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特開2024-58664シアリルTn抗原糖鎖に特異的に結合する一本鎖抗体、それら抗体をキメラ抗原受容体の一部として導入する方法、およびそれらキメラ抗原受容体を発現したナチュラルキラー細胞
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  • 特開-シアリルTn抗原糖鎖に特異的に結合する一本鎖抗体、それら抗体をキメラ抗原受容体の一部として導入する方法、およびそれらキメラ抗原受容体を発現したナチュラルキラー細胞 図1
  • 特開-シアリルTn抗原糖鎖に特異的に結合する一本鎖抗体、それら抗体をキメラ抗原受容体の一部として導入する方法、およびそれらキメラ抗原受容体を発現したナチュラルキラー細胞 図2
  • 特開-シアリルTn抗原糖鎖に特異的に結合する一本鎖抗体、それら抗体をキメラ抗原受容体の一部として導入する方法、およびそれらキメラ抗原受容体を発現したナチュラルキラー細胞 図3
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  • 特開-シアリルTn抗原糖鎖に特異的に結合する一本鎖抗体、それら抗体をキメラ抗原受容体の一部として導入する方法、およびそれらキメラ抗原受容体を発現したナチュラルキラー細胞 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058664
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】シアリルTn抗原糖鎖に特異的に結合する一本鎖抗体、それら抗体をキメラ抗原受容体の一部として導入する方法、およびそれらキメラ抗原受容体を発現したナチュラルキラー細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20240418BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240418BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240418BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N5/10 ZNA
C12N15/12
C07K14/705
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023177936
(22)【出願日】2023-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2022165505
(32)【優先日】2022-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 日本糖質学会「第40回日本糖質学会年会」、2021年10月15日発行
(71)【出願人】
【識別番号】307011381
【氏名又は名称】株式会社スディックスバイオテック
(72)【発明者】
【氏名】隅田 泰生
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4H045AA10
4H045BA09
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】癌は1981年から30年以上日本人の死因の第1位となっている。世界中で、種々の癌に対するマーカー分子や分子標的薬開発のための標的分子の検索が行われているが、癌特異的な蛋白質として使用できるものは限られている。そこで近年、癌特異的に発現する糖鎖が注目されている。
【解決手段】独自の糖鎖ナノテクノロジーとファージディスプレイ法を組み合わせて開発したシアリルTn抗原糖鎖に特異的に結合する一本鎖抗体の遺伝子を、キメラ抗原受容体の一部として遺伝子導入したナチュラルキラー細胞の製造を可能とした。この細胞は肝癌や膵癌などの免疫細胞療法に利用できる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアリルTn抗原糖鎖発現癌細胞に特異的に結合する一本鎖抗体を抗原認識部位として導入したキメラ抗原受容体を含む、ナチュラルキラー細胞。
【請求項2】
前記一本鎖抗体は、肝臓癌細胞または膵臓癌細胞に特異的に結合する一本鎖抗体である、請求項1に記載のナチュラルキラー細胞。
【請求項3】
請求項1の一本鎖抗体は、配列番号1から9として示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【請求項4】
前記キメラ抗原受容体は、
(a)イムノグロブリン重鎖シグナルペプチド、
(b)C末端にMyc-tagを有する、シアリルTn抗原糖鎖発現細胞の細胞表層糖鎖に特異的に結合する一本鎖抗体、
(c)CD28由来ヒンジ及び膜貫通蛋白質ドメイン、
(d)シグナル伝達のための4-1BB細胞内蛋白質ドメイン、および、
(e)シグナル伝達のためのCD3ζT細胞受容体ドメイン、
を含み、かつ、前記(a)~(e)が、N末端からC末端にかけて、この順に発現するキメラ抗原受容体である、請求項1に記載のナチュラルキラー細胞。
【請求項5】
配列番号10、11、または12として示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、キメラ抗原受容体。
【請求項6】
請求項4に記載のキメラ抗原受容体をコードする、配列番号13、14または15として示される塩基配列を有する核酸コンストラクト。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸コンストラクトをそれぞれNK-92 MI細胞に導入したCAR-NK細胞。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアリルTn抗原糖鎖に特異的に結合する一本鎖抗体の製造、抗体の遺伝子を導入したキメラ抗原受容体および当該キメラ抗原受容体を導入したナチュラルキラー細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
糖鎖は、生体内に普遍的に存在する生体分子で、糖蛋白質や糖脂質、プロテオグリカンのような複合糖質の形で存在する。細胞表層の糖鎖は、糖鎖-蛋白質間や糖鎖-糖鎖同士の相互作用を介して、細胞接着や情報伝達、ウイルスや細菌の感染などに関与し、生体内で極めて多様な生理機能を担う。
【0003】
糖鎖の構造や発現量は、炎症や疾患などの細胞内外の環境変化に応じて、動的に変化することが知られている。細胞が癌化すると、特定の糖鎖の過剰発現や欠損が起きたり、一部が欠損した不完全な構造の糖鎖が出現することがある。また、正常細胞には存在しない糖鎖構造が発現することもある。このように、癌化によって、様々な糖鎖の発現変化が起こる。したがって、癌の進行度や転移性、患者の予後などが糖鎖で予測できると期待されている。
【0004】
厚労省の統計(日本人対象)では、2021年度に1,439,856人(男:738,141人、女:701,715人)が亡くなっており、死因別では、悪性新生物<腫瘍>の死亡数は38,1505人(死亡総数に占める割合は26.5%)、死亡率(人口10万対)は310.7であった。癌は1981年から30年以上日本人の死因の第1位となっている。世界中で、種々の癌に対するマーカー分子の検索が行われているが、癌特異的な蛋白質として使用できるものは限られている。そこで近年、癌特異的に発現する糖鎖が注目されている。
【0005】
上記の特異的な糖鎖は、癌マーカーとしての利用だけでなく、分子標的薬開発のための標的分子としても利用されている。疾患特異的な糖鎖に対する分子標的薬は、新たな診断薬や医薬品の開発にも繋がることから、近年盛んに研究されている。
【0006】
一方、抗糖鎖抗体の作製においては、(i)疾患特異的な糖鎖構造の同定が非常に難しいこと、(ii)糖鎖の抗原性が低く、実験動物に免疫してハイブリドーマを得る従来の手法では抗体の作製が難しいこと、(iii)糖鎖の抗原性を向上させるために、糖脂質への誘導や抗原性の高い蛋白質との複合化などが必要なことなど、技術的に様々な課題があり、簡便且つ効率的に特異性の高い抗糖鎖抗体を作製可能な新たな手法の確立が求められている。
【0007】
一本鎖抗体(scFv)は、抗体の抗原結合部位を含む領域であるFabの重鎖(VH)と軽鎖(VL)から構成される抗体の一種であり、リンカーペプチドによりVHとVL同士がつながった構造を持つ。目的のscFvを探索・単離する有効な手法としてファージディスプレイ法があり、ウイルスの一種であるバクテリオファージ表面にscFvを提示させ、多数のライブラリーの中から特定の抗原に結合するscFv提示ファージを効率的に選別・濃縮する。得られたscFv提示ファージは、大腸菌の蛋白質発現系を用いて、可溶性のscFvを発現させることができ、産生されたscFvは、ヒスチジンタグ(Hisタグ)等のエピトープタグを用いたアフィニティー精製により、高純度に精製することが出来る。さらには、IgG抗体へと誘導出来るため、特異性の高いヒト由来抗体を作製する技術として大きな注目を集めている。
【0008】
発明者らは、効率的に疾患特異的な糖鎖に対する抗体を得る手法を確立するために、ファージライブラリー法と独自のシュガーチップ技術(特許文献1、2、非特許文献1、2)を用いて、シアリルTn抗原糖鎖に対する抗糖鎖抗体の開発を行ってきた。
【0009】
