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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058691
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】柔軟性遮熱素材
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/36 20060101AFI20240422BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20240422BHJP
   D06M 13/148 20060101ALI20240422BHJP
   D06M 13/395 20060101ALI20240422BHJP
   D06M 13/473 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
D06M11/36
D06M15/263
D06M13/148
D06M13/395
D06M13/473
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165936
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】520170852
【氏名又は名称】株式会社日進産業
(74)【代理人】
【識別番号】100126712
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 督生
(72)【発明者】
【氏名】石子 達次郎
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4L031AA18
4L031AB31
4L031BA09
4L031BA23
4L031DA00
4L033AA07
4L033AB04
4L033AC15
4L033BA12
4L033BA69
4L033BA89
4L033CA18
4L033DA05
4L033DA06
(57)【要約】
【課題】様々な種類の生地や用途に適用可能であって熱エネルギーの侵入や漏出を抑制できる柔軟性遮熱素材を提供する。
【解決手段】本発明の柔軟性遮熱素材は、柔軟性を有する柔軟性基材と、前記柔軟性基材に被覆された被覆層と、を備え、前記被覆層は、複数の中空セラミックスと、前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダと、架橋剤と、分散水と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性を有する柔軟性基材と、
前記柔軟性基材に被覆された被覆層と、を備え、
前記被覆層は、
複数の中空セラミックスと、
前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダと、
架橋剤と、
分散水と、を有し、
前記被覆層は、前記柔軟性基材および前記被覆層の少なくとも一方に加わる熱を、遠赤外線に変換して放射し、
前記被覆層は、
前記柔軟性基材の内側より外側の温度が高い場合に、外側から内側への熱エネルギーの侵入を抑制し、
前記柔軟性基材の外側より内側の温度が高い場合に、内側から外側への熱エネルギーの漏出を抑制できる、柔軟性遮熱素材。
【請求項2】
前記被覆層において、
前記中空セラミックスは、全体に対して、11.45wt%~12・04wt%であり、
前記樹脂バインダは、全体に対して、44.41wt%~47.15wt%であり、
前記架橋剤は、全体に対して、0.49wt%~0.51wt%であり、
前記分散水は、残部である、請求項1記載の柔軟性遮熱素材。
【請求項3】
前記被覆層において、
前記中空セラミックスは、全体に対して、11.80wt%であり、
前記樹脂バインダは、全体に対して、45.78wt%であり、
前記架橋剤は、全体に対して、0.50wt%であり、
前記分散水は、全体に対して、41.92wt%である、請求項1記載の柔軟性遮熱素材。
【請求項4】
前記架橋剤は、
プロピレングリコール類、
ジメチルピラゾール類、
ヘキサメチレンジイソシアナート、
アルキル鎖含有分子、
水、
を、含む、請求項1記載の柔軟性遮熱素材。
【請求項5】
前記架橋剤は、前記中空セラミックスと前記柔軟性基材との接続力を強化する、請求項4記載の柔軟性遮熱素材。
【請求項6】
前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む、請求項1記載の柔軟性遮熱素材。
【請求項7】
前記中空セラミックスは、金属酸化物を含み、
前記金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも一つを含む、請求項1記載の柔軟性遮熱素材。
【請求項8】
前記中空セラミックスは、略球状を有する、請求項1記載の柔軟性遮熱素材。
【請求項9】
前記略球状の中空セラミックスは、付与される熱の含む近赤外線を、反射させるおよび屈折させるの少なくとも一方を行い、前記近赤外線の含む熱エネルギーを減衰させる、請求項8記載の柔軟性遮熱素材。
【請求項10】
