アーム(9)を前記固定部(8)に連結する少なくとも1つの巻回部(17)を有し、
前記少なくとも1つの巻回部(17)が、前記連結部(10)を前記引っ込められた静止位置に向かって少なくとも前記軸方向(A-A)に沿って常に弾性的に付勢するように、巻回軸(A)を中心として螺旋状に巻かれた前記少なくとも1つのワイヤを有する、パッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ(1)。
【請求項2】
前記巻回部(17)が、前記巻回軸(A)の周りに巻かれた複数のコイル(31、32)を有し、
前記複数のコイル(31、32)がねじりによって弾性変形することにより、前記連結部(10)を前記引っ込んだ静止位置に向かって弾性的に付勢し、前記連結アーム(9)及び/又は前記連結部(10)における前記軸方向(A-A)の曲げによる弾性変形を防止する、
及び/又は、前記少なくとも1つの巻回部(17)が、前記ブレーキパッド(103)及び/又は前記パッド保持ばね(2)と前記巻回部(17)との接触を回避することによって、前記軸方向(A-A)に沿って、前記連結部(10)を前記引っ込められた静止位置に向けて常に弾性的に付勢する、
及び/又は、前記巻回軸(A)が、前記軸方向(A-A)に実質的に平行に配向されるか、又は、前記軸方向(A-A)又はそれに平行な方向に入射及び/又は垂直である、
請求項1に記載のパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ(1)。
【請求項3】
前記複数のコイル(31,32)が、少なくとも1つの第1コイル(31)と1つの第2コイル(32)とを有し、
及び/又は、前記複数のコイル(31、32)が、前記ばねの円筒形又は円錐形の螺旋部を形成する同心であり、前記少なくとも1つのワイヤがワイヤ径を有し、前記巻回部(17)が、前記ワイヤ径と前記ワイヤ径の4/3との間に構成される巻線ピッチを有する。請求項2に記載のパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ(1)。
【請求項4】
前記巻回部(17)が第1パッド復帰ばね軸方向包囲部(A1)を画定し、
前記連結アーム(9)及び前記連結部(8)が第2パッド復帰ばね軸方向包囲部(A2)を画定し、
前記第1パッド復帰ばね軸方向包絡線(A1)が、前記第2パッド復帰ばね軸方向包絡線(A2)よりも小さい、
及び/又は、
前記巻回部(17)が第1パッド復帰ばね径方向包絡線(R1)を画定し、
前記連結部(8)が第2パッド復帰ばね径方向包絡線(R2)を確定し、
前記パッド復帰ばね軸方向包絡線(R1)が、前記第2パッド復帰ばね軸方向包絡線(R2)よりも小さい、
及び/又は、前記巻回部(17)が、前記巻回方向に従って前記巻回軸(A)に対して曲げられており、前記連結部(10)が、少なくとも部分的に、前記巻回方向とは反対の方向に曲げられている、請求項1に記載のパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ(1)。
【請求項5】
前記連結アーム(9)が、前記連結部(8)に直接連結されたアーム端部(16)を有し、
前記アーム端部(16)が、前記中央部(5)又は前記中央部の径方向延延伸部に対して前記周方向(C-C)に沿って第1距離(D1)をおいて配置され、
前記連結部(10)が、前記中央部(5)から前記周方向(C-C)に沿って第2距離で配置される第1延伸部(22)を備え、
前記第2距離(D2)が前記第1距離(D1)よりも小さいことにより、前記ブレーキパッド(103)に対して前記連結部(10)が前記中央部(5)に向かって周方向に摺動する場合に、前記第1延伸部(22)が前記中央部(5)に干渉して、前記アーム端部(16)が前記中央部(5)に接触するのを防止するようになっている、請求項1に記載のパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ(1)。
【請求項6】
前記第1延伸部(22)がばね自由端(23)を有し、
前記ばね自由端(23)が前記中央部(5)に面するように適合され、
前記ばね自由端(23)がばね線の断面に等しい表面によって画定され、
前記ばね自由端(23)が前記中央部(5)と干渉するように構成され、
前記連結アーム(9)及び/又は前記連結部(10)の他の部が前記中央部(5)に接触するのを防止し、
及び/又は、前記連結部(10)が第2延伸部(24)を有し、
前記第2延伸部(24)と前記第1延伸部(22)とが連結部角度を形成するように連結されており、前記連結部角度が中央部(5)に面する鋭角である、請求項5に記載のパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ(1)。
【請求項7】
前記第2延伸部(24)と前記第1延伸部(22)とが、前記凹状部が前記中央部(5)に面する凹状部を形成するように連結され、
前記第2延伸部(24)と前記第1延伸部(22)とが、同じ連結部平面上に配置されるか又は横たわり、
前記連結部平面が前記軸方向(A-A)に対して垂直である、
及び/又は
前記第1延伸部(22)が直線ワイヤ延伸部で、
前記第2延伸部(24)が直線ワイヤ延伸部で、
前記第2延伸部(24)と前記第1延伸部(22)とが第3延伸部(25)によって連結され、
前記第3延伸部(25)が湾曲している、
及び/又は
前記第2延伸部(24)が前記アーム端部(16)に接続されて実質的に直角を形成し、
前記第2延伸部(24)が、前記径方向(R-R)に対して0度から45度の間、好ましくは15度から30度の間で構成される第2延伸角だけ、連結平面部において傾斜している、請求項6に記載のパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ(1)。
【請求項8】
前記固定部(8)が、前記ブレーキディスク(102)から離れる方向に延びる少なくとも第1直線延伸部(19)を有し、
前記第1直線延伸部(19)が、前記軸方向(A-A)に平行であり、
前記固定部(8)が、前記巻回部(17)の巻回軸(A)を前記軸方向(A-A)に平行又は入射及び/又は垂直に配置するように、前記巻回部(17)を前記第1直線延伸部(19)に接続する少なくとも曲がった第1延伸部(18)を有し、