シアリルTn抗原糖鎖の構造には、シアル酸成分にN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、またはN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)を含有する2種類が見出されている。
【0010】
Neu5Ac構造を含むTn抗原(Neu5Ac-Tn)は、ヒトを含む多くの哺乳動物に発現する。正常な細胞にも発現するが、癌細胞では過剰に発現することが知られており、胃癌や卵巣癌の診断マーカーの1つとして既に臨床利用されている(非特許文献3)
【0011】
本願では、癌関連糖鎖抗原に対する抗体を開発するための標的分子として、シアリルTn(STn)抗原の一つであるNeu5Gc-Tn抗原に着目した。Neu5Gc含有STn(Neu5Gc-Tn)は、ヒトでは発現しないと考えられてきた。すなわち、Neu5Gcは、ヌクレオチド供与体であるCMP-Neu5AcをCMP-Neu5Gcに変換する水酸化酵素が作用することによって合成されるが、ヒトではCMP-Neu5Ac水酸化酵素の遺伝子が欠損しており(非特許文献4)、ヒトではNeuGcは発現しないと考えられていた。
【0012】
しかし、正常な細胞とは異なる癌細胞の代謝が原因で、経口摂取した赤身肉などからNeu5Gcが代謝的に取り込まれて、ヒトの癌細胞にNeu5Gc-Tnが発現することが示唆された(非特許文献5,6)。したがって、ヒトにおいてNeu5Gc-Tn抗原は、より癌特異性の高い抗原であると考えられる。
【0013】
そこで、N-グリコリルシアリルTn抗原糖鎖(Neu5Gcα2-6GalNAcα-)を化学合成し、スペーサーを介して独自のリンカー化合物と複合化後、金ナノ粒子を化学修飾した光ファイバーの先端に固定化して、ファイバー型シュガーチップを作製し、そのシュガーチップを用いてヒトB細胞から調製した遺伝子をM13ファージに導入したファージライブラリー(多様性:1x10)をスクリーニングしたところ、多数のscFv提示ファージが選別できた。
【0014】
先行研究において、大腸菌の蛋白質発現系を用いてファージミドからscFvを調製すると、約1ヶ月後には、細胞への結合性を観察できなくなり、構造安定性に欠けることが課題であった。そこで、scFvの安定性を改善するために、pET発現システムを用いた遺伝子組み換えにより、エピトープタグの一部であるMycエピトープタグの一部を除去した可溶性のscFvを調製した。
【0015】
この方法を、上記、段落番号0013で選別したscFv提示ファージに応用して、N-グリコリルシアリルTn抗原糖鎖やN-アセチルシアリルTn抗原糖鎖に強く結合する可溶性のscFvを9種類得ることに成功した。
【0016】
皮膚T細胞リンパ腫、未分化大細胞型リンパ腫、ホジキンリンパ腫または、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫といった膜蛋白質CCR4のmRNAを産生する悪性腫瘍に対する免疫細胞療法として、抗CCR4一本鎖抗体をキメラ抗原受容体(以下「CAR」という)の一部として担持させたT細胞(以下「CAR-T」という)が報告されている(特許文献5)。また、血液悪性腫瘍に対するCARの構成およびその使用方法として、CD2、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、およびCD52抗原に対する抗原認識ドメインを有するキメラ抗原レセプターポリペプチドを担持させたCAR-T細胞およびCAR-ナチュラルキラー(以下「NK」という)細胞が報告されている(特許文献6)。
【0017】
日本では、2019年にCAR-T細胞療法が臨床承認され、再発又は難治性B細胞性
急性リンパ芽球性白血病を対象とした治療が行われている。
【0018】
しかし、CAR-T細胞療法では、T細胞の活性化に伴うサイトカイン放出症候群や、異なるドナー由来のT細胞を用いた場合に移植対片宿主病を引き起こすことが課題である(非特許文献7、非特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特許第4802309号
【特許文献2】特許第5278992号
【特許文献3】特開2014-100116号公報
【特許文献4】特開2019-199472号公報
【特許文献5】特表2019-536469号公報
【特許文献6】特開2021-78514号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Wakao M.,et al.,Bioorg.Med.Chem. Lett.18:2499-2504(2008)
【非特許文献2】Wakao M.,et al.,Anal.Chem.17:1086-1091(2017)
【非特許文献3】最新 臨床検査項目辞典、監修:櫻林郁之介・熊坂一成、医歯薬出版株式会社、2008
【非特許文献4】Roland S.,et al.,Adv. Carbohydr. Chem. Biochem. (1982) 40, 131-234.
【非特許文献5】Vered P. K.,et al.,Cancer Res. (2011) 71(9), 3352-3363])
【非特許文献6】[Annie N. S., et al.,Front. Oncol. (2014) 4(33) 1-13
【非特許文献7】Katsuya H.,et al.,Blood.126:2570-2577(2015)
【非特許文献8】Oelsner S.,et al.,Cytotherapy. 19:235-249(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上記のような状況にあって、本発明の一実施形態は、シアリルTn抗原糖鎖発現癌細胞に対する優れた特異性を有し、かつ、安全性の高い免疫細胞を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
免疫細胞の一種であるNK細胞は、T細胞と異なり、活性化に伴う炎症性サイトカインの放出がほぼなく、炎症性サイトカインによって起こるサイトカイン放出症候群を引き起こしにくい。また、異なるドナー由来のNK細胞またはNK細胞に由来する細胞株を治療時に摂取した場合であっても、移植対片宿主病を引き起こさない。そのため、CARを導入したNK(以下「CAR-NK」という。)細胞を用いれば、CAR-T細胞療法で問題となるサイトカイン放出症候群といった副反応を誘発せずに、安全性の高い免疫細胞療法を提供することが期待できる。
【0023】
したがって、本発明の一実施形態は、シアリルTn抗原糖鎖発現癌細胞に特異的に結合する一本鎖抗体を抗原認識部位として導入したキメラ抗原受容体および当該キメラ抗原受容体を含むナチュラルキラー細胞に関する。
【0024】
また、本発明の一実施形態は、配列番号10、11または12として示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、キメラ抗原受容体に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一実施形態に係るCAR-NK細胞によれば、(I)シアリルTn抗原糖鎖発現癌細胞に特異的に結合する一本鎖抗体を抗原認識部位として導入したCARを含むため、該癌細胞に対する優れた特異性を有し、かつ、(II)前記CARが、NK細胞に導入されているため、CAR-T細胞療法で問題となる、移植対片宿主病、および、サイトカイン放出症候群といった、臓器不全や死に至ることもある副反応を誘発せずに、直接腫瘍細胞を排除できる、安全性が高いCAR-NK細胞を提供できる。このような特異性および安全性に優れる免疫細胞である、本発明の一実施形態に係るCAR-NK細胞は、癌の免疫細胞療法に好適に利用できると期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】NK-92 MI細胞に導入するCAR遺伝子の概略図の1つ(例として、scFvとしてSGTN1-10-35を用いた場合を記載)である(SFFV: spleen focus-forming virus由来プロモーター領域、 SP: CD8-leader シグナルペプチド、SGTN1-10-35: scFv、 L: リンカー部、 M: Myc-tag、 CD28h: ヒンジ領域、CD28 TM: 膜貫通蛋白質ドメイン、4-1BB: 細胞内蛋白質ドメイン、CD3ζ: T細胞受容体ドメイン、CMV: Cytomegarovirus由来プロモーター領域、EGFP: 蛍光性蛋白質)。
図2】NK-92 MI細胞に導入する9種のCAR蛋白質の概略図である(例として、scFvとしてSGTN1-10-35を用いた場合を記載)。
図3】可溶性蛋白質として製造したscFv(p-SGTN1-10-35など9種の蛋白質)の、ファイバー型シュガーチップ4種(それぞれ、糖鎖としてNeu5Gc-Tn抗原糖鎖、Neu5Ac-Tn抗原糖鎖、Neu5Acα2-6Gal-、βGalNAc-を固定化)を用いた糖鎖結合解析の結果である。
図4】可溶性蛋白質として製造したscFv(p-SGTN1-10-35、p-SGTN1-10-77、p-SGTN1-10-89)のHepG2およびPANC-1細胞の細胞膜蛋白質に対する結合活性を示した図である。
図5】SGTN1-10-35,SGTN1-10-77,SGTN1-10-89をscFv部位として組み込んだCAR-コンストラクトを293T細胞へコトランスフェクションしたときの細胞と細胞上清の緑色蛍光の有無をまとめた表である。