前記柔軟性基材は、綿、木綿、絹、羊毛、化学繊維、合成繊維、樹脂繊維、木製繊維および竹製繊維の少なくとも一つで構成される生地および不織布の少なくとも一つを含む、請求項1記載の柔軟性遮熱素材。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか記載の柔軟性遮熱素材を用いた衣料品。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか記載の柔軟性遮熱素材を用いた構造品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被服などに適用できる柔軟性素材であって、外界温度との差分により生じる熱エネルギーの侵入や漏出を抑制できる柔軟性遮熱素材に関する。
【背景技術】
【0002】
世の中には、様々な被服などの衣料品があり、多くの人に様々な場所で使用されている。被覆などの衣料品は、靴、靴下などの足元への用途から、ズボン、シャツ、ジャケットなどの被覆、帽子や手袋などもある。また、作業服、制服、私服、スポーツ用のユニフォームなど、様々な衣料品がある。靴や帽子などについても同様である。
【0003】
また、衣料品だけではなく、作業用テント、キャンプ用テント、カーテンなど、生地を素材として作られて使用される物品も身の回りに多数存在している。衣料品でもこれらでも、様々な種類の繊維での生地で作られている。生地は柔軟性があり、すなわち柔軟性素材であることで、衣料品、寝具、身の回り品、運動用品など、様々な分野での製品を作ることができる。
【0004】
衣料品や身の回り品などは、常に外部環境にさらされている。例えば、日差しを受けたり、外気にさらされたり、外界の熱を受けたりする。また、衣料品や身の回り品は、人体に装着されたり、人体に近い場所に存在したりする。例えば、衣料品であれば、人体に着衣されるし、カーテンなどであれば生活空間に存在する人の近くにある。
【0005】
このような衣料品や身の回り品は、人体に近い場所にありながら、外界の環境にさらされる状態にある。このため、外界環境における日差しや外気温などによって、衣料品や身の回り品の温度が上昇することが当然にあり得る。また、衣料品であれば、着衣している使用者の体温上昇に伴って衣料品の温度が上昇しうる。特に、運動用のユニフォームなどであれば、運動する場所の外界温度と体温上昇が相まって、衣料品の温度が上昇することがある。
【0006】
衣料品の温度が上昇すると、着衣している人間の健康状態に悪影響を及ぼす懸念がある。屋外の作業者が着衣している作業服の温度が上昇すると、作業者の健康を害したり、作業者の作業効率を害したりする。運動選手のユニフォームの温度が上昇すると、健康を害するだけでなく、運動選手のパフォーマンスに悪影響を与える可能性もある。
【0007】
これらのような特殊な状況にある人だけでなく、外を移動しているビジネスマンや学生などにおいても、外界温度の上昇や日差しなどで衣料品の温度が上昇することは身体への負担が生じる。特に、近年の地球温暖化により、外界環境による温度上昇が大きくなっており、衣料品の温度上昇による人体への負担が懸念されている。
【0008】
また、カーテンやテントなども、外界温度や日差しによって、温度上昇する。これらが温度上昇すると、室内の温度も上昇してしまい、室内にいる人や動物への悪影響が懸念される。これらカーテンやテントなどの外界環境による温度上昇も、衣料品と同じく問題となっている。
【0009】
このように、着衣している人間の体温や遮蔽されている内部空間の温度よりも、外界の温度が高い場合には、外界の熱エネルギーが着衣や内部空間に侵入して人間や内部空間の温度上昇を生じさせてしまう問題がある。外界の温度が高い場合とは、暑い場所や暑い季節、あるいは外界温度が高まりやすい状況(人工芝でのスポーツなど)などによる。
【0010】
一方、着衣している人間の体温や遮蔽されている内部空間の温度が、外界の温度よりも高い場合もある。寒い場所や寒い季節などにおいては、このように外界の温度が相対的に低い場合がある。
【0011】
このような場合には、着衣している人間の体温による熱エネルギーが外部に漏出して体温低下が生じたり、内部空間の温度が外界に漏出して内部空間の温度低下が生じたりする問題があった。内部の温度低下が生じることによる弊害が是正されない状態であった。
【0012】
このような中、外界環境による温度上昇を抑制する技術が提案されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005-273093号公報
【特許文献2】特開2008-88617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1は、芳香族ポリアミド繊維からなる布帛の少なくとも表面に、シラン系コート剤が塗布され、かつ該シラン系コート剤が触媒(反応促進剤)の作用で硬化・固化されており、さらに硬化・固化後のコート剤の布帛に対する付着量が3~20重量%の範囲にある布帛を、シラン系コート剤が塗布された表面が表側に配置されるように表地として用い、該表地を芳香族ポリアミド繊維から構成される裏地と縫着させてなる防汚性に優れた耐熱性作業服を、開示する。
【0015】
特許文献1は、特殊繊維を生地とすることで耐熱性を生じさせると共に、シラン系コート剤で防汚性を向上させることを目的としている。
【0016】
しかしながら、特殊な繊維を必要とすることで、多くの衣料品や身の回り品に適用することは難しい。コストや着心地や用途などの点で、特殊繊維をすべての衣料品や身の回り品に適用できないからである。また、耐熱性であっても、外界から付与された熱を外部に放出して生地の温度上昇を抑制するメカニズムは働かない。
【0017】