前記巻回部(17)が、前記ブレーキディスク(102)の方向に螺旋状に延びており、
及び/又は
前記連結アーム(9)は、実質的に直線状で且つ前記軸方向(A-A)に平行であり、
記連結アーム(9)は、前記連結アーム(9)を前記軸方向(A-A)に平行に配置するように、少なくとも前記軸方向(A-A)からなる平面において前記巻回部(17)と直角をなす第1曲線接続部(33)によって前記巻回部(17)に接続されている、請求項1に記載のパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ(1)。
【請求項9】
ブレーキキャリパ(100)用のブレーキパッドアセンブリであって、少なくとも1つのブレーキパッド(103)と、請求項1-8のいずれかに記載の少なくとも1つのパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ(1)とを備え、
前記パッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ(1)が、前記ブレーキパッド(103)に連結可能で、
前記ブレーキパッド(103)が、摩擦材(105)と、前記摩擦材(105)を支持する支持プレート(104)とを備え、
前記支持プレート(104)が、前記周方向(C-C)に側方に突出する少なくとも1つの案内耳(111)を備え、
前記パッド保持ばね(2)の前記C字状部(4)が、前記パッド(103)を周方向(C-C)及び径方向(R-R)に付勢するように前記案内耳(111)を収容するように構成されており、
前記パッド復帰ばね(3)の前記連結部(10)が、少なくとも前記連結アーム(9)によって前記連結部(10)から離間させられた前記巻回部(17)によって、及び/又は前記連結部(10)の前記ブレーキパッド(103)からの連結解除を防止することによって、前記パッド(103)を前記ブレーキディスク(102)から離間する方向に付勢するように、前記案内耳(111)に係合するように構成されている、ブレーキキャリパ(100)用のブレーキパッドアセンブリ。
【請求項10】
ブレーキキャリパ(100)であって
車両に連結可能であり、ブレーキディスク(102)を跨いで配置されるように適合されたキャリパ本体(109)であって、前記キャリパ本体(109)が少なくとも1つのブレーキパッド収容ポケットを備え、前記収容ポケットが少なくとも1つの凹部(106)を備える、キャリパ本体(109)と、
前記パッド保持ばね(2)が、少なくとも前記案内耳(111)と前記凹部(106)との間に介装されている、請求項9に記載のパッドアセンブリと、
前記パッド復帰ばね(3)の前記連結部(10)は、前記案内耳(111)と結合されて、前記ブレーキディスク(102)から離れる方向に付勢している、ブレーキキャリパ(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
【0002】
本発明は、ブレーキパッドを軸方向、円周方向及び径方向に付勢して振動を低減し、制動完了時にパッドをブレーキディスクから離間させて摩擦材とブレーキディスクとの間の残留トルクを除去又は低減することができるブレーキキャリパばねアセンブリに関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
【0004】
ブレーキキャリパ内の少なくとも1つのブレーキパッドを弾性的に保持して付勢するように構成されたディスクブレーキばねアセンブリが知られている。
【0005】
特に、文献US20180223928、US9677629、US8869950及びCN207989608Uには、パッド復帰ばねに作動可能に連結されたパッド保持ばねを有するばねアセンブリが示されている。
【0006】
通常、パッド保持ばねは、パッドの振動を低減するために、軸方向への動きを制限することなく、パッドをブレーキキャリパのシート内に保持する。
【0007】
パッド復帰ばねは、ブレーキが解除された状態でパッドとブレーキディスクとの間の望ましくない接触に起因する残留ブレーキトルク(残留トルク)を低減又は除去するように、各ブレーキ動作の後にブレーキパッドをディスクから離れる方向に付勢する。
【0008】
いくつかの既知の解決策には、パッド保持ばねがパッド復帰ばねと一体に作られたばねアセンブリが含まれる。このようなばねは、成形され曲げられた一枚の板金から作られるため、ディスクブレーキの異なる適用分野ごとに異なるタイプのばねを作る必要がある。このような解決策は、異なるディスクブレーキの用途ごとに特定のばねアセンブリが必要であるため、製造コストの点で特に不利である。
【0009】
他のよく知られた解決策は、パッド保持ばねとパッド復帰ばねが別々の板金から作られ、組み立てられるばねアセンブリから構成される。このように、パッド復帰ばねは、ブレーキシステムの適用要件に応じてカスタマイズすることができる。しかしながら、特に高性能ブレーキ用途の場合、軸方向リーフばねの採用は、ブレーキが搭載される車両の性能に悪影響を及ぼす包絡線と重量増加の問題を引き起こす。
【0010】
さらに他の解決策は、パッド保持ばねとパッド復帰ばねが、成形され曲げられた板金片とワイヤばねから作られ、その後組み立てられるばねアセンブリを提供する。このタイプの解決策は、例えば、GB2257483号文書及びUS2013025981号文書から知られている。
【0011】
このタイプの解決策では、パッド復帰ばねは、少なくとも1つの弾性復帰部を有するワイヤばねである。弾性復帰部は、ブレーキディスクの回転軸の方向と平行な軸方向と、軸方向と直交する径方向とからなる曲げ平面内で、1つ又は複数の曲げを伴って長手方向のばね方向に延びている。従って、弾性復帰部は、曲げ平面内で弾性的に曲がり、軸方向に前進した位置と軸方向に後退した静止位置との間で、ばねの連結部を軸方向に弾性的に付勢する。ばね連結部はブレーキパッドに連結されており、ブレーキ作用が完了すると、弾性復帰部がブレーキパッドをディスクから離れる方向に付勢する。
【0012】