図6】SGTN1-10-89をscFv部位として組み込んだCAR-コンストラクトをNK-92 MI細胞にトランスフェクションしたCAR-NK-92 MI細胞およびNK-92 MI細胞のHepG2細胞に対する細胞障害活性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の一実施形態に係るNK細胞(以下、「本NK細胞」という)は、シアリルTn抗原糖鎖発現癌細胞に特異的に結合するscFvを抗原認識部位として有する)CARを含む、NK細胞である。本NK細胞は、CARを導入したNK細胞(CAR-NK)であるとも言える。
【0028】
CARは、抗原を特異的に認識する抗体の抗原認識部位とT細胞受容体(TCR)の細胞内ドメインから構成され、抗原の認識により、強力な免疫応答を誘導するため、免疫細胞療法に導入されている。
【0029】
本NK細胞は、上記のように、シアリルTn抗原糖鎖発現癌細胞に特異的に結合するscFvを抗原認識部位として導入したCARを含むため、シアリルTn抗原糖鎖発現癌細胞に対して、特異的かつ強力な免疫応答が誘導される。その結果、本NK細胞は、癌細胞に対して強い細胞傷害性を発揮できるため、癌の免疫細胞療法に好適に利用できると期待できる。
【0030】
本NK細胞が含むCARを構成するscFvは、シアリルTn抗原糖鎖発現細胞に特異的に結合できる限り特に限定されないが、癌細胞に対する特異性に優れ、健常細胞に対する細胞障害性が低いことから、シアリルTn抗原糖鎖発現細胞の細胞表層糖鎖に特異的に結合するscFvであることが好ましい。好ましくは、本NK細胞が含むCARを構成するscFvは、シアリルTn抗原糖鎖に特異的に結合する。
【0031】
シアリルTn抗原糖鎖発現細胞の細胞表層糖鎖に特異的に結合するscFvとしては、本発明者らが開発した、シアリルTn抗原の糖鎖に特異的に結合する(抗原とする)scFvを好適に利用することができる。より具体的に、本NK細胞が含むCARに導入されるscFvは、以下のいずれかであることが好ましい:
(1)配列番号1から9に示されるアミノ酸配列からなるscFv。
(2)配列番号1から9に示されるアミノ酸配列から1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつシアリルTn抗原糖鎖発現細胞表層の糖鎖に特異的に結合するscFv。
(3)配列番号1から9に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつATL細胞表層の糖鎖に特異的に結合するscFv。
(4)配列番号1から9に示される塩基配列にコードされるscFv。
(5)配列番号1から9に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドにコードされるscFvであって、かつシアリルTn抗原糖鎖発現細胞表層の糖鎖に特異的に結合するscFv。
(6)配列番号1から9に示される塩基配列と90%以上の同一性を有するポリヌクレオチドにコードされるscFvであって、かつシアリルTn抗原糖鎖発現細胞表層の糖鎖に特異的に結合するscFv。
(7)配列番号1から9に示される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列にコードされるscFvであって、かつシアリルTn抗原糖鎖発現細胞表層の糖鎖に特異的に結合するscFv。
【0032】
(1)に関して、配列番号1から9で示されるアミノ酸配列は、本発明者らによって特定後、一部改変された、シアリルTn抗原糖鎖に特異的に結合する9種類のscFvのアミノ酸配列である。配列番号1はSGTN1-10-35のアミノ酸配列に、配列番号2はSGTN1-10-77のアミノ酸配列に、配列番号3はSGTN1-10-89のアミノ酸配列に、配列番号4はSGTN1-3-8のアミノ酸配列に、配列番号5はSGTN1-3-28のアミノ酸配列に、配列番号6はSGTN1-3-55のアミノ酸配列に、配列番号7はSGTN1-3-72のアミノ酸配列に、配列番号8はSGTN1-3-77のアミノ酸配列に、配列番号9はSGTN1-3-92のアミノ酸配列に、それぞれ対応する。
【0033】
前記(2)に関して、アミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加される数の上限は、例えば、25個、20個、15個、10個、5個、3個、2個または1個でありうる。
【0034】
前記(3)に関して、アミノ酸配列の同一性は、例えば、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%である。なお、アミノ酸配列の同一性は、例えば、BLASTXを利用して決定することができる。
【0035】
前記(5)に関して、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズする」とは、6×SSCの塩濃度のハイブリダイゼーション溶液中、50~60℃にて16時間ハイブリダイゼーションを行い、0.1×SSCの塩濃度の溶液中で洗浄した後に、ハイブリダイズする条件を言う。
【0036】
前記(6)に関して、塩基配列の同一性は、例えば、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または100%である。
【0037】
前記(7)に関して、塩基が置換、欠失、挿入および/または付加される数の上限は、例えば、75個、50個、37個、25個、15個、10個、8個、5個、3個、2個または1個でありうる。
【0038】
本発明の一実施形態において、シアリルTn抗原糖鎖発現細胞特異的な結合性を有するscFvを抗原認識部位に有するCARを導入するNK細胞としては、特に限定されず、患者由来NK細胞、または、NK細胞の細胞株である、NK-92 MI細胞、NK-92細胞、もしくは、KHYG-1細胞などにも導入可能である。中でも、安定して安価に培養が可能であることから、NK細胞としては、細胞株を使用することが好ましい。
【0039】
本発明の一実施形態において、CAR遺伝子をNK細胞に導入する方法は特に限定されないが、例えば、非増殖性ウイルスベクター(レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクターなど)、増殖性ウイルスベクター(腫瘍溶解性ウイルスベクターなど)、非ウイルスベクター(プラスミド、Naked DNAを内包するリポソームなど)、または、バクテリアベクター等のCAR遺伝子を有する各種のベクターを用いて導入することができる。
【0040】
以下、本発明の一実施形態に係るCAR(「本CAR」ともいう)および本NK細胞の一例について、図1および図2を用いてより具体的に説明するが、本CARおよび本NK細胞は、係る態様に限定されるものではない。
【0041】
図1は、設計した、CARコンストラクト遺伝子の概略図を、scFvがSGTN1-10-35である場合について示すものであり、図2は発現するCAR蛋白質の概略図である。
【0042】
設計したCARコンストラクトは、イムノグロブリン重鎖シグナルペプチド-抗原認識部位(scFv)-リンカー部-ヒンジ領域-膜貫通蛋白質ドメイン-細胞内蛋白質ドメイン-T細胞受容体ドメインから構成される。イムノグロブリン重鎖シグナルペプチドは、細胞内で発現したCARを細胞表層に輸送するシグナルペプチドであり、例えば、CD8-leader蛋白質を用いることができる。
【0043】
抗原認識部位には、シアリルTn抗原糖鎖発現細胞に特異的に結合する一本鎖抗体を、好ましくは、本発明者らが開発した、N-グリコリルシアリルTn抗原糖鎖を抗原とするscFv(SGTN1-10-35(配列番号1)、SGTN1-10-77(配列番号2)、SGTN1-10-89(配列番号3)、SGTN1-3-8(配列番号4)、SGTN1-3-28(配列番号5)、SGTN1-3-55(配列番号6)、SGTN1-3-72(配列番号7)、SGTN1-3-77(配列番号8)、SGTN1-3-92(配列番号9))の一部を用いることができる。また、このscFv領域には、CARの検出を容易にするため、エピトープタグの一つであるMyc-tagを連結させてもよい。
【0044】
MAQVQLVQSGVEVKKAGESLKISCKGSGYSFTSHWIGWVRQMPGKGLEWMGIMHPRDSDTIYSPSFQGQVSISADKSISTAYLQWSSLKASDTAMYYCARLYWYGSGKRFFDYWGQGTLVTVSSGGGGSGGGGSGSTGSNIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASESIGDYLNWYQQRPGKAPKLLIYGASVLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTITNLQPEDFATYYCQQTSITPPYTFGPRTKVDIKAAALEHHHHHH(配列番号1)
【0045】
MAQVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTSYAMHWVRQAPGQRLEWMGWINAGNGNTKYSQKFQGRVTITRDTSASTAYMELSSLRSEDTAVYYCARGHLGAAAGENDYWGQGTLVTVSSGGGGSGGGGSGSTGSAIQMTQSPSSVSASVGDRVTITCRASQGISSWLAWYQQKPGKAPKLLIYAASSLQSGVPSRFSGADFGTEFTLTISGLQPEDFATYYCQQLSTFPFTFGPGTKVDIKAAALEHHHHHH(配列番号2)