特許文献2は、耐熱性繊維12により形成された生地の表面に、焼き付け塗装を行う塗料を塗布し、焼き付け乾燥により塗装を施して成る耐熱性布地を、開示する。
【0018】
特許文献2も、繊維そのものが特殊であることで耐熱性を高める。このため、特許文献1と同じ問題を有している。
【0019】
あるいは、衣料品などであれば、衣服に送風ファンを取り付けたり、冷却用冷媒を装着したりするなどによる機械的手法で温度上昇を抑制することが行われている。しかしながら、作業着などの特殊用途以外には適用できない技術である。例えば、ビジネス衣料品や普段着などには使えない。運動用のユニフォームにも使えない。また、靴や帽子などにも適用できない問題がある。
【0020】
以上のように、従来技術においては、特殊繊維を用いることや機械的手法での耐熱は、様々な種類の衣料品や身の回り品に適用が困難であるといった問題があった。コスト、使い勝手、製造工程などの様々な面でのデメリットがある。
【0021】
同様に、外界より人体や内部空間の温度が高い場合の熱エネルギー漏出の問題に対応できない。
【0022】
特に、特許文献1,2などの従来技術は、特殊繊維により熱に対する耐久力を高める技術であり、外界と内部空間との温度相違がある場合に、熱エネルギーの侵入を防止したり熱エネルギーの漏出を防止したりすることはできない問題がある。
また、衣料品などは繰り返し洗濯されるので、洗濯や使用による耐久性も求められる問題がある。
【0023】
本発明は、これらの課題に鑑み、様々な種類の生地や用途に適用可能であって熱エネルギーの侵入や漏出を抑制できる柔軟性遮熱素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の柔軟性遮熱素材は、柔軟性を有する柔軟性基材と、
前記柔軟性基材に被覆された被覆層と、を備え、
前記被覆層は、
複数の中空セラミックスと、
前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダと、
架橋剤と、
分散水と、を有し、
前記被覆層は、前記柔軟性基材および前記被覆層の少なくとも一方に加わる熱を、遠赤外線に変換して放射し、
前記被覆層は、
前記柔軟性基材の内側より外側の温度が高い場合に、外側から内側への熱エネルギーの侵入を抑制し、
前記柔軟性基材の外側より内側の温度が高い場合に、内側から外側への熱エネルギーの漏出を抑制できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の柔軟性遮熱素材は、温度上昇を抑制できる被覆層を備えることで外界からの熱エネルギーの侵入を抑制できる衣料品や身の回り品を実現できる。あるいは、外界への熱エネルギーの漏出を抑制できる衣料品や身の回り品を実現できる。
【0026】
結果として、外界環境との温度差による、人体や内部空間の温度上昇や温度低下を軽減できる。これにより、人体の健康影響や活動影響などを抑制できる。勿論、人体以外で使用される柔軟性遮熱素材による内部空間の温度上昇や温度低下を軽減でき、種々の影響を軽減できる。
【0027】
また、種々の生地に被覆層を形成することで、温度上昇を抑制できるようになるので、一般衣料品、作業着、靴、ユニフォーム、制服などの、様々な分野の衣料品や、カーテンやテントなどの身の回り品にも適用できる。
【0028】
また、被覆層は塗布などにより形成されるが、本発明の柔軟性遮熱素材は、洗濯や使用耐久性も高い。これにより、繰り返し使用や長期間の使用にも耐えうる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施の形態1における柔軟性遮熱素材の模式図である。
図2】本発明の実施の形態1における被覆層による熱の変換放射を示す模式図である。
図3】本発明の実施の形態1における中空セラミックスの構造を示す模式図である。
図4】中空セラミックスの接続構造により、複数のセラミックス層を形成している被覆層の模式図である。
図5】本発明の被覆層による遠赤外線変換と放射を示す試験成績書である。
図6】本発明の被覆層による遠赤外線変換と放射を示す試験成績書である。
図7】本発明の柔軟性遮熱素材の遮熱効果を測定する実験方法を示す説明図である。
図8】本発明の柔軟性遮熱素材の遮熱効果の実験結果を示す説明図である。
図9】洗濯実験による洗濯前から洗濯後の変化を示す顕微鏡撮影画像を示す説明図である。
図10】洗濯実験による重量変化結果を示す表と考察を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の第1の発明に係る柔軟性遮熱素材は、柔軟性を有する柔軟性基材と、
前記柔軟性基材に被覆された被覆層と、を備え、
前記被覆層は、
複数の中空セラミックスと、
前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダと、
架橋剤と、
分散水と、を有し、
前記被覆層は、前記柔軟性基材および前記被覆層の少なくとも一方に加わる熱を、遠赤外線に変換して放射し、
前記被覆層は、
前記柔軟性基材の内側より外側の温度が高い場合に、外側から内側への熱エネルギーの侵入を抑制し、
前記柔軟性基材の外側より内側の温度が高い場合に、内側から外側への熱エネルギーの漏出を抑制できる。
【0031】
この構成により、熱の移動を遮蔽する効果を有し、外部からの熱エネルギー侵入による温度上昇を抑制したり、内部の熱エネルギーの漏洩による温度低下を抑制したりできる。
【0032】
本発明の第2の発明に係る柔軟性遮熱素材では、第1の発明に加えて、前記被覆層において、