公知の解決策のばねの弾性復帰部が曲げられる形状は、弾性復帰部の軸方向剛性を非常に大きくし、ブレーキパッドの摩擦材料の摩耗が増大するにつれて、ばねによってパッドに加えられる非常に大きな荷重を発生させることが判明した。
【0013】
ばねアセンブリをキャリパ本体とブレーキパッドに組み付ける際に、軸方向と径方向に大きな包絡線を有する形状を考慮すると、弾性復帰部が衝撃を受けたり、偶発的に付勢されたりして、弾性復帰部に塑性変形が生じ、その曲げ形状が修正され、動作が損なわれ、パッドの復帰が妨げられ、その結果、摩擦材の摩耗が促進され、ブレーキキャリパ又はディスクブレーキのメンテナンス作業が増加することが判明した。
【0014】
従って、パッド復帰ばねアセンブリを提供する必要性が強く感じられ、このアセンブリでは、パッド復帰ばねは、組付け時又はメンテナンス時に、パッド復帰ばねが塑性変形する可能性を防止又は低減するように形成されている。
【0015】
さらに、パッド保持ばねに接続されたパッド復帰ワイヤばねは、その長手方向の延長線、特に軸方向及び/又は径方向の延長線に沿った包絡線を有し、曲げ平面における弾性復帰部の曲げ形状は、異なるタイプのノギスに使用することを妨げる。
【0016】
従って、当業界では、パッド復帰ばねが、複数のブレーキキャリパに使用可能な曲げ形状を採用できるように、単純に高い適用汎用性を可能にする形状であるパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリを提供する必要性が強く感じられる。
【0017】
従って、設計及び製造時の時間及びコストに影響を与えることなく、ディスクブレーキの様々な適用分野及び所望の性能に使用できるように、高い適応性及び改造の容易性を可能にしながら、制動時に、制動終了時の残留トルクを低減する、又は抑制する、特に効率的な性能、及び振動及び騒音の最小化特性を同時に提供することができる、ばねアセンブリ、パッドアセンブリ、及びブレーキキャリパを製造する必要性が生じる。
【0018】
従って、本発明の根底にある課題は、先行技術を参照して述べた欠点を回避しつつ、前述のニーズを満たすような構造的及び機能的特徴を有し、前述の感じたニーズを満たすようなばねアセンブリ、パッドアセンブリ及びブレーキキャリパを考案することである。
【発明の概要】
【0019】
解決手段
【0020】
本発明の目的は、パッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ、ならびにブレーキパッドアセンブリ、及びブレーキキャリパを提供することであり、これらアセンブリは、ブレーキ動作が完了した後の残留トルクを、除去しないまでも低減することができ、ブレーキ信頼性を高めることができる。
【0021】
これら及び他の目的及び利点は、請求項1に記載のパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ、請求項9に記載のブレーキパッドアセンブリ、及び請求項12に記載のブレーキキャリパによって達成される。
【0022】
いくつかの有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0023】
この解決策の分析により、提案された解決策により、パッド復帰ばねが軸方向にコンパクトであるパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリを得ることができ、パッド復帰ばねの包絡線を減少させ、組立及び保守作業中にパッド復帰ばねが偶発的に塑性変形する危険性のない簡略化された組立を可能にすることが示された。
【0024】
この解決策の分析により、提案された解決策により、パッド復帰ばねが既知の解決策と比較して軸方向の包絡線が非常に小さく、弾性復帰力が等しいパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリを得ることができることが示された。
【0025】
この解決策の分析により、提案された解決策では、パッド復帰ばねが公知の解決策と比較して軸方向の剛性が低く、弾性復帰力が等しいパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリを得ることができ、簡素化されたアセンブリと、公知の解決策よりも低い摩擦材の摩耗による軸方向荷重の増加を可能にすることが示された。
【0026】
この解決策の分析により、提案された解決策では、パッド復帰ばねが実質的に牽引力によって軸方向に働くパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリを得ることができ、軸方向と径方向からなる曲げ平面において、弾性復帰力を発生させるために曲がるように適合された曲げを有する弾性復帰部の生成を避けることができることが示された。
【0027】
この解決策の分析により、提案された解決策によって、従来技術の解決策よりもパッドとブレーキディスクの間の残留トルクを低減することができ、その結果、ブレーキパッドの偏摩耗の発生を低減し、特にメンテナンスの発生を低減できることが示された。
【0028】
さらに、提案された解決策は、非常に高い、あるいは改善されたブレーキ効率を維持し、例えば、通常運転中にパッド復帰ばねとパッド保持ばねとの間に摩擦接触がないことにより、効率は強力に改善される。
【0029】
さらに、提案された解決策により、パッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリの耐用年数を既知の解決策と比較して延ばすことができ、メンテナンスの介入を大幅に減らすことができる。
【0030】
さらに、提案された解決策により、様々な用途に対して均一なパッド保持ばねを維持し、パッド復帰ばねの小さな軸方向包囲を維持しながら、極めて簡単な方法で用途に応じてパッド復帰ばねを変更しながら、所望のブレーキ性能に応じた簡単なばねアセンブリの解決策を確保することが可能である。特に、極めて簡単な方法で、要求される用途に応じて、異なる径のパッド復帰ばね及び/又は異なる数のパッド復帰ばね巻線及び/又は異なる巻線径のパッド復帰ばね巻線を提供することが可能である。
【0031】