【0046】
MAQVQLQESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFNRYPMTWVRQAPGKGLEWVSAISGSGGSTYYSDSVKGRFTISRDNSKNTMYLQMNSLRAEDTAVYYCAKDLFQGLPYFHYYGMDVWGPGTMVTVSSGGGGSGGGGSGSTGSDIQLTQSPSTLSGSVGDRVTITCRASQSISSWLAWYQQKPGKAPKVLIYKASTLEDGVPSRFSGSGSGTEFTLTISSLQPDDFATYYCQQYNSYPYTFGQGTKLEIKAAALEHHHHHH(配列番号3)
【0047】
MAEVQLLESGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTGQYIHWVRQAPGQGLEWMGRINPNSGGTNYAQKFQGRVALTRDTSISTAYMELSSLRSDDTAVYYCARVWGSGGMDVWGQGTLVTVSSGGGGSGGGGSGSTGSAIQMTQSPSYVSASVGDSVTITCRARQDIKNWLAWYQQKPGKAPKLLIYAASSVQIGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYFCQQGNNFPYTFGQGTRLEIKAAAHHHHHH(配列番号4)
【0048】
MAQVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTSYYMHWVRQAPGQGLEWMGIINPSGGSTSYAQKFQGRVTMTRDTSTSTVYMELSSLRSEDTAVYYCARDGAFWSGYMDVWGKGTMVTVSSGGGGSGGGGSGSTGSDIQLTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQGVSSRLAWYQQKPGKAPKLLIYSAYSLQSGVPSRFSGSGSGADFTLTISSLQPEDFATYYCQQANSFPPTFGQGTKVDIKAAAHHHHHH(配列番号5)
【0049】
MAQMQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTGYYMHWVRQAPGQGLEWMGRINPNSGGTNYAQKFQGRVTMTRDTSISTAYMELSRLRSDDTAVYYCARSGNSEWDFDLWGRGTLVTVSSGGGGSGGGGSGSTGSEIVMTQSPATLSVSPGERATLSCRASQSINNNLAWYQQKPGQAPRLLIYDASTRASSVPARFSGSGSGTEFTLTVSSLQSEDFAVYYCQQYNNWPPRFTFGPGTKVDIKAAAHHHHHH(配列番号6)
【0050】
MAQLQLQESGPGLVKPSQTLSLTCTVSGGSISSDGYYWSWIRQHPGKGLEWIGYIYYSGNTYYNPSLRSRVSMSVDTSKNQFSLKLNSVTDADTAVYYCARLIYLDPEYYFDYWGQGTLVTVSSGGGGSGGGGSGSTGSDIQMTQSPSSLAASVGDRVTITCRASQSISSYLNWYQQKPGKAPKLLIYSASTLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFGTYYCQQANGFPRGLAFGGGTKVEIKAAAHHHHHH(配列番号7)
【0051】
MAQMQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTAYYIHWVRQAPGQGLEWMGWINPNSGGTDYAQKFQGRVTMTRDTSIATAYMELSSLRSDDSDVYYCAKIRSRNFNDAGGAFDIWGQGTMVTVSSGGGGSGGGGSGSTGSEIVLTQSPATLSLSPGDRAALSCRASQSVRNNYVAWYQRKPGRAPXLLIYGASSRATGIPDRFSGSGSGTEFTLTISRLEPEDFAVYYCQQYATSPLTFGGGTKVEIKAAAHHHHHH(配列番号8)
【0052】
MAQVQLQESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFNRYPMTWVRQAPGKGLEWVSAISGSGGSTYYSDSVKGRFTISRDNSKNTMYLQMNSLRAEDTAVYYCAKDLFQGLPYFHYYGMDVWGPGTMVTVSSGGGGSGGGGSGSTGSDIQLTQSPSTLSGSVGDRVTITCRASQSISSWLAWYQQKPGKAPKVLIYKASTLEDGVPSRFSGSGSGTEFTLTISSLQPDDFATYYCQQYNSYPYTFGQGTKLEIKAAAHHHHHH(配列番号9)
【0053】
ヒンジ領域、膜貫通蛋白質ドメインにはCD28蛋白質を用いることができ、膜貫通蛋白質ドメインには4-1BBシグナル伝達蛋白質を用いることができる。また、T細胞受容体ドメインには、CD3ζ蛋白質を用いることができる。また、設計したCARは、SFFV(spleen focus-forming virus)プロモーターを転写開始領域にもつ。
【0054】
本発明の一実施形態に係るキメラ抗原受容体としては、以下の配列番号10、11または12に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むキメラ抗原受容体を好適に使用することができる。すなわち、本発明の一実施形態において、以下の配列番号10、11または12に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むキメラ抗原受容体を提供する。
【0055】
MALPVTALLLPLALLLHAARPGSMAQVQLVQSGVEVKKAGESLKISCKGSGYSFTSHWIGWVRQMPGKGLEWMGIMHPRDSDTIYSPSFQGQVSISADKSISTAYLQWSSLKASDTAMYYCARLYWYGSGKRFFDYWGQGTLVTVSSGGGGSGGGGSGSTGSNIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASESIGDYLNWYQQRPGKAPKLLIYGASVLQSGVPSRFSGSGSGTDFTLTITNLQPEDFATYYCQQTSITPPYTFGPRTKVDIKAAATGEQKLISEEDLIEVMYPPPYLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKPFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVKRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCELRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR(配列番号10)
【0056】
(a)1~21位の配列は、イムノグロブリン重鎖シグナルペプチドである、CD8-Leaderのアミノ酸配列に対応し、22~23位の配列はリンカー部に対応し、(b)24~270位の配列は、シアリルTn抗原糖鎖に特異的な結合性を有するscFv(SGTN1-10-35)のアミノ酸配列に対応し、271~275位の配列はリンカー部に対応し、276~285位の配列は、Myc-tagのアミノ酸配列に対応し、(c)286~325位の配列は、CD28由来のヒンジのアミノ酸配列に、326~352位の配列は、CD28由来膜貫通蛋白質ドメインのアミノ酸配列にそれぞれ対応し、(d)353~394位の配列は、4-1BB細胞内シグナル伝達ドメインのアミノ酸配列に対応し、(e)395~505位の配列は、CD3ζ T細胞受容体ドメインのアミノ酸配列に対応する。
【0057】
MALPVTALLLPLALLLHAARPGSMAQVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTSYAMHWVRQAPGQRLEWMGWINAGNGNTKYSQKFQGRVTITRDTSASTAYMELSSLRSEDTAVYYCARGHLGAAAGENDYWGQGTLVTVSSGGGGSGGGGSGSTGSAIQMTQSPSSVSASVGDRVTITCRASQGISSWLAWYQQKPGKAPKLLIYAASSLQSGVPSRFSGADFGTEFTLTISGLQPEDFATYYCQQLSTFPFTFGPGTKVDIKAAATGEQKLISEEDLIEVMYPPPYLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKPFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVKRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCELRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR(配列番号11)。
【0058】