前記中空セラミックスは、全体に対して、11.45wt%~12・04wt%であり、
前記樹脂バインダは、全体に対して、44.41wt%~47.15wt%であり、
前記架橋剤は、全体に対して、0.49wt%~0.51wt%であり、
前記分散水は、残部である。
【0033】
この構成により、十分な遮熱効果を生じさせることができる。
【0034】
本発明の第3の発明に係る柔軟性遮熱素材では、第1の発明に加えて、前記被覆層において、
前記中空セラミックスは、全体に対して、11.80wt%であり、
前記樹脂バインダは、全体に対して、45.78wt%であり、
前記架橋剤は、全体に対して、0.50wt%であり、
前記分散水は、全体に対して、41.92wt%である。
【0035】
この構成により、遮熱効果を高めることができる。
【0036】
本発明の第4の発明に係る柔軟性遮熱素材では、第1の発明に加えて、前記架橋剤は、
プロピレングリコール類、
ジメチルピラゾール類、
ヘキサメチレンジイソシアナート、
アルキル鎖含有分子、
水、
を、含む。
【0037】
この構成により、被覆層を形成する中空セラミックスの柔軟性基材への接続力を強化できる。
【0038】
本発明の第5の発明に係る柔軟性遮熱素材では、第4の発明に加えて、前記架橋剤は、前記中空セラミックスと前記柔軟性基材との接続力を強化する。
【0039】
この構成により、柔軟性遮熱素材の被覆層維持の耐久性を高めることができる。
【0040】
本発明の第6の発明に係る柔軟性遮熱素材では、第1の発明に加えて、前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む。
【0041】
この構成により、遮熱効果を生じさせる熱の遠赤外線変換能力が高まる。結果として、遮熱効果も高まる。
【0042】
本発明の第7の発明に係る柔軟性遮熱素材では、第1の発明に加えて、前記中空セラミックスは、金属酸化物を含み、
前記金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも一つを含む。
【0043】
この構成により、熱の遠赤外線変換効果が高まる。
【0044】
本発明の第8の発明に係る柔軟性遮熱素材では、第1の発明に加えて、前記中空セラミックスは、略球状を有する。
【0045】
この構成により、近赤外線を反射して、遮熱効果を高めることができる。
【0046】
本発明の第9の発明に係る柔軟性遮熱素材では、第8の発明に加えて、前記略球状の中空セラミックスは、付与される熱の含む近赤外線を、反射させるおよび屈折させるの少なくとも一方を行い、前記近赤外線の含む熱エネルギーを減衰させる。
【0047】
この構成により、遮熱効果を高めることができる。
【0048】
本発明の第10の発明に係る柔軟性遮熱素材では、第1の発明に加えて、前記柔軟性基材は、綿、木綿、絹、羊毛、化学繊維、合成繊維、樹脂繊維、木製繊維および竹製繊維の少なくとも一つで構成される生地および不織布の少なくとも一つを含む。
【0049】
この構成により、様々な用途に展開することができる。
【0050】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0051】
(従来技術と遮熱の概念の相違)
【0052】
従来技術は、特殊繊維で熱伝導率を低下させて、素材を通じた熱伝導を下げることを行っていた。しかし、熱伝導率を低下させても、外界との温度差が大きければ熱エネルギーの熱伝導が生じて、結果的に内部空間の温度上昇あるいは温度低下が生じてしまう。
【0053】
あるいは、ファンによる排熱のような機械的な排熱での問題は、従来技術の問題で指摘した通りである。
【0054】
本発明は、熱伝導や機械的排熱ではなく、熱エネルギーの侵入や漏出を抑制する遮熱を行う。この遮熱において、本発明は被覆層の技術により、この熱エネルギーを減衰させて、熱の侵入や漏出を抑制できる。すなわち、本発明での遮熱とは、熱エネルギーの減衰により、熱の侵入や漏出を抑制することである。
【0055】
本発明の柔軟性遮熱素材は、内部空間より外界の温度が高い場合において、外界からの熱が付与されてもこの熱を遠赤外線に変換して放射する。この変換・放射を繰り返すことで、外部からの熱エネルギーを減衰させて、内部空間への熱の侵入を抑制できる。この侵入抑制によって、温度の高い外界環境による内部空間の温度上昇を抑制できる。
【0056】
逆に、内部空間が外界より温度が高い場合において、内部空間からの熱が付与されても、この熱を遠赤外線に変換して放射する。この変換・放射を繰り返すことで、内部空間からの熱エネルギーを減衰させて内部空間から外界への熱の漏出を抑制できる。この漏出抑制により、内部空間の温度低下を抑制できる。
【0057】
ここで、柔軟性遮熱素材が衣料品である場合には、内部空間は人体(あるいは動物の身体)であり、柔軟性遮熱素材が他の物品に適用されている場合には、内部空間はこれに囲われた空間である。人体の場合には、熱の侵入や漏出を抑制できることで、外界温度との差分による人体への影響を抑制できる。
【0058】
(実施の形態1)
【0059】
(全体概要)
実施の形態1における柔軟性遮熱素材の全体概要について説明する。図1は、本発明の実施の形態1における柔軟性遮熱素材の模式図である。柔軟性遮熱素材1の説明のために、一つの外形を例として示している。
【0060】
柔軟性遮熱素材1は、柔軟性を有する柔軟性基材2と、柔軟性基材2に被覆された被覆層3と、を備える。被覆層3は、柔軟性基材2の表面や裏面に形成されている状態である。