さらに、提案された解決策により、軸方向及び径方向の包絡線が小さいため、パッド復帰ばね及びパッド保持ばねアセンブリが取り付けられるブレーキキャリパに空きスペースを確保することができ、設計者がさらなる要素を追加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図面
【0033】
パッドホールディングばね及びパッド復帰ばねアセンブリ、パッドアセンブリ、及びブレーキキャリパのさらなる特徴及び利点は、添付図面を参照して非限定的に示される、その好ましい実施形態の以下の説明から明らかになる。
【0034】
図1図1は、キャリパ本体と、少なくとも1つのブレーキパッドと、キャリパ本体及び少なくとも1つのブレーキパッドに連結された、本発明による少なくとも1つのパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリと、を備える、本発明によるブレーキキャリパの斜視図である。
【0035】
図2図2は、ブレーキパッドに連結された、本発明によるパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリを含むパッドアセンブリの斜視図であり、ブレーキパッドに対向するブレーキディスクが図式的に示されている。
【0036】
図3図3は、図2のパッドアセンブリの正面図であり、ブレーキディスクとは反対側のパッド支持プレートが示されており、ブレーキパッドを軸方向に戻すことができる、軸方向と同軸である少なくとも1つの線ばね巻線が示されている。
【0037】
図4図4は、図2のパッドアセンブリの、図4の正面図とは径方向に反対側の正面図であり、パッド摩擦材とプレートのブレーキディスク側表面とが示されており、パッドの耳部において、プレートのブレーキディスク側表面と接触している連結部が示されており、この連結部は、パッド復帰ばねのブレーキパッドからの不随意的な外れを防止するように曲げられている。
【0038】
図5図5は、本発明によるパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリの斜視図であり、パッド復帰ばねは、軸方向に牽引して働くように軸方向と同軸である巻線からなる少なくとも1つのワイヤ部からなり、ワイヤ部の端部は、軸方向に垂直な面内で少なくとも1つの屈曲部を形成している。
【0039】
図6図6は、ブレーキディスク側における図5のパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリの、軸方向に垂直な正面図であり、手前には、軸方向に垂直な平面において屈曲部を有するパッド復帰ばねワイヤ部の端部が示され、背景には、パッド復帰ばねワイヤ部の少なくとも1つの巻線が示されている。
【0040】
図7図7は、図5のパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリの接線方向に垂直な側面図であり、少なくとも1つの巻線が、軸方向に延びることによって、少なくとも1つの巻線と軸方向に垂直な平面内で曲げられた連結部とを連結するワイヤ部の中央部の包絡線よりもはるかに小さい軸方向の包絡線を有することが示されている。
【0041】
図8図8は、本発明によるパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリのさらなる実施形態の斜視図であり、図5からの2つのパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリが示されており、これらアセンブリは、軸方向に垂直な中央平面に対して相互に鏡面であり、ブリッジ状部によって接続されている。
【0042】
図9図9は、リベット止めによってパッド保持ばねに連結されたパッド復帰ばねワイヤ部の連結部の斜視図である。
図10図10は、リベット止めによってパッド保持ばねに連結されたパッド復帰ばねワイヤ部の連結部の斜視図である。
【0043】
図11図11は、パッド復帰ばねの孔に挿入されるようにS字状に曲げられたパッド復帰ばねの対向するディスク側端部と、パッド保持ばねの壁の対向する表面に接触し、連結要素によって保持されたS字状に曲げられた部とを有するパッド保持ばねに連結されたパッド復帰ばねワイヤ部の連結部の斜視図である。
図12図12は、パッド復帰ばねの孔に挿入されるようにS字状に曲げられたパッド復帰ばねの対向するディスク側端部と、パッド保持ばねの壁の対向する表面に接触し、連結要素によって保持されたS字状に曲げられた部とを有するパッド保持ばねに連結されたパッド復帰ばねワイヤ部の連結部の斜視図である。
【0044】
図13図13は、本発明によるパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリの斜視図であり、パッド復帰ばねは、周方向に対して同軸である巻線からなる少なくとも1つのワイヤ部からなり、ワイヤ部の端部は、軸方向に対して垂直な面内で少なくとも1つの屈曲部を形成している。
【発明を実施するための形態】
【0045】
好ましい実施形態の説明
【0046】
一般的な実施形態によれば、ブレーキキャリパ100用のパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ1が提供される。
【0047】
以下の説明では、特に断らない限り、アセンブリ1は、ブレーキパッド及び/又はキャリパ本体に結合されていない静止状態にあるときに説明される。
【0048】
アセンブリ1は、軸方向A-A、軸方向A-Aに垂直な径方向R-R、及び軸方向A-A及び径方向R-Rの両方に垂直な円周方向又は接線方向C-Cを画定する。
【0049】
実施形態によれば、軸方向A-Aは、ブレーキキャリパ100のキャリパ本体109が跨るように配置され得るブレーキディスク102の回転軸に平行である。
【0050】
アセンブリ1は、少なくとも1つのパッド保持ばね2と少なくとも1つのパッド復帰ばね3とから構成され、異なる半完成品で作られた後、作動可能に連結されている。
【0051】
パッド保持ばね2は、ブレーキキャリパ100のブレーキパッド103の少なくとも1つの案内耳111とブレーキキャリパ100のキャリパ本体109との間に配置され、ブレーキパッド103を径方向R-R及び周方向C-Cに付勢するように構成されている。