配列番号11で示される配列中、(a)1~21位の配列は、イムノグロブリン重鎖シグナルペプチドである、CD8-Leaderのアミノ酸配列に対応し、22~23位の配列はリンカー部に対応し、(b)24~268位の配列は、シアリルTn抗原糖鎖に特異的な結合性を有するscFv(SGTN1-10-77)のアミノ酸配列に対応し、269~273位の配列はリンカー部に対応し、274~283位の配列は、Myc-tagのアミノ酸配列に対応し、(c)284~323位の配列は、CD28由来のヒンジのアミノ酸配列に、324~350位の配列は、CD28由来膜貫通蛋白質ドメインのアミノ酸配列にそれぞれ対応し、(d)351~392位の配列は、4-1BB細胞内シグナル伝達ドメインのアミノ酸配列に対応し、(e)393~503位の配列は、CD3ζ T細胞受容体ドメインのアミノ酸配列に対応する。
【0059】
MALPVTALLLPLALLLHAARPGSMAQVQLQESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFNRYPMTWVRQAPGKGLEWVSAISGSGGSTYYSDSVKGRFTISRDNSKNTMYLQMNSLRAEDTAVYYCAKDLFQGLPYFHYYGMDVWGPGTMVTVSSGGGGSGGGGSGSTGSDIQLTQSPSTLSGSVGDRVTITCRASQSISSWLAWYQQKPGKAPKVLIYKASTLEDGVPSRFSGSGSGTEFTLTISSLQPDDFATYYCQQYNSYPYTFGQGTKLEIKAAATGEQKLISEEDLIEVMYPPPYLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKPFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVKRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCELRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR(配列番号12)。
【0060】
配列番号12で示される配列中、(a)1~21位の配列は、イムノグロブリン重鎖シグナルペプチドである、CD8-Leaderのアミノ酸配列に対応し、22~23位の配列はリンカー部に対応し、(b)24~272位の配列は、シアリルTn抗原糖鎖に特異的な結合性を有するscFv(SGTN1-10-89)のアミノ酸配列に対応し、273~277位の配列はリンカー部に対応し、278~287位の配列は、Myc-tagのアミノ酸配列に対応し、(c)288~327位の配列は、CD28由来のヒンジのアミノ酸配列に、328~354位の配列は、CD28由来膜貫通蛋白質ドメインのアミノ酸配列にそれぞれ対応し、(d)355~396位の配列は、4-1BB細胞内シグナル伝達ドメインのアミノ酸配列に対応し、(e)397~507位の配列は、CD3ζ T細胞受容体ドメインのアミノ酸配列に対応する。
【0061】
本発明の一実施形態に係るキメラ抗原受容体としては、以下の配列番号10、11または12に示される塩基配列によりコードされるポリペプチドを含むキメラ抗原受容体を好適に使用することができる。すなわち、本発明の一実施形態において、本キメラ抗原受容体をコードする、以下の配列番号13、14または15に示される塩基配列を有する核酸コンストラクトを提供する。核酸コンストラクトとしては、タンパク質発現に用いられるものであればよく、DNAまたはRNAが含まれる。
【0062】
ATGGCCTTACCAGTGACCGCCTTGCTCCTGCCGCTGGCCTTGCTGCTCCACGCCGCCAGGCCGGGATCCATGGCTCAGGTGCAGCTGGTGCAGTCTGGAGTAGAGGTGAAAAAGGCCGGGGAGTCTCTGAAGATCTCTTGTAAGGGTTCTGGATACAGCTTTACTAGCCACTGGATCGGCTGGGTGCGCCAGATGCCCGGGAAAGGCCTGGAGTGGATGGGGATCATGCATCCTCGTGACTCTGATACCATATACAGTCCGTCCTTCCAAGGCCAGGTCAGCATTTCAGCCGACAAGTCCATCAGCACCGCCTACCTGCAATGGAGCAGCCTGAAGGCCTCGGACACCGCCATGTATTACTGTGCGAGACTATATTGGTATGGTTCGGGGAAGAGGTTCTTTGACTACTGGGGCCAGGGAACCCTGGTCACCGTCTCGAGTGGTGGAGGCGGTTCAGGCGGAGGTGGCTCTGGGTCGACGGGATCGAACATCCAGATGACCCAGTCTCCATCCTCCCTGTCTGCATCTGTGGGAGACAGAGTCACCATCACTTGTCGGGCAAGTGAGAGCATTGGCGACTACTTAAATTGGTATCAGCAGAGACCAGGGAAAGCCCCTAAGCTCCTGATCTATGGTGCATCCGTTTTGCAAAGTGGGGTCCCATCAAGGTTCAGTGGCAGTGGATCTGGGACAGATTTCACTCTCACCATCACCAATCTTCAACCTGAAGATTTTGCAACTTACTACTGTCAACAGACTTCCATTACCCCCCCGTACACTTTTGGCCAGGGGACCAAAGTGGATATCAAAGCGGCCGCGACCGGTGAACAAAAACTCATCTCAGAAGAGGATCTGATTGAAGTTATGTATCCTCCTCCTTACCTAGACATGAGAAGAGCAATGGAACCATTATCCAGTGAAAGGGAAACACCTTTGTCCAAGTCCCTATTTCCCGGACCTTCTAGCCTTTGGGTGCTGGTGGTGGTTGGTGGAGTCCTGGCTTGCTATAGCTTGCTAGTAACAGTGGCCTTTATTATTTTCTGGGTGAAACGGGGCAGAAAGAAACTCCTGTATATATTCAAACAACCATTTATGAGACCAGTACAAACTACTCAAGAGGAAGATGGCTGTAGCTGCCGATTTCCAGAAGAAGAAGAAGGAGGATGTGAACTGAGAGTGAAGTTCAGCAGGAGCGCAGACGCCCCCGCGTACCAGCAGGGCCAGAACCAGCTCTATAACGAGCTCAATCTAGGACGAAGAGAGGAGTACGATGTTTTGGACAAGAGACGTGGCCGGGACCCTGAGATGGGGGGAAAGCCGAGAAGGAAGAACCCTCAGGAAGGCCTGTACAATGAACTGCAGAAAGATAAGATGGCGGAGGCCTACAGTGAGATTGGGATGAAAGGCGAGCGCCGGAGGGGCAAGGGGCACGATGGCCTTTACCAGGGTCTCAGTACAGCCACCAAGGACACCTACGACGCCCTTCACATGCAGGCCCTGCCCCCTCGCTAA(配列番号13)。
【0063】
配列番号13で示される配列中、(a’)1~63位の配列は、CD8-Leaderを含むアミノ酸配列をコードする塩基配列に、64~69位の配列は、リンカーのアミノ酸配列をコードする塩基配列にそれぞれ対応し、(b’)70~810位の配列は、シアリルTn抗原糖鎖に特異的な結合性を有するscFv(SGTN1-10-35)に含まれるアミノ酸配列をコードする塩基配列に、811~825位の配列はリンカー部に対応し、826~855位の配列は、Myc-tagを含むアミノ酸配列をコードする塩基配列にそれぞれ対応し、(c’)856~975位の配列は、CD28由来ヒンジのアミノ酸配列をコードする塩基配列に、976~1056位の配列は、CD28由来膜貫通蛋白質ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列にそれぞれ対応し、(d’)1057~1182位の配列は、4-1BB細胞内シグナル伝達ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列に対応し、(e’)1183~1515位の配列は、CD3ζ T細胞受容体ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列に対応する。
【0064】
ATGGCCTTACCAGTGACCGCCTTGCTCCTGCCGCTGGCCTTGCTGCTCCACGCCGCCAGGCCGGGATCCATGGCTCAGGTCCAGCTTGTGCAGTCTGGGGCTGAGGTGAAGAAGCCTGGGGCCTCAGTGAAGGTTTCCTGCAAGGCTTCTGGATACACCTTCACTAGCTATGCTATGCATTGGGTGCGCCAGGCCCCCGGACAAAGGCTTGAGTGGATGGGATGGATCAACGCTGGCAATGGTAACACAAAATATTCACAGAAGTTCCAGGGCAGAGTCACCATTACCAGGGACACATCCGCGAGCACAGCCTACATGGAGCTGAGCAGCCTGAGATCTGAAGACACGGCTGTGTATTACTGTGCGAGAGGCCATTTAGGGGCAGCAGCTGGCGAGAATGACTACTGGGGCCAGGGAACCCTGGTCACCGTCTCGAGTGGTGGAGGCGGTTCAGGCGGAGGTGGCTCTGGGTCGACGGGATCGGCCATCCAGATGACCCAGTCTCCATCTTCCGTGTCTGCATCTGTAGGAGACAGAGTCACCATCACTTGTCGGGCGAGTCAGGGTATTAGCAGCTGGTTAGCCTGGTATCAGCAGAAACCAGGGAAAGCCCCTAAGCTCCTGATCTATGCTGCATCCAGTTTGCAAAGTGGGGTCCCATCAAGATTCAGCGGCGCTGATTTTGGGACAGAATTCACTCTCACCATCAGCGGCCTGCAGCCTGAAGATTTTGCGACTTATTACTGCCAGCAATTGAGTACTTTCCCATTCACTTTCGGCCCTGGGACCAAAGTGGATATCAAAGCGGCCGCGACCGGTGAACAAAAACTCATCTCAGAAGAGGATCTGATTGAAGTTATGTATCCTCCTCCTTACCTAGACAATGAGAAGAGCAATGGAACCATTATCCATTGAAAGGGAAACACCTTTGTCCAAGTCCCCTATTTCCCGGACCTTCTAAGCCCTTTGGTGCTGGTGGTGGTTGGTGGAGTCCTGGCTTGCTATAGCTTGCTAGTAACAGTGGCCTTTATTATTTTCTGGGTGAAACGGGGCAGAAAGAAACTCCTGTATATATTCAAACAACCATTTATGAGACCAGTACAAACTACTCAAGAGGAAGATGGCTGTAGCTGCCGATTTCCAGAAGAAGAAGAAGGAGGATGTGAACTGAGAGTGAAGTTCAGCAGGAGCGCAGACGCCCCCGCGTACCAGCAGGGCCAGAACCAGCTCTATAACGAGCTCAATCTAGGACGAAGAGAGGAGTACGATGTTTTGGACAAGAGACGTGGCCGGGACCCTGAGATGGGGGGAAAGCCGAGAAGGAAGAACCCTCAGGAAGGCCTGTACAATGAACTGCAGAAAGATAAGATGGCGGAGGCCTACAGTGAGATTGGGATGAAAGGCGAGCGCCGGAGGGGCAAGGGGCACGATGGCCTTTACCAGGGTCTCAGTACAGCCACCAAGGACACCTACGACGCCCTTCACATGCAGGCCCTGCCCCCTCGCTAA(配列番号14)。
【0065】
配列番号14で示される配列中、(a’)1~63位の配列は、CD8-Leaderを含むアミノ酸配列をコードする塩基配列に、64~69位の配列は、リンカーのアミノ酸配列をコードする塩基配列にそれぞれ対応し、(b’)70~804位の配列は、シアリルTn抗原糖鎖に特異的な結合性を有するscFv(SGTN1-10-77)に含まれるアミノ酸配列をコードする塩基配列に、805~819位の配列はリンカー部に対応し、820~849位の配列は、Myc-tagを含むアミノ酸配列をコードする塩基配列にそれぞれ対応し、(c’)850~969位の配列は、CD28由来ヒンジのアミノ酸配列をコードする塩基配列に、970~1050位の配列は、CD28由来膜貫通蛋白質ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列にそれぞれ対応し、(d’)1051~1176位の配列は、4-1BB細胞内シグナル伝達ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列に対応し、(e’)1177~1509位の配列は、CD3ζ T細胞受容体ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列に対応する。
【0066】
ATGGCCTTACCAGTGACCGCCTTGCTCCTGCCGCTGGCCTTGCTGCTCCACGCCGCCAGGCCGGGATCCATGGCCGAGGTGCAGCTGTTGCAGTCTGGGGGAGGCTTGGTACAGCCTGGCAGGTCTCTGAGACTCTCCTGTGCAGCCTCTGGATTCACCTTTGATGATTATGCCATGCACTGGGTCCGGCAAGCTCCAGGGAAGGGCCTGGAGTGGGTCTCAGGTATTAGTTGGAATGGTGGTAACATAGACTATGCGGACTCTGTGAGGGGCCGATTCACCATCTCCAGAGACAACGCCAAGAACTCCCTCTATCTGCAAATGGACAGTCTGAGAGCTGAGGACACGGCCTTGTATTACTGTGCAAAAGCCCCCGGAATGCTTATCTACTACTCCTACATGGACGTCTGGGGCAAAGGGACAATGGTCACCGTCTCTTCAGGTGGAGGCGGTTCAGGCGGAGGTGGCTCTGGCGGTGGCGGATCGCAGCCTGTGCTGACTCAGCCCCCCTCGGTGTCAGTGTCCCCAGGACAGACGGCCAGGATCACCTGCTCTGGAGATCGATTGCCAAGACAATATGTTTATTGGTACCAACAGAAGCCAGGCCAGGCCCCTGTTTTACTAATATATAAGGATATTGAGAGGCCCTCAGGAATTCCTGAGCGATTCTCCGGCTCCACTTCAGGGACAACAGTCACGTTGACCATCAATGGAGTCCAGGCGGAAGACGAGGCTGACTATTCCTGTCAATCAGCGGACAGTATAAACTTATCCGGTGTTCGGCGGGGGACCAAGGTCACCGTCCTAGGTGCGGCGCAGGCGGAACCGGTGAACAAAAACTCATCTCAGAGAGGATCTGATTGAAGTATGTATCCTCCTCCTTACCTAGACAATGAGAAGAGCAATGGAACCATTATCCATGTGAAAGGGAAACACCTTTGTCCAAGTCCCCTATTTCCCGGACCTTCTAAGCCCTTTTGGGTGCTGGTGGTGGTTGGTGGAGTCCTGGCTTGCTATAGCTTGCTAGTAACAGTGGCCTTTATTATTTTCTGGGTGAAACGGGGCAGAAAGAAACTCCTGTATATATTCAAACAACCATTTATGAGACCAGTACAAACTACTCAAGAGGAAGATGGCTGTAGCTGCCGATTTCCAGAAGAAGAAGAAGGAGGATGTGAACTGAGAGTGAAGTTCAGCAGGAGCGCAGACGCCCCCGCGTACCAGCAGGGCCAGAACCAGCTCTATAACGAGCTCAATCTAGGACGAAGAGAGGAGTACGATGTTTTGGACAAGAGACGTGGCCGGGACCCTGAGATGGGGGGAAAGCCGAGAAGGAAGAACCCTCAGGAAGGCCTGTACAATGAACTGCAGAAAGATAAGATGGCGGAGGCCTACAGTGAGATTGGGATGAAAGGCGAGCGCCGGAGGGGCAAGGGGCACGATGGCCTTTACCAGGGTCTCAGTACAGCCACCAAGGACACCTACGACGCCCTTCACATGCAGGCCCTGCCCCCTCGCTAA(配列番号15)。
【0067】
配列番号15で示される配列中、(a’)1~63位の配列は、CD8-Leaderを含むアミノ酸配列をコードする塩基配列に、64~69位の配列は、リンカーのアミノ酸配列をコードする塩基配列にそれぞれ対応し、(b’)70~816位の配列は、シアリルTn抗原糖鎖に特異的な結合性を有するscFv(SGTN1-10-89)に含まれるアミノ酸配列をコードする塩基配列に、817~831位の配列はリンカー部に対応し、832~861位の配列は、Myc-tagを含むアミノ酸配列をコードする塩基配列にそれぞれ対応し、(c’)862~981位の配列は、CD28由来ヒンジのアミノ酸配列をコードする塩基配列に、982~1062位の配列は、CD28由来膜貫通蛋白質ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列にそれぞれ対応し、(d’)1063~1188位の配列は、4-1BB細胞内シグナル伝達ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列に対応し、(e’)1189~1521位の配列は、CD3ζ T細胞受容体ドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列に対応する。
【0068】
CARコンストラクト遺伝子の組み込まれたレンチウイルスベクターは、CAR遺伝子とは別に、蛍光性蛋白質であるEGFP(enhanced green fluorescence protein)を発現する遺伝子も有していてもよい。EGFPは、CMV(cytomegarovirus)プロモーターを転写開始領域にもつ。EGFP遺伝子を有する場合、CAR遺伝子導入細胞は、EGFP遺伝子も共に遺伝子導入されるため、EGFPの発現による蛍光の有無から、CARの導入が予測可能となる。
【0069】
NK-92 MI細胞へのCAR遺伝子の導入は、本発明者らが開発したシアリルTn抗原糖鎖に特異的な結合性するscFvをCARの抗原認識部位として遺伝子的に組み込んだレンチウイルスベクターを用いることが好ましい。レンチウイルスベクターをパッケージングしたリコンビナントレンチウイルスを用いることで、ウイルスの感染を介したNK-92 MI細胞内へのCAR遺伝子の輸送と、NK-92 MI細胞遺伝子へのCAR遺伝子の導入を達成することができる。
【0070】
CAR遺伝子の導入に際しては、例えば、1×10個のNK-92 MI細胞に3×10 TUのレンチウイルスを接種させることでウイルスを感染させることができる。また、レンチウイルスを播種したNK-92 MI細胞は、例えば、MEMα培地(12.5% ウシ胎児血清,1%ペニシリンストレプトマイシン含有)を用い、37℃、5%二酸化炭素ガス雰囲気下で培養することができる。