【0061】
柔軟性基材2は、柔軟性を有して、柔軟性遮熱素材1の外形や構造を作るものである。柔軟性基材2をベースとすることで、柔軟性遮熱素材1は、柔軟性を有して、様々な分野に適用できる。
【0062】
柔軟性基材2は、綿、木綿、絹、羊毛、化学繊維、合成繊維、樹脂繊維、木製繊維および竹製繊維の少なくとも一つで構成される生地および不織布の少なくとも一つを含む。これらのような生地や素材であることで、柔軟性を有しつつ、衣料品や構造品などの様々な分野に適用できる。
【0063】
この結果、柔軟性遮熱素材1は、衣料品や構造品などに適用される。衣料品は、衣服、衣服に関連する物品、靴、手袋や靴下、帽子などである。構造品は、カーテン、テントなどのように空間を仕切るための物品などである。
【0064】
被覆層3が形成されても、柔軟性を有しているので、柔軟性遮熱素材1は、上述したような柔軟性を必要とする物品に適用できる。
【0065】
被覆層3は、複数の中空セラミックスと複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダと、架橋剤と、分散水を有する。中空セラミックス同士は樹脂バインダにより接続されており、これに架橋剤と分散水が加わっている。このような構成により、塗布などを通じて、被覆層3が柔軟性基材2の表面や裏面に形成される。
【0066】
被覆層3は、柔軟性基材2および被覆層3の少なくとも一方に加わる熱を、遠赤外線に変換して放射する。これにより、熱が加わる場合でも、加わった熱エネルギーを減衰させることができる。遠赤外線に変換して放射してしまうからである。
【0067】
この熱エネルギーの減衰を被覆層3が実現できる。これにより、柔軟性基材2(柔軟性遮熱素材1)の内側より外側の温度が高い場合には、外側から内側への熱エネルギーの侵入を抑制できる。柔軟性基材2(柔軟性遮熱素材2)の外側より内側の温度が高い場合に、内側から外側への熱エネルギーの漏出を抑制できる。
【0068】
このように、柔軟性遮熱素材1は、柔軟性を有することで衣料品や構造品などの多様な分野に適用でき、被覆層3により熱エネルギーの侵入や漏出を抑制できる。
【0069】
例えば衣料品として人が着衣している場合がある。このとき、外気温が体温よりも高くなる場合(気候として高い場合、人が居る空間の温度が高くなってしまう場合など)がある。この場合には、外界から人体に熱エネルギーが侵入してしまう。しかしながら、被覆層3による遠赤外線変換と放射により、外界から付与される熱が減衰する。これにより、温度の高い外界から人体への熱エネルギーの侵入を抑制できる。体温上昇を抑制できて、人体の健康を維持することができる。
【0070】
逆に外気温が体温より低い場合もある(冬季であったり、冷凍室のような場所であったりする場合)。この場合には、人体からの熱エネルギーが外界に漏出することが抑制できる。体温低下を抑制できて、人体の健康維持を図ることができる。
【0071】
このように、衣料品に適用される場合には、人体の体温上昇や体温低下を抑制できて、人体の健康維持に効果を有する。
【0072】
また、室内を仕切るカーテンやテントなどに適用される場合でも、室内より室外の温度が高い場合には、室外からの熱エネルギーの侵入を抑制でき、逆の場合には、室内からの室外への熱エネルギーの漏出を抑制できる。結果として室内の気温維持を図ることができる。
【0073】
このように、熱エネルギーの侵入や漏出を抑制できることで、遮熱機能を実現できる。
【0074】
図2は、本発明の実施の形態1における被覆層による熱の変換放射を示す模式図である。被覆層3は、中空セラミックス31と樹脂バインダ32を含む(これ以外に、架橋剤と分散水も含む)。
【0075】
外側の温度が内側より高い場合には、図2の矢印Y1の方向に熱が加わる。柔軟性遮熱素材1の内側に熱エネルギーが侵入する状態となる。しかし、被覆層3は、この熱を遠赤外線に変換して放射する。矢印X1の方向に放射する。これにより、熱エネルギーの内側への侵入が抑制される。例えば柔軟性遮熱素材1が衣服であって、外気温が高い場合でも、人体の体温上昇が抑制される。
【0076】
逆に内側の温度が外側より高い場合には、図2の矢印Y2の方向に熱が加わる。被覆層3は、この熱を遠赤外線に変換して放射する。矢印X2の方向に放射する。これにより、内側から外側への熱エネルギーの漏出が抑制できる。例えば、柔軟性遮熱素材1が衣服であって外気温が低い場合でも、人体の体温が奪われにくくなる。
【0077】
このように、柔軟性遮熱素材1は、熱エネルギーの侵入や漏出を抑制して、人体や内部空間での温度上昇や温度低下を抑制できる。
【0078】
(柔軟性基材)
柔軟性基材2は、上述の通り、柔軟性を有するベースとなる部材である。柔軟性基材2は、綿、木綿、絹、羊毛、化学繊維、合成繊維、樹脂繊維、木製繊維および竹製繊維の少なくとも一つで構成される生地および不織布の少なくとも一つを含む。これらのような生地や素材であることで、柔軟性を有しつつ、衣料品や構造品などの様々な分野に適用できる。
【0079】
(被覆層の構成)
被覆層3は、上述の通り、中空セラミックス、樹脂バインダ、架橋剤、分散水を含む。
【0080】
被覆層3は、次の組成比率を有する。
【0081】
中空セラミックスは、全体に対して、11.45wt%~12・04wt%であり、
樹脂バインダは、全体に対して、44.41wt%~47.15wt%であり、
架橋剤は、全体に対して、0.49wt%~0.51wt%であり、