【0052】
.パッド復帰ばね3は、ブレーキパッド103をブレーキディスク102から離れる軸方向A-Aに付勢するように構成されている。
【0053】
パッド保持ばね2は、径方向R-R及び円周方向C-Cに主延長を有する。
【0054】
パッド保持ばね2は、少なくとも1つのC字状部4からなる。C字状部4は、中央部5、上部6及び下部7からなる。中央部5は、少なくとも径方向R-Rに延び、主に径方向R-Rに沿って延びる。上部6及び下部7は、中央部5から周方向C-Cに少なくとも部分的に片持ち梁状に延びており、中央部5の径方向に対向する2つの端部から延びている。実施形態によれば、中央部5は、少なくとも径方向R-R及び軸方向A-Aに延びている。実施形態によれば、上部6及び下部7も軸方向A-Aに延びている。実施形態によれば、上部6及び下部7は、周方向C-C及び径方向R-Rからなる長手方向に沿って、中央部5の径方向に対向する2つの端部から片持ち状に延びている。
【0055】
C字状部4は、キャリパ本体109の凹部106に挿入されるように適合され、案内耳111を収容するように適合される。
【0056】
パッド復帰ばね3は、C字状部4に動作可能に連結された固定部8と、ブレーキパッド103を連結するように構成された連結部10と、固定部8及び連結部10に動作可能に連結された連結アーム9とを備える。連結部10は、ディスク102に向かって、引っ込んだ静止位置と少なくとも1つの前進位置との間で、軸方向A-Aに固定部8に対して弾性的に移動可能であり、その逆も同様である。
【0057】
実施形態によれば、固定部8は、C字状部4から軸方向A-Aにおいて、ディスク102とは反対側の第1方向に延びている。
【0058】
実施形態によれば、連結アーム9は、固定部8から、主に軸方向A-Aに向けられた長手方向アーム方向に沿って、ディスク102と一致する第2方向に、第1方向とは反対側に延びる。
【0059】
実施形態によれば、連結部10は、第2方向に沿って引き伸ばされた、ディスク102に向かう少なくとも1つの前進位置と、その反対方向に引き込まれた静止位置との間で、軸方向A-Aに弾性的に移動可能である。
【0060】
パッド復帰ばね3は、少なくとも1本のワイヤから作られている。
【0061】
有利には、パッド復帰ばね3は、連結アーム9を固定部8に連結する少なくとも1つの巻回部17を備える。少なくとも1つの巻回部17は、巻回軸を中心として螺旋状に巻回された少なくとも1つのワイヤを有する。巻回軸Aは、軸方向A-Aに沿って、連結部10を引っ込められた静止位置に向けて常に弾性的に付勢するように配向されている。実施形態では、少なくとも1つの巻回部17は、ブレーキパッド103及び/又はパッド保持ばね2と巻回部17との接触を回避することによって、連結部10を引っ込められた静止位置に常に弾性的に付勢する。
【0062】
実施形態では、巻回軸Aは、軸方向A-Aに実質的に平行に配向され、それによって、パッド復帰ばねを軸方向A-Aに実質的に垂直な平面に曲げることによって弾性エネルギを蓄えることを可能にする巻回部17によって、パッド復帰ばね3の軸方向の伸長を制限することが可能になる。これにより、軸方向からなる平面において少なくとも1つのワイヤに曲がりが生じるのを回避することができ、連結部10を弾性的に移動させるためにパッド復帰ばねの曲げられた部分と作用するのを回避することができる。
【0063】
一実施形態において、巻回軸Aは、軸方向A-A又はそれに平行な方向に入射及び/又は垂直となるように配向される。
【0064】
実施形態によれば、巻回部17は、巻回軸Aを中心に巻かれた複数のコイル31、32からなる。実施形態によれば、複数のコイル31、32は、ねじりによって弾性変形し、連結部10を引っ込んだ静止位置に向けて弾性的に付勢する。実施形態によれば、パッド復帰ばね3は、通常動作時に、連結アーム9及び/又は連結部10及び/又は巻回部17における軸A-A方向の曲げによる弾性変形を防止するように曲げられている。
【0065】
実施形態によれば、複数のコイル31,32は、少なくとも第1コイル31と第2コイル32とからなる。実施形態によれば、各コイル31,32は、実質的に同じ外径を有する。実施形態によれば、複数のコイル31,32のコイルは、複数の異なる外径を有する。実施形態によれば、複数のコイル31、32は同心である。実施形態によれば、複数のコイル31、32は、中心がずれている。実施形態によれば、複数のコイル31、32は、円筒形又は円錐形の螺旋ばね部を形成する。
【0066】
実施形態によれば、少なくとも1つのワイヤは、ワイヤ径を有する。実施形態によれば、巻回部17は、ワイヤ径とワイヤ径の4/3との間の巻線ピッチを有する。実施形態によれば、巻線ピッチは、少なくとも2つの隣接するコイルの中心間の軸方向A-Aに沿った距離として定義される。
【0067】
実施形態によれば、巻回部17は、第1軸方向パッド復帰ばね包絡線A1を画定する。連結アーム9及び連結部8は、第2軸方向パッド復帰ばね包絡線A2を画定する。第1軸方向パッド復帰ばね包絡線A1は、第2軸方向パッド復帰ばね包絡線A2よりも小さい。
【0068】
実施形態によれば、巻回部17は、第1径方向パッド復帰ばね包絡線R1を画定する。連結部8は、第2径方向パッド復帰ばね包絡線R2を画定する。径方向パッド復帰ばね包絡線R1は、第2径方向パッド復帰ばね包絡線R2よりも小さい。
【0069】
実施形態によれば、巻回部17は、巻線方向に従って巻回軸Aに対して巻線の下で曲げられ、その際、連結部10は、少なくとも部分的に巻線方向とは反対の方向に曲げられる。
【0070】
巻回部17を設けることにより、ブレーキパッド103及びキャリパ本体109に対するアセンブリ1の組付け作業中にパッド復帰ばねワイヤが塑性変形する確率を減少させるか、あるいは無くすことにより、アセンブリ1の軸方向の包絡線を著しく減少させることができる。また、パッド復帰ばねの曲げ形状を、ワイヤの巻回軸Aを中心とする螺旋状の巻回形状とすることにより、長期に亘って持続し、かつ、組付時の周方向や径方向の衝撃に対して高い耐性を有する弾性エネルギ蓄積部を提供することができる。
【0071】