【0071】
レンチウイルスベクターとして、CARとは別に、蛍光性蛋白質であるEGFPも発現する遺伝子を有するレンチウイルスベクターを用いる場合、CAR遺伝子導入NK-92 MI細胞は、EGFPをCARと共に発現する。そのため、CAR導入細胞は、EGFPの蛍光を指標にセルソーターで分離することができる。分離した細胞は、例えば、MEMα培地(12.5% ウシ胎児血清,1% ペニシリンストレプトマイシン含有)を用いて、37℃、5%二酸化炭素ガス雰囲気下で培養することで、高発現率のCAR-NK-92 MI 細胞を得ることができる。
【0072】
CAR-NK-92 MI 細胞の細胞傷害性は、例えば、肝癌患者の肝臓細胞から樹
立したHepG2細胞や、膵臓癌細胞から樹立されたPANC-1細胞とCAR-NK-92 MI 細胞を共培養し、フローサイトメトリー解析や顕微鏡観察等により評価することができる。
【0073】
本発明者らが開発した、肝臓癌細胞から樹立されたHepG2細胞や膵臓癌細胞樹立されたPANC-1細胞に結合するが、ATL患者のT細胞から樹立したS1T細胞やMOLT4細胞など非ATLリンパ球癌細胞には結合しないscFv(SGTN1-10-35,SGTN1-10-77,SGTN1-10-89,SGTN1-3-8,SGTN1-3-28、SGTN1-3-55、SGTN1-3-72、SGTN1-3-77、SGTN1-3-92)は、糖鎖ナノテクノロジーとファージディスプレイ法、さらに遺伝子工学を組み合わせて確立することができる。
【0074】
本発明には、以下の態様が含まれる。
〈1〉シアリルTn抗原糖鎖発現細胞に特異的に結合する一本鎖抗体を抗原認識部位として導入したキメラ抗原受容体を含む、ナチュラルキラー細胞。
〈2〉前記一本鎖抗体は、配列番号1から9として示されるシアリルTn抗原糖鎖に特異的に結合する一本鎖抗体である、〈1〉に記載のナチュラルキラー細胞。
〈3〉前記キメラ抗原受容体は、
(a)イムノグロブリン重鎖シグナルペプチド、
(b)C末端にMyc-tagを有する、シアリルTn抗原糖鎖に特異的に結合する一本鎖抗体、
(c)CD28由来ヒンジ及び膜貫通蛋白質ドメイン、
(d)シグナル伝達のための4-1BB細胞内蛋白質ドメイン、および、
(e)シグナル伝達のためのCD3ζT細胞受容体ドメイン、
を含み、かつ、前記(a)~(e)が、N末端からC末端にかけて、この順に発現するキメラ抗原受容体である、〈1〉に記載のナチュラルキラー細胞。
〈4〉配列番号10,11または12として示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、キメラ抗原受容体。
〈5〉〈4〉に記載のキメラ抗原受容体をコードする、配列番号13、14または15として示される塩基配列。また、本発明には、以下の態様も含まれる。
〈1’〉癌細胞への細胞傷害性を増強し、低副反応性を特徴とするシアリルTn抗原発現癌細胞に特異的に結合する一本鎖抗体をCARの抗原認識部位として導入したNK細胞。
〈2’〉癌細胞の細胞表層糖鎖に対する一本鎖抗体をCARの抗原認識部位として導入することを特徴とする〈1’〉に記載のシアリルTn抗原糖鎖に特異的に結合する一本鎖抗体をCARの抗原認識部位として導入したNK細胞。
〈3’〉(a)イムノグロブリン重鎖シグナルペプチド
(b)請求項1に記載の成人T細胞白血病細胞の細胞表層糖鎖に対する一本鎖抗体であって、C末端にMyc-tagを有する一本鎖抗体
(c)CD28由来ヒンジ及び膜貫通蛋白質ドメイン
(d)シグナル伝達のための4-1BB細胞内蛋白質ドメイン
(e)シグナル伝達のためのCD3ζT細胞受容体ドメイン
を含むキメラ抗原受容体であり、(a)~(e)が、N末端からC末端の順に発現するCAR。
〈4’〉配列番号10として示されるアミノ酸配列を含む〈3’〉に記載のCAR。
〈5’〉配列番号13として示される〈3’〉に記載のCARを発現させる塩基配列。
【0075】
図2に示す構造を有する配列番号10.11,および12で示されるポリペプチド(SGTN1-10-35、SGTN1-10-77,SGTN1-10-89)を含むCARをコードする、配列番号13、14、および15で示される塩基配列を含む遺伝子(CAR遺伝子)を、レンチウイルスベクターを用いてヒト腎臓由来の293T細胞に導入した。なお、前記レンチウイルスベクターは、CARとは別に、蛍光性蛋白質であるEGFPも発現する遺伝子を有していた。遺伝子導入率の高い細胞を、CARとは別に細胞内で発現する蛍光性蛋白質の蛍光強度を指標に、セルソーターで分離・回収することで、scFv(SGTN1-10-35、SGTN1-10-77,SGTN1-10-89)を含むCAR遺伝子を導入した293T細胞を得た。なお、この際陰性対照として、シアリルTn抗原に結合しないscFvの遺伝子(SGTN1-10-36)を導入したCAR遺伝子、また陽性対照として先行特許文献(特願2022-128961)に記載のATL細胞に特異的に結合するscFvの遺伝子(S1TSCFR3-1)もそれぞれ293T細胞に導入した。
【0076】
図示のように、CAR遺伝子を導入した293T細胞は、いずれもEGFPによる緑色蛍光が観測された。またCAR遺伝子を加えないHEK293細胞は緑色蛍光は観測されなかった。これらから、HEK293細胞に、それぞれのCAR遺伝子を導入できたことを示している。緑色蛍光が観測された細胞上清には、CAR遺伝子が組み込まれた高濃度のレンチウイルスベクターが存在するため、これをNK-92 MI細胞に、同様な方法で導入してシアリルTn抗原糖鎖に結合するCARを有するCAR-NK-92 MI細胞を製造することができる。
【実施例0077】
〔実施例1〕
実施例1ではscFvの糖鎖結合性について検討した。
【0078】
9種類のscFvのシアル酸含有糖鎖に対する結合特異性をファイバー型シュガーチップを用いて評価した。ファイバー型シュガーチップにはNeu5Gcα2-6GalNAcα-(Neu5Gc-Tn-chip)、Neu5Acα2-6GalNAcα-(Neu5Ac-Tn-chip)、Neu5Acα2-6Gal-chip、αGalNAc-chipの4種類をそれぞれ固定化したものを用いた。
【0079】
LPRセンサーでシグナルをモニタリングしながら、ファイバー型シュガーチップ先端をPBS-T(500μL)に浸漬し、100秒間撹拌した。次いで、ファイバー型シュガーチップ先端を2μMのscFv溶液(500μL)に浸漬し、200秒間攪拌してscFvの結合と乖離を観測、その後PBS-T(500μL)に浸漬し100秒間攪拌してscFvの乖離を観測した。
【0080】
観測結果を図3に示す。各々のscFv(可溶性蛋白質であることを明確にするため、”p-”を付記している)は、それぞれ異なる強度で2つのシアリルTn抗原糖鎖に結合した。一方、シアリルTn抗原糖鎖とは異なるシアル酸含有糖鎖の結合強度は高いものではなかった。
【0081】
〔実施例2〕
HepG2細胞またはPANC-1細胞の細胞膜画分、に対するscFvの結合活性について検討した。実験の具体的な手順は、以下の通りであった。
1.細胞膜蛋白質の抽出を以下の様におこなった。すなわち、それぞれ培養後、-80℃に保存されていたHepG2細胞またはPANC-1細胞を3℃℃に加温したPBS(5mL)に加えて融解後、遠心分離(1,200rpm、5分、室温)して細胞沈殿物を回収した。沈殿に再度PBS(9mL)を加えて懸濁後、遠心分離(1,200rpm、5分、室温)し、上清を除去する操作(洗浄)を2回行った。得られた細胞沈殿物にHEPES buffer(20mM、1mL)を加え、氷冷しながらホモジナイザー(5分)と超音波照射(10分)を用いて細胞を破砕した。懸濁液をエッペンチューブに移し、超遠心分離(40,000rpm、60分、4℃)して、細胞膜画分を含む沈殿物を回収した。この沈殿に1%Triron X-100水溶液(1mL)を加えて撹拌後、室温で30分間静置した。氷冷しながら超音波照射(20分)して沈殿を分散後、超遠心分離(40,000rpm、60分、4℃)して、可溶性膜画分を含む上清を回収した。上清を凍結乾燥後、凍結乾燥物を水(1mL)に溶解して、ミクロチューブに移した。攪拌しながら、メタノール(400μL)、クロロホルム(100μL)、純水(400μL)を加え、遠心分離(13,000×g、1分、室温)した。水層を除去後、有機層にメタノール(400μL)を加えて撹拌した。遠心分離(1,3000×g、1分、室温)後に得られた沈殿物に、アルゴンガスを吹き付けて乾燥後、PBS-T(500μL)に溶解して細胞膜蛋白質溶液を得た。
2.細胞膜蛋白質を用いたELISAを以下の様に行った。即ち、96ウェルプレートにHepG2またはPANC-1膜蛋白質溶液(50μg)を加え、4℃で一晩静置した。PBS-Tで各ウェルを洗浄後、1% BSA含有PBS(ブロッキングバッファー、300μL)を加えて4 ℃で一晩インキュベートした。PBS-Tで各ウェルを洗浄後、4倍ずつ連続希釈したscFv溶液(0.13-2.0μg/mL、50μL)を加え、室温で3時間振とうした。PBS-Tで各ウェルを洗浄後、ブロッキングバッファーで希釈したAnti-His antibody(1,500倍希釈)およびAnti-Mouse IgG HRP(1,000倍希釈)(50μL)を加え、30分間振とうした。PBS-Tで各ウェルを洗浄後、TMB(50μL)を加えて化学発光を観察した。適宜、Stop solution(50μL)を加えて発色を停止させた。その後、各ウェルの吸光度(Abs450-Abs620)を測定した。
【0082】