分散水は、残部である。
【0082】
このような組成比率を有することで、被覆層3は、効率的に付与された熱を遠赤外線に変換して放射することができる。
【0083】
また、被覆層3は、次のような組成比率を有することでもよい。
前記中空セラミックスは、全体に対して、11.80wt%であり、
前記樹脂バインダは、全体に対して、45.78wt%であり、
前記架橋剤は、全体に対して、0.50wt%であり、
前記分散水は、全体に対して、41.92wt%である。
被覆層3が、このような組成比率を有することで、被覆層3は、効率的に付与された熱を遠赤外線に変換して放射できる。
【0084】
被覆層3は、これらのような組成と組成比率を有することで、付与される熱を効率的に遠赤外線に変換して放射できる。この変換と放射によって、熱エネルギーの侵入や漏出を抑制できる。
【0085】
図3は、本発明の実施の形態1における中空セラミックスの構造を示す模式図である。中空セラミックス31は、内部空間310を有する。内部空間310は、加わる熱を、その内部で乱反射させることで、遠赤外線に変換する。
【0086】
図3に示されるように、内部空間310において加わった熱が乱反射する。この乱反射を通じて、熱は、遠赤外線に変換される。変換された遠赤外線は、放射される。
【0087】
このように、被覆層3は、複数の中空セラミックス31を備えることで、熱を遠赤外線に変換できる。
【0088】
また、被覆層3が備える複数の中空セラミックス31は、粒径の異なる中空セラミックス31を含むことも好適である。粒径が異なることで、中空セラミックス31のそれぞれの内部空間310での乱反射がより多く起こる。また、粒径の異なる中空セラミックス31同士での乱反射も加わり、熱の遠赤外線への変換が、より効果的に生じる。
【0089】
また、中空セラミックス31は、その表面での熱の変換により遠赤外線を生み出して、これを放射するメカニズムも発揮する。熱が加わると、中空セラミックス31が、これを遠赤外線に変換する。これにより、被覆層3は、加わる熱を次々と遠赤外線に変換して放射できる。これにより、加わる熱による熱エネルギーを減衰させて、熱エネルギーの侵入や漏出を抑制できる。
【0090】
また、粒径の中空セラミックス31が含まれることで、被覆層3における中空セラミックス31の重点密度が高まる。大きな粒径の中空セラミックス31同士の間にできる隙間に、中程度あるいは小さな粒径の中空セラミックス31が入り込むからである。
【0091】
この結果、被覆層3が含む中空セラミックス31の個数密度が高まる。
【0092】
個数密度が高まれば、含まれる中空セラミックス31全体の表面積が増加する。表面全体の表面積が増加することで、遠赤外線への変換量が多くなる。この増加によって、加わる熱を遠赤外線に変換することでの熱エネルギーの減衰能力が更に高まる。
【0093】
このように、被覆層3が異なる粒径の中空セラミックス31を含むことは、熱を遠赤外線に変換することの能力向上に寄与する。
【0094】
中空セラミックス31は、金属酸化物を含むことも好適である。このような金属酸化物を含むことで、熱を遠赤外線に効率的に変換できる。ここで、金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも一つを含む。
【0095】
これらの金属酸化物を含むことで、中空セラミックス31は、熱を効率的かつ確実に遠赤外線に変換できる。金属酸化物は、内部空間310での乱反射を促進しつつ、乱反射の過程で遠赤外線を生じさせる。このように、金属酸化物を含む中空セラミックス31が含まれる被覆層3は、付与される熱を、効率的かつ確実に遠赤外線に変換できる。
【0096】
ここで、被覆層3を構成する中空セラミックス31が、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、二酸化ケイ素(SiO)、三酸化アンチモン(Sb)の少なくとも2以上の種類の金属酸化物を含むことも好適である。
【0097】
異なる2種以上の種類の金属酸化物による中空セラミックス31が、被覆層3に含まれることで、それぞれの中空セラミックス31が、加わる熱の異なる成分(波長成分や温度成分など)のそれぞれに対応して遠赤外線への変換を行える。ある金属酸化物の中空セラミックス31は、ある成分の熱を遠赤外線に変換し、別の種類の金属酸化物の中空セラミックス31は、別の成分の熱を遠赤外線に変換する。
【0098】
このように、複数の種類の金属酸化物による中空セラミックス31が被覆層3を構成することで、加わる熱を、満遍なくかつ確実に遠赤外線に変換できる。すなわち、熱エネルギーの減衰をより効率的に行える。
【0099】
樹脂バインダー32は、中空セラミックス31同士を接続する。接続することで、被覆層3が一つの層として形成できる。ここで、樹脂バインダー32は、アクリル系樹脂であることも好適である。アクリル系樹脂であることで、樹脂バインダー32による中空セラミックス31同士をより確実に接続できる。また、アクリル系樹脂であることで、被覆層3の軽量化も図ることができる。
【0100】
(複数の中空セラミックス層)
【0101】
複数の中空セラミックス31は、粒径によって、被覆層3の中に、複数のセラミックス層を形成できる。図4は、中空セラミックスの接続構造により、複数のセラミックス層を形成している被覆層の模式図である。図4では、被覆層3は、第1セラミックス層311と第2セラミックス層312とを備える構成を有している。
【0102】