高抵抗、パッドに適用される高弾性復帰力、及び経時的な高信頼性を維持しながら、パッド復帰ばね3の軸方向A-Aにおける小さな包絡線を得ることを可能にする巻回部17の提供により、アセンブリ1を既存キャリパのいくつかの形状に取り付けることが可能である。さらに、パッド復帰ばね3の軸方向A-Aにおける小さな包絡線のおかげで、小さな寸法を有する新しいキャリパを提供したり、他の要素を導入したりすることが可能である。
【0072】
巻回部17を設けることにより、軸方向からなる平面内で屈曲及び伸長する弾性復帰アームを含むパッド復帰ばねに対して、パッド復帰ばね3の軸方向の剛性を低減することが可能となる。これにより、一方では、摩擦材が極度に摩耗する条件下でも、パッドを高い信頼性で支持し弾性的に戻すことが可能となり、他方では、公知の解決策と比較して、より広い幾何公差の範囲で信頼性の高い結果を得ることが可能となる。
【0073】
巻回部17を設けることにより、公知の解決策と比較して、軸方向包絡線を増加させることなく、又は軸方向包絡線を非常に低く保つことなく、パッド復帰ばね3のワイヤの長手方向の長さを増加させることが可能である。巻回部17を設けることにより、パッドに加えられる弾性復帰力と同じ方向を向いた巻回軸を中心に線ばねを曲げることが可能である。巻回部17が設けられていることにより、パッドに加えられる復帰力は巻回部のコイルのねじり変形によるものであり、軸方向への曲げによる弾性力の発生を回避することができる。
【0074】
実施形態によれば、連結アーム9は、連結部8に直接連結されたアーム端部16からなる。アーム端部16は、中央部5、又はその径方向延伸部及び/又は軸方向延伸部に対して、周方向C-Cに沿って第1距離D1に配置されている。連結部10は、中央部5から周方向C-Cに沿って第2距離D2に配置される第1延伸部22を備える。
【0075】
有利には、第2距離D2は、第1距離D1よりも小さい。組立の間及び/又は摩擦材料の非常に攻撃的な摩耗状態の間に、ブレーキパッド103に対して連結部10が中央部5に向かって周方向に摺動する場合、第1延伸部22は、従って、アーム端部16が中央部5に接触するのを阻止して、中央部5と最初に干渉し、その結果、一方では、連結部10がブレーキパッド103から連結解除されるのを阻止し、他方では、パッド復帰ばね3とパッド保持ばね2の中央部5との間に発生する摩擦力を制限する。
【0076】
実施形態によれば、第1伸び部22は、ばね自由端23を有する。実施形態によれば、ばね自由端23は、中央部5に面している。実施形態によれば、ばね自由端23は、パッド復帰ばね3のワイヤの一部の表面によって画定される。実施形態によれば、ばね自由端23は、パッド復帰ばねワイヤの直径を直径として有する円の表面よりも小さい表面を有する。実施形態によれば、ばね自由端23は、中央部5と干渉するように構成されている。それにより、連結部10の偶発的な円周方向の摺動の場合に、パッド復帰ばね3と中央部5との間の接触面を制限することが可能である。
【0077】
実施形態によれば、連結部10は、第2延伸部24を備える。実施形態によれば、第2延伸部24と第1延伸部22とが連結され、連結角を形成する。実施形態によれば、連結角は、中央部5に面する鋭角である。実施形態によれば、第2延伸部24と第1延伸部22は連結され、凹状部を形成し、該凹状部は中央部5に面する。
【0078】
実施形態によれば、第2延伸部24と第1延伸部22は、同じ連結部平面上に配置されるか又は横たわり、連結部平面は、軸方向A-Aに垂直である。実施形態によれば、第2延伸部24及び第1延伸部22は、V状に曲げられた部分を形成する。第1延伸部22及び第2延伸部24を設けることにより、摩擦材料の摩耗が非常に進行した状態であっても、ブレーキパッドの応力に高い信頼性で耐えることができる連結部10を得ることができる。
【0079】
実施形態によれば、第1延伸部22は直線ワイヤ延伸部であり、第2延伸部24は直線ワイヤ延伸部であり、第2延伸部24と第1延伸部22とは第3延伸部25によって連結されており、第3延伸部25は湾曲している。実施形態によれば、第2延伸部24は、径方向R-Rに対して0度から45度の間、好ましくは15度から30度の間の第2延伸角だけ連結部平面内で傾斜している。
【0080】
連結部10の配置及び形状により、パッド復帰ばねとパッド保持ばねとの間に摩擦接触が生じる場合、パッド復帰ばねのパッド保持ばねとの接触面は、公知の解決策と比較して著しく減少する。
【0081】
連結部10の第1延伸部22が、そのばね自由端23がパッド保持ばね2の中央壁5からの周方向距離において、連結部10及び/又は連結アーム9の他の全ての延伸部の中央壁5からの周方向距離、又はその軸方向及び/又は径方向延伸部からの周方向距離よりも小さく、中央壁5に面して配置されていることにより、連結部10及び/又は連結アーム9の接触面積を制限することが可能である。これにより、パッド復帰ばねがブレーキパッドのディスク側面上を接線方向に摺動することによる復帰ばねとパッド保持ばねとの間の接触面積を、パッド復帰ばねワイヤの断面の数分の一に制限することが可能となる一方で、発生可能な摩擦力を低減し、他方では、ワイヤばね部がブレーキパッドとパッド保持ばねとの間にはまり込んだり、あるいはブレーキパッドから外れて接続が失われたりすることを回避することができる。
【0082】
実施形態によれば、固定部8は、ブレーキディスク102から離れる方向に延びる少なくとも第1直線延伸部19を有し、第1直線延伸部19は、軸方向A-Aに平行である。実施形態によれば、固定部8は、巻回部17の巻回軸Aを軸方向A-Aに平行又は垂直及び/又は入射して配置するように、巻回部17を第1直線延伸部19に接続する少なくとも第1曲線延伸部18を有する。実施形態によれば、巻回部17は、ブレーキディスク102の方向に螺旋状に延びている。実施形態によれば、第1曲線延伸部18は、直角に曲げられている。
【0083】
実施形態によれば、連結アーム9は、実質的に直線状であり、軸方向A-Aに平行である。実施形態によれば、アセンブリの通常の動作中、連結アーム9は、例えば曲がることによって、連結部10を軸方向に弾性的に付勢することを回避する。
【0084】