ELISAの解析結果の一部を図4に示す。図4より明らかなように、scFvは肝癌由来細胞、膵癌由来細胞にそれぞれ異なる強度比で結合した。この結果から、CAR-コンストラクトに用いるscFvは癌細胞に対する結合性を有していることが示唆された。
【0083】
〔実施例3〕
実施例3では、シアリルTn抗原糖鎖に特異的な結合性を有するscFvをCARの抗原結合部位として導入したCAR-NK細胞を開発するために、まずCAR-コンストラクトの調製とヒトの腎臓由来の293T細胞への遺伝子導入を検討した。実験の具体的な手順は、以下の通りであった。
1.可溶性scFvを調製するためのpET-26b(+)プラスミドから制限酵素NotIとNcoIを用いて、scFv(例えばSGTN1-10-35)の遺伝子を切り取り、別途同じ制限酵素で処理したpUC57-KanプラスミドにLigation反応で導入した。
2.このプラスミドを大腸菌で増やした後抽出精製し、制限酵素BamHIとAgeIを用いてscFvの遺伝子を含むDNA断片を切り出し精製した。同時に、先行発明の特許文献(特願2022-128961)で用いたCAR-コンストラクト遺伝子が含まれるレンチウイルスベクターを同じ制限酵素で処理して精製した。そして両者をLigation反応で連結し、シアリルTn糖鎖に結合するscFvを含むレンチウイルスベクターを調製した。このウイルスベクターを大腸菌に感染させ、ウイルスベクターを約30マイクログラム得た。
3.調製したレンチウイルスベクターは、常法にしたがいpGP vector(gagおよびpol遺伝子を搭載)、pE vector(エンベロープをコードするenv遺伝子を搭載)と293T細胞にコトランスフェクションすることによって、レンチウイルスに目的のCAR-コンストラクトを組み込んだ。
【0084】
図5に結果を示した。図5より明らかなように、CAR遺伝子を導入した293T細胞は、いずれもEGFPによる緑色蛍光が観測された。またCAR遺伝子を加えないHEK293細胞は緑色蛍光は観測されなかった。これらから、HEK293細胞に、それぞれのCAR遺伝子を導入できたことを示している。
【0085】
〔実施例4〕
実施例4では、シアリルTn抗原糖鎖に特異的な結合性を有するscFvをCARの抗原結合部位として導入したCAR-NK細胞を開発し、その細胞傷害性について検討した。
【0086】
NK細胞には、NK-92 MI細胞を用い、図2に示す構造を有する配列番号1で示されるポリペプチド(SGTN1-10-35)を含むCARをコードする、配列番号10で示される塩基配列を含む遺伝子(CAR遺伝子)を、レンチウイルスベクターを用いてNK-92 MI細胞に導入した。なお、前記レンチウイルスベクターは、CARとは別に、蛍光性タンパク質であるEGFPも発現する遺伝子を有していた。遺伝子導入率の高い細胞を、CARとは別に細胞内で発現する蛍光性タンパク質の蛍光強度を指標に、セルソーターで分離・回収することで、scFv(SGTN1-10-35)を含むCAR遺伝子を導入したNK-92 MI細胞(以下、SGTN-35-CAR-NK-92 MI細胞という)を得た。また、同様な方法で配列番号3で示されるポリペプチド(SGTN1-10-89)を含むCARをコードする、配列番号12で示される塩基配列を含む遺伝子(CAR遺伝子)を導入したNK-92 MI細胞(以下、SGTN-89-CAR-NK-92 MI細胞という)を得た。同様な方法で配列番号2で示されるポリペプチドを含むCARをコードする、配列番号11で示される塩基配列を含む遺伝子(CAR遺伝子)を導入したNK-92 MI細胞を得ることができる。さらに、同様な方法で配列番号4~9で示されるポリペプチドを含むCARをコードする塩基配列を含む遺伝子(CAR遺伝子)を導入したNK-92 MI細胞を得ることができる。
【0087】
HepG2細胞をターゲット細胞として、得られたSGTN-89-CAR-NK-92 MI細胞(ソーティング率7%、93%はNK-92 MI細胞)をエフェクター細胞として用いて、SGTN-89-CAR-NK-92 MI細胞の細胞傷害活性を評価した。結果を図6に示す。共培養前日にHepG2細胞2×10個を播種し、HepG2細胞が接着したウェルに、SGTN-89-CAR-NK-92 MI細胞(ソーティング率7%)を2×10個含む培養液を入れて4時間共培養し、トリプシンを作用させてHepG2細胞をウェルから遊離させて、フローサイトメトリーを用いて評価した。SGTN-89-CAR-NK-92 MI細胞(ソーティング率7%)と共培養した場合、HepG2細胞の比率は25.7/73.9=34.8%であった。
【0088】
また、CARを導入していないNK-92 MI細胞とHepG2細胞との4時間との共培養では、HepG2細胞の比率は30.6/69.0=44.3%であった。
【0089】
一方、培養時間を24時間とした場合には、SGTN-89-CAR-NK-92 MI細胞(ソーティング率7%)と共培養した場合は、HepG2細胞の比率は9.1/90.5=10.1%であった。
【0090】
また、CARを導入していないNK-92 MI細胞とHepG2細胞との24時間共培養では、HepG2細胞の比率が19.0/80.5=23.6%であった。
【0091】
図示はしないが、成人T細胞白血病細胞であるS1T細胞とSGTN-89-CAR-NK-92 MI細胞(ソーティング率7%)を24時間共培養し、フローサイトメトリー解析を行ったところ、S1T細胞はほとんど死滅せず、S1T細胞の比率は69.8/30.1=231%であった。一方、CARを導入していないNK-92 MI細胞との共培養では、61.1/38.6=158%であった。なお、S1T細胞に特異的に結合するscFvをCARとして組み込んだCAR-NK細胞(先行発明:特願2022-128961)との共培養では、S1T細胞の比率は7.8/92=8.4%であった。
【0092】
以上から、NK-92 MI細胞へのSGTN1-10-89を含むCARの導入は、肝癌細胞であるHepG2細胞に対する細胞傷害活性を増強したことが示唆された。
【0093】
〔まとめ〕
癌は1981年から30年以上日本人の死因の第1位となっている。世界中で、種々の癌に対するマーカー分子や分子標的薬開発のための標的分子の検索が行われており、近年、癌特異的に発現する糖鎖が注目されている。シアリルTn抗原は、胃癌や卵巣癌などのマーカーとして使用されている癌関連糖鎖抗原である。
【0094】
さらに、本発明では遺伝子欠損のためヒトには存在しないはずのN-グリコリルシアリルTn抗原にも結合する一本鎖抗体を9種類を見いだし、キメラ抗原受容体の一部として遺伝子導入したナチュラルキラー細胞を製造する。
【0095】
本発明により開発が可能となるのは、シアリルTn抗原糖鎖に特異的な結合性を有するscFvを抗原認識部位に有するNK細胞である。
【0096】
先行発明(特願2022-128961)で、成人T細胞白血病(ATL)細胞の糖鎖に結合する一本鎖抗体の遺伝子を本発明と同じ方法で導入したCAR-NK-92 MI細胞は、CARを導入していないNK-92 MI細胞では不十分であったATL細胞に対する細胞傷害性を向上した。つまり、この発明の一実施形態に係るCAR-NK細胞は、ATL患者に用いた場合、ATL患者のATL細胞を死滅させることが出来る可能性があり、ATLに対する免疫細胞療法による治療が可能となると考えられた。
【0097】
したがって、先行研究と同様なCAR遺伝子を組み込んで発明により開発するCAR-NK-92 MI細胞は、シアリルTn抗原糖鎖発現癌に対する免疫細胞療法の開発を可能とするものである。
【0098】
現在、国内で臨床利用される免疫細胞療法では、患者由来のT細胞に抗CD19抗体をCARの抗原認識部位として導入したCAR-T細胞が用いられる(製品名:キムリア)。しかしながら、その薬価は3000万円を超え、非常に高額なものである。
【0099】
CAR-T細胞では、患者ごとにT細胞のヒト白血球抗原(HLA)が異なるため、他の患者由来のT細胞や細胞株を用いた場合、投与したCAR-T細胞が異物として免疫機能に認識されるため、移植対片宿主病(GVHD)を引き起こす。したがって、実際に患者に投与するCAR-T細胞には、ドナー由来のT細胞を単離して利用する必要があり、CAR-T細胞の調整に、時間と費用がかかる。
【0100】
しかし、NK細胞は、異なる患者のNK細胞や細胞株を別の患者に投与してもGVHDを引き起こさないことが知られている。したがって、本発明により開発したCAR-NK-92 MI細胞は、GVHDを引き起こさずに、シアリルTn抗原糖鎖発現癌に対し安全な免疫細胞療法が可能である。
【0101】
さらに、本発明の一実施形態に係るNK-92 MI細胞は、細胞株であるため、開発したCAR-NK-92 MI細胞は安定して安価に培養が可能である。したがって、現在臨床利用されているT細胞ベースの免疫細胞療法よりも、安全かつ安価に利用可能であると予想される。治療効果の高い免疫細胞療法を低コスト化可能な点で、産業面にも貢献できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の一実施形態に係る、シアリルTn抗原糖鎖発現細胞特異的な結合性を有するscFvを抗原認識部位に有するCAR-NK細胞は、肝癌や膵癌、卵巣癌等に対する新たな治療法として安全かつ効果的な免疫細胞療法の開発を導く。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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