複数のセラミックス層のそれぞれは、加わる熱を変換した遠赤外線を放射する。図4に示されるように、第1セラミックス層311は、遠赤外線を放射し、合わせて第2セラミックス層312も、遠赤外線を放射する。それぞれのセラミックス層が遠赤外線を放射する態様を備える。
【0103】
被覆層3を形成する際に、例えば被覆層3の原料となる塗材を基材2の表面などに塗布する。このとき、塗材の塗布を複数回に分けることで、図4のような複数のセラミックス層を形成することができる。
【0104】
被覆層3が複数のセラミックス層を備えることで、それぞれのセラミックス層での遠赤外線の変換と放射が行われる。第1セラミックス層311での遠赤外線の変換と放射、および、第2セラミックス層312での遠赤外線の変換と放射がそれぞれで行われる。このそれぞれで行われることで、より効率的な遠赤外線への変換が行われる。
【0105】
特に、セラミックス層のそれぞれで遠赤外線への変換が行われると、空間的に異なる場所での遠赤外線変換が行われる。これにより、多くの中空セラミックス31全体が遠赤外線変換に活用される。
【0106】
また、セラミックス層のそれぞれで遠赤外線放射が行われると、多面的かつ多重的な遠赤外線放射が行われる。これにより、熱が付与される場合でも、より多くの熱が遠赤外線となって放射される。このようにして、熱エネルギーの減衰をより効率よく高いレベルで行える。
粒径の異なる中空セラミックス31により複数の中空セラミックス層が形成されることでもよい。この場合には、それぞれの中空セラミックス層が、その粒径に応じた波長域の熱を遠赤外線に変換する。これにより、熱を多面的に遠赤外線に変換して放射することで、熱エネルギーを減衰させる。結果として、熱エネルギーの侵入や漏出を抑制できる。すなわち、遮熱を実現できる。
【0107】
(遠赤外線放射の確認実験)
また、発明者は被覆層が熱をくわえられると遠赤外線を放射することの確認実験を、公的研究機関(島根県産業技術センター)にて行った。この実験において、試験成績書を受領しており、図5図6において示す。図5図6は、本発明の被覆層による遠赤外線変換と放射を示す試験成績書である。
【0108】
図5図6において「ガイナ」と記載されているものが、被覆層3の一例を示す。
【0109】
測定機器:日本電子株式会社製 本体JTR―WINSPEC100および赤外線測定ユニットIR-IRR200
【0110】
測定方法:測定機器を用いて遠赤外線放射の放射率を測定した。
【0111】
この測定に基づいて、被覆層による熱を加えた場合の遠赤外線放射の状態を確認した。遠赤外線の波長域(一般的には3μm~1000μm)に含まれる5.0μm~22.5μmの波長域での積分放射率が94.6%と非常に高いことが確認された。トルマリンなどの遠赤外線変換能力が知られている素材に匹敵する。このように、公的研究機関での試験成績書においても、被覆層3による熱の遠赤外線変換の能力や効率が確認された。
【0112】
(遮熱効果の確認結果)
被覆3を備える柔軟性遮熱素材1の遮熱効果を実験により確認した。図7は、本発明の柔軟性遮熱素材の遮熱効果を測定する実験方法を示す説明図である。図8は、本発明の柔軟性遮熱素材の遮熱効果の実験結果を示す説明図である。
【0113】
遮熱効果を測定するために、図7に示すように、対象となる素材(被覆層の無い素材、被覆層を形成した素材)の一方から人口太陽灯で熱を照射する。1000W/Mの熱量での熱を照射する。素材の逆側に、受け取った熱量(すなわち透過した熱量)を検出するセンサーである「SHED」を設置する。
【0114】
透過する熱量が小さいほど、遮熱効果が高いことを示している。
【0115】
ここで、発明者は、2種類の柔軟性素材として織り方の異なる「タフタ」と「ツイル」の2種類を用意した。タフタとツイルの2種類の素材のそれぞれに、「被覆層無し」、「被覆層有」、「被覆層有+熱処理」の3種類の構成を施して、6種類の遮熱効果を測定した。熱処理とは、被服層3を形成する際に、塗布に加えて加熱を行ったものである。
【0116】
図8に、実験結果を示す。
【0117】
(タフタの素材の場合)
グラフおよび表の左側において、「タフタ」素材での被覆無し、被覆有、被覆+熱処理のそれぞれでの熱の透過量を比較した結果が示されている。結果は次の通りである。
【0118】
被覆無し素材の透過量:485.9W/M
被覆有素材の透過量:209.3W/M
被覆有+熱処理素材の透過量:238.0W/M
被覆層3が無い場合には、1000W/Mで照射された熱量の内、半分弱の485.9W/Mが透過しているのに対して、被覆層3が形成されると透過量が大きく減少している。図8に示されるように、被服有の場合には「56.9%」も透過量が減少している。被覆層が無い場合よりも被覆層がある場合の方が透過量が減少していることは、熱エネルギーを柔軟性遮熱素材で減衰させていることを示している。すなわち、遮熱効果が大きく生じていることを示している。
【0119】
遮熱効果が生じていることで、熱エネルギーの外部からの侵入や外部への漏出が抑制される。結果として、衣服などを着ている人体の健康状態の維持に繋がる。
【0120】
(ツイルの素材の場合)
グラフおよび表の右側において、「ツイル」素材での被覆無し、被覆有、被覆+熱処理のそれぞれでの熱の透過量を比較した結果が示されている。結果は次の通りである。
【0121】
被覆無し素材の透過量:354.1W/M
被覆有素材の透過量:151.2W/M
被覆有+熱処理素材の透過量:177.5W/M
【0122】