実施形態によれば、連結アーム9は、連結アーム9を軸方向A-Aに平行に配置するように、少なくとも軸方向A-Aを含む平面において巻回部17と直角をなす第1湾曲接続部33によって巻回部17に接続される。
【0085】
実施形態によれば、第2延伸部24は、連結アーム9と連結部10との間に実質的に直角を形成する第2湾曲連結部34によって、アーム端部16及び/又は連結アーム9に連結される。
【0086】
実施形態によれば、固定部8は、第1曲線延伸部18に接続された第2直線延伸部21を有する。実施形態によれば、固定部8は、巻回部17が延びる第2湾曲した延伸部20を有し、第2湾曲した延伸部20及び第2直線延伸部21は、軸方向A-Aに垂直な平面上に少なくとも部分的に位置する。
【0087】
実施形態によれば、パッド保持ばね2は連結壁13を備え、パッド復帰ばね3の固定部8は、パッド保持ばね2の連結壁13に固定されている。
【0088】
実施形態によれば、固定部8は、径方向R-RにおいてC字状部4によって区画された凹部に面する連結壁13の少なくとも一面に結合される。
【0089】
実施形態によれば、パッド保持ばね2は、連結壁13に連結された連結要素14を備える。実施形態によれば、連結要素14は、固定部8の少なくとも一部を締め付けるように構成された少なくとも一対の連結タブ15を備える。実施形態によれば、一対の連結タブ15は、固定部8の第1直線延伸部19に締め付けられる。実施形態によれば、パッド復帰ばね3の固定部8は、連結壁13にリベット止めされている。実施形態では、パッド復帰ばね3の固定部8は、連結壁13に溶接される。実施形態において、パッド復帰ばね3の固定部8は、連結壁13に干渉によって結合される。実施形態では、パッド復帰ばね3の固定部8は、専ら溶接によって連結壁13に連結される。
【0090】
実施形態によれば、固定部8は、S字状に曲げられた固定部端部を形成するように、第3湾曲延伸部35によって第1直線延伸部19に連結された第3直線延伸部34からなる。実施形態によれば、第1直線延伸部19は、C字状部4の囲まれた部分に関して反対側を向いた連結壁13の下面に接触している。実施形態によれば、連結壁13は、固定部8の少なくとも一部が挿入される貫通孔を有する。実施形態によれば、第3湾曲延伸部35は、連結壁の孔に挿入され、第3直線延伸部34は、パッド復帰ばね2をパッド保持ばね3に連結するように、連結壁13の、C字状部4の囲まれた部に対向する、連結壁13の上面と径方向に対向する上面に当接する。実施形態によれば、固定部8は、L字状に曲がった固定部端部を形成するように、第3湾曲した延伸部35によって第1直線延伸部19に接続された第3直線延伸部34からなる。
【0091】
実施形態によれば、パッド保持ばね2は、ブレーキディスク102とは反対方向の軸方向A-Aに片持ち梁状に延びる下部7に動作可能に連結された第1片持ち梁部11から構成される。パッド保持ばね2は、周方向C-Cに片持ち梁状に延びる第1片持ち梁部11に作動可能に連結された第2片持ち梁部12からなる。パッド保持ばね2の固定部8は第2片持ち梁部12に固定され、第2片持ち梁部12が連結壁13を構成する。
【0092】
実施形態によれば、アセンブリ1は、2つのパッド保持ばね2と、2つのパッド復帰ばね3と、2つのパッド保持ばね2を連結するブリッジ状部36とを備える。
【0093】
実施形態によれば、パッド復帰ばね3は、2本の平行なワイヤを並べて配置したものである。
【0094】
実施形態によれば、パッド保持ばね2は、C字状部4にシームレスに動作可能に連結されたL字形部26を備える。実施形態によれば、L字形部26は、第2支持部28に垂直に動作可能に連結された第1支持部27を備える。実施形態によれば、第1支持部27は、C字状部4の上部6から垂直に延び、上部6と第2支持部28とで、C字状部4とは反対の凹みを有するU字状部を得るようになっている。実施形態によれば、C字状部4の中央部5は、C字状部4の凹部の外側の円周方向C-Cに片持ち梁状に延びる第1保持要素29を備える。実施形態によれば、L字形部26は、第1支持部27と第2支持部28との間に開口部を構成し、第1支持部27は、開口部内に周方向C-Cに片持ち梁状に延びる第2保持要素30を構成する。実施形態によれば、第1支持部27は、周方向C-Cにおいて対向する縁部からL字形部26内に突出する一対の保持要素からなる。
【0095】
実施形態において、ブレーキパッド103は、外側サイドブレーキパッド又は内側サイドブレーキパッドであり、外側サイドブレーキパッドは、内側サイドブレーキパッドと比較して、車両からさらに離間している。実施形態では、内側サイドブレーキパッドは、ブレーキキャリパのスラスト手段又はピストンによって直接付勢されるように適合され、外側サイドブレーキパッドは、キャリパ本体109のフローティング要素110の一部によって、ブレーキキャリパのスラスト手段又はピストンによって間接的に付勢されるように適合される。一実施形態では、外側ブレーキパッドに接続された及び/又は接続されるように適合された各パッド復帰ばね3は、外側復帰荷重を規定する。実施形態では、内周側ブレーキパッドに接続された及び/又は接続されるように適合された各パッド復帰ばね3は、内周側復帰荷重を規定する。実施形態では、内側復帰荷重は、外側復帰荷重と等しい。内側ブレーキパッドと外側ブレーキパッドとからなる一対のブレーキパッドを支持するフローティングタイプのブレーキキャリパでは、制動作用が完了すると、内側ブレーキパッドに作用するパッド復帰ばね3は、外側ブレーキパッドに作用するパッド復帰ばね3と対称的な方法で、かつ同じ弾性挙動で働く。実施形態では、内側復帰荷重は、外側復帰荷重よりも低い。内側ブレーキパッドと外側ブレーキパッドとからなる一対のブレーキパッドを支持するフローティングタイプのブレーキキャリパでは、ブレーキ動作が完了すると、内側ブレーキパッドに作用するパッド復帰ばね3は、外側ブレーキパッドに作用するパッド復帰ばね3に対して非対称に作用する。サイド復帰荷重に比べて増大した外側復帰荷重が与えられることによって、ブレーキパッドがブレーキディスクから離れることができることに加えて、パッド復帰ばね3によって、車両から離れることによってその静止位置にあるキャリパ本体のフローティング要素110に復帰力が加えられ、ブレーキディスクに対して部分的に再センタリングされるのを助け、ディスクに対するブレーキパッドの完全な離脱を確実にする。
【0096】
本発明はまた、ブレーキキャリパ100用のブレーキパッドアセンブリに関する。ブレーキパッドアセンブリは、少なくとも1つのブレーキパッド103と、上述した実施形態のいずれか1つによる少なくとも1つのパッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ1とを備える。
【0097】
パッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ1は、ブレーキパッド103に連結可能である。ブレーキパッド103は、摩擦材105と、摩擦材105を支持する支持プレート104とを備える。支持プレート104は、周方向C-Cに側方に突出する少なくとも1つの案内耳111を備える。パッド保持ばね2のC字状部4は、パッド103を周方向C-C及び径方向R-Rに付勢するように、少なくとも1つの案内耳111を収容するように構成される。パッド復帰ばね3の連結部10は、巻回部17によって、パッド103をブレーキディスク102から離れる方向に付勢するように案内耳111を結合するように構成されている。実施形態によれば、巻回部17は、少なくとも連結アーム9の連結部10から軸方向に間隔を置いて配置されている。実施形態によれば、巻回部17は、支持プレート104のフットプリントに対して部分的に外側にある。実施形態によれば、巻回部17は、案内耳111のフットプリントに対して部分的に外側にある。本明細書において、フットプリントとは、軸方向A-Aに垂直な平面に対する要素のプロファイルを意味する。実施形態によれば、巻回部17は、支持プレート104に直接接触することを回避する。
【0098】
実施形態によれば、ブレーキパッド103は、少なくとも1つの案内耳111を周方向C-C及び径方向R-Rに横方向に区画する耳側縁部112を備える。実施形態によれば、ブレーキパッド103は、摩擦材105に対して反対側を向く後側耳案内面113と、摩擦材105と同じ側を向く前側第1耳案内面114とを備える。
【0099】
実施形態によれば、耳側縁部112は、C字状部4に挿入可能である。実施形態によれば、連結部10は、パッド103を軸方向A-Aにおいて常に摩擦材105と反対方向に偏らせるように、前側第1耳案内面114に連結可能である。
【0100】
実施形態によれば、耳側縁部112は、主に径方向R-Rに沿って延びる径方向縁部116と、主に周方向C-Cに沿って延びる周方向縁部117とによって径方向に区画された少なくとも1つの凹部115を画定する。実施形態によれば、径方向縁部116と周方向縁部117とは段差状に接続されており、アーム端部16は、凹部115に対して、周方向縁部117に対向する径方向R-Rと、径方向縁部116に対向する周方向C-Cとに、接触することなく対向している。実施形態によれば、巻回部17は、部分的に凹部115に面している。実施形態によれば、連結部10は、前耳面114に接触し、及び/又は、前耳面114と凹部115を画定する周方向縁部117との交差部によって画定される耳角部107に接触する。
【0101】
本発明はまた、上述した実施形態のいずれか1つによる少なくとも1つのパッドアセンブリを備えるブレーキキャリパ100に関する。
【0102】
ブレーキキャリパ100は、車両に連結可能であり、ブレーキディスク102を跨いで配置されるように適合されたキャリパ本体109を備え、キャリパ本体109は、少なくとも1つのブレーキパッド収容ポケットを備え、収容ポケットは、少なくとも1つの凹部10を備える。パッド保持ばね2は、少なくとも案内耳111と凹部106との間に介装されている。パッド復帰ばね3連結部10は、案内耳111に結合され、ブレーキディスク102から離れる方向に付勢する。
【0103】
実施形態によれば、キャリパ本体109は、車両に固定的に連結可能な支持体101を備え、支持体101は、少なくとも1つのブレーキパッド収容ポケットを構成する。
【0104】
実施形態によれば、キャリパ本体109は、支持体101にフローティング方式で連結されたフローティング要素110を備え、フローティング要素は、ブレーキディスク102を跨いで配置され、スラスト手段によって、ブレーキパッド103を、軸方向A-Aに沿って、少なくとも1つのパッド静止位置と1つのパッド制動位置との間でブレーキディスク102に向かって直接的又は間接的に付勢するように構成されている。
【0105】
実施形態によれば、ブレーキディスク102はディスク軸を備え、軸方向A-Aはディスク軸に平行である。
【0106】
実施形態によれば、キャリパ本体109は、支持突起108を備え、L字形状部26は、支持突起108に結合され、及び/又は、支持体101は、支持突起108を備える。
【符号の説明】
【0107】
1 パッド保持ばね及びパッド復帰ばねアセンブリ
2 パッド保持ばね
3 パッド復帰ばね
4 C字状部
5 中央部
6 上部
7 下部
8 固定部
9 連結アーム
10 連結部
11 第1片持ち梁部
12 第2片持ち梁部
13 連結壁
14 連結要素
15 連結タブ
16 アーム端部
17 巻回部
18 第1曲線延伸部
19 第1直線延伸部
20 第2曲線延伸部
21 第2直線延伸部
22 第1延伸部
23 ばね自由端
24 第2延伸部
25 第3延伸部
26 L字状部
27 第1支持部
28 第2支持部
29 第1保持要素
30 第2保持要素
31 第1コイル
32 第2コイル
33 第1曲線接続部
34 第2カーブ接続
35 第3直線延伸部
36 ブリッジ状部
100 ブレーキキャリパ
101 支持体
102 ブレーキディスク
103 ブレーキパッド
104 支持プレート
105 摩擦材
106 凹部
107 耳角部
108 支持突起
109 キャリパ本体
110 フローティング要素
111 案内耳
112 耳側縁
113 後耳部表面
114 耳前面
115 耳凹部
116 放射状縁部
117 円周縁部
A-A 軸方向
R-R 径方向
C-C 周方向又は接線方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【外国語明細書】