被覆層3が無い場合には、1000W/Mで照射された熱量の内354.1W/Mが透過しているのに対して、被覆層3が形成されると透過量が大きく減少している。図8に示されるように、被服有の場合には「57.3%」も透過量が減少している。被覆層が無い場合よりも被覆層がある場合には透過量が減少していることは、熱エネルギーを柔軟性遮熱素材で減衰させていることを示している。すなわち、遮熱効果が大きく生じていることを示している。
【0123】
遮熱効果が生じていることで、熱エネルギーの外部からの侵入や外部への漏出が抑制される。結果として、衣服などを着ている人体の健康状態の維持に繋がる。
【0124】
織り方の違いに関わらず、被覆層3が形成されることで透過する熱エネルギーを半減させており、熱エネルギーを十分に減衰させていることが分かる。
【0125】
以上のように、本発明の柔軟性遮熱素材1は、付与される熱エネルギーを減衰させて熱エネルギーの侵入や漏出を防止できる。柔軟性遮熱素材1が衣服に使用される場合には、人体の体温上昇や体温低下を抑制できる。柔軟性遮熱素材1が構造品に使用される場合には、内部空間の温度上昇や温度低下を抑制できる。
【0126】
(実施の形態2)
【0127】
次に実施の形態2について説明する。実施の形態2では被覆層の含む架橋剤のメリットについて説明する。
【0128】
被覆層3は、遮熱効果を生み出す中空セラミックスとこれを接続する樹脂バインダを含む。更に、架橋剤を含む。架橋剤は、遮熱効果を生み出す中空セラミックスを柔軟性基材2に接続する接続力を強化できる。被覆層3が形成された場合の接続力も強化できるし、形成された後の耐久性も強化できる。
【0129】
架橋剤が加わることで、被覆層3に含まれる中空セラミックスの柔軟性基材2への接続力が維持できる。柔軟性遮熱素材は、衣料品やその他の身の回り品に使用される。このため、使用による劣化、洗濯による劣化などにさらされる。このような劣化に対しての耐久性を、架橋剤が高めることができる。
【0130】
架橋剤は、プロピレングリコール類、ジメチルピラゾール類、ヘキサメチレンジイソシアナート、アルキル鎖含有分子、水、を含む。このような組成を有することで、中空セラミックスを柔軟性基材に接続する接続力を確実に上げることができる。
【0131】
(架橋剤による効果の確認)
発明者は、架橋剤を含むことで、被覆層3の洗濯に対する耐久性が向上していることの確認実験を行った。
【0132】
(実験方法)
柔軟性基材としてポリエステル生地を選択。
ポリエステル生地に、架橋剤を含む被覆層を形成した試験体(この後の図におけるA-1~A-3)と、架橋剤を含まない被覆層を形成した試験体(この後の図におけるN-1~N-3)を用意。
JIS L 0844に準じた洗濯堅牢度試験を実施(洗濯を実施)。
【0133】
(効果確認)
【0134】
(1)試験体の顕微鏡撮影画像に基づく、洗濯実施後の変化確認
(2)試験体の洗濯後の重量変化(重量が減少している場合には、中空セラミックスなどが剥離して柔軟性基材から落ちていることを示す)。
【0135】
図9は、洗濯実験による洗濯前から洗濯後の変化を示す顕微鏡撮影画像を示す説明図である。図10は、洗濯実験による重量変化結果を示す表と考察を示す説明図である。
【0136】
図9に示されるように、架橋剤を含む被覆層の試験体A―1~A-3では、洗濯を重ねた後でも変化が少ない。これに対して、架橋剤を含まない被覆層の試験体N-1~N-3では、洗濯を重ねると変化している。具体的には、コントラストの無い表面になってきており、中空セラミックスを含む被覆層が剥離してきていると考えられる。
【0137】
図10の下段に記載している考察のように、架橋剤を含まないN-2、N-3の10回の洗濯後の顕微鏡撮影画像は、被覆層を塗布する前の柔軟性基材の顕微鏡撮影画像や樹脂バインダのみを塗布した柔軟性基材の顕微鏡撮影画像と類似している。すなわち、中空セラミックスが剥離落下したり、被覆層そのものが剥離落下したりしているものと考えられる。
【0138】
また、図10の上段の表にあるように、架橋剤を含まないN-1~N-3では、洗濯後に重量が減少している。架橋剤を含むA-1~A-3では、A-1のみは重量減少しているが、A-2、A-3では減少していない。
【0139】
すなわち、洗濯後においても、架橋剤を含んでいれば中空セラミックスや被覆層の剥離落下が抑制されているのに対して、架橋剤を含まない場合には、剥離落下が生じていることが分かる。
【0140】
このように、被覆層3が架橋剤を含むことで、使用耐久性や洗濯耐久性が向上することが確認された。
【0141】
耐久性が向上することで、柔軟性遮熱素材を用いた衣料品や構造品の遮熱効果が、長期間にわたって維持されるメリットがある。特に、柔軟性遮熱素材が衣料品に用いられる場合には、衣料品は使用や洗濯の負荷を大きく受ける。このような洗濯による耐久性が高いことで(被覆層3およびこれを構成する中空セラミックス)が残留することで、遮熱効果が長期間維持される。
【0142】
以上のように、本発明の柔軟性遮熱素材1は、被覆層3に架橋剤を含んでいるので、使用や洗濯に対する耐久性を高めることができる。
【0143】
以上、実施の形態1~2で説明された柔軟性遮熱素材は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0144】
1 柔軟性遮熱素材
2 柔軟性基材
3 被覆層
31 中空セラミックス
32 樹脂バインダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10